説明

抗肥満剤、医薬品および飲食品

【課題】 肥満の予防・治療に有効な抗肥満剤、医薬品及び飲食品を提供する。
【解決手段】
(1)桑葉またはその抽出物と、イソフラボンを有効成分とすることを特徴とする抗肥満剤。
(2)桑葉またはその抽出物と、イソフラボンを有効成分とする抗肥満剤を含有することを特徴とする医薬品。
(3)桑葉またはその抽出物と、イソフラボンを有効成分とする抗肥満剤を含有することを特徴とする飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桑葉またはその抽出物と、イソフラボンの相乗作用を利用した抗肥満剤及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の高脂肪・高カロリー化により、国民の肥満傾向が徐々に進んでいる。上半身肥満、耐糖能異常、高中性脂肪、高血圧は「死の四重奏」と呼ばれ、これらが重なると加速度的に動脈硬化や心疾患の罹患率が高まり、生命を脅かすとされている。このような生理学的異常の発現には、遺伝因子とともに食生活をはじめとする環境因子が大きく関わっているため、予防・改善するためには時として生活習慣を大きく変える必要があり、持続困難な自己規制を強いられることがある。このため誰もが受け入れられるような簡便な肥満・動脈硬化予防・改善手段が望まれている。
【0003】
近年、食品又はこれに準ずる天然物から様々な有用物質が見出され、その生理機能を生かした機能性食品がブームになりつつある。機能性食品は、半健常な人が日常的に摂取することで血液脂質、血糖値、血圧等の改善が期待され、簡便な健康増進・疾病予防手段を提供しうる。
【0004】
桑は桑科桑属の落葉高木であり、中国、朝鮮半島原産のマグワ(学名:Morus alba)、日本原産のヤマグワ(学名:Morus bombycis)を始めとして数多くの品種が知られている。桑の葉は蚕の飼料として我が国やアジア諸国で古くから利用されてきたが、中国では葉や根皮が消炎性利尿、解熱、鎮咳、去痰の用途に用いられ、薬効を有する食品素材としてヒトにおける食経験も豊富である。近年、桑葉の抽出物にα-グルコシダーゼ阻害活性が見出され、その活性物質の一つとして1-deoxynojirimycin が単離されるに至り、糖尿病や肥満の予防・改善効果に目が向けられるようになった(非特許文献1)。糖質は一般に消化管内で単糖まで分解されてから体内に吸収されるが、α-グルコシダーゼはショ糖等の分解酵素であり、食餌中に含まれる糖質の消化吸収に大きな役割を果たしている。すなわちα-グルコシダーゼの阻害により糖質の消化吸収が穏やかとなり、カロリーの過剰摂取や食後の急激な血糖値上昇が抑えられるため、高血糖やインシュリン耐性、さらには肥満の予防や改善が期待されることになる。
【0005】
桑葉やそのエキスを飲食品等の原料として考えた場合、その独特の風味が嗜好性を低下させ、長期間継続摂取できるような飲食品を仕上げる上で障害となってきた。また、桑葉に含まれる代謝酵素が徐々に1-deoxynojirimycin等の活性物質を分解するため、何らかの方法で酵素群の働きを抑える必要があった。このような課題を解決するために研究が重ねられた結果、桑葉を特定の条件で加湿熱風処理することで、桑葉の有するα-グルコシダーゼ阻害活性に影響を与えることなく風味を改善し、さらに桑葉の有する緑色の退色を遅延させることが明らかにされた(特許文献1)。すなわち桑葉を加湿熱風処理した加工桑葉は、従来の桑葉素材にかわる機能性素材として有望である。
【0006】
イソフラボンは、大豆、葛、クローバーなど豆科の植物に含まれるフラボノイドの一種であり、配糖体であるダイジン、ゲニスチン、グリシチン、これらのアセチル化体とマロニル化体およびこれらのアグリコンであるダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインがよく知られている。イソフラボンは、例えば大豆では胚軸の部分に多く含まれており、エストロジェン(女性ホルモン)様の作用を有することが明らかにされている。エストロジェンは、特に女性において骨代謝と脂質代謝の恒常性維持に重要な役割を果たしており、更年期に伴う体内エストロジェンの低下は、骨密度の低下や、高脂血症・肥満のリスクを高める。イソフラボンはエストロジェン様の作用によりこれらを予防することが知られているが (特許文献2)、肥満予防・改善の生理作用については、血中LDLコレステロールの低減、インシュリン耐性の改善等、様々な作用が相乗的に関わっていると考えられている。
【0007】
これまでに桑葉とイソフラボンの有する特定の機能性の相乗もしくは相加効果を利用した例は極めて少ない。特許文献3で示された食品では、イソフラボンを含有するレッドクローバーを主成分とした食品に桑葉を配合し、更年期障害の改善をその機能性として謳っているものの、抗肥満作用には全く触れられていない。また特許文献4においては、吸湿剤として桑葉もしくはイソフラボンが利用されているものの、その両方を配合した実施例が示されていない。さらに桑葉を加湿熱風処理して調製されたお茶等については、血糖値改善剤としての用途が既に提案されているが、イソフラボンとの併用による抗肥満剤としての報告例、実施例はない。すなわち我々が知る限りにおいては、桑葉もしくは桑葉に加湿熱風処理を施すことにより得られた加工桑葉と、イソフラボンを有効成分として使用し、その相乗作用を利用した抗肥満剤は見当たらない。
【特許文献1】特開2002−330697号公報
【特許文献2】特開平11−228430号公報
【特許文献3】特開2002−142717号公報
【特許文献4】特開2003−306447号公報
【非特許文献1】基礎と臨床、1997年、31巻・7号、2533−2537頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
今後も国民の健康を脅かすであろう肥満を予防・治療するにあたり、食品又は食品に準ずるものから有効成分を見出す必要がある。本発明は桑葉とイソフラボンが相乗的に発揮する生体調節機能を利用して、肥満の予防・治療に有効な抗肥満剤、医薬品及び飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するためになされたもので、桑葉とイソフラボンを成分とする組成物が、これまで知られていなかったような相乗的な抗肥満作用を有することを動物実験により確認して本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下に関するのである。
(1)桑葉またはその抽出物と、イソフラボンを有効成分とすることを特徴とする抗肥満剤。
(2)前記桑葉が、加湿熱風処理を行った後、揉んで乾燥処理した加工桑葉であることとを特徴とする(1)に記載された抗肥満剤。
(3)前記加湿熱風処理が、120〜300℃の水蒸気に2〜10分間曝す処理であることを特徴とする(2)に記載された抗肥満剤。
(4)イソフラボンの含有量(乾燥重量%)が、桑葉またはその抽出物の含有量(乾燥重量%)の1/10以下であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1項に記載された抗肥満剤。
(5)(1)ないし(4)のいずれか1項に記載された抗肥満剤を含有することを特徴とする医薬品。
(6)(1)ないし(4)のいずれか1項に記載された抗肥満剤を含有することを特徴とする飲食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗肥満剤は、桑葉またはその抽出物とイソフラボンとの相乗効果により、優れた脂肪蓄積予防効果や体脂肪減少効果を発揮する。本発明の抗肥満剤は、天然物もしくは天然物由来化合物であるため、安全性に優れ、医薬品や飲食品に配合することにより抗肥満効果を得ることができ、成人病・生活習慣病の予防及び治療上有効なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の抗肥満剤に用いる桑葉は、桑属桑科の植物の葉であればよく、マグワ(学名:Morus alba)、ヤマグワ(学名:Morus bombycis)などの葉を挙げることができる。
【0013】
桑葉はそのままでもよく、その抽出物であってもよい。
【0014】
桑葉をそのまま使用する場合には、生の状態、あるいは乾燥の後、適切な大きさに細砕、もしくは粉末化する。また、桑葉に含まれる生理活性物質の保護、風味の改善、退色の防止等を

目的で桑葉を加湿熱風処理して加工桑葉としてもよい。
【0015】
桑葉を加湿熱風処理する場合には、好ましくは生育盛りの若い桑葉を使用し、生の状態あるいは一旦乾燥の後適切な大きさに裁断し、加湿熱風装置で120℃〜300℃の温度で数分間、好ましくは2分〜10分間熱処理を行う。その後揉捻を行い、加工桑葉を得る。得られた加工桑葉は、このまま桑茶をはじめとした飲食品原料として利用することができるが、さらに乾燥、細砕、粉末化等の処理を行ったり、適当な賦形剤と混合しても差し支えない。
桑葉の抽出物(エキス)を製造する方法は、公知の抽出手段を採用すればよい。例えば、桑葉または加工桑葉を、水、アルコール、又はその他の有機溶媒等を用いて抽出処理し、抽出物を得ればよい。抽出溶媒は単独で用いてもよく、これらを混合したものを用いても差し支えない。好ましい抽出溶媒は水、あるいは水とアルコール等との混合溶媒である。抽出は、室温抽出、加熱抽出さらには加圧抽出等にて行われる。一般的には室温〜125℃で行われる。桑葉からの抽出処理後、遠心分離等により固形分と液体を分離し、さらに必要に応じて濾過等の処理を行った後、減圧濃縮等で濃縮する。さらに、真空乾燥、凍結乾燥等により粉末化することもできる。粉末化に際して、適当な賦形剤を加えても差し支えない。
【0016】
イソフラボンには食品原料として市販されている素材、もしくは自らダイズから抽出した素材のどちらを使用しても良い。またイソフラボンを構成するダイジン、ゲニスチン、グリシチン等の配糖体、これらのアセチル化体とマロニル化体およびこれらのアグリコンであるダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインの構成比率は問わない。
本発明の抗肥満剤は、桑葉、加工桑葉、もしくはこれらのエキス(以降、桑葉素材という)と、イソフラボンの両者を必須成分として含有することを特徴とする。本発明の抗肥満剤とは、脂肪蓄積予防効果や体脂肪減少効果を発揮するものである。本発明の高脂肪剤を用いて、抗肥満効果を有する医薬品や飲食品を製造することができる。
本発明の抗肥満剤を医薬品として人体に投与するときは、桑葉素材を1回あたり0.3〜1000mg(乾燥重量)/kg体重の量、好ましくは0.3〜300mg(乾燥重量)/kg体重の量を、イソフラボンを1回あたり0.01〜100mg(乾燥重量)/kg体重の量、好ましくは0.01〜10mg(乾燥重量)/kg体重の量を1日に1ないし数回経口投与する。
【0017】
本発明の抗肥満剤を含有する飲食品を製造する場合、これと混合する食品素材は固形物(粉状、薄片状、塊状など)、半固形物(ゼリー状、水飴状など)、もしくは液状物等のいずれであっても良い。飲食品1gあたりの桑葉素材の含有量は、1〜700mg(乾燥重量)、イソフラボンの含有量は0.1〜70mg(乾燥重量)であることが望ましい。
【0018】
本発明の抗肥満剤、それを含む医薬品もしくは飲食品における桑葉素材とイソフラボンの配合比率は、イソフラボンが比較的精製度の高い素材であって、一般的な1日摂取目安量が20〜50mgであるのに対し、乾燥葉や加工桑葉等の桑葉素材は、1日摂取目安量が数百mg〜数g、あるいはそれ以上であることから、桑葉素材1に対してイソフラボンは1/10以下であることが推奨される。
【0019】
本発明の桑葉素材およびイソフラボンを含有する医薬品及び飲食品は、抗肥満作用を有するので、成人病・生活習慣病の予防及び治療上有効なものである。
実施例 以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
(桑葉の加湿熱風処理品の調製)
100gのマグワ若葉を裁断し、121℃の水蒸気で6分間加熱した後、揉捻して加工桑葉を得た。
【実施例2】
【0021】
(桑茶ティーバック)
実施例1で得た加工桑葉 4.0g
ダイズ抽出物(イソフラボン5%) 0.4g
上記を均一に混合し、ティーバックに包入した。
【実施例3】
【0022】
(桑茶)
実施例1で得た加工桑葉 6.0g
ダイズ抽出物(イソフラボン10%) 0.4g
水 599g
合 計 600g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って桑葉成分を抽出した後、
アスコルビン酸ナトリウム 0.36g
を配合して桑茶とした。
【実施例4】
【0023】
(粉末茶)
微粉加工桑葉(実施例1で得られた加工桑葉の微粉品) 10.0g
ダイズ抽出物(イソフラボン5%) 1.0g
上記の各重量部を均一に混合した。
【実施例5】
【0024】
(散剤)
微粉加工桑葉(実施例1で得られた加工桑葉の微粉品) 10.0g
ダイズ抽出物(イソフラボン5%) 1.0g
澱粉 4.5g
乳糖 5.5g
上記の各重量部を均一に混合した後、常法に従って散剤とした。
【実施例6】
【0025】
(クッキー)
薄力粉 32.0g
全 卵 16.0g
バター 16.0g
砂 糖 14.0g
水 10.8g
ベーキングパウダー 0.2g
実施例1で得た加工桑葉 10.0g
ダイズ抽出物(イソフラボン10%) 1.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってクッキーとした。
【実施例7】
【0026】
(抗肥満作用)
実施例1で調製した桑葉の加湿熱風処理品(加工桑葉)とイソフラボンの抗肥満作用をマウスを用いて評価した。
【0027】
4週齢の雄性ICR系マウスを8匹ずつ2群に分け、それぞれに精製飼料(AIN−93G)、0.5重量%の加工桑葉を添加した精製飼料、0.25%重量%のダイズ抽出物(イソフラボン10%)、もしくは0.5重量%の加工桑葉と0.25%重量%のダイズ抽出物(イソフラボン10%)を同時に添加した精製飼料を8週間自由摂取させた。飼育終了後にマウスを屠殺し、精巣周囲脂肪を摘出して体重あたりの脂肪重量を測定した。体重あたりの脂肪重量の割合と脂肪低下率を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示した通り、加工桑葉とイソフラボンの投与により、体重あたりの精巣周囲脂肪重量がそれぞれ6%および4%低下した。これに対して、加工桑葉とイソフラボンを同時に与えた群では、体重あたりの精巣周囲脂肪重量が19%低下し、加工桑葉もしくはイソフラボンをそれぞれ単独で与えた場合の結果から期待される低下率10%(6%+4%)を大きく上回った。
【0030】
以上の結果から、加工桑葉とイソフラボンは、同時に投与することで相加的な効果を上回る相乗的な体脂肪蓄積抑制作用を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の抗肥満剤は、桑葉とイソフラボンを原料とするものであり、安全に、抗肥満作用が発揮される。本発明の抗肥満剤を含有する医薬品や飲食品は成人病・生活習慣病の予防及び治療に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
桑葉またはその抽出物と、イソフラボンを有効成分とすることを特徴とする抗肥満剤。
【請求項2】
前記桑葉が、加湿熱風処理を行った後、揉んで乾燥処理した加工桑葉であることとを特徴とする請求項1に記載された抗肥満剤。
【請求項3】
前記加湿熱風処理が、120〜300℃の水蒸気に2〜10分間曝す処理であることを特徴とする請求項2に記載された抗肥満剤。
【請求項4】
イソフラボンの含有量(乾燥重量%)が、桑葉またはその抽出物の含有量(乾燥重量%)の1/10以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載された抗肥満剤。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載された抗肥満剤を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載された抗肥満剤を含有することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2006−257018(P2006−257018A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76302(P2005−76302)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(592102940)新潟県 (41)
【出願人】(598094779)たいまつ食品株式会社 (8)
【出願人】(505098971)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】