説明

抗腫瘍剤

【課題】抗腫瘍効果に優れ、かつ、安全性の高い抗腫瘍剤を提供することである。
【解決手段】キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗腫瘍剤であり、前記酸性キシロオリゴ糖が、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であり、平均重合度が2.0〜15.0であるのが好ましく、前記酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離して得たもの」であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤に関し、さらに詳しくは、キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物を有効成分として含有し、人体に対して安全性が高く、腫瘍サイズを減少させることを可能にする抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍は、心筋梗塞及び脳卒中と並ぶ「現代人の三大疾病」の一つに挙げられており、治療方法として、化学療法、放射線療法及び外科療法のいわゆる三大療法が用いられている。特に、抗癌剤投与を行う場合、重篤な副作用を伴うものも多く、患者のQOL(Quality of Life:生活の質)を著しく低下させてしまうことが多い。このような背景から、安全性の高い抗腫瘍剤が求められるようになり、種々の天然物由来の抗腫瘍剤に関する研究がなされている。天然物由来の抗腫瘍剤としては、例えば、ハタケシメジ抽出物又はその精製物を活性成分とする抗腫瘍剤(特許文献1参照)、牡蠣肉熱水抽出物にアルコールを接触させて得られるアルコール処理物を有効成分とする抗腫瘍剤(特許文献2参照)、スイートコーン又はスイートコーンのグリコーゲン粗抽出物を含有した抗腫瘍剤(特許文献3参照)等が知られている。
【0003】
一方、本出願人らは、酸性キシロオリゴ糖の製造方法や、酸性キシロオリゴ糖のアレルギー性鼻炎改善作用について報告している(特許文献4及び5参照)。しかし、酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジとの併用により抗腫瘍効果が増強されることはこれまでに知られていない。
【特許文献1】特開平11−302191号公報
【特許文献2】特開平10−338640号公報
【特許文献3】特開2004−210696号公報
【特許文献4】特開2003−183303号公報
【特許文献5】特開2005−112826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、抗腫瘍効果に優れ、かつ、安全性の高い抗腫瘍剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するべく、鋭意研究した結果、ウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖組成物とハタケシメジ抽出物の併用により優れた抗腫瘍効果を持つことを見出した。
本発明は、以下の構成を採用する。即ち、本発明の第1は、「キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗腫瘍剤」である。
【0006】
本発明の第2は、前記第1発明において、「該酸性キシロオリゴ糖が、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であり、平均重合度が2.0〜15.0である抗腫瘍剤」である。
【0007】
本発明の第3は、前記第1または第2の発明において、「前記酸性キシロオリゴ糖が、リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離して得たものである抗腫瘍剤」である。
【0008】
本発明の第4は、前記第1〜第3の発明において、「ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸である抗腫瘍剤」である。
【0009】
本発明の第5は、前記第1の発明において、「ハタケシメジが「亀山1号」を種菌とする人工栽培品であることを特徴とする抗腫瘍剤」である。
【0010】
本発明の第6は、前記第1の発明において「ハタケシメジ抽出物の活性成分が下記(イ)〜(ハ)の性質を有することを特徴とする抗腫瘍剤」である。
(イ)色と形態:黄褐色の粉末。
(ロ)化学成分:糖含量60質量%〜80質量%、蛋白質含量5質量%〜15質量%。
(ハ)溶解性:水溶性。
【0011】
本発明の第7は、前記第1の発明において「ハタケシメジ抽出物がハタケシメジの子実体を水抽出して得られることを特徴とする抗腫瘍剤」である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、抗腫瘍効果に優れた安全性の高い抗腫瘍剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成について詳述する。本発明の抗腫瘍剤は、キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とすることを特徴とする。
キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体を言う。本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖とは、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するものを言う。また、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であっても良い。一般的には、天然物から製造するために、このような組成物として得られることが多く、以下、主として酸性キシロオリゴ糖組成物について説明する。
【0014】
本発明においては、酸性キシロオリゴ糖組成物の平均重合度が2.0〜15.0であるのが好ましく、なかでも、2.0〜11.0であるのが好ましい。また、キシロース鎖長の上限と下限との差は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。ウロン酸は天然では、ペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。本発明におけるウロン酸としては、特に限定されないが、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸が好ましい。
【0015】
上記のような酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることが出来れば、その製法は特に限定されないが、(1)木材からキシランを抽出し、それを酵素的に分解する方法(セルラーゼ研究会発行、セルラーゼ研究会報第16巻、2001年6月14日発行、p17−26)と、(2)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離する方法が挙げられる。特に、(2)の方法が5〜10量体のように比較的高い重合度のものを大量に安価に製造することが可能である点で好ましい。以下、(2)の方法についての概要を示す。
【0016】
酸性キシロオリゴ糖組成物は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程及び精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖とを含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するので、セラミックフィルター又は濾紙等を用いた濾過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0017】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程及び吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去される。着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程には、限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析又は透析等でも可能である。こうして得られた糖液中には酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖とが溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から酸性キシロオリゴ糖のみを取り出すことができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。次いで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させる。
【0018】
樹脂に吸着した酸性キシロオリゴ糖を、低濃度の塩(NaCl、CaCl、KCl、MgClなど)によって溶出させることにより、夾雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。この溶液に、例えば、スプレードライ処理や凍結乾燥処理等を施すことにより、白色の酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0019】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体とした酸性キシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性に富む点とキシロースの平均重合度の高い酸性キシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点とにある。平均重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって変えることが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0020】
ハタケシメジ(Lyophyllum decastes(Fr.)Sing.)は、ハラタケ目キシメジ科シメジ属のキノコで、香りマツタケ味シメジと呼ばれ珍重されるホンシメジに最も近縁のキノコであり、ホンシメジと同様に歯ごたえが良く美味である。天然品は、庭先や畑などの比較的身近な場所に株状に発生する(今関六也、本郷次雄:原色日本菌類図鑑(1)、保育社、1987年)。本発明で用いられるハタケシメジは、天然品または人工栽培品のいずれでもよい。ハタケシメジが人工栽培品である場合、種菌に特に制限はないが、特に「亀山1号」が好ましい。公知の方法により、「亀山1号」を種菌からハタケシメジを人工栽培できる。
【0021】
ハタケシメジからの抽出は、ハタケシメジの子実体を生のまま、あるいは乾燥して粉砕後、水(熱水を含む)を用いて行われ、必要に応じて有機溶媒と水とを組み合わせて用いてもよい。有機溶媒としてはメタノール、エタノール、n−ブタノール、酢酸エチル等が用いられる。加熱する場合は、減圧下、常圧下、加圧下のいずれでもよいが、抽出効率は加圧下で高温処理する方がよい。抽出時の圧力は、100〜350kPa、加熱温度は60〜260℃の範囲で実施可能である。抽出時間としては、10分〜24時間であるのが好ましい。抽出処理後のハタケシメジ抽出物は濃縮・乾燥工程を経て0.5%〜10%の抽出エキスとして得られる。抽出エキスの濃縮方法は加熱濃縮法、減圧濃縮法、エタノール沈殿による濃縮方法のいずれでもよい。また、濃縮された抽出エキスの乾燥は、風乾法、加熱乾燥法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法のいずれ、あるいはこれらの複数の組み合わせでもよい。このようにして得られるハタケシメジ抽出物は、次の性質を有する。
(イ)色と形態:黄褐色の粉末
(ロ)化学成分:糖含量60質量%〜80質量%、蛋白質含量5質量%〜15質量%
(ハ)溶解性:水溶性
【0022】
本発明の酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物を含む抗腫瘍剤は、そのままの状態で使用することもできるが、例えば、酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物と各種希釈剤とを混合し、加熱乾燥させた後、粉体化し使用することもできる。又、錠剤化してもよいし、例えば、水溶液の状態で使用することもできる。
【0023】
希釈剤としては、例えば、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、香料、保存料、溶解補助剤又は溶剤等を挙げることができる。具体的には、乳糖、ショ糖、ソルビット、マンニット、澱粉、沈降性炭酸カルシウム、重質酸化マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、セルロース若しくはその誘導体、アミロペクチン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、界面活性剤、水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、カカオ脂、ラウリン脂、ワセリン、パラフィン又は高級アルコール等を挙げることができる。なお、希釈剤の形態としては、固体、液体又は半固体のいずれであってもよい。
【0024】
抗腫瘍剤中の酸性キシロオリゴ糖及びハタケシメジ抽出物の配合率としては、1〜100質量%が望ましく、5〜80質量%が更に望ましい。
【0025】
本発明で得られる酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物を有効成分とする抗腫瘍剤は、医薬品、医療用食品、機能性食品、ペット用食品、食品として提供することができる。また、一般的に医薬部外品や医薬品に使用される成分と混合し、医薬部外品や医薬品としても提供することもできる。医薬品として用いる場合には、散剤、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル、液剤などの形態で例えば点滴、坐剤等に使用することができる。健康食品として用いられる場合には、前述の散剤、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル、液剤などの形態のうち、医薬品と混同しない前提で使用が許可された形態で提供することができる。また、ペット用食品、食品として用いられる場合には、粉末、液体等の形態で提供することができ、また、例えば、顆粒(スープ)、ガム、キャンディ、ビスケット、ゼリー、錠菓、パスタ、飲料等の食品に含有させて用いることができる。投与方法としては、医薬品として用いられる場合には、経口投与、非経口投与(皮下注射、静脈内投与、筋肉内投与、鼻孔内投与または注入など)、吸入、経直腸投与、局所投与などが挙げられる。
【0026】
酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物を含む組成物のヒトや動物に対する経口摂取量(1回当たり)としては、酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物の合計量として体重1kg当り1〜500mgであるのが好ましく、体重1kg当り10〜100mgが更に好ましい。又、酸性キシロオリゴ糖、ハタケシメジ抽出物共に体重1kg当り1〜500mgの範囲内で使用することができ、体重1kg当り10〜50mgが更に好ましい。酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物の配合比としては1:10〜10:1の範囲が好ましく、1:4〜4:1の範囲が更に好ましい。
【実施例】
【0027】
<酸性キシロオリゴ糖の製造>
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。まず、各測定法の概要、酸性キシロオリゴ糖(UX10)の調製例を示す。
【0028】
<測定法の概要>
(1) 全糖量の定量
全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(2) 還元糖量の定量
還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(3) ウロン酸量の定量
ウロン酸は検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、カルバゾール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(4) 平均重合度の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち、15,000rpmにて15分間遠心分離した。遠心分離後、不溶物を除去し、得られた上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(5) 酸性キシロオリゴ糖の分析方法
オリゴ糖鎖の分布はイオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス(株)社製分析用カラム:Carbo Pac PA−10)を用いて分析した。分離溶媒には100mMのNaOH溶液を用い、溶出溶媒には前述の分離溶媒に酢酸ナトリウムを500mMとなるように添加し、溶液比で、分離溶媒:溶出溶媒=10:0〜4:6となるような直線勾配を組み分離した。得られたクロマトグラムより、キシロース鎖長の上限と下限との差を求めた。
(6) オリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち、15,000rpmにて15分間遠心分離した。遠心分離後、不溶物を除去し、得られた上清液のウロン酸量(D−グルクロン酸換算)を還元糖量(キシロース換算)で割ってオリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数を求めた。
(7) 酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義は、キシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0029】
<酸性キシロオリゴ糖の調製>
混合広葉樹チップ(国内産広葉樹70%、ユーカリ30%)を原料として、クラフト蒸解及び酸素脱リグニン工程により、酸素脱リグニンパルプスラリー(カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cps)を得た。スラリーからパルプを濾別、洗浄した後、パルプ濃度10%、pH8に調製したパルプスラリーを用いて以下のキシラナーゼによる酵素処理を行った。
バチルスsp.S−2113株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、寄託菌株FERM BP−5264)の生産するキシラナーゼを1単位/パルプgとなるように添加した後、60℃で120分間処理した。その後、濾過によりパルプ残渣を除去し、酵素処理液1050Lを得た。
次に、得られた酵素処理液を濃縮工程、希酸処理工程、精製工程の順に供した。
濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR−7410)を用いて濃縮液(40倍濃縮)を調製した。希酸処理工程では、得られた濃縮液のpHを3.5に調整した後、121℃で60分間加熱処理し、リグニンなどの高分子夾雑物の沈殿を形成させた。さらに、この沈殿をセラミックフィルター濾過で取り除くことにより、希酸処理溶液を得た。
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外濾過膜(オスモニクス社製、分画分子量8000)に通過させた後、活性炭(和光純薬工業(株)製)770gの添加及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、PK218)各100kgを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、WA30)100kgを充填したカラムに供した。この弱陰イオン交換樹脂充填カラムから75mMのNaCl溶液によって溶出した溶液をスプレードライ処理することによって、酸性キシロオリゴ糖の白色粉末(全糖量353g、回収率13.1%)を得た。以下、この酸性キシロオリゴ糖をUX10とする。前述の測定方法により、UX10は平均重合度10.3、キシロース鎖長の上限と下限との差は10、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。
【0030】
次に、ハタケシメジ抽出物の調製例を下記に示す。
<ハタケシメジの人工栽培>
バーク堆肥(中日本農産(株)社製):米ぬか:カニ殻を絶乾重量比 100:20:4の割合で混合後、含水率を62%にした培養基を850ml容のポリプロピレン製栽培ビンに620g充填した。ビン内の培養基全体に空気を補給し、菌糸の生育を良好にするために、ビン開口部から底部まで直径2cmの大きさの穴をあけ、高圧殺菌釜(120℃、1時間)で殺菌した。培養基の温度を25℃以下に冷却後、クリーンルーム内でハタケシメジ「亀山1号」を植菌した。
次いで、室温23℃、湿度80%(RH)に調整した室内で50日間培養し、培養基に菌糸を充分に蔓延させた。さらに、菌掻きを行い、水分を補給後、前記のバーク堆肥で開口部を1〜2cmの厚さになるように被覆した。被覆した培養ビンを室温21℃、湿度80%(RH)の室内で7日間培養した。次に、菌糸が侵入していない表層部の被覆部を除去し、室温17℃、湿度95%(RH)、照度150ルックスの条件に調整した室内で栽培を継続し、種菌接種後75日間の培養で1ビン当り120gの子実体を収穫した。
【0031】
<ハタケシメジ抽出物の製造>
前記の方法で収穫した人工栽培のハタケシメジの子実体500gを抽出釜に入れ、5Lのイオン交換水を加え、1時間加熱抽出し、固液分離後、濃縮した。濃縮後、抽出液を凍結乾燥することにより黄褐色の粉末状抽出物を得た。得られた抽出物の糖含有量は、44.6質量%であり、蛋白質含有量は、33.8質量%であった。
【0032】
<抗腫瘍活性試験>
1匹のICR/SLC系マウス(雌、5週齢)の腹腔内にSacromal80ガン細胞を移植して10日間飼育した。10日経過後、このマウスの腹腔内からガン細胞を採取し、24匹のICR/SLC系マウス(雌、5週齢:各試験区6匹)それぞれの皮下に、ガン細胞を5×10個(1匹当たり)移植した。移植24時間後から、(1)酸性キシロオリゴ糖(蒸留水に溶解)100mg/kg、(2)ハタケシメジ抽出物(蒸留水に溶解)100mg/kg、(3)酸性キシロオリゴ糖50mg/kg+ハタケシメジ抽出物50mg/kgを、毎日1回、10日間にわたって経口投与(p.o)した。尚、コントロールとして蒸留水を経口投与した。移植1週間後から毎週1回腫瘍の大きさを測定した。また、4週目における生存率をコントロール群と比較した。その結果を表1に示す。
【0033】
酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ併用群では、酸性キシロオリゴ糖単独群、ハタケシメジ抽出物単独群に比べて腫瘍サイズが減少し、生存率が上昇していることがわかった。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物を含む抗腫瘍剤は、抗腫瘍効果を有する健康食品の原料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖とハタケシメジ抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項2】
前記酸性キシロオリゴ糖が、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であり、平均重合度が2.0〜15.0である前記請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
前記酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離して得たもの」である前記請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸である前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
前記ハタケシメジが「亀山1号」を種菌とする人工栽培品であることを特徴とする請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
前記ハタケシメジ抽出物の活性成分が下記(イ)〜(ハ)の性質を有することを特徴とする請求項1に記載の抗腫瘍剤。
(イ)色と形態:黄褐色の粉末。
(ロ)化学成分:糖含量60質量%〜80質量%、蛋白質含量5質量%〜15質量%。
(ハ)溶解性:水溶性。
【請求項7】
前記請求項1に記載のハタケシメジ抽出物がハタケシメジの子実体を水抽出して得られることを特徴とする抗腫瘍剤。

【公開番号】特開2008−208093(P2008−208093A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48234(P2007−48234)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(503306113)王子木材緑化株式会社 (9)
【Fターム(参考)】