抗腫瘍効果をもつBik変異型
本発明は、抗細胞増殖活性および/またはアポトーシス促進活性を有するBikの変異型に関する。特定の態様では、Bikポリペプチドは、Thr33およびSer35における置換を含み、またいくつかの態様では、これらの部位におけるリン酸化が阻害されている。より特異的な態様では、これらの型は、癌療法に、特にリポソームと組み合わせて投与される場合に有用である。変異型Bikポリヌクレオチドが癌療法で投与される態様では、同ポリヌクレオチドは組織特異的に調節されうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞生物学、分子生物学、癌の生物学、および医学の領域に関する。具体的には、本発明は、癌療法に有用な、抗細胞増殖活性および/またはアポトーシス促進活性を含むBikの変種に関する。なお、本出願は、全体が参照により本明細書に組み入れられる2003年4月2日に出願された米国仮特許出願第60/459,901号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
Bik(nbkとしても知られる)は、Bcl-2相同領域であるBH3ドメインを1つだけ有し、最近になってアポトーシスの必須の開始因子として認識されたアポトーシス促進性のBH3-onlyタンパク質の1つである(Han et al., 1996; Boyd et al., 1995)。Bik遺伝子が位置する第22染色体長腕上の情報量の多い対立遺伝子の欠損は、ヒトの乳癌および結腸直腸癌の発生と関連する可能性がある(Daniel et al., 1999)。18 kDaのBikタンパク質はE1B 19Kと相互作用し、また、さまざまな抗アポトーシスタンパク質、例えばBcl-2やBcl-XLとヘテロ二量体を形成する。この結合は、抗アポトーシスタンパク質の機能を妨げる(Han et al., 1996)。Bikの介在するアポトーシスはBAXを必要とし(Theodorakis et al., 2002)、p53に依存しない(Han et al., 1996)。Bikは、E1Aによってもたらされる生理学的なp53介在性細胞死刺激に反応する、p53の下流のアポトーシスエフェクターでもある(Bartke et al., 2001)。p53の下流で機能するBcl-2の増加、およびBikによるE1A細胞死経路の阻害の誘導(抗アポトーシス性のBcl-2とアポトーシス促進性のBikの比が、E1A発現細胞の細胞死もしくは生存を決定する)(Mathai et al., 2002)。またBikは、腫瘍細胞を特定の化学療法剤に感作可能であり(Daniel et al., 1999)、また化学療法剤の1種である、アポトーシスを誘導するドキソルビシンにBik遺伝子が関与する(Panaretakis et al., 2002)。これらの事実は全て、Bikが、ヒトの癌を標的とする有用な治療用遺伝子であることを示唆する。
【0003】
BH3-onlyタンパク質は、その発現パターンおよび活性化の様式が異なり、また多くのBH3-onlyタンパク質の活性化には翻訳後修飾が必要である(Puthalakath and Strasser, 2002)。Bikは、その活性がリン酸化によって調節されうるBH3-onlyタンパク質の1種である(Verma et al., 2000)。Vermaらは、Bikがリンタンパク質として存在し、スレオニン33およびセリン35の残基でリン酸化されていることを明らかにし、これらの残基が、おそらくカゼインキナーゼII関連酵素によるBikの十分なアポトーシス活性に必要なことを決定した。すなわちVermaらは、リン酸化部位であるスレオニン残基およびセリン残基に変異(アラニン残基)を導入した。これはBikのアポトーシス活性を減少させる。そしてVermaらは、Bikのアポトーシス促進力には、Bcl-2に対する親和性には大きく影響しない、現時点では不明な機構によるリン酸化が必要であると結論した。
【発明の開示】
【0004】
発明の簡単な説明
本発明は、特に癌に対する新しい治療用のBik変異型組成物および方法を提供する。当業者であれば、癌と闘うための任意の追加の手段が公衆衛生に有益であることを理解する。
【0005】
本発明は、Bikの変異型、また特に、その抗腫瘍効果に関連するシステムおよび方法に関する。Bikは、Bcl-2ファミリーのアポトーシス促進タンパク質である。本発明で発明者らは、変異型などの非野生型のBikが、強力な抗腫瘍活性をインビボとインビトロの両方の系で発揮するという新たな知見を示す。Vermaら(2000)の記述とは対照的に、本明細書に記載された例示的な変異型Bikポリペプチドは、同様にBik中にリン酸化部位を含まないものの、強力な抗腫瘍活性、抗細胞増殖活性、および/またはアポトーシス促進活性を有し、またいくつかの態様では、野生型のBikより強力である。すなわち、本明細書に記載された実施例は、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドによるトランスフェクションが、さまざまなヒトの癌でアポトーシスを誘導することを示す。この事実は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、および前立腺癌などの癌の遺伝子治療における変異型Bikポリヌクレオチドなどの治療薬などの組成物、およびこれを本発明に使用する方法を提供する。
【0006】
したがって本発明は全体として、増殖を阻害する有効量で変異型Bikポリペプチドを細胞に接触させる段階を含む、癌細胞および/または腫瘍細胞の増殖を阻害する方法に関する。本明細書で言及される変異型Bikポリペプチドは、抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、および/または抗腫瘍活性を有する変異型である。増殖の阻害は例えば、例示的な態様において、細胞のアポトーシスの誘導(例えば細胞培養物中におけるもの)、癌細胞系列の成長の阻害、腫瘍のサイズの縮小、および/または生存率の上昇などによって示されうる。より好ましくは、いくつかの態様では、増殖が阻害される細胞は、生物(例えばヒト)を構成する細胞である。このような形質転換の阻害は、癌、腫瘍形成、および/または転移などの、形質転換によって駆動される現象の予防および/または治療に極めて有用である。
【0007】
変異型Bikポリペプチドは、当業者に既知の任意のさまざまな手法で細胞に接触させたり、細胞に導入することができる。変異型Bikポリペプチドは、変異型Bikポリペプチドを細胞内に直接導入することで導入できる。この場合、変異型Bikポリペプチドは、当技術分野で既知の任意の方法で得ればよいが、細胞内における(例えば細胞培養系における)変異型Bikポリペプチドのインビトロにおける産生が、変異型Bikを得るための好ましい手法であることが予想される。
【0008】
変異型Bikは、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することで細胞内に導入することもできる。例えば、BikをコードするRNAまたはDNAを、当技術分野で周知の任意の手順で細胞に導入することができる。特定の好ましい態様では、変異型Bikを、変異型BikをコードするDNAセグメントを導入することで細胞内に導入する。このようないくつかの態様では、DNAセグメントが、その関連制御配列に機能的に連結された変異型Bik遺伝子(または変異型Bikポリヌクレオチド)をさらに含むことが想定される。例えば、bik遺伝子は、適切なプロモーター配列および適切なターミネーター配列に機能的に連結することができる。このような遺伝子/制御配列DNAコンストラクトの構築は当技術分野で周知である。特定の態様では、プロモーターは、CMV、テロメラーゼ、TCF-4、またはVEGFからなる群より選択される。しかし、特定の態様では、コンストラクトは、例えば例示的な乳癌、前立腺癌、または膵臓癌を含む癌に組織特異的なプロモーターなどの組織特異的なプロモーターを含む。
【0009】
導入に関する、ある態様では、DNAセグメントをベクター(例えばプラスミドベクターまたはウイルスベクター)上に配置することができる。ウイルスベクターは例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、およびアデノ関連ウイルスからなる群より選択することができる。このようなDNAセグメントを、本発明に関連するさまざまな方法で使用することができる。本発明の遺伝子治療の態様の1つでは、このようなベクターを、変異型Bik遺伝子を細胞に送達するために使用することができる。また、このようなベクターは、培養細胞の形質転換に使用可能であり、また、このような培養細胞をインビトロにおける変異型Bikの発現に特に使用することができる。
【0010】
本発明は、あらゆる種類の癌に有用である。というのは、本明細書に例示的な態様において記載されたような変異型Bikは、成長因子受容体やAKT経路などの、多くの癌細胞が採用するその生存戦略に関わらず癌細胞を死滅させるからである。特定の態様では、変異型Bikは、例えば肉腫、肺癌、脳腫瘍、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、肝臓癌、膀胱癌、消化器癌などの固形腫瘍、ならびに白血病、リンパ腫、および骨髄腫などの血液の悪性腫瘍に有効である。例示的な態様では、本発明は、エストロゲン受容体陽性であるか、EGF受容体を過剰発現しているか、Her2/neuを過剰発現しているか、Her-2/neuを過剰発現していないか、Aktを過剰発現するか、アンドロゲン依存性であるか、またはアンドロゲン非依存性である癌に有用である。すなわち、変異型Bikは、Her-2/neu、EGFR、AKTなどの癌遺伝子の過剰発現の状態に関わらず、あるいは、成長がホルモン(例えばMCF-7など)に依存するか、または依存しないか(例えばPC3など)に関わらず、癌細胞に有効である。
【0011】
例えば、以下を含む少なくとも6種類の例示的な種類の癌、または血管由来の細胞から検討された細胞系列に対する変異型Bikの有効性を示す特定のデータが本発明に含まれる:(1)乳癌の場合は、MCF-7(エストロゲン受容体陽性)、MDA-MB-468(EGF受容体を過剰発現)、およびMDA-MB-231など;(2)内皮細胞の場合は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(変異型Bikの抗血管形成作用を示す);(3)頭頚部癌の場合はTU138やTU167など;(4)黒色腫の場合はB16F10など;(5)卵巣癌の場合は、SKOV-ip1(Her-2/neuを過剰発現)、SKOV(Her-2/neuを過剰発現しない)、および2774(Aktを過剰発現)など;ならびに(6)前立腺癌の場合はPC3(アンドロゲン非依存性の成長)など。
【0012】
特定の態様では、変異型Bikを、ヒト細胞である細胞内に導入する。多くの態様では、このような細胞は腫瘍細胞である。現時点で好ましいいくつかの態様では、このような腫瘍細胞は、乳房の腫瘍の細胞、前立腺の腫瘍の細胞、卵巣の腫瘍の細胞、または膵臓の腫瘍の細胞である。しかしながら、変異型Bikは、膀胱癌細胞、精巣癌細胞、結腸癌細胞、皮膚癌細胞、肺癌細胞、胃癌細胞、食道癌細胞、脳腫瘍細胞、白血病細胞、肝臓癌細胞、子宮内膜癌細胞、または頭頚部癌細胞を含むがこれらに限定されない他の細胞に導入することができる。いくつかの態様では、変異型Bik組成物を注射で導入する。特定の態様では、変異型Bik組成物はリポソーム中に含まれる。
【0013】
Bik変異型が増殖を阻害可能であるという発明者らの発見は、本発明のいくつかの態様では、他の抗形質転換/抗癌療法と組み合わせて使用される。このような他の治療法は、本出願の時点において知られていてもよく、本出願の提出日以降に明らかになったものでもよい。Bik変異型は例えば、他の治療用ポリペプチド、他の治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、化学療法剤、外科的方法、または放射線照射と組み合わせて使用することができる。例えば、変異型Bikを、TNFαやp53などの他の既知のポリペプチドとともに使用することができる。Bikと組み合わせて使用することが可能な他のアポトーシスのポリペプチド誘導因子には、p53、Bax、Bak、Bcl-x、Bad、Bim、Bok、Bid、Harakiri、Ad E1B、Bad、およびICE-CED3プロテアーゼなどが含まれるがこれらに限定されない。
【0014】
変異型Bikは、任意の適切な化学療法剤とともに使用することができる。1つの代表的な態様では、化学療法剤はタキソールである。変異型Bikは、放射線療法ともに使用することもできる。放射線療法を構成する電離放射線照射の種類は、X線、γ線、およびマイクロ波からなる群より選択することができる。ある態様では、電離放射線の照射を放射線外照射によって、または放射性核種の使用によって行うことができる。変異型Bikは、他の遺伝子治療法にも使用することができる。特定の態様では、変異型Bikを腫瘍内に導入する。腫瘍は、動物(特にヒト)の体内に存在する場合がある。
【0015】
本発明のBik変異型の遺伝子産物およびポリヌクレオチドは、任意の適切な方法で導入することもできる。導入の「適切な方法」は、変異型Bikの遺伝子産物を、腫瘍細胞の増殖を抑える位置に配することである。例えば、注射、経口、および吸入などの方法を使用することが可能であり、当業者であれば、任意の状況に適した導入法を決定することができる。注射が用いられる態様では、注射は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腫瘍内、胸膜内、または他の任意の適切な形態とすることができる。
【0016】
本発明の他の特定の局面では、適切な容器内に、変異型Bikの遺伝子産物、または変異型Bik遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドの薬学的製剤を含む治療用キットが提供される。このようなキットはさらに、治療用ポリペプチドの薬学的製剤、治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および/または化学療法剤を含みうる。
【0017】
本明細書で用いる「変異型Bik」という表現は、変異型Bikが、抗腫瘍活性、抗細胞増殖活性、および/またはアポトーシス促進活性を有する限りにおいて、Bikポリヌクレオチドまたはポリペプチドを有する任意の生物種に由来するBikポリヌクレオチドまたはポリペプチドを意味する(変異型Bikは、天然のBik、またはこれをコードする対応するポリヌクレオチドと比較して少なくとも1つの変化したアミノ酸を含む)。このような変化は、例えば付加的なアセチル基を含む変化のような修飾型アミノ酸を含む場合がある。またはこのような変化は、少なくとも1つの特定のアミノ酸の位置上における少なくとも1つの置換されたアミノ酸を含む場合がある変化を含みうる。特定の態様では、変異型Bikは、少なくとも1つのアミノ酸に関する少なくとも1つの変化を含むが、本明細書に記載された目的に有用な抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、および/またはこれらの組み合わせは保持している。場合によっては、変異型Bikは、天然のBikより優れた抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、および/またはこれらの組み合わせを示す。他の状況では、変異型Bikは、天然のBikと同程度の抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、および/またはこれらの組み合わせを有する場合がある。他の場合には、変異型Bikは、天然のBikに対して、抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、および/またはこれらの組み合わせが減じている場合がある。言うまでもなく、天然のBikまたは他の変異型Bikにおける同じ1つもしくは複数の重要な活性より実質的に弱い1つもしくは複数の重要な活性を含む大半の変異体は、本発明で全ての態様に有用である可能性は低くなる。しかし当業者であれば、本明細書の記述および当技術分野の知識を鑑みて、本発明の特定の態様で有用性をもつ、このような変異体を選択することができる。
【0018】
抗腫瘍活性、抗細胞増殖活性、および/またはアポトーシス促進活性は、変異型Bikが由来する生物以外の生物に有用な場合がある。例えばヒトのBikは本明細書において例示的な態様で使用されるが、マウスのBikをヒトの治療に代替的に、または追加的に使用することができる。任意の生物種に由来する変異型Bikは任意のアミノ酸が変化しうる。さらにヒトのBikは、特定の残基(群)が変異している場合があり、また治療に有用なことがわかっており、また類似の残基(群)の置換を有する変異型のマウスBikが有効な場合もある。特定の態様では、マウスのBikポリペプチドは、少なくとも1か所の変化したリン酸化部位を含み、また当業者であれば、ヒトのBikに関する本明細書上の記述を元に、マウスのBikにおける類似の変化の導入法を知ることができるであろう。別の特定の態様では、変異型のマウスBikでは、セリン27、スレオニン29、セリン31、および/またはこれらの組み合わせが置換される。
【0019】
言うまでもなく、Bikには、任意の数の理由で変異を導入可能であり、また当業者であれば、リン酸化部位を除去する以外の目的で、ならびに/あるいは、抗腫瘍活性、抗細胞増殖活性、および/またはアポトーシス促進活性を有効にするか、もしくは保持する目的で、Bikポリペプチド中、またはこれをコードする核酸中に作られる、望ましい変異が存在する可能性があることを承知している。例えば、変異は、Bikポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドが治療目的にさらに適するように導入することができる。例えば、ポリペプチドの抗原性を低下させる修飾、ポリペプチドの領域を除去する修飾、ポリペプチドの核局在を促進する修飾、ポリペプチドの半減期を延長させる修飾などを導入することができる。
【0020】
野生型と比較して特定の変異体の有効性を決定するための少なくとも1つのアッセイ法が、本明細書の少なくとも実施例に記載されており、当技術分野の他のアッセイ法を使用することができる。特定の態様では、天然のBikより実質的に弱い少なくとも1つの活性を含む変異体は望ましくなく、また本発明の範囲に含まれない。
【0021】
具体的には本発明は、細胞の成長、生存、または増殖の制御に関連するBikの特定の変異型に関する方法および組成物に関する。特定の態様では、細胞の成長の制御は、癌または再狭窄の治療に有用である。具体的には本発明は、リン酸化されていないか、または低レベルでリン酸化されているポリペプチドを生じる1つもしくは複数のアミノ酸置換を有する変異型Bikポリペプチドが抗腫瘍応用に有用なことを当業者に開示する。特定の態様では、発明者らは、変異型Bikが、リン酸化を減じたり消失したりする場合があること、またこのような変異型Bikで処理された形質転換細胞の成長の抑制に至ることを示す。特定の態様では、例えばAspまたはGluが置換されると、これらの部位でポリペプチドがリン酸化されなくなり、このようなBik変異型による処理時に形質転換細胞の成長の抑制に至る。言うまでもなく本発明は、アミノ酸の置換がAspまたはGluのいずれかにおける態様に制限されない。むしろ、Bikのリン酸化を妨げる任意のアミノ酸の任意のアミノ酸との置換が本発明の範囲に含まれる。特定の態様では、Thr33および/またはSer35における置換の対象となるアミノ酸はアラニンではない。別の特定の態様では、少なくとも1か所のアミノ酸置換は、例えば、アミノ酸であるアスパラギン酸またはグルタミン酸などの、少なくとも1つの酸性特性を有する。したがって、本発明の目的の1つは、ポリペプチドのリン酸化の失敗につながる、また好ましくは結果として得られるBik変異型が、抗細胞増殖力、抗腫瘍力、アポトーシス促進力、またはこれらの組み合わせを含むようになるための、Bikポリペプチド中における少なくとも1か所の修飾に関する。
【0022】
当業者であれば、類似のアミノ酸に対する変異、もしくはそれ以外の変異を、Bikとは異なる部位に導入可能なこと、またこのような変異型の一部が、本明細書に記載された例示的な態様と同じ活性を有する場合があることを理解する。例えば、Bik中のいずれかの位置に存在するスレオニン、セリン、または他の適切なアミノ酸は、例示的なアスパラギン酸またはグルタミン酸などと置換可能である。当業者であれば、天然のBikとは異なる変化を導入するためのBik配列を提供する国立生物工学情報センター(NCBI)のGenBankデータベースなどの公開データベース、またはCelera Genomics、Inc. (Rockville, MD)などの商用データベースが存在することを承知している。例示的なBikポリペプチド配列には、配列番号:3(AAC50413;NP_001188;AAF01156;AAC79124;CAA62013;およびS58214);ならびに配列番号:4(AAC40079およびNP_031572)などがある(括弧内はGenBankアクセッション番号)。例示的なBikポリヌクレオチド配列には、配列番号:5(AY245248)および配列番号:6(NM_001197)などがある(括弧内はGenBankアクセッション番号)。
【0023】
したがって、本発明は、Bikにおけるさまざまな変異に関するガイダンスを提供する。したがって本発明は、細胞増殖の阻害および/または細胞死の促進を含む、細胞成長制御の全般的技術に対する新しい改善に関する。特定の態様では、細胞増殖の阻害は、増殖速度の遅延、全細胞数の増殖の遅延、またはこの両方を含む。
【0024】
当業者であれば、Bikポリペプチド中の任意の部位が、本明細書に記載されたような組成物となるように修飾可能であること、またさらに、複数の部位が修飾可能なことを理解する。当業者であれば、約160アミノ酸(生物種に依存する)のBikポリペプチド中に、限られた数の修飾部位が存在することを承知している。また当業者であれば、修飾対象の標準的なアミノ酸が20種類しかないことを理解しており、また本明細書では、このような修飾を導入する方法に関するガイダンスが提供される。また、本発明の記述を読んだ当業者であれば、本明細書の記述、および当技術分野の他の方法を元に、抗腫瘍効果、抗細胞成長効果、および/またはアポトーシス促進効果を検討する方法を理解する。したがって、特定の修飾を検討することは、当業者に過度の実験を強いるものではない。
【0025】
したがって、本明細書に記載されたガイダンスに基づき、本発明は、細胞の増殖または細胞の生存促進の阻害を招くBikの変異型ポリペプチドに関する。特定の態様では、本発明は、例えばBik T33D、S35D、および二重変異型T33DS35Dを含む変異型に関する。
【0026】
本発明の目的に従うと、対象組成物は変異型Bikポリペプチドである。例えば、このような組成物はアミノ酸の置換を含む。特定の態様では、このような置換は、非置換型Bikポリペプチドのリン酸化を招く条件下でBikポリペプチドのリン酸化を妨げる。他の特定の態様では、置換はThr33からAsp33への置換、もしくはSer35からAsp35への置換、またはこの両方である。他の特定の態様では、組成物はさらに、Bikポリペプチドが分散した薬理学的に許容される賦形剤中の組成物として定義される。他の特定の態様では、組成物はキット中の適切な容器に収められている。
【0027】
本発明の別の目的は、変異型Bikポリペプチドを個体に投与する段階を含む、個体の細胞の成長を妨げる方法である。別の特定の態様では、ポリペプチドの投与にはリポソームを用いる。他の特定の態様では、ポリペプチドはさらに、例えばHIV Tatやペネトラチン(penetratin)などのタンパク質導入ドメイン(protein transduction domain)を含む。
【0028】
本発明の別の目的は、変異型Bikポリペプチドをコードする核酸を個体に投与する段階を含む、個体の細胞の成長を妨げる方法である。別の特定の態様では、核酸の投与には、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、リポソーム、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるベクターを用いる。
【0029】
本発明の別の目的は、Bikポリペプチド組成物が薬理学的に許容される賦形剤中に分散している変異型Bikポリペプチド組成物を用いる方法である(組成物は、増殖性細胞疾患の動物に投与される)。
【0030】
本発明の他の目的は、変異型Bikポリペプチドを個体に投与する段階を含む、個体の増殖性細胞疾患を治療する方法である。別の特定の態様では、増殖性細胞疾患は癌である。他の特定の態様では、増殖性細胞疾患は再狭窄である。他の特定の態様では、癌は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、または膵臓癌である。
【0031】
本発明の他の目的は、変異型Bikポリペプチドを細胞に接触させる段階を含む、細胞を処理する方法である。特定の態様では、細胞はヒト細胞である。別の特定の態様では、細胞は動物を構成する。他の特定の態様では、動物はヒトである。他の特定の態様では、ヒトは増殖性細胞疾患である。その他の特定の態様では、増殖性細胞疾患は癌である。他の特定の態様では、癌は、乳癌、卵巣癌、または前立腺癌である。別の特定の態様では、増殖性細胞疾患は再狭窄である。
【0032】
本発明の他の目的では、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、癌性組織を標的とする任意のプロモーターなどの組織特異的なプロモーターによって調節される。非癌性組織よりも癌性組織を優先的に標的とする任意のプロモーターでよいが、特定の態様では、癌特異的なプロモーターは例えば、乳癌特異的なプロモーター、前立腺癌に特異的なプロモーター、または膵臓癌に特異的なプロモーターである。
【0033】
特定の態様では、乳癌に特異的なプロモーターは、乳癌に特異的な配列を含み、また他の態様では、組織特異的な配列の発現レベルなどの発現を高めるエンハンサー配列を含む。特定の態様では、CMVのプロモーターエンハンサー配列は、例示的なトポイソメラーゼIIα(topo IIα)プロモーター、または例示的なトランスフェリン受容体プロモーターに由来する乳癌に特異的なセグメントに連結されている。これらは、正常組織に対する毒性の弱い原発性および転移性の乳癌を標的としたり、また治療したりするための遺伝子の標的送達に有用である。
【0034】
別の態様では、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現は、膵臓癌に特異的なプロモーターによって調節される。特定の態様では、少なくとも最小コレシストキニンA受容体(CCKAR、-726〜+1ヌクレオチド)、2段階転写系配列、およびウッドチャック肝炎ウイルスの翻訳後調節エレメント(WPRE)を含む、本明細書ではCTPと呼ばれるプロモーターなどの、新しい膵臓癌特異的なプロモーターが使用される。このように作製されたコンストラクトは強力なプロモーター活性を有し、またインビトロおよびインビボで変異型Bikを発現させる際に膵臓癌細胞に対する特異性を示す。
【0035】
本発明の別の特定の態様では、前立腺癌に特異的なプロモーターが、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を調節する。特定の態様では、本発明では、少なくともヒトテロメラーゼ逆転写酵素の最小プロモーター(hTert)、ウッドチャック肝炎ウイルスの翻訳後調節エレメント(WPRE)、およびアンドロゲン刺激に反応するARR2制御配列を含む、本明細書ではATTPと呼ばれるプロモーターなどの、新しい前立腺癌特異的なプロモーターを使用する。このように作製されたコンストラクトは強力なプロモーター活性を有し、またインビトロでアンドロゲン依存性とアンドロゲン非依存性の前立腺癌細胞の両方に対して特異性を示す。このプロモーターは、前立腺癌中で変異型Bikの遺伝子発現をインビボで特異的に誘導するために使用することができる。
【0036】
ここまで、以下に続く本発明の詳細な説明の理解を助けるために、本発明の特性および技術上の利点について、どちらかといえば広く概説した。本発明の他の特徴および利点を以下に説明する。これは、本発明のクレームの対象となる。開示された概念および特定の態様が、本発明の同じ目的を実施するために他の構造を修飾したり設計したりする際の基礎として容易に使用可能であることは、当業者には明らかであると思われる。このような同等の構築が、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲から解離しないことも当業者には明らかなはずである。その構成と操作法の両方に関して本発明の特徴であると考えられる新しい特性は、他の目的および利点とともに、添付図面と関連して参照することで、以下の記述から適切に理解されると思われる。しかしながら、個々の図面が説明および記述のみを目的とし、本発明を制限する定義とすることを意図しないで提供されることは明瞭に理解される。
【0037】
本発明をさらに深く理解するために、添付図面と併せて以下の記述を参照する。
【0038】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる、「1つの(「a」または「an」)」という表現は、1つもしくは複数の対象を意味する場合がある。請求項(群)で、表現「〜を含む(comprising)」とともに用いる場合は、表現「1つの(「a」または「an」)」は、1つもしくは複数の対象を意味する場合がある。本明細書で用いる「別の(another)」という表現は、少なくとも2つ目もしくはこれ以降の対象を意味する場合がある。
【0039】
本発明は、変異型Bikポリペプチド、および同ポリペプチドをコードする核酸、ならびに変異型Bikの使用に関する方法に関する。このように、例示的な態様において、発明者らは、構成的に活性な可能性のある型として残基スレオニン33およびセリン35をアスパラギン酸アミノ酸に変化させることにより、このようなBik変異型は、癌の遺伝子治療における治療用薬剤となることがわかった。発明者らは過去に、非ウイルス性遺伝子送達系(SN)-bikの全身投与が、ヌードマウスに移植されたヒト乳癌細胞の成長および転移を有意に阻害し、投与個体の寿命を延長させたことを示した(Zou et al., 2002)が、本明細書に記載されているように、Bik変異型もまた、野生型のBikと比較して、インビトロおよびインビボモデルにおいてBik遺伝子産物の抗腫瘍機能を促進しうる。
【0040】
本発明は、ヒトの卵巣癌、膵臓癌、乳癌、前立腺癌、および他の癌を治療するための腫瘍抑制遺伝子としての、アポトーシス促進性のBikポリヌクレオチドの変種に関する。いくつかの態様では、腫瘍の成長および発生を抑制するために、例えばウイルス送達系または非ウイルス送達系のいずれかによって適切なレシピエント動物に送達される。本発明の1つの例示的な態様では、送達されたBik変異型は、アポトーシス機構を介して作用して、腫瘍の成長および発生を抑制する。したがって、本明細書で発明者らは、bikの変種が強力な抗腫瘍活性を発揮し、従来の腫瘍抑制因子のように挙動したことを示す。
【0041】
Bikは当初、E1B 19KやBcl-2と相互作用するBH3ドメインのみを含むタンパク質として同定された。全身投与されたBikは、ヒト乳癌のヌードマウスモデルで腫瘍の成長および転移を有意に阻害した。最近では、翻訳後のリン酸化がBikのアポトーシス促進力を調節可能なことが報告されている。本明細書で発明者らは、さまざまなヒト癌細胞で細胞の増殖を阻害し、またアポトーシスの誘導を促進する際に、Bik変異型が野生型(wt)Bikより強力なことを示した。また、Bik変異型がマウスのエクスビボモデルで腫瘍形成能および腫瘍獲得率を抑制することも示した。また発明者らはマウスのインビボモデルで、Bik変異型-SNリポソームが腫瘍の成長を阻害し、寿命を延長することを示した。このように本発明は、変異型Bikの遺伝子産物を提供する。変異型Bikをコードするポリヌクレオチドは、野生型Bikより強力に細胞死を誘導する。
【0042】
Bikの例示的な変異体であるBik-T33D(スレオニン33→アスパラギン酸)、Bik-S35D(セリン35→アスパラギン酸)、およびBik-T33DS35D(スレオニン33およびセリン35→アスパラギン酸)を作製した。これらの変異体は、本発明の好ましい態様では、癌細胞の成長を選択的に阻害し、また好ましくは野生型Bikより強力な抗癌剤である。他の態様では、変異型Bikは他の細胞の増殖を阻害し、また再狭窄の治療、または血管形成の阻害に有用である。当業者は、本明細書の記述に従うことで、Bikポリペプチドの他の例示的な変異体を作製することができる。
【0043】
当業者であれば、Bikの多様な核酸配列およびポリペプチド配列を本発明で使用可能なことを理解する。当業者は、このような配列を提供する国立生物工学情報センター(NCBI)のGenBankデータベースなどの公開データベース、またはCelera Genomics、Inc.(Rockville, MD)などの商用データベースの存在を承知している。例示的なポリペプチド配列には、配列番号:3(AAC50413;NP_001188;AAF01156;AAC79124;CAA62013;およびS58214)、ならびに配列番号:4(AAC40079)などがある(括弧内はGenBankアクセッション番号)。例示的なポリヌクレオチド配列には、配列番号:5(AY245248)、および配列番号:6(NM_001197)などがある(括弧内はGenBankアクセッション番号)。
【0044】
特定の態様では、Bikポリペプチドは、以下のドメインの少なくとも1つを含む:BH3ドメイン(例えば、
);少なくとも1つのE1B 19K相互作用ドメイン(例えば、
);少なくとも1つのBcl-2相互作用ドメイン(例えば、
);および/または、さまざまな抗アポトーシスタンパク質(例えばBcl-2やBcl-XL)を有するような少なくとも1つのヘテロ二量体形成ドメイン(例えば、
);および/または膜貫通ドメイン(例えば、
)を含み、また少なくとも一部のドメインは重複する可能性がある。特定の態様では、Bikポリペプチドは、特定のアミノ酸に実質的に機能的なリン酸化部位を含まないが、別の態様ではBikは、1つもしくは複数の機能的なリン酸化部位を含む場合がある。本明細書で用いる「実質的に機能的でないリン酸化部位」という表現は、Bik分子の大部分が、リン酸化されうる1つもしくは複数の特定のアミノ酸におけるリン酸化能力を欠くことを意味する。特定の態様では、問題となるリン酸化部位はThr33およびSer35を含む。当業者であれば、問題となるBikの型に対するリン酸化分子種、または非リン酸化分子種に特異的な抗体を提供する方法などの、リン酸化能力のアッセイ法を理解する。当業者は、いくつかの態様では、例えば2次元ゲル電気泳動または質量スペクトルを使用してこれらの残基のリン酸化を同定することもできる。
【0045】
当業者であれば、例示的なBikT33D(スレオニン33→アスパラギン酸)(配列番号:7);BikS35D(セリン35→アスパラギン酸)(配列番号:8);およびBik T33DS35D(スレオニン33とセリン35の両方→アスパラギン酸)(配列番号:9)などのBikの変異体がさまざまな手段で作製可能なことを理解する。特定の態様では、例えば配列番号:5または配列番号:6に記載された核酸配列は、残基33のスレオニンをアスパラギン酸をコードさせるようにするような、変化させることが望ましい少なくとも特定のアミノ酸をコードするコドンに変異が導入されている。表1には、全ての標準的なアミノ酸に対応するコドンを挙げた。また当業者であれば、例えば標準的な部位特異的変異導入法で所望の変異を作製するための出発材料となる核酸の操作法について十分承知していると思われる。
【0046】
本発明のある態様では、Bikの野生型遺伝子産物は天然の条件でリン酸化される。特に発明者らは本明細書で、T33残基および/またはS35残基をコードする変異を含む1つもしくは複数の変異型Bikが、リン酸化能力を欠くにも関わらず、変異型Bik遺伝子産物を細胞成長の阻害に有用とすること、および/またはアポトーシス促進活性に有用とすることを示した。当業者であれば、T33および/またはS35の残基を変化させることでリン酸化を妨げることが可能なことを理解する。例えばT33アミノ酸残基は、同残基をコードする核酸コドンを部位特異的変異導入などで変えることで変化させることができる。あるいは、T33および/またはS35のアミノ酸(群)は、例えば、カルボジアミドなどのブロッキング剤で、および/またはトリフルオロ酢酸に溶解したアセチルコリンで残基をアセチル化することでリン酸化を妨げる少なくとも1つの化合物でブロックすることができる。
【0047】
当業者であれば、非置換型Bikポリペプチドのリン酸化をもたらす条件下で、Thr33および/またはSer35における置換が、Bikポリペプチドのリン酸化を妨げるであろうことを理解し、また、このような条件を決定する当技術分野で標準的な方法を理解すると思われる。
【0048】
本発明の1つの局面では、少なくとも1か所の欠損型リン酸化部位を有する変異型Bikポリペプチドを、組織特異的に調節されるポリヌクレオチドとして投与する。特に変異型Bikは、例えば乳癌、膵臓癌、または前立腺癌における発現を標的とすることができる。本発明の特定の局面では、乳癌特異的なプロモーターが変異型Bikの発現を制御する。任意の乳癌特異的制御配列が発明者らによって想定されているが、特定の態様では、変異型Bikの発現は、複合型(キメラ)のプロモーターによって制御される。例えば、トポイソメラーゼIIαプロモーター(CT90と呼ばれる)、または輸送用受容体プロモーター(CTR116と呼ばれる)のいずれかに含まれる乳癌特異的なセグメントに連結されたCMVのプロモーターエンハンサー配列を含む乳癌特異的なプロモーターを使用することができる。これらのキメラプロモーターはいずれも、遺伝子発現を乳癌細胞で選択的に駆動し、またCMVプロモーターに匹敵する活性レベルを有する。好ましくは、乳癌細胞を選択的に死滅させることで、ならびに/または乳房の腫瘍の成長および/もしくは成長速度を有意に減じることで、正常組織に対する毒性を抑えながら原発性および転移性の乳癌を標的とし、また治療するために、CT90またはCTR116のキメラプロモーターを用いる変異型Bikコンストラクトを遺伝子送達に使用する。
【0049】
本発明の他の局面では、前立腺癌特異的または膵臓癌特異的なプロモーターが、変異型Bikの発現を制御する。個々の任意の前立腺癌特異的なプロモーター、または膵臓癌特異的なプロモーターを発明者らは想定しているが、特定の態様では、前立腺癌特異的または膵臓癌特異的な複合型プロモーターをそれぞれ使用する。例えば、前立腺癌特異的なプロモーターはARR2制御配列を含む場合があり、また膵臓癌特異的なプロモーターはCCKAR制御配列を含む場合がある。
【0050】
変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を調節するために使用される任意のプロモーターまたは制御配列は、例えば発現および/または転写後プロセスを促進する特定の調節配列を使用することができる。特異的であるが例示的な配列には、エンハンサー、2段階転写増幅系、RNAのポリアデニル化や半減期などを調節するエレメント(WPREなど)、ならびに当技術分野における他のエレメントなどがある。
【0051】
本発明の他の態様には、変異型Bikポリペプチドを個体に投与する段階を含む、個体の細胞の成長を妨げる方法がある。特定の態様では、このようなポリペプチドをリポソーム中に含めた状態で投与し、および/またはポリペプチドはさらに、HIV Tatやペネトラチンなどのタンパク質導入ドメイン(Schwarze et al., 1999)を含む。別の態様では、変異型Bikをポリヌクレオチドとして投与する(ポリヌクレオチドは、例えば部位特異的変異導入によって作られるもののような、アミノ酸レベルの修飾に作用する変化を含む)。修飾型のBikポリヌクレオチドを、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、リポソーム、またはこれらの組み合わせなどのベクター中に収めた状態で投与する。
【0052】
本発明の態様には、変異型Bikポリペプチドを細胞に接触させる段階を含む、細胞を処理する方法もある。特定の態様では、細胞はヒトの細胞であり、このような細胞は、動物を構成し、および/または動物はヒトである。
【0053】
本明細書では、本発明の組成物が好ましくは、細胞中の天然のBikポリペプチドに由来し、また癌細胞に対して、天然のBikとほぼ同じか、またはより強力な可能性のある、類似の活性を有することを想定している。すなわち、本発明の範囲は、いくつかの態様では、野生型Bikポリペプチドと類似の手順で使用される、天然のBikポリペプチド中の変化に関する。別の態様では、変異型Bik(例えば、野生型の配列とは異なるもの)は、天然のBikポリペプチドとは異なる活性を含む。
【0054】
I.定義、ならびにBikの遺伝子産物および遺伝子に影響を及ぼす手法
A.Bikの遺伝子産物および遺伝子
本明細書で用いる、「変異型Bik遺伝子産物」および「変異型Bik」という表現は、天然のBikと類似の活性を示す能力に関して、天然のBikと同一ではないが生物学的に活性のあるアミノ酸配列を有するタンパク質を意味する。例えば、これらは好ましくは、アポトーシス促進活性、抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、および/またはBikに対する抗Bik抗体との間で交差反応性を有する抗体活性を示すことが可能である。「Bikの遺伝子産物」は、天然のBikと共通した少なくともいくつかの生物学的活性を示すBik分子の類似体を含む。また、変異導入の当業者であれば、未だ開示されていないか、または発見されていない他の類似体を用いてBik類似体を構築可能なことを理解すると思われる。
【0055】
「Bikの変異型」という表現は、上述のBik遺伝子産物をコードするDNA配列と実質的に同一な任意のDNA配列を意味する。この表現は、このようなDNA配列に適合するRNAまたはアンチセンスの配列も意味する。「Bikの遺伝子」は、任意の組み合わせの関連制御配列を含む場合もある。
【0056】
Bikのアミノ酸配列またはBikの核酸配列のいずれかを定義する際に用いられる「実質的に同一である」という表現は、特定の対象となる配列、例えば変異体の配列を意味し、例えば1か所もしくは複数の置換、欠失、付加、またはこれらの組み合わせによって天然のBikの配列とは異なり、この正味の作用は、Bikタンパク質の少なくともいくつかの生物学的活性を保持することである。あるいは、DNA類似体の配列は、以下の場合に、本明細書に開示された特定のDNA配列と「実質的に同一である」:(a)DNA類似体の配列が天然のBik遺伝子のコード領域に由来する場合;または(b)DNA類似体の配列が中程度にストリンジェントな条件で(a)のDNA配列とハイブリダイズする能力を有し、かつ生物学的に活性のあるBikをコードする場合;または(c)(a)もしくは(b)で定義されたDNA類似体の配列に対する遺伝暗号の縮重であるDNA配列。実質的に同一な類似体タンパク質は、天然のタンパク質の対応配列に対して約80%以上の類似性を有する場合がある。類似性の程度は低いが、同等の生物学的活性を有する配列は、同等物であるとみなされる。核酸配列を決定する際は、実質的に類似のアミノ酸配列をコード可能な、対象となる全核酸配列が、コドン配列の差に関わらず、標準核酸配列と実質的に類似しているとみなされる。
【0057】
B.パーセント類似性
パーセント類似性は、例えば、ウィスコンシン大学のGeneticist Computer Groupから利用可能なGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することで決定できる。GAPプログラムは、Smithら(1981)によって改訂された、Needlemanら(1970)のアラインメント法を利用している。簡単に説明すると、GAPプログラムでは、類似性を、類似のアライメントされたシンボル(すなわちヌクレオチドまたはアミノ酸)を、2つの配列の短い方のシンボルの総数で割った数として定義する。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメータは以下の通りである:(1)ヌクレオチドの単位比較マトリックス(同一時=1、非同一時=0)、およびSchwartzら(1979)に記載されたGribskovら(1986)による重み付けされた比較マトリックス;(2)各ギャップについて3.0のペナルティ、および個々のシンボルおよび個々のギャップに対する追加的な0.01のペナルティ;ならびに(3)末端のギャップにはペナルティなし。
【0058】
II.核酸配列
ある態様では、本発明は、既知のBik遺伝子または対応するタンパク質の配列とは異なる配列を含む変異型Bikなどの、変異型Bikの核酸、遺伝子、および遺伝子産物の使用に関する。「本質的にBikである配列」という表現は、配列が、Bik遺伝子の一部に実質的に対応し、Bik(タンパク質の場合は、生物学的に機能的に等価なもの)の配列とは同一ではない比較的少数の塩基またはアミノ酸(DNAまたはタンパク質)を有することを意味する。「生物学的に機能的に等価である」という表現は、当技術分野でよく理解されており、本明細書でさらに詳細に定義される。こうして、Bikのアミノ酸と同一または機能的に等価な、約70%〜約80%;またはより好ましくは約81%〜約90%;またはさらにより好ましくは約91%〜約99%のアミノ酸の配列は、「本質的に同じ」配列となる。
【0059】
機能的に等価なコドンを有する変異型bikの核酸は本発明に含まれる。「機能的に等価なコドン」という表現は本明細書において、アルギニンまたはセリンの6つのコドンなどの同じアミノ酸をコードするコドンを意味する表現として用いられ、また生物学的に等価なアミノ酸をコードするコドンも意味する(表1)。
【0060】
(表1)機能的に等価なコドン
【0061】
配列が上述の基準(タンパク質の発現が関わる場合はタンパク質の生物学的活性が維持されることなど)に適合する限りにおいて、アミノ酸および核酸の配列は、N末端もしくはC末端の追加的なアミノ酸、または5'もしくは3'の配列などの追加的な残基を含んでもよく、それでも本明細書に開示された配列の1つに記載されるものとして本質的であることも理解されるであろう。末端配列の追加は特に核酸配列に適用され、これは例えば、コード領域の5'部分または3'部分のいずれかと隣接するさまざまな非コード配列を含む場合があるほか、さまざまな内部配列(例えば遺伝子中に存在することが知られているイントロン)を含む場合がある。
【0062】
本発明は、本明細書に記載された配列に対して相補的か、または本質的に相補的なDNAセグメントの使用も含む。「相補的」な核酸配列は、標準的なワトソン-クリックの相補性規則にしたがって塩基対合可能な配列である。本明細書で用いる「相補的配列」という表現は、上述の同じヌクレオチドの比較によって評価可能な実質的に相補的な核酸配列、または問題となる核酸セグメントと、上述したような比較的ストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能であると定義される核酸配列を意味する。
【0063】
C.生物学的に機能的な同等物
上述したように、修飾および変化をBikの構造に導入し、同様または別の望ましい特徴を有する状態を保つ分子が得られる。例えば、特定のアミノ酸を、例えばE1B 19KやBcl-2などの構造との相互作用可能な結合能力を大きく失うことなく、タンパク質構造中の他のアミノ酸と置換することができる。これは、多くの態様では、タンパク質の生物学的な機能的活性を定義するタンパク質の相互作用可能な能力および性質なので、特定のアミノ酸配列の置換をタンパク質の配列(または言うまでもなく、その基礎となるDNAのコード配列)中に導入し、それにも関わらず、同様またはさらに相殺的な特性(例えば拮抗性と作用性)を有するタンパク質を得ることが可能である。したがって、発明者らは、さまざまな変化を変異型Bikのタンパク質またはペプチド(または基礎となるDNA)の配列中に、所望の生物学的な有用性または活性を大きく損なうことなく導入可能なことを想定している。
【0064】
生物学的に機能的に等価なタンパク質またはペプチドの定義に、分子の一定の部分に導入可能な変化の数には制限があり、またそれでも許容可能なレベルの同等の生物学的活性を有する分子が生じるという概念が本来含まれることも当業者にはよく理解される。したがって本明細書では、生物学的に機能的に等価なペプチドは、特定の(全てではないにしても大半の)アミノ酸が置換可能なペプチドと定義される。言うまでもなく、さまざまな置換を有する複数の個別のタンパク質/ペプチドを本発明にしたがって容易に作製して使用することができる。
【0065】
特定の残基がタンパク質またはペプチドの生物学的または構造的な特性に特に重要であることが示されている場合(例えば活性部位内の残基)には、このような残基は一般には交換されないであろうことも、よく知られている。
【0066】
Bikを修飾する際に用いられうる置換などのアミノ酸置換は一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的な類似性(例えば、その疎水性、親水性、電荷、大きさなど)に基づく。アミノ酸側鎖置換基の大きさ、形状、および種類の解析から、アルギニン、リシン、およびヒスチジンがいずれも正に帯電した残基であること;アラニン、グリシン、およびセリンがいずれも類似の大きさを有すること;ならびに、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンがいずれもほぼ類似の形状を有することがわかっている。したがって、これらの点を元に、アルギニン、リシン、およびヒスチジン;アラニン、グリシン、およびセリン;ならびにフェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシン;は本明細書において、生物学的に機能的な同等物であると定義される。
【0067】
このような変化を導入する際には、アミノ酸の疎水性親水性指標を考慮することがある。個々のアミノ酸には、その疎水性および荷電特性を元に、以下のような疎水性親水性指標が割り当てられている:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);スレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リシン(-3.9);およびアルギニン(-4.5)。
【0068】
相互作用可能な生物学的機能をタンパク質にもたらす上で、疎水性親水性アミノ酸指標の重要性は、当技術分野で広く理解されている(参照により本明細書に組み入れられる、Kyte and Doolittle, 1982)。特定のアミノ酸が、類似の疎水性親水性指標またはスコアを有する他のアミノ酸と置換可能であり、類似の生物学的活性を保持することが知られている。疎水性親水性指標を元に変化を導入する際には、疎水性親水性指標が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のアミノ酸の置換が特に好ましく、また±0.5のアミノ酸の置換がさらに特に好ましい。
【0069】
親水性を元に、同様のアミノ酸の置換が事実上可能なことも当技術分野では理解されている。参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,554,101号には、隣接するアミノ酸の親水性によって決定される、タンパク質の最大の局所的な平均親水性が、タンパク質の免疫原性および抗原性(すなわちタンパク質の生物学的特性)と相関することが記載されている。アミノ酸は、類似の親水性値を有する他のアミノ酸と置換可能であり、生物学的に等価なタンパク質を保持することが理解されている。
【0070】
米国特許第4,554,101号に記載されているように、以下の親水性値が、各アミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±0.1);グルタミン酸(+3.0±0.1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±0.1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。
【0071】
類似の親水性値を元に変化を導入する際には、親水性値が±2以内にあるアミノ酸の置換が好ましく、同値が±1以内にあるアミノ酸の置換が特に好ましく、また同値が±0.5以内にあるアミノ酸の置換がさらに特に好ましい。
【0072】
以上の議論では、アミノ酸の変化によって生じる機能的に等価なポリペプチドに注目してきたが、このような変化は、コードされるDNAを変化させることによって行われうることが理解される。この際、遺伝暗号が縮重していること、また2つもしくはこれ以上のコドンが同じアミノ酸をコードする可能性があることが考慮される。
【0073】
III.核酸ベースの発現系
本発明では、いくつかの態様において、変異型Bikを含むポリヌクレオチドを発現させる系を用いる。このようなポリヌクレオチドの特定の例示的な局面について以下に説明する。
【0074】
A.ベクター
「ベクター」という表現は、複製可能な細胞に導入するために核酸配列を挿入可能な担体としての核酸分子を意味するように用いられる。核酸配列は「外因性」の場合がある。これは、ベクターが挿入される細胞にとって、ベクターが外来性であること、またはこの配列は、細胞中の配列と相同であるが、宿主細胞の核酸上に通常は見られない位置に配列が存在していることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えばYAC)などがある。当業者であれば、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、Maniatisら(1988)、およびAusubelら(1994)に記載されている標準的な組換え型の手法でベクターを構築する手法を心得ていると思われる。
【0075】
「発現ベクター」という表現は、転写されうる遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含むベクターを意味する。場合によっては、RNA分子は後に、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳される。また別の場合、これらの配列は翻訳されない(例えばアンチセンス分子またはリボザイムの作成の場合)。発現ベクターは、特定の宿主生物における、機能的に連結されたコード配列の転写と、そしておそらくは翻訳に必要な核酸配列を意味する、さまざまな「制御配列」を含む場合がある。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、他の機能も担う核酸配列を含む場合があり、これについては後述する。
【0076】
1.プロモーターとエンハンサー
「プロモーター」は、転写の開始および速度を制御する核酸配列の領域である制御配列である。特定の態様では、プロモーターなどの制御配列は、核酸配列が発現される組織特異性を調節する。プロモーターすなわち制御配列は、調節タンパク質および分子(RNAポリメラーゼや他の転写因子など)が結合可能な遺伝的エレメントを含む場合がある。「機能的に位置する」、「機能的に連結された」、「〜の制御下にある」、および「〜の転写制御下にある」といった表現は、プロモーターまたは他の制御配列が、転写の開始および/または対象配列の発現を制御するために、核酸配列に対して正しい機能的位置および/または方向にあることを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写の活性化に関与するシス作用性の調節配列を意味する「エンハンサー」とともに使用されてもされなくてもよい。
【0077】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することで得られるような、遺伝子または配列と天然の状態で結合したものでありうる。このようなプロモーターは、「内因性」であると表現される場合がある。同様に、エンハンサーは、対象配列の下流または上流のいずれかに位置し、核酸配列と天然の状態で結合したものでありうる。あるいは、コード核酸セグメントを、組換え型プロモーターまたは異種プロモーター(天然の環境において核酸配列と通常結合していないプロモーター)の制御下に配することで特定の利点が得られる。組換え型エンハンサー、または異種エンハンサーも、天然の環境において核酸配列と通常結合した状態にないエンハンサーを意味する。このようなプロモーターまたはエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーターもしくはエンハンサー、および他の任意の原核生物、ウイルス、もしくは真核細胞から単離されたプロモーターもしくはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しないプロモーターもしくはエンハンサー(すなわち、さまざまな転写調節領域、および/または発現を変化させるための変異を有する、さまざまなエレメントを含むもの)を含みうる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成して作製することに加え、本明細書に記載された組成物と関連して、組換えクローニング法および/またはPCR(商標)を含む核酸増幅法で配列を作製することができる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,683,202号;米国特許第5,928,906号を参照)。また、ミトコンドリアや葉緑体などの核以外の細胞小器官内で配列の転写および/または発現を誘導する制御配列も使用可能なことが想定される。
【0078】
発現用に選択された細胞種、細胞小器官、および生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指揮するプロモーターおよび/またはエンハンサーを使用することが当然重要となる。分子生物学領域の当業者であれば一般に、例えばタンパク質を発現させるためのプロモーター、エンハンサー、および細胞種の組み合わせの使用を理解する。これについては例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Sambrookら(1989)を参照されたい。使用されるプロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導的プロモーターの場合があり、および/または、組換え型タンパク質および/またはペプチドの大規模生産における有用性などの導入DNAセグメントの高レベルの発現を誘導する適切な条件で有用である。プロモーターは、異種または内因性の場合がある。
【0079】
表2に、本発明において遺伝子の発現を調節するために使用可能ないくつかのエレメント/プロモーターを列挙する。このリストは、発現の促進に関与する可能な全てのエレメントを網羅することを意図しておらず、単に例を挙げたに過ぎない。表3には、特定の刺激に反応して活性化可能な核酸配列の領域である、誘導可能なエレメントの例を挙げた。
【0080】
(表2)プロモーターおよび/またはエンハンサー
【0081】
(表3)誘導可能なエレメント
【0082】
組織特異的なプロモーターまたはエレメント、ならびにこれらの活性の特性を明らかにするためのアッセイ法の内容は当業者に周知である。このような領域の例には例えば、ヒトLIMK2遺伝子(Nomoto et al., 1999)、ソマトスタチン受容体2遺伝子(Kraus et al., 1998)、マウスの精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et al., 1999)、ヒトCD4(Zhao-Emonet et al., 1998)、マウスアルファ2(XI)コラーゲン(Tsumaki, et al., 1998)、D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee, et al., 1997)、インスリン様成長因子II(Wu et al., 1997)、またはヒト血小板内皮細胞接着分子-1(Almendro et al., 1996)などがある。
【0083】
発現の標的化および/または変異型Bikのレベルの制御に使用される組織特異的なプロモーターは、変異型Bikの発現が、所望の標的ではない組織と比較して、対象となる1つもしくは複数の組織で優先的に保持される限りにおいて、内因性の野生型プロモーター、変異型プロモーター、または合成プロモーターであってよい。合成プロモーターはさらに、異なる内因性プロモーターおよび/または合成プロモーターに起源を有するが、変異型Bikの制御配列に機能的に連結された少なくとも2つの別個の領域を含むプロモーターと本明細書で呼ばれる複合型プロモーターとして定義することができる。特定の態様では、組織特異性は、非癌性組織に対するのではなく、癌性組織に対する特異性を意味する。本明細書で用いる「癌性組織」という表現は、少なくとも1つの癌細胞を含む組織を意味する。
【0084】
a.乳癌の組織特異的なプロモーター
癌の遺伝子治療に現在使用されているプロモーターの大半は、正常細胞と腫瘍細胞の両方において、強力であるが非選択的な活性を有する(例えばCMVおよびβ-アクチンのプロモーター)。したがって、本発明のいくつかの局面では、例えば、例示的なBikT33D、BikS35D、およびBik T33DS35D変異体を含むBikの変異型の発現を制御するために、乳房の組織特異的なプロモーターを本発明で使用する。特定の局面では、乳房の組織特異的なプロモーターは、乳癌の組織特異的なプロモーターである。したがって、この態様に望ましいプロモーターは、特に乳癌組織における発現を標的とする。
【0085】
本発明では、優先的に乳癌組織で変異型Bikの発現を誘導する限りにおいて、乳癌の組織特異的な任意のプロモーターを使用することができる。乳癌組織で変異型Bikの発現を誘導可能な乳癌の組織特異的なプロモーターの例には、少なくともhALA、GLG、HK-II、およびHER2のプロモーターなどがある(Anderson et al., 2000; Katabi et al., 1999; Lu et al., 2002; Maeda et al., 2001)。
【0086】
本発明の1つの特定の態様では、トポイソメラーゼIIα(topo IIα)およびトランスフェリン受容体(TfR)の乳癌特異的制御配列のいずれかを使用する複合プロモーターを使用する。トポイソメラーゼIIα(topo IIα)、およびトランスフェリン受容体(TfR)のレベルは、例えばSAGE解析やcDNAマイクロアレイで決定されるように、乳癌では上昇する。発明者らは、topo IIαおよびTfRのプロモーターの5'端に、最小限必要な乳癌特異的制御配列として、それぞれ90塩基対のセグメント(配列番号:26)および116塩基対のセグメント(配列番号:27)を同定した。特定の態様では、同プロモーターの活性は、これら2つの短いプロモーターを、サイトメガロウイルス(CMV)のプロモーターエンハンサー配列(配列番号:25)などのエンハンサー配列に機能的に連結することで強められる。このようなキメラプロモーターは、本明細書ではそれぞれCT90およびCTR116と呼ぶ。CT90プロモーターの全体は配列番号:37に含まれ、またCTR116プロモーターの全体は配列番号:38に含まれる。これらのプロモーターは、本明細書に記載されているが、本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許出願第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)でさらに詳述されている。癌の遺伝子治療における用途を示すために、発明者らは、変異型Bikの発現を駆動するためにCT90を利用してDNAコンストラクトを作製した。同コンストラクトは、細胞系列にトランスフェクトされると、乳癌細胞を選択的に死滅させる。また発明者らは、同コンストラクトが、例示的な非ウイルス送達系の静脈注射によってマウス乳房の腫瘍異種移植片に対して抗腫瘍効果を有することを示した。これは、CT90およびCTR116が、変異型Bikなどの治療用遺伝子の発現を乳癌細胞で選択的に駆動可能なことを意味する。
【0087】
したがって、本発明は、正常組織に対する毒性が弱いか、または毒性の無い治療のために乳癌細胞を標的とする変異型Bikの発現の制御用に、乳癌特異的なプロモーターを含む。
【0088】
b.膵臓癌の組織特異的なプロモーター
膵臓特異的プロモーターは、例示的なBikT33D、BikS35D、およびBik T33DS35Dの各変異体を含む変異型Bikの標的発現に使用することができる。本発明では、変異型Bikの発現を膵臓癌組織で優先的に誘導する限りにおいて、任意の膵臓癌の組織特異的なプロモーターを使用することができる。変異型Bikの発現を膵臓癌組織で誘導可能な膵臓癌の組織特異的なプロモーターの例には、例えば、ラットのインスリンプロモーターなどのインスリンプロモーター(Wang et al., 2004);ミッドカインおよびシクロオキシゲナーゼ-2のプロモーター(Wesseling et al., 2001);ならびに癌胎児性抗原(CEA)プロモーター(Takeuchi et al., 2000)などがある。
【0089】
発明者らは、本明細書に記載されているが、本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)でさらに詳述されている膵臓癌特異的なプロモーターを開発した。同プロモーターは、CMVのエンハンサーなどのエンハンサーに機能的に連結された、コレシストキニンA受容体(CCKAR)プロモーター配列、特にヌクレオチド-726〜+1(配列番号:28)のCCKARプロモーターを含む。次に、転写活性を増強するために、CCKAR-CMV複合体を、例示的なGAL4-VP16またはGAL4-VP2融合タンパク質などの、特定の2段階転写増幅(TSTA)系(Iyer et al., 2001;Zhang et al., 2002;Sato et al., 2003;およびこれらに引用された参考文献)を用いて作製した。またこれは、RNAのポリアデニル化シグナル、RNAの輸送、および/またはRNAの翻訳を修飾するために、ウッドチャック肝炎ウイルス(WPRE)の転写後調節エレメント(配列番号:29)に機能的に連結されている。当業者であれば、「2段階転写増幅(TSTA)系」という表現が、「2段階転写活性化(TSTA)系」、または「組換え型転写活性化法」(Nettelbeck et al., 2000)も意味することを理解する。特定の局面では、CCAKAR-TSTA-WPRE(CTP)プロモーターを使用する。このような複合型プロモーターの例は、配列番号:34に含まれる。このように、分子レベルで作製されたCTPプロモーターが、変異型Bikを用いた膵臓癌の遺伝子治療のための効果的な治療様式に使用される。
【0090】
c.前立腺癌の組織特異的なプロモーター
前立腺癌の組織特異的なプロモーターを用いて、変異型Bikをコードするポリヌクレオチドの発現を制御することができる。例えば、PSA、プロバシン(probasin)、およびhK2のような、前立腺に特異的なプロモーターが最近開発されている。これらのプロモーターの活性はアンドロゲン依存性である。数多くの病期において、患者はアンドロゲン依存性(ADPC)を示すので、前立腺組織で治療用遺伝子の発現を誘導するためにアンドロゲン応答性のベクターの使用が可能である。アンドロゲン受容体に応答する前立腺に特異的な頑強なプロモーターが、発明者ら(Xie et al., Cancer Res 2001)、および他のグループ(Zhang et al., Mol Endocrinol 2000)によって開発されているが、このようなアンドロゲン依存性のプロモーターは、進行性前立腺癌の主な治療様式である性腺摘除またはアンドロゲン切除療法の後には活性が強くない場合がある。このようなプロモーターを含む組成物による治療を受けた患者では、この種の治療が失敗する恐れがあり、また再発性のアンドロゲン非依存性前立腺癌(AIPC)のために患者は死亡する恐れがある。
【0091】
発明者らは、転移性および再発性のホルモン不応性の前立腺癌を治療するために、特に変異型Bikの発現を調節するために、ADPCとアンドロゲン非依存性前立腺癌(AIPC)の両方に利益をもたらすと期待される前立腺癌に特異的なプロモーターを開発した。同プロモーターは、本明細書に記載されているが、本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許出願第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)にさらに詳述されている。本明細書でATTPと呼ぶ同プロモーターは少なくとも、例示的なGAL4-VP16またはGAL4-VP2(GAL4-VP2の2つの例が配列番号:30または配列番号:33)の融合タンパク質のコード配列などの2段階転写増幅(TSTA)系に機能的に連結されたヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の最小プロモーター断片(hTERTp)(配列番号:32)を含み、また、RNAのポリアデニル化シグナル、RNAの輸送、および/またはRNAの翻訳を修飾するためにウッドチャック肝炎ウイルス(WPRE)の転写後調節エレメントに機能的に連結されている。このような調節配列は、ADPCとAIPCの両細胞系列で有効である。再発性前立腺癌の大半の症例において、AR遺伝子が増幅されており、および/またはARが過剰発現されていることを考えれば、この特定のプロモーターは、この系の活性がアンドロゲンによって高められる態様の有効指標を大きく改善する。好ましい態様では、組織特異性領域は少なくとも、例えばARR2遺伝子に由来するARR2調節エレメント(配列番号:31)を含む。本発明の特定の局面では、TSTA-hTERT-ARR2およびWPREエレメントを、特定の態様では配列番号:35に含まれる、前立腺癌に特異的な調節エレメントとして使用する。このように発明者らは、変異型BikをADPCだけでなくAIPCにも導く、前立腺癌に特異的な新しい調節系を開発した。
【0092】
2.開始シグナルと内部リボソーム結合部位
コード配列の効率的な翻訳には、特定の開始シグナルが必要な場合もある。このようなシグナルには、ATG開始コドン、または隣接配列などがある。ATG開始コドンなどの外因性の翻訳制御シグナルが必要な場合がある。当業者であれば、これを容易に決定し、必要なシグナルを提供することができる。挿入部分全体の翻訳を可能とするためには、開始コドンが所望のコード配列の読み枠と「同じフレームにある」状態でなければならないことがよく知られている。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然または合成されたもののいずれかであってよい。発現効率は、適切な転写エンハンサーエレメントを含めることで高めることができる。
【0093】
本発明のある態様では、内部リボソーム進入部位(IRES)エレメントが、多重遺伝子すなわち多シストロン性のメッセージを作るために使用される。IRESエレメントは、5'のメチル化キャップ依存性の翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部部位から翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルスファミリーの2種のウイルス(ポリオおよび脳心筋炎)に由来するIRESエレメント(Pelletier and Sonenberg, 1988)、ならびに哺乳類のメッセージに由来するIRES(Macejak and Sarnow, 1991)が報告されている。IRESエレメントは、異種のオープンリーディングフレームに連結することができる。複数のオープンリーディングフレームは、それぞれがIRESによって隔てられたフレームを共に転写可能なので、多シストロン性のメッセージが作られる。IRESエレメントの存在により、個々のオープンリーディングフレームがリボソームに接近可能となり、効率的な翻訳につながる。多重遺伝子は、1つのメッセージを転写するために1つのプロモーター/エンハンサーを用いることで効率的に発現させることができる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,925,565号および第5,935,819号を参照)。
【0094】
3.マルチクローニングサイト
ベクターには、ベクターを切断する標準的な組換え型の手法と併せて使用可能な、複数の制限酵素切断部位を含む核酸領域であるマルチクローニングサイト(MCS)を含めることができる(参照により本明細書に組み入れられる、Carbonelli et al., 1999, Levenson et al., 1998, Cocea, 1997を参照)。「制限酵素切断」という表現は、核酸分子中の特定の位置でのみ機能する酵素による核酸分子の触媒的切断を意味する。このような多くの制限酵素が市販されている。このような酵素の使用は、当業者によって広く理解されている。ベクターは、外因性の配列をベクターに連結可能とするために、MCSの内部を切断する制限酵素を用いて直線化されたり断片化されたりすることが多い。「連結」という表現は、相互に連続してもしなくてもよい2つの核酸断片間にホスホジエステル結合を形成するプロセスを意味する。制限酵素および連結反応を用いる手法は、組換え技術領域の当業者に周知である。
【0095】
4.スプライシング部位
真核生物の転写されたRNA分子の大半は、RNAのスプライシングを受けて、一次転写産物からイントロンが除去される。真核生物のゲノム配列を含むベクターは、タンパク質発現のための転写物の適切なプロセシングのために、ドナーおよび/またはアクセプターのスプライシング部位を必要とする場合がある(参照により本明細書に組み入れられる、Chandler et al., 1997を参照)。
【0096】
5.ポリアデニル化シグナル
発現時には、通常、ポリアデニル化シグナルを含めることで、転写物の適切なポリアデニル化が可能となる。ポリアデニル化シグナルの内容は、本発明の実践の成功に重要であるとは考えられておらず、および/または任意の同配列を使用することができる。好ましい態様には、さまざまな標的細胞で好都合な、および/または良好に機能することが知られている、SV40のポリアデニル化シグナル、および/またはウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナルが含まれる。転写終結部位も、発現カセットのエレメントとして想定される。これらのエレメントは、メッセージレベルを高めるため、および/または、カセットから他の配列中へのリードスルーを最小限に抑えるように作用可能である。
【0097】
6.複製起点
ベクターを宿主細胞中で増やすためには、複製が開始される特定の核酸配列である、1つもしくは複数の複製起点部位(「ori」と呼ばれることが多い)をベクターに含めるとよい。あるいは、宿主細胞が酵母の場合は、自己複製配列(ARS)を使用することができる。
【0098】
7.選択可能でスクリーニング可能なマーカー
本発明のある態様では、細胞は、本発明の核酸コンストラクトを含み、細胞は、マーカーを発現ベクター中に含めることでインビトロまたはインビボで同定可能となる。このようなマーカーは、発現ベクターを含む細胞の容易な同定を可能とする細胞に同定可能な変化をもたらしうる。一般に、選択可能なマーカーは、選択を可能とする特性をもたらすマーカーである。陽性選択が可能なマーカーは、当マーカーの存在が、その選択を可能とするマーカーである。一方、陰性選択が可能なマーカーは、当マーカーの存在が、その選択を妨げるマーカーである。陽性選択が可能なマーカーの一例は、薬剤耐性マーカーである。
【0099】
一般に、薬剤選択マーカーを含めることで形質転換体のクローニングおよび同定が容易になり、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性をもたらす遺伝子が、有用な選択可能なマーカーである。条件の実現を元に形質転換体の区別を可能とする表現型をもたらすマーカーに加えて、比色解析を基礎とするGFPなどのスクリーニング可能なマーカーを含む他のタイプのマーカーも想定される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)、またはクロラムフェニコールアセチル基転移酵素(CAT)などのスクリーニング可能な酵素を使用することができる。当業者であれば、おそらくはFACS解析で使用可能な免疫学的マーカーの使用法についても承知している。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現される限りにおいて、重要であるとは考えられていない。当業者には、選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカーの他の例が周知である。
【0100】
B.宿主細胞
本明細書で用いる「細胞」、「細胞系列」、および「細胞培養物」といった表現は互換的に使用されうる。これらの表現はいずれも、後続の世代の一部または全ての子孫も含む。全ての子孫は、意図的な変異または不用意な変異のために、同一ではない可能性があることが理解される。異種核酸配列を発現させる場合において、「宿主細胞」という表現は、原核生物または真核生物の細胞を意味し、また同表現は、ベクターを複製可能な、および/またはベクターにコードされた異種遺伝子を発現可能な、任意の形質転換可能な生物を含む。宿主細胞は、ベクターのレシピエントとして使用することが可能であり、また実際に使用されている。宿主細胞は、「トランスフェクトする」ことが可能なほか、「形質転換」することができる。この表現は、外因性の核酸を宿主細胞中に移すか、または導入するプロセスを意味する。形質転換された細胞は、初代対象細胞およびこの子孫を含む。
【0101】
宿主細胞は、所望の結果がベクターの複製か、またはベクターにコードされた核酸配列の一部もしくは全体が発現されるかに依存して、原核生物または真核生物に由来しうる。数多くの細胞系列および細胞培養物が宿主細胞としての使用に利用可能であり、またこれらは、生きている状態の培養物および遺伝物質のアーカイブを提供する機関であるAmerican Type Culture Collection(ATCC)(www.atcc.org)を通じて入手できる。当業者は、ベクター骨格および所望の結果を元に、適切な宿主を決定することができる。多くのベクターを複製するために、例えばプラスミドまたはコスミドを原核生物の宿主細胞に導入することができる。ベクターの複製および/または発現のための宿主細胞として使用される細菌細胞には、DH5α、JM109、およびKC8、ならびにSURE(登録商標) Competent Cells、およびSolopack(商標) Gold Cells(Stratagene(登録商標), La Jolla)などの数種類の市販の細菌宿主がある。あるいは、大腸菌LE392などの細菌細胞をファージウイルスの宿主細胞として使用することができる。
【0102】
ベクターの複製および/または発現のための真核宿主細胞の例には、HeLa、NIH3T3、Jurkat、293、Cos、CHO、Saos、およびPC12などがある。さまざまな細胞種および生物に由来する多くの宿主細胞が入手可能であり、また当業者に周知であると考えられる。同様に、真核生物または原核生物の宿主細胞のいずれかとともに、ウイルスベクター(特にベクターの複製または発現を許容するベクター)を使用することができる。
【0103】
一部のベクターでは、原核生物と真核生物の細胞の両方における複製および/または発現を可能とする制御配列を使用できる。当業者であればさらに、上述のあらゆる宿主細胞をインキュベートしてベクターを維持し、ベクターの複製を可能とする条件を理解するであろう。ベクターの大規模生産、ならびにベクターにコードされた核酸、および同族のポリペプチド、タンパク質、またはペプチドの産生を可能とすると考えられる手法および条件も理解されており、また知られている。
【0104】
C.発現系
上述の組成物の少なくとも一部もしくは全体を含む、数多くの発現系が存在する。核酸配列、または同族のポリペプチド、タンパク質、およびペプチドを作製するための、本発明における使用には、原核生物および/または真核生物をベースとする系を使用することができる。このような系の多くが市販されており、また広く利用されている。
【0105】
昆虫細胞/バキュロウイルス系では、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,871,986号、4,879,236号に記載されているように、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現が可能であり、例えばInvitrogen(登録商標)社のMaxBac(登録商標) 2.0、およびClontech(登録商標)社のBacPack(商標)バキュロウイルス発現系を購入可能である。
【0106】
発現系の他の例には、合成エクジソンで誘導可能な受容体が関与する、Stratagene(登録商標)社のComplete Control(商標) Inducible Mammalian Expression System、またはこのpET発現系(大腸菌発現系)などがある。誘導可能な発現系の別の例はInvitrogen(登録商標)社から入手できる。これは、完全長のCMVのプロモーターを利用する誘導可能な哺乳類発現系であるT-Rex(商標)(テトラサイクリン調節発現)系を含む。Invitrogen(登録商標)社はまた、メチロトローフの酵母Pichia methanolicaにおける組換えタンパク質の高レベル生産のために設計された、Pichia methanolica発現系と呼ばれる酵母発現系を提供している。当業者であれば、核酸配列、または同族のポリペプチド、タンパク質、またはペプチドを産生させることを目的とした、発現コンストラクトなどのベクターの発現法を承知している。
【0107】
IV.核酸の送達
組成物および/または治療薬に関する本発明の局面における全般的な手法は、特定および/または所望の変異型Bikタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドをコードする遺伝子コンストラクトを細胞に供給することによって、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの所望の活性の発現を可能とすることである。このような遺伝子コンストラクトおよび/またはタンパク質は直接送達可能なことが想定できるが、好ましい態様では、特定および所望のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドをコードする核酸を細胞に供給する。供給後、タンパク性組成物が、細胞の転写装置および翻訳装置によって合成されるほか、発現コンストラクトによって提供される場合がある。アンチセンス、リボザイム、および他の阻害剤を提供する際には、好ましい様式は、このようなコンストラクトをコードする核酸を細胞に供給することでもある。
【0108】
本発明のある態様では、このような遺伝子をコードする核酸が、細胞のゲノム中に安定に組込まれる場合がある。さらに別の態様では、核酸は、別個のDNAのエピソームセグメントとして、細胞中に安定に維持される場合がある。このような核酸セグメントおよび「エピソーム」は、宿主細胞の周期に依存せずに、また同周期に同期して、維持および複製を十分可能とする配列をコードしている。発現コンストラクトを細胞に送達する様式、および/または核酸が細胞内のどこに留まるかは、使用される発現コンストラクトの種類に依存する。
【0109】
A.ウイルスベクターを使用するDNAの送達
あるウイルスが細胞に感染し、受容体を介するエンドサイトーシスで細胞に侵入して、宿主細胞ゲノム中に組込まれる能力、および/またはウイルス遺伝子を安定および/または効率的に発現する能力の存在は、このようなウイルスを、外来遺伝子を哺乳類細胞に送達する際の魅力ある候補とする。本発明の好ましい遺伝子治療用ベクターは、一般にウイルスベクターである。
【0110】
外来の遺伝物質を受け入れ可能な一部のウイルスでは、収容可能なヌクレオチド数、および/または感染する細胞の範囲が制限されるが、このようなウイルスは、良好に遺伝子を発現することがわかっている。しかしながら、アデノウイルスは、その遺伝物質を宿主ゲノム中に統合せず、および/または、このために、遺伝子発現のために宿主の複製を必要としないので、異種遺伝子の迅速で効率的な発現に理想的である。複製欠損型で感染力のあるウイルスを調製する手法は、当技術分野で周知である。
【0111】
ウイルス送達系を使用する際には、ベクターコンストラクトが導入される細胞、動物、および/または個体中で何の有害な反応も引き起こさないように、欠損干渉型のウイルス粒子、ならびにエンドトキシンおよび他の発熱物質などの望ましくない混入物を本質的に含まないようにするため、ウイルス粒子を精製することが望まれることは言うまでもない。ベクターを精製する好ましい手段では、塩化セシウム勾配遠心などの浮遊密度勾配を利用する。
【0112】
1.アデノウイルスベクター
発現コンストラクトを送達する特定の方法では、アデノウイルス発現ベクターを使用する。アデノウイルスベクターは、ゲノムDNA中への組込み能力が低いことが知られているが、この特性は、同ベクターによってもたらされる遺伝子送達の効率の高さによって相殺される。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)コンストラクトのパッケージングを支持すること、および/または(b)クローン化された組織および/または細胞に特異的なコンストラクトを最終的に発現させること、に十分なアデノウイルス配列を含むコンストラクトを意味する。
【0113】
この発現ベクターは、遺伝子工学的に改変されたアデノウイルスを含む。遺伝的構成と、アデノウイルスが36 kbの直鎖状の2本鎖DNAウイルスであることがわかっており、アデノウイルスDNAの大きな領域を、最長7 kbの外来配列と置換できる(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞へのアデノウイルスの感染は染色体への組込みを生じない。なぜなら、アデノウイルスのDNAは、遺伝毒性を生じることなくエピソーム状態で複製可能だからである。またアデノウイルスは構造的に安定であり、および/または、大規模増幅後のゲノム再編成は検出されていない。
【0114】
アデノウイルスは、ゲノムサイズが中程度であること、操作が容易なこと、力価が高いこと、標的細胞範囲が広いこと、および/または感染力が高いことから、遺伝子送達用ベクターとしての使用に特に適している。ウイルスゲノムの両端は、ウイルスDNAの複製および/またはパッケージングに必要なシスエレメントである100〜200塩基対の逆方向反復(ITR)を含む。ゲノムの初期(E)領域、および/または後期(L)領域は、ウイルスDNAの複製開始によって分けられる、異なる転写単位を含む。E1領域(E1Aおよび/またはE1B)は、ウイルスゲノムおよび/または少数の細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードする。E2領域(E2Aおよび/またはE2B)が発現すると、ウイルスDNAの複製に関与するタンパク質が合成される。これらのタンパク質は、DNAの複製、後期遺伝子の発現、および/または宿主細胞のシャットオフに関与する(Renan, 1990)。ウイルスのキャプシドタンパク質の大半を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって誘導される1つの一次転写物の主要なプロセシングの後においてのみ発現される。MLP(16.8 m.u.に位置)は、感染後期で特に有効であり、および/または、同プロモーターによって誘導されるmRNAはすべて、mRNAを翻訳に好ましい状態とする5'-tripartiteリーダー(TPL)配列を有する。
【0115】
現行の系では、組換え型のアデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクター間の相同組換えによって作製される。2つのプロウイルスベクター間で起こりうる組換えのために、このプロセスで野生型のアデノウイルスが生じる可能性がある。したがって、個々のプラークに由来するウイルスの単一のクローンを単離すること、および/またはそのゲノム構造を調べることは極めて重要である。
【0116】
複製欠損型の現行のアデノウイルスベクターの作製および/または増殖は、Ad5 DNA断片で形質転換されたヒト胚腎細胞に由来する、E1タンパク質(E1Aおよび/またはE1B;Graham et al., 1977)を構成的に発現する293と呼ばれる独特のヘルパー細胞系列に依存する。E3領域はアデノウイルスゲノム上では無くてもよいので(Jones and Shenk, 1978)、現行のアデノウイルスベクターは293細胞により補助されて、外来DNAをE1領域、D3領域、また両方の領域に保持する(Graham and Prevec, 1991)。最近、E4領域に欠失のあるアデノウイルスベクターが報告されている(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,670,488号)。
【0117】
天然の状態では、アデノウイルスは、野生型ゲノムの約105%をパッケージ可能であり(Ghosh-Choudhury et al., 1987)、約2 kb多いDNAを収容できることになる。E1領域および/またはE3領域中で置き換え可能な約5.5 kbのDNAを足し併せることで、現行のアデノウイルスベクターの最大能力は7.5 kb、および/またはベクター全長の約15%である。アデノウイルスのウイルスゲノムの80%以上は、ベクターバックボーンである。
【0118】
ヘルパー細胞系列は、ヒトの胚腎細胞、筋肉細胞、造血細胞、ならびに他のヒト胚間葉および上皮細胞などのヒト細胞に由来する場合がある。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトのアデノウイルスを許容する他の哺乳類の細胞に由来する場合がある。このような細胞には例えば、ベロ細胞および他のサル胚の間葉および/または上皮の細胞などがある。上述したように、好ましいヘルパー細胞系列は293である。
【0119】
最近Racherら(1995)は、293細胞を培養し、および/またはアデノウイルスを増殖させる、改善された方法について説明している。1つのフォーマットでは、天然の細胞凝集体を、個々の細胞を100〜200 mlの培地を含む1リットルのスピナーフラスコ(シリコン処理済み)(Techne, Cambridge, UK)中に播種することで成長させる。40 rpmで攪拌後、細胞の生存能力をトリパンブルーで評価する。別のフォーマットでは、Fibra-Cel微小担体(Bibby Sterlin, Stone, UK)(5 g/l)を以下のように使用する。5 mlの培地中に懸濁した細胞の種菌を、250 mlのエルレンマイヤーフラスコ中で担体(50 ml)に添加し、および/または1〜4時間にわたって時おり攪拌しながら定常期とする。次に培地を50 mlの新鮮な培地と交換し、および/または攪拌を開始する。ウイルスを産生させる場合は、細胞を約80%のコンフルエンスになるまで成長させ、この後に、培地を交換し(最終容量の25%まで)、および/またはアデノウイルスをMOIが0.05となるように添加する。培養物を定常相で一晩静置した後に、容量を100%に増し、および/または、さらに72時間の攪拌を開始する。
【0120】
アデノウイルスベクターが複製欠損型である必要があることのほかに、少なくとも条件欠損型である場合は、アデノウイルスベクターの性質は、本発明の実践の成功に重要であると考えられてはいない。アデノウイルスは、42種類の異なる既知の血清型およびA〜Fの亜型のいずれであってもよい。アデノウイルス5型の亜型Cは、本発明で使用される条件的複製欠損型のアデノウイルスベクターを得るための好ましい出発材料である。これは、アデノウイルス5型が、相当の生化学的および遺伝的な情報が既知であるヒトアデノウイルスであり、またアデノウイルスをベクターとして用いる多くの構築に従来から使用されているからである。
【0121】
上述したように、本発明の典型的なベクターは複製欠損型であり、またアデノウイルスE1領域を含まない。したがって、形質転換用コンストラクトを、E1コード配列が除去された位置に導入することが最も簡便である。しかしながら、アデノウイルス配列内のコンストラクト挿入位置は本発明に重要ではない。対象遺伝子をコードするポリヌクレオチドを、文献(Karlsson et al., 1986)に記載された手順で、E3置換ベクター中の欠損したE3領域の代わりに、またヘルパー細胞系列およびヘルパーウイルスがE4欠損を相補するE4領域中に挿入することもできる。
【0122】
アデノウイルスの成長および/または操作は、当業者に知られており、および/またはインビトロおよびインビボで広い宿主域を示す。この群のウイルスは、高力価(例えば109〜1011プラーク形成単位/ml)で得られ、感染力が高い。アデノウイルスのライフサイクルは宿主細胞ゲノム中への組込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソームなので、宿主細胞に対する遺伝毒性が低い。野生型アデノウイルスを用いたワクチン接種の研究において副作用は報告されておらず(Couch et al., 1963; Top et al., 1971)、インビボにおける遺伝子送達ベクターとしての安全性および/または治療可能性が証明されている。
【0123】
アデノウイルスベクターは、真核生物の遺伝子発現(Levrero et al., 1991; Gomez-Foix et al., 1992)に、またワクチンの開発(Grunhaus and Horwitz, 1992; Graham and Prevec, 1992)に使用されている。最近の動物研究では、組換え型のアデノウイルスを遺伝子治療に使用可能なことが示唆されている(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991a; Stratford-Perricaudet et al., 1991b; Rich et al., 1993)。組換え型のアデノウイルスをさまざまな組織に投与する研究には、気管注入(Rosenfeld et al., 1991; Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard, 1993)、および/または脳内への定位的播種(stereotactic inoculation)(Le Gal La Salle et al., 1993)が含まれる。組換え型のアデノウイルスおよびアデノ関連ウイルス(後述)はいずれも、非分裂性のヒト初代細胞に感染可能であり、また形質導入が可能である。
【0124】
2.AAVベクター
アデノ関連ウイルス(AAV)は、本発明の細胞形質転換導入への使用において魅力あるベクター系である。というのは、組込み頻度が高く、また非分裂細胞に感染可能であるため、例えば組織培養物(Muzyczka, 1992)、およびインビボにおける哺乳類細胞内への遺伝子の送達に有用だからである。AAVは、感染の宿主域が広い(Tratschin et al., 1984; Laughlin et al., 1986; Lebkowski et al., 1988; McLaughlin et al., 1988)。rAAVベクターの作製および使用の詳細は、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,139,941号、および/または米国特許第4,797,368号に記載されている。
【0125】
遺伝子送達におけるAAVの使用を示す研究には、LaFace et al.(1988);Zhou et al.(1993);Flotte et al.(1993);およびWalsh et al.(1994)などがある。組換え型のAAVベクターは、マーカー遺伝子
に、ならびにヒトの疾患に関与する遺伝子(Flotte et al., 1992; Luo et al., 1994; Ohi et al., 1990; Walsh et al., 1994; Wei et al., 1994)のインビトロおよび/またはインビボにおける形質導入に良好に使用されている。最近AAVベクターは、嚢胞性線維症の治療のための第I相のヒトを対象とした臨床試験の実施が承認された。
【0126】
AAVは、培養細胞で増殖感染を行うために他のウイルス(アデノウイルスやヘルペスウイルスファミリーのウイルス)の同時感染を必要とする点で、依存性のパルボウイルスである(Muzyczka, 1992)。ヘルパーウイルスの同時感染がないと、野生型AAVのゲノムは、その末端を介してヒトの第19染色体中に組み込まれ、プロウイルスとして潜伏状態で留まる(Kotin et al., 1990; Samulski et al., 1991)。しかしrAAVは、AAVのRepタンパク質も発現される限りにおいて、組込みは第19染色体に制限されない(Shelling and Smith, 1994)。AAVプロウイルスを有する細胞にヘルパーウイルスをさらに感染させると、AAVゲノムは染色体から、また組換え型プラスミドから「レスキュー」され、および/または正常な増殖感染が確立する(Samulski et al., 1989; McLaughlin et al., 1988; Kotin et al., 1990; Muzyczka, 1992)。
【0127】
典型的には、組換え型のAAV(rAAV)ウイルスは、2つのAAV末端反復(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる、McLaughlin et al., 1988;Samulski et al., 1989)に挟まれた対象遺伝子を含むプラスミド、および/または末端反復を含まない野生型AAVのコード配列を含む発現プラスミド(例えばpIM45)を同時にトランスフェクトすることで作られる(参照により本明細書に組み入れられる、NcCarty et al., 1991)。細胞には、アデノウイルス、およびAAVのヘルパー機能に必要なアデノウイルス遺伝子を有するプラスミドも感染および形質転換させる。このような手順で作られたrAAVウイルスのストックにはアデノウイルスが混入し、これはrAAV粒子と物理的に(例えば、塩化セシウム密度遠心によって)分離しなければならない。あるいは、AAVのコード領域を含むアデノウイルスベクター、およびAAVのコード領域、ならびにアデノウイルスのヘルパー遺伝子の一部および全体を含む細胞系列を使用することができる(Yang et al., 1994; Clark et al., 1995)。組み込まれたプロウイルスとしてrAAVのDNAを有する細胞系列を使用することもできる(Flotte et al., 1995)。
【0128】
3.レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノム中に組込み可能であり、大量の外来遺伝物質を送達可能であり、広域の種および細胞に感染して、特別の細胞系列中にパッケージされることから、遺伝子送達用のベクターとして有望である(Miller, 1992)。
【0129】
レトロウイルスは、そのRNAを感染細胞中において逆転写プロセスで2本鎖DNAに変換する能力を特徴とする1本鎖RNAウイルスの一群である(Coffin, 1990)。結果として生じるDNAは後に、プロウイルスとして安定に細胞染色体に組み込まれるほか、および/またはウイルスタンパク質の合成を誘導する。組込まれることで、レシピエント細胞および/またはその子孫にウイルス遺伝子の配列が保持される。レトロウイルスゲノムは、キャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ成分をそれぞれコードする3つの遺伝子gag、pol、および/またはenvを含む。gag遺伝子の上流に位置する配列は、ビリオン中へのゲノムのパッケージングに関与するシグナルを含む。2つの末端反復配列(LTR)が、ウイルスゲノムの5'端と3'端に位置する。LTRは、強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含み、宿主細胞ゲノムへの組込みにも必要である(Coffin, 1990)。
【0130】
レトロウイルスベクターを構築するためには、ウイルスゲノム中に、対象遺伝子をコードする核酸を特定のウイルス配列の代わりに挿入して、複製欠損型のウイルスを得る。ビリオンを得るためには、gag、pol、およびenvの各遺伝子を含むが、LTRおよびパッケージング用成分を含まないパッケージング用の細胞系列を構築する(Mann et al., 1983)。cDNAを含む組換え型プラスミドを、レトロウイルスのLTRおよびパッケージング用配列とともにこのような細胞系列中に(例えばリン酸カルシウム沈殿法で)導入する際は、パッケージング用の配列が、組換えプラスミドのRNA転写物のウイルス粒子中へのパッケージングを可能とする(ウイルス粒子は後に培地中に分泌される)(Nicolas and Rubenstein, 1988; Temin, 1986; Mann et al., 1983)。次に組換え型レトロウイルスを含む培地を回収し、任意選択で濃縮し、遺伝子の送達に使用する。レトロウイルスベクターは、多種多様な細胞種に感染可能である。しかし、組込みおよび/または安定な発現には宿主細胞の分裂が必要である(Paskind et al., 1975)。
【0131】
欠損型レトロウイルスベクターの使用に関する懸念は、野生型の複製可能なウイルスがパッケージング細胞中に出現する可能性である。これは、組換え型ウイルスからの完全な配列が、宿主細胞ゲノム中に組込まれたgag、pol、env配列の上流に挿入されるという組換え事象によって生じうる。しかし今日では、組換えの可能性を大幅に減じる新しいパッケージング細胞系列を利用することができる(Markowitz et al., 1988; Hersdorffer et al., 1990)。
【0132】
第二世代のレトロウイルスベクターを用いる遺伝子送達が報告されている。Kasaharaら(1994)は、通常はマウス細胞のみに感染するモロニーマウス白血病ウイルスの人工的な変種を調製し、エリトロポイエチン(EPO)受容体を有するヒト細胞に同ウイルスが特異的に結合し、感染するようにエンベロープタンパク質を修飾した。これは、EPO配列の一部をエンベロープタンパク質に挿入して、新しい結合特異性を有するキメラタンパク質を作製することで達成された。
【0133】
4.他のウイルスベクター
本発明では、他のウイルスベクターを発現コンストラクトとして使用することができる。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Coupar et al., 1988)、シンドビスウイルス、サイトメガロウイルス および/または単純ヘルペスウイルスなどのウイルスに由来するベクターを使用することができる。これらには、さまざまな哺乳類細胞に対する、いくつかの魅力ある特性がある(Friedmann, 1989; Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Coupar et al., 1988; Horwich et al., 1990)。
【0134】
欠損型のB型肝炎ウイルスに関する最近の理解では、さまざまなウイルス配列の構造と機能の関係について新たな知見が得られている。インビトロ研究では、このウイルスが、そのゲノムの最大80%を欠くにも関わらず、ヘルパー依存性のパッケージングおよび逆転写を行う能力を保持可能なことが報告されている(Horwich et al., 1990)。これは、ゲノムの大部分が外来遺伝物質と置換可能なことを示唆した。Changらは最近、クロラムフェニコールアセチル基転移酵素(CAT)遺伝子を、アヒルのB型肝炎ウイルスのゲノム中に、ポリメラーゼ、表面、および/または前表面をコードする配列に代えて導入した。これは、野生型のウイルスとともに、トリの肝癌細胞系列に同時導入された。高力価の組換え型ウイルスを含む培地を用いて、子ガモの初代肝細胞に感染させた。CAT遺伝子の安定な発現が、トランスフェクションの少なくとも24日後に検出された(Chang et al., 1991)。
【0135】
ある別の態様では、遺伝子治療用のベクターはHSVである。HSVを魅力あるベクターとする因子は、そのゲノムの大きさと構造である。HSVは大きいので、多重遺伝子および発現カセットの組み込みは、より小さな他のウイルス系におけるほど大きな問題とはならない。また、能力(時間や強度など)が多様なウイルス制御配列が利用できることで、他の系と比較して発現を大規模に制御することが可能となっている。ウイルスが、比較的少数のスプライスされたメッセージを含むことで、遺伝子操作がさらに容易になる点も利点の1つである。HSVは操作が比較的容易でもあり、および/または高力価で成長させることができる。したがって、送達には、十分なMOIに達するのに必要な容量、および反復投与の必要性が小さいことの2点について問題が小さい。
【0136】
5.修飾型ウイルス
本発明のさらに別の態様では、送達対象の核酸は、特定の結合リガンドを発現するように人工的に作製された感染型ウイルス中に収容される。したがって、ウイルス粒子は、標的細胞の同族の受容体に特異的に結合し、その内容物を細胞に送り込む。レトロウイルスベクターの特異的な標的送達を可能とするように設計された新しい手法が、乳糖残基をウイルスエンベロープに化学的に付加することによるレトロウイルスの化学的修飾を元に最近開発された。この修飾によって、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞への特異的な感染が可能となる。
【0137】
レトロウイルスのエンベロープタンパク質に対する、および/または特定の細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用する、組換え型レトロウイルスを標的送達する別の手法が設計されている。このような抗体は、ストレプトアビジンを用いることで、ビオチン成分を介して結合する(Roux et al., 1989)。主要組織適合遺伝子複合体のクラスIおよびクラスIIの抗原に対する抗体を用いることで、Rouxらは、このような表面抗原を有する多様なヒト細胞への、インビトロにおける狭宿主域ウイルスの感染を示した(Roux et al., 1989)。
【0138】
B.他のDNA送達法
本発明のさまざまな態様で、DNAが発現用コンストラクトとして細胞に送達される。遺伝子コンストラクトの発現を可能とするためには、発現コンストラクトを細胞内に送達しなければならない。本明細書に記載されているように、好ましい送達機構は、発現コンストラクトが感染性ウイルス粒子中に包まれたウイルス感染を介するものである。しかしながら、発現コンストラクトを細胞内に送達するいくつかの非ウイルス的な方法も本発明で想定されている。本発明の1つの態様では、発現コンストラクトは、裸の組換え型DNAおよび/またはプラスミドのみを含む場合がある。コンストラクトの送達は、細胞膜を物理的および/または化学的に透過させる、既述の任意の方法で実施することができる。これらの手法の一部は、後述するように、インビボおよび/またはエクスビボにおける使用に良好に適合可能である。
【0139】
C.リポソームを介したトランスフェクション
本発明の他の態様では、発現コンストラクトをリポソームで包むことができる。リポソームは、リン脂質二重層膜、および/または内部の水性溶媒の存在を特徴とする小胞状の構造体である。多重膜リポソームは、水性溶媒で隔てられた多重脂質層を有する。リポソームは、リン脂質を過剰な水溶液中に懸濁すると自然に形成する。脂質成分は、自己再編成を受けた後に、閉じた構造を形成し、ならびに/または水および/もしくは溶解した溶質を脂質二重層間に閉じこめる(Ghosh and Bachhawat, 1991)。Lipofectamine(Gibco BRL)と複合体を形成した発現コンストラクトも想定される。
【0140】
リポソームを介した核酸送達、および外来DNAのインビトロにおける発現は非常に成功している(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979; Nicolau et al., 1987)。Wongら(1980)は、培養ニワトリ胚細胞、HeLa細胞、および肝癌細胞におけるリポソームを介した送達、および/または外来DNAの発現が容易なことを明らかにした。
【0141】
本発明のある態様では、リポソームと血球凝集ウイルス(HVJ)の複合体を形成させる。これは、細胞膜との融合を促すこと、および/またはリポソーム被包性DNAの細胞内侵入を促すことが報告されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様では、リポソームを核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体を形成させ、および/または使用することができる(Kato et al., 1991)。さらに別の態様では、リポソームをHVJとHMG-1の両方と複合体を形成させ、および/またはともに使用することができる。他の態様では、送達用溶媒はリガンドおよびリポソームを含む場合がある。細菌由来のプロモーターをDNAコンストラクトに使用する場合は、リポソーム中に適切な細菌由来のポリメラーゼを含めることも望ましい。
【0142】
発明者らは、neu抑制性の遺伝子産物を、リポソームを介した遺伝子送達で細胞に導入可能なことを想定している。このようなコンストラクトは、Nabelら、1990に記載された手順で、リポソームと結合させて、カテーテルを介して直接導入が可能なことが提案されている。このような方法で、neu抑制性の遺伝子産物を、静脈内注射が可能な肝臓および脾臓の細胞ではなく、インビボにおいて特定の部位で効率的に発現させることができる。したがって本発明は、DNA/リポソーム複合体として製剤化されたneu抑制性の遺伝子産物をコードするDNAコンストラクトの組成物、およびこのようなコンストラクトの使用法も含む。
【0143】
米国特許第5,641,484号に記載されているように、リポソームは、HER2/neuを介する癌の治療に特に適している。
【0144】
a.リポソームの調製
動物細胞を対象としたBikに対する効率的なトランスフェクション試薬である陽イオン性リポソームは、Gaoら(1991)の方法で調製できる。Gaoらは、1段階で合成可能な、新しい陽イオン性コレステロール誘導体について述べている。このような脂質から作製されたリポソームは、試薬Lipofectinによる調製時と比較してトランスフェクション効率が高く、また処理細胞に対する毒性が低いことが報告されている。この脂質は、DC-Chol(「3β(N-(N'N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイルコレステロール」)とDOPE(「ジオレイルホスファチジルエタノールアミン」)の混合物である。このようなリポソームを作製する段階について以下に説明する。
【0145】
DC-Cholは、コレステリルクロロギ酸とN,N-ジメチルエチレンジアミンから単純な反応で合成される。コレステリルクロロギ酸の溶液(2.25 g、5 ml無水クロロホルム中に5 mmol)を、過剰なN,N-ジメチルエチレンジアミン(2 ml、3 mlの無水クロロホルム中に18.2 mmol)の溶液に0℃で滴下する。溶媒を蒸発させて除去した後に、残渣を、無水エタノール中で4℃における再結晶によって精製し、真空乾燥する。この結果、DC-Cholの白色粉末が得られる。
【0146】
陽イオン性リポソームは、1.2 μmolのDC-Cholと8.0 μmolのDOPEを混合(溶媒はクロロホルム)することで調製する。次に、この混合物を乾燥し、真空乾燥し、チューブ内で1 mlのステロール 20 mM Hepes緩衝液(pH 7.8)に再懸濁する。4℃で水和した24時間後に、分散液を5〜10分間、超音波処理器で処理することで、平均直径が150〜200 nmのリポソームが得られる。
【0147】
リポソーム/DNA複合体を調製するために発明者らは、以下の段階を行う。トランスフェクションの対象となるDNAを、50 μlのDMEM/F12に対して15 μgのDNAの比となるように、DMEM/F12溶媒中に含める。次にDC-Chol/DOPEリポソーム混合物をDMEM/F12で、100 μlのリポソームに対して50 μlのDMEZM/F12の比となるように希釈する。次にDNA希釈物とリポソーム希釈物を穏やかに混合し、37℃で10分間インキュベートする。インキュベーション後に、DNA/リポソーム複合体の注射の準備が整う。
【0148】
リポソームによるトランスフェクションは、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、コレステロール(Chol)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、および/または3-β-[N-(N'N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイルコレステロール(DC-Chol)、ならびに当業者に既知の他の脂質からなるリポソームを介しうる。当業者であれば、本発明に有用な、リポソームを用いる多様なトランスフェクション法があることを理解すると思われる。このような手法には、Nicolauら(1987)、Nabelら(1990)、およびGaoら(1991)に記載されている手法などがある。特定の態様では、リポソームはDC-Cholを含む。具体的には、リポソームは、Gaoら(1991)の「好ましい態様」のセクションに記載された手順に準じて調製されたDC-CholおよびDOPEを含む。また発明者らは、商標Lipofectin(商標)としてVical社(San Diego、Calif.)から市販されているものなどの、DOTMAからなるリポソームが有用なことも予想している。
【0149】
リポソームは、さまざまな方法でトランスフェクション対象の細胞に接触させることができる。細胞培養物中では、リポソーム-DNA複合体は単に細胞培養溶液中に分散してもよい。インビボにおける応用に関しては、リポソーム-DNA複合体は通常注入される。静脈内注射によって、DNA複合体のリポソームを介した、例えば肝臓および脾臓への送達が可能となる。静脈内注射の対象とならない細胞へのDNAのトランスフェクションを可能とするためには、リポソーム-DNA複合体を、動物の身体の特定の部位に直接注入することが可能である。例えばNabelらは、動脈壁へのカテーテルを介した注射について報告している。別の例では、発明者らは、マウスへの遺伝子送達を可能とするために腹腔内注射を行った。
【0150】
本発明は、リポソーム複合体を含む組成物も対象とする。このようなリポソーム複合体は、脂質成分と、Bikの変異型をコードする核酸をコードするDNAセグメントを含みうる。リポソーム複合体に使用されるBikの変異型をコードする核酸には例えば、Bik-T145AまたはBik-T145Dをコードする核酸などがある。
【0151】
リポソーム複合体の作製に使用される脂質は、上述の任意の脂質であってよい。特にDOTMA、DOPE、および/またはDC-Cholは、リポソーム複合体の全体または一部を形成可能である。発明者らは、DC-Cholを含む複合体を用いて、特に成功を収めている。好ましい態様では、脂質はDC-CholおよびDOPEを含む。DOPEに対するDC-Cholの任意の比が有用性を示すと予想されるが、DC-Chol:DOPEを1:20〜20:1の比で含むものが特に有利となることが予想される。発明者らは、DC-Chol:DOPEが約1:10〜約1:5の比で調製したリポソームが有用であることを見出している。
【0152】
特定の態様では、Bik遺伝子コンストラクトが導入される細胞内に不必要なDNAが導入されないように、細胞の核内におけるBikの保持を促すために必要とされる最小の領域を使用する。制限酵素の使用などの当業者に周知の手法により、Bikの短い領域の作製が可能である。このような領域がneuを阻害する能力は、実施例に記載されたアッセイ法で容易に決定することができる。
【0153】
本発明のある態様では、リポソームは、血球凝集ウイルス(HVJ)と複合体を形成させることができる。これは、細胞膜との融合を促進し、またリポソームに包まれたDNAの細胞内侵入を促進することが報告されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様では、リポソームは、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体を形成、すなわち同タンパク質とともに使用してもよい(Kato et al., 1991)。さらに別の態様では、リポソームは、HVJとHMG-1の両方と複合体を形成、すなわち両ウイルスとともに使用してもよい。このような発現コンストラクトは、インビトロおよびインビボにおける核酸の送達および発現に良好に使用されており、本発明に適用可能である。細菌由来のプロモーターをDNAコンストラクトに使用する際は、リポソーム中に適切な細菌由来のポリメラーゼを含めることも望ましい。
【0154】
b.Bik変異型を含むリポソームによるインビボにおける癌の治療
当業者であれば、本明細書の記述を元に、任意の細胞を少なくとも1種類のBik変異型で処理可能なこと、また特定の態様では、任意の癌細胞を同様に処理可能なことを理解する。例えば、いくつかの態様では、処理細胞の性質は、HER2/neu陽性かHER2/neu陰性かに無関係である。しかしながら、1つの特定の態様では、これはHER2/neu陽性である。
【0155】
参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第5,641,484号では、リポソームを介した直接遺伝子送達法で、生きている宿主においてHER2/neuを過剰発現するヒト癌細胞を抑制可能なことが説明されている。同明細書に記載されているプロトコルは以下の通りである。雌のヌードマウス(5〜6週齢)にSK-OV-3細胞を腹腔内注射した(2x106/100 μl)。SK-OV-3細胞は、ヌードマウスの腹腔内で成長することがわかっているヒト卵巣癌細胞である。5日後に、さまざまな化合物をマウスに腹腔内注射した。一部のマウスには治療用DNAのみを注入し、一部には、上述の手順で調製したリポソーム/治療用DNA複合体を注入し、また一部には、リポソーム/変異型治療用DNA複合体を注入した。200 μlの所与の化合物を所与のマウスに注入した。初回注入後に、マウスが生きている間は注入を7日毎に繰返した。
【0156】
同明細書に記載された結果は、リポソームを介した遺伝子送達が、HER2/neuを過剰発現するヒト卵巣癌細胞の成長を阻害可能なことを示している。したがって、変異型BikをHER-2 neu癌遺伝子に直接標的化することで、リポソームを介した変異型Bik遺伝子療法が、HER-2 neuを過剰発現するヒト卵巣癌の強力な治療用薬剤となりうることが推測される。
【0157】
c.ヒトの治療目的におけるリポソームによる変異型Bikのトランスフェクション
米国特許第5,641,484号に記載されたインビボ動物試験の結果を元に、当業者は、リポソームと複合体を形成したBikのT33D、S35D、および/またはT33DS35DのDNAを用いた、HER2/neuを介する癌の、ヒトを対象とした治療における大きな可能性を理解・予測するであろう。このような影響を示すために行われる臨床研究が想定される。当業者であれば、HER2/neuを介した癌を抑制する、BikのT33D、S35D、および/またはT33DS35Dを使用する最良の治療法が明快に決定可能であることを理解するであろう。これは、実験に関する問題ではなく、むしろ医学領域で一般に行われている最適化に関する問題である。ヌードマウスを対象とするインビボ研究は、用量および送達法の最適化を始めるための出発点となる。注射の頻度は最初は、米国特許第5,641,484号に記載されているマウス研究で行われたように、週に1回とする。しかしながら、注射の頻度は、当初の臨床試験で得られた結果、および各患者のニーズに応じて、最適となるように週1日、2週間毎、1か月毎と調整することができる。ヒトの場合の用量は、マウスで使用されたBikのT33D、S35D、および/またはT33DS35Dの量である「約15 μgのプラスミドDNA/50 g体重」を外挿することでまず決定できる。これを元に、50 kgの女性であれば、1回あたり15 mgのDNAの投与が必要となる。言うまでもなく、この用量は、このような投与プロトコルでルーチンに行われているように、当初の臨床試験の結果、および特定の患者のニーズに応じて、上下に調整可能である。このような臨床試験は、HER2/neuを過剰発現するヒトの癌の治療に対するBikのT33D、S35D、および/またはT33DS35D、ならびに他のneu抑制性の遺伝子産物の有用性を示すと予想されている。用量および頻度は、当技術分野で一般に行われているように、当初は、インビボ動物試験で得られたデータを元にする。
【0158】
D.エレクトロポレーション
本発明のある態様では、発現コンストラクトをエレクトロポレーションで細胞中に導入する。エレクトロポレーションでは、細胞および/またはDNAの懸濁物を高圧放電に曝す。
【0159】
エレクトロポレーションによる真核細胞のトランスフェクションは、かなり成功している。同様の手段で、マウスの前Bリンパ球に、ヒトのカッパ免疫グロブリン遺伝子がトランスフェクトされており(Potter et al., 1984)、および/またはラットの肝細胞に、クロラムフェニコールアセチル基転移酵素遺伝子がトランスフェクトされている(Tur-Kaspa et al., 1986)。
【0160】
E.リン酸カルシウムおよび/またはDEAE-デキストラン
本発明の他の態様では、発現コンストラクトを、リン酸カルシウム沈殿を用いて細胞中に導入する。この手法で、ヒトのKB細胞に5型アデノウイルスのDNAがトランスフェクトされている(Graham and Van Der Eb, 1973)。また同様に、マウスのL(A9)、マウスのC127、CHO、CV-1、BHK、NIH3T3、および/またはHeLaの各細胞に、ネオマイシンマーカー遺伝子(Chen and Okayama, 1987)がトランスフェクトされており、および/またはラットの肝細胞にさまざまなマーカー遺伝子がトランスフェクトされている(Rippe et al., 1990)。
【0161】
別の態様では、発現コンストラクトを、DEAE-デキストランと、これに続いてポリエチレングリコールを用いて細胞中に送達する。この手法により、レポータープラスミドが、マウスの骨髄腫細胞、および/または赤白血病細胞に導入されている(Gopal, 1985)。
【0162】
F.微粒子銃
裸のDNAの発現コンストラクトを細胞内に送達する本発明の別の態様では、微粒子銃を使用できる。この方法は、DNAでコーティングされた微小発射体を高速に加速することで、細胞を死滅させることなく細胞膜を貫通する、および/または細胞内への進入を可能とする能力に依存する(Klein et al., 1987)。小さな粒子を加速するいくつかの装置が開発されている。このような1つの装置は、最終的に推進力をもたらす電流を生じる高圧放電に依存している(Yang et al., 1990)。使用される微小発射体は、タングステンおよび/または金のビーズなどの、生物学的に不活性な物質からなる。
【0163】
G.直接マイクロインジェクションおよび/または超音波ローディング
本発明の別の態様では、直接マイクロインジェクションおよび/または超音波ローディングにより発現コンストラクトを導入する。直接マイクロインジェクションは、ツメガエルの卵母細胞に核酸コンストラクトを導入する際に用いられており(Harland and Weintraub, 1985)、および/または、超音波ローディングは、LTK-繊維芽細胞にチミジンキナーゼ遺伝子をトランスフェクトする際に用いられている(Fechheimer et al., 1987)。
【0164】
H.アデノウイルスを用いたトランスフェクション
本発明のある態様では、アデノウイルス支援型トランスフェクションによって、発現コンストラクトを細胞内に導入する。アデノウイルス併用系を用いることで、細胞系においてトランスフェクション効率が高くなることが報告されている(Kelleher and Vos, 1994; Cotten et al., 1992; Curiel, 1994)。
【0165】
V.併用療法
変異型Bik、またはこれをコードする発現コンストラクトの有効性を高めるために、これらの組成物を、過剰増殖疾患の治療に有効な他の薬剤(抗癌剤など)と組み合わせることが望ましい場合がある。「抗癌」剤は、例えば、癌細胞を死滅させること、癌細胞のアポトーシスを誘導すること、癌細胞の成長速度を減速させること、転移の発生率または数を減少させること、腫瘍の大きさを縮小させること、腫瘍成長を阻害すること、腫瘍もしくは癌細胞に至る血液供給を減少させること、癌細胞もしくは腫瘍に対する免疫応答を高めること、癌の進行を妨げたり阻害したりすること、または癌の被験者の寿命を伸ばすことによって、被験者の癌に対して負の影響を及ぼす能力を有する。より一般的には、このような他の組成物は、細胞の増殖を死滅または阻害するのに有効な複合量として提供される場合がある。このプロセスには、発現コンストラクトおよび薬剤(群)、または複数の因子(群)を同時に細胞に接触させる段階を含めることができる。これは、1種類の組成物または両薬剤を含む薬理学的製剤を細胞に接触させることによって、または2種類の異なる組成物もしくは製剤を同時に細胞に接触させることによって達成することができる(1つの組成物が発現コンストラクトを含み、もう1つの組成物が第2の薬剤(群)を含む)。
【0166】
化学療法および放射線療法に使用される薬剤に対する腫瘍細胞が示す耐性は、臨床腫瘍学における大きな問題である。現在の癌研究1つの目的は、これを遺伝子治療と組み合わせることで、化学療法および放射線療法の有効性を改善する方法を見つけることである。例えば、単純ヘルペス-チミジンキナーゼ(HS-tK)遺伝子は、レトロウイルスベクター系によって脳腫瘍に送達された場合に、抗ウイルス剤ガンシクロビルに対する感受性を良好に誘導した(Culver et al., 1992)。本発明に関しては、Bik遺伝子療法が、他のアポトーシス促進性または細胞周期調節性の薬剤に加えて、化学療法、放射線療法、または免疫療法の介入とともに同様に使用可能であることが想定される。
【0167】
あるいは、遺伝子治療は、他の薬剤を用いた治療前に行う場合があるほか、分単位〜週単位の間隔をおいて、他の薬剤を用いた治療後に行う場合がある。他の薬剤および発現コンストラクトを別々に細胞に適用する態様では一般に、薬剤および発現コンストラクトが有利な組み合わせ効果を細胞に対して発揮するように、各送達の時点間で有意な期間が経過してしまわないようにする。このような場合には、両方の様式が、互いに約12〜24時間以内に、またより好ましくは、互いに約6〜12時間以内に、細胞に接触させられることが想定される。しかしながら、状況によっては、投与時間を大きく延長することが望ましい場合があり、数日間(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)から数週間(1週、2週、3週、4週、5週、6週、7週、または8週)の間隔を各投与間に設ける。
【0168】
遺伝子治療を「A」とし、放射線療法または化学療法などの第2の薬剤を「B」として、以下のようなさまざまな組み合わせを用いることが可能である:
【0169】
本発明の治療用発現コンストラクトの患者への投与は、ベクターの毒性(ある場合)を考慮し、化学療法剤を投与する一般的なプロトコルに従う。治療サイクルは、必要に応じて繰返されることが予想される。さまざまな標準的な治療法、ならびに外科的介入が、既に記述された高増殖細胞療法と併用して適用可能なことも想定される。
【0170】
A.化学療法
当業者であれば、細胞の成長を阻害する目的における、本明細書に記載されたBik変異型に加えて、他の化学療法剤が腫瘍性疾患の治療に有用なことを理解する。このような化学療法剤の例を表4に記載する。
【0171】
癌の治療法には、化合物および放射線を基礎とした治療との、さまざまな併用療法が含まれる。例示的な態様には例えば、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトセシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソ尿素、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、ゲムシタビン、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびメトトレキセート、または前述の薬剤の任意の類似体もしくは誘導体の変種などがある。
【0172】
(表4)腫瘍性疾患に有用な化学療法剤
【0173】
B.放射線療法
DNAの損傷を引き起こす、広く使用されている他の因子には、γ線、X線、および/または放射性同位元素の腫瘍細胞への直接送達として一般に知られているものがある。マイクロ波やUV照射などの、他の状態のDNA損傷性因子も想定される。これらの全ての因子が、DNAに、DNAの前駆体に、DNAの複製および修復に、ならびに染色体の集合および維持に対する広範囲の損傷に影響を及ぼす可能性は非常に高い。X線の線量範囲は、長期間(3〜4週間)における50〜200レントゲンの1日線量から、2000〜6000レントゲンの1回線量までである。放射性同位元素の線量範囲は極めて広く、また同位体の半減期、放出される放射線の強度および種類、ならびに腫瘍細胞による取り込みに依存する。
【0174】
細胞に加える際に用いられる、「接触させる」、および「曝露させる」という表現は、本明細書では、治療用コンストラクト、および化学療法剤または放射線療法剤が標的細胞に送達されるか、または標的細胞に直接並置されるプロセスを意味するように用いられる。細胞の死滅または血行停止を達成するためには、両薬剤を、細胞を死滅させたり細胞分裂を妨げたりするのに有効な組み合わせた複合量で細胞に送達する。
【0175】
C.免疫療法
免疫療法剤は一般に、癌細胞を標的として破壊する免疫エフェクター細胞および分子の使用に依存する。免疫エフェクターは例えば、いくつかの腫瘍細胞の表面上にある、いくつかのマーカーに特異的な抗体であってよい。抗体単独で治療のエフェクターとして作用してもよく、他の細胞を動員することで細胞の死滅を実行してもよい。抗体は、薬剤または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)と結合させて、単に標的化物質として機能させてもよい。あるいは、エフェクターは、直接または間接的のいずれかの様式で腫瘍細胞標的と相互作用する表面分子を有するリンパ球である場合がある。さまざまなエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0176】
したがって免疫療法は、Ad-Bik遺伝子療法とともに、併用療法の一部として使用することができる。併用療法の一般的な手法について、以下に説明する。一般に腫瘍細胞は、標的化に適した(すなわち大半の他の細胞表面には存在しない)いくつかのマーカーを有しているはずである。多くの腫瘍マーカーが存在し、そのいずれかが本発明における標的送達に適切でありうる。一般的な腫瘍マーカーには、癌胎児性抗原、前立腺特異的抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリル-ルイス(Sialyl Lewis)抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erbB、およびp155などがある。
【0177】
D.遺伝子
さらに別の態様では、2次的な治療は、Bikの変異型の全体または一部をコードする第1の治療用ポリヌクレオチドの投与前に、投与後に、または投与と同時に第2の治療用ポリヌクレオチドを投与する2次遺伝子治療である。完全長または切断型のBik変異型のいずれかをコードするベクターの送達を、以下の遺伝子産物の1つをコードする第2のベクターとともに行うことで、標的組織に対する組み合わされた抗高増殖作用を示すようになる。あるいは、両遺伝子をコードする1つのベクターを使用できる。さまざまなタンパク質が本発明に含まれる。その一部について以下に説明する。
【0178】
1.細胞増殖の誘導因子
細胞増殖を誘導するタンパク質はさらに、機能に応じて多様なカテゴリーに分けられる。これら全てのタンパク質に共通する点は、細胞増殖を調節する能力をもつことである。例えば、PDGFの1つの状態であるsis癌遺伝子は分泌型の成長因子である。成長因子をコードする遺伝子から癌遺伝子が生じることは稀であり、sisは現時点で、唯一既知の天然の発癌性成長因子である。本発明の1つの態様では、細胞増殖の特定の誘導因子に対するアンチセンスmRNAが、細胞増殖の誘導因子の発現を妨げるために使用されることが想定される。
【0179】
タンパク質FMS、ErbA、ErbB、およびneuは、成長因子受容体である。これらの受容体に変異が生じると、調節可能な機能が失われる。例えば、Neu受容体タンパク質の膜貫通ドメインに影響を及ぼす点変異はneu癌遺伝子を生じる。erbA癌遺伝子は、甲状腺ホルモンに対する細胞内受容体に由来する。修飾型の発癌性ErbA受容体は、内因性の甲状腺ホルモン受容体と競合して、制御不能の成長を引き起こすと考えられている。
【0180】
癌遺伝子の最大のクラスには、シグナル伝達タンパク質(例えばSrc、Abl、およびRas)が含まれる。タンパク質Srcは、細胞質タンパク質チロシンキナーゼであり、そのプロト癌遺伝子から癌遺伝子への転換は、527位のチロシン残基における変異を介して生じる場合がある。これとは対照的に、GTPaseタンパク質rasのプロト癌遺伝子から癌遺伝子への転換は、1つの例では、配列中の12位のアミノ酸におけるバリンからグリシンへの変異によって生じ、rasのGTPase活性を低下させる。
【0181】
タンパク質Jun、Fos、およびMycは、転写因子として核機能に対する作用を直接引き起こすタンパク質である。
【0182】
2.細胞増殖の阻害剤
腫瘍抑制性の癌遺伝子は、過剰な細胞増殖を阻害するように機能する。このような遺伝子が不活性化すると、その阻害活性が破壊されて、増殖が調節されなくなる。腫瘍抑制因子であるp53、pl6、およびC-CAMについて以下に説明する。
【0183】
高レベルの変異型p53が、化学発癌、紫外線照射、および複数のウイルスによって形質転換された多くの細胞に見出されている。p53遺伝子は、さまざまなヒト腫瘍において、変異性不活性化の標的となっていることが多く、ヒトの一般的な癌においても極めて頻繁に変異が生じている遺伝子であることが明らかにされている。p53は、ヒトのNSCLCの50%以上で(Hollstein et al., 1991)、また多様な他の腫瘍で変異している。
【0184】
p53遺伝子は、ラージT抗原やE1Bなどの宿主タンパク質と複合体を形成可能な393アミノ酸のリンタンパク質をコードする。同タンパク質は正常な組織および細胞に見出されるが、その濃度は形質転換細胞または腫瘍組織と比較して低い。
【0185】
野生型のp53は、多くの細胞種における重要な成長調節因子であると認識されている。ミスセンス変異はp53遺伝子では一般的であり、また同癌遺伝子の形質転換力に不可欠である。点変異によって促進される1つの遺伝的変化が、発癌性のp53を生じうる。しかし他の癌遺伝子とは異なり、p53の点突然変異は少なくとも30種類の異なるコドン中に生じることが知られており、ホモ接合性になることなく細胞の表現型の変化を生じる優性対立遺伝子を生じることが多い。加えて、このようなドミナントネガティブ対立遺伝子の多くは、生物体に許容され、生殖系列に伝達されるようである。極めて小さな機能不全性から強固なドミナントネガティブ対立遺伝子まで、さまざまな変異型対立遺伝子があるようである(Weinberg, 1991)。
【0186】
細胞増殖の別の阻害因子はp16である。真核細胞周期の主な移行は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)によって引き起こされる。CDKの1つ、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)は、G1期を経る進行を調節する。同酵素の活性は、G1後期でRbをリン酸化することであるようである。CDK4の活性は、活性化サブユニットであるD型サイクリンおよび阻害性サブユニットによって制御され、p16INK4は、CDK4に特異的に結合して阻害することによってRbのリン酸化を調節する可能性のあるタンパク質として、生化学的に特性が明らかにされている(Serrano et al., 1993; Serrano et al., 1995)。p16INK4タンパク質はCDK4の阻害因子なので(Serrano, 1993)、この遺伝子の欠失は、CDK4の活性を高め、Rbタンパク質の過剰なリン酸化につながる可能性がある。pl6はまた、CDK6の機能を調節することも知られている。
【0187】
p16INK4は、p16B、pl9、p21Wafl/Cip1、およびp27KIP1も含むCDK阻害性タンパク質の新たに報告されたクラスに属する。p16INK4遺伝子は、多くの腫瘍で欠失していることが多い染色体領域である9Bikにマップされている。p16INK4遺伝子のホモ接合性の欠失および変異は、ヒトの腫瘍細胞系列において多く見られる。この事実は、p16INK4遺伝子が腫瘍抑制遺伝子であることを示唆している。しかしこの解釈は、p16INK4遺伝子変化の頻度が、培養細胞系列と比較して初代非培養腫瘍ではかなり低いという観察によって疑問視されている
。プラスミド発現ベクターをトランスフェクトして野生型のp16INK4の機能を回復させると、一部のヒトの癌細胞系列によるコロニーの形成が減少した(Okamoto, 1994; Arap, 1995)。
【0188】
本発明で使用可能な他の遺伝子には、Rb、APC、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、zac1、p73、VHL、MMAC1/PTEN、DBCCR-1、FCC、rsk-3、p27、p27/p16融合体、Bik/p27融合体、抗血栓性遺伝子(例えばCOX-1、TFPI)、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、血管形成に関与する遺伝子(例えばVEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはこれらの受容体)、ならびにMCCなどがある。
【0189】
3.プログラム細胞死の調節因子
アポトーシス(プログラム細胞死)は、正常な胚発生、成体組織における恒常性維持、および発癌抑制に不可欠なプロセスである(Kerr et al., 1972)。Bcl-2ファミリーのタンパク質およびICE様プロテアーゼは、他の系において、アポトーシスの重要な調節因子およびエフェクターであることが明らかにされている。濾胞性リンパ腫との関連で発見されたBcl-2タンパク質は、アポトーシスの制御、およびさまざまなアポトーシス刺激に反応した細胞の生存の促進に重要な役割を果たす
。進化の過程で保存されたBcl-2タンパク質は現在、細胞死の作用因子または細胞死の拮抗因子として分類可能な関連タンパク質のファミリーのタンパク質であると認識されている。
【0190】
Bcl-2は、その発見に続いて、さまざまな刺激によって引き起こされる細胞死を抑制するように作用することがわかっている。また現在、共通の構造および配列上の相同性を共有するBcl-2細胞死調節タンパク質のファミリーが存在することが明らかである。このようなさまざまなファミリーのタンパク質は、Bcl-2と類似の機能を有するか(例えば、BclXL、BclW、BclS、Mcl-1、A1、Bfl-1)、またはBcl-2の機能に対抗して細胞死を促進する(例えば、Bax、Bak、Bik、Bim、Bid、Bad、Harakiri)ことが報告されている。
【0191】
E.外科手術
癌患者の約60%が、予防的手術、診断的手術、または病期分類目的の手術、治癒目的の手術、および対症的な手術を含む、何らかの外科手術を受ける。治癒目的の手術は、本発明の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法、および/または代替療法などの他の治療法とともに使用可能な癌の治療である。
【0192】
治癒目的の手術は、癌性組織の全体または一部を物理的に除去したり、摘出したり、および/または破壊したりする切除を含む。腫瘍の切除とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを意味する。腫瘍の切除に加えて、外科手術による治療には、レーザー手術、冷凍手術、電気外科手術、および顕微鏡下手術(Moh氏手術)などがある。本発明は、表在性癌、前癌、または偶発的な量の正常組織の除去とともに使用可能なことも想定される。
【0193】
癌性の細胞、組織、または腫瘍の一部または全体の切除に伴い、身体中に空隙が生じることがある。治療は、潅流、直接注入、または追加的な抗癌治療薬の局所投与によって達成されうる。このような治療は例えば、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、もしくは7日毎、または1週毎、2週毎、3週毎、4週毎、および5週毎、または1か月毎、2か月毎、3か月毎、4か月毎、5か月毎、6か月毎、7か月毎、8か月毎、9か月毎、10か月毎、11か月毎、または12か月毎に繰返すことができる。このような治療は、変動する投与量で行うこともできる。
【0194】
F.他の薬剤
治療の効果を改善するために、他の薬剤を本発明と組み合わせて使用可能なことが想定される。このような追加的な薬剤には、免疫調節性の薬剤、細胞表面受容体およびGAP結合の上方調節に影響する薬剤、細胞増殖抑制性および分化促進性の薬剤、細胞接着の阻害剤、またはアポトーシス誘導因子に対する高増殖細胞の感受性を高める薬剤などが含まれる。免疫調節性の薬剤には、腫瘍壊死因子;インターフェロンアルファ、ベータ、およびガンマ;IL-2および他のサイトカイン;F42Kおよび他のサイトカイン類似体;またはMIP-1、MIP-1ベータ、MCP-1、RANTES、および他のケモカインなどが含まれる。さらにFas/Fasリガンド、DR4もしくはDR5/TRAILなどの、細胞表面受容体またはそのリガンドの上方調節が、高増殖細胞に対する自己分泌的なまたは傍分泌的な作用を確立することで本発明のアポトーシス誘導能力を強化可能なことが考えられる。GAP結合数の増加による細胞間シグナル伝達の亢進は、近傍の高増殖細胞集団に対する抗高増殖作用を高める場合がある。他の態様では、細胞増殖抑制性の薬剤または分化促進性の薬剤を本発明と組み合わせて使用することで、治療の抗高増殖効率を改善することができる。本発明の有効性を改善するための細胞接着の阻害剤が想定される。細胞接着阻害剤の実施例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。さらに、治療の有効性を改善するために、アポトーシスに対する高増殖細胞の感受性を高める他の薬剤(抗体c225など)を、本発明と組み合わせて使用可能なことが想定される。
【0195】
ホルモン療法も、本発明とともに、または前述の他の任意の癌療法と組み合わせて使用することができる。ホルモンは、乳房、前立腺、卵巣、または子宮頚部の癌などの特定の癌の治療に、テストステロンやエストロゲンなどの特定のホルモンの作用のレベルを下げたりブロックするために使用される場合がある。この治療は、治療オプションとして、または転移のリスクを小さくするために、少なくとも1つの他の癌療法と組み合わせて用いられることが多い。
【0196】
VI.薬学的調製物
本発明の薬学的組成物は、有効量の1種類もしくは複数の形態の変異型Bik、または薬学的に許容可能な担体もしくは賦形剤中に溶解または分散した追加の薬剤を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」という表現は、適切であれば動物(例えばヒトなど)への投与時に、有害な反応、アレルギー反応、または他の有害な反応を生じない分子種および組成物を意味する。少なくとも1種類のBik変異型または追加的な活性成分を含む薬学的組成物の調製は、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990に例示されているように、本開示内容に鑑みて当業者に理解される。また、動物(例えばヒト)への投与に関しては、調製物が、FDAのOffice of Biological Standardsによって必要に応じて求められる無菌性、発熱性、一般安全性、および純度の基準に適合すべきであると理解される。
【0197】
本明細書で用いる、「薬学的に許容される担体」は、任意のあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩類、保存剤、薬物、薬物安定剤、結合剤、添加剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、色素、当業者に知られているであろう材料およびこれらの組み合わせを含む(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照)。任意の従来の担体の、活性成分に適合しない状況を除いて、治療用組成物または薬学的組成物中における使用が想定される。特定の態様では、リポソーム中の変異型Bik組成物を投与する。
【0198】
Bik変異型は、固体、液体、またはエアロゾル状による投与形式に依存して、また注射のような投与経路のために滅菌処理を必要とするか否かによって、さまざまな種類の担体を含みうる。本発明は、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、硝子体内に、膣内に、直腸に、局所的に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、膀胱内に、粘膜に、心膜内に、経口的に、局所的に、局部的に、エアロゾルを用いて、注射により、注入により、連続注入により、標的細胞を局所的な潅流浴に直接的に、カテーテルを介して、洗浄液を介して、クリームを用いて、脂質組成物(例えばリポソーム)を用いて、もしくは他の方法で、または当業者であれば承知している前述の任意の組み合わせによって投与することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990を参照)。
【0199】
動物患者に投与される本発明の組成物の実際の用量は、体重、症状の重症度、治療対象となる疾患の種類、過去もしくは現在の治療的介入、患者の特発性疾患、および投与経路などの、物理的および生理学的な因子によって決定することができる。投与を行う実施者は、いずれにしても、個々の被験者に対する、組成物中の活性成分(群)の濃度、および適切な用量(群)を決定する。
【0200】
ある態様では、薬学的組成物は例えば、少なくとも約0.1%の活性化合物を含みうる。他の態様では、活性化合物は例えば、約2%〜約75%(重量単位)、または約25%〜約60%、また、これらの範囲から導かれる任意の範囲を含みうる。他の非制限的な例では、用量は、1回の投与あたり、約1 μg/kg/体重、約5 μg/kg/体重、約10 μg/kg/体重、約50 μg/kg/体重、約100 μg/kg/体重、約200 μg/kg/体重、約350 μg/kg/体重、約500 μg/kg/体重、約1 mg/kg/体重、約5 mg/kg/体重、約10 mg/kg/体重、約50 mg/kg/体重、約100 mg/kg/体重、約200 mg/kg/体重、約350 mg/kg/体重、約500 mg/kg/体重から約1000 mg/kg/体重もしくはこれ以上、およびこれらの範囲から導かれる任意の範囲を含みうる。上記の数値から導かれる望ましい範囲の非制限的な例では、約5 mg/kg/体重〜約100 mg/kg/体重、約5 μg/kg/体重〜約500 mg/kg/体重などの範囲が、上述の数値を元に投与可能である。
【0201】
いずれの場合においても、組成物は、1種類もしくは複数の成分の酸化を遅らせるための、さまざまな抗酸化剤を含む場合がある。加えて、微生物の作用を、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、さまざまな抗細菌剤および抗真菌剤などの保存剤によって予防できる。
【0202】
Bik変異型は、遊離塩基、中性、または塩の状態で組成物中に製剤化することができる。薬学的に許容される塩類は、例えば、タンパク性組成物の遊離のアミノ基で形成されるもの、または例えば塩酸またはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、またはマンデル酸などの有機酸で形成されるようなものなどの酸付加塩を含む。遊離のカルボキシル基で形成される塩類は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、もしくは水酸化第2鉄などの無機塩基;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、もしくはプロカインなどの有機塩基に由来する場合もある。
【0203】
組成物が液状である態様では、担体は、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)、およびこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない溶媒または分散媒の場合がある。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用することで;例えば液体ポリオールや脂質などの担体中に分散させることで必要な粒子径を維持することで;例えばヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤を使用することで;またはこれらの方法を組み合わせることで維持できる。多くの場合、例えば、糖類、塩化ナトリウム、またはこれらの組み合わせなどの等張性の薬剤を含むことが好ましい場合がある。
【0204】
他の態様では、本発明では、点眼液、点鼻液、もしくはスプレー、エアロゾル、洗口剤、または吸入剤を使用することができる。このような組成物は一般に、標的となる組織の種類に適合するように設計されている。非制限的な例では、点鼻液は通常、液滴またはスプレーの状態で鼻道に投与されるように設計された水溶液である。点鼻液は、正常な繊毛作用が維持されるように、鼻内分泌物と多くの点が似たようになるように調製される。したがって、好ましい態様では、水性点鼻液は通常、等張であるか、またはpHを約5.5〜約6.5に保つように弱い緩衝作用を有する。また、点眼薬、薬物、または適切な薬物安定剤に使用されるものに類似した抗微生物保存剤を、必要に応じて製剤に含めることができる。例えば、さまざまな市販の鼻内調製物が知られており、抗生物質や抗ヒスタミン剤などの薬剤が含まれる。
【0205】
ある態様では、Bik変異型は、経口摂取などの経路による投与用に調製される。このような態様では、固体組成物は例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤(例えば、硬殻または軟殻のゼラチンカプセル剤)、徐放性製剤、口腔組成物、トローチ剤、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハース、またはこれらの組み合わせを含みうる。経口組成物は、食事に直接含めることができる。経口投与に好ましい担体は、不活性な希釈剤、吸収可能な食用担体、またはこれらの組み合わせを含む。本発明の他の局面では、経口組成物は、シロップまたはエリキシルとして調製することができる。シロップまたはエリキシルは、例えば、少なくとも1種類の活性薬剤、甘味剤、保存剤、香味剤、色素、保存剤、またはこれらの組み合わせを含む場合がある。
【0206】
ある好ましい態様では、経口組成物は、1種類もしくは複数の結合剤、添加剤、崩壊剤、潤滑剤、香味剤、およびこれらの組み合わせを含む場合がある。ある態様では、組成物は、以下の1種類もしくは複数を含む場合がある:例えば、トラガカントゴム、アカシア、コーンスターチ、ゼラチンなどの結合剤、もしくはこれらの組み合わせ;例えば、リン酸二カルシウム、マンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの賦形剤、もしくはこれらの組み合わせ;例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸などの崩壊剤、もしくはこれらの組み合わせ;例えば、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;例えば、ショ糖、乳糖、サッカリンなどの湿潤剤、もしくはこれらの組み合わせ;例えば、ペパーミント、ウインターグリーン油、チェリー香料、オレンジ香料などの香味剤;またはこれらの組み合わせ。用量単位剤形がカプセルの場合、これは、上述の種類の材料に加えて、液体担体などの担体を含む場合がある。他のさまざまな材料がコーティング剤として、または用量単位の物理的形状を修飾するために存在しうる。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤を、セラック、糖、またはこの両方でコーティングすることができる。
【0207】
他の投与様式に適した他の追加的な製剤には坐剤がある。坐剤は通常は、直腸、膣、または尿道へ挿入される医療用である、さまざまな重量および形状の固体の投与剤型である。挿入後に坐剤は軟化するか、溶けるか、または体腔の液体中に溶解する。一般に坐剤に関し、従来型の担体には例えば、ポリアルキレングリコール、トリグリセリド、またはこれらの組み合わせなどが含まれうる。ある態様では、坐剤は例えば、約0.5%〜約10%、また好ましくは約1%〜約2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。
【0208】
無菌性の注射溶液は、必要量の適切な溶媒中に必要に応じてさまざまな上述の他の成分と活性化合物を混合した後に濾過滅菌することで調製される。一般に分散液は、滅菌処理されたさまざまな活性成分を、基材となる分散媒および/または他の成分を含む滅菌済みの溶媒中に混合することで調製する。滅菌済みの注射溶液、懸濁液、または乳濁液の調製用の無菌性粉末の場合は、好ましい調製法は、滅菌濾過済みの液体培地そのもの由来する活性成分に加えて任意の追加の所望の成分の粉末が得られる真空乾燥法または凍結乾燥法である。液体培地は、必要に応じて適切に緩衝作用をもたせるべきであり、また希釈液を注射に先立ち、十分な食塩水またはグルコースで最初に等張化する。直接注射用に高度に濃縮された組成物の調製も想定される。この場合は、極めて迅速に浸透し、高濃度の活性薬剤が狭い領域に送達されることを可能とする溶媒としてDMSOが使用される。
【0209】
組成物は、製造および保存の条件で安定でなければならず、また、細菌や真菌などの微生物の作用の混入を防ぐように保存されなければならない。エンドトキシンの混入は、安全なレベル(例えば0.5 ng/mg タンパク質未満)に最小限に抑えるべきであることが理解される。
【0210】
特定の態様では、注射用組成物の長時間の吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはこれらの組み合わせなどの、吸収を遅らせる薬剤の組成物を使用することで達成される。
【0211】
VII.部位特異的変異導入
構造による部位特異的変異導入は、タンパク質-リガンドの相互作用を精査および作製するための強力なツールである(Wells, 1996、Braisted et al., 1996)。この手法で、選択されたDNAに1残基もしくは複数のヌクレオチド配列の変化を導入することで、配列変種の調製および検討が可能となる。
【0212】
部位特異的な変異導入では、所望の変異を有するDNA配列をコードする特異的なオリゴヌクレオチド配列、ならびに十分な数の隣接する非修飾ヌクレオチドを使用する。このようにして、欠失接合部の両側に渡って安定な二重鎖を形成するのに十分な大きさと複雑性を有するプライマー配列が得られる。変化させる配列の接合部の両側の約5〜10残基を有する、長さが約17〜25ヌクレオチドのプライマーが好ましい。
【0213】
この手法では一般に、1本鎖および2本鎖の両状態で存在するバクテリオファージベクターを用いる。部位特異的変異導入に有用なベクターには、M13ファージなどのベクターがある。このようなファージベクターは市販されており、その使用は一般に当業者に周知である。2本鎖プラスミドも、対象遺伝子をファージからプラスミドへ移す段階を除く部位特異的変異導入に常用されている。
【0214】
一般に、最初に1本鎖ベクターを得るか、または、所望のタンパク質または遺伝的エレメントを配列内にコードするDNA配列を含む2本鎖ベクターの2本の鎖を溶解する。合成的に調製された所望の変異配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを次に、ハイブリダイゼーション条件選択時のミスマッチの程度を考慮して、1本鎖DNA調製物とアニールさせる。変異を含む鎖の合成を完了させるために、ハイブリダイズした産物に、大腸菌ポリメラーゼI(クレノウ断片)などのDNA重合酵素を反応させる。こうしてヘテロ二重鎖が形成される(1本の鎖は、元の非変異型配列をコードし、また第2の鎖は所望の変異を有する)。次に、このようなヘテロ二重鎖ベクターで、大腸菌細胞などの適切な宿主細胞を形質転換し、変異した配列の配置を有する組換え型ベクターを含むクローンを選択する。
【0215】
タンパク質の所与の残基の機能上の重要性および情報の内容に関する包括的な情報は、全19残基のアミノ酸の置換を検討する飽和変異導入によって極めて適切に得られる。この手法の短所は、多数の残基の飽和変異導入のロジスティクスが困難なことである
。数百種類の、おそらくは数千種類の部位特異的変異体を検討する必要がある。しかしながら、改善された手法では、変異体の作製および迅速なスクリーニングが、より簡単になる。「ウォークスルー(walk-through)」変異導入の説明に関しては、米国特許第5,798,208号、および第5,830,650号も参照されたい。
【0216】
部位特異的変異導入の他の方法は、米国特許第5,220,007号;第5,284,760号;第5,354,670号;第5,366,878号;第5,389,514号;第5,635,377号;および第5,789,166号に記載されている。
【0217】
実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。以下に続く実施例に開示された手法は、本発明の実践で良好に機能させるために発明者らが発見した代表的な手法であり、本発明の実施のための好ましい様式を構成するとみなされることは、当業者により理解されるはずである。しかし、当業者であれば、本開示に鑑みて、本発明の趣旨および範囲から解離することなく、同様または類似の結果が得られることに変わりない多くの変更が、開示された特定の態様に加えられることを理解する。
【0218】
実施例1
例示的な材料および方法
細胞系列
ヒトの乳癌細胞系列MCF-7、MDA-MB-231、MDA-MB-435、卵巣癌細胞系列SKOV-ip1、およびヒトの前立腺癌細胞系列PC-3は、American Type Culture Collection(Rockville, MD)から購入し、供給元の指示書に従って培養した。
【0219】
プラスミドの構築と部位特異的変異導入
Bik、Luc、およびGFPを発現するプラスミドを、Bik、Luc、およびGFPのcDNAをそれぞれ、サイトメガロウイルスのプロモーターを含むpcDNA3ベクターに挿入することで構築した。部位特異的変異導入を、製造業者(Clontech Inc.)のプロトコルに従って実施した。Bikの残基であるスレオニン33およびセリン35のアスパラギン酸への変更には以下のプライマーを用いた:T33D用
、S35D用
。3種類のBik変異型コンストラクトの配列は自動配列決定によって検証した。
【0220】
製剤化
非ウイルス遺伝子送達系(SNと呼ばれる)は、文献(Zou et al., 2002)に記載された手順で製剤化される、本質的に陽イオン性のリポソームである。
【0221】
トランスフェクション
1ウェルに10% FBS(Life Technologies, Inc., Gaithersburg, MD)を含む1 mlのDMEM/F12培地を含む6ウェルプレート上で細胞を60〜70%のコンフルエンスになるまで24時間培養した。リポソームに被覆されたDNA(SN-DNA)を、106個の細胞に対して2 μgのDNAの比となるように培養プレートに直接添加した。24時間後、GFP陽性細胞を蛍光顕微鏡下でカウントし、得られた結果を全細胞に対するパーセンテージで表すことで、トランスフェクション効率を決定した。各試料について、1視野に200個を上回る細胞が含まれる、ランダムに選択した6視野を対象にカウントを行った。全ての実験は、独立に3回実施した。
【0222】
ウェスタンブロット解析
タンパク質溶解物を、20 mM Na2PO4(pH 7.4)、150 mM NaCl、1% Triton X-100、100 mM NaF、2 mM Na3VO4、5 mM フッ化フェニルメチルスルホニル、1%アプロチニン、および10 μg/mlロイペプチンを含むRIPA-B細胞溶解緩衝液で調製した。ヤギ抗Bikポリクローナル抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz、California)から購入した。ロバ抗ヤギIgGペルオキシダーゼ(Jackson)を二次抗体として使用した。ウェスタンブロットは、enhanced chemiluminescence(ECL; Amersham)により展開した。
【0223】
ルシフェラーゼアッセイ法
細胞増殖に対するBikの用量作用を決定するために、さまざまな癌細胞を50 ngのCMV-luc、およびCMV-Bikの量を増やしながら(0、0.5、または2 μg)、同時にトランスフェクトした。各投与時にトランスフェクトしたDNAの総量を、適量のpcDNA3ベクターを添加することで一定(2.05 μg)に保った。トランスフェクションの48時間後に細胞を回収し、lucアッセイ系(Promega)でluc活性を、製造業者から提供されたプロトコルに従って測定した。CMV-Bikを非使用時(0 μg)のトランスフェクションで得られたluc活性を100%に設定することで相対活性を算出した。データは、3回の独立した実験の平均±SDを示す。
【0224】
アポトーシスアッセイ法
インビトロ研究に関しては、標準的な蛍光活性化細胞選別解析で、細胞のアポトーシスを決定した。簡単に説明すると、細胞にSN-bikまたは他の薬剤をトランスフェクトした。トランスフェクションの12時間後または24時間後に、ヨウ化プロピジウムで染色後に、フローサイトメトリーによるサブG1期のDNA量を検出してアポトーシス細胞の評価を行った。2000個を上回る細胞が存在する視野をランダムに選択し、アポトーシス細胞と非アポトーシス細胞の数をカウントした。
【0225】
エクスビボにおける腫瘍阻害
ヒトの乳癌細胞系列MCF-7および前立腺癌細胞系列PC-3細胞に、SN-bikまたはSN-lucをトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を慎重にトリプシン処理し、回収し、ヌードマウスのMFPに接種した(1つの腫瘍あたり2x106個の細胞)。結果として得られた腫瘍の体積は、毎週測定した。
【0226】
抗腫瘍活性試験
腫瘍成長の阻害を調べるために、雌のヌードマウスのMFPに2x106個の乳癌細胞/腫瘍を接種した。2週間後、大半の腫瘍が4x4 mmを越えた時点で、腫瘍を有するマウスを3群にランダムに分けた(各群5匹)。全ての投与群のマウスにSN-bikの静脈注射を行った(週3回、3週間、15 μgのDNA/匹の用量)。対照群のマウスには、同用量のSN-luc、または同容積のPBSを注射した。腫瘍体積の測定は毎週行った。動物の生存率および寿命の延長を評価するために、同じ腫瘍モデルおよび同じ治療処置を行った。実験は、腫瘍接種後の200日目に終了した。
【0227】
統計解析
本研究で行った全ての統計的検定は、両側log-rank統計的検定である。
【0228】
実施例2
例示的なBik変異型の構築
残基33(スレオニン)と35(セリン)がそれぞれ、またはともにアスパラギン酸残基に代えられた、Bikの単変異体T33D、S35D、および二重変異体T33DS35Dを部位特異的変異導入で構築した(Clontech; La Jolla, CA)。DNA配列決定によって変異型Bikコンストラクトを確認した後に実施した、Bik抗体を用いたウェスタンブロットで、HBK293細胞で、一過性のトランスフェクション後に発現された、さまざまなBik変異型が作られたことが判明した。陽イオン性脂質(SN)の製剤を使用して、アポトーシス促進性の変異型Bik遺伝子を、さまざまなヒトの癌細胞に、インビトロおよびインビボで送達した(Zou et al., 2002)。
【0229】
実施例3
例示的なBik変異型のインビトロにおける検討
Bik変異型が、野生型Bikより良好に、ヒトの癌細胞系列の成長をインビトロで阻害するか否かを検討するために、一過性のトランスフェクションアッセイ法を行って、変異型Bikによる細胞成長阻害作用を評価した。具体的には、固定量(50 ng)のCMV-lucを、ヒトの乳癌細胞系列MDA-MB-231、MDA-MB-468、MCF-7、前立腺癌細胞系列PC-3、および卵巣癌細胞系列SKOV-ip1を含む、さまざまなヒトの癌細胞を対象に、0、0.5、および2 μgのCMV-Bikの野生型および変異型と同時に導入した。見かけ上のluc活性は、細胞が生きていることの指標となるので、相対ルシフェラーゼ活性を、細胞の成長および増殖の指標として使用することができる(図1)。
【0230】
図1Aには、293T細胞への一過的トランスフェクション後の、Bikおよび変異体タンパク質の発現のウェスタンブロット解析の結果を示す。等量のローディング対照として、アクチンを使用した。図1B〜1Fでは、ヒトの乳癌細胞系列MDA-MB-468(図1B)、MCF-7(図1C)、MDA-MB-231(図1D)、卵巣癌細胞系列SKOV-ip1(図1E)、および前立腺癌細胞系列PC-3(図1F)に、50 ngのCMV-lucと、0、0.5、または2 μgのCMV-Bikの野生型または変異型を同時にトランスフェクトした。CMV-Bikなし(0 μg)のトランスフェクションで得られたルシフェラーゼ活性を100%と設定することで、相対活性を計算した。データは、3回の独立した実験の平均である(バー=SD;星印(*)は、野生型との比較時の差が有意であることを意味する(P<0.05))。
【0231】
野生型および変異型のBikの発現は、全体的な成長阻害を用量依存的に引き起こしたが、Bik変異型(特にT33DS35D変異体)は、より強い成長阻害作用をさまざまな癌細胞に示し、また同発現レベルは成長阻害活性に比例した。したがって、変異型Bikは、数多くの癌細胞のタイプに対して、インビトロとインビボの両方で極めて強力である。この作用は、Her-2/neu癌遺伝子の発現レベルに依存しない。
【0232】
類似の方法で、また図2に示すように、Bik変異型T33DS35Dは、頭頚部癌細胞(TU138およびTU167)、黒色腫(B16F10)、卵巣(2774およびSKOV;SKOVは、SKOV-ip1とは対照的に、Her-2/neuを過剰発現する細胞ではない)、および内皮細胞(ヒト臍帯血管内皮細胞、HUVEC)にも強力な抗癌作用を示す。したがって、Her-2/neuを過剰発現する癌細胞であるSKOV-ip1に加えて、bik変異体も、Her-2/neuの過剰発現なしに、細胞に強力な阻害作用を示す。
【0233】
実施例4
Bik変異型の活性のFACS解析
アポトーシス促進性遺伝子Bikは、さまざまな悪性細胞のアポトーシスを誘発することが知られている。変異型Bikが、さまざまな癌細胞に、改善された細胞死滅作用またはアポトーシスを引き起こすか否かを調べるために、標準的な蛍光活性化細胞選別解析(FACS)で、癌細胞のアポトーシスを調べた。簡単に説明すると、細胞にSN-Bikまたは他の薬剤をトランスフェクトした。
【0234】
具体的には、ヒトの乳癌細胞系列MCF-7および前立腺癌細胞系列PC-3に、100 ngのCMV-GFPと、2 μgのCMV-Bikの野生型または変異型を同時にトランスフェクトした。pcDNA3をトランスフェクトした細胞を対照として使用した。トランスフェクションの12時間後または24時間後に、アポトーシス細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムで染色後に、フローサイトメトリーによるサブG1期のDNA量を検出することで評価を行った。データは、3回の独立した実験の平均を示す(バー=SD;星印(*)は、野生型との比較時の差が有意であることを意味する(P<0.05))。
【0235】
トランスフェクションの12時間後または24時間後に、ヨウ化プロピジウムで染色後に、フローサイトメトリーによるサブG1期のDNA量を検出することで、アポトーシス細胞の評価を行った。MCF-7細胞については、さまざまなBik変異型が、野生型のBikと比較して40%〜80%多いアポトーシスを誘導した(図3)。アポトーシスの開始は、早くもトランスフェクションの8時間後に、野生型より早期に認められた。PC-3細胞系列でも類似の現象が観察された。この結果は、変異型Bikが、野生型Bikと比較して、より強く、かつより早い、有意な癌細胞のアポトーシスを誘導可能なことを意味する。
【0236】
実施例5
例示的なBik変異型のエクスビボにおける検討
腫瘍抑制遺伝子の、極めて重要な生物学的特性の1つは、腫瘍形成能をインビボで弱める能力である。さまざまなBik変異型の抗腫瘍活性が優れていることを検討するために、ヌードマウスの癌モデルを対象に、エクスビボ腫瘍形成能アッセイ法を行った。ヒトの乳癌細胞系列MCF-7および前立腺癌細胞系列PC-3に、CMV-Bikの野生型または変異型を、培養プレート中におけるSNリポソームによる送達でトランスフェクトした。pcDNA3をトランスフェクトした細胞を対照として使用した。24時間後に、処理細胞を慎重に回収し、ヌードマウスの乳房脂肪体(mfp)(MCF-7の場合)、または皮下結合組織(PC-3の場合)に播種した。400万個の細胞(MCF-7の場合)、また100万個の細胞(PC-3の場合)を播種した。空のベクターpcDNA3をトランスフェクトした細胞を対照として使用した。播種した腫瘍の大きさの測定を毎週行った。
【0237】
具体的には、ヒトの乳癌細胞系列MCF-7(4x106個の細胞、0.72 mgの17β-エストラジオールペレットを各マウスの皮下に、播種の2週間前に移植)に、また前立腺癌細胞系列PC-3(1x106個の細胞)に、CMV-Bikの野生型または変異型を、培養プレート中におけるSNリポソームによる送達でトランスフェクトした。pcDNA3をトランスフェクトした細胞を対象として使用した。24時間後に、処理細胞を回収し、ヌードマウスの乳房脂肪体(mfp)(MCF-7の場合)、または皮下結合組織(PC-3の場合)に播種した(各群8匹)。腫瘍の大きさの測定は毎週行った(図4A)。7週間後にマウスを殺し、腫瘍の重量を測定した(図4B)。各群について、腫瘍形成速度を得た(バー=SD;星印(*)は、野生型との比較時に有意差を示した変異体を意味する(P<0.05);星印(**)は、pcDNA3対照と比較時に有意差を示した野生型Bikを意味する(P<0.05))。
【0238】
この「エクスビボ試験」は、インビボにおける遺伝子送達上の問題を回避し、また最適な遺伝子送達条件で、変異型Bikを有する腫瘍細胞の腫瘍成長能力が、野生型Bikと比較してインビボで弱いことがわかった(図4A)。SN-Bikは、pcDNA3対照の場合と比較して、マウスで腫瘍成長を少なくとも3週間遅らせた。第7週における、野生型Bikと、3種類のBik変異型投与群の腫瘍体積の比は、2.1〜3.7(MCF-7細胞の場合)、また2.2〜4.1(PC-3細胞の場合)であった。この結果は、インビボにおける変異型Bikの投与による強力な腫瘍抑制活性の存在を示唆している。図4に示したデータは、各群8匹のマウスの腫瘍の大きさの平均±標準偏差を示す。また、野生型Bikの腫瘍の大きさの平均(重量を測定)は、異なるBik変異型群の約2〜4倍であった(図4B)。MCF-7群では、変異型Bikは、腫瘍獲得率も低かった。
【0239】
実施例6
例示的なBik変異型のインビボにおける検討
上記の試験から、3種類の変異型Bikが、野生型Bikと比較して、インビトロおよびエクスビボでアポトーシスを誘導し、また腫瘍細胞の成長を阻害し、またSNによって送達されたBik変異型の抗腫瘍活性も、同所性乳癌モデルおよび皮下前立腺癌モデルにおいて野生型Bikの場合に匹敵することがわかった。
【0240】
二重変異体T33DS35D Bikは、インビトロにおけるアポトーシスアッセイ法、および腫瘍成長のエクスビボアッセイ法で、3種類のBik変異型のなかで最強の変異体なので、以下のインビボ試験で野生型Bikと比較するために、Bik T33DS35D(Bik DD)を3種類のBik変異型の代表として用いた。次に、確立した腫瘍を有するマウスに、SN-野生型Bik、SN-Bik T33DS35D、またはSN-pcDNA3を投与した。SN-Bik T33DS35Dの注入は、マウスの腫瘍成長を、SN-Bik投与マウスおよびSN-pcDNA投与マウスと比較して有意に阻害した。
【0241】
具体的には、図5Aに示すように、同所性のヒト乳癌MCF-7細胞(乳房脂肪体、1匹あたり4x106個の細胞、各マウスの皮下に0.72 mgの17β-エストラジオールペレットを播種の2週間前に移植)、および異所性のヒト前立腺癌PC3細胞(皮下に1x106個の細胞)のマウスモデルを使用した。1週間後に、腫瘍のあるマウスをランダムに3群に分けた(各5匹)。1つの群にはSN-DNAを複数回注入し(15 μg DNA/匹、週3回、全12回)、同所性乳癌を静脈注射で、異所性前立腺癌を腫瘍内注射で注入し、他の群には、同じ用量のSN-pcDNA3を注入した。腫瘍体積の測定は毎週行った。図5Bから、SNで送達した変異型Bik遺伝子が、同所性または異所性のヒトの癌を有するマウスの寿命を有意に延長したことがわかる。図のデータは、5匹の個別のマウスの平均±標準偏差を示す(バー=SD)。
【0242】
第3〜5週までに、SN-Bik投与マウスの腫瘍体積の平均は、SN-Bik T33S35D投与マウスより、2つのモデルで大きかった。最も有意な腫瘍抑制効果は、第8週および第9週までに認められ、野生型と変異型の投与群間で、腫瘍体積に約2〜3倍の差が認められた(P<0.05;図5A)。SN-Bik T33S35Dの投与では、SN-野生型Bikで投与された対照群と比較して、投与マウスの生存率が有意に高められた(P<0.05;図5B)。生存期間の中央値は、MCF-7細胞では、Bik T33S35Dの投与時は175日であり、またBikでは112日であり、PC3細胞では140日と105日であった。この結果から、SN-Bik T33S35Dが、これらのヒト癌モデルで腫瘍成長を約50%阻害し、また生存率を有意に高めることがわかる。
【0243】
非ウイルス遺伝子送達系(SN)およびアポトーシス促進遺伝子bikを含む、乳癌に対する全身的遺伝子治療法が開発されている。SN-Bik遺伝子複合体は、4種類の乳癌細胞系列でインビトロで、またヌードマウスの同所性の腫瘍組織で、有意なアポトーシスを誘導した(Zou et al., 2002)。全身投与されたSN-Bikは、ヌードマウスに移植されたヒト乳癌細胞の成長および転移を有意に阻害し、また投与個体の寿命を延長した。Bik遺伝子は、p53に依存しないアポトーシスの強力な誘導因子である。Bad(Wang et al., 1999)、およびBid(Desagher et al., 2001)と同様に、Bikは、リン酸化(残基スレオニン33およびセリン35)による調節を受ける。Badとは異なり、リン酸化は、Bikのアポトーシス促進力を高める。この機構は現時点で不明であるが、おそらくは、カゼインキナーゼII関連酵素が関与すると考えられる(Verma et al., 2000)。ホスファターゼPP2Aは、この機能を負に調節している可能性がある(Klumpp and Krieglstein, 2002)。Bikの翻訳後におけるリン酸化は、特定の態様では、不活性な複合体からの解放、および抗アポトーシスBcl-2相同物に対する親和性または接触性の上昇を引き起こす、構造上の変化を生じる。
【0244】
この結果から、Bik変異型(T33D、S35D、およびT33DS35D)のトランスフェクションが、さまざまなヒト癌細胞の細胞増殖の阻害およびアポトーシス誘導の促進に関して、またエクスビボおよびインビボのモデルにおけるマウスの腫瘍成長の阻害に関して、野生型(wt)のBikより強力なことがわかった。したがって、この結果から、変異型Bik遺伝子が、細胞死の誘導に関して野生型Bikより強力なこと、またSN-Bikが、癌の治療用薬剤として有用なことがわかる。
【0245】
本明細書に開示された方法は、本発明の文脈において、特定のBik変異型が有用なことを明らかに示している。当業者は、本明細書の記述に従うことで、任意の数の変異体を作製し、その抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、またはこれらの組み合わせを検討することができる。
【0246】
実施例7
治療用薬剤としての例示的なBik変異型の検討
抗腫瘍活性に関連するBik変異型を、細胞系列や細胞培養物などの動物試験で、および/または、前述の実施例に記載されたものに加えて、またはそれ以外のモデルで検討する。本発明の一般的な態様では、変異体は、その抗腫瘍活性を調べるために、リポソーム、アデノウイルスベクター、またはこれらの組み合わせなどのベクターを用いてヌードマウスモデルに送達する。抗腫瘍活性の存在が明らかになれば、免疫学的に正常なマウスを用いて、潜在的な毒性をさらに検討し、その後に臨床試験を行う。
【0247】
特定の態様では、変異型Bikの優先的な成長阻害活性を、動物を対象に検討する。簡単に説明すると、癌細胞系列を、ヌードマウスの乳房脂肪体中に投与して、乳房異種移植モデルとする。本明細書に記載されたように、任意の癌細胞は、その遺伝子型または発現レベルに関わらず(例えばHER-2/neu陽性かHER-2/neu陰性かなどに関わらず)本発明の範囲内にあるが、特定の態様では、HER-2/neuを過剰発現する乳癌細胞系列(例えばSKBR3および/またはMDA-MB361など)を検討目的で使用する。腫瘍が特定の大きさに達したら、Bik変異型および/または野生型Bik対照を、例えば、リポソームなどの許容される担体との混合物の状態で、マウスの静脈内に投与する。このような投与による、腫瘍の大きさ、および生存曲線を比較して統計学的に解析する。好ましい態様では、変異型Bikは、腫瘍の成長阻害に関して、野生型Bikの場合と比較して実質的に同じか、または優れている。
【0248】
実施例8
他のBik変異型の調製
以上の実施例、および本明細書の別の部分に記載された開示のデータを元に、当技術分野における知見に加えて、当業者であれば、他のBik変異型の作製に取組む気になり、また実際に作製することが可能であり、さらには、本発明の文脈における有用性を、本明細書に記載された方法で判定することができる。
【0249】
実施例9
他のBik変異型の検討
本明細書に開示された例示的な変異体以外のBik変異型が作製されたら、関連する細胞系列(群)を対象に、本明細書に記載されたような手順で、細胞培養物を用いて検討を行う。またFACS解析によるBik変異型の検討を、本明細書に記載された手順で行う。また特定の態様では、本明細書に記載された手順で、エクスビボ系またはインビボ系を用いることで、他のBik変異型の検討を行うことができる。
【0250】
実施例10
乳癌、卵巣癌、および膵臓癌の各モデルにおける変異型Bikの抗癌作用
例示的なBik変異型(BikDD)のポリヌクレオチドは、乳癌の同所性モデルで、腫瘍の成長を有意に抑制すること、および生存率を高めることがわかった。ヒトの乳癌細胞MDA-MB-231(2x106細胞)を、ヌードマウスの乳房脂肪体(MFP)に播種した。1週間後に、腫瘍を有するマウスをランダムに5群に分けた(各群5匹または8匹)。全投与群のマウスに、NIH-リポソームを用いて、ベクター(pUK21)、またはBikDD(pUK/BikDD)(15 μg DNA/匹)のいずれかの静脈注射を10週間にわたって毎週行った。対照群のマウスには、5%デキストロース(D5W)を注入した。図6Aに示すように、腫瘍体積を毎週測定して記録した。図6Bに示すように、BikDDは、MDA-MB-231同所性腫瘍を有するマウスの生存率を高めた。図6Aと6Bのデータは、5匹または8匹の個別のマウスの平均および標準偏差を示す。
【0251】
また、Bik変異型(BikDD)の遺伝子は、乳癌の同所性モデルで、腫瘍成長を有意に抑制すること、および生存率を高めることがわかった。ヒトの乳癌細胞MDA-MB-468(3x106細胞)を、ヌードマウスの乳房脂肪体(MFP)に播種した。1週間後に、腫瘍を有するマウスをランダムに5群に分けた(各群9匹または10匹)。全投与群のマウスに、NIH-リポソームを用いて、ベクター(pUK21)、またはBikDD(pUK/BikDD)(45 μg DNA/匹)のいずれかの静脈注射を10週間にわたって毎週行った。対照群のマウスには、5%デキストロース(D5W)を注入した。図7Aに示すように、腫瘍体積を毎週測定して記録した。図2Bに示すように、BikDDは、MDA-MB-231同所性腫瘍を有するマウスの生存率を高めた。図7Aと7Bのデータは、9匹または10匹の個別のマウスの平均および標準偏差を示す。
【0252】
図8に示すように、Bik変異型(BikDD)の遺伝子の投与は、卵巣癌の同所性モデルでマウスの生存率を高める。ヒトの卵巣癌細胞2774(2x106細胞)を、ヌードマウスの腹腔内に播種した。これらのマウスをランダムに3群に分けた(各群10匹)。全投与群のマウスに、NIH-リポソームを用いて、ベクター(pUK21)、またはBikDD(pUK/BikDD)(15 μg DNA/匹)のいずれかの静脈注射を12週間にわたって毎週行った。対照群のマウスには、5%デキストロース(D5W)を注入した。図のデータは、10匹の個別のマウスの平均および標準偏差を示す。
【0253】
図9に示すように、Bik変異型(BikDD)の遺伝子の投与は、膵臓癌の同所性モデルでマウスの生存率を高める。膵臓癌細胞Pan02(5x104細胞)を、ヌードマウスに播種した。これらのマウスをランダムに3群に分けた(各群10匹)。全投与群のマウスに、NIH-リポソームを用いて、ベクター(pUK21)、またはBikDD(pUK/BikDD)(15 μg DNA/匹)のいずれかの静脈注射を11週間にわたって毎週行った。対照群のマウスにはPBSを注入した。
【0254】
実施例11
変異型Bikの癌組織特異的な発現
化学療法(CT)や放射線療法などの現行の癌治療法は、腫瘍細胞に対する選択性が低く、正常組織に副作用を生じる。副作用を最小限に抑えるために、これらの治療法は一般に、治療サイクル間に正常細胞の回復を可能とするように、間欠的に実施される。しかし、回復期間中に、一部の生き残った癌細胞が、遺伝子変異のために投与に対して強い耐性を示すようになる。したがって、癌の再発または進行が起こる恐れがある。腫瘍を標的とする遺伝子治療は、腫瘍に特異的なシグナル伝達経路に作用することによって、投与に伴う副作用および耐性発生リスクを最小限に抑えることができる。本発明では、変異型Bikによる遺伝子治療を、乳癌、膵臓癌、および前立腺癌などを標的とするために、組織特異的なプロモーターを使用する。
【0255】
変異型Bikの乳癌に特異的な発現
変異型Bikの乳癌に特異的な発現では、本明細書に記載された、また本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)に詳述されている2つの例示的なプロモーターを使用する。
【0256】
トポイソメラーゼIIαの乳癌特異的な発現
CMVのエンハンサー(配列番号:25)に機能的に連結されたCT90領域(配列番号:26)などの、トポイソメラーゼIIαの制御配列を含む治療用コンストラクトを作製し、また変異型Bikをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結され、この発現が調節されるようにした、両配列(配列番号:37)を含む複合型コンストラクトを作製した。このコンストラクトは、本明細書に詳述されているが、本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)に詳述されている。BikDD変異型をコードする配列を含む特定の変異型Bikコンストラクトを、これ以降は「CT90-BikDD」と呼ぶことにする。このコンストラクトを、ルシフェラーゼレポーターベクターとともに、乳癌細胞系列MDA-MB-231および468、ならびに正常な乳房上皮細胞系列184A1に同時にトランスフェクトした後に、細胞死滅作用をルシフェラーゼ生存能アッセイ法で判定した。CMVのプロモーターによって駆動されるBikDDベクター(CMV-BikDD)、および空のベクターをそれぞれ陽性対照および陰性対照として使用した。CMV-BikDDは、全3種類の細胞系列を、ほぼ同等に死滅させたが、CT90-BikDDは、もっぱら乳癌細胞を死滅させ(図10)、CT90-BikDDによる死滅作用が乳癌細胞に選択的であることがわかった。したがってCT90は、乳癌を標的とする遺伝子治療に有用である。
【0257】
次に、この乳癌を標的とする遺伝子治療の抗腫瘍効果をインビボで調べた。乳癌MDA-MB-231細胞を乳房脂肪体に播種した1週間後に、ヌードマウスを週1回、リポソームと複合体を形成したCT90-BikDD(治療群)、CMV-BikDD(正の対照)、およびCMV-PGL3(偽投与)、またはデキストロース緩衝液D5W(非投与対照)を投与した。各マウスの静脈内に、15 μgのリポソームDNA複合体コンストラクトを週1回注入し、腫瘍の大きさを定期的に測定した。CT90-BikDD群では、CMV-BikDDまたはCMV-PGL3と比較して、優れた腫瘍抑制作用が認められた(図11)。
【0258】
CT90-BikDD乳癌コンストラクトの治療効果は、リポソームCT90-BikDD複合体が乳癌細胞を標識とする、同所性のマウスモデルでも示された(図12A)。リポソームCT90-BikDD複合体、またはリポソームCMV-BikDD複合体の各コンストラクトを、MDA-MB-468乳癌異種移植片を有するマウスに投与した。これらのマウスを注射の72時間後に殺し、腫瘍および主要臓器を除去して固定した。BikDD mRNAの発現を検出するために、組織切片のインサイチューハイブリダイゼーションを行った。腫瘍および心臓について得られた結果を図に示す。矢印は陽性細胞を示す。図12Bおよび12Dには、遺伝子治療中の腫瘍の大きさの記録を示す。MDA-MB-231乳癌異種移植片を有するマウスに、15 μgのリポソームCT90-BikDD複合体、リポソームCMV-BikDD複合体、空のベクターpGL3、または5%デキストロース(溶媒は水)を静脈内に投与した。各治療群は10匹のマウスで構成した。マウスに週1回(QW、図12B)、または週2回(BIW、図12D)、8週間にわたって投与を行い、腫瘍の大きさを週2回、測定して記録した。CT90とpGL3(P(CT90:pGL3))、およびCMVとpGL3(P(CMV:pGL3))のT検定のp値を示した。図12Cおよび図12Eは、QW群(図12C)またはBIW群(図12E)のマウスの生存記録を示す。投与は第8週に停止し、施設の規則で定義された疾患状態が現れるまでマウスを飼育した。各週の生存個体数を記録した。
【0259】
MDA-MB-468異種移植片マウスを対象とした、Bik-DDによる遺伝子治療の結果を図13に示す。MDA-MB-468乳癌異種移植片を有するマウスに、15 μgのリポソームCT90-BikDD複合体、リポソームCMV-BikDD複合体、空のベクターpUK21、または5%デキストロース(溶媒は水)を、例えば静脈内に投与した。各投与群は10匹のマウスで構成した。マウスに週1回、8週間にわたって投与を行い、腫瘍の大きさを、週2回、測定して記録した。
【0260】
トランスフェリン受容体の乳癌に特異的な発現
発明者らは、本明細書と同時に出願され、参照により本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)に記載されているように、配列番号:27(CTR116)を含むような、トランスフェリン受容体(TR)プロモーターの少なくとも一部が乳癌特異性を有すること、また例えばCMVのプロモーターエンハンサー(配列番号:25)と組み合わせることで、これが、乳癌特異的な有効な発現に関して変異型Bikの発現を調節可能なことも示す。完全なCTR116制御配列(配列番号:38)は、配列番号:27に機能的に連結された配列番号:25を含む。
【0261】
本発明の他の態様では、個々のCT90エレメントおよびCTR116エレメントは、乳癌に特異的な発現活性が保持される、さらにより短いセグメントを同定するために、さらに狭められる場合もある。例えば、これらの個々の領域から欠失コンストラクトを作製することが可能であり、またその組織特異性を検討して、乳癌組織で発現を誘導する能力を維持する、より短いセグメントを同定する。
【0262】
変異型Bikの膵臓癌特異的な発現
発明者らは、変異型Bikのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を制御するために、膵臓癌に特異的なプロモーター配列を使用することができる。1つの特異的であるが例示的な膵臓癌特異的なプロモーターは、本明細書に記載されており、また本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)に詳述されている。
【0263】
一般に、WPREに実施可能に連結された、実施可能に連結された最小CCKARプロモーターおよびTSTAコンストラクト(例えば、TSTA配列はGal4VP2の場合がある)は、変異型Bikの発現ポリペプチドを調節する。2段階転写増幅(活性化)(TSTA)配列は好ましくは、CCKARなどの細胞プロモーターの転写活性を増強する(Iyer, Wu et al., 2001; Zhang, Adams et al., 2002)。この系では、第1の段階は、例えばGAL4-VP16またはGAL4-VP2の融合タンパク質の組織特異的な発現である。第2段階では、GAL4-VP16またはGAL4-VP2が次に、最小プロモーター中のGAL4応答エレメントの制御下で標的遺伝子発現を駆動する。またTSTA配列は、アデノウイルスのE4遺伝子のTATボックスから23塩基離れた位置に位置する5か所の17 bpのGAL4結合部位を含む例として、G5E4T配列(配列番号:36)を含む場合がある(Carey et al., 1990)。変異型Bikの転写後調節を、WPREなどの調節エレメントを用いることで膵臓癌に使用することもできる。したがって、膵臓癌に特異的な発現用の複合型コンストラクトは、少なくともCCKAR(配列番号:28)、GAL4-VP2(配列番号:30または配列番号:33)、G5E4T(配列番号:36)、およびWPRE(配列番号:29)を含む、配列番号:34に含まれる。
【0264】
本発明の特定の態様では、変異型Bikをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結された、前述の、または類似の膵臓特異的なプロモーターを含むコンストラクトを同様に作製し、続いて、本明細書に記載された類似の方法を元に、膵臓癌療法を必要とする哺乳類に導入する。当業者であれば、送達様式や組成物濃度などのパラメータを、容易に最適化することができる。
【0265】
本発明の別の態様では、膵臓癌に特異的なエレメント(群)を、膵臓癌に特異的な発現活性が保持された、1つもしくは複数の、より短いセグメントを同定するために、さらに狭める。例えば、これらの個々の領域から、欠失コンストラクトを作製することが可能であり、またその組織特異性を、膵臓癌組織で発現を誘導する能力を維持する、より短いセグメントを特定するために決定する。
【0266】
変異型Bikの前立腺癌に特異的な発現
前立腺癌に特異的なプロモーター配列を用いて、変異型Bikのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を制御する。1つの特異的であるが例示的な膵臓癌特異的なプロモーターは、本明細書に記載されており、また本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)で詳述されている。特定の態様では、アンドロゲン依存的およびアンドロゲン非依存的の両方の様式で変異型Bikの発現を調節する、前立腺癌に特異的なプロモーターを使用する。
【0267】
一般に、hTERTプロモーターは、好ましくは細胞プロモーターの転写活性を高める2段階転写増幅(活性化)(TSTA)配列に機能的に連結される(Iyer, Wu et al., 2001; Zhang, Adams et al., 2002)。GAL4-VP16融合タンパク質またはGAL4-VP2融合タンパク質を使用することができる。この系では、第1段階は、GAL4-VP16(または、例えばGAL4-VP2)融合タンパク質の組織特異的な発現である。第2段階では、GAL4-VP16は、最小プロモーター中のGAL4応答エレメントの制御下で標的遺伝子発現を駆動する。TSTAの使用は好ましくは、導入遺伝子の発現レベルの増幅に至る。同プロモーターはさらに、ARR2前立腺癌特異的エレメント(配列番号:31)を含む。RNAのポリアデニル化、RNAの輸送、および/またはRNAの翻訳の修飾に関与する、ウッドチャック肝炎ウイルス(WPRE)の転写後調節エレメント(Donello、Loeb et al., 1998)をpARR2-hTERT-TSTAに機能的に連結すると、pARR2.hTERTp-TSTA-変異型Bik-WPREとなる。本発明の特定の局面では、同プロモーターは、アンドロゲン依存性の前立腺癌、およびアンドロゲン非依存性の前立腺癌の両方に有効である。したがって、前立腺癌に特異的な発現用の複合型コンストラクトは、少なくともARR2(配列番号:31)、hTERT(配列番号:32)、GAL4-VP2(配列番号:30または配列番号:33)、G5E4T(配列番号:36)、およびWPRE(配列番号:29)を含む、配列番号:35に含まれる。
【0268】
本発明の別の態様では、個々の前立腺癌特異的なエレメント(群)を、前立腺癌に特異的な発現活性が保持された、1つもしくは複数の、さらにより短いセグメントを同定するために、さらに狭める。例えば、これらの個々の領域から欠失コンストラクトを作製することが可能であり、また、その組織特異性を検討して、前立腺癌組織で発現を誘導する能力を維持する、1つもしくは複数の、より短いセグメントを同定する。
【0269】
実施例12
臨床試験
この実施例は、Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸を単独で、または他の抗癌剤と組み合わせて用いる、ヒトを対象とした治療プロトコルの開発に関する。Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸、および抗癌剤の投与は、例えば、形質転換細胞または癌性細胞が重要な役割を果たすAktの活性化が関与する、さまざまな癌の臨床治療に用いられる。このような投与は抗腫瘍療法に、例えば、従来の化学療法に耐性を示す、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、結腸癌、および肺癌の患者の治療に、特に有用なツールとなると思われる。
【0270】
患者の治療およびモニタリングを含む、臨床試験を実施するためのさまざまな要素は、本開示に鑑みて、当業者であれば理解する。以下の情報は、Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸を臨床試験で確立する際に用いられる一般的なガイドラインとして提示する。
【0271】
臨床試験に選択される、進行性で転移性の乳癌、上皮卵巣癌、膵臓癌、結腸癌、または他の癌の患者は、典型的には、癌を発生するリスクが高く、現時点で回復期にある癌治療を過去に受けたことがあり、または、少なくとも1通りの従来の治療法に反応が不良の場合がある。例示的な臨床プロトコルでは、患者は、胸腔または腹腔内にTenckhoffカテーテル、または他の適切な装置の留置を受ける場合があり、また、胸水/腹水の連続的なサンプリングを受ける場合がある。典型的には、胸腔または腹腔の既知の被包化が見られないこと、クレアチニン濃度が2 mg/dl未満であること、およびビリルビン濃度が2 mg/dl未満であることが判定されることが望まれる。このような患者は、正常の凝固プロファイルを示すはずである。
【0272】
Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸、および他の抗癌剤の投与に関しては、Tenckhoffカテーテル、またはこれ以外の装置を、同装置が既に、過去の外科手術から存在する場合を除いて、胸腔または腹腔中に留置することができる。胸水または腹水の試料を得ることで、体液中における、ベースラインの細胞特性、細胞状態(cytology)、LDH、および適切なマーカー(CEA、CA15-3、CA125、PSA、p38(リン酸化型および非リン酸化型)、Akt(リン酸化型および非リン酸化型)が、また細胞中におけるマーカー(Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはこれらをコードする核酸)を評価して記録するように得られる場合がある。
【0273】
同じ手順で、Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸を単独で、または他の抗癌剤と組み合わせて投与することができる。投与は、胸腔/腹腔中に、腫瘍内に直接、または全身に行うことができる。開始用量は、0.5 mg/kg体重とすることができる。3人の患者を対象に、グレードが3を上回る毒性が認められない場合に、個々の用量レベルで投与される場合がある。用量の増加は、100%の増分(0.5 mg、1 mg、2 mg、4 mg)で、薬剤関連のグレード2の毒性が検出されるまで実施することができる。この後の用量の増加は25%の増分で行うことができる。投与用量は、Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸のロット、および抗癌剤のロットに関して決定される、混合エンドトキシンレベルが、任意の患者について5 EU/kgを超える場合には、6時間をおいて2回の注入に等分割することができる。
【0274】
Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸、および/または他の抗癌剤の組み合わせを、短い注入時間で、または7〜21日の期間をかける一定速度の注入によって投与することができる。Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸の注入は、単独で、または抗癌剤および/またはエモジン様チロシンキナーゼ阻害因子と組み合わせて実施することができる。任意の用量レベルで行う注入は、各注入後に生じる毒性に依存する。したがって、仮に任意の単回注入後に、または一定速度による注入時の特定の期間に、グレードIIの毒性に達したら、毒性が改善するまで、投与の続行を控えるか、一定速度の注入を停止すべきである。Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、または変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸の、抗癌剤と組み合わせた時の用量増加は、約60%の患者が、どのカテゴリーにおいても受け入れられないグレードIIIまたはIVの毒性を示すまで患者群に対して実施される。この値の2/3の用量を、安全な用量と定義することができる。
【0275】
理学的検査、腫瘍の測定、および臨床検査は、言うまでもなく、治療前に、また約3〜4週の間隔をおいた後に実施すべきである。疾患の程度を見極めたり、既存の症状の原因を突きとめたりするために、臨床試験には、CBC、全細胞数の測定、および血小板数の測定、尿検査、SMA-12-100(肝機能および腎機能の試験)、凝固プロファイル、ならびに他の任意の適切な化学試験を含めるべきである。例えば、CEA、CA15-3、p38(リン酸化型および非リン酸化型)、ならびにAkt(リン酸化型および非リン酸化型)、p185などの、血清中の適切な生物学的マーカーのモニタリングも行うべきである。
【0276】
疾患の経過を追跡し、抗腫瘍反応を評価するためには、患者が適切な腫瘍マーカーに関して検討を4週毎に(仮に当初異常があれば週2回)、4週間におけるCBC、全細胞数、および血小板数の検査を受けるべきであることが対象となる(骨髄抑制が見られない場合は毎週の観察)。仮に、いずれかの患者に長期の骨髄抑制が認められれば、汎血球減少症の原因として骨髄への腫瘍浸潤の可能性を除くために、骨髄検査の実施が推奨される。凝固プロファイルは4週毎に得るべきである。SMA-12-100は、毎週実施すべきである。胸水/腹水試料は、初回投与の72時間後に得るべきであり、その後は、最初の2回は週1回得るべきであり、その後は、進行が見られる場合、または試験の終了時までは4週毎に得るべきである。細胞特性、細胞状態、LDH、および体液中の適切なマーカー(CEA、CA15-3、CA125、ki67、およびアポトーシスを測定するためのTunelアッセイ法、Akt)、および細胞中の適切なマーカー(Akt)を評価することができる。測定可能な疾患が認められる場合、腫瘍の尺度を4週毎に記録する。腫瘍の反応を評価するためには、適切な放射線試験を8週毎に繰り返し行うべきである。治療の開始から4週後および8週後に、また試験参加の終了時に、肺活量測定およびDLCOを繰り返し行うことがある。尿検査を4週毎に実施する場合がある。
【0277】
臨床反応は、許容される尺度で定義される場合がある。例えば、完全反応は、全ての測定可能な疾患の少なくとも1か月間にわたる消失と定義される場合がある。一方で、部分的反応は、評価可能な全ての腫瘍結節の垂直方向の直径の積の合計の50%またはこれ以上の減少、または拡大を示す腫瘍部位が少なくとも1か月間、存在しないことと定義される場合がある。同様に、混合反応は、1か所もしくは複数の部位における進行が見られる、測定可能な全ての病巣の垂直方向の直径の積の50%またはこれ以上の減少と定義される場合がある。
【0278】
参考文献
本明細書で言及された全ての特許および出版物は、本発明が属する技術分野の当業者の水準を意味する。全ての特許および出版物は、個々の出版物が具体的かつ個別に、参照により本明細書に組み入れられることが示されたように、その全体が参照により本明細書に、同程度に組み入れられる。
【0279】
特許
出版物
【0280】
本発明、および本発明の利点を詳細に説明したが、特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から解離することなく、本明細書において、さまざまな変更、置換、および改変が可能なことを理解すべきである。また、本出願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機器、製造法、組成物、手段、方法、および段階の特定の態様に制限されることは意図されない。当業者であれば、本発明の記述から容易に理解するように、現時点で存在するまたは本明細書に記載された態様と実質的に同じ機能を果したり、実質的に同じ結果を達成したりするように将来開発されるプロセス、機器、製造法、組成物、手段、方法、または段階を、本発明に従って利用可能な場合がある。したがって、特許請求の範囲は、このようなプロセス、機器、製造法、組成物、手段、方法、または段階を、このような範囲に含むことを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0281】
【図1A−F】Bik変異型の発現が、さまざまなヒト癌細胞系列で、より強力な成長阻害作用を示すことを示す。
【図2】Bik変異型が、さまざまなヒト癌細胞系列で、より強力な細胞死滅作用を示すことを示す。
【図3】Bik変異型が、他のヒト癌細胞系列で、強力な細胞死滅作用を示すことを示す。
【図4A−B】Bik変異型が、エクスビボアッセイ法で、より強力な腫瘍抑制効果を示すことを示す。
【図5A−B】SNで送達された変異型Bik遺伝子が、マウスでヒト腫瘍の成長を有意に阻害することを示す。
【図6A−B】例示的なBik変異型(BikDD)のポリヌクレオチドが、乳癌の同所性モデルにおいて、腫瘍成長の有意な抑制および生存率の上昇を示したことを示す。図6Aには、毎週測定して記録した腫瘍の体積を示す。図6Bには、BikDDが、MDA-MB-231同所性腫瘍を有するマウスの生存率を高めたことを示す。
【図7A−B】Bik変異型(BikDD)の遺伝子が、乳癌の同所性モデルにおいて、腫瘍成長の有意な抑制および生存率の上昇を示したことを示す。図7Aには、毎週測定して記録した腫瘍の体積を示す。図7Bには、BikDDが、MDA-MB-231同所性腫瘍を有するマウスの生存率を高めたことを示す。
【図8】Bik変異型(BikDD)の遺伝子の投与が、卵巣癌の同所性モデルでマウスの生存率を高めることを示す。
【図9】Bik変異型(BikDD)の遺伝子の投与が、膵臓癌の同所性モデルでマウスの生存率を高めることを示す。
【図10】さまざまな細胞系列を対象とした、CT90BikDDおよびCMV-BikDDのインビトロ死滅アッセイ法を示す。Y軸の値は、処理後の生存細胞のパーセンテージを示す。
【図11】CT90-BikDD遺伝子治療のインビボにおける抗腫瘍効果を示す。乳癌細胞系列MDA-MB-231をマウスに播種し(2.5x106個/匹)、リポソーム結合CT0-BikDD、CMV-BikDD、空のベクターpGL3、およびデキストロース緩衝液D5W(非投与対照)を週1回投与した。腫瘍の大きさ(Y軸の値)は、投与中に週2回測定し、図に示した。X軸は投与日を示す。
【図12A−E】例示的な同所性マウスモデルにおけるCT90-BikDD乳癌標的遺伝子治療の治療効果を示す。図12Aは、同所性マウスモデルにおいて、リポソームと複合体を形成したCT90-BikDDが乳癌細胞を標的とすることを示す。図12Bおよび12Dには、遺伝子治療中における腫瘍の大きさの記録を示す。マウスへの投与は、週1回(QW、図12B)、または週2回(BIW、図12D)実施した。
【図13】MDA-MB-468異種移植マウスを対象とした、Bik-DDの遺伝子治療の結果を示す。
【図1】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞生物学、分子生物学、癌の生物学、および医学の領域に関する。具体的には、本発明は、癌療法に有用な、抗細胞増殖活性および/またはアポトーシス促進活性を含むBikの変種に関する。なお、本出願は、全体が参照により本明細書に組み入れられる2003年4月2日に出願された米国仮特許出願第60/459,901号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
Bik(nbkとしても知られる)は、Bcl-2相同領域であるBH3ドメインを1つだけ有し、最近になってアポトーシスの必須の開始因子として認識されたアポトーシス促進性のBH3-onlyタンパク質の1つである(Han et al., 1996; Boyd et al., 1995)。Bik遺伝子が位置する第22染色体長腕上の情報量の多い対立遺伝子の欠損は、ヒトの乳癌および結腸直腸癌の発生と関連する可能性がある(Daniel et al., 1999)。18 kDaのBikタンパク質はE1B 19Kと相互作用し、また、さまざまな抗アポトーシスタンパク質、例えばBcl-2やBcl-XLとヘテロ二量体を形成する。この結合は、抗アポトーシスタンパク質の機能を妨げる(Han et al., 1996)。Bikの介在するアポトーシスはBAXを必要とし(Theodorakis et al., 2002)、p53に依存しない(Han et al., 1996)。Bikは、E1Aによってもたらされる生理学的なp53介在性細胞死刺激に反応する、p53の下流のアポトーシスエフェクターでもある(Bartke et al., 2001)。p53の下流で機能するBcl-2の増加、およびBikによるE1A細胞死経路の阻害の誘導(抗アポトーシス性のBcl-2とアポトーシス促進性のBikの比が、E1A発現細胞の細胞死もしくは生存を決定する)(Mathai et al., 2002)。またBikは、腫瘍細胞を特定の化学療法剤に感作可能であり(Daniel et al., 1999)、また化学療法剤の1種である、アポトーシスを誘導するドキソルビシンにBik遺伝子が関与する(Panaretakis et al., 2002)。これらの事実は全て、Bikが、ヒトの癌を標的とする有用な治療用遺伝子であることを示唆する。
【0003】
BH3-onlyタンパク質は、その発現パターンおよび活性化の様式が異なり、また多くのBH3-onlyタンパク質の活性化には翻訳後修飾が必要である(Puthalakath and Strasser, 2002)。Bikは、その活性がリン酸化によって調節されうるBH3-onlyタンパク質の1種である(Verma et al., 2000)。Vermaらは、Bikがリンタンパク質として存在し、スレオニン33およびセリン35の残基でリン酸化されていることを明らかにし、これらの残基が、おそらくカゼインキナーゼII関連酵素によるBikの十分なアポトーシス活性に必要なことを決定した。すなわちVermaらは、リン酸化部位であるスレオニン残基およびセリン残基に変異(アラニン残基)を導入した。これはBikのアポトーシス活性を減少させる。そしてVermaらは、Bikのアポトーシス促進力には、Bcl-2に対する親和性には大きく影響しない、現時点では不明な機構によるリン酸化が必要であると結論した。
【発明の開示】
【0004】
発明の簡単な説明
本発明は、特に癌に対する新しい治療用のBik変異型組成物および方法を提供する。当業者であれば、癌と闘うための任意の追加の手段が公衆衛生に有益であることを理解する。
【0005】
本発明は、Bikの変異型、また特に、その抗腫瘍効果に関連するシステムおよび方法に関する。Bikは、Bcl-2ファミリーのアポトーシス促進タンパク質である。本発明で発明者らは、変異型などの非野生型のBikが、強力な抗腫瘍活性をインビボとインビトロの両方の系で発揮するという新たな知見を示す。Vermaら(2000)の記述とは対照的に、本明細書に記載された例示的な変異型Bikポリペプチドは、同様にBik中にリン酸化部位を含まないものの、強力な抗腫瘍活性、抗細胞増殖活性、および/またはアポトーシス促進活性を有し、またいくつかの態様では、野生型のBikより強力である。すなわち、本明細書に記載された実施例は、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドによるトランスフェクションが、さまざまなヒトの癌でアポトーシスを誘導することを示す。この事実は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、および前立腺癌などの癌の遺伝子治療における変異型Bikポリヌクレオチドなどの治療薬などの組成物、およびこれを本発明に使用する方法を提供する。
【0006】
したがって本発明は全体として、増殖を阻害する有効量で変異型Bikポリペプチドを細胞に接触させる段階を含む、癌細胞および/または腫瘍細胞の増殖を阻害する方法に関する。本明細書で言及される変異型Bikポリペプチドは、抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、および/または抗腫瘍活性を有する変異型である。増殖の阻害は例えば、例示的な態様において、細胞のアポトーシスの誘導(例えば細胞培養物中におけるもの)、癌細胞系列の成長の阻害、腫瘍のサイズの縮小、および/または生存率の上昇などによって示されうる。より好ましくは、いくつかの態様では、増殖が阻害される細胞は、生物(例えばヒト)を構成する細胞である。このような形質転換の阻害は、癌、腫瘍形成、および/または転移などの、形質転換によって駆動される現象の予防および/または治療に極めて有用である。
【0007】
変異型Bikポリペプチドは、当業者に既知の任意のさまざまな手法で細胞に接触させたり、細胞に導入することができる。変異型Bikポリペプチドは、変異型Bikポリペプチドを細胞内に直接導入することで導入できる。この場合、変異型Bikポリペプチドは、当技術分野で既知の任意の方法で得ればよいが、細胞内における(例えば細胞培養系における)変異型Bikポリペプチドのインビトロにおける産生が、変異型Bikを得るための好ましい手法であることが予想される。
【0008】
変異型Bikは、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することで細胞内に導入することもできる。例えば、BikをコードするRNAまたはDNAを、当技術分野で周知の任意の手順で細胞に導入することができる。特定の好ましい態様では、変異型Bikを、変異型BikをコードするDNAセグメントを導入することで細胞内に導入する。このようないくつかの態様では、DNAセグメントが、その関連制御配列に機能的に連結された変異型Bik遺伝子(または変異型Bikポリヌクレオチド)をさらに含むことが想定される。例えば、bik遺伝子は、適切なプロモーター配列および適切なターミネーター配列に機能的に連結することができる。このような遺伝子/制御配列DNAコンストラクトの構築は当技術分野で周知である。特定の態様では、プロモーターは、CMV、テロメラーゼ、TCF-4、またはVEGFからなる群より選択される。しかし、特定の態様では、コンストラクトは、例えば例示的な乳癌、前立腺癌、または膵臓癌を含む癌に組織特異的なプロモーターなどの組織特異的なプロモーターを含む。
【0009】
導入に関する、ある態様では、DNAセグメントをベクター(例えばプラスミドベクターまたはウイルスベクター)上に配置することができる。ウイルスベクターは例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、およびアデノ関連ウイルスからなる群より選択することができる。このようなDNAセグメントを、本発明に関連するさまざまな方法で使用することができる。本発明の遺伝子治療の態様の1つでは、このようなベクターを、変異型Bik遺伝子を細胞に送達するために使用することができる。また、このようなベクターは、培養細胞の形質転換に使用可能であり、また、このような培養細胞をインビトロにおける変異型Bikの発現に特に使用することができる。
【0010】
本発明は、あらゆる種類の癌に有用である。というのは、本明細書に例示的な態様において記載されたような変異型Bikは、成長因子受容体やAKT経路などの、多くの癌細胞が採用するその生存戦略に関わらず癌細胞を死滅させるからである。特定の態様では、変異型Bikは、例えば肉腫、肺癌、脳腫瘍、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、肝臓癌、膀胱癌、消化器癌などの固形腫瘍、ならびに白血病、リンパ腫、および骨髄腫などの血液の悪性腫瘍に有効である。例示的な態様では、本発明は、エストロゲン受容体陽性であるか、EGF受容体を過剰発現しているか、Her2/neuを過剰発現しているか、Her-2/neuを過剰発現していないか、Aktを過剰発現するか、アンドロゲン依存性であるか、またはアンドロゲン非依存性である癌に有用である。すなわち、変異型Bikは、Her-2/neu、EGFR、AKTなどの癌遺伝子の過剰発現の状態に関わらず、あるいは、成長がホルモン(例えばMCF-7など)に依存するか、または依存しないか(例えばPC3など)に関わらず、癌細胞に有効である。
【0011】
例えば、以下を含む少なくとも6種類の例示的な種類の癌、または血管由来の細胞から検討された細胞系列に対する変異型Bikの有効性を示す特定のデータが本発明に含まれる:(1)乳癌の場合は、MCF-7(エストロゲン受容体陽性)、MDA-MB-468(EGF受容体を過剰発現)、およびMDA-MB-231など;(2)内皮細胞の場合は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(変異型Bikの抗血管形成作用を示す);(3)頭頚部癌の場合はTU138やTU167など;(4)黒色腫の場合はB16F10など;(5)卵巣癌の場合は、SKOV-ip1(Her-2/neuを過剰発現)、SKOV(Her-2/neuを過剰発現しない)、および2774(Aktを過剰発現)など;ならびに(6)前立腺癌の場合はPC3(アンドロゲン非依存性の成長)など。
【0012】
特定の態様では、変異型Bikを、ヒト細胞である細胞内に導入する。多くの態様では、このような細胞は腫瘍細胞である。現時点で好ましいいくつかの態様では、このような腫瘍細胞は、乳房の腫瘍の細胞、前立腺の腫瘍の細胞、卵巣の腫瘍の細胞、または膵臓の腫瘍の細胞である。しかしながら、変異型Bikは、膀胱癌細胞、精巣癌細胞、結腸癌細胞、皮膚癌細胞、肺癌細胞、胃癌細胞、食道癌細胞、脳腫瘍細胞、白血病細胞、肝臓癌細胞、子宮内膜癌細胞、または頭頚部癌細胞を含むがこれらに限定されない他の細胞に導入することができる。いくつかの態様では、変異型Bik組成物を注射で導入する。特定の態様では、変異型Bik組成物はリポソーム中に含まれる。
【0013】
Bik変異型が増殖を阻害可能であるという発明者らの発見は、本発明のいくつかの態様では、他の抗形質転換/抗癌療法と組み合わせて使用される。このような他の治療法は、本出願の時点において知られていてもよく、本出願の提出日以降に明らかになったものでもよい。Bik変異型は例えば、他の治療用ポリペプチド、他の治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、化学療法剤、外科的方法、または放射線照射と組み合わせて使用することができる。例えば、変異型Bikを、TNFαやp53などの他の既知のポリペプチドとともに使用することができる。Bikと組み合わせて使用することが可能な他のアポトーシスのポリペプチド誘導因子には、p53、Bax、Bak、Bcl-x、Bad、Bim、Bok、Bid、Harakiri、Ad E1B、Bad、およびICE-CED3プロテアーゼなどが含まれるがこれらに限定されない。
【0014】
変異型Bikは、任意の適切な化学療法剤とともに使用することができる。1つの代表的な態様では、化学療法剤はタキソールである。変異型Bikは、放射線療法ともに使用することもできる。放射線療法を構成する電離放射線照射の種類は、X線、γ線、およびマイクロ波からなる群より選択することができる。ある態様では、電離放射線の照射を放射線外照射によって、または放射性核種の使用によって行うことができる。変異型Bikは、他の遺伝子治療法にも使用することができる。特定の態様では、変異型Bikを腫瘍内に導入する。腫瘍は、動物(特にヒト)の体内に存在する場合がある。
【0015】
本発明のBik変異型の遺伝子産物およびポリヌクレオチドは、任意の適切な方法で導入することもできる。導入の「適切な方法」は、変異型Bikの遺伝子産物を、腫瘍細胞の増殖を抑える位置に配することである。例えば、注射、経口、および吸入などの方法を使用することが可能であり、当業者であれば、任意の状況に適した導入法を決定することができる。注射が用いられる態様では、注射は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腫瘍内、胸膜内、または他の任意の適切な形態とすることができる。
【0016】
本発明の他の特定の局面では、適切な容器内に、変異型Bikの遺伝子産物、または変異型Bik遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドの薬学的製剤を含む治療用キットが提供される。このようなキットはさらに、治療用ポリペプチドの薬学的製剤、治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および/または化学療法剤を含みうる。
【0017】
本明細書で用いる「変異型Bik」という表現は、変異型Bikが、抗腫瘍活性、抗細胞増殖活性、および/またはアポトーシス促進活性を有する限りにおいて、Bikポリヌクレオチドまたはポリペプチドを有する任意の生物種に由来するBikポリヌクレオチドまたはポリペプチドを意味する(変異型Bikは、天然のBik、またはこれをコードする対応するポリヌクレオチドと比較して少なくとも1つの変化したアミノ酸を含む)。このような変化は、例えば付加的なアセチル基を含む変化のような修飾型アミノ酸を含む場合がある。またはこのような変化は、少なくとも1つの特定のアミノ酸の位置上における少なくとも1つの置換されたアミノ酸を含む場合がある変化を含みうる。特定の態様では、変異型Bikは、少なくとも1つのアミノ酸に関する少なくとも1つの変化を含むが、本明細書に記載された目的に有用な抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、および/またはこれらの組み合わせは保持している。場合によっては、変異型Bikは、天然のBikより優れた抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、および/またはこれらの組み合わせを示す。他の状況では、変異型Bikは、天然のBikと同程度の抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、および/またはこれらの組み合わせを有する場合がある。他の場合には、変異型Bikは、天然のBikに対して、抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、および/またはこれらの組み合わせが減じている場合がある。言うまでもなく、天然のBikまたは他の変異型Bikにおける同じ1つもしくは複数の重要な活性より実質的に弱い1つもしくは複数の重要な活性を含む大半の変異体は、本発明で全ての態様に有用である可能性は低くなる。しかし当業者であれば、本明細書の記述および当技術分野の知識を鑑みて、本発明の特定の態様で有用性をもつ、このような変異体を選択することができる。
【0018】
抗腫瘍活性、抗細胞増殖活性、および/またはアポトーシス促進活性は、変異型Bikが由来する生物以外の生物に有用な場合がある。例えばヒトのBikは本明細書において例示的な態様で使用されるが、マウスのBikをヒトの治療に代替的に、または追加的に使用することができる。任意の生物種に由来する変異型Bikは任意のアミノ酸が変化しうる。さらにヒトのBikは、特定の残基(群)が変異している場合があり、また治療に有用なことがわかっており、また類似の残基(群)の置換を有する変異型のマウスBikが有効な場合もある。特定の態様では、マウスのBikポリペプチドは、少なくとも1か所の変化したリン酸化部位を含み、また当業者であれば、ヒトのBikに関する本明細書上の記述を元に、マウスのBikにおける類似の変化の導入法を知ることができるであろう。別の特定の態様では、変異型のマウスBikでは、セリン27、スレオニン29、セリン31、および/またはこれらの組み合わせが置換される。
【0019】
言うまでもなく、Bikには、任意の数の理由で変異を導入可能であり、また当業者であれば、リン酸化部位を除去する以外の目的で、ならびに/あるいは、抗腫瘍活性、抗細胞増殖活性、および/またはアポトーシス促進活性を有効にするか、もしくは保持する目的で、Bikポリペプチド中、またはこれをコードする核酸中に作られる、望ましい変異が存在する可能性があることを承知している。例えば、変異は、Bikポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドが治療目的にさらに適するように導入することができる。例えば、ポリペプチドの抗原性を低下させる修飾、ポリペプチドの領域を除去する修飾、ポリペプチドの核局在を促進する修飾、ポリペプチドの半減期を延長させる修飾などを導入することができる。
【0020】
野生型と比較して特定の変異体の有効性を決定するための少なくとも1つのアッセイ法が、本明細書の少なくとも実施例に記載されており、当技術分野の他のアッセイ法を使用することができる。特定の態様では、天然のBikより実質的に弱い少なくとも1つの活性を含む変異体は望ましくなく、また本発明の範囲に含まれない。
【0021】
具体的には本発明は、細胞の成長、生存、または増殖の制御に関連するBikの特定の変異型に関する方法および組成物に関する。特定の態様では、細胞の成長の制御は、癌または再狭窄の治療に有用である。具体的には本発明は、リン酸化されていないか、または低レベルでリン酸化されているポリペプチドを生じる1つもしくは複数のアミノ酸置換を有する変異型Bikポリペプチドが抗腫瘍応用に有用なことを当業者に開示する。特定の態様では、発明者らは、変異型Bikが、リン酸化を減じたり消失したりする場合があること、またこのような変異型Bikで処理された形質転換細胞の成長の抑制に至ることを示す。特定の態様では、例えばAspまたはGluが置換されると、これらの部位でポリペプチドがリン酸化されなくなり、このようなBik変異型による処理時に形質転換細胞の成長の抑制に至る。言うまでもなく本発明は、アミノ酸の置換がAspまたはGluのいずれかにおける態様に制限されない。むしろ、Bikのリン酸化を妨げる任意のアミノ酸の任意のアミノ酸との置換が本発明の範囲に含まれる。特定の態様では、Thr33および/またはSer35における置換の対象となるアミノ酸はアラニンではない。別の特定の態様では、少なくとも1か所のアミノ酸置換は、例えば、アミノ酸であるアスパラギン酸またはグルタミン酸などの、少なくとも1つの酸性特性を有する。したがって、本発明の目的の1つは、ポリペプチドのリン酸化の失敗につながる、また好ましくは結果として得られるBik変異型が、抗細胞増殖力、抗腫瘍力、アポトーシス促進力、またはこれらの組み合わせを含むようになるための、Bikポリペプチド中における少なくとも1か所の修飾に関する。
【0022】
当業者であれば、類似のアミノ酸に対する変異、もしくはそれ以外の変異を、Bikとは異なる部位に導入可能なこと、またこのような変異型の一部が、本明細書に記載された例示的な態様と同じ活性を有する場合があることを理解する。例えば、Bik中のいずれかの位置に存在するスレオニン、セリン、または他の適切なアミノ酸は、例示的なアスパラギン酸またはグルタミン酸などと置換可能である。当業者であれば、天然のBikとは異なる変化を導入するためのBik配列を提供する国立生物工学情報センター(NCBI)のGenBankデータベースなどの公開データベース、またはCelera Genomics、Inc. (Rockville, MD)などの商用データベースが存在することを承知している。例示的なBikポリペプチド配列には、配列番号:3(AAC50413;NP_001188;AAF01156;AAC79124;CAA62013;およびS58214);ならびに配列番号:4(AAC40079およびNP_031572)などがある(括弧内はGenBankアクセッション番号)。例示的なBikポリヌクレオチド配列には、配列番号:5(AY245248)および配列番号:6(NM_001197)などがある(括弧内はGenBankアクセッション番号)。
【0023】
したがって、本発明は、Bikにおけるさまざまな変異に関するガイダンスを提供する。したがって本発明は、細胞増殖の阻害および/または細胞死の促進を含む、細胞成長制御の全般的技術に対する新しい改善に関する。特定の態様では、細胞増殖の阻害は、増殖速度の遅延、全細胞数の増殖の遅延、またはこの両方を含む。
【0024】
当業者であれば、Bikポリペプチド中の任意の部位が、本明細書に記載されたような組成物となるように修飾可能であること、またさらに、複数の部位が修飾可能なことを理解する。当業者であれば、約160アミノ酸(生物種に依存する)のBikポリペプチド中に、限られた数の修飾部位が存在することを承知している。また当業者であれば、修飾対象の標準的なアミノ酸が20種類しかないことを理解しており、また本明細書では、このような修飾を導入する方法に関するガイダンスが提供される。また、本発明の記述を読んだ当業者であれば、本明細書の記述、および当技術分野の他の方法を元に、抗腫瘍効果、抗細胞成長効果、および/またはアポトーシス促進効果を検討する方法を理解する。したがって、特定の修飾を検討することは、当業者に過度の実験を強いるものではない。
【0025】
したがって、本明細書に記載されたガイダンスに基づき、本発明は、細胞の増殖または細胞の生存促進の阻害を招くBikの変異型ポリペプチドに関する。特定の態様では、本発明は、例えばBik T33D、S35D、および二重変異型T33DS35Dを含む変異型に関する。
【0026】
本発明の目的に従うと、対象組成物は変異型Bikポリペプチドである。例えば、このような組成物はアミノ酸の置換を含む。特定の態様では、このような置換は、非置換型Bikポリペプチドのリン酸化を招く条件下でBikポリペプチドのリン酸化を妨げる。他の特定の態様では、置換はThr33からAsp33への置換、もしくはSer35からAsp35への置換、またはこの両方である。他の特定の態様では、組成物はさらに、Bikポリペプチドが分散した薬理学的に許容される賦形剤中の組成物として定義される。他の特定の態様では、組成物はキット中の適切な容器に収められている。
【0027】
本発明の別の目的は、変異型Bikポリペプチドを個体に投与する段階を含む、個体の細胞の成長を妨げる方法である。別の特定の態様では、ポリペプチドの投与にはリポソームを用いる。他の特定の態様では、ポリペプチドはさらに、例えばHIV Tatやペネトラチン(penetratin)などのタンパク質導入ドメイン(protein transduction domain)を含む。
【0028】
本発明の別の目的は、変異型Bikポリペプチドをコードする核酸を個体に投与する段階を含む、個体の細胞の成長を妨げる方法である。別の特定の態様では、核酸の投与には、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、リポソーム、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるベクターを用いる。
【0029】
本発明の別の目的は、Bikポリペプチド組成物が薬理学的に許容される賦形剤中に分散している変異型Bikポリペプチド組成物を用いる方法である(組成物は、増殖性細胞疾患の動物に投与される)。
【0030】
本発明の他の目的は、変異型Bikポリペプチドを個体に投与する段階を含む、個体の増殖性細胞疾患を治療する方法である。別の特定の態様では、増殖性細胞疾患は癌である。他の特定の態様では、増殖性細胞疾患は再狭窄である。他の特定の態様では、癌は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、または膵臓癌である。
【0031】
本発明の他の目的は、変異型Bikポリペプチドを細胞に接触させる段階を含む、細胞を処理する方法である。特定の態様では、細胞はヒト細胞である。別の特定の態様では、細胞は動物を構成する。他の特定の態様では、動物はヒトである。他の特定の態様では、ヒトは増殖性細胞疾患である。その他の特定の態様では、増殖性細胞疾患は癌である。他の特定の態様では、癌は、乳癌、卵巣癌、または前立腺癌である。別の特定の態様では、増殖性細胞疾患は再狭窄である。
【0032】
本発明の他の目的では、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、癌性組織を標的とする任意のプロモーターなどの組織特異的なプロモーターによって調節される。非癌性組織よりも癌性組織を優先的に標的とする任意のプロモーターでよいが、特定の態様では、癌特異的なプロモーターは例えば、乳癌特異的なプロモーター、前立腺癌に特異的なプロモーター、または膵臓癌に特異的なプロモーターである。
【0033】
特定の態様では、乳癌に特異的なプロモーターは、乳癌に特異的な配列を含み、また他の態様では、組織特異的な配列の発現レベルなどの発現を高めるエンハンサー配列を含む。特定の態様では、CMVのプロモーターエンハンサー配列は、例示的なトポイソメラーゼIIα(topo IIα)プロモーター、または例示的なトランスフェリン受容体プロモーターに由来する乳癌に特異的なセグメントに連結されている。これらは、正常組織に対する毒性の弱い原発性および転移性の乳癌を標的としたり、また治療したりするための遺伝子の標的送達に有用である。
【0034】
別の態様では、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現は、膵臓癌に特異的なプロモーターによって調節される。特定の態様では、少なくとも最小コレシストキニンA受容体(CCKAR、-726〜+1ヌクレオチド)、2段階転写系配列、およびウッドチャック肝炎ウイルスの翻訳後調節エレメント(WPRE)を含む、本明細書ではCTPと呼ばれるプロモーターなどの、新しい膵臓癌特異的なプロモーターが使用される。このように作製されたコンストラクトは強力なプロモーター活性を有し、またインビトロおよびインビボで変異型Bikを発現させる際に膵臓癌細胞に対する特異性を示す。
【0035】
本発明の別の特定の態様では、前立腺癌に特異的なプロモーターが、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を調節する。特定の態様では、本発明では、少なくともヒトテロメラーゼ逆転写酵素の最小プロモーター(hTert)、ウッドチャック肝炎ウイルスの翻訳後調節エレメント(WPRE)、およびアンドロゲン刺激に反応するARR2制御配列を含む、本明細書ではATTPと呼ばれるプロモーターなどの、新しい前立腺癌特異的なプロモーターを使用する。このように作製されたコンストラクトは強力なプロモーター活性を有し、またインビトロでアンドロゲン依存性とアンドロゲン非依存性の前立腺癌細胞の両方に対して特異性を示す。このプロモーターは、前立腺癌中で変異型Bikの遺伝子発現をインビボで特異的に誘導するために使用することができる。
【0036】
ここまで、以下に続く本発明の詳細な説明の理解を助けるために、本発明の特性および技術上の利点について、どちらかといえば広く概説した。本発明の他の特徴および利点を以下に説明する。これは、本発明のクレームの対象となる。開示された概念および特定の態様が、本発明の同じ目的を実施するために他の構造を修飾したり設計したりする際の基礎として容易に使用可能であることは、当業者には明らかであると思われる。このような同等の構築が、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲から解離しないことも当業者には明らかなはずである。その構成と操作法の両方に関して本発明の特徴であると考えられる新しい特性は、他の目的および利点とともに、添付図面と関連して参照することで、以下の記述から適切に理解されると思われる。しかしながら、個々の図面が説明および記述のみを目的とし、本発明を制限する定義とすることを意図しないで提供されることは明瞭に理解される。
【0037】
本発明をさらに深く理解するために、添付図面と併せて以下の記述を参照する。
【0038】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる、「1つの(「a」または「an」)」という表現は、1つもしくは複数の対象を意味する場合がある。請求項(群)で、表現「〜を含む(comprising)」とともに用いる場合は、表現「1つの(「a」または「an」)」は、1つもしくは複数の対象を意味する場合がある。本明細書で用いる「別の(another)」という表現は、少なくとも2つ目もしくはこれ以降の対象を意味する場合がある。
【0039】
本発明は、変異型Bikポリペプチド、および同ポリペプチドをコードする核酸、ならびに変異型Bikの使用に関する方法に関する。このように、例示的な態様において、発明者らは、構成的に活性な可能性のある型として残基スレオニン33およびセリン35をアスパラギン酸アミノ酸に変化させることにより、このようなBik変異型は、癌の遺伝子治療における治療用薬剤となることがわかった。発明者らは過去に、非ウイルス性遺伝子送達系(SN)-bikの全身投与が、ヌードマウスに移植されたヒト乳癌細胞の成長および転移を有意に阻害し、投与個体の寿命を延長させたことを示した(Zou et al., 2002)が、本明細書に記載されているように、Bik変異型もまた、野生型のBikと比較して、インビトロおよびインビボモデルにおいてBik遺伝子産物の抗腫瘍機能を促進しうる。
【0040】
本発明は、ヒトの卵巣癌、膵臓癌、乳癌、前立腺癌、および他の癌を治療するための腫瘍抑制遺伝子としての、アポトーシス促進性のBikポリヌクレオチドの変種に関する。いくつかの態様では、腫瘍の成長および発生を抑制するために、例えばウイルス送達系または非ウイルス送達系のいずれかによって適切なレシピエント動物に送達される。本発明の1つの例示的な態様では、送達されたBik変異型は、アポトーシス機構を介して作用して、腫瘍の成長および発生を抑制する。したがって、本明細書で発明者らは、bikの変種が強力な抗腫瘍活性を発揮し、従来の腫瘍抑制因子のように挙動したことを示す。
【0041】
Bikは当初、E1B 19KやBcl-2と相互作用するBH3ドメインのみを含むタンパク質として同定された。全身投与されたBikは、ヒト乳癌のヌードマウスモデルで腫瘍の成長および転移を有意に阻害した。最近では、翻訳後のリン酸化がBikのアポトーシス促進力を調節可能なことが報告されている。本明細書で発明者らは、さまざまなヒト癌細胞で細胞の増殖を阻害し、またアポトーシスの誘導を促進する際に、Bik変異型が野生型(wt)Bikより強力なことを示した。また、Bik変異型がマウスのエクスビボモデルで腫瘍形成能および腫瘍獲得率を抑制することも示した。また発明者らはマウスのインビボモデルで、Bik変異型-SNリポソームが腫瘍の成長を阻害し、寿命を延長することを示した。このように本発明は、変異型Bikの遺伝子産物を提供する。変異型Bikをコードするポリヌクレオチドは、野生型Bikより強力に細胞死を誘導する。
【0042】
Bikの例示的な変異体であるBik-T33D(スレオニン33→アスパラギン酸)、Bik-S35D(セリン35→アスパラギン酸)、およびBik-T33DS35D(スレオニン33およびセリン35→アスパラギン酸)を作製した。これらの変異体は、本発明の好ましい態様では、癌細胞の成長を選択的に阻害し、また好ましくは野生型Bikより強力な抗癌剤である。他の態様では、変異型Bikは他の細胞の増殖を阻害し、また再狭窄の治療、または血管形成の阻害に有用である。当業者は、本明細書の記述に従うことで、Bikポリペプチドの他の例示的な変異体を作製することができる。
【0043】
当業者であれば、Bikの多様な核酸配列およびポリペプチド配列を本発明で使用可能なことを理解する。当業者は、このような配列を提供する国立生物工学情報センター(NCBI)のGenBankデータベースなどの公開データベース、またはCelera Genomics、Inc.(Rockville, MD)などの商用データベースの存在を承知している。例示的なポリペプチド配列には、配列番号:3(AAC50413;NP_001188;AAF01156;AAC79124;CAA62013;およびS58214)、ならびに配列番号:4(AAC40079)などがある(括弧内はGenBankアクセッション番号)。例示的なポリヌクレオチド配列には、配列番号:5(AY245248)、および配列番号:6(NM_001197)などがある(括弧内はGenBankアクセッション番号)。
【0044】
特定の態様では、Bikポリペプチドは、以下のドメインの少なくとも1つを含む:BH3ドメイン(例えば、
);少なくとも1つのE1B 19K相互作用ドメイン(例えば、
);少なくとも1つのBcl-2相互作用ドメイン(例えば、
);および/または、さまざまな抗アポトーシスタンパク質(例えばBcl-2やBcl-XL)を有するような少なくとも1つのヘテロ二量体形成ドメイン(例えば、
);および/または膜貫通ドメイン(例えば、
)を含み、また少なくとも一部のドメインは重複する可能性がある。特定の態様では、Bikポリペプチドは、特定のアミノ酸に実質的に機能的なリン酸化部位を含まないが、別の態様ではBikは、1つもしくは複数の機能的なリン酸化部位を含む場合がある。本明細書で用いる「実質的に機能的でないリン酸化部位」という表現は、Bik分子の大部分が、リン酸化されうる1つもしくは複数の特定のアミノ酸におけるリン酸化能力を欠くことを意味する。特定の態様では、問題となるリン酸化部位はThr33およびSer35を含む。当業者であれば、問題となるBikの型に対するリン酸化分子種、または非リン酸化分子種に特異的な抗体を提供する方法などの、リン酸化能力のアッセイ法を理解する。当業者は、いくつかの態様では、例えば2次元ゲル電気泳動または質量スペクトルを使用してこれらの残基のリン酸化を同定することもできる。
【0045】
当業者であれば、例示的なBikT33D(スレオニン33→アスパラギン酸)(配列番号:7);BikS35D(セリン35→アスパラギン酸)(配列番号:8);およびBik T33DS35D(スレオニン33とセリン35の両方→アスパラギン酸)(配列番号:9)などのBikの変異体がさまざまな手段で作製可能なことを理解する。特定の態様では、例えば配列番号:5または配列番号:6に記載された核酸配列は、残基33のスレオニンをアスパラギン酸をコードさせるようにするような、変化させることが望ましい少なくとも特定のアミノ酸をコードするコドンに変異が導入されている。表1には、全ての標準的なアミノ酸に対応するコドンを挙げた。また当業者であれば、例えば標準的な部位特異的変異導入法で所望の変異を作製するための出発材料となる核酸の操作法について十分承知していると思われる。
【0046】
本発明のある態様では、Bikの野生型遺伝子産物は天然の条件でリン酸化される。特に発明者らは本明細書で、T33残基および/またはS35残基をコードする変異を含む1つもしくは複数の変異型Bikが、リン酸化能力を欠くにも関わらず、変異型Bik遺伝子産物を細胞成長の阻害に有用とすること、および/またはアポトーシス促進活性に有用とすることを示した。当業者であれば、T33および/またはS35の残基を変化させることでリン酸化を妨げることが可能なことを理解する。例えばT33アミノ酸残基は、同残基をコードする核酸コドンを部位特異的変異導入などで変えることで変化させることができる。あるいは、T33および/またはS35のアミノ酸(群)は、例えば、カルボジアミドなどのブロッキング剤で、および/またはトリフルオロ酢酸に溶解したアセチルコリンで残基をアセチル化することでリン酸化を妨げる少なくとも1つの化合物でブロックすることができる。
【0047】
当業者であれば、非置換型Bikポリペプチドのリン酸化をもたらす条件下で、Thr33および/またはSer35における置換が、Bikポリペプチドのリン酸化を妨げるであろうことを理解し、また、このような条件を決定する当技術分野で標準的な方法を理解すると思われる。
【0048】
本発明の1つの局面では、少なくとも1か所の欠損型リン酸化部位を有する変異型Bikポリペプチドを、組織特異的に調節されるポリヌクレオチドとして投与する。特に変異型Bikは、例えば乳癌、膵臓癌、または前立腺癌における発現を標的とすることができる。本発明の特定の局面では、乳癌特異的なプロモーターが変異型Bikの発現を制御する。任意の乳癌特異的制御配列が発明者らによって想定されているが、特定の態様では、変異型Bikの発現は、複合型(キメラ)のプロモーターによって制御される。例えば、トポイソメラーゼIIαプロモーター(CT90と呼ばれる)、または輸送用受容体プロモーター(CTR116と呼ばれる)のいずれかに含まれる乳癌特異的なセグメントに連結されたCMVのプロモーターエンハンサー配列を含む乳癌特異的なプロモーターを使用することができる。これらのキメラプロモーターはいずれも、遺伝子発現を乳癌細胞で選択的に駆動し、またCMVプロモーターに匹敵する活性レベルを有する。好ましくは、乳癌細胞を選択的に死滅させることで、ならびに/または乳房の腫瘍の成長および/もしくは成長速度を有意に減じることで、正常組織に対する毒性を抑えながら原発性および転移性の乳癌を標的とし、また治療するために、CT90またはCTR116のキメラプロモーターを用いる変異型Bikコンストラクトを遺伝子送達に使用する。
【0049】
本発明の他の局面では、前立腺癌特異的または膵臓癌特異的なプロモーターが、変異型Bikの発現を制御する。個々の任意の前立腺癌特異的なプロモーター、または膵臓癌特異的なプロモーターを発明者らは想定しているが、特定の態様では、前立腺癌特異的または膵臓癌特異的な複合型プロモーターをそれぞれ使用する。例えば、前立腺癌特異的なプロモーターはARR2制御配列を含む場合があり、また膵臓癌特異的なプロモーターはCCKAR制御配列を含む場合がある。
【0050】
変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を調節するために使用される任意のプロモーターまたは制御配列は、例えば発現および/または転写後プロセスを促進する特定の調節配列を使用することができる。特異的であるが例示的な配列には、エンハンサー、2段階転写増幅系、RNAのポリアデニル化や半減期などを調節するエレメント(WPREなど)、ならびに当技術分野における他のエレメントなどがある。
【0051】
本発明の他の態様には、変異型Bikポリペプチドを個体に投与する段階を含む、個体の細胞の成長を妨げる方法がある。特定の態様では、このようなポリペプチドをリポソーム中に含めた状態で投与し、および/またはポリペプチドはさらに、HIV Tatやペネトラチンなどのタンパク質導入ドメイン(Schwarze et al., 1999)を含む。別の態様では、変異型Bikをポリヌクレオチドとして投与する(ポリヌクレオチドは、例えば部位特異的変異導入によって作られるもののような、アミノ酸レベルの修飾に作用する変化を含む)。修飾型のBikポリヌクレオチドを、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、リポソーム、またはこれらの組み合わせなどのベクター中に収めた状態で投与する。
【0052】
本発明の態様には、変異型Bikポリペプチドを細胞に接触させる段階を含む、細胞を処理する方法もある。特定の態様では、細胞はヒトの細胞であり、このような細胞は、動物を構成し、および/または動物はヒトである。
【0053】
本明細書では、本発明の組成物が好ましくは、細胞中の天然のBikポリペプチドに由来し、また癌細胞に対して、天然のBikとほぼ同じか、またはより強力な可能性のある、類似の活性を有することを想定している。すなわち、本発明の範囲は、いくつかの態様では、野生型Bikポリペプチドと類似の手順で使用される、天然のBikポリペプチド中の変化に関する。別の態様では、変異型Bik(例えば、野生型の配列とは異なるもの)は、天然のBikポリペプチドとは異なる活性を含む。
【0054】
I.定義、ならびにBikの遺伝子産物および遺伝子に影響を及ぼす手法
A.Bikの遺伝子産物および遺伝子
本明細書で用いる、「変異型Bik遺伝子産物」および「変異型Bik」という表現は、天然のBikと類似の活性を示す能力に関して、天然のBikと同一ではないが生物学的に活性のあるアミノ酸配列を有するタンパク質を意味する。例えば、これらは好ましくは、アポトーシス促進活性、抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、および/またはBikに対する抗Bik抗体との間で交差反応性を有する抗体活性を示すことが可能である。「Bikの遺伝子産物」は、天然のBikと共通した少なくともいくつかの生物学的活性を示すBik分子の類似体を含む。また、変異導入の当業者であれば、未だ開示されていないか、または発見されていない他の類似体を用いてBik類似体を構築可能なことを理解すると思われる。
【0055】
「Bikの変異型」という表現は、上述のBik遺伝子産物をコードするDNA配列と実質的に同一な任意のDNA配列を意味する。この表現は、このようなDNA配列に適合するRNAまたはアンチセンスの配列も意味する。「Bikの遺伝子」は、任意の組み合わせの関連制御配列を含む場合もある。
【0056】
Bikのアミノ酸配列またはBikの核酸配列のいずれかを定義する際に用いられる「実質的に同一である」という表現は、特定の対象となる配列、例えば変異体の配列を意味し、例えば1か所もしくは複数の置換、欠失、付加、またはこれらの組み合わせによって天然のBikの配列とは異なり、この正味の作用は、Bikタンパク質の少なくともいくつかの生物学的活性を保持することである。あるいは、DNA類似体の配列は、以下の場合に、本明細書に開示された特定のDNA配列と「実質的に同一である」:(a)DNA類似体の配列が天然のBik遺伝子のコード領域に由来する場合;または(b)DNA類似体の配列が中程度にストリンジェントな条件で(a)のDNA配列とハイブリダイズする能力を有し、かつ生物学的に活性のあるBikをコードする場合;または(c)(a)もしくは(b)で定義されたDNA類似体の配列に対する遺伝暗号の縮重であるDNA配列。実質的に同一な類似体タンパク質は、天然のタンパク質の対応配列に対して約80%以上の類似性を有する場合がある。類似性の程度は低いが、同等の生物学的活性を有する配列は、同等物であるとみなされる。核酸配列を決定する際は、実質的に類似のアミノ酸配列をコード可能な、対象となる全核酸配列が、コドン配列の差に関わらず、標準核酸配列と実質的に類似しているとみなされる。
【0057】
B.パーセント類似性
パーセント類似性は、例えば、ウィスコンシン大学のGeneticist Computer Groupから利用可能なGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することで決定できる。GAPプログラムは、Smithら(1981)によって改訂された、Needlemanら(1970)のアラインメント法を利用している。簡単に説明すると、GAPプログラムでは、類似性を、類似のアライメントされたシンボル(すなわちヌクレオチドまたはアミノ酸)を、2つの配列の短い方のシンボルの総数で割った数として定義する。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメータは以下の通りである:(1)ヌクレオチドの単位比較マトリックス(同一時=1、非同一時=0)、およびSchwartzら(1979)に記載されたGribskovら(1986)による重み付けされた比較マトリックス;(2)各ギャップについて3.0のペナルティ、および個々のシンボルおよび個々のギャップに対する追加的な0.01のペナルティ;ならびに(3)末端のギャップにはペナルティなし。
【0058】
II.核酸配列
ある態様では、本発明は、既知のBik遺伝子または対応するタンパク質の配列とは異なる配列を含む変異型Bikなどの、変異型Bikの核酸、遺伝子、および遺伝子産物の使用に関する。「本質的にBikである配列」という表現は、配列が、Bik遺伝子の一部に実質的に対応し、Bik(タンパク質の場合は、生物学的に機能的に等価なもの)の配列とは同一ではない比較的少数の塩基またはアミノ酸(DNAまたはタンパク質)を有することを意味する。「生物学的に機能的に等価である」という表現は、当技術分野でよく理解されており、本明細書でさらに詳細に定義される。こうして、Bikのアミノ酸と同一または機能的に等価な、約70%〜約80%;またはより好ましくは約81%〜約90%;またはさらにより好ましくは約91%〜約99%のアミノ酸の配列は、「本質的に同じ」配列となる。
【0059】
機能的に等価なコドンを有する変異型bikの核酸は本発明に含まれる。「機能的に等価なコドン」という表現は本明細書において、アルギニンまたはセリンの6つのコドンなどの同じアミノ酸をコードするコドンを意味する表現として用いられ、また生物学的に等価なアミノ酸をコードするコドンも意味する(表1)。
【0060】
(表1)機能的に等価なコドン
【0061】
配列が上述の基準(タンパク質の発現が関わる場合はタンパク質の生物学的活性が維持されることなど)に適合する限りにおいて、アミノ酸および核酸の配列は、N末端もしくはC末端の追加的なアミノ酸、または5'もしくは3'の配列などの追加的な残基を含んでもよく、それでも本明細書に開示された配列の1つに記載されるものとして本質的であることも理解されるであろう。末端配列の追加は特に核酸配列に適用され、これは例えば、コード領域の5'部分または3'部分のいずれかと隣接するさまざまな非コード配列を含む場合があるほか、さまざまな内部配列(例えば遺伝子中に存在することが知られているイントロン)を含む場合がある。
【0062】
本発明は、本明細書に記載された配列に対して相補的か、または本質的に相補的なDNAセグメントの使用も含む。「相補的」な核酸配列は、標準的なワトソン-クリックの相補性規則にしたがって塩基対合可能な配列である。本明細書で用いる「相補的配列」という表現は、上述の同じヌクレオチドの比較によって評価可能な実質的に相補的な核酸配列、または問題となる核酸セグメントと、上述したような比較的ストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能であると定義される核酸配列を意味する。
【0063】
C.生物学的に機能的な同等物
上述したように、修飾および変化をBikの構造に導入し、同様または別の望ましい特徴を有する状態を保つ分子が得られる。例えば、特定のアミノ酸を、例えばE1B 19KやBcl-2などの構造との相互作用可能な結合能力を大きく失うことなく、タンパク質構造中の他のアミノ酸と置換することができる。これは、多くの態様では、タンパク質の生物学的な機能的活性を定義するタンパク質の相互作用可能な能力および性質なので、特定のアミノ酸配列の置換をタンパク質の配列(または言うまでもなく、その基礎となるDNAのコード配列)中に導入し、それにも関わらず、同様またはさらに相殺的な特性(例えば拮抗性と作用性)を有するタンパク質を得ることが可能である。したがって、発明者らは、さまざまな変化を変異型Bikのタンパク質またはペプチド(または基礎となるDNA)の配列中に、所望の生物学的な有用性または活性を大きく損なうことなく導入可能なことを想定している。
【0064】
生物学的に機能的に等価なタンパク質またはペプチドの定義に、分子の一定の部分に導入可能な変化の数には制限があり、またそれでも許容可能なレベルの同等の生物学的活性を有する分子が生じるという概念が本来含まれることも当業者にはよく理解される。したがって本明細書では、生物学的に機能的に等価なペプチドは、特定の(全てではないにしても大半の)アミノ酸が置換可能なペプチドと定義される。言うまでもなく、さまざまな置換を有する複数の個別のタンパク質/ペプチドを本発明にしたがって容易に作製して使用することができる。
【0065】
特定の残基がタンパク質またはペプチドの生物学的または構造的な特性に特に重要であることが示されている場合(例えば活性部位内の残基)には、このような残基は一般には交換されないであろうことも、よく知られている。
【0066】
Bikを修飾する際に用いられうる置換などのアミノ酸置換は一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的な類似性(例えば、その疎水性、親水性、電荷、大きさなど)に基づく。アミノ酸側鎖置換基の大きさ、形状、および種類の解析から、アルギニン、リシン、およびヒスチジンがいずれも正に帯電した残基であること;アラニン、グリシン、およびセリンがいずれも類似の大きさを有すること;ならびに、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンがいずれもほぼ類似の形状を有することがわかっている。したがって、これらの点を元に、アルギニン、リシン、およびヒスチジン;アラニン、グリシン、およびセリン;ならびにフェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシン;は本明細書において、生物学的に機能的な同等物であると定義される。
【0067】
このような変化を導入する際には、アミノ酸の疎水性親水性指標を考慮することがある。個々のアミノ酸には、その疎水性および荷電特性を元に、以下のような疎水性親水性指標が割り当てられている:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);スレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リシン(-3.9);およびアルギニン(-4.5)。
【0068】
相互作用可能な生物学的機能をタンパク質にもたらす上で、疎水性親水性アミノ酸指標の重要性は、当技術分野で広く理解されている(参照により本明細書に組み入れられる、Kyte and Doolittle, 1982)。特定のアミノ酸が、類似の疎水性親水性指標またはスコアを有する他のアミノ酸と置換可能であり、類似の生物学的活性を保持することが知られている。疎水性親水性指標を元に変化を導入する際には、疎水性親水性指標が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のアミノ酸の置換が特に好ましく、また±0.5のアミノ酸の置換がさらに特に好ましい。
【0069】
親水性を元に、同様のアミノ酸の置換が事実上可能なことも当技術分野では理解されている。参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,554,101号には、隣接するアミノ酸の親水性によって決定される、タンパク質の最大の局所的な平均親水性が、タンパク質の免疫原性および抗原性(すなわちタンパク質の生物学的特性)と相関することが記載されている。アミノ酸は、類似の親水性値を有する他のアミノ酸と置換可能であり、生物学的に等価なタンパク質を保持することが理解されている。
【0070】
米国特許第4,554,101号に記載されているように、以下の親水性値が、各アミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±0.1);グルタミン酸(+3.0±0.1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±0.1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。
【0071】
類似の親水性値を元に変化を導入する際には、親水性値が±2以内にあるアミノ酸の置換が好ましく、同値が±1以内にあるアミノ酸の置換が特に好ましく、また同値が±0.5以内にあるアミノ酸の置換がさらに特に好ましい。
【0072】
以上の議論では、アミノ酸の変化によって生じる機能的に等価なポリペプチドに注目してきたが、このような変化は、コードされるDNAを変化させることによって行われうることが理解される。この際、遺伝暗号が縮重していること、また2つもしくはこれ以上のコドンが同じアミノ酸をコードする可能性があることが考慮される。
【0073】
III.核酸ベースの発現系
本発明では、いくつかの態様において、変異型Bikを含むポリヌクレオチドを発現させる系を用いる。このようなポリヌクレオチドの特定の例示的な局面について以下に説明する。
【0074】
A.ベクター
「ベクター」という表現は、複製可能な細胞に導入するために核酸配列を挿入可能な担体としての核酸分子を意味するように用いられる。核酸配列は「外因性」の場合がある。これは、ベクターが挿入される細胞にとって、ベクターが外来性であること、またはこの配列は、細胞中の配列と相同であるが、宿主細胞の核酸上に通常は見られない位置に配列が存在していることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えばYAC)などがある。当業者であれば、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、Maniatisら(1988)、およびAusubelら(1994)に記載されている標準的な組換え型の手法でベクターを構築する手法を心得ていると思われる。
【0075】
「発現ベクター」という表現は、転写されうる遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含むベクターを意味する。場合によっては、RNA分子は後に、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳される。また別の場合、これらの配列は翻訳されない(例えばアンチセンス分子またはリボザイムの作成の場合)。発現ベクターは、特定の宿主生物における、機能的に連結されたコード配列の転写と、そしておそらくは翻訳に必要な核酸配列を意味する、さまざまな「制御配列」を含む場合がある。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、他の機能も担う核酸配列を含む場合があり、これについては後述する。
【0076】
1.プロモーターとエンハンサー
「プロモーター」は、転写の開始および速度を制御する核酸配列の領域である制御配列である。特定の態様では、プロモーターなどの制御配列は、核酸配列が発現される組織特異性を調節する。プロモーターすなわち制御配列は、調節タンパク質および分子(RNAポリメラーゼや他の転写因子など)が結合可能な遺伝的エレメントを含む場合がある。「機能的に位置する」、「機能的に連結された」、「〜の制御下にある」、および「〜の転写制御下にある」といった表現は、プロモーターまたは他の制御配列が、転写の開始および/または対象配列の発現を制御するために、核酸配列に対して正しい機能的位置および/または方向にあることを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写の活性化に関与するシス作用性の調節配列を意味する「エンハンサー」とともに使用されてもされなくてもよい。
【0077】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することで得られるような、遺伝子または配列と天然の状態で結合したものでありうる。このようなプロモーターは、「内因性」であると表現される場合がある。同様に、エンハンサーは、対象配列の下流または上流のいずれかに位置し、核酸配列と天然の状態で結合したものでありうる。あるいは、コード核酸セグメントを、組換え型プロモーターまたは異種プロモーター(天然の環境において核酸配列と通常結合していないプロモーター)の制御下に配することで特定の利点が得られる。組換え型エンハンサー、または異種エンハンサーも、天然の環境において核酸配列と通常結合した状態にないエンハンサーを意味する。このようなプロモーターまたはエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーターもしくはエンハンサー、および他の任意の原核生物、ウイルス、もしくは真核細胞から単離されたプロモーターもしくはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しないプロモーターもしくはエンハンサー(すなわち、さまざまな転写調節領域、および/または発現を変化させるための変異を有する、さまざまなエレメントを含むもの)を含みうる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成して作製することに加え、本明細書に記載された組成物と関連して、組換えクローニング法および/またはPCR(商標)を含む核酸増幅法で配列を作製することができる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,683,202号;米国特許第5,928,906号を参照)。また、ミトコンドリアや葉緑体などの核以外の細胞小器官内で配列の転写および/または発現を誘導する制御配列も使用可能なことが想定される。
【0078】
発現用に選択された細胞種、細胞小器官、および生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指揮するプロモーターおよび/またはエンハンサーを使用することが当然重要となる。分子生物学領域の当業者であれば一般に、例えばタンパク質を発現させるためのプロモーター、エンハンサー、および細胞種の組み合わせの使用を理解する。これについては例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Sambrookら(1989)を参照されたい。使用されるプロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導的プロモーターの場合があり、および/または、組換え型タンパク質および/またはペプチドの大規模生産における有用性などの導入DNAセグメントの高レベルの発現を誘導する適切な条件で有用である。プロモーターは、異種または内因性の場合がある。
【0079】
表2に、本発明において遺伝子の発現を調節するために使用可能ないくつかのエレメント/プロモーターを列挙する。このリストは、発現の促進に関与する可能な全てのエレメントを網羅することを意図しておらず、単に例を挙げたに過ぎない。表3には、特定の刺激に反応して活性化可能な核酸配列の領域である、誘導可能なエレメントの例を挙げた。
【0080】
(表2)プロモーターおよび/またはエンハンサー
【0081】
(表3)誘導可能なエレメント
【0082】
組織特異的なプロモーターまたはエレメント、ならびにこれらの活性の特性を明らかにするためのアッセイ法の内容は当業者に周知である。このような領域の例には例えば、ヒトLIMK2遺伝子(Nomoto et al., 1999)、ソマトスタチン受容体2遺伝子(Kraus et al., 1998)、マウスの精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et al., 1999)、ヒトCD4(Zhao-Emonet et al., 1998)、マウスアルファ2(XI)コラーゲン(Tsumaki, et al., 1998)、D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee, et al., 1997)、インスリン様成長因子II(Wu et al., 1997)、またはヒト血小板内皮細胞接着分子-1(Almendro et al., 1996)などがある。
【0083】
発現の標的化および/または変異型Bikのレベルの制御に使用される組織特異的なプロモーターは、変異型Bikの発現が、所望の標的ではない組織と比較して、対象となる1つもしくは複数の組織で優先的に保持される限りにおいて、内因性の野生型プロモーター、変異型プロモーター、または合成プロモーターであってよい。合成プロモーターはさらに、異なる内因性プロモーターおよび/または合成プロモーターに起源を有するが、変異型Bikの制御配列に機能的に連結された少なくとも2つの別個の領域を含むプロモーターと本明細書で呼ばれる複合型プロモーターとして定義することができる。特定の態様では、組織特異性は、非癌性組織に対するのではなく、癌性組織に対する特異性を意味する。本明細書で用いる「癌性組織」という表現は、少なくとも1つの癌細胞を含む組織を意味する。
【0084】
a.乳癌の組織特異的なプロモーター
癌の遺伝子治療に現在使用されているプロモーターの大半は、正常細胞と腫瘍細胞の両方において、強力であるが非選択的な活性を有する(例えばCMVおよびβ-アクチンのプロモーター)。したがって、本発明のいくつかの局面では、例えば、例示的なBikT33D、BikS35D、およびBik T33DS35D変異体を含むBikの変異型の発現を制御するために、乳房の組織特異的なプロモーターを本発明で使用する。特定の局面では、乳房の組織特異的なプロモーターは、乳癌の組織特異的なプロモーターである。したがって、この態様に望ましいプロモーターは、特に乳癌組織における発現を標的とする。
【0085】
本発明では、優先的に乳癌組織で変異型Bikの発現を誘導する限りにおいて、乳癌の組織特異的な任意のプロモーターを使用することができる。乳癌組織で変異型Bikの発現を誘導可能な乳癌の組織特異的なプロモーターの例には、少なくともhALA、GLG、HK-II、およびHER2のプロモーターなどがある(Anderson et al., 2000; Katabi et al., 1999; Lu et al., 2002; Maeda et al., 2001)。
【0086】
本発明の1つの特定の態様では、トポイソメラーゼIIα(topo IIα)およびトランスフェリン受容体(TfR)の乳癌特異的制御配列のいずれかを使用する複合プロモーターを使用する。トポイソメラーゼIIα(topo IIα)、およびトランスフェリン受容体(TfR)のレベルは、例えばSAGE解析やcDNAマイクロアレイで決定されるように、乳癌では上昇する。発明者らは、topo IIαおよびTfRのプロモーターの5'端に、最小限必要な乳癌特異的制御配列として、それぞれ90塩基対のセグメント(配列番号:26)および116塩基対のセグメント(配列番号:27)を同定した。特定の態様では、同プロモーターの活性は、これら2つの短いプロモーターを、サイトメガロウイルス(CMV)のプロモーターエンハンサー配列(配列番号:25)などのエンハンサー配列に機能的に連結することで強められる。このようなキメラプロモーターは、本明細書ではそれぞれCT90およびCTR116と呼ぶ。CT90プロモーターの全体は配列番号:37に含まれ、またCTR116プロモーターの全体は配列番号:38に含まれる。これらのプロモーターは、本明細書に記載されているが、本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許出願第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)でさらに詳述されている。癌の遺伝子治療における用途を示すために、発明者らは、変異型Bikの発現を駆動するためにCT90を利用してDNAコンストラクトを作製した。同コンストラクトは、細胞系列にトランスフェクトされると、乳癌細胞を選択的に死滅させる。また発明者らは、同コンストラクトが、例示的な非ウイルス送達系の静脈注射によってマウス乳房の腫瘍異種移植片に対して抗腫瘍効果を有することを示した。これは、CT90およびCTR116が、変異型Bikなどの治療用遺伝子の発現を乳癌細胞で選択的に駆動可能なことを意味する。
【0087】
したがって、本発明は、正常組織に対する毒性が弱いか、または毒性の無い治療のために乳癌細胞を標的とする変異型Bikの発現の制御用に、乳癌特異的なプロモーターを含む。
【0088】
b.膵臓癌の組織特異的なプロモーター
膵臓特異的プロモーターは、例示的なBikT33D、BikS35D、およびBik T33DS35Dの各変異体を含む変異型Bikの標的発現に使用することができる。本発明では、変異型Bikの発現を膵臓癌組織で優先的に誘導する限りにおいて、任意の膵臓癌の組織特異的なプロモーターを使用することができる。変異型Bikの発現を膵臓癌組織で誘導可能な膵臓癌の組織特異的なプロモーターの例には、例えば、ラットのインスリンプロモーターなどのインスリンプロモーター(Wang et al., 2004);ミッドカインおよびシクロオキシゲナーゼ-2のプロモーター(Wesseling et al., 2001);ならびに癌胎児性抗原(CEA)プロモーター(Takeuchi et al., 2000)などがある。
【0089】
発明者らは、本明細書に記載されているが、本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)でさらに詳述されている膵臓癌特異的なプロモーターを開発した。同プロモーターは、CMVのエンハンサーなどのエンハンサーに機能的に連結された、コレシストキニンA受容体(CCKAR)プロモーター配列、特にヌクレオチド-726〜+1(配列番号:28)のCCKARプロモーターを含む。次に、転写活性を増強するために、CCKAR-CMV複合体を、例示的なGAL4-VP16またはGAL4-VP2融合タンパク質などの、特定の2段階転写増幅(TSTA)系(Iyer et al., 2001;Zhang et al., 2002;Sato et al., 2003;およびこれらに引用された参考文献)を用いて作製した。またこれは、RNAのポリアデニル化シグナル、RNAの輸送、および/またはRNAの翻訳を修飾するために、ウッドチャック肝炎ウイルス(WPRE)の転写後調節エレメント(配列番号:29)に機能的に連結されている。当業者であれば、「2段階転写増幅(TSTA)系」という表現が、「2段階転写活性化(TSTA)系」、または「組換え型転写活性化法」(Nettelbeck et al., 2000)も意味することを理解する。特定の局面では、CCAKAR-TSTA-WPRE(CTP)プロモーターを使用する。このような複合型プロモーターの例は、配列番号:34に含まれる。このように、分子レベルで作製されたCTPプロモーターが、変異型Bikを用いた膵臓癌の遺伝子治療のための効果的な治療様式に使用される。
【0090】
c.前立腺癌の組織特異的なプロモーター
前立腺癌の組織特異的なプロモーターを用いて、変異型Bikをコードするポリヌクレオチドの発現を制御することができる。例えば、PSA、プロバシン(probasin)、およびhK2のような、前立腺に特異的なプロモーターが最近開発されている。これらのプロモーターの活性はアンドロゲン依存性である。数多くの病期において、患者はアンドロゲン依存性(ADPC)を示すので、前立腺組織で治療用遺伝子の発現を誘導するためにアンドロゲン応答性のベクターの使用が可能である。アンドロゲン受容体に応答する前立腺に特異的な頑強なプロモーターが、発明者ら(Xie et al., Cancer Res 2001)、および他のグループ(Zhang et al., Mol Endocrinol 2000)によって開発されているが、このようなアンドロゲン依存性のプロモーターは、進行性前立腺癌の主な治療様式である性腺摘除またはアンドロゲン切除療法の後には活性が強くない場合がある。このようなプロモーターを含む組成物による治療を受けた患者では、この種の治療が失敗する恐れがあり、また再発性のアンドロゲン非依存性前立腺癌(AIPC)のために患者は死亡する恐れがある。
【0091】
発明者らは、転移性および再発性のホルモン不応性の前立腺癌を治療するために、特に変異型Bikの発現を調節するために、ADPCとアンドロゲン非依存性前立腺癌(AIPC)の両方に利益をもたらすと期待される前立腺癌に特異的なプロモーターを開発した。同プロモーターは、本明細書に記載されているが、本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許出願第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)にさらに詳述されている。本明細書でATTPと呼ぶ同プロモーターは少なくとも、例示的なGAL4-VP16またはGAL4-VP2(GAL4-VP2の2つの例が配列番号:30または配列番号:33)の融合タンパク質のコード配列などの2段階転写増幅(TSTA)系に機能的に連結されたヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の最小プロモーター断片(hTERTp)(配列番号:32)を含み、また、RNAのポリアデニル化シグナル、RNAの輸送、および/またはRNAの翻訳を修飾するためにウッドチャック肝炎ウイルス(WPRE)の転写後調節エレメントに機能的に連結されている。このような調節配列は、ADPCとAIPCの両細胞系列で有効である。再発性前立腺癌の大半の症例において、AR遺伝子が増幅されており、および/またはARが過剰発現されていることを考えれば、この特定のプロモーターは、この系の活性がアンドロゲンによって高められる態様の有効指標を大きく改善する。好ましい態様では、組織特異性領域は少なくとも、例えばARR2遺伝子に由来するARR2調節エレメント(配列番号:31)を含む。本発明の特定の局面では、TSTA-hTERT-ARR2およびWPREエレメントを、特定の態様では配列番号:35に含まれる、前立腺癌に特異的な調節エレメントとして使用する。このように発明者らは、変異型BikをADPCだけでなくAIPCにも導く、前立腺癌に特異的な新しい調節系を開発した。
【0092】
2.開始シグナルと内部リボソーム結合部位
コード配列の効率的な翻訳には、特定の開始シグナルが必要な場合もある。このようなシグナルには、ATG開始コドン、または隣接配列などがある。ATG開始コドンなどの外因性の翻訳制御シグナルが必要な場合がある。当業者であれば、これを容易に決定し、必要なシグナルを提供することができる。挿入部分全体の翻訳を可能とするためには、開始コドンが所望のコード配列の読み枠と「同じフレームにある」状態でなければならないことがよく知られている。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然または合成されたもののいずれかであってよい。発現効率は、適切な転写エンハンサーエレメントを含めることで高めることができる。
【0093】
本発明のある態様では、内部リボソーム進入部位(IRES)エレメントが、多重遺伝子すなわち多シストロン性のメッセージを作るために使用される。IRESエレメントは、5'のメチル化キャップ依存性の翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部部位から翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルスファミリーの2種のウイルス(ポリオおよび脳心筋炎)に由来するIRESエレメント(Pelletier and Sonenberg, 1988)、ならびに哺乳類のメッセージに由来するIRES(Macejak and Sarnow, 1991)が報告されている。IRESエレメントは、異種のオープンリーディングフレームに連結することができる。複数のオープンリーディングフレームは、それぞれがIRESによって隔てられたフレームを共に転写可能なので、多シストロン性のメッセージが作られる。IRESエレメントの存在により、個々のオープンリーディングフレームがリボソームに接近可能となり、効率的な翻訳につながる。多重遺伝子は、1つのメッセージを転写するために1つのプロモーター/エンハンサーを用いることで効率的に発現させることができる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,925,565号および第5,935,819号を参照)。
【0094】
3.マルチクローニングサイト
ベクターには、ベクターを切断する標準的な組換え型の手法と併せて使用可能な、複数の制限酵素切断部位を含む核酸領域であるマルチクローニングサイト(MCS)を含めることができる(参照により本明細書に組み入れられる、Carbonelli et al., 1999, Levenson et al., 1998, Cocea, 1997を参照)。「制限酵素切断」という表現は、核酸分子中の特定の位置でのみ機能する酵素による核酸分子の触媒的切断を意味する。このような多くの制限酵素が市販されている。このような酵素の使用は、当業者によって広く理解されている。ベクターは、外因性の配列をベクターに連結可能とするために、MCSの内部を切断する制限酵素を用いて直線化されたり断片化されたりすることが多い。「連結」という表現は、相互に連続してもしなくてもよい2つの核酸断片間にホスホジエステル結合を形成するプロセスを意味する。制限酵素および連結反応を用いる手法は、組換え技術領域の当業者に周知である。
【0095】
4.スプライシング部位
真核生物の転写されたRNA分子の大半は、RNAのスプライシングを受けて、一次転写産物からイントロンが除去される。真核生物のゲノム配列を含むベクターは、タンパク質発現のための転写物の適切なプロセシングのために、ドナーおよび/またはアクセプターのスプライシング部位を必要とする場合がある(参照により本明細書に組み入れられる、Chandler et al., 1997を参照)。
【0096】
5.ポリアデニル化シグナル
発現時には、通常、ポリアデニル化シグナルを含めることで、転写物の適切なポリアデニル化が可能となる。ポリアデニル化シグナルの内容は、本発明の実践の成功に重要であるとは考えられておらず、および/または任意の同配列を使用することができる。好ましい態様には、さまざまな標的細胞で好都合な、および/または良好に機能することが知られている、SV40のポリアデニル化シグナル、および/またはウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナルが含まれる。転写終結部位も、発現カセットのエレメントとして想定される。これらのエレメントは、メッセージレベルを高めるため、および/または、カセットから他の配列中へのリードスルーを最小限に抑えるように作用可能である。
【0097】
6.複製起点
ベクターを宿主細胞中で増やすためには、複製が開始される特定の核酸配列である、1つもしくは複数の複製起点部位(「ori」と呼ばれることが多い)をベクターに含めるとよい。あるいは、宿主細胞が酵母の場合は、自己複製配列(ARS)を使用することができる。
【0098】
7.選択可能でスクリーニング可能なマーカー
本発明のある態様では、細胞は、本発明の核酸コンストラクトを含み、細胞は、マーカーを発現ベクター中に含めることでインビトロまたはインビボで同定可能となる。このようなマーカーは、発現ベクターを含む細胞の容易な同定を可能とする細胞に同定可能な変化をもたらしうる。一般に、選択可能なマーカーは、選択を可能とする特性をもたらすマーカーである。陽性選択が可能なマーカーは、当マーカーの存在が、その選択を可能とするマーカーである。一方、陰性選択が可能なマーカーは、当マーカーの存在が、その選択を妨げるマーカーである。陽性選択が可能なマーカーの一例は、薬剤耐性マーカーである。
【0099】
一般に、薬剤選択マーカーを含めることで形質転換体のクローニングおよび同定が容易になり、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性をもたらす遺伝子が、有用な選択可能なマーカーである。条件の実現を元に形質転換体の区別を可能とする表現型をもたらすマーカーに加えて、比色解析を基礎とするGFPなどのスクリーニング可能なマーカーを含む他のタイプのマーカーも想定される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)、またはクロラムフェニコールアセチル基転移酵素(CAT)などのスクリーニング可能な酵素を使用することができる。当業者であれば、おそらくはFACS解析で使用可能な免疫学的マーカーの使用法についても承知している。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現される限りにおいて、重要であるとは考えられていない。当業者には、選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカーの他の例が周知である。
【0100】
B.宿主細胞
本明細書で用いる「細胞」、「細胞系列」、および「細胞培養物」といった表現は互換的に使用されうる。これらの表現はいずれも、後続の世代の一部または全ての子孫も含む。全ての子孫は、意図的な変異または不用意な変異のために、同一ではない可能性があることが理解される。異種核酸配列を発現させる場合において、「宿主細胞」という表現は、原核生物または真核生物の細胞を意味し、また同表現は、ベクターを複製可能な、および/またはベクターにコードされた異種遺伝子を発現可能な、任意の形質転換可能な生物を含む。宿主細胞は、ベクターのレシピエントとして使用することが可能であり、また実際に使用されている。宿主細胞は、「トランスフェクトする」ことが可能なほか、「形質転換」することができる。この表現は、外因性の核酸を宿主細胞中に移すか、または導入するプロセスを意味する。形質転換された細胞は、初代対象細胞およびこの子孫を含む。
【0101】
宿主細胞は、所望の結果がベクターの複製か、またはベクターにコードされた核酸配列の一部もしくは全体が発現されるかに依存して、原核生物または真核生物に由来しうる。数多くの細胞系列および細胞培養物が宿主細胞としての使用に利用可能であり、またこれらは、生きている状態の培養物および遺伝物質のアーカイブを提供する機関であるAmerican Type Culture Collection(ATCC)(www.atcc.org)を通じて入手できる。当業者は、ベクター骨格および所望の結果を元に、適切な宿主を決定することができる。多くのベクターを複製するために、例えばプラスミドまたはコスミドを原核生物の宿主細胞に導入することができる。ベクターの複製および/または発現のための宿主細胞として使用される細菌細胞には、DH5α、JM109、およびKC8、ならびにSURE(登録商標) Competent Cells、およびSolopack(商標) Gold Cells(Stratagene(登録商標), La Jolla)などの数種類の市販の細菌宿主がある。あるいは、大腸菌LE392などの細菌細胞をファージウイルスの宿主細胞として使用することができる。
【0102】
ベクターの複製および/または発現のための真核宿主細胞の例には、HeLa、NIH3T3、Jurkat、293、Cos、CHO、Saos、およびPC12などがある。さまざまな細胞種および生物に由来する多くの宿主細胞が入手可能であり、また当業者に周知であると考えられる。同様に、真核生物または原核生物の宿主細胞のいずれかとともに、ウイルスベクター(特にベクターの複製または発現を許容するベクター)を使用することができる。
【0103】
一部のベクターでは、原核生物と真核生物の細胞の両方における複製および/または発現を可能とする制御配列を使用できる。当業者であればさらに、上述のあらゆる宿主細胞をインキュベートしてベクターを維持し、ベクターの複製を可能とする条件を理解するであろう。ベクターの大規模生産、ならびにベクターにコードされた核酸、および同族のポリペプチド、タンパク質、またはペプチドの産生を可能とすると考えられる手法および条件も理解されており、また知られている。
【0104】
C.発現系
上述の組成物の少なくとも一部もしくは全体を含む、数多くの発現系が存在する。核酸配列、または同族のポリペプチド、タンパク質、およびペプチドを作製するための、本発明における使用には、原核生物および/または真核生物をベースとする系を使用することができる。このような系の多くが市販されており、また広く利用されている。
【0105】
昆虫細胞/バキュロウイルス系では、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,871,986号、4,879,236号に記載されているように、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現が可能であり、例えばInvitrogen(登録商標)社のMaxBac(登録商標) 2.0、およびClontech(登録商標)社のBacPack(商標)バキュロウイルス発現系を購入可能である。
【0106】
発現系の他の例には、合成エクジソンで誘導可能な受容体が関与する、Stratagene(登録商標)社のComplete Control(商標) Inducible Mammalian Expression System、またはこのpET発現系(大腸菌発現系)などがある。誘導可能な発現系の別の例はInvitrogen(登録商標)社から入手できる。これは、完全長のCMVのプロモーターを利用する誘導可能な哺乳類発現系であるT-Rex(商標)(テトラサイクリン調節発現)系を含む。Invitrogen(登録商標)社はまた、メチロトローフの酵母Pichia methanolicaにおける組換えタンパク質の高レベル生産のために設計された、Pichia methanolica発現系と呼ばれる酵母発現系を提供している。当業者であれば、核酸配列、または同族のポリペプチド、タンパク質、またはペプチドを産生させることを目的とした、発現コンストラクトなどのベクターの発現法を承知している。
【0107】
IV.核酸の送達
組成物および/または治療薬に関する本発明の局面における全般的な手法は、特定および/または所望の変異型Bikタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドをコードする遺伝子コンストラクトを細胞に供給することによって、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの所望の活性の発現を可能とすることである。このような遺伝子コンストラクトおよび/またはタンパク質は直接送達可能なことが想定できるが、好ましい態様では、特定および所望のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドをコードする核酸を細胞に供給する。供給後、タンパク性組成物が、細胞の転写装置および翻訳装置によって合成されるほか、発現コンストラクトによって提供される場合がある。アンチセンス、リボザイム、および他の阻害剤を提供する際には、好ましい様式は、このようなコンストラクトをコードする核酸を細胞に供給することでもある。
【0108】
本発明のある態様では、このような遺伝子をコードする核酸が、細胞のゲノム中に安定に組込まれる場合がある。さらに別の態様では、核酸は、別個のDNAのエピソームセグメントとして、細胞中に安定に維持される場合がある。このような核酸セグメントおよび「エピソーム」は、宿主細胞の周期に依存せずに、また同周期に同期して、維持および複製を十分可能とする配列をコードしている。発現コンストラクトを細胞に送達する様式、および/または核酸が細胞内のどこに留まるかは、使用される発現コンストラクトの種類に依存する。
【0109】
A.ウイルスベクターを使用するDNAの送達
あるウイルスが細胞に感染し、受容体を介するエンドサイトーシスで細胞に侵入して、宿主細胞ゲノム中に組込まれる能力、および/またはウイルス遺伝子を安定および/または効率的に発現する能力の存在は、このようなウイルスを、外来遺伝子を哺乳類細胞に送達する際の魅力ある候補とする。本発明の好ましい遺伝子治療用ベクターは、一般にウイルスベクターである。
【0110】
外来の遺伝物質を受け入れ可能な一部のウイルスでは、収容可能なヌクレオチド数、および/または感染する細胞の範囲が制限されるが、このようなウイルスは、良好に遺伝子を発現することがわかっている。しかしながら、アデノウイルスは、その遺伝物質を宿主ゲノム中に統合せず、および/または、このために、遺伝子発現のために宿主の複製を必要としないので、異種遺伝子の迅速で効率的な発現に理想的である。複製欠損型で感染力のあるウイルスを調製する手法は、当技術分野で周知である。
【0111】
ウイルス送達系を使用する際には、ベクターコンストラクトが導入される細胞、動物、および/または個体中で何の有害な反応も引き起こさないように、欠損干渉型のウイルス粒子、ならびにエンドトキシンおよび他の発熱物質などの望ましくない混入物を本質的に含まないようにするため、ウイルス粒子を精製することが望まれることは言うまでもない。ベクターを精製する好ましい手段では、塩化セシウム勾配遠心などの浮遊密度勾配を利用する。
【0112】
1.アデノウイルスベクター
発現コンストラクトを送達する特定の方法では、アデノウイルス発現ベクターを使用する。アデノウイルスベクターは、ゲノムDNA中への組込み能力が低いことが知られているが、この特性は、同ベクターによってもたらされる遺伝子送達の効率の高さによって相殺される。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)コンストラクトのパッケージングを支持すること、および/または(b)クローン化された組織および/または細胞に特異的なコンストラクトを最終的に発現させること、に十分なアデノウイルス配列を含むコンストラクトを意味する。
【0113】
この発現ベクターは、遺伝子工学的に改変されたアデノウイルスを含む。遺伝的構成と、アデノウイルスが36 kbの直鎖状の2本鎖DNAウイルスであることがわかっており、アデノウイルスDNAの大きな領域を、最長7 kbの外来配列と置換できる(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞へのアデノウイルスの感染は染色体への組込みを生じない。なぜなら、アデノウイルスのDNAは、遺伝毒性を生じることなくエピソーム状態で複製可能だからである。またアデノウイルスは構造的に安定であり、および/または、大規模増幅後のゲノム再編成は検出されていない。
【0114】
アデノウイルスは、ゲノムサイズが中程度であること、操作が容易なこと、力価が高いこと、標的細胞範囲が広いこと、および/または感染力が高いことから、遺伝子送達用ベクターとしての使用に特に適している。ウイルスゲノムの両端は、ウイルスDNAの複製および/またはパッケージングに必要なシスエレメントである100〜200塩基対の逆方向反復(ITR)を含む。ゲノムの初期(E)領域、および/または後期(L)領域は、ウイルスDNAの複製開始によって分けられる、異なる転写単位を含む。E1領域(E1Aおよび/またはE1B)は、ウイルスゲノムおよび/または少数の細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードする。E2領域(E2Aおよび/またはE2B)が発現すると、ウイルスDNAの複製に関与するタンパク質が合成される。これらのタンパク質は、DNAの複製、後期遺伝子の発現、および/または宿主細胞のシャットオフに関与する(Renan, 1990)。ウイルスのキャプシドタンパク質の大半を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって誘導される1つの一次転写物の主要なプロセシングの後においてのみ発現される。MLP(16.8 m.u.に位置)は、感染後期で特に有効であり、および/または、同プロモーターによって誘導されるmRNAはすべて、mRNAを翻訳に好ましい状態とする5'-tripartiteリーダー(TPL)配列を有する。
【0115】
現行の系では、組換え型のアデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクター間の相同組換えによって作製される。2つのプロウイルスベクター間で起こりうる組換えのために、このプロセスで野生型のアデノウイルスが生じる可能性がある。したがって、個々のプラークに由来するウイルスの単一のクローンを単離すること、および/またはそのゲノム構造を調べることは極めて重要である。
【0116】
複製欠損型の現行のアデノウイルスベクターの作製および/または増殖は、Ad5 DNA断片で形質転換されたヒト胚腎細胞に由来する、E1タンパク質(E1Aおよび/またはE1B;Graham et al., 1977)を構成的に発現する293と呼ばれる独特のヘルパー細胞系列に依存する。E3領域はアデノウイルスゲノム上では無くてもよいので(Jones and Shenk, 1978)、現行のアデノウイルスベクターは293細胞により補助されて、外来DNAをE1領域、D3領域、また両方の領域に保持する(Graham and Prevec, 1991)。最近、E4領域に欠失のあるアデノウイルスベクターが報告されている(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,670,488号)。
【0117】
天然の状態では、アデノウイルスは、野生型ゲノムの約105%をパッケージ可能であり(Ghosh-Choudhury et al., 1987)、約2 kb多いDNAを収容できることになる。E1領域および/またはE3領域中で置き換え可能な約5.5 kbのDNAを足し併せることで、現行のアデノウイルスベクターの最大能力は7.5 kb、および/またはベクター全長の約15%である。アデノウイルスのウイルスゲノムの80%以上は、ベクターバックボーンである。
【0118】
ヘルパー細胞系列は、ヒトの胚腎細胞、筋肉細胞、造血細胞、ならびに他のヒト胚間葉および上皮細胞などのヒト細胞に由来する場合がある。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトのアデノウイルスを許容する他の哺乳類の細胞に由来する場合がある。このような細胞には例えば、ベロ細胞および他のサル胚の間葉および/または上皮の細胞などがある。上述したように、好ましいヘルパー細胞系列は293である。
【0119】
最近Racherら(1995)は、293細胞を培養し、および/またはアデノウイルスを増殖させる、改善された方法について説明している。1つのフォーマットでは、天然の細胞凝集体を、個々の細胞を100〜200 mlの培地を含む1リットルのスピナーフラスコ(シリコン処理済み)(Techne, Cambridge, UK)中に播種することで成長させる。40 rpmで攪拌後、細胞の生存能力をトリパンブルーで評価する。別のフォーマットでは、Fibra-Cel微小担体(Bibby Sterlin, Stone, UK)(5 g/l)を以下のように使用する。5 mlの培地中に懸濁した細胞の種菌を、250 mlのエルレンマイヤーフラスコ中で担体(50 ml)に添加し、および/または1〜4時間にわたって時おり攪拌しながら定常期とする。次に培地を50 mlの新鮮な培地と交換し、および/または攪拌を開始する。ウイルスを産生させる場合は、細胞を約80%のコンフルエンスになるまで成長させ、この後に、培地を交換し(最終容量の25%まで)、および/またはアデノウイルスをMOIが0.05となるように添加する。培養物を定常相で一晩静置した後に、容量を100%に増し、および/または、さらに72時間の攪拌を開始する。
【0120】
アデノウイルスベクターが複製欠損型である必要があることのほかに、少なくとも条件欠損型である場合は、アデノウイルスベクターの性質は、本発明の実践の成功に重要であると考えられてはいない。アデノウイルスは、42種類の異なる既知の血清型およびA〜Fの亜型のいずれであってもよい。アデノウイルス5型の亜型Cは、本発明で使用される条件的複製欠損型のアデノウイルスベクターを得るための好ましい出発材料である。これは、アデノウイルス5型が、相当の生化学的および遺伝的な情報が既知であるヒトアデノウイルスであり、またアデノウイルスをベクターとして用いる多くの構築に従来から使用されているからである。
【0121】
上述したように、本発明の典型的なベクターは複製欠損型であり、またアデノウイルスE1領域を含まない。したがって、形質転換用コンストラクトを、E1コード配列が除去された位置に導入することが最も簡便である。しかしながら、アデノウイルス配列内のコンストラクト挿入位置は本発明に重要ではない。対象遺伝子をコードするポリヌクレオチドを、文献(Karlsson et al., 1986)に記載された手順で、E3置換ベクター中の欠損したE3領域の代わりに、またヘルパー細胞系列およびヘルパーウイルスがE4欠損を相補するE4領域中に挿入することもできる。
【0122】
アデノウイルスの成長および/または操作は、当業者に知られており、および/またはインビトロおよびインビボで広い宿主域を示す。この群のウイルスは、高力価(例えば109〜1011プラーク形成単位/ml)で得られ、感染力が高い。アデノウイルスのライフサイクルは宿主細胞ゲノム中への組込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソームなので、宿主細胞に対する遺伝毒性が低い。野生型アデノウイルスを用いたワクチン接種の研究において副作用は報告されておらず(Couch et al., 1963; Top et al., 1971)、インビボにおける遺伝子送達ベクターとしての安全性および/または治療可能性が証明されている。
【0123】
アデノウイルスベクターは、真核生物の遺伝子発現(Levrero et al., 1991; Gomez-Foix et al., 1992)に、またワクチンの開発(Grunhaus and Horwitz, 1992; Graham and Prevec, 1992)に使用されている。最近の動物研究では、組換え型のアデノウイルスを遺伝子治療に使用可能なことが示唆されている(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991a; Stratford-Perricaudet et al., 1991b; Rich et al., 1993)。組換え型のアデノウイルスをさまざまな組織に投与する研究には、気管注入(Rosenfeld et al., 1991; Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard, 1993)、および/または脳内への定位的播種(stereotactic inoculation)(Le Gal La Salle et al., 1993)が含まれる。組換え型のアデノウイルスおよびアデノ関連ウイルス(後述)はいずれも、非分裂性のヒト初代細胞に感染可能であり、また形質導入が可能である。
【0124】
2.AAVベクター
アデノ関連ウイルス(AAV)は、本発明の細胞形質転換導入への使用において魅力あるベクター系である。というのは、組込み頻度が高く、また非分裂細胞に感染可能であるため、例えば組織培養物(Muzyczka, 1992)、およびインビボにおける哺乳類細胞内への遺伝子の送達に有用だからである。AAVは、感染の宿主域が広い(Tratschin et al., 1984; Laughlin et al., 1986; Lebkowski et al., 1988; McLaughlin et al., 1988)。rAAVベクターの作製および使用の詳細は、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,139,941号、および/または米国特許第4,797,368号に記載されている。
【0125】
遺伝子送達におけるAAVの使用を示す研究には、LaFace et al.(1988);Zhou et al.(1993);Flotte et al.(1993);およびWalsh et al.(1994)などがある。組換え型のAAVベクターは、マーカー遺伝子
に、ならびにヒトの疾患に関与する遺伝子(Flotte et al., 1992; Luo et al., 1994; Ohi et al., 1990; Walsh et al., 1994; Wei et al., 1994)のインビトロおよび/またはインビボにおける形質導入に良好に使用されている。最近AAVベクターは、嚢胞性線維症の治療のための第I相のヒトを対象とした臨床試験の実施が承認された。
【0126】
AAVは、培養細胞で増殖感染を行うために他のウイルス(アデノウイルスやヘルペスウイルスファミリーのウイルス)の同時感染を必要とする点で、依存性のパルボウイルスである(Muzyczka, 1992)。ヘルパーウイルスの同時感染がないと、野生型AAVのゲノムは、その末端を介してヒトの第19染色体中に組み込まれ、プロウイルスとして潜伏状態で留まる(Kotin et al., 1990; Samulski et al., 1991)。しかしrAAVは、AAVのRepタンパク質も発現される限りにおいて、組込みは第19染色体に制限されない(Shelling and Smith, 1994)。AAVプロウイルスを有する細胞にヘルパーウイルスをさらに感染させると、AAVゲノムは染色体から、また組換え型プラスミドから「レスキュー」され、および/または正常な増殖感染が確立する(Samulski et al., 1989; McLaughlin et al., 1988; Kotin et al., 1990; Muzyczka, 1992)。
【0127】
典型的には、組換え型のAAV(rAAV)ウイルスは、2つのAAV末端反復(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる、McLaughlin et al., 1988;Samulski et al., 1989)に挟まれた対象遺伝子を含むプラスミド、および/または末端反復を含まない野生型AAVのコード配列を含む発現プラスミド(例えばpIM45)を同時にトランスフェクトすることで作られる(参照により本明細書に組み入れられる、NcCarty et al., 1991)。細胞には、アデノウイルス、およびAAVのヘルパー機能に必要なアデノウイルス遺伝子を有するプラスミドも感染および形質転換させる。このような手順で作られたrAAVウイルスのストックにはアデノウイルスが混入し、これはrAAV粒子と物理的に(例えば、塩化セシウム密度遠心によって)分離しなければならない。あるいは、AAVのコード領域を含むアデノウイルスベクター、およびAAVのコード領域、ならびにアデノウイルスのヘルパー遺伝子の一部および全体を含む細胞系列を使用することができる(Yang et al., 1994; Clark et al., 1995)。組み込まれたプロウイルスとしてrAAVのDNAを有する細胞系列を使用することもできる(Flotte et al., 1995)。
【0128】
3.レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノム中に組込み可能であり、大量の外来遺伝物質を送達可能であり、広域の種および細胞に感染して、特別の細胞系列中にパッケージされることから、遺伝子送達用のベクターとして有望である(Miller, 1992)。
【0129】
レトロウイルスは、そのRNAを感染細胞中において逆転写プロセスで2本鎖DNAに変換する能力を特徴とする1本鎖RNAウイルスの一群である(Coffin, 1990)。結果として生じるDNAは後に、プロウイルスとして安定に細胞染色体に組み込まれるほか、および/またはウイルスタンパク質の合成を誘導する。組込まれることで、レシピエント細胞および/またはその子孫にウイルス遺伝子の配列が保持される。レトロウイルスゲノムは、キャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ成分をそれぞれコードする3つの遺伝子gag、pol、および/またはenvを含む。gag遺伝子の上流に位置する配列は、ビリオン中へのゲノムのパッケージングに関与するシグナルを含む。2つの末端反復配列(LTR)が、ウイルスゲノムの5'端と3'端に位置する。LTRは、強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含み、宿主細胞ゲノムへの組込みにも必要である(Coffin, 1990)。
【0130】
レトロウイルスベクターを構築するためには、ウイルスゲノム中に、対象遺伝子をコードする核酸を特定のウイルス配列の代わりに挿入して、複製欠損型のウイルスを得る。ビリオンを得るためには、gag、pol、およびenvの各遺伝子を含むが、LTRおよびパッケージング用成分を含まないパッケージング用の細胞系列を構築する(Mann et al., 1983)。cDNAを含む組換え型プラスミドを、レトロウイルスのLTRおよびパッケージング用配列とともにこのような細胞系列中に(例えばリン酸カルシウム沈殿法で)導入する際は、パッケージング用の配列が、組換えプラスミドのRNA転写物のウイルス粒子中へのパッケージングを可能とする(ウイルス粒子は後に培地中に分泌される)(Nicolas and Rubenstein, 1988; Temin, 1986; Mann et al., 1983)。次に組換え型レトロウイルスを含む培地を回収し、任意選択で濃縮し、遺伝子の送達に使用する。レトロウイルスベクターは、多種多様な細胞種に感染可能である。しかし、組込みおよび/または安定な発現には宿主細胞の分裂が必要である(Paskind et al., 1975)。
【0131】
欠損型レトロウイルスベクターの使用に関する懸念は、野生型の複製可能なウイルスがパッケージング細胞中に出現する可能性である。これは、組換え型ウイルスからの完全な配列が、宿主細胞ゲノム中に組込まれたgag、pol、env配列の上流に挿入されるという組換え事象によって生じうる。しかし今日では、組換えの可能性を大幅に減じる新しいパッケージング細胞系列を利用することができる(Markowitz et al., 1988; Hersdorffer et al., 1990)。
【0132】
第二世代のレトロウイルスベクターを用いる遺伝子送達が報告されている。Kasaharaら(1994)は、通常はマウス細胞のみに感染するモロニーマウス白血病ウイルスの人工的な変種を調製し、エリトロポイエチン(EPO)受容体を有するヒト細胞に同ウイルスが特異的に結合し、感染するようにエンベロープタンパク質を修飾した。これは、EPO配列の一部をエンベロープタンパク質に挿入して、新しい結合特異性を有するキメラタンパク質を作製することで達成された。
【0133】
4.他のウイルスベクター
本発明では、他のウイルスベクターを発現コンストラクトとして使用することができる。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Coupar et al., 1988)、シンドビスウイルス、サイトメガロウイルス および/または単純ヘルペスウイルスなどのウイルスに由来するベクターを使用することができる。これらには、さまざまな哺乳類細胞に対する、いくつかの魅力ある特性がある(Friedmann, 1989; Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden, 1986; Coupar et al., 1988; Horwich et al., 1990)。
【0134】
欠損型のB型肝炎ウイルスに関する最近の理解では、さまざまなウイルス配列の構造と機能の関係について新たな知見が得られている。インビトロ研究では、このウイルスが、そのゲノムの最大80%を欠くにも関わらず、ヘルパー依存性のパッケージングおよび逆転写を行う能力を保持可能なことが報告されている(Horwich et al., 1990)。これは、ゲノムの大部分が外来遺伝物質と置換可能なことを示唆した。Changらは最近、クロラムフェニコールアセチル基転移酵素(CAT)遺伝子を、アヒルのB型肝炎ウイルスのゲノム中に、ポリメラーゼ、表面、および/または前表面をコードする配列に代えて導入した。これは、野生型のウイルスとともに、トリの肝癌細胞系列に同時導入された。高力価の組換え型ウイルスを含む培地を用いて、子ガモの初代肝細胞に感染させた。CAT遺伝子の安定な発現が、トランスフェクションの少なくとも24日後に検出された(Chang et al., 1991)。
【0135】
ある別の態様では、遺伝子治療用のベクターはHSVである。HSVを魅力あるベクターとする因子は、そのゲノムの大きさと構造である。HSVは大きいので、多重遺伝子および発現カセットの組み込みは、より小さな他のウイルス系におけるほど大きな問題とはならない。また、能力(時間や強度など)が多様なウイルス制御配列が利用できることで、他の系と比較して発現を大規模に制御することが可能となっている。ウイルスが、比較的少数のスプライスされたメッセージを含むことで、遺伝子操作がさらに容易になる点も利点の1つである。HSVは操作が比較的容易でもあり、および/または高力価で成長させることができる。したがって、送達には、十分なMOIに達するのに必要な容量、および反復投与の必要性が小さいことの2点について問題が小さい。
【0136】
5.修飾型ウイルス
本発明のさらに別の態様では、送達対象の核酸は、特定の結合リガンドを発現するように人工的に作製された感染型ウイルス中に収容される。したがって、ウイルス粒子は、標的細胞の同族の受容体に特異的に結合し、その内容物を細胞に送り込む。レトロウイルスベクターの特異的な標的送達を可能とするように設計された新しい手法が、乳糖残基をウイルスエンベロープに化学的に付加することによるレトロウイルスの化学的修飾を元に最近開発された。この修飾によって、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞への特異的な感染が可能となる。
【0137】
レトロウイルスのエンベロープタンパク質に対する、および/または特定の細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用する、組換え型レトロウイルスを標的送達する別の手法が設計されている。このような抗体は、ストレプトアビジンを用いることで、ビオチン成分を介して結合する(Roux et al., 1989)。主要組織適合遺伝子複合体のクラスIおよびクラスIIの抗原に対する抗体を用いることで、Rouxらは、このような表面抗原を有する多様なヒト細胞への、インビトロにおける狭宿主域ウイルスの感染を示した(Roux et al., 1989)。
【0138】
B.他のDNA送達法
本発明のさまざまな態様で、DNAが発現用コンストラクトとして細胞に送達される。遺伝子コンストラクトの発現を可能とするためには、発現コンストラクトを細胞内に送達しなければならない。本明細書に記載されているように、好ましい送達機構は、発現コンストラクトが感染性ウイルス粒子中に包まれたウイルス感染を介するものである。しかしながら、発現コンストラクトを細胞内に送達するいくつかの非ウイルス的な方法も本発明で想定されている。本発明の1つの態様では、発現コンストラクトは、裸の組換え型DNAおよび/またはプラスミドのみを含む場合がある。コンストラクトの送達は、細胞膜を物理的および/または化学的に透過させる、既述の任意の方法で実施することができる。これらの手法の一部は、後述するように、インビボおよび/またはエクスビボにおける使用に良好に適合可能である。
【0139】
C.リポソームを介したトランスフェクション
本発明の他の態様では、発現コンストラクトをリポソームで包むことができる。リポソームは、リン脂質二重層膜、および/または内部の水性溶媒の存在を特徴とする小胞状の構造体である。多重膜リポソームは、水性溶媒で隔てられた多重脂質層を有する。リポソームは、リン脂質を過剰な水溶液中に懸濁すると自然に形成する。脂質成分は、自己再編成を受けた後に、閉じた構造を形成し、ならびに/または水および/もしくは溶解した溶質を脂質二重層間に閉じこめる(Ghosh and Bachhawat, 1991)。Lipofectamine(Gibco BRL)と複合体を形成した発現コンストラクトも想定される。
【0140】
リポソームを介した核酸送達、および外来DNAのインビトロにおける発現は非常に成功している(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979; Nicolau et al., 1987)。Wongら(1980)は、培養ニワトリ胚細胞、HeLa細胞、および肝癌細胞におけるリポソームを介した送達、および/または外来DNAの発現が容易なことを明らかにした。
【0141】
本発明のある態様では、リポソームと血球凝集ウイルス(HVJ)の複合体を形成させる。これは、細胞膜との融合を促すこと、および/またはリポソーム被包性DNAの細胞内侵入を促すことが報告されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様では、リポソームを核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体を形成させ、および/または使用することができる(Kato et al., 1991)。さらに別の態様では、リポソームをHVJとHMG-1の両方と複合体を形成させ、および/またはともに使用することができる。他の態様では、送達用溶媒はリガンドおよびリポソームを含む場合がある。細菌由来のプロモーターをDNAコンストラクトに使用する場合は、リポソーム中に適切な細菌由来のポリメラーゼを含めることも望ましい。
【0142】
発明者らは、neu抑制性の遺伝子産物を、リポソームを介した遺伝子送達で細胞に導入可能なことを想定している。このようなコンストラクトは、Nabelら、1990に記載された手順で、リポソームと結合させて、カテーテルを介して直接導入が可能なことが提案されている。このような方法で、neu抑制性の遺伝子産物を、静脈内注射が可能な肝臓および脾臓の細胞ではなく、インビボにおいて特定の部位で効率的に発現させることができる。したがって本発明は、DNA/リポソーム複合体として製剤化されたneu抑制性の遺伝子産物をコードするDNAコンストラクトの組成物、およびこのようなコンストラクトの使用法も含む。
【0143】
米国特許第5,641,484号に記載されているように、リポソームは、HER2/neuを介する癌の治療に特に適している。
【0144】
a.リポソームの調製
動物細胞を対象としたBikに対する効率的なトランスフェクション試薬である陽イオン性リポソームは、Gaoら(1991)の方法で調製できる。Gaoらは、1段階で合成可能な、新しい陽イオン性コレステロール誘導体について述べている。このような脂質から作製されたリポソームは、試薬Lipofectinによる調製時と比較してトランスフェクション効率が高く、また処理細胞に対する毒性が低いことが報告されている。この脂質は、DC-Chol(「3β(N-(N'N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイルコレステロール」)とDOPE(「ジオレイルホスファチジルエタノールアミン」)の混合物である。このようなリポソームを作製する段階について以下に説明する。
【0145】
DC-Cholは、コレステリルクロロギ酸とN,N-ジメチルエチレンジアミンから単純な反応で合成される。コレステリルクロロギ酸の溶液(2.25 g、5 ml無水クロロホルム中に5 mmol)を、過剰なN,N-ジメチルエチレンジアミン(2 ml、3 mlの無水クロロホルム中に18.2 mmol)の溶液に0℃で滴下する。溶媒を蒸発させて除去した後に、残渣を、無水エタノール中で4℃における再結晶によって精製し、真空乾燥する。この結果、DC-Cholの白色粉末が得られる。
【0146】
陽イオン性リポソームは、1.2 μmolのDC-Cholと8.0 μmolのDOPEを混合(溶媒はクロロホルム)することで調製する。次に、この混合物を乾燥し、真空乾燥し、チューブ内で1 mlのステロール 20 mM Hepes緩衝液(pH 7.8)に再懸濁する。4℃で水和した24時間後に、分散液を5〜10分間、超音波処理器で処理することで、平均直径が150〜200 nmのリポソームが得られる。
【0147】
リポソーム/DNA複合体を調製するために発明者らは、以下の段階を行う。トランスフェクションの対象となるDNAを、50 μlのDMEM/F12に対して15 μgのDNAの比となるように、DMEM/F12溶媒中に含める。次にDC-Chol/DOPEリポソーム混合物をDMEM/F12で、100 μlのリポソームに対して50 μlのDMEZM/F12の比となるように希釈する。次にDNA希釈物とリポソーム希釈物を穏やかに混合し、37℃で10分間インキュベートする。インキュベーション後に、DNA/リポソーム複合体の注射の準備が整う。
【0148】
リポソームによるトランスフェクションは、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、コレステロール(Chol)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、および/または3-β-[N-(N'N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイルコレステロール(DC-Chol)、ならびに当業者に既知の他の脂質からなるリポソームを介しうる。当業者であれば、本発明に有用な、リポソームを用いる多様なトランスフェクション法があることを理解すると思われる。このような手法には、Nicolauら(1987)、Nabelら(1990)、およびGaoら(1991)に記載されている手法などがある。特定の態様では、リポソームはDC-Cholを含む。具体的には、リポソームは、Gaoら(1991)の「好ましい態様」のセクションに記載された手順に準じて調製されたDC-CholおよびDOPEを含む。また発明者らは、商標Lipofectin(商標)としてVical社(San Diego、Calif.)から市販されているものなどの、DOTMAからなるリポソームが有用なことも予想している。
【0149】
リポソームは、さまざまな方法でトランスフェクション対象の細胞に接触させることができる。細胞培養物中では、リポソーム-DNA複合体は単に細胞培養溶液中に分散してもよい。インビボにおける応用に関しては、リポソーム-DNA複合体は通常注入される。静脈内注射によって、DNA複合体のリポソームを介した、例えば肝臓および脾臓への送達が可能となる。静脈内注射の対象とならない細胞へのDNAのトランスフェクションを可能とするためには、リポソーム-DNA複合体を、動物の身体の特定の部位に直接注入することが可能である。例えばNabelらは、動脈壁へのカテーテルを介した注射について報告している。別の例では、発明者らは、マウスへの遺伝子送達を可能とするために腹腔内注射を行った。
【0150】
本発明は、リポソーム複合体を含む組成物も対象とする。このようなリポソーム複合体は、脂質成分と、Bikの変異型をコードする核酸をコードするDNAセグメントを含みうる。リポソーム複合体に使用されるBikの変異型をコードする核酸には例えば、Bik-T145AまたはBik-T145Dをコードする核酸などがある。
【0151】
リポソーム複合体の作製に使用される脂質は、上述の任意の脂質であってよい。特にDOTMA、DOPE、および/またはDC-Cholは、リポソーム複合体の全体または一部を形成可能である。発明者らは、DC-Cholを含む複合体を用いて、特に成功を収めている。好ましい態様では、脂質はDC-CholおよびDOPEを含む。DOPEに対するDC-Cholの任意の比が有用性を示すと予想されるが、DC-Chol:DOPEを1:20〜20:1の比で含むものが特に有利となることが予想される。発明者らは、DC-Chol:DOPEが約1:10〜約1:5の比で調製したリポソームが有用であることを見出している。
【0152】
特定の態様では、Bik遺伝子コンストラクトが導入される細胞内に不必要なDNAが導入されないように、細胞の核内におけるBikの保持を促すために必要とされる最小の領域を使用する。制限酵素の使用などの当業者に周知の手法により、Bikの短い領域の作製が可能である。このような領域がneuを阻害する能力は、実施例に記載されたアッセイ法で容易に決定することができる。
【0153】
本発明のある態様では、リポソームは、血球凝集ウイルス(HVJ)と複合体を形成させることができる。これは、細胞膜との融合を促進し、またリポソームに包まれたDNAの細胞内侵入を促進することが報告されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様では、リポソームは、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体を形成、すなわち同タンパク質とともに使用してもよい(Kato et al., 1991)。さらに別の態様では、リポソームは、HVJとHMG-1の両方と複合体を形成、すなわち両ウイルスとともに使用してもよい。このような発現コンストラクトは、インビトロおよびインビボにおける核酸の送達および発現に良好に使用されており、本発明に適用可能である。細菌由来のプロモーターをDNAコンストラクトに使用する際は、リポソーム中に適切な細菌由来のポリメラーゼを含めることも望ましい。
【0154】
b.Bik変異型を含むリポソームによるインビボにおける癌の治療
当業者であれば、本明細書の記述を元に、任意の細胞を少なくとも1種類のBik変異型で処理可能なこと、また特定の態様では、任意の癌細胞を同様に処理可能なことを理解する。例えば、いくつかの態様では、処理細胞の性質は、HER2/neu陽性かHER2/neu陰性かに無関係である。しかしながら、1つの特定の態様では、これはHER2/neu陽性である。
【0155】
参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第5,641,484号では、リポソームを介した直接遺伝子送達法で、生きている宿主においてHER2/neuを過剰発現するヒト癌細胞を抑制可能なことが説明されている。同明細書に記載されているプロトコルは以下の通りである。雌のヌードマウス(5〜6週齢)にSK-OV-3細胞を腹腔内注射した(2x106/100 μl)。SK-OV-3細胞は、ヌードマウスの腹腔内で成長することがわかっているヒト卵巣癌細胞である。5日後に、さまざまな化合物をマウスに腹腔内注射した。一部のマウスには治療用DNAのみを注入し、一部には、上述の手順で調製したリポソーム/治療用DNA複合体を注入し、また一部には、リポソーム/変異型治療用DNA複合体を注入した。200 μlの所与の化合物を所与のマウスに注入した。初回注入後に、マウスが生きている間は注入を7日毎に繰返した。
【0156】
同明細書に記載された結果は、リポソームを介した遺伝子送達が、HER2/neuを過剰発現するヒト卵巣癌細胞の成長を阻害可能なことを示している。したがって、変異型BikをHER-2 neu癌遺伝子に直接標的化することで、リポソームを介した変異型Bik遺伝子療法が、HER-2 neuを過剰発現するヒト卵巣癌の強力な治療用薬剤となりうることが推測される。
【0157】
c.ヒトの治療目的におけるリポソームによる変異型Bikのトランスフェクション
米国特許第5,641,484号に記載されたインビボ動物試験の結果を元に、当業者は、リポソームと複合体を形成したBikのT33D、S35D、および/またはT33DS35DのDNAを用いた、HER2/neuを介する癌の、ヒトを対象とした治療における大きな可能性を理解・予測するであろう。このような影響を示すために行われる臨床研究が想定される。当業者であれば、HER2/neuを介した癌を抑制する、BikのT33D、S35D、および/またはT33DS35Dを使用する最良の治療法が明快に決定可能であることを理解するであろう。これは、実験に関する問題ではなく、むしろ医学領域で一般に行われている最適化に関する問題である。ヌードマウスを対象とするインビボ研究は、用量および送達法の最適化を始めるための出発点となる。注射の頻度は最初は、米国特許第5,641,484号に記載されているマウス研究で行われたように、週に1回とする。しかしながら、注射の頻度は、当初の臨床試験で得られた結果、および各患者のニーズに応じて、最適となるように週1日、2週間毎、1か月毎と調整することができる。ヒトの場合の用量は、マウスで使用されたBikのT33D、S35D、および/またはT33DS35Dの量である「約15 μgのプラスミドDNA/50 g体重」を外挿することでまず決定できる。これを元に、50 kgの女性であれば、1回あたり15 mgのDNAの投与が必要となる。言うまでもなく、この用量は、このような投与プロトコルでルーチンに行われているように、当初の臨床試験の結果、および特定の患者のニーズに応じて、上下に調整可能である。このような臨床試験は、HER2/neuを過剰発現するヒトの癌の治療に対するBikのT33D、S35D、および/またはT33DS35D、ならびに他のneu抑制性の遺伝子産物の有用性を示すと予想されている。用量および頻度は、当技術分野で一般に行われているように、当初は、インビボ動物試験で得られたデータを元にする。
【0158】
D.エレクトロポレーション
本発明のある態様では、発現コンストラクトをエレクトロポレーションで細胞中に導入する。エレクトロポレーションでは、細胞および/またはDNAの懸濁物を高圧放電に曝す。
【0159】
エレクトロポレーションによる真核細胞のトランスフェクションは、かなり成功している。同様の手段で、マウスの前Bリンパ球に、ヒトのカッパ免疫グロブリン遺伝子がトランスフェクトされており(Potter et al., 1984)、および/またはラットの肝細胞に、クロラムフェニコールアセチル基転移酵素遺伝子がトランスフェクトされている(Tur-Kaspa et al., 1986)。
【0160】
E.リン酸カルシウムおよび/またはDEAE-デキストラン
本発明の他の態様では、発現コンストラクトを、リン酸カルシウム沈殿を用いて細胞中に導入する。この手法で、ヒトのKB細胞に5型アデノウイルスのDNAがトランスフェクトされている(Graham and Van Der Eb, 1973)。また同様に、マウスのL(A9)、マウスのC127、CHO、CV-1、BHK、NIH3T3、および/またはHeLaの各細胞に、ネオマイシンマーカー遺伝子(Chen and Okayama, 1987)がトランスフェクトされており、および/またはラットの肝細胞にさまざまなマーカー遺伝子がトランスフェクトされている(Rippe et al., 1990)。
【0161】
別の態様では、発現コンストラクトを、DEAE-デキストランと、これに続いてポリエチレングリコールを用いて細胞中に送達する。この手法により、レポータープラスミドが、マウスの骨髄腫細胞、および/または赤白血病細胞に導入されている(Gopal, 1985)。
【0162】
F.微粒子銃
裸のDNAの発現コンストラクトを細胞内に送達する本発明の別の態様では、微粒子銃を使用できる。この方法は、DNAでコーティングされた微小発射体を高速に加速することで、細胞を死滅させることなく細胞膜を貫通する、および/または細胞内への進入を可能とする能力に依存する(Klein et al., 1987)。小さな粒子を加速するいくつかの装置が開発されている。このような1つの装置は、最終的に推進力をもたらす電流を生じる高圧放電に依存している(Yang et al., 1990)。使用される微小発射体は、タングステンおよび/または金のビーズなどの、生物学的に不活性な物質からなる。
【0163】
G.直接マイクロインジェクションおよび/または超音波ローディング
本発明の別の態様では、直接マイクロインジェクションおよび/または超音波ローディングにより発現コンストラクトを導入する。直接マイクロインジェクションは、ツメガエルの卵母細胞に核酸コンストラクトを導入する際に用いられており(Harland and Weintraub, 1985)、および/または、超音波ローディングは、LTK-繊維芽細胞にチミジンキナーゼ遺伝子をトランスフェクトする際に用いられている(Fechheimer et al., 1987)。
【0164】
H.アデノウイルスを用いたトランスフェクション
本発明のある態様では、アデノウイルス支援型トランスフェクションによって、発現コンストラクトを細胞内に導入する。アデノウイルス併用系を用いることで、細胞系においてトランスフェクション効率が高くなることが報告されている(Kelleher and Vos, 1994; Cotten et al., 1992; Curiel, 1994)。
【0165】
V.併用療法
変異型Bik、またはこれをコードする発現コンストラクトの有効性を高めるために、これらの組成物を、過剰増殖疾患の治療に有効な他の薬剤(抗癌剤など)と組み合わせることが望ましい場合がある。「抗癌」剤は、例えば、癌細胞を死滅させること、癌細胞のアポトーシスを誘導すること、癌細胞の成長速度を減速させること、転移の発生率または数を減少させること、腫瘍の大きさを縮小させること、腫瘍成長を阻害すること、腫瘍もしくは癌細胞に至る血液供給を減少させること、癌細胞もしくは腫瘍に対する免疫応答を高めること、癌の進行を妨げたり阻害したりすること、または癌の被験者の寿命を伸ばすことによって、被験者の癌に対して負の影響を及ぼす能力を有する。より一般的には、このような他の組成物は、細胞の増殖を死滅または阻害するのに有効な複合量として提供される場合がある。このプロセスには、発現コンストラクトおよび薬剤(群)、または複数の因子(群)を同時に細胞に接触させる段階を含めることができる。これは、1種類の組成物または両薬剤を含む薬理学的製剤を細胞に接触させることによって、または2種類の異なる組成物もしくは製剤を同時に細胞に接触させることによって達成することができる(1つの組成物が発現コンストラクトを含み、もう1つの組成物が第2の薬剤(群)を含む)。
【0166】
化学療法および放射線療法に使用される薬剤に対する腫瘍細胞が示す耐性は、臨床腫瘍学における大きな問題である。現在の癌研究1つの目的は、これを遺伝子治療と組み合わせることで、化学療法および放射線療法の有効性を改善する方法を見つけることである。例えば、単純ヘルペス-チミジンキナーゼ(HS-tK)遺伝子は、レトロウイルスベクター系によって脳腫瘍に送達された場合に、抗ウイルス剤ガンシクロビルに対する感受性を良好に誘導した(Culver et al., 1992)。本発明に関しては、Bik遺伝子療法が、他のアポトーシス促進性または細胞周期調節性の薬剤に加えて、化学療法、放射線療法、または免疫療法の介入とともに同様に使用可能であることが想定される。
【0167】
あるいは、遺伝子治療は、他の薬剤を用いた治療前に行う場合があるほか、分単位〜週単位の間隔をおいて、他の薬剤を用いた治療後に行う場合がある。他の薬剤および発現コンストラクトを別々に細胞に適用する態様では一般に、薬剤および発現コンストラクトが有利な組み合わせ効果を細胞に対して発揮するように、各送達の時点間で有意な期間が経過してしまわないようにする。このような場合には、両方の様式が、互いに約12〜24時間以内に、またより好ましくは、互いに約6〜12時間以内に、細胞に接触させられることが想定される。しかしながら、状況によっては、投与時間を大きく延長することが望ましい場合があり、数日間(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)から数週間(1週、2週、3週、4週、5週、6週、7週、または8週)の間隔を各投与間に設ける。
【0168】
遺伝子治療を「A」とし、放射線療法または化学療法などの第2の薬剤を「B」として、以下のようなさまざまな組み合わせを用いることが可能である:
【0169】
本発明の治療用発現コンストラクトの患者への投与は、ベクターの毒性(ある場合)を考慮し、化学療法剤を投与する一般的なプロトコルに従う。治療サイクルは、必要に応じて繰返されることが予想される。さまざまな標準的な治療法、ならびに外科的介入が、既に記述された高増殖細胞療法と併用して適用可能なことも想定される。
【0170】
A.化学療法
当業者であれば、細胞の成長を阻害する目的における、本明細書に記載されたBik変異型に加えて、他の化学療法剤が腫瘍性疾患の治療に有用なことを理解する。このような化学療法剤の例を表4に記載する。
【0171】
癌の治療法には、化合物および放射線を基礎とした治療との、さまざまな併用療法が含まれる。例示的な態様には例えば、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトセシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソ尿素、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、ゲムシタビン、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびメトトレキセート、または前述の薬剤の任意の類似体もしくは誘導体の変種などがある。
【0172】
(表4)腫瘍性疾患に有用な化学療法剤
【0173】
B.放射線療法
DNAの損傷を引き起こす、広く使用されている他の因子には、γ線、X線、および/または放射性同位元素の腫瘍細胞への直接送達として一般に知られているものがある。マイクロ波やUV照射などの、他の状態のDNA損傷性因子も想定される。これらの全ての因子が、DNAに、DNAの前駆体に、DNAの複製および修復に、ならびに染色体の集合および維持に対する広範囲の損傷に影響を及ぼす可能性は非常に高い。X線の線量範囲は、長期間(3〜4週間)における50〜200レントゲンの1日線量から、2000〜6000レントゲンの1回線量までである。放射性同位元素の線量範囲は極めて広く、また同位体の半減期、放出される放射線の強度および種類、ならびに腫瘍細胞による取り込みに依存する。
【0174】
細胞に加える際に用いられる、「接触させる」、および「曝露させる」という表現は、本明細書では、治療用コンストラクト、および化学療法剤または放射線療法剤が標的細胞に送達されるか、または標的細胞に直接並置されるプロセスを意味するように用いられる。細胞の死滅または血行停止を達成するためには、両薬剤を、細胞を死滅させたり細胞分裂を妨げたりするのに有効な組み合わせた複合量で細胞に送達する。
【0175】
C.免疫療法
免疫療法剤は一般に、癌細胞を標的として破壊する免疫エフェクター細胞および分子の使用に依存する。免疫エフェクターは例えば、いくつかの腫瘍細胞の表面上にある、いくつかのマーカーに特異的な抗体であってよい。抗体単独で治療のエフェクターとして作用してもよく、他の細胞を動員することで細胞の死滅を実行してもよい。抗体は、薬剤または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)と結合させて、単に標的化物質として機能させてもよい。あるいは、エフェクターは、直接または間接的のいずれかの様式で腫瘍細胞標的と相互作用する表面分子を有するリンパ球である場合がある。さまざまなエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0176】
したがって免疫療法は、Ad-Bik遺伝子療法とともに、併用療法の一部として使用することができる。併用療法の一般的な手法について、以下に説明する。一般に腫瘍細胞は、標的化に適した(すなわち大半の他の細胞表面には存在しない)いくつかのマーカーを有しているはずである。多くの腫瘍マーカーが存在し、そのいずれかが本発明における標的送達に適切でありうる。一般的な腫瘍マーカーには、癌胎児性抗原、前立腺特異的抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリル-ルイス(Sialyl Lewis)抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erbB、およびp155などがある。
【0177】
D.遺伝子
さらに別の態様では、2次的な治療は、Bikの変異型の全体または一部をコードする第1の治療用ポリヌクレオチドの投与前に、投与後に、または投与と同時に第2の治療用ポリヌクレオチドを投与する2次遺伝子治療である。完全長または切断型のBik変異型のいずれかをコードするベクターの送達を、以下の遺伝子産物の1つをコードする第2のベクターとともに行うことで、標的組織に対する組み合わされた抗高増殖作用を示すようになる。あるいは、両遺伝子をコードする1つのベクターを使用できる。さまざまなタンパク質が本発明に含まれる。その一部について以下に説明する。
【0178】
1.細胞増殖の誘導因子
細胞増殖を誘導するタンパク質はさらに、機能に応じて多様なカテゴリーに分けられる。これら全てのタンパク質に共通する点は、細胞増殖を調節する能力をもつことである。例えば、PDGFの1つの状態であるsis癌遺伝子は分泌型の成長因子である。成長因子をコードする遺伝子から癌遺伝子が生じることは稀であり、sisは現時点で、唯一既知の天然の発癌性成長因子である。本発明の1つの態様では、細胞増殖の特定の誘導因子に対するアンチセンスmRNAが、細胞増殖の誘導因子の発現を妨げるために使用されることが想定される。
【0179】
タンパク質FMS、ErbA、ErbB、およびneuは、成長因子受容体である。これらの受容体に変異が生じると、調節可能な機能が失われる。例えば、Neu受容体タンパク質の膜貫通ドメインに影響を及ぼす点変異はneu癌遺伝子を生じる。erbA癌遺伝子は、甲状腺ホルモンに対する細胞内受容体に由来する。修飾型の発癌性ErbA受容体は、内因性の甲状腺ホルモン受容体と競合して、制御不能の成長を引き起こすと考えられている。
【0180】
癌遺伝子の最大のクラスには、シグナル伝達タンパク質(例えばSrc、Abl、およびRas)が含まれる。タンパク質Srcは、細胞質タンパク質チロシンキナーゼであり、そのプロト癌遺伝子から癌遺伝子への転換は、527位のチロシン残基における変異を介して生じる場合がある。これとは対照的に、GTPaseタンパク質rasのプロト癌遺伝子から癌遺伝子への転換は、1つの例では、配列中の12位のアミノ酸におけるバリンからグリシンへの変異によって生じ、rasのGTPase活性を低下させる。
【0181】
タンパク質Jun、Fos、およびMycは、転写因子として核機能に対する作用を直接引き起こすタンパク質である。
【0182】
2.細胞増殖の阻害剤
腫瘍抑制性の癌遺伝子は、過剰な細胞増殖を阻害するように機能する。このような遺伝子が不活性化すると、その阻害活性が破壊されて、増殖が調節されなくなる。腫瘍抑制因子であるp53、pl6、およびC-CAMについて以下に説明する。
【0183】
高レベルの変異型p53が、化学発癌、紫外線照射、および複数のウイルスによって形質転換された多くの細胞に見出されている。p53遺伝子は、さまざまなヒト腫瘍において、変異性不活性化の標的となっていることが多く、ヒトの一般的な癌においても極めて頻繁に変異が生じている遺伝子であることが明らかにされている。p53は、ヒトのNSCLCの50%以上で(Hollstein et al., 1991)、また多様な他の腫瘍で変異している。
【0184】
p53遺伝子は、ラージT抗原やE1Bなどの宿主タンパク質と複合体を形成可能な393アミノ酸のリンタンパク質をコードする。同タンパク質は正常な組織および細胞に見出されるが、その濃度は形質転換細胞または腫瘍組織と比較して低い。
【0185】
野生型のp53は、多くの細胞種における重要な成長調節因子であると認識されている。ミスセンス変異はp53遺伝子では一般的であり、また同癌遺伝子の形質転換力に不可欠である。点変異によって促進される1つの遺伝的変化が、発癌性のp53を生じうる。しかし他の癌遺伝子とは異なり、p53の点突然変異は少なくとも30種類の異なるコドン中に生じることが知られており、ホモ接合性になることなく細胞の表現型の変化を生じる優性対立遺伝子を生じることが多い。加えて、このようなドミナントネガティブ対立遺伝子の多くは、生物体に許容され、生殖系列に伝達されるようである。極めて小さな機能不全性から強固なドミナントネガティブ対立遺伝子まで、さまざまな変異型対立遺伝子があるようである(Weinberg, 1991)。
【0186】
細胞増殖の別の阻害因子はp16である。真核細胞周期の主な移行は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)によって引き起こされる。CDKの1つ、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)は、G1期を経る進行を調節する。同酵素の活性は、G1後期でRbをリン酸化することであるようである。CDK4の活性は、活性化サブユニットであるD型サイクリンおよび阻害性サブユニットによって制御され、p16INK4は、CDK4に特異的に結合して阻害することによってRbのリン酸化を調節する可能性のあるタンパク質として、生化学的に特性が明らかにされている(Serrano et al., 1993; Serrano et al., 1995)。p16INK4タンパク質はCDK4の阻害因子なので(Serrano, 1993)、この遺伝子の欠失は、CDK4の活性を高め、Rbタンパク質の過剰なリン酸化につながる可能性がある。pl6はまた、CDK6の機能を調節することも知られている。
【0187】
p16INK4は、p16B、pl9、p21Wafl/Cip1、およびp27KIP1も含むCDK阻害性タンパク質の新たに報告されたクラスに属する。p16INK4遺伝子は、多くの腫瘍で欠失していることが多い染色体領域である9Bikにマップされている。p16INK4遺伝子のホモ接合性の欠失および変異は、ヒトの腫瘍細胞系列において多く見られる。この事実は、p16INK4遺伝子が腫瘍抑制遺伝子であることを示唆している。しかしこの解釈は、p16INK4遺伝子変化の頻度が、培養細胞系列と比較して初代非培養腫瘍ではかなり低いという観察によって疑問視されている
。プラスミド発現ベクターをトランスフェクトして野生型のp16INK4の機能を回復させると、一部のヒトの癌細胞系列によるコロニーの形成が減少した(Okamoto, 1994; Arap, 1995)。
【0188】
本発明で使用可能な他の遺伝子には、Rb、APC、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、zac1、p73、VHL、MMAC1/PTEN、DBCCR-1、FCC、rsk-3、p27、p27/p16融合体、Bik/p27融合体、抗血栓性遺伝子(例えばCOX-1、TFPI)、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、血管形成に関与する遺伝子(例えばVEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはこれらの受容体)、ならびにMCCなどがある。
【0189】
3.プログラム細胞死の調節因子
アポトーシス(プログラム細胞死)は、正常な胚発生、成体組織における恒常性維持、および発癌抑制に不可欠なプロセスである(Kerr et al., 1972)。Bcl-2ファミリーのタンパク質およびICE様プロテアーゼは、他の系において、アポトーシスの重要な調節因子およびエフェクターであることが明らかにされている。濾胞性リンパ腫との関連で発見されたBcl-2タンパク質は、アポトーシスの制御、およびさまざまなアポトーシス刺激に反応した細胞の生存の促進に重要な役割を果たす
。進化の過程で保存されたBcl-2タンパク質は現在、細胞死の作用因子または細胞死の拮抗因子として分類可能な関連タンパク質のファミリーのタンパク質であると認識されている。
【0190】
Bcl-2は、その発見に続いて、さまざまな刺激によって引き起こされる細胞死を抑制するように作用することがわかっている。また現在、共通の構造および配列上の相同性を共有するBcl-2細胞死調節タンパク質のファミリーが存在することが明らかである。このようなさまざまなファミリーのタンパク質は、Bcl-2と類似の機能を有するか(例えば、BclXL、BclW、BclS、Mcl-1、A1、Bfl-1)、またはBcl-2の機能に対抗して細胞死を促進する(例えば、Bax、Bak、Bik、Bim、Bid、Bad、Harakiri)ことが報告されている。
【0191】
E.外科手術
癌患者の約60%が、予防的手術、診断的手術、または病期分類目的の手術、治癒目的の手術、および対症的な手術を含む、何らかの外科手術を受ける。治癒目的の手術は、本発明の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法、および/または代替療法などの他の治療法とともに使用可能な癌の治療である。
【0192】
治癒目的の手術は、癌性組織の全体または一部を物理的に除去したり、摘出したり、および/または破壊したりする切除を含む。腫瘍の切除とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを意味する。腫瘍の切除に加えて、外科手術による治療には、レーザー手術、冷凍手術、電気外科手術、および顕微鏡下手術(Moh氏手術)などがある。本発明は、表在性癌、前癌、または偶発的な量の正常組織の除去とともに使用可能なことも想定される。
【0193】
癌性の細胞、組織、または腫瘍の一部または全体の切除に伴い、身体中に空隙が生じることがある。治療は、潅流、直接注入、または追加的な抗癌治療薬の局所投与によって達成されうる。このような治療は例えば、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、もしくは7日毎、または1週毎、2週毎、3週毎、4週毎、および5週毎、または1か月毎、2か月毎、3か月毎、4か月毎、5か月毎、6か月毎、7か月毎、8か月毎、9か月毎、10か月毎、11か月毎、または12か月毎に繰返すことができる。このような治療は、変動する投与量で行うこともできる。
【0194】
F.他の薬剤
治療の効果を改善するために、他の薬剤を本発明と組み合わせて使用可能なことが想定される。このような追加的な薬剤には、免疫調節性の薬剤、細胞表面受容体およびGAP結合の上方調節に影響する薬剤、細胞増殖抑制性および分化促進性の薬剤、細胞接着の阻害剤、またはアポトーシス誘導因子に対する高増殖細胞の感受性を高める薬剤などが含まれる。免疫調節性の薬剤には、腫瘍壊死因子;インターフェロンアルファ、ベータ、およびガンマ;IL-2および他のサイトカイン;F42Kおよび他のサイトカイン類似体;またはMIP-1、MIP-1ベータ、MCP-1、RANTES、および他のケモカインなどが含まれる。さらにFas/Fasリガンド、DR4もしくはDR5/TRAILなどの、細胞表面受容体またはそのリガンドの上方調節が、高増殖細胞に対する自己分泌的なまたは傍分泌的な作用を確立することで本発明のアポトーシス誘導能力を強化可能なことが考えられる。GAP結合数の増加による細胞間シグナル伝達の亢進は、近傍の高増殖細胞集団に対する抗高増殖作用を高める場合がある。他の態様では、細胞増殖抑制性の薬剤または分化促進性の薬剤を本発明と組み合わせて使用することで、治療の抗高増殖効率を改善することができる。本発明の有効性を改善するための細胞接着の阻害剤が想定される。細胞接着阻害剤の実施例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。さらに、治療の有効性を改善するために、アポトーシスに対する高増殖細胞の感受性を高める他の薬剤(抗体c225など)を、本発明と組み合わせて使用可能なことが想定される。
【0195】
ホルモン療法も、本発明とともに、または前述の他の任意の癌療法と組み合わせて使用することができる。ホルモンは、乳房、前立腺、卵巣、または子宮頚部の癌などの特定の癌の治療に、テストステロンやエストロゲンなどの特定のホルモンの作用のレベルを下げたりブロックするために使用される場合がある。この治療は、治療オプションとして、または転移のリスクを小さくするために、少なくとも1つの他の癌療法と組み合わせて用いられることが多い。
【0196】
VI.薬学的調製物
本発明の薬学的組成物は、有効量の1種類もしくは複数の形態の変異型Bik、または薬学的に許容可能な担体もしくは賦形剤中に溶解または分散した追加の薬剤を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」という表現は、適切であれば動物(例えばヒトなど)への投与時に、有害な反応、アレルギー反応、または他の有害な反応を生じない分子種および組成物を意味する。少なくとも1種類のBik変異型または追加的な活性成分を含む薬学的組成物の調製は、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990に例示されているように、本開示内容に鑑みて当業者に理解される。また、動物(例えばヒト)への投与に関しては、調製物が、FDAのOffice of Biological Standardsによって必要に応じて求められる無菌性、発熱性、一般安全性、および純度の基準に適合すべきであると理解される。
【0197】
本明細書で用いる、「薬学的に許容される担体」は、任意のあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩類、保存剤、薬物、薬物安定剤、結合剤、添加剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、色素、当業者に知られているであろう材料およびこれらの組み合わせを含む(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照)。任意の従来の担体の、活性成分に適合しない状況を除いて、治療用組成物または薬学的組成物中における使用が想定される。特定の態様では、リポソーム中の変異型Bik組成物を投与する。
【0198】
Bik変異型は、固体、液体、またはエアロゾル状による投与形式に依存して、また注射のような投与経路のために滅菌処理を必要とするか否かによって、さまざまな種類の担体を含みうる。本発明は、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、硝子体内に、膣内に、直腸に、局所的に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、膀胱内に、粘膜に、心膜内に、経口的に、局所的に、局部的に、エアロゾルを用いて、注射により、注入により、連続注入により、標的細胞を局所的な潅流浴に直接的に、カテーテルを介して、洗浄液を介して、クリームを用いて、脂質組成物(例えばリポソーム)を用いて、もしくは他の方法で、または当業者であれば承知している前述の任意の組み合わせによって投与することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990を参照)。
【0199】
動物患者に投与される本発明の組成物の実際の用量は、体重、症状の重症度、治療対象となる疾患の種類、過去もしくは現在の治療的介入、患者の特発性疾患、および投与経路などの、物理的および生理学的な因子によって決定することができる。投与を行う実施者は、いずれにしても、個々の被験者に対する、組成物中の活性成分(群)の濃度、および適切な用量(群)を決定する。
【0200】
ある態様では、薬学的組成物は例えば、少なくとも約0.1%の活性化合物を含みうる。他の態様では、活性化合物は例えば、約2%〜約75%(重量単位)、または約25%〜約60%、また、これらの範囲から導かれる任意の範囲を含みうる。他の非制限的な例では、用量は、1回の投与あたり、約1 μg/kg/体重、約5 μg/kg/体重、約10 μg/kg/体重、約50 μg/kg/体重、約100 μg/kg/体重、約200 μg/kg/体重、約350 μg/kg/体重、約500 μg/kg/体重、約1 mg/kg/体重、約5 mg/kg/体重、約10 mg/kg/体重、約50 mg/kg/体重、約100 mg/kg/体重、約200 mg/kg/体重、約350 mg/kg/体重、約500 mg/kg/体重から約1000 mg/kg/体重もしくはこれ以上、およびこれらの範囲から導かれる任意の範囲を含みうる。上記の数値から導かれる望ましい範囲の非制限的な例では、約5 mg/kg/体重〜約100 mg/kg/体重、約5 μg/kg/体重〜約500 mg/kg/体重などの範囲が、上述の数値を元に投与可能である。
【0201】
いずれの場合においても、組成物は、1種類もしくは複数の成分の酸化を遅らせるための、さまざまな抗酸化剤を含む場合がある。加えて、微生物の作用を、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、さまざまな抗細菌剤および抗真菌剤などの保存剤によって予防できる。
【0202】
Bik変異型は、遊離塩基、中性、または塩の状態で組成物中に製剤化することができる。薬学的に許容される塩類は、例えば、タンパク性組成物の遊離のアミノ基で形成されるもの、または例えば塩酸またはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、またはマンデル酸などの有機酸で形成されるようなものなどの酸付加塩を含む。遊離のカルボキシル基で形成される塩類は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、もしくは水酸化第2鉄などの無機塩基;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、もしくはプロカインなどの有機塩基に由来する場合もある。
【0203】
組成物が液状である態様では、担体は、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)、およびこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない溶媒または分散媒の場合がある。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用することで;例えば液体ポリオールや脂質などの担体中に分散させることで必要な粒子径を維持することで;例えばヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤を使用することで;またはこれらの方法を組み合わせることで維持できる。多くの場合、例えば、糖類、塩化ナトリウム、またはこれらの組み合わせなどの等張性の薬剤を含むことが好ましい場合がある。
【0204】
他の態様では、本発明では、点眼液、点鼻液、もしくはスプレー、エアロゾル、洗口剤、または吸入剤を使用することができる。このような組成物は一般に、標的となる組織の種類に適合するように設計されている。非制限的な例では、点鼻液は通常、液滴またはスプレーの状態で鼻道に投与されるように設計された水溶液である。点鼻液は、正常な繊毛作用が維持されるように、鼻内分泌物と多くの点が似たようになるように調製される。したがって、好ましい態様では、水性点鼻液は通常、等張であるか、またはpHを約5.5〜約6.5に保つように弱い緩衝作用を有する。また、点眼薬、薬物、または適切な薬物安定剤に使用されるものに類似した抗微生物保存剤を、必要に応じて製剤に含めることができる。例えば、さまざまな市販の鼻内調製物が知られており、抗生物質や抗ヒスタミン剤などの薬剤が含まれる。
【0205】
ある態様では、Bik変異型は、経口摂取などの経路による投与用に調製される。このような態様では、固体組成物は例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤(例えば、硬殻または軟殻のゼラチンカプセル剤)、徐放性製剤、口腔組成物、トローチ剤、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハース、またはこれらの組み合わせを含みうる。経口組成物は、食事に直接含めることができる。経口投与に好ましい担体は、不活性な希釈剤、吸収可能な食用担体、またはこれらの組み合わせを含む。本発明の他の局面では、経口組成物は、シロップまたはエリキシルとして調製することができる。シロップまたはエリキシルは、例えば、少なくとも1種類の活性薬剤、甘味剤、保存剤、香味剤、色素、保存剤、またはこれらの組み合わせを含む場合がある。
【0206】
ある好ましい態様では、経口組成物は、1種類もしくは複数の結合剤、添加剤、崩壊剤、潤滑剤、香味剤、およびこれらの組み合わせを含む場合がある。ある態様では、組成物は、以下の1種類もしくは複数を含む場合がある:例えば、トラガカントゴム、アカシア、コーンスターチ、ゼラチンなどの結合剤、もしくはこれらの組み合わせ;例えば、リン酸二カルシウム、マンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの賦形剤、もしくはこれらの組み合わせ;例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸などの崩壊剤、もしくはこれらの組み合わせ;例えば、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;例えば、ショ糖、乳糖、サッカリンなどの湿潤剤、もしくはこれらの組み合わせ;例えば、ペパーミント、ウインターグリーン油、チェリー香料、オレンジ香料などの香味剤;またはこれらの組み合わせ。用量単位剤形がカプセルの場合、これは、上述の種類の材料に加えて、液体担体などの担体を含む場合がある。他のさまざまな材料がコーティング剤として、または用量単位の物理的形状を修飾するために存在しうる。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤を、セラック、糖、またはこの両方でコーティングすることができる。
【0207】
他の投与様式に適した他の追加的な製剤には坐剤がある。坐剤は通常は、直腸、膣、または尿道へ挿入される医療用である、さまざまな重量および形状の固体の投与剤型である。挿入後に坐剤は軟化するか、溶けるか、または体腔の液体中に溶解する。一般に坐剤に関し、従来型の担体には例えば、ポリアルキレングリコール、トリグリセリド、またはこれらの組み合わせなどが含まれうる。ある態様では、坐剤は例えば、約0.5%〜約10%、また好ましくは約1%〜約2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。
【0208】
無菌性の注射溶液は、必要量の適切な溶媒中に必要に応じてさまざまな上述の他の成分と活性化合物を混合した後に濾過滅菌することで調製される。一般に分散液は、滅菌処理されたさまざまな活性成分を、基材となる分散媒および/または他の成分を含む滅菌済みの溶媒中に混合することで調製する。滅菌済みの注射溶液、懸濁液、または乳濁液の調製用の無菌性粉末の場合は、好ましい調製法は、滅菌濾過済みの液体培地そのもの由来する活性成分に加えて任意の追加の所望の成分の粉末が得られる真空乾燥法または凍結乾燥法である。液体培地は、必要に応じて適切に緩衝作用をもたせるべきであり、また希釈液を注射に先立ち、十分な食塩水またはグルコースで最初に等張化する。直接注射用に高度に濃縮された組成物の調製も想定される。この場合は、極めて迅速に浸透し、高濃度の活性薬剤が狭い領域に送達されることを可能とする溶媒としてDMSOが使用される。
【0209】
組成物は、製造および保存の条件で安定でなければならず、また、細菌や真菌などの微生物の作用の混入を防ぐように保存されなければならない。エンドトキシンの混入は、安全なレベル(例えば0.5 ng/mg タンパク質未満)に最小限に抑えるべきであることが理解される。
【0210】
特定の態様では、注射用組成物の長時間の吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはこれらの組み合わせなどの、吸収を遅らせる薬剤の組成物を使用することで達成される。
【0211】
VII.部位特異的変異導入
構造による部位特異的変異導入は、タンパク質-リガンドの相互作用を精査および作製するための強力なツールである(Wells, 1996、Braisted et al., 1996)。この手法で、選択されたDNAに1残基もしくは複数のヌクレオチド配列の変化を導入することで、配列変種の調製および検討が可能となる。
【0212】
部位特異的な変異導入では、所望の変異を有するDNA配列をコードする特異的なオリゴヌクレオチド配列、ならびに十分な数の隣接する非修飾ヌクレオチドを使用する。このようにして、欠失接合部の両側に渡って安定な二重鎖を形成するのに十分な大きさと複雑性を有するプライマー配列が得られる。変化させる配列の接合部の両側の約5〜10残基を有する、長さが約17〜25ヌクレオチドのプライマーが好ましい。
【0213】
この手法では一般に、1本鎖および2本鎖の両状態で存在するバクテリオファージベクターを用いる。部位特異的変異導入に有用なベクターには、M13ファージなどのベクターがある。このようなファージベクターは市販されており、その使用は一般に当業者に周知である。2本鎖プラスミドも、対象遺伝子をファージからプラスミドへ移す段階を除く部位特異的変異導入に常用されている。
【0214】
一般に、最初に1本鎖ベクターを得るか、または、所望のタンパク質または遺伝的エレメントを配列内にコードするDNA配列を含む2本鎖ベクターの2本の鎖を溶解する。合成的に調製された所望の変異配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを次に、ハイブリダイゼーション条件選択時のミスマッチの程度を考慮して、1本鎖DNA調製物とアニールさせる。変異を含む鎖の合成を完了させるために、ハイブリダイズした産物に、大腸菌ポリメラーゼI(クレノウ断片)などのDNA重合酵素を反応させる。こうしてヘテロ二重鎖が形成される(1本の鎖は、元の非変異型配列をコードし、また第2の鎖は所望の変異を有する)。次に、このようなヘテロ二重鎖ベクターで、大腸菌細胞などの適切な宿主細胞を形質転換し、変異した配列の配置を有する組換え型ベクターを含むクローンを選択する。
【0215】
タンパク質の所与の残基の機能上の重要性および情報の内容に関する包括的な情報は、全19残基のアミノ酸の置換を検討する飽和変異導入によって極めて適切に得られる。この手法の短所は、多数の残基の飽和変異導入のロジスティクスが困難なことである
。数百種類の、おそらくは数千種類の部位特異的変異体を検討する必要がある。しかしながら、改善された手法では、変異体の作製および迅速なスクリーニングが、より簡単になる。「ウォークスルー(walk-through)」変異導入の説明に関しては、米国特許第5,798,208号、および第5,830,650号も参照されたい。
【0216】
部位特異的変異導入の他の方法は、米国特許第5,220,007号;第5,284,760号;第5,354,670号;第5,366,878号;第5,389,514号;第5,635,377号;および第5,789,166号に記載されている。
【0217】
実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。以下に続く実施例に開示された手法は、本発明の実践で良好に機能させるために発明者らが発見した代表的な手法であり、本発明の実施のための好ましい様式を構成するとみなされることは、当業者により理解されるはずである。しかし、当業者であれば、本開示に鑑みて、本発明の趣旨および範囲から解離することなく、同様または類似の結果が得られることに変わりない多くの変更が、開示された特定の態様に加えられることを理解する。
【0218】
実施例1
例示的な材料および方法
細胞系列
ヒトの乳癌細胞系列MCF-7、MDA-MB-231、MDA-MB-435、卵巣癌細胞系列SKOV-ip1、およびヒトの前立腺癌細胞系列PC-3は、American Type Culture Collection(Rockville, MD)から購入し、供給元の指示書に従って培養した。
【0219】
プラスミドの構築と部位特異的変異導入
Bik、Luc、およびGFPを発現するプラスミドを、Bik、Luc、およびGFPのcDNAをそれぞれ、サイトメガロウイルスのプロモーターを含むpcDNA3ベクターに挿入することで構築した。部位特異的変異導入を、製造業者(Clontech Inc.)のプロトコルに従って実施した。Bikの残基であるスレオニン33およびセリン35のアスパラギン酸への変更には以下のプライマーを用いた:T33D用
、S35D用
。3種類のBik変異型コンストラクトの配列は自動配列決定によって検証した。
【0220】
製剤化
非ウイルス遺伝子送達系(SNと呼ばれる)は、文献(Zou et al., 2002)に記載された手順で製剤化される、本質的に陽イオン性のリポソームである。
【0221】
トランスフェクション
1ウェルに10% FBS(Life Technologies, Inc., Gaithersburg, MD)を含む1 mlのDMEM/F12培地を含む6ウェルプレート上で細胞を60〜70%のコンフルエンスになるまで24時間培養した。リポソームに被覆されたDNA(SN-DNA)を、106個の細胞に対して2 μgのDNAの比となるように培養プレートに直接添加した。24時間後、GFP陽性細胞を蛍光顕微鏡下でカウントし、得られた結果を全細胞に対するパーセンテージで表すことで、トランスフェクション効率を決定した。各試料について、1視野に200個を上回る細胞が含まれる、ランダムに選択した6視野を対象にカウントを行った。全ての実験は、独立に3回実施した。
【0222】
ウェスタンブロット解析
タンパク質溶解物を、20 mM Na2PO4(pH 7.4)、150 mM NaCl、1% Triton X-100、100 mM NaF、2 mM Na3VO4、5 mM フッ化フェニルメチルスルホニル、1%アプロチニン、および10 μg/mlロイペプチンを含むRIPA-B細胞溶解緩衝液で調製した。ヤギ抗Bikポリクローナル抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz、California)から購入した。ロバ抗ヤギIgGペルオキシダーゼ(Jackson)を二次抗体として使用した。ウェスタンブロットは、enhanced chemiluminescence(ECL; Amersham)により展開した。
【0223】
ルシフェラーゼアッセイ法
細胞増殖に対するBikの用量作用を決定するために、さまざまな癌細胞を50 ngのCMV-luc、およびCMV-Bikの量を増やしながら(0、0.5、または2 μg)、同時にトランスフェクトした。各投与時にトランスフェクトしたDNAの総量を、適量のpcDNA3ベクターを添加することで一定(2.05 μg)に保った。トランスフェクションの48時間後に細胞を回収し、lucアッセイ系(Promega)でluc活性を、製造業者から提供されたプロトコルに従って測定した。CMV-Bikを非使用時(0 μg)のトランスフェクションで得られたluc活性を100%に設定することで相対活性を算出した。データは、3回の独立した実験の平均±SDを示す。
【0224】
アポトーシスアッセイ法
インビトロ研究に関しては、標準的な蛍光活性化細胞選別解析で、細胞のアポトーシスを決定した。簡単に説明すると、細胞にSN-bikまたは他の薬剤をトランスフェクトした。トランスフェクションの12時間後または24時間後に、ヨウ化プロピジウムで染色後に、フローサイトメトリーによるサブG1期のDNA量を検出してアポトーシス細胞の評価を行った。2000個を上回る細胞が存在する視野をランダムに選択し、アポトーシス細胞と非アポトーシス細胞の数をカウントした。
【0225】
エクスビボにおける腫瘍阻害
ヒトの乳癌細胞系列MCF-7および前立腺癌細胞系列PC-3細胞に、SN-bikまたはSN-lucをトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を慎重にトリプシン処理し、回収し、ヌードマウスのMFPに接種した(1つの腫瘍あたり2x106個の細胞)。結果として得られた腫瘍の体積は、毎週測定した。
【0226】
抗腫瘍活性試験
腫瘍成長の阻害を調べるために、雌のヌードマウスのMFPに2x106個の乳癌細胞/腫瘍を接種した。2週間後、大半の腫瘍が4x4 mmを越えた時点で、腫瘍を有するマウスを3群にランダムに分けた(各群5匹)。全ての投与群のマウスにSN-bikの静脈注射を行った(週3回、3週間、15 μgのDNA/匹の用量)。対照群のマウスには、同用量のSN-luc、または同容積のPBSを注射した。腫瘍体積の測定は毎週行った。動物の生存率および寿命の延長を評価するために、同じ腫瘍モデルおよび同じ治療処置を行った。実験は、腫瘍接種後の200日目に終了した。
【0227】
統計解析
本研究で行った全ての統計的検定は、両側log-rank統計的検定である。
【0228】
実施例2
例示的なBik変異型の構築
残基33(スレオニン)と35(セリン)がそれぞれ、またはともにアスパラギン酸残基に代えられた、Bikの単変異体T33D、S35D、および二重変異体T33DS35Dを部位特異的変異導入で構築した(Clontech; La Jolla, CA)。DNA配列決定によって変異型Bikコンストラクトを確認した後に実施した、Bik抗体を用いたウェスタンブロットで、HBK293細胞で、一過性のトランスフェクション後に発現された、さまざまなBik変異型が作られたことが判明した。陽イオン性脂質(SN)の製剤を使用して、アポトーシス促進性の変異型Bik遺伝子を、さまざまなヒトの癌細胞に、インビトロおよびインビボで送達した(Zou et al., 2002)。
【0229】
実施例3
例示的なBik変異型のインビトロにおける検討
Bik変異型が、野生型Bikより良好に、ヒトの癌細胞系列の成長をインビトロで阻害するか否かを検討するために、一過性のトランスフェクションアッセイ法を行って、変異型Bikによる細胞成長阻害作用を評価した。具体的には、固定量(50 ng)のCMV-lucを、ヒトの乳癌細胞系列MDA-MB-231、MDA-MB-468、MCF-7、前立腺癌細胞系列PC-3、および卵巣癌細胞系列SKOV-ip1を含む、さまざまなヒトの癌細胞を対象に、0、0.5、および2 μgのCMV-Bikの野生型および変異型と同時に導入した。見かけ上のluc活性は、細胞が生きていることの指標となるので、相対ルシフェラーゼ活性を、細胞の成長および増殖の指標として使用することができる(図1)。
【0230】
図1Aには、293T細胞への一過的トランスフェクション後の、Bikおよび変異体タンパク質の発現のウェスタンブロット解析の結果を示す。等量のローディング対照として、アクチンを使用した。図1B〜1Fでは、ヒトの乳癌細胞系列MDA-MB-468(図1B)、MCF-7(図1C)、MDA-MB-231(図1D)、卵巣癌細胞系列SKOV-ip1(図1E)、および前立腺癌細胞系列PC-3(図1F)に、50 ngのCMV-lucと、0、0.5、または2 μgのCMV-Bikの野生型または変異型を同時にトランスフェクトした。CMV-Bikなし(0 μg)のトランスフェクションで得られたルシフェラーゼ活性を100%と設定することで、相対活性を計算した。データは、3回の独立した実験の平均である(バー=SD;星印(*)は、野生型との比較時の差が有意であることを意味する(P<0.05))。
【0231】
野生型および変異型のBikの発現は、全体的な成長阻害を用量依存的に引き起こしたが、Bik変異型(特にT33DS35D変異体)は、より強い成長阻害作用をさまざまな癌細胞に示し、また同発現レベルは成長阻害活性に比例した。したがって、変異型Bikは、数多くの癌細胞のタイプに対して、インビトロとインビボの両方で極めて強力である。この作用は、Her-2/neu癌遺伝子の発現レベルに依存しない。
【0232】
類似の方法で、また図2に示すように、Bik変異型T33DS35Dは、頭頚部癌細胞(TU138およびTU167)、黒色腫(B16F10)、卵巣(2774およびSKOV;SKOVは、SKOV-ip1とは対照的に、Her-2/neuを過剰発現する細胞ではない)、および内皮細胞(ヒト臍帯血管内皮細胞、HUVEC)にも強力な抗癌作用を示す。したがって、Her-2/neuを過剰発現する癌細胞であるSKOV-ip1に加えて、bik変異体も、Her-2/neuの過剰発現なしに、細胞に強力な阻害作用を示す。
【0233】
実施例4
Bik変異型の活性のFACS解析
アポトーシス促進性遺伝子Bikは、さまざまな悪性細胞のアポトーシスを誘発することが知られている。変異型Bikが、さまざまな癌細胞に、改善された細胞死滅作用またはアポトーシスを引き起こすか否かを調べるために、標準的な蛍光活性化細胞選別解析(FACS)で、癌細胞のアポトーシスを調べた。簡単に説明すると、細胞にSN-Bikまたは他の薬剤をトランスフェクトした。
【0234】
具体的には、ヒトの乳癌細胞系列MCF-7および前立腺癌細胞系列PC-3に、100 ngのCMV-GFPと、2 μgのCMV-Bikの野生型または変異型を同時にトランスフェクトした。pcDNA3をトランスフェクトした細胞を対照として使用した。トランスフェクションの12時間後または24時間後に、アポトーシス細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムで染色後に、フローサイトメトリーによるサブG1期のDNA量を検出することで評価を行った。データは、3回の独立した実験の平均を示す(バー=SD;星印(*)は、野生型との比較時の差が有意であることを意味する(P<0.05))。
【0235】
トランスフェクションの12時間後または24時間後に、ヨウ化プロピジウムで染色後に、フローサイトメトリーによるサブG1期のDNA量を検出することで、アポトーシス細胞の評価を行った。MCF-7細胞については、さまざまなBik変異型が、野生型のBikと比較して40%〜80%多いアポトーシスを誘導した(図3)。アポトーシスの開始は、早くもトランスフェクションの8時間後に、野生型より早期に認められた。PC-3細胞系列でも類似の現象が観察された。この結果は、変異型Bikが、野生型Bikと比較して、より強く、かつより早い、有意な癌細胞のアポトーシスを誘導可能なことを意味する。
【0236】
実施例5
例示的なBik変異型のエクスビボにおける検討
腫瘍抑制遺伝子の、極めて重要な生物学的特性の1つは、腫瘍形成能をインビボで弱める能力である。さまざまなBik変異型の抗腫瘍活性が優れていることを検討するために、ヌードマウスの癌モデルを対象に、エクスビボ腫瘍形成能アッセイ法を行った。ヒトの乳癌細胞系列MCF-7および前立腺癌細胞系列PC-3に、CMV-Bikの野生型または変異型を、培養プレート中におけるSNリポソームによる送達でトランスフェクトした。pcDNA3をトランスフェクトした細胞を対照として使用した。24時間後に、処理細胞を慎重に回収し、ヌードマウスの乳房脂肪体(mfp)(MCF-7の場合)、または皮下結合組織(PC-3の場合)に播種した。400万個の細胞(MCF-7の場合)、また100万個の細胞(PC-3の場合)を播種した。空のベクターpcDNA3をトランスフェクトした細胞を対照として使用した。播種した腫瘍の大きさの測定を毎週行った。
【0237】
具体的には、ヒトの乳癌細胞系列MCF-7(4x106個の細胞、0.72 mgの17β-エストラジオールペレットを各マウスの皮下に、播種の2週間前に移植)に、また前立腺癌細胞系列PC-3(1x106個の細胞)に、CMV-Bikの野生型または変異型を、培養プレート中におけるSNリポソームによる送達でトランスフェクトした。pcDNA3をトランスフェクトした細胞を対象として使用した。24時間後に、処理細胞を回収し、ヌードマウスの乳房脂肪体(mfp)(MCF-7の場合)、または皮下結合組織(PC-3の場合)に播種した(各群8匹)。腫瘍の大きさの測定は毎週行った(図4A)。7週間後にマウスを殺し、腫瘍の重量を測定した(図4B)。各群について、腫瘍形成速度を得た(バー=SD;星印(*)は、野生型との比較時に有意差を示した変異体を意味する(P<0.05);星印(**)は、pcDNA3対照と比較時に有意差を示した野生型Bikを意味する(P<0.05))。
【0238】
この「エクスビボ試験」は、インビボにおける遺伝子送達上の問題を回避し、また最適な遺伝子送達条件で、変異型Bikを有する腫瘍細胞の腫瘍成長能力が、野生型Bikと比較してインビボで弱いことがわかった(図4A)。SN-Bikは、pcDNA3対照の場合と比較して、マウスで腫瘍成長を少なくとも3週間遅らせた。第7週における、野生型Bikと、3種類のBik変異型投与群の腫瘍体積の比は、2.1〜3.7(MCF-7細胞の場合)、また2.2〜4.1(PC-3細胞の場合)であった。この結果は、インビボにおける変異型Bikの投与による強力な腫瘍抑制活性の存在を示唆している。図4に示したデータは、各群8匹のマウスの腫瘍の大きさの平均±標準偏差を示す。また、野生型Bikの腫瘍の大きさの平均(重量を測定)は、異なるBik変異型群の約2〜4倍であった(図4B)。MCF-7群では、変異型Bikは、腫瘍獲得率も低かった。
【0239】
実施例6
例示的なBik変異型のインビボにおける検討
上記の試験から、3種類の変異型Bikが、野生型Bikと比較して、インビトロおよびエクスビボでアポトーシスを誘導し、また腫瘍細胞の成長を阻害し、またSNによって送達されたBik変異型の抗腫瘍活性も、同所性乳癌モデルおよび皮下前立腺癌モデルにおいて野生型Bikの場合に匹敵することがわかった。
【0240】
二重変異体T33DS35D Bikは、インビトロにおけるアポトーシスアッセイ法、および腫瘍成長のエクスビボアッセイ法で、3種類のBik変異型のなかで最強の変異体なので、以下のインビボ試験で野生型Bikと比較するために、Bik T33DS35D(Bik DD)を3種類のBik変異型の代表として用いた。次に、確立した腫瘍を有するマウスに、SN-野生型Bik、SN-Bik T33DS35D、またはSN-pcDNA3を投与した。SN-Bik T33DS35Dの注入は、マウスの腫瘍成長を、SN-Bik投与マウスおよびSN-pcDNA投与マウスと比較して有意に阻害した。
【0241】
具体的には、図5Aに示すように、同所性のヒト乳癌MCF-7細胞(乳房脂肪体、1匹あたり4x106個の細胞、各マウスの皮下に0.72 mgの17β-エストラジオールペレットを播種の2週間前に移植)、および異所性のヒト前立腺癌PC3細胞(皮下に1x106個の細胞)のマウスモデルを使用した。1週間後に、腫瘍のあるマウスをランダムに3群に分けた(各5匹)。1つの群にはSN-DNAを複数回注入し(15 μg DNA/匹、週3回、全12回)、同所性乳癌を静脈注射で、異所性前立腺癌を腫瘍内注射で注入し、他の群には、同じ用量のSN-pcDNA3を注入した。腫瘍体積の測定は毎週行った。図5Bから、SNで送達した変異型Bik遺伝子が、同所性または異所性のヒトの癌を有するマウスの寿命を有意に延長したことがわかる。図のデータは、5匹の個別のマウスの平均±標準偏差を示す(バー=SD)。
【0242】
第3〜5週までに、SN-Bik投与マウスの腫瘍体積の平均は、SN-Bik T33S35D投与マウスより、2つのモデルで大きかった。最も有意な腫瘍抑制効果は、第8週および第9週までに認められ、野生型と変異型の投与群間で、腫瘍体積に約2〜3倍の差が認められた(P<0.05;図5A)。SN-Bik T33S35Dの投与では、SN-野生型Bikで投与された対照群と比較して、投与マウスの生存率が有意に高められた(P<0.05;図5B)。生存期間の中央値は、MCF-7細胞では、Bik T33S35Dの投与時は175日であり、またBikでは112日であり、PC3細胞では140日と105日であった。この結果から、SN-Bik T33S35Dが、これらのヒト癌モデルで腫瘍成長を約50%阻害し、また生存率を有意に高めることがわかる。
【0243】
非ウイルス遺伝子送達系(SN)およびアポトーシス促進遺伝子bikを含む、乳癌に対する全身的遺伝子治療法が開発されている。SN-Bik遺伝子複合体は、4種類の乳癌細胞系列でインビトロで、またヌードマウスの同所性の腫瘍組織で、有意なアポトーシスを誘導した(Zou et al., 2002)。全身投与されたSN-Bikは、ヌードマウスに移植されたヒト乳癌細胞の成長および転移を有意に阻害し、また投与個体の寿命を延長した。Bik遺伝子は、p53に依存しないアポトーシスの強力な誘導因子である。Bad(Wang et al., 1999)、およびBid(Desagher et al., 2001)と同様に、Bikは、リン酸化(残基スレオニン33およびセリン35)による調節を受ける。Badとは異なり、リン酸化は、Bikのアポトーシス促進力を高める。この機構は現時点で不明であるが、おそらくは、カゼインキナーゼII関連酵素が関与すると考えられる(Verma et al., 2000)。ホスファターゼPP2Aは、この機能を負に調節している可能性がある(Klumpp and Krieglstein, 2002)。Bikの翻訳後におけるリン酸化は、特定の態様では、不活性な複合体からの解放、および抗アポトーシスBcl-2相同物に対する親和性または接触性の上昇を引き起こす、構造上の変化を生じる。
【0244】
この結果から、Bik変異型(T33D、S35D、およびT33DS35D)のトランスフェクションが、さまざまなヒト癌細胞の細胞増殖の阻害およびアポトーシス誘導の促進に関して、またエクスビボおよびインビボのモデルにおけるマウスの腫瘍成長の阻害に関して、野生型(wt)のBikより強力なことがわかった。したがって、この結果から、変異型Bik遺伝子が、細胞死の誘導に関して野生型Bikより強力なこと、またSN-Bikが、癌の治療用薬剤として有用なことがわかる。
【0245】
本明細書に開示された方法は、本発明の文脈において、特定のBik変異型が有用なことを明らかに示している。当業者は、本明細書の記述に従うことで、任意の数の変異体を作製し、その抗細胞増殖活性、抗腫瘍活性、アポトーシス促進活性、またはこれらの組み合わせを検討することができる。
【0246】
実施例7
治療用薬剤としての例示的なBik変異型の検討
抗腫瘍活性に関連するBik変異型を、細胞系列や細胞培養物などの動物試験で、および/または、前述の実施例に記載されたものに加えて、またはそれ以外のモデルで検討する。本発明の一般的な態様では、変異体は、その抗腫瘍活性を調べるために、リポソーム、アデノウイルスベクター、またはこれらの組み合わせなどのベクターを用いてヌードマウスモデルに送達する。抗腫瘍活性の存在が明らかになれば、免疫学的に正常なマウスを用いて、潜在的な毒性をさらに検討し、その後に臨床試験を行う。
【0247】
特定の態様では、変異型Bikの優先的な成長阻害活性を、動物を対象に検討する。簡単に説明すると、癌細胞系列を、ヌードマウスの乳房脂肪体中に投与して、乳房異種移植モデルとする。本明細書に記載されたように、任意の癌細胞は、その遺伝子型または発現レベルに関わらず(例えばHER-2/neu陽性かHER-2/neu陰性かなどに関わらず)本発明の範囲内にあるが、特定の態様では、HER-2/neuを過剰発現する乳癌細胞系列(例えばSKBR3および/またはMDA-MB361など)を検討目的で使用する。腫瘍が特定の大きさに達したら、Bik変異型および/または野生型Bik対照を、例えば、リポソームなどの許容される担体との混合物の状態で、マウスの静脈内に投与する。このような投与による、腫瘍の大きさ、および生存曲線を比較して統計学的に解析する。好ましい態様では、変異型Bikは、腫瘍の成長阻害に関して、野生型Bikの場合と比較して実質的に同じか、または優れている。
【0248】
実施例8
他のBik変異型の調製
以上の実施例、および本明細書の別の部分に記載された開示のデータを元に、当技術分野における知見に加えて、当業者であれば、他のBik変異型の作製に取組む気になり、また実際に作製することが可能であり、さらには、本発明の文脈における有用性を、本明細書に記載された方法で判定することができる。
【0249】
実施例9
他のBik変異型の検討
本明細書に開示された例示的な変異体以外のBik変異型が作製されたら、関連する細胞系列(群)を対象に、本明細書に記載されたような手順で、細胞培養物を用いて検討を行う。またFACS解析によるBik変異型の検討を、本明細書に記載された手順で行う。また特定の態様では、本明細書に記載された手順で、エクスビボ系またはインビボ系を用いることで、他のBik変異型の検討を行うことができる。
【0250】
実施例10
乳癌、卵巣癌、および膵臓癌の各モデルにおける変異型Bikの抗癌作用
例示的なBik変異型(BikDD)のポリヌクレオチドは、乳癌の同所性モデルで、腫瘍の成長を有意に抑制すること、および生存率を高めることがわかった。ヒトの乳癌細胞MDA-MB-231(2x106細胞)を、ヌードマウスの乳房脂肪体(MFP)に播種した。1週間後に、腫瘍を有するマウスをランダムに5群に分けた(各群5匹または8匹)。全投与群のマウスに、NIH-リポソームを用いて、ベクター(pUK21)、またはBikDD(pUK/BikDD)(15 μg DNA/匹)のいずれかの静脈注射を10週間にわたって毎週行った。対照群のマウスには、5%デキストロース(D5W)を注入した。図6Aに示すように、腫瘍体積を毎週測定して記録した。図6Bに示すように、BikDDは、MDA-MB-231同所性腫瘍を有するマウスの生存率を高めた。図6Aと6Bのデータは、5匹または8匹の個別のマウスの平均および標準偏差を示す。
【0251】
また、Bik変異型(BikDD)の遺伝子は、乳癌の同所性モデルで、腫瘍成長を有意に抑制すること、および生存率を高めることがわかった。ヒトの乳癌細胞MDA-MB-468(3x106細胞)を、ヌードマウスの乳房脂肪体(MFP)に播種した。1週間後に、腫瘍を有するマウスをランダムに5群に分けた(各群9匹または10匹)。全投与群のマウスに、NIH-リポソームを用いて、ベクター(pUK21)、またはBikDD(pUK/BikDD)(45 μg DNA/匹)のいずれかの静脈注射を10週間にわたって毎週行った。対照群のマウスには、5%デキストロース(D5W)を注入した。図7Aに示すように、腫瘍体積を毎週測定して記録した。図2Bに示すように、BikDDは、MDA-MB-231同所性腫瘍を有するマウスの生存率を高めた。図7Aと7Bのデータは、9匹または10匹の個別のマウスの平均および標準偏差を示す。
【0252】
図8に示すように、Bik変異型(BikDD)の遺伝子の投与は、卵巣癌の同所性モデルでマウスの生存率を高める。ヒトの卵巣癌細胞2774(2x106細胞)を、ヌードマウスの腹腔内に播種した。これらのマウスをランダムに3群に分けた(各群10匹)。全投与群のマウスに、NIH-リポソームを用いて、ベクター(pUK21)、またはBikDD(pUK/BikDD)(15 μg DNA/匹)のいずれかの静脈注射を12週間にわたって毎週行った。対照群のマウスには、5%デキストロース(D5W)を注入した。図のデータは、10匹の個別のマウスの平均および標準偏差を示す。
【0253】
図9に示すように、Bik変異型(BikDD)の遺伝子の投与は、膵臓癌の同所性モデルでマウスの生存率を高める。膵臓癌細胞Pan02(5x104細胞)を、ヌードマウスに播種した。これらのマウスをランダムに3群に分けた(各群10匹)。全投与群のマウスに、NIH-リポソームを用いて、ベクター(pUK21)、またはBikDD(pUK/BikDD)(15 μg DNA/匹)のいずれかの静脈注射を11週間にわたって毎週行った。対照群のマウスにはPBSを注入した。
【0254】
実施例11
変異型Bikの癌組織特異的な発現
化学療法(CT)や放射線療法などの現行の癌治療法は、腫瘍細胞に対する選択性が低く、正常組織に副作用を生じる。副作用を最小限に抑えるために、これらの治療法は一般に、治療サイクル間に正常細胞の回復を可能とするように、間欠的に実施される。しかし、回復期間中に、一部の生き残った癌細胞が、遺伝子変異のために投与に対して強い耐性を示すようになる。したがって、癌の再発または進行が起こる恐れがある。腫瘍を標的とする遺伝子治療は、腫瘍に特異的なシグナル伝達経路に作用することによって、投与に伴う副作用および耐性発生リスクを最小限に抑えることができる。本発明では、変異型Bikによる遺伝子治療を、乳癌、膵臓癌、および前立腺癌などを標的とするために、組織特異的なプロモーターを使用する。
【0255】
変異型Bikの乳癌に特異的な発現
変異型Bikの乳癌に特異的な発現では、本明細書に記載された、また本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)に詳述されている2つの例示的なプロモーターを使用する。
【0256】
トポイソメラーゼIIαの乳癌特異的な発現
CMVのエンハンサー(配列番号:25)に機能的に連結されたCT90領域(配列番号:26)などの、トポイソメラーゼIIαの制御配列を含む治療用コンストラクトを作製し、また変異型Bikをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結され、この発現が調節されるようにした、両配列(配列番号:37)を含む複合型コンストラクトを作製した。このコンストラクトは、本明細書に詳述されているが、本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)に詳述されている。BikDD変異型をコードする配列を含む特定の変異型Bikコンストラクトを、これ以降は「CT90-BikDD」と呼ぶことにする。このコンストラクトを、ルシフェラーゼレポーターベクターとともに、乳癌細胞系列MDA-MB-231および468、ならびに正常な乳房上皮細胞系列184A1に同時にトランスフェクトした後に、細胞死滅作用をルシフェラーゼ生存能アッセイ法で判定した。CMVのプロモーターによって駆動されるBikDDベクター(CMV-BikDD)、および空のベクターをそれぞれ陽性対照および陰性対照として使用した。CMV-BikDDは、全3種類の細胞系列を、ほぼ同等に死滅させたが、CT90-BikDDは、もっぱら乳癌細胞を死滅させ(図10)、CT90-BikDDによる死滅作用が乳癌細胞に選択的であることがわかった。したがってCT90は、乳癌を標的とする遺伝子治療に有用である。
【0257】
次に、この乳癌を標的とする遺伝子治療の抗腫瘍効果をインビボで調べた。乳癌MDA-MB-231細胞を乳房脂肪体に播種した1週間後に、ヌードマウスを週1回、リポソームと複合体を形成したCT90-BikDD(治療群)、CMV-BikDD(正の対照)、およびCMV-PGL3(偽投与)、またはデキストロース緩衝液D5W(非投与対照)を投与した。各マウスの静脈内に、15 μgのリポソームDNA複合体コンストラクトを週1回注入し、腫瘍の大きさを定期的に測定した。CT90-BikDD群では、CMV-BikDDまたはCMV-PGL3と比較して、優れた腫瘍抑制作用が認められた(図11)。
【0258】
CT90-BikDD乳癌コンストラクトの治療効果は、リポソームCT90-BikDD複合体が乳癌細胞を標識とする、同所性のマウスモデルでも示された(図12A)。リポソームCT90-BikDD複合体、またはリポソームCMV-BikDD複合体の各コンストラクトを、MDA-MB-468乳癌異種移植片を有するマウスに投与した。これらのマウスを注射の72時間後に殺し、腫瘍および主要臓器を除去して固定した。BikDD mRNAの発現を検出するために、組織切片のインサイチューハイブリダイゼーションを行った。腫瘍および心臓について得られた結果を図に示す。矢印は陽性細胞を示す。図12Bおよび12Dには、遺伝子治療中の腫瘍の大きさの記録を示す。MDA-MB-231乳癌異種移植片を有するマウスに、15 μgのリポソームCT90-BikDD複合体、リポソームCMV-BikDD複合体、空のベクターpGL3、または5%デキストロース(溶媒は水)を静脈内に投与した。各治療群は10匹のマウスで構成した。マウスに週1回(QW、図12B)、または週2回(BIW、図12D)、8週間にわたって投与を行い、腫瘍の大きさを週2回、測定して記録した。CT90とpGL3(P(CT90:pGL3))、およびCMVとpGL3(P(CMV:pGL3))のT検定のp値を示した。図12Cおよび図12Eは、QW群(図12C)またはBIW群(図12E)のマウスの生存記録を示す。投与は第8週に停止し、施設の規則で定義された疾患状態が現れるまでマウスを飼育した。各週の生存個体数を記録した。
【0259】
MDA-MB-468異種移植片マウスを対象とした、Bik-DDによる遺伝子治療の結果を図13に示す。MDA-MB-468乳癌異種移植片を有するマウスに、15 μgのリポソームCT90-BikDD複合体、リポソームCMV-BikDD複合体、空のベクターpUK21、または5%デキストロース(溶媒は水)を、例えば静脈内に投与した。各投与群は10匹のマウスで構成した。マウスに週1回、8週間にわたって投与を行い、腫瘍の大きさを、週2回、測定して記録した。
【0260】
トランスフェリン受容体の乳癌に特異的な発現
発明者らは、本明細書と同時に出願され、参照により本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)に記載されているように、配列番号:27(CTR116)を含むような、トランスフェリン受容体(TR)プロモーターの少なくとも一部が乳癌特異性を有すること、また例えばCMVのプロモーターエンハンサー(配列番号:25)と組み合わせることで、これが、乳癌特異的な有効な発現に関して変異型Bikの発現を調節可能なことも示す。完全なCTR116制御配列(配列番号:38)は、配列番号:27に機能的に連結された配列番号:25を含む。
【0261】
本発明の他の態様では、個々のCT90エレメントおよびCTR116エレメントは、乳癌に特異的な発現活性が保持される、さらにより短いセグメントを同定するために、さらに狭められる場合もある。例えば、これらの個々の領域から欠失コンストラクトを作製することが可能であり、またその組織特異性を検討して、乳癌組織で発現を誘導する能力を維持する、より短いセグメントを同定する。
【0262】
変異型Bikの膵臓癌特異的な発現
発明者らは、変異型Bikのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を制御するために、膵臓癌に特異的なプロモーター配列を使用することができる。1つの特異的であるが例示的な膵臓癌特異的なプロモーターは、本明細書に記載されており、また本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)に詳述されている。
【0263】
一般に、WPREに実施可能に連結された、実施可能に連結された最小CCKARプロモーターおよびTSTAコンストラクト(例えば、TSTA配列はGal4VP2の場合がある)は、変異型Bikの発現ポリペプチドを調節する。2段階転写増幅(活性化)(TSTA)配列は好ましくは、CCKARなどの細胞プロモーターの転写活性を増強する(Iyer, Wu et al., 2001; Zhang, Adams et al., 2002)。この系では、第1の段階は、例えばGAL4-VP16またはGAL4-VP2の融合タンパク質の組織特異的な発現である。第2段階では、GAL4-VP16またはGAL4-VP2が次に、最小プロモーター中のGAL4応答エレメントの制御下で標的遺伝子発現を駆動する。またTSTA配列は、アデノウイルスのE4遺伝子のTATボックスから23塩基離れた位置に位置する5か所の17 bpのGAL4結合部位を含む例として、G5E4T配列(配列番号:36)を含む場合がある(Carey et al., 1990)。変異型Bikの転写後調節を、WPREなどの調節エレメントを用いることで膵臓癌に使用することもできる。したがって、膵臓癌に特異的な発現用の複合型コンストラクトは、少なくともCCKAR(配列番号:28)、GAL4-VP2(配列番号:30または配列番号:33)、G5E4T(配列番号:36)、およびWPRE(配列番号:29)を含む、配列番号:34に含まれる。
【0264】
本発明の特定の態様では、変異型Bikをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結された、前述の、または類似の膵臓特異的なプロモーターを含むコンストラクトを同様に作製し、続いて、本明細書に記載された類似の方法を元に、膵臓癌療法を必要とする哺乳類に導入する。当業者であれば、送達様式や組成物濃度などのパラメータを、容易に最適化することができる。
【0265】
本発明の別の態様では、膵臓癌に特異的なエレメント(群)を、膵臓癌に特異的な発現活性が保持された、1つもしくは複数の、より短いセグメントを同定するために、さらに狭める。例えば、これらの個々の領域から、欠失コンストラクトを作製することが可能であり、またその組織特異性を、膵臓癌組織で発現を誘導する能力を維持する、より短いセグメントを特定するために決定する。
【0266】
変異型Bikの前立腺癌に特異的な発現
前立腺癌に特異的なプロモーター配列を用いて、変異型Bikのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を制御する。1つの特異的であるが例示的な膵臓癌特異的なプロモーターは、本明細書に記載されており、また本明細書と同時に出願され、参照により全体が本明細書に組み入れられる、米国仮特許第60/ 号("Cancer-Specific Promoters", Mien-Chie Hung、Yan Li、Yong Wen、Chi-Ping Day、Kun-Ming Rau、Xiaoming Xie、Zheng Li)で詳述されている。特定の態様では、アンドロゲン依存的およびアンドロゲン非依存的の両方の様式で変異型Bikの発現を調節する、前立腺癌に特異的なプロモーターを使用する。
【0267】
一般に、hTERTプロモーターは、好ましくは細胞プロモーターの転写活性を高める2段階転写増幅(活性化)(TSTA)配列に機能的に連結される(Iyer, Wu et al., 2001; Zhang, Adams et al., 2002)。GAL4-VP16融合タンパク質またはGAL4-VP2融合タンパク質を使用することができる。この系では、第1段階は、GAL4-VP16(または、例えばGAL4-VP2)融合タンパク質の組織特異的な発現である。第2段階では、GAL4-VP16は、最小プロモーター中のGAL4応答エレメントの制御下で標的遺伝子発現を駆動する。TSTAの使用は好ましくは、導入遺伝子の発現レベルの増幅に至る。同プロモーターはさらに、ARR2前立腺癌特異的エレメント(配列番号:31)を含む。RNAのポリアデニル化、RNAの輸送、および/またはRNAの翻訳の修飾に関与する、ウッドチャック肝炎ウイルス(WPRE)の転写後調節エレメント(Donello、Loeb et al., 1998)をpARR2-hTERT-TSTAに機能的に連結すると、pARR2.hTERTp-TSTA-変異型Bik-WPREとなる。本発明の特定の局面では、同プロモーターは、アンドロゲン依存性の前立腺癌、およびアンドロゲン非依存性の前立腺癌の両方に有効である。したがって、前立腺癌に特異的な発現用の複合型コンストラクトは、少なくともARR2(配列番号:31)、hTERT(配列番号:32)、GAL4-VP2(配列番号:30または配列番号:33)、G5E4T(配列番号:36)、およびWPRE(配列番号:29)を含む、配列番号:35に含まれる。
【0268】
本発明の別の態様では、個々の前立腺癌特異的なエレメント(群)を、前立腺癌に特異的な発現活性が保持された、1つもしくは複数の、さらにより短いセグメントを同定するために、さらに狭める。例えば、これらの個々の領域から欠失コンストラクトを作製することが可能であり、また、その組織特異性を検討して、前立腺癌組織で発現を誘導する能力を維持する、1つもしくは複数の、より短いセグメントを同定する。
【0269】
実施例12
臨床試験
この実施例は、Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸を単独で、または他の抗癌剤と組み合わせて用いる、ヒトを対象とした治療プロトコルの開発に関する。Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸、および抗癌剤の投与は、例えば、形質転換細胞または癌性細胞が重要な役割を果たすAktの活性化が関与する、さまざまな癌の臨床治療に用いられる。このような投与は抗腫瘍療法に、例えば、従来の化学療法に耐性を示す、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、結腸癌、および肺癌の患者の治療に、特に有用なツールとなると思われる。
【0270】
患者の治療およびモニタリングを含む、臨床試験を実施するためのさまざまな要素は、本開示に鑑みて、当業者であれば理解する。以下の情報は、Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸を臨床試験で確立する際に用いられる一般的なガイドラインとして提示する。
【0271】
臨床試験に選択される、進行性で転移性の乳癌、上皮卵巣癌、膵臓癌、結腸癌、または他の癌の患者は、典型的には、癌を発生するリスクが高く、現時点で回復期にある癌治療を過去に受けたことがあり、または、少なくとも1通りの従来の治療法に反応が不良の場合がある。例示的な臨床プロトコルでは、患者は、胸腔または腹腔内にTenckhoffカテーテル、または他の適切な装置の留置を受ける場合があり、また、胸水/腹水の連続的なサンプリングを受ける場合がある。典型的には、胸腔または腹腔の既知の被包化が見られないこと、クレアチニン濃度が2 mg/dl未満であること、およびビリルビン濃度が2 mg/dl未満であることが判定されることが望まれる。このような患者は、正常の凝固プロファイルを示すはずである。
【0272】
Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸、および他の抗癌剤の投与に関しては、Tenckhoffカテーテル、またはこれ以外の装置を、同装置が既に、過去の外科手術から存在する場合を除いて、胸腔または腹腔中に留置することができる。胸水または腹水の試料を得ることで、体液中における、ベースラインの細胞特性、細胞状態(cytology)、LDH、および適切なマーカー(CEA、CA15-3、CA125、PSA、p38(リン酸化型および非リン酸化型)、Akt(リン酸化型および非リン酸化型)が、また細胞中におけるマーカー(Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはこれらをコードする核酸)を評価して記録するように得られる場合がある。
【0273】
同じ手順で、Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸を単独で、または他の抗癌剤と組み合わせて投与することができる。投与は、胸腔/腹腔中に、腫瘍内に直接、または全身に行うことができる。開始用量は、0.5 mg/kg体重とすることができる。3人の患者を対象に、グレードが3を上回る毒性が認められない場合に、個々の用量レベルで投与される場合がある。用量の増加は、100%の増分(0.5 mg、1 mg、2 mg、4 mg)で、薬剤関連のグレード2の毒性が検出されるまで実施することができる。この後の用量の増加は25%の増分で行うことができる。投与用量は、Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸のロット、および抗癌剤のロットに関して決定される、混合エンドトキシンレベルが、任意の患者について5 EU/kgを超える場合には、6時間をおいて2回の注入に等分割することができる。
【0274】
Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸、および/または他の抗癌剤の組み合わせを、短い注入時間で、または7〜21日の期間をかける一定速度の注入によって投与することができる。Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはBik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸の注入は、単独で、または抗癌剤および/またはエモジン様チロシンキナーゼ阻害因子と組み合わせて実施することができる。任意の用量レベルで行う注入は、各注入後に生じる毒性に依存する。したがって、仮に任意の単回注入後に、または一定速度による注入時の特定の期間に、グレードIIの毒性に達したら、毒性が改善するまで、投与の続行を控えるか、一定速度の注入を停止すべきである。Bik変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、または変異型のタンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチドをコードする核酸の、抗癌剤と組み合わせた時の用量増加は、約60%の患者が、どのカテゴリーにおいても受け入れられないグレードIIIまたはIVの毒性を示すまで患者群に対して実施される。この値の2/3の用量を、安全な用量と定義することができる。
【0275】
理学的検査、腫瘍の測定、および臨床検査は、言うまでもなく、治療前に、また約3〜4週の間隔をおいた後に実施すべきである。疾患の程度を見極めたり、既存の症状の原因を突きとめたりするために、臨床試験には、CBC、全細胞数の測定、および血小板数の測定、尿検査、SMA-12-100(肝機能および腎機能の試験)、凝固プロファイル、ならびに他の任意の適切な化学試験を含めるべきである。例えば、CEA、CA15-3、p38(リン酸化型および非リン酸化型)、ならびにAkt(リン酸化型および非リン酸化型)、p185などの、血清中の適切な生物学的マーカーのモニタリングも行うべきである。
【0276】
疾患の経過を追跡し、抗腫瘍反応を評価するためには、患者が適切な腫瘍マーカーに関して検討を4週毎に(仮に当初異常があれば週2回)、4週間におけるCBC、全細胞数、および血小板数の検査を受けるべきであることが対象となる(骨髄抑制が見られない場合は毎週の観察)。仮に、いずれかの患者に長期の骨髄抑制が認められれば、汎血球減少症の原因として骨髄への腫瘍浸潤の可能性を除くために、骨髄検査の実施が推奨される。凝固プロファイルは4週毎に得るべきである。SMA-12-100は、毎週実施すべきである。胸水/腹水試料は、初回投与の72時間後に得るべきであり、その後は、最初の2回は週1回得るべきであり、その後は、進行が見られる場合、または試験の終了時までは4週毎に得るべきである。細胞特性、細胞状態、LDH、および体液中の適切なマーカー(CEA、CA15-3、CA125、ki67、およびアポトーシスを測定するためのTunelアッセイ法、Akt)、および細胞中の適切なマーカー(Akt)を評価することができる。測定可能な疾患が認められる場合、腫瘍の尺度を4週毎に記録する。腫瘍の反応を評価するためには、適切な放射線試験を8週毎に繰り返し行うべきである。治療の開始から4週後および8週後に、また試験参加の終了時に、肺活量測定およびDLCOを繰り返し行うことがある。尿検査を4週毎に実施する場合がある。
【0277】
臨床反応は、許容される尺度で定義される場合がある。例えば、完全反応は、全ての測定可能な疾患の少なくとも1か月間にわたる消失と定義される場合がある。一方で、部分的反応は、評価可能な全ての腫瘍結節の垂直方向の直径の積の合計の50%またはこれ以上の減少、または拡大を示す腫瘍部位が少なくとも1か月間、存在しないことと定義される場合がある。同様に、混合反応は、1か所もしくは複数の部位における進行が見られる、測定可能な全ての病巣の垂直方向の直径の積の50%またはこれ以上の減少と定義される場合がある。
【0278】
参考文献
本明細書で言及された全ての特許および出版物は、本発明が属する技術分野の当業者の水準を意味する。全ての特許および出版物は、個々の出版物が具体的かつ個別に、参照により本明細書に組み入れられることが示されたように、その全体が参照により本明細書に、同程度に組み入れられる。
【0279】
特許
出版物
【0280】
本発明、および本発明の利点を詳細に説明したが、特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から解離することなく、本明細書において、さまざまな変更、置換、および改変が可能なことを理解すべきである。また、本出願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機器、製造法、組成物、手段、方法、および段階の特定の態様に制限されることは意図されない。当業者であれば、本発明の記述から容易に理解するように、現時点で存在するまたは本明細書に記載された態様と実質的に同じ機能を果したり、実質的に同じ結果を達成したりするように将来開発されるプロセス、機器、製造法、組成物、手段、方法、または段階を、本発明に従って利用可能な場合がある。したがって、特許請求の範囲は、このようなプロセス、機器、製造法、組成物、手段、方法、または段階を、このような範囲に含むことを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0281】
【図1A−F】Bik変異型の発現が、さまざまなヒト癌細胞系列で、より強力な成長阻害作用を示すことを示す。
【図2】Bik変異型が、さまざまなヒト癌細胞系列で、より強力な細胞死滅作用を示すことを示す。
【図3】Bik変異型が、他のヒト癌細胞系列で、強力な細胞死滅作用を示すことを示す。
【図4A−B】Bik変異型が、エクスビボアッセイ法で、より強力な腫瘍抑制効果を示すことを示す。
【図5A−B】SNで送達された変異型Bik遺伝子が、マウスでヒト腫瘍の成長を有意に阻害することを示す。
【図6A−B】例示的なBik変異型(BikDD)のポリヌクレオチドが、乳癌の同所性モデルにおいて、腫瘍成長の有意な抑制および生存率の上昇を示したことを示す。図6Aには、毎週測定して記録した腫瘍の体積を示す。図6Bには、BikDDが、MDA-MB-231同所性腫瘍を有するマウスの生存率を高めたことを示す。
【図7A−B】Bik変異型(BikDD)の遺伝子が、乳癌の同所性モデルにおいて、腫瘍成長の有意な抑制および生存率の上昇を示したことを示す。図7Aには、毎週測定して記録した腫瘍の体積を示す。図7Bには、BikDDが、MDA-MB-231同所性腫瘍を有するマウスの生存率を高めたことを示す。
【図8】Bik変異型(BikDD)の遺伝子の投与が、卵巣癌の同所性モデルでマウスの生存率を高めることを示す。
【図9】Bik変異型(BikDD)の遺伝子の投与が、膵臓癌の同所性モデルでマウスの生存率を高めることを示す。
【図10】さまざまな細胞系列を対象とした、CT90BikDDおよびCMV-BikDDのインビトロ死滅アッセイ法を示す。Y軸の値は、処理後の生存細胞のパーセンテージを示す。
【図11】CT90-BikDD遺伝子治療のインビボにおける抗腫瘍効果を示す。乳癌細胞系列MDA-MB-231をマウスに播種し(2.5x106個/匹)、リポソーム結合CT0-BikDD、CMV-BikDD、空のベクターpGL3、およびデキストロース緩衝液D5W(非投与対照)を週1回投与した。腫瘍の大きさ(Y軸の値)は、投与中に週2回測定し、図に示した。X軸は投与日を示す。
【図12A−E】例示的な同所性マウスモデルにおけるCT90-BikDD乳癌標的遺伝子治療の治療効果を示す。図12Aは、同所性マウスモデルにおいて、リポソームと複合体を形成したCT90-BikDDが乳癌細胞を標的とすることを示す。図12Bおよび12Dには、遺伝子治療中における腫瘍の大きさの記録を示す。マウスへの投与は、週1回(QW、図12B)、または週2回(BIW、図12D)実施した。
【図13】MDA-MB-468異種移植マウスを対象とした、Bik-DDの遺伝子治療の結果を示す。
【図1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方を有する、変異型Bikポリペプチド。
【請求項2】
抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方が、天然のBikポリペプチドと実質的に同じか、またはより効果的である、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項4】
非置換型のBikポリペプチドのリン酸化を生じる条件下で、前記置換がBikポリペプチドのリン酸化を妨げる、請求項3記載のポリペプチド。
【請求項5】
アミノ酸の置換が、Thr33、Ser35、またはこの両方(Thr33およびSer35)におけるものである、請求項4記載のポリペプチド。
【請求項6】
置換がThr33からAsp33への置換である、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項7】
置換がSer35からAsp35への置換である、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項8】
置換が、Thr33からAsp33への置換、Ser35からAsp35への置換、またはこの両方である、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項9】
薬理学的に許容される賦形剤中の組成物であって、その中にBikポリペプチドが分散されている組成物としてさらに定義される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項10】
薬理学的に許容される賦形剤に含まれるものとしてさらに定義される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項11】
キット中の適切な容器内に含まれるものとしてさらに定義される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項12】
アミノ酸の置換を有するBikポリペプチドを細胞に投与する段階を含む方法。
【請求項13】
アミノ酸の置換が、Thr33、Ser35、またはこの両方(Thr33およびSer35)におけるものである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
置換がThr33からAsp33への置換である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
置換がSer35からAsp35への置換である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
ポリペプチドがタンパク質導入ドメインをさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項17】
細胞が動物に含まれているものである、請求項12記載の方法。
【請求項18】
動物がヒトである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ヒトが増殖性細胞疾患を有する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
増殖性細胞疾患が癌である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
癌が、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、肉腫、肺癌、脳腫瘍、膵臓癌、肝臓癌、膀胱癌、消化器癌、白血病、リンパ腫、または骨髄腫である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
癌が、エストロゲン受容体陽性であるか、EGF受容体を過剰発現しているか、Her2/neuを過剰発現しているか、Her2/neuを過剰発現していないか、Aktを過剰発現しているか、アンドロゲン非依存性であるか、またはアンドロゲン依存性である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
癌が、例えば肉腫、肺癌、脳腫瘍、膵臓癌、肝臓癌、膀胱癌、消化器癌などの固形腫瘍、または白血病、リンパ腫、および骨髄腫などの血液の悪性腫瘍である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
増殖性細胞疾患が再狭窄である、請求項20記載の方法。
【請求項25】
ポリペプチドが、薬理学的に許容される賦形剤中に含まれる、請求項12記載の方法。
【請求項26】
ポリペプチドが脂質と複合体を形成している、請求項25記載の方法。
【請求項27】
Thr33にアミノ酸の置換を有するBikポリペプチドを細胞に投与する段階が、Thr33におけるアミノ酸の置換を有するBikポリペプチドをコードする核酸を個体に投与する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項28】
核酸の発現が、組織特異的な制御配列によって調節される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
核酸が、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、またはリポソーム中に含まれる、請求項27記載の方法。
【請求項30】
核酸が薬理学的に許容される賦形剤中に分散している、請求項27記載の方法。
【請求項31】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
組織特異的な制御配列が、前立腺癌に特異的な制御配列である、請求項28記載の方法。
【請求項33】
組織特異的な制御配列が、膵臓癌に特異的な制御配列である、請求項28記載の方法。
【請求項34】
Ser35にアミノ酸の置換を有するBikポリペプチドを細胞に投与する段階が、Ser35にアミノ酸の置換を有するBikポリペプチドをコードする核酸を個体に投与する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項35】
核酸の発現が、組織特異的な制御配列によって調節される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
核酸が、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、またはリポソーム中に含まれる、請求項34記載の方法。
【請求項37】
核酸が、薬理学的に許容される賦形剤中に分散している、請求項34記載の方法。
【請求項38】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列である、請求項35記載の方法。
【請求項39】
組織特異的な制御配列が、前立腺癌に特異的な制御配列である、請求項35記載の方法。
【請求項40】
組織特異的な制御配列が、膵臓癌に特異的な制御配列である、請求項35記載の方法。
【請求項41】
個体中の細胞の成長を妨げる方法としてさらに定義される、請求項12記載の方法。
【請求項42】
Bikポリペプチドを、アミノ酸33位、アミノ酸35位、またはこの両方において修飾する段階を含む方法であって、修飾によってアミノ酸がリン酸化されなくなる方法としてさらに定義される、請求項13記載の方法。
【請求項43】
細胞の増殖を阻害するのに有効な量で変異型Bikポリペプチドを細胞に接触させる段階を含む、細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項44】
変異型Bikポリペプチドが、抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方を有するものとしてさらに定義される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
ポリペプチドの抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方が、天然のBikポリペプチドと実質的に同じか、またはより効果的である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
変異型Bikがアミノ酸の置換を含む、請求項43記載の方法。
【請求項47】
非置換型のBikポリペプチドのリン酸化を生じる条件下で、変異型Bikポリペプチドにおける置換が、Bikポリペプチドのリン酸化を妨げる、請求項46記載の方法。
【請求項48】
アミノ酸の置換が、Thr33、Ser35、またはこの両方(Thr33およびSer35)におけるものである、請求項47記載の方法。
【請求項49】
置換がThr33からAsp33への置換である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
置換がSer35からAsp35への置換である、請求項48記載の方法。
【請求項51】
変異型Bik組成物を個体に投与する段階を含む、個体の増殖性細胞疾患を治療する方法。
【請求項52】
変異型Bikポリペプチドが、抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方を有するものとしてさらに定義される、請求項51記載の方法。
【請求項53】
ポリペプチドの抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方が、天然のBikポリペプチドと実質的に同じか、またはより効果的である、請求項51記載の方法。
【請求項54】
変異型Bikがアミノ酸の置換を含む、請求項51記載の方法。
【請求項55】
置換が、Thr33、Ser35、またはこの両方(Thr33およびSer35)におけるものである、請求項54記載の方法。
【請求項56】
非置換型のBikポリペプチドのリン酸化を生じる条件下で、変異型Bikポリペプチド中のアミノ酸の置換がBikポリペプチドのリン酸化を妨げる、請求項54記載の方法。
【請求項57】
置換がThr33からAsp33への置換である、請求項54記載の方法。
【請求項58】
置換がSer35からAsp35への置換である、請求項54記載の方法。
【請求項59】
癌を有する個体の癌を治療する方法であって、Thr33からAsp33への置換、Ser35からAsp35への置換、またはこの両方を有するBikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの治療的有効量を、個体の少なくとも1つの癌細胞に接触させる段階を含み、ポリヌクレオチドはリポソーム中に含まれる、方法。
【請求項60】
変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現が、組織特異的な制御配列によって調節される、請求項59記載の方法。
【請求項61】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列である、請求項60記載の方法。
【請求項62】
組織特異的な制御配列が、前立腺癌に特異的な制御配列である、請求項60記載の方法。
【請求項63】
組織特異的な制御配列が、膵臓癌に特異的な制御配列である、請求項60記載の方法。
【請求項64】
変異型Bikポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドコンストラクト。
【請求項65】
コンストラクトがさらに、変異型Bikポリペプチドをコードする配列に機能的に連結された組織特異的な制御配列を含む、請求項64記載のポリヌクレオチド。
【請求項66】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列、前立腺癌に特異的な制御配列、または膵臓癌に特異的な制御配列を含む、請求項65記載のポリヌクレオチド。
【請求項67】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列を含む、請求項65記載のポリヌクレオチド。
【請求項68】
組織特異的な制御配列が、前立腺癌に特異的な制御配列を含む、請求項65記載のポリヌクレオチド。
【請求項69】
組織特異的な制御配列が、膵臓癌に特異的な制御配列を含む、請求項65記載のポリヌクレオチド。
【請求項70】
変異型Bikポリペプチドが、Thr33からAsp33への置換、Ser35からAsp35への置換、またはこの両方を含む、請求項64記載のポリヌクレオチド。
【請求項71】
リポソームに含まれるものとしてさらに定義される、請求項64記載のポリヌクレオチド。
【請求項72】
変異型Bik組成物を細胞に送達する段階を含む、腫瘍細胞を化学療法剤に感作する方法。
【請求項73】
腫瘍細胞を化学療法剤に感作する段階が、化学療法剤によって誘導される細胞のアポトーシスを促進する段階としてさらに定義される、請求項72記載の方法。
【請求項74】
変異型Bik組成物が、変異型Bikポリペプチドとしてさらに定義される、請求項72記載の方法。
【請求項75】
変異型Bik組成物が、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしてさらに定義される、請求項72記載の方法。
【請求項1】
抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方を有する、変異型Bikポリペプチド。
【請求項2】
抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方が、天然のBikポリペプチドと実質的に同じか、またはより効果的である、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項4】
非置換型のBikポリペプチドのリン酸化を生じる条件下で、前記置換がBikポリペプチドのリン酸化を妨げる、請求項3記載のポリペプチド。
【請求項5】
アミノ酸の置換が、Thr33、Ser35、またはこの両方(Thr33およびSer35)におけるものである、請求項4記載のポリペプチド。
【請求項6】
置換がThr33からAsp33への置換である、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項7】
置換がSer35からAsp35への置換である、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項8】
置換が、Thr33からAsp33への置換、Ser35からAsp35への置換、またはこの両方である、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項9】
薬理学的に許容される賦形剤中の組成物であって、その中にBikポリペプチドが分散されている組成物としてさらに定義される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項10】
薬理学的に許容される賦形剤に含まれるものとしてさらに定義される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項11】
キット中の適切な容器内に含まれるものとしてさらに定義される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項12】
アミノ酸の置換を有するBikポリペプチドを細胞に投与する段階を含む方法。
【請求項13】
アミノ酸の置換が、Thr33、Ser35、またはこの両方(Thr33およびSer35)におけるものである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
置換がThr33からAsp33への置換である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
置換がSer35からAsp35への置換である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
ポリペプチドがタンパク質導入ドメインをさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項17】
細胞が動物に含まれているものである、請求項12記載の方法。
【請求項18】
動物がヒトである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ヒトが増殖性細胞疾患を有する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
増殖性細胞疾患が癌である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
癌が、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、肉腫、肺癌、脳腫瘍、膵臓癌、肝臓癌、膀胱癌、消化器癌、白血病、リンパ腫、または骨髄腫である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
癌が、エストロゲン受容体陽性であるか、EGF受容体を過剰発現しているか、Her2/neuを過剰発現しているか、Her2/neuを過剰発現していないか、Aktを過剰発現しているか、アンドロゲン非依存性であるか、またはアンドロゲン依存性である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
癌が、例えば肉腫、肺癌、脳腫瘍、膵臓癌、肝臓癌、膀胱癌、消化器癌などの固形腫瘍、または白血病、リンパ腫、および骨髄腫などの血液の悪性腫瘍である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
増殖性細胞疾患が再狭窄である、請求項20記載の方法。
【請求項25】
ポリペプチドが、薬理学的に許容される賦形剤中に含まれる、請求項12記載の方法。
【請求項26】
ポリペプチドが脂質と複合体を形成している、請求項25記載の方法。
【請求項27】
Thr33にアミノ酸の置換を有するBikポリペプチドを細胞に投与する段階が、Thr33におけるアミノ酸の置換を有するBikポリペプチドをコードする核酸を個体に投与する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項28】
核酸の発現が、組織特異的な制御配列によって調節される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
核酸が、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、またはリポソーム中に含まれる、請求項27記載の方法。
【請求項30】
核酸が薬理学的に許容される賦形剤中に分散している、請求項27記載の方法。
【請求項31】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
組織特異的な制御配列が、前立腺癌に特異的な制御配列である、請求項28記載の方法。
【請求項33】
組織特異的な制御配列が、膵臓癌に特異的な制御配列である、請求項28記載の方法。
【請求項34】
Ser35にアミノ酸の置換を有するBikポリペプチドを細胞に投与する段階が、Ser35にアミノ酸の置換を有するBikポリペプチドをコードする核酸を個体に投与する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項35】
核酸の発現が、組織特異的な制御配列によって調節される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
核酸が、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、またはリポソーム中に含まれる、請求項34記載の方法。
【請求項37】
核酸が、薬理学的に許容される賦形剤中に分散している、請求項34記載の方法。
【請求項38】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列である、請求項35記載の方法。
【請求項39】
組織特異的な制御配列が、前立腺癌に特異的な制御配列である、請求項35記載の方法。
【請求項40】
組織特異的な制御配列が、膵臓癌に特異的な制御配列である、請求項35記載の方法。
【請求項41】
個体中の細胞の成長を妨げる方法としてさらに定義される、請求項12記載の方法。
【請求項42】
Bikポリペプチドを、アミノ酸33位、アミノ酸35位、またはこの両方において修飾する段階を含む方法であって、修飾によってアミノ酸がリン酸化されなくなる方法としてさらに定義される、請求項13記載の方法。
【請求項43】
細胞の増殖を阻害するのに有効な量で変異型Bikポリペプチドを細胞に接触させる段階を含む、細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項44】
変異型Bikポリペプチドが、抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方を有するものとしてさらに定義される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
ポリペプチドの抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方が、天然のBikポリペプチドと実質的に同じか、またはより効果的である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
変異型Bikがアミノ酸の置換を含む、請求項43記載の方法。
【請求項47】
非置換型のBikポリペプチドのリン酸化を生じる条件下で、変異型Bikポリペプチドにおける置換が、Bikポリペプチドのリン酸化を妨げる、請求項46記載の方法。
【請求項48】
アミノ酸の置換が、Thr33、Ser35、またはこの両方(Thr33およびSer35)におけるものである、請求項47記載の方法。
【請求項49】
置換がThr33からAsp33への置換である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
置換がSer35からAsp35への置換である、請求項48記載の方法。
【請求項51】
変異型Bik組成物を個体に投与する段階を含む、個体の増殖性細胞疾患を治療する方法。
【請求項52】
変異型Bikポリペプチドが、抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方を有するものとしてさらに定義される、請求項51記載の方法。
【請求項53】
ポリペプチドの抗細胞増殖活性、アポトーシス促進活性、またはこの両方が、天然のBikポリペプチドと実質的に同じか、またはより効果的である、請求項51記載の方法。
【請求項54】
変異型Bikがアミノ酸の置換を含む、請求項51記載の方法。
【請求項55】
置換が、Thr33、Ser35、またはこの両方(Thr33およびSer35)におけるものである、請求項54記載の方法。
【請求項56】
非置換型のBikポリペプチドのリン酸化を生じる条件下で、変異型Bikポリペプチド中のアミノ酸の置換がBikポリペプチドのリン酸化を妨げる、請求項54記載の方法。
【請求項57】
置換がThr33からAsp33への置換である、請求項54記載の方法。
【請求項58】
置換がSer35からAsp35への置換である、請求項54記載の方法。
【請求項59】
癌を有する個体の癌を治療する方法であって、Thr33からAsp33への置換、Ser35からAsp35への置換、またはこの両方を有するBikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの治療的有効量を、個体の少なくとも1つの癌細胞に接触させる段階を含み、ポリヌクレオチドはリポソーム中に含まれる、方法。
【請求項60】
変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現が、組織特異的な制御配列によって調節される、請求項59記載の方法。
【請求項61】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列である、請求項60記載の方法。
【請求項62】
組織特異的な制御配列が、前立腺癌に特異的な制御配列である、請求項60記載の方法。
【請求項63】
組織特異的な制御配列が、膵臓癌に特異的な制御配列である、請求項60記載の方法。
【請求項64】
変異型Bikポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドコンストラクト。
【請求項65】
コンストラクトがさらに、変異型Bikポリペプチドをコードする配列に機能的に連結された組織特異的な制御配列を含む、請求項64記載のポリヌクレオチド。
【請求項66】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列、前立腺癌に特異的な制御配列、または膵臓癌に特異的な制御配列を含む、請求項65記載のポリヌクレオチド。
【請求項67】
組織特異的な制御配列が、乳癌に特異的な制御配列を含む、請求項65記載のポリヌクレオチド。
【請求項68】
組織特異的な制御配列が、前立腺癌に特異的な制御配列を含む、請求項65記載のポリヌクレオチド。
【請求項69】
組織特異的な制御配列が、膵臓癌に特異的な制御配列を含む、請求項65記載のポリヌクレオチド。
【請求項70】
変異型Bikポリペプチドが、Thr33からAsp33への置換、Ser35からAsp35への置換、またはこの両方を含む、請求項64記載のポリヌクレオチド。
【請求項71】
リポソームに含まれるものとしてさらに定義される、請求項64記載のポリヌクレオチド。
【請求項72】
変異型Bik組成物を細胞に送達する段階を含む、腫瘍細胞を化学療法剤に感作する方法。
【請求項73】
腫瘍細胞を化学療法剤に感作する段階が、化学療法剤によって誘導される細胞のアポトーシスを促進する段階としてさらに定義される、請求項72記載の方法。
【請求項74】
変異型Bik組成物が、変異型Bikポリペプチドとしてさらに定義される、請求項72記載の方法。
【請求項75】
変異型Bik組成物が、変異型Bikポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしてさらに定義される、請求項72記載の方法。
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【公表番号】特表2007−524380(P2007−524380A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509677(P2006−509677)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/010342
【国際公開番号】WO2004/089981
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505368911)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/010342
【国際公開番号】WO2004/089981
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505368911)
【Fターム(参考)】
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