説明

抗菌作用を持つタングステン酸化物二次構造体

【課題】光触媒活性及び抗菌活性の両方を同時に増大させる酸化タングステンの構造と塗布した酸化タングステンがある程度の強度で付着し、大面積合成しやすく、且つ優れた光触媒活性及び抗菌活性を発揮する部材に対する抗菌活性付与手法を提供する。
【解決手段】タングステン含有材料及び過酸化水素から調製されたタングステン酸化物前駆体溶液を部材に塗布し、塗布された該前駆体を分解してタングステン酸化物を部材に付着させることにより、タングステン酸化物の一次粒子が凝集した二次構造体を形成する。二次構造体表面は、その算術平均粗さRaが、少なくとも0.25μmの基準長さの範囲において50nm以下である領域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌活性及び光触媒活性に優れたタングステン酸化物二次構造体及びその調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染物質を吸着し太陽光や室内光によって分解除去する半導体光触媒が注目され、その研究が精力的に行われている。酸化チタンはその代表的なものであり強力な光触媒活性を示す。しかし、酸化チタンはバンドギャップが大きく、紫外光には活性を示すが太陽光の大部分を占める可視光には吸収性がなく、可視光に対する触媒活性を示さないため、太陽光を十分に利用することができず、また紫外光が極めて弱い室内では機能しないことなどの問題があった。このための対策として、窒素や硫黄、金属ドープなどで可視光を吸収できるようにするなどの酸化チタンの改良研究や可視光で光触媒として活性を示す化合物半導体の探索研究などが行われている。
【0003】
酸化チタン系よりも可視光での光触媒活性が高い半導体としてタングステン酸化物系が報告されている。タングステン酸化物、特に酸化タングステンは銅化合物や貴金属など適切な助触媒を担持することで様々な有機物をCO2に完全酸化することができる非常に魅力的な光触媒材料である(特許文献1−3参照)。
【0004】
しかしながら、これらのタングステン酸化物系半導体は、可視光触媒活性がまだ十分ではない場合があり、光触媒活性の向上が課題であった。光触媒活性の向上方法として、光吸収の増大効果の利用がある。タングステン酸化物系半導体の粉末を調製する時の前駆体溶液に過酸化物を添加し、これを熱分解してタングステン酸化物の粉末を合成するとその光触媒活性は増大することが報告されている(特許文献4参照)。
【0005】
一方、抗菌活性については、酸化チタン系では光触媒作用によるため光照射が必須であるが、酸化タングステンは光が無くても抗菌活性を示すことが報告されている(特許文献5参照)。酸化タングステン粉末の抗菌活性はその物性と調製法に依存することが知られており、特許文献5ではその粉末の物性が広い範囲で記載されている。しかしその粉末を部材に塗布する手法の記載は限定されており、ある特定の酸化タングステン微粒子を調製してから、次に部材にその粒子を塗布する方法が述べられている。塗布する前の粉末の調製法としては、昇華法又はタングステン酸アンモニウムの熱分解で調製した粉末について実施例があり、昇華法の粉末が特に優れているという結果であった。さらに粉末粒子が大きいと塗布しても成膜できないことも記載がある。この抗菌活性に関してはその発現機構は明らかでなく、そのために酸化タングステンのどのような構造が有効なのかなどについては詳細な情報はほとんどない。
【0006】
酸化タングステンの光触媒活性や抗菌活性を実用的に活かす場合、粉末でそのまま使うことはほとんど無く、酸化タングステンを抗菌性が必要とされる部材に塗布する手法の開発は非常に重要である。しかし、塗布した酸化タングステンがある程度の強度で付着し、且つ優れた光触媒活性及び抗菌活性を発揮する手法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-273463号公報
【特許文献2】特開2008-149312号公報
【特許文献3】特開2009-061426号公報
【特許文献4】特開2009-189952号公報
【特許文献5】WO2009/110233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光触媒活性及び抗菌活性の両方を同時に増大させる酸化タングステンの構造と塗布した酸化タングステンがある程度の強度で付着し、大面積合成しやすく、且つ優れた光触媒活性及び抗菌活性を発揮する酸化タングステン塗布手法を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸化タングステンの粉末を調製してから塗布するのではなく、タングステン含有材料と過酸化物が溶解したタングステン酸化物前駆体溶液を部材に塗布してからタングステン含有材料を分解するという、付着強度や光触媒活性及び抗菌活性の面で優れた手法を見出し、さらに上記の製造方法により製造される酸化タングステンの構造が光触媒活性と抗菌活性を同時に促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
(1) タングステン酸化物の一次粒子が凝集した二次構造体であって、その二次構造体表面の算術平均粗さRaが、少なくとも0.25μmの基準長さの範囲において50nm以下である領域を有することを特徴とする抗菌活性に優れたタングステン酸化物二次構造体。
(2)タングステン酸化物に助触媒を担持することで優れた光触媒活性を同時に有することを特徴とする(1)に記載のタングステン酸化物二次構造体。
(3)タングステン酸化物が三酸化タングステンであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のタングステン酸化物二次構造体。
(4)助触媒が、銅化合物、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銀、ニッケルから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする(2)又は(3)に記載のタングステン酸化物二次構造体。
(5)多孔質であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のタングステン酸化物二次構造体。
(6)タングステン含有材料及び過酸化水素から調製されたタングステン酸化物前駆体溶液を部材に塗布し、塗布された該前駆体を分解してタングステン酸化物を部材に付着させることを特徴とする抗菌活性付与方法。
(7)タングステン酸化物に助触媒を担持することで光触媒活性を付与することを特徴とする(6)に記載の抗菌活性付与方法。
(8)(6)又は(7)に記載の方法により部材表面に(1)〜(5)のいずれか1項に記載のタングステン酸化物二次構造体を生成させることを特徴とする抗菌活性付与方法。
(9)部材が多孔質素材であり、その表面にタングステン酸化物をコートすることにより製造するか、又は、タングステン酸化物をコートすることによって多孔質構造を生成することを特徴とする(6)〜(8)のいずれか1項に記載の抗菌活性付与方法。
(10)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のタングステン二次構造体を具備することを特徴とする抗菌部材。

【発明の効果】
【0010】
本発明は、光触媒活性と抗菌活性の両方に優れる酸化タングステンの構造とさまざまな日用品や工業製品に光触媒活性と抗菌活性の両方を同時に付与する実用的な方法を提供するものである。特に抗菌活性が暗時でも持続することは従来の光触媒にはない特性である。銀イオンや銅イオンのように流れ出たり、アレルギーの原因になることはない。光触媒活性と抗菌活性の両方で部材表面をクリーンに保つことができる。例えば光触媒を利用した空気清浄機のフィルターには最適である。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例8及び比較例3についてのWO3光触媒フィルターのアセトアルデヒド分解のCO2発生経時変化を示すグラフである。
【図2】本発明のタングステン酸化物二次構造体の各種スケールにおける表面部等の構造を示す概念図である。
【図3】実施例1のタングステン酸化物二次構造体が生成された部材のSEM写真である。
【図4】比較例2のIE法によりタングステン酸化物が形成された部材のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗菌活性に優れたタングステン酸化物二次構造体(以下では、「二次構造体」と略記することがある。)は、タングステン酸化物の一次粒子が凝集して形成されたものであり、タングステン含有材料及び過酸化水素から調製されたタングステン酸化物前駆体溶液(以下では、「前駆体溶液」と略記することがある。)の分解により形成することができる。
【0013】
タングステン含有材料としては、過酸化水素に溶解するものを用いることができる。そのような過酸化水素に溶解するタングステン含有材料としては、例えば、タングステンメタル、H2WO4、WO3、NaWO4などの1種以上を挙げることができる。タングステン含有材料は、過酸化水素に溶解し、タングステンの過酸化物が生成していると考えられる。前駆体溶液に用いる溶媒としては、水溶媒、有機溶媒のどちらも用いることができるが、水溶媒が好ましい。有機溶媒としては、アルコール、有機酸等が挙げられる。水溶媒に有機物を混合しても良い。
【0014】
光触媒活性の高い半導体光触媒としてのタングステン酸化物二次構造体を調製するには、前駆体溶液を長時間熟成することが望ましい。熟成期間中に自己組織的にオレンジ色の準安定な組成が溶液中にも形成される。熟成は数時間程度、静置又は撹拌したり、溶媒の沸点以下で加熱する。
【0015】
前駆体溶液から二次構造体を生成する方法は、後述のような表面性状が得られるものであればいかなるものでも良い。好適な方法としては、湿式法で前駆体溶液を部材表面に付着させ、加熱乃至焼成することにより部材表面に膜状の二次構造体を形成する方法を挙げることができる。
【0016】
表面に二次構造体が形成される部材は、抗菌活性及び/又は光触媒活性付与が必要とされるものであり、後述のような表面性状の二次構造体が形成されるものであれば、その形状や構造は問わない。そのような部材としては、平滑面を具備する基板等の平板状のもの、波板等の大きな凸凹の表面を具備するもの、棒状乃至ワイヤ状のもの、球状、円筒状、ドーム状等の内面及び/又は外面に曲面を具備するもの、スクリーン、フィルター、ポーラスメタル等の網状乃至多孔状のものなどが挙げられる。
【0017】
前駆体溶液を部材に付着する方法としては、スピンコート等の各種の塗布方法を用いることができるし、多孔性の部材に対しては、前駆体溶液を染み込ませる方法を用いて孔内面に付着させることもできる。部材に付着された前駆体溶液を乾燥、分解し二次構造体を生成する際の加熱乃至焼成温度としては、ガス分解成分がほぼ放出される温度以上であり、かつ半導体結晶が通常のX線回折(XRD)測定で観測される温度以上が必要である。空気中で300℃以上が望ましい。
【0018】
半導体光触媒は比表面積が高い方が好ましいが、高すぎると結晶性が不十分で欠陥やアモルファスが多くなり、活性低下の原因となる。結晶性が高く且つ比表面積が高い光触媒が望ましいが、その比表面積の最適値は触媒密度や反応基質により多少異なる。有機物酸化分解では比表面積は多め、酸素発生では少なめが良い。酸化タングステン(WO3)の炭化水素分解の場合、好ましくは1-50m2/g、より好ましくは2-40m2/g、更に好ましくは4-35m2/gである。XRDやTEM観察から推察される結晶性は、同じ比表面積で比べれば結晶性ができるだけ高い方が望ましい。
【0019】
半導体光触媒は通常助触媒を担持すると性能は大きくなる場合が多い。白金やパラジウム、ルテニウムなどの貴金属や銅化合物等を半導体粒子に担持しても良い。助触媒を半導体光触媒に担持させる方法としては、どのようなものでも良いが、例えば、助触媒前駆体溶液を二次構造体の表面に付着させ、焼成する方法が挙げられる。そのような助触媒前駆体溶液としては、硝酸銅水溶液、パラジウムアンミン錯体水溶液等が挙げられる。また、半導体光触媒は、活性炭のような吸着特性の高い物質と共存させても良い。
【0020】
本発明の二次構造体は、タングステン酸化物の一次粒子が凝集して形成されたものであり、後述の表面性状を満足する限り、いかなる形状、構造のものでも良く、上述のような膜状のものの外、例えば、粒子状であっても、また、多孔質のものであっても良い。
タングステン酸化物の一次粒子は、後述の二次構造体の表面性状が得られるものであれば良く、平均粒子径が200nm以下、好ましくは60nm以下である。
【0021】
本発明の二次構造体は、その表面性状が抗菌性に重要である。タングステン酸化物による抗菌作用のメカニズムは明確でないが、タングステン酸化物と細菌表面との直接的な相互作用の効果が大きいので、細菌がタングステン酸化物の表面に広く密着することが好ましい。そのためにはタングステン酸化物の二次構造体の表面が抗菌対象の細菌のスケールで平滑であることが重要であり、細菌表面の柔軟性によって密着して覆える程度にまでタングステン酸化物の凹凸が小さいことが望ましい。多くの抗菌対象の細菌のスケールは、短い方向(接触面の幅)で0.5μmから1μm、長い方向(接触面の長さ)は1μmから15μm程度である。それで細菌のスケール程度の範囲を考えたときにタングステン酸化物表面の凹凸が少なくとも細菌の接触面の短い方向のスケールの10%以下であることが望ましいため、その平滑さは好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらにより好ましくは25nm以下の凹凸であることが必要である。
【0022】
上記した抗菌対象の細菌のスケール(およそ0.25μmから1μmの範囲)でのタングステン酸化物二次構造体の平滑さは以下のように定義できる。すなわち、タングステン酸化物の二次構造体の表面について、その算術平均粗さRaが、少なくとも0.25μmの基準長さlの範囲において、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらにより好ましくは25nm以下である。ここで、基準長さlは、対象とする細菌の大きさに応じて決定されるものであり、一般的には、0.25μm、0.50μm、1.0μm、1.5μm、2.0μm、3.0μm等とすることができる。この基準長さ1の数値を大きくすると、平滑さの条件がより厳しくなるので、その数値に対応する大きさの細菌だけでなく、それより小さい細菌も対象とすることができる。
なお、このような定義による平滑さは、Raの数値を超える高さの突起の存在を許容するが、該突起以外の部分ではRaの値未満の小さな凹凸となり、細菌の二次構造体表面への密着にあまり影響しないと考えられるし、また、Raの数値にあまり影響を及ぼさない針状の(すなわち、底面積の小さい)突起は、タングステン酸化物においてはあまり考えられないので、本発明では、二次構造体の平滑さの目安としてそのような定義を採用した。
【0023】
このような基準長さ1における算術平均粗さRaで定義される平滑な領域は、二次構造体の表面に少しでもあれば良いが、表面におけるその占有割合が高ければ高いほど抗菌性の点で望ましく、例えば、10%以上であれば好ましく、20%以上であればより好ましく、30%以上であれば更に好ましく、50%以上であれば更に好ましい。そのような占有割合は、例えば、二次構造体表面について任意の直線に沿って基準長さ1ごとにRaを求めたとき、前述の平滑さの定義を満足する基準長さ1の合計の直線長さ全体に占める割合として求めることができる。
【0024】
本発明の二次構造体は、抗菌対象の細菌のスケールより大きなマクロのスケール(1μmより大きいスケール)で多孔質構造及び/又は表面凹凸構造であることが望ましい(図2(A)参照)。そのような多孔質構造では細菌をより多く表面に接触させることができる。また光触媒作用による分解する有機物もこの多孔質構造及び/又は表面凹凸構造でより多く吸着して分解することができる。このようなマクロなスケールの多孔質構造及び/又は表面凹凸構造はセラミックスフィルターなどのすでにこのスケールの多孔質構造及び/又は表面凹凸構造を持った基質にタングステン酸化物を膜状に生成させることで形成できる。
【0025】
また抗菌対象の細菌のスケールより小さなスケール(およそ0.25μmより小さいスケール)においても、二次構造体は多孔質構造及び/又は表面凹凸構造であることが望ましい(図2(C)参照)。抗菌対象の細菌のスケールで一定以上に平滑であれば、それより小さなスケールでの平均の凹凸(算術平均粗さRa)は平滑である細菌のスケールにおけるものより小さくなる。そのためこのスケールでは細菌表面の柔軟性によりタングステン酸化物との接触面積に関してその凹凸の影響が少なく、多孔質及び/又は表面凹凸であることが抗菌活性に対してはあまり影響しないと考えられる。細菌が分解して生じるものを含めて細菌のスケールよりもはるかに微細な有機物がより多く吸着されて光触媒作用でより効果的に分解されるためには吸着面積が大きいことが望ましいので、このスケールにおいて多孔質及び/又は表面凹凸であることが光触媒活性を増大させる。
【0026】
以上のように抗菌対象の細菌のスケールに依存した多段階の多孔質及び/又は表面凹凸の階層構造を具備することにより本発明の二次構造体は、抗菌活性及び光触媒活性を同時に増大させることができる。その概念図を図2に示す。このような多段階の多孔質及び/又は表面凹凸階層構造及び前述の表面性状を具備する二次構造体は、過酸化水素及びタングステン含有材料からタングステン酸化物前駆体溶液を調製し、これを部材に塗布後に分解してタングステン酸化物を部材に付着させることを特徴とする本発明の方法によって製造することができる。このような望ましい構造が形成されていることは表面の観察から知ることができる。凹凸について主に電子顕微鏡観測により細菌の大きさとの比較を行うのが望ましい。また基板が平滑ならば、AFMや荒さ計によっても評価できる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
WO3微粒子はタングステン酸(H2WO4、Wako製)の過酸化物の熱分解法で調製した。タングステン酸2.5gを過酸化水素(H2O2,30%水溶液)30mlにビーカー中で300rpm以上で2時間程度強く撹拌しながら溶解させた。得られた透明溶液を撹拌しながらゆっくりホットスターラー上で加熱し、水分と過酸化水素を蒸発させる。1/5程度に濃縮した溶液が透明な黄色溶液になるまで環流熟成させる。この溶液をホットプレート上の石英ガラスフィルターに均一に滴下して、乾燥させた。これを電気炉で空気中450℃で0.5時間焼成して石英ガラスフィルター表面に黄緑色のWO3微粒子を作製した。WO3微粒子の比表面積は22m/gであった。このWO3光触媒付きフィルターを実施例1とする(PA法)。抗菌活性試験はJIS R 1702の認定機関で行った。抗菌活性は8時間での生菌数と静菌活性値(R)で比較した。Rは生菌数の減少量を対数で表したものである。菌種は黄色ブドウ球菌を用いた。表1に生菌数とRの結果を示す。紫外線(UV)光照射の有無に関わらず生菌数は検出限界以下になった。黄色ブドウ球菌は直径が0.5〜1.5μmの球状をしており、表面への接触面は直径が0.5〜1.5μm程度の円形になると考えられる。SEM観察によると、実施例1における表面の平滑さ(Ra)は、黄色ブドウ球菌の接触面の大きさの範囲を考えると50nm以下となっている領域が大部分であり、さらにその表面を細かく見ると多孔質である(図3参照)。
【0029】
(実施例2)
実施例1のWO3光触媒付きフィルターに硝酸銅水溶液を滴下し、300℃で焼成してCuO助触媒を0.1wt%担持させた。表1に生菌数とRの結果を示す。光照射の有無に関わらず生菌数は検出限界以下になった。なお、助触媒を担持させても、表面の平滑さ(Ra)が50nm以下となっている領域はあまり変化がなかった。
【0030】
(実施例3)
実施例1のWO3光触媒付きフィルターにパラジウムアンミン錯体水溶液を滴下し、300℃で焼成してPd助触媒を0.01wt%担持させた。表1に生菌数とRの結果を示す。光照射の有無に関わらず生菌数は検出限界以下になった。
【0031】
(実施例4)
実施例1の抗菌試験を肺炎かん菌で行った。表1に生菌数とRの結果を示す。光照射の有無に関わらず生菌数は検出限界以下になった。肺炎かん菌は直径(太さ)が0.5〜1.0μm、長さが2.0μm程度の棒状をしており、表面への接触面は幅が0.5〜1.0μm、長さが2.0μm程度の楕円形状になると考えられる。SEM観察によると、実施例4における表面の平滑さ(Ra)は、肺炎かん菌の接触面の大きさの範囲を考えると50nm以下であり、さらにその表面を細かく見ると多孔質である(図3参照)。
【0032】
(実施例5)
実施例2の抗菌試験を肺炎かん菌で行った。表1に生菌数とRの結果を示す。光照射の有無に関わらず生菌数は検出限界以下になった。
【0033】
(実施例6)
実施例3の抗菌試験を肺炎かん菌で行った。表1に生菌数とRの結果を示す。光照射の有無に関わらず生菌数は検出限界以下になった。
【0034】
(実施例7)
実施例1の抗菌試験を8時間ではなく4時間で行った。表2に生菌数とRの結果を示す。生菌数は光照射ありで27、光照射無しで40、R値は3.9であった。
【0035】
(比較例1)
市販のWO3粉末(和光純薬)を水に懸濁してガラス基板に塗布し、100℃で乾燥させた。しかし、すぐに基板から剥離したため、抗菌試験を行うことができなかった。
【0036】
(比較例2)
実施例1のWO3光触媒付きフィルターの調製法を変更した。Na2WO4水溶液をイオン交換樹脂に通してタングステン酸水溶液を調製した。これにポリエチレングリコール300を添加した。この溶液をホットプレート上の石英ガラスフィルターに均一に滴下して、乾燥させた。これを電気炉で空気中550℃で0.5時間焼成して石英ガラスフィルター表面に黄緑色のWO3微粒子を作製した。WO3微粒子の比表面積は18m/gであった。この手法は、安定なタングステン前駆体のコーティング溶液が調製しやすく、導電性ガラス上に塗布したときの光電極特性が優れていることが知られている(IE法)。この比較例2については、実施例7と同じく、黄色ブドウ球菌を用いて抗菌試験を4時間で行い、生菌数と静菌活性値(R)で比較した。表2に生菌数とRの結果を示す。生菌数は光照射ありで2100、光照射無しで7000、R値は2.0であり、実施例7より抗菌活性が低かった。SEM観察によると、この比較例2では40nm程度の球状の一次粒子がむき出しで無秩序に表面を覆い、表面の平滑さ(Ra)は、黄色ブドウ球菌の接触面の大きさの範囲を考えると50nm以上である(図4参照)。
【0037】
(実施例8)
実施例2のCuO-WO3光触媒付きフィルターでアセトアルデヒド分解の光触媒活性試験を行った。実験はアセトアルデヒドを1800ppm導入し、光照射はソーラーシミュレーター(0.5Sun条件)で行った。図1にアセトアルデヒド分解によるCO2発生の経時変化を示す。およそ120分でCO2発生が飽和し、完全酸化することがわかった。
【0038】
(比較例3)
比較例2のWO3光触媒付きフィルターにCuO助触媒を担持し、光触媒活性試験を実施例8と同一条件で行った。図1にCO2発生の経時変化を示す。240分でも完全酸化できず、実施例8の光触媒より活性が低いことがわかった。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のタングステン酸化物二次構造体は、光触媒活性と抗菌活性の両方に優れるため、光触媒活性や抗菌活性の必要な各種日用品や工業製品に適用でき、光触媒活性と抗菌活性の両面でそれらの品物の表面をクリーンに保つことができる。例えば光触媒を利用した空気清浄機のフィルターには最適である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン酸化物の一次粒子が凝集した二次構造体であって、その二次構造体表面の算術平均粗さRaが、少なくとも0.25μmの基準長さの範囲において50nm以下である領域を有することを特徴とする抗菌活性に優れたタングステン酸化物二次構造体。
【請求項2】
タングステン酸化物に助触媒を担持することで優れた光触媒活性を同時に有することを特徴とする請求項1に記載のタングステン酸化物二次構造体。
【請求項3】
タングステン酸化物が三酸化タングステンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のタングステン酸化物二次構造体。
【請求項4】
助触媒が、銅化合物、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銀、ニッケルから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項2又は3に記載のタングステン酸化物二次構造体。
【請求項5】
多孔質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタングステン酸化物二次構造体。
【請求項6】
タングステン含有材料及び過酸化水素から調製されたタングステン酸化物前駆体溶液を部材に塗布し、塗布された該前駆体を分解してタングステン酸化物を部材に付着させることを特徴とする抗菌活性付与方法。
【請求項7】
タングステン酸化物に助触媒を担持することで光触媒活性を付与することを特徴とする請求項6に記載の抗菌活性付与方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の方法により部材表面に請求項1〜5のいずれか1項に記載のタングステン酸化物二次構造体を生成させることを特徴とする抗菌活性付与方法。
【請求項9】
部材が多孔質素材であり、その表面にタングステン酸化物をコートすることにより製造するか、又は、タングステン酸化物をコートすることによって多孔質構造を生成することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の抗菌活性付与方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタングステン二次構造体を具備することを特徴とする抗菌部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−200774(P2011−200774A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69170(P2010−69170)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト/光触媒関連基礎技術の開発ならびに新環境科学領域の創成事業」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】