説明

抗菌剤組成物

【課題】耐熱性、長期安定性に優れ、かつ人体に対して低毒性であり、さらに他種材料に配合することにより粘着性、耐熱性の付与や改質効果をもたらす機能を備えている、疎水性樹脂に対して容易に配合可能な、新規の機能性を有する抗菌性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】テルペンフェノール樹脂を含有した抗菌剤組成物である。また、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、生分解性樹脂、天然または合成エラストマー、石油樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート、ケイ素樹脂、ポリオレフィンより選ばれた少なくとも1種以上の材料にテルペンフェノール樹脂を含有した抗菌剤組成物が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルペンフェノール樹脂を含有する抗菌剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
安価で安全性の高い抗菌性組成物は、微生物によってもたらされる汚れや悪臭を防ぎ、生活環境を快適に保つ上で欠かせないものであるばかりか、感染症の予防、食中毒の予防、食品類の変敗防止において、その重要性はますます増大している。
一方、工業材料においても微生物の制御は主要な課題である。代表的なものは木材の防腐処理による腐朽菌の防除だが、木材や紙類以外にも炭素源を含む接着剤、塗料、シーリング剤、保温材などには微生物が繁殖し易く、特に接着部は細菌が感染や繁殖がしやすい。また、環境によってはプラスチック、石材、コンクリート等の材質にも微生物が生息し、材料の資化による侵食や微生物が産生する代謝生成物は、その物性や強度に深刻な劣化を引き起こす。
【0003】
天然の動植物に由来する抗菌性化合物、例えば、植物性ポリフェノール、樹液、植物精油、各種方法による抽出物、ε−ポリリジン、キトサンなどが抗菌活性を有していることは古来より知られており、該成分を含有する組織やその加工品は種々の用法において利用され、その安全性の高さから今日においてもなお利用価値が高い。
自然界に広く存在する抗菌活性物質の中でも、テルペン化合物は天然の植物精油中に多く含まれ、安全性に優れた化合物である。工業的には、植物の幹、葉、実から抽出され、中でも松ヤニやオレンジの果皮から得られるものが多く利用されている。しかし、精油類を抗菌剤として適用する場合、揮発性が高いために長期にわたり充分な抗菌効果を持続させる事は困難である。
【0004】
揮発性の高いテルペン系組成物を長期間保持する方法として、適当な担体中に担持させる方法がある。本発明に先立ち、出願人はテルペン精油の効果を長時間持続させる試みとして、水酸化カルシウムを担体としたテルペン化合物抗菌剤を出願している(特許文献1)。しかし、該抗菌剤は有効成分を水酸化カルシウム粒子に担持することが必須であるため、透明性が必要とされる用途には向いておらず、均一系としての使用は不可能である。
【0005】
また、テルペン系組成物の保持時間を長期にわたってコントロールすることを目的に、テルペンをモノマーとして低重合または低共重合したオリゴマーとフェノール系、スチレン系、ビニル系、マレイン系、モノマーとの低共重合オリゴマーを併用した有害動物忌避組成物が出願されている(特許文献2)。しかし、当該特許の記載によると、組成物の用途は忌避剤に限定されており、組成物中のオリゴマーはモノマーの揮発速度を調整する保留剤としてのみ、その効果が見出されている。殺虫殺菌性動物忌避乳剤に配合した実施例があるが、例では別個に殺虫殺菌性の生理活性剤が配合されており、オリゴマー単独での抗微生物性を示唆するデータまたは記述は含まれない。
【0006】
抗微生物性組成物の検討において、有効成分としてフェノール樹脂が記載された特許は、植物性ポリフェノールを除けばきわめて限られる。フェノールモノマーと水溶性モノマーとの共重合体(特許文献3)、ヒドロキシスチレンまたはヒドロキシアルキルスチレン類の重合体(特許文献4)、水溶性フェノール樹脂、アルコール溶性フェノール樹脂(特許文献5)、フェノール樹脂と金属イオンからなる有機金属錯体(特許文献6)、キトサン有機酸塩とアルキルフェノキシポリアルコキシアルコールの併用系(特許文献7)、芳香環上に防カビ成分を含む構造を導入したポリビニルフェノール(特許文献8)、末端に芳香環を有するポリオキシエチレン(特許文献9)が文献公知となっている。しかし、これらのポリマーは水溶液としての形態で使用する目的から親水性のセグメントを何らかの形態で構造中に有しており、本質的に親水性であることから疎水性樹脂への配合や相溶化に際しては大きく制限を受けるものである。
【0007】
一方、ロウ、ワックス、ポリオレフィン系、ポリウレタン系化合物に殺菌剤等を配合した被覆を行い、微生物を対象から遮断することにより感染を防止する保存方法も多数報告されているが、該方法においてポリマー成分は対象と外部環境の遮断を目的としたものであり、樹脂成分そのものが抗菌性樹脂であり、かつ意図的に使用されているものは類を見ない。また、一般的な高分子量有機抗菌剤として構造中に4級アンモニウム化合物や含窒素複素環等のカチオン性官能基を有するポリオレフィン系、ポリオキシド系の樹脂が多く出願されているが、他の材料にアニオン性官能基が含まれている場合にはカチオン性官能基がそれらと結合して効力が失われる問題がある。
【特許文献1】特開平09−241103号公報
【特許文献2】特開平04−288003号公報
【特許文献3】特開2003−137792号公報
【特許文献4】再表01/051530号公報
【特許文献5】特開平09−183647号公報
【特許文献6】特開平06−227924号公報
【特許文献7】特開平04−253901号公報
【特許文献8】特開昭63−108009号公報
【特許文献9】特開昭60−001102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐熱性、長期安定性に優れ、かつ低毒性であり、さらに他種材料に配合することにより粘着性、耐熱性の付与や改質効果をもたらす機能を備えている、疎水性樹脂に対して容易に配合可能な、新規の機能性を有する抗菌性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するため次のような抗菌性組成物を見出した。
すなわち、テルペンフェノール樹脂を含有した抗菌剤組成物である。
また、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、生分解性樹脂、天然または合成エラストマー、石油樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート、ケイ素樹脂、ポリオレフィンより選ばれた少なくとも1種以上の材料にテルペンフェノール樹脂を含有した抗菌剤組成物が望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明で見出された抗菌剤組成物は耐熱性、長期安定性に優れ、かつ低毒性である。さらに他種材料に配合することにより粘着性、耐熱性の付与や改質効果をもたらす機能を備えている。また、軟化点範囲が広く疎水性樹脂に対して容易に配合可能である性状は工業用途における加工性にも優れていることを意味しており、このような抗菌剤は工業的にもきわめて有用なものである。
【発明を実施する最良の形態】
【0011】
ここで、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明で使用するテルペンフェノール樹脂について説明する。
本発明で使用するテルペンフェノール樹脂は、(A)テルペン類モノマーと(B)フェノール系モノマーから成るモノマー成分を有機溶媒中でフリーデルクラフト型触媒存在下で共重合、または共重合後さらに水素添加処理して得られる反応混合物の一部または組成物全体を意味する。
この樹脂はテルペン由来の骨格とフェノール構造から構成される安定な構造から、通常の条件では反応性、酸化性、水との反応性がほとんど無い安定性の高い組成物である。生体への影響についても、急性毒性試験においてLD50:2000mg/kg(マウス、経口)以上というデータが得られている。
【0012】
本発明で使用する(A)テルペン類モノマーとは、(C5H8)nの分子式で表されるイソプレン則に基づく一連の化合物である。一般にテルペンと呼ばれているものはモノテルペン(n=2)とセスキテルペン(n=3)であり、植物精油成分の大半がここに含まれるが、より高分子量のテルペンとしてジテルペン(n=4)、セスタテルペン(n=5)、トリテルペン(n=6)があり、広義においてはロジンや天然ゴムもテルペン類に分類される。好ましいテルペン類モノマーとしてはα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、D−、L−リモネン等が挙げられ、この群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物を含んでいることが望ましいが、他のテルペン類モノマーを使用または併用しても良い。
【0013】
本発明で使用する(B)フェノール系モノマーには、好ましくはフェノール、クレゾール、ビスフェノールA等が挙げられ、この群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物を含んでいることが望ましいが、テルペン系モノマーとの共重合が可能である他のフェノール誘導体を使用または併用しても良い。
【0014】
本発明のテルペンフェノール樹脂は、(A)テルペン類モノマーと(B)フェノール系モノマーを、塩化アルミニウム、三弗化ホウ素等の通常のフリーデルクラフツ触媒存在下反応させることにより得られる。
また、テルペンフェノール樹脂を水添する場合も、特に条件等の指定はなく、通常の水添方法で差し攴えない。
これらのテルペン系フェノール樹脂組成物は共重合比率を操作することにより幅広い極性をカバーすることが可能な相溶性に優れた材料であり、粘着性付与樹脂、プラスチック改質剤、コーティング剤、塗料、相溶化剤などの幅広い用途に利用可能であると同時に、材料系に接着力、凝集力、耐熱性、相溶性を付与する機能性樹脂としても知られている。
軟化点は、通常の樹脂溶融条件において、好ましくは30〜150℃であるが、特に指定はない。
【0015】
本発明のテルペンフェノール樹脂のポリマーの重合度は、特に指定はなくいずれであってもよいが、数平均分子量500〜10000程度が好ましい。500未満であると、低分子量成分が加熱時に発煙して作業性が悪化する可能性がある。10000を超えると脆い材料となり、粘着性や相溶性の面に影響が出てしまう。
【0016】
本発明のテルペンフェノール樹脂の抗菌性は水酸基価の高いものの方が抗菌活性が高くなる傾向がある。特に指定は無いが、水酸基価150(KOHmg/g)以上が好ましい。
【0017】
本発明で使用するテルペンフェノール樹脂は、例えばヤスハラケミカル(株)製PMP、YP−90、YSポリスターシリーズ、マイティエースシリーズなどがある。ヤスハラケミカル(株)製PMPはテルペンモノフェノール化合物、YP−90はテルペンビスフエノール化合物、YSポリスターシリーズおよびマイティエースシリーズは、テルペン化合物とフェノール系化合物の重合物である。これらの樹脂は、いずれもヤスハラケミカル(株)から市販されており、容易に入手できる。
【0018】
本発明のテルペンフェノール樹脂の使用量は、樹脂の種類、添加方法にもよるが、材料に溶融混練する場合には、充分な抗菌活性を付与するには、基材に対して5重量%以上添加することが好ましい。
【0019】
本発明のテルペンフェノール樹脂を他の材料に溶融混練等して使用する場合の、他の材料としては、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、生分解性樹脂、天然または合成エラストマー、石油樹脂、EVA、ポリカーボネート、ケイ素樹脂、ポリオレフィン等が挙げられる。またこれら樹脂を1種以上併用してもよい。
これらは、通常の市販品を使用することが出来、特に指定はないが、本発明のテルペンフェノール樹脂のSP値に近い樹脂および/または溶液と相溶させて用いることが望ましい。
また、本発明のテルペンフェノール樹脂は、ごくわずかに水溶性を有しており、水系にも一定の範囲内で効果が及ぶことから、固体として対象に接触させたり、微分散させて用いることもできる。
【0020】
本発明の抗菌剤組成物には必要に応じて、各種の添加剤が添加されても良い。各種添加剤としては、例えば、可塑剤、軟化剤、無機充填剤(炭酸カルシウム、タルク、アルミニウム、シリカなど)、有機充填剤、顔料、染料、他の抗菌剤などが挙げられる。
【0021】
本発明の抗菌剤組成物の調製は、特に指定はないが、加熱タイプ溶融撹拌槽などの溶融溶解槽で調整する場合は、好ましくは真空下、窒素気流下、通常温度150℃以上250℃以下で、撹拌羽根の回転により、各成分を順に溶融混合する方法、ニーダーの双状回転羽根により、加熱下シェアをかけて溶融混合する方法、単軸又は2軸の押出機のスクリューにより溶融混合する方法などにより行われる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により説明する。ただし本発明は実施例により限定されるものではない。
【0023】
実施例1〜3及び比較例1〜8以下の方法でペーパーディスク法及び改変フィルム密着法により抗菌性を試験比較した。その結果を表1、表2に示す。
【0024】
[ペーパーディスク法による抗菌性試験]
試験片の調製:試験物質をアセトンまたはメタノールで希釈して調製した標準液にペーパーディスク(抗生物質検定用、直径8mm)を浸し、60℃の乾熱器で30〜60分間乾燥し溶剤を除去することにより調製した(サンプル濃度:50μg/disc)。
試験培地の調製:3%乾燥ブイヨン培地(pH7.0、寒天1.5%添加)をオートクレーブで滅菌後に室温で冷却、40〜50℃程度の温度になったところで菌液を2〜3滴加えて滅菌シャーレ(90×15mm)に流し込んで凝固させることにより調製した。調製した培地は1時間以内に試験に使用した。
試験方法:試験片を培地上に置き、蓋をしてパラフィルムで密閉する。30℃のインキュベータ内で24時間培養し、阻止円の直径を計測した。結果を表1に示す。
使用した試験物質は以下の通りである。
ヤスハラケミカル(株)製ポリスターK125(実施例1)、ヤスハラケミカル(株)製マイティーエースK125(実施例2)、ヤスハラケミカル(株)製d−リモネン蒸留品(純度:99%以上、比較例1)、ヤスハラケミカル(株)製シネオールC蒸留品(1,8−シネオール純度:80%以上、比較例2)、ヤスハラケミカル(株)製α−テルピネオール蒸留品(純度:99%以上、比較例3)、ヤスハラケミカル(株)製イソボルニルアセテート蒸留品(純度:99%、比較例4)、ヤスハラケミカル(株)製TM−60(テルピネンマレート、純度:100%、比較例5)、和光純薬工業(株)製3−ペンタデシルフェノール蒸留品(純度:99%以上、比較例6)。
【0025】
【表1】

【0026】
[改変フィルム密着法による抗菌性試験]
試験片の調製:ポリ乳酸(三井化学(株)製生分解性樹脂レイシアH100J、融点164℃)および検体(無機抗菌剤(ゼオミックXAW50D:(株)シナネンゼオミック製)、ならびにヤスハラケミカル(株)製粘着付与樹脂マイティエースK125、軟化点125℃)を熱真空乾燥(12時間、60℃)することにより、水分を除去する。その後、ラボプラストミルを使用して190℃でポリ乳酸を3分間溶融・混練した時点で所定量の検体を添加(1重量%配合品(比較例7)ならびに5重量%配合品(実施例3))、更に7分間混練を続けた。混練終了後、直ちに樹脂を剥離紙上に流し込み、室温・空気雰囲気下で冷却する。固化した樹脂組成物を200℃でヒートプレスすることにより厚さ150〜200μmのフィルム状に予備成形し、これを170℃で延伸して厚さ100μm前後としたものを試験片とした。
試験方法:3%乾燥ブイヨン液体培地で種菌を24時間培養した試験菌(P.aeruginosa)を10から10個/ml相当になるよう滅菌水で希釈した。この菌縣濁液100μlを先に試作したフィルム(20mm×30mm)に塗布し、シャーレに入れて31.0℃で保温した。1時間後、3時間後に保温していたフィルムをそれぞれ50mlの滅菌水完全に浸し、均一に縣濁させた。上記縣濁液の100μlを3%乾燥ブイヨン寒天培地に塗布、31.0℃で一晩培養後、コロニー数(生菌数)を計測した。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
また、本発明のテルペンフェノール樹脂を含有した抗菌剤組成物は、他の精油類、粘着剤、抗菌、殺菌、殺虫、除草、農薬、有害動物忌避組成物から選ばれる少なくとも1種以上の薬剤と併用することができる。また、任意の担体に保持したり、他の天然または合成樹脂と併用してフィルム、成形体、塗料、微粉末の形態として用いることもできる。さらに、分散剤、接着剤、サイズ剤、顔料製剤、紙類、織物、織物用助剤、皮革、なめし皮用助剤、木材、被覆性組成物、石材、コンクリート、防汚ペイント、プラスティック製品、化粧品、接合封止用化合物、増粘剤を含む、微生物による感染または劣化し得る工業材料全般に対する保護を意図して用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルペンフェノール樹脂を含有した抗菌剤組成物。
【請求項2】
アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、生分解性樹脂、天然または合成エラストマー、石油樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(略してEVAとも記載する。)、ポリカーボネート、ケイ素樹脂、ポリオレフィンより選ばれた少なくとも1種以上の材料にテルペンフェノール樹脂を含有した請求項1記載の抗菌剤組成物。

【公開番号】特開2007−320953(P2007−320953A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177228(P2006−177228)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】