説明

抗菌効果の高い抗菌性素材、及びその製造方法

【課題】より低添加量で一定の抗菌性能を発揮できる抗菌効果の高い抗菌性素材、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の抗菌効果の高い抗菌性素材の製造方法は、無機系の銀化合物を用いた抗菌剤を、紙や合成紙、非木材紙の印刷物の上に、水を主とした塗工液にて塗工し、その抗菌剤の平均粒径aμmと塗膜の平均膜厚bμmがa>bとなるようにすると共に塗膜にエネルギー照射を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より低添加量で一定の抗菌性能を発揮できる抗菌効果の高い抗菌性素材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀系の無機材料の抗菌性能は良く知られている。そして、抗菌性を必要とする各種の包装材料や印刷シートの表面処理として、無機系の銀化合物を用いた抗菌剤が利用されている。
【0003】
しかし、この銀化合物を用いた抗菌剤は、極めて高価であり、所定の性能を発揮するためには必要な添加量があるため、抗菌処理を施した素材は、極めてコストが高くなり、有効なコストダウンの方法は見出されていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者らは、鋭意研究の末、抗菌剤の粒径と塗膜厚みの関係、塗工方法などについて検討し、より低添加量で一定の抗菌性能を発揮できる抗菌効果の高い抗菌性素材、及びその製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記に鑑み提案されたものであり、無機系の銀化合物を用いた抗菌剤を、紙や合成紙、非木材紙の印刷物の上に、水を主とした塗工液にて塗工し、その抗菌剤の平均粒径aμmと塗膜の平均膜厚bμmがa>bとなるようにすると共に塗膜にエネルギー照射を行うことを特徴とする抗菌効果の高い抗菌性素材の製造方法に関するものである。
【0006】
また、本発明は、前記製造方法において、エネルギー照射として、紫外線照射、電子線照射、大気圧プラズマ照射の何れかを行うことを特徴とする抗菌効果の高い抗菌性素材の製造方法をも提案する。
【0007】
さらに、本発明は、無機系の銀化合物を用いた抗菌剤を、紙や合成紙、非木材紙の印刷物の上に、水を主とした塗工液にて塗工してなり、抗菌剤の平均粒径aμmと、塗膜の平均膜厚bμmがa>bとなるようにすると共に塗膜にエネルギー照射を行ったことを特徴とする抗菌効果の高い抗菌性素材をも提案する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗菌効果の高い抗菌性素材、及びその製造方法は、従来の抗菌素材に比べて使用されている無機系の銀化合物を用いた抗菌剤の量が少ないため、コストダウンを図ることができる。そして、この抗菌性素材を各種の包装材料や印刷シートとして提供でき、多くの商品に適用することができる。
【0009】
また、本発明の抗菌性素材の製造方法は、例えば紫外線照射を用いることもでき、この場合には表面処理加工としては汎用のものであって、他の特殊な装置などを必要としないので、実用性が高いものとなる。
【0010】
さらに、本発明の抗菌性素材は、基本的に包装材料、印刷シートであるから、印刷による装飾効果を有するものであって、さらに加えて抗菌効果をも有するものであり、付加価値の高い商品として広範な用途に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、紙、合成紙、非木材紙、フィルムの何れか一種から選ばれる基材を対象とするものであって、その表面に各種の印刷を施し、無機系の銀化合物を用いた抗菌剤を有する層は、印刷物の最表面に形成する。
【0012】
基材の表面に施す印刷は、印刷形式や印刷インク等を限定するものではなく、透明クリア等の塗工をも含む。
【0013】
無機系の銀化合物を用いた抗菌剤を有する層は、前記印刷物の上に、水を主とした塗工液にて塗工し、その抗菌剤の平均粒径aμmと塗膜の平均膜厚bμmがa>bとなるようにする。
従来の抗菌層は、a<bとなっているが、この状態でも抗菌効果は発揮される。
しかしながら、本発明者らは、水を主とした塗工液にて塗工してa>bとなるようにすることにより、少ない抗菌剤量でも十分な抗菌効果を発揮できることを見出した。
また、塗膜にエネルギー照射として、紫外線照射、電子線照射、大気圧プラズマ照射の何れかを行うことにより、抗菌効果が著しく向上することを見出した。これは、抗菌剤表面の塗膜を形成する樹脂が分解されて抗菌剤表面が露出したことに起因するものと考えられる。尚、塗工液中には、光触媒を添加して前記エネルギー照射の効果が効率よく発揮されるようにしてもよい。
その際、抗菌剤を有する塗工層の乾燥後の厚みは、使用する抗菌剤の粒子径に応じて選択すればよく、この厚みが、厚過ぎる場合には、抗菌剤の粒子が塗工層中に深く埋没して前記エネルギー照射の効果が表れない。また、薄過ぎる場合には、塗工層から抗菌剤の粒子が脱離し易くなる。
【0014】
例えば後述する実施例1と比較例3との比較より明らかなように、抗菌剤の平均粒径aμmと塗膜の平均膜厚bμmがa>bとなるようにしただけでは、比較例3のように十分な抗菌効果を得ることができなかった。これに対し、抗菌剤の平均粒径aμmと塗膜の平均膜厚bμmがa>bとなるようにすると共にエネルギー照射として紫外線照射を行った実施例1では、極めて高い抗菌効果を得ることができた。
【0015】
本発明の抗菌剤を有する塗工層を乾燥する方法としては、選択した組成物(樹脂)に応じて適宜に行えばよく、例えば周知の熱乾燥装置、紫外線照射装置、或いはそれらを組み合わせて適宜に用いばよい。
【実施例】
【0016】
[実施例1]
坪量160g/m2(四六全版)の枚葉状のA2コート紙に、一般の大豆油インキ(東洋インキ製造社製)による印刷を行い、その上に、平均粒径が1.0μmである結晶性アルミノケイ酸の銀塩を抗菌剤として用い、塗料として東洋インキ製造社製「SP100」を使用し、フレキソコーターにより、平均膜厚が0.8μmになる様に版深を選定して、塗工を行い、その後、15KWのUVランプを用い、UV照射を行った。
その結果、仕上り外観は均一であり、良好で、塗膜の下地への密着が良好で、且つ、抗菌性能としては、大腸菌と黄色ブドウ球菌による抗菌試験の結果も良好な抗菌印刷紙が得られた。
【0017】
[実施例2]
前記実施例1の印刷物に、厚みが15μmであるマットOPPフィルムを水性の接着剤(ドライ状態での膜厚5μm)を介してラミネートし、塗料として東洋インキ製造社製「SP100」の代わりに東洋インキ製造社製「J124 PPメジウム」を用い、グラビアコーターを用いる以外は、前記実施例1と同じ条件で、抗菌剤のコーティングを行い、その後、15KWのランプを用いたUV照射を行い、ラミネート抗菌印刷紙を得た。
その結果、仕上り外観は均一であり、良好で、塗膜の下地への密着が良好で、且つ、抗菌性能としては、大腸菌と黄色ブドウ球菌による抗菌試験の結果も良好であった。
【0018】
[実施例3]
坪量160g/m2(四六全版)の枚葉状のA2コート紙に、一般のUVインキ(東洋インキ製造社製)による絵柄の印刷を行い、その上に、平均粒径が1.0μmである結晶性アルミノケイ酸の銀塩を抗菌剤として混ぜた印刷ニスとして東洋インキ製造社製「FDOM上刷りニス」を使用し、UV印刷機により、平均膜厚が0.8μmになる様に、印刷を行い、その後、15KWのUVランプを用い、UV照射を行った。
その結果、仕上り外観は均一であり、良好で、ニスの下地への密着が良好で、且つ、抗菌性能としては、大腸菌と黄色ブドウ球菌による抗菌試験の結果も良好な抗菌印刷紙が得られた。
【0019】
[実施例4]
前記実施例1により加工された抗菌印刷紙を、表紙に用い、製本した。
得られた本について、表紙同士の摩擦試験の結果、傷付きや粉末発生などの不具合がなく、問題のないことが確認された。
【0020】
[比較例1]
坪量160g/m2(四六全版)のA2コート紙に、一般の油性インキ(東洋インキ製造社製)による印刷を行った点では前記実施例1と同様であるが、その上に、平均粒径が0.5μmである結晶性アルミノケイ酸の銀塩を抗菌剤として用い、塗料として東洋インキ製造社製「SP100」を使用し、フレキソコーターにより、平均膜厚が0.8μmになる様に版深を選定して、塗工を行い、その後、UV照射を行った。
その結果、仕上り外観は均一で良好であり、塗膜の下地への密着も良好であったが、抗菌性能としては、大腸菌と黄色ブドウ球菌による抗菌試験の結果、不充分であった。
【0021】
[比較例2]
前記実施例1の印刷物に、厚みが15μmであるOPPフィルムを水性の接着剤(ドライ状態での膜厚5μm)を介してラミネートし、塗料として東洋インキ製造社製「SP100」の代わりに東洋インキ製造社製「J124 PPメジウム」を用いた点では前記実施例2と同様であるが、平均粒径が0.5μmである抗菌剤を用い、平均膜厚が0.8μmになる様に塗工し、抗菌剤のコーティングを行い、その後、UV照射を行い、ラミネート抗菌印刷紙を得た。
その結果、仕上り外観は均一で良好であり、塗膜の下地への密着も良好であったが、抗菌性能としては、大腸菌と黄色ブドウ球菌による抗菌試験の結果、不充分であった。
【0022】
[比較例3]
抗菌剤の塗工後に、UV照射を行わない事以外は、前記実施例1と同じ印刷物に、同じ条件の抗菌剤の塗工を行った。
その結果、仕上り外観は均一で良好であり、塗膜の下地への密着も良好であったが、抗菌性能としては、大腸菌と黄色ブドウ球菌による抗菌試験の結果、不充分であった。
【0023】
[比較例4]
平均粒径が0.5μmである事と、ニスの塗膜の平均厚みが0.8μmである事以外は、実施例4と同じ方法を行った。
その結果、仕上り外観は均一で良好であり、塗膜の下地への密着も良好であったが、抗菌性能としては、大腸菌と黄色ブドウ球菌による抗菌試験の結果、不充分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系の銀化合物を用いた抗菌剤を、紙や合成紙、非木材紙の印刷物の上に、水を主とした塗工液にて塗工し、その抗菌剤の平均粒径aμmと塗膜の平均膜厚bμmがa>bとなるようにすると共に塗膜にエネルギー照射を行うことを特徴とする抗菌効果の高い抗菌性素材の製造方法。
【請求項2】
エネルギー照射として、紫外線照射、電子線照射、大気圧プラズマ照射の何れかを行うことを特徴とする請求項1に記載の抗菌性素材の製造方法。
【請求項3】
無機系の銀化合物を用いた抗菌剤を、紙や合成紙、非木材紙の印刷物の上に、水を主とした塗工液にて塗工してなり、抗菌剤の平均粒径aμmと、塗膜の平均膜厚bμmがa>bとなるようにすると共に塗膜にエネルギー照射を行ったことを特徴とする抗菌効果の高い抗菌性素材。

【公開番号】特開2008−253965(P2008−253965A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102139(P2007−102139)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(503098791)株式会社トーツヤ・エコー (12)
【Fターム(参考)】