説明

抗菌活性または抗腫瘍活性を有する化合物およびその製造方法

【課題】抗菌活性または抗腫瘍活性を有する新規化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記の式(I)で表される化合物および式(II)で表される化合物、ならびに微生物を用いる該化合物の製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物が生産する新規な化合物およびその製造方法、ならびに該化合物を有効成分として含む抗菌剤および抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の治療のためにペニシリンやストレプトマイシン等多くの抗生物質や抗菌剤が利用されてきた。しかしながら、医療現場における抗生物質の頻繁な使用によって、被使用菌が薬剤耐性を獲得し、抗生物質が効かなくなるという問題がある。また、癌などの腫瘍についても、抗生物質の使用を継続すると、抗生物質に対して耐性が生じるという問題がある。
【0003】
また現在、先に述べたペニシリンやストレプトマイシンに代表されるように、微生物代謝産物から有用な抗生物質を探索するという試みが行われている(特許文献1、2および3参照)。また、生理活性物質の探索資源として真菌類や海洋性生物が着目されつつある(非特許文献1および2)。
【0004】
上記で述べたような既存の抗生物質に耐性を獲得した病原菌に対して有効な新規物質、また、既存の抗癌剤では十分な治療効果が得られないような腫瘍に対して効果を有するような新規物質の発見が常に望まれていた。特に、抗腫瘍活性を有する新規物質の発見が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開2001−247574号公報
【特許文献2】特開2000−189182号公報
【特許文献3】特開平05−247018号公報
【非特許文献1】供田 洋、化学と生物、Vol. 40、No. 11、pp. 757-764、2002年
【非特許文献2】John W. Blunt, Brent R. Copp, Murray H. G. Munro, Peter T. Northcote, and Michele R. Prinsep; Natural Products Report, 20, pp. 1-48, 2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗腫瘍活性を有する新規物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アクレモニウム属に属する微生物の培養物から得られた化合物が、新規であり、かつ抗菌活性および/または抗腫瘍活性を示す有用な化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0009】
(1)下記式(I):
【化1】

[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基である]
で表される化合物。
【0010】
(2)下記式(II):
【化2】

[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基である]
で表される化合物。
【0011】
(3)(1)または(2)に記載の化合物の製造方法であって、アクレモニウム属に属し、該化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、得られる培養物から該化合物の少なくとも1種を単離することを特徴とする、前記方法。
(4)(1)に記載の化合物を有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤。
(5)(1)に記載の化合物および/または(2)に記載の化合物を有効成分として含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
(6)アクレモニウム・スピーシーズ(Acremonium sp.)AWA16-1株。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、抗腫瘍活性を有する新規化合物、ならびに微生物を用いた該化合物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
1.本発明の化合物
本発明者らは、アクレモニウム属に属する微生物の培養物から得られた化合物が、新規であり、かつ抗菌活性および/または抗腫瘍活性を示すことを見出した。
【0015】
一実施形態において本発明は、式(I):
【化3】

[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である]で表される化合物に関する。
【0016】
本明細書において、各一般式で表される化合物には、該化合物の塩も包含される。該化合物の塩は、必要に応じて所望の酸または塩基を使用することにより、容易に調製することができる。該塩は、溶液から析出させてからこれを濾過により集めることができ、また溶媒の蒸発により回収することもできる。
【0017】
式(I)で表される化合物は、抗菌活性および抗腫瘍活性を有する。本発明の式(I)で表される化合物は、特にバシラス(Bacillus)属に属する細菌、例えばバシラス・サブティリス(Bacillussubtilis)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属に属する細菌、例えばスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、サリニビブリオ(Salinivibrio)属に属する細菌、例えばサリニビブリオ・コスチィコラ(Salinivibriocosticola)、サイトファーガ(Cytophaga)属に属する細菌、例えばサイトファーガ・マリノフラバ(Cytophagamarinoflava)、およびカンジダ(Candida)属に属する細菌、例えばカンジダ・アルビカンス(Candidaalbicans)に対して抗菌活性を有する。本発明の式(I)で表される化合物は、特に、哺乳動物由来の癌細胞、例えば、ヒト由来の肺癌細胞に対して、抗腫瘍活性を有する。
【0018】
本発明の式(I)で表される化合物の具体例として、式(I)においてRおよびRがメチルである下記式(III)により表される化合物が挙げられる。
【0019】
【化4】

【0020】
上記式(III)で表される化合物の構造式および理化学的性質は以下のとおりである:
(1)物質の色 :無色
(2)分子量 :314
(3)分子式 :C19H22O4
(4)質量分析 :FAB-MS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析)
実測値 315.25 (M + H)+
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中): λmax(e)206 nm (38,000)
(6)1H NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、750 MHz):
δppm 1.13 (6H, s), 2.15 (3H, s), 2.17 (3H, s), 3.00 (2H, q), 4.55 (1H, s), 4.56 (1H, dd), 6.12 (1H, s), 6.17 (1H, s), 6.20 (1H, s), 6.25 (1H, s), 6.30 (1H, s), 9.35 (1H, s)
(7)13C NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、125 MHz):
δppm 18.6, 21.1, 24.8, 25.9, 28.3, 70.0, 89.7, 98.0, 102.3, 109.4, 110. 8, 111.3, 121.6, 134.8, 139.9, 156.2, 158.2, 158.3, 160.3
(8)溶解性 :メタノール、酢酸エチル、クロロホルムに可溶。ヘキサンに難溶。
(9)抗菌活性 :ペーパーディスク法にて、50 mgの式(III)の化合物を直径6 mmのペーパーディスクに加えた時、バシラス・サブティリス(Bacillus subtilisIFO3134)に対して直径10 mmの阻止円が形成された。また、50 mgの式(III)の化合物を直径6 mmのペーパーディスクに加えた時、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcusaureus IFO12732)に対して直径18 mmの阻止円が形成された。また、50 mgの式(III)の化合物を直径6 mmのペーパーディスクに加えた時、サリニビブリオ・コスチィコラ(Salinivibriocosticola ATCC 33508)に対して直径9 mmの阻止円が形成された。また、50 mgの式(III)の化合物を直径6 mmのペーパーディスクに加えた時、サイトファーガ・マリノフラバ(Cytophagamarinoflava IFO14170)に対して直径8 mmの阻止円が形成された。また、50 mgの式(I)の化合物を直径6 mmのペーパーディスクに加えた時、カンジダ・アルビカンス(Candidaalbicans IFO 1060)に対して直径15 mmの阻止円が形成された。
(10)ヒト肺癌由来細胞株A549細胞を、125 mg/ml濃度の式(III)の化合物の存在下で48時間培養したところ、A549細胞を完全に死滅させた。IC50値は17 mg/mlであった。
【0021】
一実施形態において本発明は、式(II):
【化5】

[式中、Rは炭素数1〜12、好ましくは炭素数5〜9のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である]で表される化合物に関する。本発明の式(II)で表される化合物は、抗腫瘍活性を有する。本発明の式(II)で表される化合物は、特に、哺乳動物由来の癌細胞、例えば、ヒト由来の肺癌細胞に対して、抗腫瘍活性を有する。
【0022】
また、本発明の式(II)で表される化合物の具体例として、式(II)においてRがヘプチルであり、Rがメチルである式(IV)により表される化合物が挙げられる。
【0023】
【化6】

【0024】
上記式(IV)で表される化合物の構造式および理化学的性質は以下のとおりである:
(1)物質の色 :無色
(2)分子量 :325
(3)分子式 :C17H27NO5
(4)質量分析 :FAB-MS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析)
実測値308.26 (M - H2O + H)+
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中): λmax(e)274 nm (5,400)
(6)1H NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、750 MHz):
δppm 0.86 (3H, t), 1.22(3H, d), 1.23 (8H, m), 1.25 (2H, m), 1.36 (2H, m), 3.30 (1H, d), 3.68 (1H, q), 3.92 (1H, m), 4.64 (1H, s), 4.70 (1H, d), 5.52 (1H, dd), 5.75 (1H, dd), 5.92 (1H, d), 8.20 (1H, s)
(7)13C NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、125 MHz):
δppm 14.0, 18.1, 22.1, 24.9, 28.6, 29.0, 31.2, 37.2, 43.7, 51.6, 70.2, 77.1, 79.6, 121.1, 138.4, 165.9, 172.5
(8)溶解性 :メタノール、酢酸エチル、クロロホルムに可溶。ヘキサンに難溶。
(9)ヒト肺癌由来細胞株A549細胞を、125 mg/ml濃度の式(IV)の化合物の存在下で48時間培養したところ、化合物無添加の細胞と比べて、A549細胞の増殖を42%阻害した。
【0025】
2.本発明の化合物の製造方法
本発明の化合物は、アクレモニウム属に属し、該化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、得られる培養物から該化合物の少なくとも1種を単離することにより製造することができる。すなわち、該化合物を産生する微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該培養物から該化合物を単離することにより製造する。上記式(I)で表される化合物と式(II)で表される化合物は、同時に製造してもよいし、別々に製造してもよい。
【0026】
(1)微生物
本発明の製造方法において用いることのできる微生物としては、アクレモニウム属(Acremonium sp.)に属し、かつ上記式(I)で表される化合物および/または式(II)で表される化合物を生産する能力を有する微生物であれば特に限定されない。式(I)で表される化合物を製造する場合は、少なくとも式(I)で表される化合物を生産する能力を有する微生物を用い、式(II)で表される化合物を製造する場合は、少なくとも式(II)で表される化合物を生産する能力を有する微生物を用いる。式(I)で表される化合物および式(II)で表される化合物の双方を生産することが可能な微生物を用いることにより、式(I)で表される化合物と式(II)で表される化合物を、同時に製造することができる。そして、微生物の培養物から所望の化合物を単離する。
【0027】
本発明において用いることができる微生物の具体例としては、兵庫県淡路島の底泥から分離されたアクレモニウム・スピーシーズ(Acremonium sp.)AWA16-1株、および該菌株に由来する変異株を挙げることができる。なお、アクレモニウム・スピーシーズ(Acremoniumsp.)AWA16-1株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8)に、平成17年11月15日に、寄託番号NITE P-151として寄託されている。当該菌株は、式IIIで表される化合物および式IVで表される化合物を生産する能力を有する。
【0028】
変異株とは、上記菌株を変異誘発処理することにより得られる菌株をさす。変異誘発処理は任意の適当な変異原を用いて行われ得る。ここで、「変異原」なる語は、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体およびアクリジン類が挙げられるが、他の任意の効果的な変異原もまた使用できる。
アクレモニウム・スピーシーズ(Acremonium sp.)AWA16-1株は次の菌学的性質を有する。
【0029】
各種培地における生育形態
各培養平板において2週間(25℃)培養後に巨視的観察を行い、コロニーの直径、色調(コロニー表面および裏面)、表面性状、可溶性色素産生の有無を観察した。なお、色調の( )内はKornerup and Wanscher(1978)で用いられている「色」のCode No.を示す。
【0030】
a. PDA (Potato Dextrose Agar) 培地における生育
コロニー直径:12-14 mm。
色調、表面:Yellowish white(2A-2)〜White(2A-1)。
色調、裏面:Pale yellow(4A-3)。
表面性状:ビロード状、放射状の漠を形成。
可溶性色素:あまり顕著ではない、Yellowish white(1A-2)
【0031】
b. 2%MA (2%Malt agar) 培地における生育
コロニー直径:9-12 mm。
色調、表面:Yellowish white(2A-2)〜White(2A-1)。
色調、裏面:Yellowish white(2A-2)。
表面性状:ビロード状。
可溶性色素:産生なし。
【0032】
c. OA (Oatmeal Agar) 培地における生育
コロニー直径:10-14 mm。
色調、表面:Yellowish white(2A-2)。
色調、裏面:Greyish orange(6B-4)。
表面性状:ビロード状。
可溶性色素:産生なし。
【0033】
d. LCA培地 (三浦培地) における生育
コロニー直径:10-14 mm。
色調:White(1A-1)。
表面性状:ビロード状。
可溶性色素:産生なし。
【0034】
形態的特徴
a. 栄養菌糸:菌糸は寒天表面上もしくは寒天内に形成され、無色で有隔壁菌糸。栄養菌糸のいたるところで円筒形の短い細胞から、亜球形で1細胞の厚膜胞子と考えられる構造が形成された。
【0035】
b. 生殖器官
無性生殖器官:分生子柄および分生子形成細胞:分生子柄はほとんど発育がみとめられず分生子形成細胞であるフィアライドが栄養菌糸から直接単性して形成される。フィアライドは基部に隔壁を形成。フィアライドの基部はやや膨らみ、基部から先端にむかってなだらかに細くなる傾向がみられた。
分生子:分生子はフィアロ型分生子、またはアレウム型分生子で卵型〜倒卵型、楕円型、無色、1細胞、表面は円滑でフィアライド先端部に分生子塊を形成する。
有性生殖器官:約1ヶ月間の培養検体からはテレオモルフの形成は確認されなかった。
【0036】
(2)微生物の培養
本発明の化合物の製造方法において微生物の培養は、通常の微生物の培養方法で実施できる。培地としては、資化可能な炭素源、窒素源、無機物および必要な生育・生産促進物質を適宜含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、澱粉、デキストリン、マンノース、フラクトース、シュクロース、ラクトース、キシロース、アラビノース、マンニトール、糖蜜などが単独または組み合わせて用いられる。さらに、必要に応じて炭化水素、アルコール類、有機酸、アミノ酸(トリプトファン等)なども用いられる。窒素源としては塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーン・スチープ・リカー、大豆粉、綿実かす、カザミノ酸などが単独または組み合わせて用いられる。そのほか、必要に応じて食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛などの無機塩類を加えてもよい。さらに使用する微生物の生育や本発明の化合物の生産を促進する微量成分を適当に添加することができ、そのような成分は当業者であれば適当なものを選択することができる。
【0037】
培養法としては、液体培養もしくは寒天培養が適しているが、これに限定されない。液体培養の場合、培養温度は、25〜35℃が適当であり、培養中の培地のpHは6〜8に維持することが望ましく、30〜120rpmの震盪速度で回転または往復震盪培養することが望ましい。液体培養で通常5〜14日間培養を行うと、目的化合物が培養液中ならびに菌体中に生成蓄積される。培養物中の生成量が最大に達した時に培養を停止する。寒天培養の場合、培養温度は、25〜35℃が適当であり、培養中の培地のpHは6〜8に維持することが望ましい。寒天培養で通常10〜20日間培養を行うと、目的化合物が寒天培地中ならびに菌体中に生成蓄積される。培養物中の生成量が最大に達した時に培養を停止する。
【0038】
(3)化合物の単離・精製
培養物からの本発明の化合物の単離・精製は、微生物代謝生産物をその培養物から単離・精製するために常用される方法に従って行われる。ここで、「培養物」とは、培養上清、培養菌体、または菌体の破砕物のいずれをも包含するものである。例えば培養物を濾過や遠心分離により培養濾液と菌体に分け、菌体をアセトン、もしくはクロロホルム/メタノール(9/1)混合溶媒などで抽出する。培養濾液は、そのまま、または酢酸エチル、クロロホルムなどで抽出して用いる。ついで、菌体抽出液と培養濾液もしくは培養濾液の抽出物とを合わせて濃縮し、カラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどにより精製を行い、本発明の化合物を得る。得られた化合物は、NMR解析などの通常の化学的手法により、上記「1.本発明の化合物」に記載した性質を示すか否かを調べることにより、本発明の化合物であることを確認することができる。
【0039】
一方、得られた化合物が抗腫瘍活性を有することを確認するには、例えば、癌細胞を播種したマイクロプレートに、得られた化合物を適当な濃度で添加し、培養する。培養後に例えばアラマーブルーを用いて生存癌細胞数を測定し、対照の化合物無添加群における細胞数と比較して、その癌細胞の増殖が抑制されたか否かを観察する。
【0040】
また、得られた化合物が抗菌活性を有することを確認するには、例えば、得られた化合物を含む溶液をそのまま使用するかまたはメタノールなどの適当な溶媒で希釈した溶液を調製し、その溶液をペーパーディスクにしみ込ませ、あらかじめ微生物(細菌、真菌など)を植菌しておいた栄養寒天培地上にのせ、培養する。培養後、ペーパーディスク周辺に阻止円(ハロー)が形成されるか否かを観察する。
【0041】
3.本発明の化合物の用途
(1)抗菌剤
本発明の式(I)の化合物は、優れた抗菌活性を有するため抗菌剤として有用であり、ヒトおよび動物用医薬品、医薬品原料、農薬、食品の保存剤等として使用することができる。
【0042】
すなわち本発明の抗菌剤は、式(I)の化合物を有効成分として含むものである。本発明の抗菌剤は、式(I)の化合物のうちの1種のみを単独で含有してもよいし、複数種を含有してもよい。また本発明の抗菌剤は、本発明の化合物を含有する培養物を含むものであってもよい。さらに本発明の抗菌剤は、他の抗菌剤および/または添加剤などをさらに含有するものであってもよい。このような他の抗菌剤および添加剤は、本発明の化合物の抗菌活性を低減させるものでなければ任意のものを使用することができ、例えば、抗生物質(ペニシリン類、アミノグリコシド類、セファロスポリン類等)などが挙げられる。
【0043】
本発明の抗菌剤は、使用する対象が特に限定されるものではなく、例えば、化膿性疾患、呼吸器感染症、胆道感染症、尿路感染症などの感染症(特に細菌感染症)の予防および治療に有用である。また、バシラス属細菌、特にバシラス・サブティリスによる感染症、スタフィロコッカス属細菌、特にスタフィロコッカス・アウレウスによる感染症、サリニビブリオ(Salinivibrio)属細菌、特にサリニビブリオ・コスチィコラ(Salinivibrio costicola)による感染症、サイトファーガ(Cytophaga)属細菌、特にサイトファーガ・マリノフラバ(Cytophagamarinoflava)による感染症、およびカンジダ(Candida)属細菌、特にカンジダ・アルビカンス(Candidaalbicans)による感染症の治療に特に有効である。
【0044】
本発明の抗菌剤を適用する対象としては、哺乳動物、例えば、ヒト、家畜(ウシ、ウマ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ等)、実験動物(マウス、ラット、ハムスター等)が含まれるが、特に限定されるものではない。
【0045】
(2)抗腫瘍剤
本発明の化合物は、優れた抗腫瘍活性を有するため抗腫瘍剤として有用であり、ヒトおよび動物用医薬品、医薬品原料等として使用することができる。
【0046】
本発明の抗腫瘍剤は、上記式(I)の化合物および/または式(II)の化合物を有効成分として含むものである。本発明の抗腫瘍剤は、上記化合物のうちの1種のみ(例えば式(I)の化合物または式(II)の化合物)を単独で含有してもよいし、複数種を含有してもよい。また本発明の抗腫瘍剤は、式(I)の化合物および/または式(II)の化合物を含有する培養物を含むものであってもよい。さらに本発明の抗腫瘍剤は、他の抗腫瘍剤および/または添加剤などをさらに含有するものであってもよい。このような他の抗腫瘍剤および添加剤は、本発明の化合物の抗腫瘍活性を低減させるものでなければ任意のものを使用することができ、例えば、アドリアマイシン、シスプラチン、タキソール、ハーセプチンなどが挙げられる。
【0047】
本発明の抗腫瘍剤を腫瘍の予防または治療目的で使用する場合は、使用する対象を特に限定するものではない。例えば、癌、肉腫、良性腫瘍などの少なくとも一種の腫瘍について予防または治療を目的として用いることができる。これらの疾病は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであっても、使用の対象とすることができる。対象となる癌種は特に限定されるものではなく、例えば肺癌、脳腫瘍、上咽頭癌、舌癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝癌、直腸癌、結腸癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、骨肉腫および白血病からなる群から選択される。単一の癌のみならず複数の癌が併発したものも含まれる。
【0048】
本発明の抗腫瘍剤を投与する対象としては、限定するものではないが、哺乳動物、例えば、ヒト、家畜(ウシ、ウマ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ等)、実験動物(マウス、ラット、ハムスター等)でありうる。
【0049】
(3)投与
本発明の抗菌剤および抗腫瘍剤を哺乳動物に投与する場合には、これらの医薬製剤は、医薬的に許容される担体または添加物を共に含むものであってもよい。このような担体および添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤などの他、リポゾームなどの人工細胞構造物などが挙げられる。使用される添加物は、医薬組成物の剤形に応じて上記の中から適宜または組み合わせて選択される。
【0050】
本発明の抗菌剤および抗腫瘍剤は、経口経路または非経口経路のいずれでも投与することができる。
【0051】
本発明の抗菌剤および抗腫瘍剤を経口的に投与する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤などの固形製剤、あるいは液剤、シロップ剤などの液体製剤等とすればよい。特に顆粒剤および散剤は、カプセル剤として単位投与剤形とすることができ、液体製剤の場合は使用する際に再溶解させる乾燥生成物とすることができる。
【0052】
これら剤形のうち経口用固形製剤は、通常それらの組成物中に製剤上一般に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤などの添加剤を含有する。また、経口用液体製剤は、通常それらの組成物中に製剤上一般に使用される安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、芳香剤、着色剤などの添加剤を含有する。
【0053】
また非経口的に投与する場合は、注射剤または坐剤などの剤形とすることができる。例えば注射剤は、ポリアルコキシフラボノイドを溶液、懸濁液、乳液などに溶解または懸濁して調製されるものであり、通常単位投与量アンプルまたは多投与量容器の形態で提供される。また注射剤は、使用する際に適当な担体、例えば発熱物質不含の滅菌水に再溶解させる粉剤であってもよい。注射手法としては、例えば点滴静脈内注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、皮内注射が挙げられる。これらの非経口投与剤形は、通常それらの組成物中に薬学上一般的に使用される乳化剤、懸濁剤などの添加剤を含有する。
【0054】
上記抗菌剤および抗腫瘍剤における本発明の化合物の量は、用途、剤形および投与経路などにより異なるが、総重量を基準として1〜5重量%、好ましくは2〜3重量%である。また、本発明の化合物の有効量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。例えば、有効成分として、1日につき体重1kg当たり1〜1000mgであり、1日数回から数週間に1回の間隔で投与することができる。
【0055】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明は実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1 本発明の化合物の製造
種菌としてアクレモニウム・スピーシーズAWA16-1株を用いた。該菌株を、4 Lの寒天平板培地(1 L中、ポテトデキストロースブロース(ディフコ社製)24 g、寒天 15 g(和光純薬工業株式会社製)、自然海水 500 mL、蒸留水 500 mL(pH 6.8)を含む。)上で、25℃にて14日間培養した。
【0057】
このようにして得られた培養物をアセトンで三日間抽出しその抽出液を濾紙(アドバンテック2番)にて濾過した。濾液を酢酸エチルと水中に二層分配し、酢酸エチル層を減圧濃縮した。得られた濃縮抽出物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルC200)を担体として用い、移動層として、まず、クロロホルム200 mLにて溶出した。次に、クロロホルム/メタノール(95:5, 9:1, 8:2)にて溶出し、ついでクロロホルム/メタノール/水(7:3:0.5)にて溶出した。クロロホルム/メタノール(95:5)にて溶出した画分に抗腫瘍活性が認められた。
【0058】
次に、抗腫瘍活性が認められたクロロホルム/メタノール(95:5)にて溶出した画分を逆相クロマトグラフィー(コスモシール75C18-OPN)を用い、移動層として含水メタノールを用いて溶出した結果、50%〜70%メタノール/水にての溶出画分に抗腫瘍活性が認められた。
【0059】
次に、抗腫瘍活性が認められた50%〜70%メタノール/水画分を高速液体クロマトグラフィー(カラム:TSK-Gel ODS80Ts(直径20 mm、長さ250 mm)、移動相:65%メタノール−水、流速10 mL/min)にて最終精製し、化合物A(1.2 mg)および化合物B(7.8 mg)を得た。化合物AおよびBについて理化学的性状および化学構造を特定した。化合物Aは以下の式(III)で表される化合物として、化合物Bは以下の式(IV)で表される化合物として同定された。
【0060】
【化7】

【0061】
式(III)の化合物および式(IV)の化合物の理化学的性状については、上述のとおりである。
【0062】
実施例2 抗腫瘍活性の評価
本発明の化合物の抗腫瘍活性を以下の様に評価した。ヒト肺癌由来細胞A549細胞を96穴マイクロプレートに8 x 103個/ 200 mL/ ウェルの濃度で播種し、14時間、CO2インキュベーター(5%二酸化炭素、37 ℃)にて培養した。上記式(III)の化合物および式(IV)の各化合物がそれぞれ125 mg/ mL〜0.5 mg/ mLの濃度になるような希釈系列を作成し、上記マイクロプレートのウェルに添加し、さらに72時間培養した。72時間後にアラマーブルー(関東化学株式会社より購入)を用いて生存細胞数を測定した。その結果、式(III)の化合物は、125 mg/ mLの濃度でA549細胞を完全に死滅させた。式(IV)の化合物は125 mg/ mLの濃度でA549細胞の増殖を、薬剤無添加群の42%に抑制した。
【0063】
実施例3 抗菌活性の評価
本発明の化合物の抗菌活性を以下の様に評価した。上記式(III)の化合物および(IV)の化合物の溶液を、2 mg/mLの濃度のメタノール溶液となるように調製した。この溶液から25 mLをとって、ペーパーディスク(東洋ろ紙株式会社製、直径6 mm)にしみ込ませた。クリーンベンチ中で15分間放置し、メタノールを蒸発させ除去した。このペーパーディスクを、あらかじめバシラス・サブティリス(Bacillussubtilis IFO3134)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureusIFO12732)、サリニビブリオ・コスチィコラ(Salinivibrio costicola ATCC 33508)、サイトファーガ・マリノフラバ(Cytophagamarinoflava IFO14170)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans IFO 1060)を植菌しておいた栄養寒天培地(日水製薬株式会社製)上にのせ、30℃にて、24時間培養した。24時間後にペーパーディスク周辺に形成された阻止円の直径を測定した。本発明の式(III)の化合物は、バシラス・サブティリス(Bacillussubtilis IFO3134)に対して直径10 mm、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureusIFO12732)に対して直径18 mm、サリニビブリオ・コスチィコラ(Salinivibrio costicola ATCC 33508)に対して直径9 mm、サイトファーガ・マリノフラバ(Cytophaga marinoflava IFO14170)に対して直径8 mm、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans IFO 1060)に対して直径15 mmの阻止円を形成した。本発明の式(IV)の化合物は、バシラス・サブティリス(Bacillussubtilis IFO3134)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureusIFO12732)、サリニビブリオ・コスチィコラ(Salinivibrio costicola ATCC 33508)、サイトファーガ・マリノフラバ(Cytophagamarinoflava IFO14170)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans IFO 1060)のいずれに対しても阻止円を形成しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、抗腫瘍活性を有する新規な化合物、ならびに微生物を用いた該化合物の製造方法が提供される。本発明の化合物は、医薬品、医薬品原料、農薬および農薬原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基である]
で表される化合物。
【請求項2】
下記式(II):
【化2】

[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基である]
で表される化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物の製造方法であって、アクレモニウム属に属し、該化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、得られる培養物から該化合物の少なくとも1種を単離することを特徴とする、前記方法。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物を有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物および/または請求項2に記載の化合物を有効成分として含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項6】
アクレモニウム・スピーシーズ(Acremonium sp.)AWA16-1株。

【公開番号】特開2007−269654(P2007−269654A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95264(P2006−95264)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ゲノム情報に基づいた未知微生物遺伝資源ライブラリーの構築」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【Fターム(参考)】