説明

抗菌用組成物及びそれを用いた抗菌用フィルタ、並びに劣化防止用組成物及びそれを用いた劣化防止用フィルタ。

【課題】液体の経時的な劣化を十分に抑制することが可能な抗菌用組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の抗菌用組成物は、ゲルマニウムを主成分とするゲルマニウム粒子12と、ゲルマニウム粒子12の表面の少なくとも一部を覆う酸化ゲルマニウムを主成分とする酸化ゲルマニウム層14と、ゲルマニウム粒子12の表面の少なくとも一部及び/又は酸化ゲルマニウム層14の少なくとも一部を覆う二酸化ケイ素を主成分とする二酸化ケイ素層16とを備える複合粒子10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌用組成物並びにそれを用いた抗菌用フィルタ及び抗菌方法に関する。また、本発明は、劣化防止用組成物並びにそれを用いた劣化防止用フィルタ及び劣化防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種分野において、潤滑性や剥離性を付与したり、冷却したりすることを目的として、合成油や鉱物油等を含有する液体組成物が様々な用途で使用されている。このような液体組成物の中には、再利用されるものもあるが、その場合、液体組成物の劣化や腐食が問題となる。
【0003】
例えば、ダイキャストに用いられる離型剤としては、シロキサンなどの合成油と水と界面活性剤(乳化剤)とを配合して得られるエマルジョン組成物が用いられている(例えば、特許文献1)。このような離型剤や塑性加工用潤滑油などは、高温下において使用されるため、熱履歴によって劣化し、腐食生成物が発生することが知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−275845号公報
【特許文献2】特開2007−9020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の腐食生成物には、硫化水素ガスなどの有毒成分が含まれることがあり、悪臭の原因にもなっている。このため、合成油や界面活性剤などの有機物の分解、劣化を抑制して、腐食生成物の発生を抑制する手法の確立が求められている。
【0005】
そこで、本発明者らは、まず、腐食生成物が発生するメカニズムについて検討した。検討の結果、離型剤や切削油等は、使用時や保管時に空気と接触することとなるが、その際に、空気中に浮遊する菌が混入し、それによって、腐食生成物の発生が促進されていることを見出した。
【0006】
本発明は、本発明者らの上記知見に基づいてなされたものであり、液体の経時的な劣化を十分に抑制することが可能な抗菌用組成物及びそれを含む抗菌用フィルタ、並びにかかる抗菌用組成物を用いた抗菌方法を提供することを目的とする。また、本発明では、有機物を含有する液体の劣化を十分に抑制し、液体のライフタイムを十分に長くすることが可能な劣化防止用組成物及びそれを有する劣化防止用フィルタ、並びにかかる劣化防止用組成物を用いた劣化防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では、酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材からなる抗菌用組成物を提供する。このような抗菌用組成物によれば、液体に含まれる有機物の経時的な分解及び劣化が十分に抑制され、腐食生成物の生成を十分に低減することができる。かかる効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下の通り推察する。
【0008】
すなわち、本発明の抗菌用組成物は、酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有しているが、このうちゲルマニウムは、比較的低いバンドギャップエネルギー(0.67eV)を有しており、室温程度で容易に電子とホール(正孔)が励起される。ゲルマニウムは間接遷移型であるため、生成したキャリアは簡単には再結合で消滅しない。このように生成したキャリアを、ゲルマニウム、ゲルマニウム酸化物及び二酸化ケイ素を介して外界と交換することによって、液体中に存在する菌の増殖が抑制され、腐食生成物の生成を十分に低減することができるものと考えている。
【0009】
なお、抗菌剤として従来から知られている酸化チタン(TiO)は、紫外線を利用するものであった。すなわち、気体や水などの媒体を通過した紫外線が抗菌剤の表面に到達することによって、電子とホールとが励起生成され、酸化・還元作用を示すことによるものである。一方、本発明の抗菌用組成物は、ゲルマニウムを含んでいるため、酸化チタンに比べて、より広い波長範囲の光(近赤外線、可視光線及び紫外線)を利用することができるという利点を有する。また、上述の通り、生成したキャリアのライフタイムが長いため、優れた抗菌効果を示す。
【0010】
また、本発明の効果が得られる他の要因としては、ゲルマニウムから放出される遠赤外線による影響も考えられる。ゲルマニウムは、バンドギャップエネルギーが0.67eVの間接遷移型の半導体である。半導体ゲルマニウムのホール(正孔)には、重いホール(H)と軽いホール(L)の二種類がある。P型のゲルマニウム微結晶においては、室温においてこれらの2つのバンドがエネルギー的にも波数的にも非常に接近している。そして、フェルミレベルは価電子帯付近にあり、ホールは室温において25meV(kT、k=1.38×10−34、T=300K)のエネルギーを有している。このため、重いホール(H)は、室温において波長100ミクロン帯の遠赤外線に相当する2.5meVの準位に容易に励起される。したがって、重いホール(H)はそのバンドから軽いホール(L)バンドに熱的に容易に励起され、重いホール(H)は遠赤外線を放出して元の重いホール(H)バンドに戻る。このように、P型のゲルマニウム微結晶が室温において波長100ミクロン帯の遠赤外線を放射することによって、液体中に存在する菌の増殖が抑制され、腐食生成物の生成を十分に低減することができるものと考えている。
【0011】
以上のとおり、本発明者らは本発明の抗菌用組成物が有機物の劣化を抑制する作用について、考えられ得るメカニズムを挙げたが、本発明は上記のメカニズムに限定されるものではない。いずれにしても、本発明の抗菌用組成物の抗菌作用によって、有機物の分解及び劣化が抑制され、異臭の原因となる腐食生成物の発生を十分に抑制することができる。
【0012】
また、本発明の抗菌用組成物における複合材は、ゲルマニウムを主成分とするゲルマニウム粒子と、ゲルマニウム粒子の表面の少なくとも一部を覆う酸化ゲルマニウムを主成分とする酸化ゲルマニウム層と、ゲルマニウム粒子の表面の少なくとも一部及び/又は酸化ゲルマニウム層の少なくとも一部を覆う二酸化ケイ素を主成分とする二酸化ケイ素層とを備える複合粒子であることが好ましい。
【0013】
抗菌用組成物を構成する複合材が上述の構造を有する複合粒子である場合、最外層として設けられる二酸化ケイ素を主成分とする二酸化ケイ素層によって、酸化ゲルマニウム層の一部又は全部が覆われているため、酸化ゲルマニウムの水中への溶出を十分に低減することが可能となる。これによって、優れた抗菌作用をより長い期間維持することが可能となる。また、複合粒子の内側にゲルマニウム粒子、外側に二酸化ケイ素層、ゲルマニウム粒子と二酸化ケイ素層の間に酸化ゲルマニウム層を備える構造となるため、遠赤外線の放出が一層効率的に行われることとなる。
【0014】
本発明ではまた、セラミック材料及び/又は金属材料を含む基材と、基材の表面の少なくとも一部に酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材を有する抗菌用フィルタを提供する。
【0015】
このような抗菌用フィルタは、上述の抗菌用組成物を表面に有しているため、有機物を含む液体と接触させた場合に、抗菌作用によって、有機物の分解及び当該有機物の劣化が抑制され、異臭の原因となる腐食生成物の発生を容易にかつ十分に抑制することができる。
【0016】
本発明ではまた、有機物を含有する液体の抗菌方法であって、液体を酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材に接触させる工程を有する抗菌方法を提供する。
【0017】
この抗菌方法によれば、液体中の菌の量を十分に低減して液体の劣化を十分に抑制することができる。
【0018】
また、別の側面では、本発明は、有機物を含有する液体の劣化防止用組成物であって、酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材からなる劣化防止用組成物を提供する。かかる劣化防止用組成物は、液体の劣化を十分に抑制し、液体のライフタイムを十分に長くすることができる。このような効果が得られる要因としては、上述したゲルマニウムから放出される遠赤外線の作用、またはゲルマニウムで発生したキャリアの交換作用が挙げられる。ただし、本発明の効果が得られるメカニズムはこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の劣化防止用組成物における複合材は、ゲルマニウムを主成分とするゲルマニウム粒子と、ゲルマニウム粒子の表面の少なくとも一部を覆う酸化ゲルマニウムを主成分とする酸化ゲルマニウム層と、ゲルマニウム粒子の表面の少なくとも一部及び/又は酸化ゲルマニウム層の少なくとも一部を覆う二酸化ケイ素を主成分とする二酸化ケイ素層とを備える複合粒子であることが好ましい。
【0020】
劣化防止用組成物を構成する複合材が上述の構造を有する複合粒子である場合、最外層として設けられる二酸化ケイ素を主成分とする二酸化ケイ素層によって、酸化ゲルマニウム層の一部又は全部が覆われているため、酸化ゲルマニウムの水中への溶出を十分に低減することが可能となる。これによって、優れた劣化防止作用をより長い期間維持することが可能となり、液体のライフタイムを一層長くすることが可能となる。また、複合粒子の内側にゲルマニウム粒子、外側に二酸化ケイ素層、ゲルマニウム粒子と二酸化ケイ素層の間に酸化ゲルマニウム層を備える構造となるため、ゲルマニウムが局部的に温度上昇すると、室温でも容易に電子と正孔が励起されて遠赤外線の放出が一層効率的に行われることとなる。
【0021】
また、本発明では、セラミック材料及び/又は金属材料を含む基材と、基材の表面の少なくとも一部に酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材を有する劣化防止用フィルタを提供する。
【0022】
このような劣化防止用フィルタは、上述の劣化防止組成物を表面に有しているため、有機物を含む液体と接触させた場合に、有機物の分解及び当該有機物の劣化が抑制され、異臭の原因となる腐食生成物の発生を容易にかつ十分に抑制することができる。
【0023】
また、本発明では、有機物を含有する液体の劣化防止方法であって、液体を酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材に接触させる工程を有する劣化防止方法を提供する。
【0024】
この劣化防止方法によれば、液体中の有機物の劣化を十分に抑制して、液体のライフタイムを十分に長くすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、液体の経時的な劣化を十分に抑制することが可能な抗菌用組成物及びそれを含む抗菌用フィルタ、並びにかかる抗菌用組成物を用いた抗菌方法を提供することができる。また、有機物を含有する液体の劣化を十分に抑制し、液体のライフタイムを十分に長くすることが可能な劣化防止用組成物及びそれを有する劣化防止用フィルタ、並びにかかる劣化防止用組成物を用いた劣化防止方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る複合粒子の模式断面図である。抗菌性組成物である複合粒子10は、ゲルマニウムを主成分とするゲルマニウム粒子12と、ゲルマニウム粒子12の表面を被覆するように設けられる酸化ゲルマニウムを主成分とする酸化ゲルマニウム層14と、酸化ゲルマニウム層14の表面を被覆するように設けられる二酸化ケイ素を主成分とする二酸化ケイ素層16とを備える。
【0028】
ゲルマニウム粒子12は、好ましくはゲルマニウム粒子12全体の90質量%以上がゲルマニウムであり、より好ましくは95質量%以上がゲルマニウムであり、さらに好ましくは99質量%以上がゲルマニウムである。また、ゲルマニウム粒子12はゲルマニウムのみからなることが特に好ましい。
【0029】
酸化ゲルマニウム層14は、好ましくは酸化ゲルマニウム層全体の90質量%以上が酸化ゲルマニウムであり、より好ましくは95質量%以上が酸化ゲルマニウムであり、さらに好ましくは99質量%以上が酸化ゲルマニウムである。また、酸化ゲルマニウム層14は酸化ゲルマニウムのみからなることが特に好ましい。
【0030】
酸化ゲルマニウムは、一酸化ゲルマニウムであっても、二酸化ゲルマニウムであってもよい。なお、複合粒子10では、ゲルマニウム粒子12と酸化ゲルマニウム層14との間に明確な境界が存在するが、本実施形態の抗菌性組成物はこのような実施形態に限定されるものではない。例えば、ゲルマニウム粒子と酸化ゲルマニウム層との間には、ゲルマニウムと酸化ゲルマニウムの複合材料があってもよい。この場合、粒子の中心部分から外側に向かって、ゲルマニウムに対する酸化ゲルマニウムの割合が徐々に増加する中間層が存在してもよい。
【0031】
二酸化ケイ素層16は、好ましくは二酸化ケイ素層全体の90質量%以上が二酸化ケイ素であり、より好ましくは95質量%以上が二酸化ケイ素であり、さらに好ましくは99質量%以上が二酸化ケイ素である。また、二酸化ケイ素層16は二酸化ケイ素のみからなることが特に好ましい。
【0032】
二酸化ケイ素層16は、透明の膜状であることが好ましい。これによって、一層優れた抗菌作用及び劣化防止作用を示す抗菌用組成物とすることができる。
【0033】
二酸化ケイ素層16と酸化ゲルマニウム層との間には、ゲルマニウム(酸化ゲルマニウム)−ケイ素(二酸化ケイ素)の複合体層(図示しない)が形成されていてもよい。
【0034】
複合粒子10の粒径は特に制限されず、例えば、0.01〜500μm、好ましくは0.1〜100μm、特に好ましくは10〜50μmとすることができる。複合粒子10の粒径が大きくなりすぎると、液体との接触面積が減少して、十分優れた抗菌作用が得られ難くなる傾向がある。一方、複合粒子10の粒径が小さくなりすぎると、壊れ易くなる傾向がある。
【0035】
複合粒子10におけるゲルマニウム粒子12及び酸化ゲルマニウム層に含まれるゲルマニウムの含有量は、複合粒子10全体に対して、10〜90質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましく、60〜80質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
複合粒子10における二酸化ケイ素の含有量は、1〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
酸化ゲルマニウム層14及び二酸化ケイ素層16の厚みは、それぞれ10nm〜10μmであることが好ましい。このような厚みとすることによって、ゲルマニウム粒子12から放出された赤外線・遠赤外線が、酸化ゲルマニウム層14及び二酸化ケイ素層16を通過して、効率よく外部に放射されることとなる。
【0038】
複合粒子10の製造方法について以下に説明する。複合粒子10の製造方法は、ゲルマニウム粒子に、二酸化ケイ素前駆体を付着させて付着粒子を得る付着工程と、該付着粒子を焼成して複合粒子10を得る反応工程とを有する。
【0039】
付着工程では、市販のゲルマニウム粒子を、二酸化ケイ素前駆体を含む有機溶媒中に浸漬することによって、ゲルマニウム粒子の表面に二酸化ケイ素前駆体が付着した付着粒子を得ることができる。別の方法として、例えば、シリカ前駆体を含む有機溶媒を、市販のゲルマニウム粒子にスプレーして、付着粒子を得てもよい。
【0040】
二酸化ケイ素前駆体としては、後述する反応工程によって二酸化ケイ素を生成する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、テトラメトキシシランやテトラメトキシシラン等のアルコキシシランやポリシラザンが挙げられる。
【0041】
反応工程では、付着工程で得られた付着粒子を焼成して、複合粒子10を得る。焼成は、市販の焼成炉を用いて行うことができる。焼成条件は、空気中、600〜1200℃、0.5〜5時間とすることができる。焼成温度は、好ましくは750〜1200℃であり、より好ましくは800〜1100℃である。なお、上述の焼成条件は、付着粒子の大きさや用いる原料に応じて適宜調整することが好ましい。
【0042】
反応工程では、付着粒子を空気中で加熱することによって、ゲルマニウムの一部が酸化されて酸化ゲルマニウムが生成し、酸化ゲルマニウム層14が形成される。このため、焼成条件によって、酸化ゲルマニウム層14の厚みや量を調製することができる。また、二酸化ケイ素前駆体が反応して、二酸化ケイ素層16が形成される。
【0043】
このようにして得られる複合粒子10の構造及び組成は、例えば、その断面を電子顕微鏡で観察したり、XRD分析等を行ったりすることによって確認することができる。
【0044】
上記実施形態の抗菌用組成物は、例えば、少量の有機物を含む排水処理や、サウナ・プールなどの消毒、殺菌などに好適に用いることができる。かかる抗菌用組成物は、薬品等を用いずに殺菌を行うことができるため、種々の用途に使用することができる。
【0045】
次に、本発明の別の実施形態に係る抗菌用フィルタについて以下に説明する。抗菌用フィルタは、セラミックまたは金属材料を含む基材と、該基材の表面上に設けられる抗菌用組成物とを有する。
【0046】
抗菌用フィルタの形状は、処理する液体と接触できるような形状であれば、特に限定されない。塊状の固形物であってもよいし、液体との接触面積を向上させるために、穴や細孔を有する固形物であってもよい。
【0047】
基材としては、通常のセラミック製または金属材料製のものを用いることができる。また、信楽粘土(信楽白土、信楽赤土)、または砥部土(磁器土)などを素焼きして得られた素焼き素地を基材としてもよい。基材の形状は塊状であっても、穴や細孔を有するものであってもよい。
【0048】
このような抗菌用フィルタの製造方法について以下に説明する。抗菌用フィルタの製造方法は、基材にゲルマニウム粒子及び二酸化ケイ素前駆体を付着させる付着工程と、当該基材を焼成する焼成工程とを有する。
【0049】
付着工程では、市販のゲルマニウム粒子及び二酸化ケイ素前駆体を有機溶剤中に分散させて得られるペーストを基材に付着させる。二酸化ケイ素前駆体としては、後述する焼成工程によって二酸化ケイ素を生成する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、テトラメトキシシランやテトラメトキシシラン等のアルコキシシランやポリシラザンが挙げられる。
【0050】
焼成工程では、ゲルマニウム粒子及び二酸化ケイ素前駆体を付着させた基材を、例えば、空気中、1000〜1200℃、0.5〜5時間の条件で焼成する。これによって、本実施形態の抗菌用フィルタを得ることができる。
【0051】
このような抗菌用フィルタは、例えば合成油、鉱物油、界面活性剤または酸化防止剤などの有機物を含む液体と接触させる工程を有する抗菌方法に好適に用いることができる。抗菌用フィルタは、上記抗菌方法によって、優れた抗菌作用を奏するため、菌の含有量が少なく、悪臭や劣化が十分に抑制された液体を得ることができる。また、悪臭の原因となる腐食生成物などを含有する液体に上記抗菌方法を施すことによって、腐食生成物の量が十分に低減された液体とすることができる。すなわち、抗菌用フィルタ及び抗菌用組成物は、腐食生成物を含有する液体の再生にも有用である。
【0052】
抗菌用フィルタと有機物を含む液体とを接触させる工程において、液体の温度は好ましくは30〜60℃であり、より好ましくは35〜45℃である。液体の温度が30℃未満の場合、抗菌用組成物(劣化防止用組成物)による十分な抗菌効果が得られ難くなる傾向がある。これは、温度が低くなるとゲルマニウムから放出される遠赤外線の放射量が減ってしまうためと思われる。一方、液体の温度が60℃を超えると、腐食生成物の揮発が激しくなり、良好な作業環境が損なわれる傾向がある。
【0053】
この抗菌用フィルタは、優れた劣化防止作用を示すため、例えば工業用潤滑油や切削油、離型剤などの劣化を防止することにより、ライフタイムを十分に長くすることが可能となる。また、劣化防止作用により、悪臭の発生を十分に防止することができるため、作業環境を改善することができる。
【0054】
このような抗菌用フィルタは、例えば、有機物を含む液体の循環流路に配置し、液体を抗菌用フィルタに連続的に接触させることによって、液体の劣化を防止することができる。このような抗菌用フィルタは、連続的に液体と接触させることができるため、優れた抗菌作用を示す。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、抗菌用組成物の形状は球状に限定されるものではなく、例えば塊状であってもよい。また、抗菌用組成物を構成する複合材は、図1のように、酸化ゲルマニウム、二酸化ケイ素が層状に形成されていなくてもよく、例えば、ゲルマニウム、酸化ゲルマニウム及び二酸化ケイ素が複合化または合金化したものであってもよい。
【実施例】
【0056】
実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に以下に説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
(参考例1)
通常のアルミダイキャスト装置の運転を行った。具体的には、ダイキャスト用金型と、変性シリコーン油、脂肪酸の金属(Ca及びAl)塩、並びに界面活性剤を含む離型剤とを用いて、金型温度800℃の条件で、アルミニウムのダイキャストを行った。離型剤は、貯蔵用タンクからポンプによって供給し、ダイキャスト用金型に吹き付けて、その後、再び貯蔵用タンクに戻す一連のフローによって、循環して使用した。
【0058】
上述の条件で、ダイキャスト装置の運転を1週間継続して行った後、離型剤をサンプリングして、離型剤(処理前)の性状測定を行った。測定は、まず、サンプリングした離型剤200mLを500mLの臭気瓶に入れ、40℃の水浴中で30分間静置した。攪拌後、ヘッドスペース検知管測定法により、硫化水素、酢酸、アンモニア、ジエチルアミンの含有量の測定を行った。また、臭気強度を6段階臭気強度表示法に基づいて行った。6段階臭気強度表示法の評価基準は表1に示す通りである。測定結果は表2に示すとおりであった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
(実施例1)
市販のゲルマニウム粉末と、二酸化ケイ素を主成分とする釉薬とを混合して得られた混合物を、二酸化ケイ素を主成分とするセラミックに塗布し、空気中、800〜1000℃で1時間焼成して焼き固めることによって塊状の固形物(フィルタ)を作製した。
【0062】
塊状の固形物のX線回折分析を行い、固形物の表面には、ゲルマニウム、酸化ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材が生成していることを確認した。すなわち、該固形物は、セラミック(基材)と該セラミックを被覆する複合材とを備えていることが分かった。
【0063】
アルミダイキャスト装置の離型剤の供給ポンプの下流側に、上述の通り調製した塊状の固形物をセットして、当該固形物と離型剤とが連続的に接触するようにして運転したこと以外は、参考例1と同様にしてアルミダイキャスト装置の運転を行った。なお、実施例1では、参考例1の運転で使用した使用済みの離型剤をそのまま用いた。フィルタを通過する際の離型剤の温度は約40℃であった。
【0064】
フィルタセット後、運転を開始して、1日間、2日間、5日間及び8日間経過時点で、離型剤のサンプリングを行った。
【0065】
(実施例2)
市販のゲルマニウム粉末と、二酸化ケイ素を主成分とする釉薬とを混合して得られた混合物を、二酸化ケイ素を主成分とするセラミックに塗布し、空気中、1000〜1200℃で1時間焼成して焼き固めることによって塊状の固形物(フィルタ)を作製した。
【0066】
塊状の固形物のX線回折分析を行い、固形物の表面には、ゲルマニウム、酸化ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材が生成していることを確認した。すなわち、該固形物は、セラミック(基材)と該セラミックを被覆する複合材とを備えていることが分かった。
【0067】
実施例1の塊状の固形物に代えて、上述の通り調製して得られた塊状の固形物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミダイキャスト装置の運転及びサンプリングを行った。
【0068】
(比較例1)
塊状の固形物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、アルミダイキャスト装置の運転及びサンプリングを行った。
【0069】
(腐食抑制の評価)
離型剤(処理前)と同様にして、実施例1、実施例2及び比較例1で採取したサンプルの性状測定を行った。測定結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
ゲルマニウム、酸化ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材がセラミックの表面に付着しているフィルタを用いた実施例1及び2では、臭気が十分に抑制され、硫化水素濃度も検出下限界よりも低くなっていた。硫化水素濃度及び臭気の値は、何れも、処理開始前(参考例1)よりも低くなっており、上記フィルタは、劣化を抑制するだけでなく、腐食生成物の含有量を低減し、臭気を改善する効果があることが確認された。
【0072】
(抗菌性の評価)
実施例1及び比較例1で採取したサンプルを用い、変法GAM寒天嫌気培養法によって、嫌気性菌数の測定を行った。測定結果を、使用前の離型剤の測定結果と併せて表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
実施例1では、運転日数が経過しても、嫌気性菌数の増加は認められず、ゲルマニウム、酸化ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材を表面に有するフィルタが抗菌作用を示すことが確認された。一方、比較例1では、運転日数の経過に伴い嫌気性菌数が増加していた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る複合粒子の模式断面図である。
【符号の説明】
【0076】
10…複合粒子、12…ゲルマニウム粒子、14…酸化ゲルマニウム層、16…二酸化ケイ素層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材からなる抗菌用組成物。
【請求項2】
前記複合材は、
前記ゲルマニウムを主成分とするゲルマニウム粒子と、
前記ゲルマニウム粒子の表面の少なくとも一部を覆う前記酸化ゲルマニウムを主成分とする酸化ゲルマニウム層と、
前記ゲルマニウム粒子の表面の少なくとも一部及び/又は前記酸化ゲルマニウム層の少なくとも一部を覆う前記二酸化ケイ素を主成分とする二酸化ケイ素層と、を備える複合粒子である、請求項1記載の抗菌用組成物。
【請求項3】
セラミック材料及び/又は金属材料を含む基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部に酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材と、を有する抗菌用フィルタ。
【請求項4】
有機物を含有する液体の抗菌方法であって、
前記液体を酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材に接触させる工程を有する抗菌方法。
【請求項5】
有機物を含有する液体の劣化防止用組成物であって、
酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材からなる劣化防止用組成物。
【請求項6】
前記複合材は、
前記ゲルマニウムを主成分とするゲルマニウム粒子と、
前記ゲルマニウム粒子の表面の少なくとも一部を覆う前記酸化ゲルマニウムを主成分とする酸化ゲルマニウム層と、
前記ゲルマニウム粒子の表面の少なくとも一部及び/又は前記酸化ゲルマニウム層の少なくとも一部を覆う前記二酸化ケイ素を主成分とする二酸化ケイ素層と、を備える複合粒子である、請求項5記載の劣化防止用組成物。
【請求項7】
セラミック材料及び/又は金属材料を含む基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部に酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材と、を有する劣化防止用フィルタ。
【請求項8】
有機物を含有する液体の劣化防止方法であって、
前記液体を酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム及び二酸化ケイ素を含有する複合材に接触させる工程を有する劣化防止方法。



【図1】
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【公開番号】特開2010−30957(P2010−30957A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195109(P2008−195109)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(508229264)株式会社エッチ・ワイ・シー (1)
【出願人】(595106280)株式会社日本ゲルマニウム研究所 (4)
【Fターム(参考)】