説明

抗血管新生PHSCNペプチドを含む組成物

Cys含有抗血管新生ペプチドPro-His-Ser-Cys-Asn(好ましくは、Ac-PHSCN-NH2としてキャッピングされた形態)またはその酸付加塩もしくは類似体、および該ペプチドまたは類似体を自然発生的なタンデム二量体化またはより高度なオリゴマー化から安定化する少なくとも1種のさらなる化合物を含有する組成物/製剤を開示する。好ましい製剤は、クエン酸のような酸性緩衝剤、賦形剤および増量剤としてのグリシンを含む。製剤のさらなる任意成分は還元剤、生体適合性の非チオール系酸化防止剤、凍結保護剤(典型的には、1種以上の糖、1種以上のアミノ酸、1種以上のメチルアミン、1種以上の離液性(lyotropic)の塩、および/または1種以上のポリオール)である。さらに、溶液または凍結乾燥形態の製剤を含む製品またはキットをも提供する。被験者に該ペプチドを上記製剤として投与することを含んでなる、被験者の血管新生を抑制する方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cys含有の抗血管新生ペプチドPro-His-Ser-Cys-Asnの分解および自然発生酸化的二量体化またはオリゴマー化を防止する、該ペプチドの改善された製剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大部分の癌の形態は固形腫瘍として現れるか、固形腫瘍から誘導される (Shockleyら, Ann. N.Y. Acad. Sci. 1991, 617:367-82)。このタイプの腫瘍は一般的に、モノクローナル抗体や免疫毒素のような生物学的治療剤に臨床上抵抗することがわかっている。癌を治療するための抗血管新生療法は、固形腫瘍が持続的成長のために血管新生(すなわち、新しい血管の形成)を必要とするという認識から開発された (Folkman, Ann. Surg. 1972, 175:409-16; Folkman, Mol. Med. 1995, 1:120-22; Folkman, Breast Cancer Res. Treat. 1995, 36:109-18; Hanahanら, Cell 1996, 86:353-64)。動物モデルでの抗血管新生療法の効力は多くの研究で実証されており、例えば、Millauerら, Cancer Res. 1996, 56:1615-20; Borgstromら, Prostate 1998, 35:1-10; Benjaminら, J. Clin. Invest. 1999, 103:159-65; Brewer GJら, Integr Cancer Ther. 2002, 1:327-37; van Golen KLら, Neoplasia 2002, 4:373-9; Cox Cら, Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2003, 129:781-5を参照されたい。血管新生が存在しないと、固形腫瘍の内部細胞層が十分に育たない。さらに、血管新生(すなわち、異常な新血管形成)は今では非固形の血液学的腫瘍の成長にも必要とされることが示されており、また、他の多くの疾患(眼の血管新生疾患、黄斑変性、慢性関節リウマチなど)にも関与している。
【0003】
これに対して、正常な組織は、傷の修復、月経周期における子宮内壁の増殖といった特殊な環境のもとでの血管新生を除けば、血管新生を必要としない。したがって、血管新生の必要性は腫瘍/癌組織と正常組織の間の顕著な差異である。重要なことだが、正常細胞と比較したときの、腫瘍細胞の血管新生への依存性は、細胞複製および細胞死の差よりも量的に大きい。後者の差が癌の治療に一般的に利用される。
【0004】
腫瘍の血管新生は、血管内皮増殖因子(VEGF)および/または繊維芽細胞増殖因子(FGF)(かかる因子は局所血管系の内皮細胞(EC)上の特異的な受容体と結合する)といったサイトカインにより低酸素条件下で開始されうる。活性化されたECは、関連する組織マトリックスを改造しかつインテグリンのような接着分子の発現を調節する酵素を分泌する。マトリックスの分解後に、ECは増殖して腫瘍のほうに移動し、新しい血管の形成と成熟をもたらす。
【0005】
興味深いことに、血管新生を阻害するエンドスタチン、kringle 5、PEXといったタンパク質断片がマトリックスタンパク質の分解により産生される (O'Reillyら, Cell 1997, 88:277-85; O'Reillyら, Cell, 1994, 79:315-28; Brooksら, Cell, 1998, 92:391-400)。したがって、これらのタンパク質断片は新規血管新生を阻害し、ひいては腫瘍の増殖と転移を防止する可能性がある。しかし、こうしたタンパク質断片には、それらの使用に伴う大きな難点がある。それらは大量に生産することが難しくかつ高価である、薬理学的性質が弱い、分解を受けやすい、といったぐあいである。1つのアプローチは、これらのより大きいタンパク質の、またはより長い断片もしくはサブユニットの短鎖ペプチド断片(親タンパク質の抗血管新生作用の大部分を保持するもの)を同定することであった。
【0006】
血管新生を阻害するペプチドの探索は新血管の成長を防止するうえで相当の効果を示す化合物を提供してきたが、すぐれた活性プロファイルを有する分子が依然必要とされている。したがって、新規ペプチドは、血管新生を防止しかつ異常な新血管形成を検出する点でのペプチドの潜在能力を十分に探究する必要がある。新規ペプチドは、当技術分野で開示されたペプチド(Livant, 米国特許第6,001,965号および第6,472,369号)と比較して、より長い血漿半減期を有し、分解に対してより抵抗し、向上したバイオアベイラビリティー、より高い親和性、より大きな選択性などを備えている可能性がある。そのような新規ペプチドは、細胞の移動、侵入、増殖を抑制し、かつ望ましくない血管新生および異常な新血管形成と関連した様々な疾患を治療または予防するのに有効でありうる。かかるペプチドの例として、主に、キャッピングされたペンタペプチドAc-PHSCN-NH2(本明細書ではATN-161ともいう)の誘導体が、本願と同一譲受人に譲渡された2003年11月25日付の米国特許出願第10/723,144号(Allanら、US 20040162239A1として公開)および2003年11月25日付の同第10/722,843号(Ternanskyら、US 2005002081OAlとして公開)に記載されており、それらの全体を参照により本明細書に組み入れる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当技術分野で必要とされるものは、液相状態と固相状態の両方においてAc-PHSCN-NH2の分解を防止する方法である。抗血管新生ペプチドの活性プロファイルを改善する1つのアプローチは、貯蔵寿命を引き延ばしかつ分解に対する抵抗性を高める手段として、その製剤化方法を開発することである。Cysを含むペプチドの場合には、ジスルフィド結合の形成を介した自然発生的な酸化的二量体化またはより高度なオリゴマー化もしくは重合を防止することも重要である。本発明は、抗血管新生ペプチドAc-PHSCN-NH2とその抗血管新生誘導体のための、そのような改善された製剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Cys含有ペプチドの生物学的/生化学的効力を(特に、望ましくない二量体化をもたらすジスルフィド結合の形成を抑制することによって)保存する、Cys含有ペプチドとその塩のための改善された製剤を含む組成物を開発した。
【0009】
本発明の製剤において有用なAc-PHSCN-NH2の酸付加塩は、Trenanskyらによる同時係属中の特許出願に記載されている。これらの出願は「Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩」と題する2005年2月1日付の米国仮出願第60/649,308号および2006年2月1日付の国際出願(番号未定)(代理人書類番号9715-022-228)であり、それらの全体を参照により本明細書に組み入れる。上記の出願は、Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩、Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩の調製方法、Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩を含む医薬組成物、血管新生および異常な新血管形成と関連した疾患を治療するためのAc-PHSCN-NH2の酸付加塩とその医薬組成物の使用方法、ならびに塩の形成によりAc-PHSCN-NH2の分解を防止する方法を開示している。それゆえ、本発明の新規製剤には、Trenanskyら(前掲)により記載された塩を含む製剤が含まれる。
【0010】
こうして、本発明は、ペプチドPro-His-Ser-Cys-Asn (PHSCN)、その類似体、または該ペプチドもしくは類似体の塩と、該ペプチドもしくは類似体を自然発生的なタンデム二量体化またはより高度なオリゴマー化に対して安定化する少なくとも1種のさらなる化合物とを含む製剤に関する。好ましくは、前記ペプチドは両末端でキャッピングされており、N-末端ではアセチル基により、C-末端ではアミド基によりキャッピングされる。さらなる化合物はCys残基のスルフヒドリル基同士のジスルフィド結合の形成を抑制し、防止し、または逆転させるものである。
【0011】
さらなる化合物が約5のpKを有する生体適合性の酸緩衝剤ある上記の製剤も提供される。
【0012】
好ましくは、該緩衝剤の存在下で、溶液のpHは約3.0より高く、7.5に等しいかまたはそれより低くなる。好ましい酸緩衝剤はクエン酸、酢酸、または2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)である。
【0013】
上記の製剤において、酸緩衝剤は約25mMの濃度のクエン酸であることが好ましい。緩衝剤には、賦形剤および増量剤としてのグリシンを約50mg/mlの濃度で添加してもよい。緩衝剤はクエン酸と酢酸を含むことができ、またトリス(Tris)を含んでいてもよい。
【0014】
好ましい実施形態では、上記の製剤は、(i)ペプチド、キャッピングされたペプチドもしくは類似体、(ii)約50mMのクエン酸、および(iii)約50mg/mlのグリシンを含んでなる。
【0015】
好ましい実施形態の製剤は、pH5.0の溶液2mLから凍結乾燥された、100mgのペプチド、キャッピングされたペプチド、塩もしくは類似体、50mMのクエン酸、50mg/mlのグリシンを有する凍結乾燥形態で容器またはバイアル内に存在する。
【0016】
上記の製剤は1種以上の還元剤をさらに含むことができ、好適な還元剤はジチオスレイトール、β-メルカプトエタノール、またはグルタチオンである。好ましくは、1種以上の還元剤の濃度は約10mMを超えない。
【0017】
上記の製剤は生体適合性の非チオール系酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0018】
製剤は凍結保護剤(lyoprotectant)を凍結保護量で、例えばペプチド1モルに対して約50〜600モルの凍結保護剤の量で、含むことができる。凍結保護剤としては、1種以上の糖類、1種以上のアミノ酸、1種以上のメチルアミン、1種以上の離液性(lyotropic)の塩、および/または1種以上のポリオールがある。上記の好適な製剤において、(a)糖はスクロースもしくはトレハロースであり、(b)アミノ酸はグルタミン酸一ナトリウムもしくはヒスチジンであり、(c)メチルアミンはベタインであり、(d)離液性(lyotropic)の塩は硫酸マグネシウムであり、そして(e)ポリオールは三価以上の糖アルコールである。
【0019】
上記の製剤は、グリセリン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、プロピレングリコール、およびこれらの組合せからなる群より選択される1種以上のポリオールを含みうる。ある製剤においては、凍結保護剤が非還元糖であり、トレハロースやスクロースが好ましい。
【0020】
全ての上記製剤において、ペプチドはそのN-末端とC-末端でキャッピングされていることが好ましく、N-末端のキャップをアシル基とし、C-末端のキャップをアミド基として、ペプチドがCO-NH2で終わるようにすることが最も好ましい。
【0021】
上記の製剤は好ましくは無菌であり、in vivo投与のために製剤化される。
【0022】
本発明は、
(a)上記の製剤を溶液または凍結乾燥形態で含む容器、
(b)任意に、凍結乾燥製剤用の希釈剤または再調製液を含む第2の容器、および
(c)任意に、(i)該溶液の使用、または(ii)凍結乾燥製剤の再調製および/または使用のための説明書、
を含んでなる製品またはキットを包含する。
【0023】
上記の製品またはキットは、(i)別の緩衝剤、(ii)希釈剤、(iii)フィルター、(iv)注射針、または(v)注射器のうちの1つ以上をさらに含んでいてもよい。容器はビン、バイアル、注射器、または試験管とすることが好ましい。それはマルチユース(multi-use)型の容器であってもよく、製剤は好ましくは凍結乾燥される。
【0024】
本発明は、上記の製剤を被験者に投与することを含んでなる、被験者における血管新生の抑制方法に関し、その際、該ペプチド、類似体または塩が血管新生を抑制するのに有効な量で投与される。そのような血管新生の抑制は癌および/またはクローン病の治療方法に利用されている。本発明は、癌やクローン病の治療といった、望ましくない血管新生を抑制するために被験者に投与される医薬における上記組成物の使用を提供する。さらに、望ましくない血管新生を抑制し、それにより癌やクローン病を治療するために被験者に投与される医薬の製造における上記組成物の使用も含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者らは、Cys含有ペプチドPHSCN、最も好ましくは、末端がキャッピングされたペンタペプチドであるアセチル-PHSCN-NH2、およびその各種の塩、および/またはキャッピングされたもしくはキャッピングされていないPHSCNの類似体、ならびに該誘導体および類似体の塩のための改善された製剤を開発した。他の各種キャッピング基については以下で述べる。PHSCNの「類似体」とは、PHSCNと実質的に構造上および/または機能上類似している天然または非天然の分子をさす。例としては、保存的アミノ酸置換変異体、約20残基以下の付加変異体(天然のポリペプチドまたはその構造ドメインを除く)、および化学的に修飾されたペプチドが含まれる。その他の類似体にはペプチド模倣体とアプタマー(aptamer)がある。
【0026】
製剤化されるペプチドは純粋であるかまたは本質的に純粋であることが好ましく、また、本質的に均一である(すなわち、汚染ペプチドやタンパク質などが混入していない)ことが望ましい。「本質的に純粋」とは、調製物の全重量に基づいて90重量%以上(好ましくは95重量%以上)が当該ペプチドであるようなペプチド調製物を意味する。「本質的に均一」な調製物とは、調製物中のペプチドの全重量に基づいて99重量%以上のペプチドを含むペプチド調製物を意味する。
【0027】
キャッピング基
上で述べたように、PHSCNペプチドはそのN-末端とC-末端がそれぞれアシル(「Ac」と略す)基とアミド(「Am」と略す)基でキャッピングされていることが好ましく、例えば、N-末端がアセチル(CH3CO-)基で、C-末端がアミド(CO-NH2)基でキャッピングされる。
【0028】
N-末端のキャッピング基
広範なN-末端キャッピング基(好ましくは、末端アミノ基に結合されるもの)が想定され、例えば、以下のものがある:
ホルミル;
C1-10アルカノイル、例えばアセチル、プロピオニル、ブチリル;
C1-1Oアルケノイル、例えばヘキサ-3-エノイル;
C1-10アルキノイル、1〜10個の炭素原子を有するもの、例えばヘキサ-5-イノイル;
アロイル、例えばベンゾイルまたは1-ナフトイル;
ヘテロアロイル、例えば3-ピロイルまたは4-キノロイル;
アルキルスルホニル、例えばメタンスルホニル;
アリールスルホニル、例えばベンゼンスルホニルまたはスルファニリル;
ヘテロアリールスルホニル、例えばピリジン-4-スルホニル;
C1-10置換アルカノイル、例えば4-アミノブチリル;
C1-10置換アルケノイル、例えば6-ヒドロキシ-ヘキサ-3-エノイル;
C1-10置換アルキノイル、例えば3-ヒドロキシ-ヘキサ-5-イノイル;
置換アロイル、例えば4-クロロベンゾイルまたは8-ヒドロキシ-ナフト-2-オイル;
置換ヘテロアロイル、例えば2,4-ジオキソ-l,2,3,4-テトラヒドロ-3-メチル-キナゾリン-6-オイル;
置換アルキルスルホニル、例えば2-アミノエタンスルホニル;
置換アリールスルホニル、例えば5-ジメチルアミノ-l-ナフタレンスルホニル;
置換ヘテロアリールスルホニル、例えばl-メトキシ-6-イソキノリンスルホニル;
カルバモイルまたはチオカルバモイル;
置換カルバモイル(R'-NH-CO)または置換チオカルバモイル(R'-NH-CS)、ここでR'はアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、置換アリール、または置換ヘテロアリールである;
置換カルバモイル(R'-NH-CO)および置換チオカルバモイル(R'-NH-CS)、ここでR'はアルカノイル、アルケノイル、アルキノイル、アロイル、ヘテロアロイル、置換アルカノイル、置換アルケノイル、置換アルキノイル、置換アロイル、または置換ヘテロアロイルである。
【0029】
C-末端のキャッピング基
C-末端キャッピング基は末端カルボキシルとアミド結合されているか、またはエステル結合されているかのいずれかである。アミド結合を与えるキャッピング基はNR1R2と記載され、ここでR1およびR2は独立して以下の基から選択される:
水素;
C1-10アルキル、例えばメチル、エチル、イソプロピル;
C1-10アルケニル、例えばプロパ-2-エニル;
C1-10アルキニル、例えばプロパ-2-イニル;
C1-10置換アルキル、例えばヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、メルカプトアルキル、アルキルチオアルキル、ハロゲンアルキル、シアノアルキル、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、ジアルキルアミノアルキル、アルカノイルアルキル、カルボキシアルキル、カルバモイルアルキル;
C1-10置換アルケニル、例えばヒドロキシアルケニル、アルコキシアルケニル、メルカプトアルケニル、アルキルチオアルケニル、ハロゲンアルケニル、シアノアルケニル、アミノアルケニル、アルキルアミノアルケニル、ジアルキルアミノアルケニル、アルカノイルアルケニル、カルボキシアルケニル、カルバモイルアルケニル;
C1-10置換アルキニル、例えばヒドロキシアルキニル、アルコキシアルキニル、メルカプトアルキニル、アルキルチオアルキニル、ハロゲンアルキニル、シアノアルキニル、アミノアルキニル、アルキルアミノアルキニル、ジアルキルアミノアルキニル、カルボキシアルキニル、カルバモイルアルキニル;
C1-10アロイルアルキル、例えばフェナシルまたは2-ベンゾイルエチル;
アリール、例えばフェニルまたは1-ナフチル;
ヘテロアリール、例えば4-キノリル;
C1-10アルカノイル、例えばアセチルまたはブチリル;
アロイル、例えばベンゾイル;
ヘテロアロイル、例えば3-キノロイル;
OR'またはNR'R”、ここでR'およびR”は独立して水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アシル、アロイル、スルホニル、スルフィニル、またはSO2-R'''もしくはSO-R'''であり、ここでR'''は置換されたまたは置換されていないアルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニル、またはアルキニルである。
【0030】
エステル結合を与えるキャッピング基はORと記載され、ここでRは次の基でありうる:アルコキシ; アリールオキシ; ヘテロアリールオキシ; アラルキルオキシ; ヘテロアラルキルオキシ; 置換アルコキシ; 置換アリールオキシ; 置換ヘテロアリールオキシ; 置換アラルキルオキシ; または置換ヘテロアラルキルオキシ。
【0031】
N-末端もしくはC-末端のキャッピング基のいずれか一方または両方は、キャッピングされた分子がプロドラッグ(親薬物分子の生理的に不活性な誘導体)として機能するような構造のものでよく、こうしたプロドラッグは、活性薬物を放出するために体内で自然発生的または酵素的変換を受け、しかも親薬物分子と比べて送達特性が改善されている (Bundgaard H編: Design of Prodrugs, Elsevier, Amsterdam, 1985)。
【0032】
キャッピング基の適切な選択により、ペプチドに他の活性分子を付加することが可能である。例えば、N-またはC-末端キャップに連結されたスルフヒドリル基の存在は、その誘導体化ペプチドと他の分子とのコンジュゲーションを可能にするだろう。
【0033】
「凍結保護剤」(lyoprotectant)とは、対象のタンパク質またはペプチドと組み合わせたとき、凍結乾燥およびその後の貯蔵時の該タンパク質またはペプチドの化学的および/または物理的不安定性を顕著に防止または軽減する分子のことである。代表的な凍結保護剤としては以下のものが挙げられる:糖類、例えばスクロースまたはトレハロース; アミノ酸、例えばグルタミン酸一ナトリウムまたはヒスチジン; メチルアミン、例えばベタイン; 離液性(lyotropic)の塩、例えば硫酸マグネシウム; ポリオール、例えば三価以上の糖アルコール、グリセリン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトール; プロピレングリコール; ポリエチレングリコール; プルロニック; ならびにこれらの組合せ。好ましい凍結保護剤はトレハロースやスクロースのような非還元糖である。凍結保護剤は凍結乾燥前の製剤に「凍結保護量」で添加されるが、凍結保護量とは、凍結保護量の凍結保護剤の存在下でペプチドを凍結乾燥させた後で、該ペプチドが物理的・化学的安定性と完全性を凍結乾燥および貯蔵時に本質的に保持している量をさす。
【0034】
「希釈剤」は、薬学的に許容されるもの(ヒト投与用の安全で無毒なもの)で、しかも用時調製される製剤を調製するのに有用なものである。代表的な希釈剤としては、滅菌水、静菌性の注射用水(bacteriostatic water for injection:BWFI)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、滅菌生理食塩水、リンゲル液、またはデキストロース液が挙げられる。
【0035】
「保存剤」とは、再調製された製剤中での細菌の活動を本質的に抑えるために希釈剤に添加される化合物のことであり、したがって、例えば複数回使用の再調製済み製剤の製造が容易になる。保存剤の例としては、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム(アルキル基が長鎖化合物である塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウム類の混合物)、および塩化ベンゼトニウムが挙げられる。他のタイプの保存剤には、芳香族アルコール(例えばフェノール)、ブチルおよびベンジルアルコール、アルキルパラベン(例えば、メチルまたはプロピルパラベン)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、およびm-クレゾールが含まれる。本発明において最適な保存剤はベンジルアルコールである。
【0036】
「増量剤」とは、凍結乾燥混合物に質量を付加して凍結乾燥ケーキの物理的構造に貢献する(例えば、開放気孔構造を維持する本質的に均質な凍結乾燥ケーキの製造を容易にする)化合物のことである。代表的な増量剤としては、マンニトール、グリシン、ポリエチレングリコール、およびソルビトールが挙げられる。
【0037】
本製剤の1つの重要な目的は、これらのペプチドまたは類似体を自然発生的な二量体化に対して安定化することである。この目的を達成するには、好ましくは、2個のCys残基間のジスルフィド結合の形成を防止する低いpHでペプチドを製剤化する。そのような酸緩衝剤は生体適合性であることが好ましい。例として、クエン酸、酢酸、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、または約pK5の同様の緩衝剤が含まれ、かかる緩衝剤の存在下では、溶液のpHは7.5以下となるが、3.0より低くないことが好ましい。好適な酸性製剤は、好ましくは約25mMの、クエン酸を含んでなる。この緩衝剤には、賦形剤および増量剤としてグリシン(Gly)を添加することが好ましい。Glyの別の利点は、それがヒトへの静脈内注入または注射に適する認可された賦形剤であるということである。
【0038】
他のアミノ酸または化合物をGlyの代わりに使用することができる。望ましい酸またはその組合せの例は、クエン酸+酢酸、酢酸とトリス(Tris)、などである。最終目標は、ひとたびペプチドが凍結乾燥形態となったら、そのpHを低く保つことである。凍結乾燥粉末はその後、水を用いて再調製される。
【0039】
本発明は、凍結乾燥された組成物のほかに、本明細書に記載のペプチド(好ましくはキャッピングされたもの)を含有する安定化された液体の医薬組成物を包含するが、通常、該ペプチドの治療活性成分としての有効性は、二量体化もしくはより高次のオリゴマー化、凝集などの結果として、液体製剤として貯蔵している間に低下してしまう。安定化された液体医薬組成物は貯蔵中の凝集物の形成を減少させるのに十分な量のアミノ酸基剤を含み、かかるアミノ酸基剤は1種のアミノ酸またはアミノ酸類の組合せであるが、所与のアミノ酸がその遊離形態またはその塩形態のいずれかで存在する。本組成物は液体組成物のpHをペプチドの安定性のために許容される範囲内に維持する緩衝剤を含むと理解されるが、その場合、緩衝剤は実質的に塩形態フリーの酸、塩形態の酸、または酸とその塩形態との混合物である。アミノ酸基剤は液体の医薬組成物を貯蔵している間の凝集物形成に対してペプチドを安定化するのに役立ち、一方酸緩衝剤の使用(そのいずれの形態でも)はほぼ等張性の浸透圧を有する液体組成物をもたらす。液体医薬組成物はペプチドの安定性をさらに高めるために、他の安定剤(特にメチオニン、ポリソルベート80のような非イオン界面活性剤、およびEDTA)を追加的に添加してもよい。こうした液体の医薬組成物は安定化されているといえる。というのは、アミノ酸基剤と組み合わせて、実質的に塩形態フリーの酸、塩形態の酸、または酸とその塩形態の混合物を添加することが、これら2成分の組合せを用いないで製剤化した液体組成物と比べて、貯蔵安定性の向上をもたらすからである。液体医薬組成物中のペプチドの安定性を高めるための(そしてまた、そのような組成物の貯蔵安定性を高めるための)方法は、貯蔵中のポリペプチドの凝集物形成を減少させるのに十分な量のアミノ酸基剤と、実質的に塩形態フリーの酸、塩形態の酸、または酸とその塩形態の混合物である緩衝剤とを、液体組成物に添加することを含んでなる。
【0040】
Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩(Ternanskyら、前掲を参照)は有機酸と無機酸のいずれからも形成することができる。代表的な有機酸には、一般的にカルボン酸およびスルホン酸が含まれ、例えば、酢酸、プロピオン酸、へキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタン-ジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、シュウ酸、乳酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、ショウノウスルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]-オクタ-2-エン-l-カルボン酸、グルコヘプトン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、t-ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトン酸、サリチル酸、ステアリン酸、およびムコン酸が挙げられる。当業者には他の有機酸も知られている。いくつかの実施形態では、Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩がメタンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、(+)ショウノウスルホン酸、マンデル酸、サリチル酸、コハク酸、またはこれらの組合せから形成される。
【0041】
代表的な無機酸としては、フッ化水素酸、過塩素酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、ヨウ化水素酸、塩素酸、チオシアン酸、次亜リン酸、亜硝酸、シアン酸、クロム酸、亜硫酸、およびアジ化水素酸が挙げられる。他の無機酸も当業者には公知である。いくつかの実施形態では、Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩が臭化水素酸、硝酸、塩酸、リン酸、またはこれらの組合せから形成される。他の実施形態では、Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩が塩酸から形成される。
【0042】
一般的に、Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩は当業者に公知のどのような慣用方法で調製してもよい。こうした方法には、Ac-PHSCN-NH2の溶液をガス状の酸で飽和させること、酸の溶液をAc-PHSCN-NH2の溶液に添加することなどが含まれる。いくつかの実施形態では、蒸留水に溶解したAc-PHSCN-NH2の溶液に1当量よりやや多い(例えば、1.05当量の)酸を添加することにより、Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩を調製する。酸付加塩は典型的には水性混合物から固体として単離される。
【0043】
Ac-PHSCN-NH2の酸付加塩は一般に、固相でも溶液相でも遊離の塩基よりかなり安定している。酸付加塩はシステインが介在するAc-PHSCN-NH2の酸化的二量体化を防止すると考えられている。Ac-PHSCN-NH2の分解を防止する酸付加塩は、例えば、メタンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、硫酸、(+)ショウノウスルホン酸、マンデル酸、サリチル酸、コハク酸、臭化水素酸、塩酸、硝酸、およびリン酸から形成される。
【0044】
本発明の製剤は1種以上の還元剤を含むことが好ましく、例えば、低濃度の(好ましくは、約10mMを超えない)ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、グルタチオン(GSH)、または他のCys含有還元剤を含む。金属結合性化合物(EDTA、EGTA)のような、生体適合性の他の非チオール含有酸化防止剤も使用することができる。
【0045】
本発明の別の実施形態は、非経口注射後のペプチドの半減期を増大させる製剤に向けられる。これらの例としては、シクロデキストリン、クレモホール(cremaphor)、またはリポソーム製剤によるAc-PHSCN-NH2の製剤化がある。
【0046】
「シクロデキストリン」とは、6個以上のα-D-グルコピラノース単位がアミロースのようにα結合により1,4位置で連結されている環状分子をさす。β-シクロデキストリンまたはシクロヘプタアミロースは7個のα-D-グルコピラノース単位を含む。本明細書中で用いる「シクロデキストリン」という用語には、ヒドロキシプロピルおよびスルホブチルエーテルシクロデキストリンといったシクロデキストリンの誘導体も含まれる。このような誘導体は例えば米国特許第4,727,064号および同第5,376,645号に記載されている。1つの好ましいシクロデキストリンは、フーリエ変換赤外分光法で測定して約4.1〜5.1の置換度を有するヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HβCD)である。この種のシクロデキストリンはCerestar社(Hammond, Ind., USA)からCavitron 82003TMという名称で入手可能である。
【0047】
ある好ましい実施形態では、Ac-PHSCN-NH2またはその誘導体がシクロデキストリン含有水溶液中で製剤化される。別の実施形態では、本発明のペプチドがシクロデキストリンを含む凍結乾燥粉末として、またはシクロデキストリンを含む無菌粉末として製剤化される。好ましくは、シクロデキストリンはHβCDまたはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンであり、さらに好ましくは、シクロデキストリンはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである。注射液では、一般的に、シクロデキストリンが製剤の約1〜25%(w/w)、好ましくは約2〜10%、より好ましくは約4〜6%を占めるだろう。さらに、シクロデキストリンとペプチドの重量比は約1:1から約10:1までとする。
【0048】
本発明の別の実施形態では、Ac-PHSCN-NH2またはその誘導体が、ペプチドを経口的または鼻腔内的に利用可能にするように製剤化される。
【0049】
本製剤中の他の有用な成分としてマンニトールのようなポリオールが含まれるが、これは安定剤として作用し、さらに混合粉剤からケーキを形成するのに役立つ。好ましくは、ポリオールは少なくとも3個のヒドロキシル基を有するものであり、また、2種以上のポリオール類の混合物であってもよい。
【0050】
in vivo投与のために用いられる製剤は無菌でなければならない。これは、凍結乾燥および用時調製の前または後に、滅菌ろ過膜を通してろ過することで容易に達成される。これとは別に、混合物全体の無菌性は、ペプチドを添加する前の諸成分を、例えば約120℃で約30分間、オートクレーブ滅菌することにより達成される。
【0051】
ペプチド、凍結保護剤および他の任意成分を一緒に混合した後で製剤を凍結乾燥するが、その目的のために多くの様々な凍結乾燥器を利用することができる。例えば、Hull50TM (Hull, USA)またはGT20TM (Leybold-Heraeus, ドイツ)凍結乾燥器などがある。凍結乾燥は、製剤を凍結した後、一次乾燥に適する温度で凍結内容物から氷を昇華させることにより行う。この条件下で、生成物の温度を製剤の共融点または崩壊温度より低くする。典型的には、一次乾燥の棚温度は適当な圧力(典型的には、約50〜250mTorrの範囲)で約-30〜25℃(ただし、一次乾燥の間、生成物は凍結されたままである)であるだろう。乾燥に要する時間は、主に製剤それ自体、試料を保持する容器(例えば、ガラスバイアル)のサイズとタイプ、液体の容量によって決まり、数時間から数日間(例えば、40〜60時間)の範囲でありうる。二次乾燥段階は、主に容器のタイプとサイズ、ペプチドの性質に応じて、約0〜40℃で実施することができる。例えば、凍結乾燥の全水除去段階の間の棚温度は約15〜30℃(例えば、約20℃)でありうる。二次乾燥に必要とされる時間と圧力は、適当な凍結乾燥ケーキをもたらす時間および圧力であり、例えば、温度や他のパラメーターに依存する。二次乾燥時間は生成物中の所望の残留水分によって決まり、典型的には、少なくとも約5時間(例えば、10〜15時間)かかるだろう。圧力は一次乾燥段階で使用したものと同じであってよい。凍結乾燥の諸条件は製剤やバイアルの大きさに応じて変えることができる。
【0052】
いくつかの場合には、ペプチド製剤の凍結乾燥を、ペプチドの用時調製を行おうとする容器内で実施して、ペプチドの移送工程を避けることが望ましい。この場合の容器は例えば3、5、10、20、50または100 ccのバイアルであってよい。
【0053】
一般的な提案として、凍結乾燥は水分量が約5%以下、好ましくは約3%以下の凍結乾燥製剤をもたらすだろう。
【0054】
凍結乾燥製剤の用時調製
所望の段階で、典型的にはペプチドを患者に投与する時に、凍結乾燥製剤を希釈剤で用時調製して、用時調製済みの製剤中のペプチド濃度が少なくとも10 mg/mL、例えば約10 mg/mL〜約1000 mg/mL、さらに好ましくは約50 mg/mL〜約500 mg/mL、最も好ましくは約100 mg/mL〜約500 mg/mLとなるようにする。用時調製済み製剤中のこのような高いペプチド濃度は、用時調製済み製剤を皮下送達しようとする際に特に有用であると考えられる。しかし、静脈内(i.v.)投与などの他の投与経路の場合には、用時調製済み製剤中のより低いペプチド濃度(例えば、用時調製済み製剤中の約1〜100 mg/mL、または約5〜50 mg/mLのペプチド)が望ましいかもしれない。特定の実施形態においては、用時調製済み製剤中のペプチド濃度が凍結乾燥前の製剤中の該濃度より著しく高くなる。例えば、用時調製済み製剤中のペプチド濃度は凍結乾燥前の製剤中の該濃度の約2〜40倍、好ましくは3〜10倍、最も好ましくは3〜6倍(例えば、少なくとも3倍または少なくとも4倍)でありうる。
【0055】
用時調製は完全な水和を確実に達成するために約25℃の温度で行われるが、所望により他の温度で行ってもよい。用時調製に要する時間は、例えば、希釈剤の種類、賦形剤の量、およびペプチドに応じて変わるだろう。代表的な希釈剤としては、滅菌水、静菌性の注射用水(BWFI)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、PBS)、滅菌生理食塩水、リンゲル液、またはデキストロース液が挙げられる。希釈剤は場合により保存剤を含んでいてもよい。代表的な保存剤については先に記載したが、ベンジルアルコールやフェノールアルコールのような芳香族アルコールが好ましい保存剤である。保存剤の使用量は、様々な保存剤濃度をペプチドとの適合性および保存剤効力試験について評価することで決定される。例えば、保存剤が芳香族アルコール(例えば、ベンジルアルコール)である場合、それは約0.1〜2.0%、好ましくは約0.5〜1.5%、最も好ましくは約1.0〜1.2%の量で存在しうる。
【0056】
好ましくは、用時調製済み製剤はバイアルあたりの粒子(サイズ10μm)数が6000より少ない。
【0057】
製品
本発明の別の実施形態では、本発明の凍結乾燥製剤を含み、かつその用時調製および/または使用についての説明書を伴う製品が提供される。この製品は容器に入っている。適当な容器には、例えば、ビン、バイアル(例:二室型バイアル)、注射器(例:二室型注射器)、および試験管が含まれる。容器はガラスやプラスチックなどの様々な材料から作ることができる。容器には凍結乾燥製剤が収容され、容器に貼られたまたは容器に付随するラベルが用時調製および/または使用についての説明を示しうる。ラベルには、例えば、凍結乾燥製剤を上記のようなペプチド濃度へと用時調製することが示される。ラベルはさらに、製剤が皮下投与に有用であるか、または皮下投与を意図したものであることを示しうる。製剤を入れる容器はマルチユース型容器としてもよく、これは用時調製済み製剤の繰返し投与(例えば、2〜6回の投与)を可能にする。この製品は適当な希釈剤(例えば、BWFI)を入れた第2容器をさらに含むことができる。希釈剤と凍結乾燥製剤を混合する際には、用時調製済み製剤中の最終タンパク質濃度が一般的に少なくとも50 mg/mLとなるようにする。この製品には、他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、注射針、注射器、使用説明書を含むパッケージ内印刷物を含めて、商業上および使用者の見地から望ましい他の材料を加えてもよい。
【0058】
治療用キットは、Ac-PHSCN-NH2医薬組成物の製剤を、他の成分(例えば、他の化合物またはこれら他の化合物の医薬組成物)を伴ってまたは伴わずに、含む単一の容器を有するか、あるいは各成分のための別個の容器を有する。好ましくは、本発明の治療用キットは、第2の化合物(例えば、化学療法剤、天然産物、ホルモンもしくは拮抗薬、抗血管新生薬もしくは阻害剤、アポトーシス誘導剤もしくはキレート化剤)またはその医薬組成物と共投与するために一緒にパッケージされた、本明細書に記載のAc-PHSCN-NH2もしくはその酸付加塩の製剤を包含する。キットの諸成分は前もって組み合わされていてもよいし、各成分が患者に投与する前に別々の異なる容器に入れられていてもよい。キットの成分は1以上の溶液、好ましくは水溶液、さらに好ましくは無菌の水溶液として提供しうる。また、キットの成分は固体として提供することもでき、この固体は適当な溶剤(好ましくは、別個の容器で提供される)を添加することで液体に変換される。
【0059】
治療用キットの容器はバイアル、試験管、フラスコ、ビン、注射器、または固体や液体を入れる他のいずれかの手段でありうる。通常、2種より多い成分が存在する場合には、キットは別々の投薬を可能にする第2のバイアルまたは他の容器を含む。キットはまた、製薬上許容される液体のための別の容器を含んでいてもよい。好ましくは、治療用キットは、該キットの成分である本発明の薬剤の投与を可能にする器具(例えば、1以上の注射針、注射器、点眼器、ピペットなど)を含むだろう。
【0060】
本発明の製剤は、経口(腸内)、皮下、筋肉内、静脈内、経皮といった許容される経路でペプチドを投与するのに適したものである。投与をインフュージョンポンプで行ってもよい。Ternanskyら(前掲)により開示されたあらゆる投与様式および経路が本製剤に有用であることが理解され、これらの全てをそのまま参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0061】
本発明はまた、吸入による投与に適したペプチドの製剤に向けられる。現在吸入により投与される多くの薬剤は、主に、吸い込めるサイズの液体または固体のエーロゾル粒子として投与される。生物由来の治療薬の場合には、これはある問題を提起しうる。というのは、これらの医薬品の多くが長期間にわたって水性環境では不安定であり、また、乾燥粉末として提供されるときに高剪断粉砕または他の粉砕法で微粉化されると急速に変性されるからである。その上、これらの医薬品のいくつかは、吸入エーロゾルとして投与された後で肺環境からすばやく抽出されるので、肺の中に十分長くは残存しない。また、装置や容器の表面との医薬品の反応性の結果として、またはエーロゾル適用(特に高剪断で、エネルギー集約型の噴霧システムでの適用)の間に、不活性化されることにより薬剤が相当に失われる可能性がある (Mumenthaler, M,ら, Pharm. Res., 11:12-20 (1994))。こうした不安定性の問題を克服するために、多くの薬剤および賦形剤系はポリ(ラクチド-コ-グリコリド)のような生分解性の担体を含有するが、これらは生物学的治療用タンパク質およびペプチドのために開発されたものである (Liu, R.ら, Biotechnol. Bioeng., 57:177-184 (1991))。大部分の治療用ペプチドは、浸透促進剤を用いて製剤化したときでさえ、生体膜から不十分にしか吸収されない。多くの治療法では、効力に必要とされる最小限度の全身濃度を達成するために薬剤の用量を数桁増加させている。その他の場合には、吸収バリアー経由の透過性を改善するために外来の吸収促進剤を用いて薬物が製剤化されているが、これはしばしば毒性の結果をもたらす。生体への薬物投与の様式も経口および非経口から経皮、直腸および肺投与経路(すなわち、鼻腔や肺)まで次第に広がってきている。こうした薬物送達法により成功するものもあれば、不成功のものもあり、それは、様々な疾患、例えば感染症、悪性疾患、心血管疾患、内分泌疾患、神経疾患、各種の免疫無防備疾患を治療するために使用しなければならない、比較的新しい複雑な分子の受け入れが不足しているためである。
【0062】
したがって、本発明は、ペプチド(薬物)を含む流体噴射製剤システムの存在を利用するが、ペプチドは安定しており、律速性担体により保護され、容易に製造され、患者の肺に流体拡散粒子として投与したとき治療上有効である。上で述べたように、本発明は、口または鼻から吸入するためのペプチド製剤を包含する。そのような製剤としては、限定するものではないが、調整放出エーロゾル粒子、および多糖ベシクル(所定の医薬(ここではペプチド)と会合して、該医薬との構築物の一部を形成したり、または該医薬を閉じ込めて、その徐放をもたらす)を含む医療上の呼吸用エーロゾル粒子が挙げられる(米国特許第6,551,578号に開示されており、その全体を参照により組み入れる)。この方法では、口や鼻からの吸入による投与に適するようにペプチドが製剤化される。流体、例えば空気、炭化水素ガス、クロロフルオロカーボン(CFC)噴射剤、またはテトラフルオロエタン(HFA-134a)やヘプタフルオロプロパン(HFA-227)のような非CFC噴射剤中のペプチドの安定したコロイド分散体が考えられる。
【0063】
肺への吸入を目的とした本発明の製剤では、ペプチドが天然の多糖ポリマー(ペプチドが結合することになっている)と会合される。これに関連して「会合」とは、ペプチドが多糖ポリマーと共にマトリックスとしてまたはポリマー構築物の一部として存在するか、多糖ポリマー中にまたは多糖ポリマー構築物粒子中にミクロスフェアとしてカプセル化されるか、あるいはそのような粒子の表面上に存在して、それによりペプチドの治療に有効な量または割合(例えば、95%以上)が微粒子状であることを意味する。典型的には、構築物粒子は、該粒子が治療すべき患者の気道および/または肺に吸入されるように、約10μmより小さい、好ましくは約5μmより小さい粒径を有する。
【0064】
好適なポリマー構築物は、所定のペプチドをその中に組み込んでいて、つまりカプセル化していて、そこから患者の身体の作用部位または適用部位への(例えば、患者の肺から周囲の局所環境への)該医薬の制御放出または調整放出をもたらすものである。
【0065】
適当な多糖は、アルギン酸塩(この場合のカチオンは例えばLi+、Na+、K+、Ca++、NH3+、NH4+などである)の群から選択されるポリマーであり、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム-カルシウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム-アンモニウム、またはアルギン酸カルシウム-アンモニウムである。好適なアルギン酸塩調整放出剤はアルギン酸アンモニウム-カルシウムである。これらの材料は一般的に、制御放出用の注入可能なインプラントおよびミクロスフェア製剤において使用される。アルギン酸アンモニウム-カルシウムの商業形態は、International Specialty Products (Wayne, NJ)から製造販売されているKeltoseTMである。本明細書中で用いる「アルギン酸」とは、アルギン酸もしくはその塩のいずれか;または天然の多糖もしくは炭水化物に基づく他のポリマー、例えば、アラビアゴム、ペクチン、ガラクツロン酸、カラヤゴム;ベンジャミンゴム、plantago ovataゴム;カンテン;カラジーナン;セルロース;ゼラチン;または前記ポリマーのいずれかの混合物を意味する。アルギン酸は一般に安全とみなされる医薬用賦形剤であり、種々の十分に実証された医薬系を製造するために使用される(米国特許第6,166,084号; 第6,166,043号; 第6,166,042号; 第6,166,004号; および第6,165,615号)。アルギン酸は多糖鎖を含む天然に存在するポリマーである。これらのポリマーは水を吸収して膨潤し、溶液中でゲル様構造になる性質がある。生じたコア製剤が治療される患者によって吸入されると、患者の体内でゲルが溶解し、溶解制御方式でその薬物荷重量を放出する。かかるポリマー系は、所定の医薬を用いてその場で製剤化すると、構築物またはマトリックスを形成し、それによって該医薬はマトリックスの一部を形成するか、マトリックス内にカプセル化される。このように形成またはカプセル化されると、医薬は体内の作用部位(例えば、肺、気道、耳など)から患者の身体の周囲環境もしくは組織に時間放出または調整される。多糖ポリマー(例えばアルギン酸塩)は得られる制御放出製剤中に、典型的には製剤の全重量に対して約0.000001〜10重量%の量で存在する。
【0066】
治療用ペプチドは本発明のポリマー構築物中に治療に有効な量で存在し、すなわち、ペプチドが経口または鼻吸入による分散エーロゾル剤のようなエーロゾル製剤に組み込まれて、好ましくは1回用量または複数回用量で、その所望の治療効果を生じさせるような量で存在する。
【0067】
持続投与用の他の製剤も考えられ、例えば多重膜または一重膜のリポソームの使用が考えられる。リポソームの製造は当業者によく知られており、リポソームはリン脂質系であっても、非リン脂質系であってもよい。
【0068】
アッセイ
本明細書に記載するAc-PHSCN-NH2またはその塩を含有する本製剤の活性を測定するのに有用なin vitroおよびin vivoアッセイは包括的というよりもむしろ例示的であることを、当業者であれば理解するであろう。これらは、例えばTernanskyら(前掲)、ならびに本願と同一譲受人に譲渡された同時係属中の米国特許出願USSN 10/074,225号および10/661,784号に見出すことができ、これらの全てをそのまま参照により本明細書に組み入れるものとする。好適なアッセイの例を以下で説明する。
【0069】
内皮細胞移動のアッセイ
内皮細胞(EC)移動の場合は、トランスウェルにI型コラーゲン(50μg/mL)をコーティングするために、トランスウェルあたり200μLのコラーゲン溶液を加えて、37℃で一晩インキュベートする。このトランスウェルを24ウェルプレートにアセンブルし、誘引物質(例えばFGF-2)を全量0.8mLの培地で下部チャンバーに加える。単層培養物からトリプシンを用いて剥離させておいた、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のようなECを無血清培地で希釈して約106個/mLの最終濃度とし、この細胞懸濁液0.2mLを各トランスウェルの上部チャンバーに添加する。Ac-PHSCN-NH2の塩を上部チャンバーと下部チャンバーの両方に加えて、加湿雰囲気中37℃で5時間、移動を続けさせる。トランスウェルをプレートから取り外して、ディフ・クイック(DiffQuik:登録商標)を用いて染色する。移動しなかった細胞を綿棒でこすって上部チャンバーから除去し、膜を取り外してスライド上に載せ、高倍率視野(400x)でカウントして、移動した細胞の数を測定する。
【0070】
抗侵入活性の生物学的アッセイ
マトリゲル(Matrigel:登録商標)侵入アッセイ系として知られるアッセイにおいて再構成基底膜(マトリゲル)を通過して侵入する、ECまたは腫瘍細胞(例えば、PC-3ヒト前立腺癌)のような細胞の能力は、当技術分野で詳細に記載されている (Kleinmanら, Biochemistry 1986, 25: 312-318; Parishら, 1992, Int. J. Cancer 52:378-383)。マトリゲルは、IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(例えばパーレカン;bFGFと結合してそれを局在化する)、ビトロネクチン、ならびにトランスフォーミング増殖因子-β(TGFβ)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、およびプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1型(PAI-1)として知られるセルピンを含む再構成基底膜である (Chambersら, Canc. Res. 1995, 55:1578-1585)。細胞外レセプターまたは酵素を標的とする化合物に関してこのアッセイで得られた結果は、これらの化合物のin vivo効力を予測するものである、ことが当技術分野では認められている (Rabbaniら, Int. J. Cancer 1995, 63: 840-845)。
【0071】
こうしたアッセイはトランスウェル組織培養インサートを使用する。侵入性細胞は、マトリゲルとポリカーボネート膜の上面を横切って通過し、該膜の底面に付着することができる細胞と定義される。ポリカーボネート膜(孔径8.0μm)を含むトランスウェル(Costar)に、無菌PBSで75μg/mLの最終濃度に希釈しておいたマトリゲル(Collaborative Research)をコーティングし(インサートあたり60μLの希釈マトリゲル)、24ウェルプレートのウェルに入れる。この膜を生物学的安全キャビネット内で一晩乾燥させ、その後100μLの抗生物質含有DMEMを添加して振とう装置上で1時間再水和させる。各インサートから吸引によりDMEMを除き、0.8mLのDMEM/10%FBS/抗生物質を、それがトランスウェルの外側(「下部チャンバー」)を囲むように24ウェルプレートの各ウェルに添加する。新鮮なDMEM/抗生物質(100μL)、ヒトGlu-プラスミノーゲン(5μg/mL)、および試験すべき阻害剤をトランスウェルの上方内側(「上部チャンバー」)に加える。試験しようとする細胞をトリプシン処理し、DMEM/抗生物質中に再懸濁してから、トランスウェルの上部チャンバーに800,000個/mLの最終濃度で加える。上部チャンバーの最終容量を200μLに調整する。次に、アセンブルしたプレートを加湿5%CO2雰囲気で72時間インキュベートする。インキュベーション後、細胞を固定してディフ・クイック(ギームザ染色)により染色する。その後、綿棒で上部チャンバーをこすって、マトリゲルと、膜から侵入しなかった細胞を取り除く。膜をトランスウェルから、例えばX-acto(登録商標)ブレードを使って取り外し、パーマウント(Permount:登録商標)とカバーグラスを用いてスライド上に載せ、高倍率視野(400x)でカウントする。カウントした5〜10視野から侵入細胞数の平均を求め、ペプチド濃度の関数としてプロットする。
【0072】
抗血管新生活性のチューブ形成アッセイ
内皮細胞、例えば調製可能であるかまたは商業的に入手可能であるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)またはヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)を2×105個/mLの濃度でフィブリノーゲン(リン酸緩衝溶液(PBS)中5mg/mL)と1:1(v/v)の比にて混合する。トロンビンを加え(最終濃度5ユニット/mL)、この混合物をすぐに24ウェルプレート(0.5mL/ウェル)に移す。フィブリンゲルを形成させ、その後VEGFとbFGF(それぞれ最終濃度5ng/mL)を試験化合物と共にウェルに添加する。細胞を5%CO2で37℃にて4日間インキュベートし、この時点で各ウェル中の細胞をカウントする。そして細胞を丸い形、分岐のない細長い形、1本の分岐がある細長い形、または2本以上の分岐がある細長い形のいずれかとして分類する。結果は各化合物濃度につき5つの別個のウェルの平均として表される。一般的には、血管新生阻害剤の存在下で、細胞は丸い形のままであるか、または未分化のチューブ(例えば、0または1本の分岐)を形成する。このアッセイは、in vivoでの血管新生(または抗血管新生)効力を予測するものであることが当技術分野で認められている (Minら, Cancer Res. 1996, 56: 2428-2433)。
【0073】
別のアッセイでは、内皮細胞のチューブ形成が、内皮細胞をマトリゲル上で培養するときに観察される (Schnaperら, J. Cell Physiol. 1995, 165: 107-118)。マトリゲルをコーティングした24ウェルプレートに内皮細胞(104個/ウェル)を移し、48時間後にチューブ形成を調べる。阻害剤は、それを内皮細胞と同時に加えるか、またはその後さまざまな時点で加えて試験する。チューブ形成は、(a) bFGFやVEGFのような血管新生増殖因子、(b) PMAのような分化促進剤、または(c) これらの組合せを添加することによっても、刺激することができる。
【0074】
理論によって拘束されることを望まないが、このアッセイは、内皮細胞に特定のタイプの基底膜(すなわち、移動して分化する内皮細胞が最初に出会うと予想されるマトリックスの層)を提示することによって血管新生をモデル化している。結合された増殖因子に加えて、マトリゲル(in situでの基底膜)中に存在するマトリックス成分またはそのタンパク質分解産物も内皮細胞のチューブ形成に刺激的であり、これにより、このモデルは以前に記載されたフィブリンゲル血管新生モデルを補完するものとなっている (Bloodら, Biochim. Biophys. Acta 1990, 1032:89-118; Odedratら, Pharmac. Ther. 1991, 49:111-124)。
【0075】
増殖抑制のアッセイ
ECの増殖を抑制する本発明の化合物の能力は96ウェルフォーマットで調べることができる。I型コラーゲン(ゼラチン)を用いてプレートのウェルをコーティングする(PBS中0.1〜1mg/mL、0.1mL/ウェルを室温で30分)。プレートを洗浄(3x w/PBS)した後、ウェルあたり3〜6,000個の細胞を播種し、内皮増殖培地(EGM; Clonetics)または0.1〜2%のFBSを含むM199培地で4時間(37℃/5% CO2)培養して付着させる。4時間経過後培地と非付着細胞をすべて取り除き、bFGF (1〜10ng/mL)またはVEGF (1〜10ng/mL)を含む新しい培地を各ウェルに添加する。試験すべき化合物を最後に加えて、プレートを24〜48時間(37℃/5% CO2)インキュベートする。MTS (Promega)を各ウェルに添加して1〜4時間インキュベートする。その後、490nmでの吸光度(細胞数に比例する)を測定して、対照ウェルと試験化合物含有ウェルとの増殖の差を決定する。
【0076】
同様のアッセイ系を、付着性の培養腫瘍細胞を用いて設定することができる。しかし、このフォーマットではコラーゲンを除外してもよい。腫瘍細胞(例えば、3,000〜10,000個/ウェル)を播種し、一晩培養して付着させる。次に、無血清培地をウェルに加え、細胞を24時間にわたり同調培養する。10% FBS含有培地を各ウェルに添加して増殖を刺激する。一部のウェルに試験化合物を添加する。24時間後、MTSをプレートに加え、アッセイを展開させて上記のように読み取る。
【0077】
カスパーゼ-3活性
ECのアポトーシスを促進する本発明の化合物の能力は、カスパーゼ-3の活性化を測定することにより調べることができる。I型コラーゲン(ゼラチン)を用いてP100プレートをコーティングし、5×105個のECを10% FBS含有EGMに播種する。24時間(37℃/5% CO2)後、培地を2% FBS、10ng/ml bFGF、および所望の試験化合物を含有するEGMと取り替える。6時間後細胞を回収し、1%トリトン中で細胞溶解液を調製し、EnzChek(登録商標)カスパーゼ-3アッセイキット#1 (Molecular Probes)をメーカーの使用説明書に従って用いてアッセイする。
【0078】
角膜血管新生モデル
用いるプロトコルは、Volpertら, J. Clin. Invest. 1996, 98:671-679に記載されるものと本質的に同じである。簡単に説明すると、雌Fischerラット(120〜14Og)に麻酔をかけ、ヒドロン(Hydron:登録商標)、bFGF (15OnM)および試験化合物を含むペレット(5μl)を、角膜の縁から1.0〜1.5mmのところに作った小さい切開に埋植する。埋植の5日後と7日後に新血管形成を評価する。7日目に、動物に麻酔をかけて、血管を染色するためにコロイド状炭素のような色素を注ぎ込む。その後動物を安楽死させ、角膜をホルマリンで固定し、角膜を平らにして写真を撮り、新血管形成の程度を評価する。新血管は、総血管面積もしくは長さを画像化するか、または単に血管の数をカウントすることにより、数値化することができる。
【0079】
マトリゲルプラグアッセイ
このアッセイは、本質的にPassanitiら, 1992, Lab Invest. 67:519-528に記載されるとおりに行う。氷冷したマトリゲル(例えば、500μL) (Collaborative Biomedical Products, Inc., Bedford, MA)をヘパリン(例えば、50μg/ml)、FGF-2 (例えば、400ng/ml)、および試験化合物と混合する。いくつかのアッセイでは、bFGFを血管新生刺激物としての腫瘍細胞と置き換える。このマトリゲル混合物を4〜8週齢の無胸腺ヌードマウスの腹側正中腺付近に皮下注入するが、マウスあたり3箇所に注入するのが好ましい。注入されたマトリゲルは触知可能な固体ゲルを形成する。注入箇所は、各動物が陽性対照プラグ(例えば、FGF-2+ヘパリン)、陰性対照プラグ(例えば、バッファー+ヘパリン)、および血管新生に対する効果を試験される化合物を含むプラグ(例えば、FGF-2+ヘパリン+化合物)を受け取るように選択される。全ての処置を3回繰り返して行うことが好ましい。注入後7日目ごろに、または血管新生を観察するのに最適な別の日にちに、頸部脱臼により動物を犠牲にする。腹側正中腺に沿ってマウスの皮膚を剥がし、マトリゲルプラグを回収し、直ちに高解像度でスキャンする。次にプラグを水中で分散させ、37℃で一晩インキュベートする。ヘモグロビン(Hb)レベルを、Drabkin's溶液(例えば、Sigmaから入手)をメーカーの使用説明書に従って用いて測定する。プラグ中のHbの量は、それがサンプルに含まれる血液の量を反映しているので、血管新生の間接的な尺度となる。加えて、またはこれとは別に、動物を犠牲にする前に、発蛍光団をコンジュゲートさせた高分子量デキストランを含むバッファー(好ましくはPBS)を動物に注入してもよい。蛍光測光的に測定された、分散プラグ中の蛍光の量もまた、プラグでの血管新生の尺度として役に立つ。mAb 抗CD31 (CD31は「血小板-内皮細胞接着分子つまりPECAM」である)による染色も、プラグにおける新血管の形成および微小血管の密度を確認するために使用することができる。
【0080】
ニワトリ胚漿尿膜(CAM)血管新生アッセイ
このアッセイは、本質的にNguyenら, Microvascular Res. 1994, 47:31-40に記載されるとおりに行う。血管新生因子(bFGF)または腫瘍細胞のいずれかと阻害剤を含むメッシュを、8日齢のニワトリ胚のCAM上に置き、サンプルの埋植後3〜9日間CAMを観察する。血管を含むメッシュ中のスクエアのパーセントを求めることにより血管新生を数値化する。
【0081】
腫瘍細胞を含むマトリゲルプラグアッセイを用いる血管新生阻害および抗腫瘍効果のin vivo評価
このアッセイでは、腫瘍細胞、例えば1〜5×106個の3LL Lewis肺癌またはラット前立腺細胞株MatLyLuをマトリゲルと混合し、その後上記のセクションBに記載されるプロトコルに従ってマウスの側腹部に注入する。腫瘍細胞の塊および力強い血管新生応答は約5〜7日後にプラグにおいて観察され、プラグに化合物を含めることによって実際の腫瘍環境での化合物の抗腫瘍および抗血管新生作用を評価することができる。その後、腫瘍の重さ、Hbレベル、または蛍光レベル(犠牲にする前に注入されたデキストラン-発蛍光団コンジュゲートの蛍光レベル)の測定を行う。Hbまたは蛍光を測定するためには、最初に組織ホモジナイザーを使ってプラグをホモジナイズする。
【0082】
皮下(s.c.)腫瘍成長の異種移植片モデル
ヌードマウスにMDA-MB-231細胞(ヒト乳癌)とマトリゲル(0.2mL中に106個の細胞)を右わき腹に皮下接種する。腫瘍を200mm3に成長させてから、試験組成物による処置を開始する(l00μg/動物/日を毎日腹腔内投与する)。腫瘍の体積を1日おきに測定し、2週間の処置後に動物を犠牲にする。腫瘍を切除し、重さを量り、パラフィン包埋する。腫瘍の組織学的切片をH & E、抗CD31、Ki-67、TUNEL、およびCD68染色で分析する。
【0083】
転移の異種移植片モデル
本発明の化合物はまた、実験的転移モデルを用いて後期転移の阻止についても試験される (Crowleyら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993, 90 5021-5025)。後期転移は腫瘍細胞の付着と管外遊出、局所浸潤、播種、増殖および血管新生のステップを含む。ヒト前立腺癌細胞(PC-3)をヌードマウスに接種するが、この細胞はレポーター遺伝子、好ましくは緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子でトランスフェクトされる(しかし、代わりの遺伝子として、酵素クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼまたはLacZをコードする遺伝子を用いてもよい)。このアプローチは、これらのマーカーのいずれかを利用して(GFPの蛍光検出または酵素活性の組織化学的比色検出)、これらの細胞の運命を追跡することを可能にする。細胞を好ましくは静脈内に注入し、約14日後に転移を特に肺で(しかし、局所リンパ節、大腿骨および脳でも)確認する。これはヒト前立腺癌で自然に発生する転移の臓器指向性を模倣している。例えば、GFPを発現するPC-3細胞(マウスあたり106個)をヌード(nu/nu)マウスの尾静脈に注入する。動物を試験組成物(l00μg/動物/日を毎日腹腔内投与する)で処置する。転移性の単細胞と病巣は、蛍光顕微鏡または光学顕微鏡による組織化学により、あるいは組織を破砕して検出可能標識の定量的比色アッセイを行うことにより、可視化して数値化する。
【0084】
PHSCNおよび機能性誘導体によるin vivoでの自然発生転移の抑制
ラット同系乳癌系はMat BIIIラット乳癌細胞を利用する (Xingら, Int. J. Cancer 1996, 67:423-429)。腫瘍細胞(例えば、0.1mLのPBS中に約106個を懸濁したもの)を雌Fisherラットの乳房の脂肪パッドに接種する。接種時に、試験化合物を分配するために14日用Alza浸透圧ミニポンプを腹腔内に埋め込む。化合物をPBSに溶解し(例えば、200mMストック)、滅菌濾過し、約4mg/kg/日の放出速度を達成するためにミニポンプに入れる。対照動物にはビヒクル(PBS)のみまたはビヒクル対照ペプチドをミニポンプで投与する。14日目ごろに動物を犠牲にする。本発明の化合物を用いて処置したラットでは、一次腫瘍の大きさの顕著な縮小と、脾臓、肺、肝臓、腎臓およびリンパ節への転移数(個別の病巣として数えた)の有意な減少を観察することができる。組織学的および免疫組織化学的分析は、処置動物において腫瘍の壊死およびアポトーシスの徴候が増加したことを示す。新血管形成が存在しない腫瘍領域には大きな壊死部が見られる。131I(ペプチド分子あたり1または2個のI原子)がコンジュゲートされているヒトまたはウサギPHSCNとそれらの誘導体は、有効な放射性治療薬であり、コンジュゲートされていないポリペプチドよりも効力が少なくとも2倍高いことがわかっている。これに対して、対照ペプチドによる処置は腫瘍の大きさまたは転移に有意な変化を起こすことができない。
【0085】
3LL Lewis肺癌:一次腫瘍の成長
この腫瘍株はC57BL/6マウスに肺の癌腫として自然に発生したものである (Malaveら, J. Natl. Canc. Inst. 1979, 62:83-88)。これを皮下接種によりC57BL/6マウスで継代して増やし、半同種C57BL/6 x DBA/2 F1マウスまたは同種C3Hマウスにおいて試験する。典型的には、皮下(sc)移植用に1群6匹の動物を使用し、または筋肉内(im)移植用に10匹の動物を使用する。腫瘍は2〜4mmの断片としてsc移植してもよいし、あるいは約0.5〜2×106個の懸濁細胞の接種物としてimまたはsc移植してもよい。治療は移植の24時間後に開始するか、または腫瘍が特定の大きさ(通常は400mg程度)へと触知可能になってから開始する。試験化合物を11日間毎日腹腔内投与する。
【0086】
続いて、動物の体重を測定し、触診し、腫瘍の大きさを測定する。im接種後12日目の未処置対照レシピエントにおける腫瘍の重さは一般的に500〜2500mgである。典型的な生存期間の中央値は18〜28日である。陽性対照化合物として、例えば1日あたり20mg/kg/注射のシクロホスファミドを1日目から11日目まで使用する。測定すべき結果には、平均の動物体重、腫瘍の大きさ、生存期間を含める。治療活性を確認する場合には、試験組成物を2つの複数用量アッセイで試験すべきである。
【0087】
3LL Lewis肺癌:一次腫瘍の成長および転移モデル
このアッセイは当技術分野でよく知られている (Gorelikら, J. Natl. Canc. Inst. 1980, 65:1257-1264; Gorelikら, Rec. Results Canc. Res. 1980, 75:20-28; Isakovら, Invasion Metas. 2:12-32 (1982); Talmadgeら, J. Natl Canc. Inst. 1982, 69:975-980; Hilgardら, Br. J. Cancer 1977, 35:78-86)。試験マウスは2〜3ヶ月齢の雄C57BL/6マウスである。sc、im、またはフットパッド内移植後、この腫瘍は、優先的に肺に転移を起こす。いくつかの腫瘍株の場合は、一次腫瘍が抗転移効果を発揮するので、転移期の研究を行う前にそれを最初に切除しなければならない (米国特許第5,639,725号も参照)。
【0088】
トリプシン処理により固形腫瘍から調製した単細胞懸濁液を洗浄して、PBSに懸濁させる。このようにして調製された3LL細胞の生存率は一般に約95〜99%である。生存腫瘍細胞(3×104〜5×106個)を50μlのPBS中に懸濁したものを、C57BL/6マウスの背側領域または1つの後方フットパッドのいずれかに、sc注射する。106個の細胞を背側にsc注射した後3〜4日で目に見える腫瘍が現れる。腫瘍が現れた日および確立された腫瘍の直径を2日おきに測定する。1週あたり1〜5回用量のペプチドまたは類似体を投与して処置する。別の実施形態では、ペプチドを浸透圧ミニポンプで送達する。
【0089】
背側腫瘍の切除を必要とする実験では、腫瘍が約1500mm3の大きさに達したとき、マウスを無作為に2群に分ける。すなわち、(1)一次腫瘍を完全に切除する;または(2)偽手術を行って、腫瘍を無傷のまま残しておく。500〜3000mm3の腫瘍は転移の成長を抑制するが、高い生存力で、しかし局所の再成長なしに、安全に切除しうる一次腫瘍の最大サイズは1500mm3である。局所腫瘍の切除後の転移性成長の加速現象が繰り返し観察されている(例えば、米国特許第5,639,725号参照)。こうした観察は癌手術を受ける患者の予後に影響する。21日後、全てのマウスを犠牲にして検死を行う。肺を摘出して重さを量り、Bouin's溶液中で固定し、目に見える転移の数を記録し、同様に転移の直径を記録する。記録された直径に基づいて、各転移の容積を求める。肺あたりの全転移容積を決定するために、目に見える転移の平均数に平均容積を乗じる。
【0090】
また、肺細胞への125IdUrdの取り込みを測定することも可能である (Thakurら, J. Lab. Clin. Med. 1977, 89:217-228)。腫瘍切断の10日後に、25μgのフルオロデオキシウリジンを腫瘍担持マウス(および、使用するならば、腫瘍切除マウス)に腹腔内注射する。30分後、マウスに1μCiの125IdUrd (ヨードデオキシウリジン)を投与する。1日後、肺と脾臓を摘出して重さを量り、γカウンターを使って125IdUrd取り込みの程度を測定する。
【0091】
フットパッドに腫瘍をもつマウスでは、腫瘍が直径8〜10mmほどに達したとき、マウスを無作為に2群に分ける。すなわち、(1)腫瘍のある脚部を膝関節より上で結紮した後に切断する;または(2)非切断腫瘍担持対照としてマウスを無傷のままにしておく。(腫瘍担持マウスの腫瘍フリーの脚部の切断は、麻酔、ストレスまたは手術の影響があり得ることを除けば、その後の転移に既知の影響を及ぼさない。)切断してから10〜14日後にマウスを死滅させる。転移を上記のように評価する。
【0092】
統計:腫瘍担持マウスの肺における転移の発生率および転移の成長を表す数値は正規分布しない。したがって、Mann-WhitneyのU検定のようなノンパラメトリック統計を分析に使用してもよい。
【0093】
治療法におけるPHSCNペプチド、類似体および塩の使用
Ac-PHSCN-NH2塩またはその医薬組成物は、一般に、意図した目的を達成するのに有効な量で使用される。異常な血管形成もしくは異常な血管新生を特徴とする疾患または障害の治療または予防に使用するために、Ac-PHSCN-NH2塩(医薬組成物の形であってもよい)を治療に有効な量で投与または適用する。本明細書に開示した特定の障害または症状の治療に有効でありうるAc-PHSCN-NH2塩の量は、その障害または症状の性質によって変化するが、当技術分野で公知の標準的臨床方法により決定することができる。さらに、最適な用量または用量範囲の確認を助けるために、in vitroまたはin vivoアッセイを利用してもよい。投与されるAc-PHSCN-NH2塩の量は、当然のことながら、とりわけ、治療される被験者、被験者の体重、疾患の重症度、投与方法、および医師の判断に左右されるだろう。例えば、投与量は医薬組成物として1回または複数回の投与により、あるいは制御放出により送達される。投薬は断続的に繰り返しても、単独で行っても他の薬剤と組み合わせてもよく、疾患または障害の効果的な治療に必要とされる期間にわたり継続してもよい。経口投与に適する投与量範囲は、薬物の効力によって変化するが、一般的には体重kgあたり0.001mg〜200mg、好ましくは0.01mg〜50mg、さらに好ましくは0.1〜50mgの本発明の化合物である。用量範囲は当業者に公知の方法で簡単に決定することができる。静脈内投与に適する用量範囲は、体重kgあたり約0.01mg〜約100mgである。鼻腔内投与に適する用量範囲は、一般的に体重kgあたり0.01mg〜50mgまたは0.10mg〜10mgである。座薬は一般に体重kgあたり約0.01mg〜約50mgの本発明の化合物を含み、約0.5〜10重量%の活性成分を含有する。皮内、筋肉内、腹腔内、皮下、硬膜外、舌下、または脳内投与に推奨される投与量は、体重kgあたり約0.001mg〜約200mgの範囲である。有効用量はin vitroまたは動物モデル試験系から誘導される用量反応曲線から外挿することができる。そのような動物モデルおよび系は当技術分野で周知である。
【0094】
特定の実施形態では、投与される用量が体重に基づいておらず、絶対量、例えば1回につき1mg〜1gの範囲である。別の特定の実施形態では、用量が1回につき10〜750mg、例えば1回につき20mg、100mg、または600mgである。特定の実施形態では、用量を1週間に1回から数回(例えば、2、3、4、または7回)投与する。
【0095】
Ac-PHSCN-NH2塩は、ヒトへの使用に先立って、所望の治療または予防活性について上述したように、in vitroおよびin vivoでアッセイすることが好ましい。例えば、in vitroアッセイを行って、Ac-PHSCN-NH2塩またはAc-PHSCN-NH2塩類の組合せの投与が異常な血管新生または血管形成を特徴とする疾患の治療に好適であるかを確認することができる。Ac-PHSCN-NH2塩の安全性および有効性は動物モデル系を用いて実証することができる。好ましくは、本明細書に記載のAc-PHSCN-NH2塩の治療有効量は、実質的な毒性を生じることなく、治療効果を与えるものである。Ac-PHSCN-NH2塩の毒性は標準的な薬学的方法を用いて調べることができ、当業者であれば、容易に確かめられる。疾患または障害の治療において、Ac-PHSCN-NH2塩の「治療係数」(毒性用量と治療用量の比)は高いことが好ましい。本明細書に記載のAc-PHSCN-NH2塩の好適な用量は、好ましくは、有効であるが、毒性の殆どないまたは全くない該薬物の循環濃度範囲をもたらす用量である。
【0096】
以上、本発明について一般的に説明してきたが、本発明は以下の実施例を参照することで一層容易に理解されるであろう。これらの実施例は、例示のために提供され、特に断らないかぎり、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0097】
実施例I
Ac-PHSCN-NH2塩酸塩の調製

【0098】
実施例II
Ac-Pro-His-Ser-Cys-Asn-NH2 TFA塩の調製および精製
Rink Amide AM樹脂(Novabiochem)をDMF(樹脂100mgあたり1mL)中の20%ピペリジンで窒素撹拌下に3分間処理し、この反応混合物を濾過して、DMFで1回洗浄した。この工程をさらに2回繰り返した。樹脂をDMFで3回、ジクロロメタンで3回洗浄した。Fmoc-Asn(trt)-OH (3当量)、HBTU (3当量)、およびHOBt (3当量)をDMF(樹脂100mgあたり1mL)中に溶解して、上記の樹脂に加え、続いてN-メチルモルホリン(NMM) (6当量)を加え、この混合物を1時間撹拌した。この反応混合物を濾過して、樹脂をDMFで3回、ジクロロメタンで3回洗浄した。このカップリング工程を繰り返した。Fmoc脱保護および上記のカップリング工程を、Fmoc-Cys(trt)-OH、Fmoc-Ser(trt)-OHおよびFmoc-His(trt)-OHを用いて順次行って、樹脂に結合されたFmoc-His(trt)-Ser(trt)-Cys(trt)-Asn(trt)を得た。この樹脂をDMF(樹脂100mgあたり1mL)中の20%ピペリジンで窒素撹拌下に3分間処理し、この反応混合物を濾過して、DMFで1回洗浄した。この工程をさらに2回繰り返した。樹脂をDMFで3回、ジクロロメタンで3回洗浄した。Ac-Pro-OH (3当量)、HBTU (3当量)、およびHOBt (3当量)をDMF(樹脂100mgあたり1mL)中に溶解して、上記の樹脂に加え、続いてN-メチルモルホリン(NMM) (6当量)を加え、この混合物を1時間撹拌した。この反応混合物を濾過して、樹脂をDMFで3回、ジクロロメタンで3回洗浄して、Rink Amide AM樹脂に結合されたAc-Pro-His(trt)-Ser(trt)-Cys(trt)-Asn(trt)を得た。この樹脂をTFA/TIS/水 (95:2.5:2.5、樹脂100mgあたり1mL)で処理し、窒素下で2時間撹拌した。この反応混合物を濾過して、樹脂をTFA/TIS/水で1回、ジクロロメタンで3回洗浄した。溶媒を真空除去し、得られた残留物をエーテルで細かくすり砕いて粗製のAc-Pro-His-Ser-Cys-Asn-NH2 TFA塩を得た。
【0099】
この一般的手順を用いると、2グラムのRink Amide AM樹脂(ローディング:0.63mmol/g)から708mgの粗製Ac-PHSCN-NH2 TFA塩が調製された。
【0100】
精製
最少量のメタノールと水に溶解した粗製ペプチドを、Phenomenex Synergi hydro-RP C18カラム(250mm×21.2mm)を用いて分離用逆相HPLC (Beckman)により精製した。3%から100%Bの勾配を用いて20mL/分の流速で30分かけてペプチドを溶出したが、ここで、溶媒Aは0.1%トリフルオロ酢酸を含む水であり、溶媒Bは0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルである。220nmで検出した。分析用HPLC分析(3%から100%Bの勾配を用いたPhenomenex hydro RP (250mm×4.6mm))(Waters)により>95%純度の画分を合わせて、ロータリーエバポレーターで約2〜4mlの容量にまで濃縮し、凍結乾燥させた。サンプルを水に再溶解させ、tared 2ドラムバイアルに移して、2度目の凍結乾燥を行った。
【0101】
この方法を用いると、338mgの粗製物質から140mgの純粋なAc-PHSCN-NH2 TFA塩が得られた:ES MS m/z (M+H)+ 598.2; HPLC: 99%純度。
【0102】
実施例III
Ac-Pro-His-Ser-Cys-Asn-NH2の調製
Ac-Pro-His-Ser-Cys-Asn-NH2 TFA塩(140mg, 0.197mmol)を2mLの蒸留水に溶解し、Amberlyst A-26 (OH)樹脂(4.2meq/g, 273mg, 5.8当量)を加えた。この反応混合物を室温で5分間撹拌した。水性液をデカントし、樹脂を蒸留水で2回洗浄し、水相を合わせて凍結乾燥すると、81mg (69%)のAc-PHSCN-NH2がふわふわの白色固体として得られた: ES MS m/z (M+H)+ 598.2; HPLC: 単量体94%、二量体6%。
【0103】
実施例IV
Ac-Pro-His-Ser-Cys-Asn-NH2 塩酸塩の調製
Ac-Pro-His-Ser-Cys-Asn-NH2 (77mg, 0.13mmol)を3mLの蒸留水に室温で溶解させ、すぐに1M 塩酸(0.13mL, 0.13mmol)を添加した。この混合物を一度ぐるっとかき混ぜてから凍らせて凍結乾燥すると、Ac-PHSCN-NH2 塩酸塩がふわふわの白色固体として得られた: 1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ9.00 (s, 1H), 8.57-8.26 (m, 2H), 8.21-8.03 (m, 2H), 7.45-7.36 (m, 2H), 7.13 (s, 1H), 7.09 (s, 1H), 6.94 (s, 1H), 4.79-4.59 (m, 1H), 4.50-4.25 (m, 4H), 3.74-3.56 (m, 3H, 水のピークとオーバーラップ), 3.25-3.15 (m, 2H, 水のピークとオーバーラップ), 3.11-2.98 (m, 1H), 2.88-2.72 (m, 2H), 2.57-2.38 (m, 2H, DMSOのピークとオーバーラップ), 2.02 (s, 3H), 1.92-1.65 (m, 4H); HPLC: 単量体93%、二量体7%。
【0104】
実施例V
製剤化および試験で用いる材料と方法
製剤化
Ac-PHSCN-NH2(50mg/ml)は、5OmMクエン酸と下記の表1に示した成分を含む溶液中に製剤化した。この溶液を凍結乾燥させ、1mLの水で用時調製するためにバイアルに分配した。
【表1】

【0105】
安定性の試験
溶液を40℃で4日間、55℃で34日間貯蔵することにより促進安定性試験を行った。促進安定性実験は、温度および/または湿度の極端な条件を用いて強制的に分解を起こさせ、特定の製剤の相対的安定性を迅速に試験することにより実施される(一般的な貯蔵条件は、ほとんどの薬物について22℃、4℃、または-20℃である)。その後、このデータを用いて、最も安定している可能性が高い製剤を多数の試験製剤の中から選択することができる。水で再調製した後、各製剤を水/メタノールまたは水/アセトニトリルのような標準的な移動相を用いた逆相HPLCにより試験した。この方法は、Ac-PHSCN-NH2の断片のようなAc-PHSCN-NH2の分解産物またはジスルフィド結合型二量体からAc-PHSCN-NH2の分離を可能にする。
【0106】
効力の計算
効力は、標準曲線に対するHPLCクロマトグラムでのAc-PHSCN-NH2のピーク下面積として計算した。
【0107】
純度の計算
純度は、クロマトグラム全体の積分面積に対するパーセントとしてのAc-PHSCN-NH2ピーク下面積として計算した。
【0108】
二量体%の計算
Ac-PHSCN-NH2二量体の相対量は、クロマトグラム全体の積分面積に対するパーセントとしての二量体ピーク下面積として計算した。
【0109】
実施例VI
Ac-PHSCN-NH2の各種製剤の安定性
ペプチド製剤の安定性は、効力(mg/mL)および純度(単量体%と二量体%)で表した。結果を下記の表2と表3に示してある。表3は、t=0での溶液の効力に正規化された効力を示す;Nで示される縦列は正規化された数値を示す。
【表2】

【0110】
【表3】

【0111】
実施例VII
好ましい製剤の選択
以下にペプチド製剤の特徴を要約する。
A. 溶液1〜4中の製剤は次のような特徴を有する:
1. 一定していないケーキ形状、大部分が凍結乾燥器内で崩壊した;
2. 促進安定性実験中にケーキの体積が減少した;
3. ケーキの崩壊のため予想以上に再調製に時間がかかった。
B. 溶液6中の製剤は次のような特徴を有する:
促進安定性実験中に、おそらくグルコースとグリシンとの反応のため、色が褐色に 変化した。
C. 溶液5中の製剤は次のような特徴を有する:
1. 良好な品質のケーキ、白色、速やかな再調製、低い水分量;
溶液5の組成は、50mg/mLのペプチド、50mg/mLのグリシン、5OmMのクエン酸、
pH5.0であり、凍結乾燥される(1mL);
2. 凍結乾燥器内での強靭な性能、どのサンプルにも崩壊が見られない一様な外観;
3. 促進安定性実験中に外観と再調製能力が維持された;
4. 他の製剤と同等(±2%)またはより良好な安定性が維持された。
【0112】
実施例VIII
リアルタイム安定性データは、好ましい静注製剤(100mgのAc-PHSCN-NH2 (=ATN-161)、50mMのクエン酸、50mg/mLのグリシン、pH5.0;50mg/mL ATN-161の2mL溶液から凍結乾燥する)が-20℃または2〜8℃で貯蔵したとき、3年間にわたり規格(すなわち、90%を超えるATN-161)の範囲内であったことを示した。これらの結果に基づいて、十分な増量剤(約50mg/mlのグリシン)を含みかつ凍結乾燥後のバイアル中の含水量が少ない低pH製剤は、ATN-161薬品の望ましい品質と安定性をもたらすことが判明した。含水量は当技術分野で周知の方法を用いて凍結乾燥サイクルを最適化することにより変えることができる。ATN-161またはその酸付加塩もしくは類似体のさらなる製剤を開発するために同様のパラメーターが追跡されるであろう。
【0113】
上で引用した参考文献はすべて、具体的に組み入れるか否かにかかわらず、その全内容を参照することにより本明細書に組み入れるものとする。上記文献の引用は、それらのいずれかが関係のある先行技術である、ということを容認するもではない。日付に関するすべての記述またはこれらの文献の内容に関する表明は、出願人に入手可能な情報に基づいており、これらの文献の日付または内容の正当性に関していかなる承認も構成しない。
【0114】
以上、本発明について十分に説明してきたので、当業者であれば、本発明を均等のパラメーター、濃度、条件の広範な範囲内で過度の実験を要せずに、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、実施できることを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) ペプチドPro-His-Ser-Cys-Asn、その類似体、または該ペプチドもしくは該類似体の塩を、
(b) 該ペプチド、類似体または塩を自然発生的なタンデム二量体化またはより高度なオリゴマー化に対して安定化する少なくとも1種のさらなる化合物、
を用いて製剤化してなる組成物。
【請求項2】
前記ペプチドがそのN-末端およびC-末端でそれぞれN-末端キャップおよびC-末端キャップによりキャッピングされている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
N-末端キャップがアシル基で、C-末端キャップがアミド基である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
N-末端キャップがアセチル基である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
さらなる化合物がCys残基のスルフヒドリル基同士のジスルフィド結合の形成を抑制し、防止し、または逆転させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
さらなる化合物が約5のpKを有する生体適合性の酸緩衝剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記緩衝剤の存在下で、該溶液のpHが3.0より高く、7.5に等しいかまたはそれより低い、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
酸緩衝剤がクエン酸、酢酸、または2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
酸緩衝剤が約25mMの濃度のクエン酸である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記緩衝剤が賦形剤および増量剤としてのグリシンを補足されている、請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
グリシンの濃度が約50mg/mlである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記緩衝剤がクエン酸と酢酸を含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記緩衝剤がTrisをも含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
(i)前記ペプチドまたは該ペプチドもしくは類似体の塩、(ii)約50mMのクエン酸、および(iii)約50mg/mlのグリシンを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
pH5.0の溶液2mLから凍結乾燥された、100mgのペプチドまたは該ペプチドもしくは類似体の塩、50mMのクエン酸、50mg/mlのグリシンを有する凍結乾燥形態で容器またはバイアル内に存在する、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
1種以上の還元剤をさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記還元剤がジチオスレイトール、β-メルカプトエタノール、またはグルタチオンを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
1種以上の還元剤の濃度が約10mMを超えない、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
生体適合性の非チオール系酸化防止剤をさらに含む、請求項16〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
凍結保護量で存在する凍結保護剤を含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
ペプチドに対する凍結保護剤のモル比がペプチド1モルに対して凍結保護剤約50〜600モルである、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
凍結保護剤が1種以上の糖、1種以上のアミノ酸、1種以上のメチルアミン、1種以上の離液性の塩、および/または1種以上のポリオールである、請求項20または21に記載の組成物。
【請求項23】
凍結保護剤がスクロースもしくはトレハロース;グルタミン酸一ナトリウムもしくはヒスチジン;ベタイン;硫酸マグネシウム;または三価以上の糖アルコールである、請求項20〜22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
グリセリン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール、およびこれらの組合せからなる群より選択される1種以上のポリオールを含む、請求項22または23に記載の組成物。
【請求項25】
凍結保護剤が非還元糖である、請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
前記糖がトレハロースまたはスクロースである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
無菌であり、in vivo投与用に製剤化されている、請求項1〜26のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項28】
(a) 溶液または凍結乾燥形態の請求項1〜27のいずれか1項に記載の組成物を含む第1容器、
(b) 任意に、凍結乾燥された組成物のための希釈剤または再調製液を含む第2容器、および
(c) 任意に、(i)該溶液の使用、または(ii)凍結乾燥組成物の再調製および/または使用についての説明書、
を含んでなる製品またはキット。
【請求項29】
(i)別の緩衝剤、(ii)希釈剤、(iii)フィルター、(iv)注射針、または(v)注射器のうちの1つ以上をさらに含む、請求項28に記載の製品またはキット。
【請求項30】
第1容器と任意の第2容器がビン、バイアル、注射器、または試験管である、請求項28に記載の製品またはキット。
【請求項31】
第1容器と任意の第2容器がマルチユース型容器である、請求項28に記載の製品またはキット。
【請求項32】
前記組成物が凍結乾燥形態である、請求項28〜31のいずれか1項に記載の製品またはキット。
【請求項33】
被験者における血管新生の抑制方法であって、請求項1〜27のいずれか1項に記載の組成物を被験者に投与することを含んでなり、その際、前記ペプチドまたは類似体が抗血管新生有効量で投与される、上記方法。
【請求項34】
血管新生を抑制することによる被験者の癌の治療方法であって、請求項1〜27のいずれか1項に記載の組成物を被験者に投与することを含んでなり、その際、前記ペプチドまたは類似体が癌治療に有効な量で投与される、上記方法。
【請求項35】
血管新生を抑制することによる被験者のクローン病の治療方法であって、請求項1〜27のいずれか1項に記載の組成物を被験者に投与することを含んでなり、その際、前記ペプチドまたは類似体がクローン病治療に有効な量で投与される、上記方法。
【請求項36】
被験者に投与して望ましくない血管新生を抑制するための医薬における、請求項1〜27のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項37】
癌を患う被験者に投与して癌を治療するための、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
クローン病を患う被験者に投与してクローン病を治療するための、請求項36に記載の使用。
【請求項39】
前記ペプチド、類似体、または該ペプチドもしくは類似体の塩が抗血管新生有効量で投与される、請求項36〜38のいずれか1項に記載の使用。
【請求項40】
被験者に投与して望ましくない血管新生を抑制するための医薬の製造における、請求項1〜27のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項41】
癌を患う被験者に投与して癌を治療するための医薬の製造における、請求項41に記載の使用。
【請求項42】
クローン病を患う被験者に投与してクローン病を治療するための医薬の製造における、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
前記ペプチド、類似体、または該ペプチドもしくは類似体の塩が抗血管新生有効量で投与される、請求項40〜42のいずれか1項に記載の使用。

【公表番号】特表2008−528630(P2008−528630A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553365(P2007−553365)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/003461
【国際公開番号】WO2006/083906
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(507256739)アテニュオン,エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】