説明

抗酸化剤

【課題】
近年、生体内で生成される活性酸素が、不飽和脂肪酸と反応して過酸化脂質を生じ、人体に悪影響を及ぼすことが明らかになってきている。又、化粧品、医薬品、飲食品等においては、油脂類を含有するものが多く、保存中や使用時に活性酸素と反応して過酸化脂質を生成し、これによる品質低下や栄養の低下・人体への毒性の発現が大きな問題になっている。。本発明は、アムラの酵素処理物を含有することを特徴とする抗酸化剤及びこの抗酸化剤を含有する飼料、飲食品、医薬品、医薬部外品等の組成物を提供するを目的とする。
【解決手段】 アムラの酵素処理物を含有することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化剤に関するものである
【背景技術】
【0002】
近年、生体内で生成される活性酸素が、不飽和脂肪酸と反応して過酸化脂質を生じ、人体に悪影響を及ぼすことが明らかになってきている。例えば、活性酸素は、虚血障害や放射線障害、過酸化脂質やその酸化分解物は、核酸や蛋白に作用し、動脈硬化、高血圧害、それらにより発症するによる血管障害、肝機能障害、網膜症や白内障などを引き起こす。特に皮膚では、紫外線などの環境因子の刺激を直接受けるため、活性酸素が生成しやすく、活性酸素濃度の上昇、過酸化脂質の生成等のシミ・ソバカス等の異常な色素沈着、炎症、浮腫、壊死、老化等その影響が顕著である。
【0003】
又、化粧品、医薬品、飲食品等においては、油脂類を含有するものが多く、保存中や使用時に活性酸素と反応して過酸化脂質を生成し、これによる品質低下や栄養の低下・人体への毒性の発現が大きな問題になっている。
【0004】
このために、従来より生体内過酸化脂質異常を改善するために、抗酸化作用を有する研究が、広く行われている。代表的なものでは、天然物抗酸化剤として、脂質性のトコフェロール(ビタミンE)や、水溶性のアスコルビン酸(ビタミンC)があり、合成抗酸化剤としてBHT(3,5−tert−butyl−4−hydroxytoluen)やBHA(2,(3)−tert−butyl−hydroxyanysol)等が挙げられるが、その効果は満足できるものではなかった。
【0005】
これに対し、生体内過酸化脂質異常を改善するために、抗酸化作用の高い物質を得ようという試みが数多くなされており、種々の抽出物が開示されている。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)
【0006】
【特許文献1】特開平5−246877号公報(第1−4頁)
【特許文献2】特開平8−92053号公報(第1−5頁)
【特許文献3】特開平8−301745公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記抽出物はトコフェロールやアスコルビン酸等に比べれば、ある程度高い抗酸化作用を持つが、その作用は満足すべきものではない。又、合成抗酸化剤のBHT、BHAには、発癌性の疑いが持たれている等の問題がある。従って、これらの抗酸化剤の他に同様の過酸化脂質生成の抑制手段を有し、かつ安全性の高い物質が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような状況を鑑み、従来技術の問題点を改善せんとして鋭意研究を重ねた結果、驚くことに、アムラの水抽出したものよりも、アムラの酵素処理物により強いフリーラジカル消去作用、抗酸化作用を有することを見出した。
【0009】
本発明の抗酸化剤であるアムラは、昔から人間が日常食生活に使用してきた天然植物由来なので、従来使用していた薬剤とは違い、副作用がなく安全である。
【発明の効果】
【0010】
すなわち、本発明は、アムラの酵素処理物を含有することを特徴とする抗酸化剤及びこの抗酸化剤を含有する飼料、飲食品、医薬品、医薬部外品等の組成物を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本願発明に用いるアムラとは、学名:エンビリカ・オフィシナル(Emblica officinale)又は、フィランサス・エンブリカ(Phyllanthus embilica)といい、トウダイグサ科コミカンソウ属に属する落葉の亜高木であり、インドからマレーシア地域及び中国南部にかけて分布しており、インドが原産地と考えられている。また、各地方又は言語により、各々固有の名称があり、余柑子、油甘、奄摩勒、エンブリック・ミロバラン、アーマラキー、マラッカノキ、マラッカツリー、インディアングーズベリー、アロンラ、アミラ、アミラキ、アミラキャトラ、ネリカイ、ネルリ、タシャ、カユラカ、ケムラカ、ナックホンポン等とも称されている。
【0013】
本発明に用いられるアムラの原産国は、インドからマレーシア地域および中国南部にかけてであり、これらの地域で栽培されているもののいずれかを用いることができるが、好ましくは、薬用植物の観点からインド国又は中国で栽培されているものであり、最も好ましくはアーユルヴェーダで処方される薬用植物の観点からインド国で栽培されているものである。
【0014】
本発明に用いる酵素としては、食品工業用に用いるものであれば、特に限定するものではなく、ペクチナーゼ、セルラーゼ、へミセルラーゼ、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、β−アミラーゼ、トランスグルコシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼ、デキストラナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラクターゼ、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ、プルラナーゼ、トリプシン、パパイン、レンネット、ホスホリパーゼA等より選ばれる、1種類又は2種類以上の酵素を用いることができる。好ましくは、ぺクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ、タンナーゼより選ばれる、1種類又は2種類以上の酵素を用いることができる。
【0015】
本発明の抗酸化剤を製造する時の酵素の添加量は、使用する酵素の比活性により適宜選択できる。例えば、(1)アムラ果実が未乾燥で使用するペクチナーゼの比活性がAJDA(Apple Juice Depectinizing Activity)で50000U/mLの場合、アムラに対して50〜2000ppmであり、好ましくは100〜1000ppmであり、最も好ましくは300〜500ppmである。添加量が50ppmより少ないとペクチナーゼによるアムラ果実組織の処理が不十分となり生産量が少なく、2000ppmを超える量を添加しても酵素反応の速度は増加せず、本発明の抗酸化剤の生産収量はそれほど増加しない。(2)アムラ果実が乾燥しており、使用するペクチナーゼの比活性がEndoPGase(Endopolygalacturonase)活性1800U/mL及びCMCase(Carboxymethylcellulase)活性50000U/mLの場合、アムラ果実と溶液部の合わせたものに対して50〜2000ppmであり、好ましくは100〜1000ppmであり、最も好ましくは300〜500ppmである。添加量が50ppmより少ないと、ペクチナーゼによるアムラ果実組織の処理が不十分となり生産収量が少なく、2000ppmを超える量を添加しても酵素反応の速度は増加せず、本発明の抗酸化剤の生産収量はそれほど増加しない。
【0016】
本発明の抗酸化剤を製造する時の処理時間は、特に限定されないが、未乾燥の果実と乾燥の果実で異なる。例えば、(1)アムラ果実が未乾燥の場合では、生産性の観点から処理時間は、0.5〜12時間であり、好ましくは2〜8時間であり、最も好ましくは3〜5時間である。処理時間が0.5時間より少ない場合はアムラ果実組織の処理が不十分となり、処理時間が12時間を超えてもアムラ果実部の処理はそれ以上進行せず、本発明の抗酸化剤の生産収量はそれほど増加しない。(2)アムラ果実が乾燥している場合では、生産性の観点から、処理時間は0.5〜48時間であり、好ましくは2〜24時間であり、最も好ましくは5〜20時間である。処理時間が0.5時間より少ない場合はアムラ果実組織の処理が不十分となり、本発明の抗酸化剤の生産収量が少ない。処理時間が24時間を越えてもアムラ果実部の処理はそれ以上進行せず、本発明の抗酸化剤の生産収量はそれほど増加しない。
【0017】
本発明において、アムラの部位としては特に限定されないが、果実、根、茎、葉、花を用いることができる。好ましくは、生産性の観点から果実を用いることができる。その形態は、特に限定するものではなく、未熟果実、完熟果実、乾燥果実等のいずれでも良い。
【0018】
本発明における抗酸化剤は、特に限定されるものではないが、例えばラジカル消去能試験である、スーパーオキサイドラジカル(O)消去活性試験の結果よりスーパーオキサイドラジカル(O)消去能が高いことが分かった。
【0019】
本願発明の抗酸化剤は、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等に応用でき、好ましくは、人が手軽に摂食できる飲食品が好ましい。
【0020】
本願発明における飲食品とは溶液、懸濁物、粉末、固体成形物等経口摂取可能な形態であれば良く特に限定するものではない。より具体的には、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品等の即席食品類、清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料等の飲料類、パン、パスタ、麺、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品、飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子等の菓子類、ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類等の調味料、加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズ等の油脂類、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類等の乳製品、冷凍食品、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品等の水産加工品、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品、農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアル等の農産加工品、栄養食品、シリアル等の農産加工品等が例示される。飼料は酪農用、養豚用、養鶏用、養魚用等が例示される。医薬品又は医薬部外品としては、例えば、内用液剤、錠剤、糖衣錠、舌下錠、顆粒剤、カプセル剤(硬カプセル、軟カプセル、マイクロカプセル)、流動栄養食、液剤、乳剤、懸濁剤、散剤等が例示される。
【0021】
本願発明において、抗酸化剤は、飲食品、飼料、医薬品又は医薬部外品に加工する際に、各種栄養成分を強化することができる。
強化できる栄養成分としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸等のビタミン類、リジン、スレオニン、トリプトファン等の必須アミノ酸類や、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅等のミネラル類及び、例えば、α−リノレン酸、EPA、DHA、月見草油、オクタコサノール、カゼインホスホペプチド(CPP)、カゼインカルシウムペプチド(CCP)、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、オリゴ糖等の人の健康に寄与する物質類、その他の食品や食品添加物として認可されている有用物質の1種又は2種以上が使用できる。
【0022】
以下本発明を、実施例にて詳細に説明するが、次の実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0023】
(実施例1)抗酸化剤の調製1
アムラ乾燥果実100グラムに、蒸溜水1リットル及びペクチナーゼ(アマノエンザイム製、Aspergillus由来、でんぷん糖化力12,000U/g)0.1gを入れ、55℃で2時間抽出した。その後、90℃で30分間酵素失活させた。その後、濾過し、濾液をスプレードライし、本願発明の抗酸化剤55gを得た。
【0024】
(実施例2)抗酸化剤の調製2
アムラ乾燥果実100グラムに、蒸溜水1リットル及びセルラーゼ(アマノエンザイム製、Aspergillus由来、繊維消化力30,000U/g)0.1gを入れ、55℃で2時間抽出した。その後、90℃で30分間酵素失活させた。その後、濾過し、濾液をスプレードライし、本願発明の抗酸化剤55gを得た。
【0025】
(比較例1)調製
アムラ乾燥果実100グラムに、蒸留水1リットルを入れ、55℃で2時間抽出した。その後、濾過し、濾液をスプレードライし、粉末30gを得た。
【0026】
(試験例1)O消去活性試験
スーパーオキサイドラジカル(O)消去活性能を、エレクトロスピン共鳴装置(ESR)を用いたスピントラップ法によって測定した。実施例1及び実施例2の抗酸化剤と比較例について測定し、比較した。測定条件を下記に示す。
試料を5.5mMジエチレントリアミンペンタ酢酸−リン酸緩衝液(pH7.8)に溶解して1μg/mlに調整した。試料溶液50μL、前記リン酸緩衝液35μL、2mMヒポキサンチン−リン酸緩衝液(pH7.8)50μL、0.92M DMPO15μLを混合し、最後に、0.4unit/mLのキサンチンオキシダーゼ−リン酸緩衝液50μLを添加して測定溶液(試料用)とし、混合後40秒後に掃引を開始した。ラジカル消去活性は前期測定溶液において、試料溶液を前記リン酸緩衝液(pH7.8)に替えて調整したコントロール用測定溶液の掃引スペクトルのOラジカルの最大ピークの高さ(ピーク高さ)と、試料用測定溶液の掃引スペクトルにおける同ラジカルの最大ピークの大きさ(ピーク高さ)を利用して消去活性(%)を算出した。なお、Mn2+を内部標準として使用した。結果を表1に示す。

測定温度:8mV
磁場 :336mT
変調 :100KHz
返答時間:0.03秒
スーパーオキサイドラジカル(O)消去率(%)
=(1−((A/B)/(C/D)))×100

A:抗酸化剤添加時のピークの高さ
B:抗酸化剤添加時の内部標準のピークの高さ
C:コントロール(抗酸化剤無添加)のピークの高さ
D:コントロール(抗酸化剤無添加)の内部標準のピークの高さ
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すようにスーパーオキサイドラジカル(O)消去率は、比較例と比べて実施例1及び実施例2は、比較例に比べてより高いラジカル消去能があることが確認された。以上の結果から、酵素処理を行うことにより、より高いラジカル消去活性、すなわち、抗酸化能を備えていることが明らかであった。
【0029】
(実施例3) 錠剤
実施例1で得られたアムラ酵素処理物150gを乳糖150g及びステアリン酸マグネシウム5gと混合し、打錠機にて打錠して、錠剤を得た。
【0030】
(実施例4) チョコレート
実施例1で得られたアムラ酵素処理物を用い、下記の組成によりチョコレートを製造した。
(配合成分) (配合量)
カカオマス 15.0g
砂糖(ショ糖) 40.0g
全脂粉乳 25.0g
ココアバター 20.0g
アムラ酵素処理物 1.0g
レシチン 0.5g
香料 0.05g
【0031】
(実施例5) クッキー
実施例1で得られたアムラ酵素処理物を用い、下記組成のクッキーを製造した。
(配合成分) (配合量)
小麦粉 100.0g
ショートニング 20.0g
バター 10.0g
砂糖(ショ糖) 30.0g
卵 4.0g
食塩 0.3g
アムラ酵素処理物 0.5g
膨張剤 0.5g
香料 0.2g
【0032】
(実施例6) キャンデー
実施例1で得られたアムラ酵素処理物を用い、下記組成のキャンデーを製造した。
(配合成分) (配合量)
砂糖(ショ糖) 50.0g
水飴 50.0g
アムラ酵素処理物 0.5g
クエン酸 0.3g
香料 0.2g
色素 適量
【0033】
(実施例7) 健康向け飲料
実施例1で得られたアムラ酵素処理物を用い、下記組成の健康向け飲料を製造した。
(配合成分) (配合量)
ハチミツ 15.0g
クエン酸 0.1g
dl−リンゴ酸 0.1g
アムラ酵素処理物 2.0g
D−ソルビトール液(70%)10.0g
安息香酸ナトリウム 0.05g
香料 適量
精製水 100gとする残余
【0034】
(実施例8) 果汁飲料
実施例1で得られたアムラ酵素処理物を用い、下記組成の果汁飲料を製造した。
(配合成分) (配合量)
ブドウ糖液糖 33.0g
グレープフルーツ果汁 40.0g
アムラ酵素処理物 5.0g
香料 適量
酸味料 適量
【0035】
(試験例2)
実施例3〜8で得られた飲食品を、アムラ酵素処理物を用いない以外は実施例3〜8と同様にして調製したコントロールと風味・外観について比較を行った結果、コントロールと有意な差は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の抗酸化剤は、天然由来の物質であるため安全性が高く、日常生活で摂取するのに最適であり、食品、食品添加剤、動物飼料、動物飼料用添加剤、医薬品産業への貢献が多大であるものと期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アムラの酵素処理物を含有することを特徴とする抗酸化剤
【請求項2】
アムラを処理する酵素がペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼより選ばれる1種類又は2種類以上であることを特徴とする請求項1記載の抗酸化剤
【請求項3】
アムラの部位が果実であることを特徴とする請求項1記載の抗酸化剤
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の抗酸化剤を含有することを特徴とする飲食品
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載の抗酸化剤を含有することを特徴とする飼料
【請求項6】
請求項1〜3いずれか記載の抗酸化剤を含有することを特徴とする医薬品
【請求項7】
請求項1〜3いずれか記載の抗酸化剤を含有することを特徴とする医薬部外品

【公開番号】特開2006−57011(P2006−57011A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241118(P2004−241118)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】