説明

抗酸化特性を向上させる添加剤および潤滑剤組成物

【課題】 向上された抗酸化性特性を有する潤滑油組成物。
【解決手段】 基油、炭化水素に可溶なモリブデン化合物、およびエステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量の化学式、
【化1】


(式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基である。)
で表されるポリマー化合物を含んで成る潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施例は、潤滑剤および潤滑油組成物中でのそのような添加剤の用法、特に潤滑剤組成物の抗酸化特性を向上させるために使用される添加剤組成物に関連する。
【発明の背景および概要】
【0002】
乗用車や高荷重ディーゼルエンジンで使用される潤滑油は、長年の間に変化してきた。今日のエンジンは過去に比べてより熱くまた苛酷に運転されるようにデザインされている。しかしながら、高熱下での運転による悪影響で、オイルの作動温度が上昇するのに伴ってオイルの酸化が進む。オイルの酸化は、オイルの粘度の増加、および凝集した酸化副産物が潤滑面上に焼きついてできる、高温堆積物の形成につながる。従って、エンジンオイルの酸化を低減するため、特定のリンおよび硫黄添加剤が使用されてきた。
【0003】
しかしながら、次世代乗用車用モーターオイルおよびヘビーデューティーディーゼルエンジンオイルのカテゴリーでは、より厳しい公害防止装置の汚染を低下させるため、組成物中でのリンおよび硫黄を含有した抗酸化剤のレベルが低いことが要求される。硫黄およびリンを含有する添加剤が公害防止装置に害を及ぼすか、さもなければその効果を低下させることは周知の事実である。
【0004】
上述に関し、抗酸化特性に優れ、自動車やディーゼルエンジンに使用される公害防止装置とより互換性のある潤滑添加剤の存在が必要とされている。このような添加剤は、リンおよび硫黄を含有しているかもしれないし、実質的にリンおよび硫黄を欠いているかもしれない。
【0005】
本明細書の一つの実施例では、基油、炭化水素に可溶なモリブデン化合物、また以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る、潤滑剤組成物が提示されている。
【化1】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;およびAは炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基である。
【0006】
別の実施例では、潤滑剤組成物用の添加剤濃縮物が提示される。この濃縮物には、有機モリブデン摩擦調整剤と、以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物が含まれる:
【化2】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基であり、
【化3】

から成る群の中から選択され、
式中RはCからCのアルキル基から成る群の中から選択される。
【0007】
本開示のさらなる実施例は、潤滑剤組成物を含有したエンジンの作動中に、エンジン潤滑剤組成物の酸化を低下する方法を提示している。この方法には、一つ以上のエンジン部品を、潤滑粘性のオイル、有機モリブデン摩擦調整剤、および以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る潤滑剤組成物と接触させることが含まれる。
【化4】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基であり、
【化5】

から成る群の中から選択され、
式中RはCからCのアルキル基から成る群の中から選択される。この方法にはさらに、当該の組成物を含むエンジンを作動させることが含まれる。
【0008】
上記に簡単に説明したとおり、本開示の実施例では、潤滑剤組成物の酸化安定性を著しく改善し、同等の酸化安定性を得るために要されるリンおよび硫黄添加剤の量を低下させることのできる抗酸化剤組成物が提示されている。この添加剤は、可動部間の表面に塗布される油性の流体と混合される。別の用途では、当該添加剤は完全に組成された潤滑剤組成物に供給される。この添加剤は特に、将来の乗用車およびディーゼルエンジンオイルの仕様と同様、乗用車のモーターオイル用の現行のGF−4および乗用車のモーターオイル用に提案されているGF−5規格、またヘビーデューティーディーゼルエンジンオイル用のPC11規格を満たすことを目的としている。
【0009】
本明細書に記載の組成物および方法は、自動車の公害防止装置の汚染低減に特に適して
おり、また一方ではこの組成物は潤滑剤組成物の酸化安定性の向上に適している。本明細書に記載の組成物および方法のその他の特徴および利点は、本明細書に記載の実施例を限定することなく、好適な実施例の態様を例証することを意図した、以下の詳細な説明を参照することにより明らかである。
【0010】
前述の概要および以下の詳しい説明は、共に例示および説明のみを目的としたものであり、開示、請求された実施例のさらなる説明を提供することが意図されたものと理解される。
【発明の詳細な説明】
【0011】
本開示の一つの実施例では、潤滑剤組成物中の添加剤成分として有用な新規の組成物が提示されている。当該組成物は、炭化水素に可溶なモリブデン化合物、およびエステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る。
【0012】
本明細書で使用される「炭化水素に可溶な」という用語は、化合物が、活性金属化合物と炭化水素材料の反応あるいは錯体形成により、炭化水素材料中に実質的に懸濁あるいは溶解していることを意味する。本明細書で使用される「炭化水素」とは、炭素、水素および/または酸素を多様な組み合わせで含む数多くの化合物を意味する。
【0013】
「ヒドロカルビル」という用語は、炭素原子が分子の残りの部分に結合しており、また主に炭化水素の特性を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例には以下のものが含まれる:
(1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えばアルキルまたはアルケニル)置換基、脂環式(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、また芳香族、脂肪族、および脂環基によって置換された芳香族置換基、また環が分子の別の部分によって完成されている(例えば二つの置換基が一緒になって脂環式ラジカルを形成している)ような環状置換基;
(2)置換された炭化水素置換基、すなわち、本発明の状況下で、主に炭化水素である置換基(例えばハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ)などを変化させないような、非炭化水素基を含んだ置換基;
(3)ヘテロ置換基、すなわち、主に本発明の状況下で、主に炭化水素の特性を有しながら、そうでなければ炭素原子から成る環または鎖の中に炭素以外の原子を含んでいるような置換基。ヘテロ原子には硫黄、酸素、および窒素があり、またピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルのような置換基が含まれる。通常、ヒドロカルビル基中、炭素原子10個につき二つ以下、一般的には一つ以下の非炭化水素置換基が存在する。一般的にヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0014】
モリブデン化合物
本開示の実施例で使用される、炭化水素に可溶なモリブデン化合物とも言われる好適な有機モリブデン化合物には、硫黄を含まないモリブデン化合物が含まれる。このような化合物は、硫黄を欠いているモリブデン源とアミノ基および/またはアルコール基を含んだ有機化合物とを反応させることによって生成される。硫黄を含まないモリブデン源の例としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、およびモリブデン酸カリウムなどが含まれる。アミノ基は、モノアミン、ジアミン、あるいはポリアミンである。アルコール基は、モノ置換アルコール、ジオールあるいはビスアルコール、またはポリアルコールである。例として、ジアミンと脂肪酸の反応からは、硫黄を含まないモリブデン源と反応することのできる、アミノ基とアルコール基の両方を含んだ生成物が生成される。
【0015】
有機モリブデン化合物は、潤滑剤組成物中で摩擦調整剤として作用すると考えられている。さらに潤滑剤中の有機モリブデン化合物の存在は下記に述べられたポリマー成分の抗酸化特性を増大することがあると考えられている。
【0016】
硫黄を含有しない有機モリブデン化合物の例として以下の化合物が挙げられる。
1.米国特許第4,259,195号および4,261,843号に記載されるように、塩基性窒素化合物とモリブデン源を反応させることによって生成される化合物
2.米国特許第4,164,473号に記載の、ヒドロカルビル置換のヒドロキシアルキル化アミンとモリブデン源を反応させることによって生成される化合物
3.米国特許第4,266,945号に記載の、フェノールアルデヒド縮合生成物、モノアルキル化アルキレンジアミン、およびモリブデン源を反応させることによって生成される化合物
4.米国特許第4,889,647号に記載の、油脂、ジエタノールアミン、およびモリブデン源を反応させることによって生成される化合物
5.米国特許第5,137,647号に記載の、油脂または2−(2−アミノエチル)アミノエタノールを含む酸と、モリブデン源を反応させることによって生成される化合物
6.米国特許第4,692,256号に記載の、第2級アミンとモリブデン源を反応させることによって生成される化合物
7.米国特許第5,412,130号に記載の、ジオール、ジアミノ、あるいはアミノアルコール化合物とモリブデン源を反応させることによって生成される化合物
8.米国特許第6,509,303号に記載の、油脂、モノアルキル化アルキレンジアミンとモリブデン源を反応させることによって生成される化合物
9.米国特許第6,528,463号に記載の、脂肪酸、モノアルキル化アルキレンジアミン、グリセリドおよびモリブデン源を反応させることによって生成される化合物
【0017】
米国特許第4,889,647号に記載の、油脂、ジエタノールアミン、およびモリブデン源化合物を反応させることによって生成される好適なモリブデン化合物は、しばしば以下の構造式で表され、式中Rは脂肪アルキル鎖である。ただし、これらの物質の正確な化学組成は完全には分かっておらず、実際にはいくつかの有機モリブデン化合物の複数成分の混合物であるかもしれない。
【化6】

【0018】
好適なモリブデン化合物の例として、コネチカット州ノーウォーク、バンダービルト社(R.T.Vanderbilt Company,Inc.)からモリバン855(MOLYVAN855)という商品名で発売されている化合物が挙げられる。
【0019】
本開示の実施例では、炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、完全に組成された潤滑剤組成物の約0.01重量%から約0.5重量%の量で潤滑組成物中に組み込まれる。さらなる例では、炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、完全に組成された潤滑剤組成物の約0.05重量%から約0.35重量%の量で潤滑組成物中に組み込まれる。また別の例では、炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、完全に組成された潤滑剤組成物の約0.05重量%から約0.2重量%の量で潤滑組成物中に組み込まれる。
【0020】
炭化水素に可溶なモリブデン化合物はまた、潤滑剤濃縮物中に含まれることもある。このような濃縮物中でのモリブデン化合物の好適な量は、添加剤濃縮物の約0.1重量%か
ら約5.0重量%である。さらなる例では、モリブデン化合物は、添加剤濃縮物の約0.5重量%から約3.5重量%である。また別の好適な例では、モリブデン化合物は、添加剤濃縮物の約0.5重量%から約2.0重量%である。
【0021】
ポリマー化合物
本開示の実施例にはまた、以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上のポリマー化合物が含まれる。
【化7】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基であり、
【化8】

から成る群の中から選択され、
式中RはCからCのアルキル基から成る群の中から選択される。好適なポリマー化合物の例は、以下の構造式で表される化合物である。
【化9】

式中nは0から10の間である。
【0022】
本開示の実施例では、ポリマー化合物は、完全に組成された潤滑剤の約0.01重量%から約1.0重量%の量で使用される。別の例では、ポリマー化合物は、完全に組成された潤滑剤の約0.01重量%から約0.75重量%の量で使用される。さらに別の例では、ポリマー化合物は完全に組成された潤滑剤の約0.01重量%から約0.5重量%の量で使用される。
【0023】
ポリマー化合物はまた、潤滑剤濃縮物の一部として含まれることもある。このような添加剤組成物中でのポリマー化合物の好適な量は、添加剤濃縮物の約0.1重量%から約10.0重量%である。別の例では、ポリマー化合物は、添加剤濃縮物の約0.1重量%から約7.5重量%である。さらに別の例では、ポリマー化合物は、添加剤濃縮物の約0.1重量%から約5.0重量%である。
【0024】
上述のモリブデン化合物と上述のポリマー成分との相乗的混合物は、潤滑剤あるいは潤滑剤組成物中に組み込まれた際に、酸化特性を向上させると考えられる。
【0025】
基油
本開示の実施例にはまた、潤滑粘性の一つ以上の基油が含まれる。本明細書に記載の組成物、添加剤、および濃縮物の組成に適した基油は、合成油、天然油、またはそれらの混合物のいずれかの中から選択される。合成基油には、ジカルボン酸のアルキルエステル;ポリグリコールやアルコール;ポリブテン、アルキルベンゼン、リン酸の有機エステル、ポリシリコンオイル、およびアルキレンオキシドポリマーなどを含むポリアルファオレフィン;インターポリマー;コポリマー、およびそれらの誘導体が含まれ、このとき末端ヒドロキシル基は、エステル化、エーテル化、その他によって修正されている。
【0026】
天然の基油には、動物油および植物油(例えばヒマシ油、ラードなど)、液体石油、およびパラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン−ナフテン混合の、水素化精製、溶媒処理、あるいは酸処理された鉱物性潤滑油などが含まれる。石炭や頁岩から得られた潤滑粘性のオイルもまた好適な基油である。当該の基油の、100℃での一般的な粘度は、約2.5cStから約15cSt、望ましくは約2.5cStから約11cStである。
【0027】
従って、上述のようにモリブデン化合物およびポリマー化合物を含んで成る本開示の潤滑剤組成物は、可動部を有する自動車の潤滑剤としての仕様に適している。この可動部とは、エンジンの可動部であり得る。当該エンジンは、バイオ燃料、直噴エンジン、可変バルブタイミング、ターボチャージ、およびアフタートリートメントを使用した火花点火作動のエンジン、またはバイオ燃料、ターボチャージ、冷却排気ガス再循環(EGR)、アフタートリートメント(ディーゼル排気微粒子除去フィルターおよび選択的接触還元を含む)を使用した圧縮点火作動のエンジンであり得る。エンジンはクランクケースを、また潤滑剤はエンジンのクランクケース中に存在するクランクケースオイルを含んで成る。別の実施例では、潤滑剤はエンジンを有する車のドライブトレイン中に存在する、ドライブ
トレイン潤滑剤である。
【0028】
本開示の代替的な実施例では、モリブデン化合物およびポリマー化合物が、基油への点火に適した潤滑添加剤濃縮物へと組成され、抗酸化特性の向上された完全に組成された潤滑剤組成物が生成される。当該の添加剤濃縮物にはさらに、以下に説明するその他の添加剤も含まれている。
【0029】
本開示の一つの実施例では、向上された抗酸化特性を表す潤滑油によって可動部を潤滑する方法が検討される。この方法には、潤滑粘性のオイル、有機モリブデン化合物、および上述のポリマー化合物を含んで成る潤滑剤組成物を、一つ以上の可動部に潤滑剤として使用することが含まれている。この可動部とは、エンジンあるいは上述のドライブトレインの可動部であり得る。
【0030】
本開示の実施例は、潤滑剤組成物を含有したエンジンの作動中に、エンジン潤滑剤組成物の酸化を低下する方法を提示している。この方法には、一つ以上のエンジン部品を本明細書に記載の完全に組成された潤滑剤組成物に接触させることが含まれる。当該エンジンは、上述の火花添加エンジンであるか、あるいは圧縮点火エンジンであるかもしれない。当該エンジンはクランクケースを含んで成り、また潤滑剤はエンジンのクランクケース中に存在するクランクケースオイルを含んで成る。一つの実施例では、当該エンジンはヘビーデューティーディーゼルエンジンである。
【0031】
上述のモリブデンおよびポリマー成分に加え、本開示の実施例にはさらに、分散剤、耐磨耗剤、洗浄剤、腐食防止剤、炭化水素に可溶なチタン化合物、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、粘度指数向上剤、およびそれらの二つ以上の混合物を含み、またこれらに限定されることのない、一つ以上の任意の添加剤成分が含まれる。
【0032】
分散剤成分
好適な分散剤には、分散される粒子と結合することのできる官能基を有する油溶性ポリマー性炭化水素骨格が含まれるが、これらに限定はされない。一般に分散剤は、アミン、アルコール、アミド、あるいはしばしば架橋基によりポリマー骨格に結合したエステル極性部分を含んで成る。分散剤は、米国特許第3,697,574号および3,736,357号に記載のマンニッヒ分散剤;米国特許第4,234,435号および4,636,322号に記載の無灰スクシンイミド分散剤;米国特許第3,219,666号、3,565,804号および5,633,326号に記載のアミン分散剤;米国特許第5,936,041号、5,643,859号および5,627,259号に記載のコッホ分散剤、および米国特許第5,851,965号、5,853,434号、および5,792,729号に記載のポリアルキレンスクシンイミド分散剤などの中から選択される。本開示の一つの実施例では、当該分散剤はポリイソブチル無水コハク酸分散剤である。
【0033】
耐磨耗剤
耐磨耗剤には、リン酸、亜リン酸の、有機エステル、またはそれらのアミン塩を含んだ、リンを含有した耐磨耗剤が含まれる。例えば、リンを含有した耐磨耗剤には、ジヒドロカルビルホスファイト、トリヒドロカルビルホスファイト、ジヒドロカルビルホスフェート、トリヒドロカルビルホスフェート、それらの硫黄類似物、およびそれらの任意のアミン塩のなかの一つ以上が含まれる。さらなる例として、リンを含有した耐磨耗剤には、亜リン酸水素ジブチルおよび硫化亜リン酸水素ジブチルのアミン塩のうち少なくとも一つが含まれる。
【0034】
リンを含有した耐磨耗剤は、完全に組成された潤滑剤に約50重量ppmから約1000重量ppmのリンをもたらすのに十分な量で存在する。さらなる例として、リンを含有
した耐磨耗剤は、完全に組成された潤滑剤に約150重量ppmから約300重量ppmのリンをもたらすのに十分な量で存在する。
【0035】
潤滑流体には、約0.01重量%から約1.0重量%のリンを含有した耐磨耗剤が含まれる。さらなる例では、潤滑流体には、約0.2重量%から約1.0重量%のリンを含有した耐磨耗剤が含まれる。別の例では、潤滑流体には、約0.1重量%から約0.5重量%の亜リン酸水素ジブチル、または0.3重量%から約0.5重量%の硫化リン酸水素ジブチルのアミン塩が含まれる。
【0036】
ジンクジアルキルジチオホスフェート(Zn DDP)はまた、潤滑油中で耐磨耗剤として使用されることもある。Zn DDPは優れた耐磨耗性および抗酸化特性を有しており、Seq.IVAおよびTU3磨耗テストのような、カムの磨耗テストをパスするために使用されてきた。米国特許第4,904,401号、4,957,649号、および6,114,288号などを含む多くの特許がZnDDPの製造および用途に取り組んでいる。非限定的、一般的なZnDDPの種類に、第1級、第2級、および第1級と第2級の混合ZnDDPがある。
【0037】
金属洗浄剤
特定の金属洗浄剤が、本発明の添加剤パッケージ、およびトランスミッション液に任意的に含まれることがある。好適な金属洗浄剤には、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属と、以下の酸性物質(あるいはそれらの混合物)の油溶性で中性あるいは過塩基性の塩が含まれる:
(1)スルホン酸、(2)カルボン酸、(3)サリチル酸、(4)アルキルフェノール、(5)硫化アルキルフェノール、および(6)少なくとも一つの炭素とリンの直接結合があることを特徴とする有機リン酸。このような有機リン酸には、オレフィンポリマー(例えば分子量が約1,000のポリイソブチレン)を、三塩化リン、七硫化リン、五硫化リン、三塩化リンおよび硫黄、白リンおよび硫化ハロゲン化物、あるいは塩化ホスホロチオ酸などのようなリン酸化剤で処理することによって生成されるリン酸が含まれる。
【0038】
好適な塩には、マグネシウム、カルシウム、または亜鉛の、中性あるいは過塩基性の塩が含まれる。さらなる例として、好適な塩には、スルホン酸マグネシウム、スルホン酸カルシウム、スルホン酸亜鉛、マグネシウムフェネート、カルシウムフェネート、および/またはジンクフェネートが含まれる。例えば米国特許第6,482,778号を参照されたい。
【0039】
好適な金属含有洗浄剤の例には、スルホン酸ナトリウム、カルボン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、フェネートナトリウム、硫化フェネートナトリウム、スルホン酸リチウム、カルボン酸リチウム、サリチル酸リチウム、リチウムフェネート、硫化リチウムフェネート、スルホン酸マグネシウム、カルボン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、マグネシウムフェネート、硫化マグネシウムフェネート、スルホン酸カルシウム、カルボン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、カルシウムフェネート、硫化カルシウムフェネート、スルホン酸カリウム、カルボン酸カリウム、サリチル酸カリウム、カリウムフェネート、硫化カリウムフェネート、スルホン酸亜鉛、カルボン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、ジンクフェネート、硫化ジンクフェネートなどのような中性および過塩基性の塩が含まれるが、これらに限定はされない。さらなる例には、炭素原子数が約10から約2,000の水素化リン硫黄化オレフィンのリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩、または炭素原子数が約10から約2,000の水素化リン硫黄化アルコールおよび/または脂肪族置換のフェノール系化合物などが含まれる。またさらなる例には、脂肪族カルボン酸および脂肪族置換の脂環式カルボン酸のリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩、および油溶性有機酸のその他多数の同様のアルカリおよびアルカリ土類金属塩が含まれる。二つ以上の異なったアルカリおよび/またはアルカリ土類金属の、中性および過塩基性の塩の混合物を使用することもできる。同様に、二つ以上の異なった酸の中性および/または過塩基性の塩が使用されることもある。
【0040】
本発明の利点を増強するために任意の有効量の金属洗浄剤を使用することができるが、一般的に完成した流体中での有効量は、約0.01重量%から約2.0重量%、あるいはさらなる例としては、約0.1重量%から約1.5重量%である。
【0041】
摩擦調整剤成分
上述の炭化水素に可溶なモリブデン化合物に加え、本開示の組成物には、摩擦調整剤が含まれる。グリセリドは単一で、あるいは他の摩擦調整剤との組み合わせで使用される。好適なグリセリドには、以下の化学式のグリセリドが含まれる:
【化10】

式中Rはそれぞれに独立してHおよびC(O)R’から成る群の中から選択され、またR’は炭素数が3から23の、飽和あるいは不飽和アルキル基である。使用されるグリセリドの例として、モノラウリン酸グリセロール、モノミリスチリル酸グリセロール、モノパルミチン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、およびヤシ油酸、獣脂酸、オレイン酸、リノール酸、およびリノレイン酸などから得られたモノグリセリドなどが挙げられる。一般的な市販のモノグリセリドには、対応する相当量のジグリセリド、およびトリグリセリドが含まれている。これらの物質は、モリブデン化合物の生成に有害ではなく、むしろ実際はより活性である。モノグリセリドとジグリセリドは任意の割合で使用できるが、使用可能な部分の30%から70%が遊離ヒドロキシル基を含んでいることが望ましい(すなわち、上述の化学式に示されたグリセリドのR基の30%から70%が水素である)。好適なグリセリドはグリセロールモノオレエートであり、これらは通常、オレイン酸から得られたモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドと、グリセロールとの混合物である。市販の好適なグリセリドには、モノオレイン酸グリセロールがあり、これらは通常約50%から60%の遊離ヒドロキシル基を含んでいる。
【0042】
腐食防止剤
いくつかの実施例において、銅の腐食防止剤が、当該組成物に含まれるのに適した、別の種類の添加剤を構成する。このような化合物には、チアゾール、トリアゾール、およびチアジアゾールが含まれる。このような化合物の例として、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、オクチルトリアゾール、デシルトリアゾール、ドデシルトリアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−ヒドロカルビルチオ−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−ヒドロカルビルジチオヒドロカルビルジチオ−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(ヒドロカルビルチオ)−1,3,4−チアジアゾール、および2,5−ビス(ヒドロカルビルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールなどがある。好適な化合物には、その多くが商品として市販されている1,3,4−チアジアゾール、およびトリルトリアゾールのようなトリアゾールと、2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールのような1,3,5−チアジアゾールの組み合わせが含まれる。当該1,3,4−チアジアゾールは通常、ヒドラジンと二硫化炭素から、既知の方法で合成される。例えば米国特許第2,
765,289号、2,749,311号、2,760,933号、2,850,453号、2,910,439号、3,663,561号、および3,840,549号などを参照されたい。
【0043】
防錆剤あるいは腐食防止剤は、本開示の実施例で使用される、もう一つの種類の防止系添加剤である。このような材料には、モノカルボン酸およびポリカルボン酸が含まれる。好適なモノカルボン酸の例には、オクタン酸、デカン酸、およびドデカン酸などがある。好適なポリカルボン酸には、トールオイル脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、その他のような酸から生成される、ダイマー酸およびトリマー酸などが含まれる。別のタイプの有用な防錆剤は、例えばテトラプロペニルコハク酸、テトラプロペニル無水コハク酸、テトラデセニルコハク酸、テトラデセニル無水コハク酸、ヘキサデセニルコハク酸、ヘキサデセニル無水コハク酸、その他のような、アルケニルコハク酸およびアルケニル無水コハク酸の腐食防止剤を含んで成る。アルケニル基中の炭素数が8から24のアルケニルコハク酸と、ポリグリコールのようなアルコールとの半エステルもまた有用である。その他の有用な防錆剤あるいは腐食防止剤には、エーテルアミン;過リン酸塩;アミン;エトキシル化アミン、エトキシル化フェノールおよびエトキシル化アルコールのようなポリエトキシル化された化合物;イミダゾリン;アミノコハク酸、またはそれらの誘導体等が含まれる。これらのタイプの物質は商品として市販されている。このような防錆剤あるいは腐食防止剤の混合物を使用することもできる。本明細書に記載のトランスミッション液組成物中での腐食防止剤の量は、組成物の重量に対し、約0.01重量%から約2.0重量%である。
【0044】
乳化破壊剤
少量の乳化破壊成分が使用されることがある。好適な乳化破壊成分についてはEP330,522号に記載されている。このような乳化破壊成分は、ビスエポキシドを多価アルコールと反応させて得られた付加物を、酸化アルキレンと反応させることによって得られる。乳化破壊剤は活性成分の0.1質量%を超えないレベルで使用されるべきである。活性成分の0.001質量%から0.05質量%の処理率が便利である。
【0045】
流動点降下剤
潤滑油流動性向上剤としても知られる流動点降下剤は、流体が流動するあるいは注がれるようになる最低温度を低下させる。このような添加剤は広く知られている。流体の低温流動性を向上させるこれらの添加剤の典型的なものに、CからC18のフマル酸ジアルキル/酢酸ビニルコポリマー、ポリアルキルメタクリレート、ポリスチレンスクシネートエステル等がある。
【0046】
粘度調整剤
粘度調整剤(VM)は、潤滑油に高温および低温操作性を与える働きをする。使用されるVMの機能はその一つだけであるかもしれないし、また多機能性であるかもしれない。
【0047】
分散剤としても機能する、多機能粘度調整剤もまた知られている。好適な粘度調整剤に、ポリイソブチレン、エチレンやプロピレンおよび高アルファオレフィンのコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物、スチレンとアクリルエステルのインターポリマー、およびスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、およびイソプレン/ブタジエンの部分的に水素化されたコポリマー、そしてブタジエンとイソプレンおよびイソプレン/ジビニルベンゼンの部分的に水素化されたホモポリマーなどがある。
【0048】
消泡剤
泡は、ポリシロキサンタイプ、例えばシリコンオイルあるいはポリジメチルシロキサン
などの消泡剤を含む多くの化合物によってコントロールされる。
【0049】
シール膨張剤
例えば米国特許第3,794,081号および4,029,587号に記載のシール膨張剤が使用されることもある。
【0050】
炭化水素に可溶なチタン化合物
本開示に基づいての使用に適したチタン含有化合物の例には、有機酸;アミン;含酸素剤;フェネート;および、カルボン酸チタン、チタンフェネート、チタンアルコキシド、チタンアミン系化合物、スルホン酸チタン、サリチル酸チタン、チタンジケトン、チタンクラウンエーテルなどのようなスルホン酸から得られたチタン化合物が含まれるが、それらに限定はされない。スルホン酸以外のこのような化合物には、リンおよび硫黄を含むものもあるし、リンおよび硫黄を実質的に欠いているものもある。この化合物の、化合物のヒドロカルビル成分中での炭素数は、約3から約200以上である。好適なチタン化合物の例は、米国特許第2,160,273号、2,960,469号、および6,074,444中に見られる。
【0051】
本明細書に記載の実施例の炭化水素に可溶な化合物が、潤滑組成物中に有益な形で組み込まれている。従って、当該の炭化水素に可溶な化合物は、潤滑油組成物に直接添加することが可能である。しかし一つの実施例では、炭化水素に可溶な化合物が、鉱油、合成油(例えば、ジカルボン酸のエステル)、ナフサ、アルキル化された(例えばC10-C13のアルキル)ベンゼン、トルエン、あるいはキシレンのような、通常は実質的に不活性である有機希釈剤で希釈され、添加剤濃縮物が生成される。当該の添加剤濃縮物は通常、約0重量%から約99重量%の希釈油を含む。
【0052】
潤滑油組成物の生成において、一般的な手順として1重量%から99重量%の活性成分の濃縮物の形態の添加剤濃縮物が、炭化水素オイル、例えばミネラル潤滑油、またはその他の好適な溶媒中に添加される。添加剤濃縮物中に含まれる添加剤の種類に、洗浄剤、分散剤、耐磨耗剤、摩擦調整剤、シール膨張剤、抗酸化剤、消泡剤、潤滑剤、防錆剤、腐食防止剤、乳化破壊剤、粘度指数向上剤等がある。上述の各添加剤は、使用される際、潤滑剤に目的とする特性を与えるために機能的に有効な量で使用される。従って、例えば、添加剤が腐食防止剤である場合、この腐食防止剤の機能的に有効な量は、潤滑剤に目的とする腐食防止特性を与えるために十分な量である。通常、これら各添加剤の使用時の濃度は、潤滑油組成物の重量に対して約20重量%以下、一つの実施例では潤滑油組成物の重量に対して約0.001重量%から約20重量%、またもう一つの実施例では潤滑油組成物の重量に対し、約0.01重量%から約10重量%である。
【0053】
別の実施例では、当該添加剤濃縮物は、完全に組成されたモーターオイル、あるいは完成した潤滑剤中にトップトリートされている。添加剤濃縮物の目的は、多様な材料の最終的な混和物中での溶解あるいは懸濁を助けることに加え、これらの材料の取り扱いをより簡易化しスムーズにすることにある。
【0054】
上述の添加剤で作られた潤滑剤組成物は、多岐に渡る用途で使用されている。圧縮点火エンジンおよび火花点火エンジン用としては、潤滑剤組成物が現行のGF−4規格あるいは提案されているGF−5、または次の「S」カテゴリーのAPI規格を満たすかそれらを越えていることが望ましい。上述のGF−5あるいは次の「S」カテゴリーのAPI規格に基づいた潤滑剤組成物には、完全に組成された潤滑剤を提供するため、基油、DI添加剤パッケージ、および/またはVI向上剤などが含まれる。本開示に基づいた潤滑剤用の基油は、天然潤滑油、合成潤滑油、およびそれらの混合物の中から選択された潤滑粘性のオイルである。このような基油には、自動車やトラックのエンジン、船舶や鉄道用のデ
ィーゼルエンジン等の、火花添加および圧縮点火内燃エンジン用クランクケース潤滑油として従来使用されていた基油が含まれる。
【0055】
いくつかの実施例において、完全に組成された潤滑剤組成物は約100ppmから約900ppmのリンを含んで成る。
【0056】
添加剤は一般的に、その添加剤が目的とする機能をもたらすことができるような量で基油中に混和される。潤滑剤組成物中で使用された際の添加剤の代表的な有効量を以下の表1に表す。すべての数値は活性成分の重量パーセントを示す。これらの数値は例証のみを目的として得られたものであり、実施例をいかようにも制限することを意図するものではない。
【表1】

【0057】
潤滑油組成物に、添加剤を直接添加することができる。しかし、一つの実施例では、添加剤は添加剤濃縮物を生成するため、実質的に不活性で通常は液体である、鉱油、合成油、ナフサ、アルキル化(例えばC10からC13のアルキル)ベンゼン、トルエン、キシレンなどのような有機希釈剤で希釈されている。
【0058】
以下に挙げる例は、実施例の態様の例証を目的とするもので、実施例をいかようにも制限することを意図するものではない。
【0059】
例1
六種類のテスト用組成物を作った。これらの組成物は皆、基油またはプロセスオイルに加え、分散剤、洗浄剤、および上述のその他の従来型添加剤を含んで成る添加剤パッケージを備えている。これらは使用されるモリブデン化合物および抗酸化剤の量によって組成が異なり、酸化安定性がテストされる。
【0060】
組成物A−Fをテストした潤滑剤オイルの酸化安定性を、表2に示すように、TEOST MHT−4テストを用いて評価した。TEOST MHT−4テストは、エンジンオイルの酸化および炭素質の堆積物の形成特性を評価する、潤滑剤業界の標準的なテストである。このテストは、近代のエンジンのピストンリングベルト付近における高温での堆積物形成をシミュレートするように設計されている。このテストでは特許を有する器具(米国特許第5,401,661号および米国特許第5,287,731号、各特許の物質は参照することにより本明細書に組み込まれている)と、比較的新しいテストの修正である、MHT−4プロトコルを使用する。テストの実施およびMHT−4の特定のコンディションに関する詳細は、2000年1月11−13日開催、第12回International Colloquium Technische Akademie Esslingenにて発表された、SelbyおよびFlorkowski著、Wilfried J.Bartz編集の論文、「The Development of the TEOST Protocol MHT as a Bench Test of Engine Oil Piston Deposit Tendency(エンジンオイルピストンへの堆積傾向のベンチテストとしてのTEOSTプロトコルMHTの発達)」に発表されている。通常、堆積量のmg値が低いほど添加剤の質が良い。結果を以下の表に表す。
【表2】

【0061】
表2に示されるように、本開示の実施例が、炭化水素に可溶なモリブデン化合物と、ポリマー系抗酸化剤(AO)の両方を含んでいる場合、テスト製剤Cの堆積はわずか6.1mgであり、本開示で要求している成分の組み合わせを含まないその他のテスト製剤と比較して、著しく優れている。本明細書に記載のポリマー系抗酸化剤を含むが、モリブデン化合物を含んでいない製剤Aの結果は14.70mgの堆積。モリブデン化合物を含みポリマー系抗酸化剤を含まない製剤Bの結果は25.70mgの堆積。また、モリブデン化合物もポリマー系抗酸化剤も含まない対照製剤Dのテストも行ったが、結果は40.70mgの堆積であった。
【0062】
比較のため、テスト製剤EおよびFを、非ポリマーフェノール系抗酸化剤を含み、ポリマー系抗酸化剤を含まないように、また製剤Eはモリブデン化合物も含むように生成した。表に示されるように、製剤Eの結果は25.40mgの堆積と、モリブデン化合物は含むが追加的な抗酸化剤成分を含まない製剤Bの成績に近かった。同様に製剤Fの結果は21.20mgの堆積であった。表2に示す結果によって明らかなように、本明細書に記載のモリブデン化合物とポリマー系抗酸化剤の組み合わせが、潤滑剤組成物Cの酸化安定性に相乗的な向上をもたらすと考えられる。
【0063】
本明細書の全体を通した多くの箇所で、多数の米国特許が参照されている。このような引用文献はすべて、完全に説明されたものとして本開示に明白に組み込まれている。
【0064】
前述の実施例はその実行においてかなり変化する余地がある。従って当実施例は、上記に述べられた特定の例証に制限されることを意図したものではない。むしろ前述の実施例
は、法律的に使用可能なそれらの対応範囲を含む、添付の請求項の精神および範囲内にある。
【0065】
当特許権者は、開示された実施例のいずれをも一般に提供することは意図しておらず、また開示された修正または変更は、それらがすべて完全に請求項の範囲内に収まらない状態になるまで、均等論により当実施例の一部であると見なされる。
【0066】
本発明の主な特徴及び態様を挙げれば以下のとおりである。
1.基油、炭化水素に可溶なモリブデン化合物、および以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る潤滑油組成物であり、
【化11】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基である。
2.炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、硫黄を欠いたモリブデン化合物を含んで成る、上記1に記載の組成物。
3.炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、モリブデンアミン錯体を含んで成る、上記1に記載の組成物。
4.当該組成物が、その総重量に対して約0.01重量パーセントから約0.5重量パーセントのモリブデン化合物を含んで成る、上記1に記載の組成物。
5.当該ポリマー化合物のAが:
【化12】

から成る群の中から選択され、
式中RがCからCのアルキル基から成る群の中から選択されたものである、上記1に記載の組成物。
6.当該潤滑組成物が、組成物の総重量に対し、約0.01重量パーセントから約1.0重量パーセントのポリマー化合物を含んで成る、上記1に記載の組成物。
7.当該ポリマー化合物が
【化13】

から成り、式中nが約0から約10であるような、上記1に記載の組成物。
8.分散剤、耐磨耗剤、洗浄剤、腐食防止剤、炭化水素に可溶なチタン化合物、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、極圧添加剤、粘度指数向上剤、およびそれらの二つ以上の混合物から成る群の中から選択された成分をさらに含んで成る、上記1に記載の組成物。
9.当該組成物が約100ppmから約900ppmのリンを含んで成る、上記1に記載の組成物。
10.当該組成物が、火花点火エンジンおよび圧縮点火エンジンから成る群の中から選択されたエンジン用のクランクケース潤滑剤を含んで成る、上記1に記載の組成物。
11.炭化水素に可溶なモリブデン化合物、および以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る潤滑油組成物用の添加剤濃縮物であり:
【化14】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは
【化15】

から成る群の中から選択された、炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基であり、
式中RはCからCのアルキル基から成る群の中から選択される。
12.当該の濃縮物が、その総重量に対して約0.01重量パーセントから約10.0重量パーセントのポリマー化合物を含んで成る、上記11に記載の添加剤濃縮物。
13.当該ポリマー化合物が、
【化16】

を含んで成り、
式中nが約0から約10であるような、上記11に記載の添加剤濃縮物。
14.炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、硫黄を欠いたモリブデン化合物を含んで成る、上記11に記載の添加剤濃縮物。
15.炭化水素に可溶なモリブデン化合物がモリブデンアミン錯体を含んで成る、上記11に記載の添加剤濃縮物。
16.当該濃縮物が、その総重量に対して約0.01重量パーセントから約5.0重量パーセントのモリブデン化合物を含んで成る、上記11に記載の添加剤濃縮物。
17.分散剤、耐磨耗剤、洗浄剤、腐食防止剤、炭化水素に可溶なチタン化合物、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、極圧添加剤、粘度指数向上剤、およびそれらの二つ以上の混合物から成る群の中から選択された成分をさらに含んで成る、上記11に記載の添加剤濃縮物。
18.潤滑剤組成物を含有したエンジンの作動中に、エンジン潤滑剤組成物の酸化を低下させる方法であり、一つ以上のエンジン部品を潤滑粘性のオイル、有機モリブデン摩擦調整剤、および以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る潤滑剤組成物に接触させることを含んで成る方法:
【化17】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは:
【化18】

から成る群の中から選択された、炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基であり、
式中RはCからCのアルキル基から成る群の中から選択される。
19.当該潤滑組成物が、その総重量に対し約0.01重量パーセントから約1.0重量パーセントのポリマー化合物を含んで成る、上記18に記載の方法。
20.当該のポリマー化合物が、
【化19】

から成り、式中nが約0から約10である、上記18に記載の方法。
21.炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、硫黄を欠いたモリブデン化合物を含んで成る、上記18に記載の方法。
22.炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、モリブデンアミン錯体を含んで成る、上記18に記載の方法。
23.当該組成物が、約100ppmから約900ppmのリンを含んで成る、上記18に記載の方法。
24.当該潤滑剤組成物が、火花点火エンジンおよび圧縮点火エンジンから成る群の中から選択されたエンジン用のクランクケース潤滑剤を含んで成る、上記18に記載の方法。25.当該エンジンがヘビーデューティーディーゼルエンジンを含んで成る、上記24に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油、炭化水素に可溶なモリブデン化合物、および以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る潤滑油組成物であり、
【化1】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基である。
【請求項2】
炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、硫黄を欠いたモリブデン化合物を含んで成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
炭化水素に可溶なモリブデン化合物が、モリブデンアミン錯体を含んで成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
当該組成物が、その総重量に対して約0.01重量パーセントから約0.5重量パーセントのモリブデン化合物を含んで成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
当該ポリマー化合物のAが:
【化2】

から成る群の中から選択され、
式中RがCからCのアルキル基から成る群の中から選択されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
当該潤滑組成物が、組成物の総重量に対し、約0.01重量パーセントから約1.0重量パーセントのポリマー化合物を含んで成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
当該ポリマー化合物が
【化3】

から成り、式中nが約0から約10であるような、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
当該組成物が約100ppmから約900ppmのリンを含んで成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
炭化水素に可溶なモリブデン化合物、および以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る潤滑油組成物用の添加剤濃縮物であり:
【化4】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは
【化5】

から成る群の中から選択された、炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基であり、
式中RはCからCのアルキル基から成る群の中から選択される。
【請求項10】
潤滑剤組成物を含有したエンジンの作動中に、エンジン潤滑剤組成物の酸化を低下させる方法であり、一つ以上のエンジン部品を潤滑粘性のオイル、有機モリブデン摩擦調整剤、および以下の化学式で表される、エステル結合を欠いた一つ以上の抗酸化効果量のポリマー化合物を含んで成る潤滑剤組成物に接触させることを含んで成る方法:
【化6】

式中RおよびRはそれぞれにCからC12のヒドロカルビル基の中から選択され;nは約0から約10の整数;またAは:
【化7】

から成る群の中から選択された、炭素原子数が約1から約30のヒドロカルビル基であり、
式中RはCからCのアルキル基から成る群の中から選択される。

【公開番号】特開2009−132877(P2009−132877A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266493(P2008−266493)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】