説明

抗ADAMTS13モノクローナル抗体

【課題】
本発明の課題は、ADAMTS13に特異的に親和性を有する種々のタイプのモノクローナル抗体の提供ならびに当該モノクローナル抗体の用途を提供することにある。また、本発明の別の課題は、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を提供することである。
【解決手段】
ADAMTS13の測定法、検査法又は機能解析法を鋭意研究し、ADAMTS13を特異的に認識するモノクローナル抗体(以下、ADAMTS13モノクローナル抗体)を得ることに成功し、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を確立し、さらに当該モノクローナル抗体を用いたADAMTS13の検査方法を開発した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォンヴィルブランド因子切断プロテアーゼ(ADAMTS13)分子に対して特異的に親和性を有するモノクローナル抗体およびその製造方法ならびにそれらの用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura; TTP)は、血小板減少、溶血性貧血、動揺性精神神経障害などを特徴とする症候群である。かつては約80%の患者が3ヶ月以内に死亡する予後不良の疾患であった。現在では血漿交換によって、予後が大幅に改善されるようになっている。
【0003】
最近、TTPの病因としてフォンヴィルブランド因子(VWF)切断酵素活性の低下が報告された。すなわち、後天性のTTPは、VWF切断酵素に対するIgG型インヒビターが産生されることによって酵素活性が低下することが原因であることが明らかにされた(非特許文献1及び2)。また先天的なTTPであるUpshaw-Schulman症候群(USS)では、遺伝的にVWF切断酵素が欠損していることが判明した(非特許文献3)。このVWF切断酵素をコードする遺伝子は、ADAMTS13であることが判明した(非特許文献4及び5)。
【0004】
ADAMTS13は亜鉛型メタロプロテアーゼで、VWFサブユニットのTyr842−Met843結合を特異的に切断する。この酵素活性の測定にはVWFを基質として、生じたVWFフラグメントの検出を電気泳動法で行うVWFマルチマー解析により行われている。この方法は、ADMATS13の活性を正確に測定できるという利点はあるが操作が煩雑であるため、とりわけ簡便な測定法の開発が望まれていた。
【非特許文献1】New Engl. J. Med.339,1578-1584,1998。
【非特許文献2】New Engl. J. Med.339,1585-1594,1988。
【非特許文献3】J. Hematol.74,101-108,2001
【非特許文献4】J Biochem.130,475-480,2001。
【非特許文献5】J. Biol. Chem.276,41059-41063,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ADAMTS13に特異的に親和性を有する種々のタイプのモノクローナル抗体の提供ならびに当該モノクローナル抗体の用途を提供することにある。また、本発明の別の目的は、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ADAMTS13の測定法、検査法又は機能解析法を鋭意研究し、ADAMTS13を特異的に認識するモノクローナル抗体(以下、ADAMTS13モノクローナル抗体)を得ることに成功し、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を確立し、さらに当該モノクローナル抗体の用途を見い出した。
【0007】
本発明は以下の構成からなる。
1、フォンヴィルブランド因子切断プロテアーゼ(ADAMTS13)分子に対して特異的に親和性を有し、ADAMTS13の酵素活性を少なくとも30%阻害するモノクローナル抗体。
2、配列表配列番号1に記載のADAMTS13分子のアミノ酸配列の387番目よりN末端側の上流部分に特異的に親和性を有する前記1に記載のモノクローナル抗体。
3、配列表配列番号1に記載のADAMTS13分子のアミノ酸配列の285番目から387番目のアミノ酸までの領域に存在するエピトープを認識することを特徴とする前記1又は2に記載のモノクローナル抗体。
4、配列表配列番号2に記載のアミノ酸配列の全部または一部を有する蛋白質に対して特異的に親和性を有する前記2又は3に記載のモノクローナル抗体

5、配列表配列番号1に記載のADAMTS13分子のアミノ酸配列の1016番目よりC末端側の下流部分に特異的に親和性を有する前記1に記載のモノクローナル抗体。
6、配列表配列番号1に記載のADAMTS13分子の1016番目のアミノ酸から1135番目のアミノ酸までの領域に存在するエピトープを認識することを特徴とする前記1又は5に記載のモノクローナル抗体
7、配列表配列番号3に記載のアミノ酸配列の全部または一部を有する蛋白質に対して特異的に親和性を有する前記5又は6に記載のモノクローナル抗体

8、受託番号がFERM
P−20189又はFERM P−20190であるハイブリドーマにより産生される、前記1〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
9、前記1〜8のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
10、受託番号がFERM P−20189又はFERM P−20190である前記9に記載のハイブリドーマ。
11、前記1に記載の少なくとも1種のモノクローナル抗体と試料とを反応させる工程を含む、試料中のADAMTS13の測定方法。
12、前記2〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体と試料とを反応させる工程を含む、試料中のADAMTS13の測定方法。
13、前記5〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗体と試料とを反応させる工程を含む、試料中のADAMTS13の測定方法。
14、前記2〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体及び請求項5〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗体を組み合わせてもちいる試料中のADAMTS13の測定方法。
15、前記11〜14のいずれかに記載の方法によって、血栓性疾患を検査する方法。
16、 前記1〜8のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む試薬またはキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗ADMATS13モノクローナル抗体は、ADAMTS13酵素抗原分子を特異的に認識するモノクローナル抗体である。当該モノクローナル抗体を用いることにより、ADAMTS13酵素分子の測定、検査することが可能になり、さらにADAMTS13の機能を解析することが可能になる。即ち、本発明の抗ADAMTS13モノクローナル抗体を用いることにより、(1)ウエスタンブロット法によるADAMTS13の迅速な検出及び同定、(2)免疫沈降法(Immunoprecipitation法) による、発現したADAMTS13の検出及び同定、さらに、ADAMTS13と結合性を有する他の蛋白質の検出及び解析、(3)免疫化学的手段によるADAMTS13の測定、検査(4)それらの成果に基づく治療薬、診断薬等の開発等に大きな意義を持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ADAMTS13は、1427個のアミノ酸で構成される酵素蛋白質(配列表配列番号1)で、分子量は約200KDである。その一次構造はマルチドメインからなり、N末端側よりプロペプチド、メタロプロテアーゼドメイン、ディスインテグリン様ドメイン、トロンボスポンディン−1モチーフ、システイン−リッチドメイン、スペーサードメイン、トロンボスポンディン−1モチーフの7回繰り返し構造、そして最後に2つのCUBドメインが続いている。本発明のモノクローナル抗体は、ディスインテグリン様ドメインよりもN末端側を抗原認識している。ADAMTS13に特異的に親和性を有することを特徴とする本発明のモノクローナル抗体(本発明の抗ADAMTS13モノクローナル抗体)はフォンヴィルブランド因子切断プロテアーゼ(ADAMTS13)の酵素活性を少なくとも30%阻害するモノクローナル抗体に関するものである。本発明の抗ADAMTS13モノクローナル抗体はADAMTS13分子のディスインテグリン様ドメインを認識していることを特徴としている。本発明の抗ADAMTS13モノクローナル抗体が認識するエピトープは、該モノクローナル抗体がADAMTS13を特異的に認識し得る限り特に限定されないが、好ましくはADAMTS13の285番目のアミノ酸から387番目のアミノ酸までの領域(配列表配列番号1)内に存在している。
【0010】
また、本発明のモノクローナル抗体の別の態様としては、ADAMTS13分子のトロンボスポンディン−1モチーフの7回繰り返し構造部位を特異的に認識していることを特徴としている。本発明の抗ADAMTS13モノクローナル抗体が認識するエピトープは、該モノクローナル抗体がADAMTS13を特異的に認識し得る限り特に限定されないが、好ましくはADAMTS13の1016番目のアミノ酸から1135番目のアミノ酸までの領域(配列表配列番号2)内に存在している。
【0011】
本発明のモノクローナル抗体は、当分野で通常実施されている方法により調製される。即ち、ADAMTS13に特異的に親和性を有する抗体産生細胞を、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを形成させ、該ハイブリドーマをクローン化し、各蛋白質に特異的な抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。
【0012】
抗原としては目的とする特異性によって異なるが、ADAMTS13蛋白質に対して特異的に親和性を有する抗体を得る場合には、ADAMTS13の全部またはその一部を有するオリゴペプチド等が用いられる。又、抗原性を保持している限りは、当該抗原は、そのアミノ酸配列において、1乃至数個のアミノ酸の欠失や置換、若しくは付加といった変更がなされていてもよい。
【0013】
当該抗原は遺伝子工学的に、あるいは選択した部分的なアミノ酸配列に基づいて合成することによっても調製できる。感作抗原としては、得られたADAMTS13等の蛋白質分子あるいは選択した部分的なアミノ酸配列に基づいたオリゴペプチドをリン酸緩衝液(PBS)等の適当な緩衝液中に溶解、あるいは懸濁したものが用いられる。抗原溶液は通常抗原物質の量として50〜500μg/ml程度の濃度に調製すればよい。また、ペプチド抗原等、それだけでは抗原性が低い場合は、アルブミンやキーホールリンペットヘモシアニン等の適当なキャリヤータンパク質に架橋して用いることが好ましい。該抗原を免疫感作させる動物としてはマウス、ラット、ウマ、ヤギ、ウサギなどが例示される。好ましくはマウス、より好ましくはBALB/cマウスである。このとき、被免疫動物の抗原への応答性を高めるため、当該抗原溶液をアジュバントと混合して投与することができる。本発明において用いられるアジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL+TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussis vaccine)、ムラミルジペプチド(MDP)、アルミニウムアジュバント(ALUM)、およびこれらの組合せが例示されるが、初回免疫時にFCA、追加免疫時にFIAを使用する組み合わせが特に好ましい。
【0014】
免疫方法は、使用する抗原の種類やアジュバント混合の有無等により、注射部位、スケジュールなどを適宜変化させることができるが、例えば、被免疫動物としてマウスを用いる場合は、アジュバント混合抗原溶液0.05〜1ml(抗原物質10〜200μg)を腹腔内、皮下、筋肉内または(尾)静脈内に注射し、初回免疫から約4〜14日毎に1〜4回追加免疫を行い、さらに約1〜4週間後に最終免疫を行う。該抗原溶液をアジュバントを使用せずに投与する場合には、抗原量を多くして腹腔内注射してもよい。抗体価は追加免疫の約5〜6日後に採血して調べる。抗体価の測定は、後述の抗体アッセイに準じ、通常行われる方法で行うことができる。最終免疫より約3〜5日後、該免疫動物から脾細胞を分離して抗体産生細胞を得る。
【0015】
骨髄腫細胞としては、マウス、ラット、ヒト等由来のものが使用される。例えばマウスミエローマP3X63−Ag8、P3X63−Ag8−U1、P3NS1−Ag4、SP2/0−Ag14、P3X63−Ag8・653等が例示されるが、抗体産生細胞と骨髄腫細胞とは同種動物、特に同系統の動物由来であることが好ましい。骨髄腫細胞は凍結保存するか、ウマ、ウサギまたはウシ胎児血清を添加した一般的な培地で継代して維持することができる。細胞融合には対数増殖期の細胞を用いるのが好ましい。
【0016】
抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを形成させる方法としては、ポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法、センダイウイルスを用いる方法、電気融合装置を用いる方法などが例示される。例えばPEG法の場合、約30〜60%のPEG(平均分子量1000〜6000)を含む適当な培地または緩衝液中に脾細胞と骨髄腫細胞を1〜10:1、好ましくは5〜10:1の混合比で懸濁し、温度約25〜37℃、pH6〜8の条件下で、約30秒〜3分間程度反応させればよい。反応終了後、PEG溶液を除いて培地に再懸濁し、セルウエルプレート中に播種して培養を続ける。
【0017】
融合操作後の細胞を選択培地で培養して、ハイブリドーマの選択を行う。選択培地は、親細胞株が死滅し、融合細胞のみが増殖し得る培地であり、通常ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地が使用される。ハイブリドーマの選択は、通常融合操作の1〜7日後に、培地の一部、好ましくは約半量を選択培地と交換することによって開始し、さらに2、3日毎に同様の培地交換を繰り返しながら培養することにより行う。顕微鏡観察によりコロニーが生育しているウエルを確認する。
【0018】
生育しているハイブリドーマが所望の抗体を産生しているかどうかを知るには、培養上清を採取して抗体アッセイを行えばよい。抗体価は、例えば固相化したADAMTS13酵素分子に該上清を加えて反応させ、さらに蛍光物質、酵素、RI等で標識した二次抗体(抗グロブリン、抗IgG、抗IgM血清等)を反応させて測定することができる。このようにして適切な抗体を産生しているウエルを得る。さらに限界希釈法、軟寒天法、蛍光励起セルソーターを用いた方法等により単一クローンを分離する。例えば限界希釈法の場合、ハイブリドーマコロニーを1細胞/ウエル前後となるように培地で段階希釈し、培養することにより目的とするモノクローナル抗体を産生するクローンを単離することができる。得られた抗体産生ハイブリドーマは、約10%(v/v)ジメチルスルホキシド(DMSO)あるいはグリセリン等の凍結保護剤の共存下に凍結させて−70〜−196℃で保存すると、約半年〜半永久的に保存可能である。細胞は用時37℃前後の恒温槽中で急速融解して使用する。凍結保護剤の細胞毒性が残存しないようによく洗浄してから使用するのが望ましい。
【0019】
上記の方法で得られる本発明のモノクローナル抗体は、具体的には、例えばマウス由来かつIgGクラスのモノクローナル抗体であって、A10及びC7と命名されたものである。ハイブリドーマが産生する抗体のサブクラスを調べるためには、該ハイブリドーマを一般的な条件で培養し、その培養上清中に分泌された抗体のクラスを市販の抗体クラス・サブクラス判定用キットなどを用いて分析することにより知ることができる。
【0020】
本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのうち、モノクローナル抗体A10及びC7を産生するハイブリドーマA10株及びC7株は本発明者らによって新たに分離され、具体的には、ブタペスト条約に基づく国際寄託機関である独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に2004年8月31日付けで国内寄託され、受託番号としてFERM P−20189及びFERM P−20190が付されている。
【0021】
モノクローナル抗体の取得は、その必要量やハイブリドーマの性状等によってマウス腹水から取得するか、細胞培養によるか適宜選択できる。マウス腹腔内で増殖可能なハイブリドーマは腹水から数mg/mlの高濃度で得ることができる。インビボで増殖できないハイブリドーマは細胞培養の培養上清から取得する。細胞培養によれば、抗体産生量はインビボより低いが、腹腔内に含まれる免疫グロブリンや他の夾雑物質の混入が少なく、精製が容易であるという利点がある。
【0022】
マウス腹腔内から取得する場合、例えば、予めプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン)等の免疫抑制作用を有する物質を投与したBALB/cマウスの腹腔内へハイブリドーマ(約106
個以上)を移植し、約1〜3週間後に貯留した腹水を採取する。異種ハイブリドーマ(例えばマウスとラット)の場合には、ヌードマウス、放射線処理マウスを使用することが好ましい。
【0023】
一方、細胞培養上清から抗体を取得する場合、例えば、細胞維持に用いられる静置培養法の他に、高密度培養方法あるいはスピンナーフラスコ培養方法などの培養法を用い、当該ハイブリドーマを培養し抗体を含有する培養上清を得る。血清には、他の抗体やアルブミン等の夾雑物が含まれ、抗体精製に不便な点が多いので培養液への添加は少なくすることが望ましい。
【0024】
腹水、培養上清からのモノクローナル抗体の精製は、免疫グロブリンの精製法として従来既知の硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析による分画法、ポリエチレングリコール分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲル濾過法等を応用することで、容易に達成される。さらに、本発明の抗ADAMTS13モノクローナル抗体が、マウスIgG抗体である場合には、プロテインA結合担体あるいは抗マウスイムノグロブリン結合担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製することが可能であり、簡便である。
【0025】
本発明の新規モノクローナル抗体を用いて試料中のADAMTS13を迅速に測定することが可能である。本発明のモノクローナル抗体の1種又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。本発明の1種類のモノクローナル抗体と、もう一種類のモノクローナル抗体の組み合わせ、1種類の本発明のモノクローナル抗体とポリクローナル抗体の組み合わせ、さらには、本発明の一種類のモノクローナル抗体と本発明のモノクローナル抗体の機能以外の機能を有するモノクローナル抗体を組み合わせて用いることも本発明に含まれる。測定方法としては、通常当分野で行われる各種のイムノアッセイが利用され得る。該方法は検体と該抗体とを反応させ、形成される免疫複合体を測定する工程を含むものであれば特に限定されず、沈降反応や凝集反応を光学的に検出する免疫比濁法や、分別検出の容易な物質で標識した抗体を用いる標識化免疫測定法などがある。後者には、免疫複合体の検出に標識としてRIを用いるラジオイムノアッセイ、アルカリホスファターゼやパーオキシダーゼ等の酵素を用いるエンザイムイムノアッセイ、蛍光物質を用いる蛍光イムノアッセイなどが含まれる。標識する対象によって、検出すべき抗体を直接標識する直接法の他、検出すべき抗体の抗体つまり二次抗体を標識する間接法などがある。間接法を用いる場合、例えば本発明の抗ADAMTS13モノクローナル抗体がマウスIgGモノクローナル抗体である場合、二次抗体としては例えば抗マウスIgGポリクローナル抗体等を使用すればよい。該二次抗体の調製法、並びに抗体の蛍光物質、RIおよび酵素等による標識は、当分野で慣用の方法を用いて行うことができる。また、当該測定法にビオチン−アビジン(又はストレプトアビジン)の反応を利用する方法も可能であり、高い感度が要求される測定の場合には好ましく採用される。当該方法としては、例えばビオチンで標識した抗ADAMTS13モノクローナル抗体と蛍光物質等で標識したストレプトアビジンとを組み合わせて用いるものが挙げられる。抗ADAMTS13モノクローナル抗体のビオチンでの標識、ストレプトアビジンの蛍光物質等での標識は、当分野で通常行われる方法を用いて行うことができ、例えば蛍光物質等で標識したストレプトアビジンは商業的にも入手可能である。
【0026】
本発明の測定方法により測定される検体は特に制限はなく血液が一般的であるが、当該測定は細胞、組織レベルで測定可能である他、当該細胞、組織からの抽出物を用いても測定可能である。これらの測定方法は通常当分野で行われている方法を適用し得る。
【0027】
さらに本発明においては、本発明の新規モノクローナル抗体を試薬に含めることができる。ここでいう試薬には、例えば試料中のADAMTS13の検出用試薬、キット、当該酵素分子に密接に関与する分子の検出用試薬、当該酵素分子の精製の為の試薬等が挙げられる。
【0028】
ADAMTS13の検出用試薬としては、測定原理として直接法を用いる場合、該試薬は、例えばRI、酵素、蛍光物質等で標識された該モノクローナル抗体を適当な緩衝液中に溶解した溶液の他、標識検出用試薬、ブロッキング液、洗浄液等から構成される。洗浄液としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)やポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのイオン性または非イオン性界面活性剤あるいはゼラチン等を含有するPBS等の緩衝液(さらにアジ化ナトリウムを含有してもよい)が、ブロッキング液としてはウシ血清アルブミン(BSA)や非イオン性界面活性剤(例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等)などを含有するPBS等の緩衝液(さらにアジ化ナトリウムを含有してもよい)が例示される。バックグラウンドの高い試料を測定する場合などには、ブロッキング液はさらにヤギ等の動物由来血清を含んでいることが好ましい。一方、間接法を用いる場合には、該試薬は、例えば未標識の該モノクローナル抗体および該モノクローナル抗体に特異性を有する、RI、酵素、蛍光物質等で標識された二次抗体、ブロッキング液、洗浄液等から構成される。さらに、電気泳動法等と組み合わせて測定を行う場合、該電気泳動法に使用する試薬等を共に梱包しておくことも可能である。蛍光顕微鏡による蛍光測定を行う為の試薬には、試料(細胞や組織など)の封入剤を共に梱包しておくこともでき、かかる封入剤としては、グリセロール含有PBS、ポリビニルアルコール含有PBS等が好ましく例示される。
【0029】
ADAMTS13の精製用の試薬としては、例えば当該モノクローナル抗体の他に、当分野で一般的に行われているアフィニティー精製の方法に従って、必要なものを含めることができる。具体的には、本発明のモノクローナル抗体
の他、当該モノクローナル抗体を固定化する場合にはその為の担体や試薬、洗浄用や抗原溶出用の緩衝液等が挙げられる。
【0030】
ADAMTS13酵素分子に関与する分子の検出用試薬としては、目的とする分子の性質によっても異なるが、例えば、免疫沈降法を利用した検出法に用いられる試薬が挙げられる。具体的には、本発明のモノクローナル抗体の他、当該モノクローナル抗体を固定化する為の担体、洗浄用の緩衝液等が挙げられ、沈降後の当該分子及びADAMTS13酵素分子の検出には通常の電気泳動用試薬や前述のウエスタンブロット法で用いる試薬と同様のものが例示される。
【0031】
本発明はADAMTS13測定による臨床検査にも適用される。適用される臨床検査は、血栓性血小板減少紫斑症(TTP)、溶血性尿毒症候群(HUS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、脳梗塞、慢性肝疾患、悪性腫瘍、HIV,心筋梗塞、自己免疫疾患、妊娠合併症、急性腎不全等の病状進展のリスクファクターの検査に適用される。
【0032】
本発明のモノクローナル抗体は、ADAMTS13分子に対する機能が特定されているため、ADAMTS13の測定や検査法に適用されるばかりでなく、ADAMTS13の機能解析のツールとしても用いられる。例えば、基質であるVWFとADAMTS13の結合が正常に行われているか否かの機能解析、プロテアーゼ活性が有るか否かの機能解析等に用いることが可能である。さらには、後天的にADAMTS13分子に対する自己抗体出現により、ADAMTS13の活性が減少したり、抗原量が減少したりすることがあるが、このような場合においても、本発明のモノクローナル抗体を用いることにより、自己抗体の性質を検索するツールに用いることも可能である。
【0033】
本発明は、ADAMTS13を測定するための試薬、キット及び上述の検査用の試薬、キットにも及ぶ。試薬、キットの例としては、前記の免疫学的測定法に適したものを適宜選択して用いる。例えばEIA法であれば、抗体を固相化したマイクロプレートや磁性粒子等の固相試薬、標識抗体試薬、酵素基質試薬、標準液、洗浄液等を適宜組み合わせてキット化することが可能である。
【実施例1】
【0034】
ハイブリドーマならびに抗ADAMTS13モノクローナル抗体の作製
ハイブリドーマの作製方法
(1)マウス:7乃至8週令の近交系BALB/c系マウス雌を、動物飼育チェンバー内(23±1℃、湿度70%)で、標準ペレットを使用して飼育し、任意に給水して飼育した。
(2)免疫抗原:C末端フラッグ配列を有するADAMTS13遺伝子をPCRによりcDNAライブラリーより増幅させ、それを発現ベクターpCAGCに繋ぎ、HeLa細胞に導入した。細胞を無血清培地OPTYIMEM I 培地で44時間培養し、培養上清を集め抗FLAG M2モノクローナル抗体で精製したものをADAMTS13抗原として用いた。
(3)免疫方法:
ADAMTS13抗原を100μg/0.5mlとなる様にPBSで調製し、同量(0.5ml)のフロイント完全アジュバント(Freund's
complete adjuvant) (Difco社製)を混合して乳化した。この乳化状の抗原を7週令の4匹の雌のBALB/cマウスの腹腔に1匹あたり200μl投与した。さらに2週間毎に、GERBUVANT(GERBU
Biotechnik,GmbH,D−6901 Guiberg,Germany製)で100μg/mlとなるように調製した上記抗原をマウスあたり20μgずつ4回投与した。さらに1ヶ月後、GERBUVANTで100μg/mlとなるように調製した上記抗原を同様に追加免疫した後、マウスの抗体価を測定した。抗体価の高いマウスはさらに2週間後にPBSで100μg/mlに調製したADAMTS13抗原を、マウス尾静脈より注射して最終免疫とした。尚、抗体価の測定は、当該抗原で免疫したマウスの血清を用いて、後述のスクリーニングの方法に準じて行った。
(4)細胞融合:最終免疫から3日後にBALB/cマウスの摘脾を行い、DMEM培養液中で脾細胞を浮遊させて、脾細胞の浮遊液を作製した。ついで、細胞数を算定し、1.9×108
個の脾細胞を得た。細胞融合は、2−アミノ−6−メルカプトプリン(6−チオグアニン[2-amino-6-mercaptopurine] )耐性のBALB/cマウス由来骨髄腫培養細胞株(P3−X63−Ag8・653、以下X63細胞ともいう)を親細胞株として用いた。X63細胞は、牛胎児血清(fetal
calf serum: FCS)10%を含むDMEM培養液(5μg/ml、6-チオグアニン含有)で継代培養し、細胞融合の3日前より6−チオグアニンを含有しない10%FCS含有DMEM培養液でさらに培養し、対数増殖期の細胞を用いた。X63細胞の細胞数を算定し、1.9×10個の生細胞を得た。DMEM培養液で、ポリエチレングリコール−1500が50(w/v)%濃度となるように溶解し、上記の脾細胞とX63細胞の比が1:1となるように混合し、公知の方法(ケラーとミルスタイン共著,Nature,
第256 巻, 495-497 頁, 1975年、Eur. J. Immunol.
第6 巻, 511-519 頁, 1976年)に準じて細胞融合を行った。その後、10%FCSおよび5%ブリクローン(Archport社製)を添加したDMEM培養液に、1×10-4Mのヒポキサンチン、4×10-7Mのアメソプテリン及び1.6×10-5Mのチミジンを含有するHAT選択液を加え、脾細胞が2.0×106
個/mlとなるように浮遊させた。ついで、この細胞浮遊液の100μlを、96ウエルのマイクロタイタープレートの各ウエルに分注した後、CO2
無菌培養器において温度37℃、湿度100%、5%のCO2条件下で培養を行った。培養開始後、3日目にHAT培地100μLを各ウエルに加え、その後3日おきに半分量のHAT培地を交換しながら培養を行った。その後、2〜3週間後に、目的の抗ADAMTS13モノクローナル抗体を産生するクローンを、ADAMTS13抗原を固相に吸着させたマイクロプレートを用いたエライザ法によるスクリーニングによって検索した。
(5)スクリーニング:上記ハイブリドーマ細胞の培養上清を用いて、ADAMTS13抗原固定化エライザプレートとの反応により選択した。尚、非特異オリゴペプチド固相化エライザプレートに反応する非特異反応性クローンを除去し、ADAMTS13抗原にのみ特異的に反応するクローンを選別した。抗原液として、ADAMTS13抗原を2μg/mlの濃度に調製し、各々、1ウエル当たり50μlずつマイクロタイタープレートに添加し、一晩吸着させた後、Tween−20を0.05%含むリン酸緩衝液(以下洗浄液と略す)で5回洗浄し、さらに10%スキムミルクを含むリン酸緩衝液でブロッキングしADAMTS13抗原固相化プレートを調製した。上記で得られたハイブリドーマ細胞系の培養上清100μLを、当該固相化プレートに添加し、37℃で30分間反応させた後、洗浄液で5回洗浄し、さらにホースラディッシュペルオキシダーゼ(以下HRPと略す)標識した抗マウスイムノグロブリン抗体(ヤギ由来)を37℃で30分反応させた。この反応の後、洗浄液で4回洗浄し、基質液(o−フェニレンジアミン0.4mg/ml及び0.02%H2
2 を含む)を37℃で30分間反応させた後、この反応を2N硫酸で停止させ、主波長492nmでエライザ用プレートリーダーにて吸光度を測定した。ADAMTS13抗原を固相化したエライザプレートに特異的に反応するハイブリドーマ細胞系を選別した後、限界機釈法によりクローニングし、受託番号FERM P-20189及びP-20190のハイブリドーマより、それぞれ抗ADAMTS13モノクローナル抗体、クローンA10とC7を得た。
【実施例2】
【0035】
マウスイムノグロブリンサブクラスの同定:上記、クローニングにより単一クローンとして得られたハイブリドーマ細胞系の産生するモノクローナル抗体のマウスイムノグロブリンサブクラスを決定した。マウスイムノグロブリンサブクラスの同定には、各ハイブリドーマ細胞系の培養上清を用い、セロテック(Serotec)社製Mouse Monoclonal Antibody Isotyping kitを用いた。その結果、クローンA10はIgG2b−κ、クローンC7はIgG1-κであることが判った。
【実施例3】
【0036】
マウスモノクローナル抗体の機能の確認:正常ヒト血漿20μLに対してIgG濃度、0.2−200μg/mLの実施例1で得たモノクローナル抗体を等量混合し、終濃度0.1−100μg/mLとなるように調整し、37℃で120分間インキュベートした後、ヒト血漿中に残存しているADAMTS13活性をVWFマルチマー解析法により測定した。その結果を図1に示した。クローンA10は10μg/mLの濃度で約50%の阻害活性を示し、50μg/mL以上では100%ADAMTS13の活性を阻害した。一方、クローンC7は25μg/mL以上の濃度でADAMTS13の活性を約35%阻害した。以上より、得られたモノクローナル抗体は何れもADMATS13の活性を少なくとも30%阻害することが判った。
【実施例4】
【0037】
マウスモノクローナル抗体の特異性の確認:ADAMTS13分子のN末端アミノ酸より285番目までのポリペプチド、387番目までのポリペプチド、
449番目までのポリペプチド、688番目までのポリペプチド、746番目までのポリペプチド、808番目までのポリペプチド、897番目までのポリペプチド、1016番目までのポリペプチド、1135番目までのポリペプチド及び1427アミノ酸よりなるADAMTS13分子全体を用いて、ウエスタンブロット法により特異性を確認した。その結果を図2に示した。クローンA10とC7の両クローン共にADAMTS13分子と強く反応した。このことから両クローン共にADAMTS13のウエスタンブッロト法による免疫化学的分析に有用であることが判った。そして、クローンA10は少なくともADAMTS13分子のN末端より387番目のアミノ酸よりもN末端側の上流部分にエピトープを有し、285番目までのポリペプチドでは反応を認めないことから、285番目と387番目の領域にエピトープを有していることが判った。一方、クローンC7は1016番目までのポリペプチドとは反応せずに、1135番目までのポリペプチドに反応することから1016番目よりC末端側下流にエピトープが存在し、1016番目から1135番目までの領域にエピトープが存在することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の抗ADAMTS13モノクローナル抗体を用いることにより、(1)ウエスタンブロット法によるADAMTS13の迅速な検出及び同定、(2)免疫沈降法(Immunoprecipitation法) による、発現したADAMTS13の検出及び同定、さらに、ADAMTS13と結合性を有する他の蛋白質の検出及び解析、(3)免疫化学的手段によるADAMTS13の測定、検査(4)それらの成果に基づく治療薬、診断薬等の開発に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のモノクローナル抗体のADAMTS13の酵素活性の阻害機能を示した図である。
【図2】本発明のモノクローナル抗体によるADAMTS13分子のウエスタンブロットの結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォンヴィルブランド因子切断プロテアーゼ(ADAMTS13)に対して特異的に親和性を有し、ADAMTS13の酵素活性を少なくとも30%阻害するモノクローナル抗体。
【請求項2】
配列表配列番号1に記載のADAMTS13分子のアミノ酸配列の387番目よりN末端側の上流部分に特異的に親和性を有する請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
配列表配列番号1に記載のADAMTS13分子のアミノ酸配列の285番目から387番目のアミノ酸までの領域に存在するエピトープを認識することを特徴とする請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
配列表配列番号2に記載のアミノ酸配列の全部または一部を有する蛋白質に対して特異的に親和性を有する請求項2又は3に記載のモノクローナル抗体

【請求項5】
配列表配列番号1に記載のADAMTS13分子のアミノ酸配列の1016番目よりC末端側の下流部分に特異的に親和性を有する請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
配列表配列番号1に記載のADAMTS13分子の1016番目のアミノ酸から1135番目のアミノ酸までの領域に存在するエピトープを認識することを特徴とする請求項1又は5に記載のモノクローナル抗体
【請求項7】
配列表配列番号3に記載のアミノ酸配列の全部または一部を有する蛋白質に対して特異的に親和性を有する請求項5又は6に記載のモノクローナル抗体

【請求項8】
受託番号がFERM
P−20189又はFERM P−20190であるハイブリドーマにより産生される、請求項1〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項10】
受託番号がFERM P−20189又はFERM P−20190である請求項9記載のハイブリドーマ。
【請求項11】
請求項1に記載の少なくとも1種のモノクローナル抗体と試料とを反応させる工程を含む、試料中のADAMTS13の測定方法。
【請求項12】
請求項2〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体と試料とを反応させる工程を含む、試料中のADAMTS13の測定方法。
【請求項13】
請求項5〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗体と試料とを反応させる工程を含む、試料中のADAMTS13の測定方法。
【請求項14】
請求項2〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体及び請求項5〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗体を組み合わせてもちいる試料中のADAMTS13の測定方法。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれかに記載の方法によって、血栓性疾患を検査する方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含む試薬またはキット。

































【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−117537(P2006−117537A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303784(P2004−303784)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月4日 日本臨床検査医学会主催の「第51回 日本臨床検査医学会総会」において文書をもって発表
【出願人】(592037055)株式会社日本医学臨床検査研究所 (13)
【出願人】(593113525)
【出願人】(504309184)
【出願人】(504389762)
【Fターム(参考)】