説明

抗CD14抗体融合蛋白質

【課題】抗CD14抗体と蛋白分解酵素阻害物質とを含有する新規蛋白質、それをコードするポリヌクレオチド、新規蛋白質の製造方法および新規蛋白質を含有する敗血症予防治療剤等の提供。
【解決手段】(I)抗CD14抗体もしくはその活性断片またはそれらの誘導体、および、(II)蛋白分解酵素の阻害物質もしくはその活性断片またはそれらの誘導体を含有する蛋白質の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CD14抗体と蛋白分解酵素阻害物質とを含有する新規蛋白質、それをコードするポリヌクレオチド、新規蛋白質の製造方法および敗血症等における新規蛋白質等の医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は、感染素因があり全身性炎症性症候群(SIRS)の病態を呈する疾患と定義される(非特許文献1参照)。初期症状として悪寒、発汗、発熱や血圧低下が認められるが、各種の炎症性メディエーターおよび血液凝固系因子の亢進が全身性に起こると、微小循環障害を惹起し、組織障害、臓器障害へと病態が重症化し、しばしば多臓器不全あるいは敗血症性ショックを続発して死亡に至る疾患である。
敗血症発症のトリガー段階は、感染細菌の構成成分、例えば、グラム陰性細菌におけるリポ多糖(LPS)やグラム陽性細菌におけるリポタイコ酸(LTA)などが白血球(単球/マクロファージおよび好中球)や血管内皮細胞に作用し、各種炎症メディエーターの産生を惹起するイベントである。近年の研究により、細菌構成成分によるこれら標的細胞の活性化には、本来白血球の分化抗原として見出されたCD14(非特許文献2参照)、および自然免疫系におけるパターン認識分子として位置付けられるToll-like-receptors(TLR)が重要な働きをしていることが明らかにされている(非特許文献3参照)。
【0003】
CD14は膜結合型と可溶型の2つの形態で存在する。膜結合型はグリコシルフォスファチジルイノシノトールにより細胞膜上にアンカリングされて存在し、可溶型には肝臓で合成されたものと、白血球上でフォスファチジルイノシトール特異的フォスフォリパーゼによって切り出されて血中に存在する(非特許文献4参照)ものがある。例えばLPSによる標的細胞の活性化は、血中に存在するLPS結合蛋白質(LBP)による触媒的作用を受けてLPSのCD14への結合が促進され、細胞膜上のTLRに結合して活性化シグナルを標的細胞に伝える。活性化シグナルを受けた標的細胞からは、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-8等のサイトカイン産生や組織因子の発現など、炎症反応に関わる各種のメディエーターが産生される。代表的なメディエーターであるサイトカインは好中球やマクロファージを活性化し、血管内皮への接着、組織内遊走、好中球エラスターゼに代表される中性プロテアーゼの放出、および活性酸素種の産生が起こる。これには凝固・線溶系の活性化、補体系の活性化、カリクレインの活性化も関与する。このように分子レベルおよび細胞レベルでは、多数のメディエーター分子およびエフェクター分子が病態形成に関わっており、一連の反応が過剰に亢進した場合には、全身的な傷害作用が現れる結果となり、前述の通り、微小循環障害から、組織障害、臓器障害へと病態が重症化する。
【0004】
このように複雑な病態を呈する敗血症に関して、その治療薬に関する研究が数多くなされている。治療薬開発のアプローチとしては、発症起因物質である細菌構成物質の作用を阻害する方法と発症起因物質のシグナルに応答して生体側が応答して発現する各種の因子を阻害する方法とに大別することができる。
【0005】
グラム陰性細菌由来のエンドトキシンの作用を阻害することによる治療法としては、(1)抗エンドトキシン抗体を用いる方法(非特許文献5〜6参照)(2)エンドトキシンアンタゴニストを用いる方法(非特許文献7参照)、(3)ポリミキシンBを用いる方法(非特許文献8参照)、および(4)BPIを用いる方法(非特許文献9参照)等が考案されている。エンドトキシンは、グラム陰性細菌の菌体成分であり、グラム陽性細菌や真菌などの敗血症起因細菌には存在しない物質であるため、エンドトキシンを標的とした敗血症治療薬はグラム陰性細菌以外の原因菌の場合には適応できないという問題を抱えている。
【0006】
グラム陰性細菌の構成物質であるLPSの受容体として機能するCD14を標的とする敗血症治療薬も考案されている。近年、CD14はLPS受容体としてのみならず、グラム陽性細菌の構成物質であるリポタイコ酸やペプチドグリカン等の細菌構成物質の受容体としても機能していることが判明しており(非特許文献10参照)、CD14を標的とする敗血症治療薬の適用範囲がグラム陰性細菌敗血症にとどまらないことが示唆される。具体的な治療薬として抗CD14抗体(特許文献1〜2参照)や可溶型CD14(非特許文献11参照、特許文献3〜4参照)が考案されているが、実用には至っていない。敗血症病態は、原因菌構成物質による炎症反応のトリガー段階からシーケンシャルにかつ複合的に形成され、重症化へと進展していくものと推定される。CD14標的治療薬の短所は、その作用が病態形成の初期のトリガー段階にフォーカスされるため、重症化した病態後期への効果が懸念されることである。
【0007】
一方、生体側の過剰産生因子を標的とする治療法のうち、サイトカイン等の炎症メディエーターを阻害することによる治療法としては、(1)抗TNF抗体を用いる方法(非特許文献12参照)、(2)可溶型TNF受容体を用いる方法(非特許文献13参照)、(3)IL-1受容体アンタゴニストを用いる方法(非特許文献14参照)、(4)PAF阻害剤を用いる方法(非特許文献15参照)、(5)NO阻害剤を用いる方法(非特許文献16参照)などが考案されている。これらの治療法は、実験動物および小規模の臨床試験段階ではその効果が示されているものの、大規模な臨床試験段階ではその有効性、有用性を明確に実証するには至っていない。前述の通り、サイトカイン等の炎症メディエーターは、各々が複数の活性を持ち、各々が作用を補完し、また相互に発現を誘導するなど、複雑なネットワークを形成してイベントを発生させているため、一つの因子を阻害することによる治療には限界があるものと推察されている(非特許文献17参照)。
【0008】
一連の敗血症病態形成に関るメディエーターの相互作用の過程で亢進する血液凝固系因子を標的とする治療法も考案されている。血液凝固系の亢進は、微小血液循環系障害を招き、これが末梢組織への酸素供給低下、組織障害、さらには多臓器不全へと至るため治療薬の重要ターゲットの一つと考えられている。具体的な方法として、(1)活性化プロテインCを用いる方法 (非特許文献18参照)、(2)アンチトロンビンIIIを用いる方法(非特許文献19参照)、および(3)TFPIを用いる治療法(非特許文献20参照)などがある。活性化プロテインCによる重症敗血症治療は大規模な臨床試験においても有意な治療効果を示し(非特許文献21参照)、臨床の場に提供されているが、出血傾向のある患者への適用禁忌など、実践的に利用する場面では大きな制限があることが問題とされている。
【0009】
【特許文献1】特許第2744130号公報
【特許文献2】国際公開第02/42333号パンフレット
【特許文献3】特表平10−512142号公報
【特許文献4】国際公開第01/72993号パンフレット
【非特許文献1】The ACCP/SCCM Consensus Conference Committee. Chest,1992,101,1644-1655
【非特許文献2】Goyert S.M.,Ferrero E., in McMichael A.(ed.): Leukocyte Typing III. Oxford,Oxford University Press,1987
【非特許文献3】Zhang G., Ghosh S., Endotxin Res.,2000,6,453-457
【非特許文献4】Stelter F., Structure/Function relationship of CD14; in Jack R.S.(ed.): CD14 in the Inflammatory Response. Chem. Immunol..Basl, Karger,2000,74, pp25-41
【非特許文献5】Ziegler E.J., et al., New Engl. J. Med.,1991,324, 429-436
【非特許文献6】Greenman R.L.,et al., JAMA,1991,266,1097-1102
【非特許文献7】Kawata T., et al., Prog Clin Biol Res.,1995,392.499-509
【非特許文献8】Tani T., et al., Artif. Organs,1998,22, 1038-1045
【非特許文献9】Lin Y., et al., Antimicrob. Agents Chemother.,1996,40,65-69
【非特許文献10】Cleveland, Infect Immun.,1996,64,1906-1912
【非特許文献11】Goyert S.M., J.Immunol.,1995,154,6529-6532
【非特許文献12】Fischer C.J.,et al., Crit,Care Med.,1993,21,318-327
【非特許文献13】Fischer C.J., et al., N. Engl.J.Med.,1996,334,1697-1702
【非特許文献14】Fischer C.J.,et al., JAMA,1994,271,1836-1843
【非特許文献15】Dhainaut J.F., et al., Crit. Care Med.,1994,22,1720-1728
【非特許文献16】Gachot B., Intensive Care Med.,1995,21,1027-1031
【非特許文献17】Vincent J.L., et al., CID,2002,34,1984-1093
【非特許文献18】Rivard G.E., et al., J.Peditr.,1995,126,646-652
【非特許文献19】Fourrier F.,et al., Chest,1993,104,882-888
【非特許文献20】Abraham E., et al., Crit.Care Med.,2000,28,S31-33
【非特許文献21】Bernard,G.R.,et al., N. Engl. J. Med.,2001,344,699-709
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかる状況において、本発明者らは、抗CD14抗体と蛋白分解酵素阻害物質とを結合させた新規蛋白質が従来技術の問題を解決し得ることを着想し、新規蛋白質を作製してその効果を確認した。本発明の目的は、抗CD14抗体と蛋白分解酵素阻害物質とを含有する新規蛋白質、それをコードするポリヌクレオチド、新規蛋白質の製造方法および新規蛋白質を含有する敗血症予防治療剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の代表的な態様を以下に示す。本発明の第一の態様は、(I)抗CD14抗体もしくはその活性断片またはそれらの誘導体、および、(II)蛋白分解酵素の阻害物質もしくはその活性断片またはそれらの誘導体を含有する、新規な蛋白質である。すなわち、
(1)(I)抗CD14抗体もしくはその活性断片またはそれらの誘導体、および、(II)蛋白分解酵素の阻害物質もしくはその活性断片またはそれらの誘導体を含有する蛋白質、
(2)前記(II)の阻害物質が蛋白性阻害物質である、前記(1)の蛋白質、
(3)前記(II)の阻害物質が多価酵素阻害物質である、前記(1)〜(2)の蛋白質、
(4)前記(II)の蛋白分解酵素が血液凝固因子(血液凝固系蛋白分解酵素)または炎症性プロテアーゼである、前記(1)〜(3)の蛋白質、
(5)前記(II)の蛋白分解酵素がFXaおよび/またはFXIaである、前記(1)〜(4)の蛋白質、
(6)前記(II)の蛋白分解酵素がトロンビンである、前記(1)〜(4)の蛋白質、
(7)前記(II)の阻害物質がUTI由来である、前記(1)〜(6)の蛋白質、
(8)前記(II)の阻害物質がトロンボモジュリン由来である、前記(1)〜(6)の蛋白質、
(9)前記(II)の阻害物質がUTIの第二ドメイン由来である、前記(1)〜(6)の蛋白質、
(10)前記(II)の阻害物質がトロンボモジュリンの機能ドメイン由来、特にEGF様ドメイン由来である、前記(1)〜(8)の蛋白質、
(11)前記(II)の蛋白分解酵素がエラスターゼである、前記(1)〜(4)の蛋白質、
(12)前記(II)の阻害物質が分泌性白血球プロテアーゼインヒビターである、前記(1)〜(4)または(11)の蛋白質、
(13)前記(II)の阻害物質がUTI第二ドメインの1〜4の何れかの数のアミノ酸置換変異体である、前記(1)〜(11)の蛋白質、
(14)前記(I)の抗CD14抗体が中和能を有する抗体である、前記(1)〜(13)の蛋白質、
(15)前記(I)の抗CD14抗体がヒトCD14のアミノ酸番号269〜315の領域の少なくとも一部を認識する抗体である、前記(1)〜(14)の蛋白質、
(16)前記(I)の抗CD14抗体がキメラ抗体である、前記(1)〜(15)の蛋白質、
(17)前記(I)の抗CD14抗体がヒト化抗体である、前記(1)〜(16)の蛋白質、または、
(18)前記(I)の抗CD14抗体が、表2に記載の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3を重鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3として、または、表2に記載の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を軽鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3として含有する、前記(1)〜(17)の蛋白質である。
【0012】
本発明の第二の態様は、第一の態様の蛋白質の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドである。すなわち、
(19)前記(1)〜(18)の蛋白質の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドである。
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様のポリヌクレオチドを含有するベクターである。すなわち、
(20)前記(19)のポリヌクレオチドを含有するベクターである。
本発明の第四の態様は、本発明の第二の態様のポリヌクレオチドまたは本発明の第三の態様のベクターを含有する細胞である。すなわち、
(21)前記(19)のポリヌクレオチドまたは前記(20)のベクターを含有する細胞である。
本発明の第五の態様は、本発明の第二の態様のポリヌクレオチド、本発明の第三の態様のベクターまたは本発明の第四の態様の細胞の少なくともいずれか一つを用いることを特徴とする、本発明第一の態様の蛋白質の製造方法である。すなわち、
(22)前記(19)のポリヌクレオチド、前記(20)のベクターまたは前記(21)の細胞の少なくともいずれか一つを用いることを特徴とする、前記(1)〜(18)の蛋白質の製造方法である。
本発明の第六の態様は、本発明第一の態様の蛋白質、本発明の第二の態様のポリヌクレオチド、本発明の第三の態様のベクターまたは本発明の第四の態様の細胞の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、疾患の予防および/または治療剤である。すなわち、
(23)前記(1)〜(18)の蛋白質、前記(19)のポリヌクレオチド、前記(20)のベクターまたは前記(21)の細胞の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、疾患の予防および/または治療剤、または、
(24)前記疾患が敗血症、重症敗血症もしくは敗血症ショック、SIRS関連疾患、エンドトキシンショック、またはARDSである、前記(23)の予防および/または治療剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る新規蛋白質は、抗CD14抗体または蛋白分解酵素阻害物質等がそれぞれ単独では無効または効果が不充分な、疾患もしくは病態、またはそれらにおける特定の症状もしくは治療指標に対して、有効である。該蛋白質は、in vivoにおける安定した抗炎症作用ならびに抗凝固作用および/またはエラスターゼ阻害作用を併せ持つことにより、たとえば、敗血症の予防および/または治療薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明第一の態様の蛋白質は、その種類については特に制限されず、単純蛋白質(またはポリペプチド)および複合蛋白質(糖蛋白質他)等を含む。
本発明第一の態様の蛋白質において、(I)抗CD14抗体もしくはその活性断片またはそれらの誘導体と(II)蛋白分解酵素阻害物質もしくはその活性断片またはそれらの誘導体の結合様式は、特に限定されず、通常共有結合であるが、化学的方法(化学合成法もしくはケミカルコンジュゲーション)または遺伝子組換技術の何れによる結合であっても良い。本発明第一の態様の蛋白質は、好ましくは遺伝子工学的に作製される融合蛋白質である。
【0015】
前記(II)の蛋白分解酵素阻害物質は、抗体の重鎖もしくは軽鎖の何れか、または双方に結合しても良いが、通常、抗体の重鎖、特に、重鎖のC末端側に融合させる。前記(II)の蛋白分解酵素阻害物質の結合数は必ずしも限定されず、抗体あたり1分子でも複数分子でも良い。また、必要に応じて、適当なリンカーまたはスペーサー等を用いてもよい。これらの方法、リンカーまたはスペーサー等は当業者に周知であり、具体的な例は実施例に示されている。
【0016】
本発明の蛋白質において、(I)抗CD14抗体または(II)蛋白分解酵素阻害物質の活性断片とは、(I)抗CD14抗体または(II)蛋白分解酵素阻害物質が本来有する活性または機能の少なくとも一つを発現または保持し得る部分を含有する断片であり、活性領域または機能ドメインを包含する。また、本発明の蛋白質において、(I)抗CD14抗体もしくは(II)蛋白分解酵素の阻害物質またはそれらの活性断片の誘導体とは、(I)抗CD14抗体もしくは(II)蛋白分解酵素の阻害物質またはそれらの活性断片に何らかの修飾もしくは変異または付加等を伴うもので、例えば、他の化学物質(例えば、ポリエチレングリコール等)を含有するもの、または、1以上、好ましくは1ないし数個のアミノ酸の変異、例えば、付加、欠失、挿入または置換を伴うものが含まれ、変異体、改変体および修飾体を包含する。これらは、(I)抗CD14抗体もしくは蛋白分解酵素阻害物質またはその活性断片が本来有する活性または機能の少なくとも一つ、好ましくは全てを発現または保持し得る。
【0017】
本発明第一の態様の蛋白質は、(I)抗CD14抗体または(II)蛋白分解酵素阻害物質が本来有する活性の各々少なくとも一つ、好ましくは全てを発現または保持する。本発明第一の態様の蛋白質は、(I)抗CD14抗体および(II)蛋白分解酵素阻害物質の本来の活性の各々少なくとも一つ、好ましくは全てを併せ持つことにより、(I)抗CD14抗体または(II)蛋白分解酵素阻害物質等単独では無効または効果が不充分な、疾患もしくは病態、またはそれらにおける特定の症状もしくは治療指標に対しても、有効である。
本発明第一の態様の蛋白質において(II)蛋白分解酵素の阻害物質は必ずしも限定されず、非蛋白性阻害物質または低分子化合物等であっても良いが、好ましくは蛋白性阻害物質である。
【0018】
(II)は特定の酵素に特異的であっても良いが、複数の酵素を阻害する多価酵素阻害物質が好ましい。多価酵素阻害作用を有する物質としては、クニッツ型プロテアーゼインヒビター、例えば、尿トリプシンインヒビター(UTI)、分泌性白血球プロテア−ゼインヒビター(SLPI:Secretory Leucocyte Protease Inhibitor)、組織因子経路インヒビター(TFPI:tissue Factor pathway inhibitor)およびアプロチニン等が挙げられ、好ましくは、UTI、SLPIおよびTFPIである。
UTIは、ビクニンまたはウリナスタチンと同一であり、トリプシン、プラスミンおよび好中球エラスターゼ等に対するプロテアーゼインヒビターである。
SLPIは、好中球エラスターゼおよびカテプシン等に対するインヒビターである。
TFPIは、リポ蛋白結合性凝固インヒビター(LACI:lipoprotein-associated coagulation inhibitor)または外因系凝固インヒビター(EPI:extrinsic pathway inhibitor)とも呼ばれ、血液凝固第Xa因子(FXa)と結合して、第VIIa因子−組織因子(第III因子)複合体を阻害し、外因系血液凝固の開始を抑制する。
【0019】
その他の多価酵素阻害物質としては、α2-マクログロブリン(α2-MG)、アンチトロンビンIII(ATIII)およびα1-アンチトリプシン(α1-AT:α1-antitrypsin)がある。α2-MGは、約770,000の巨大な分子量を持つ血漿蛋白の1つで、トロンビン、FXa、プラスミン、トリプシン、キモトリプシンおよびエラスターゼ等を阻害する。ATIIIは、FXaやトロンビンなどのセリンプロテアーゼと1対1の複合体を形成し、凝固反応を制御する。ATIIIは、N末端にヘパリン結合ドメインを、C末端にトロンビンとの反応部位を有し、ヘパリンとの結合によりその抗トロンビン活性が約1000倍に増強する。α1-ATは、分子量51000、394個のアミノ酸からなる糖蛋白で、トロンビン、プラスミン、トリプシン、キモトリプシンおよびエラスターゼ等の種々のセリンプロテアーゼを阻害する。
【0020】
本発明の蛋白質における前記(II)は、抗凝固作用もしくはブラジキニン産生をもたらす因子を含む血液凝固因子(血液凝固系蛋白分解酵素)阻害作用、特に活性化血液凝固因子阻害作用、または、抗炎症作用もしくは炎症性プロテアーゼ阻害作用を有する阻害物質が好ましい。ここで、血液凝固因子としては、具体的にはカリクレイン、トロンビン、FVa、FVIIa、FVIIIa、FIXa、FXa、FXIa、FXIIaおよびFXIIIa等が挙げられ、それらの内、特に、カリクレイン、トロンビン、FVa、FVIIIa、FIXa、FXa、FXIaおよびFXIIIaが重要な、さらに、トロンビン、またはFXaおよびFXIaが最も重要な標的酵素である。また、炎症性プロテアーゼとしては、具体的にはエラスターゼ、トリプシン、キモトリプシンおよびカテプシン類が挙げられ、特にエラスターゼ、具体的には好中球エラスターゼおよび膵エラスターゼ、特に好中球エラスターゼが重要な標的酵素である。本発明の蛋白質または本発明の蛋白質における前記(II)の阻害物質の蛋白分解酵素阻害活性は、公知の材料および方法を利用して測定し得るが、具体例は実施例に記載されている。
【0021】
抗凝固作用または血液凝固因子阻害作用を有する阻害物質としては、公知の物質を利用し得る。具体的にはTFPI、ATIII、α1-ATおよびα2-MG、ならびに、UTIおよびトロンボモジュリン(TM)、それらの活性断片およびそれらの誘導体等が挙げられ、好ましくは、TMまたはUTI、それらの活性断片もしくはそれらの誘導体、より好ましくは、TM機能ドメインまたはFXaおよび/またはFXIaに対する阻害活性を有するUTIの第二ドメイン(UTI-D2)もしくはその改変体、特にその3アミノ酸置換変異体(UTI-D2(3))である。UTI、UTI-D2およびUTI-D2(3)のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列ならびに調製方法等は、特開平5−84083、特開平5−308988、特開平6−25289および特開平6−321989等に記載されており、これらを参考とし得る。
トロンボモジュリン(TM)は、血管内皮細胞が産生する抗凝固因子の1つであり、細胞膜上でトロンビンと複合体を作り、続いてプロテインCが活性化され、血液凝固反応が抑制される。TMは1981年に発見され、血管内皮細胞上に存在し、トロンビンを凝固酵素から抗凝固酵素に変換する。また、トロンビン活性を直接阻害するとともに、プロテインC(PC)の活性化を促進し、生じた活性化プロテインC(APC)は、活性化血液凝固因子第V因子(FVa)、第VIII因子(FVIIIa)を不活性化することによって血液凝固カスケード反応にネガティブフィードバックをかけ、トロンビンの生成を抑制する。つまりTMはトロンビン依存性に凝固・線溶活性の双方を阻害する。この作用には、ヘパリンのようにアンチトロンビンIIIを必要とせず、出血傾向の助長が少ないとされている。
本発明で用いるTM、その活性断片および誘導体は、TMのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列、ならびにTMのドメイン構造と機能が公知(例えば、黒澤晋一郎、別冊・医学のあゆみ 血液疾患−state of arts (Ver.2),1998年、205−207頁)であることから、それらを基に、公知の方法で調製し、また、活性を測定しうる(例えば、特開平1−6219及びWO88/5053)。TMは5つのドメイン、すなわち、細胞外のN末端より、レクチン様ドメイン、Epidermal growth factor(EGF)様ドメイン、O型糖鎖結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン(Kurosawa,S et al.,J.Biol.Chem.,263,5993,1988)からなりそのひとつEGF様ドメインは6つの繰り返し単位からなる(本明細書ではEGF1−6またはTM123456のように記載することがある)。その活性最小単位は、EGF様ドメインの第4〜6番目の繰り返し単位、すなわちEGF4−6とされている。
TMの好ましい活性断片、誘導体または機能ドメインの例としては、EGF様ドメイン、それを含有するTMの活性断片もしくはその誘導体、またはEGF様ドメインの活性断片もしくはその誘導体、好ましくはEGF4−6、さらに好ましくはEGF3−6、特に好ましくはEGF2−6、それを含有するTMの活性断片もしくはその誘導体、具体的には、実施例で作製されたTMの活性断片もしくはその誘導体であり、特に、TM23456M、TM234567Mまたはそれらの活性断片もしくは誘導体である。誘導体の好ましい例としては、TMのアミノ酸番号388番目のメチオニンをロイシンに置換した変異体(M388L)が挙げられ、TM23456LおよびTM234567Lである。これらの作製方法および活性測定方法は、公知の方法に従ってもよく、具体的には、実施例に記載されている。
【0022】
抗炎症作用または炎症性プロテアーゼ阻害作用を有する阻害物質としては、種々のものが知られているが、特にエラスターゼ阻害物質が好ましく、公知の物質を利用し得る。具体的には、UTI、UTI-D2、SLPI、α1-ATおよびα2-MGもしくはこれらの活性断片もしくは誘導体、好ましくはUTI、特にエラスターゼ阻害活性を有するUTI第二ドメイン改変体、具体的にはUTI−D2の3アミノ酸置換変異体、UTI−D2の4アミノ酸置換変異体(UTI−D2(4)のように記載することもある)および、SLPI、特にその後半部分(C末端ポリペプチド)である。SLPIおよびその後半部分(C末端ポリペプチド)のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列ならびに調製方法等は、特開平6−80697等に記載されており、これらを参考とし得る。
UTI−D2の3アミノ酸または4アミノ酸置換変異体の具体例は、実施例7の表9に示されており、特に、UTI−D2(4)(R11S/R15T/Q19K/Y46D)が好ましい。
FXaおよび/またはFXIaに対する阻害活性ならびにエラスターゼ阻害活性を有する、UTI第二ドメイン改変体、具体的にはUTI-D2(3)は特に好ましい。
【0023】
本発明第1の態様の蛋白質において、抗CD14抗体は、CD14、好ましくはヒトCD14に結合するものであれば、特定の抗体に限定されない。本発明の蛋白質において、前記(I)の抗CD14抗体は、蛋白分解酵素阻害物質と相乗的に作用し、または、該蛋白質もしくは該阻害物質の機能もしくは効果を向上させる。本発明第1の態様の蛋白質における前記(I)の抗CD14抗体は、CD14阻害作用の有無によっては限定されないが、好ましくはCD14阻害作用を有する抗体である。ここで、CD14阻害作用とは、CD14の機能、例えば、LPSとの結合能、TLRとの相互作用、TLR発現細胞の活性化、具体的にはNF-κBの活性化もしくはIL-8産生、または内皮細胞のサイトカイン産生、例えば、IL-6産生等の少なくとも1つを阻害する作用を言い、好ましくは、CD14とTLR、特に、TLR2またはTLR4との結合を阻害する作用である。
【0024】
好適な例として、公知の抗CD14抗体、特に、WO02/42333等に開示された抗体、および、公知の方法、特に、WO02/42333等に開示された方法により取得される抗体が挙げられる。また、それらの抗体から作製されるキメラ抗体およびヒト化抗体も本発明の蛋白質における、前記(I)の抗CD14抗体に含まれる。
【0025】
本発明の蛋白質において、前記(I)の抗CD14抗体は、CD14、好ましくはヒトCD14に結合するものであれば、その認識領域または結合領域は必ずしも限定されないが、好ましくは、ヒトCD14のC末端側領域、特に、アミノ酸番号269〜315、より好ましくはアミノ酸番号285〜307、さらに好ましくは、アミノ酸番号294〜296の少なくとも一部を認識または結合するものであり、具体的には、これらのいずれかを含有するCD14の部分またはCD14上の抗原決定領域を認識または結合する抗体である。また、表5に記載のCD14アミノ酸置換変異体(以下、アミノ酸置換体、アミノ酸置換改変体またはアミノ酸改変体と記載することがある)の内、P294H、Q295A、P296HおよびP294/296Aの少なくとも1つ、好ましくは全てとの結合性がヒトCD14との結合性と比較して有意に低下している抗体であり、より好ましくは、該結合性の低下に加えて、他の変異体との結合性が実質的に変化していない抗体である。本発明の蛋白質における(I)の抗CD14抗体の認識領域または結合領域は、公知の材料および方法、例えば、WO02/42333に記載の材料および方法を利用して確認し得るが、好適な例は実施例に記載されている。
また、表5に記載の変異体の内、特定のもの、特に、P294H、Q295A、P296HおよびP294/296Aの少なくとも1つ、好ましくは全てとの結合性がヒトCD14との結合性と比較して有意に低下していること、より好ましくは、該特定の変異体に対する結合性の低下に加えて、他の変異体との結合性が実質的に変化していないことを指標として、CD14阻害活性を有する抗CD14抗体を簡便にスクリーニングもしくは同定または調製することができ、本発明はそのような方法をも提供する。
【0026】
本発明第一の態様の蛋白質において、前記(I)の抗体は、ポリクローナル抗体であっても良いが、モノクローナル抗体が好ましい。また、由来する動物種は特に限定されない。抗体作製の容易さの面では、マウスまたはラットが好ましい。医薬品組成物の構成物の面では、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることが好ましい。ヒト抗体には、ヒト抗体遺伝子組換トランスジェニックマウスに免疫して作製したヒト抗体も含まれる。この他にもファージ抗体等も本発明の抗体に含まれる。ヒト化抗体は、定常領域と、フレームワーク領域(FR)がヒト由来で、相補性決定領域(CDR)が非ヒト由来であるCDR移植抗体、または、そのFRにさらに変異を導入した抗体である。ファージ抗体は繊維状ファージのコート蛋白質に抗体を融合させることによってファージ粒子表面上に抗体を提示させ、作製する抗体であり、単鎖Fv(scFv)フォームあるいはFabフォームが主に使用される。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、ラットまたはマウスのモノクローナル抗体の可変領域と、ヒト抗体の定常領域とからなる抗体である。本発明第一の態様の蛋白質において、前記(I)の抗体はその分子種は特に限定されない。いずれのクラス(例えば、IgG、IgM、IgA、特に、IgG)、サブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、特に、IgG4)およびイソタイプに分類される抗体であってもよい。抗体軽鎖については、カッパー鎖およびラムダ鎖のいずれも使用可能である。また、生物学的に活性のあるFab(fragment of antigen binding )、Fab'、(Fab')2、抗体の活性断片をリンカー等で結合したものとして例えば一本鎖抗体(single chain Fv:scFv)(Bird, R.E.ら,Science,1988;242:423-426)、ジスルフィド安定化抗体(disulfide stabilized Fv:dsFv)(Reiterら,Protein Engineering,1994;7:697)、 ダイアボディー(diabody)(Holliger P.ら,Proc Natl Acad Sci USA 1993;90:6444-8)、単一ドメイン抗体(dAb)(Ward E.S.ら,Nature.,1989;341:544-6)等の活性断片および誘導体も、本発明に含まれる。これらは、遺伝子組換技術または適当な蛋白分解酵素で抗体を処理する方法等、公知技術を用いることにより作製できる。
【0027】
キメラ抗体は、軽鎖遺伝子および重鎖遺伝子が、典型的には遺伝子工学により、異なった種に属する抗体遺伝子セグメントから構成されている抗体である。例えば、ラットまたはマウスモノクローナル抗体からの遺伝子の可変(V)セグメントは、ヒト定常(C)セグメント、例えば、γ1およびγ4と連結され得る。従って、他の哺乳動物種も用いられ得るけれども、典型的な治療用キメラ抗体は、ラットまたはマウス抗体からのV又は抗原結合ドメインおよびヒト抗体からのC又はエフェクタードメインから成るハイブリッド蛋白質である。
本発明第一の態様の蛋白質における前記(I)の抗体の可変領域配列の好ましい例を図1および図2(配列番号123〜126)に、および、該抗体がキメラ抗体である融合蛋白質の好ましい例を図7〜17および実施例に示した。
【0028】
また、通常抗体は抗原結合に関して多価(IgGであれば、2価)であるが、本発明の蛋白質における前記(I)の抗体は、ある局面においては、一価であることが好ましい。例えば、Fab、または、抗体の定常領域、特に重鎖の定常領域(CH)においてアミノ酸変異を導入することによって、通常の重鎖間ジスルフィド結合を形成し得ないような変異、具体的には、Cys残基、特に抗体重鎖のヒンジ領域のCys残基を他のアミノ酸残基に置換等行なうことによって、作製される一価の抗体が挙げられる。好適な例を実施例に示した。
【0029】
「相補性決定領域(CDR)」の定義およびその位置を決定する方法は複数報告されており、これらの何れも採用し得るが、代表的なものとしてKabatの定義(Sequences of proteins of immunological interest, 5th ed.,U.S. Department of Health and Human Services,1991)とChothiaの定義(チョシアおよびレスク,J. Mol. Biol.,1987;196:901-917)がある。本発明においては、Kabatの定義によるCDRを好適な例として採用するが、必ずしもこれに限定されない。また、場合によっては、Kabatの定義とChothiaの定義の両方を考慮して決定しても良く、例えば、各々の定義によるCDRの重複部分を、または、各々の定義によるCDRの両方を含んだ部分をCDRとすることもできる。そのような方法の具体例としては、Kabatの定義とChothiaの定義の折衷案である、Oxford Molecular's AbM antibody modeling softwareを用いたMartinらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989;86:9268-9272)がある。
【0030】
「フレームワーク領域」とは、Kabat 等による定義の如く、単一種中の種々の抗体の内で、比較的保存されている(すなわち、CDR以外の)抗体軽鎖および重鎖可変領域の部分を云う。本明細書において、「ヒトフレームワーク領域」とは、自然に生じるヒト抗体のフレームワーク領域と又はいくつかのこのような抗体の共通配列と実質的に同一(約85%又はそれ以上)であるところのフレームワーク領域である。
「ヒト化抗体」とは、ヒトフレームワーク、非ヒト抗体からの少なくとも一つのCDRを含む抗体を云い、その中に存在する何らかの定常領域は、ヒト抗体定常領域と実質的に同一である、すなわち少なくとも約85〜90%、好ましくは少なくとも95%同一である。従って、恐らくCDRを除く、ヒト化抗体の全ての部分は、1以上の天然のヒト抗体配列の対応する部分と実質的に同一である。例えば、ヒト化抗体は、キメラマウス可変領域/ヒト定常領域抗体を含まない。
【0031】
これらの抗体は、より特異的には、本発明における(I)の抗体は、複数の、好ましくは一つのヒト受容体(アクセプター)抗体からのフレームワーク領域(FR)の少なくとも一つ、好ましくは一方の鎖の全て(4つ)、より好ましくはすべて(各鎖について4つ)を含有し、そして、F1024抗体からの1以上、好ましくはすべて(各鎖について3つ)の相補性決定領域(CDR)を含有するヒト化抗体である。該抗体は、軽鎖/重鎖複合体の2つのペアを有することができ、少なくとも一つの鎖、特に重鎖は、ヒトフレームワーク領域セグメントに機能的に連結された、1以上、好ましくは全て(3つ)の供与体(例えばラットまたはマウス、以下同様)抗体の相補性決定領域を含む。例えば、供与体相補性決定領域は、追加の自然に随伴する供与体アミノ酸残基と共に又はなしで、ヒトフレームワーク領域中に導入する。さらに明確な例としては、本発明のヒト化抗体は、各々、表2に記載されたCDRのいずれかのアミノ酸配列を含有するまたは該アミノ酸配列からなるCDRの少なくとも一つ、好ましくはすべて(各鎖3つ)を含有するものである。ヒト化抗体における各CDRおよびフレームワークの位置は元の供与体抗体における位置と対応していることが望ましい。
【0032】
一般に、本発明における(I)のヒト化抗体は、ヒト化抗体重鎖可変領域フレームワークおよび供与体抗体重鎖可変領域フレームワーク間において、65%以上95%以下、好ましくは70%以上90%以下の相同性(すなわち、配列同一のパーセント)が好ましい。標準的には、同じヒト抗体からの重鎖および軽鎖が、フレームワーク配列を提供するために選択されて、2つの鎖の集合における非適合性の可能性を減少させるが、異なる2以上のヒト抗体から由来してもよい。
【0033】
ヒトフレームワーク領域に関しては、CDRを得る非ヒト抗体のフレームワークまたは可変領域アミノ酸配列をヒト抗体配列コレクション中の対応する配列と比較し相同性の高い配列を選び用いる。好ましくは、フレームワークアミノ酸配列の相同性は60%以上、より好ましくは65%以上である。また、好ましくは、受容体抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列は、供与体抗体重鎖可変領域のアミノ酸配列と最も相同なヒト抗体重鎖可変領域配列の代表的コレクション中の5つ、より好ましくは3つの中にある。ヒト化抗体の設計は、以下のように行うことができる。
【0034】
1)アミノ酸が以下の(a)〜(c)のカテゴリーに該当する場合は、用いられるヒト抗体(受容体抗体)のフレームワークアミノ酸はCDRを供与する非ヒト抗体(供与体抗体)由来のアミノ酸で置換される。
(a)受容体抗体のヒトフレームワーク領域中の該アミノ酸がヒト抗体のその位置に稀であり、そして供与体抗体中の対応するアミノ酸がヒト抗体中のその位置に典型的である;
(b)該アミノ酸がCDRの1つに一次配列上近接もしくは隣接している;または、
(c)該アミノ酸が供与体もしくはヒト化抗体の三次元モデルにおいてCDRの約5、好ましくは4、より好ましくは3オングストローム以内に原子を有する(Coら, Proc,Natl. Acad. Sci. USA,1991;88:2869)。
【0035】
2)受容体抗体のヒトフレームワーク領域中の該アミノ酸および供与体抗体の対応するアミノ酸がヒト抗体中のその位置に稀である場合、ヒトフレームワークのその位置に典型的であるアミノ酸に置換する。
ヒト化抗体の製造の詳細な説明については、Queenら,Proc,Natl. Acad. Sci. USA,1989;86:10029、WO90/07861、WO92/11018、Coら, Proc,Natl. Acad. Sci. USA,1991;88:2869、CoおよびQueen, Nature, 1991;351:501頁、ならびに、Coら, J. Immunol., 1992;148:1149(これらの引例をもって本明細書の一部と成す)が参照される。
【0036】
一般に、全ての又は殆どのアミノ酸の置換が上記基準を満たしているのが望ましい。しかしながら、個々のアミノ酸が上記基準にあっているかどうかについては曖昧であることもあり、そして、代わりの様々な抗体が製造され、その内の一つはその特定の置換を有するものもあるが、有さないものもある。このため、コンピューターモデリングによるCDRとFRの最適化を行えばよい。
【0037】
相同性の高いヒト抗体V領域が見出された後、そのフレームワーク部分に供与体、特にF1024抗体のCDR配列を移植し、コンピューター分子モデリングで立体構造をシミュレーションする。このときに使用するプログラムとしてはABMODやENCAD(Biochemistry,1990;29:10032)が用いられる。この立体構造のシミュレーションにより、CDR領域のアミノ酸の配置がCD14との結合活性を最適に有するように、CDR近傍のFRのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより、最適化が行える。
【0038】
また、CDRとFRの最適化には、供与体、特にF1024抗体のFRの一部のアミノ酸配列をそのまま用いて、ヒト抗体V領域に移植する方法も可能である。ヒト抗体V領域にF1024抗体のCDRとFRの一部の配列を移植し、コンピューター分子モデリングで立体構造をシュミレーションする。このときに使用するプログラムとしては、ModelerおよびQUANTA/CHARMm(MolecularSumilations社)等が用いられる。
軽鎖では3〜4箇所を、重鎖では7〜8箇所を供与体、例えばラット由来のアミノ酸に変更することによりFRがラット抗体の構造に近くなり、CDR領域のアミノ酸の配置がCD14との結合活性を最適にすることが容易になる場合がある。
【0039】
また、抗CD14抗体としての結合活性が維持されていれば、CDR領域のアミノ酸の1または2以上のアミノ酸の欠失、置換、挿入もしくは付加をしてもよい。この場合、例えばGlyとAla、Val、LeuとIle、AsnとGln、CysとMetまたはLysとArg等、同族に分類されるアミノ酸同士の置換は、抗CD14抗体としての結合活性が維持されていやすいと理解される。また、フレームワーク領域中のいくつかの位置のアミノ酸は抗原と直接相互作用、例えば非共有結合的に接触することができ、これらの位置も上記置換の対象となるが、特に、重鎖の26から30の位置のアミノ酸は立体構造上超可変ループに含まれるとされており(チョシアおよびレスク,J. Mol. Biol., 1987;196:901-917)、その意味ではCDRと同様に移植することも可能である。
【0040】
得られたアミノ酸配列に基づき、ヒト化抗体を作成する。例えば、上記より決定したアミノ酸配列より、ヒト化抗体遺伝子配列を決定し、ヒト化モノクローナル抗体をコードする遺伝子を作製する。具体的にはヒトV領域の遺伝子よりCDRをエンコードするDNAを削除し、かわりに供与体、例えばラット由来のCDRをエンコードするDNAを挿入する。さらに、分子モデリングにより変更するアミノ酸に応じて、対応するDNA配列をPCRを用いた部位特異的突然変異導入法等により改変し、組換ヒトV領域遺伝子を作製する。これをヒト抗体の重鎖、軽鎖のC領域を含むベクターにクローニングし発現ベクターを得る。このとき使用するヒト由来の配列を変更することにより、ヒトIgG1、IgG3、好ましくは、IgG4等の抗体のサブクラスを得ることができる。発現ベクターはマウスミエローマ細胞Sp2-O-ag14(ATCC CRL1581)やハムスター卵巣細胞CHOに遺伝子導入し、発現を行う。
【0041】
ヒト化抗体は、ヒトの治療における使用のために、非ヒト抗体、例えばマウスまたはラット抗体に比べ、そしていくつかの場合にはキメラ抗体に比べ、少なくとも3つの潜在的な利点を有する。
1)エフェクター部分がヒトであるので、ヒト免疫系の他の部分とより良好に相互作用しうる(例えば、補体依存性細胞障害(CDC)又は抗体依存性細胞障害(ADCC)による、より効率的な標的細胞の破壊)。
2)ヒト免疫系は、ヒト化抗体のフレームワーク又はC領域を異物として認識せず、従って、このような投与された抗体に対する抗体応答は、全部が異物であるマウス抗体又は一部分が異物であるキメラ抗体より少ない。
3)投与されたラットまたはマウス抗体は、通常の抗体の半減期よりも非常に短い、ヒト体内での循環における半減期を有すると報告されている(ショー D.ら、J.Immunol., 1987;138:4534-4538)。投与されたヒト化抗体は、恐らく、自然に生じるヒト抗体の半減期とより近い半減期を有し、より少量、又はより少ない頻度の投与で有効である。
【0042】
また、前記(I)の抗CD14抗体は、実施例に示される抗体、特に、F1024抗体のCDRの少なくとも1つ、好ましくは重鎖可変領域(VH)もしくは軽鎖可変領域(VL)の3つ、さらに好ましくは6つ全てのCDRを対応する位置に有し、具体的には、表2に記載の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3を重鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3として、および/または、表2に記載の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を軽鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3として含有する抗体、特に、ヒト化抗体である。
【0043】
前記(I)の抗CD14抗体がヒト抗体の場合、体外免疫によるヒトリンパ球の活性化を利用してハイブリドーマを作製する方法、ヒト抗体ファージライブラリーを用いる方法およびヒト抗体遺伝子を組み換えた非ヒト動物、特にトランスジェニックマウス、例えば、KMマウスを用いてハイブリドーマを作製する方法等が挙げられる(WO2002/070648(特表2005-504507)、WO2002/043478(特表2004-515230))。
【0044】
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、一本鎖抗体等の抗体の活性断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。これらのライブラリーをスクリーニングすることによっても本発明の抗体は入手され得る。これらの方法および他の方法は、当業者に周知である(Huseら, Science,246:1275-1281(1989)、WinterおよびHarris,Immunol.Today 14:243-246(1993)、Wardら, Nature 341:544-546(1989)、HarlowおよびLane (1988),前出)、Hilyardら, Protein Engineering:A practical approach(IRL Press 1992)、Borrabeck, Antibody Engineering, 第2版(Oxford University Press 1995)、Barbas, C.F.I., Burton, D.R., Scott, J.K., and Silverman, G.J. 2001. Phage display: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press. Cold Spring Harbor, New York, USA. 736 pp.)。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体の活性断片を発現しているファージを回収することができる。該抗体の活性断片は、更に遺伝子工学的手法により、2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
【0045】
本発明第二の態様のポリヌクレオチドは、いずれの分子種のものであっても良く、核酸を包含する。すなわち、DNAおよびRNA、ならびに、ポリデオキシリボヌクレオチドおよびポリリボヌクレオチドが含まれ、本発明第一の態様の蛋白質の少なくとも一部をコードするものであれば、それらの混合型および修飾体であっても良い。本発明の第二の態様のポリヌクレオチドは、前記(I)および/または(II)を産生する細胞から公知の方法、特に遺伝子工学的手法で取得できる。具体例は実施例に記載されている。
【0046】
本発明の第二の態様は、第一の態様の蛋白質、好ましくは融合蛋白質、具体的には、抗体を含有する融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドであるが、抗体が本来複数のポリペプチド鎖からなる蛋白質であるため、本発明のポリヌクレオチドは、単一分子上で本発明の蛋白質をコードする場合、および、複数、例えば、2または3の分子上にコードする場合があり、それらの何れをも含む。具体例は実施例に記載されている。ここで、本発明第一の態様の蛋白質の少なくとも一部としては、例えば、抗体の重鎖、特に重鎖可変領域(VH)部分、もしくは重鎖部分と阻害物質部分、好ましくはそれらの融合蛋白質をコードするポリヌクレオチド、または、抗体の軽鎖、特に軽鎖可変領域(VL)部分もしくは軽鎖部分と阻害物質部分、好ましくはそれらの融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。好適なポリヌクレオチドの例として、配列表の配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25で示されるものが挙げられる。
【0047】
本発明第三の態様のベクターは、第二の態様のポリヌクレオチドを単一ベクター上に含有する場合、および、複数、例えば、2または3のベクター上に含有する場合があり、それらの何れをも含む。また、本発明第三の態様のベクターは、第二の態様のポリヌクレオチド以外に、ベクターの複製に必要な成分、および、第二の態様のポリヌクレオチドの発現制御に必要な成分等を含有するが、これらの成分は当業者に周知である。
第二の態様のポリヌクレオチドを組み込むベクターとしては、必ずしも限定されないが、蛋白質遺伝子等の発現に汎用され、特に抗体または抗体を含有する融合蛋白質等の遺伝子発現に適合するベクターまたは高発現用ベクターが好ましい。好適な例としては、ヒトエロンゲーションファクター(EF)1αプロモーターおよび/またはCMVエンハンサーを含有するベクターが挙げられ、例えば、pEF-BOSまたは実施例で用いたベクターがある。また、通常、VH部分もしくはVH部分と阻害物質部分、好ましくはそれらの融合蛋白質をコードするポリヌクレオチド、および、VL部分もしくはVL部分と阻害物質部分、好ましくはそれらの融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターをそれぞれ作製し、宿主細胞にcotransfectするが、単一の発現ベクターに組み込んでも良い。以上については公知の材料および方法を利用し得るが、具体例は実施例に記載されている。
【0048】
本発明第三の態様のベクターを適当な宿主細胞に公知方法に従って導入することにより、本発明第四の態様の細胞を作製し得る。そのような細胞の例としては、ハイブリドーマ、形質転換体、または本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを導入した遺伝子組換え細胞等がある。用いる宿主細胞としては、必ずしも限定されないが、蛋白質遺伝子等の発現に汎用され、特に抗体または抗体を含有する融合蛋白質等の発現に適合する細胞が好ましい。例えば、細菌(大腸菌等)、放線菌、酵母、昆虫細胞(SF9等)、好ましくは、哺乳類細胞(COS-1、CHO、ミエローマ細胞等)が挙げられる。以上については公知の材料および方法を利用し得るが、具体例は実施例に記載されている。
本発明第一の態様の蛋白質は、本発明の第二の態様のポリヌクレオチドまたは第三の態様のベクターを用いたin vitro翻訳により、または、本発明の第四の態様の細胞を適当な条件下で培養することにより生産することができる(本発明の第五の態様)。生産された蛋白質は公知の適当な精製方法を組み合わせることにより単離することができる。好適な例は実施例に記載されている。
【0049】
本発明の第六の態様の疾患の予防および/または治療剤は、本発明第一の態様の蛋白質、本発明の第二の態様のポリヌクレオチド、本発明の第三の態様のベクターまたは本発明の第四の態様の細胞の少なくともいずれか一つを有効成分として含有する医薬組成物であり、本発明のポリヌクレオチドおよびベクターは例えば遺伝子治療に、形質転換細胞は細胞治療に応用することができる。これらは、必要に応じて、製剤学的に許容される添加剤を含有しても良い。
【0050】
本発明の第六の態様の疾患の予防および/または治療剤の適用となる疾患もしくは病態、またはそれらにおける特定の治療指標としては、種々のものが含まれ、必ずしも限定されないが、好ましくは、CD14の分布もしくは機能、蛋白質分解酵素の分布もしくは機能または細菌感染と関連する疾患等である。例えば、敗血症およびその関連疾患、全身性もしくは心循環疾患、感染性疾患、炎症性疾患、呼吸器疾患もしくは呼吸不全、自己免疫疾患、多臓器不全(MODS)または個々の臓器の不全もしくは障害等の疾患等が挙げられる。具体的には、敗血症、重症敗血症、敗血症性ARDSもしくは敗血症性ショック等の敗血症およびその関連疾患、SIRS関連疾患、エンドトキシンショック、エキソトキシンショック、出血性ショックもしくは術中・術後ショック等の各種ショック、虚血性再灌流臓器障害、虚血性脳障害、急性虚血性脳卒中、急性期脳血栓症、急性冠微小血管塞栓、ショック性血管塞栓、散在性血管内血液凝固症候群(DIC)、心筋梗塞およびその後遺症、低血圧等の全身性もしくは心循環疾患、歯周病、急性バクテリア髄膜炎、侵襲製ブドウ球菌感染症、感染性心内膜炎、急性ウィルス脳炎もしくはAIDS等の感染性疾患、乾癬、胃炎、消化性潰瘍、膵炎、腎炎、心筋炎、肺炎、肝炎、肝硬変、脳炎、骨関節炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、アレルギー性鼻炎、逆流性食道炎もしくは硬化性脊椎炎等の炎症性疾患、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、幼児性呼吸窮迫症候群(IRDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫および喘息等の呼吸器疾患もしくは呼吸不全、慢性関節リウマチ、難治性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、SLE、強皮症、多発性硬化症もしくはシェーグレン症候群等の自己免疫疾患、多臓器不全、臓器移植後の臓器障害もしくは拒絶反応、または、心不全、不安定狭心症、心弁膜炎、腎不全、心筋症、腎アトニー、肝不全、もしくは劇症肝炎等の個々の臓器不全が挙げられる。
【0051】
好ましくは対象疾患として、敗血症、重症敗血症、敗血症性ARDSもしくは敗血症性ショック、SIRS、エンドトキシンショックまたはARDS等の疾患が挙げられる。
また、これらの疾患に伴う炎症性サイトカイン、特に血中のTNF濃度の上昇に伴う症状の改善または予防に有用である。さらに、LPSが関与するグラム陰性細菌感染、LTA若しくはペプチドグリカン等が関与するグラム陽性細菌感染、またはマイコプラズマ感染に伴う敗血症の治療または予防、すなわち、これらの疾患の症状が表れたとき若しくは進行したときの治療効果のみならず、血中にLPS、LTAもしくはマイコプラズマ等が高値である患者、特定のCD14分子種(WO01/22085およびWO2004/44005参照)の血中濃度が高値である患者または以上のような状況に置かれることが予想される細菌感染者における予防効果が期待できる。
【0052】
製剤学的に許容される添加物としては、例えば、担体、賦形剤、安定剤、滑沢剤、着色剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、緩衝剤、保存剤、懸濁化剤、乳化剤、一般的に用いられる適当な溶媒の類(滅菌水や植物油等)、さらには生理学的に許容しえる溶解補助剤などを適宜含んでいてもよい。
また、本発明の医薬組成物は、抗生物質、ステロイド、各種サイトカイン抗体もしくは抗凝固因子等を含んでいてもよい。これらは、有効成分である本発明の蛋白質と相加効果もしくは相乗効果を示し、より有効な医薬組成物と成ることができる。
【0053】
本発明の医薬組成物を薬剤として投与するときの投与量は、特に限定されず、患者の症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜決定されるが、例えば、本発明の蛋白質を有効成分とするときには、0.1mg/kg以上が好ましい。より好ましくは1〜10mg/kgの投与量である。
【0054】
本発明の医薬組成物を薬剤として用いるときの剤形は、必ずしも限定されないが、錠剤、注射剤、散剤、坐剤、吸入剤等、特に注射剤および吸入剤等が好適である。また種々の投与経路が可能であるが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては例えば、静脈内投与(ボーラス投与、連続点滴、間欠的点滴)、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与等の注射が一般的であり、吸入も好ましく、その他に、直腸内投与、経皮吸収、関節内投与、経鼻投与、経粘膜吸収等が挙げられる。また、投与時期もしくは回数は、患者の状態にも依存するが、予防投与、単回投与もしくは連続投与等が例示される。
【0055】
本発明の第六の態様の疾患の予防および/または治療剤の適用となる疾患もしくは病態に、本発明の医薬組成物を主成分とする薬剤を使用した治療方法。
【実施例】
【0056】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)キメラ抗体および抗体融合蛋白質の構築
1-1)キメラ抗体および抗体融合蛋白質の構築(F1024)
(1)材料
用いた主な材料および装置は以下のとおりである。すなわち、
プライマー:表1に記載のプライマー(SIGMA Genosys Japanにて合成)、
PCR反応用酵素:Ex Taq(TAKARA BIO INC.)、
制限酵素:Eco RI、Bam HI、Not I、 Nhe I、Eco RV、Stu I、Bgl II等(TAKARA BIO INC.)、
ゲノムDNA:HeLa genome(lot. N34707-1、BD Biosciences Clontech)、
PCR装置:DNA Engine(MJ RESEARCH, INC.)、
アガロース電気泳動ゲル:SeaKem GTG Agarose(TAKARA BIO INC.)、
50xTAE(2mol/L Tris-acetate,0.05mol/L EDTA)(NIPPON GENE)、
分子量マーカー(Sty I 消化λDNA断片)、
ゲルからのDNA断片抽出キットQIAEX II(QIAGEN K.K.)、
哺乳細胞用発現ベクター:pEF2cew(pEF-BOSの改良型ベクター)、
ヒトIgG4重鎖定常領域(Cγ4)遺伝子を有するプラスミド:pTK-2232、
TAクローニング用ベクター:pT7BlueT(NOVAGEN)およびライゲーション用試薬:TaKaRa ライゲーション Kit ver.2(TAKARA BIO INC.)、
E. coli Competent cell:JM109(TAKARA BIO INC.)、
プラスミドDNAおよびゲノムDNA精製キット(QIAGEN K.K.)、
シークエンス用キット:DYEnamic ET Terminator Cycle Sequencing Premix Kit lot.1767 (Amersham Biosciences)および解析装置:ABI3100 genetic analyzer (Applied Biosystems)、
トータルRNA分離試薬:TRIzol(GIBCO BRL)、
5'RACE用キット:5'RACE system for Rapid Amplification of cDNA Ends, v.2.0 (Invitrogen)、
ダルベッコMEM培地(SIGMA)、
トランスフェクション用試薬:FuGENE6(ロシュダイアグノスティックス)
等を用いた。
【0057】
【表1】

【0058】
(2)実験方法
用いた主な実験方法を以下に示す。
・PCR反応
酵素付属の取り扱い説明書に従って行った。
・アガロースゲル電気泳動
まず、0.8%濃度のアガロースゲルを作製し、これを1xTAEを満たした泳動槽に置き、ウエルにサンプル5μLをアプライ後、135Vで15分間泳動を行った。泳動終了後、ゲルをエチジウムブロマイドで染色し、さらにUV照射することでバンドを検出した。
・ゲルからのDNA断片抽出
目的とするバンドを剃刀で切り出し、付属の取扱説明書に従い、QIAEX IIキットを用いてゲル片からDNA断片を抽出した。抽出されたDNA断片を20μLの滅菌水に溶解した。
【0059】
・ライゲーション反応
抽出を終えたDNA断片1μLとクローニング用ベクターのpT7BlueTを1μL、およびライゲーション kit ver.2のI液2μLを混和し、室温で15分間静置することでライゲーションを行った。
・大腸菌への形質転換
コンピテント大腸菌50μLを氷上で融解し、ライゲーション反応産物4μLを加え、そのまま氷上に30分間静置した。42℃で45秒熱ショックを与え、終濃度50μg/mLアンピシリン含有LBプレート上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
・プラスミドの精製およびシークエンス反応
キットの取り扱い説明書に従って行った。
・ハイブリドーマからのトータルRNAの分離と5'RACE
キットの取り扱い説明書に従って行った。なお、ハイブリドーマは5×10個使用した。
・トランスフェクション
FuGENE6の取り扱い説明書に従って行った。すなわち、6穴プレートの場合、トランスフェクション前日にCOS-1細胞を1.5×105cells/mLの密度で各ウェルに2mL植え込んだ。翌日、97μLのダルベッコMEM培地に3μLのFuGENE6と1μgの発現プラスミドを混和し15分以上静置した後、2mLの無血清ダルベッコ-MEM培地に滴下し、この培養液と交換することで、トランスフェクションを行った。
【0060】
(3)ハイブリドーマ抗体遺伝子可変領域のクローニングおよび配列決定(F1024)
WO02/42333に記載の方法で得られたハイブリドーマF1024(1×10細胞)を、PBS(SIGMA)で洗浄後、TRIzol(GIBCO BRL)を用いてトータルRNAを抽出した。次に、5μgのトータルRNAを、5'RACE system for Rapid Amplification of cDNA Ends, v.2.0 (Invitrogen)を用いて5'RACEを行い、重鎖および軽鎖可変領域をコードする遺伝子断片をそれぞれ増幅した。尚、操作手順はキット付属のマニュアルに従い、重鎖可変領域はrIgH-cプライマーで逆転写反応を行った後、ターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼで末端にdCを付加し、rIgH-cプライマーとAAPプライマー(キット付属)とで1回目のPCRを行った。軽鎖可変領域も同様に、rIgK-bプライマーで逆転写反応後、rIgK-bプライマーとAAPプライマーとで1回目のPCRを行った。つづいて、各反応産物を鋳型とした2回目のPCR反応を、重鎖可変領域はrIgH-bプライマーとAUAPプライマー(キット付属)とで、軽鎖可変領域はrIgK-aプライマーとAUAPプライマーとで行い、それぞれ特異的に増幅されたDNA断片をアガロースゲルでの電気泳動で確認した。DNA断片をゲルから抽出後、塩基配列を決定し、各領域のアミノ酸配列を決定した(図1および2)。なお、表2にKabatの定義に従った場合のCDR配列を示す。また、表2に示した配列は、配列番号173〜178に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
(4)各種キメラ抗体融合蛋白質発現プラスミドの構築
抗原結合活性を有する可変領域がハイブリドーマ抗体由来、すなわちラット抗体由来であり、定常領域がヒト由来の抗体であるキメラ抗体を作製することにより、ヒトへの抗原性が少ない抗体を得ることが出来る。キメラ抗体は1984年のMorrisonら(Proc, Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851, 1984)の報告以来多くのものが開発されている。
各可変領域の開始コドンの直前に、制限酵素Eco RIの認識配列を付した5'側プライマー(重鎖は1024H-a、軽鎖は1024K-a)と、各可変領域の3'側配列のアミノ酸配列を変えることなく、ヒト定常領域との連結可能な制限酵素認識部位(重鎖はNhe I認識配列、軽鎖はBsi WI認識配列)を付した3'側プライマー(重鎖はHchainEco47NheI、軽鎖はrIgK-BsiWI)を設計した。これらのプライマーを用いて、本実施例1−1)−(3)で調製した逆転写反応後の重鎖および軽鎖各サンプルを鋳型としたPCRをあらためて行った。増幅されたPCR産物とpT7BlueTベクター(NOVAGEN)を混和し、TaKaRa ライゲーション Kit ver.2(TAKARA BIO INC.)を用いて室温15分でライゲーション反応を行った。その反応液を用いてコンピテントセルE. coli(JM109、TAKARA BIO INC.)にトランスフォーメーションを行った。
【0063】
出現したコロニーをピックアップし、Ex Taq polymerase(TAKARA BIO INC.)、M4プライマーおよびT7プライマーを用いて、コロニーダイレクトPCRでインサートがベクターに挿入されていることを確認した。
次に、インサートが確認されたコロニーをLB培地で一晩培養し、QIAGEN plasmid midi kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した(重鎖可変領域をコードする遺伝子断片をもつプラスミドをpT7-1024H、軽鎖可変領域をコードする遺伝子断片をもつプラスミドをpT7-1024Kとした。)。精製したプラスミドは、M4プライマーおよびT7プライマーを用いて塩基配列を確認した。
【0064】
pT7-1024Hを制限酵素Eco RIおよびNhe Iで切断し、重鎖可変領域をコードする遺伝子断片Aを調製した。同様に、pT7-1024Kを制限酵素Eco RIおよびBsi WIで切断し、軽鎖可変領域をコードする遺伝子断片Bを調製した。
【0065】
ヒトIgG4重鎖定常領域(Cγ4)遺伝子を有するプラスミドpTK-2232(WO2005/7800を参照)を鋳型とし、プライマー対(IgG4-mとIgG4-v)でPCRを行うことで、Cγ4の5'末端に制限酵素Nhe Iの認識配列を、3'末端に、停止コドンを除去し、代わりに制限酵素Bam HIの認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片を制限酵素Nhe IおよびBam HIで切断し、遺伝子断片Cを調製した。
【0066】
pTK-2232を鋳型としたPCRを行い、2種類のプライマー対(IgG4-mとIgG4-s)および(IgG4-rとIgG4-v)で各遺伝子断片をそれぞれ増幅した。これらの遺伝子断片を混合して鋳型とし、再度プライマー対(IgG4-mとIgG4-v)でPCRを行うことで、重鎖間の2量体化に必要な2つのシステイン残基をグリシン残基に置換し、5'末端に制限酵素Nhe Iの認識配列を、3'末端には停止コドンの代わりに制限酵素Bam HIの認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片を制限酵素Nhe I およびBam HIで切断し、遺伝子断片Dを調製した。
【0067】
HeLaゲノムDNAを鋳型とし、プライマー(BsiWI-hIgKおよびIgK-e)によるPCRを行い、ヒト軽鎖定常領域(Cκ)を増幅し、さらにこの増幅産物をpT7BlueTベクターへクローニングし、pT7-hIgKを構築した。このプラスミドから、ヒト軽鎖定常領域を切り出すことができる適当な制限酵素(Bsi WIとBam HI)を用いて、断片Eを調製した。
【0068】
ヒトUTI第1ドメインおよび第2ドメイン(D1D2)を有するプラスミドpM1213を鋳型とし、プライマー対(UTI-aとUTI-c)によるPCRで、D1D2の5'末端に制限酵素Bam HIの認識配列を、3'末端は停止コドンの直後に制限酵素Not I認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をBam HIおよびNot Iで切断し、遺伝子断片Fを調製した。
【0069】
pM1213を鋳型とし、プライマー対(UTI-bとUTI-c)によるPCRで、D2の5'末端に制限酵素Bam HIの認識配列を、3'末端は停止コドンの直後に制限酵素Not I認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をBam HIおよびNot Iで切断し、遺伝子断片Gを調製した。
【0070】
ヒトUTI第2ドメイン3アミノ酸改変体{D2(3)}を有するプラスミドpM765(特開平6−321989参照)を鋳型とし、プライマー対(UTI-bとUTI-c)によるPCRで、D2(3)の5'末端に制限酵素Bam HIの認識配列を、3'末端は停止コドンの直後に制限酵素Not I認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をBam HIおよびNot Iで切断し、遺伝子断片Hを調製した。
【0071】
pM1213を鋳型とし、プライマー対(UTI-aとUTI-f)によるPCRで、D1D2の5'末端に制限酵素Bam HIの認識配列を、3'末端は停止コドンを除去し、グリシン4残基からなるリンカーを付加し、さらにその直後に制限酵素Eco RV認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をBam HIおよびEco RVで切断し、遺伝子断片Iを調製した。
【0072】
pM1213を鋳型とし、プライマー対(UTI-bとUTI-f)によるPCRで、D2の5'末端に制限酵素Bam HIの認識配列を、3'末端は停止コドンを除去し、グリシン4残基からなるリンカーを付加し、さらにその直後に制限酵素Eco RV認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をBam HIおよびEco RVで切断し、遺伝子断片Jを調製した。
【0073】
pM1213を鋳型とし、プライマー対(UTI-hとUTI-c)によるPCRで、D1D2の5'末端にグリシン4残基からなるリンカーを付加し、さらにその直前に制限酵素Eco RVの認識配列を、3'末端は停止コドンの直後に制限酵素Not I認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をEco RVおよびNot Iで切断し、遺伝子断片Kを調製した。
【0074】
pM1213を鋳型とし、プライマー対(UTI-iとUTI-c)によるPCRで、D2の5'末端にグリシン4残基からなるリンカーを付加し、さらにその直前に制限酵素Eco RVの認識配列を、3'末端は停止コドンの直後に制限酵素Not I認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をEco RVおよびNot Iで切断し、遺伝子断片Lを調製した。
【0075】
pM1213を鋳型とし、プライマー対(UTI-hとUTI-g)によるPCRで、D1D2の5'末端にグリシン4残基からなるリンカーを付加し、さらにその直前に制限酵素Eco RVの認識配列を、3'末端は停止コドンを除去し、グリシン4残基からなるリンカーを付加し、さらにその直後に制限酵素Stu I認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をpT7BlueTベクターへクローニングした後、Eco RVとBam HIで切断し、そこへ遺伝子断片Iを結合させ、D1D2D1D2配列をもつ中間体プラスミドを構築した。さらにBam HIとStu Iで切断し、遺伝子断片Mを調製した。
【0076】
pM1213を鋳型とし、プライマー対(UTI-iとUTI-g)によるPCRで、D2の5'末端にグリシン4残基からなるリンカーを付加し、さらにその直前に制限酵素Eco RVの認識配列を、3'末端は停止コドンを除去し、グリシン4残基からなるリンカーを付加し、さらにその直後に制限酵素Stu I認識配列を有する遺伝子断片を増幅した。この断片をpT7BlueTベクターへクローニングした後、Eco RVとBam HIで切断し、そこへ遺伝子断片Jを結合させ、D2D2配列をもつ中間体プラスミドを構築した。さらにBam HIとStu Iで切断し、遺伝子断片Nを調製した。
【0077】
HeLaゲノムDNAを鋳型とし、以下のプライマー対でPCR反応を行った。その結果、SLPI-cおよびSLPI-eでPCR増幅産物O、SLPI-dおよびSLPI-gでPCR増幅産物P、SLPI-aおよびSLPI-gでPCR増幅産物Rがそれぞれ得られた。
OとPを混合して鋳型とし、再度プライマーSLPI-cおよびSLPI-gでPCR反応を行うことで、両断片が連結された増幅産物Qを得た。
この増幅産物QおよびRを、それぞれpT7BlueTベクターにクローニングし、ヒトSLPIのSer−Ala107(SLPI(D1D2)と記載することがある)およびArg58−Ala107(SLPI(D2)と記載することがある)をコードする配列であることを確認し、pT7-SLPI(D1D2)およびpT7-SLPI(D2)とした。いずれも、SLPIの5'側には制限酵素Bgl IIの認識配列、3'側の停止コドンの直後にはNot Iの認識配列を有するように構築した。各プラスミドをそれぞれ制限酵素Bgl IIおよびNot Iで切断し、SLPI(D1D2)断片SとSLPI(D2)断片Tを調製した。
【0078】
以上の遺伝子断片を、Eco RI およびNot I、あるいはEco RI およびBam HIで切断して調製した発現ベクターpEF2cewのEF1αプロモーター下流に適切な組み合わせで連結し、各発現プラスミドを構築した。表3に、各発現プラスミド名とベクターに組み込んだ遺伝子断片名をまとめて示す。なお、キメラ抗体軽鎖発現プラスミドpTK-2344はすべての重鎖に対し、共通で使用した。また、各融合蛋白質の構造ならびにヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を図7〜17ならびに配列表(配列番号1〜26)に示す。なお、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20および24のアミノ酸配列において、それぞれアミノ酸番号1−19はシグナルペプチド配列に対応し、配列番号22及び26のアミノ酸配列において、それぞれアミノ酸番号1−20はシグナルペプチド配列に対応する。よって、実際の本発明の融合蛋白質の推定アミノ酸配列はこれらのシグナルペプチドを除いたアミノ酸配列である。
【0079】
【表3】

【0080】
(5)各融合蛋白質の小スケールでの発現および精製
COS-1細胞は10%牛胎児血清入りのダルベッコMEM培地で継代し、トランスフェクション前日に、1.5×10cells/mLの密度で培養容器に植え込んだ。翌日、軽鎖発現プラスミド(pTK-2344)と各重鎖発現プラスミドを1:1の重量比で混合後、トランスフェクション試薬(FuGENE6、ロシュダイアグノスティックス)と適当量混和した後に、無血清のダルベッコMEM培地に滴下し、これを培養液と交換することで、トランスフェクションを行った。5% CO存在下、37℃で2〜3日間培養し、上清を回収した。精製はProsep-Aカラム(MILLIPORE)を用いて行い、PBS(pH7.4)で透析後、280nmの吸光度より濃度を算出した。
【0081】
1-2)キメラ抗体および抗体融合蛋白質の構築(F1031)
(1)ハイブリドーマ抗体遺伝子可変領域のクローニングおよび配列決定(F1031)
CD14に結合するが、CD14阻害活性のない抗ヒトCD14抗体、F1031-13-2抗体(マウスIgG2b/κ)のCDR配列を以下の方法で決定した。
まず、F1031-13-2発現ハイブリドーマより、TRIzolを用いてtotal RNAを調製し、SuperScript III First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen)を用いて一本鎖cDNAの合成を行った。
一方、マウスIgG2b重鎖の可変領域増幅用としセンスプライマー1031H-aおよびmIgG2b-c、アンチセンスプライマーmIgG2b-a、を合成し、κ鎖可変領域増幅用としてセンスプライマーIGKV4-1-aおよびIgK-d、アンチセンスプライマーrIgK-a、をそれぞれ合成した(表1参照)。
次に合成したハイブリドーマ一本鎖cDNAを鋳型に、プライマーは重鎖(i)1031H-aとmIgG2b-a、重鎖(ii)mIgG2b-cとmIgG2b-a、軽鎖(i)IGKV4-1-aとrIgK-a、軽鎖(ii)IgK-dとrIgK-aとの組み合わせでPCRを行った。PCR反応条件は反応液を96℃で2分熱した後に、96℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒のサイクルを25回繰り返した。
得られた産物について直接配列を決定した結果、重鎖(i)(ii)、軽鎖(i)(ii)共に同一の配列であった。尚、軽鎖については5'端が不完全で翻訳開始コドンが確定できなかったため、これまで報告のあるマウスκ鎖において、フレーム領域で相同性を示す配列を検索した。図3および4(配列番号127〜130)にF1031-13-2抗体の可変領域重鎖および軽鎖配列(核酸およびアミノ酸)を示す。尚、下線はプライマー由来の配列である。
【0082】
(2)キメラ抗体発現プラスミドの構築(F1031)
F1031-13-2キメラ抗体発現プラスミドは実施例1−1)(F1024キメラ抗体発現プラスミド構築)と同様の方法で構築した。すなわち、上記1−2)(1)で得られた配列を参考に、重鎖発現プラスミド構築用プライマーとして、可変領域の開始コドン直前に制限酵素EcoRI認識配列を付加した5'側プライマー13HcS-EcoRおよび可変領域の3'側配列のアミノ酸配列を変えることなく、ヒト定常領域との連結可能な制限酵素NheI認識部位を付加した3'側プライマー13HcA-Nheを合成した。軽鎖の5'側の配列は確定していないが、相同性検索から5'端側の配列を予想し、可変領域の開始コドン直前に制限酵素EcoRI認識配列を付加した5'側プライマー13LcS-EcoRおよび可変領域の3'側配列のアミノ酸配列を変えることなく、ヒト定常領域との連結可能な制限酵素BsiWI認識部位を付加した3'側プライマー13LcA-BsiWを合成した(表1参照)。
【0083】
次に、上記1−2)(1)で合成した1本鎖cDNAを鋳型に、PCRを行った。反応条件は90℃ 2分間で熱した後、(1)94℃ 30秒、(2)50℃ 30秒、(3)72℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。得られた重鎖構築用PCR産物をEcoRIおよびNheIで、軽鎖構築用PCR産物はEcoRIおよびBsiWIで消化し、それぞれ約0.4kbの断片を回収した。
次に実施例1−1)で構築したF1024キメラ抗体重鎖発現プラスミドpTK-2370あるいは軽鎖発現プラスミドpTK-2344をそれぞれEcoRIおよびNheIあるいはEcoRIおよびBsiWIで消化し、それぞれ約5.7kbあるいは4.8kbの断片を回収した。これらに先のPCR産物由来断片をそれぞれ挿入し、定法に従いJM109大腸菌コンピテントセルを形質転換してF1031-13-2重鎖発現プラスミドpF31-13HUあるいは軽鎖発現プラスミドpF31-13Lを得た。F1031-13-2軽鎖の5'端配列については、本構築において新たに確定した配列もあるため、図5および6(配列番号131〜134)に発現プラスミドの重鎖可変領域および軽鎖可変領域配列について再度示した。尚、下線は構築用のプライマー由来の配列である。
【0084】
(3)各種キメラ抗体融合蛋白質の発現確認
上記1−2)(2)で構築した重鎖発現プラスミドおよび軽鎖発現プラスミドをCOS-1細胞へ導入し、キメラ抗体融合蛋白質の発現を確認した。
まず、COS-1細胞を10%非働化FBS含有DMEM培地にて、2.0−2.4×10cells/wellで6ウェルプレートへ植え込み、37℃、5%CO条件下で一晩培養した。翌日、FuGENE6 6μLと重鎖発現プラスミド1μg+軽鎖発現プラスミド1μgを混合し、FuGENE6添付プロトコールに従い、COS-1細胞へ滴下した。尚、FBS由来イムノグロブリンの混入を防ぐために、FuGENE/plasmid混合液を細胞に滴下する前に以下の操作を行った。COS-1細胞を一晩培養後、細胞の上清を除去し、生産培地(Hybridoma-SFM(Invitrogen)もしくはCellgro Complete Serum Free Medium(Mediatech))で2回洗浄を行った。その後、2mL/wellの生産培地をプレートに添加し、FuGENE/plasmid混合液を細胞に滴下した。37℃、5%COで3〜4日間培養を続けた後、上清を回収し、上清中に含まれるキメラ抗体融合蛋白質の量を実施例2に記載するEIA法と同様の操作により確認した。但し、検出に用いたHRP標識抗体として、ペルオキシダーゼ標識UTI抗体の代わりに、HRP標識抗ヒトκ軽鎖抗体(DAKO)を用いた。その結果、キメラ抗体は10−20μg/mL程度の発現であった。なお、本実験で調製した培養上清を、実施例1−3)(1)のIL-6産生抑制活性実験に用いた。
【0085】
1−3)活性確認試験
(1)IL-6産生抑制活性確認試験
実施例1−1)および1−2)で調製した抗体融合蛋白質の抗体機能ドメインの活性について調べるために、以下の実験を行った。
ヒト膠腫由来細胞株U-373 MGを、2%非働化FBSを含むMEM培地(SIGMA)にて96-well plateに、1×10cells/wellで植え込み、5%CO、37℃で一晩培養を行った。翌日、以下の溶液をそれぞれ調製した。
1)0.2%ヒト血清アルブミン(SIGMA)を含む生理食塩水(大塚製薬)(以下0.2%HSA/生理食塩水と表記)
2)0.2%ヒト血清アルブミン(SIGMA)を含むMEM培地(以下0.2%HSA/MEMと表記)
3)0.2%HSA/生理食塩水と0.2%HSA/MEMを1:1の割合で混合した溶液(以下0.1%HSA/1/2MEMと表記)
4)4%ヒト血清を含むMEM培地(以下4%HS/MEMと表記)
5)LPS(E.Coli 0111:B4、SIGMA)を生理食塩水で1mg/mLに調製した溶液を10分間ソニケーションした後に、0.2%HSA/MEMにて200ng/mLに希釈した溶液(以下200ng/mL LPS B4と表記)
6)4%HS/MEMと200ng/mL LPS B4を9:1の割合で混合した溶液(以下2×(HS+LPS)と表記)
【0086】
被験試料を0.2%HSA/生理食塩水で目的濃度の2倍濃度に希釈し、サンプルを調製した。一晩培養を行ったU-373MG細胞の培養上清を捨て、0.1%HSA/1/2MEMで二度洗浄し、上記サンプルと2×(HS+LPS)とを等量混合した液を100μL/wellずつ添加し、さらに5%CO、37℃で約18時間培養を行った。その後、培養上清中のIL-6量をヒトIL-6検出キット(Eli-PAIR hIL-6;Invitrogen社)にて定量した。図18ないし図20に典型的な試験結果を示す。
その結果、CD14阻害活性を示す抗体の場合、キメラ抗体融合蛋白質においても抗体活性は維持されており、CD14阻害活性を示さないF1031-13-2抗体の場合、キメラ抗体融合蛋白質にしても抑制活性を示さなかった。なお、図20中、試料未添加のIL-6産生量を100%(IL-6%Control)として表記した。
【0087】
(2)酵素阻害活性確認試験
実施例1−1)および1−2)で調製した抗体融合蛋白質の酵素阻害機能ドメインの活性を確認するためにトリプシン阻害活性を以下のように測定した。
被験試料を0.1mol/LNaCl/5mmol/L CaCl2/20mmol/L Tris-HCl(pH7.4)(以下、希釈液)にて終濃度の10倍濃度となるように希釈調製した。これと併行してヒト膵由来トリプシン(Athens Research and Technology)を0.1w/v%BSA/1mmol/L HCLにて1μg/mL調製し、また合成基質S2222(テストチーム、第一化学薬品)を水にて4mmol/Lに希釈調製した。
各試薬類を調製後、96ウエルマイクロタイタープレート(Nunc)に希釈液70μL、1μg/mLヒトトリプシン溶液を10μL、および被験試料溶液10μLを添加し、37℃にて3分間インキュベーションした。次いで、合成基質S2222溶液を各ウエルに10μL添加して、さらに37℃にて60分間インキュベーションした。その後、20v/v%酢酸水溶液にて反応を停止させ、反応液の405nmにおける吸光度を測定した。図21に典型的な試験結果を示す。その結果、キメラ抗体融合蛋白質においても酵素阻害活性はほぼ維持されていた。
【0088】
(実施例2)抗体融合蛋白質の大量調製
(1)F1024S-D2(3)およびF1031-13S-D2(3)の大量生産
F1024S-D2(3)を大量生産するためにCOS-1細胞を利用した一過性発現の系を用いた。すなわち、CellsTACK-10 Chamber(Corning)に10%非働化FBSおよび10mM HEPES(pH7.0−7.6)を含むDMEM培地1700mLを添加し、これに21×10のCOS-1細胞を植え込んだ。CellsTACK-10 Chamber内を5%COを含む混合ガスに置換した後、密栓し、37℃でインキュベーションした。
4日後に以下の手順にてトランスフェクションを行った。
まず、DMEM培地63.6mLにFuGENE6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)2.12mLを添加・混合した。5分後に実施例1で調製した重鎖をコードするプラスミドpTK2370および軽鎖をコードするプラスミドpTK2344を各530μgずつ添加し、混合後、15分間室温で静置した。一方、CellsTACK-10 Chamberの培地を10mM HEPES(pH7.0−7.6)を含むHybridoma-SFM(インビトロジェン株式会社)(以下、生産培地)1300mLに交換し、調製したトランスフェクション試薬・プラスミド混合溶液を添加した。37℃で3日間インキュベーションした後、生産培地を回収した。さらに、CellsTACK-10 Chamberに新しい生産培地1300mLを添加し、4日後に再度生産培地を回収した。
また、F1031-13S-D2(3)についても、実施例1で調製した重鎖をコードするプラスミドpF31-13HUおよび軽鎖をコードするプラスミドF31-13Lを用いて同様に生産した。
【0089】
(2)F1024S-D2(3)およびF1031-13S-D2(3)の測定系(EIA)
サンドイッチEIA法によりF1024S-D2(3)濃度を測定した。
固相化蛋白質として、実施例6と同様の方法で調製した、ヒトCD14の全長356アミノ酸からなる組換ヒトCD14、および、標識抗体として、特開2002−14104に記載された手順に従って作製したペルオキシダーゼ標識UTI抗体を用いたサンドイッチEIA系を作製した。
標準品として実施例1にて調製したF1024S-D2(3)を用いた。すなわち、組換ヒトCD14をPBS(pH7.4)で4μg/mLに希釈し、NUNC-Immuno plate Maxisorp(NUNC)の各ウェルに50μL添加した。4℃で一晩反応後、0.05%Tween20/0.9%塩化ナトリウム溶液で3回洗浄し、2%StabilGuard(SurModics, Inc.)を含むPBS(pH7.4)を各ウェルに100μL添加し、ブロッキングした。次に0.1%BSAを含むPBS(pH7.4)を希釈液として測定試料および標準品の希釈検体を調製した。同時に10%ウサギ血清を含むPBS(pH7.4)で希釈したペルオキシダーゼ標識UTI抗体を調製した。各ウェルに、希釈したペルオキシダーゼ標識抗体25μLおよび希釈検体25μLを添加し、37℃で1時間反応させた。反応終了後、0.05%Tween20/0.9%塩化ナトリウム溶液で3回洗浄し、テトラメチルベンジジン溶液(BioFX)を各ウェルに50μLずつ添加した。室温で約20分反応後、1mol/L塩酸溶液50μLで反応停止し、プレート分光光度計で450nmの吸光度を測定した。
また、F1031-13S-D2(3)についても同様に濃度を測定した。ただし、標準品として濃度既知のF1031-13S-D2(3)を用いた。
【0090】
(3)F1024S-D2(3)大量精製
以下の操作は特に記載のない限り、4℃にて実施した。
実施例2(1)で生産されたCOS培養上清を1μmのカプセルカートリッジフィルター(アドバンテック東洋)に、0.22μmのフロロダインII-DFLPフィルター(日本ポール)を接続し、培養上清中の不溶物を除去した。このろ過液を予めPBS(シグマ)にて平衡化したProSep-vAカラム(日本ミリポア株式会社)に供し、非吸着成分をPBSにて洗い流した。更に非特異的に吸着している成分を10×PBS(シグマ)にて洗い流した後、25mM Glycine-HCl(pH2.5)にて溶出し、F1024S-D2(3)を回収した。得られた溶出画分はMacIlvaineバッファーを加えpH5に調製した。溶出液に認められた沈殿を遠心分離により除去後、遠心上清液を分子量カットオフ10,000の透析チューブ(SPECTRUM社)を用い生理食塩液に対して透析し、得られた透析液を精製標品とした。
【0091】
(4)F1031-13S-D2(3)の大量精製
以下の操作は特に記載のない限り、4℃にて実施した。
実施例2(1)で生産されたCOS培養上清を1μmのカプセルカートリッジフィルター(アドバンテック東洋)に、0.22μmのフロロダインII-DFLPフィルター(日本ポール)を接続し、培養上清中の不溶物を除去した。このろ過液を予めPBS(シグマ)にて平衡化したProSep-vAカラムに供し、非吸着成分をPBSにて洗い流した。更に非特異的に吸着している成分を1M塩化ナトリウム溶液にて洗い流した後、100mM Glycine-HCl(pH2.7)にて溶出し、F1031-13S-D2(3)を回収した。得られた溶出画分は1Mトリス塩酸pH8.0を加え中和した。これを分子量カットオフ3,500の透析チューブ(SPECTRUM社)を用い生理食塩液に対して透析した。さらにYM10限外ろ過膜(日本ミリポア株式会社)を用いて濃縮し、得られた濃縮液を精製標品とした。
【0092】
(実施例3)効力評価(in vitro)
3−1)抗体活性の確認
(1)ヒト血管内皮細胞のLPS誘導IL-6産生に対する阻害活性の確認
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC、三光純薬社)を0.05%トリプシン、0.02% EDTAを含むPBS(−)で剥離後、ヒト血清(TENNESSEE BLOOD SERVICE社)を10%含むRPMI-1640培地(SIGMA社)にて懸濁し、96ウェルプレートに2×10細胞/wellで播種し、37℃、5%COの条件下で一晩培養した。培養後、LPS(WE.coli 055:B5、DIFCO社)を終濃度が10ng/mLとなるように添加すると同時に、F1024S-D2(3)を終濃度が0.03、0.1、0.3、1、3、10μg/mLとなるように添加した。37℃、5%COの条件下で6時間培養した後、培養上清中のIL-6を、添付のプロトコールに従い、ヒトIL-6 EIAキット(DIACLONE Research社)で測定した。F1024S-D2(3)のIL-6産生阻害のIC50値は、0.38μg/mLであった。この結果より、F1024S-D2(3)がグラム陰性菌の菌体成分であるLPSにより誘導される、ヒト血管内皮細胞のサイトカイン産生を抑制することが示された。
F1031-13S-D2(3)、F1024D-SLPI(D1D2)、F1024D-SLPI(D2)、F1024S-SLPI(D1D2)またはF1024S-SLPI(D2)の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0093】
(2)ヒト血管内皮細胞のLPS誘導E−Selectin発現に対する阻害活性の確認
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC、三光純薬社)を実施例3−1)(1)に示す方法で播種し、培養後、LPS(WE.coli 055:B5、DIFCO社)を終濃度が10ng/mLとなるように添加すると同時に、F1024S-D2(3)を終濃度が0.03、0.1、0.3、1、3、10μg/mLとなるように添加した。37℃、5%COの条件下で6時間培養した後に、培養液を除去し、PBS(−)で2回洗浄した。ドライヤーで乾燥させた後に、2%パラホルムアルデヒドを含有するPBS(−)を100μL/wellで添加した。室温で20分間インキュベーションした後に、PBS(−)で3回洗浄した。1%ヒト血清を含有するRPMI1640で希釈したビオチン化抗ヒトE-Selectin抗体(コスモ・バイオ社)を100μL/wellで添加し、室温で60分間インキュベーションした。その後、PBS(−)で3回洗浄し、ペルオキシダーゼ標識したストレプトアビジン溶液(DAKO Cytomation社)を100μL/wellで添加し、室温で30分間インキュベーションした。洗浄後、発色基質(TMB)を100μL/wellで添加し、室温で30分間反応させた後に、2N硫酸を100μL/wellで加えて反応を停止した。450nmと650nmの波長での吸光度を測定し、ΔOD(450nm−650nm)をE-Selectinの発現量とした。F1024S-D2(3)のE-Selectin発現阻害のIC50値は、0.43μg/mLであった。この結果より、F1024S-D2(3)がLPSにより誘導されるヒト血管内皮細胞の接着分子発現を抑制することが示された。
F1031-13S-D2(3)およびF1024D-SLPI(D1D2)、F1024D-SLPI(D2)、F1024S-SLPI(D1D2)またはF1024S-SLPI(D2)の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0094】
(3)ヒト末梢血単核球のLPS誘導TNF-α産生に対する阻害活性の確認
正常ヒト末梢血単核球(hPBMC、Bio Whittaker社)を、10%ヒト血清および25mM HEPES(SIGMA社)を含有するRPMI1640で懸濁し、96ウェルプレートに2.5×10細胞/wellで播種した。F1024S-D2(3)を終濃度が0.1、0.3、1、3、10、30μg/mLとなるように添加し、室温で20分間静置した後に、LPS(WE.coli 055:B5、DIFCO社)を終濃度が0.1ng/mLとなるように添加した。37℃、5%COの条件下で6時間培養した後、培養上清中のTNF-αを、添付のプロトコールに従い、ヒトTNF-α EIAキット(DIACLONE Research社)で測定した。
F1024S-D2(3)のTNF-α産生阻害のIC50値は、0.58μg/mLであった。この結果より、F1024S-D2(3)がLPSにより誘導されるヒト白血球のサイトカイン産生を抑制することが示された。
F1031-13S-D2(3)およびF1024D-SLPI(D1D2)、F1024D-SLPI(D2)、F1024S-SLPI(D1D2)またはF1024S-SLPI(D2)の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0095】
(4)ヒト末梢血単核球のLPS誘導Procoagulant Activity(PCA)促進に対する阻害活性の確認
正常ヒト末梢血単核球(hPBMC、Bio Whittaker社)を実施例3−1)(3)に示す方法で播種し、F1024S-D2(3)を終濃度が0.1、0.3、1、3、10、30μg/mLとなるように添加し、室温で20分間静置した後に、LPS(WE.coli 055:B5、DIFCO社)を終濃度が0.1ng/mLとなるように添加した。37℃、5%COの条件下で6時間培養し、細胞懸濁液のPCAを正常ヒト血漿(DADE BEHRING社)を用いて測定した。すなわち、0.15M NaClおよび0.1%BSAを含有する50mM Tris-HCl(pH7.4)溶液で2.5倍希釈した後、20秒間超音波破砕(SHIMAZU社)し、このサンプルを血液凝固測定装置(AMAX CS190、エム・シー・メディカル社)にセットした。血液凝固測定装置にてサンプルを20μL分取し、25mM CaClを20μL添加して、37℃で3分間インキュベートした。正常ヒト血漿を90μL添加して凝固反応を開始し、凝固時間を測定した。凝固時間から算出したF1024S-D2(3)のPCA阻害のIC50値は、20.86μg/mLであった。この結果より、F1024S-D2(3)がLPSに誘導されるヒト白血球のPCA促進を抑制することが示された。
F1031-13S-D2(3)およびF1024D-SLPI(D1D2)、F1024D-SLPI(D2)、F1024S-SLPI(D1D2)またはF1024S-SLPI(D2)の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0096】
(5)LPSによるウサギ全血のTNF-α産生に対する阻害活性の確認
雄性ウサギ(ニュージーランドホワイト種、3.4kg、北山ラベス)の耳動脈よりヘパリン(持田製薬)を10unit/mL添加して採血した全血をマイクロチューブに移し、F1024S-D2(3)を終濃度が0.3、1、3、10、30μg/mLとなるように添加した。室温で30分間静置した後に、LPS(WE.coli 055:B5、DIFCO社)を終濃度が0.1ng/mLとなるように添加した。
37℃で6時間インキュベーションした後、4℃、8000rpm(TOMY社)の条件で10分間遠心して血漿分離し、血漿中のTNF-αを抗ウサギTNF-α抗体を用いたサンドイッチELISAで測定した。すなわち、1%BSAを含有するPBS(−)で希釈した血漿100μLを抗ウサギTNF-α抗体(BD Biosciences社)を4μg/mLで固相化したプレートに移し、室温で2時間インキュベーションした。0.05%Tween20を含むPBS(−)400μL/wellで3回洗浄し、ビオチン化抗ウサギTNF-α抗体溶液(2μg/mL、BD Biosciences社)を100μL/wellで添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄後、ペルオキシダーゼ標識したストレプトアビジン溶液(Invitrogen社)を100μL/wellで添加し、室温で30分間インキュベーションを行った。洗浄後、発色基質(TMB)を100μL/wellで添加し、室温で30分間反応させた後に、2N硫酸を100μL/wellで加えて反応を停止した。450nmと650nmの波長での吸光度を測定し、サンプル中のTNF-α産生量を算出した。F1024S-D2(3)のTNF-α産生阻害のIC50値は、0.83μg/mLであった。この結果より、F1024S-D2(3)がLPSにより誘導されるウサギ全血のサイトカイン産生を抑制することが示された。
F1031-13S-D2(3)およびF1024D-SLPI(D1D2)、F1024D-SLPI(D2)、F1024S-SLPI(D1D2)またはF1024S-SLPI(D2)の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0097】
3−2)酵素阻害活性の確認
F1024S-D2(3)およびF1024D-D2(3)の酵素阻害機能ドメインの活性を確認するために、各種酵素に対する阻害活性を以下のように測定した。また、各測定系において、活性測定用サンプルの蛋白質濃度は、ウシγグロブリン(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)をスタンダードとしてプロテインアッセイ染色液(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いて測定し、抗体融合蛋白質の推定分子量よりモル濃度に換算した。試験結果を図22ないし25に示す。各図の縦軸は各種酵素の残存活性、横軸は活性測定用サンプルの反応液中の濃度を示す。
【0098】
(1)FactorXa阻害活性
F1024S-D2(3)およびF1024D-D2(3)を0.14M塩化ナトリウム/5mM塩化カルシウム/20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)と10%BSAを99:1の比率で混合した希釈液(以下、希釈液)で段階希釈し、阻害活性測定用サンプルとした。これと併行して、Human FactorXa(Enzyme Research Laboratories)を希釈液にて0.1U/mLとなるよう調製し、FactorXa溶液とした。また、合成基質S-2222(第一化学薬品株式会社)を希釈液にて2mMとなるよう調製し、S-2222溶液とした。各試薬類を調製後、96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)に、阻害活性測定用サンプル10μL、希釈液50μLおよびFactorXa溶液20μLを添加し、37℃で5分間インキュベーションした。次いで、S-2222溶液を各ウェルに20μL添加して、さらに37℃で30分間インキュベーションした。その後、各ウェルに20%酢酸溶液50μLを添加して反応を停止し、反応液の波長405nmにおける吸光度を測定した。
【0099】
なお、コントロールとして、希釈液60μLにFactorXa溶液20μLを混合し、37℃で5分間インキュベーションした後、S-2222溶液20μLを加え、37℃で30分間インキュベーション後、20%酢酸溶液50μLを加えたものを使用した。図22に示す結果より、FXa阻害活性を保持していることが確認された。
F1031-13S-D2(3)の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0100】
(2)FactorXIa阻害活性
F1024S-D2(3)およびF1024D-D2(3)を希釈液(既出)で段階希釈し、阻害活性測定用サンプルとした。これと併行して、Human FactorXIa(American Diagnostica Inc.)を希釈液にて750ng/mLとなるよう調製し、FactorXIa溶液とした。また、合成基質S-2366(第一化学薬品株式会社)を水にて5mMとなるよう調製し、S-2366溶液とした。
各試薬類を調製後、96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)に、阻害活性測定用サンプル10μL、希釈液60μLおよびFactorXIa溶液10μLを添加し、37℃で5分間インキュベーションした。次いで、S-2366溶液を各ウェルに20μL添加して、さらに37℃で30分間インキュベーションした。その後、各ウェルに20%酢酸溶液100μLを加えて反応を停止させ、反応液の波長405nmにおける吸光度を測定した。
【0101】
なお、コントロールとして、希釈液70μLにFactorXIa溶液10μLを混合し、37℃で5分間インキュベーションした後、S-2366溶液20μLを加え、37℃で30分間インキュベーション後、20%酢酸溶液100μLを加えたものを使用した。
図23に示す結果より、D2(3)がFXIa阻害活性を有することが判明した。
F1031-13S-D2(3)の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0102】
(3)エラスターゼ阻害活性
F1024S-D2(3)およびF1024D-D2(3)を希釈液(既出)で段階希釈し、阻害活性測定用サンプルとした。これと併行して、500mM塩化ナトリウム/50mM酢酸ナトリウム(pH5.5)に溶解して凍結保存していたElastase,Human Neutrophil(Athens Research & Technology)を希釈液にて20μg/mLとなるよう調製し、エラスターゼ溶液とした。また、合成基質S-2484(第一化学薬品株式会社)はジメチルスルホキシドに溶解して冷蔵保存し、使用時に水にて2mMとなるよう調製し、S-2484溶液とした。
各試薬類を調製後、96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)に、阻害活性測定用サンプル10μL、希釈液70μLおよびエラスターゼ溶液10μLを添加し、37℃で3分間インキュベーションした。次いで、S-2484溶液を各ウェルに10μL添加して、さらに37℃で正確に10分間インキュベーションした。その後、各ウェルに20%酢酸溶液50μLを加えて反応を停止させ、反応液の波長405nmにおける吸光度を測定した。
【0103】
なお、コントロールとして、希釈液80μLにエラスターゼ溶液10μLを混合し、37℃で3分間インキュベーションした後、S-2484溶液10μLを加え、37℃で正確に10分間インキュベーション後、20%酢酸溶液50μLを加えたものを使用した。図24に示す結果より、エラスターゼ阻害活性を保持していることが確認された。
F1031-13S-D2(3)およびF1024D-SLPI(D1D2)、F1024D-SLPI(D2)、F1024S-SLPI(D1D2)またはF1024S-SLPI(D2)のの融合蛋白質の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0104】
(4)血漿カリクレイン
F1024S-D2(3)およびF1024D-D2(3)を希釈液(既出)で段階希釈し、阻害活性測定用サンプルとした。これと併行して、Kallicrein from Human plasma(SIGMA-Aldrich Co.)を希釈液にて20mU/mLとなるよう調製し、血漿カリクレイン溶液とした。また、合成基質S-2302(第一化学薬品株式会社)を水にて4mMとなるよう調製し、S-2302溶液とした。
各試薬類を調製後、96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)に、阻害活性測定用サンプル10μL、希釈液70μLおよび血漿カリクレイン溶液10μLを添加し、37℃で3分間インキュベーションした。次いで、S-2302溶液を各ウェルに10μL添加して、さらに37℃で30分間インキュベーションした。その後、各ウェルに20%酢酸溶液50μLを加えて反応を停止させ、反応液の波長405nmにおける吸光度を測定した。
【0105】
なお、コントロールとして、希釈液80μLに血漿カリクレイン溶液10μLを混合し、37℃で3分間インキュベーションした後、S-2302溶液10μLを加え、37℃で30分間インキュベーション後、20%酢酸溶液50μLを加えたものを使用した。図25に示す。
F1031-13S-D2(3)の阻害活性を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0106】
3−3)凝固阻害作用の確認
(1)ヒトおよびウサギにおける活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長作用の確認
正常ヒト血漿は、デイドサイトロールレベル1(DADE BEHRING社)を使用した。ウサギ血漿は、雄性ウサギ(ニュージーランドホワイト種、2.6〜2.7kg、北山ラベス)の耳動脈より1/10容の3.8%クエン酸ナトリウム(血沈用チトラート、岩城製薬)を含むシリンジを用いて採血し、4℃、3000rpm(05PR-22、日立社)の条件で10分間遠心することにより取得した。
ヒトあるいはウサギ血漿113μLに、F1024S-D2(3))溶液20μLを終濃度が0、1.56、3.13、6.25、12.5、25、50、100μg/mLとなるように添加し、血液凝固測定装置(AMAX CS190、エム・シー・メディカル社)にセットした。血液凝固測定装置にて混合液から50μLを分取し、APTT測定用試薬(DADE BEHRING社)50μLを加え、2分間インキュベーションした後に、25mM CaClを50μL添加して、凝固時間を測定した。その結果、F1024S-D2(3)は、濃度に依存してヒトおよびウサギAPTTを延長し、ヒトおよびウサギのAPTT1.5倍延長濃度は、それぞれ9.06μg/mLおよび40.96μg/mLであった。
F1031-13S-D2(3)のAPTT延長を同様のアッセイ系を用いて評価する。
【0107】
(実施例4)in vivoにおける有効性の評価
4−1)LPS負荷ウサギ敗血症モデルにおける融合蛋白質の生存率改善効果
LPS負荷ウサギ敗血症致死モデルを作製し、融合蛋白質の後投与での生存率改善を検討した。
LPS負荷ウサギ敗血症モデルを、Schimkeらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95:13875, 1998)に準じ、ニュージーランドホワイト種(1.8−2.6kg、北山ラベス)にLPS(Salmonella Minnesota Re595、SIGMA社)を15μg/kgで0、5および24時間に耳静脈内投与して作製した。F1024S-D2(3)を1mg/kgの用量で2、8および23時間に耳介静脈内投与した。対照群には融合蛋白質の替わりにヒト免疫グロブリンを投与した。48時間まで生死を観察し、カプランマイヤー生存曲線を描いた。その結果、F1024S-D2(3)投与により、対照群に比べて生存率が改善された(図26)。
同試験系において、F1024D-SLPI(D1D2)、F1024D-SLPI(D2)、F1024S-SLPI(D1D2)またはF1024S-SLPI(D2)の投与も生存率改善作用を示す。
【0108】
4−2)LPS負荷ウサギ敗血症モデルにおける融合蛋白質の炎症および凝固パラメーター改善効果
LPS負荷ウサギ敗血症モデルを作製し、融合蛋白質の後投与での炎症および凝固パラメーターへの影響を検討した。
LPS負荷ウサギ敗血症モデルは、Schimkeらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95:13875, 1998)に準じ、ニュージーランドホワイト種(1.8−2.6kg、北山ラベス)にLPS(Salmonella Minnesota Re595、SIGMA社)を10μg/kgで0、5および24時間に耳静脈内投与して作製した。F1024S-D2(3)を0.3、1および3mg/kgの用量で2、8および23時間に耳介静脈内投与した。対照群には融合蛋白質の替わりにヒト免疫グロブリンの3mg/kgを投与した。
【0109】
LPS投与前、ならびに投与1.5、25、26および28時間後に耳介動脈採血(クエン酸加血)し、炎症パラメーターおよび凝固パラメーターを測定した。
炎症パラメーターは白血球数および血漿中TNF−濃度、凝固パラメーターは血小板数および血漿中アンチトロンビンIII活性とした。
血球数はSysmex F-820(シスメックス株式会社)を用いて計数した。TNF-α濃度はPurified Goat Anti-rabbit TNF polyclonal Antibody(BD Biosciences)およびBiotinylated Mouse Anti-rabbit TNF-α monoclonal Antibody(BD Biosciences)によるサンドイッチELISA法にて測定した。
アンチトロンビンIII活性はテストチームATIII・2キット(第一化学薬品株式会社)を用いて測定した。
【0110】
なお,血漿中TNF−α濃度はサンドイッチELISAの検出感度である0.4ng/mL以上および未満をそれぞれ陽性および陰性とした。その結果、F1024S-D2(3)投与群は対照群と比較して、用量依存的な白血球数の減少(図27)、血漿中TNF-α濃度の上昇(表4)、血小板数の減少(図28)およびアンチトロンビンIII活性の減少(図29)を改善した。以上の結果より、F1024S-D2(3)による炎症および凝固パラメーターの改善が明らかとなった。
同試験系においてF1031-13S-D2(3)投与群は対照群と比較して、白血球数の減少、血漿中TNF-α濃度の上昇、血小板数の現象およびアンチトロンビンIII活性の減少に対して改善作用を示す。
【0111】
【表4】

【0112】
4-3)LPS負荷ウサギ敗血症モデルにおける融合蛋白質の血圧低下改善効果
LPS負荷ウサギ敗血症モデルを作製し、融合蛋白質の後投与での血圧低下改善効果を検討した。
LPS負荷ウサギ敗血症モデルは、Schimkeらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95:13875, 1998)に準じ、ニュージーランドホワイト種(1.8-2.6kg、北山ラベス)にLPS(Salmonella Minnesota Re595、SIGMA社)を5μg/kgで0および5時間に耳静脈内投与して作製した。F1024S-D2(3)は1mg/kgの用量でLPS初回投与後2時間に耳介静脈内投与した。対照群には融合蛋白質の替わりにヒト免疫グロブリンの1mg/kgを投与した。
LPS投与前、ならびに投与4、6および8時間後に頸動脈に挿入したカテーテルを血圧トランスデューサー(DT-XX、日本BDメディカルシステムズ)に接続して平均動脈血圧を測定した。その結果、F1024S-D2(3)投与群は対照群と比較して血圧低下が改善された(図30)。
同試験系においてF1031-13S-D2(3)投与群は対照群と比較して血圧低下を改善することが確認される。
【0113】
(実施例5)抗体融合蛋白質の安定生産株の樹立
5−1)F1024S-D2(3)およびF1024D-D2(3)生産株用発現プラスミドの構築
F1024S-D2(3)およびF1024D-D2(3)を生産する安定生産株の樹立に用いる発現プラスミドは以下の方法で構築した。
実施例1で構築したF1024S-D2(3)重鎖発現プラスミドpTK-2370あるいはF1024D-D2(3)重鎖発現プラスミドpTK-2368をそれぞれEcoRIおよびKpnIで消化し、約1.7kbの断片を回収した。また、マウスDHFR発現ユニット、EF1αプロモーターを持つ発現プラスミドpM1103(WO97/42319参照)を、同様にEcoRIおよびKpnIで消化し、約7.9kbの断片を回収した。それぞれの重鎖発現プラスミドの消化断片と、pM1103消化断片をライゲーションした後、定法に従いJM109コンピテントセルを形質転換することで、生産株作製用F1024S-D2(3)重鎖発現プラスミドpEFD2370あるいはF1024D-D2(3)重鎖発現プラスミドpEFD2368を得た。一方、軽鎖発現プラスミドはF1024S-D2(3)、F1024D-D2(3)で共通であり、以下の方法で構築した。一過性用発現プラスミドpTK-2344をBamHIで消化後、末端を平滑化し、さらにEcoRIで消化することにより、0.7kbの断片を回収した。また、pM1103をKpnIで消化後、末端を平滑化した後に、EcoRI消化して約7.9kbの断片を回収した。pTK-2344消化断片とpM1103消化断片をライゲーションした後、定法に従いJM109コンピテントセルを形質転換することで、生産株作製用軽鎖発現プラスミドpEFD2344を得た。
【0114】
5−2)F1024S-D2(3)およびF1024D-D2(3)を生産する形質転換株の樹立
DHFR遺伝子欠損CHO細胞に実施例5−1)で構築した重鎖および軽鎖発現プラスミドをco-transfectionし、キメラ抗体融合蛋白質産生形質転換CHOを樹立した。すなわち、HT media Supplement(50×)Hybri-Max(SIGMA;終濃度1×で使用)および200mM L-Glutamine(SIGMA;終濃度4mMで使用)を含むEX-CELL 325 PF CHO(JRH Bioscience)にて馴化培養したCHO DXB11をtransfection当日に遠心後、8×10cells/150Rouxの濃度でフラスコに植え込んだ。FuGENE6(ロッシュダイアグノティクス)125μLを用いて、重鎖発現プラスミド12.5μgと軽鎖発現プラスミド12.5μg(すなわち、pEFD2370+pEFD2344あるいはpEFD2368+pEFD2344)をFuGENE6添付プロトコールに準じ調製し、先のCHO DXB11へco-transfectionした。5%COで37℃、2日間培養した後に、細胞を回収し、HT不含4mM L-Glutamine含有EX-CELL 325 PF CHO培地(以下EX-CELL(HT−)と記載)で一度、PBSで一度洗浄し、EX-CELL(HT−)に再度懸濁した。次に3,000〜48,000cells/wellで96ウェルプレートに細胞を蒔き直し、5%CO、37℃で培養を続け、3日あるいは4日毎に培地の半量を新しいEX-CELL(HT−)に交換した。約1ヶ月間培養を続けた後、コロニーが発生したウェル内の細胞を新しいプレートに移し、培養上清中のキメラ抗体量を実施例2に記載のEIA方で測定した。上清中にキメラ抗体の発現が確認された細胞をキメラ抗体融合蛋白質産生形質転換株として得た。
【0115】
5−3)Methotrexateを用いた遺伝子増幅
実施例5−2)で得られたキメラ抗体融合蛋白質発現形質転換CHO株を、Methotrexate(以下MTXと表記)を含むEX-CELL(HT−)培地で選択培養することにより、遺伝子増幅作業を行い目的のキメラ抗体融合蛋白質の生産量が上昇しているクローンの選択を行った。
【0116】
(1)CHO-F1024SC93t3L1の樹立
上記5−2)で得られたF1024S-D2(3)産生形質転換株を100nM MTX含有EX-CELL(HT−)培地に懸濁し、96ウェルプレートに巻き込んだ。3日あるいは4日毎に培地の半量を新しい100nM MTX含有EX-CELL(HT−)に交換し、コロニーが生じるまで5%CO、37℃で培養を続けた。得られたコロニーの発現量をEIA法で確認し、生産量の増加しているクローンを選択し、引き続き300nM MTX含有EX-CELL(HT−)培地にて懸濁し、96ウェルプレートに巻き込み選択培養を行った。その後、100nM MTXの選択培養と同様の操作を行い、生産量が約20倍上昇した形質転換株を得ることができた。尚、MTXの濃度を3〜10倍段階的に上げた培地で選択培養を繰り返すことで、さらに生産量が増加するクローンを得ることができる。
【0117】
(2)CHO-F1024DC78u1の樹立
上記5−2)で得られたF1024D-D2(3)産生形質転換株を実施例5−2)と同様の方法で処理し高生産株を得た。MTX選択培養は1回目が100nMの濃度で、2回目は1000nMの濃度で行った。その結果、生産量がEIA値で約60μg/mLのクローンを得ることができた。
【0118】
(実施例6)F1024抗体の結合に重要な配列の解析
6−1)可溶型ヒトCD14アミノ酸置換体発現プラスミド構築
F1024抗体の認識領域を解析するため、表5に記載した可溶型ヒトCD14アミノ酸置換体31種をそれぞれ作製した。尚、可溶型CD14分子のN末端より263番目のAsnをGlnに置換した1アミノ酸置換体を「N263Q」と記載し、他の1アミノ酸置換体も同様に記載した。但し、294番目のProおよび296番目のProの両方をAlaに置換した2アミノ酸置換体は「P294/296A」と記載した。これらの置換体発現プラスミドは以下の方法で構築した。
【0119】
まず、WO02/42333またはUS2004/0092712に記載のアミノ酸置換体ポリペプチド発現プラスミドの構築と同様の方法でsCD14(1−307)アミノ酸置換改変体発現プラスミドの構築を行った。例えば、P294H、P294/296A、Q295AあるいはP296Hの置換を導入したsCD14(1−307)アミノ酸置換改変体発現プラスミドの構築には、アミノ置換配列をコードする、表6に記載したプライマーセットを設計し、PCRに用いた。なお、アミノ酸置換部分をコードするコドンは太字(下線)で示した(表6)。
【0120】
次にリコンビナントPCR法を用いて、アミノ酸置換(コドン変異)導入DNA断片を調製し、可溶型ヒトCD14アミノ酸置換体発現プラスミドを構築した。具体的には、例えばP294H、P294/296A、Q295AあるいはP296H発現プラスミドの構築は以下の方法で行った。センスプライマーS1(5'−GCG GCA GTA TGC TGA CAC GG−3')、センスプライマーS2(5'−GAT AAC CTG ACA CTG GAC GGG AAT CCC TTC−3')、センスプライマーS3(5'−GCC ATC CAG AAT CTA GCG CT−3')およびアンチセンスプライマーA1(5'− GAA GGG ATT CCC GTC CAG TGT CAG GTT ATC−3')、アンチセンスプライマーA2(5'−ATT AGC CAG AAG TCA GAT GCT C−3')、アンチセンスプライマーA3(5'−GGG CAT TGG CCA CAC CAG C−3')を合成し、先に得られた各sCD14(1−307)アミノ酸置換改変体発現プラスミドを鋳型として、センスプライマーS1とA1でPCRを行った。増幅産物については電気泳動により、分離精製した(PCR産物A)。また、pCAG356を鋳型にセンスプライマーS2とA2でPCRを行い、増幅産物を電気泳動により、分離精製した(PCR産物B)。さらにPCR産物AとPCR産物Bの混合物を鋳型に、センスプライマーS3とA3でPCRを行い、PCR産物を電気泳動により、分離精製した(PCR産物C)。次に、PCR産物CをPvuIIおよびKpnIで消化し、電気泳動により、約0.2kbの断片を分離回収した。一方、pCAG356を同様にPvuIIおよびKpnIで消化し、約5.8kbの断片を電気泳動により回収し、先に得られた約0.2kbの断片をライゲーションした。定法に従い、大腸菌XL1-Blue(STRATAGENE)を形質転換し、目的の発現プラスミドを得た。尚、pCAG356はpCAGGS(GENE、Vol.15(1989)pp269-277)にWO02/42333に記載のsCD14発現プラスミドpM1656由来のCD14遺伝子(GPIアンカーリングサイトに変異を導入)を挿入したプラスミドである。
【0121】
【表5】

【0122】
【表6】

【0123】
6−2)可溶型ヒトCD14アミノ酸置換体の発現
上記6−1)で作製した各発現プラスミドを下記の方法でCOS-1細胞に導入した。すなわち、FuGENE6(ロシュ・ダイアグノスティックス社)50μLを上記プラスミドDNA各12.5μgと添付プロトコールに従い混合し、150cm3フラスコにセミコンフルエントに増殖したCOS-1細胞に添加した。引き続き、5%CO、37℃の条件下で3〜4日間培養行い、上清中にヒトCD14アミノ酸置換体を発現させた。発現の有無の確認はWO02/42333に記載のCD14抗体を用いたEIA法にて行った。その結果、表5に記載の置換体の内、N263Q、L276A、L283A、N288AおよびL290A以外の全ての発現が確認できた。
【0124】
6−3)可溶型ヒトCD14アミノ酸置換体の精製
可溶型ヒトCD14アミノ酸置換体を以下の方法で精製した。上記6−2)で得られた培養上清を、抗ヒトCD14抗体(3C10)を結合したアフィニティー精製用カラム(NHS-activated Sepharose4 Fast Flow;アマシャム バイオサイエンス)に供して選択的に吸着させ、10mM HClにて溶出した。得られた溶出画分は、直ちに10×PBS(SIGMA)を終濃度2×になるように加え、中和した。その後、生理食塩水に対して透析し、得られた透析液を精製標品とした。
【0125】
6−4)F1024抗体に対する競合実験
各可溶型ヒトCD14アミノ酸置換体のF1024抗体に対する反応性を確認するために、以下の競合実験を行った。まず、可溶型CD14分子(356(CHO);調製方法は下記6−5)に記載)をPBSにて4μg/mLに希釈し、96ウェルプレート(F8 MaxiSorp;NUNC)に50μL/wellで添加し、4℃で一晩静置した。その後、0.05%Tween20を含むPBSで3回洗浄し、2%StabilGuard(SurModics, Inc.)を含むPBSを各ウェルに200μL/well添加し、37℃で30分インキュベーションした後に、4℃で保存した。一方、実施例6−3)で精製した各可溶型ヒトCD14アミノ酸置換体を0.1%BSA含有PBSで2〜0.02μg/mLに希釈した。また、HRP標識F1024抗体を0.1%BSA含有PBSで2μg/mLに希釈し、先のヒトCD14アミノ酸置換体と等量(25μL+25μL)混合した。次に可溶型CD14固相化プレートのwellから液を除去し、CD14アミノ酸置換体/HRP標識F1024混合液を50μL/well添加し、37℃で2時間インキュベーションした。0.05%Tween20含有PBSで5回洗浄後、発色基質としてTMB溶液(BioFX)を各ウェルに50μL/wellずつ添加した。室温で5分間反応後、1M 塩酸溶液50μL/wellで反応を停止し、プレート分光光度計で450nmの吸光度を測定した。
【0126】
アミノ酸置換体未添加時の吸光度を100%として、結果を図31に示す。なお、図中の356(CHO)は、固相化に用いた可溶型CD14分子を添加した場合の吸光度推移を示す。
その結果、多くのアミノ酸置換体は添加濃度依存的に吸光度が低下しており、356(CHO)と競合して、F1024抗体に結合しているのが確認されたが、P294H、P294/296A、Q295AおよびP296Hでは、添加濃度に関わらず、吸光度の低下が確認されず、F1024抗体への結合が起きていないと判断した(図31)。すなわち、CD14の294、295、296番目のPro、Gln、ProがF1024抗体の結合に重要な領域であることが明らかになった。
【0127】
6−5)可溶型ヒトCD14分子(356(CHO))の調製
CHO細胞を用いて可溶型ヒトCD14分子(356(CHO))を以下の方法で調製した。
(1)発現プラスミドの構築
WO02/42333に記載のpM1656をHindIIIで消化し、DNA Blunting Kit(タカラバイオ)を用いて、末端を平滑化した。次にXbaIで消化を行い、電気泳動により、約1.4kbの断片を分離回収した。また、マウスDHFR発現ユニット、EF1αプロモーターを持つ発現プラスミドpM1103をNotIで消化し、DNA Blunting Kit(タカラバイオ)を用いて、末端を平滑化した。次にXbaIで消化を行い、電気泳動により、約8.0kbの断片を分離回収した。この約8.0kbの断片にpM1656由来の約1.4kb断片を挿入ライゲーションし、大腸菌JM109を形質転換することで、356(CHO)発現プラスミドを得ることができた。
【0128】
(2)356(CHO)発現形質転換株の樹立
DHFR遺伝子欠損CHO細胞にこの発現プラスミドを導入し、356(CHO)を発現する形質転換株を樹立した。すなわち、すなわちFuGENE6(ロシュ・ダイアグノスティックス)50μLを上記プラスミドDNA12.5μgと添付プロトコールに従い混合し、150cmフラスコにセミコンフルエントに増殖したCHO DXB11細胞(増殖培地は10%非働化FBS含有Ham's F-12培地(Invitrogen)を使用)に添加し、5%COで37℃、一晩培養した。翌日、細胞をトリプシンで剥離回収し、10%非働化透析FBS含有α-MEM(リボヌクレオシド・デオキシリボヌクレオシド不含)(Invitrogen)培地(以下、選択培地と記載)にて、96ウェルプレートに細胞を蒔き直した。5%CO、37℃で培養を続け、3日あるいは4日毎に培地の半量を新しい選択培地に交換した。3〜4週間培養を続けた後、コロニーが発生したウェル内の細胞を新しいプレートに移し、培養上清中の可溶型CD14産生量をWO02/42333に記載のCD14抗体を用いたEIA法にて行った。発現量の高いクローンNo.P3を可溶型CD14発現株として樹立した。
【0129】
(3)Methotrexate(MTX)を用いた遺伝子増幅
356(CHO)発現量を増加させるために、MTXを含む選択培地でP3クローンを選択培養し、遺伝子増幅により356(CHO)の生産量を増加させた。すなわち、実施例6−5)(2)で得られたP3クローンを、15nMのMTXを含む選択培地に懸濁し、10cm培養dishに巻き込んだ。3日あるいは4日毎に培地を新しい15nM MTX含有選択培地に交換し、コロニーが生じるまで5%CO、37℃で培養を続けた。得られたコロニーをプレートに植え継ぎ、上清中の356(CHO)発現量をEIA法で確認し、発現量の増加しているクローンP3-54を得た。
【0130】
(4)356(CHO)の生産および精製
上記6−5)(3)で得られたP3-54クローンを選択培地で培養し、その上清中に発現している356(CHO)を実施例6−3)と同様の方法で精製した。
【0131】
(実施例7) 抗体融合蛋白質(F1024S−D2)のUTI第2ドメインの改変
7−1)F1024S−D2のUTI第2ドメインの改変体の作製
UTIドメインの15番目のアルギニンをアラニンに置換(R15Aと表記)した場合を例にとると、先ず、変異を導入したい部分およびその近傍10アミノ酸前後をコードするプライマー(表7)を設計し、合成を行った。
【0132】
【表7】

【0133】
次に、pTK−2355を鋳型として、プライマー対(IgG4−w,D2−R15A−s)および(pEF2ce−27,D2−R15A−a)でそれぞれPCRを行い、得られた増幅産物を混合し、プライマー対(IgG4−w,pEF2ce−27)(表8)で再度PCRを行った。
この増幅産物を制限酵素BamHIおよびNotIで切断後、アガロースゲル電気泳動し、その断片を抽出した後に、予め同様にBamHIおよびNotIで切断しておいたpTK−2355のベクター部分とT4DNAリガーゼで連結することにより、R15A変異を導入したF1024S−D2改変体重鎖を発現可能なプラスミド(pTK−2730)を構築することができた。このプラスミドをCOS−1細胞に、軽鎖発現プラスミド(pTK−2344)とコトランスフェクションさせることで、培養上清中にF1024S−D2(R15A)改変体が発現されるのを確認し、Prosep−Aカラムで発現産物の精製を行った。
同様の方法を用いることで、表9に示す80種類のF1024S−D2のUTI第2ドメイン改変体を作製し、CD14抗原に対し、結合能を保持していることを確認した。また、表9に示す各改変体のUTI第2ドメインのアミノ酸配列は、図32〜図35に示す。
【0134】
【表8】

【0135】
【表9】


【表10】

【0136】
7−2)F1024S−D2改変体のエラスターゼ阻害活性
実施例3−2)の(3)と同様の方法により、上記で作製した80種類のF1024S−D2改変体及びF1024−D2(3)のエラスターゼ阻害活性を測定した。ただし、S−2484溶液添加後の37℃インキュベーションは5分間とした。その結果、以下の発現プラスミド由来融合蛋白質(F1024S−D2改変体)はF1024S−D2(3)と同等のエラスターゼ阻害活性を示すことが確認された。
pTK−2730(R15A)、pTK−2737(R15I)、pTK−2739(R15L)、pTK−2740(R15M)、pTK−2745(R15T)、pTK−2746(R15V)、pTK−2866(R11S/R15T/Q19A/Y46D)、pTK−2867(R11S/R15T/Q19C/Y46D)、pTK−2868(R11S/R15T/Q19D/Y46D)、pTK−2869(R11S/R15T/Q19E/Y46D)、pTK−2870(R11S/R15T/Q19F/Y46D)、pTK−2871(R11S/R15T/Q19G/Y46D)、pTK−2872(R11S/R15T/Q19H/Y46D)、pTK−2873(R11S/R15T/Q19I/Y46D)、pTK−2874(R11S/R15T/Q19L/Y46D)、pTK−2875(R11S/R15T/Q19M/Y46D)、pTK−2876(R11S/R15T/Q19N/Y46D)、pTK−2877(R11S/R15T/Q19P/Y46D)、pTK−2878(R11S/R15T/Y46D)、pTK−2879(R11S/R15T/Q19R/Y46D)、pTK−2880(R11S/R15T/Q19S/Y46D)、pTK−2881(R11S/R15T/Q19T/Y46D)、pTK−2882(R11S/R15T/Q19V/Y46D)、pTK−2883(R11S/R15T/Q19W/Y46D)、pTK−2884(R11S/R15T/Q19Y/Y46D)、pTK−2889(R11S/R15T/F17A/Y46D)、pTK−2890(R11S/R15T/F17C/Y46D)、pTK−2891(R11S/R15T/F17D/Y46D)、pTK−2892(R11S/R15T/F17E/Y46D)、pTK−2932(R11A/R15T/Y46D)、pTK−2893(R11S/R15T/F17G/Y46D)、pTK−2933(R11C/R15T/Y46D)、pTK−2895(R11S/R15T/F17H/Y46D)、pTK−2934(R11D/R15T/Y46D)、pTK−2896(R11S/R15T/F17I/Y46D)、pTK−2935(R11E/R15T/Y46D)、pTK−2897(R11S/R15T/F17L/Y46D)、pTK−2936(R11F/R15T/Y46D)、pTK−2898(R11S/R15T/F17M/Y46D)、pTK−2937(R11G/R15T/Y46D)、pTK−2899(R11S/R15T/F17N/Y46D)、pTK−2938(R11H/R15T/Y46D)、pTK−2900(R11S/R15T/F17P/Y46D)、pTK−2939(R11I/R15T/Y46D)、pTK−2901(R11S/R15T/F17Q/Y46D)、pTK−2940(R11K/R15T/Y46D)、pTK−2902(R11S/R15T/F17R/Y46D)、pTK−2941(R11L/R15T/Y46D)、pTK−2903(R11S/R15T/F17S/Y46D)、pTK−2942(R11M/R15T/Y46D)、pTK−2904(R11S/R15T/F17T/Y46D)、pTK−2943(R11N/R15T/Y46D)、pTK−2905(R11S/R15T/F17V/Y46D)、pTK−2944(R11P/R15T/Y46D)、pTK-2906(R11S/R15T/F17W/Y46D)、pTK-2945(R11Q/R15T/Y46D)、pTK-2907(R11S/R15T/F17Y/Y46D)、pTK-2946(R15T/Y46D)、pTK-2947(R11T/R15T/Y46D)、pTK-2948(R11V/R15T/Y46D)、pTK-2949(R11W/R15T/Y46D)、pTK-2950(R11Y/R15T/Y46D)、pTK-2824(R11S/R15I/Q19K/Y46D)、pTK-2825(R11S/R15L/Q19K/Y46D)、pTK-2826(R11S/R15T/Q19K/Y46D)、pTK-2827(R11S/R15V/Q19K/Y46D)
【0137】
特に、発現プラスミドpTK-2826(R11S/R15T/Q19K/Y46D)由来融合蛋白質の50%阻害濃度は4.43μg/mLであり、F1024S−D2(3)の50%阻害濃度が8.90μg/mLであるのに比べて、D2(3)部分の15番目のアルギニンをスレオニンに置換することによりエラスターゼ阻害活性が増強された。
融合蛋白質F1024−D2(4)(R11S/R15T/Q19K/Y46D)の全アミノ酸配列の説明図を示したものを図36に示す。
【0138】
(実施例8) 抗体融合蛋白質(F1024S−トロンボモジュリン(TM)機能ドメイン)
8−1)F1024S-TM発現プラスミドの構築
抗CD14抗体(F1024S)とTMの各種機能ドメインとの融合蛋白質を作製するため、HeLaゲノムDNAを鋳型とし、プライマー対(TM-b,TM-g)によるPCRを行って、ヒトのトロンボモジュリン(以下TM)遺伝子全長を増幅し、pT7-BlueベクターへTAクローニングした。配列を確認後、pT7-TMとした。
次にpT7-TMを鋳型とし、プライマー対(TMD123456,TMdomain2-Not1Bgl2)でPCRを行い、得られた増幅断片を制限酵素BamHIおよびBglIIで切断後、予め調製しておいたベクター(実施例1表3に記載のpTK-2354を、制限酵素BamHIで切断後、脱リン酸化処理を行って調製)と混合し、T4DNAリガーゼによる結合反応を行うことで、TMのアミノ酸番号227番目のシステイン〜462番目のシステイン(Cys227〜Cys462)をF1024Sに付加した融合蛋白質(F1024S-TM123456Mと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2754を構築した。同様の方法で、プライマー対(TMD123456,TMdomain3-Not1Bgl2)を用いることで、アミノ酸番号227番目のシステイン〜497番目のセリン(Cys227〜Ser497)を付加した融合蛋白質(F1024S-TM1234567Mと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2755を、プライマー対(TMD23456,TMdomain2-Not1Bgl2)を用いることで、263番目のトレオニン〜462番目のシステイン(Thr263〜Cys462)を付加した融合蛋白質(F1024S-TM23456Mと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2756を、プライマー対(TMD23456,TMdomain3-Not1Bgl2)を用いることで、263番目のトレオニン〜497番目のセリン(Thr263〜Ser497)を付加した融合蛋白質(F1024S-TM234567Mと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2757を、プライマー対(TMD3456,TMdomain2-Not1Bgl2)を用いることで、306番目のグルタミン〜462番目のシステイン(Glu306〜Cys462)を付加した融合蛋白質(F1024S-TM3456Mと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2758を、プライマー対(TMD3456,TMdomain3-Not1Bgl2)を用いることで、306番目のグルタミン〜497番目のセリン(Glu306〜Ser497)を付加した融合蛋白質(F1024S-TM34567Mと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2759を、プライマー対(TMD456,TMdomain2-Not1Bgl2)を用いることで、345番目のバリン〜462番目のシステイン(Val345〜Cys462)を付加した融合蛋白質(F1024S-TM456Mと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2760を、プライマー対(TMD456,TMdomain3-Not1Bgl2)を用いることで、345番目のバリン〜497番目のセリン(Val345〜Ser497)を付加した融合蛋白質(F1024S-TM4567Mと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2761をそれぞれ構築した。
一方、TMの酸化による活性低下を抑制する為に、アミノ酸番号388番目のメチオニン(Met388)をロイシン(Leu)に置換した変異体(M388L)も、以下の方法で作製した〔Clarke, JH.ら、J.Biol.Chem.268,6309-6315(1993)〕。すなわち、pT7-TMを鋳型とし、各プライマー対〔TMD123456,TM(M388L)-a〕および〔TMdomain2-Not1Bgl2,TM(M388L)-s〕によるPCR反応後に、各増幅産物を混合し、プライマー対(TMD123456,TMdomain2-Not1Bgl2)で再度PCRすることで、M388Lの変異を有した227番目のシステインから462番目のシステイン(Cys227〜Cys462)をコードする遺伝子断片を増幅することができた。上記と同様に、この断片を制限酵素BamHIおよびBglIIによる切断およびリガーゼ反応によるベクターへの結合によって、M388Lの変異を有するTMの227番目のシステインから462番目のシステイン(Cys227〜Cys462)領域を、抗体分子F1024Sに付加した融合蛋白質(F1024S-TM123456Lと表記)の重鎖を発現可能なプラスミドpTK-2762を構築した。最終的に、pTK-2755にM388Lの変異を導入した融合蛋白質(F1024S-TM1234567Lと表記)の重鎖を発現可能なpTK-2763、pTK-2756にM388Lの変異を導入した融合蛋白質(F1024S-TM23456Lと表記)の重鎖を発現可能なpTK-2764、pTK-2757にM388Lの変異を導入した融合蛋白質(F1024S-TM234567Lと表記)の重鎖を発現可能なpTK-2765、pTK-2758にM388Lの変異を導入した融合蛋白質(F1024S-TM3456Lと表記)の重鎖を発現可能なpTK-2766、pTK-2759にM388Lの変異を導入した融合蛋白質(F1024S-TM34567Lと表記)の重鎖を発現可能なpTK-2767、pTK-2760にM388Lの変異を導入した融合蛋白質(F1024S-TM456Lと表記)の重鎖を発現可能なpTK-2768、pTK-2761にM388Lの変異を導入した融合蛋白質(F1024S-TM4567Lと表記)の重鎖を発現可能なpTK-2769をそれぞれ構築した。
表10に使用したプライマーの配列、表11に、各抗CD14抗体(F1024S)融合蛋白質と各発現プラスミドを示す。
なお、各抗CD14抗体(F1024S)融合蛋白質のアミノ酸配列は、図37〜44並びに配列表に示す。
また、融合蛋白質F1024−TM23456Lの全アミノ酸配列の説明図を示したものを図45に示す。
【0139】
【表11】

【0140】
【表12】

【0141】
各プラスミドを、COS-1細胞に軽鎖発現プラスミド(pTK−2344)とコトランスフェクションさせることで、培養上清中にF1024S−TMが発現された。この上清を、Prosep−Aカラムによる精製を行い、以後のアッセイに供した。
尚、各融合蛋白質がCD14抗原に対し結合活性があることを、EIAによる結合実験で確認した。
【0142】
8−2)トロンボモジュリン(TM)活性測定
トロンボモジュリン(TM)が、血中でトロンビンと複合体を形成し、血液凝固阻害因子のプロテインCを活性化する作用を指標として以下のようにTM活性を測定した。
反応(活性測定)はマルチチューブにて実施した。希釈は0.14mol/L塩化ナトリウム、10mmol/L塩化カルシウム及び1mg/mL牛血清アルブミンを含む25mmol/Lトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)で行った。検体40μLに6U/mLヒトトロンビン(SIGMA)10μLを加え、37℃で10分間プレインキュベートした。次いで、24μg/mLプロテインC(american diagnostica inc.)10μLを加え、37℃で5分間インキュベートした。0.15U/mLアンチトロンビンIII(ミドリ十字)−15U/mLヘパリン(持田製薬)混合液40μLを加え、37℃で10分間インキュベートした。3.2mmol/L活性化プロテインC基質S−2366(第一化学薬品)100μLを加え37℃で10分間インキュベート後、50%酢酸200μLを加え反応を停止した。反応液300μLを96穴平底プレートに移し、プレートリーダー(Molecular Devices)にて405nmの吸光度を測定した。ポジティブコントロールとしてはヒトトロンボモジュリンMR−33(持田製薬)を使用した。その結果、すべてのF1024S−TM融合蛋白質はプロテインC活性化促進活性を有していた。特に、F1024S−TM23456M、F1024S−TM234567M、F1024S−TM23456LおよびF1024S−TM234567Lは高いプロテインC活性化促進活性を有していた。また、M388L型の置換変異体の活性が相対的に高かった(図46)。
【0143】
(実施例9) 抗体融合蛋白質(F1024S−SLPI)のリンカー部分の改変
9−1)発現プラスミドの構築
LinkerSG−4−s(5’ pGATCTGGAGGTGGAG 3’:5’端はリン酸化)およびLinker SG−4−a(5’ pGATCCTCCACCTCCA 3’:5’端はリン酸化)を混合後、96℃で2分間インキュベートし、ゆっくり室温にもどしアニールさせた。その適量を予め調製しておいたベクター断片〔実施例1に記載のpT7−SLPI(D2)を、制限酵素BglIIで切断し、さらに脱リン酸化処理を行って、アガロースゲル電気泳動およびゲルからの断片抽出を行ったもの〕と混合し、T4DNAリガーゼで結合させた。この作業によって、SLPI(D2)に1コピーのGGGGSリンカーが付加されたプラスミドpTK−2729を構築した。さらに、このpTK−2729を制限酵素BglIIで切断し、上記と同様の作業を繰り返すことで、SLPI(D2)に2コピーのGGGGSリンカーが付加されたpTK−2749と3コピーが付加されたpTK−2750を構築した。
次に、pTK−2729、pTK−2749およびpTK−2750を制限酵素BglIIおよびNotIで切断し、リンカー+SLPI(D2)部分をコードする遺伝子断片を調製した(それぞれ、断片1、断片2および断片3)。実施例1(表3)に記載のpTK-2396構築時と同様、遺伝子断片AおよびDと各断片とをT4DNAリガーゼによりひとつにつなげ、抗体分子とSLPI(D2)との間にリンカーとしてGSGGGGS或いはGSGGGGSGGGGS、GSGGGGSGGGGSGGGGSを有するF1024S−SLPI(D2)リンカー改変体重鎖発現プラスミド(それぞれpTK−2751、pTK−2752、pTK−2753)を構築した。
これらのプラスミドをCOS−1細胞に、軽鎖発現プラスミド(pTK−2344)とコトランスフェクションさせることで、培養上清中にF1024S-SLPI(D2)リンカー改変体が発現され、Prosep−Aカラムで発現産物の精製を行った。
精製産物は、いずれもCD14抗原に対して結合活性があることを確認した。
なお、表12および表13に各プライマーおよびリンカーの配列番号を示す。
【0144】
【表13】


【表14】

【0145】
9−2)F1024S-SLPIのエラスターゼ阻害活性
実施例3−2)の(3)と同様の方法により1024D−SLPI(D1D2)、F1024D−SLPI(D2)、F1024S−SLPI(D1D2)およびF1024S−SLPI(D2)、さらには、SLPI(D2)に1、2および3コピーのGGGGSリンカーが付加された融合蛋白質のエラスターゼ阻害活性を測定した。ただし、S−2484溶液添加後の37℃インキュベーションは5分間とした。
なお、コントロールとして、希釈液80μLにエラスターゼ溶液10μLを混合し、37℃で3分間インキュベーションした後、S−2484溶液10μLを加え、37℃で正確に5分間インキュベーション後、20%酢酸溶液50μLを加えたものを使用した。その結果、F1024S−SLPI(D1D2)、F1024S−SLPI(D2)の50%阻害濃度はそれぞれ22.5μg/mLおよび26.9μg/mLであった。また、SLPI(D2)に1、2および3コピーのGGGGSリンカーが付加された融合蛋白質の50%阻害濃度はそれぞれ11.6μg/mL、11.9μg/mLおよび11.6μg/mLであった。
【0146】
(実施例10) ヒト化抗体(hF1024S-D2(3))の作製
F1024-1-3ラット抗体の重鎖および軽鎖可変領域の各アミノ酸配列をデータベース上でサーチした結果、それぞれヒト抗体であるIGHV7-81( BC032733)およびHUMIGRFFM(L48242)と相同性が高いと判断した。そこで、F1024抗体両鎖の3つの相補性決定領域(CDR)を、(1)IGHV7-81およびHUMIGRFFM(以下RFと表記)の、あるいは(2)結晶構造解析が詳細に行われているNEW、EuおよびREIの、各フレームワーク(FR)に移植することで、ヒト化を行った(図47参考)。各アミノ酸配列(図48)を基に、塩基配列を設計し、いくつかに分割して合成することで、全6種類の遺伝子断片をそれぞれ調製した。各断片を、重鎖はpTK-2370、軽鎖はpTK-2344の各可変領域と置換し、発現プラスミド(重鎖:IGHV7-81-HAはpTK-2887、NEW-HAはpTK-2679、Eu-HAはpTK-2685、軽鎖:RF-KAはpTK-2955、REI-KAはpTK-2680、Eu-KAはpTK-2681)を構築した。これらの各プラスミドと、キメラ抗体発現プラスミド(重鎖はpTK-2370、軽鎖はpTK-2344)とをCOS-1細胞に様々な組み合わせでコトランスフェクションし、その上清中に分泌された抗体の、GPVI抗原に対する結合活性を比較した。
重鎖に関しては、ヒト化したことによって、いずれも発現量が著しく低下していた。そこで、各FRにいくつかの変異を導入して検討を行なった。一方、軽鎖はいずれも発現および結合活性が確認できた。
3種類のヒト化重鎖発現プラスミドに関しては、FR中のヒト特異的配列のいくつかをラット由来の配列に戻して作製した変異体を多数構築し、詳細に解析したことで、最終的に発現および結合活性を維持した配列(IGHV7-81-HCはpTK-2909、IGHV7-81-HXはpTK-3007、NEW-HBはpTK-2803、Eu-HBはpTK-2811)を得ることができた。(図49にアミノ酸配列を記載)
最後に、ヒト化重鎖およびヒト化軽鎖の組み合わせを検討し、最も発現および結合活性の高い組み合わせが、IGHV7-81-HXとRF-KAその他の軽鎖との組合せであった。
同様の手法を用いて、他の抗体融合蛋白質についても抗体部分をヒト化する。
【0147】
(実施例11) 抗体融合蛋白質F1024S-D2(3)の安定高生産株の作製
11−1 F1024S-D2(3)安定高発現プラスミド(pTK-2671)の構築
F1024S-D2(3)重鎖一過性発現プラスミド(pTK-2370:実施例1に記載)を鋳型とし、表14に示すプライマー対(F1024H-kozak,IgG4-l)でPCRを行った。この増幅産物を制限酵素EcoRIおよびNheIで切断後、アガロースゲルで電気泳動し、F1024抗体重鎖可変領域を含む遺伝子断片(断片U)を抽出した。なお、表14に使用プライマーの配列番号を示す。
【0148】
【表15】

【0149】
pTK-2370を制限酵素NheIおよびSse8387Iで切断後、アガロースゲルで電気泳動し、F1024S-D2(3)の重鎖定常領域およびD2(3)をコードする遺伝子配列とSV40 polyAシグナルを含む遺伝子断片(断片V)を抽出した。F1024軽鎖発現プラスミド(pTK-2344:実施例1に記載)を制限酵素BsiWIおよびNcoIで切断後、アガロースゲルで電気泳動し、F1024抗体軽鎖可変領域を含む遺伝子断片(断片W)を抽出した。
EFプロモーター、ヒト軽鎖定常領域およびマウスDHFR発現ユニット〔プロモーターとしてSV40プロモーター(エンハンサー領域は含まない)、polyAシグナルもSV40由来〕を有するプラスミド(pTK-2577)を、制限酵素BsiWIおよびEcoRIで切断後、アガロースゲルで電気泳動し、目的とするベクター断片(断片X)を抽出した。一方、Sse8387IおよびNcoIで切断後、アガロースゲルで電気泳動し、EFプロモーター領域を含む遺伝子断片(断片Y)も抽出した。
各遺伝子断片U〜Yを、T4DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社)で、ひとつにつなげ、F1024S-D2(3)の重鎖、軽鎖を同時に発現可能であり、導入細胞でのマーカーとなるマウスDHFR発現ユニットを有する安定発現用プラスミド(pTK-2671)を構築した。
他の抗体融合蛋白質についても同様の手法を用いて、安定高発現プラスミドを構築する。
【0150】
(実施例12)効力評価(in vitro)
12−1)ブラジキニン産生阻害作用の確認
(1)APTT試薬惹起ヒトおよびウサギ血漿中ブラジキニン産生に対する抑制作用の確認
正常ヒト血漿はデイドサイトロールレベル1(DADE BEHRING社)を使用した。ウサギ血漿は、雄性ウサギ(ニュージーランドホワイト種、北山ラベス)の耳動脈より1/10容の3.8%クエン酸ナトリウム(血沈用チトラート、岩城製薬)を含むシリンジを用いて採血し、4℃、3000rpm(05PR−22、日立)の条件で10分間遠心して取得した。ヒトあるいはウサギ血漿80μLにo−phenanthroline溶液を添加後、希釈液で段階希釈したF1024S−D2(3)溶液を終濃度が0、1、3、10および30μg/mLとなるように、あるいはヒト免疫グロブリン(hIg)は終濃度が30μg/mLになるように添加し、混合した後に、37℃で10分間インキュベーションした。ミリQ水で希釈したAPTT試薬を80μL添加し、37℃で10分間インキュベーションした。採取した100μLにブラジキニン測定キット(マーキットMブラジキニン、大日本製薬)に付属の除蛋白剤を20μL添加した後、4℃、10000rpm(MRX−150、TOMY)、10分間の遠心で取得した上清中のブラジキン濃度をブラジキニン測定キットを用いて測定した。その結果、F1024S−D2(3)は濃度に依存してヒトおよびウサギのAPTT試薬惹起血漿中ブラジキニン産生を抑制した(図50〜51)。
【0151】
12−2)凝固阻害作用の確認
(1)トロンボプラスチン惹起(FactorXI依存性)ヒト血漿中トロンビン産生に対する抑制作用の確認
ヒト血小板3×10/μLを含むヒト血漿およびウサギ血小板3×10/μLを含むウサギ血漿のそれぞれにF1024S−D2(3)溶液を終濃度が0、3、10、30、100、300μg/mLになるように、あるいはヒト免疫グロブリン(hIg)は終濃度が300μg/mLになるように加え、37℃にて10分間プレインキュベートした。その後、25mmol/L CaCl溶液にて8000倍に希釈したトロンボプラスチン(シンプラスチンエクセル、BIOMERIEUX)溶液を添加し、37℃でインキュベートを開始した。トロンボプラスチン溶液添加前および添加後は経時的にインキュベート溶液を5μLずつ採取し、Buffer B((0.5mg/mL BSA、0.1mol/L NaCl、20mmol/L EDTAを含む50mmol/L Tris−HCl緩衝液(pH7.9)) 100μLと2mmol/L S−2238 25μLの混合液に添加して、37℃にて10分間インキュベートした。50vol% 酢酸 100μLを添加した後、反応液を200μL/wellずつ96穴プレートに移し、405nmにおける吸光度をプレートリーダー(Thermomax microplate reader、Molecular Device)にて測定した。その結果、F1024S−D2(3)は濃度に依存してトロンボプラスチン惹起ヒトおよびウサギ血漿中トロンビン産生を抑制した(図52〜53)。
【0152】
12−3)凝固阻害作用の確認
(1)ヒトAPTT延長作用の確認
実施例8で作製したF1024S−TM23456M、F1024S−TM23456L、F1024S−TM234567MおよびF1024S−TM234567LのAPTT延長作用を終濃度としてそれぞれ2.00、2.00、1.95および2.29μg/mLにおいて、実施例3−3)の(1)と同様の方法でヒト正常血漿を用いて評価した。その結果、上記の4つの融合蛋白質はAPTTをそれぞれ26、32、42および57%延長した。
【0153】
(実施例13)ex vivo試験における有効性の評価
13−1)F1024S−D2(3)の抗炎症作用の確認
ウサギ、ニュージーランドホワイト種(1.8−2.6kg,北山ラベス)にF1024S−D2(3)の10mg/kgを耳介静脈内投与し、経時的にクエン酸加採血した。採取した血液にLPS(WE.Coli 055:B5、DIFCO)を終濃度1ng/mLで添加し、37℃で4時間インキュベーションした。4℃、10000rpm(MRX−150、TOMY)、10分間の遠心で取得した血漿中のTNF−α濃度を抗ウサギTNF−α抗体を用いたELISAにより測定した。その結果、LPS刺激血液のTNF−α産生はF1024S−D2(3)投与後24時間まで抑制された(図54)。
【0154】
13−2)F1024S−D2(3)の抗凝固作用の確認
実施例13−1)の採血直後に遠心分離により取得した血漿を活性化トロンボプラスチン時間(APTT)の測定に供した。APTTの測定は実施例3−3)と同様に実施した。その結果、F1024S−D2(3)投与後8時間までAPTT延長がみられた(図55)。
【0155】
(実施例14)in vivoにおける有効性の評価
14−1)ウサギ盲腸穿刺腹膜炎(CLP:Cecal Ligation and Puncture)モデル
ウサギ盲腸穿刺腹膜炎モデルを作製し、F1024S−D2(3)投与後での生存率および凝固パラメーターの改善を確認した。
ウサギ盲腸穿刺腹膜炎モデルは、Keith Aらの方法(Journal of Surgical Research,29:189,1980)に準じ,ニュージーランドホワイト種(1.8−2.6kg,北山ラベス)に麻酔下で盲腸に穴を開け、盲腸内容物を腹腔に播種することにより作製した.2時間後にF1024S−D2(3)の10mg/kgを耳介静脈内投与し、以後は1日2回の同投与を3日間続けた。対照群にはF1024S−D2(3)の替わりにヒト免疫グロブリン(hIg)を投与した。72時間まで生死の観察、記録を行い、カプランマイヤー生存曲線を描いた。さらに盲腸穿刺後8時間にクエン酸加採血し、血漿中の凝固パラメーターとしてDダイマーを測定した。その結果、生存率(図56)およびDダイマー(図57)ともにF1024S−D2(3)群は対照群に比べて改善された。
なお、図56および図57の対照群の概要を表15に示す。
【0156】
【表16】

【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】F1024抗体重鎖可変領域のDNA配列とアミノ酸配列を示す。
【図2】F1024抗体軽鎖可変領域のDNA配列とアミノ酸配列を示す。
【図3】F1031−13−2抗体重鎖可変領域のDNA配列とアミノ酸配列を示す。
【図4】F1031−13−2抗体軽鎖可変領域のDNA配列とアミノ酸配列を示す。
【図5】F1031−13−2抗体重鎖可変領域のDNA配列とアミノ酸配列を示す。
【図6】F1031−13−2抗体軽鎖可変領域のDNA配列とアミノ酸配列を示す。
【図7】融合蛋白質F1024D-D1D2の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図8】融合蛋白質F1024D-D2の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図9】融合蛋白質F1024D-D2(3)の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図10】融合蛋白質F1024S-D1D2の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図11】融合蛋白質F1024S-D2の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図12】融合蛋白質F1024S-D2(3)の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図13】融合蛋白質F1024D-SLP1(D1D2)の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図14】融合蛋白質F1024D-SLP1(D2)の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図15】融合蛋白質F1024S-SLP1(D1D2)の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図16】融合蛋白質F1024S-SLP1(D2)の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図17】融合蛋白質F1031-13S-D2(3)の全アミノ酸配列構造の説明図である。
【図18】F1024(抗CD14抗体)または抗体融合蛋白質のLPS刺激U373MG細胞のIL-6産生に対する抑制作用を示す図である。
【図19】F1024(抗CD14抗体)または抗体融合蛋白質のLPS刺激U373MG細胞のIL-6産生に対する抑制作用を示す図である。
【図20】抗体融合蛋白質各のIL-6産生に対する抑制活性を示す図である。
【図21】UTI由来蛋白質および抗CD14抗体融合蛋白質のトリプシン阻害活性を示す図である。
【図22】抗CD14抗体融合蛋白質のFactorXa阻害活性を示す。
【図23】抗CD14抗体融合蛋白質のFactorXIa阻害活性を示す。
【図24】抗CD14抗体融合蛋白質のエラスターゼ阻害活性を示す。
【図25】抗CD14抗体融合蛋白質の血漿カリクレイン阻害活性を示す。
【図26】LPS負荷ウサギ敗血症モデルでの融合蛋白質F1024S-D2(3)の生存率改善効果を示す。
【図27】LPS負荷ウサギ敗血症モデルでの融合蛋白質F1024S-D2(3)が白血球数に及ぼす影響(LPS負荷ウサギ敗血症モデルにおけるLPS初回投与後28時間の白血球数)を示す。
【図28】LPS負荷ウサギ敗血症モデルでの融合蛋白質F1024S-D2(3)が血小板数に及ぼす影響(LPS負荷ウサギ敗血症モデルにおけるLPS初回投与後26時間の血小板数)を示す。
【図29】LPS負荷ウサギ敗血症モデルでの融合蛋白質F1024S-D2(3)がアンチトロンビン(AT)III活性減少に及ぼす影響(LPS負荷ウサギ敗血症モデルにおけるLPS初回投与後28時間のATIII活性の減少)を示す。
【図30】LPS負荷ウサギ敗血症モデルでの融合蛋白質F1024S-D2(3)の血圧低下改善効果を示す。
【図31】F1024抗体に対する結合競合実験の結果を示す。
【図32】融合蛋白質F1024−D2のUTI第2ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図33】融合蛋白質F1024−D2のUTI第2ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図34】融合蛋白質F1024−D2のUTI第2ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図35】融合蛋白質F1024−D2のUTI第2ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図36】融合蛋白質F1024S-D2(4)(R11S/R15T/Q19K/Y46D)の全アミノ酸配列構造の説明図を示す。
【図37】融合蛋白質F1024−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図38】融合蛋白質F1024−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図39】融合蛋白質F1024−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図40】融合蛋白質F1024−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図41】融合蛋白質F1024−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図42】融合蛋白質F1024−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図43】融合蛋白質F1024−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図44】融合蛋白質F1024−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のアミノ酸配列を示す。
【図45】融合蛋白質F1024S-TM23456Lの全アミノ酸配列構造の説明図を示す。
【図46】融合蛋白質F1024S−TMのTMの各種機能ドメインの各改変体のトロンボモジュリン活性を示す。
【図47】ヒト化F1024S−D2(3)の全アミノ酸配列構造の説明図を示す。
【図48】F1024−1−3ラット抗体の重鎖および軽鎖可変領域のアミノ酸配列およびヒト化F1024S−D2(3)の重鎖および軽鎖可変領域と相同性の高いヒト抗体のアミノ酸配列を示す。
【図49】ヒト化抗体の重鎖の発現および結合活性維持が可能なアミノ酸配列を示す。
【図50】APTT試薬惹起ヒト血漿中ブラジキニン産生に対する抑制作用を示す。
【図51】APTT試薬惹起ウサギ血漿中ブラジキニン産生に対する抑制作用を示す。
【図52】トロンボプラスチン惹起ヒト血漿中トロンビン産生に対する抑制作用を示す。
【図53】トロンボプラスチン惹起ウサギ血漿中トロンビン産生に対する抑制作用を示す。
【図54】F1024S−D2(3)投与後のLPS惹起ウサギ全血TNF−α産生に対する抑制作用の経時変化を示す。
【図55】ウサギF1024S−D2(3)投与後のAPTTの経時変化を示す。
【図56】ウサギ盲腸穿刺腹膜炎(CLP)モデルF1024S−D2(3)投与後の生存率の変化を示す。
【図57】ウサギ盲腸穿刺腹膜炎(CLP)モデルF1024S−D2(3)投与後の血漿中のDダイマーの変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)抗CD14抗体もしくはその活性断片またはそれらの誘導体、および、(II)蛋白分解酵素の阻害物質もしくはその活性断片またはそれらの誘導体を含有する蛋白質。
【請求項2】
前記(II)の阻害物質が蛋白性阻害物質である、請求項1に記載の蛋白質。
【請求項3】
前記(II)の阻害物質が多価酵素阻害物質である、請求項1または2に記載の蛋白質。
【請求項4】
前記(II)の蛋白分解酵素が血液凝固因子(血液凝固系蛋白分解酵素)または炎症性プロテアーゼである、請求項1ないし3のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項5】
前記(II)の蛋白分解酵素がFXaおよび/またはFXIaである、請求項1ないし4のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項6】
前記(II)の蛋白分解酵素がトロンビンである、請求項1ないし4のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項7】
前記(II)の阻害物質がUTI由来である、請求項1ないし6のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項8】
前記(II)の阻害物質がトロンボモジュリン由来である、請求項1ないし6のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項9】
前記(II)の阻害物質がトロンボモジュリンの機能ドメイン由来、特にEGF様ドメイン由来である、請求項1ないし6および8のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項10】
前記(II)の蛋白分解酵素がエラスターゼである、請求項1ないし4のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項11】
前記(II)の阻害物質が分泌性白血球プロテアーゼインヒビターである、請求項1ないし4および10のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項12】
前記(I)の抗CD14抗体が中和能を有する抗体である、請求項1ないし11のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項13】
前記(I)の抗CD14抗体がヒトCD14のアミノ酸番号269〜315の領域の少なくとも一部を認識する抗体である、請求項1ないし12のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項14】
前記(I)の抗CD14抗体がキメラ抗体である、請求項1ないし13のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項15】
前記(I)の抗CD14抗体がヒト化抗体である、請求項1ないし14のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項16】
前記(I)の抗CD14抗体が、表2に記載の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3を重鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3として、または、表2に記載の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を軽鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3として含有する、請求項1ないし15のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかに記載の蛋白質の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項17のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項19】
請求項17に記載のポリヌクレオチドまたは請求項18に記載のベクターを含有する細胞。
【請求項20】
請求項17に記載のポリヌクレオチド、請求項18に記載のベクターまたは請求項19に記載の細胞の少なくともいずれか一つを用いることを特徴とする、請求項1ないし16のいずれかに記載の蛋白質の製造方法。
【請求項21】
請求項1ないし16のいずれかに記載の蛋白質、請求項17に記載のポリヌクレオチド、請求項18に記載のベクターまたは請求項19に記載の細胞の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、疾患の予防および/または治療剤。
【請求項22】
前記疾患が敗血症、重敗血症もしくは敗血症ショック、SIRS関連疾患、エンドトキシンショック、またはARDSである、請求項21の予防および/または治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【公開番号】特開2007−215546(P2007−215546A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76890(P2007−76890)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【分割の表示】特願2006−551131(P2006−551131)の分割
【原出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000181147)持田製薬株式会社 (62)
【Fターム(参考)】