説明

抵抗体の等価回路パラメータ測定装置および抵抗体の等価回路パラメータ測定方法

【課題】抵抗体の等価回路のパラメータを十分な精度で算出する。
【解決手段】抵抗体の並列共振周波数fpを含む周波数帯域のZ,θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、抵抗体のレジスタンスrの周波数特性、並列共振周波数fpおよび最大値rmaxを検出するr周波数特性測定処理と、象限周波数f1,f2からQを算出するQ算出処理と、パラメータ値Cv(=Q/(2×π×fp×rmax))を算出するC算出処理と、パラメータ値Lv(=2×Q/{(2×π×fp)×Cv×(2×Q−1)})を算出するL算出処理と、並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数fL1でのZおよびθに基づいて周波数fL1でのコンダクタンスGおよびサセプタンスBを算出するGB算出処理と、パラメータ値Rv(=2×π×f×G×Lv/(2×π×f×Cv−B))を算出するR算出処理とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗体の等価回路についてのパラメータを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定装置および抵抗体の等価回路パラメータ測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の等価回路パラメータ測定方法として、下記特許文献1に開示された圧電振動子の等価回路パラメータ測定方法が知られている。この場合、圧電振動子は、図8に示すように、抵抗R1、容量C1、インダクタンスL1からなるLCR直列回路に、電極間容量に相当する容量C0が並列に接続された等価回路で表される。この等価回路パラメータ測定方法では、まず、測定対象の圧電振動子の動アドミタンスを数点(3点以上せいぜい10点程度まで)の測定点で測定し、円線図近似(例えば、最小二乗法などを用いた円線図近似)などによって、アドミタンス平面上でこれらの測定点を最もよく表す円を求める。ここで、この円の周上から、共振周波数点(コンダクタンスが最大値Gsとなる共振周波数fsの点)、この共振周波数点でのコンダクタンスGs(アドミタンスYの実数成分)およびサセプタンスBs(アドミタンスYの虚数成分)、並びに象限周波数点f1,f2(コンダクタンスがGsの1/2である点)を求めることができる。
【0003】
この場合、周波数は各測定点でしか分かっていないため、共振周波数fsや象限周波数f1,f2は別途求める必要がある。ここで、Q値が大きい場合には、1対の象限周波数f1,f2の間の周波数領域(およびこの近傍の周波数領域)は狭帯域になる。また、狭帯域であれば、リアクタンスXが周波数fに比例すると近似できる。そこで、この比例関係を前提として、測定点での周波数およびリアクタンスと、先に求めた円での共振周波数点および象限周波数点のリアクタンスとから、共振周波数fsおよび象限周波数f1,f2を算出する。最後に、このようにして求めた共振周波数fsおよび象限周波数f1,f2から、下記の既知の算出式にしたがって等価回路の各パラメータを決定する。
Q=fs/|f2−f1|
C0=Bs/(2×π×fs)
R1=1/Gs
L1=Q×R1/(2×π×fs)
C1=1/(2×π×fs×Q×R1)
【0004】
この圧電振動子の等価回路パラメータ測定方法によれば、円線図近似を用い、また、狭帯域におけるリアクタンスと周波数との比例関係を用いることにより、著しく少ない測定ポイント数で圧電振動子の等価回路パラメータを決定することが可能になり、特に、Q値が大きな水晶振動子についての等価回路の各パラメータを求めるための時間を大幅に短縮することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−115648号公報(第2−4頁、第1−2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、圧電振動素子以外の回路素子、例えば抵抗体についても、抵抗値の高低に応じた等価回路がそれぞれ存在している。具体的には、ESR(等価直列抵抗)がコイルとしては比較的大きなコイルや、抵抗値が小さいために配線インダクタンスの影響が大きな抵抗(以下、このようなコイルおよび抵抗を総称して「低抵抗体」ともいう)については、図9に示すように、抵抗RおよびインダクタンスLからなるLR直列回路に、容量Cが並列に接続された等価回路で表される。また、漏れ電流の影響が大きいコンデンサ(並列抵抗分が小さいコンデンサ)や、抵抗値が大きいために浮遊容量の影響が大きい抵抗(以下、このようなコンデンサおよび抵抗を総称して「高抵抗体」ともいう)については、図10に示すように、容量Cおよび抵抗RからなるCR並列回路に、インダクタンスLが直列に接続された等価回路で表される。本願発明者らは、この2つの等価回路の各パラメータについて、下記の等価回路パラメータ測定方法(算出方法)を検討している。
【0007】
まず、図9に示す低抵抗体の等価回路の各パラメータについては、インピーダンスZと位相θについての周波数特性を測定し、次いで、測定したインピーダンスZと位相θとに基づいて、インピーダンスの実数部であるレジスタンスr(=Z×cosθ)の周波数特性を算出して、レジスタンスrの最大値rmaxおよびそのときの周波数(並列共振周波数fp)を求める。続いて、算出したレジスタンスrの周波数特性から、象限周波数f1,f2(rmax/2となる2つの周波数)を求め、並列共振についてのQ(=fp/|f2−f1|)を算出する。
【0008】
最後に、以上のようにして算出した各数値に基づいて、下記式により、容量C、インダクタンスLおよび抵抗Rを算出する。
C=Q/(2×π×fp×rmax
L=2×Q/{(2×π×fp)×C×(2×Q−1)}
R=L/(C×rmax
【0009】
一方、図10に示す高抵抗体の等価回路の各パラメータについては、インピーダンスZと位相θについての周波数特性を測定し、次いで、測定したインピーダンスZと位相θとに基づいて、アドミタンスの実数部であるコンダクタンスG(=cosθ/|Z|)の周波数特性を算出して、コンダクタンスGの最大値Gmaxおよびそのときの周波数(直列共振周波数fs)を求める。続いて、算出したコンダクタンスGの周波数特性から、象限周波数f1,f2(Gmax/2となる2つの周波数)を求め、直列共振についてのQ(=fs/|f2−f1|)を算出する。
【0010】
最後に、以上のようにして算出した各数値に基づいて、下記式により、容量C、インダクタンスLおよび抵抗Rを算出する。
L=Q/(2×π×fs×Gmax
C=2×Q/{(2×π×fp)×L×(2×Q−1)}
R=L×Gmax/C
【0011】
ところが、本願発明者らが、上記した低抵抗体および高抵抗体の等価回路の各パラメータを算出する等価回路パラメータ測定方法についてさらに検討を行った結果、これらの等価回路パラメータ測定方法には、以下の解決すべき課題が存在していることを見出した。すなわち、これらの等価回路パラメータ測定方法では、低抵抗体の容量Cについては、Qと最大値rmaxの比の関係で算出され、高抵抗体のインダクタンスLについては、Qと最大値Gmaxの比の関係で算出されるため、容量CおよびインダクタンスLは共に十分な精度で算出できる。しかしながら、抵抗Rについては、低抵抗体および高抵抗体共に、最大値rmaxや最大値Gmaxが、Qとの比の関係で用いられるのではなく、式に直接使用される構成となっている。したがって、最大値rmaxや最大値Gmaxの測定精度の善し悪しが、抵抗Rの算出精度に直接的に影響を与えることになる。この場合、原理的には、周波数分解能を無限に高めてインピーダンスZと位相θの各周波数特性を測定することで、最大値rmaxや最大値Gmaxを正確に算出することが可能であるが、周波数分解能を無限に高めることは現実には不可能であるため、最大値rmaxや最大値Gmaxを直接使用する構成の式では、抵抗Rを十分な精度で測定(算出)できないという課題を見出した。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、抵抗体の等価回路のパラメータを十分な精度で算出し得る抵抗体の等価回路パラメータ測定装置および抵抗体の等価回路パラメータ測定方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく請求項1記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定装置は、抵抗およびインダクタンスからなる直列回路に、容量が並列に接続された等価回路で表される抵抗体についての前記抵抗、前記インダクタンスおよび前記容量の各パラメータ値Rv,Lv,Cvを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定装置であって、前記抵抗体についての既知の共振周波数を含む周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、取得した前記各周波数特性に基づいて、前記抵抗体のレジスタンスrについての前記周波数帯域における周波数特性を算出すると共に、前記レジスタンスrが最大となる並列共振周波数fpおよび当該レジスタンスrの最大値rmaxを検出するr周波数特性測定処理と、前記並列共振周波数fpについての象限周波数f1,f2を検出すると共に、当該検出した象限周波数f1,f2および当該並列共振周波数fpに基づいて前記等価回路のQを算出するQ算出処理と、前記最大値rmax、前記並列共振周波数fpおよび前記Qに基づいて、前記パラメータ値Cv(=Q/(2×π×fp×rmax))を算出するC算出処理と、算出した前記パラメータ値Cv、前記Qおよび前記並列共振周波数fpに基づいて、前記パラメータ値Lv(=2×Q/{(2×π×fp)×Cv×(2×Q−1)})を算出するL算出処理と、前記周波数帯域における前記並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数fでの前記インピーダンスZおよび位相θに基づいて、当該周波数fでのコンダクタンスGおよびサセプタンスBを算出するGB算出処理と、前記各パラメータ値Cv,Lv、前記周波数f、前記コンダクタンスGおよび前記サセプタンスBに基づいて、前記パラメータ値Rv(=2×π×f×G×Lv/(2×π×f×Cv−B))を算出するR算出処理とを実行する処理部を備えている。
【0014】
また、請求項2記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定装置は、容量および抵抗からなる並列回路に、インダクタンスが直列に接続された等価回路で表される抵抗体についての前記容量、前記抵抗および前記インダクタンスの各パラメータ値Cv,Rv,Lvを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定装置であって、前記抵抗体についての既知の共振周波数を含む周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、取得した前記各周波数特性に基づいて、前記抵抗体のコンダクタンスGについての前記周波数帯域における周波数特性を算出すると共に、当該コンダクタンスGが最大となる直列共振周波数fsおよび当該コンダクタンスGの最大値Gmaxを検出するG周波数特性測定処理と、前記直列共振周波数fsについての象限周波数f1,f2を検出すると共に、当該検出した象限周波数f1,f2および当該直列共振周波数fsに基づいて前記等価回路のQを算出するQ算出処理と、前記最大値Gmax、前記直列共振周波数fsおよび前記Qに基づいて、前記パラメータ値Lv(=Q/(2×π×fs×Gmax))を算出するL算出処理と、算出した前記パラメータ値Lv、前記Qおよび前記直列共振周波数fsに基づいて、前記パラメータ値Cv(=2×Q/{(2×π×fs)×Lv×(2×Q−1)})を算出するC算出処理と、前記周波数帯域における前記直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数fでの前記インピーダンスZおよび位相θに基づいて、当該周波数fでのレジスタンスrおよびリアクタンスXを算出するrX算出処理と、前記各パラメータ値Cv,Lv、前記周波数f、並びに算出した前記レジスタンスrおよび前記リアクタンスXに基づいて、前記パラメータ値Rv(=(2×π×f×Lv−X)/(2×π×f×r×Cv))を算出するR算出処理とを実行する処理部を備えている。
【0015】
また、請求項3記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定装置は、請求項1または2記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定装置において、前記処理部は、前記Zθ周波数特性取得処理において、前記インピーダンスZおよび前記位相θの前記各周波数特性として、前記象限周波数f1を下限周波数とし、前記象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域を主たる帯域として含む周波数帯域における前記インピーダンスZおよび前記位相θの各周波数特性、並びに前記周波数fでのインピーダンスZおよび位相θを取得する。
【0016】
また、請求項4記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定方法は、抵抗およびインダクタンスからなる直列回路に、容量が並列に接続された等価回路で表される抵抗体についての前記抵抗、前記インダクタンスおよび前記容量の各パラメータ値Rv,Lv,Cvを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定方法であって、前記抵抗体についての既知の共振周波数を含む周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、取得した前記各周波数特性に基づいて、前記抵抗体のレジスタンスrについての前記周波数帯域における周波数特性を算出すると共に、前記レジスタンスrが最大となる並列共振周波数fpおよび当該レジスタンスrの最大値rmaxを検出するr周波数特性測定処理と、前記並列共振周波数fpについての象限周波数f1,f2を検出すると共に、当該検出した象限周波数f1,f2および当該並列共振周波数fpに基づいて前記等価回路のQを算出するQ算出処理と、前記最大値rmax、前記並列共振周波数fpおよび前記Qに基づいて、前記パラメータ値Cv(=Q/(2×π×fp×rmax))を算出するC算出処理と、算出した前記パラメータ値Cv、前記Qおよび前記並列共振周波数fpに基づいて、前記パラメータ値Lv(=2×Q/{(2×π×fp)×Cv×(2×Q−1)})を算出するL算出処理と、前記周波数帯域における前記並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数fでの前記インピーダンスZおよび位相θに基づいて、当該周波数fでのコンダクタンスGおよびサセプタンスBを算出するGB算出処理と、前記各パラメータ値Cv,Lv、前記周波数f、前記コンダクタンスGおよび前記サセプタンスBに基づいて、前記パラメータ値Rv(=2×π×f×G×Lv/(2×π×f×Cv−B))を算出するR算出処理とを実行する。
【0017】
また、請求項5記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定方法は、容量および抵抗からなる並列回路に、インダクタンスが直列に接続された等価回路で表される抵抗体についての前記容量、前記抵抗および前記インダクタンスの各パラメータ値Cv,Rv,Lvを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定方法であって、前記抵抗体についての既知の共振周波数を含む周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、取得した前記各周波数特性に基づいて、前記抵抗体のコンダクタンスGについての前記周波数帯域における周波数特性を算出すると共に、当該コンダクタンスGが最大となる直列共振周波数fsおよび当該コンダクタンスGの最大値Gmaxを検出するG周波数特性測定処理と、前記直列共振周波数fsについての象限周波数f1,f2を検出すると共に、当該検出した象限周波数f1,f2および当該直列共振周波数fsに基づいて前記等価回路のQを算出するQ算出処理と、前記最大値Gmax、前記直列共振周波数fsおよび前記Qに基づいて、前記パラメータ値Lv(=Q/(2×π×fs×Gmax))を算出するL算出処理と、算出した前記パラメータ値Lv、前記Qおよび前記直列共振周波数fsに基づいて、前記パラメータ値Cv(=2×Q/{(2×π×fs)×Lv×(2×Q−1)})を算出するC算出処理と、前記周波数帯域における前記直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数fでの前記インピーダンスZおよび位相θに基づいて、当該周波数fでのレジスタンスrおよびリアクタンスXを算出するrX算出処理と、前記各パラメータ値Cv,Lv、前記周波数f、並びに算出した前記レジスタンスrおよび前記リアクタンスXに基づいて、前記パラメータ値Rv(=(2×π×f×Lv−X)/(2×π×f×r×Cv))を算出するR算出処理とを実行する。
【0018】
また、請求項6記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定方法は、請求項4または5記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定方法において、前記Zθ周波数特性取得処理において、前記インピーダンスZおよび前記位相θの前記各周波数特性として、前記象限周波数f1を下限周波数とし、前記象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域を主たる帯域として含む周波数帯域における前記インピーダンスZおよび前記位相θの各周波数特性、並びに前記周波数fでのインピーダンスZおよび位相θを取得する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定装置および請求項4記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定方法によれば、最大値rmaxを直接使用してパラメータ値Rvを算出する従来の構成とは異なり、周波数分解能(インピーダンスZおよび位相θの周波数特性を取得する周波数帯域での周波数分解能)によって精度が大きく左右される最大値rmaxを直接使用せずに、並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数f、つまり、周波数の高低に拘わらずレジスタンスrがほぼ一定となる低域周波数帯(言い替えれば、直流に近似され得る周波数帯域)である周波数帯域に含まれる周波数fでのコンダクタンスGおよびサセプタンスBを測定すると共にその測定値を使用してパラメータ値Rvを算出することにより、周波数分解能を従来の分解度よりも上げることなく、低抵抗体の等価回路についての抵抗Rのパラメータ値Rvを十分な精度で算出することができる。
【0020】
請求項2記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定装置および請求項5記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定方法によれば、最大値rmaxを直接使用してパラメータ値Rvを算出する従来の構成とは異なり、周波数分解能(インピーダンスZおよび位相θの周波数特性を取得する周波数帯域での周波数分解能)によって精度が大きく左右される最大値Gmaxを直接使用せずに、直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数f、つまり、周波数の高低に拘わらずコンダクタンスGがほぼ一定となる低域周波数帯(言い替えれば、直流に近似され得る周波数帯域)である周波数帯域に含まれる周波数fでのレジスタンスrおよびリアクタンスXを測定すると共にその測定値を使用してパラメータ値Rvを算出することにより、周波数分解能を従来の分解度よりも上げることなく、高抵抗体の等価回路についての抵抗Rのパラメータ値Rvを十分な精度で算出することができる。
【0021】
請求項3記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定装置および請求項6記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定方法によれば、Zθ周波数特性取得処理において、並列共振周波数fpや直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数f、および象限周波数f1を下限周波数とし、前記象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域を主たる帯域として含む周波数帯域を含む1つの広い周波数帯域の全体に亘るインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得する必要がないため、この各周波数特性を取得する際に要する時間(Zθ周波数特性取得処理に要する時間)を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】等価回路パラメータ測定装置1の構成図である。
【図2】低抵抗(またはコイル)についてのパラメータ測定処理50のフローチャートである。
【図3】高抵抗についてのパラメータ測定処理60のフローチャートである。
【図4】低抵抗についてのインピーダンスZと位相θの各周波数特性の説明図である。
【図5】低抵抗についてのレジスタンスrの周波数特性の説明図である。
【図6】高抵抗についてのインピーダンスZと位相θの各周波数特性の説明図である。
【図7】高抵抗についてのコンダクタンスGの周波数特性の説明図である。
【図8】振動子についての等価回路の回路図である。
【図9】低抵抗(またはコイル)についての等価回路の回路図である。
【図10】高抵抗についての等価回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、等価回路パラメータ測定装置1および等価回路パラメータ測定方法の実施の形態について説明する。
【0024】
最初に、等価回路パラメータ測定装置1(以下、「測定装置1」ともいう)の構成について、図面を参照して説明する。
【0025】
測定装置1は、図1に示すように、測定部2、操作部3、記憶部4、処理部5および出力部6を備え、測定部2に接続された測定対象としての試料7の等価回路についての各パラメータを測定可能に構成されている。本例では、測定装置1は、抵抗体(低抵抗体または高抵抗体)を試料7として、その各パラメータ(容量C、インダクタンスLおよび抵抗R)のパラメータ値Cv,Lv,Rvを算出するものとする。なお、上記したように、低抵抗体は、図9に示す等価回路で表され、高抵抗体は、図10に示す等価回路で表されるものとする。
【0026】
また、試料7とする低抵抗体は、多少のばらつきはあるものの各パラメータ値Cv,Lv,Rvが既知の抵抗体であり、そのインピーダンスZおよび位相θの大まかな各周波数特性が例えば図4に示すように予め規定されているものとする。また、この各周波数特性に基づいて、後述する象限周波数f1,f2を検出するために測定するインピーダンスZおよび位相θについての周波数帯域W1(つまり、後述するレジスタンスrの周波数特性での象限周波数f1を下限周波数とし、象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域Weを主たる帯域として含む周波数帯域。図5参照)、並びに後述するコンダクタンスGおよびサセプタンスBを算出するために測定するインピーダンスZおよび位相θについての周波数fとしての周波数fL1(並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数fL1)が予め規定されているものとする。
【0027】
また、試料7とする高抵抗体も低抵抗体と同様にして、多少のばらつきはあるものの各パラメータ値Cv,Lv,Rvが既知の抵抗体であり、そのインピーダンスZおよび位相θの大まかな各周波数特性が例えば図6に示すように予め規定されているものとする。また、この各周波数特性に基づいて、後述する象限周波数f1,f2を検出するために測定するインピーダンスZおよび位相θについての周波数帯域W2(つまり、後述するコンダクタンスGの周波数特性での象限周波数f1を下限周波数とし、象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域Weを主たる帯域として含む周波数帯域。図7参照)、並びに後述するレジスタンスrおよびリアクタンスXを算出するために測定するインピーダンスZおよび位相θについての周波数fとしての周波数fL2(直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数)が予め規定されているものとする。
【0028】
測定部2は、各プローブ2aを介して試料7を接続可能に構成されて、処理部5からの周波数データDで指定された周波数帯域(周波数帯域W1または周波数帯域W2)および指定された周波数(周波数fL1または周波数fL2)での試料7についてのインピーダンスZの周波数特性および位相θの周波数特性を測定し、インピーダンスZの周波数特性を示す周波数特性データD、および位相θの周波数特性を示す周波数特性データDθを処理部5に出力する。また、測定部2は、インピーダンスZおよび位相θの各周波数特性の測定、および各周波数特性データD,Dθの処理部5への出力については、処理部5からの要求に応じて実行する。
【0029】
操作部3は、例えば操作キー(図示せず)を複数備え、操作された操作キーに予め割り当てられた処理を処理部5に対して実行させるための命令データDcmdと、操作された操作キーによって指定された試料7の種類を示す試料データD(低抵抗体か高抵抗体かを指定するデータ)と、操作された操作キーによって指定されたインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を測定する周波数帯域(周波数帯域W1または周波数帯域W2)および周波数(周波数fL1または周波数fL2)を示す周波数データDとを処理部5に出力する。記憶部4は、RAMなどの半導体メモリや、HDD(Hard disk drive)で構成されて、周波数特性データD,Dθ、およびパラメータ値Cv,Lv,Rvなどを記憶する。
【0030】
処理部5は、例えばCPUで構成されて、測定部2に対する制御を実行すると共に、パラメータ測定処理を実行する。また、処理部5は、パラメータ測定処理において測定したパラメータ値Cv,Lv,Rvを出力部6に出力する。出力部6は、一例として、液晶ディスプレイなどの表示装置で構成されて、測定されたパラメータ値Cv,Lv,Rvを画面に表示する。なお、表示装置に代えて、外部装置(外部記憶媒体などの外部記憶装置を含む)とのインターフェース回路で出力部6を構成して、この外部装置にパラメータ値Cv,Lv,Rvを出力することもできる。
【0031】
次いで、測定装置1による上記の各パラメータL,C,Rのパラメータ値Cv,Lv,Rvの測定動作と共に、このパラメータ値Cv,Lv,Rvの測定方法について図面を参照して説明する。
【0032】
まず、測定装置1の測定部2に対して、試料7として低抵抗体(図9に示す等価回路の抵抗体)が各プローブ2aを介して接続された場合の動作について説明する。この場合、処理部5は、試料7の測定部2への接続前または接続後において、操作キーに対する操作が行われた操作部3から、この試料7の種類を示す試料データD(本例では、試料7は低抵抗体であることから、低抵抗体を指定するデータ)と、インピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を測定する周波数帯域W1および周波数fL1を示す周波数データDとを入力して、記憶部4に記憶させる。
【0033】
次いで、この状態において、処理部5は、操作キーに対する操作が行われた操作部3から命令データDcmd(パラメータ値Cv,Lv,Rvの測定を指示する命令データ)を入力したときに、図2に示すパラメータ測定処理50を実行する。
【0034】
このパラメータ測定処理50では、処理部5は、まず、Zθ周波数特性取得処理を実行する(ステップ51)。このZθ周波数特性取得処理において、処理部5は、記憶部4から周波数データD(周波数帯域W1,周波数fL1)を読み出して測定部2に出力し、測定部2に対して、周波数帯域W1での試料7についてのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性(図4中において太線で示した周波数特性)と、周波数fL1でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性(本例では、1ポイントの周波数fL1での○印で示したインピーダンスZおよび位相θの各値)とを測定させる。また、処理部5は、測定部2に対して、測定したインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性(上記した2種類の周波数特性)を示す周波数特性データD,Dθを処理部5に出力させる。処理部5は、測定部2から出力される周波数特性データD,Dθを取得して、記憶部4に記憶させる。これにより、Zθ周波数特性取得処理が完了する。
【0035】
次いで、処理部5は、r周波数特性測定処理を実行する(ステップ52)。このr周波数特性測定処理では、処理部5は、取得した周波数特性データD,Dθのうちの周波数帯域W1でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を示す周波数特性データに基づいて、試料7のレジスタンスr(インピーダンスZの実数成分(|Z|×cosθ))についての周波数帯域W1での周波数特性(図5中において太線で示した周波数特性)を算出すると共に、この周波数特性を示す周波数特性データDを記憶部4に記憶させる。また、処理部5は、算出した周波数特性データDに基づいて、同図に示すように、レジスタンスrが最大となる周波数(並列共振周波数fp)、およびレジスタンスrの最大値rmaxを検出して、記憶部4に記憶させる。これにより、r周波数特性測定処理が完了する。
【0036】
続いて、処理部5は、Q算出処理を実行する(ステップ53)。このQ算出処理では、処理部5は、レジスタンスrについての周波数特性データD、および最大値rmaxに基づいて、図5に示すように、並列共振周波数fpについての象限周波数f1,f2(f2>f1)を検出して、記憶部4に記憶させる。象限周波数f1,f2は、レジスタンスrが最大値rmaxの1/2となる点での周波数であり、並列共振周波数fpを挟んで低域側と高域側とに現れる周波数である。次いで、処理部5は、象限周波数f1,f2および並列共振周波数fpに基づいて、Q(=fp/|f2−f1|)を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、Q算出処理が完了する。
【0037】
次いで、処理部5は、C算出処理を実行する(ステップ54)。このC算出処理では、処理部5は、最大値rmax、並列共振周波数fpおよびQに基づいて、パラメータCのパラメータ値Cv(=Q/(2×π×fp×rmax))を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、C算出処理が完了する。
【0038】
続いて、処理部5は、L算出処理を実行する(ステップ55)。このL算出処理では、処理部5は、算出したパラメータ値Cv、Qおよび並列共振周波数fpに基づいて、パラメータLのパラメータ値Lv(=2×Q/{(2×π×fp)×Cv×(2×Q−1)})を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、L算出処理が完了する。
【0039】
次いで、処理部5は、GB算出処理を実行する(ステップ56)。このGB算出処理では、処理部5は、取得した周波数特性データD,Dθのうちの周波数fL1でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性(周波数fL1でのインピーダンスZおよび位相θの各値)に基づいて、周波数fL1でのコンダクタンスG(=cosθ/|Z|)およびサセプタンスB(=−sinθ/|Z|)を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、GB算出処理が完了する。
【0040】
続いて、処理部5は、R算出処理を実行する(ステップ57)。このR算出処理では、処理部5は、各パラメータ値Cv,Lv、周波数fL1、コンダクタンスGおよびサセプタンスBに基づいて、パラメータ値Rv(=2×π×fL1×G×Lv/(2×π×fL1×Cv−B))を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、R算出処理が完了し、併せて、パラメータ測定処理50も完了する。
【0041】
最後に、処理部5は、パラメータ測定処理50において測定された等価回路(図9に示す低抵抗体の等価回路)の各パラメータ(容量C、インダクタンスLおよび抵抗R)についてのパラメータ値Cv,Lv,Rvを、試料7の種類(この例では、低抵抗体)と共に、出力部6としての表示装置の画面に表示させる。これにより、測定装置1に試料7として接続された低抵抗体の図9に示す等価回路の各パラメータの測定が完了する。
【0042】
次に、測定装置1の測定部2に対して、試料7として高抵抗体(図10に示す等価回路の抵抗体)が各プローブ2aを介して接続された場合の動作について説明する。この場合、処理部5は、試料7の測定部2への接続前または接続後において、操作キーに対する操作が行われた操作部3から、この試料7の種類を示す試料データD(本例では、試料7は高抵抗体であることから、高抵抗体を指定するデータ)と、インピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を測定する周波数帯域W2および周波数fL2を示す周波数データDとを入力して、記憶部4に記憶させる。
【0043】
次いで、この状態において、処理部5は、操作キーに対する操作が行われた操作部3から命令データDcmd(パラメータ値Cv,Lv,Rvの測定を指示する命令データ)を入力したときに、図3に示すパラメータ測定処理60を実行する。
【0044】
このパラメータ測定処理60では、処理部5は、まず、Zθ周波数特性取得処理を実行する(ステップ61)。このZθ周波数特性取得処理において、処理部5は、記憶部4から周波数データD(周波数帯域W2,周波数fL2)を読み出して測定部2に出力し、測定部2に対して、周波数帯域W2での試料7についてのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性(図6中において太線で示した周波数特性)と、周波数fL2でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性(本例では、1ポイントの周波数fL2での○印で示したインピーダンスZおよび位相θの各値)とを測定させる。また、処理部5は、測定部2に対して、測定したインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性(上記した2種類の周波数特性)を示す周波数特性データD,Dθを処理部5に出力させる。処理部5は、測定部2から出力される周波数特性データD,Dθを取得して、記憶部4に記憶させる。これにより、Zθ周波数特性取得処理が完了する。
【0045】
次いで、処理部5は、G周波数特性測定処理を実行する(ステップ62)。このG周波数特性測定処理では、処理部5は、取得した周波数特性データD,Dθのうちの周波数帯域W2でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を示す周波数特性データに基づいて、試料7のコンダクタンスG(アドミタンスYの実数成分(cosθ/|Z|))についての周波数帯域W2での周波数特性(図7中において太線で示した周波数特性)を算出すると共に、この周波数特性を示す周波数特性データDを記憶部4に記憶させる。また、処理部5は、算出した周波数特性データDに基づいて、同図に示すように、コンダクタンスGが最大となる周波数(直列共振周波数fs)、およびコンダクタンスGの最大値Gmaxを検出して、記憶部4に記憶させる。これにより、G周波数特性測定処理が完了する。
【0046】
続いて、処理部5は、Q算出処理を実行する(ステップ63)。このQ算出処理では、処理部5は、コンダクタンスGについての周波数特性データD、および最大値Gmaxに基づいて、図7に示すように、直列共振周波数fsについての象限周波数f1,f2(f2>f1)を検出して、記憶部4に記憶させる。象限周波数f1,f2は、コンダクタンスGが最大値Gmaxの1/2となる点での周波数であり、直列共振周波数fsを挟んで低域側と高域側とに現れる周波数である。次いで、処理部5は、象限周波数f1,f2および直列共振周波数fsに基づいて、Q(=fs/|f2−f1|)を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、Q算出処理が完了する。
【0047】
次いで、処理部5は、L算出処理を実行する(ステップ64)。このL算出処理では、処理部5は、最大値Gmax、直列共振周波数fsおよびQに基づいて、パラメータLのパラメータ値Lv(=Q/(2×π×fs×Gmax))を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、L算出処理が完了する。
【0048】
続いて、処理部5は、C算出処理を実行する(ステップ65)。このC算出処理では、処理部5は、算出したパラメータ値Lv、Qおよび直列共振周波数fsに基づいて、パラメータCのパラメータ値Cv(=2×Q/{(2×π×fs)×Lv×(2×Q−1)})を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、C算出処理が完了する。
【0049】
次いで、処理部5は、rX算出処理を実行する(ステップ66)。このrX算出処理では、処理部5は、取得した周波数特性データD,Dθのうちの周波数fL2でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性(周波数fL2でのインピーダンスZおよび位相θの各値)に基づいて、周波数fL2でのレジスタンスr(=|Z|×cosθ)およびリアクタンスX(=|Z|×sinθ)を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、rX算出処理が完了する。
【0050】
続いて、処理部5は、R算出処理を実行する(ステップ67)。このR算出処理では、処理部5は、パラメータ値Cv,Lv、周波数fL2、並びに算出したレジスタンスrおよびリアクタンスXに基づいて、パラメータ値Rv(=(2×π×fL2×Lv−X)/(2×π×fL2×r×Cv))を算出して、記憶部4に記憶させる。これにより、R算出処理が完了し、併せて、パラメータ測定処理60も完了する。
【0051】
最後に、処理部5は、パラメータ測定処理60において測定された等価回路(図10に示す低抵抗体の等価回路)の各パラメータ(容量C、インダクタンスLおよび抵抗R)についてのパラメータ値Cv,Lv,Rvを、試料7の種類(この例では、高抵抗体)と共に、出力部6としての表示装置の画面に表示させる。これにより、測定装置1に試料7として接続された高抵抗体の図10に示す等価回路の各パラメータの測定が完了する。
【0052】
以下、図9に示す等価回路の各パラメータ値Cv,Lv,Rvが一例としてそれぞれ、97.11pF、3.32mHおよび350.07mΩである低抵抗体と、図10に示す等価回路の各パラメータ値Cv,Lv,Rvが一例としてそれぞれ、10.17μF、12.83μHおよび100.47Ωである高抵抗体とを例に挙げて、低抵抗体のパラメータ(抵抗R)のパラメータ値Rvおよび高抵抗体のパラメータ(抵抗R)のパラメータ値Rvを、R=L/(C×rmax)およびR=L×Gmax/Cの各式を用いて算出する従来方法を比較例とし、Rv=2×π×fL1×G×Lv/(2×π×fL1×Cv−B)およびRv=(2×π×fL2×Lv−X)/(2×π×fL2×r×Cv)の各式を用いて算出する本願の方法を実施例として、両例の結果を対比する。また、インピーダンスZおよび位相θの各周波数特性データとしては、対数軸上に規定された100Hzを下限周波数fLOWとし、5MHzを上限周波数fHIGHとする周波数帯域を800に分割して、下限周波数fLOW、上限周波数fHIGHおよび各分割ポイントからなる801の各ポイントでのインピーダンスZおよび位相θを測定したデータを使用する。
【0053】
この場合、並列共振周波数fp近傍での周波数間隔(周波数分解能)が一例として3.8kHzとなるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性データを用いたときには、低抵抗体については、並列共振周波数fpおよび各象限周波数f1,f2がそれぞれ280.46kHz,268.69kHz,295.7kHzとなり、最大値rmaxが60.68kΩとなることから、容量Cが97.11pFと算出され、インダクタンスLが3.32mHと算出される。このため、比較例では、抵抗Rは562.8Ωと算出され、実施例では、周波数fL1を100Hzとしたときに、コンダクタンスGおよびサセプタンスBがそれぞれ73.35mS,−436.58mSと算出されるため、パラメータ値Rvは350.07mΩと算出される。
【0054】
また、直列共振周波数fs近傍での周波数間隔(周波数分解能)が一例として0.19kHzとなるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性データを用いたときには、高抵抗体については、直列共振周波数fsおよび各象限周波数f1,f2がそれぞれ13.93kHz,13.32kHz,14.39kHzとなり、最大値Gmaxが11.59Sとなることから、インダクタンスLが12.83μHと算出され、容量Cが10.17μFと算出される。このため、比較例では、抵抗Rは14.62Ωと算出され、実施例では、周波数fL2を100Hzとしたときに、レジスタンスrおよびリアクタンスXがそれぞれ70.39Ω,−45.2Ωと算出されるため、パラメータ値Rvは100.47Ωと算出される。したがって、比較例では、低抵抗体および高抵抗体のいずれのパラメータ値Rvについても、真値(低抵抗体では、350.07mΩ。高抵抗体では、100.47Ω)と大きく異なる値が算出されるのに対し、実施例では、低抵抗体および高抵抗体のいずれのパラメータ値Rvについても、十分な精度で算出される。
【0055】
このように、この測定装置1および等価回路パラメータ測定方法では、低抵抗体が試料7のときには、既知の共振周波数(並列共振周波数fp)を含む周波数帯域W1におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性に基づいてパラメータ値Cv,Lvを算出し、このパラメータ値Cv,Lv、並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数fL1、この周波数fL1でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性に基づいてコンダクタンスGおよびサセプタンスBを算出し、各パラメータ値Cv,Lv、周波数fL1、コンダクタンスGおよびサセプタンスBに基づいて、等価回路の抵抗Rのパラメータ値Rv(=2×π×f×G×Lv/(2×π×f×Cv−B))を算出する。
【0056】
したがって、この測定装置1および等価回路パラメータ測定方法によれば、本願発明者らが以前に検討を行っていた最大値rmaxを直接使用してパラメータ値Rvを算出する従来の構成とは異なり、周波数分解能(インピーダンスZおよび位相θの周波数特性を取得する周波数帯域W1での周波数分解能)によって精度が大きく左右される最大値rmaxを直接使用せずに、図5に示すように、並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数fL1、つまり、周波数の高低に拘わらずレジスタンスrがほぼ一定となる低域周波数帯(言い替えれば、直流に近似され得る周波数帯域)である周波数帯域Wに含まれる周波数fL1でのコンダクタンスGおよびサセプタンスBを測定すると共にその測定値を使用してパラメータ値Rvを算出することにより、低抵抗体の等価回路についての抵抗Rのパラメータ値Rvを十分な精度で算出することができる。
【0057】
また、この測定装置1および等価回路パラメータ測定方法では、低抵抗体が試料7のときには、レジスタンスrの周波数特性に基づいて算出される象限周波数f1を下限周波数とし、象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域Weを主たる帯域として含む周波数帯域W1におけるインピーダンスZおよび前記位相θの各周波数特性と、周波数fL1でのインピーダンスZおよび位相θのみを取得し、他の周波数領域のインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性については取得しない構成となっている。
【0058】
したがって、この測定装置1および等価回路パラメータ測定方法によれば、Zθ周波数特性取得処理において、周波数fL1および周波数帯域Weを含む1つの広い周波数帯域の全体に亘るインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得する必要がないため、この各周波数特性を取得する際に要する時間(Zθ周波数特性取得処理に要する時間)を大幅に短縮することができる。なお、Zθ周波数特性取得処理に要する時間を短縮する必要がないときには、周波数fL1および周波数帯域Weを含む1つの広い周波数帯域の全体に亘るインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得する構成を採用することもできる。
【0059】
また、この測定装置1および等価回路パラメータ測定方法では、高抵抗体が試料7のときには、既知の共振周波数(直列共振周波数fs)を含む周波数帯域W2におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性に基づいてパラメータ値Cv,Lvを算出し、このパラメータ値Cv,Lv、直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数fL2、この周波数fL2でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性に基づいてレジスタンスrおよびリアクタンスXを算出し、各パラメータ値Cv,Lv、周波数fL2、レジスタンスrおよびリアクタンスXに基づいて、等価回路の抵抗Rのパラメータ値Rv(=(2×π×fL2×Lv−X)/(2×π×fL2×r×Cv))を算出する。
【0060】
したがって、この測定装置1および等価回路パラメータ測定方法によれば、本願発明者らが以前に検討を行っていた最大値Gmaxを直接使用してパラメータ値Rvを算出する従来の構成とは異なり、周波数分解能(インピーダンスZおよび位相θの周波数特性を取得する周波数帯域W2での周波数分解能)によって精度が大きく左右される最大値Gmaxを直接使用せずに、図7に示すように、直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数fL2、つまり、周波数の高低に拘わらずコンダクタンスGがほぼ一定となる低域周波数帯(言い替えれば、直流に近似され得る周波数帯域)である周波数帯域Wに含まれる周波数fL2でのレジスタンスrおよびリアクタンスXを測定すると共にその測定値を使用してパラメータ値Rvを算出することにより、高抵抗体の等価回路についての抵抗Rのパラメータ値Rvを十分な精度で算出することができる。
【0061】
また、この測定装置1および等価回路パラメータ測定方法では、高抵抗体が試料7のときには、コンダクタンスGの周波数特性に基づいて算出される象限周波数f1を下限周波数とし、象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域Weを主たる帯域として含む周波数帯域W2におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性と、周波数fL2でのインピーダンスZおよび位相θのみを取得し、他の周波数領域のインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性については取得しない構成となっている。
【0062】
したがって、この測定装置1および等価回路パラメータ測定方法によれば、Zθ周波数特性取得処理において、周波数fL2および周波数帯域Weを含む1つの広い周波数帯域の全体に亘るインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得する必要がないため、この各周波数特性を取得する際に要する時間(Zθ周波数特性取得処理に要する時間)を大幅に短縮することができる。なお、Zθ周波数特性取得処理に要する時間を短縮する必要がないときには、周波数fL2および周波数帯域Weを含む1つの広い周波数帯域の全体に亘るインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得する構成を採用することもできる。
【0063】
なお、上記した測定装置1では、試料7が低抵抗体のときには、周波数帯域W1におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性と、周波数fL1でのインピーダンスZおよび位相θのみを取得し、試料7が高抵抗体のときには、周波数帯域W2におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性と、周波数fL2でのインピーダンスZおよび位相θのみを取得する構成を採用しているが、この構成に代えて、試料7が低抵抗体のときには、周波数fL1を下限周波数とし、周波数帯域W1の上限を上限周波数とする広周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を測定し、試料7が高抵抗体のときには、周波数fL2を下限周波数とし、周波数帯域W2の上限を上限周波数とする広周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を測定する構成を採用することもできる。
【0064】
この構成においても、広周波数帯域における下限周波数である周波数fL1でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性に基づいてコンダクタンスGおよびサセプタンスBを算出し、このコンダクタンスGおよびサセプタンスBを使用して、低抵抗体についての等価回路の抵抗Rのパラメータ値Rvを算出したり、また同じく下限周波数である周波数fL2でのインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性に基づいてレジスタンスrおよびリアクタンスXを算出し、このレジスタンスrおよびリアクタンスXを使用して、高抵抗体についての等価回路の抵抗Rのパラメータ値Rvを算出したりすることで、パラメータ値Rvを十分な精度で算出することができる。
【0065】
また、上記した測定装置1に、公知のコイルについての等価回路の各パラメータの測定機能や、公知のコンデンサについての等価回路の各パラメータの測定機能や、公知の振動子についての等価回路の各パラメータの測定機能などを追加することもできる。
【符号の説明】
【0066】
1 測定装置
2 測定部
5 処理部
7 試料(抵抗体)
50 パラメータ測定処理
51 Zθ周波数特性取得処理
52 r周波数特性測定処理
53 Q算出処理
54 C算出処理
55 L算出処理
56 GB算出処理
57 R算出処理
fp,fs 共振周波数
W1,W2 周波数帯域
L1,fL2 周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗およびインダクタンスからなる直列回路に、容量が並列に接続された等価回路で表される抵抗体についての前記抵抗、前記インダクタンスおよび前記容量の各パラメータ値Rv,Lv,Cvを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定装置であって、
前記抵抗体についての既知の共振周波数を含む周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、
取得した前記各周波数特性に基づいて、前記抵抗体のレジスタンスrについての前記周波数帯域における周波数特性を算出すると共に、前記レジスタンスrが最大となる並列共振周波数fpおよび当該レジスタンスrの最大値rmaxを検出するr周波数特性測定処理と、
前記並列共振周波数fpについての象限周波数f1,f2を検出すると共に、当該検出した象限周波数f1,f2および当該並列共振周波数fpに基づいて前記等価回路のQを算出するQ算出処理と、
前記最大値rmax、前記並列共振周波数fpおよび前記Qに基づいて、前記パラメータ値Cv(=Q/(2×π×fp×rmax))を算出するC算出処理と、
算出した前記パラメータ値Cv、前記Qおよび前記並列共振周波数fpに基づいて、前記パラメータ値Lv(=2×Q/{(2×π×fp)×Cv×(2×Q−1)})を算出するL算出処理と、
前記周波数帯域における前記並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数fでの前記インピーダンスZおよび位相θに基づいて、当該周波数fでのコンダクタンスGおよびサセプタンスBを算出するGB算出処理と、
前記各パラメータ値Cv,Lv、前記周波数f、前記コンダクタンスGおよび前記サセプタンスBに基づいて、前記パラメータ値Rv(=2×π×f×G×Lv/(2×π×f×Cv−B))を算出するR算出処理とを実行する処理部を備えている抵抗体の等価回路パラメータ測定装置。
【請求項2】
容量および抵抗からなる並列回路に、インダクタンスが直列に接続された等価回路で表される抵抗体についての前記容量、前記抵抗および前記インダクタンスの各パラメータ値Cv,Rv,Lvを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定装置であって、
前記抵抗体についての既知の共振周波数を含む周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、
取得した前記各周波数特性に基づいて、前記抵抗体のコンダクタンスGについての前記周波数帯域における周波数特性を算出すると共に、当該コンダクタンスGが最大となる直列共振周波数fsおよび当該コンダクタンスGの最大値Gmaxを検出するG周波数特性測定処理と、
前記直列共振周波数fsについての象限周波数f1,f2を検出すると共に、当該検出した象限周波数f1,f2および当該直列共振周波数fsに基づいて前記等価回路のQを算出するQ算出処理と、
前記最大値Gmax、前記直列共振周波数fsおよび前記Qに基づいて、前記パラメータ値Lv(=Q/(2×π×fs×Gmax))を算出するL算出処理と、
算出した前記パラメータ値Lv、前記Qおよび前記直列共振周波数fsに基づいて、前記パラメータ値Cv(=2×Q/{(2×π×fs)×Lv×(2×Q−1)})を算出するC算出処理と、
前記周波数帯域における前記直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数fでの前記インピーダンスZおよび位相θに基づいて、当該周波数fでのレジスタンスrおよびリアクタンスXを算出するrX算出処理と、
前記各パラメータ値Cv,Lv、前記周波数f、並びに算出した前記レジスタンスrおよび前記リアクタンスXに基づいて、前記パラメータ値Rv(=(2×π×f×Lv−X)/(2×π×f×r×Cv))を算出するR算出処理とを実行する処理部を備えている抵抗体の等価回路パラメータ測定装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記Zθ周波数特性取得処理において、前記インピーダンスZおよび前記位相θの前記各周波数特性として、前記象限周波数f1を下限周波数とし、前記象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域を主たる帯域として含む周波数帯域における前記インピーダンスZおよび前記位相θの各周波数特性、並びに前記周波数fでのインピーダンスZおよび位相θを取得する請求項1または2記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定装置。
【請求項4】
抵抗およびインダクタンスからなる直列回路に、容量が並列に接続された等価回路で表される抵抗体についての前記抵抗、前記インダクタンスおよび前記容量の各パラメータ値Rv,Lv,Cvを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定方法であって、
前記抵抗体についての既知の共振周波数を含む周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、
取得した前記各周波数特性に基づいて、前記抵抗体のレジスタンスrについての前記周波数帯域における周波数特性を算出すると共に、前記レジスタンスrが最大となる並列共振周波数fpおよび当該レジスタンスrの最大値rmaxを検出するr周波数特性測定処理と、
前記並列共振周波数fpについての象限周波数f1,f2を検出すると共に、当該検出した象限周波数f1,f2および当該並列共振周波数fpに基づいて前記等価回路のQを算出するQ算出処理と、
前記最大値rmax、前記並列共振周波数fpおよび前記Qに基づいて、前記パラメータ値Cv(=Q/(2×π×fp×rmax))を算出するC算出処理と、
算出した前記パラメータ値Cv、前記Qおよび前記並列共振周波数fpに基づいて、前記パラメータ値Lv(=2×Q/{(2×π×fp)×Cv×(2×Q−1)})を算出するL算出処理と、
前記周波数帯域における前記並列共振周波数fpから十分に離れた低域側の周波数fでの前記インピーダンスZおよび位相θに基づいて、当該周波数fでのコンダクタンスGおよびサセプタンスBを算出するGB算出処理と、
前記各パラメータ値Cv,Lv、前記周波数f、前記コンダクタンスGおよび前記サセプタンスBに基づいて、前記パラメータ値Rv(=2×π×f×G×Lv/(2×π×f×Cv−B))を算出するR算出処理とを実行する抵抗体の等価回路パラメータ測定方法。
【請求項5】
容量および抵抗からなる並列回路に、インダクタンスが直列に接続された等価回路で表される抵抗体についての前記容量、前記抵抗および前記インダクタンスの各パラメータ値Cv,Rv,Lvを測定する抵抗体の等価回路パラメータ測定方法であって、
前記抵抗体についての既知の共振周波数を含む周波数帯域におけるインピーダンスZおよび位相θの各周波数特性を取得するZθ周波数特性取得処理と、
取得した前記各周波数特性に基づいて、前記抵抗体のコンダクタンスGについての前記周波数帯域における周波数特性を算出すると共に、当該コンダクタンスGが最大となる直列共振周波数fsおよび当該コンダクタンスGの最大値Gmaxを検出するG周波数特性測定処理と、
前記直列共振周波数fsについての象限周波数f1,f2を検出すると共に、当該検出した象限周波数f1,f2および当該直列共振周波数fsに基づいて前記等価回路のQを算出するQ算出処理と、
前記最大値Gmax、前記直列共振周波数fsおよび前記Qに基づいて、前記パラメータ値Lv(=Q/(2×π×fs×Gmax))を算出するL算出処理と、
算出した前記パラメータ値Lv、前記Qおよび前記直列共振周波数fsに基づいて、前記パラメータ値Cv(=2×Q/{(2×π×fs)×Lv×(2×Q−1)})を算出するC算出処理と、
前記周波数帯域における前記直列共振周波数fsから十分に離れた低域側の周波数fでの前記インピーダンスZおよび位相θに基づいて、当該周波数fでのレジスタンスrおよびリアクタンスXを算出するrX算出処理と、
前記各パラメータ値Cv,Lv、前記周波数f、並びに算出した前記レジスタンスrおよび前記リアクタンスXに基づいて、前記パラメータ値Rv(=(2×π×f×Lv−X)/(2×π×f×r×Cv))を算出するR算出処理とを実行する抵抗体の等価回路パラメータ測定方法。
【請求項6】
前記Zθ周波数特性取得処理において、前記インピーダンスZおよび前記位相θの前記各周波数特性として、前記象限周波数f1を下限周波数とし、前記象限周波数f2を上限周波数とする周波数帯域を主たる帯域として含む周波数帯域における前記インピーダンスZおよび前記位相θの各周波数特性、並びに前記周波数fでのインピーダンスZおよび位相θを取得する請求項4または5記載の抵抗体の等価回路パラメータ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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