説明

抵抗体形成用ガラス

【課題】分相性を適正に制御し得る抵抗体形成用ガラスを創案することにより、(1)ホットプレス工程で、緻密に焼結すること、(2)ホットプレス工程で、容易に変形すること、(3)ホットプレス工程後に、抵抗体の抵抗値がばらつく不具合を防止できること等の要求特性を満たすこと。
【解決手段】本発明の抵抗体形成用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 49.0〜57.9%、B 26.8〜40.6%、BaO 2.8〜7.5%、LiO 7.6〜12.3%、BaO+LiO(BaO、LiOの合量) 10.4〜15.2%(但し、15.2%は含まず)を含有し、且つモル比SiO/Bの値が1.83以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗体形成用ガラスに関し、特に点火プラグの抵抗体の形成に好適な抵抗体形成用ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンの点火プラグとして、抵抗体入り点火プラグが広く使用されている。図1に示すように、抵抗体入り点火プラグは、絶縁碍子(図示せず)の内孔中に端子電極1と接する導電ガラス体2aと、中心電極3と接する導電ガラス体2bとの間に抵抗体4を介在させたものである。点火プラグに抵抗体を導入すると、点火プラグの点火時に発生する高周波雑音電波の漏洩を抑制することができる。
【0003】
一般的に、抵抗体入り点火プラグは、次のようにして作製される。絶縁碍子の内孔の下端に中心電極3を挿入し、所定量の導電ガラス体材料を絶縁碍子の内孔に充填した後、導電ガラス体材料にプレス圧力を加え、導電ガラス体材料の表面を平坦にする。次に、導電ガラス体材料上に、所定量の抵抗体材料を充填した後、抵抗体材料にプレス圧力を加え、抵抗体材料の表面を平坦にする。その後、抵抗体材料上に導電ガラス体材料を所定量充填する。ここで、導電ガラス体材料および抵抗体材料は、絶縁碍子の内孔に充填しやすくするために顆粒に加工されている。次いで、端子電極1を絶縁碍子の内孔の上端に挿入した後、約900℃で加熱しながら端子電極1に荷重をかける、いわゆるホットプレス工程により、導電ガラス体材料および抵抗体材料を焼結させて導電ガラス体2a、2bおよび抵抗体4を形成するとともに、導電ガラス体2a中に端子電極1の先端を圧入し、導電ガラス体2b中に中心電極3の先端を圧入する。最後に、接地電極を備えたハウジングに絶縁碍子を固定し、点火プラグとする。
【0004】
一般的に、抵抗体材料は、粗粒ガラス粉末、微粒ガラス粉末、セラミック粉末、導電粉末等からなる複合粉末を顆粒化したものが使用される。この抵抗体材料を用いて作製された抵抗体は、粗粒ガラス粉末やセラミック粉末がその原型を留めるとともに、これらの粒子の間隙に、微粒ガラス粉末が溶融固化した結合ガラス相が存在した状態となる。また結合ガラス相中には導電粉末が分散しており、粗粒ガラス粉末は導電パスを曲折(迂回)させるブロック粒子として機能する(例えば特許文献1、2参照)。そして、導電パスを曲折させると、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が高まることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−306636号公報
【特許文献2】特開2005−340171号公報
【特許文献3】特開平2−220384号公報
【特許文献4】特開平9−45458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抵抗体形成用ガラス、特に粗粒ガラス粉末は、以下の特性が要求される。(1)ホットプレス工程で、緻密に焼結すること、(2)ホットプレス工程で、容易に変形すること、(3)ホットプレス工程後に、抵抗体の抵抗値がばらつく不具合を防止できること等が要求される。
【0007】
ところで、近年、エンジンが小型化される傾向にあり、これに付随して、点火プラグも細径化されるとともに、絶縁碍子の内孔も細径化される傾向にある。絶縁碍子の内孔が細径化されると、内部に形成される抵抗体は、外力による変形や衝撃を受けやすくなり、結果として、抵抗体が破損するおそれが生じる。よって、近年、上記要求特性(1)の重要性が高まってきている。なお、特許文献3の4頁左上欄に「・・・抵抗体1内部に異常な亀裂が発生し、抵抗値が上昇したり・・・」と記載されているように、抵抗体の破損は、点火プラグの致命的な欠陥になり得る。また、特許文献4の段落[0031]に「・・・多孔質な抵抗体9となるため、気密性および負荷寿命特性が悪化するばかりでなく・・・」と記載されているように、抵抗体の緻密性の欠如は、点火プラグの電気特性を大幅に低下させるおそれがある。
【0008】
また、絶縁碍子の内孔が細径化されると、絶縁碍子等の破損を考慮して、ホットプレス工程で加重圧力を低下せざるを得ず、端子電極を圧入し難くなる。よって、近年、上記要求特性(2)の重要性も高まってきている。
【0009】
さらに、絶縁碍子の内孔が細径化されると、抵抗体材料の充填率が低下するため、ホットプレス工程後に、抵抗体の抵抗値がばらつく不具合が発生しやすくなる。よって、近年、上記要求特性(3)の重要性も高まってきている。
【0010】
しかし、従来の抵抗体形成用ガラスは、上記要求特性を満たすことができなかった。詳述すると、粗粒ガラス粉末にブロック粒子としての機能を付与するために、抵抗体形成用ガラスには分相性を有するガラスが使用される。しかし、従来の抵抗体形成用ガラスは、分相性が適正に制御されておらず、上記要求(1)〜(3)を満足することができなかった。
【0011】
そこで、本発明は、分相性を適正に制御し得る抵抗体形成用ガラスを創案することにより、上記要求特性(1)〜(3)を満たすことを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意努力の結果、SiO−B−BaO−LiO系ガラスにおいて、SiOとBの含有比率およびBaOとLiOの合量等を厳密に規制すれば、ガラスの分相性を適正に制御することができ、上記要求特性(1)〜(3)を満足し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の抵抗体形成用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 49.0〜57.9%、B 26.8〜40.6%、BaO 2.8〜7.5%、LiO 7.6〜12.3%、BaO+LiO(BaO、LiOの合量) 10.4〜15.2%(但し、15.2%は含まず)を含有し、且つモル比SiO/Bの値が1.83以下であることを特徴とする。
【0013】
分相とは、一般的に、ガラス成分が、SiOを主成分とする高粘性のSiOリッチ相と、Bを主成分とする低粘性のBリッチ相とに分離する状態を指す。本発明者の詳細な調査によると、SiO−B−BaO−LiO系ガラスの分相には、図2〜5に示すような形態がある。図2は、ガラスの分相形態を示す写真であり、具体的にはSiOリッチ相(黒色部分)が連続しており、且つBリッチ相(白色部分)が連続している形態を示す写真である。図3は、ガラスの分相形態を示す写真であり、具体的にはSiOリッチ相(黒色部分)が独立しており、且つBリッチ相(白色部分)が連続している形態を示す写真である。図4は、ガラスの分相形態を示す写真であり、具体的にはSiOリッチ相(黒色部分)が連続(連続相が細い)しており、且つBリッチ相(白色部分)が独立している形態を示す写真である。図5は、ガラスの分相形態を示す写真であり、具体的にはSiOリッチ相(黒色部分)が連続(連続相が太い)しており、且つBリッチ相(白色部分)が独立している形態を示す写真である。なお、分相形態の評価は、(良)図3→図2→図4→図5(不良)である。
【0014】
ガラスの分相性は、上記要求特性(1)〜(3)に大きな影響を及ぼす。本発明者の詳細な調査によれば、SiOリッチ相が太い連続相になると、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が緻密に焼結し難くなる。逆に、SiOリッチ相が独立していると、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が緻密に焼結しやすくなる。そこで、モル比SiO/Bの値を1.83以下に規制すると、SiOリッチ相が太い連続相になり難く、上記要求特性(1)を満たしやすくなる。
【0015】
また、本発明者の詳細な調査によれば、Bリッチ相が独立していると、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が変形し難くなる。逆に、Bリッチ相が連続していると、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が変形しやすくなる。そこで、モル比SiO/Bの値を1.83以下に規制すると、Bリッチ相が連続しやすくなり、上記要求特性(2)を満たしやすくなる。
【0016】
さらに、本発明者の詳細な調査によれば、分相性が高いと、短時間の熱処理で安定した分相状態になり、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつき難くなる。逆に、分相性が低いと、短時間の熱処理で分相状態が安定せず、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつきやすくなる。そこで、Bの含有量を40.6%以下、BaOの含有量を2.8%以上、LiOの含有量を7.6%以上、BaO+LiOの含有量を10.4%以上15.2%未満に規制すると、分相性が高まり、上記要求特性(3)を満たしやすくなる。
【0017】
第二に、本発明の抵抗体形成用ガラスは、NaO+KO(NaO、KOの合量)の含有量が3モル%以下であることを特徴とする。このようにすれば、Bリッチ相の粘度が低下しやすくなるため、ガラスの屈伏点が上昇し難くなり、結果として、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形しやすくなり、端子浮き等の不具合が発生し難くなる。
【0018】
第三に、本発明の抵抗体形成用ガラスは、ZrO+Al+TiO(ZrO、Al、TiOの合量)の含有量が5モル%以下であることを特徴とする。このようにすれば、ガラスの屈伏点が上昇し難くなるため、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形しやすくなり、端子浮き等の不具合が発生し難くなる。
【0019】
第四に、本発明の抵抗体形成用ガラスは、MgO+CaO+SrO+ZnO(MgO、CaO、SrO、ZnOの合量)の含有量が5モル%以下であることを特徴とする。このようにすれば、SiOリッチ相が連続し難くなり、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が緻密に焼結しやすくなる。
【0020】
第五に、本発明の抵抗体形成用ガラスは、実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0021】
第六に、本発明の抵抗体形成用ガラスは、屈伏点が660℃以下であることを特徴とする。ここで、「屈伏点」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指す。
【0022】
第七に、本発明の抵抗体形成用ガラスは、粉末形状を有し、且つその粒度が150〜450μmであることを特徴とする。このようにすれば、粗粒ガラス粉末がブロック粒子として適正に機能しやすくなる。
【0023】
第八に、本発明の抵抗体形成用ガラスは、分相性を有することを特徴とする。ここで、「分相性を有する」とは、600〜900℃のいずれかの温度で10分間熱処理を加えた場合にガラスが分相する場合を指し、例えば1000倍の光学顕微鏡等で観察すれば、ガラスが分相しているか否かを判定することができる。なお、抵抗体形成用ガラスが、熱処理を加える前に、既に分相している場合も「分相性を有する」と判断する。
【0024】
第九に、本発明の抵抗体形成用ガラスは、点火プラグに用いることを特徴とし、細径の点火プラグに用いることが好ましい。なお、絶縁碍子の内孔が細径(具体的には8mmφ未満、6mmφ以下、特に4mmφ以下)である程、本発明の効果が相対的に大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】抵抗体入り点火プラグの要部を示す説明図である。
【図2】ガラスの分相形態を示す写真であり、具体的にはSiOリッチ相が連続しており、且つBリッチ相が連続している形態を示す写真である。
【図3】ガラスの分相形態を示す写真であり、具体的にはSiOリッチ相が独立しており、且つBリッチ相が連続している形態を示す写真である。
【図4】ガラスの分相形態を示す写真であり、具体的にはSiOリッチ相が連続(連続相が細い)しており、且つBリッチ相が独立している形態を示す写真である。
【図5】ガラスの分相形態を示す写真であり、具体的にはSiOリッチ相が連続(連続相が太い)しており、且つBリッチ相が独立している形態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物において、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を下記に示す。
【0027】
SiOは、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は49.0〜57.9%、好ましくは50.0〜55.0%である。SiOの含有量が49.0%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。一方、SiOの含有量が57.9%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0028】
は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの屈伏点を下げる成分であり、更にはガラスの分相性に影響を与える成分であり、その含有量は26.8〜40.6%、好ましくは30.0〜36.0%である。Bの含有量が26.8%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの屈伏点が不当に上昇して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、Bの含有量が40.6%より多いと、分相性が低下するため、短時間の熱処理で分相状態が安定せず、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつきやすくなる。
【0029】
BaOは、ガラスの分相性に影響を与える成分であり、またガラスの屈伏点を低下させる成分であり、その含有量は2.8〜7.5%、好ましくは3.2〜7.0%である。BaOの含有量が2.8%より少ないと、分相性が低下するため、短時間の熱処理で分相状態が安定せず、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつきやすくなる。一方、BaOの含有量が7.5%より多いと、ガラスの誘電率が上昇し、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。
【0030】
LiOは、ガラスの分相性に影響を与える成分であり、またガラスの屈伏点を低下させる成分であり、その含有量は7.6〜12.3%、好ましくは8.0〜11.8%である。LiOの含有量が7.6%より少ないと、分相性が低下するため、短時間の熱処理で分相状態が安定せず、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつきやすくなる。一方、LiOの含有量が12.3%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0031】
BaO+LiOの含有量は、SiO−B−BaO−LiO系ガラスの分相性(特に分相状態)に大きな影響を及ぼす。BaO+LiOの含有量は10.4〜15.2%(但し、15.2%は含まず)、好ましくは12.5〜15.0%(但し、15.0%は含まず)である。BaO+LiOの含有量が10.4%より少ないと、分相性が低下するため、短時間の熱処理で分相状態が安定せず、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつきやすくなる。また、BaO+LiOの含有量が15.2%以上であっても、分相性が低下するため、短時間の熱処理で分相状態が安定せず、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつきやすくなる。
【0032】
モル比SiO/Bの値は、SiO−B−BaO−LiO系ガラスの分相性(分相形態)に大きな影響を及ぼす。モル比SiO/Bの値は1.83以下、好ましくは1.41〜1.71である。モル比SiO/Bの値が1.83より大きいと、SiOリッチ相において太い連続相が発生しやすくなり、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が緻密に焼結し難くなる。さらに、モル比SiO/Bの値が1.83より大きいと、Bリッチ相が独立しやすくなるため、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。なお、モル比SiO/Bの値を1.41より小さくても、SiOリッチ相が連続しやすくなり、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が緻密に焼結し難くなる傾向がある。
【0033】
ガラス組成として、上記成分以外にも、例えば、以下の成分を添加することができる。
【0034】
NaO+KOは、ガラスの分相性に影響を与える成分であり、その含有量は0〜3%、特に0〜2%が好ましい。NaO+KOの含有量が3%より多いと、Bリッチ相の粘性が上昇しやすくなるため、ガラスの屈伏点が不当に上昇して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0035】
NaOは、ガラスの分相性に影響を与える成分であり、その含有量は0〜2%が好ましい。NaOの含有量が2%より多いと、Bリッチ相の粘性が上昇しやすくなるため、ガラスの屈伏点が不当に上昇して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0036】
Oは、ガラスの分相性に影響を与える成分であり、その含有量は0〜2%が好ましい。KOの含有量が2%より多いと、Bリッチ相の粘性が上昇しやすくなるため、ガラスの屈伏点が不当に上昇して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0037】
ZrO+Al+TiOは、ガラスの耐候性、特に耐水性を高める成分であり、またガラスの熱的安定性を高める成分、更にはガラスの熱膨張係数を低下させる成分であり、その含有量は0〜5%、特に0〜3%が好ましい。ZrO+Al+TiOの含有量が5%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。なお、ZrO、Al、TiOの含有量は、同様の理由により、それぞれ3%以下、特に2%以下が好ましい。
【0038】
MgO+CaO+SrO+ZnOは、ガラスの誘電率を低下させるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分であり、その含有量は0〜5%、特に0〜3%が好ましい。MgO+CaO+SrO+ZnOの含有量が5%より多いと、SiOリッチ相が連続しやすくなり、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が緻密に焼結し難くなる。なお、MgO、CaO、SrO、ZnOの含有量は、同様の理由により、それぞれ3%以下、特に2%以下が好ましい。
【0039】
また、本発明の抵抗体形成用ガラスは、ガラス組成として、更に種々の成分を例えば8%まで添加することができる。例えば、Bi、CuO、CsO、La、Gd、V、WO、Sb、SnO、Nb、Y、CeO、P等を8%まで添加することができる。なお、本発明の抵抗体形成用ガラスは、ガラス組成として、PbOの含有を完全に排除するものではないが、既述の通り、環境的観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。
【0040】
本発明の抵抗体形成用ガラスにおいて、密度は2.55g/cm未満、2.50g/cm以下、特に2.45g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、ガラスを軽量化することができ、結果として、点火プラグを軽量化することができる。
【0041】
本発明の抵抗体形成用ガラスにおいて、屈伏点は660℃以下、630℃以下、610℃以下、600℃以下、590℃以下、特に350℃以上580℃以下が好ましい。一方、屈伏点が660℃より高いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、屈伏点が350℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。
【0042】
本発明の抵抗体形成用ガラスにおいて、熱膨張係数は40〜60×10−7/℃、45〜58×10−7/℃、特に53〜58×10−7/℃が好ましい。熱膨張係数を40×10−7/℃より低下させるためには、ガラス組成中のSiO等の含有量を増加させる必要があるため、このような場合、ガラスの屈伏点が高くなることに起因して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、熱膨張係数が60×10−7/℃より高いと、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0043】
本発明の抵抗体形成用ガラスは、分相性を有することが好ましい。好ましい理由は、既述であるため、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
【0044】
本発明の抵抗体形成用ガラスは、粉末形状を有することが好ましい。粉末形状であれば、ホットプレス工程でガラスが変形しやすくなるとともに、顆粒に加工すれば、絶縁碍子の内孔に抵抗体材料を充填しやすくなる。
【0045】
本発明の抵抗体形成用ガラスにおいて、粉末形状を有する場合、その粒度は150〜450μm、特に200〜350μmが好ましい。ガラス粉末の粒度を150〜450μmに規制すれば、ブロック粒子として適正に機能することができる。ガラス粉末の粒度が150μmより小さいと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解し、導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の粒度が450μmより大きいと、顆粒に加工し難くなり、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなることに加えて、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。ここで、「150〜450μmの粒度」とは、目開き450μmの篩を通過し、目開き150μmの篩を通過しないことを意味する。
【0046】
本発明の抵抗体形成用ガラスにおいて、粉末形状を有する場合、その平均粒子径D50は150〜450μm、特に200〜350μmが好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50を150〜450μmに規制すれば、ブロック粒子として適正に機能することができる。ガラス粉末の平均粒子径D50が150μmより小さいと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解し、導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の平均粒子径D50が450μmより大きいと、顆粒に加工し難くなり、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなることに加えて、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。ここで、「平均粒子径D50」とは、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【0047】
本発明の抵抗体形成用ガラスは、抵抗体を形成するための細粒ガラス粉末としても使用することができる。その場合、ガラス粉末の平均粒子径D50は150μm未満、特に100μm以下が好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が150μm以上であると、ホットプレス工程で細粒ガラス粉末の変形が不十分になり、結合ガラス相を形成し難くなる。なお、粗粒ガラス粉末と細粒ガラス粉末を同一のガラス組成とすれば、ホットプレス工程で両者が強固に結合するため、抵抗体の機械的強度を高めることができる。また、ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは450μm以下、特に400μm以下が好ましい。ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが450μmより大きいと、絶縁碍子の内孔が細径化された場合に、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなる。ここで、「最大粒子径Dmax」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【実施例】
【0048】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0049】
表1〜6は、本発明の実施例(試料No.1〜61)、比較例(試料No.62〜66)を示している。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
試料No.1〜66につき、屈伏点、作業性、抗折強度、分相状態および分相形態を評価した。その結果を表1〜6に示す。
【0057】
まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1500℃で1時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部をカーボン製の型に流し出し、板状のガラス試料を得た。また、水冷ローラーにより、溶融ガラスの一部をフィルム状に成形した後、ボールミルにて粉砕後、試験篩で分級し、各ガラス粉末(粒度150〜450μm、平均粒子径D50=200μm)を得た。このガラス粉末を屈伏点、作業性および抗折強度に用いた。
【0058】
屈伏点は、TMA装置で測定した値である。なお、TMAの測定試料として、ガラス粉末試料を緻密に焼結させたものを使用した。
【0059】
次のようにして、作業性を評価した。まずアルミナ板の上に、内径4.5mm、長さ15mmのアルミナ管を長さ方向(縦姿勢)に置いた。次に、アルミナ管の内部にガラス粉末試料を一杯になるまで詰め込んだ後、900℃に加熱した電気炉に10分間投入した。続いて、電気炉からアルミナ管を取り出した直後に、4mmφのステンレス製の棒をアルミナ管の内部に圧入した。圧入の際、圧力を100kg/cmに調整した。最後に、ステンレスの棒がアルミナ管に6mm以上入り込んだものを「◎」、ステンレスの棒がアルミナ管に5.5mm以上6mm未満入り込んだものを「○」、ステンレスの棒がアルミナ管に5.5mm未満しか入り込まなかったものを「×」として評価した。
【0060】
次のようにして、抗折強度を評価した。まずガラス粉末試料をアルミナ型(縦50mm×横50mm×高さ30mm)に一杯になるまで詰め込んだ。次に、アルミナ型を900℃に加熱した電気炉に10分間投入した。続いて、電気炉からアルミナ型を取り出した直後に、断面が50mm×50mmのアルミナ角棒をアルミナ型内に圧入した。圧入の際、圧力を100kg/cmに調整した。続いて、得られた焼結体を3mm×4mm×40mmの試験片(20本採取)に加工した後、各試験片の表面を光学研磨した。最後に、JIS R1601に準拠した方法により、各試験片について、抗折強度を測定した。抗折強度の平均値が80MPa以上のものを「◎」、50MPa以上80MPa未満であるものを「○」、50MPa未満であるものを「△」として、評価した。なお、抗折強度が高い程、ホットプレス工程で、粗粒ガラス粉末が緻密に焼結されることを意味する。
【0061】
次のようにして、分相状態を評価した。最初に、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1500℃で1時間溶融した。次に、水冷ローラーにより、溶融ガラスをフィルム状に成形した。最後に、得られたガラスフィルムの表面を目視で観察し、白濁が確認されたものを「○」、白濁が観察されなかったものを「×」として、評価した。なお、この評価において、白濁の発生は分相性が高いことを示しており、この評価が良好であると、短時間の熱処理で安定した分相状態になり、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつき難くなる。逆に、この評価において、白濁の未発生は、分相性が低いことを示しており、この評価が不良であると、短時間の熱処理で分相状態が安定せず、結果として、ホットプレス工程後に、点火プラグの抵抗値がばらつきやすくなる。
【0062】
次のようにして、分相形態を評価した。最初に、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1500℃で1時間溶融した。得られた溶融ガラスをインゴット成形した後、550℃で30分間アニールした後、900℃に加熱した電気炉に10分間投入した。続いて、インゴットを電気炉から取り出し、インゴットの表面を光学研磨した。最後に、光学研磨面を1000倍の光学顕微鏡で観察し、SiOリッチ相、Bリッチ相の状態を評価し、同一の相が連続している場合を「A」、独立している場合を「B」として表記した。なお、連続相が細い場合を「A(細)」、連続相が太い場合を「A(太)」として特記した。
【0063】
表1〜6から明らかなように、試料No.1〜61は、屈伏点が低く、作業性、抗折強度および分相状態の評価が良好であった。
【0064】
表6から明らかなように、試料No.62は、モル比SiO/Bの値が大きいため、SiOリッチ相において連続相が太くなり、抗折強度の評価が不良であった。試料No.63は、BaO+LiOの含有量が多いため、分相状態の評価が不良であった。試料No.64は、SiOの含有量が多いため、屈伏点が高くなり、作業性の評価が不良であり、またモル比SiO/Bの値が大きいため、SiOリッチ相において連続相が太くなり、抗折強度の評価が不良であった。試料No.65は、Bの含有量が多く、またBaO+LiOの含有量が少なく、さらにLiOの含有量が少ないため、分相状態の評価が不良であった。試料No.66は、BaOの含有量が少ないため、分相状態の評価が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上の説明から明らかなように、本発明の抵抗体形成用ガラスは、点火プラグ(特に、細径の点火プラグ)の絶縁碍子の内孔に抵抗体を形成するための粗粒ガラス粉末に好適である。また、本発明の抵抗体形成用ガラスは、点火プラグの絶縁碍子の内孔に抵抗体を形成するための微粒ガラス粉末に用いることもできる。
【符号の説明】
【0066】
1 端子電極
2a、2b 導電ガラス体
3 中心電極
4 抵抗体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO 49.0〜57.9%、B 26.8〜40.6%、BaO 2.8〜7.5%、LiO 7.6〜12.3%、BaO+LiO 10.4〜15.2%(但し、15.2%は含まず)を含有し、且つモル比SiO/Bの値が1.83以下であることを特徴とする抵抗体形成用ガラス。
【請求項2】
NaO+KOの含有量が3モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の抵抗体形成用ガラス。
【請求項3】
ZrO+Al+TiOの含有量が5モル%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の抵抗体形成用ガラス。
【請求項4】
MgO+CaO+SrO+ZnOの含有量が5モル%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抵抗体形成用ガラス。
【請求項5】
実質的にPbOを含有しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抵抗体形成用ガラス。
【請求項6】
屈伏点が660℃以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抵抗体形成用ガラス。
【請求項7】
粉末形状を有し、且つその粒度が150〜450μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の抵抗体形成用ガラス。
【請求項8】
分相性を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の抵抗体形成用ガラス。
【請求項9】
点火プラグに用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の抵抗体形成用ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−66942(P2012−66942A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210334(P2010−210334)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】