説明

押出し機の口金製作方法および押出し機の口金

【課題】簡単かつ短時間で押出し機の口金を製作する。
【解決手段】データベースから膨らみ度(口金20の開口21の断面積を開口21の周囲長で除した値)Aが新規口金の膨らみ度Bに最も近似する既使用の口金20を検索して取り出した後、該口金20のスウェル率Cと新規帯状部材の断面積を基に新規口金の開口断面積を求めて新規口金を製作するようにしたので、データベースには既使用口金20の膨らみ度A、スウェル率Cに関するデータが蓄積されていればよく、データの測定および入力が簡単な作業となって口金を簡単かつ短時間で製作することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サイドウォール等の帯状部材を押出す押出し機の口金製作方法および押出し機の口金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の押出し機の口金製作方法としては、例えば以下の特許文献1に記載されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−186238号公報
【0004】
このものは、過去に押し出された多数種類の押出し材の中から今回押し出す押出し材に断面形状が近似する押出し材を検索して取り出し、該取り出した押出し材の断面形状および該押出し材を押し出した口金の開口形状に関する寸法データを求める工程と、前記求めた押出し材の断面形状および口金の開口形状双方を幅方向に多数領域に分割するとともに、各領域におけるスウェル率の変化量と口金ゲージの変化量との比を前記寸法データから求める工程と、今回の押出し材上の多数の幅方向位置の各位置における押出し材のゲージと、これら各位置が含まれる前記領域の前記比とから、今回の押出し材を押し出す口金の各位置における口金ゲージを求める工程とを備えたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の押出し機の口金製作方法にあっては、前述のように押出し材の断面形状および口金の開口形状双方を幅方向に多数領域に分割するとともに、各領域におけるスウェル率の変化量と口金ゲージの変化量との比を前記寸法データから求めるようにしているため、押出し材の断面寸法、口金の開口寸法を事前に細かく、かつ、正確に測定をしてデータベース化をしておく必要があるが、このようなデータベース化のためには多大の時間と労力が必要となるという課題があった。
【0006】
この発明は、簡単かつ短時間で押出し機の口金を製作することができる押出し機の口金製作方法および押出し機の口金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、既使用である多数の押出し機の口金および該口金から押出された帯状部材に関するデータが蓄積されたデータベースから口金の開口の膨らみ度Aが、新規製作する押出し機の口金の開口の膨らみ度Bに最も近似する既使用の口金を検索して取り出す工程と、前記取り出した既使用の口金から押出された帯状部材のスウェル率Cを前記データベースから取り出すとともに、該スウェル率Cおよび新規に押出す帯状部材の断面積を基に新規製作する口金の開口断面積を決定する工程と、前記決定した開口断面積に基づき口金を加工し新規製作の口金を製作する工程とを備えた押出し機の口金製作方法により、達成することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明においては、データベースから膨らみ度Aが新規口金の膨らみ度Bに最も近似する既使用の口金を検索して取り出した後、該既使用の口金から押出された帯状部材のスウェル率Cと新規帯状部材の断面積を基に新規口金の開口断面積を求め、新規口金を製作するようにしたので、データベースには既使用の口金の膨らみ度A、帯状部材のスウェル率Cに関するデータが蓄積されていればよいが、これらデータの測定および入力は簡単な作業であるので、口金を簡単かつ短時間で製作することができる。
【0009】
また、請求項2に記載のように構成すれば、口金の開口形状の差異に基づく新規帯状部材の規定形状からの狂いを効果的に抑制することができる。さらに、請求項3に記載のように構成すれば、押出し速度の違いに基づく新規帯状部材の規定形状からの狂いを効果的に低減することができる。また、請求項4に記載のように、本願発明は断面形状が単純形状である帯状部材に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施形態1を示す既使用の押出し機口金近傍の概略側面断面図である。
【図2】既使用の口金の一部破断正面図である。
【図3】口金製作に用いる装置のブロック図である。
【図4】新規に押出す帯状部材の正面断面図である。
【図5】新規製作する口金の一部破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
図1、2において、11は押出し機であり、この押出し機11は円筒状のシリンダバレル12を有し、このシリンダバレル12内には図示していない駆動モータから駆動力を受けて回転するスクリュー13が収納されている。そして、前記スクリュー13が回転すると、前記シリンダバレル12内に投入された押出し材14、例えば、混練済みの未加硫ゴム、プラスチック等の粘弾性体は先端側に向かって搬送される。前記シリンダバレル12の先端には押出しヘッド15が固定され、この押出しヘッド15内には前記スクリュー13によって搬送されてきた押出し材14が通過する通路16が形成されている。
【0012】
この通路16は後端が前記シリンダバレル12の内部に連通した断面円形であるが、先端側に向かうに従い高さが低くなる一方、幅が広くなっており、この結果、断面積はいずれの位置においてもほぼ同一である。また、前記押出しヘッド15の先端には口金20が着脱可能に取り付けられ、この口金20には押出し時における押出し材14の断面形状を規定する貫通した開口21が形成されている。そして、この口金20の開口21を通じて押出し材14が次々に押出されると、該押出し材14は連続した帯状部材22となる。
【0013】
ここで、前記押出し材14は押出し機11内を通過しているときには高圧となっているため、口金20の開口21から押し出された直後に膨張し、この結果、帯状部材22の断面積は図2に仮想線で示すように、開口21の断面積より若干大きくなる。このような現象は通常、スウェルと呼ばれ、また、帯状部材22の断面積を開口21の断面積で除した値はスウェル率と呼ばれている。この結果、図4、5に示すように、新規に押出す帯状部材25の断面形状が決定されたとき、この新規の帯状部材25の断面形状と同一形状の開口26を口金27に形成しても、前記新規形状の帯状部材25を押し出すことはできず、口金27(開口26)にある程度の修正を行う必要がある。ここで、スウェル率と口金の開口の膨らみ度との間には所定の関係、即ち口金開口の縦横比が1に近付いて膨らみ度が大となる程、スウェル率が小となる反比例の関係にあることが知られている。
【0014】
この実施形態は、前述のような関係下で口金開口の修正をどのように行って口金27を製作するかを提案するものである。図3、4、5において、30は既使用である多数の口金20(開口21)に関するデータ、および、該既使用である口金20から押出された帯状部材22に関するデータが記憶蓄積されているデータベースであり、このデータベース30には、少なくとも既使用の口金20の膨らみ度、スウェル率に関するデータが、ここではさらに加えて、開口21、帯状部材22の幅、開口21の高さが最大である部位の幅方向位置、帯状部材22の最大厚肉部の幅方向位置、開口21の最大高さ、帯状部材22の最大厚肉部の肉厚、前記帯状部材22の押出し速度(押出し材14の押出し量/口金の開口断面積)等のデータが蓄積されている。そして、このようなデータは、例えばハードディスク等に記憶蓄積されている。ここで、前記口金20の開口21の膨らみ度とは、口金20の開口21の断面積を開口21の周囲長で除した値のことである。
【0015】
33はキーボード等の入力手段であり、この入力手段33からCPU等の演算検索作業を行う制御手段34に対し、新規の帯状部材25を押出す際に用いる新規製作の口金27(開口26)の膨らみ度Bを入力する。ここで、前述した口金27(開口26)としては、新規に押出す帯状部材25の断面形状をそのまま用いてもよく、あるいは、経験則に基づいてスウェルを勘案しながら帯状部材25の断面形状より若干小さな形状のものを仮定して用いてもよい。このように制御手段34に新規の口金27(開口26)の膨らみ度Bが入力されると、該制御手段34は前記データベース30から前記膨らみ度Bに膨らみ度Aが最も近似する既使用の口金20(開口21)を検索して取り出す。
【0016】
次に、制御手段34は前記検索して取り出した既使用の口金20から押出された帯状部材22を特定するとともに、該特定した帯状部材22のスウェル率Cをデータベース30から取出し、その後、該スウェル率Cおよび新規に押出す帯状部材25の断面積を基に新規製作する口金27の開口26の断面積を決定、即ち、帯状部材25の断面積をスウェル率Cで除することにより、開口26の断面積を決定する。ここで、前述のスウェル率は1より大きな数値であるため、新規製作する口金27の開口26の断面積は新規に押出す帯状部材25の断面積より小さな値となる。このようにして開口26の断面積が決定されると、制御手段34は、新規製作する開口26の幅を新規に押出す帯状部材25の幅と同一値とする一方、新規に押出す帯状部材25の各部における肉厚を前記スウェル率Cで除することで、該開口26の各部における高さを求めて開口26全体の寸法を決定し、その値をディスプレイ等の出力手段37に出力して表示する。
【0017】
ここで、新規製作する開口26の幅を新規に押出す帯状部材25の幅と同一値としたのは、開口26から押出されたときの帯状部材25の膨張量は開口26のいずれの位置においてもほぼ同一であるが、帯状部材25の肉厚はその幅に比較して値がかなり小さいため、肉厚方向(開口26では高さ方向)における膨張率(膨張量/肉厚)は、幅方向における膨張率(膨張量/幅)よりかなり大きな値となり、この結果、開口26の高さに関してのみ検討すれば充分だからである。但し、寸法精度の高い口金27(開口26)を製作したい場合には、前記スウェル率Cから膨張量を求め、新規に押出す帯状部材25の幅から該膨張量の2倍の値を減じて新規製作する開口26の幅を決定すればよい。このようにして新規製作する口金27の開口26の寸法が決定されると、切削加工装置、研削加工装置、放電加工装置等を用いて口金素材に対し加工を施し、新規の口金27を製作する。
【0018】
このようにデータベース30から膨らみ度Aが新規口金27の膨らみ度Bに最も近似する既使用の口金20を検索して取り出した後、該既使用の口金20から押出された帯状部材22のスウェル率Cと新規帯状部材25の断面積を基に新規口金27(開口26)の開口断面積を求め、新規口金27を製作するようにしたので、データベースには少なくとも既使用の口金20の膨らみ度A、該口金20から押出された帯状部材22のスウェル率Cに関するデータが蓄積されていればよいが、これらデータの測定および入力は簡単な作業であるので、口金27を簡単かつ短時間で製作することができる。そして、このようにして新規の口金27(開口26)を製作するようにすれば、開口26の幅が開口21の幅に対して50%以上異なっているような場合でも、帯状部材25の断面形状が単純な形状であれば、開口26の高さ方向の誤差を± 0.1mm以下に抑えることができる。
【0019】
ここで、帯状部材22、25の断面形状は幅方向位置に拘わらず同一厚さであるもの、幅方向中央部に最大厚肉部が存在するもの、幅方向一側あるいは幅方向他側に最大厚肉部が存在するものと、いくつかの種類に分類することができるが、前述のように検索して取り出した口金20の開口21の形状と、新規製造する口金27の開口26の形状との種類が異なる場合には、口金の開口形状の差異により新規に押出す帯状部材25の断面形状に狂いが生じることがある。
【0020】
このような事態に対処するため、前述のようなデータベース30から口金20の開口21の膨らみ度Aが、新規製作する口金27の開口26の膨らみ度Bに最も近似する既使用の口金20を検索して取り出す工程に先立ち、新規製作する口金27の開口26の形状と開口21の形状が類似形状である、即ち開口形状が同一種類である既使用の口金20を制御手段34によりデータベース30から検索して複数ピックアップすることが好ましい。そして、このように検索してピックアップした複数の口金20のなかから、前記膨らみ度が最も近似した口金20を検索して取り出す作業を行うのである。このようにすれば、口金の開口形状の差異に基づく新規帯状部材25の規定形状からの狂いを効果的に抑制することができる。
【0021】
また、押出し時のゴム焼けを防止したり、生産性を向上するため、帯状部材の押出し速度を変更する場合があるが、このような帯状部材の押出し速度とスウェル率との間にも、前述のスウェル率と口金の開口の膨らみ度との関係ほど強力ではないが、ある程度の関係、即ち帯状部材の押出し速度が大となる程、スウェル率も大となる正比例の関係があることが知られている。このことから押出し速度の違いに基づく新規帯状部材25の規定形状からの狂いを効果的に低減するためには、前述のスウェル率C等に基づいて新規製作する口金27の開口断面積を決定する工程と、口金27を製作する工程との間に、以下のような工程を追加することが好ましい。
【0022】
即ち、新規に押出される帯状部材25の断面形状等が決定されたとき、口金27からの帯状部材25の押出し速度も決定されるが、この新規帯状部材25の押出し速度に、帯状部材22の押出し速度Wが最も近似する既使用の口金20を制御手段34によってデータベース30から検索して見出すとともに、前記見出した既使用の口金20から押出された帯状部材22のスウェル率Dをデータベース30から取出す。このとき、制御手段34によって前述した膨らみ度が最も近似した既使用の口金20で帯状部材22を押出したときの押出し速度Vもデータベース30から取り出す。
【0023】
次に、制御手段34は前記押出し速度Wおよびこの押出し速度Wに対応するスウェル率Dと、前記押出し速度Vおよびこの押出し速度Vに対応するスウェル率Cを基に、前記スウェル率Cの値を補正する。即ち、前述した膨らみ度Aが最も近似した既使用の口金20で帯状部材22を押出したときの押出し速度Vに対応するスウェル率Cと、押出し速度が最も近似する口金20で帯状部材22を押出したときの押出し速度Wに対応するスウェル率Dとを比較したとき、後者の押出し速度Wが例えば前者の押出し速度Vより大であると、前述した正比例の関係から後者のスウェル率Dが前者のスウェル率Cより若干大きな値となるが、このとき、前者のスウェル率Cを後者のスウェル率Dで除した値(1未満の値)を、膨らみ度を基に決定した口金27の開口26の開口高さに乗じて、開口26の各部における高さを小さくするよう補正する。
【0024】
そして、このような補正を加味して開口26の最終形状を決定し口金27の加工を行うようにすれば、押出し速度の違いに基づく新規帯状部材25の規定形状からの狂いを効果的に低減することができる。そして、この実施形態で説明したような口金製作方法は、断面形状が単純な形状である帯状部材、例えばサイドトレッド用の口金製作に好適であり、その他にトップトレッド、フィラー、ゴムチェーファー等にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明は、サイドウォール等の帯状部材を押出す押出し機の口金を製作する産業分野に適用できる。
【符号の説明】
【0026】
11…押出し機 20…既使用の口金
21…既使用口金の開口 22…既使用口金から押出された帯状部材
25…新規口金から押出された帯状部材
26…新規口金の開口 27…新規口金
30…データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既使用である多数の押出し機の口金および該口金から押出された帯状部材に関するデータが蓄積されたデータベースから口金の開口の膨らみ度Aが、新規製作する押出し機の口金の開口の膨らみ度Bに最も近似する既使用の口金を検索して取り出す工程と、前記取り出した既使用の口金から押出された帯状部材のスウェル率Cを前記データベースから取り出すとともに、該スウェル率Cおよび新規に押出す帯状部材の断面積を基に新規製作する口金の開口断面積を決定する工程と、前記決定した開口断面積に基づき口金を加工し新規製作の口金を製作する工程とを備えたことを特徴とする押出し機の口金製作方法。
【請求項2】
前記検索して取り出す工程に先立ち、新規製作する口金の開口形状と開口形状が類似形状である既使用の口金をデータベースから検索して複数ピックアップし、この検索してピックアップした複数の口金のなかから、最も近似する既使用の口金を検索して取り出すようにした請求項1記載の押出し機の口金製作方法。
【請求項3】
前述した新規製作する口金の開口断面積を決定する工程と口金を製作する工程との間に、新規製作する口金から押出す帯状部材の押出し速度に、帯状部材の押出し速度が最も近似する既使用の口金をデータベースから検索して見出すとともに、該見出した既使用の口金から押出された帯状部材のスウェル率Dにより前記決定された新規製作する口金の開口断面積を補正し、この補正を加味して口金の加工を行うようにした請求項1または2記載の押出し機の口金製作方法。
【請求項4】
前記口金により押出される帯状部材は断面形状が単純形状であるサイドトレッドである請求項1〜3のいずれかに記載の押出し機の口金製作方法。
【請求項5】
前記請求項1記載の口金製作方法により製作されたことを特徴とする押出し機の口金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−45820(P2012−45820A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190011(P2010−190011)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】