説明

担体、ペレット状汚泥、これらの調製方法、及び有機性廃水の処理方法

【課題】有機性廃水処理の開始を迅速化できる担体、ペレット状汚泥、これらの調製方法、及び有機性廃水の処理方法を提供すること。
【解決手段】担体は、カビ及び/又は酵母が、三次元網目構造を有する吸水性樹脂に固定化又は内包されている。この担体を、好気性微生物とともに有機性廃水に添加すると、好気性微生物が担体に絡み、ペレット状汚泥が迅速に形成される。これにより、有機性廃水処理の開始を迅速化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃水を処理する技術に関し、より詳しくは、有機性廃水を処理するための担体、ペレット状汚泥、これらの調製方法、及びこれらを用いた有機性廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性汚泥処理法等のように、好気性微生物を好気条件下で用いて有機性廃水を処理する好気性処理方法は、処理コストが安く、処理性能に優れるため、広く利用されている。
【0003】
このような好気性処理方法においては、スポンジ、プラスチック、高分子ゲル等の好気性微生物を担持する担体が、曝気槽内に投入されている。これにより、担体表面に好気性微生物の生物膜が形成されるので、曝気槽内の好気性微生物の保持量を増加させ、滞留時間を延ばすことができる。
【0004】
更に、好気性微生物を含み、自己造粒したペレット状汚泥を用いる生物学的処理が開発され、着目されている(特許文献1参照)。この技術によれば、COD7.5kg/m/日という高負荷条件の下で処理できるとともに、液体から容易に分離するため、沈殿施設を小規模化できる。
【特許文献1】特開2002−336885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示される技術では、ペレット状汚泥の形成に数週間から数ヶ月という長期間を要するため、有機性廃水処理の開始が遅延するという問題がある。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、有機性廃水処理の開始を迅速化できる担体、ペレット状汚泥、これらの調製方法、及び有機性廃水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カビ及び/又は酵母が、三次元網目構造を有する吸水性樹脂に固定化又は内包された担体を使用することで、好気性微生物を含む汚泥の自己造粒化が促進されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 好気性微生物を含む汚泥の自己造粒化を促進するための担体であって、
カビ及び/又は酵母が、三次元網目構造を有する吸水性樹脂に固定化又は内包された担体。
【0009】
(2) 前記吸水性樹脂は、pH3以上10以下において吸水できる(1)記載の担体。
【0010】
(3) 前記吸水性樹脂は、見かけ体積が40倍以上となるまで吸水できる(1)又は(2)記載の担体。
【0011】
(4) 前記カビ及び/又は酵母は、胞子の状態である(1)から(3)いずれか記載の担体。
【0012】
(5) 膨潤時における平均粒子径が、50μm以上3mm以下である(1)から(4)いずれか記載の担体。
【0013】
(6) 有機性廃水の処理に用いられるペレット状汚泥であって、
(1)から(5)いずれか記載の担体と、この担体に絡む好気性微生物と、を有するペレット状汚泥。
【0014】
(7) (1)から(5)いずれか記載の担体の調製方法であって、
カビ及び/又は酵母が懸濁された懸濁液に、前記吸水性樹脂を浸漬させる浸漬手順を有する調製方法。
【0015】
(8) 前記浸漬手順の後、前記懸濁液に二価の金属塩を添加することで、架橋を促進し、ゲル内のカビ及び/又は酵母を封入する封入手順を更に有する(7)記載の調製方法。
【0016】
(9) 有機性廃水の処理に用いられるペレット状汚泥の調製方法であって、
カビ及び/又は酵母を、三次元網目構造を有する吸水性樹脂に固定化又は内包させることで、(1)から(5)いずれか記載の担体を調製する担体調製手順と、
前記担体を好気性微生物とともに有機基質を含有する有機性廃水に添加し、前記好気性微生物を前記担体に絡ませる自己造粒化手順と、を有する調製方法。
【0017】
(10) 前記担体調製手順は、カビ及び/又は酵母が懸濁された懸濁液に、前記吸水性樹脂を浸漬させる浸漬手順を有する(9)記載の調製方法。
【0018】
(11) 前記担体調製手順は、前記浸漬手順の後、前記懸濁液に二価の金属塩を添加することで、架橋を促進し、ゲル内のカビ及び/又は酵母を封入する封入手順を更に有する(10)記載の調製方法。
【0019】
(12) 前記自己造粒化手順は、pH5.0以上6.5以下の条件下で行われる(9)から(11)いずれか記載の調製方法。
【0020】
(13) (1)から(5)いずれか記載の担体と、この担体に絡む好気性微生物と、を有するペレット状汚泥を用いて有機性廃水を処理する方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、担体を、カビ及び/又は酵母が、三次元網目構造を有する吸水性樹脂に固定化又は内包された構成としたので、好気性微生物を含む汚泥の自己造粒化が促進される。これにより、ペレット状汚泥の形成を迅速化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに特に限定されるものではない。
【0023】
<担体>
本発明の担体は、カビ及び/又は酵母が、三次元網目構造を有する吸水性樹脂に固定化又は内包されたものであり、好気性微生物を担持するために使用される。ここで、「固定化」は、カビ及び/又は酵母が樹脂の外表面に付着した状態を指し、「内包」は、カビ及び/又は酵母が樹脂の空隙又は樹脂内部に保持されている状態を指す。
【0024】
カビ及び酵母としては、有機性廃水中での自己造粒化を促進してペレット状汚泥の形成をより迅速化できる点で、栄養状態において糸状体を形成するものが好ましい。また、カビ及び酵母は、栄養細胞又は胞子であってもよいが、安定性に優れるという点で、胞子であることが好ましい。また、カビ及び酵母は、通常、いずれか一方のみが使用されるが、双方が使用されてもよい。また、カビ及び酵母としては、分類学的に複数の種類の生物が使用されてもよい。
【0025】
吸水性樹脂としては、アニオン性ポリマーを主成分とする構造が適する。アニオン性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体、ポリイソブチレン−無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。吸水性樹脂は、水に懸濁されると、pH3〜10において吸水して膨潤することが好ましく、また、その見かけ体積が40倍以上となるまで吸水できることが好ましい。ここで、見かけ体積とは、三次元網目構造の空隙を無視したときの吸水性樹脂の体積を意味する。
【0026】
また、吸水性樹脂は、高分子が三次元網目状に張り巡らされた構造であり、カビ及び/又は酵母に侵入される空隙を有する。このような吸水性樹脂は、従来公知の方法で作製できる(例えば、特開昭56−93716号公報、特開平1−252669号公報参照)。
【0027】
このような担体は、後述するペレット状汚泥の核として機能でき且つ水面積負荷2m/時間以上の条件で迅速に沈降できる程度の大きさを有することが好ましい。具体的には、平均粒子径が50μm以上3mm以下であることが好ましく、50μm以上2mm以下であることがより好ましい。
【0028】
[調製方法]
担体は、カビ及び/又は酵母の栄養細胞又は胞子を吸水性樹脂に接触させることで、調製できる。ここで、調製方法は、樹脂空隙への侵入を促進できる点で、カビ及び/又は酵母が水に懸濁された懸濁液に、膨潤前の吸水性樹脂を浸漬させる浸漬手順を有することが好ましい。なお、懸濁液は、カビ及び/又は酵母の培養液で代替されてよい。
【0029】
浸漬の条件は、特に限定されず、条件や目的に応じて適宜設定されてよい。例えば、温度は、使用するカビ、酵母の種類に応じて生育を極度に阻害しない程度の範囲で設定されてよく、時間は、使用するカビ、酵母の種類、吸水性樹脂の平均粒子径、空隙の大きさ等に応じて適宜設定されてよい。
【0030】
また、調製方法は、カビ及び/又は酵母の固定化を促進できる点で、浸漬手順の後に、封入手順を更に有することが好ましい。封入手順は、吸水性樹脂が浸漬された懸濁液に、二価の金属塩を添加することで、架橋を促進し、ゲル内のカビ及び/又は酵母を封入する手順である。具体的には、カルシウム塩やマグネシウム塩等の二価カチオンを懸濁液に添加することで、吸水性樹脂内のカルボキシル基等の陽イオン交換基が架橋し、担体がゲル化する。これにより、カビ及び/又は酵母がゲル内に封入される。例えば、懸濁液に対して、塩化カルシウムを100mg/L以上、好ましくは300〜2000mg/L添加すればよい。
【0031】
このようにして得られる担体は、後述するペレット状汚泥の調製に使用できる。即ち、担体が好気性微生物とともに有機性廃水に添加されると、固定化又は内包されたカビ及び/又は酵母が、有機基質を資化して菌糸を成長させる。これにより、好気性微生物が次々と担体に絡みつくため、汚泥の自己造粒化が促進され、ペレット状汚泥が調製される。なお、担体は、膨潤状態又は乾燥状態のいずれであってもよい。
【0032】
<ペレット状汚泥>
本発明のペレット状汚泥は、前述した本発明の担体を核とし、この核に好気性微生物が絡んで自己造粒化されたものである。ここで、ペレットとは、担体の周囲に好気性微生物が絡みついた集合体を指す。ペレット状汚泥は、旋回流等で撹拌された状態では、通常、球状となるが、その形状は特に限定されない。
【0033】
[調製方法]
本発明のペレット状汚泥は、即ち、前述(担体調製手順)のように調製された担体を、好気性微生物とともに有機性廃水に添加する自己造粒化手順を経て調製できる。即ち、有機性廃水に添加されると、担体中のカビ及び/又は酵母が、有機基質を資化して菌糸を成長させる。そして、この菌糸に好気性微生物が次々と絡みつくことで、汚泥が自己造粒化し、ペレット状汚泥が構築される。
【0034】
自己造粒化手順の条件は、微生物が成長できる限りにおいて特に限定されない。しかし、カビ及び又/又は酵母の菌糸の成長を促進できる点で、好ましくはpH4以上8以下、より好ましくはpH5.0以上6.5以下で行われる。また、自己造粒化手順は、自己造粒化を迅速化できる点で、撹拌状態で行われることが好ましい。
【0035】
また、沈殿性の悪い粒子を排除したり、強い力で剪断(例えば、通気線速度0.02m/秒以上)を行ったりすることで、ペレット状汚泥を高濃度に集積できる。更に、担体が添加された有機性廃水における有機物濃度に勾配を設けることで、非有用微生物が繁殖するバルキング現象を抑制できる。有機物濃度勾配の設定には、有機性廃水の流入、曝気、汚泥の沈殿を単一の槽内で行う回分方式の処理装置が好ましく使用されるが、これら各手順を別々の槽内で行う連続方式の処理装置が使用されてもよい。
【0036】
なお、担体及び好気性微生物は、同時に添加してもよく、別々に添加してもよい。また、酸素の供給は、担体及び好気性微生物の添加の前、後、前後のいずれの段階であってもよい。
【0037】
<処理方法>
本発明の有機性廃水の処理方法は、前述したペレット状汚泥を用いて行われる。具体的には、本発明の処理方法は、ペレット状汚泥を有機性廃水に添加する添加手順と、この有機性廃水に酸素を供給する曝気手順と、形成された汚泥を沈殿させ水から分離する沈殿手順と、を有する。好気性条件下の好気性微生物が有機性廃水を浄化するため、汚泥が分離された水は高品質なものとなる。ここで、本発明のペレット状汚泥を使用したので、好気性微生物が迅速に集積され、廃水処理を迅速に開始できる。
【0038】
沈殿手順で沈殿した汚泥は、添加手順におけるペレット状汚泥として有機性廃水に添加することで、更なる廃水処理に再利用できる。これにより、好気性微生物が、より多量に汚泥に保持され、有機廃水の処理をより迅速化できる。
【0039】
なお、有機性廃水の処理は、通常、前述したペレット状汚泥の調製と並行して行われるが、あらかじめ調製されたペレット状汚泥を使用して行ってもよい。また、処理に使用される装置としては、従来公知のものが使用でき、連続方式又は回分方式のいずれであってもよいが、回分方式が好ましい(例えば、特許文献1参照)。
【実施例】
【0040】
<実施例>
[担体調製]
コウジカビ(Aspergillus oryzae)の胞子を、1×10CFU/mLの濃度となるように20mg/Lの食塩水5Lに懸濁し、懸濁液を作製した。この懸濁液に、ポリアクリル酸を主成分とする吸水性樹脂15gを浸漬させた。吸水性樹脂としては、平均粒子径280〜400μm、脱イオン水の吸水容量400g/gである標品「アクアパールDSC30(商品名)」(三洋化成工業社製)を使用した。
【0041】
更に、充分に撹拌を行いながら、1.5g/LのCaCl・2HO水溶液を等量添加した。30分間静置して架橋を行った後、上澄み液を除去することで、担体を調製した。
【0042】
[自己造粒化]
本実施例に使用した処理装置(シーケンシングバッチリアクタ)は、内部が密閉された筒状槽(直径100mm、有効高さ1000mm)を備え、この筒状槽の底部には、培地を供給する培地供給部と、空気を噴出する空気供給部とが設けられている。また、筒状槽の長手方向中央(有効高さ500mm)における側部には、培養液を排出する培養液排出部が設けられている。
【0043】
まず、脱イオン水に、グルコース、ポリペプトン、酵母エキス、リン酸一水素ナトリウム、塩化ナトリウムを混合し、BOD500mg/L、窒素40mg/L、リン8mg/Lとなるように調製することで、培地を作製した。この培地を培地供給部から筒状槽へと供給し、内部を培地で満たした。
【0044】
続いて、筒状槽の内部に、容量1Lの前述した湿潤状態の担体を添加するとともに、好気性微生物を含有する下水活性汚泥を100mg/Lとなるように添加し、空気供給部から0.6L/分で空気を供給した。pH6.0〜6.2、25℃の条件で5日間維持した。すると、吸水性樹脂から菌糸が成長し、綿玉状の小型ペレット状汚泥が形成されていることが確認された。
【0045】
[廃水処理]
次に、曝気を1分間停止して担体を筒状槽の底部に沈めた後、直ちに筒状槽内部の半分量の培養液を培養液排出部から排出した。更に、筒状槽内部の半分量の新たな培地を、培地供給部から供給した。その後、先程と同様の通気量及び温度条件で、回分運転を再開した。この一連の操作を6時間サイクルで繰り返した結果、7日後には、直径0.5〜2mmの強固なペレット状汚泥が形成されていることが確認された。
【0046】
<比較例1>
吸水性樹脂を使用せず、コウジカビの胞子のみを1×10CFU/mLとなるように培地に添加した点を除き、実施例1と同様の手順で回分運転を行った。その結果、5日間の回分運転後、及びその後の7日間の回分運転後のいずれにおいても、ペレット状汚泥の形成は観察できなかった。
【0047】
<比較例2>
コウジカビの胞子を使用せず、吸水性樹脂のみを使用した点を除き、実施例1と同様の手順で回分運転を行った。その結果、5日間の回分運転後には、ペレット状汚泥の形成が観察できなかった。その後の回分運転において、7日後にはペレット状汚泥の形成が認められなかったが、4週間後にはペレット状汚泥の形成が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気性微生物を含む汚泥の自己造粒化を促進するための担体であって、
カビ及び/又は酵母が、三次元網目構造を有する吸水性樹脂に固定化又は内包された担体。
【請求項2】
前記吸水性樹脂は、pH3以上10以下において吸水できる請求項1記載の担体。
【請求項3】
前記吸水性樹脂は、見かけ体積が40倍以上となるまで吸水できる請求項1又は2記載の担体。
【請求項4】
前記カビ及び/又は酵母は、胞子の状態である請求項1から3いずれか記載の担体。
【請求項5】
膨潤時における平均粒子径が、50μm以上3mm以下である請求項1から4いずれか記載の担体。
【請求項6】
有機性廃水の処理に用いられるペレット状汚泥であって、
請求項1から5いずれか記載の担体と、この担体に絡む好気性微生物と、を有するペレット状汚泥。
【請求項7】
請求項1から5いずれか記載の担体の調製方法であって、
カビ及び/又は酵母が懸濁された懸濁液に、前記吸水性樹脂を浸漬させる浸漬手順を有する調製方法。
【請求項8】
前記浸漬手順の後、前記懸濁液に二価の金属塩を添加することで、架橋を促進し、ゲル内のカビ及び/又は酵母を封入する封入手順を更に有する請求項7記載の調製方法。
【請求項9】
有機性廃水の処理に用いられるペレット状汚泥の調製方法であって、
カビ及び/又は酵母を、三次元網目構造を有する吸水性樹脂に固定化又は内包させることで、請求項1から5いずれか記載の担体を調製する担体調製手順と、
前記担体を好気性微生物とともに有機基質を含有する有機性廃水に添加し、前記好気性微生物を前記担体に絡ませる自己造粒化手順と、を有する調製方法。
【請求項10】
前記担体調製手順は、カビ及び/又は酵母が懸濁された懸濁液に、前記吸水性樹脂を浸漬させる浸漬手順を有する請求項9記載の調製方法。
【請求項11】
前記担体調製手順は、前記浸漬手順の後、前記懸濁液に二価の金属塩を添加することで、架橋を促進し、ゲル内のカビ及び/又は酵母を封入する封入手順を更に有する請求項10記載の調製方法。
【請求項12】
前記自己造粒化手順は、pH5.0以上6.5以下の条件下で行われる請求項9から11いずれか記載の調製方法。
【請求項13】
請求項1から5いずれか記載の担体と、この担体に絡む好気性微生物と、を有するペレット状汚泥を用いて有機性廃水を処理する方法。

【公開番号】特開2008−229464(P2008−229464A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71715(P2007−71715)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】