説明

拡張天然型化学的ライゲーション

【課題】ペプチドのアミド結合による天然型化学的ライゲーションを提供する。
【解決手段】N置換アミド化合物であって、式I:J1−C(O)−N(C1(R1)−C2−SH)−J2または式II:J1−C(O)−N(C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)−SH)−J2を有し、これらの式において、J1及びJ2が、それぞれ個別に、随意に保護された一つ以上のアミノ酸側鎖を有するペプチドであり、R1、R2、及びR3が、それぞれ個別に、共有結合によってC1に複合したHまたは電子供与基であり、C2及びC3は炭素である。ただし前記R1、R2、及びR3のうち少なくとも一つが、C1に複合した前記電子供与基から成る、ことを特徴とするN置換アミド化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮(provisional)特許出願第60/231,339号(2000年9月8日出願)に基づく優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、部分的に、国立衛生研究所(National Institute of Health)ポストドクター特別研究員補助金(Postdoctoral Fellowship grant)GN190402による援助を受けてなされたものである。合衆国政府は、一部の権利を保有しうる。
【0003】
本発明は、幅広い範囲のペプチド、ポリペプチド、その他のポリマー、及びその他の分子のアミド結合によるライゲーションを可能にする天然型化学的ライゲーション(native chemical ligation)技術の拡張のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
化学的ライゲーションは、第一の化学要素と第二の化学要素との間に選択的共有結合を形成させることを含む。第一及び第二の成分上に存在するそれぞれ一意性の相互反応性官能基を、ライゲーション反応を化学選択性とするために使用することができる。たとえば、ペプチド及びポリペプチドの化学的ライゲーションは、ペプチドまたはポリペプチドセグメントを有する、両立する一意性の相互反応性C末端及びN末端アミノ酸残基の化学選択反応を含む。いくつかの異なる化学反応がこの目的のために使用されており、その例として、天然型化学的ライゲーション(Dawson,et al.,Science(1994)266:776−779;Kent et.al.,WO96/34878;Kent et.al.,WO98/28434)、オキシム生成化学的ライゲーション(Rose,et.al.,J.Amer.Chem.Soc.(1994)116:30−34)、チオエステル生成ライゲーション(Schnolzer,et.al.,Science(1992)256:221−225)、チオエーテル生成ライゲーション(Englebretsen,et.al.,Tet.Letts.(1995)36(48):8871−8874)、ヒドラゾン生成ライゲーション(Gaertner,et.al.,Bioconj.Chem.(1994)5(4):333−338)、ならびにチアゾリジン生成ライゲーション及びオキサゾリジン生成ライゲーション(Zhang,et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(1998)95(16):9184−9189;Tam,et.al.,WO95/00846;米国特許第5,589,356号明細書)がある。
【0005】
これらの方法のうち、天然型化学的ライゲーション法のみがライゲーション部位に天然アミド(すなわち、ペプチド)結合を有するライゲーション生成物を与える。初期の天然型化学的ライゲーション法(Dawson et.al.,前記;及びWO96/34878)は、ライゲーション部位に天然アミド結合を生成するための強力な方法であることがわかっている。天然型化学的ライゲーションは、C末端αカルボキシチオエステル成分を有する第一のペプチドまたはポリペプチドセグメントとN末端システイン残基を有する第二のペプチドまたはポリペプチドとの間の化学選択反応を含む。チオール交換反応により、チオエステル結合初期中間体が生成され、この中間体は、自発的に転位して、ライゲーション部位に天然アミド結合を与え、一方、システイン側鎖チオールを再生させる。初期の天然型化学的ライゲーション法の主要な欠点は、この方法が、N末端システインを必要とするということ、すなわちこの方法が、ライゲーション部位にシステインを有するペプチド及びポリペプチドセグメントの結合を可能にするだけであるということ、である。
【0006】
この欠点にもかかわらず、システインではないN末端アミノ酸とのペプチドの天然型化学的ライゲーションが提案されている(WO98/28434)。この方法においては、ライゲーションは、C末端αカルボキシチオエステルを有する第一のペプチドまたはポリペプチドセグメントと、式 HS−CH2−CH2−O−NH−[ペプチド] で表されるN末端N−{チオール置換補助}基を有する第二のペプチドまたはポリペプチドセグメントとを使用して実施される。ライゲーションの後、N−{チオール置換補助}基は、HS−CH2−CH2−O−補助基を開裂してライゲーション部位に天然アミド結合を生成させることによって、除去される。この方法における一つの制限は、メルカプトエトキシ補助基の使用がグリシン残基においてのみアミド結合を首尾よく生じさせうる、ということである。そのため、開裂において、第二のペプチドまたはポリペプチドセグメントのN置換アミノ酸の位置にグリシン残基が生じるライゲーション生成物が作られる。したがって、前記方法の実施が適当であるのは、反応のライゲーション生成物が前記位置にグリシン残基を有することが望ましい場合だけであり、とにかく、ライゲーション収率、前駆体の安定性、O結合補助基の除去能力に関して問題が起こりうる。他の補助基、たとえばHSCH2CH2NH−[ペプチド]も、グリシン残基におけるライゲーションための反応を制限することなしに使用できるが、そのような補助基は、ライゲーション生成物から除去することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、必要なことは、有効な容易に除去できるチオール含有補助基によって、天然型化学的ライゲーションを、いろいろな種類のアミノ酸残基、ペプチド、ポリペプチド、ポリマー、及びその他の分子、にまで拡張し、かつそのような分子をライゲーション部位における天然アミド結合によって結合する、幅広く適用できる強力な化学的ライゲーション法である。本発明は、これら及びその他の要望に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、拡張天然型化学的ライゲーションに関係する方法と組成物とにかかわる。本発明の拡張天然型化学的ライゲーション法は、
N置換アミド結合初期ライゲーション生成物であって、

J1−C(O)−N(C1(R1)−C2−SH)−J2 I
または
J1−C(O)−N(C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)−SH)
−J2 II
を有し、
これらの式において、
J1が、それぞれ個別に、随意に保護された一つ以上のアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチド、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分、ポリマー、染料、好適に官能基を有する(functionalized)表面、リンカーもしくは検出可能なマーカー、または化学的ペプチド合成もしくは拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の他の化学成分であり、
R1、R2、及びR3が、それぞれ個別に、C1に複合したHまたは電子供与基であるが、ただし前記R1、R2、及びR3のうち少なくとも一つがC1に複合した前記電子供与基から成り、
J2が、それぞれ個別に、随意に保護された一つ以上のアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチド、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分、ポリマー、染料、好適に官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカー、または化学的ペプチド合成もしくは拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の他の化学成分である、
N置換アミド結合初期ライゲーション生成物、
を生成させることから成る。
【0009】
ライゲーション生成物は、
式 J1−C(O)SR のカルボキシルチオエステルから成る第一の要素を、

HS−C2−C1(R1)−HN−J2 III
または
HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−HN−J2 IV
を有し、これらの式において、J2、R1、R2、及びR3は、前記のとおりである、酸安定なN置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールから成る第二の要素に、結合させ、
その後、随意に、2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを、N置換アミド結合ライゲーション生成物から除去する、
プロセスによって生成される。好ましい実施形態においては、そのような開裂は、ペプチドに適合する開裂条件下でC1に共鳴安定化陽イオンを生成させることによって促進される。Nからのアルキルまたはアリールチオール鎖の除去により、

J1−C(O)−HN−J2 V
を有し、この式において、J1、J2、R1、R2、及びR3が前記のとおりである最終ライゲーション生成物が得られる。
【0010】
本発明は、また、前記のような拡張天然型化学的ライゲーションを実施するための組成物及び該組成物を収容するカートリッジ及びキットにも関する。この組成物は、完全保護、部分保護、または完全非保護の酸安定なN置換,好ましくはNα置換,2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールであって、

SX2−C2−C1(R1)−X1N−CH(Z2)−C(O)−J2
VI
または
SX2−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−X1N―CH
(Z2)−C(O)−J2 VII
を有する。これらの式において、X1は、Hまたはアミノ保護基、X2は、Hまたはチオール保護基、J2、R1、R2、及びR3は前記のとおりであり、Z2は、化学的ペプチド合成または拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の化学成分(単なる例示として、たとえば、アミノ酸側鎖)である。本発明は、また、実質的にラセミ混合物またはジアステレオマーを含まない本発明の前記化合物のキラル形にも関する。
【0011】
本発明は、さらに、前記の完全保護、部分保護、または完全非保護のN置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールの、溶液相及び固相での生成法にも関する。これらの化合物を生成する方法には、固相ペプチド合成法に適合するNα保護、Nアルキル化、S保護、アミノアルキルまたはアリール−チオールアミノ酸前駆体のハロゲン仲介アミノアルキル化、還元アミノ化、及び生成が含まれる。
【0012】
カルボキシチオエステル要素のJ1成分は、該カルボキシチオエステルと拡張天然型化学的ライゲーションのための反応条件とに適合する任意の化学成分から成ることができ、また本発明のN置換要素は、単独で提供することができ、あるいはいろいろな化学成分、たとえばアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、核酸、または他の化学成分(たとえば、染料、ハプテン、炭水化物、脂質、固体支持体、生体適合性のポリマーもしくは他のポリマー、その他)と結合させることができる。本発明の拡張天然型化学的ライゲーション法は、強力であり、中性に近いpHとある範囲の温度との条件下で水性の系で実施することができる。本発明のN置換要素を生成する方法も強力なものであり、これらの新しい化合物を得るためのいろいろな合成経路により、予想外の高い収率で純粋の生成物を与える。本発明のNα保護、Nアルキル化、S保護、アミノアルキルまたはアリール−チオールアミノ酸前駆体は、通常のペプチド合成及び他の有機合成方策を使用する、高速の自動合成のために特に有効である。さらに、本発明の保護されたN置換要素は、化学的ライゲーションの用途を多要素のライゲーション法まで拡張するものであり、たとえば、多重ライゲーション法たとえば三つ以上のセグメントのライゲーション法または収束的(convergent)ライゲーション合成法によって、ポリペプチドを生成する場合の、多要素のライゲーション法まで拡張するものである。たとえば、本発明の方法と組成物は、カルボキシチオエステルとN置換要素との第一の対を使用して所望の分子の第一の部分を合成し、またカルボキシチオエステルとN置換要素との別の対を使用して該分子の別の部分を合成することを可能にするものである。次に、そのようにして合成されたそれぞれのライゲーション生成物を、結合させて(適当な脱保護及び/または改質の後)所望の分子を生成させることができる。
【0013】
したがって、本発明の方法と組成物は、天然型化学的ライゲーションの範囲を大いに拡張するものであり、また本発明の出発、中間、及び最終生成物は、広範囲の用途を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、拡張天然型化学的ライゲーションに関係する方法と組成物にかかわる。一般に、この方法は、カルボキシルチオエステル、好ましくはα−カルボキシルチオエステル、から成る第一の要素を、酸安定なN置換、好ましくはNα置換、2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールから成る第二の要素と結合させることを含む。第一の要素のカルボキシチオエステルと第二の要素のN置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールのチオールとの間の化学選択的反応が、チオエステル結合中間体を介して進行し、初期ライゲーション生成物に変化する。もっと詳しく言うと、COSRチオエステル要素とアミノアルキルチオール要素との間で起こるチオール交換により、チオエステル結合中間ライゲーション生成物が生じ、該生成物は、5員環または6員環中間体を通過する自発転位の後、

J1−C(O)−N(C1(R1)−C2−SH)−J2 I
または
J1−C(O)−N(C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)−SH)
−J2 II
を有する第一のアミド結合ライゲーション生成物を生じる。これらの式において、J1、J2、R1、R2、及びR3は上で定義したものである。
【0015】
ライゲーション部位にあるN置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C2−C1(R1)−]または[HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−]は、ペプチドに適合する条件下で、生成物の損傷なしで、除去されやすく、

J1−C(O)−HN−J2 V
を有する最終ライゲーション生成物を生じる。この式において、J1、J2、R1、R2、及びR3は、上で定義したものである。この最終ライゲーション生成物はライゲーション部位に天然アミド結合を有する。
【0016】
さらに詳しく言うと、本発明の拡張天然型化学的ライゲーション法は、(i)式 J1−C(O)SR を有するα−カルボキシルチオエステルから成る第一の要素と、(ii)酸安定なN置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールから成る第二の要素であって、

J1−C(O)−N(C1(R1)−C2−SH)−J2 I
または
J1−C(O)−N(C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)−SH)
−J2 II
を有する第二の要素との化学的ライゲーションから成る。これらの式において、J1、J2、R1、R2、及びR3は、上で定義したものである。
【0017】
R1、R2、及びR3基は、ペプチドに適合する開裂条件下で、N−C1結合の開裂を容易にするように選択する。たとえば、電子供与基を、特にC1に複合させる場合、C1に開裂を容易にする共鳴安定化陽イオンを生成させるために使用することができる。この化学的ライゲーション反応は、好ましくは、賦形剤(excipient)としてチオール触媒を含み、水性または有機−水性混合条件下で、中性付近のpH条件で実施される。第一の要素と第二の要素との化学的ライゲーションは、自発転位してN置換アミド結合ライゲーション生成物を生じる5員環または6員環を通じて進行させることができる。第一及び第二の要素がペプチドまたはポリペプチドである場合、N置換アミド結合ライゲーション生成物は、

J1−C(O)−Na(C1(R1)−C2−SH)−CH(Z2)
−C(O)−J2 VIII
または
J1−C(O)−Na(C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)
−SH)−CH(Z2)−C(O)−J2 IX
を有する。これらの式において、J1、J2、及びR1、R2、R3、及びZ2は、上で定義したものである。
【0018】
N置換アミド結合ライゲーション生成物の複合電子供与基R1、R2、及びR3は、N置換アミド結合ライゲーション生成物からの、N−C1結合の開裂及び2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールの除去を容易にする。ペプチドに適合する開裂条件下でのNのアルキルまたはアリールチオール鎖の除去により、ライゲーション部位に天然アミド結合を有するライゲーション生成物が生じる。第一及び第二の要素がペプチドまたはポリペプチドである場合、ライゲーション生成物は、

J1−CONaH−CH(Z2)−C(O)−J2 X
を有する。
【0019】
本発明は、従来の化学的ライゲーション法に比して、多くの利点を与える。そのような利点のうちいくつかは、本発明のN置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオール要素の精密に調整された性質に関係する。第一に、結合されていないN置換要素は、酸性条件に対して安定であり、それによって強力な合成と安定した貯蔵とが行われる。第二に、該要素は、カルボキシチオエステル要素と選択的に反応して、ライゲーション部位にN置換アミド結合を有する初期ライゲーション生成物を生じる。第三に、初期ライゲーション生成物のライゲーション部位のNα位置にある再生アルキルまたはアリールチオール成分は、非保護、部分保護、または完全保護ペプチド、ポリペプチド、またはその他の成分に十分に適合する条件下で、選択的に除去することができる。すなわち、アルキルまたはアリールチオール成分を、所望のライゲーション生成物に損傷を与えることなく、除去することができる。この選択的開裂反応は、ライゲーションのために選択した特定のN置換アルキルまたはアリールチオール成分に応じた、標準的なペプチド適合性の開裂条件下、たとえば酸性、光分解、または還元性条件下で、容易に実施することができる。したがって、本発明のもう一つの利点は、ライゲーション要素の残留部分上の一つ以上の基(存在する場合)を、意図する最終用途に応じて、非保護、部分保護、または完全保護とすることができる、ということである。さらに、与えられた、カルボキシルチオエステル及びN置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールの化学選択的性質と溶解度特性との下で、ライゲーション反応は、室温付近において、水性条件下で、pH7付近で、高速かつ正確に実施して、高い生成物収率を得ることができる。したがって、本発明においては、穏やかな条件下で、部分または完全非保護ペプチド、ポリペプチド、またはその他のポリマーのライゲーションが非常に柔軟に行われる。
【0020】
本発明のN置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオール要素を有するペプチド要素の場合、この化合物は、下記の表Iに示すように、

HS−C2−C1(R1)−NHa−CH(Z2)−C(O)−J2
XI
を有する。J2及びR2は、前記のものであり、Z2は、N置換アミノ酸に適合する任意の側鎖基、たとえばアミノ酸の側鎖、である。R1は、好ましくは、C1に対するオルトまたはパラ位置において電子供与基で置換されたフェニル基、またはピコリル基(非置換、またはC1に対するオルトまたはパラ位置においてヒドロキシルまたはチオールで置換されたもの)である。
【0021】
【表1】

【0022】
オルトまたはパラ位置のフェニル及びピコリル電子供与置換基R1'、R3'、及びR5'の配置は、ライゲーション後のN−C1結合の開裂を容易にするためのC1炭素への電子的複合を維持するのに必要である。R1'、R3'、及びR5'として好ましい電子供与基の例としては、強力な電子供与基たとえばメトキシ(−OCH3)、チオール(−SH)、ヒドロキシル(−OH)、メチルチオ(−SCH3)、及び中程度の電子供与体(donator)たとえばメチル(−CH3)、エチル(−CH2−CH3)、プロピル(−CH2−CH2−CH3)、イソプロピル(−CH2(CH33)がある。ただし、R1'、R3'、及びR5'の任意のものまたはすべてをHとすることができる。一般的な観察結果によれば、強力な電子供与基は、2炭素鎖アルキルまたはアリールチオールの、ライゲーション後の開裂に対する敏感性を高める。R1'、R3'、またはR5'置換基として単一の電子供与基が存在する場合、ライゲーション反応は高速で進行しうるが、開裂はゆっくりであり、あるいはより厳しい開裂条件が必要である。R1'、R3'、またはR5'置換基として、二つ以上の電子供与基が存在する場合、ライゲーション反応はゆっくりでありうるが、開裂は高速であり、あるいはより厳しくない開裂条件が必要である。したがって、条件に応じて特定の電子供与基を選択することができる。
【0023】
本発明のもう一つの実施形態は、N置換2炭素鎖化合物に関する。該化合物は、R1'及びR5'位置にR1の置換基としてチオールを含む。C1に複合した電子供与基に加えて、これらの位置の一つまたは両方にチオールを導入することにより、R1基に仲介される6員環を通過して結合する化合物が生じる(また、Nα−2炭素鎖アルキルチオールの場合5員環を通過する)。また、この導入により、αカルボキシチオエステルとの反応のために使用できるチオールの局所濃度も増大し、構造的条件に関してさらに適当なライゲーションを良くできる立体配座が与えられる。
【0024】
本発明のNα置換3炭素鎖アルキルまたはアリールチオール要素に関して述べると、この化合物は、下記の表IIに示す式 HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−NHα−CH(Z2)−C(O)−J2 を有している。
【0025】
【表2】

【0026】
前述のように、J2は、化学的ペプチド合成または拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の化学成分とすることができ、Z2は、N置換アミノ酸に適合する任意の側鎖基たとえばアミノ酸の側鎖である。R1が水素でない場合、R2とR3は水素であり、R1は、非置換の、またはより好ましくはC1に対するオルトもしくはパラ位置において電子供与基で置換されたフェニル成分であるか、またはピコリル(非置換、またはC1に対するオルトもしくはパラ位置においてヒドロキシルもしくはチオールで置換されたもの)である。R2とR3が水素でない場合、R1は水素であり、R3とR2は、C1に対するオルトもしくはパラ位置において電子供与基で置換されたベンジル基であるか、またはピコリル(非置換、またはC1に対するオルトもしくはパラ位置においてヒドロキシルもしくはチオールで置換されたもの)である。
【0027】
N置換2炭素鎖化合物の場合と同様に、オルトまたはパラ位置のフェニル及びピコリル電子供与置換基R1'、R3'、及びR5'の配置は、ライゲーション後のNα−C1結合の確かな開裂のためのC1炭素への電子的複合を維持するのに必要である。しかし、R2及びR3がC2及びC3を有するベンジル基である場合、R1'とR3'のうち少なくとも一つが強力な電子供与基であり、このとき、R1'またはR3'がメトキシ(−OCH3)、チオール(−SH)、ヒドロキシル(−OH)、及びチオメチル(−SCH3)から選択される。R2とR3が水素であるN置換3炭素鎖チオールの場合、R1はフェニルまたはピコリル基から成り、このときR1'、R3'、及びR5'は、強力もしくは中程度の電子供与基またはこれらの組合せを含む。N置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオールの場合と同様に、強力な電子供与基は、3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールの、ライゲーション後の開裂に対する敏感性を高める。したがって、条件に応じて特定の電子供与基またはその組合せを選択することができる。
【0028】
本発明のN置換3炭素鎖化合物は、N置換2炭素鎖化合物の場合と同様に、問題の構造における置換に使用できる場合、R1'及びR5'位置におけるR1の置換基として、チオールを含むことができる。この場合も、電子供与チオール基はC1に複合しており、前記位置へのこの基の導入により、この化合物は、6員環形成ライゲーション現象への二つの経路を有することができる。また、この導入により、αカルボキシチオエステルとの反応のために使用できるチオールの局所濃度も増大し、構造的条件に関してさらに適当なライゲーションを良くできる配列が与えられる
【0029】
本発明のN末端N置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールアミノ酸の合成は、ここでたとえば方法I及び方法II、ならびに実施例に述べるようにして、当業者に公知の標準的な有機化学技術を用いて、実施することができる。たとえば、"Advanced Organic Chemistry,Reactions,Mechanisms,and Structures,"4thEdition,J.March(Ed.),John Wiley & Sons,New York,NY,1992;"Comprehensive Organic Transformations,A Guide to Functional Group preparations,"R.Larock(Ed.),VCH Publishers,New York,NY,1989,を参照されたい。これらのアミノ酸は、溶液中において、ポリマー支持合成により、またはこれらの組合せによって合成することができる。好ましい方法においては、Nα保護Nアルキル化S保護アミノアルキルまたはアリールチオールアミノ酸前駆体を使用する。合成のために使用する反応物質は商業的供給源のどこからでも得ることができる。また、十分に理解されるように、出発要素及びいろいろな中間体たとえばそれぞれのアミノ酸誘導体は、キットその他に入れて、あとからの使用のために保存することができる。
【0030】
本発明のN末端Nα置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールアミノ酸の生成においては、保護基法が使用される。いろいろな合成方策において使用するのに好ましい保護基(PG)は、一般に、固相ペプチド合成("SPPS")に適合するものである。場合によっては、いろいろな条件下で除去できる直交(orthogonal)保護基の使用も必要になる。多くのそのような保護基が公知であり、ここでの目的のために適当である(たとえば、"Protecting Groups in Organic Synthesis"3rd Edition,T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Eds.,John Wiley & Sons,Inc.,1999;NovaBiochem. Catalog 2000;"Synthetic Peptides,A User's Guide,"G.A.Grant,Ed.,W.H.Freeman & Company,New York,NY,1992;"Advanced Chemtech Handbook of Combinational & Solid Phase Organic Chemistry,"W.D..Bennet,J.W.Christensen,L.K.Hamaker,M.L.Peterson,M.R.Rhodes,and H.H.Saneii,Eds.,Advanced Chemtech,1998;"Principles of Peptide Synthesis,2nd ed.,"M.Bodanszky,Ed.,Springer−Verlag,1993;"The Practice of Peptide Synthesis,2nd ed.,"M.Bodanszky and A.Bodanszky,Eds.,Springer−Verlag,1994;"Protecting Groups,"P.J.Kocienski,Ed.,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,Germany,1994,を参照されたい)。イオウ成分の場合、適当な保護基の単なる例示としては、ベンジル、4−メチルベンジル、4−メトキシベンジル、トリチル(trityl)、Acm、TACAM、キサンチル(xanthyl)、ジスルフィド誘導体、ピコリル、及びフェナシル(phenacyl)がある。
【0031】
もっと詳しく言うと、Nα置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールは、方法I(Nα置換前駆体の固相生成)、方法II(Nα置換前駆体の溶液相生成)にしたがって生成することができる。方法Iの場合、Nα置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールは、ポリマー支持有機合成の標準的方法により、固相上で直接に集成されるが、一方、方法IIのNα保護、Nアルキル化、S保護、アミノアルキルまたはアリールチオールアミノ酸前駆体は、標準的な結合手順により、樹脂に結合される。方法Iの場合、Xは、水素であり、R1及びR2は、前記のもので、保護または非保護成分として予備生成させるかまたは樹脂上で合成することができ、J2は、好ましくはX−CH(R)−J2−樹脂の形にハロゲンに結合させる。この式で、Rは、ハロゲンまたはその他の側鎖である。容易に理解しうるように、たとえばβもしくはγアミノ酸または類似の分子の合成において、たとえば、ハロゲンXとJ2−樹脂とが複数の炭素によって分離される場合には、J2はいろいろな基とすることができる。グリオキサル成分(HC(O)−C(O)−J2−樹脂)が使用される場合、生成される側鎖Rは水素である。方法IIの場合、Xは、ハロゲンであり、R1及びR2は、前記のもので、保護または非保護成分として予備生成させるかまたは溶液中もしくは樹脂上で合成することができ、ここで、Rは、ハロゲンまたはその他の側鎖である。グリオキサル酸成分(HC(O)−C(O)−OH)が使用される場合、生成される側鎖Rは水素である。前記のことから、方法IとIIが、3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールの合成に使用することができるということは明らかであろう。ラセミまたはジアステレオマー生成物が生じる場合、拡張天然型化学的ライゲーションに使用する前に、これらを標準的な方法によって分離することが必要になりうる。
【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
本発明の拡張天然型化学的ライゲーション法のために使用する第一の要素のカルボキシチオエステル成分について述べると、この化合物は式 J1−CO−SR を有する。より好ましいカルボキシチオエステル要素は、式 J1−NH−C(Z1)−CO−SR のα−カルボキシルチオエステルアミノ酸から成る。基J1は、化学選択反応に適合する任意の化学成分、たとえば保護もしくは非保護アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、その他のポリマー、染料、リンカー、その他とすることができる。Z1は、αCO−SRチオエステルに適合する任意の側鎖基たとえばアミノ酸の側鎖である。Rは、チオエステル基に適合する任意の基であり、たとえば単なる例示として、アリール、ベンジル、及びアルキル基がある。Rの例としては、3−カルボキシ−4−ニトロフェニルチオエステル、ベンジルチオエステル、及びメルカプトプロピオン酸ロイシンチオエステルがある(たとえば、Dawson et al.,Science(1994)266:776−779;Canne et al.Tetrahedron Lett.(1995)36:1217−1220;Kent,et al.,WO96/34878;Kent,et al.,WO98/28434;Ingenito et al.,JACS(1999)121(49):11369−11374;Hackeng et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1999)96:10068−10073,を参照されたい)。その他の例としては、インテイン(intein)仲介生物学的方法によって生成できる、ジチオトレイトール、またはアルキルもしくはアリールチオエステルがあり、これらも公知である(たとえば、Chong et al.,Gene(1997)192:277−281;Chong et al.,Nucl.Acids Res.(1998)26:5109−5115:Evans et al.,Protein Science(1998)7:2256−2264;Cotton et al.,Chemistry & Biology(1999)6(9):247−256,を参照されたい)。
【0035】
αカルボキシチオエステルは、当業者に公知の標準的な技術に従い、化学的または生物学的方法、たとえばここで述べる方法たとえば実施例に含まれるもの、によって生成することができる。化学的合成の場合、α−カルボキシチオエステルペプチドは、溶液中またはチオエステル生成樹脂によって生成することができる。その技術は公知である(たとえば、Dawson et al.,前記;Canne et al.,前記;Hackeng et al.,前記;Hojo H,Aimoto,S.(1991)Bull Chem Soc Jpn 64:111−117を参照されたい)。たとえば、化学合成チオエステルペプチドは、対応するペプチドα−チオ酸から作ることができ、α−チオ酸は、チオエステル樹脂上または溶液中で合成することができるが、樹脂法が好ましい。ペプチド−α−チオ酸は、対応する3−カルボキシ−4−ニトロフェニルチオエステル、対応するベンジルエステル、またはいろいろなアルキルチオエステルの任意のものに転化させることができる。これらのチオエステルは、すべて、ライゲーション反応のために十分な離脱基を与え、3−カルボキシ−4−ニトロフェニルチオエステルのほうが対応するベンジルチオエステルよりもやや大きな反応速度を示し、ベンジルチオエステルは、アルキルチオエステルよりも反応性が大きくなりうる。別の例として、トリチル会合(associated)メルカプトプロピオン酸(mercaptoproprionic acid)ロイシンチオエステル生成樹脂を、C末端チオエステルの生成のために使用することができる(Hackeng et al.,前記)。C末端チオエステル合成は、3−カルボキシプロパンスルホンアミド安全捕捉(safety catch)リンカーを使用し、ジアゾメタンまたはヨードアセトニトリルによる活性化の後、適当なチオールによる置換を行うことによっても、実現することができる(Ingenito et al.,前記;Shin et al.,(1999)J.Am.Chem.Soc.,121,11684−11689)。
【0036】
ペプチドまたはポリペプチドC末端α−カルボキシエステルも、生物学的方法によって生成することができる。たとえば、インテイン発現系(intein expression system)を、標識、たとえば親和性標識、あり、またはなしで使用して、C末端チオエステルペプチドまたはポリペプチドセグメントを生成するのに適当なチオールの存在下で、"インテイン"たんぱく質スプライシング要素の誘導できる自己開裂活性を使用することができる。特に、インテインは、C末端チオエステルを有するペプチドセグメントを生成するチオールたとえばDTT、β−メルカプトエタノール、β−メルカプトエタンスルホン酸、またはシステインの存在下で、独特の自己開裂を引起こす。たとえば、Chong et al.,(1997)前記;Chong et al.,(1998)前記;Evans et al.,前記;及びCotton et al.,前記、を参照されたい。
【0037】
図1は、ペプチドの拡張天然型化学的ライゲーションを仲介する能力を示すことによって、本発明を説明するものであり、同じ方法は、任意の適当な分子のライゲーションの実施のために使用することができる。図示されているように、第一の要素は、式 J1−HN−CH(Z1)−αCO−SR のα−カルボキシルチオエステルを有し、第二の要素は、式 HS−C2−C1(R1)−NHα−CH(Z2)−C(O)−J2 のN末端の酸安定なNα置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを有する。要素J1及びJ2は、化学選択的ライゲーション反応に適合する任意の化学成分たとえば保護または非保護アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、その他のポリマー、染料、リンカー、その他とすることができる。Z1は、αCO−SRチオエステルに適合する任意の側鎖基、たとえばアミノ酸の保護または非保護側鎖である。Z2は、Nα置換アミノ酸に適合する任意の側鎖基、たとえばアミノ酸の保護または非保護側鎖である。R1は、C1に対する好ましくはオルトまたはパラ位置において電子供与基で置換されたベンジル成分(C1に関して述べる場合にはベンジルであり、他の場合にはフェニルである)、またはピコリル(picolyl)(非置換、またはC1に対するオルトまたはパラ位置においてヒドロキシルまたはチオールで置換されたもの)である。
【0038】
チオール交換が、αCOSRチオエステル要素とアミノN−{アルキルチオール}要素との間で起こる。この交換により、チオエステル結合中間ライゲーション生成物が生じ、この生成物は、5員環中間体を通過する自発転位の後、式 J1−HN−CH(Z1)−C(O)−Nα(C1(R1)−C2−SH)−CH(Z2)−C(O)−J2 の第一のライゲーション生成物を生じ、この生成物はライゲーション部位に除去できるNα置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C2−C1(R1)−]を有する。ライゲーション部位のこのNα置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C2−C1(R1)−]は、ペプチドに適合する条件下で、除去しやすく、式 J1−HN−CH(Z1)−CO−NH−CH(Z2)−CO−J2 の最終ライゲーション生成物を生じ、この生成物はライゲーション部位に天然アミド結合を有する。
【0039】
図2は、ペプチドの拡張天然型化学的ライゲーションを仲介する能力を示すことによって、本発明を説明するものであり、同じ方法は任意の適当な分子のライゲーションの実施のために使用することができる。図示されているように、第一の要素は、式 J1−HN−CH(Z1)−αCO−SR のα−カルボキシルチオエステルを有し、第二の要素は、式 HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−NHα−CH(Z2)−C(O)−J2 の酸安定なNα置換3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを有する。要素J1及びJ2は、化学選択的ライゲーション反応に適合する任意の化学成分たとえば保護または非保護アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、その他のポリマー、染料、リンカー、その他とすることができる。Z1は、αCO−SRチオエステルに適合する任意の側鎖基、たとえばアミノ酸の保護または非保護側鎖である。Z2は、Nα置換アミノ酸に適合する任意の側鎖基、たとえばアミノ酸の保護または非保護側鎖である。R1が水素でない場合、R2とR3は水素であり、R1は、非置換の、またはC1に対するオルトまたはパラ位置において電子供与基で置換されたフェニル成分、ピコリル(非置換、またはC1に対するオルトまたはパラ位置においてヒドロキシルまたはチオールで置換されたもの)、メタンチオール、またはスルホキシメチルである。R2とR3が水素でない場合、R1は水素であり、R3とR2は、C1に対するオルトまたはパラ位置において電子供与基で置換されたベンジル基、またはピコリル(非置換、またはC1に対するオルトまたはパラ位置においてヒドロキシルまたはチオールで置換されたもの)である。
【0040】
チオール交換が、COSRチオエステル要素とアミノアルキルチオール要素との間で起こる。この交換により、チオエステル結合中間ライゲーション生成物が生じ、この生成物は、6員環中間体を通過する自発転位の後、式 J1−HN−CH(Z1)−C(O)−Nα(C1−C2(R2)−C3(R3)−SH)−CH(Z2)−J2 の第一のライゲーション生成物を生じ、この生成物はライゲーション部位に除去できるNα置換3炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−]を有する。ライゲーション部位のこのNα置換3炭素鎖アリールチオール[HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−]は、ペプチドに適合する条件下で、除去しやすく、式 J1−HN−CH(Z1)−CO−NH−CH(Z2)−CO−J2 の最終ライゲーション生成物を生じ、この生成物はライゲーション部位に天然アミド結合を有する。
【0041】
図3は多要素の拡張天然型化学的ライゲーション法を示す。図1に示すような式 HS−C2−C1(R1)−Nα(PG1)−CH(Z2)−C(O)−J2 のNα保護N末端ポリペプチドNα置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを有するポリペプチドα−カルボキシルチオエステルが、N末端Cys残基を含むペプチドと反応する。R1は、非置換のフェニル、もしくは好ましくはC1に対するオルトまたはパラ位置において電子供与基で置換されたフェニル、またはピコリル(非置換、またはC1に対するオルトまたはパラ位置においてヒドロキシルもしくはチオールで置換されたもの)である。保護基(PG1)は、任意の適当な保護基,たとえばアルキルカルボニル保護基(たとえば、ベンジルオキシカルボニル(Z)、Boc、Bpoc、Fmoc、その他)、トリフェニルメチル保護基(Trt)、2−ニトロフェニルスルフェニル保護基(Nps)、その他とすることができる。この保護基は第一のライゲーション反応後に除去される。
【0042】
第一の天然型化学的ライゲーション反応は、図1に示すような式 HS−C2−C1(R1)−Nα(PG1)−CH(Z2)−C(O)−J2 のNα保護N末端ポリペプチドNα置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを有するポリペプチドα−カルボキシルチオエステルと、N末端Cys−ペプチドとの間で行われ、式 HS−C2−C1(R1)−Nα(PG1)−CH(Z2)−C(O)−ペプチド2−ペプチド3 の第一ライゲーション生成物を与える。次に、保護基PG1が除去され、式 HS−C2−C1(R1)−Nα(H)−CH(Z2)−C(O)−ペプチド2−ペプチド3 のライゲーション生成物が与えられる。次に、この生成物は第三のチオエステル含有要素と反応させられる。COSRチオエステル要素とアミノN−{アルキルチオール}要素との間で、チオール交換が行われる。この交換により、チオエステル結合中間ライゲーション生成物が生じ、該生成物は、5員環中間体を通過する自発転位の後、式 ペプチド1−C(O)−Nα(C1(R1)−C2−SH)−CH(Z2)−C(O)ペプチド2−Cys−ペプチド3 の第二のライゲーション生成物を生じ、該生成物は、第二のライゲーション部位に除去できるNα置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C2−C1(R1)−]を有する。第二のライゲーション部位のこのNα置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C2−C1(R1)−]は、ペプチドに適合する条件下で、除去されやすく、第一及び第二のライゲーション部位に天然アミド結合を有する、式 ペプチド1−C(O)−NαH−CH(Z2)−C(O)ペプチド2−Cys−ペプチド3 の最終ライゲーション生成物を生じる。
【0043】
図1、2、及び3に示すように、第一のカルボキシチオエステル要素を有する本発明のN置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオール要素は、ライゲーション部位にN置換アミド結合を有するライゲーション生成物を生じる。反応のライゲーション条件は、N置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオール成分とのチオエステルの選択的反応性が維持されるように、選択される。好ましい実施形態の場合、ライゲーション反応は、pH6〜8、好ましくはpH6.5〜7.5、を有する緩衝液中で実施される。この緩衝液は水性、有機、またはこれらの混合物とすることができる。ライゲーション反応は、また、一つ以上の触媒及び/または一つ以上の還元剤、脂質、界面活性剤、その他の変性剤または可溶化剤、ならびにその他を含むことができる。好ましい触媒の例としては、チオール及びホスフィン含有成分たとえばチオフェノール、ベンジルメルカプタン、TCEP、及びアルキルホスフィンがある。変性剤及び/または可溶化剤の例としては、グアニジニウム、尿素の水溶液もしくは尿素を有機溶剤たとえばTFE、HFIP、DMF、NMPに溶解させたもの、アセトニトリルと水との混合物、またはアセトニトリルをグアニジニウムと尿素との水溶液と混合したもの、がある。温度も、ライゲーション反応の速度の調節のために使用することができる。温度は、通常5〜55℃、好ましくは15〜40℃、とする。一例として、ライゲーション反応は、6Mのグアニジニウム中に2%のチオフェノールを含むpH6.8〜7.8の反応系において、十分に進行する。
【0044】
N置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオールの場合、ライゲーション現象は、COSRチオエステル要素とアミノアルキルチオール要素との間で起こるチオール交換によって生じる。この交換によりチオエステル結合中間ライゲーション生成物が生じ、該生成物は、5員環中間体を通過する自発転位の後、式 J1−HN−CH(Z1)−C(O)−Nα(C1(R1)−C2−SH)−CH(Z2)−J2 を有する第一のライゲーション生成物を生じ、この生成物は、ライゲーション部位に除去できるN置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C2−C1(R1)−]を有する。ここで、置換基は前記のとおりである。ライゲーション部位にあるN置換2炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C2−C1(R1)−]は、ペプチドに適合する条件下で除去されやすく、ライゲーション部位に天然アミド結合を有する、式 J1−HN−CH(Z1)−CO−NH−CH(Z2)−CO−J2 の最終ライゲーション生成物を生じる。
【0045】
N置換3炭素鎖アリールまたはアルキルチオールの場合、COSRチオエステル要素とアミノアルキルチオール要素との間のチオール交換によって、チオエステル結合中間ライゲーション生成物が生じ、該生成物は、6員環中間体を通過する自発転位の後、式 J1−HN−CH(Z1)−C(O)−Nα(C1−C2(R2)−C3(R3)−SH)−CH(Z2)−J2 を有する第一のライゲーション生成物を生じ、この生成物は、ライゲーション部位に除去できるN置換3炭素鎖アルキルまたはアリールチオール[HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−]を有する。ライゲーション部位にあるN置換3炭素鎖アリールチオール[HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−]は、ペプチドに適合する条件下で除去されやすく、ライゲーション部位に天然アミド結合を有する、式 J1−HN−CH(Z1)−CO−NH−CH(Z2)−CO−J2 の最終ライゲーション生成物を生じる。
【0046】
N置換アルキルまたはアリールチオール基の除去は、好ましくは、N−C1結合の開裂を促進する酸性条件下で実施し、ライゲーション部位に安定化された非置換アミド結合を生じるようにする。"ペプチドに適合する開裂条件"という言葉は、ペプチドに適合し、またライゲーション生成物からのN結合アルキルまたはアリールチオール成分の開裂に適した物理化学的条件を意味するものとする。ペプチドに適合する開裂条件は、一般に、使用するNαアルキルまたはアリールチオール成分に合わせて選択する。これらの成分は、定型的な周知の方法によって容易に誘導することができる(たとえば、"Protecting Groups in Organic Synthesis"3rd Edition,T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Eds.,John Wiley & Sons,Inc.,1999;NovaBiochem. Catalog 2000;"Synthetic Peptides,A User's Guide,"G.A.Grant,Ed.,W.H.Freeman & Company,New York,NY,1992;"Advanced Chemtech Handbook of Combinational & Solid Phase Organic Chemistry,"W.D..Bennet,J.W.Christensen,L.K.Hamaker,M.L.Peterson,M.R.Rhodes,and H.H.Saneii,Eds.,Advanced Chemtech,1998;"Principles of Peptide Synthesis,2nd ed.,"M.Bodanszky,Ed.,Springer−Verlag,1993;"The Practice of Peptide Synthesis,2nd ed.,"M.Bodanszky and A.Bodanszky,Eds.,Springer−Verlag,1994;"Protecting Groups,"P.J.Kocienski,Ed.,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,Germany,1994,を参照されたい)。
【0047】
たとえば、R1'、R2'、またはR3'置換基が、メトキシ、ヒドロキシル、チオールまたはチオメチル、メチル、及びその他から成る場合、除去のためのより汎用的な方法は、ペプチド合成化学において一般的な酸性開裂条件を含む。この条件は、強酸性条件下または水−酸の条件下で、還元剤及び/またはスカベンジャー系(たとえば、酸、たとえば無水フッ化水素(HF)、トリフルオロ酢酸(TFA)、またはトリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)、その他)ありまたはなしで、N−C1結合を開裂させることを含む。それぞれの酸性開裂系は、所定の構造のためにアリールまたはアルキルチオール成分を除去するために、Nα−C1結合の開裂が最適化されるように選択することができる。そのような条件は、周知であり、ペプチドの完全性を維持するのに適合したものである。開裂のための別の方法においては、ペプチドまたはポリへプチド配列にトリプトファンが存在する場合にチオールスカベンジャーを使用し、トリプトファン側鎖と遊離したアリールまたはアルキルチオール成分との反応が起こらないようにする。チオールスカベンジャーの例としては、エタンジオール、システイン、β−メルカプトエタノール、及びチオクレゾールがある。したがって、本発明の別の実施形態は、アリールまたはアルキルチオール成分を除去するためにN−C1結合を開裂させる場合に、チオールスカベンジャーの添加を含むものである。
【0048】
その他の特別の開裂条件は、ピコリル基が置換基である場合、光または還元開裂条件を含む。一例として、R1、またはR2及びR3置換基がピコリル成分から成る場合、光分解(たとえば、紫外線)、亜鉛/酢酸または電解還元を、標準的な手順に従う開裂に使用することができる。N置換2炭素鎖チオールのR1がR1にあるチオメタンから成る場合、水銀(II)またはHF開裂が使用できる。この開裂系は、また、第一または第二のライゲーション要素が他の保護基を有する場合、固体支持体からの同時開裂のため、及び/または脱保護反応物質として、使用することができる。たとえば、N−ピコリル基は、活性化亜鉛(〜0.5g/ml)を含む10%酢酸/水溶液にポリペプチドを溶解させることによって除去することができる。チオメタン基たとえば2−メルカプト,1−メチルスルフィニルエタン基(HS−C2−C1(S(O)−CH3)−Nα)は、ライゲーションの後、還元及び水銀、メルカプタン仲介開裂によって除去することができる。一例として、メチルスルフィニルエタン基は、チオメタン形への還元のために、N−メチルメルカプトアセトアミド(MMA)を含む3%酢酸水溶液にポリペプチドを溶解させ(たとえば、0.5mlの酢酸/水と0.05mlのMMAとに1mgのポリペプチド)、一晩の反応後、混合物を凍結乾燥(freezing and lyophilization)することによって除去することができる。その後、還元された補助基を、酢酸水銀(Hg(OAC)2)を含む3%水溶液中で(たとえば、水に0.5mlの酢酸を加えた溶液に10mgのHg(OAC)2を添加したものに、約1時間)処理してから、β−メルカプトエタノール(たとえば、0.2mlのβメルカプトエタノール)を添加することによって、除去することができる。次に、生成物を、標準的な方法たとえば逆相HPLC(RPHPLC)によって精製することができる。
【0049】
容易に理解しうるであろうが、開裂系には、一つ以上の触媒及び/または賦形剤、たとえば一つ以上のスカベンジャー、界面活性剤、溶剤、金属、その他をも使用することができる。一般に、特定スカベンジャーの選択は存在するアミノ酸に応じてなされる。たとえば、スカベンジャーの存在は、開裂時に生じるカルボニウムイオンがある種のアミノ酸(たとえば、Met、Cys、Trp、及びTyr)に対して及ぼしうる損傷効果を抑えるために、使用することができる。その他の添加剤たとえば界面活性剤、ポリマー、塩、有機溶剤、その他も、溶解度を調節して開裂を改善するために使用することができる。レドックス系を調節する触媒その他の化学物質も、有効なものでありうる。また、容易に理解しうるように、いろいろな他の物理−化学的条件たとえば緩衝系、pH、及び温度を通常のように調節して、所定の開裂系を最適化することができる。
【0050】
本発明は、また、保護された形の、本発明のNα置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを与える。これらの化合物は、自動ペプチド合成ならびに直交及び収束(orthogonal and convergent)ライゲーション法において、特に有用である。これらの化合物は、下記の表III及び表IVに示す、式 (PG2)S−C2−C1(R1)−Nα(PG1)−CH(Z2)−C(O)−J2 または (PG2)S−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−Nα(PG1)−CH(Z2)−C(O)−J2 の、完全保護、部分保護、または完全非保護酸安定Nα置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールから成る。特に、R1、R2、及びR3のうち一つ以上がC1に複合した電子供与基を有し、該基は、Nα置換アミノアルキルまたはアリールチオールの、Nα置換アミドアルキルまたはアリールチオールへの転化の後、C1において共鳴安定陽イオンを形成することができ、該イオンはペプチドに適合する開裂条件下でNα−C1結合の開裂を促進する。PG1及びPG2は保護基であって、これらは個別または組合せで存在し、あるいは存在しない場合もあり、同じかまたは異なるものであることができる。ここで、Z2は、化学的ペプチド合成または拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の化学成分であり、またここで、J2は、化学的ペプチド合成または拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の化学成分である。
【0051】
PG1(またはX1)は、アミンを保護するための基である。PG2(またはX2)は、チオールを保護するための基である。多くのそのような保護基が公知であり、ここでの目的のために適当である(たとえば、"Protecting Groups in Organic Synthesis"3rd Edition,T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Eds.,John Wiley & Sons,Inc.,1999;NovaBiochem. Catalog 2000;"Synthetic Peptides,A User's Guide,"G.A.Grant,Ed.,W.H.Freeman & Company,New York,NY,1992;"Advanced Chemtech Handbook of Combinational & Solid Phase Organic Chemistry,"W.D..Bennet,J.W.Christensen,L.K.Hamaker,M.L.Peterson,M.R.Rhodes,and H.H.Saneii,Eds.,Advanced Chemtech,1998;"Principles of Peptide Synthesis,2nd ed.,"M.Bodanszky,Ed.,Springer−Verlag,1993;"The Practice of Peptide Synthesis,2nd ed.,"M.Bodanszky and A.Bodanszky,Eds.,Springer−Verlag,1994;"Protecting Groups,"P.J.Kocienski,Ed.,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,Germany,1994,を参照されたい)。
【0052】
【表3】

【0053】
PG1及びX1として好ましい保護基の単なる例示としては、[Boc(t−ブチルカルバメート)、Troc(2,2,2,−トリクロロエチルカルバメート)、Fmoc(9−フルオレニルメチルカルバメート)、Br−ZまたはCl−Z(Br−またはCl−ベンジルカルバメート)、Dde(4,4,−ジメチル−2,6−ジオキソシクロエクス1−イリデン)、MsZ(4−メチルスルフィニルベンジルカルバメート)、Msc(2−メチルスルホエチルカルバメート)、Nsc(4−ニトロフェニルエチルスルホニル−エチルオキシカルボニル)がある。好ましいPG1及びX1保護基は、"Protective Groups in Organic Synthesis,"Green and Wuts,Third Edition,Wiley−Interscience,(1999)から選択され、もっとも好ましいのはFmoc及びNscである。PG2として好ましい保護基の単なる例示としては、[Acm(アセトアミドメチル)、MeOBzlまたはMob(p−メトキシベンジル)、MeBzl(p−メチルベンジル)、Trt(トリチル)、Xan(キサンテニル)、tButhio(s−t−ブチル)、Mmt(p−メトキシトリチル)、2または4ピコリル(2または4ピリジル)]、Fm(9−フルオレニルメチル)、tBu(t−ブチル)、Tacam(トリメチルアセトアミドメチル)]がある。好ましい保護基PG2及びX2は、"Protective Groups in Organic Synthesis,"Green and Wuts,Third Edition,Wiley−Interscience,(1999),から選択され、もっとも好ましいのは、Acm、Mob、MeBzl、ピコリルである。
【0054】
直交保護法は、異なる化学的機構によって除去される二つ以上の種または基を含み、したがって任意の順序で、他の種の存在下で、除去することができる。直交法は相当に穏やかな全体的条件の可能性を与える。選択性を、反応速度ではなく、化学的性質の違いにもとづいて実現できるからである。
【0055】
【表4】

【0056】
本発明の保護された形のNα置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールは、前記の方法IまたはIIにしたがって生成することができる。
【0057】
図4は、二つの異なる1−フェニル−2−メルカプトエチル補助基を使用する、本発明のライゲーション方策の概要を示す。
【0058】
図5A及び5Bは、Nα−1−(4−メトキシフェニル)−2−メルカプトエチル補助基を使用する、実施例21で述べるようなシトクロムb562に対するライゲーション反応に関する、分析高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の結果を示す。図5Aは、時刻=0におけるライゲーション反応の状態を示す。図5Bは、反応を一晩進行させたあとのライゲーションの状態を示す。また、図5Bに示されているように、Nα−1−(4−メトキシフェニル)−2−メルカプトエチル補助基のC1の非キラル中心から生じる二つのライゲーション生成物が観察される。
【0059】
図6A及び6Bは、Nα−{1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタノ}改質N末端セグメントとの拡張天然型化学的ライゲーションを使用することによって生成されたライゲーション生成物シトクロムb562残基1−106の再構成エレクトロスプレー(reconstructed electrospray)質量分析(MS)の結果を示す。C末端αチオエステルを有するシトクロムb562残基1−63が、N末端Nα−{1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタノ}グリシンを有するシトクロムb562残基64−106と結合している。図6Aは、ライゲーション部位に除去できるNα−{1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタノ}基を有する初期ライゲーション生成物のMS再構成を示す。図6Bは、ライゲーション部位に天然アミド結合を生成させるためにNα−{1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタノ}基を除去するフッ化水素(HF)処理後のライゲーション生成物のMS再構成を示す。測定された質量は、11948±1Da(HF処理前)及び11781±1Da(HF処理後)であって、損失は167±2Daであり、これは、1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタノ補助基の除去に関して予想される166Daの損失とよく一致している。
【0060】
図7A及び7Bは、図6Bに示す直鎖状シトクロムb562物質の代表的な分析HPLCの結果(図7A)、及び折りたたみ(folding)後の該物質のイオン交換クロマトグラム(図7B)を示す。
【0061】
本発明の化合物は、いろいろな手段のいずれか、たとえばハロゲン仲介アミノアルキル化、還元アミノ化によって、また固相または溶液アミノ酸またはペプチド合成法に適合する、Nα保護、Nアルキル化、S保護、アミノアルキルまたはアリールチオールアミノ酸前駆体を用いることによって生成することができる。必要な場合には、許容されるキラル純度の化合物を与えるために、生成されるラセミ混合物またはジアステレオマーの分離を、標準的な方法によって実施することができる。
【0062】
上述のように、場合によっては、許容されるキラル純度のNα置換2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールが好ましい。実施例21及び図5Bに示すように、シトクロムb562の生成におけるNα−1−(4−メトキシフェニル)−2−メルカプトエチル補助基の使用により、精製プロファイルの重なった二つのライゲーション生成物(ジアステレオマー)が生じた。Nα補助基の除去により、単一の主生成物が生じるが、小さなパーセンテージの欠失(deletion)と副反応生成物とが最終生成物に存在し、これは好ましくないと思われる。たとえば、cyt b562の合成に使用するNα−1−(4−メトキシフェニル)−2−メルカプトエチル補助基の合成に使用される実施例4〜6に述べるような還元アミノ化合成法の場合、必ず、キラル中心C1に二つのエピマーの生成がもたらされる。必要な場合、前記のように、許容されるキラル純度の化合物を与えるために、生成されるラセミ混合物及びジアステレオマーの分離を、標準的な方法によって実施することができる。
【0063】
許容されるキラル純度の本発明のNα補助基を得るための標準的な方法は、(1)キラルクロマトグラフィー、(2)キラル合成、(3)共有ジアステレオマー抱合体の使用、及び(4)鏡像体的に純粋なキラル補助基を与えるための結晶化または他の通常の分離法、である。(たとえば、Ahuja,Satinder.'Chiral separations.An overview.'ACS Symp.Ser.(1991),471(Chiral Sep.Liq.Chromatogr.),1−26;Collet,Andre."Separation and Purification of Enantiomers by Crystallization Methods,"In:Enantiomer(1999)4:157−172;Lopata et al.,J.Chem.Res.Minipprint(1984)10:2930−2962;Lopata et al.,J.Chem.Res.(1984)10:2953−2973;Ahuja,Satinder.'Chiral separations and technology:an overview.'Chiral Sep.(1997),1−7;Chiral Separations:Applications and Technology.Ahuja Satinder;Editor.USA.(1997),349pp.Publisher:(ACS,Washington,D.C.)を参照されたい)。これらの標準的な方法のやり方はすべて、許容されるキラル純度の化合物を得るために、ラセミ混合物またはジアステレオマーの分離に使用することができる。たとえば、結晶化を、鏡像体(鏡像異性体)の光学的分離のために使用することができる。キラルクロマトグラフィーの場合、周知のように、ラセミ混合物を、キラル媒質を使用する分離(preparative)クロマトグラフィーによって、キラル的に純粋な鏡像体に分離することができる。たとえば、キラルNα補助基の全体的合成のための還元アミノ化法によって生成されるラセミ混合物を使用して、キラル的に純粋な形のそれぞれの鏡像体を生成することができる。これは、たとえば、下にアミノ酸補助基に関して示すように、なされる(ここでRは、たとえば、アミノ酸側鎖である)。
【化11】

【0064】
どちらか一方の鏡像体をキラル的に純粋の形で得ることができ、あるいは両方をキラル的に純粋の形で得ることができる。どちらの鏡像体も、キラル的に純粋な補助基で改質した要素たとえばペプチドセグメント(すなわち、二つのキラル的に純粋なエピマー)の生成に使用することができ、これらの要素は、他のエピマー及び不純物の存在による妨害なしで厳重に精製することができる。両方の鏡像体を使用するという何らかの備えがなされない限り、補助基の全量の50%が無駄になるということに注意されたい。このとき、たとえば、二つのキラル的に純粋な補助基で改質されたペプチドセグメントを、別々のENCL反応に使用して、キラル的に純粋な補助基で改質されたライゲーション生成物の混合物を得ることができる。分離精製の後、補助基をエピマーライゲーション生成物から除去し(個別に、または化合させたあと)、同じ天然構造のライゲーション生成物を得る。その後、これを精製する。
【0065】
キラル合成の場合、好ましい方法においては、鏡像体的に純粋なキラル出発材料を使用する。これを、下にパラ−メトキシフェニル置換Nα−2炭素補助基に関して示す。
【化12】

得られるキラル的に純粋な前駆体化合物を、次に、どちらかの保護された(N置換)アミノ酸を作るために使用することができる。すなわち、下記のようである。
【化13】

または、前記化合物を、直接に'サブモノマー'ペプトイド(peptoid)法で使用して、ポリマー支持体上に補助基で改質したペプチドを生成させることができる。すなわち、下記のようである。
【化14】

その後の脱保護/開裂により、キラル的に純粋な形の補助基改質ペプチドセグメントが得られる。すなわち、下記のようである。
【化15】

たとえば、本発明のキラル的に純粋なNα補助基を、容易に得られるキラリティー既知のパラ置換フェニルグリシンから作ることができる。この場合、キラリティーが既知なので、得られる補助基のキラリティーとキラル純度をあらかじめ見積もることができる。
【0066】
あるいは、別の好ましい実施形態では、非対称還元を使用して補助基を生成させる鏡像体選択合成を使用する。たとえば、下記のようである。
【化16】

非対称還元は、Nα補助基改質アミノ酸を生成させるための鏡像体選択合成にも使用することができる。たとえば、グリシンの場合、下記のようである。
【化17】

適当に実施された非対称合成の場合、一つの鏡像体が他の鏡像体に対してかなり過剰に生成されるが、それでもかなりの量の他の鏡像体が存在すると予想される。後者は、純粋な形の主要鏡像体を得るためのキラル精製ステップにより処理することができる。鏡像体選択合成法の主要な利点は、キラルクロマトグラフィー分離が容易であり、また大量の材料が廃棄(浪費)されない、ということである。
【0067】
もう一つの好ましい標準的方法は、共有ジアステレオマー抱合体を使用する分離である。一般に、この方法では、たとえば下記のように、キラルアミノ酸(たとえば、Ala)を使用して、ラセミ補助基混合物を改質し、また標準的な(非キラル)クロマトグラフィー法により生成されたジアステレオマーを分離する。たとえば、ラセミ補助基を、第二のキラル中心の共有取り込みにより、ジアステレオマーの混合物に転化させることができる。すなわち、下記のようである。
【化18】

この場合、ラセミ混合物は、SN求核反応(反転(inversion)を伴う)によって、(R)2−Br−プロピオン酸と反応し、示されている一対のジアステレオマーを生成する。ここでは、実際に、N結合キラルチオール含有補助基によって、L−Alaを生成させた。
【0068】
一般に、これら二つの化合物は、ジアステレオマーとしては、非キラル(achral)クロマトグラフィー条件下で、異なるクロマトグラフィー挙動を示し、したがって実用的な分離条件下で分離して、純粋のエピマーを別々に得ることができる。Nα成分の適当な保護の後、それぞれの化合物を使用して、非保護または部分保護された、N末端Ala残基を有する、キラル的に純粋の補助基で改質されたペプチドセグメントを生成させることができる。
【0069】
本発明の保護されたNα置換要素は、通常のペプチド合成を使用する高速自動合成及びその他の有機合成法において、特に有効である。また、これらの要素は、化学的ライゲーションの使用を多要素ライゲーション法にまで拡張するものであり、たとえば、直交ライゲーション法、たとえば三つ以上のセグメントのライゲーション法または収束ライゲーション合成法、が関与するポリペプチドの生成の場合にまで拡張するものである。
【0070】
たとえば、本発明の拡張天然型化学的ライゲーション法と組成物とは、求核物質に対して安定なチオエステル生成法及びチオエステル安全捕捉(safety catch)法と組合わせて、たとえば本願と同時係属中のPCT出願番号[未付与]明細書(2001年8月31日出願)、及び米国仮特許出願第60/229,295号明細書(2000年9月1日出願)に記載されているオルトチオロエステル及びカルボキシエステルチオールとともに、使用することができる。なお、これらの明細書は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。簡単に言えば、求核物質に対して安定なチオエステル生成化合物は、オルトチオロエステルまたはカルボキシエステルチオールから成り、これらの化合物は、有機合成、たとえばペプチドチオエステル、ポリペプチドチオエステル、及びその他のポリマーチオエステルの生成、において幅広い用途を有する。求核物質に対して安定なチオエステル生成化合物は、強力な求核物質(たとえば、Fmoc SPPSによって生成されたペプチドまたはポリペプチド)が使用される条件下で生成される前駆体から活性化チオエステルを生成させる場合、また意図する特定のライゲーションまたは複合反応を導くための両立する選択保護法が必要な(または、その使用により利益を受ける)多段階ライゲーションまたは複合法の場合に、特に有用である。求核物質に対して安定なオルトチオロエステルは、式 X−C(OR')2−S−R を有し、ここでXは、意図する標的分子であり、随意に一つ以上の求核物質によって開裂することのできる保護基を有し、R'は、非求核開裂条件下で除去することのできる求核物質に対して安定な保護基であり、Rは、オルトチオロエステル−C(OR')−S−に適合する任意の基である。求核物質に対して安定なオルトチオロエステルチオエステル生成樹脂も存在し、これは、式 X−C(OR')2−S−R−リンカー−樹脂 または X−C((OR1'−リンカー−樹脂(OR2'))−SR を有する。ここで、X、R'、及びRは、前記のとおりであり、リンカーと樹脂は、固相有機合成で使用するのに適当な求核物質に対して安定な任意のリンカーと樹脂、たとえば、後で開裂のために求核物質に対して不安定なリンカーに転化させることのできる安全捕捉リンカーである。求核物質に対して安定なオルトチオロエステルは、いろいろな非求核条件たとえば酸加水分解条件によって、活性チオエステルに転化させることができる。求核物質に対して安定なカルボキシエステルチオールは、式 X−C(O)−O−CH(R'')−(CH2n−S−R''' を有し、ここでXは、求核物質に対して不安定な保護基を一つ以上有する、意図する標的分子であり、R''は、非求核物質に対して安定な基であり、nは、1または2であり、n=1が好ましく、R'''は、水素、保護基、または、非求核条件下で除去できる、樹脂または保護基に結合した、酸もしくは還元不安定なリンカーもしくは安全捕捉リンカーである。求核物質に対して安定なカルボキシエステルチオール基材のチオエステル生成樹脂も存在して、式 X−C(O)−O−CH(R'')−(CH2n−S−リンカー−樹脂 または X−C(O)−O−CH(R''−リンカー−樹脂)−(CH2n−S−R''' を有し、これらの式において、X、R''、n、及びR'''は、前記のものであり、リンカー及び樹脂は、固相有機合成での使用に適した求核物質に対して安定な任意のリンカー及び樹脂である。この求核物質に対して安定なカルボキシエステルチオールは、チオール触媒、たとえばチオフェノール、の添加により、活性チオエステルに転化させることができる。したがって、本発明の拡張天然型化学的ライゲーション法と組成物は、多セグメントの収束ライゲーション法において使用することができる。このとき、標的化合物の一端が本発明の保護または非保護Nα−2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを有することができ、他端が活性チオエステルへの後続の転化とライゲーションとのためのオルトチオロエステルまたはカルボキシエステルチオール成分を有することができる。
【0071】
やはり容易に理解しうるであろうが、本発明のNα−2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールは、他のライゲーション法、たとえば天然型化学的ライゲーション(Dawson et.al.,Science(1994)266:776−779;Kent et.al.,WO 96/34878)、拡張された一般化学的ライゲーション(Kent et.al.,WO98/28434)、オキシム生成化学的ライゲーション(Rose et.al.,J.Amer.Chem.Soc,(1994)116:30−33)、チオエステル生成ライゲーション(Schnolzor,et.al.,Science(1992)256:221−225)、チオエーテル生成化学的ライゲーション(Englebretsen,et.al.,Tet.Letts.(1995)36(48):8871−8874)、ヒドラゾン生成ライゲーション(Gaertner,et.al.,Bioconj.Chem.(1994)5(4):333−338)、ならびにチアゾリジン生成ライゲーション及びオキサゾリジン生成ライゲーション(Zhang,et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(1998)95(16):9184−9189;Tam et.al.,WO95/00846)、または他の方法(Yan,L.Z.and Dawson,P.E.,"Synthesis of Peptides and Proteins without Cysteine Residues by Native Chemical Ligation Combined with Desulfurization,"J.Am.Chem.Soc.2001,123,526−533(参照により本明細書に組み込むものとする。);Gieselnan et.al.,Org.Lett.2001 3(9):1331−1334;Saxon,E.et.al.,"Traceless" Staudinger Ligation for the Chemoselective Synthesis of Amide Bonds.Org.Lett.2000,2,2141−2143)と組合せて、使用することができる。さらに、本発明で意図するのは、本発明のNα−2または3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールにおいてチオールイオウをセレンで置換することである。
【0072】
本発明の方法と組成物は、多くの用途を有する。本発明の方法と組成物は、特に、ペプチド、ポリペプチド、及びその他のポリマーのライゲーションに有効である。実質的にすべてのアミノ酸、たとえば天然に産するアミノ酸及び非天然のアミノ酸及び誘導体において天然型化学的ライゲーションを実行しうる能力により、適正なシステインライゲーション部位を欠く標的に対する天然型化学的ライゲーションの範囲が拡大される。本発明は、また、ペプチドまたはポリペプチドセグメントのほか、ポリマー成分を、Nα置換アミド結合または全部天然のアミド結合を有するリンカーによってライゲーション部位に結合するのが望ましい場合に、そのような成分のライゲーションにも使用することができる。本発明は、また、発現たんぱく質ライゲーション(EPL)用のいろいろな種類のペプチド標識の生成にも使用することができる。たとえば、EPL生成チオエステルポリペプチドは、意図する最終用途に応じて、Nα置換アルキルもしくはアリールチオールアミド結合または完全に天然のアミド結合により、いろいろな種類のペプチドに結合させることができる。本発明は、また、システインを有しないペプチドまたはポリペプチドの場合でも、環化点(cyclization point)に天然アミド結合を有するいろいろな環状ペプチド及びポリペプチドの生成に使用することができる。これは、たとえば、大部分の環状ペプチド、たとえば産業標準規格に従って生成される抗生物質及びその他の薬剤、は、環化(すなわち、頭から尾まで)ライゲーション部位に天然アミド結合を形成するのに使用できるシステイン残基を有しないので、重要である。
【0073】
本明細書で挙げるすべての公刊物及び特許明細書は、それぞれの公刊物及び特許明細書が個別に参照により本明細書に組み込まれると述べるのと同様に、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0074】
(実施例)
下記の生成法と実施例は、当業者が、本発明をより明瞭に理解し、本発明を実施できるようにするために示すものである。これらは、本発明の権利範囲を限定するものと解釈してはならない。これらは、単に、本発明の説明のために、代表例を示すものと解釈すべきである。
【0075】




【0076】
実施例1: 共通の材料と方法
ペプチドは、標準的な手順(Hackeng et.al.,前記;Schnolzer et.al.,(1992)Int.J.Pept.Prot.Res.,40:180−193;Kent,S.B.H.(1988)Ann.Rev.Biochem.57,957−984)に従い、PAM樹脂またはチオエステル生成樹脂上でのBoc化学作用のためのその場中和/HBTU活性化手順により、SPPSによって、改造ABI430Aペプチド合成装置を使用して段階的に合成した。鎖集成の後、5%のp−クレゾールを含む無水フッ酸(HF)による処理によって、ペプチドを脱保護すると同時に開裂させ、それから凍結乾燥して、分離HPLCによって精製した。Boc保護アミノ酸は、Peptides International and Midwest Biotechから入手した。トリフルオロ酢酸(TFA)は、Halocarbonから購入した。その他の化学薬品は、FlukaまたはAldrichから購入した。分析及び分離HPLCは、214nm UV検出を使用するRainin HPLCシステムにより、Vydac C4分析剤または分離剤を用いて、実施した。ペプチド及びたんぱく質の質量分析は、Sciex API−Iエレクトロスプレー質量分析計によって実施した。
【0077】
実施例2: 2(4'メトキシベンジルチオ)ベンジルブロミドの合成
2−ヒドロキシメチルチオフェノール(10mmol 1.4g)を、室温で、10mlのDFM中で、10mmolの4−メトキシベンジルクロリド及び1.75mlのDIEAと反応させた。この反応を10分で終わらせた。pH3の50mlの水を添加した。生成物を酢酸エチルで抽出し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。次に、得られた粗製油(crude oil)を、20mlのTHFで、11mmolの四臭化炭素(3.64g)及び11mmolのトリフェニルホスフィン(2.88g)と反応させた。一晩の反応の後、THFを蒸発させた。生成物を、移動相としてヘキサン/酢酸エチル(6/1)を使用して、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。1.8gが採取された。
【0078】
実施例3: Nα(2−メルカプトベンジル)グリシン−ペプチドの生成
N末端Boc保護Alaを有する樹脂に束縛されたペプチド(78mg)に、純粋の(neat)TFAを添加し、Boc基を除去した。標準的な化学手順を使用し、BocグリシンOスクシンイミドを、樹脂に結合させた。結合が完了したあと、Boc基を除去してから、樹脂を、DMFに10%のジイソプロピルエチルアミンを溶解させた溶液で2回洗浄して、中和した。次に、樹脂をDMFとDMSOで洗浄した。次に、0.2mlのDMSOと0.01mlのジイソプロピルエチルアミンに、9mgの2(4'メトキシベンジルチオ)ベンジルブロミドを添加した。この混合物を、室温で12時間反応させた。標準的な手順により、HF条件下で、ペプチドを開裂させ、脱保護した。正しい質量2,079Daのピークが、全ペプチド物質の約12%(HPLCによって測定)に存在した。この正しいペプチドを、標準的な半分離(semi−preparative)HPLCによって精製した。
【0079】
実施例4: 4'−メトキシ2(4'メチルベンジルチオ)アセトフェノンの生成
4−メチルベンジルメルカプタン4mmol(0.542ml)と、4'メトキシ2ブロモアセトフェノン4mmol(916.3mg)を、4mlのDMFに溶解させた。次に、ジイソプロピルエチルアミン4mmol(0.7ml)を添加した。この混合物を室温で1時間撹拌した。混合物を希塩酸に注ぎ、酢酸エチルによって抽出してから、硫酸ナトリウム上で乾燥した。油(oil)を、酢酸エチルに溶解させ、石油エーテルの添加によって沈殿させた。450mgの白色固体が採取された。
【0080】
実施例5: 1アミノ,1(4−メトキシフェニル),2(4−メチルベンジルチオ)エタンの生成
4'−メトキシ2(4'メチルベンジルチオ)アセトフェノン1.44mmol(411mg)とアミノオキシ酢酸4.3mmol(941mg)を、20mlのTMOFに溶解させ、0.047mlのメタンスルホン酸を、触媒として、室温で添加した。48時間後、溶剤を蒸発させ、残留物を酢酸エチルで採取し、1Mの硫酸一水素カリウムで洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。粗製物を、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、200mgのオキシム複合体を得た。この200mgのオキシム複合体0.556mmolを、2mlのTHFに溶解させてから、1.67mlの1M BH3/THF複合体を添加した。27時間後、出発材料は残っていなかった。3mlの水を添加し、また1.5mlの10N水酸化ナトリウムを添加した。混合物を1時間還流させた(refluxed)。次に、混合物を、酢酸エチル(4×)で抽出し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。次に、最終生成物(40mg)を、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。
【0081】
実施例6: Nα 1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドの生成
N末端Boc保護Alaを有する、樹脂に束縛されたモデルペプチド(78g)に、純粋のTFAを加えて、Boc基を除去した。標準的な化学的手順に従って、ブロモ酢酸を樹脂に結合させた。次に、1アミノ,1(4−メトキシフェニル),2(4−メチルベンジルチオ)エタン17mgを、0.010mlのジイソプロピルエチルアミンを含む0.3mlのDMSOに溶解させたものを、樹脂に加えた。一晩の反応ののち、樹脂を洗浄し、標準的なHF手順により、ペプチドを開裂させ、脱保護した。次に、半分離HPLCにより、所望の生成物を生成した。
【0082】
別のNα 1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドの生成
標準的な結合手順により、配列 S−Y−R−F−L−ポリマー のモデルペプチド樹脂0.1mmolに、ブロモ酢酸を結合させた。結合の後、樹脂をDMSOで洗浄した。次に、1アミノ,1(4−メトキシフェニル),2(4−メチルベンジルチオ)エタン32.5mg(0.12mmol)を0.3mlのDMSOと0.025mlのジイソプロピルエチルアミンに溶解させたものを、加えた。混合物を一晩放置して反応を進行させた。標準的なHF手順により、ペプチドを開裂させ、脱保護した。粗製開裂生成物のHPLCにより、全生成物の60%が所望の生成物(MW 2,122)であることがわかった。n−アルキルエタンチオール基はHF中で97%が安定であった。
【0083】
実施例7: 2',4'−ジメトキシ2(4'メチルベンジルチオ)アセトフェノンの生成
4−メチルベンジルメルカプタン3.94mmol(0.534ml)と2',4'ジメトキシ2−ブロモアセトフェノン3.86mmol(1g)を、4mlのDMFに溶解させた。次に、ジイソプロピルエチルアミン3.94mmol(0.688ml)を加えた。混合物を、室温で24時間撹拌した。混合物を、硫酸一水素カリウムの1M溶液に注ぎ、酢酸エチルで抽出して、硫酸ナトリウム上で乾燥した。蒸発ののち、残留油を酢酸エチルに溶解させ、石油エーテルの添加により沈殿させた。これにより、616mgの白色固体が得られた。
【0084】
実施例8: 1アミノ,1(2,4−ジメトキシフェニル),2(4−メチルベンジルチオ)エタンの生成
2',4'−ジメトキシ2(4'メチルベンジルチオ)アセトフェノン0.526mmol(166mg)とアミノオキシ酢酸1.59mmol(345mg)を、6mlのTMOFに溶解させ、室温で、0.034mlのメタンスルホン酸を触媒として加えた。31時間後、溶剤を蒸発させてから、酢酸エチルに取込み、1Mの硫酸一水素カリウムで洗浄して、硫酸ナトリウム上で乾燥した。次に、粗製物をシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、126mg(収率61%)のオキシム複合体を得た。この126mgのオキシム複合体0.324mmolを、1.5mlのTHFに溶解させた。次に、0.973mlの1M BH3/THF複合体を添加した。
【0085】
54時間後、出発材料がまだ存在していたので、0.5mlの1M BH3/THF複合体を添加した。3日後(合計6日の反応)、3mlの水を添加し、1mlの10N水酸化ナトリウムを加えた。混合物を、1時間還流させた。次に、混合物を、酢酸エチル(4×)で抽出し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。次に、最終生成物(43mg)を、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。
【0086】
実施例9: Nα 1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドの生成
標準的な結合手順により、配列 S−Y−R−F−L−ポリマー の樹脂束縛ペプチド0.1mmolに、ブロモ酢酸を結合させた。結合の後、樹脂をDMSOで洗浄した。次に、1アミノ,1(2',4'−ジメトキシフェニル),2(4−メチルベンジルチオ)エタン36mg(0.12mmol)を、0.3mlのDMSOと0.025mlのジイソプロピルエチルアミンに溶解させたものを、加えた。混合物を一晩放置して反応を進行させた。標準的なHF手順により、ペプチドを開裂させ、脱保護した。粗製開裂生成物のHPLCにより、全生成物の42%が所望の生成物(MW 938)であることがわかった。n−アルキルエタンチオール基はHF中で92%が安定であった。
【0087】
実施例10: C末端SDF1−アラニン−チオエステルとN末端Nα(2−メルカプトベンジル)グリシン−ペプチドとのAla−Gly化学的ライゲーション
6員転位ライゲーション(6−member rearrangement ligation)のために、SDF1−αのC末端Alaチオエステルフラグメント(MW 4429)1mgと、SDF1−αのN末端Nα(2−メルカプトベンジル)グリシンフラグメント(MW 2079)0.6mgとを、100μlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH7.0)に溶解させ、1μlのチオフェノールを加えた。室温(〜25℃)で、2日経過したあと、所望のライゲーション生成物(MW 5472)の形成を、ES−MSによって確認した。次に、反応混合物を、さらに24時間、40℃に定温放置し、所望のライゲーション生成物の収率を、HPLC積分(integration)によって測定した、生成物と非反応C末端フラグメントとの比にもとづいて決定した。観測された収率は、約40%であった。
【0088】
実施例11: C末端SDF1−アラニン−チオエステルとN末端Nα 1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドとのAla−Gly化学的ライゲーション
5員転位ライゲーションのために、SDF1のC末端アラニン−チオエステルフラグメント(MW 4429)1mgと、Nα 1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタン基を有するN末端グリシンを有するN末端ペプチドモデル(MW 2122)1mgとを、100μlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH7.0)[及び1μlのチオフェノール]に溶解させた。反応混合物を、室温(〜25℃)で、定温放置し、ライゲーション反応を調べた。8時間後、所望のライゲーション生成物(MW 5515)の形成を、ES−MSによって確認した。3日後、生成物と非反応N末端フラグメントとの比にもとづく所望のライゲーション生成物の収率は、約45%であった。室温で3日経過したあと、さらに24時間、40℃に定温放置したあとでは、収率は、65%であった。室温で3日経過したあと、さらに48時間、40℃に定温放置したあと、収率は、約70%に上昇した。
【0089】
5員転位ライゲーションのために、SDF1−αのC末端Alaチオエステルフラグメント(MW 4429)0.5mgと、Nα 1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタン基を有するN末端グリシンを有するN末端フラグメント(MW 2122)0.5mgとを、100μlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH8.2)及び1μlのチオフェノールに溶解させた。次に、反応混合物を、室温(〜25℃)で、定温放置し、6時間後、さらに1μlのチオフェノールを加えた。24時間後、所望の生成物の収率は、約60%であった。
【0090】
実施例12: C末端グリシン−チオエステルとN末端Nα−(2−メルカプトベンジル)グリシン−ペプチドとのGly−Gly化学的ライゲーション
6員転位ライゲーションのために、デカマー(decamer)モデルペプチドのC末端Glyチオエステルフラグメント(MW 1357)3.5mgと、3 HisDnpを有するモデルペプチドのN末端Nα(2−メルカプトベンジル)グリシンフラグメント(MW 2079)2mgとを、200μlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH7.9)に溶解させ、2μlのチオフェノールを添加した。混合物を、33℃で、60時間、定温放置した。所望のライゲーション生成物(MW 2631)の形成を、ES−MSによって確認した。生成物と非反応N末端フラグメントとの比にもとづく実測収率は、約40%であった。
【0091】
C末端グリシン−チオエステルペプチドとNα 1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドとの化学的ライゲーション
5員転位ライゲーションのために、C末端Glyチオエステルフラグメント(MW 1357)2mgと、Nα 1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタン基を有する、3 HisDnpを有するモデルペプチドのN末端フラグメント(MW 2122)2.5mgとを、1μlのチオフェノールを含む100μlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH7.0)に溶解させた。反応混合物を、室温(〜25℃)で、定温放置し、ライゲーション反応を調べた。定温放置の3及び8時間後、所望のライゲーション生成物(MW 2675.9)の形成を、ES−MSによって確認した。24時間後、生成物と非反応N末端フラグメントとの比にもとづく所望のライゲーション生成物の収率は、約40%であった。次に、固体の炭酸水素ナトリウムを添加することにより、pHを、8.2に上昇させてから、反応混合物を、さらに24時間定温放置し、収率88%を得た。
【0092】
実施例13: Larc−アラニン−チオエステルとNα 1−,(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドとのAla−Gly化学的ライゲーション
マウスのLarc 1−31 Ala C末端ペプチドチオエステル3mg(MW 3609)と、モデルペプチドNα 1−,(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−S−Y−R−F−L 1mg(MW 908)とを、0.15mlの6molグアニジニウム緩衝液(pH8.2)及び0.03mlのチオフェノールに溶解させた。ペプチドチオエステルの消費から見積もって、一晩の撹拌の後、ライゲーションは、81%完了し、40時間後、92%完了した。予想されるライゲーション生成物は、4312Daであり、実際は4312Daであった。
【0093】
実施例14: Larc1−31−アラニン−チオエステルとNα 1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドとのAla−Gly化学的ライゲーション
マウスのLarc 1−31 Ala C末端ペプチドチオエステル3mg(MW 3609)と、モデルペプチドNα 1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−S−Y−R−F−L 1mg(MW 938)とを、0.15mlの6molグアニジニウム緩衝液(pH8.2)及び0.03mlのチオフェノールに溶解させた。ペプチドチオエステルの消費から見積もって、一晩の撹拌の後、ライゲーションは73%完了し、40時間後、85%完了した。計算予想されるライゲーション生成物の質量と実験によるそれとは、ともに4342Daであった。
【0094】
実施例15: C末端トリペプチドグリシン−チオエステルとN末端Nα−1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドとのGly−Gly化学的ライゲーション
ペプチドフラグメントFGG−チオエステル0.8mgと、モデルペプチドNα 1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−S−Y−R−F−L 1mg(MW 938)とを、0.1mlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH8.2)及び0.02mlのチオフェノールに溶解させた。一晩の撹拌の後、反応は実質的に完了した。計算予想されるライゲーション生成物の質量と実験によるそれとは、それぞれ1199.4Da及び1195.5Daであった。
【0095】
実施例16: 1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタンのライゲーション生成物からの除去
実施例15の精製ライゲーション生成物1mgを、0.95mlのTFA及び0.025mlの水及び0.025mlのTISに溶解させた。1時間後、溶剤を蒸発させ、水/アセトニトリルの50%溶液を添加し、混合物を凍結乾燥させた。HPLCによれば、開裂は95%よりも多く完了していた。計算予想される質量と実験によるそれとは、1003Daであった。
【0096】
実施例17: C末端トリペプチドグリシン−チオエステルとN末端Nα 1−,(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドとのGly−Gly化学的ライゲーション
トリペプチドペプチドフラグメントチオエステル、FGG−チオエステル1.6mgと、モデルペプチドNα 1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−S−Y−R−F−L 2mg(MW 908)とを、0.2mlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH8.2)及び0.04mlのチオフェノールに溶解させた。一晩の撹拌の後、反応は実質的に完了した。予想されるライゲーション生成物のMWは、1169.4Daであり、実際は1169.5Daであった。
【0097】
実施例18: ライゲーション後の1−(,4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタン基の除去
実施例17の精製ライゲーション生成物を、−2℃で、1時間、HF pクレゾールで処理した。HFを蒸発させた後、ライゲーション生成物をエーテルによって、沈殿させた。粗製ペプチドを、0.1% TFAを含む水/アセトニトリル50%溶液に取込み、HPLC上に噴射した。>80%の主ピークは、開裂ペプチドに関して予想される分子量を示した(予想質量1003Da、実際1003Da)。
【0098】
実施例19: C末端ヒスチジン−チオエステルとN末端Nα 1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドとのHis−Gly化学的ライゲーション
ペプチドフラグメントTBP−A 1−67 CαHisチオエステル4mgと、モデルペプチドNα 1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−S−Y−R−F−L 1mg(MW 938)とを、0.1mlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH8.2)及び0.02mlのチオフェノールに溶解させた。一晩の撹拌の後、ペプチドチオエステルの消費から見積もって、反応は87%完了した。予想されるライゲーション生成物の分子量は、9220Daであり、実際は、9220Daであった。
【0099】
実施例20: ライゲーション後の1−(2,4−ジメトキシフェニル)2−メルカプトエタン基の除去
H−Gライゲーション後の精製ペプチドフラグメント2mgを、0.95mlのTFA及び0.025mlの水及び0.025mlのTISに溶解させた。1時間後、溶剤を蒸発させ、残留物に水/アセトニトリルの50%溶液を添加し、混合物を凍結乾燥させた。HPLCによれば、開裂は90%よりも多く完了していた。予想されるMWは9023Daであり、実際は9024Daであった。
【0100】
実施例21: 拡張天然型化学的ライゲーションによるシトクロムb562の合成
3mg(0.4μmol)のシトクロム1−63 C末端チオエステル(MW 7349)と1.5mg(0.3μmol)のN末端Nα 1−,(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシンシトクロムb562残基64−106(MW 4970)を、触媒としての0.002mlのチオフェノールとともに、0.1mlの6Mグアニジニウムライゲーション緩衝液(pH7)に、溶解させた。図5Aを参照されたい。24時間後、0.025mlの2−メルカプトエタノールを混合物に添加し、そのまま45分間反応を進行させた。その後、15mgのTCEPを添加し、30分の撹拌ののち、ライゲーション混合物を半分離HPLCにかけた。漏出物(break through)を溶離し、混合物を脱塩してから、ライゲーション混合物のすべての成分を、65%Bの傾斜まで傾けて溶離し、単一のバイアルに集めた。脱塩された物質の分析HPLCによれば、ライゲーションは、C末端ペプチドの消費にもとづく見積もりでは、90%よりも多く完了していた。このHPLCは、二つの主ピーク(ジアステレオマー)を示し、計算質量と予想質量は11,946Daであった。図5Bと6Aを参照されたい。
【0101】
シトクロムb562(1−106)のアミノ酸配列は下記の通りである。

【0102】
実施例22: ライゲーションシトクロムb562残基1−106からの1−,(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタン基の除去と、天然たんぱく質の生成
次に、脱塩した溶液を、1−,(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタン基の除去に先立って、凍結乾燥した。凍結乾燥した物質を、−2℃で、1時間、HF 95% 5%アニソールと1mmolのシステイン(121mg)で処理した。標準的手順により、HFを蒸発させてから、100mlの50%緩衝液Bを添加し、混合物を凍結乾燥した。次に、混合物を半分離HPLCによって精製し、2mgの精製単一ピーク天然シトクロム1−106(56%の精製後収率)を得た。計算質量及び実際の質量は11,780Daであった。図6B及び7Aを参照されたい。
【0103】
野生型のシトクロムb562の類似体も、同じやり方で合成した。これを、Slm7 cyt b562で示す。このSlm7 cyt b562突然変異体は、位置7のメチオニンをセレノメチオニン(メチオニンのイオウをそれより低位の同種のセレニウムで置き換えたもの)で置き換えている点が野生型と異なる。円偏光二色性分光分析を行い、大きなαらせん成分が、アポ野生型b562とアポSlm b562との両方に含まれていることを示した(データ示さず)。ESMSによっても、アポ野生型b562とアポSlm b562との両方が予想される分子質量を有することが示された(データ示さず)。これらのアポたんぱく質を、ヘムによって再構成し(室温で、ヘムpH7 NaPiによって一晩)、得られたたんぱく質をイオン交換FPLCによって精製した(FPLC精製リソースQ、トリスHCL pH8、NaCl勾配)。たとえば、図7Bを参照されたい。ヘム再構成たんぱく質のUVによって見ることのできる(光)スペクトルは、Feに対するイオウまたはセレンの配位に一致することがわかった(データ示さず)。非配位アイソスターノルロイシン(non−coordinating isotere norleucine)によるcyt b562突然変異体も、同じやり方で生成した。これから、合成シトクロムを、拡張天然型化学的ライゲーションによって生成し、そのヘム活性部位を再構成して、生物物理学的方法で完全に特性決定した。それによると、この実施例は、さらに、初期の天然型化学的ライゲーション法に対して適当なシステインを欠くペプチド及びたんぱく質を、拡張天然型化学的ライゲーション法で生成し、また非標準的なアミノ酸を導入することができる、ということを示した。たとえば、多くのcyt b562突然変異体の折りたたみと反応性とを調べたが、天然にはない軸配位子はまだ調べていない。拡張天然型化学的ライゲーションとともに、使用できる非天然アミノ酸の莫大な量の配列を使用して、これら及びその他のたんぱく質の性質を系統的に調節できるはずである。
【0104】
実施例23: MCP 1−35−リシン−チオエステルと、Nα 1−,(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−ペプチドとのLys−Gly化学的ライゲーション
3mgのMCP 1−35 Lys C末端ペプチドチオエステルと1mgのモデルペプチドNα 1−,(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタングリシン−S−Y−R−F−L(MW 908)を、0.15mlの6Mグアニジニウム緩衝液(pH7)に溶解させ、トリエチルアミンと0.03mlのトリフェノールとの添加によってpH7.2に調節した。一晩の撹拌の後、ライゲーションは、ペプチドチオエステルの消費から見積もって、69%完了しており、40時間後、76%が完了していた。予想されるライゲーション生成物は4893Daであり、実際は、4893Dawであった。
【0105】
実施例24: ライゲーション後の1−(,4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタン基の除去
実施例23(Lys−Glyライゲーション)の凍結乾燥脱塩粗製物を、1mgのTFA、25μlのエタンジチオール、50μlのTISに溶解させた。次に、150μlのブロモトリメチルシランを添加した。反応を、室温("rt")で2時間進行させた。混合物の揮発性成分を真空中で蒸発させ、残留油を6Mのグアニジニウム緩衝液pH7.5に取込んだ。有機物質をCHCl3で抽出した。HPLCはもはや出発物質を示さず、したがって補助基の除去がうまくいったことを示している。天然配列の場合に予想される質量は4726Daであり、実際は4725Daであった。
【0106】
実施例25: GSYRFLペプチドに対するライゲーションの比較検討
実施例13〜20及び24のGSYRFLペプチドに対する5員転位ライゲーションの比較検討を、下記の表Vにまとめて示す。
【0107】
【表5】

【0108】
実施例26: BocグリシンN−1(4'−メトキシフェニル),2(4'−メチルベンジルチオ)エタンの生成
4'−メトキシ 2(4'メチルベンジルチオ)アセトフェノン2mmol(572mg)と、グリシンエチルエステルHCl塩2mmol(139.5mg)とを、15mlのDCM中に懸濁させた。DIEA 6mmol(1g)をゆっくりと添加し、窒素雰囲気で、1mlの四塩化チタン(1M溶液)を添加した。
【0109】
反応を室温で2日間進行させた。次に、ナトリウムシアノボロヒドリド6mmol(0.4g)を2.5mlの無水メタノールに溶解させたものを、添加した。TLCによれば、約40%の少量の新しい生成物が生じており、これは、精製したあと、NMRにより、N−1(4−メトキシフェニル),2(4−メチルベンジルチオ)エタングリシンエチルエステルと確認された。
【0110】
次に、1mmol(374mg)のN−1(4−メトキシフェニル),2(4−メチルベンジルチオ)エタングリシンエチルエステルを、2mlのTHFに溶解させ、得られる溶液に、2mmol(83mg)のLiOH水和物を添加した。一晩の撹拌の後、エステルは完全に加水分解されていた。THFを真空中で除去し、生成物を2mlのDMFに取込み、5mmol(1.1g)のジブチルジカーボネートを添加し、最後に、3mmol(0.45ml)のDIEAを加えた。一晩の反応の後、希釈したHCl水溶液を添加し、最終生成物を酢酸エチル(3×)によって抽出した。
【0111】
以上、本発明を十分に説明したが、本発明の趣旨及び特許請求の範囲を逸脱することなく前記実施形態には多くの変形及び変更を加えることができることは、当業者には容易に理解しうるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明におけるペプチドの拡張天然型化学的ライゲーションを説明する図である。
【図2】本発明における他のペプチドの拡張天然型化学的ライゲーションを説明する図である。
【図3】本発明における多要素の拡張天然型化学的ライゲーション法を説明する図である。
【図4】二つの異なる1−フェニル−2−メルカプトエチル補助基を使用する、本発明のライゲーション方策の概要を示す図である。
【図5A】Nα−1−(4−メトキシフェニル)−2−メルカプトエチル補助基を使用する、実施例21で述べるようなシトクロムb562に対するライゲーション反応に関する、分析高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の結果を示す図であり、時刻=0におけるライゲーション反応の状態を示す。
【図5B】図5Aと同様な図であり、反応を一晩進行させたあとのライゲーションの状態を示す。
【図6A】Nα−{1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタノ}改質N末端セグメントとの拡張天然型化学的ライゲーションを使用することによって生成されたライゲーション生成物シトクロムb562残基1−106の再構成エレクトロスプレー(reconstructed electrospray)質量分析(MS)の結果を示す図であり、ライゲーション部位に除去できるNα−{1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタノ}基を有する初期ライゲーション生成物のMS再構成を示す。
【図6B】図6Aと同様な図であり、ライゲーション部位に天然アミド結合を生成させるためにNα−{1−(4−メトキシフェニル)2−メルカプトエタノ}基を除去するフッ化水素(HF)処理後のライゲーション生成物のMS再構成を示す。
【図7A】図6Bに示す直鎖状シトクロムb562物質の代表的な分析HPLCの結果を示す図である。
【図7B】折りたたみ(folding)後の該物質のイオン交換クロマトグラムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N置換アミド化合物であって、

J1−C(O)−N(C1(R1)−C2−SH)−J2 I
または
J1−C(O)−N(C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)−SH)
−J2 II
を有し、
これらの式において、
J1及びJ2が、それぞれ個別に、随意に保護された一つ以上のアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチド、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカーであり、
R1、R2、及びR3が、それぞれ個別に、共有結合によってC1に複合したHまたは電子供与基であり、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換されていない、あるいは、オルソ位置あるいはパラ位置でヒドロキシルあるいはチオールで置換された、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択され、
C2及びC3は炭素であるが、
ただし前記R1、R2、及びR3のうち少なくとも一つが、C1に複合した前記電子供与基から成る、
ことを特徴とするN置換アミド化合物。
【請求項2】
当該式Iを有することを特徴とする請求項1に記載のN置換アミド化合物。
【請求項3】
C1(R1)が、下記のA、B、及びC
【化1】

から成る群から選択され、
これらの式において、
R1'、R3'、及びR5'が、同じかまたは異なることのできる電子供与基から成り、水素、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項2に記載のN置換アミド化合物。
【請求項4】
当該式IIを有することを特徴とする請求項1に記載のN置換アミド化合物。
【請求項5】
C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)が、下記のD、E、F、G、H及びI
【化2】

から成る群から選択され、
これらの式において、
R1'、R3'、及びR5'のうち一つ以上が、同じかまたは異なることのできる電子供与基から成り、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項4に記載のN置換アミド化合物。
【請求項6】
当該置換されたNが、Nα置換アミドであることを特徴とする請求項1から5の中のいずれか1つに記載のN置換アミド化合物。
【請求項7】
R1'、R3'、及びR5'のうち少なくとも一つが、メトキシ(−OCH3)、チオール(−SH)、ヒドロキシル(−OH)、及びチオメチル(−SCH3)から成る群から選択されることを特徴とする請求項3または5に記載のN置換アミド化合物。
【請求項8】
R1'、R3'、及びR5'のうち少なくとも一つが、メチル(−CH3)、エチル(−CH2−CH3)、プロピル(−CH2−CH2−CH3)、及びイソプロピル(−CH2(CH33)から成ることを特徴とする請求項3または5に記載のN置換アミド化合物。
【請求項9】
J1が、一つ以上の随意に保護されたアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチドであるか、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分であることを特徴とする請求項1、2、または4に記載のN置換アミド化合物。
【請求項10】
J1が、ポリマーであることを特徴とする請求項1、2、または4に記載のN置換アミド化合物。
【請求項11】
J2が、一つ以上の随意に保護されたアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチドであるか、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分であることを特徴とする請求項1、2、または4に記載のN置換アミド化合物。
【請求項12】
J2が、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカー、または化学的ペプチド合成もしくは拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の他の化学成分であることを特徴とする請求項1、2、または4に記載のN置換アミド化合物。
【請求項13】
酸安定なN置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオール化合物であって、

HS−C2−C1(R1)−HN−J2 III
または
HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−HN−J2 IV
を有し、
これらの式において、
J1及びJ2が、それぞれ個別に、随意に保護された一つ以上のアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチド、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカー、または化学的ペプチド合成もしくは拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の他の化学成分であり、
R1、R2、及びR3が、それぞれ個別に、共有結合によってC1に複合したHまたは電子供与基であり、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換された、あるいは置換されていない、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択されるが、
ただしR1、R2、及びR3のうち少なくとも一つが、共有結合によってC1に複合した電子供与基から成る、
ことを特徴とする酸安定なN置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオール化合物。
【請求項14】
当該化合物が式IIIを有することを特徴とする請求項13に記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項15】
C1(R1)が、下記のA、B、及びC
【化3】

から成る群から選択され、
これらの式において、
R1'、R3'、及びR5'のうち一つ以上が、同じかまたは異なることのできる電子供与基から成り、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換された、あるいは置換されていない、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項14に記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項16】
当該化合物が式IVを有することを特徴とする請求項13に記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項17】
C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)が、下記のD、E、F、G、H及びI
【化4】

から成る群から選択され、
これらの式において、
R1'、R3'、及びR5'のうち一つ以上が、同じかまたは異なることのできる電子供与基から成り、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換された、あるいは置換されていない、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項16に記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項18】
当該置換NがNα置換化合物であることを特徴とする請求項13から17の中のいずれか1つに記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項19】
R1'、R3'、及びR5'のうち少なくとも一つが、メトキシ(−OCH3)、チオール(−SH)、ヒドロキシル(−OH)、及びチオメチル(−SCH3)から成る群から選択されることを特徴とする請求項15または17に記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項20】
中程度の電子供与基が、メチル(−CH3)、エチル(−CH2−CH3)、プロピル(−CH2−CH2−CH3)、及びイソプロピル(−CH2(CH33)から成ることを特徴とする請求項15または17に記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項21】
J2が、一つ以上の随意に保護されたアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチドであるか、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分であることを特徴とする請求項13、14、または16に記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項22】
J2が、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカー、または化学的ペプチド合成もしくは拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の他の化学成分であることを特徴とする請求項13、14、または16に記載の酸安定なN置換化合物。
【請求項23】
N置換アミド化合物であって、

J1−C(O)−N(C1(R1)−C2−SH)−J2 I
または
J1−C(O)−N(C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)−SH)
−J2 II
を有し、
これらの式において、
J1及びJ2が、それぞれ個別に、随意に保護された一つ以上のアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチド、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカーであり、
R1、R2、及びR3が、それぞれ個別に、共有結合によってC1に複合したHまたは電子供与基であり、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換されていない、あるいは、オルソ位置あるいはパラ位置でヒドロキシルあるいはチオールで置換された、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択され、
式 J1−C(O)SR のα−カルボキシルチオエステルから成る第一の要素を、

HS−C2−C1(R1)−HN−J2 III
または
HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−HN−J2 IV
を有する酸安定なN置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールから成る第二の要素と結合するプロセスによって生成され、
式III及びIVにおいて、
R1、R2、及びR3が、それぞれ個別に、共有結合によってC1に複合したHまたは電子供与基であり、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換された、あるいは置換されていない、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択されるが、ただしR1、R2、及びR3のうち少なくとも一つが、共有結合によってC1に複合した電子供与基から成る、
ことを特徴とするN置換アミド化合物。
【請求項24】
当該酸安定なN置換化合物が、式IIIを有することを特徴とする請求項23に記載のN置換アミド化合物。
【請求項25】
当該酸安定なN置換化合物のC1(R1)が、下記のA、B、及びC
【化5】

から成る群から選択され、
これらの式において、
R1'、R3'、及びR5'のうち一つ以上が、同じかまたは異なることのできる電子供与基から成り、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換された、あるいは置換されていない、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項24に記載のN置換アミド化合物。
【請求項26】
当該酸安定なN置換化合物が、前記式IVを有することを特徴とする請求項23に記載のN置換アミド化合物。
【請求項27】
C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)が、下記のD、E、F、G、H及びI
【化6】

から成る群から選択され、
これらの式において、R1'、R3'、及びR5'のうち一つ以上が、同じかまたは異なることのできる電子供与基から成り、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換された、あるいは置換されていない、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項26に記載のN置換アミド化合物。
【請求項28】
当該置換Nが、Nα置換化合物であることを特徴とする請求項23から26の中のいずれか1つに記載のN置換アミド化合物。
【請求項29】
R1'、R3'、及びR5'のうち少なくとも一つが、メトキシ(−OCH3)、チオール(−SH)、ヒドロキシル(−OH)、及びチオメチル(−SCH3)から成る群から選択されることを特徴とする請求項25または27に記載のN置換アミド化合物。
【請求項30】
R1'、R3'、及びR5'のうち少なくとも一つが、メチル(−CH3)、エチル(−CH2−CH3)、プロピル(−CH2−CH2−CH3)、及びイソプロピル(−CH2(CH33)から成る群から選択されることを特徴とする請求項25または27に記載のN置換アミド化合物。
【請求項31】
J1が、一つ以上の随意に保護されたアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチドであるか、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分であることを特徴とする請求項23、24、または26に記載のN置換アミド化合物。
【請求項32】
J2が、一つ以上の随意に保護されたアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチドであるか、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分であることを特徴とする請求項23、24、または26に記載のN置換アミド化合物。
【請求項33】
J2が、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカーであることを特徴とする請求項23、24、または26に記載のN置換アミド化合物。
【請求項34】

J1−C(O)−HN−J2 V
を有し、
この式において、
J1及びJ2が、それぞれ個別に、随意に保護された一つ以上のアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチド、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカーである、
化合物を生成する方法であって、
ステップ(A) 式 J1−C(O)SR のα−カルボキシルチオエステルから成る第一の要素を、

HS−C2−C1(R1)−HN−J2 III
を有する酸安定なN置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールから成る第二の要素と結合させて、

J1−C(O)−N(C1(R1)−C2−SH)−J2 I
を有するN置換アミド結合ライゲーション生成物を生成し、
式IIIにおいて、
R1は共有結合によってC1に複合した電子供与基であり、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換されていない、あるいは、オルソ位置あるいはパラ位置でヒドロキシルあるいはチオールで置換された、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択され、
ステップ(B) 前記2炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを、前記N置換アミド結合ライゲーション生成物から、Nα−C1結合の開裂によって除去する、
各ステップから成る、
ことを特徴とする方法。
【請求項35】

J1−C(O)−HN−J2 V
を有し、
この式において、
J1及びJ2が、それぞれ個別に、随意に保護された一つ以上のアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチド、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカー、または化学的ペプチド合成もしくは拡張天然型化学的ライゲーションに適合する任意の他の化学成分である、
化合物を生成する方法であって、
ステップ(A) 式 J1−C(O)SR のα−カルボキシルチオエステルから成る第一の要素を、

HS−C3(R3)−C2(R2)−C1(R1)−HN−J2 IV
を有する酸安定なN置換2または3炭素鎖アミノアルキルまたはアリールチオールから成る第二の要素と結合させて、

J1−C(O)−N(C1(R1)−C2(R2)−C3(R3)−SH)
−J2 II
を有するN置換アミド結合ライゲーション生成物を生成し、
式IVにおいて、
R1、R2、及びR3が、それぞれ個別に、C1に複合したHまたは電子供与基であり、ただし、R1、R2、及びR3が、共有結合によってC1に複合した電子供与基から成り、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換されていない、あるいは、オルソ位置あるいはパラ位置でヒドロキシルあるいはチオールで置換された、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択され、
ステップ(B) 前記3炭素鎖アルキルまたはアリールチオールを、前記N置換アミド結合ライゲーション生成物から、Nα−C1結合の開裂によって除去する、
各ステップから成る、
ことを特徴とする方法。
【請求項36】
当該酸安定なN置換化合物のC1(R1)が、下記のA、B、及びC
【化7】

から成る群から選択され、
これらの式において、
R1'、R3'、及びR5'のうち一つ以上が、同じかまたは異なることのできる電子供与基から成り、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換された、あるいは置換されていない、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択される
ことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項37】
当該酸安定なN置換化合物のC1(R1)−C2(R2)−C3(R3)が、下記のD、E、F、G、H及びI
【化8】

から成る群から選択され、
これらの式において、R1'、R3'、及びR5'のうち一つ以上が、同じかまたは異なることのできる電子供与基から成り、置換された、あるいは置換されていない、フェニル;置換された、あるいは置換されていない、ピコリル;メタンエチオル、スルホキシメチル、メトキシ、チオール、ヒドロキシル、メチルチオ、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項38】
当該N置換化合物が、Nα置換化合物であることを特徴とする請求項34から37の中のいずれか1つに記載の方法。
【請求項39】
R1'、R3'、及びR5'のうち少なくとも一つが、メトキシ(−OCH3)、チオール(−SH)、ヒドロキシル(−OH)、及びチオメチル(−SCH3)から成る群から選択されることを特徴とする請求項36または37に記載の方法。
【請求項40】
R1'、R3'、及びR5'のうち少なくとも一つが、メチル(−CH3)、エチル(−CH2−CH3)、プロピル(−CH2−CH2−CH3)、及びイソプロピル(−CH2(CH33)から成る群から選択されることを特徴とする請求項36または37に記載の方法。
【請求項41】
J1が、一つ以上の随意に保護されたアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチド、またはそのようなペプチドまたはポリペプチドの成分であることを特徴とする請求項36または37に記載の方法。
【請求項42】
J2が、一つ以上の随意に保護されたアミノ酸側鎖を有するペプチドもしくはポリペプチドであるか、またはそのようなペプチドもしくはポリペプチドの成分であることを特徴とする請求項36または37に記載の方法。
【請求項43】
J2が、ポリマー、染料、官能基を有する表面、リンカーもしくは検出可能なマーカーであることを特徴とする請求項36または37に記載の方法。
【請求項44】
当該化合物が溶液中で合成されることを特徴とする請求項36または37に記載の方法。
【請求項45】
当該化合物が、固体支持体に固定されて合成されることを特徴とする請求項36または37に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2008−150393(P2008−150393A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25907(P2008−25907)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【分割の表示】特願2002−525177(P2002−525177)の分割
【原出願日】平成13年9月7日(2001.9.7)
【出願人】(501084271)グリフォン セラピューティクス,インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】