説明

拡張管を応用した気管チューブを装填可能な喉頭鏡

【課題】
気管挿管の操作性を高め、気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を十分に確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、確実に気管チューブを挿管することが可能な喉頭鏡を提供する。
【解決手段】
施術者により把持されるグリップ20と、グリップ20に装着されるとともに、患者の喉頭内に挿入される略円弧状に形成されたブレード10とを備え、ブレード10は気管チューブが着脱自在に装着されるガイド溝11を備える。ガイド溝11は底面部10a、側壁部10b、及びガイド板部材10cにより構成され、気管チューブをガイド溝11に装着することで気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を十分に確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、確実に気管チューブを挿管することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気管挿管時に使用される喉頭鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、気管挿管時において、患者の口腔内に気管チューブを挿入する際には、喉頭鏡が用いられる。喉頭鏡は、例えば、図7に示すように患者の口腔から喉頭内にかけて挿入され、喉頭蓋を持ち上げて声門を確認するためのブレード50と、当該ブレード50を支持するとともに、施術者が把持するグリップ60とを備える。
【0003】
このような構成を備える喉頭鏡として、用いられるブレードの形状や機能の違いにより、例えば、図7に示したマッキントッシュ型喉頭鏡、ミュラー型喉頭鏡、特殊な喉頭鏡(マッコイ喉頭鏡、ブラード喉頭鏡)等が知られており、多くの医療現場で多用されている。
【0004】
しかしながら、例えば、極度の開口制限や、極度の頚部前屈等の理由により、従来の喉頭鏡では、口腔から喉頭内にかけての視界を十分に確保できないといった問題があった。このような問題を解決するため、例えば、特許文献1には、撮像素子を備えた撮像カメラと照明用光源とを備え、喉頭内を高解像度で観察することができる喉頭鏡についての発明が開示されている。
【0005】
ところで、本願出願人は、血管、気管あるいは消化管などの体内の管腔内の目的位置に留置するまでの操作が容易で、かつ、管路面積を大きくすることができ、さらに、接触する管内壁面に対する負荷を低減することができる挿入管について特許出願した(特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2記載の挿入管は、薄肉の内管と、この内管の外周面に沿って配置され前記内管の外径よりも大きな管径を有する薄肉の外管と、この外管の内周面と前記内管の外周面との間に設けられ流体を収納する流体収納空間部と、この流体収納空間部に接続管を介して前記流体を流入、流出させるための流体入出機構とを備え、前記流体収納空間部は、前記外管の先端および後端を前記内管の円周方向に連続的に接続する端部接続部と、前記内管の外周面および前記外管の内周面を間欠的に接続する間欠接続部を介して形成されるものである。
【0007】
【特許文献1】特開2000−175867号公報
【特許文献2】特開2005−253804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されるような喉頭鏡においては、撮像カメラと照明用光源により喉頭内を高解像度で観察することができるが、撮像素子を駆動するとともに、当該撮像素子から出力された画像信号を増幅して外部のディスプレイに出力するためのコントロールユニットがグリップ内に設けられているため、喉頭鏡自体の自重が嵩むことになる。また、増幅された画像信号を出力するための電気信号線が外部ディスプレイに接続されているため、気管挿管時における操作性が悪いといった問題があった。さらに、撮像カメラと照明用光源により喉頭内を高解像度で観察することができたとしても、従来の約10mm程度の管径を有する気管チューブを使用する限り、喉頭鏡のブレードと気管チューブとにより口腔内の視界が遮られてしまうため、結局のところ十分な視界を確保することができない。さらにまた、施術者は片方の手では喉頭鏡を操作しながら患者の喉頭蓋を持ち上げ、もう片手の手では喉頭鏡から離れた位置で気管チューブを挿管しなければならいので、操作が煩雑になり、誤って気管チューブを食道側に挿管してしまうといった危険性もあった。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、気管挿管の操作性を高め、気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を十分に確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、確実に気管チューブを挿管することが可能な喉頭鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは鋭意研究を行った結果、特許文献2において開示された発明である挿入管を改良した気管チューブを別途開発し、当該気管チューブを装着可能な喉頭鏡を開発することにより、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明にかかる喉頭鏡は、施術者により把持されるグリップと、グリップに装着されるとともに、患者の喉頭内に挿入される略円弧状に形成されたブレードとを備え、ブレードは気管チューブが着脱自在に装着されるガイド溝を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の喉頭鏡のブレードは、気管チューブが着脱自在に装着されるガイド溝を備える。したがって、施術者は気管チューブがガイド溝に狭入された状態で挿管動作を行うことができるので、喉頭鏡のグリップを把持する手と気管チューブを把持する手とが近接し、気管挿管の操作性を高めることができる。
【0013】
また、ガイド溝はブレードの片端縁に沿って形成された側壁の壁面上に立設形成されたガイド板部材から構成されることを特徴とする。したがって、部品点数を最小限に留めることができ、喉頭鏡自身の自重が嵩むことがない。さらに、このガイド板部材は前記ブレードと略同一の曲率を持って形成されるため、ブレードの先端方向と気管チューブの挿入方向を一致させることができる。
【0014】
さらにまた、喉頭鏡に装着される気管チューブは所定の流体の流入により収縮した状態から拡張可能な気管チューブであり、当該拡張式気管チューブは扁平状に折畳まれた状態でガイド溝に装着されることを特徴とする。このような構成を備えた気管チューブを本発明の喉頭鏡に装着し、収縮させた状態で口腔から喉頭内にかけて挿入することで、視界が遮られる程度を最小限に抑えることができる。そして、挿入後は所定の流体を気管チューブに流入させることで拡張させ、気管内の所定留置位置に気管チューブを留置させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の喉頭鏡によれば、気管挿管の操作性を高め、気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を十分に確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、確実に気管チューブを挿管することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0017】
図1(A)は、本発明にかかる喉頭鏡30のブレード10の構成を説明する概略外観図である。ブレード10には、下向きに湾曲して形成された底面部10aの片端縁に沿って徐々に上昇するように側壁部10bが形成されている。そして、側壁部10bに対して垂直方向にガイド板部材10cが立設形成されている。ガイド板部材10cは、底面部10aと略同一の曲率となるように形成され、図1(B)に示すように、底面部10aに対して略平行となる。ガイド板部材10cの短手方向長さは特には限定されないが、安定して気管チューブを侠入できるように、底面部10aの短手方向長さと同一の長さとするのが好ましい。このようにして、底面部10a、側壁部10b、及びガイド板部材10cにより気管チューブが狭入されるガイド溝11が構成される。なお、図1(B)は図1(A)中の線分A−Aにおける断面形状を説明する図である。
【0018】
また、側壁部10bには円筒状ガイド溝10dが形成されており、例えば図示せぬ光ファイバ等の照明用光源を装着することができる。また、端子ブロック12は、ブレードの後端部の側面にねじ13で取り付けられるものであり、その係合凹部12aを図2に示すグリップ20の図示せぬ係合ピンに係合させた状態でねじ13の球形ヘッド13aがグリップ20の図示せぬ係合溝に係合するようになっている。なお、ブレード10とグリップ20との分離・装着にかかる構成に関しては周知である。
【0019】
図3は、ブレード10をグリップ20に装着した状態を説明する概略外観図である。施術者は、気管チューブをガイド溝11に侠入させた後、グリップ20に形成された把持部20aを逆手に把持してブレード10を口腔から喉頭内にかけて挿入し、気管チューブを気管内に挿入する。
【0020】
ここで、喉頭鏡30に装着される気管チューブ40について説明する。気管チューブ40としては、例えば、患者の呼吸に伴う気体を流通させる内径を有する薄肉の内管と、内管の外周面に沿って配設され内管の外径より大きな管径を有する薄肉の外管と、外管の内周面と内管の外周面との間に配設され、外管の先端及び後端を内管の円周方向に連続的に接続する第1の端部接続部と内管の外周面及び外管の内周面を間欠的に接続する間欠接続部とを介して形成された第1の流体収納空間部と、流体が流入することで拡張し患者の気管内壁に当接するカフ部を有し、外管の外周面に沿って配設された薄肉の最外管と、最外管の内周面と外管の外周面との間に配設され、最外管の先端及び後端を外管の円周方向に連続的に接続する第2の端部接続部を介して形成された第2の流体収納空間と、第1の流体収納空間部及び/又は第2の流体収納空間に流体を流入、流出させるための流体入出機構とを備え、内管、外管、及び最外管は扁平状に折り畳まれた状態に形成されたものを用いることができる。
【0021】
上記構成の気管チューブ40を用いる場合、図4に示すように、気管チューブ40内に一端側が鋭頭形状に形成されたスタイレット41を挿入して使用する。そして、図5に示すように、施術者は、気管チューブ40内にスタイレット41を挿入した状態で、喉頭鏡30のガイド溝11に装着する。なお、スタイレット41の気管への挿入方向一端側は鋭頭形状に形成されているため、声門の隙間をぬって気管チューブ40を挿入することができる。このとき、気管挿管される患者の口腔及び喉頭内の状況に応じて、予め気管チューブ40に内包されたスタイレット41を所定の角度に折り曲げておいてもよい。
【0022】
次に、上記構成の気管チューブ40を装着した喉頭鏡30による気管への挿入方法について図6を用いて説明する。
【0023】
まず、気管チューブ40を喉頭鏡30のガイド溝11に装着し、喉頭鏡30のブレード10を口腔から喉頭内にかけて挿入する。そして、ブレード10を患者の喉頭蓋Gに挿入し、グリップ20の把持部20aを持ち上げることで声門Hを確認する(図6(A))。本発明の喉頭鏡30によれば、口腔から喉頭内にかけての視界の遮りは最小限に抑えられているため、施術者は、容易に声門Hを確認することができる。また、従来は施術者は声門Hを確認してから気管チューブ40を口腔へ挿入していたが、本発明では予め気管チューブ40が喉頭鏡30のガイド溝11に装着されているので操作性は大幅に向上する。
【0024】
そして、施術者は声門Hを通し、さらに所定の留置位置まで気管チューブ40を挿入する。気管チューブ40が所定の留置位置に到達すると(図6(B))、施術者は気管チューブ40に内包されたスタイレット41を引き抜く。次いで、喉頭鏡30も患者の口腔内から引き抜く(図6(C))。このとき、喉頭鏡30に形成されたガイド溝11は、図1(B)に示すように、コの字形状であり、一側面が開放状態となっているため、気管チューブ40を引っ掛けることなく喉頭鏡30を患者の口腔内から引き抜くことができる。なお、この段階では、例えば、手で気管チューブ40を保持した状態で、最初に喉頭鏡30を引き抜き、次いで気管チューブ40に内包されたスタイレット41を引き抜く順番としてもよい。さらに、気管チューブ40に内包されたスタイレット41は留置されたまま次の段階に操作を進めてもよい。
【0025】
次に、気管チューブ40に所定の流体を流入させる。すると、気管チューブ40は折畳まれた状態から拡張されるとともに、カフ部も気管内壁に当接するまで拡張されるので、気管チューブ40は所定の留置位置に安定して留置されることになる(図6(D))。なお、この段階においてまだスタイレット41が留置されている場合には、気管チューブ40の拡張後にスタイレット41を引き抜いてもよい。
【0026】
以上のように、本発明の実施形態にかかる喉頭鏡によれば、気管挿管の操作性を高め、気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を十分に確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、確実に気管チューブを挿管することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】喉頭鏡30のブレード10の構成を説明する概略外面図である。
【図2】喉頭鏡30のグリップ20の構成を説明する概略外面図である。
【図3】喉頭鏡30を説明する概略外面図である。
【図4】気管チューブ40の喉頭鏡30への装着方法を説明する図である。
【図5】気管チューブ40の喉頭鏡30への装着方法を説明する図である。
【図6】気管チューブ40を装着した喉頭鏡30による気管挿管方法を説明する図である。
【図7】従来の喉頭鏡を説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
10 ブレード
10a 底面部
10b 側壁部
10c ガイド板部材
10d 円筒形ガイド溝
11 ガイド溝
12 端子ブロック
12a 係合凹部
13 ねじ
13a 球形ヘッド
20 グリップ
20a 把持部
30 喉頭鏡
40 気管チューブ
41 スタイレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施術者により把持されるグリップと、
前記グリップに装着されるとともに、患者の喉頭内に挿入される略円弧状に形成されたブレードとを備え、
前記ブレードは気管チューブが着脱自在に装着されるガイド溝を備えることを特徴とする喉頭鏡。
【請求項2】
前記ガイド溝は前記ブレードの片端縁に沿って形成された側壁の壁面上に立設形成されたガイド板部材から構成されることを特徴とする請求項1記載の喉頭鏡。
【請求項3】
前記ガイド板部材は前記ブレードと略同一の曲率を持って形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の喉頭鏡。
【請求項4】
前記気管チューブは所定の流体の流入により収縮した状態から拡張可能な気管チューブであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の喉頭鏡。
【請求項5】
前記気管チューブは扁平状に折畳まれた状態で前記ガイド溝に装着されることを特徴とする請求項4記載の喉頭鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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