説明

拡繊装置

【課題】拡繊装置にて繊維束に割れが生じるのを防止する、複数のフィラメントが集合されてなる繊維束を拡繊対象とする拡繊システムを提供する。
【解決手段】繊維束流送部43に、位置規制ローラ43g,43hを配置して、繊維束1の流送位置を規制する。絞りローラ機構52を拡繊槽40の液体外に配置し、拡繊槽40の液体中から絞りローラ機構52まで繊維束1を第1のガイド部51に常時接触させながら案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のフィラメントが集合されてなる繊維束を拡繊対象とする拡繊システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の拡繊装置としては、静電拡繊法によるもの、プレス拡繊法によるもの、ジェット拡繊法によるもの、超音波拡繊法によるものが知られている。これらの拡繊法において、超音波を利用するものは、平4−70420特許公報、特許公報特開平7−145556号公報に示すように、超音波発生装置を所定の液槽内に備え、この液槽内に拡繊対象の繊維束が流送される繊維束流送部を設け、流送部において超音波による拡繊を行う。
【0003】
現今、例えば、炭素繊維である各フィラメントを集合させた繊維束が、プリプレグ等の複合材料半製品を得るために使用されるが、この繊維束に要求される拡繊度合いは、急速に高いものとなってきている。例えば、無撚炭素繊維:7μmフィラメントの12,000本束=元幅約6mm、元厚約0.13から0.16mmのものを、最終的な拡繊状態で、幅25mm、厚み0.02mm程度まで拡繊することが要求されている。
【0004】
かかる事情に鑑み、本発明者は、繊維束が張力を付与された状態で、複数のローラに対して各ローラ表面に接触しながら屈曲経路を成して流送される繊維束流送部を液中に備えると共に、前記液中に超音波を伝播させて前記繊維束流送部の繊維束を拡繊する予備拡繊装置と、前記予備拡繊装置により拡繊された予備拡繊済み繊維束を、さらに拡繊する本拡繊装置とを備えた拡繊システムを提案している(特許第3382607号)。
【0005】
【特許文献1】特開平4−070420号公報、
【特許文献2】特開平7−145556号公報
【特許文献3】特許第3382607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
7μm程度の細いフィラメントを最終的な拡繊状態で、幅25mm、厚み0.02mm程度に配列すると、幅方向に約3600本程度配列されるのに対し、厚み方向には概ね3〜4本程度しか配列されない。このように幅方向に比べて厚み方向の配列数が極めて少ないと、繊維束に割れが生じやすい。
【0007】
例えば、上記の拡繊システムの予備拡繊装置においては、繊維束流送部における拡繊作用が経時的に上昇する。拡繊時間が長すぎると、繊維束流送部から排出された時点で既に繊維束の割れが生じていることもある。このため、上記の拡繊システムでは、予備拡繊装置と本拡繊装置の二段工程とし、予備拡繊装置の拡繊時間を必要以上に抑えて予備拡繊に留める必要がある。
【0008】
また、上記の拡繊システムにおいては、繊維束を液体に浸した状態で拡繊が行われる。拡繊後に繊維束が液外へ出されると、繊維束に付着した液体の表面張力によってフィラメントどうしが重なり、繊維束に割れが生じる。このような問題を回避するために、上記の拡繊システムは、絞りローラ機構を備えている。絞りローラ機構は、一部が液中に浸漬されている金属ローラと、この金属ローラに上側から当接するゴムローラから構成されており、両ローラ間を拡繊済みのシートが通過することで、拡繊シートに付着した液を除去する(特許文献3[0046]参照)。しかし、この絞りローラ機構による液体の除去効率
が低いと、液体を絞った後でも液体の表面張力により繊維束の割れが生じることがある。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み創案されたものであって、その目的は、繊維束の割れを防止して歩留りを向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る拡繊装置は、複数のフィラメントが集合されてなる繊維束を拡繊対象とし、繊維束に張力を付与した状態で、複数の拡繊ローラの表面に繊維束を接触させながら屈曲経路を成して流送する繊維束流送部を液体中に配置して繊維束を拡繊すると共に、拡繊された繊維束に付着した液体を絞りローラ機構にて除去する拡繊装置において、絞りローラ機構が拡繊槽の液体外に配置され、繊維束が拡繊槽の液体中から絞りローラ機構に至るまで離間させずに接触させたまま案内する第1のガイド部を備えたことを特徴とする。
【0011】
上記拡繊装置は、絞りローラ機構を拡繊槽の液体外に配置して繊維束を絞るようにしたので、繊維束から絞られた液体しか絞りローラ機構に付着しない。このように絞りローラ機構に余分な液体を付着させないことで、繊維束からの液体除去効率がアップし、繊維束の割れが防止される。一方、絞りローラ機構を液体外に配置することで、拡繊槽の液体中から絞りローラ機構に至る間に、繊維束には液体の表面張力が作用する。この間、繊維束を第1のガイド部に常時接触させることで、液体の表面張力が抑制される。
【0012】
また、絞りローラ機構から流送された繊維束を乾燥ローラに巻回して乾燥させる乾燥部を有する場合、絞りローラ機構から乾燥ローラまで繊維束を常時接触させながら案内する第2のガイド部を設ける。絞りローラ機構から乾燥ローラに至る間、繊維束を第2のガイド部に常時接触させることで、絞りローラ機構にて絞られた繊維束に液体が残っていても、かかる液体の表面張力が抑制される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は前述の如く構成され、繊維束を第1のガイド部に常時接触させることで、繊維束に作用する液体の表面張力が抑制されて繊維束の割れが防止され歩留りを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る拡繊装置の一実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る拡繊装置の一実施形態を例示する概略立面図である。この拡繊装置は、複数本のフィラメントが無撚状に集合した繊維束1を拡繊対象とする。このような繊維束1の例としては、例えば7μmのフィラメントを12,000本束ねて、拡繊前の元幅を約6mm、元厚を約0.16mmとする無撚炭素繊維を挙げることができる。このような繊維束1を本発明装置によって、幅約25mm、厚0.02mm程度まで拡繊する。
【0016】
この拡繊装置は、図1に示すように、給糸部10、加熱室20、従軸駆動ローラ機構30、拡繊槽40、絞り案内部50、乾燥部60、主軸駆動ローラ機構70、および、巻取部80を主要な構成要素として備えている。
【0017】
この構成より、給糸部10に配設されている給糸ボビン11から繊維束1を引き出して、所定の拡繊処理を行った後、巻取部80に巻き取ることができる。繊維束1は、従軸駆動ローラ機構30、主軸駆動ローラ機構70、および、巻取部80の駆動力により給糸部10から引き出される。繊維束1に付与される張力は、従軸駆動ローラ機構30及び主軸駆動ローラ機構70における接触力と、巻取部80のトルクによって適宜調整される。な
お、給糸部10には繊維束1への過負荷を防止するためにトルクリミッタ12を設けてある。
【0018】
加熱室20は、遠赤外線発生器等の熱源21から熱風が送風され、給糸部10から繰り出された繊維束1を加熱する。繊維束1は、フィラメントの集合性や樹脂との接着性を高めるために予めサイジング剤(糊剤)が塗布されている。このサイジング剤は、繊維束1の長さ方向及び幅方向に不均一に塗布されているため、この様な繊維束1を拡繊しても繊維束の拡繊を均一に行うことが難しい。拡繊前に予め繊維束1を加熱することで繊維束1に付着したサイジング剤が柔らかくなり、フィラメントの拘束状態が緩和するので、繊維束1の拡繊幅を安定させることができる。
【0019】
加熱室20の内部には、繊維束1の位置調整器22と、複数の傾きローラ23a,23b,23cが配置される。繊維束1は、給糸ボビン11にトラバース巻きされているので、給糸部10から引き出すと、流送位置が一定でない。このため、給糸部10から引き出された繊維束1の流送位置を位置調整器22によって一定化させる。この位置調整器22はローラ型で、一対のローラで繊維束1を挟み、流送される繊維束1に沿って往復動することで、繊維束1の流送位置を整える。繊維束1は、ローラ型の位置調整器22による位置調整で所定の角度ねじられる。傾きローラ23a,23b,23cは、このねじりを元に戻す作用を奏する。ここでは、複数の傾きローラ23a,23b,23cを配設して、繊維束1のねじりを徐々に戻すようにしている。
【0020】
従軸駆動ローラ機構30は、互いに近接配置された一対のローラ31,32からなる。一方は従軸駆動ローラ31で、他方はプレスローラ32である。プレスローラ32が繊維束1を介して従軸駆動ローラ31を押圧することで、従軸駆動ローラ31に対する繊維束1の接触力が高められ、従軸駆動ローラ31の駆動力が繊維束1に伝達される。逆に、従軸駆動ローラ31からプレスローラ32を引き離すと、従軸駆動ローラ31の駆動力は繊維束1にほとんど伝達されない。なお、図中の符号33は位置安定用可変ローラで、繊維束1が従軸駆動ローラ31の所望の位置(例えば中央)へ案内されるように、繊維束1の位置を調整する。
【0021】
拡繊槽40は、水等の液体を貯留する液槽41と、液槽41内の液体に超音波を伝播させる超音波発生器42と、繊維束1を接触させながら屈曲経路を成して流送する繊維束流送部43とを備える。繊維束流送部43は、液体中に配置される複数のローラ43a〜43iからなる。両端のローラ43a,43iは、それぞれ入口ローラ及び出口ローラで、これらの相互間には、拡繊ローラ43b〜43fと位置規制ローラ43g,43hが千鳥状に配列される。
【0022】
拡繊ローラ43b〜43fは、図2に示すように、中央部に膨らみをもたせた凸曲面部44を有し、定位置で回転する。ここでは、拡繊ローラ43b〜43fの両側に立設した一対の固定板45a,45bによって各拡繊ローラ43b〜43fを回転自在に支持したものを示している。繊維束1は、凸曲面部44に接触しながら流送され、凸曲面部44に沿って幅を広げられる。超音波発生器42によって、液体中に超音波を伝播させると、拡繊ローラ43b〜43fによる拡繊作用が促進される。なお、図2では、拡繊ローラ43bと拡繊ローラ43d,43f、および、拡繊ローラ43cと拡繊ローラ43eがそれぞれ重なっているので、拡繊ローラ43d〜43eの図示を省略している。
【0023】
位置規制ローラ43g,43hはいずれも、拡繊ローラ43b〜43fとほぼ平行に配置された状態から繊維束1との接触力の作用方向成分を含む方向(図の非水平方向)に傾かせることにより、軸方向一方側又は他方側に偏った繊維束1を軸方向中央位置に戻すためのものである。拡繊ローラ43b〜43fの拡繊作用が効き過ぎると、繊維束1の幅が
必要以上に広がって割れが生じる。位置規制ローラ43g,43hは、繊維束1の流送位置を規制して、かかる繊維束1の割れを防止するためのものである。ここでは、位置規制ローラ43g,43hの構成が互いに相違している。一方の位置規制ローラ43gの一例を図3に、他方の位置規制ローラ43hの一例を図4に示す。
【0024】
一方の位置規制ローラ43gは、図3に示すように、スイング機構46によって支持されたスイング式である。スイング機構46は、アーム46aの先端部にスイング式の位置規制ローラ43gを回転自在に支持する支持枠46bを設け、アーム46aの基端部をベアリング46cによって枢支した構成とされる。アーム46aは、スイング式の位置規制ローラ43gから繊維束1を巻掛けている側へ延在する。ここでは、スイング式の位置規制ローラ43gの上側に繊維束1を巻掛けているので、アーム46aをスイング式の位置規制ローラ43gから上方へ延在させている。図示は省略するが、スイング式の位置規制ローラ43gの下側に繊維束1を巻掛けている場合は、アーム46aをスイング式の位置規制ローラ43gから下方へ延在させる。また、スイング式の位置規制ローラ43gは、拡繊ローラ43b〜43fと同様に凸曲面部44を有するが、凸曲面部44に一対のフランジ47a,47bを設けてある点で、拡繊ローラ43b〜43fと相違する。スイング式の位置規制ローラ43gに一対のフランジ47a,47bを設けることで、繊維束1の拡繊幅に上限が設定される。
【0025】
スイング式の位置規制ローラ43gは、繊維束1からほぼ半径方向に荷重が負荷される。繊維束1が一対のフランジ47a,47b間で拡繊され、繊維束1の密度が幅方向でほぼ一様であるとき、スイング式の位置規制ローラ43gは軸方向で対称的な荷重が負荷されて、水平に維持される。このとき、スイング式の位置規制ローラ43gは、その凸曲面部44により、拡繊ローラ43b〜43fと同様の拡繊作用を奏する。一方、繊維束1の密度にばらつきが生じて、繊維束1がスイング式の位置規制ローラ43gの軸線方向一方側又は他方側へ偏ったとき、スイング式の位置規制ローラ43gは軸方向で非対称の荷重が負荷される。かかる非対称の荷重がスイング式の位置規制ローラ43gを介してアーム46aに伝達されると、アーム46aはベアリング46cを軸にしてスイングし、スイング式の位置規制ローラ43gを旋回させて傾かせる。例えば図3の場合、紙面右側に繊維束1が偏ると、スイング式の位置規制ローラ43gは右下がりに傾き、紙面左側に繊維束1が偏ると、スイング式の位置規制ローラ43gは左下がりに傾く。スイング式の位置規制ローラ43gが傾くと、繊維束1の張力は、繊維束1の低密度側で増大し、高密度側で低減する。これにより繊維束1を構成するフィラメントが高密度側から低密度側へ移動して繊維束1の密度は均一になる。これに随伴してスイング式の位置規制ローラ43gも元の水平状態に戻る。
【0026】
他方の位置規制ローラ43hは、図4に示すように、両側に立設された支持柱48a,48bによって回転自在に支持される。支持柱48a,48bは、弾性的に伸縮可能な伸縮部49a,49bを有する。ここでは、伸縮式の位置規制ローラ43hの下側に繊維束1を巻掛けているので、伸縮部49a,49bとして引張りバネを採用している。図示は省略するが、伸縮式の位置規制ローラ43hの上側に繊維束1を巻掛けている場合は、伸縮部49a,49bとして圧縮バネを採用する。なお、引張りバネ又は圧縮バネに代えて、油圧シリンダやエア圧シリンダ等の流体圧シリンダを採用することも可能である。また、図4では、伸縮式の位置規制ローラ43hの中央部に繊維束1を流送する周溝47cを設けてある。この周溝47cは、一対のフランジ47a,47bと同様に、繊維束1の拡繊幅に上限を設定するためのものである。
【0027】
繊維束1が伸縮式の位置規制ローラ43hの軸線方向一方側又は他方側へ偏ったとき、伸縮式の位置規制ローラ43hは繊維束1から軸方向で非対称の荷重が負荷される。かかる非対称の荷重が伸縮式の位置規制ローラ43hを介して支持柱48a,48bに伝達さ
れると、一方の支持柱の伸縮部が他方の支持柱の伸縮部よりも伸びて、伸縮式の位置規制ローラ43hを弾性的に傾かせる。例えば図4の場合、紙面右側に繊維束1が偏ると、伸縮式の位置規制ローラ43hは右上がりに傾き、紙面左側に繊維束1が偏ると、伸縮式の位置規制ローラ43hは左上がりに傾く。伸縮式の位置規制ローラ43hが傾くと、繊維束1の張力は、繊維束1の低密度側ではほとんど変化しないが、高密度側では軽減する。これにより繊維束1を構成するフィラメントが高密度側から低密度側へ移動して繊維束1の密度は均一になる。これに随伴して伸縮式の位置規制ローラ43hも元の水平状態に戻る。
【0028】
スイング式及び伸縮式の位置規制ローラ43g,43hは、スイング式の位置規制ローラ43gが繊維束1から付与される荷重と、その反力としてアーム46aに付与される向心力との釣り合い作用により、傾いた状態から元の状態に戻されるのに対し、伸縮式の位置規制ローラ43hが伸縮部49a,49bの弾性復元作用により、傾いた状態から元の状態に戻される点で相違している。しかし、スイング式及び伸縮式の位置規制ローラ43g,43hはいずれも傾くことにより、繊維束1を構成するフィラメントをその高密度側から低密度側へ移動させて繊維束1の密度を均一にするという共通の作用を奏する。かかる作用は、各位置規制ローラ43g,43hのみならず、各位置規制ローラ43g,43hより繊維束1の流送方向上流側又は下流側においても働く。この実施形態では、スイング式及び伸縮式の位置規制ローラ43g,43hの上流側に配置された拡繊ローラ43b〜43fにて繊維束1の流送位置を規制する作用として働く。
【0029】
位置規制ローラ43g,43hの構成は、位置安定用可変ローラ33にも適用し得る。
【0030】
絞り案内部50は、図1に示すように、第1のガイド部51、絞りローラ機構52、および、第2のガイド部53で構成され、拡繊槽40にて拡繊された繊維束1を常時接触させながら、拡繊槽40の液体中から乾燥部60に配置された乾燥ローラ61まで案内する。
【0031】
第1のガイド部51は、一部が拡繊槽40の液体中に浸漬され、繊維束流送部43から流送される繊維束1と拡繊槽40の液体中で接触し、拡繊槽40の液体中から絞りローラ機構52まで繊維束1を常時接触させながら案内する。ここでは、繊維束1が拡繊槽40の液体から出された後、速やかに絞りローラ機構52へ導入されるように、第1のガイド部51をひとつのローラで構成してあるが、複数のローラで構成することもできる。第1のガイド部51を複数のローラで構成する場合、少なくともひとつのローラの一部が拡繊槽40の液体中に浸漬される。
【0032】
絞りローラ機構52は、一対の絞りローラ52a,52bからなり、両絞りローラ52a,52b間に通した繊維束1を絞ることで拡繊槽40にて繊維束1に付着した液体を除去する。一対の絞りローラ52a,52bはともに、拡繊槽40の液面より上方に配置される。一方の絞りローラ52aは、第1のガイド部51の上方に配置され、繊維束1を介して第1のガイド部51と接触する。他方の絞りローラ52bは、一方の絞りローラ52aの側方に配置され、繊維束1を介して一方の絞りローラ52aと接触する。従来は、拡繊槽40の液体から出された繊維束1を直ぐに絞れるように、一方のローラの一部を液体内に浸漬していたので、絞りローラ機構は繊維束を絞らなくても一方のローラに大量の液体が付着したが、上記の絞りローラ機構52は、繊維束1から絞られた液体と、第1のガイド部51に付着した液体しか、一方の絞りローラ52aに付着しない。また、他方の絞りローラ52bには、繊維束1から絞られた液体と、一方の絞りローラ52a表面の液体しか付着しない。このように絞りローラ機構52を拡繊槽40の液面より上方に配置して各絞りローラ52a,52bの液体付着量を低減させることで、繊維束1の絞り効率がアップする。
【0033】
第2のガイド部53は、絞りローラ機構52から乾燥ローラ61まで繊維束1を常時接触させながら案内する。ここでは、複数のガイドローラ53a〜53cで構成される。始端側のガイドローラ53aは、絞りローラ機構52の上方に配置され、繊維束1を介して絞りローラ機構52の一方の絞りローラ52aと接触する。なお、始端側のガイドローラ53aは、絞りローラ機構52の他方の絞りローラ52bと接触させてもよい。終端側のガイドローラ53cは、乾燥ローラ61の下方に配置され、繊維束1を介して乾燥ローラ61と接触する。中間のガイドローラ53bは、始端側及び終端側のガイドローラ53a,53cの相互間に配置され、繊維束1を介して始端側及び終端側のガイドローラ53a,53cと接触する。ここでは、第2のガイド部53を複数のガイドローラ53a〜53cで構成してあるが、ひとつのローラで構成することもできる。
【0034】
なお、図中の符号54はエアノズルで、熱源21から送風される熱風(乾燥風)を噴出し、絞り案内部50の各構成要素の乾燥及び絞り案内部50の各構成要素の表面に接触しながら流送される繊維束1の予備乾燥を行う。これにより、絞りローラ機構52の表面から液体を蒸発させ、絞りローラ機構52の液体除去効率がより一層向上する。
【0035】
また、第1及び第2のガイド部51,53は、繊維束1の少なくとも片面を接触させることで、繊維束1に含まれる液体の表面張力を抑制し、フィラメントどうしが重なって繊維束1に割れが生じるのを防止する。
【0036】
乾燥部60は乾燥ローラ61を有し、この乾燥ローラ61に繊維束1を巻掛けて乾燥処理を行う。乾燥処理は、乾燥ローラ61の表面を加熱して拡繊繊維束1から水分を蒸発させたり、乾燥ローラ61に巻掛けられた拡繊繊維束1に対して乾燥風を送風して水分を吸収させたり、或いはこれらを同時に行う。
【0037】
主軸駆動ローラ機構70は、互いに近接配置された一対のローラ71,72からなる。一方は主軸駆動ローラ71で、他方はプレスローラ72である。主軸駆動ローラ71は、図示外の駆動源の駆動軸と同軸上に配置され、図示外の動力伝達機構を介して従軸駆動ローラ31に駆動力を付与する。プレスローラ72が繊維束1を介して主軸駆動ローラ71を押圧することで、主軸駆動ローラ71の駆動力が繊維束1に伝達される。逆に、主軸駆動ローラ71からプレスローラ72を引き離すと、主軸駆動ローラ71の駆動力は繊維束1に伝達されない。
【0038】
巻取部80は、拡繊された繊維束1を巻き取る。この巻取部80は繊維束1をほぼ同じ位置に重ねた状態でテープ巻きにする。巻取り対象である繊維束は、フィルム等のシートと異なり、複数本のフイラメントの束であるから、巻き位置が完全に一致するとフィラメントが既に巻回されている繊維束に食い込み、次の工程で繊維束を引き出せないか、或いは、食い込んだフィラメントが切れてしまうおそれがある。このような問題を回避するために、巻取部80は、軸方向に移動可能に構成され、微小振動しながら繊維束1を巻き取る。
【0039】
巻取部80の近傍には、張力センサ81及び位置センサ82が配設される。張力センサ81は、繊維束1に付与されている張力を検出し、この検出結果をコントロールボックス83へ伝送する。位置センサ82は、拡繊された繊維束1の厚みが幅方向で僅かに異なる場合があり、このような状態で流送される繊維束1が幅方向に振れることから繊維束1の振れた位置を検出してコントロールボックス83へ伝送する。コントロールボックス83は、張力センサ81の検出結果に基づき、プレスローラ32,72や巻取部80に信号を発信し、この信号により、プレスローラ32,72の押圧力や巻取部80のトルクが適宜調節される。また、コントロールボックス83は、位置センサ82の検出結果に基づき、
巻取部80に信号を発信し、この信号により、巻取部80を軸方向に移動させて繊維束1の巻取り位置が適宜調節される。
【0040】
以上、本発明の一実施形態につき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば上記実施形態では、拡繊ローラ等43b〜43hを図示上同一直線に沿って千鳥状に配置してあるが、これらを図示上、曲線に沿って配置しても、繊維束1は屈曲経路をなす。この場合、繊維束1の屈曲経路は、一方側とその反対側の交互に屈曲するジグザグ状のみならず、一方側にのみ屈曲した多角形状又はその一部形状とすることも可能である。このように繊維束1の屈曲経路については、図示したものに限らず、種々の変更が可能である。
【0041】
また、上記実施形態では、スイング式の位置規制ローラ43gに一対のフランジ47a,47bを設けてあるが、これらのフランジ47a,47bは、拡繊ローラ43b〜43fの一部又は全部、或いは伸縮式の位置規制ローラ43hに設けてもよい。フランジ47a,47bを設けた拡繊ローラ43b〜43fは、位置規制ローラとなる。
【0042】
また、上記実施形態では、スイング可能なアーム46aとして、アーム46aの基端部をベアリング46cによって枢支したものを挙げているが、弾性的に曲折自在な曲折部材(例えば板バネやコイルスプリングなど)によってアーム46aの基端部を支持したり、或いは前記曲折部材をアーム46aに設けることによっても、アーム46aをスイング可能に構成することができる。
【0043】
また、これら複数種類の位置規制ローラは、併用せずに単独で使用してもよい。さらに、これらの位置規制ローラは、液体中に限らず、気体中で使用しても繊維束1の拡繊幅を規制することができる。
【0044】
また、上記実施形態では、第1のガイド部51や第2のガイド部53を一個又は複数個のローラで構成してあるが、ローラに代えてガイド板を使用することも可能である。ガイド板は、繊維束1との接触力を高めるために、平板よりもローラ表面のように湾曲した板を使用することが好ましい。
【0045】
さらに、上記実施形態では、本発明を超音波拡繊法による拡繊装置に適用しているが、本発明は静電拡繊法、プレス拡繊法、ジェット拡繊法など、他の拡繊法による拡繊装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る拡繊装置の一実施形態の概略構成を示す立面図である。
【図2】拡繊ローラの正面図である。
【図3】スイング式の位置規制ローラの正面図である。
【図4】バネ式の位置規制ローラの正面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 繊維束
10 給糸部
11 給糸ボビン
12 トルクリミッタ
20 加熱室
21 熱源
22 幅調整器
23a〜23c 傾きローラ
30 従軸駆動ローラ機構
31 従軸駆動ローラ
32 プレスローラ
33 位置安定用可変ローラ
40 拡繊槽
41 液槽
42 超音波発生器
43 繊維束流送部
43a 入口ローラ
43b〜43f 拡繊ローラ
43g スイング式の位置規制ローラ
43h 伸縮式の位置規制ローラ
43i 出口ローラ
44 凸曲面部
45a,45b 固定板
46 スイング機構
46a アーム
46b 支持枠
46c ベアリング
47a,47b フランジ
47c 周溝
48a,48b 支持柱
49a,49b 伸縮部
50 絞り案内部
51 第1のガイド部
52 絞りローラ機構
52a,52b 絞りローラ
53 第2のガイド部
53a〜53c ガイドローラ
54 エアノズル
60 乾燥部
61 乾燥ローラ
70 主軸駆動ローラ機構
71 主軸駆動ローラ
72 プレスローラ
80 巻取部
81 張力センサ
82 位置センサ
83 コントロールボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィラメントが集合されてなる繊維束を拡繊対象とし、繊維束に張力を付与した状態で、複数の拡繊ローラの表面に繊維束を接触させながら屈曲経路を成して流送する繊維束流送部を液体中に配置して繊維束を拡繊すると共に、拡繊された繊維束に付着した液体を絞りローラ機構にて除去する拡繊装置において、
絞りローラ機構が拡繊槽の液体外に配置され、繊維束が拡繊槽の液体中から絞りローラ機構に至るまで離間させずに接触させたまま案内する第1のガイド部を備えたことを特徴とする拡繊装置。
【請求項2】
絞りローラ機構から流送された繊維束を乾燥ローラに巻回して乾燥させる乾燥部を有し、繊維束が絞りローラ機構から乾燥ローラに至るまで離間させずに接触させたまま案内する第2のガイド部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の拡繊装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−240234(P2008−240234A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98513(P2008−98513)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【分割の表示】特願2004−312585(P2004−312585)の分割
【原出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(599017667)
【Fターム(参考)】