説明

拭き取り用シート

【課題】本発明は、広範囲の使用環境(例えば、広範囲の溶剤使用環境、高温も含めた広い温度範囲)で好適に使用でき、さらに、拭き取りの効率や精度を向上させた拭き取り用シートを提供する。
【解決手段】セルロースミクロフィブリルから成るセルロース不織布、または該不織布を一層として含む多層構造体からなるシートであって、目付が3g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上1000s/100ml以下であることを特徴とする拭き取り用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細なセルロース繊維からなる拭き取り用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
拭き取り用途で使用されるシート状構造体(拭き取り用シート)は広範な分野で使用されている。例えば、人体用の洗浄拭き取り、家庭等で使用する家具、電化製品、または精密製品の汚れ拭き取り、工業用のワイパー、半導体製造工程で使用される精密洗浄用のワイパー、半導体ウエハや金属、水晶、ガラス等の精密研磨工程で使用されるワイピングクロス等を挙げることができる。
当然、拭き取り用シートに求められるのは、高い効率で拭き取りを実施できる性能である。従来、このような拭き取り用シートの開発においては、2通りの方向性が試行されてきた。一つはシート状の基材に洗浄用組成物(以下「洗浄剤」ともいう。)を含浸させた含浸シートとし、該組成物の洗浄効果により拭き取り効率を高める方向性、そしてもう一つは、シートそのものの素材、表面形状、構造等により拭き取り効率を高める工夫を施す方向性である。実際には、これら双方を組み合わせる開発も数多くなされている。
【0003】
例えば、特許文献1や特許文献2では、不織布や発泡体に洗浄能力を有する液体組成物を含浸させる技術が開示されており、これらは上述の2種類の方向性のうち、前者に該当するものである。
これに対し、特許文献3〜5では、少なくともシート状構造体の構造そのものに工夫がなされている。特許文献3では、凹凸を施したシート状構造体(不織布)に、対象となる汚れを溶解できる洗浄剤を含浸して使用する技術として開示されている。また、特許文献4および特許文献5ではシート状構造体の構造の微細性が着眼されており、特許文献4では微多孔性複合膜、特許文献5では直径1〜2μmの微細繊維からなるワイピングクロスが使用されている。
【0004】
いずれの拭き取り用シートにおいても、その使用環境においては、洗浄剤として有機溶剤や界面活性剤を使用するケースが多く、用途に応じ広範囲の環境(例えば、広範囲の溶剤使用環境、高温も含めた広い温度範囲)で好適に使用できることが好ましい。さらに、拭き取りの効率や精度を高めるために、特許文献4および特許文献5で開示されているように、微細な表面構造を有するシート状構造体を基材として使用するケースも多いが、このような場合には、当然、該基材の内部に洗浄液や汚れが大量に吸収される方が好ましく、そのために高空孔率かつ高表面積の設計が望ましい。しかしながら、これら拭き取り用シートとして好ましい条件をすべて満足するものは存在しないのが現状であった。
【特許文献1】特開2002−275050号公報
【特許文献2】特開平11−299538号公報
【特許文献3】特開2003−116761号公報
【特許文献4】特開2004−275845号公報
【特許文献5】特開平10−150008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、溶剤使用環境、高温も含めた広い温度範囲で好適に使用でき、さらに、拭き取りの効率や精度を向上させた拭き取り用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、微細なセルロース繊維からなるセルロース不織布あるいは該不織布を多層化構造の一層として含む多層化シートを基材として使用することにより、上記課題を解決できることを見い出した。そして、さらに微細なセルロース繊維の水分散液に特定の水溶性化合物と油性化合物からなるエマルジョンを混在させた水系分散液を用いて抄紙法により単層シートあるいは他の支持体上に製膜することにより多層化シートとして製膜、乾燥させて、それぞれ該セルロース不織布あるいは該不織布を多層化構造の一層として含む多層化シートを作製することにより、有効的に上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、以下の拭き取り用シートである。
[1]セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布、または該不織布を一層として含む多層構造体からなるシートであって、目付が3g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上1000s/100ml以下であることを特徴とする拭き取り用シート。
[2]セルロース不織布を構成する繊維の数平均繊維径が300nm以下であることを特徴とする[1]に記載の拭き取り用シート。
[3]セルロース不織布が、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物を該セルロース不織布の重量を100%とした時に合計0.5重量%以上20重量%以下含有する不織布であることを特徴とする[1]または[2]のいずれかに記載の拭き取り用シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、溶剤使用環境、高温も含めた広い温度範囲で好適に使用でき、さらに、拭き取りの効率や精度を向上させた拭き取り用シートを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、拭き取り用シートに関する。ここで、本発明の拭き取り用シートとは、狭義には人体用の拭き取り用シート(脂採り紙を含む)、家庭等で使用する家具、電化製品、または精密製品の汚れ拭き取り用シート、工業用のワイパー、半導体製造工程で使用される精密洗浄用のワイパー等の拭き取り機能を目的とするシート状構造体を意味し、広義には半導体ウエハや金属、水晶、ガラス等の精密研磨工程で使用されるワイピングクロスや半導体洗浄工程で使用する洗浄用フィルターシート等、拭き取り以外の機能(前者では研磨機能、後者ではフィルター機能)も併せ持つシート状構造体も含まれるものとする。
【0010】
本発明は、セルロースミクロフィブリルからなる微細な網目構造を有するセルロース不織布、または該セルロース不織布を一層として含む多層構造体からなる拭き取り用シートに関する。より具体的には、該セルロース不織布、または該セルロース不織布を一層として含む多層化構造体からなる拭き取り用シートそのものか、あるいはこれらのシートを基材としてこれに洗浄剤を含浸させた拭き取り用シートに関する。
【0011】
本発明者らは、本発明に際し、まずセルロースのもつ水にも油にも親和性をもつ両親媒的な表面特性に着眼した。加えて、拭き取り用シートとして、微細な繊維からなる不織布に効果があることは、既に眼鏡拭きのような拭き取り用シートで周知の事実であるため、セルロースの繊維を極限近くにまで微細化することにより、従来の微細繊維からなる拭き取り用シートの性能を大幅に向上させるべく試行を行った。セルロースは条件を選べば、微細化等により、ミクロフィブリルと呼ばれる数nmから200nmの繊維径の微細繊維あるいはミクロフィブリルが集束した状態の数10nmから数100nmの繊維径の微細繊維となり得ることがわかっている(本発明では、これらを総称して、セルロースミクロフィブリルと呼ぶ)ので、セルロースミクロフィブリルをシート化したセルロース不織布において、セルロースの表面特性も手伝い、拭き取り用シートとしての著しい性能の向上が期待できる。
【0012】
本発明では、「繊維を織ったり編んだりすることなく、繊維どうしを化学的方法、機械的方法、またはそれらの組み合わせにより、結合や組み合わせを行った構造物」という不織布の一般的定義に従い、本発明で使用されるセルロースからなるシート状構造体を湿式不織布の範疇と見なしてセルロース不織布と呼ぶ。敢えて紙と呼ばないのは、該不織布を構成する主要なセルロース繊維が、従来の紙の原料としてのセルロース繊維よりも約2桁のオーダー細いセルロース繊維である点で大きく異なる材料であり、用途としてもいわゆる紙の用途ではなく、不織布が使われている用途分野で、より好適にその機能を発現するためである。
【0013】
ここで、セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布が本発明の拭き取り用シートとして好適に機能するためには、セルロースミクロフィブリルが互いに融着して表面積が小さくなることを防ぐ必要がある。言い換えれば、セルロース不織布が微細な網目構造を有し、一定の通気性を有することが重要である。すなわち、本発明の拭き取り用シートは、セルロースミクロフィブリルから成るセルロース不織布、または該不織布を一層として含む多層化構造体からなる拭き取り用シートであって、目付が3g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上1000s/100ml以下であることが好ましい。
【0014】
目付はより好ましくは、5g/m以上100g/m以下、更に好ましくは、8g/m以上80g/m以下である。目付が3g/mよりも小さなシートは薄過ぎて操作性が著しく悪くなるため好ましくなく、また目付が150g/mよりも大きくなると、シートの柔軟性に欠け、やはり拭き取り時の操作性が悪くなるため、好ましくない。なお、本発明において、目付(坪量)の測定はJIS P8124に従うものとする。
【0015】
また、本発明の拭き取り用シートは、上述した理由から適度な透気抵抗度の範囲にあることが必要である。透気抵抗度は、10s/100ml以上1000s/100ml以下、好ましくは、20s/100ml以上600s/100ml以下の範囲であると、本発明の主張する拭き取り用シートとしての種々の機能を好適に発現させることが可能となる。ここで、本発明の拭き取り用シートでは、ネットワークの微細性から該透気抵抗度が10s/100mlよりも小さなものは作り難く、また、該透気抵抗度が1000s/100mlを超えるものは、容易に作製することはできるものの、空孔率が低くなり、汚れや媒体を吸収するという拭き取り用シートとしての本来の機能に乏しい材料となるため、やはり好ましくない。
ここで、透気抵抗度とは、ガーレー式デンソメータ((株)東洋精機製、型式G−B2C)を用いて100mlの空気の透過時間(単位;s/100ml)の測定を室温で行った結果を意味する。測定は、一つのシートサンプルに対して種々の異なる位置について5点の測定を行い、その平均値とする。
【0016】
本発明で使用されるセルロース不織布を構成する繊維の数平均繊維径は2nm以上300nm以下、好ましくは10nm以上150nm以下の範囲にあると、微細かつ均一なネットワーク構造を有する不織布あるいは不織布層を作製することができるので有効である。数平均繊維径が2nmよりも小さいセルロースミクロフィブリルの報告は文献上存在せず、現実的に作ることは困難と考えられる。また、数平均繊維径が300nmよりも大きな場合には、微細なネットワーク構造に基づく微小かつ均一な孔径の不織布となり難くなるため、本発明の拭き取り用シートで期待できる効果が現れ難くなるため、好ましくない。
【0017】
ここで、セルロースミクロフィブリルの数平均繊維径は以下のようにして定義される。すなわち、本発明の拭き取り用シートの表面に関して、無作為に少なくとも2箇所、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を10000倍相当以上30000倍以下の範囲で、繊維径がはっきりと認識できる倍率で行う。得られたSEM画像(例えば、図1)に対し、画面に対し水平方向と垂直方向にラインを引き、ラインに交差する繊維の繊維径を拡大画像から実測し、交差する繊維の個数と各繊維の繊維径を数える。こうして2つのラインに交差するすべての繊維について繊維径の測定結果を用いて数平均繊維径を算出する。さらに同じサンプルについて観察した別の場所を撮影した同じ倍率のSEM画像についても同じように数平均繊維径を算出し、合計2画像分の結果の平均値を対象とする試料の数平均繊維径とする。ここで、図1に示すサンプルの数平均繊維径は108nmである。
【0018】
本発明の拭き取り用シートにおけるセルロース不織布あるいはセルロース不織布層においては、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物(以下「特定の水溶性化合物」ともいう。)を該セルロース不織布の重量を100%とした時に合計0.5重量%以上20重量%以下、好ましくは0.8重量%以上15重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以上10重量%以下含有していると、該水溶性化合物が微細なセルロースミクロフィブリル間の接触点強度を補強するバインダーとして機能するため、さらに好ましい。その結果、得られる本発明で使用するセルロース不織布は、低目付(例えば、15g/m以下)に設計した場合にも、操作性に優れ、より高い強度を保有するようになるので、場合によっては非常に有効である。
【0019】
ここで、糖としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、トレハロース、セロビオース、及びマルトース、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、及びグリセリン、アルコール誘導体としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールジメチルエーテル、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、水溶性多糖、及び水溶性多糖誘導体等が挙げられるが、例示した化合物に限定されるものではない。
【0020】
ここで、水溶性多糖は、水溶性の多糖を意味し、天然物としても多種の化合物が存在する。例えば、でんぷんや可溶化でんぷん、アミロース、プルランに代表されるα−1,4−グルカン、デキストランに代表されるα−1,6−グルカン、カードラン、レンチナンに代表されるβ−1,3−グルカン、アミロペクチン、グリコーゲンに代表される分岐糖、キシラン、ガラクタン、マンナン、グルコマンナン、グルコマンノグリカン、ガラクトグルコマンノグリカン、グアランに代表されるヘテログリカンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
また、水溶性多糖誘導体は、上述した水溶性多糖の誘導体、例えばアルキル化物、ヒドロキシアルキル化物、アセチル化物であって、水溶性のものが含まれる。あるいは、誘導体化する前の多糖がセルロース、スターチなどの様に水に不溶性であっても、誘導体化、例えばヒドロキシアルキル化やアルキル化、カルボキシアルキル化によって、水溶性化されたものも該水溶性多糖誘導体に含まれる。具体的には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチなどのヒドロキシアルキルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、さらには、ヒドロキシエチルメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースのように、2種類以上の官能基で誘導体化された水溶性多糖誘導体も含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
上述した水溶性化合物のうち、水溶性高分子である水溶性多糖および水溶性多糖誘導体は耐熱性の高いものが多く、セルロース不織布の強度を向上させる効果も大きいので、そのような性質の水溶性多糖および水溶性多糖誘導体を使用すれば、得られるセルロース不織布は、セルロースが元来有する耐熱性を損なわない高強度のものとなるので、特に好ましい。
【0023】
セルロース不織布を一層として含む多層構造体(以下「多層化シート」ともいう。)は、通気性のある別種の不織布や紙(一般に使用される繊維径の繊維からなる不織布や紙)等の支持体上に上述したセルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布が積層化された2層構造でも、表裏の両側から該セルロース不織布によって通気性のある別種の不織布等が挟まれた3層構造をもつものでも、あるいはさらに異種の層をもつものでも、多層化シートとして上述した目付と透気抵抗度の範囲が保たれていれば、好適に本発明のセルロース不織布の主張する機能を発現することができる。しかし、最表面に存在するセルロースミクロフィブリルからなる微細な網目構造を有するセルロース不織布層によって、拭き取りの効率が著しく向上するという本発明の作用性を考慮すると、該セルロース不織布層は最表面のいずれか一方または両方に位置していることが好ましい。
【0024】
また、本発明の拭き取り用シートは、上述したセルロース不織布、あるいは該セルロース不織布を一層として含む多層化シートのいずれかを基材とし、これに洗浄剤を含浸させた含浸物であっても構わない。場合によっては、洗浄剤を含浸させることにより、著しく拭き取り能力を向上することもできる。目的に応じて条件を選べばよい。
【0025】
この場合、界面活性剤を含有する水溶液または水分散体(エマルジョンや液晶)、希薄な無機酸、有機酸、アルカリ化合物、あるいは漂白性のあるジ亜塩素酸等の水溶液を洗浄剤として含浸するか、あるいは、水、炭化水素、アルコール(エチルアルコール、イソプロピルアルコール等)やその水溶液のような洗浄機能を有する媒体を洗浄剤として適量含浸させるが、ここに挙げたものには限定されない。また、その含有量についても目的に応じて選定すればよいが、好ましくは、セルロース不織布の重量に対し、10重量%以上900重量%以下であると、拭き取りの際の操作性にも優れ、良好な拭き取り効果が期待できる。
上述した本発明の拭き取り用シートは、人体用の洗浄拭き取り用シート(脂採り紙を含む)、家庭等で使用する家具、電化製品、または精密製品の汚れ拭き取り用シート、工業用のワイパー、半導体製造工程で使用される精密洗浄用のワイパーとして好適に使用できる。また、半導体ウエハや金属、水晶、ガラス等の精密研磨工程で使用されるワイピングクロスや半導体洗浄工程で使用する洗浄用フィルターシート等、その他の機能(前者では研磨機能、後者ではフィルター機能)も併せ持つシート材料としても使用できる。すなわち、本発明の拭き取り用シートは、極めて高い効率と高い精度での拭き取りを可能とするばかりでなく、セルロースのもつ耐熱性や対溶剤性により、幅広い環境下で使用することが可能となる。
【0026】
本発明の拭き取り用シートの少なくとも最表面に存在するセルロースミクロフィブリルの微細な網目構造が、水、油性化合物の双方に親和性をもつ表面特性と微小なごみをも捕捉する微細な構造を併せもつことにより、高い拭き取り効率と高い拭き取り精度の両方を両立させると考えられる。さらに、本発明の拭き取り用シートは、セルロース不織布またはセルロース不織布層が基材の主体をなすため、環境負荷が少なく、環境に優しい材料として提供することが可能となる。
【0027】
次に、本発明の拭き取り用シートの好ましい製造方法の数例について説明する。特に、本発明では、セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布、あるいは該不織布を一層として含む多層化シートのシート状構造体そのもの、あるいは該シート状構造体に洗浄剤を含浸させた含浸物であって、いずれの場合でも、セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布あるいは該不織布を一層として含む多層化シートが拭き取り用シートの主体をなすものであるので、以下に、セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布あるいは該不織布を一層として含む多層化シートの製造方法の例を記載する。
【0028】
本発明で使用するセルロース不織布は、まず、セルロースミクロフィブリルの水分散液を調製し、該分散液を用いて以下に記載する方法により製膜して得る。
セルロースミクロフィブリルは、ミクロフィブリルと呼ばれる数nm〜200nmの繊維径のセルロース繊維ないしはその集束体を意味する。より具体的には、バクテリアセルロースと呼ばれる、酢酸菌やバクテリア類の産生するセルロースか、あるいはミクロフィブリル化セルロースと呼ばれる、パルプ等の植物由来あるいはホヤセルロースのような動物由来のセルロースを高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、グラインダー等の高度にせん断力の加わる装置で微細化処理することにより得られる、繊維表面から引き剥がれた独立したミクロフィブリルあるいはそれらが収束した微細繊維(非特許文献1;A.F.Turbak, F.W.Snyder and K.R.Sandberg, ” Microfibrilated Cellulose, A New Cellulose Product: Properties, Uses, and Commercial Potential” J.Appl.Polym.Sci.: Appl. Polym. Symp., 37, 815 (1983))を意味する。このうち、本発明では、コストや品質管理の面からミクロフィブリル化セルロースを原料として使用することがより好ましい。
【0029】
ここで、セルロースミクロフィブリルの表面を構成するセルロースは、化学修飾されていても構わない。例えば、微細セルロース繊維の表面に存在する一部あるいは大部分の水酸基が酢酸エステル化を含むエステル化されたもの、メチルエーテル、カルボキシエチルエーテル、シアノエチルエーテルを含むエーテル化されたもの、6位の水酸基が酸化され、カルボキシル基(酸型、塩型を含む)となったもの等を挙げることができる。このような表面を化学修飾したミクロフィブリルの例として例えば、TEMPO酸化触媒によってパルプを処理して得られる、表面がカルボキシル化したミクロフィブリル(非特許文献2;T.Saito, Y.Nishiyama, J-L. Putaux, M. Vignon and A. Isogai, “Homogeneous Suspensions of Individualized Microfibrils from TEMPO-Catalyzed Oxidation of Natural Cellulose” Biomacromolecules, 7, 1687 (2006))を挙げることができるが、これに限定されない。
【0030】
次に、ミクロフィブリル化セルロースを使用する際の原料としては、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等のいわゆる木材パルプと非木材パルプを使用することができる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ、麻由来パルプ,バガス由来パルプ,ケナフ由来パルプ,竹由来パルプ,ワラ由来パルプを挙げることができる。コットン由来パルプ,麻由来パルプ,バガス由来パルプ,ケナフ由来パルプ,竹由来パルプ、ワラ由来パルプは、各々、コットンリントやコットンリンター、麻系のアバカ(例えばエクアドル産またはフィリピン産のものが多い)、ザイサルや、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料を蒸解処理による脱リグニン等の精製工程や漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。この他、海藻由来のセルロースやホヤセルロースの精製物もミクロフィブリル化セルロースの原料として使用することができる。
【0031】
次に、本発明で使用するセルロース不織布の製造方法について記載する。製膜方法としては、大きく分けて塗布法と抄紙法により製造することが可能である。
このうち、塗布法においては、ミクロフィブリルを水に分散させた水系分散液からは、所定の透気抵抗度範囲の不織布は得られないため、少なくとも水よりも表面張力の低い有機溶媒(例えば、イソプロパノールやエチルセロソルブ等のアルコール)と水の混合溶液中にミクロフィブリルを分散させた有機溶媒系分散液を使用する必要がある。そこで、該有機溶媒系分散液に、必要に応じて、所定の特定の水溶性化合物を溶解させ、キャスト後、乾燥させて製膜する。なお、分散媒体中の有機溶媒の組成を大きく設定することにより、所定の透気抵抗度にコントロールすることが可能となる。しかしながら、セルロースミクロフィブリルの分散液においては、セルロースミクロフィブリルの濃度を2重量%以上に高めることはレオロジー的な制約上(著しく増粘してしまう)難しく、該分散液から分散媒体を乾燥させて得るシート(不織布)は極めて低い目付のものに限定されてしまう。加えて、上記の高粘度の分散液を均一に製膜するのは意外と難しく、一定面積のシートを作製するのに大量の有機溶媒を必要とする点でコスト面でも不利である。この点で、塗布法は条件によっては(極めて低目付での製膜)有効であるものの、本発明のセルロース不織布の製造方法としては、以下に記載する抄紙法によるのがより好ましい。
【0032】
セルロースミクロフィブリルからなる通気性を有するセルロース不織布の抄紙法による製造方法について、さらに2通りの方法がある。
第一の方法は、セルロースミクロフィブリルを水に適当な分散状態にコントロールしつつ分散させ、目の細かい濾布上で抄紙を行い、得られた湿紙中の水を有機溶媒への置換工程において有機溶媒に置換させ、乾燥させるという方法である。この方法の詳細については、本発明者らによる文献(特許文献6;国際公開2006/004012号パンフレット)に従う。
【0033】
この方法で上述した特定の水溶性化合物をセルロース不織布に含有させる場合には、抄紙用分散液かあるいは有機溶媒置換浴に溶解させて、セルロース不織布中へ含有させることが好ましい。このうち、予め、抄紙用分散液中に溶解させておく方法では、分散液中でのセルロースミクロフィブリル表面への上記特定の水溶性化合物の定着率がそれ程高くない可能性があり、しかも、次工程である有機溶媒置換の工程において、一旦定着した上記特定の水溶性化合物が脱離してしまう可能性があるため、効率的に本発明で使用するセルロース不織布を製造する方法としては好ましくない。これに対し、置換工程で、置換浴中に上記特定の水溶性化合物を溶解させておき、溶剤置換と同時に、該特定の水溶性化合物をミクロフィブリルのネットワーク補強のバインダー等として導入することは、溶剤置換後の湿紙に残存している該特定の水溶性化合物は確実に不織布中に残存するため、条件によっては有効である。しかし、置換工程での導入においては、該特定の水溶性化合物が完全に溶解するような溶媒構成とする必要があり、条件設定に制約があること、置換溶媒中に一定量の該特定の水溶性化合物を溶解させておく必要があり、効率的な導入方法とは言えないという短所もある。
【0034】
これに対し、抄紙法における第2の方法、すなわち、以下に記載する製造方法によって、本発明で使用するセルロース不織布を製造することが好ましい。すなわち、1)セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.5重量%以上10重量%以下、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物を合計0.003重量%以上0.3重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であって、該油性化合物が水相に分散したエマルジョンである水系分散液を調整する調製工程、2)水系分散液を構成する水の一部を抄紙機で脱水することによって、セルロースミクロフィブリルの濃度および油性化合物の濃度を該水系分散液より増加させた濃縮組成物を得る抄紙工程、3)濃縮組成物を加熱することによって、該濃縮組成物から油性化合物および水の一部を蒸発させて除去する乾燥工程、の3つの工程を含むセルロース不織布の製造方法である。
【0035】
以下では、上記のエマルジョン系の水系分散液を用いた抄紙法によるセルロース不織布の製造方法を、簡単のためにエマルジョン抄紙法と表現する。
まず、上述した3つの工程の詳細について説明する。エマルジョン抄紙法は、所定のセルロースミクロフィブリルの水系分散液から抄紙法により湿紙を製膜し、該湿紙を乾燥させるシンプルなものである。
調製工程で使用する水系分散液は、セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.5重量%以上10重量%以下、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.003重量%以上0.3重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であることが必要である。
【0036】
エマルジョン抄紙法用の水系分散液中のセルロースミクロフィブリルの濃度は、0.05重量%以上0.5重量%以下、好ましくは、0.08重量%以上0.35重量%以下であると好適に安定な抄紙を実施することができる。該水系分散液中のセルロースミクロフィブリル濃度が0.05重量%よりも低いと濾水時間が非常に長くなり生産性が著しく低くなると同時に膜質均一性(地合い)も著しく悪くなるため好ましくない。また、セルロースミクロフィブリル濃度が0.5重量%よりも高いと、分散液の粘度が上がり過ぎてしまうため、均一に製膜することが困難になり、やはり好ましくない。
次に、調製工程で調製する水系分散液中には、0.15重量%以上10重量%以下の、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下である油性化合物がエマルジョンとして、85重量%以上99.5重量%以下の水から成る水相に分散していることが好ましい。
【0037】
エマルジョン抄紙法においては、上述した条件下で形成されるエマルジョンにおいて、水と比較して油性化合物が、抄紙機における濾過を意味する抄紙工程により濾液側に移動せずに、水不溶性の親水性高分子であるセルロースの近傍に効率的に残存し、実質的に油性化合物の濃縮化が進行することを特徴とする。すなわち、乾燥工程に到る際に、水不溶性の親水性高分子が水に比べ、表面張力の低い油性化合物に取り囲まれることは、乾燥時に高分子間の融着を防御し、通気性を有するセルロース不織布を形成する原動力となる(先述した有機溶剤による置換法と原理的には同じ)。
【0038】
乾燥時に上記油性化合物が除去されないと通気性を有する不織布となり得ないため、用いる油性化合物は、乾燥工程で除去可能なことが必要である。したがって、本発明において、水系分散液にエマルジョンとして含まれる油性化合物は、一定の沸点範囲にあることが必要であり、具体的には、大気圧下での沸点が50℃以上200℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは、60℃以上190℃以下であれば、工業的生産プロセスとして水系分散液を操作し易く、また、比較的効率的に加熱除去することが可能となる。油性化合物の大気圧下での沸点が50℃未満であると水系分散液を安定に扱うために低温制御下で扱うことが必要となり、効率上好ましくなく、さらに油性化合物の大気圧下での沸点が200℃を超えると、乾燥工程で油性化合物を加熱除去するのに多大なエネルギーが必要となるため、やはり好ましくない。
【0039】
さらに、上記油性化合物の25℃での水への溶解度は5重量%以下、好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下であることが油性化合物の必要な構造の形成への効率的な寄与という観点で望ましい。以下に油性化合物の具体例を示す。
例えば、炭素数6〜炭素数14の範囲の炭化水素、具体的には、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、n−ウンデカンやそれらの異性体(例えば、イソヘキサン、イソオクタン、イソデカン)に代表される鎖状飽和炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘキセンのような環状炭化水素類、ジイソブチレンやシクロヘキセンのような鎖状または環状の不飽和炭化水素類、及びベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、次に、炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコール、具体的には、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、イソヘキサノール、イソヘプタノール、(Z)−3−ヘキセン−1−オール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、4−メチル−1−ペンタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、(2E,4E)−2,4−ヘキサジエン−1−オール、2−メチル−2−ヘキサノール、イソヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソオクタノール、1,3−ベンゾジオキソール−5−メタノール等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。一級のアルコールではないが、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、シクロヘプタノール、4−ヘプタノール、1−メチルシクロヘキサノール、1−エチニルシクロペンタノール、2−オクタノール、(S)−2−オクタノール、シクロオクタノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、1−オクチン−3−オール等の炭素数5〜炭素数9の範囲である一価のアルコールも油性化合物として好適に使用できる。
【0040】
上述した油性化合物のうち、特に、油性化合物が炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコールの中から選ばれる少なくとも一つの化合物、さらに好ましくは、該アルコールの中の、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノールの中から選ばれる少なくとも一つの化合物を用いると特に好適に本発明のセルロース不織布を製造することができる。これは、エマルジョンの油滴サイズが極めて微小(通常の乳化条件で、1μm以下)となるため、高空孔率かつ微細な多孔質構造を有する不織布の製造に適していると考えられる。
これらの油性化合物は単体として配合してもよいし、複数の混合物を配合してもよい。さらには、エマルジョン特性を適当な状態に制御するために、これら油性化合物中に本発明で使用するセルロース不織布に含有する特定の水溶性化合物を溶解させてもよい。ただし、この際の特定の水溶性化合物の混合量は、油性化合物に対し25重量%以下であることが好ましい。これ以上の添加量とすると油性化合物のエマルジョンの形成能が低下するため、好ましくない。
【0041】
次に、該油性化合物の抄紙用水系分散液中の濃度は0.15重量%以上10重量%以下、好ましくは0.3重量%以上5重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。油性化合物の濃度が10重量%を超えても本発明のセルロース不織布を得ることはできるが、製造プロセスとして使用する油性化合物の量が多くなり、それに伴う、安全上の対策の必要性やコスト上の制約が発生するため好ましくない。また、油性化合物の濃度が0.15重量%よりも小さくなると所定の透気抵抗度範囲よりも高い透気抵抗度のシートしか得られなくなるため、やはり好ましくない。
上述した油性化合物は、調製工程における水系分散液中にエマルジョンとして分散していることが重要である。この場合、油滴が水相に分散しているO/W型のエマルジョンである。油滴サイズに該当した網目構造が乾燥後の構造体に反映されるため、油滴サイズは小さく、安定に分散していることが好ましい。
【0042】
ここで、本発明のエマルジョン抄紙用の水系分散液中には、前述した特定の水溶性化合物が水相中に溶解していても構わない。これらの水溶性高分子のO/W型エマルジョンにおける作用としては、コロイド科学の分野で保護コロイドとして知られている(非特許文献3;川口正美著,「高分子の界面・コロイド科学」1999年,コロナ社,p170)。すなわち、水溶性高分子が水相に分散した油滴粒子の表面近傍(水と油滴の界面)に局在する傾向が強く、エマルジョンの安定化に寄与しているとされる。水溶性高分子の中で特に乳化性能の高いものでは、油滴表面への局在率が高いと考えられる。こうして油滴表面に局在した特定の水溶性化合物は、上述したエマルジョン抄紙の機構、すなわち、セルロースミクロフィブリルの作る緩やかな会合対中に油滴ごと取り込まれ、抄紙の過程で湿紙中に残存するため、高い残存率で湿紙中に残存することになる。
【0043】
エマルジョン抄紙法では、特定の水溶性化合物を使用することにより、湿紙中、すなわち乾燥後のセルロース不織布中にも該特定の水溶性化合物が高い効率で残存する。その点において、エマルジョン抄紙法は、本発明で使用するセルロース不織布の製造方法としてより好ましい方法である。
【0044】
上述したように、エマルジョン抄紙用の水系分散液中には、前述した特定の水溶性化合物が水相中に溶解していることが必要であるが、該特定の水溶性高分子の濃度は、0.003重量%以上0.3重量%以下、より好ましくは、0.005重量%以上0.08重量%以下、さらに好ましくは、0.006重量%以上0.07重量%以下の量であると、本発明で使用するセルロース不織布が得られ易いと同時に、水系分散液の状態が安定化することが多いので好ましい。該濃度が0.003重量%よりも小さいと、上記特定の水溶性化合物の添加効果が現れ難いので好ましくなく、また、該濃度が0.3重量%を超えると泡立ち等の添加量増大に伴う負の効果が現れ易くなるため好ましくない。エマルジョンを安定化させる目的で、水系分散液中に上記特定の水溶性化合物以外に界面活性剤が、上記特定の水溶性高分子との合計量が上記濃度範囲で含まれていても構わない。
【0045】
この場合の界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウムなどのカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタインなどの両性界面活性剤、アルキルポリオキシエチレンエーテルや脂肪酸グリセロールエステル等のノニオン性界面活性剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
この他、水系分散液中には、目的に応じて種々の添加物が添加されていても構わない。例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、炭酸カルシウム粒子のような無機系粒子状化合物、樹脂微粒子、各種塩類、エマルジョンの安定性を阻害しない程度の有機溶剤等、本発明の高空孔率構造体の製造に悪影響を及ぼさない範囲(種類の選択や組成の選択)で添加することができる。
【0047】
調製工程で調製する水系分散液は、上述した化合物群から成るエマルジョン組成物であるが、エマルジョンの形成においては、乳化方法のあらゆる方法を採用することができる。すなわち、機械的乳化、転相乳化、液晶乳化、転相温度乳化、D相乳化、可溶化領域を利用した超微細乳化(マイクロエマルジョン乳化)等の方法によりO/W型エマルジョンを調製する。
ここで、最終的な水系分散液中では水以外の成分は、85重量%以上99.5重量%以下、好ましくは90重量%以上99.4重量%以下、さらに好ましくは92重量%以上99.2%以下の組成の水中に分散または溶解していることが好ましい。水系分散液中の水の組成が85重量%より低くなると、粘度が増大するケースが多く、エマルジョンを分散液中に均一に分散し難くなり、均一な構造の通気性を有するセルロース不織布が得られ難くなるため好ましくない。また、水系分散液中の水の組成が99.5重量%を超えると、配合組成としてエマルジョンの含有量が低減され、濃縮組成物中の油性化合物濃度が低くなってしまい、通気性の構造体が得られ難くなるため、やはり好ましくない。
【0048】
水系分散液の調製は、一切の添加物を水中へ混入し、適当な乳化方法により水系エマルジョン分散液とするか、あるいは予め油性化合物と乳化剤からなる水系エマルジョンを上述したような適当な乳化方法で調製しておき、別途調製したセルロースミクロフィブリルおよびその他の添加物からなる水系分散液と混合して水系分散液とすればよい。
【0049】
次に、エマルジョン抄紙法の第二の工程は、第一の工程で調製した水系分散液を抄紙機で脱水することにより、セルロースミクロフィブリルを濾過し、エマルジョン濃度を濃縮化する抄紙工程である。該抄紙工程は、基本的に、水を含む分散液から水を脱水し、水不溶性の親水性高分子が留まるようなフィルターや濾布(製紙の技術領域ではワイヤーとも呼ばれる)を使用する操作であればどのような装置を用いて行ってもよい。上述したようにエマルジョン中の油滴は、セルロースミクロフィブリルのその近傍に局在する性質を有するため、脱水操作により液相が系外に排出されてもフィルターや濾布上に留まり、実質的にエマルジョン成分の濃縮化が進行することになる。
【0050】
抄紙機としては、傾斜ワイヤー式抄紙機、長網式抄紙機、円網式抄紙機のような装置を用いると好適に欠陥の少ないシート状のセルロース不織布を得ることができる。抄紙機は連続式であってもバッチ式であっても目的に応じて使い分ければよい。
ミクロフィブリル化セルロース等を使用して調製した水系分散液を抄紙する方法は、基本的には、本発明者らによる特許文献6に記載されている技術に準じる。特許文献6とエマルジョン抄紙法との差異は、抄紙用の水系分散液中に油性化合物と水から成るエマルジョンが含まれている点であるが、特許文献6で開示されている抄紙の条件により良好に抄紙を実施できる。その理由は、調製工程で調製する水系分散液中でエマルジョン成分がミクロフィブリル化セルロースから成る会合体中(軟凝集体)に取り込まれて存在している点にあると考えられる。
【0051】
すなわち、調製工程により得られる水系分散液(抄紙用の水系分散液)を用いて抄紙工程により脱水を行うが、抄紙はワイヤーまたは濾布を用いて水系分散液中に分散している微細セルロース等の軟凝集体を濾過する工程であるため、ワイヤーあるいは濾布の目のサイズが重要である。本発明においては、本質的には、上述した条件により調製した抄紙用の水系分散液を、該分散液中に含まれるセルロース等を含む水不溶性成分の歩留まり割合が70重量%以上、好ましくは、95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上で抄紙することのできるようなワイヤーあるいは濾布であればどんなものでも使用できる。ただし、セルロース等の歩留まり割合が70重量%以上であっても濾水性が高くないと抄紙に時間がかかり、著しく生産効率が悪くなるため、大気圧下25℃でのワイヤーまたは濾布の水透過量が、好ましくは0.005ml/cm・s以上、さらに好ましくは0.01ml/cm・s以上であると、生産性の観点からも好適な抄紙が可能となる。上記水不溶成分の歩留まり割合が70重量%よりも低くなると、生産性が著しく低減するばかりか、用いるワイヤーや濾布内にセルロース等の水不溶性成分が目詰まりしていることになり、製膜後のセルロース不織布の剥離性も著しく悪くなる。
【0052】
ここで、大気圧下25℃でのワイヤーまたは濾布の水透過量は次のようにして評価するものとする。バッチ式抄紙機(例えば、熊谷理機工業社製の自動角型シートマシーン)に評価対象となるワイヤーまたは濾布を設置するにおいて、ワイヤーの場合はそのまま、濾布の場合は、80〜120メッシュの金属メッシュ(濾水抵抗がほとんど無いものとして)上に濾布を設置し、抄紙面積がxcmの抄紙機内に十分な量(ymlとする)の水を注入し、大気圧下で濾水時間を測定する。濾水時間がzs(秒)であった場合の水透過量を、 y/(xz) (ml/cm・s) と定義する。
【0053】
ミクロフィブリル化セルロースの抄紙に使用できる、上記の条件を満たすワイヤーや濾布は限定される。極めて微細なミクロフィブリル化セルロース繊維に対しても使用できるフィルターまたは濾布の例として、SEFAR社(スイス)製のTETEXMONODLW07−8435−SK010(PET製)、敷島カンバス社製NT20(PET/ナイロン混紡)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0054】
抄紙工程による脱水では、エマルジョンの濃縮化と同時に高固形分化が進行し、セルロースミクロフィブリルの濃度と油性化合物の濃度を水系分散液より増加させた濃縮組成物である湿紙を得る。湿紙の固形分率は、抄紙のサクション圧(ウェットサクションやドライサクション)やプレス工程によって脱水の程度を制御し、好ましくは固形分濃度が6重量%以上25重量%以下、さらに好ましくは固形分濃度が8重量%以上20重量%以下の範囲に調整する。湿紙の固形分率が6重量%よりも低いと湿紙としての自立性がなく、工程上問題が生じ易くなる。また、湿紙の固形分率が25重量%を超える濃度まで脱水すると水相だけでなく、濃縮したエマルジョンが系外に排出されてしまい、セルロースミクロフィブリル近傍の水層の存在によって、却って油性化合物の濃度が低下してしまうため、有効に通気性のあるセルロース不織布を形成できなくなり、相応しくない。
上述したように本発明では、抄紙工程によってエマルジョンが濃縮化され、脱水前の水系分散液中の油性化合物濃度に対し、脱水工程後の湿紙では該油性化合物濃度が約5倍以上、好適な場合には10倍以上に濃縮化される。
【0055】
抄紙工程で得た湿紙は、加熱による乾燥工程で油性化合物及び水の一部を蒸発させることによって、セルロース不織布となる。乾燥工程は、ドラムドライヤーのような幅を定長とした状態で、水と油性化合物(以下、水と油性化合物を合わせて「分散媒」という。)を乾燥し得るタイプの定長乾燥型の乾燥機を使用すると、より透気抵抗度の低いセルロース不織布を安定に得ることができるため、好ましい。
【0056】
乾燥温度は、条件に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは、45℃以上180℃以下、さらに好ましくは、60℃以上150℃以下の範囲とすれば、好適に通気性のあるセルロース不織布を製造することができる。乾燥温度が45℃未満では、多くの場合に分散媒の揮発速度が遅いため、生産性が確保できないため好ましくなく、180℃より高い乾燥温度とすると、構造体を構成する親水性高分子が熱変性を起こしてしまうケースがあり、また、コストに影響するエネルギー効率も低減するため、やはり好ましくない。場合によっては、100℃以下の低温乾燥で組成調製を行い、次段で100℃以上の温度で乾燥する多段乾燥を実施することも、均一性の高いセルロース不織布を得るうえでは有効であることもある。
【0057】
次に、上述した乾燥工程で得られたセルロース不織布にカレンダー装置によって平滑化処理を施す平滑化工程を設けても良い。該平滑化工程を経ることにより表面が平滑化され、薄膜化された本発明のセルロース不織布を得ることもできる。以下に、その概要を説明する。
すなわち、乾燥後のセルロース不織布に対し、さらにカレンダー装置による平滑化処理を施す工程を含むことにより、薄膜化が可能となり、広範囲の、膜厚/通気度/強度の組み合わせの本発明のセルロース不織布を提供することが可能となる。例えば、10g/m以下の目付の設定下で20μm以下(下限は3μm程度)の膜厚のセルロース不織布を容易に製造することが可能である。カレンダー装置としては単一プレスロールによる通常のカレンダー装置の他に、これらが多段式に設置された構造をもつスーパーカレンダー装置を用いてもよい。これらの装置、およびカレンダー処理時におけるロール両側それぞれの材質(材質硬度)や線圧を目的に応じて選定することにより多種の物性バランスをもつセルロース不織布を得ることができる。
【0058】
乾燥後のセルロース不織布に対するカレンダー処理の作用原理には2通りが考えられる。まず、セルロース不織布の製造工程では、抄紙用原料として使用するセルロースミクロフィブリルの繊維長に対し、製造時に使用するワイヤーメッシュや濾布の表面凹凸のピッチが大幅に長いため、得られる不織布の表面はワイヤーメッシュや濾布の凹凸が転写され易い。第一点としては、カレンダー処理は、この凹凸を平坦化させる効果を有する。第二点目として、一定空孔率を有する不織布のネットワーク構造そのものを押し潰す効果である。二番目の効果により不織布の空孔率は低減し、平均孔径も小さくなることになり、結果的に、通気抵抗度は増大し、引張り強度や突刺し強度が増大することもある。実際には、設定したカレンダー処理条件に応じて、上記一番目の効果と二番目の効果が混在し(種々の貢献率となって)、得られるセルロース不織布の構造や物性が決まる。また、エンボス加工を表面に施したカレンダー処理用金属ロールを使用して、任意の表面パターンにより凹凸を加えたセルロース不織布も本発明で使用するセルロース不織布として好適に使用することができる。極めて精密な拭き取りが要求される場合には、拭き取り用シートの表面がぴったりと微細な網目構造に接触している方が効果的なので、このような場合にカレンダー処理による平滑化が有効であることがある。表面の凹凸性制御に関する処理は、拭き取り用シートの目的に応じて選定すればよい。
【0059】
特に本発明で使用するセルロース不織布を連続的に製膜するためには、調製工程を除き、上述した抄紙工程、乾燥工程、場合によってはカレンダー処理による平滑化工程を連続的に実施する必要がある。この際、使用するワイヤーメッシュ(以下、単に「ワイヤー」ともいう。)はエンドレス仕様のものを用いて全工程を一つのワイヤーで行うかあるいは途中で次工程のエンドレスワイヤーまたはエンドレスのフェルト布にピックアップして渡すあるいは転写させて渡すかあるいは、連続製膜の全工程または一部の工程を濾布を使用するロールtoロールの工程とするかいずれかをとり得る。
さらに、抄紙機による抄紙工程において、抄紙機に通水性を有するシート状の支持体をのせて、水系分散液を構成する水の一部を該支持体上で脱水(抄紙)を行い、該支持体上にセルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布の湿紙を積層化させ、一体化させることにより、少なくとも2層以上の多層構造体からなる多層化シートを製造することができる。
【0060】
こうした多層化シートの製造に使用する支持体は、高空孔率かつ通水性のある不織布、あるいは多孔質膜であることが好ましい。具体的には、セルロース製、ポリエチレンテレフタレート製、6,6−ナイロン製、6−ナイロン製、ポリビニルアルコール製、各種ポリウレタン製の不織布、あるいはセルロース製、ポリエチレンテレフタレート製、6,6−ナイロン製、6−ナイロン製、ポリビニルアルコール製、各種ポリウレタン製の多孔質膜を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。不織布を構成する繊維の数平均繊維径が2μm以下であるマイクロウェッブと呼ばれる不織布や微多孔膜を用いると、それ自体がミクロフィブリル化セルロースの水系分散液から抄紙機で製膜する際の濾布の機能を有するため、抄紙の際に上述したようなワイヤーや濾布を使用することなく、一体化した多層構造を有する高空孔率構造体を製造することができる。3層以上の多層化シートを製造するためには2層以上の多層構造をもつ支持体を使用すればよい。また、支持体上で2層以上の本発明の多段抄紙を行って3層以上の多層化シートとしてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1,2および比較例1)
本発明の拭き取り用シートの性能を調べるために、化粧用の脂取り紙としての性能評価を行った。
セルロース原料としてコットンリンターパルプ(日本紙パルプ商事(株))を使用し、該パルプを固形分10重量%となるように水中に浸漬させて130℃、4時間のオートクレーブ処理をした後、得られた膨潤パルプを何度も水洗し、水を含浸した状態の膨潤パルプを得た。
【0062】
該膨潤パルプを固形分1.5重量%となるように水中に分散させて水分散体(400L)とし、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして400Lの該水分散体に対して、20分間叩解処理を進めた後、引き続いてクリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で叩解処理を続けた。経時的にサンプリングを行い、サンプリングスラリーに対して、JIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法(以下、CSF法)のCSF値を評価したところ、CSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると、増大していく傾向が確認された。クリアランスをゼロ近くとしてから10分間、上記条件で叩解処理を続け、CSF値で188ml↑(CSF値がゼロとなった後、さらに叩解を続け、CSFが上昇し始めた際のCSF値を、叩解初期のCSF値と区別する意味で、CSF***↑と表記する)の叩解スラリー(該叩解スラリーを水分散体M0とする)を得た。得られた叩解スラリーを、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NS3015H)を用いて操作圧力100MPa下で5回の微細化処理を実施し、ミクロフィブリル化セルロースの水分散体(固形分濃度:1.5重量%)、M1を得た。
【0063】
次にこのM1を用いて、セルロース濃度:0.22重量%,1−ヘプタノール:0.8重量%,ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製ヒプロメロース60SH−4000):0.02重量%となるように調製し、家庭用ミキサーで4分間、乳化、分散を行い、抄紙用の水系分散液を得た。ただし、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは5重量%水溶液を予め調製し、相当する分量だけ配合した。こうして得た水系分散液の抄紙機へのフィード量を変え、2種類の目付のセルロース不織布を、以下の操作により作製した。
【0064】
該水系分散液に対しミクロフィブリル化セルロースを大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力を有するPET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20、大気下25℃での水透過量:0.03ml/cm・s)を、以下で使用する角型金属製ワイヤーのサイズ(25cm×25cm)に揃えて裁断したものを濾布として、バッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン)を用いて抄紙(脱水)を行った。同抄紙機に組み込まれている角形金属製ワイヤー(25cm×25cm,80メッシュ)上に上述した濾布を設置し、その上から所定量の抄紙用分散液を抄紙機へ注入し、サクション(減圧装置)大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄紙を実施した。
【0065】
得られた濾布上に乗った湿潤状態の濃縮組成物からなる湿紙を、ワイヤー上から剥がし、湿紙面をドラム面に接触させるようにして、湿紙/濾布の2層の状態で表面温度が100℃に設定された熊谷理機工業社製ドラムドライヤーに貼り付けて約120秒間乾燥させる操作を2度繰り返した。得られた乾燥した2層体からシート状構造物を剥離させて、白色の均一なセルロースからなるセルロース不織布S1(目付:10.1g/m)、S2(目付:19.7g/m)を得た。いずれの場合も、セルロースミクロフィブリルの収率はほぼ100%であった。表1に、S1およびS2に含有される特定の水溶性化合物(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の含有量を示した。さらに表1には、S1およびS2の物性等を示した。ここで、膜厚(d(μm))は、一つの不織布サンプルについて膜厚計により測定された5点以上の測定値の平均値を意味する。特に、膜厚計は、空孔率の高い本発明の不織布サンプルを潰さずに評価できる観点から、面接触型のタイプ(Mitutoyo(株)製面接触型膜厚計(Code No.547−401))を使用した。
【0066】
さらに空孔率は、サンプルの膜厚d(μm)と目付w(g/m)から、以下の式(1)により算出した。
Pr(%)=(1−w×0.94/(1.5×d))×100 (1)
いずれのサンプルも空孔率は80%近傍の白色で通気性のあるシートであった。S1の表面の10000倍の倍率でのSEM画像を図1に示した。図1を含めたS1の表面に関する2枚のSEM画像の写真の解析により、S1の表面におけるミクロフィブリル化セルロースの数平均繊維径は98nmであった。
以上のことからS1およびS2はいずれも本発明で使用できるセルロース不織布であった。
【0067】
一方で、NBKP(針葉樹漂白クラフトパルプ)70重量部、亜麻パルプ30重量部配合比のパルプの混合物を水に固形分2重量%で分散させ、CSF値が410となるように上記ディスクリファイナーを用いて叩解した後、得られたパルプの分散液を0.1重量%の水分散液として家庭用ミキサーにて4分間、分散を施して得られた分散液について、上記と同様の抄紙機を用いて目付20.0g/mの紙H1(数平均繊維径;24.5μm,透気抵抗度;1s/100cc以下)を得た。さらに、カオリン20重量%、炭酸カルシウム10重量%、アクリルエマルジョン(昭和高分子株式会社製 ポリゾールM−19)4重量%、赤色顔料(大日精化工業株式会社製 TB720レッド2b)0.1重量%を水に分散させて100重量%とした塗工液を調製した。この塗工液を、H1上にマイヤーバーを用いて固形分塗布量が18g/mになるように塗工し、乾燥させて化粧用の脂取り紙H2を得た。このH2は、基紙上に有色の吸脂層を一層設けた構成であり、従来品の脂取り紙として使用される構成の一例である。
【0068】
上記各S1(実施例1)、S2(実施例2)、H1(比較例1)およびH2(比較例2)の脂取り紙としての評価を、以下の試験方法および皮脂量の異なる3名の被験者A、B、Cが顔を拭き取ることによる皮脂の除去程度を官能評価により行った。H2においては、吸脂層側が顔に接するようにして拭き取った。表2は、実施例1、2の脂取り紙、及び比較例1、2の評価結果をまとめたものである。なお、表2で◎は優、○は良、△は可、×は不可の評価を表わしている。
【0069】
実施例1、2の脂取り紙は、皮脂量の少ない被験者から皮脂量の多い被験者に到るすべての場合で、従来品以上の視覚効果があり、皮脂量の多い試験者が使用しても一度の拭き取りで十分に皮脂を取り除くことが可能であるとの評価を得た。また、顔のべたつき、てかりも防ぐことが可能であった。これに対し、比較例1の脂取り紙は、皮脂量が多い試験者Aにおいて、顔のべたつきが若干少なくなる程度の効果があるのみであり、脂取り紙としては十分な性能を有していなかった。また、脂取り紙の従来品である比較例2においては、皮脂量が多い試験者Aにおいて顔のべたつきが少なく、視覚効果があるとの評価を得た。しかしながら、皮脂量が少ない試験者Cにおいては視覚効果が劣るとの評価であった。
【0070】
すなわち、本発明の拭き取り用シート(脂取り紙)である実施例1および2では、比較例2のように皮脂の吸収層を特別に設けていなくとも、それ自体が極めて高い皮脂吸収能を有しており、目付にも依存せず、十分な拭き取り効果を有することが示された。以上の結果により、実施例1および2においては、比較例に比べ、べたつき感の改良、すなわちシートによる皮脂吸収量が多く(=拭き取りの高効率性)、しかも、拭き取った表面に油層の存在に起因するてかり感(=視覚的効果)がほとんどないことから、拭き取りによる拭き残りを誘引する確率が低く、精度の高い拭き取りを実施できることが示された。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の拭き取り用シートは、人体用の洗浄拭き取り、家庭等で使用する精密製品の汚れ拭き取り、工業用のワイパー、半導体製造工程で使用される精密洗浄用のワイパー、半導体ウエハや金属、水晶、ガラス等の精密研磨工程で使用されるワイピングクロス等、広範囲で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1にてコットンリンターパルプから得たミクロフィブリル化セルロースにより抄紙法で作製した拭き取り用シート(S1)の表面のSEM画像(倍率:10000倍,右下目盛の1目盛が0.5μmに相当)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布、または該不織布を一層として含む多層構造体からなるシートであって、目付が3g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上1000s/100ml以下であることを特徴とする拭き取り用シート。
【請求項2】
セルロース不織布を構成する繊維の数平均繊維径が300nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の拭き取り用シート。
【請求項3】
セルロース不織布が、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物を該セルロース不織布の重量を100%とした時に合計0.5重量%以上20重量%以下含有する不織布であることを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の拭き取り用シート。

【図1】
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【公開番号】特開2010−116332(P2010−116332A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289230(P2008−289230)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】