説明

持久力向上剤

【課題】食経験が豊富であり安全性が高く、入手が容易で加工性にも優れた持久力向上剤、抗疲労剤の提供。
【解決手段】ヌートカトンを有効成分とする持久力向上剤、抗疲労剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動及び日常の動作及び労働を含む広義の運動に対する持久力向上剤、抗疲労剤に関する。
【背景技術】
【0002】
持久力は、競技的な運動のみでなく、労働をはじめとし、歩く、立つ等の日常のすべての動作についても必要不可欠なものである。つまり日常生活を有意義に、健康的に過ごすためには持久力は極めて重要であるといえる。しかし、近年では、高齢社会の進展や交通手段の発達や情報・通信技術の発展に伴い、運動不足による持久力の低下が問題となっている。また、今後高齢化社会の到来と共に、運動機能の低下は一層大きな問題になると考えられる。持久力を向上させるには、運動をすることが適切であるといえるが、忙しさのため十分な運動をする時間がとれないことや、身体の事情により、運動がしたくてもできないといった人達が多いのが現状である。
【0003】
これらの問題を解決する一つの手段として、持久力向上や抗疲労作用を有する食品成分を日常的に摂取することが考えられる。例えば、本発明者らは、カテキンを摂取することによる持久力向上効果を見出した(特許文献1)。その他の持久力向上効果を有する成分として報告されている例は、サンザシ抽出物(特許文献2)や霊芝成分(特許文献3)、プロアントシアニジン及びリコペン(特許文献4)等が挙げられる。また、抗疲労作用を有する成分の例としては、コエンザイムQ10、カルニチン配合物(特許文献5)やグルタミンペプチド(特許文献6)等が挙げられる。
【0004】
ヌートカトンは、4,4a,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−6−イソプロペニル−4,4a−ジメチル−2(3H)−ナフタレノンなるセスキテルペンケトンであり、グレープフルーツ果皮等に存在し、グレープフルーツの特徴的な香味を有するため香料としては非常に注目されている物質であるが(非特許文献1)、これまでその生理作用についてはほとんど報告されていない。また、グレープフルーツに関しては、グレープフルーツオイル(精油)を含有する香料組成物が、交感神経系を活性化することにより、抗肥満作用を示すこと(特許文献7)、グレープフルーツオイルを含有する皮膚外用剤(特許文献8)が報告されている。しかし、ヌートカトンが持久力をはじめとする運動能力、疲労に対して与える影響については、これまで全く知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開2005−89384号公報
【特許文献2】特開平8−47381号公報
【特許文献3】特開平5−123135号公報
【特許文献4】特開2005−334022号公報
【特許文献5】特開2005−97161号公報
【特許文献6】特開2005−97162号公報
【特許文献7】特開2002−193824号公報
【特許文献8】特開2005−47935号公報
【非特許文献1】荒井綜一編、「最新 香料の事典」、第1版、朝倉書店、2000年5月10日、p.112、p.254
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、食経験が豊富であり安全性が高く、入手が容易で加工性にも優れた持久力向上剤、抗疲労剤及びそれを含有する飲食品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、持久力向上において有効な成分の探索を行った結果、食経験が豊富で安全性が高い天然物素材の中から、グレープフルーツ果皮等に存在し、グレープフルーツの特徴的な香気成分であるヌートカトンに持久力向上効果があり、持久力向上剤、抗疲労剤として有用であることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、ヌートカトンを有効成分とする持久力向上剤、及び抗疲労剤を提供するものである。
【0009】
また、本発明はヌートカトンを含有し、持久力向上効果を有することを特徴とし、持久力向上のために用いるものである旨の表示を付した飲料又は食品、及びヌートカトンを含有し、抗疲労効果を有することを特徴とし、抗疲労のために用いるものである旨の表示を付した飲料又は食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食経験が豊富で安全性が高い天然物素材を用いた、運動及び日常の動作及び労働を含む広義の運動に対する持久力向上、抗疲労効果を有する飲食品等が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、ヌートカトンとは、4,4a,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−6−イソプロペニル−4,4a−ジメチル−2(3H)−ナフタレノンなるセスキテルペンケトンをいう。当該ヌートカトンには、8種類の光学異性体が存在する。本発明においては、それら異性体を単独又は混同して用いることができるが、次の構造式(I)で表される(+)−ヌートカトンを用いるのが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明で用いるヌートカトンは、公知の有機化学的合成、微生物を用いた合成等により製造することができ、例えば、特開2004−123561公報、特開2003−250591公報、特表平11−501052公報に記載の方法により得ることができる。
【0014】
また、本発明で用いるヌートカトンは、ヌートカトンを含有する天然物から公知の方法により抽出することにより得ることもできる。ここで、抽出は、例えば、水、熱水、アルコール水、有機溶剤等を用いて行う抽出操作と高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等による精製操作や蒸留操作を適宜組み合わせて行う方法により行うことができる。ヌートカトンを含有する天然物としては、例えばグレープフルーツが挙げられる。グレープフルーツから抽出する場合、その原料としては例えば、グレープフルーツ果実、グレープフルーツ果皮、グレープフルーツオイル、グレープフルーツ濃縮果汁、グレープフルーツ果汁搾汁後の残渣等を用いることができる。
【0015】
上記合成や抽出により得られるヌートカトンは、単数又は複数工程の精製等により夾雑物が除かれた高純度のものを用いることが好ましいが、本発明の効果を奏する限り粗精製物であってもよい。また、ヌートカトンを比較的多く含有することが知られる、グレープフルーツ精油を用いることも出来る。
【0016】
本発明の持久力向上剤は、ヒト及び動物に投与することができる他、各種飲食品、医薬品、ペットフード等に配合して摂取することができる。食品としては、持久力向上及び疲労の予防、改善等の生理機能をコンセプトとし、その旨を表示した機能性飲食品、病者用飲食品、特定保健用食品に応用できる。飲料の形態は特に限定されないが、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等、あらゆる飲料に配合可能である。また、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、スープ類等、あらゆる食品形態で配合し、持久力向上食品、抗疲労食品として用いることが可能である。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
【0017】
尚、経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のヌートカトンに賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0018】
これらのものに対するヌートカトンの配合量は、その使用形態により異なるが、飲食品やペットフード等の形態では、通常0.0002〜5質量%、更に0.001〜3質量%、特に0.02〜2質量%とするのが好ましい。医薬品、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤等として用いる場合には、通常0.01〜95質量%、更に0.1〜95質量%、特に2〜80質量%とするのが好ましい。
【0019】
本発明の持久力向上剤の投与量(有効摂取量)は、一日あたり1〜1000mg/60kg体重とするのが好ましく、特に2〜700mg/60kg体重、さらに5〜500mg/60kg体重とするのが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の代表的実施例を示す。
実施例1 ヌートカトンの持久力向上・抗疲労効果に対する評価
ヌートカトンの持久力向上・抗疲労効果に対する評価を下記の通り行った。尚、ヌートカトンはAvocado社製の物を用いた。
【0021】
流水プールにおけるマウス限界遊泳時間測定法(参考文献:Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol,Vol.288,R708-R715,2005)により、持久力向上・抗疲労効果の評価を行った。実験用プールは、透明なアクリル製のプール(長さ90×幅45×深さ45cm)に38cmの深さまで水を満たし、ヒーターで34℃に維持した状態で使用した。水流はポンプ(C−P60H、日立製)を用いて作り出し、流速はWater flowmeter(東京フローメータ研究所)をポンプに連結させ、バルブの開閉により調節した。また、流速は流速計(SV−101−25S、三光精密工業)で確認を行った。
【0022】
実験動物には5週齢のBalb/c系雄性マウス(チャールスリバー)を用い、一定の飼育環境下(23±2℃、明期:午前7時から午後7時)で1週間予備飼育をし、馴化を行った。その後1週間は、遊泳運動に慣れさせるためのトレーニングを週3回行った(初日に流速5L/分で30分、3日目、5日目に6L/分で30分の遊泳運動を行った)。次の1週間に、各個体を2時間絶食させた状態で、流速7L/分における限界遊泳時間(呼吸のため水面に顔を出せなくなった状態で救出した時点を限界遊泳時間とした)を2回測定した。限界遊泳時間に群間差が出ないように1群8匹で試験食群と対照食群の2群に群分けを行った。表1に示す配合組成で調製した食餌を用いて10週間飼育を行った。この間、限界遊泳時間測定(7L/分)とトレーニング(6L/分、30分)を週1回ずつ行った。飼育10週目におけるマウスの限界遊泳時間を表2に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表2から、ヌートカトンを含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して10週間飼育後の限界遊泳時間が有意に延長しており、ヌートカトンは持久力向上効果、抗疲労効果を有することがわかる。
【0026】
実施例2 製剤例
(1)持久力向上・抗疲労用飲料
下記組成物を混合し、果汁飲料を製造した。
【0027】
【表3】

【0028】
(2)持久力向上・抗疲労用カプセル剤
カプセル化剤中に下記組成物(300mg)を封入した。
【0029】
【表4】

【0030】
(3)持久力向上・抗疲労用錠剤
下記組成物(1錠=250mg)を打錠し、錠剤を製造した。
【0031】
【表5】

【0032】
(4)持久力向上・抗疲労用顆粒剤
下記組成物(1袋=500mg)を混合し顆粒剤を製造した。
【0033】
【表6】

【0034】
(5)持久力向上、抗疲労用食品
下記組成物(1錠=1000mg)を打錠し、チュアブルタイプのタブレット食品を製造した。
【0035】
【表7】

【0036】
(6)持久力向上・抗疲労飲料
下記組成物を混合し、持久力向上・抗疲労飲料を製造した。
【0037】
【表8】

【0038】
(7)持久力向上・抗疲労用カプセル剤
カプセル化剤中に下記組成物(300mg)を封入した。
【0039】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌートカトンを有効成分とする持久力向上剤。
【請求項2】
ヌートカトンを有効成分とする抗疲労剤。
【請求項3】
ヌートカトンを含有し、持久力向上効果を有することを特徴とし、持久力向上のために用いるものである旨の表示を付した飲料又は食品。
【請求項4】
ヌートカトンを含有し、抗疲労効果を有することを特徴とし、抗疲労のために用いるものである旨の表示を付した飲料又は食品。

【公開番号】特開2007−145724(P2007−145724A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338405(P2005−338405)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】