説明

振動ジャイロ素子、ジャイロセンサー及び電子機器

【課題】振動ジャイロ素子の検出感度を向上させる。
【解決手段】振動ジャイロ素子1は、支持部2から延出する1対の駆動用振動腕3a,3bとそれとは反対側の1対の検出用振動腕4a,4bとを備え、駆動用振動腕が面内方向に逆向きに屈曲振動する駆動モードと、駆動用振動腕が面外方向に互いに逆向きにかつコリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、検出用振動腕が面外方向に互いに逆向きにかつ駆動用振動腕と逆相で屈曲振動する第1の検出モードと、駆動用振動腕が面外方向に互いに逆向きにかつコリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、検出用振動腕が面外方向に互いに逆向きにかつ駆動用振動腕と同相で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、各検出用振動腕が、第1の検出モードと第2の検出モードとにおいて同相で屈曲振動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲振動片を用いた振動ジャイロ素子、それを用いたジャイロセンサー及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計や家電製品、各種情報・通信機器やOA機器等の電子機器には、電子回路のクロック源として圧電振動子、圧電振動片とICチップとを搭載した発振器やリアルタイムクロックモジュール等の圧電デバイスが広く使用されている。また、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ナビゲーション装置、車体姿勢検出装置、ポインティングデバイス、ゲームコントローラー、携帯電話、ヘッドマウントディスプレイ等の各種電子機器には、角速度、角加速度、加速度、力等の物理量を検出するために、屈曲振動片を用いた圧電振動ジャイロ等のセンサーが広く使用されている。
【0003】
例えば、断面正方形の振動腕(音片)の1側面に駆動用の圧電セラミックを接着し、隣接する他の側面に抽出用の圧電セラミックを接着した横振動音片ジャイロが知られている(例えば、特許文献1を参照)。この音片は、駆動用の圧電セラミックに信号を加えることによってX方向に屈曲振動し、Z軸周りの回転によりコリオリ力によってY方向に屈曲振動すると、抽出用の圧電セラミックに発生する出力によりZ軸周りの回転の角速度を検出することができる。
【0004】
また、被駆動対と検知対である2対の叉状部材をベースによって連結した両側音叉型振動片からなる角速度センサーが知られている(例えば、特許文献2を参照)。このような両側音叉型(H形)振動片からなる振動ジャイロにおいて、振動子のアーム長さ及び幅、圧電素子の長さ及び幅を一定の関係に設定することにより、スプリアスオフセット出力の原因となる第2次モードを抑圧し、安定性の高い検出をできることが知られている(例えば、特許文献3を参照)。この振動ジャイロは、恒弾性合金の振動子の表面に配置した圧電素子によって、振動子の駆動及び検出を行う。
【0005】
同様の両側音叉型として、基体から+Y方向に突出する2本の第1振動片と、−Y方向に突出する2本の第2振動片と、基体中央から突出する単一の支持棒とを有する角速度検出装置が知られている(例えば、特許文献4を参照)。第1振動片は駆動モードで面内のX方向に逆相で振動し、この状態でY方向周りに回転すると、検出モードで第2振動片が面外のZ方向に逆相で振動する。
【0006】
特許文献4と同様の構造を有する角速度センサにおいて、一方の振動片ではコリオリ力と同方向に漏れ振動が発生し、他方の振動片ではコリオリ力と逆方向に漏れ振動が発生するように、駆動振動周波数と検出振動周波数とを決定することによって、漏れ振動による電気信号が相殺され、角速度の検出精度が良好になることが知られている(例えば、特許文献5を参照)。この角速度センサは、H型振動子の各部の寸法を適当に定めることにより、左右上下の振動片が左右逆相かつ上下逆相の第1振動モード、左右及び上下同相の第3振動モード、及び左右逆相かつ上下同相の第2振動モードにおいて、各振動モードの固有振動数f1,f3,f2がこの順に高くなるように設定される。
【0007】
また、振動ジャイロ素子は、駆動モード及び検出モードとは異なる一定した振動形態のスプリアスモードと呼ばれる不要な振動モードが発生することが知られている(例えば、特許文献6を参照)。駆動モードの振動は、その振動周波数からスプリアスモードの振動周波数を十分に離すことによって安定する。
【0008】
このようなスプリアスモードの固有共振周波数を利用することによって、温度ドリフトを低減し得る振動型ジャイロスコープが提案されている(例えば、特許文献7を参照)。特許文献7によれば、駆動モードの振動の固有共振周波数fdと検出モードの振動の固有共振周波数fpとの差Δfを、駆動モードの固有共振周波数fdとスプリアスモードの固有共振周波数fsとの差Δfsの1.7倍に近づけることによって、−40℃−+80℃の温度範囲における温度ドリフトが著しく低減する。
【0009】
また、駆動振動モードの振動の共振周波数fdとスプリアスモードの振動の共振周波数fsとの差(fs−fd)の絶対値|fs−fd|であるスプリアス離調を小さくすることによって、温度ドリフトを低減した振動型ジャイロスコープの振動子が提案されている(例えば、特許文献8を参照)。特許文献8によれば、検出振動部及び/又は駆動振動部の質量や寸法を変化させて、スプリアスモード及び/又は駆動振動の共振周波数を変更することによって、スプリアス離調を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−191916号公報
【特許文献2】特開昭64−31015号公報
【特許文献3】特開昭62−106314号公報
【特許文献4】特開平10−54723号公報
【特許文献5】特開平9−329444号公報
【特許文献6】特開2003−21518号公報
【特許文献7】特開2001−82962号公報
【特許文献8】特開2004−333416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
振動ジャイロ素子において、検出感度を高くするためには、検出用振動腕に作用する加振力をより大きくして、その振幅をより大きくすることが必要である。しかしながら、上述した従来の振動ジャイロは、いずれも検出時の振動モードが1つだけであり、検出用振動腕への加振力を増加させて検出感度を向上させることは容易でない。特に、振動ジャイロ素子が小型化すると、それだけ駆動用及び検出用振動腕も小型化されるから、加振力の増加による検出感度の向上は、一層困難になる。
【0012】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、該駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する複数の検出用振動腕とを備える振動ジャイロ素子において、検出用振動腕への加振力を増加させて検出感度の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の振動ジャイロ素子は、上記目的を達成するために、支持部と、該支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、支持部から駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに屈曲振動する駆動モードと、
振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつコリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、複数の検出用振動腕が面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ駆動用振動腕と逆相で屈曲振動する第1の検出モードと、
複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつコリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、複数の検出用振動腕が面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ駆動用振動腕と同相で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
各検出用振動腕が、第1の検出モードと第2の検出モードとにおいて同相で屈曲振動することを特徴とする。
【0014】
このように構成することによって、振動ジャイロ素子の各振動腕は、第1及び第2の検出モードを重畳した振動モードで屈曲振動し、各検出用振動腕は第1又は第2の検出モードのいずれか一方だけで振動する場合よりも、加振力が増大し、振幅が大きくなる。従って、いずれの検出用振動腕の検出電極からも、より高い電圧が出力されるので、振動ジャイロ素子の回転及び角速度等をより高い検出感度で求めることができる。
【0015】
また、本発明の振動ジャイロ素子は、支持部と、該支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、支持部から駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の駆動共振周波数fdで屈曲振動する駆動モードと、
振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつコリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、複数の検出用振動腕が面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モードと、
複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、複数の検出用振動腕が面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
共振周波数fd,fp1,fp2が、
fp1<fd<fp2、かつ、
0.7×(fd−fp1)≦fp2−fd≦1.3×(fd−fp1)
の関係を満足することを特徴とする。
【0016】
このように共振周波数fd,fp1,fp2を設定することによって、各検出用振動腕が第1の検出モードと第2の検出モードとにおいて同相で屈曲振動し、かつ第1及び第2の検出モードの振動により各検出用振動腕に作用する加振力を増大させ、検出感度を高めることができる。
【0017】
或る実施例では、駆動用振動腕の長さLdに関する支持部の幅WbをWb/Ld≧2の範囲に設定することによって、振動ジャイロ素子の検出感度を1.15倍以上に増幅することができる。
【0018】
別の実施例では、駆動用振動腕の長さLdに関する支持部の幅WbをWb/Ld≧2.5の範囲に設定することによって、振動ジャイロ素子の検出感度を1.25倍以上に増幅することができる。
【0019】
更に別の実施例によれば、駆動用振動腕の長さLdに関する支持部の幅WbをWb/Ld≧3.3の範囲に設定することによって、振動ジャイロ素子の検出感度を1.35倍以上に増幅することができる。
【0020】
また、或る実施例では、第1検出共振周波数fp1と駆動共振周波数fdとの差である検出離調周波数Δfdと、第2検出共振周波数fp2と駆動共振周波数fdとの差であるスプリアス離調周波数Δfsとを、ppm表示で|Δfd−Δfs|≦40000に設定することによって、振動ジャイロ素子の検出感度を1.15倍以上に増幅することができる。
【0021】
別の実施例では、検出離調周波数Δfdとスプリアス離調周波数Δfsとをppm表示で|Δfd−Δfs|≦13000に設定することによって、振動ジャイロ素子の検出感度を1.25倍以上に増幅することができる。
【0022】
更に別の実施例によれば、検出離調周波数Δfdとスプリアス離調周波数Δfsとをppm表示で|Δfd−Δfs|≦1000に設定することによって、振動ジャイロ素子の検出感度を1.35倍以上に増幅することができる。
【0023】
本発明の別の側面によれば、上述した本発明の振動ジャイロ素子を備えることによって、検出感度の高いジャイロセンサーを提供することができる。
【0024】
更に本発明の別の側面によれば、上述した本発明の振動ジャイロ素子を備えることによって、検出感度の高いジャイロセンサー等のセンサー装置を備えた高性能かつ高精度な電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施例の振動ジャイロ素子及びその駆動モードにおける振動モードを示す平面図。
【図2】(A)、(B)図は、図1の振動ジャイロ素子の第1,第2検出モードにおける振動モードをそれぞれ示す説明図。
【図3】第1実施例の離調周波数差Δf対検出感度増幅度の関係を示す線図。
【図4】第1実施例の変形例の振動ジャイロ素子の平面図。
【図5】図4の変形例における支持部の幅と駆動用振動腕の長さとの寸法比対検出感度増幅度の関係を示す線図。
【図6】(A)図は本発明の第2実施例の振動ジャイロ素子及びその駆動モードにおける振動モードを示す平面図、(B)、(C)図は、その第1,第2検出モードにおける振動モードをそれぞれ示す説明図。
【図7】(A)図は図1の振動ジャイロ素子の製造過程において水晶ウエハ上に形成した金属マスクを示す平面図、(B)図はそのVII−VII線における拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。尚、添付図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の参照符号を付して示す。
【0027】
図1は、例えば角速度センサーに使用される本発明の第1実施例の振動ジャイロ素子1を概略的に示している。振動ジャイロ素子1は両側音叉型屈曲振動片からなり、中央の概ね矩形の支持部2と、該支持部から一方の側に並んで平行に延出する1対の駆動用振動腕3a,3bと、それとは反対側に並んで平行に延出する1対の検出用振動腕4a,4bとを有する。前記各振動腕は、その長さを短くしても高次振動モードの発生を抑制して振動周波数を安定させ得るように、それぞれ先端に錘部5a,5b,6a,6bが設けられている。各駆動用振動腕3a,3bと支持部2及び錘部5a,5bとの結合部には、左右両側に振動腕側に向けて狭幅のテーパ部7a,7b,8a,8bがそれぞれ形成されている。同様に、各検出用振動腕4a,4bと支持部2及び錘部6a,6bとの結合部には、左右両側に振動腕側に向けて狭幅のテーパ部9a,9b,10a,10bがそれぞれ形成されている。
【0028】
駆動用振動腕3a,3bには、駆動モードにおいて該駆動用振動腕をその表裏主面に沿う例えば該主面に平行なXY面内で屈曲振動させるために、駆動電極(図示せず)が形成されている。検出用振動腕4a,4bには、検出モードにおいて該検出用振動腕がその表裏主面に交わる例えば該主面に垂直なZ軸方向に屈曲振動する際に発生する電位差を検出するために、検出電極(図示せず)が形成されている。駆動モードにおいて、前記駆動電極に所定の交流電圧を印加すると、駆動用振動腕3a,3bは、図1に矢示するようにXY面内で互いに逆向きに即ち接近離反する向きに屈曲振動する。
【0029】
この状態で振動ジャイロ素子1が長手方向のY軸周りに回転すると、その角速度に応じて発生するコリオリ力の作用により、前記駆動用振動腕は前記主面に垂直な面外方向即ちZ軸方向に互いに逆向きに即ち逆相で屈曲振動する。これに共振して、検出モードで、検出用振動腕4a,4bが同じくZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動する。
【0030】
本実施例の振動ジャイロ素子1は2つの検出モードを有する。第1の検出モードでは、図2(A)に示すように、駆動用振動腕3a,3bが前記面外方向に即ちZ軸方向に、コリオリ力の作用方向11a,11bに関して逆相でかつ互いに逆向きに屈曲振動する。これにより、検出用振動腕4a,4bはZ軸方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ駆動用振動腕3a,3bとは逆相で屈曲振動する。これは、一般に振動ジャイロ素子において角速度等の検出に通常利用されている振動モードである。
【0031】
第2の検出モードでは、図2(B)に示すように、駆動用振動腕3a,3bがZ軸方向に、コリオリ力の作用方向11a,11bに関して同相でかつ互いに逆向きに屈曲振動する。これにより、検出用振動腕4a,4bはZ軸方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ駆動用振動腕3a,3bとは同相で屈曲振動する。これは、一般に角速度等の検出に不要なスプリアス振動として排除されている振動モードである。
【0032】
この結果、振動ジャイロ素子1の前記各振動腕は、第1及び第2の検出モードを重畳した振動モードで屈曲振動する。各駆動用振動腕3a,3bは、それぞれ第1の検出モードと第2の検出モードとにおいて逆相で屈曲振動する。これに対し、各検出用振動腕4a,4bは、それぞれ第1の検出モードと第2の検出モードとにおいて同相で屈曲振動するから、第1又は第2の検出モードのいずれか一方だけで振動する場合よりも、加振力が増大し、振幅が大きくなる。従って、いずれの検出用振動腕4a,4bであっても、前記検出電極からより高い電圧の電気信号が得られ、振動ジャイロ素子1の前記回転及び角速度等がより高い検出感度で求められる。
【0033】
ここで、駆動用振動腕3a,3bが駆動モードにおいて前記面内方向に屈曲振動する駆動共振周波数をfdとし、検出用振動腕4a,4bが、第1の検出モードにおいて屈曲振動する第1検出共振周波数をfp1、第2の検出モードにおいて屈曲振動する第2検出共振周波数をfp2とする。本実施例によれば、前記駆動、第1検出及び第2検出共振周波数がfp1<fd<fp2を満足するように設定する。これにより、上述した第1の検出モードと第2の検出モードとを同時に発生させることができる。
【0034】
駆動共振周波数fd=50kHzとし、第1及び第2検出共振周波数fp1、fp2を駆動共振周波数fdの前後で変化させて、振動ジャイロ素子1の検出感度Gを測定した。検出感度Gは、振動ジャイロ素子1のY軸周りの回転角速度をω(dps)、検出用振動腕4a,4bの前記検出電極間に発生する電位差をVs(mV)としたとき、G=Vs/ω(mV/dps)で表される。その測定結果を以下の表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1において、実施例1〜3は、本実施例の振動ジャイロ素子1の検出感度Gを表している。これに対し、比較例1〜3は、第1及び第2検出共振周波数fp1、fp2を駆動共振周波数fdに関して正側又は負側の一方に設定した場合の検出感度Gである。同表に示すように、前記駆動、第1検出及び第2検出共振周波数をfp1<fd<fp2に設定し、fp1及びfp2をそれぞれ正負両側からfdに近付けることによって、検出感度がより高くなった。
【0037】
特に、第1検出共振周波数fp1と駆動共振周波数をfdとの差である検出離調周波数Δfd=|fd−fp1|、及び第2検出共振周波数fp2と駆動共振周波数をfdとの差であるスプリアス離調周波数Δfs=|fd−fp2|をそれぞれ1kHzにしたとき、検出感度Gが最大となった。これら測定結果から、本実施例によれば、更に
0.7×(fd−fp1)≦fp2−fd≦1.3×(fd−fp1)
の関係を満足することにより、高い検出感度が得られる。
【0038】
更に、検出離調周波数Δfdとスプリアス離調周波数Δfsとの離調周波数差Δf=|Δfd−Δfs|と検出感度の増幅度との関係をシミュレーションした。図3は、そのシミュレーション結果を示している。同図において、横軸は、離調周波数差Δfをppm表示でΔf=861〜227865(ppm)の範囲で示している。縦軸は、第1の検出モードのみを用いた通常の場合の検出感度に対する本実施例の検出感度の増幅度である。
【0039】
同図に示すように、離調周波数差Δfが小さいほど、検出感度の増幅度は高く、即ち検出感度は顕著に高くなっている。同図において、駆動共振周波数fd=50.581kHz、第1検出共振周波数fp1=49.076kHz、第2検出共振周波数fp2=52.042kHzのとき、離調周波数差Δf=861ppmで検出感度の増幅度が最大となった。
【0040】
このシミュレーション結果から、離調周波数差Δf=|Δfd−Δfs|≦40000(ppm)において、1.15以上の検出感度増幅度が得られた。また、離調周波数差Δf≦13000において通常よりも1.25倍以上の検出感度を、更に離調周波数差Δf≦1000において通常よりも1.35倍以上の検出感度を得られることが分かった。
【0041】
第2の検出モード即ちスプリアスモードの第2検出共振周波数fp2は、振動ジャイロ素子1の検出側の寸法、例えば検出用振動腕4a,4bの幅、又は該振動腕が延出する支持部2の幅を変更することによって、変化させることができる。前記検出用振動腕の幅を小さくすると、第2検出共振周波数fp2は上昇する。支持部2の幅を大きくすると、第2検出共振周波数fp2は減少する。
【0042】
図4は、第1実施例の支持部2の幅を拡大した変形例の振動ジャイロ素子11を示している。振動ジャイロ素子11において、駆動用振動腕3a,3bの長さLdと支持部12の幅Wbとの寸法比に関する検出感度増幅度の変化をシミュレーションした。前記駆動用振動腕の長さLdは、図4に示すように、該振動腕の全長から錘部5a,5b及びテーパ部7a,7b,8a,8bの長さを除いた、その共振周波数を直接決定する部分の長さとした。
【0043】
図5は、そのシミュレーション結果を示している。同図において、横軸は、駆動用振動腕長さLd及び支持部12の長さを一定としかつ支持部幅Wbを変化させて、寸法比をWb/Ld=0.93〜3.39の範囲で示している。縦軸は、同様に第1の検出モードのみを用いた通常の場合の検出感度に対する本実施例の検出感度の増幅度である。同図に示すように、寸法比Wb/Ldが大きいほど、即ち支持部幅Wbが大きいほど、検出感度の増幅度は概ね直線状に上昇し、検出感度は顕著に高くなっている。
【0044】
このシミュレーション結果から、寸法比Wb/Ld≧2.0において1.15以上の検出感度増幅度が得られた。また、寸法比Wb/Ld≧2.5において通常よりも1.25倍以上の検出感度を、更に寸法比Wb/Ld≧3.3において通常よりも1.35倍以上の検出感度を得られることが分かった。
【0045】
本発明は、2本以上の複数の駆動用振動腕及び検出用振動腕を有する振動ジャイロ素子についても、同様に適用することができる。
【0046】
図6は、本発明の第2実施例である三脚型屈曲振動片からなる振動ジャイロ素子21を概略的に示している。振動ジャイロ素子21は、矩形の支持部22と、該支持部から並んで平行に延長する3本の駆動用振動腕23a〜23cと、それとは反対側に並んで平行に延出する3本の検出用振動腕24a〜24cとを有する。本実施例においても、前記各振動腕に第1実施例の錘部5a〜6a,5b〜6b及びテーパ部7a〜10a,7b〜10bと同様の錘部及びテーパ部を設けることができる。
【0047】
駆動用振動腕23a〜23cには、駆動モードにおいて該駆動用振動腕をその表裏主面に沿う例えば該主面に平行なXY面内で屈曲振動させるために、駆動電極(図示せず)が形成されている。検出用振動腕24a〜24cには、検出モードにおいて該検出用振動腕がその表裏主面に交わる例えば該主面に垂直なZ軸方向に屈曲振動する際に発生する電位差を検出するために、検出電極(図示せず)が形成されている。駆動モードにおいて、前記駆動電極に所定の交流電圧を印加すると、駆動用振動腕23a〜23cは、図6(A)に矢示するようにXY面内で、隣り合う振動腕同士互いに逆向きに即ち接近離反する向きに屈曲振動する。
【0048】
この状態で振動ジャイロ素子21が長手方向のY軸周りに回転すると、その角速度に応じて発生するコリオリ力の作用により、前記駆動用振動腕は前記主面に垂直な面外方向即ちZ軸方向に互いに逆向きに即ち逆相で屈曲振動する。これに共振して、検出モードで、検出用振動腕24a〜24cが同じくZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動する。
【0049】
本実施例の振動ジャイロ素子21も同様に2つの検出モードを有する。第1の検出モードでは、図6(B)に示すように、駆動用振動腕23a〜23cがZ軸方向に、コリオリ力の作用方向に関して左右両側の振動腕23a,23cが同相で、中央の振動腕23bが逆相で屈曲振動する。これにより、検出用振動腕24a〜24cはZ軸方向に、それぞれ図中上下方向に対応する駆動用振動腕23a〜23cと逆相で屈曲振動する。これは、一般に振動ジャイロ素子において角速度等の検出に通常利用されている振動モードである。
【0050】
第2の検出モードでは、図6(C)に示すように、駆動用振動腕23a〜23cがZ軸方向に、コリオリ力の作用方向に関して左右両側の振動腕23a,23cが逆相で、中央の振動腕23bが同相で屈曲振動する。これにより、検出用振動腕24a〜24cはZ軸方向に、それぞれ図中上下方向に対応する駆動用振動腕23a〜23cと同相で屈曲振動する。これは、一般に角速度等の検出に不要なスプリアス振動として排除されている振動モードである。
【0051】
この結果、振動ジャイロ素子21の前記各振動腕は、第1及び第2の検出モードを重畳した振動モードで屈曲振動する。各駆動用振動腕23a〜23cは、それぞれ第1の検出モードと第2の検出モードとにおいて逆相で屈曲振動する。これに対し、各検出用振動腕24a〜24cは、それぞれ第1の検出モードと第2の検出モードとにおいて同相で屈曲振動するから、第1又は第2の検出モードのいずれか一方だけで振動する場合よりも、振幅が大きくなる。従って、いずれの前記検出用振動腕であっても、前記検出電極からより高い電圧の電気信号が得られるので、振動ジャイロ素子21の前記回転及び角速度等がより高い検出感度で求められる。
【0052】
上記各実施例の振動ジャイロ素子は、例えば水晶ウエハから以下の加工方法を用いて高精度に製造することができる。先ず、水晶ウエハの表裏全面に例えばCrの上にAuを積層した2層構造の金属膜を形成し、その上にフォトレジストを塗布しかつこれを露光、現像して振動ジャイロ素子1の外形に対応したレジストパターンに形成する。前記レジストパターンから露出した前記金属膜をウエットエッチングして、前記水晶ウエハの表裏両面に金属パターンを形成する。
【0053】
図7(A)(B)は、このようにして水晶ウエハ31の表裏両面に形成した金属パターン32を示している。同図において、想像線33a,33bは、振動ジャイロ素子1の駆動用振動腕3a,3bから錘部5a〜6a,5b〜6b及びテーパ部7a〜10a,7b〜10bを除いた左右側辺を表している。金属パターン32は、駆動用振動腕3a,3bの左右側辺33a,33bに対応する部分が所望の位置よりも外側に僅かに広く形成されている。
【0054】
次に、図7(B)に示すように、レーザー光34を水晶ウエハ31の表面又は裏面のいずれか片側から照射して、駆動用振動腕3a,3bの左右側辺33a,33bに対応する前記部分のみをアブレーション加工する。レーザー光は透明なかつ薄い水晶ウエハ31を透過するので、該ウエハ表裏両面の金属パターン32,32を同時に、かつ表裏でアライメントずれを実質的に生じることなく正確に加工することができる。
【0055】
特に、左右の駆動用振動腕3a,3bの間隔Ddを、図7(A)に示すように、レーザー光34のスポット径RLと一致させるのが好ましい。これにより、前記駆動用振動腕の隣り合う側辺33a,33bに沿って一方向にレーザー光34を一回走査するだけで、表裏両面の金属パターン32,32の前記両側辺に対応する部分を同時に加工することができる。
【0056】
次に、このように加工した金属パターンをマスクとして前記水晶ウエハをウエットエッチングし、振動ジャイロ素子1の外形形状を有する素子片を形成する。得られた前記素子片の表面に電極膜を被着させ、フォトエッチング技術を用いてパターニングし、前記駆動電極、検出電極、及びこれら電極から引き出される配線等を形成する。
【0057】
本実施例によれば、このようにして表裏両面の金属パターン32,32の前記駆動用振動腕の左右側辺33a,33bに対応する前記部分について、表裏のアライメントをより正確に合わせることができるので、駆動用振動腕3a,3bをより所望の矩形形状に近い断面形状に加工することができる。また、表裏両面の金属パターン32,32の特定の部分のみをレーザー光で加工するので、工程全体として、前記金属パターン全体をレーザー光で加工する場合に比して、加工時間を大幅に短縮しかつ加工コストを低減することができる。
【0058】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、本発明の振動ジャイロ素子は、水晶以外にタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料から形成することができる。また、本発明の振動ジャイロ素子は、上述したように圧電素子を利用した圧電駆動式のものに限らず、静電引力を利用した静電駆動式、電磁力(ローレンツ力)による磁気駆動式、交流電圧の印加によるクーロン力で駆動する方式等、各種駆動方式のものを採用することができる。
【0059】
更に本発明は、前記振動ジャイロ素子を適当なパッケージ等に実装することによって、ジャイロセンサーに適用することができる。更に、このジャイロセンサーを搭載することによって、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ナビゲーション装置、車体姿勢検出装置、ポインティングデバイス、ゲームコントローラー、携帯電話、ヘッドマウントディスプレイ等の電子機器に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1,11,21…振動ジャイロ素子、2,12,22…支持部、3a,3b,23a〜23c…駆動用振動腕、4a,4b,24a〜24c…検出用振動腕、5a,5b,6a,6b…錘部、7a〜10a,7b〜10b…テーパ部、31…水晶ウエハ、32…金属パターン、33a,33b…想像線、側辺、34…レーザー光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部と、
前記支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、前記駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う前記複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で屈曲振動する第1の検出モードと、
前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
各前記検出用振動腕が、前記第1の検出モードと前記第2の検出モードとにおいて同相で屈曲振動することを特徴とする振動ジャイロ素子。
【請求項2】
支持部と、
前記支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、前記駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う前記複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の駆動共振周波数fdで屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モードと、
前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
前記共振周波数fd,fp1,fp2が、
fp1<fd<fp2、かつ、
0.7×(fd−fp1)≦fp2−fd≦1.3×(fd−fp1)
の関係を満足することを特徴とする振動ジャイロ素子。
【請求項3】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧2の範囲に設定したことを特徴とする請求項2記載の振動ジャイロ素子。
【請求項4】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧2.5の範囲に設定したことを特徴とする請求項3記載の振動ジャイロ素子。
【請求項5】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧3.3の範囲に設定したことを特徴とする請求項4記載の振動ジャイロ素子。
【請求項6】
前記第1検出共振周波数fp1と前記駆動共振周波数fdとの差である検出離調周波数Δfdと、前記第2検出共振周波数fp2と前記駆動共振周波数fdとの差であるスプリアス離調周波数Δfsとを、ppm表示で|Δfd−Δfs|≦40000に設定したことを特徴とする請求項2記載の振動ジャイロ素子。
【請求項7】
前記検出離調周波数Δfdと前記スプリアス離調周波数Δfsとをppm表示で|Δfd−Δfs|≦13000に設定したことを特徴とする請求項6記載の振動ジャイロ素子。
【請求項8】
前記検出離調周波数Δfdと前記スプリアス離調周波数Δfsとをppm表示で|Δfd−Δfs|≦1000に設定したことを特徴とする請求項7記載の振動ジャイロ素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか記載の振動ジャイロ素子を備えることを特徴とするジャイロセンサー。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか記載の振動ジャイロ素子を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate