説明

振動ジャイロ

【課題】 X軸方向の加速度に対する誤差信号を低減でき、Z軸を含む複数の軸の角速度を検出することが可能な低背化された振動ジャイロを提供すること。
【解決手段】 Y軸及びZ軸周りの角速度を検出可能な振動ジャイロであって、Y軸方向に長手方向を有する第1のアーム4と、その一端に接続され第1のアーム4の中心軸に関して対称な連結部3と、そのX軸方向の両端に接続されY軸方向に長手方向を有する第2のアーム5a、5bと、Y軸方向に長手方向を有する第3のアーム7a、7bとを有する振動子を有し、第2のアームをX軸方向へ屈曲振動させる駆動手段、第1のアームのX軸方向の屈曲振動を検出する第1の検出手段、第2のアームのZ軸方向の屈曲振動を検出する第3の検出手段、および、第3のアームのX軸方向の屈曲振動を検出する第2の検出手段を備え、X軸方向の加速度によって第1の検出手段に生じる誤差信号を、第2の検出手段に生じる検出信号によって相殺する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラの手振れ補正システム、ナビゲーションシステム、姿勢制御システム等に使用される角速度を検出する振動ジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
振動ジャイロは、速度を持つ物体に角速度が与えられると、その物体自身に速度方向と直角な方向にコリオリ力が発生するという力学現象を利用した角速度センサである。圧電素子などの電気機械変換素子を用いて電気的な信号を印加することで機械的な振動、すなわち駆動振動モードを励起させることができ、且つ、駆動振動モードと直交する方向の機械的な振動、すなわち検出振動モードの大きさを電気的に検出可能とした系において、予め、駆動振動モードを励振した状態で、駆動振動モードの振動方向および検出振動モードの振動方向に垂直な軸を中心とした角速度を与えると、前述のコリオリ力の作用により、検出振動モードが発生し、出力信号として検出される。検出された出力信号は駆動振動モードの大きさ及び角速度に比例するため、駆動振動モードの大きさを一定にした状態では、出力信号の大きさから角速度の大きさを求めることができる。このような方式の振動ジャイロは、現在、ビデオカメラ等の手振れ補正やカーナビゲーション用センサとして応用されている。
【0003】
一般に、単純な音片形や音さ形の振動子を用いた振動ジャイロでは、検出したい軸と振動子の長手方向を平行に配置させなければならない。そのため、高さ方向の軸の検出には、振動ジャイロの低背化が課題となる。特許文献1には、このような低背化の課題を解決するための振動ジャイロに係る技術が開示されている。
【0004】
図5は、特許文献1の図3に開示されている従来の振動ジャイロの検出素子の斜視図である。振動子101は、XY平面に平行な平板で構成され、一対の振動片102a、102bを基部103に接合し、さらに、支持体106を介して外部の固定部材105に接続して構成される。
【0005】
角速度を測定するには、まず振動片102a、102bをX方向に互いに位相が逆になるよう振動させる。この状態でZ軸周りに回転角速度ωが作用すると、コリオリ力により、振動片102a、102bにはY軸に沿って互いに逆向きの力F1、F2が作用する。その結果、基部103の両端に同じ向きのモーメントM1、M2が働き。このモーメントにより、支持体106に屈曲振動が生じる。この屈曲振動を検出することで、回転角速度ωを測定することができる。このように、XY平面に平行な平板で構成された素子によって、高さ方向の軸(Z軸)の周りの角速度の検出を可能とし、振動ジャイロを低背化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−160477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の発明による振動ジャイロは、X軸方向の加速度に対して、誤差信号を発生しやすい構成である。すなわち、図5の振動ジャイロにおいては、Z軸周りの角速度によって生じるコリオリ力を支持体106に生じるX軸方向の屈曲振動として検出するが、X軸方向に加速度を印加した場合にも同様のX軸方向の屈曲振動が生じるため、検出信号からZ軸周りの角速度による信号とX軸方向の加速度による信号を区別することが難しい。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、Z軸周りの角速度を検出することが可能で、X軸方向の加速度に対する誤差信号を低減でき、かつ、高精度で小型の低背化された振動ジャイロを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明による振動ジャイロは、互いに直交するX、Y、Zの3つの軸で表される空間において、XY平面に平行な平板にZ軸方向の貫通穴加工を施して形成された振動子を有する、少なくともZ軸周りの角速度を検出可能な振動ジャイロであって、前記振動子は、前記平板の周辺部の少なくとも一部に設けた基部に一端を接続され、Y軸方向に長手方向を有する第1のアームと、前記第1のアームの他端に接続され、前記第1のアームの中心を通りYZ平面に平行な平面に関して対称な形状を有する連結部と、前記連結部のX軸方向の両端にそれぞれ一端を接続され、Y軸方向に長手方向を有する1対の第2のアームと、前記基部にそれぞれ一端を接続され、前記第1のアームの中心を通りYZ平面に平行な平面に関して対称に形成された、Y軸方向に長手方向を有する少なくとも1対以上の第3のアームとを有し、前記第2のアームをX軸方向へ屈曲振動させる駆動手段と、前記第1のアームのX軸方向の屈曲振動を検出する第1の検出手段と、前記第3のアームのX軸方向の屈曲振動を検出する第2の検出手段とを備え、前記駆動手段は前記第2のアーム上に形成された駆動電極を有し、前記第1の検出手段は前記第1のアーム上に形成された検出電極を有し、前記第2の検出手段は前記第3のアーム上に形成された検出電極を有し、X軸方向の加速度によって前記第1の検出手段によるZ軸周りの角速度の検出において生ずる誤差信号の少なくとも一部を、前記第2の検出手段による検出信号によって相殺することを特徴とする。
【0010】
ここで、前記第2のアームのZ軸方向の屈曲振動を検出する第3の検出手段を備え、前記第3の検出手段は前記第2のアーム上に形成された検出電極を有し、Y軸周りの角速度を検出可能としてもよい。
【0011】
また、前記第2のアームまたは前記第3のアームの少なくとも一方のアームの先端に接続され、前記第1のアームの中心を通りYZ平面に平行な平面に関して対称に形成された、少なくとも1対以上の付加質量部を備えてもよい。
【0012】
また、前記第2のアームおよび前記連結部のXY平面に平行な面の外形はいずれもX軸方向およびY軸方向の辺からなる矩形形状を有し、前記連結部のY軸方向の辺の長さは、前記第2のアームのX軸方向の辺の長さに対し、2倍以上4倍以下であってもよい。
【0013】
また、前記駆動手段により前記第1の連結部に生ずる振動の最大変位量は、前記駆動手段により前記第2のアームに生ずる前記屈曲振動の最大変位量に比べて10%以下であってもよい。
【0014】
また、前記駆動手段、前記第1の検出手段および前記第2の検出手段は、それぞれ圧電薄膜を有していてもよい。
【0015】
本発明の振動ジャイロは、上記のように、1対の第2のアームが連結部によって、第1のアームの長手方向の軸に関して対称に接続された振動子を有する振動ジャイロである。一対の第2のアームが互いに逆向きでX軸方向に変位する振動は、安定な特性が得られる。一対の第2のアームの変位によって発生する力は、連結部と第1のアームの接続部付近で相殺され、ノード点となる。この振動を駆動振動モードとして選択するのが好ましい。この駆動振動モードは、第2のアームに形成された駆動電極を含む駆動手段によって励振することができる。
【0016】
また、連結部は、電気的な接続や振動の伝播を意図して形成されたものであって、振動の励振や検出を目的としていない。連結部が第1のアームや第2のアームに対して十分な剛性を持っている場合、前述の駆動振動モードを励振しても連結部に生ずる変位は非常に小さいので、駆動振動モードの励振時での第2のアームの変位はX軸方向にほぼ限定される。このためには、連結部に生ずる振動の最大変位量が第2のアームに生ずる屈曲振動の最大変位量に比べて十分に小さいこと、例えば10%以下であることが必要である。このような連結部は、例えば、第2のアームおよび連結部のXY平面に平行な面の外形をX軸方向およびY軸方向の辺からなる矩形形状とし、連結部のY軸方向の辺の長さを、第2のアームのX軸方向の辺の長さに対し、2倍以上とすることによって得られる。
【0017】
前述の駆動振動モードを励振した状態において、Y軸周りの角速度を印加すると、一対の第2のアームは発生したコリオリ力によって互いに逆向きにZ軸方向への力を受ける。したがって、第2のアームはZ軸方向へ変位する。このZ軸方向の変位は、第2のアームに形成された検出電極を含む第3の検出手段によって検出することができる。これにより、Y軸周りの角速度を検出する振動ジャイロとして機能させることができる。
【0018】
同様に、前述の駆動振動モードを励振した状態において、Z軸周りの角速度を印加すると、一対の第2のアームは発生したコリオリ力によって互いに逆向きにY軸方向への力を受ける。したがって、第2のアームはY軸方向へ変位する。ただし、この力は第2のアームの長手方向へ働く力であるため、ほぼ変形を伴わない。第2のアームは、X軸およびZ軸方向に比べ、Y軸方向に対して十分な剛性を持っているため、この力によって第3の検出手段に発生する信号は、十分に無視できる大きさである。
【0019】
この第2のアームのY軸方向への変位は、連結部にZ軸周りのモーメントを与える。したがって、連結部に接続された第1のアームはX軸方向へ変位する。このX軸方向の変位は、第1のアームに形成された検出電極を含む第1の検出手段によって検出することができる。これにより、Z軸周りの角速度を検出する振動ジャイロとして機能させることができる。
【0020】
また、第3のアームと第2の検出手段により、並進運動での加速度に対する誤差出力も低減できる。通常、振動ジャイロの検出出力は、駆動信号等を参照信号とした同期検波による信号処理によって行われるため、駆動振動モードの周波数以外の信号成分は除去されるが、片持ち梁等の振動子の1素子での振動ジャイロの構成では、加速度に対する検出信号と角速度に対する検出信号の分離が難しく、加速度による誤差出力を無視できない場合がある。
【0021】
本発明の振動ジャイロにX軸方向への加速度を印加した場合、第1および第2のアームは、同時にX軸方向へ屈曲変位する。これは、X軸方向への変位であるため、Y軸周りの角速度の検出に関しては、ほとんど影響はない。ただし、Z軸周りの角速度の検出に関しては、同様のX軸方向の変位となるため、第1の検出手段に加速度による信号出力が発生し、誤差信号となる。
【0022】
しかし、本発明においては、第3のアームも同時にX軸方向へ屈曲変位しており、この屈曲変位は、第2の検出手段により検出される。この検出信号は、第1の検出手段に発生する誤差信号と同振幅、逆位相とすることができるため、第1の検出手段と第2の検出手段による検出信号を直接加算するか、または、第2の検出手段による検出信号を用いた所定の信号処理によって、Z軸周りの角速度の検出に関して、X軸方向の加速度の影響を除去できる。
【0023】
同様に、Y軸方向への加速度を印加した場合、第1のアーム、第2のアームおよび第3のアームは、同時にY軸方向へ力を受ける。しかしこの力は、それぞれのアームにおいて、アームの長さ方向への力となるため、変形は十分に小さく、検出出力に対する誤差出力の影響は小さい。
【0024】
さらに、Z軸方向への加速度を印加した場合、第1のアーム、第2のアームおよび第3のアームは、同時にZ軸方向へ屈曲変位する。これは、Z軸方向への変位であるため、Z軸周りの角速度の検出に関しては、ほとんど影響はない。
【0025】
しかし、Y軸周りの角速度の検出に関しては、同様のZ軸方向の変位となるため、第3の検出手段に信号が発生する。しかし、一対の第2のアームは、Z軸方向へ加速度が印加された場合には同じ向きにZ軸方向へ屈曲変位し、Y軸周りの角速度が印加された場合は、互いに逆向きにZ軸方向へ屈曲変位するため、所定の信号処理によってY軸周りの角速度の検出に関しても加速度の影響は除去できる。
【0026】
上記のように、本発明においては、安定な駆動振動モードが得られるので、高いQ値の振動が期待できる。さらに、第2のアームの先端に付加質量部を設けることにより、共振周波数を低く設計できるため、振動変位量を増大して感度を高めることができる。同様に、第3のアームの先端に質量付加部を設ければ第2の検出手段の感度を高めることができる。また、駆動振動方向をX軸方向へ限定することが可能で、不要な駆動振動が少ないため、他軸感度が小さい。このように、本発明により、高いQ値と低い共振周波数設計により変位を大きくすることが可能であり、高感度で他軸感度の小さな振動ジャイロが得られる。さらに、加速度を検出する第2の検出手段によって、加速度による誤差信号を相殺し、並進加速度の影響を受けない、Y軸およびZ軸の角速度の検出が可能な振動ジャイロが得られる。
【発明の効果】
【0027】
上述の構成によって、本発明は以下のような効果を奏する。すなわち、本発明の振動ジャイロは、X軸方向の加速度に対する誤差信号を低減でき、Z軸またはZ軸とY軸の角速度の検出が可能である。また、連結部が変形しないため、駆動振動方向をX軸方向へ限定することが可能であり、これにより他軸感度を小さくできる。さらに、Q値の高い駆動振動モードにより高感度が得られる。また、並進運動の加速度に対する誤差出力が小さい。これらにより、高精度で小型の振動ジャイロを提供することができる。
【0028】
すなわち、本発明により、Z軸周りの角速度を検出することが可能で、X軸方向の加速度に対する誤差信号を低減でき、かつ、高精度で小型の低背化された振動ジャイロを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による振動ジャイロの一実施の形態における検出素子の斜視図。
【図2】本実施の形態の振動ジャイロの振動子の第1のアームの部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図。
【図3】本実施の形態の振動ジャイロの振動子の第2のアームの部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図。
【図4】本実施の形態の振動ジャイロの振動子の第3のアームの部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図。
【図5】従来の振動ジャイロの検出素子の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明による振動ジャイロの一実施の形態における検出素子の斜視図である。また、図2は、本実施の形態の振動ジャイロの振動子の第1のアームの部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図である。図3は、本実施の形態の振動ジャイロの振動子の第2のアームの部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図である。図4は、本実施の形態の振動ジャイロの振動子の第3のアームの部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図である。本実施の形態の振動ジャイロは、図1に示すように、XY平面に平行な平板にZ軸方向の貫通穴加工を施して形成された振動子を有する検出素子1を用い、Y軸およびZ軸周りの角速度を検出可能な振動ジャイロである。
【0032】
本実施の形態の振動ジャイロの振動子は、検出素子1の周辺部に設けた基部2に一端を接続され、Y軸方向に長手方向を有する第1のアーム4と、第1のアーム4の他端に接続され、第1のアーム4の中心を通りYZ平面に平行な平面に関して対称な形状を有する連結部3と、連結部3のX軸方向の両端にそれぞれ一端を接続され、Y軸方向に長手方向を有する1対の第2のアーム5a、5bとを有し、さらに、基部2にそれぞれ一端を接続され、Y軸方向に長手方向を有する1対の第3のアーム7a、7bを有している。さらに、本実施の形態の振動ジャイロは、第2のアーム5a、5bをX軸方向へ屈曲振動させる駆動手段と、第1のアーム4のX軸方向の屈曲振動を検出する第1の検出手段と、第2のアーム5a、5bのZ軸方向の屈曲振動を検出する第3の検出手段と、第3のアーム7a、7bのX軸方向の屈曲振動を検出する第2の検出手段とを備えている。上記の駆動手段は第2のアーム5a、5b上に形成された駆動電極を有し、第1の検出手段、第2の検出手段および第3の検出手段は、それぞれ第1のアーム4、第3のアーム7a、7bおよび第2のアーム5a、5b上に形成された検出電極を有し、駆動手段により連結部3に生ずる振動の最大変位量は、駆動手段により第2のアーム5a、5bに生ずる屈曲振動の最大変位量に比べて10%以下である。
【0033】
また、振動子は、第2のアーム5a、5bおよび第3のアーム7a、7bの先端に接続され、第1のアーム4の中心を通り、YZ平面に平行な平面に関して対称に形成された、2対の付加質量部6a、6b、6c、6dを備えている。
【0034】
また、本実施の形態の振動ジャイロの検出素子1において、検出素子1の外周に形成された基部2が支持固定されている。
【0035】
また、第1のアーム4、第2のアーム5a、5b、第3のアーム7a、7b、および、連結部3のXY平面に平行な面の外形は、いずれもX軸方向およびY軸方向の辺からなる矩形形状を有し、連結部3のY軸方向の辺の長さは、第2のアーム5a、5bのX軸方向の辺の長さに対し2倍以上となっている。
【0036】
ここで、本実施の形態の振動ジャイロの検出素子1は、振動子を構成する平板である基板の一面上に下部電極を形成し、その上面に圧電薄膜を形成し、さらにその上面に複数の上部電極を形成した基板に対し貫通穴加工を施して、振動子、駆動手段および検出手段の一部を構成してなるものである。
【0037】
図2は、第1のアーム4の部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図である。図2に示すように、第1のアーム4上に下部電極9、圧電薄膜10、検出電極13a、13bが順に形成されている。第1のアーム4がX軸方向に変位すると、検出電極13a、13b近傍の圧電薄膜10には互いに逆向きの歪が発生する。この歪により検出電極13a、13bには逆位相の電気信号が発生する。この電気信号を所定の検出回路で検出することで、第1のアーム4のX軸方向の変位が検出できる。
【0038】
図3は、第2のアーム5a、5bの部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図である。図3に示すように、第2のアーム5a、5b上に、下部電極9、圧電薄膜10、駆動電極11a、11b、検出電極12が順に形成されている。駆動電極11a、11bに逆位相の電気信号を与えると、駆動電極11a、11b近傍の圧電薄膜10には、第2のアームの長さ方向に関して互いに逆向きの歪が発生する。この歪によって第2のアーム5a、5bのX軸方向の振動を励振できる。
【0039】
また、駆動電極11a、11bは第2のアーム5a、5bのX軸方向の変位を検出することもできるため、駆動電極11a、11b、または、その一部を、自励発振回路を構成する際のモニタ電極として利用することも可能である。
【0040】
また、Z軸方向の変位が発生すると、検出電極12近傍の圧電薄膜10には歪が発生する。この歪により、検出電極12には歪に対応した電気信号が発生する。この電気信号を所定の検出回路で検出することで、第2のアーム5a、5bのZ軸方向の変位を検出できる。同様に、図2の検出電極13a、13bにも歪に対応した電気信号が発生する。しかし、この電気信号は、検出電極13a、13bで同位相の信号となるため、減算の信号処理を行うことによって、Z軸方向の変位は検出されない。
【0041】
なお、第2のアーム5a、5bのX軸方向の変位に対しても、検出電極12近傍の圧電薄膜10に歪が発生する。しかし、この歪は、第2のアームの幅方向の中心線を境に逆向きに分布するため、検出電極12には、電気信号がほぼ発生しない。
【0042】
図4は、第3のアーム7a、7bの部分の基板と圧電薄膜および電極の構造を示す断面図である。図4に示すように、第3のアーム7a、7b上に、下部電極9、圧電薄膜10、検出電極14a、14bが順に形成されている。第3のアーム7a、7bがX軸方向に変位すると、検出電極14a、14b近傍の圧電薄膜10には、互いに逆向きの歪が発生する。この歪により、検出電極14a、14bには逆位相の電気信号が発生する。この電気信号を所定の検出回路で検出することで、第3のアーム7a、7bのX軸方向の変位が検出できる。
【0043】
また、Z軸方向の変位が発生すると、検出電極14a、14bには歪に対応した電気信号が発生する。しかし、この電気信号は、検出電極14a、14bで同位相の信号となるため、減算の信号処理を行うことによって、Z軸方向の変位は検出されない。
【0044】
振動ジャイロとして動作させるためには、予め、駆動振動モードを励振させる。前述の駆動手段によって、付加質量部6a、6bは、X軸方向に、互いに逆向きに振動させる。ただし、この駆動信号の周波数は、駆動振動モードの共振周波数近傍の周波数が望ましい。
【0045】
この駆動振動モードを励振した状態において、Y軸周りに角速度を印加すると、付加質量部6a、6bは、発生したコリオリ力によって、互いに逆向きにZ軸方向への力を受ける。したがって、第2のアーム5a、5bは、Z軸方向へ変位する。このZ軸方向の変位は、第2のアーム5a、5bに形成された検出電極12によって検出することができる。これにより、Y軸周りの角速度を検出する振動ジャイロとして機能させることができる。
【0046】
また、連結部3は、電気的な接続や振動の伝播を意図して形成されたものであって、振動の励振や検出を目的としていない。第1のアーム4および第2のアーム5a、5bに対して、十分な剛性を持っており、駆動振動モードを励振しても、連結部3に生ずる変位は非常に小さい。したがって、駆動振動モードの励振時の第2のアーム5a、5b、付加質量部6a、6bの変位は、X軸方向にほぼ限定される。
【0047】
第1のアーム4の中心を通りYZ平面に平行な平面に関して対称に、付加質量部6a、6bがX軸方向に変位する振動は、非常に安定な特性が得られる。2つの付加質量部の変位によって発生する力は、連結部3と第1のアーム4の接続部付近で相殺され、ノード点となる。
【0048】
この安定な駆動振動モードにより高いQ値の振動が期待でき、さらに、付加質量部により共振周波数を低く設計できる。高いQ値と低い周波数設計により、変位を大きくすることが可能であり、高感度な振動ジャイロが得られる。さらに、駆動振動モードの変位をX軸方向に限定することで、他軸感度のない振動ジャイロが得られる。
【0049】
同様に、Z軸周りの角速度を印加すると、2つの付加質量部6a、6bは、発生したコリオリ力によって、Y軸方向への力を受ける。付加質量部6aと6bは、互いに逆方向へ力を受ける。したがって、第2のアーム5a、5bは、Y軸方向へ変位する。ただし、この力は、第2のアーム5a、5bの長手方向へ働く力であるため、ほぼ変形を伴わない。第2のアーム5a、5bは、X軸およびZ軸方向に比べ、Y軸方向に対して、十分な剛性を持っているため、それらに形成された検出電極12に発生する信号は、十分に無視できる大きさである。
【0050】
この第2のアーム5a、5bのY軸方向への変位は、連結部3にZ軸周りのモーメントを与える。したがって、連結部3に接続された、第1のアーム4は、X軸方向へ変位する。このX軸方向の変位は、第1のアーム4に形成された検出電極13a、13bによって検出することができる。これにより、Z軸周りの角速度を検出する振動ジャイロとして機能させることができる。
【0051】
また、本実施の形態の振動ジャイロでは、第3のアーム7a、7bにより、並進運動での加速度に対する誤差出力を低減できる。
【0052】
X軸方向への加速度を印加した場合、4つの付加質量部は、一斉にX軸方向へ力を受ける。第1のアーム4、第2のアーム5a、5bは、一斉に同じ向きのX軸方向へ変位する。しかし、これはX軸方向への変位であるため、第2のアーム5a、5bに形成された検出電極12には、電気信号が発生せず、Y軸周りの角速度の検出に関しては、ほとんど影響はない。
【0053】
一方、Z軸周りの角速度の検出に関しては、同じX軸方向の変位となるため、第1のアーム4に形成された検出電極13a、13bに電気信号が発生する。しかし、第3のアーム7a、7bに形成された検出電極14a、14bにも電気信号が発生する。
【0054】
そこで、X軸方向の加速度によって生じる検出電極13a、13b、14a、14bの電気信号の大きさを予め調整しておき、所定の信号処理を行うことによって加速度の影響を除去できる。すなわち、X軸方向の加速度によって生じる第1のアーム4に形成された検出電極13a、13bで検出される電気信号の大きさと、第3のアーム7a、7bに形成された検出電極14a、14bで検出される電気信号の大きさをほぼ一致させ、位相を逆向きとする。これによりX軸方向の加速度によって生じる電気信号は相殺され、誤差出力は低減する。
【0055】
同様に、Y軸方向への加速度を印加した場合、4つの付加質量部は、一斉にY軸方向へ力を受ける。しかし、連結部3は十分な剛性を持ち、第1のアーム4、第2のアーム5a、5b、第3のアーム7a、7bには、長手方向の力となるため、変形は充分に小さく、Y軸周り、およびZ軸周りの角速度の検出には、ほとんど影響はない。
【0056】
さらに、Z軸方向への加速度を印加した場合、4つの付加質量部は、一斉にZ軸方向へ変位する。したがって、第1のアーム、第2のアームおよび第3のアームも一斉に同じ向きのZ軸方向へ変位する。これは、Z軸方向への変位であるため、Z軸周りの角速度の検出に関しては、ほとんど影響はない。Y軸周りの角速度の検出に関しては、角速度の印加時と同様にZ軸方向の変位となるため、それぞれの検出電極12に電気信号が発生する。
【0057】
しかし、実際にY軸周りの角速度が印加された場合、第2のアーム5a、5bは、互いに逆向きにZ軸方向へ変位するため、所定の信号処理によって加速度の影響は除去できる。
【0058】
以上のように、本実施の形態によりY軸とZ軸の角速度について検出可能な振動ジャイロが得られる。前述の通り、本実施の形態の振動ジャイロの振動子の駆動振動モードは、非常に対称性の良い振動となる。それぞれの付加質量部の変位によって発生する力は、連結部と第1のアームの接続部付近で相殺され、そこがノード点となる。駆動振動モードの振動特性を損なうことなく、第1のアームの端部は、容易に支持固定が可能である。したがって、基部2に容易に接続できる。検出素子1の周囲に形成された基部2は、その上への信号の入出力に必要な電極パッドの形成が容易で、さらに、基部2の部分を他の実装基板に実装固定することも容易である。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の振動ジャイロの具体的な一実施例について説明する。図1〜図4に示すように、検出素子1としては、厚さ50μmのシリコン基板を用い、その一面上に下部電極9を形成し、その上面に、圧電薄膜10として、厚さ2μmのPZT薄膜を形成し、さらにその上面に、駆動電極11a、11b、検出電極12、13a、13b、14a、14bの上部電極を形成して、ドライエッチング加工による貫通穴加工を施したものである。下部電極9は、シリコン基板の表面を酸化処理して形成した厚さ1μmの二酸化シリコン(SiO)膜と、その上面に、スパッタ法で形成した厚さ35nmのチタン膜と、さらにその上面に、スパッタ法で形成した厚さ200nmの白金膜とで構成される。上部電極は、PZT薄膜の上面に、スパッタ法で形成した厚さ35nmのクロム膜と、その上面に、スパッタ法で形成した厚さ300nmの金の膜とで構成される。ここで、PZT薄膜上へ配線電極を形成する場合、静電容量を小さくするため、PZT薄膜上へ低誘電率の絶縁層を形成して、その上に配線電極を形成してもよい。
【0060】
また、連結部3のY軸方向の辺の長さは約100μmであり、第2のアーム5a、5bのX軸方向の辺の長さは約50μmである。また、第2のアーム5a、5bのY軸方向の長さは、おおよそ1200μm程度、第3のアーム7a、7bのY軸方向の長さは、おおよそ500μm程度、連結部3のX軸方向の長さは、おおよそ600μm程度であり、付加質量部6a、6bの形状は、おおよそ一辺が200μm、付加質量部6c、6dの形状は、X軸方向が100μm程度、Y軸方向が1000μm程度の矩形形状である。本実施例の構成において有限要素法解析で振動子の変位分布を解析したところ、連結部の最大変位量は、第2のアームの最大変位量に対して約1%であった。
【0061】
本発明の振動ジャイロは、上述のように、XY平面に平行な平板によって構成されながら、Y軸およびZ軸の角速度の検出が可能である。また、連結部が変形しにくいため、駆動振動方向をX軸方向へ限定することが可能であり、他軸感度が小さい。さらに、Q値の高い駆動振動モードにより高感度である。また、並進運動の加速度に対する誤差出力が小さい。さらに、周囲に形成された基部を支持固定できるため実装が容易で量産性が高い。これにより、高精度で量産性に優れた、低背化された小型の振動ジャイロを提供することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記の実施の形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれることは勿論である。例えば、上述の実施の形態に係る振動ジャイロにおいて、PZT薄膜などの圧電薄膜を有したシリコン基板を用いたものを例示したが、これに限らず、圧電単結晶基板や圧電多結晶体基板、単純なシリコン基板等であってもよく、また、駆動手段および検出手段における駆動電極や検出電極の形状、数および配置、さらに各アームや各連結部の形状なども目的、用途に応じて設計可能であり、例示したものに制限されない。連結部を駆動振動によって変形しにくい構造とする方法についても、その平面形状を第2のアームの形状と大きく異ならしめることや矩形以外の形状とすることなどによって剛性を強めること又はその共振周波数を駆動振動の周波数から遠ざけること、さらには、その上に剛性を強くする膜を形成することなど、様々な手段が可能である。さらに、第2のアーム、第3のアームの先端に設置する質量付加部の有無およびその形状は、目的とする振動ジャイロが必要とする感度、応答特性や形状によって選択することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 検出素子
2、103 基部
3 連結部
4 第1のアーム
5a、5b 第2のアーム
6a、6b、6c、6d 付加質量部
7a、7b 第3のアーム
9 下部電極
10 圧電薄膜
11a、11b 駆動電極
12、13a、13b、14a、14b 検出電極
101 振動子
102a、102b 振動片
105 固定部材
106 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交するX、Y、Zの3つの軸で表される空間において、XY平面に平行な平板にZ軸方向の貫通穴加工を施して形成された振動子を有する、少なくともZ軸周りの角速度を検出可能な振動ジャイロであって、前記振動子は、前記平板の周辺部の少なくとも一部に設けた基部に一端を接続され、Y軸方向に長手方向を有する第1のアームと、前記第1のアームの他端に接続され、前記第1のアームの中心を通りYZ平面に平行な平面に関して対称な形状を有する連結部と、前記連結部のX軸方向の両端にそれぞれ一端を接続され、Y軸方向に長手方向を有する1対の第2のアームと、前記基部にそれぞれ一端を接続され、前記第1のアームの中心を通りYZ平面に平行な平面に関して対称に形成された、Y軸方向に長手方向を有する少なくとも1対以上の第3のアームとを有し、前記第2のアームをX軸方向へ屈曲振動させる駆動手段と、前記第1のアームのX軸方向の屈曲振動を検出する第1の検出手段と、前記第3のアームのX軸方向の屈曲振動を検出する第2の検出手段と、を備え、前記駆動手段は前記第2のアーム上に形成された駆動電極を有し、前記第1の検出手段は前記第1のアーム上に形成された検出電極を有し、前記第2の検出手段は前記第3のアーム上に形成された検出電極を有し、X軸方向の加速度によって前記第1の検出手段によるZ軸周りの角速度の検出において生ずる誤差信号の少なくとも一部を、前記第2の検出手段による検出信号によって相殺することを特徴とする振動ジャイロ。
【請求項2】
前記第2のアームのZ軸方向の屈曲振動を検出する第3の検出手段を備え、前記第3の検出手段は前記第2のアーム上に形成された検出電極を有し、Y軸周りの角速度を検出可能としたことを特徴とする請求項1に記載の振動ジャイロ。
【請求項3】
前記第2のアームまたは前記第3のアームの少なくとも一方のアームの先端に接続され、前記第1のアームの中心を通りYZ平面に平行な平面に関して対称に形成された、少なくとも1対以上の付加質量部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の振動ジャイロ。
【請求項4】
前記第2のアームおよび前記連結部のXY平面に平行な面の外形はいずれもX軸方向およびY軸方向の辺からなる矩形形状を有し、前記連結部のY軸方向の辺の長さは、前記第2のアームのX軸方向の辺の長さに対し、2倍以上4倍以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の振動ジャイロ。
【請求項5】
前記駆動手段により前記第1の連結部に生ずる振動の最大変位量は、前記駆動手段により前記第2のアームに生ずる前記屈曲振動の最大変位量に比べて10%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動ジャイロ。
【請求項6】
前記駆動手段、前記第1の検出手段および前記第2の検出手段は、それぞれ圧電薄膜を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の振動ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−247789(P2011−247789A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122271(P2010−122271)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】