説明

振動子の配線構造及び圧電ポンプ

【課題】振動子の表面に形成した膜状電極に対し、リード部材先端の接続端子を導通接続する振動子の配線構造において、振動子とリード部材との接続信頼性(耐久性)が高い配線構造を得る。
【解決手段】膜状電極に導電性ゴムを弾接させ、該導電性ゴムにリード部材を導通接続した配線構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子の配線構造及びその配線構造を備えた圧電ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
振動子を有する装置として、例えば圧電ポンプがある。圧電ポンプは、平板状の圧電振動子とハウジングの間に可変容積室を形成し、圧電振動子を振動させることにより、可変容積室の容積を変化させてポンプ作用を得ている。より具体的には、可変容積室に連なる一対の流路に、流れ方向の異なる一対の逆止弁(可変容積室への流体流を許す逆止弁と可変容積室からの流体流を許す逆止弁)を設けており、圧電振動子の振動により可変容積室の容積が変化すると、それに伴い一対の逆止弁の一方が閉じ他方が開く動作を繰り返すことから、ポンプ作用が得られる。このような圧電ポンプは、液体ポンプだけでなく気体ポンプとしても用いられている。
【0003】
圧電振動子は、圧電体を、シム(導電性薄肉金属板)の表裏の少なくとも一方に積層してなっている。圧電体はその表裏方向に分極特性が与えられていて、表裏間に、この分極方向と同一方向または逆方向の正負極性を与えると一方の表面積が拡大し他方の表面積が縮小する性質がある。このため、圧電体の表裏に与える正負極性を交互に反転させると、表裏の一方が伸びて他方が縮むサイクルが繰り返され、シムが振動する。
【特許文献1】特開平10-74992号公報
【特許文献2】特開平07-99788号公報
【特許文献3】特開2002-171005号公報
【特許文献4】特開2001-313428号公報
【特許文献5】特開2000-124519号公報
【特許文献6】特願2005-361151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この圧電振動子に対する配線は従来、リード部材等リード部材をシム及び圧電体(表面に形成した膜状電極)に半田付けして行っていた。ところが、数十〜100μm未満の振幅の振動が繰り返される圧電振動子では、長期の使用により、圧電振動子表面の膜状電極とリード部材との半田付け部分で、接続不良が発生することが分かった。半田は、膜状電極にリジッドに固定されることから、微振動が繰り返されると、その固定界面に剥離が発生することが原因と考えられる。この問題は、圧電振動子に限らず、平板状の振動子で表面に電極を有する水晶等の振動子についても当てはまる。
【0005】
また、最近の圧電振動子では、膜状電極として耐食性の高い非常に薄い(例えば厚さ0.1μm程度)金ペースト電極が用いられている。この金ペースト膜状電極には事実上半田付けができない。
【0006】
本発明は、以上の問題意識に基づき、振動子とリード部材等リード部材との接続信頼性(耐久性)が高い配線構造を得ることを目的とする。また、本発明は、圧電振動子とリード部材との接続信頼性が高い圧電ポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、半田付けに代えて導電性ゴムを用いることに着目し、この導電性ゴムにリード部材を導通させ、かつ導電性ゴムを圧電体(膜状電極)に押し付けることで、圧電体とリード部材との長期の接続信頼性を確保したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、振動子の表面に形成した膜状電極に対し、リード部材先端の接続端子を導通接続する振動子の配線構造において、膜状電極に導電性ゴムを弾接させ、該導電性ゴムにリード部材を導通接続したことを特徴としている。なお、リード部材はワイヤー状の金属製の導電部材や導電部材をパターンニングしたFPC、もしくは金属製の板状部材等いずれでも良い。
【0009】
また本発明は、圧電振動子と、この圧電振動子との間に可変容積室を形成するハウジングと、上記圧電振動子の表面に形成された膜状電極に給電するリード部材とを有し、該リード部材を介して圧電振動子に給電することにより該圧電振動子を振動させてポンプ作用を得る圧電ポンプの態様では、膜状電極表面に導電性ゴムを接触させ、該導電性ゴムにリード部材を導通接続し、上記ハウジング側に、上記導電性ゴムを膜状電極に押し付ける方向の力を与える押え部材を設けたことを特徴としている。
【0010】
導電性ゴムとリード部材を導通させるには、導電性ゴムに、スリットまたは穴を形成し、このスリットまたは穴に、リード部材の先端を挿入する態様、あるいは、導電性ゴムにスリットや穴を形成することなく、リード部材の先端を直接差し込む態様が好ましい。
【0011】
本発明の配線構造は、特に、振動子表面の膜状電極が膜状金電極である場合に有用である。
【0012】
導電性ゴムは、導電性と弾性を備えたゴム材料であればよいが、具体的には、カーボンブラックを添加し、体積固有抵抗を小さくしたNBR(ニトリルゴム)、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)、シリコーンゴム、ブチルゴムなどが挙げられる。特にシリコーンゴムはカーボンブラックを大量に添加してもゴム性を維持し、かつ、体積固有抵抗値を10Ω・cm以下、さらには5Ω・cm以下にもできるためより好ましい。
【0013】
導電性ゴムを振動子(圧電体)表面に押し付けるため、圧電ポンプでは、そのハウジングを用いることが好ましい。例えば硬質プラスチックから構成されるハウジングは、振動子の振動を妨げる可能性があるが、導電性ゴム自体に弾性があるから、その配置位置を平面円形の振動子の周縁とすることにより、その悪影響は殆ど表れない(ポンプ性能には実質的に影響がない)。特に、導電性ゴムを収納し、圧電体表面に押し付けるための押圧凹部をハウジングに設けて押え部材とするとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振動子とリード部材との接続信頼性(耐久性)が高い配線構造を得ることができる。圧電ポンプの圧電振動子に対する配線構造に適用すれば、信頼性の高い長寿命の圧電ポンプが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1、図2は、本発明による配線構造を適用する圧電ポンプの一例を示している。本圧電ポンプ100は、平面円形の圧電振動子10、アッパハウジング(上蓋)20、ロアハウジング30、駆動基板40及び下蓋50を備えている。ロアハウジング30には、圧電振動子10を受け入れる円形凹部31が形成されている。円形凹部31内に収納される圧電振動子10は、その表裏にガイドリング11とOリング12を当接させた状態で、アッパハウジング20とロアハウジング30の間に挟着され、ポンプ室P(図2)を構成している。
【0016】
圧電振動子10は、ポンプ室P側に臨むシム10aと、大気室(アッパハウジング20)側に臨む圧電体10bとを備えたユニモルフタイプである。シム10aは、導電性の金属薄板材料、例えば厚さ50μm程度のステンレス、42アロイ等の薄板からなっている。圧電体10bは、例えば厚さ50〜300μm程度のPZT(Pb(Zr、Ti)O3)等の圧電材料から構成されるもので、その表裏方向に分極処理が施されている。
【0017】
ロアハウジング30には、円形凹部31内に、圧電振動子10(円形凹部31)の平面中心に対する偏心対称位置に位置させて、吸入側液溜室32と吐出側液溜室33が形成されている。また、ロアハウジング30には、この吸入側液溜室32と吐出側液溜室33に連通する吸入ポート34と吐出ポート35が形成されている。吸入ポート34と吐出ポート35は、互いに平行をなしていて、ロアハウジング30の一つの側面から突出している。34aと35aは、吸入ポート34と吐出ポート35の吸入側液溜室32と吐出側液溜室33に対する開口端であり、圧電振動子10(円形凹部31)の中心から離れた側に偏心させて、吸入側液溜室32と吐出側液溜室33に開口している。
【0018】
この吸入側液溜室32とポンプ室P、吐出側液溜室33とポンプ室Pとの間にはそれぞれ、吸入側アンブレラ(吸入側逆止弁)36と吐出側アンブレラ(吐出側逆止弁)37が設けられている。吸入側アンブレラ36は、吸入側液溜室32からポンプ室Pへの流体流を許してその逆の流体流を許さない吸入側逆止弁であり、吐出側アンブレラ37は、ポンプ室Pから吐出側液溜室33への流体流を許してその逆の流体流を許さない吐出側逆止弁である。
【0019】
吸入側と吐出側のアンブレラ36、37は、同一(対称)構造であり、平面円形の傘部36a、37aと、この傘部の中心の軸部36b、37bとを備えている。弁座基板36c、37cには、この軸部36b、37bを受け入れて支持する軸孔36d、37dと、この軸孔36d、37dの周囲に位置する流路孔36e、37eが穿設されており、これらの流路孔36e、37eが傘部36a、37aによって覆われている。
【0020】
図3ないし図5は、例えば以上のように用いられる圧電振動子10に対する配線(給電)構造の実施形態を示している。シム10a上には、圧電体10bが全面的に導通するように接着されており、圧電体10bの表面(露出面)には、全面的に膜状金電極10cが形成されている。この膜状金電極10cは、例えば、金ペーストを印刷(スクリーン焼成)して形成することができる。膜状金電極10cによると、例えば銀材料で問題となるマイグレーションの問題を回避できる。シム10aには、径方向に突出する配線接続突起10d(図1)が形成されており、この配線接続突起10dに、一対のリード部材の一方のリード部材15が半田16によって接続されている(図3)。
【0021】
これに対し、一対のリード部材の他方のリード部材17は、平面円形をなす膜状金電極10cの周縁部において、該膜状金電極10c上に導電性ゴム18を介して導通接続されている。導電性ゴム18は、ゴム性を維持して体積固有抵抗値を小さくした導電性ゴムからなっている。例えば、カーボンブラックを添加し、体積固有抵抗を小さくしたNBR(ニトリルゴム)、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)、シリコーンゴム、ブチルゴムなどが挙げられる。この導電性ゴム18は、何らかの押え部材によって力Pで圧電体10b(膜状金電極10c)側に常時押し付けられている。
【0022】
導電性ゴム18は、圧電振動子10の直径が25mm程度のとき、例えば縦横1〜3mm程度、厚さ1mm程度の大きさを有するもので、図5(A)に示すように、厚さ方向の中間部に予めスリット18aが形成されており、この導電性ゴム18に、リード部材17を挿入することで、該リード部材17との導通が図られている。リード部材15と17は、線材やFPC、板状の金属部材でもよい。FPCの場合には、絶縁被覆を剥離して剥離部分と絶縁被覆の一部をスリット18a内に挿入する。
【0023】
図5(B)は、導電性ゴム18に、スリット18aに代えて、リード部材17を挿入する穴18bを形成した実施形態、図5(C)はスリット18aも穴18bも形成することなく、硬質材料で形成したリード部材17を差し込むことで、リード部材17との導通をとる実施形態である。
【0024】
アッパハウジング20には、導電性ゴム18の上部を受け入れてその平面的な位置を定め、かつ導電性ゴム18を圧電体10b(膜状金電極10c)に押し付ける力を与える押え部材として、押圧凹部20a(図4(A))が形成されている。押圧凹部20aの内部には、図4(B)に示すように、押圧凹部20aの底部の面積よりも小さな突起もしくは凸部20bを設け、導電性ゴム18の位置ずれを防止しつつ、圧電体10bを拘束する面積をより小さくすることも可能である。
【0025】
以上の圧電ポンプ100は、シム10aと圧電体10b(リード部材15と17)の間に、駆動基板40を介して、交番電界を印加することにより、圧電振動子10は平面円形の中央部分の振幅が最も大きくなるように振動する。すると、ポンプ室Pの容積が拡大する行程では、吸入側アンブレラ36の傘部36aが弁座基板36cから離れる方向に弾性変形して流路孔36eが開き、吐出側アンブレラ36の傘部36aが弁座基板36cに密着して流路孔36eを閉じるため、吸入ポート34、吸入側液溜室32からポンプ室P内に液体が流入する。一方、ポンプ室Pの容積が縮小する行程では、吐出側アンブレラ36の傘部36aが流路孔36eを開き、吸入側アンブレラ36の傘部36aが流路孔36eを閉じるため、ポンプ室Pから吐出側液溜室33、吐出ポート35に液体が流出する。したがって、圧電振動子10を正逆に連続させて弾性変形させる(振動させる)ことで、ポンプ作用が得られる。
【0026】
そして、本実施形態によると、振動する圧電体10b(膜状金電極10c)に対する給電は、リード部材17及び導電性ゴム18を介して行われ、導電性ゴム18は、一定の力Pで圧電体10b側に押されていて常時弾性変形した状態にあるため、長期に渡り、高い接続信頼性を得ることができる。
【0027】
以上の実施形態は、液体圧電ポンプ用の圧電振動子10の配線構造に本発明を適用したものであるが、本発明の配線構造は、気体ポンプ用の圧電振動子の配線構造にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】圧電振動子を有する圧電ポンプの一例を示す分解斜視図である。
【図2】同縦断面図である。
【図3】圧電振動子の圧電体(膜状電極)に対するリード部材の配線構造を示す断面図である。
【図4】(A)、(B)は、同リード部材の配線構造の導電性ゴムとハウジングの関係を示す断面図である。
【図5】(A)、(B)、(C)は導電性ゴムに対するリード部材の導通構造の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10 圧電振動子
10a シム
10b 圧電体
10c 膜状金電極
10d 配線接続突起
11 ガイドリング
12 Oリング
15 リード部材
16 半田
17 リード部材
18 導電性ゴム
18a スリット
18b 穴
20 アッパハウジング
20a 押圧凹部
30 ロアハウジング
31 円形凹部
32 吸入側液溜室
33 吐出側液溜室
34 吸入ポート
35 吐出ポート
34a 35a 開口端
36 吸入側アンブレラ
37 吐出側アンブレラ
P ポンプ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子の表面に形成した膜状電極に対し、リード部材先端の接続端子を導通接続する振動子の配線構造において、
上記膜状電極に導電性ゴムを弾接させ、該導電性ゴムにリード部材を導通接続したことを特徴とする振動子の配線構造。
【請求項2】
請求項1記載の振動子の配線構造において、導電性ゴムには、スリットまたは穴が形成されており、このスリットまたは穴に、リード部材の先端を挿入して、該導電性ゴムとリード部材が導通している振動子の配線構造。
【請求項3】
請求項1記載の振動子の配線構造において、導電性ゴムにリード部材の先端が差し込まれて、該導電性ゴムとリード部材が導通している振動子の配線構造。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の振動子の配線構造において、振動子表面の上記膜状電極は、膜状金電極である振動子の配線構造。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の振動子の配線構造において、導電性ゴムは、体積固有抵抗値10Ω・cm以下である振動子の配線構造。
【請求項6】
圧電振動子と、この圧電振動子との間に可変容積室を形成するハウジングと、上記圧電振動子の表面に形成された膜状電極に給電するリード部材とを有し、該リード部材を介して圧電振動子に給電することにより該圧電振動子を振動させてポンプ作用を得る圧電ポンプにおいて、
上記膜状電極表面に導電性ゴムを接触させ、該導電性ゴムにリード部材を導通接続し、上記ハウジング側に、上記導電性ゴムを膜状電極に押し付ける方向の力を与える押え部材を設けたことを特徴とする圧電ポンプ。
【請求項7】
請求項6記載の圧電ポンプにおいて、上記押え部材は、ハウジングの一部に形成した、上記導電性ゴムを収納する押圧凹部である圧電ポンプ。
【請求項8】
請求項6または7記載の圧電ポンプにおいて、導電性ゴムは、体積固有抵抗値10Ω・cm以下である圧電ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−274902(P2008−274902A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122243(P2007−122243)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】