振動抑制装置
【課題】構造物の振動を適切に抑制できるとともに、構造物、マスダンパ、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生するのを防止することができる振動抑制装置を提供する。
【解決手段】振動抑制装置1は、一端部が構造物2の第1部位に接続された第1および第2ケーブル11,12の他端部と、構造物の第2部位とに、両ケーブルの反力が互いに反対方向に作用するように接続されたマスダンパ5を備えており、第1ケーブルの所定のプレテンションは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して所定方向のうちの一方の方向に第1所定値よりも大きく相対変位したときに、第1ケーブルの伸びがなくなるように設定されており、第2ケーブルの所定のプレテンションは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して所定方向のうちの他方の方向に第2所定値よりも大きく相対変位したときに、第2ケーブルの伸びがなくなるように設定されている。
【解決手段】振動抑制装置1は、一端部が構造物2の第1部位に接続された第1および第2ケーブル11,12の他端部と、構造物の第2部位とに、両ケーブルの反力が互いに反対方向に作用するように接続されたマスダンパ5を備えており、第1ケーブルの所定のプレテンションは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して所定方向のうちの一方の方向に第1所定値よりも大きく相対変位したときに、第1ケーブルの伸びがなくなるように設定されており、第2ケーブルの所定のプレテンションは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して所定方向のうちの他方の方向に第2所定値よりも大きく相対変位したときに、第2ケーブルの伸びがなくなるように設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動に伴って発生した、構造物を含む系内の第1部位および第2部位の間の相対変位を抑制する振動抑制装置に関し、特に、第1および第2部位の間の相対変位を、ケーブルを介してダンパに伝達する振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の振動抑制装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この振動抑制装置は、建築物の振動を抑制するためのものであり、減衰装置、第1および第2ケーブルを備えている。この減衰装置は、積層ゴムなどで構成され、建築物の基礎に固定されており、建築物の左右方向の中央に配置されている。また、第1ケーブルは、一端部が建築物の上端部の右端部に固定され、この一端部から下方かつ左方に斜めに延び、建築物の左端部に取り付けられた滑車に巻き掛けられており、さらにこの滑車から右方に水平に延びるとともに、他端部が減衰装置に固定されている。第2ケーブルは、第1ケーブルと左右対称に設けられており、その途中において第1ケーブルと交差している。また、第1および第2ケーブルには、適当なプレテンションがあらかじめ付与されている。
【0003】
以上の構成の従来の振動抑制装置では、例えば地震などで建築物が一次モードで振動し、建築物の上端部が基礎に対して右方に変位すると、それにより第1ケーブルが引っ張られ、この引張力は減衰装置に伝達され、減衰装置を変形させるように作用する。それに伴い、減衰装置において、この引張力に抗するように反力が発生し、この減衰装置の反力は、第1ケーブルを介して建築物に伝達される。これとは逆に、建築物の上端部が基礎に対して左方に変位すると、それにより第2ケーブルが引っ張られ、この引張力は減衰装置に伝達され、減衰装置を変形させるように作用する。それに伴い、減衰装置において、この引張力に抗するように反力が発生し、この減衰装置の反力は、第2ケーブルを介して建築物に伝達される。以上のように、建築物の振動中、減衰装置の反力が第1および第2ケーブルを介して建築物に伝達され、それにより、建築物の振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−176974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、この従来の振動抑制装置では、第1および第2ケーブルを介して、振動による建築物の変位が減衰装置に伝達されるとともに、それに伴って発生した減衰装置の反力が建築物に伝達される。従来の振動抑制装置であっても、第1および第2ケーブルの剛性を無限大とすることができるのであれば、良好な制振効果を得ることができる。しかし、実際のケーブルは、その長さや断面積に相応する有限の剛性を有するため、従来の振動抑制装置では、建築物の振動に伴って発生した引張力が、第1および第2ケーブルの変形によりほとんど吸収され、減衰装置にほとんど伝達されなくなり、ひいては、建築物の振動を適切に抑制することができなくなるおそれがある。このような不具合は、例えば風力により建築物が振動した場合であって、その振動が小さいときには、上記の引張力が比較的小さいため、より顕著になる。
【0006】
また、上記のような不具合を防止するために、第1および第2ケーブルのプレテンションを比較的大きく設定することが考えられる。しかし、その場合には、このプレテンションが比較的大きく、それにより第1および第2ケーブルの実質的な剛性(変形しにくさ)が比較的高い場合において、建築物の振動が比較的大きいときには、建築物の振動に伴って発生した大きな引張力が、第1および第2ケーブルの変形によってはほとんど吸収されず、ほぼそのまま減衰装置に伝達される。その結果、建築物、減衰装置、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生し、ひいては、建築物や、減衰装置、第1および第2ケーブルなどが破損するおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、構造物の振動の大きさにかかわらず、構造物の振動を適切に抑制できるとともに、構造物、マスダンパ、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生するのを防止することができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の振動に伴って構造物を含む系内の第1部位および第2部位の間において所定方向に沿って発生する相対変位を抑制するための振動抑制装置であって、所定のプレテンションにより伸びがあらかじめ付与され、第1および第2部位の間に延びるとともに、一端部が第1部位に接続された第1ケーブルおよび第2ケーブルと、回転可能な回転マスを有し、第2部位と、第1および第2ケーブルの他端部とに、第1および第2ケーブルの反力が互いに反対方向に作用するように接続され、構造物の振動に伴って第1および第2ケーブルを介して伝達された第1および第2部位の間の相対変位を、回転マスの回転運動に変換するマスダンパと、を備え、第1ケーブルは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して、所定方向のうちの一方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第1ケーブルの伸びが増大するとともに、所定方向のうちの他方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第1ケーブルの伸びが減少するように設けられており、第1ケーブルの所定のプレテンションは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して他方の方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第1所定値よりも大きいときに、第1ケーブルの伸びがなくなることにより第1ケーブルの反力がなくなるように設定されており、第2ケーブルは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して、他方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第2ケーブルの伸びが増大するとともに、一方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第2ケーブルの伸びが減少するように設けられており、第2ケーブルの所定のプレテンションは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して一方の方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第2所定値よりも大きいときに、第2ケーブルの伸びがなくなることにより第2ケーブルの反力がなくなるように設定されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第1および第2ケーブルに、所定のプレテンションにより伸びがあらかじめ付与されており、両ケーブルの一端部が、構造物を含む系内の第1部位に接続されている。また、マスダンパが、構造物を含む系内の第2部位と、第1および第2ケーブルの他端部とに、第1および第2ケーブルの反力が互いに反対方向に作用するように接続されている。さらに、マスダンパには、構造物の振動に伴って所定方向に沿って発生した第1および第2部位の間の相対変位が、第1および第2ケーブルを介して伝達され、伝達された相対変位は、回転マスの回転運動に変換され、回転マスが回転する。この回転マスの回転慣性効果により、回転マスの見かけの質量(等価質量)が、実際の質量(実質量)に対して増幅されることによって、回転マスの質量に比して非常に大きな回転マスの反力(回転慣性力)が発生する。また、回転マスの等価質量が、第1および第2ケーブルのケーブル剛性に直列に接続されているため、回転マスの等価質量とケーブル剛性による付加振動系が構成される。この付加振動系の固有振動数を構造物の固有振動数に同調(共振)させることによって、ケーブル剛性が比較的低い場合でも、付加振動系の振動(変形)の方が構造物の振動(変形)よりも大きくなるので、それにより第1および第2部位の間の相対変位が抑制され、ひいては、構造物の振動が抑制される。
【0010】
また、上述した構成によれば、第1ケーブルは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して、所定方向のうちの一方の方向(以下「第1方向」という)に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第1ケーブルの伸びが増大するとともに、所定方向のうちの他方の方向(以下「第2方向」という)に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第1ケーブルの伸びが減少するように設けられている。さらに、第2ケーブルは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して、第2方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第2ケーブルの伸びが増大するとともに、第1方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第2ケーブルの伸びが減少するように設けられている。以上から、第1および第2ケーブルの関係は、例えば図16のように示される。
【0011】
また、図16(a)は、第1および第2ケーブルの関係を、プレテンションが付与されていない状態(自由長の状態)について示しており、図16(b)は、プレテンションが付与され、かつ第1および第2部位の間の相対変位が発生していない状態について示している。さらに、図16(c)は、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第1方向に相対変位した状態について示している。
【0012】
マスダンパに対して、前述したように第1および第2ケーブルの反力(以下、それぞれ「第1ケーブル反力」「第2ケーブル反力」という)が互いに反対方向に作用することから、第1および第2部位の間の相対変位が発生していないときには、第1および第2ケーブル反力F1,F2は、図16(b)のように表される。すなわち、第1ケーブルの剛性をk1とし、プレテンションによる第1ケーブルの伸びをx1とすると、第1ケーブル反力F1は、F1=k1・x1となる。また、第2ケーブルの剛性をk2とし、プレテンションによる第2ケーブルの伸びをx2とすると、第2ケーブル反力F2は、F2=−k2・x2となる。この場合、第1および第2ケーブルの他端部がマスダンパを介して互いに接続されていることから、第1および第2ケーブル反力F1,F2を合わせた合力であるケーブル反力Fは、F=F1+F2=(k1・x1)+(−k2・x2)=0となり、マスダンパは中立状態にある。
【0013】
図16(b)に示す中立状態から、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第1方向に相対変位したときには、前述したように、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力によって、第1ケーブルの伸びが増大するとともに、第2ケーブルの伸びが減少する。このことから、この場合における第1および第2ケーブル反力F1,F2は、図16(c)のように表される。すなわち、中立状態から第2部位が第1部位に対して相対変位するのに伴って発生した第1および第2ケーブルの全体の変位(変形量)(以下「ケーブル変位」という)をyとすると、第1ケーブル反力F1は、F1=k1(x1+y)となり、第2ケーブル反力F2は、F2=−k2(x2−y)となる。このことと、上述したように(k1・x1)+(−k2・x2)=0であることから、ケーブル反力Fは、F=F1+F2=(k1+k2)yとなる。
【0014】
ここで、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであると仮定すると、ケーブル反力FはF=2k・yとなり、その微小変化分をΔFとし、ケーブル変位yの微小変化分をΔyとすると、F+ΔF=2k(y+Δy)が成立する。以上から、この場合における第1および第2ケーブル全体の接線剛性(以下「ケーブル接線剛性」という)は、ΔF=2k・Δyより、2kとなる。
【0015】
また、前述した構成によれば、第2ケーブルのプレテンションが、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第1方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第2所定値よりも大きいときに、第2ケーブルの伸びがなくなることにより第2ケーブル反力F2がなくなるように設定されている。このことから、このように第2ケーブル反力F2がない(=値0)状態における第1および第2ケーブルの関係は、中立状態からのケーブル変位をyとすると、図16(d)のように表される。同図に示すように、第1ケーブル反力F1は、図16(c)の場合と同様、F1=k1(x1+y)である。したがって、ケーブル反力Fは、F=F1+F2=k1(x1+y)である。
【0016】
この場合、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであり、かつ、プレテンションによる第1および第2ケーブルの伸びx1,x2が互いに等しく、xであると仮定すると、ケーブル反力FはF=k(x+y)となり、F+ΔF=k(x+y+Δy)が成立する。このことから、この場合におけるケーブル接線剛性は、ΔF=k・Δyより、kとなる。
【0017】
一方、図16(b)に示す中立状態から、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第2方向に相対変位すると、前述したように、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力によって、第2ケーブルの伸びが増大するとともに、第1ケーブルの伸びが減少する。このことから、第1ケーブル反力F1は、F1=k1(x1−y)となり、第2ケーブル反力F2は、F2=−k2(x2+y)となる。このことと、前述したように(−k1・x1)+(k2・x2)=0であることから、ケーブル反力Fは、F=F1+F2=−(k1+k2)yとなる。
【0018】
ここで、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであると仮定すると、ケーブル反力Fは、F=−2k・yとなり、F+ΔF=−2k(y+Δy)が成立する。このことから、この場合におけるケーブル接線剛性は、ΔF=−2k・Δyより、2kとなる。
【0019】
また、前述した構成によれば、第1ケーブルのプレテンションが、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第2方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第1所定値よりも大きいときに、第1ケーブルの伸びがなくなることにより第1ケーブル反力F1がなくなるように設定されている。この場合、第2ケーブル反力F2は、F2=−k2(x2+y)となる。したがって、ケーブル反力Fは、F=F1+F2=−k2(x2+y)となる。
【0020】
ここで、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであり、かつ、プレテンションによる第1および第2ケーブルの伸びx1,x2が互いに等しく、xであると仮定すると、ケーブル反力Fは、F=−k(x+y)となり、F+ΔF=−k(x+y+Δy)が成立する。このことから、この場合におけるケーブル接線剛性は、ΔF=k・Δyより、kとなる。
【0021】
以上から明らかなように、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであり、かつ、プレテンションによる第1および第2ケーブルの伸びx1,x2が互いに等しく、xであるときには、中立状態からの第1および第2ケーブルの変位yとケーブル反力Fとの関係は、図17のように示される。この場合、第1部位に対する第2部位の相対変位が大きいほど、中立状態からの第1および第2ケーブルの変位yがより大きくなることから、変位yは、第1および第2部位の間の相対変位とみなすことができる。
【0022】
図17に示すように、中立状態からの第1および第2ケーブルの変位yの絶対値が|x|以下の範囲では、すなわち第1および第2部位の間の相対変位の大きさが第1または第2所定値よりも小さい範囲では、第1および第2ケーブル反力F1,F2がともに値0でないことから、ケーブル接線剛性は2kとなる。一方、変位yの絶対値が|x|よりも大きい範囲、すなわち第1および第2部位の間の相対変位の大きさが第1または第2所定値よりも大きい範囲では、第1および第2ケーブル反力F1,F2の一方がなくなることから、ケーブル接線剛性はkとなる。以上のように、ケーブル接線剛性は、第1および第2部位間の相対変位に対して、バイリニアな特性を有している。
【0023】
以上から、第1および第2所定値を適切に設定することによって、ケーブル接線剛性として、所望の特性を得ることができる。このため、例えば、第1および第2部位の間の相対変位が大きくなるのに伴ってマスダンパの反力が構造物の振動に同調して過大にならないうちに、より小さなケーブル接線剛性(=k)を得ることが可能になり、それにより、マスダンパの固有周期を構造物の固有周期と異ならせることができるので、マスダンパの反力を抑制できる。したがって、構造物、マスダンパ、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生するのを防止することができる。
【0024】
また、上記のようにケーブル接線剛性として所望の特性を得ることができるので、例えば、第1および第2部位の間の相対変位が比較的小さいときに、より大きなケーブル接線剛性(=2k)を得ることが可能になる。それにより、例えば風力により構造物が振動した場合であって、それによる第1および第2部位の間の相対変位が比較的小さいときでも、この相対変位を、第1および第2ケーブルの変形により吸収されるのを抑制しながら、マスダンパに適切に伝達することができ、ひいては、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0025】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、第1および第2所定値は、構造物の振動により第1および第2部位の間の相対変位が増大するのに伴ってマスダンパの反力が過大になる直前に、第1および第2ケーブルの反力がそれぞれなくなるように、設定されていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、構造物の振動により第1および第2部位の間の相対変位が増大するのに伴ってマスダンパの反力が過大になる直前に、第1および第2ケーブルの反力がそれぞれなくなるように、第1および第2所定値が設定されている。これにより、構造物の振動により第1および第2部位の間の相対変位が増大するのに伴ってマスダンパの反力が過大になる直前に、より小さなケーブル接線剛性が得られるので、請求項1の説明で述べた効果、すなわち、構造物、マスダンパ、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生するのを防止できるという効果を、最適に得ることができる。同じ理由から、第1および第2部位の間の相対変位が比較的小さいときでも、より大きなケーブル接線剛性が得られるので、請求項1の説明で述べた効果、すなわち、構造物の振動を適切に抑制できるという効果を、最適に得ることができる。
【0027】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の振動抑制装置において、マスダンパが、回転マスの回転を減衰させる減衰要素をさらに有することを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、回転マスの回転慣性効果に加え、回転マスの回転を減衰させる減衰要素の減衰効果が得られるので、構造物の振動をさらに適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態による振動抑制装置を、これを適用した橋梁とともに概略的に示す図である。
【図2】図1の振動抑制装置などの拡大図である。
【図3】第1実施形態の変形例による振動抑制装置を、これを適用した橋梁とともに概略的に示す図である。
【図4】図3の振動抑制装置などの拡大図である。
【図5】本発明の第2実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図6】図5の振動抑制装置などの拡大図である。
【図7】図5の振動抑制装置などを拡大して示す平面図である。
【図8】第2実施形態の第1変形例による振動抑制装置などの拡大図である。
【図9】本発明による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに、マスダンパを建築物の基礎に接続した場合について概略的に示す図である。
【図10】本発明による振動抑制装置を、これを適用したセットバックタイプの建築物とともに概略的に示す図である。
【図11】本発明による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに、ケーブルを建築物のパイプスペース内に配置した場合について概略的に示す図である。
【図12】本発明の第3実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図13】第3実施形態の第1変形例による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図14】第3実施形態の第2変形例による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図15】本発明の第4実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図16】本発明による振動抑制装置の第1および第2ケーブルの間の関係を説明するための図である。
【図17】本発明による振動抑制装置のマスダンパの中立状態からの第1および第2ケーブルの変位とケーブル反力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す第1実施形態による振動抑制装置1は、地震などにより発生した橋梁2の一次モードの振動を抑制するためのものである。この橋梁2は、H形鋼で構成され、複数の橋脚3,3,…(2つのみ図示)に支持されており、水平に延びている。
【0031】
図1および図2に示すように、第1振動抑制装置1は、マスダンパ5と、地震などにより発生した橋梁2の一次モードの振動(変位)をマスダンパ5に伝達するための第1および第2ケーブル11,12を備えている。この第1ケーブル11は、例えば鋼線から成る一対のケーブルで構成されている。これら一対の第1ケーブル11,11は、各々の一端部が第1連結部材13に接続されることによって互いに連結されており、橋梁2の長さ方向(以下「左右方向」という)において、この第1連結部材13を中心として対称に設けられている。また、第1連結部材13は、橋梁2における、互いに隣り合う2つの橋脚3,3の間の中心の部位(以下「腹部」という)に位置しており、より具体的には、腹部の上端部に位置している。
【0032】
さらに、一対の第1ケーブル11,11のうちの一方は、他端部が、橋梁2における、互いに隣り合う2つの橋脚3,3の一方に支持される部位(以下「第1節部」という)の下部に固定されており、この他端部から第1連結部材13に向かって右方かつ上方に斜めに延びている。また、一対の第1ケーブル11のうちの他方は、他端部が、橋梁2における、他方の橋脚3に支持される部位(以下「第2節部」という)の下部に固定されており、この他端部から第1連結部材13に向かって左方かつ上方に斜めに延びている。なお、以下の説明において、一対の第1ケーブル11,11を総称するときには、その符号を1つのみ記載するものとする。
【0033】
また、第1連結部材13には、一対の長孔13a,13aが形成されており、これらの長孔13a,13aは、上下方向に延びるとともに、左右方向に並んでいる。さらに、長孔13a,13aには、橋梁2に固定されたピン2a,2aがそれぞれ嵌合しており、それにより、第1連結部材13は、橋梁2に対して、これらの長孔13a,13aの長さの分、上下方向に移動可能であり、左右方向および前後方向(図2の奥行き方向)に移動不能である。
【0034】
第2ケーブル12は、基本的には、第1ケーブル11と同様に構成されている。具体的には、第2ケーブル12は、例えば鋼線から成る一対のケーブルで構成されており、その剛性は、第1ケーブル11と同じ高さに設定されている。これら一対の第2ケーブル12,12は、各々の一端部が第2連結部材14に接続されることによって互いに連結されており、左右方向において、この第2連結部材14を中心として対称に設けられている。また、第2連結部材14は、橋梁2の腹部(橋梁2における、互いに隣り合う2つの橋脚3,3の間の中心の部位)の下端部に位置している。
【0035】
さらに、一対の第2ケーブル12,12のうちの一方は、他端部が橋梁2の第1節部(橋梁2における、互いに隣り合う2つの橋脚3の一方に支持される部位)の上部に固定されており、この他端部から第2連結部材14に向かって右方かつ下方に斜めに延びている。一対の第2ケーブル12,12のうちの他方は、他端部が橋梁2の第2節部(橋梁2における、他方の橋脚3に支持される部位)の上部に固定されており、この他端部から第2連結部材14に向かって左方かつ下方に斜めに延びている。なお、以下の説明において、一対の第2ケーブル12,12を総称するときには、その符号を1つのみ記載するものとする。また、一対の第1ケーブル11,11のうちの一方および一対の第2ケーブル12,12のうちの一方は、橋梁2の第1節部と第1および第2連結部材13,14との間において互いに交差しており、第1ケーブル11,11のうちの他方および第2ケーブル12,12のうちの他方は、橋梁2の第2節部と第1および第2連結部材13,14との間において互いに交差している。
【0036】
さらに、第2連結部材14には、第1連結部材13と同様、一対の長孔14a,14aが形成されている。これらの長孔14a,14aには、橋梁2に固定されたピン2b,2bがそれぞれ嵌合しており、それにより、第2連結部材14も、橋梁2に対して、これらの長孔14a,14aの長さの分、上下方向に移動可能であり、左右方向および前後方向(図2の奥行き方向)に移動不能である。また、第1および第2連結部材13,14は、上下方向に伸びる一対の棒状の連結部材15,15を介して互いに連結されており、それにより、第1および第2ケーブル11,12が互いに連結されている。さらに、これらの連結部材13〜15による第1および第2ケーブル11,12の連結によって、第1および第2ケーブル11,12に互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。また、橋梁2の腹部の下部には、支持部材2cが固定されている。
【0037】
マスダンパ5は、本発明の発明者が提案した特開2007−211503号公報に開示されたものと同様に構成されているので、以下、このマスダンパ5について簡単に説明する。マスダンパ5は、外筒6、ボールねじ、回転マス、および粘性体(いずれも図示せず)を有している。
【0038】
このボールねじは、ねじ軸7と、ねじ軸7に多数のボールを介して螺合するナット(いずれも図示せず)で構成されており、上記の外筒6に同心状に設けられている。このナットは、外筒6に収容されるとともに、外筒6に対して回転自在に且つ軸線方向に移動不能に支持されている。また、ねじ軸7は、その一部が外筒6の軸線方向の一端部から外方に突出しており、外筒6に対して軸線方向に所定の距離、往復移動可能である。さらに、回転マスは、比重が大きな材料、例えば鉄により筒状に形成され、上記のナットに同軸状に固定されており、ナットと一体に回転自在である。また、粘性体は、回転マスの回転を減衰させるためのものであり、シリコンオイルなどで構成され、外筒6と回転マスの間に充填されている。さらに、外筒6には、ねじ軸7と反対側の端部に、フランジ6aが一体に設けられており、ねじ軸7には、外筒6と反対側の端部に、フランジ7aが一体に設けられている。
【0039】
以上の構成のマスダンパ5では、外力によりねじ軸7が外筒6に対して軸線方向に往復移動すると、それに伴って、ナットおよび回転マスが、その軸線を中心として回転する。すなわち、ねじ軸7の往復移動が、回転マスの回転運動に変換される。この回転マスの回転慣性効果により、回転マスの見かけの質量が、実際の質量に対して増幅されることによって、回転マスの質量に比して非常に大きな回転マスの反力(回転慣性力)が発生する。また、回転マスの回転は、粘性体によって減衰させられ、粘性体の減衰効果がさらに得られる。以上の結果、回転マスの回転慣性力および粘性体の減衰力から成るマスダンパ5の反力(以下「マスダンパ反力」という)が発生する。
【0040】
また、マスダンパ5は、外筒6のフランジ6aが前述した支持部材2cに取り付けられることによって、橋梁2の腹部に接続されており、上下方向に延びている。さらに、マスダンパ5は、ねじ軸7のフランジ7aが前述した第1連結部材13に取り付けられることによって、第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。
【0041】
また、マスダンパ5では、ねじ軸7の往復移動が、ねじ軸7に螺合するナットによって回転マスの回転運動に変換されるので、その際、回転マスからねじ軸7に反力トルクが作用する。これに対し、ピン2a,2a、2b,2bおよび長孔13a,13a、14a,14aによって、ねじ軸7、第1および第2連結部材13,14は、橋梁2および外筒6に対し、左右方向および前後方向に移動することなく、また、ねじ軸7を回転させることなく、その上下方向の往復移動が案内される。したがって、上記の反力トルクによりねじ軸7が回転することも、それにより第1および第2ケーブル11,12が捻れることも、防止できる。なお、これらの長孔13a,13a、14a,14aの上下方向の長さは、一次モードの振動によって発生すると想定される、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位の最大値よりも大きい。
【0042】
さらに、前述した第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル11の反力(以下「第1ケーブル反力」という)は、第1連結部材13を介してマスダンパ5のねじ軸7に伝達され、ねじ軸7を下方に変位させるように作用する。一方、前述した第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル12の反力(以下「第2ケーブル反力」という)は、第2連結部材14、連結部材15,15、および第1連結部材13を介してねじ軸7に伝達され、ねじ軸7を上方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ5に対して互いに反対方向に作用する。この場合、第1および第2ケーブル反力は、互いに作用し合うことから、両反力の絶対値は互いに等しい。
【0043】
以上の構成の振動抑制装置1および橋梁2では、図1に実線で示すように、橋梁2が振動していないときには、第1および第2ケーブル反力によって、マスダンパ5は、伸縮していない中立状態に保持される。この中立状態から、図1に一点鎖線で示すように、橋梁2が一次モードの振動により上方に撓むと、それに伴い、マスダンパ5の外筒6が、橋梁2の腹部とともに、橋梁2の第1および第2節部に対して上方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル11,12の一端部がマスダンパ5のねじ軸7に、両ケーブル11,12の他端部が橋梁2の第1および第2節部に、それぞれ接続されていることと、橋梁2が振動していないときに第1および第2ケーブル反力によりマスダンパ5が中立状態に保持されることから明らかなように、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ5に伝達される。これにより、図2に示す中立状態からねじ軸7が外筒6にさらに進入し(マスダンパ5が圧縮)、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ反力が発生する。
【0044】
この場合、マスダンパ反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、橋梁2の腹部、第1および第2節部に伝達され、第1および第2節部に対して腹部を下方に変位させるように作用する。これにより、第1および第2節部に対する腹部の上方への変位が抑制され、橋梁2の上方への撓みが抑制される。また、マスダンパ反力は、第1連結部材13、第2連結部材14および連結部材15を上方に変位させるように作用し、それにより第1ケーブル11の伸びが増大するとともに、第2ケーブル12の伸びが減少する。さらに、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位が大きいほど、マスダンパ5の圧縮量が大きくなることによって、マスダンパ反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル11の伸びの増加分および第2ケーブル12の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0045】
この第2ケーブル12の伸びの減少分が前述したプレテンションによる第2ケーブル12の伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル12の伸びが存在し、第2ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ5への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ5への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ反力の伝達が、第1ケーブル11のみを介して行われる。
【0046】
また、図1に二点鎖線で示すように、橋梁2が一次モードの振動により下方に撓むと、それに伴い、マスダンパ5の外筒6が、橋梁2の腹部とともに、橋梁2の第1および第2節部に対して下方に変位する。この場合にも、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ5に伝達される。これにより、図2に示す中立状態からねじ軸7が外筒6に対してさらに突出し(マスダンパ5が伸張)、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ反力が発生する。
【0047】
この場合、マスダンパ反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、橋梁2の腹部、第1および第2節部に伝達され、第1および第2節部に対して腹部を上方に変位させるように作用する。これにより、第1および第2節部に対する腹部の下方への変位が抑制され、橋梁2の下方への撓みが抑制される。また、マスダンパ反力は、第1連結部材13、第2連結部材14および連結部材15を下方に変位させるように作用し、それにより、第2ケーブル12の伸びが増大するとともに、第1ケーブル11の伸びが減少する。さらに、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位が大きいほど、マスダンパ5の伸張量が大きくなることによって、マスダンパ反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル12の伸びの増加分および第1ケーブル11の伸びの減少分は、大きくなる。
【0048】
この第1ケーブル11の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル11の伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル11の伸びが存在し、第1ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ5への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ5への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ反力の伝達が、第2ケーブル12のみを介して行われる。
【0049】
また、第1ケーブル11のプレテンションは、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるように設定されている。さらに、第2ケーブル12のプレテンションは、第1および第2節部に対する腹部の上方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル12の伸びが前述したようになくなることにより第2ケーブル反力がなくなるように設定されている。この所定値は、第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル反力がなくなるように、設定されている。
【0050】
さらに、マスダンパ5の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が橋梁2の一次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置1によって、一次モードの振動により繰り返される橋梁2の上下方向の撓みが抑制され、ひいては、橋梁2の振動が抑制される。
【0051】
また、第1実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との関係は、次のとおりである。すなわち、第1実施形態における橋梁2が、本発明における構造物に相当し、第1実施形態における橋梁2の第1および第2節部が、本発明における第1部位に相当するとともに、第1実施形態における橋梁2の腹部が、本発明における第2部位に相当する。また、第1実施形態における粘性体が、本発明における減衰要素に相当する。
【0052】
以上のように、第1実施形態によれば、橋梁2の一次モードの振動に伴って発生した腹部と第1および第2節部の間の相対変位が、第1および第2ケーブル11,12を介して、回転マスおよび粘性体を有するマスダンパ5に伝達される。伝達された相対変位は、マスダンパ5の回転マスの回転運動に変換され、その結果、回転マスが回転する。また、回転マスの回転は、粘性体によって減衰させられる。この回転マスの回転慣性効果により、回転マスの見かけの質量が実際の質量に対して増幅されることと、回転マスの回転を減衰させる粘性体の減衰効果とによって、回転マスの質量に比して非常に大きなマスダンパ反力が発生する。発生したマスダンパ反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して橋梁2の腹部と第1および第2節部に伝達され、それにより、腹部と第1および第2節部の間の相対変位が抑制され、ひいては、橋梁2の振動が抑制される。
【0053】
また、前述した橋梁2の一次モードの振動に対する振動抑制装置1の動作から明らかなように、第1および第2ケーブル反力を合わせた合力であるケーブル反力(F)と、橋梁2の一次モードの振動に伴って発生した第1および第2ケーブル11,12全体の変位(y)との関係は、前述した図17と同様に示される。さらに、第1および第2ケーブル11,12の剛性をそれぞれ「k」とすると、両ケーブル11,12全体の接線剛性(以下「ケーブル接線剛性」という)は、第1および第2ケーブル反力がともに作用しているときには「2k」となり、第1および第2ケーブル11,12の一方の伸びがなくなり、当該一方の反力がなくなるときには「k」となる。
【0054】
この場合、第1ケーブル11のプレテンションが、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるように設定されている。また、第2ケーブル12のプレテンションが、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるように設定されている。さらに、この所定値が、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル反力がなくなるように、設定されている。
【0055】
以上により、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が橋梁2の一次モードの振動に同調して過大になる直前に、より小さなケーブル接線剛性(=k)が得られるので、マスダンパ5の固有周期を橋梁2の固有周期と異ならせることができ、それによりマスダンパ反力を抑制できる。したがって、橋梁2、マスダンパ5、第1および第2ケーブル11,12に過大な応力が発生するのを防止することができる。それに加え、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位が比較的小さいときに、より大きなケーブル接線剛性(=2k)が得られる。したがって、例えば風力により橋梁2が一次モードで振動した場合であって、第1および第2節部に対する腹部の変位が比較的小さいときでも、この変位を、第1および第2ケーブル11,12の変形により吸収されるのを抑制しながら、マスダンパ5に適切に伝達することができ、ひいては、橋梁2の振動を適切に抑制することができる。
【0056】
また、図3および図4は、第1実施形態の変形例を示しており、これらの図3および図4では、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。また、この変形例では、マスダンパ21は、前述したマスダンパ5と同様、外筒22、ボールねじ、回転マス、および粘性体(いずれも図示せず)を有しており、マスダンパ5と比較して、ボールねじのねじ軸23が外筒22の軸線方向の両端部から外方に突出している点が、主に異なっている。このマスダンパ21は、本発明の発明者が提案した特許第3830132号に開示されたものと同様に構成されているので、その構成についての説明を省略する。
【0057】
また、マスダンパ21では、マスダンパ5と同様、外力によりねじ軸23が外筒22に対して軸線方向に往復移動すると、それに伴って、ナットおよび回転マスが、その軸線を中心として回転する。すなわち、ねじ軸23の往復移動が、回転マスの回転運動に変換される。この回転マスの回転慣性効果によって、回転マスの質量に比して非常に大きな回転マスの反力(回転慣性力)が発生する。また、回転マスの回転は、粘性体によって減衰させられ、粘性体の減衰効果がさらに得られる。以上の結果、回転マスの回転慣性力および粘性体の減衰力から成るマスダンパ21の反力が発生する。さらに、ねじ軸23の両端部には、フランジ23a,23aが一体に設けられている。
【0058】
また、マスダンパ21は、外筒22が、橋梁2に固定された支持部材2dに取り付けられることによって、橋梁2の腹部に接続されており、上下方向に延びている。さらに、マスダンパ21は、ねじ軸23のフランジ23aおよび23aが前述した第1および第2連結部材13,14にそれぞれ取り付けられることによって、第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。
【0059】
また、マスダンパ21では、マスダンパ5と同様、ねじ軸23の往復移動が、ねじ軸23に螺合するナットによって回転マスの回転運動に変換されるので、その際、回転マスからねじ軸23に反力トルクが作用する。これに対し、マスダンパ21には、一対のガイド(図示せず)が外筒22の両端部に設けられており、これらのガイドによって、ねじ軸23は、外筒22に対して回転することがなく、その往復移動が案内される。したがって、上記の反力トルクによりねじ軸23が回転することも、それにより第1および第2ケーブル11,12が捻れることも、防止できる。
【0060】
また、第1および第2ケーブル11,12は、第1実施形態と同様、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。この第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、第1連結部材13を介してマスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を下方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を上方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合、第1および第2ケーブル反力は、互いに作用し合うことから、両反力の絶対値は互いに等しい。
【0061】
以上の構成の振動抑制装置1および橋梁2では、図3に実線で示すように、橋梁2が振動していないときには、第1および第2ケーブル反力によって、マスダンパ21は、ねじ軸23が外筒22に対して上下方向に移動していない中立状態に保持される。この中立状態から、図3に一点鎖線で示すように、橋梁2が一次モードの振動により上方に撓むと、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、橋梁2の腹部とともに、橋梁2の第1および第2節部に対して上方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル11,12の一端部がマスダンパ21のねじ軸23に、両ケーブル11,12の他端部が橋梁2の第1および第2節部に、それぞれ接続されていることと、橋梁2が振動していないときに第1および第2ケーブル反力によりマスダンパ21が中立状態に保持されることから明らかなように、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ21に伝達される。これにより、図4に示す中立状態からねじ軸23が外筒22に対して下方に移動し、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ21の反力が発生する。
【0062】
この場合、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、橋梁2の腹部、第1および第2節部に伝達され、第1および第2節部に対して腹部を下方に変位させるように作用する。これにより、第1実施形態の場合と同様、第1および第2節部に対する腹部の上方への変位が抑制され、橋梁2の上方への撓みが抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2連結部材13,14を上方に変位させるように作用し、それにより第1ケーブル11の伸びが増大するとともに、第2ケーブル12の伸びが減少する。さらに、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル11の伸びの増加分および第2ケーブル12の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0063】
この第2ケーブル12の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第2ケーブル12の伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル12の伸びが存在し、第2ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ21への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1ケーブル11のみを介して行われる。
【0064】
また、図3に二点鎖線で示すように、橋梁2が一次モードの振動により下方に撓むと、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、橋梁2の腹部とともに、橋梁2の第1および第2節部に対して下方に変位する。この場合、振動抑制装置1において、橋梁2が上方に撓んだ場合に行われる上述した動作と逆の動作が行われることにより、第1および第2節部に対する腹部の下方への変位が抑制され、橋梁2の下方への撓みが抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2連結部材13,14を下方に変位させるように作用し、それにより、第2ケーブル12の伸びが増大するとともに、第1ケーブル11の伸びが減少する。さらに、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル12の伸びの増加分および第1ケーブル11の伸びの減少分は、大きくなる。
【0065】
この第1ケーブル11の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル11の伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル11の伸びが存在し、第1ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ21への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ21の反力の伝達が、第2ケーブル12のみを介して行われる。
【0066】
また、この変形例では、第1および第2ケーブル11,12のプレテンションは、第1実施形態と同様に設定されている。さらに、マスダンパ21の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が橋梁2の一次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。
【0067】
この変形例によれば、第1実施形態と同様、一次モードの振動により繰り返される橋梁2の上下方向の撓みが抑制され、ひいては、橋梁2の振動が抑制される。また、これまでに述べた変形例の構成および動作から明らかなように、前述した第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0068】
なお、第1実施形態(変形例を含む)については、例えば次の3つのバリエーションが存在する。これらのバリエーションの2つまたはすべては、適宜、組み合せて適用可能である。すなわち、第1実施形態では、第1および第2ケーブル11,12にねじ軸7、23を、橋梁2に外筒6、22を、それぞれ接続しているが、これとは逆に、第1および第2ケーブル11,12に外筒6、22を、橋梁2にねじ軸7、23を、それぞれ接続してもよい。また、第1実施形態では、本発明における第1部位は、橋梁2の第1および第2節部であり、本発明における第2部位は、橋梁2の腹部であるが、橋梁2の振動を抑制できるのであれば、他の適当な部位でもよいことは、もちろんである。さらに、第1実施形態では、振動抑制装置1を、橋梁2の一次モードの振動に対応するように構成しているが、二次以上の振動モードの振動に対応するように構成してもよい。この場合、そのように構成された、互いに異なる振動モードに対応する複数の振動抑制装置を、橋梁2に適用してもよい。
【0069】
次に、図5〜図7を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置31について説明する。この振動抑制装置31は、地震などにより発生した建築物32の一次モードの振動を抑制するためのものであり、ケーブル33およびマスダンパ5を備えている。図5〜図7において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0070】
ケーブル33は、前後方向(図5および図7の奥行き方向、図6の上下方向)に互いに間隔を存した状態で設けられた一対のケーブルから成り、例えば鋼線で構成されている。また、ケーブル33は、一端部が建築物32を支持する基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ右方に斜めに延び、建築物32の上端の左端部および右端部にそれぞれ設けられた滑車34および34に巻き掛けられ、両滑車34,34の間に水平に延びており、さらに右側の滑車34から下方かつ右方に斜めに延びるとともに、他端部が基礎Bに固定されている。左右の滑車34,34はそれぞれ、前後方向に並ぶ一対の滑車で構成されている。さらに、ケーブル33には、所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより伸びがあらかじめ付与されている。
【0071】
また、ケーブル33の長さ方向のほぼ中央部には、連結部材35が固定されている。さらに、建築物32の上端部には、ガイド36が設けられており、このガイド36は、左右方向に延びるレール36aと、このレール36aに多数のボール(図示せず)を介して係合するスライダ36bを有している。このスライダ36bは、レール36a上を左右方向に移動自在で、かつ前後方向および上下方向に移動不能である。さらに、レール36は、建築物32の上端部の左部に取り付けられており、スライダ36bには、連結部材35が取り付けられている。また、建築物32の上端部の右部には、支持部材32aが取り付けられている。
【0072】
さらに、マスダンパ5は、外筒6のフランジ6aが上記の支持部材32aに取り付けられることによって、建築物32の上端部に接続されており、左右方向に延びている。また、マスダンパ5は、ねじ軸7のフランジ7aが連結部材35に取り付けられることによって、ケーブル33に接続されている。さらに、連結部材35およびねじ軸7は、ガイド36によって、建築物32および外筒6に対し、前後方向および上下方向に移動することなく、また、ねじ軸7を回転させることなく、左右方向の往復移動が案内される。これにより、第1実施形態の場合と同様、回転マスの回転に伴って発生した反力トルクによりねじ軸7が回転することも、それにより第1および第2ケーブル11,12が捻れることも、防止できる。なお、レール36aの長さ、すなわちスライダ36bが移動可能な距離は、一次モードの振動によって発生すると想定される、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位の最大値よりも大きい。
【0073】
ここで、ケーブル33における、連結部材35よりも左側の部分を「第1ケーブル33a」とし、右側の部分を「第2ケーブル33b」とする。前述したケーブル33の伸びによる第1ケーブル33aの反力は、連結部材35を介してマスダンパ5のねじ軸7に伝達され、ねじ軸7を左方に変位させるように作用する。一方、前述したケーブル33の伸びによる第2ケーブル33bの反力は、連結部材35を介してねじ軸7に伝達され、ねじ軸7を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル33a,33bの反力は、マスダンパ5に対して互いに反対方向に作用する。また、当然のことながら、この場合における第1および第2ケーブル33a,33bの反力の絶対値は、互いに等しい。
【0074】
以上の構成の振動抑制装置31および建築物32では、図5に実線で示すように、建築物32が振動していないときには、第1および第2ケーブル33a,33bの反力によって、マスダンパ5は、伸縮していない中立状態に保持される。この中立状態から、図5に一点鎖線で示すように、建築物32が一次モードの振動により右方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ5の外筒6が、建築物32の上端部とともに、基礎Bに対して右方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル33a,33bの一端部がマスダンパ5のねじ軸7に接続されていることと、両ケーブル33a,33aの他端部が基礎Bに接続されていること、建築物32が振動していないときに第1および第2ケーブル33a,33bの反力によりマスダンパ5が中立状態に保持されることから明らかなように、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル33a,33bを介してマスダンパ5に伝達される。これにより、図7に示す中立状態からねじ軸7が外筒6に対してさらに突出し(マスダンパ5が伸張)、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ反力が発生する。
【0075】
この場合、マスダンパ反力は、第1および第2ケーブル33a,33bを介して、建築物32の上端部および基礎Bに伝達され、基礎Bに対して建築物32の上端部を左方に変位させるように作用する。これにより、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位が抑制され、建築物32の右方への揺動が抑制される。また、マスダンパ反力は、連結部材35を右方に変位させるように作用し、それにより第1ケーブル33aの伸びが増大するとともに、第2ケーブル33bの伸びが減少する。さらに、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位が大きいほど、マスダンパ5の伸張量が大きくなることによって、マスダンパ反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル33aの伸びの増加分および第2ケーブル33bの伸びの減少分は、より大きくなる。
【0076】
この第2ケーブル33bの伸びの減少分が前述したプレテンションによる第2ケーブル33bの伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル33bの伸びが存在し、第2ケーブル33bの反力が存在するときには、マスダンパ5への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ反力の伝達が、第1および第2ケーブル33a,33bの双方を介して行われる。一方、第2ケーブル33bの伸びがなくなることにより第2ケーブル33bの反力がなくなるときには、マスダンパ5への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ反力の伝達が、第1ケーブル33aのみを介して行われる。
【0077】
また、図5に二点鎖線で示すように、建築物32が一次モードの振動により左方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ5の外筒6が、建築物32の上端部とともに、基礎Bに対して左方に変位する。この場合にも、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル33a,33bを介してマスダンパ5に伝達される。これにより、図7に示す中立状態からねじ軸7が外筒6にさらに進入し(マスダンパ5が圧縮)、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ反力が発生する。
【0078】
この場合、マスダンパ反力は、第1および第2ケーブル33a,33bを介して、建築物32の上端部および基礎Bに伝達され、基礎Bに対して建築物32の上端部を右方に変位させるように作用する。これにより、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位が抑制され、建築物32の左方への揺動が抑制される。また、マスダンパ反力は、連結部材35を左方に変位させるように作用し、それにより、第2ケーブル33bの伸びが増大するとともに、第1ケーブル33aの伸びが減少する。さらに、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位が大きいほど、マスダンパ5の圧縮量が大きくなることによって、マスダンパ反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル33bの伸びの増加分および第1ケーブル33aの伸びの減少分は、大きくなる。
【0079】
この第1ケーブル33aの伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル33aの伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル33aの伸びが存在し、第1ケーブル33aの反力が存在するときには、マスダンパ5への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ反力の伝達が、第1および第2ケーブル33a,33bの双方を介して行われる。一方、第1ケーブル33aの伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ5への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ反力の伝達が、第2ケーブル33bのみを介して行われる。
【0080】
また、第1ケーブル33aを含むケーブル33のプレテンションは、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル33aの伸びがなくなることにより第1ケーブル33aの反力がなくなるように設定されている。さらに、第2ケーブル33bを含むケーブル33のプレテンションは、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、前述したように第2ケーブル33bの伸びがなくなることにより第2ケーブル33bの反力がなくなるように設定されている。この所定値は、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル33a,33bの反力がなくなるように、設定されている。
【0081】
さらに、マスダンパ5の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、ケーブル33の剛性は、回転マス、粘性体、ケーブル33から成る付加振動系の固有振動数が建築物32の一次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置31によって、一次モードの振動により繰り返される建築物32の左右方向の揺動が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0082】
また、第2実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との関係は、次のとおりである。すなわち、第2実施形態における建築物32が、本発明における構造物に相当し、第2実施形態における建築物32および基礎Bが、本発明における系に相当する。また、第2実施形態における建築物32の上端部および基礎Bが、本発明における第1および第2部位にそれぞれ相当するとともに、第2実施形態における粘性体が、本発明における減衰要素に相当する。
【0083】
以上のように、第2実施形態によれば、建築物32の一次モードの振動に伴って発生した建築物32の上端部および基礎Bの間の相対変位が、第1および第2ケーブル33a,33bを介して、回転マスおよび粘性体を有するマスダンパ5に伝達される。伝達された相対変位は、マスダンパ5の回転マスの回転運動に変換され、回転マスが回転することと、回転マスの回転が粘性体によって減衰させられることによって、回転マスの質量に比して非常に大きなマスダンパ反力が発生する。発生したマスダンパ反力は、第1および第2ケーブル33a,33bを介して建築物32の上端部と基礎Bに伝達され、それにより、建築物32の上端部および基礎Bの間の相対変位が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0084】
また、前述した建築物32の一次モードの振動に対する振動抑制装置31の動作から明らかなように、第1および第2ケーブル33a,33bの反力を合わせた合力であるケーブル反力(F)と、建築物32の一次モードの振動に伴って発生した第1および第2ケーブル33a,33b全体の変位(y)との関係は、前述した図17と同様に示される。さらに、第1および第2ケーブル33a,33bの剛性をそれぞれ「k」とすると、両ケーブル33a,33b全体の接線剛性(以下「ケーブル接線剛性」という)は、第1および第2ケーブル33a,33bの反力がともに作用しているときには「2k」となり、両ケーブル33a,33bの一方の伸びがなくなり、当該一方の反力がなくなるときには「k」となる。
【0085】
この場合、第1ケーブル33aを含むケーブル33のプレテンションが、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル33aの伸びがなくなることにより第1ケーブル33aの反力がなくなるように設定されている。また、第2ケーブル33bを含むケーブル33のプレテンションが、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル33bの伸びがなくなることにより第2ケーブル33bの反力がなくなるように設定されている。さらに、この所定値が、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル33a,33bの反力がなくなるように、設定されている。
【0086】
以上により、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が建築物32の一次モードの振動に同調して過大になる直前に、より小さなケーブル接線剛性(=k)が得られるので、マスダンパ5の固有周期を建築物32の固有周期と異ならせることができ、それによりマスダンパ反力を抑制できる。したがって、建築物32、マスダンパ5、第1および第2ケーブル33a,33bから成るケーブル33に過大な応力が発生するのを防止することができる。それに加え、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が比較的小さいときに、より大きなケーブル接線剛性(=2k)が得られる。したがって、例えば風力により建築物32が一次モードで振動した場合であって、基礎Bに対する建築物32の上端部の変位が比較的小さいときでも、この変位を、ケーブル33の変形により吸収されるのを抑制しながら、マスダンパ5に適切に伝達することができ、ひいては、建築物32の振動を適切に抑制することができる。なお、以上の効果は、図5に一点鎖線および二点鎖線で示すように建築物32が一次モードの振動により曲げ変形するような場合だけでなく、せん断変形するような場合にも、同様に得ることができる。
【0087】
また、図8は、第2実施形態の変形例を示しており、同図において、第1および第2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。この変形例は、第2実施形態と比較して、マスダンパ5およびケーブル33に代えて、第1実施形態の変形例で説明したマスダンパ21、第1および第2ケーブル11,12をそれぞれ用いる点が、主に異なっている。
【0088】
図8に示すように、マスダンパ21は、建築物32の上端部の左右方向の中央に、支持部材32bを介して取り付けられており、左右方向に延びている。また、第1ケーブル11は、一端部が基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ右方に斜めに延び、建築物32の上端部の左端部に設けられた滑車34に巻き掛けられ、この滑車34から右方に水平に延びるとともに、他端部が、マスダンパ21のねじ軸23の左端部に設けられたフランジ23aに取り付けられている。第2ケーブル12は、一端部が基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ左方に斜めに延び、建築物32の上端部の右端部に設けられた滑車34に巻き掛けられ、この滑車34から左方に水平に延びるとともに、他端部が、マスダンパ21のねじ軸23の右端部に設けられたフランジ23aに取り付けられている。さらに、第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。
【0089】
この第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。また、この場合、第1および第2ケーブル反力は、互いに作用し合うことから、両反力の絶対値は互いに等しい。
【0090】
以上の構成の振動抑制装置31および建築物32では、建築物32が振動していないときには、第1および第2ケーブル反力によって、マスダンパ21は、伸縮していない中立状態に保持される。この中立状態から、図8に一点鎖線で示すように、建築物32が一次モードの振動により右方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、建築物32の上端部とともに、基礎Bに対して右方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル11,12の一端部が基礎Bに接続されていることと、両ケーブル11,12の他端部がマスダンパ21のねじ軸23に接続されていること、建築物32が振動していないときに第1および第2ケーブル反力によりマスダンパ21が中立状態に保持されることから明らかなように、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ21に伝達される。これにより、中立状態からねじ軸23が外筒22に対して左方に移動し、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ21の反力が発生する。
【0091】
この場合、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、建築物32の上端部および基礎Bに伝達され、基礎に対して建築物32の上端部を左方に変位させるように作用する。これにより、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位が抑制され、建築物32の右方への揺動が抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を右方に引っ張るように作用し、それにより、第1ケーブル11の伸びが増大するとともに、第2ケーブル12の伸びが減少する。さらに、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル11の伸びの増加分および第2ケーブル12の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0092】
この第2ケーブル12の伸びの減少分が前述したプレテンションによる第2ケーブル12の伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル12の伸びが存在し、第2ケーブル12の反力が存在するときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1ケーブル11のみを介して行われる。
【0093】
また、中立状態から、図8に二点鎖線で示すように、建築物32が一次モードの振動により左方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、建築物32の上端部とともに、基礎Bに対して左方に変位する。この場合、振動抑制装置31において、建築物32が右方に揺動した場合に行われる上述した動作と逆の動作が行われることによって、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位が抑制され、建築物32の左方への揺動が抑制される。また、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達によって発生したマスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を左方に引っ張るように作用し、それにより、第2ケーブル12の伸びが増大するとともに、第1ケーブル11の伸びが減少する。さらに、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル12の伸びの増加分および第1ケーブル11の伸びの減少分は、大きくなる。
【0094】
この第1ケーブル11の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル11の伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル11の伸びが存在し、第1ケーブル11の反力が存在するときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第2ケーブル12のみを介して行われる。
【0095】
また、第1ケーブル11のプレテンションは、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル11の反力がなくなるように設定されている。さらに、第2ケーブル12のプレテンションは、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、前述したように第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル12の反力がなくなるように設定されている。この所定値は、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル11,12の反力がなくなるように、設定されている。
【0096】
さらに、マスダンパ21の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が建築物32の一次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置31によって、一次モードの振動により繰り返される建築物32の左右方向の揺動が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0097】
以上の構成および動作から明らかなように、この変形例によれば、前述した第2実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0098】
なお、第2実施形態については、上述した変形例以外に、例えば次のバリエーション(a)〜(g)が存在する。これらのバリエーション(a)〜(g)および変形例は、適宜、組み合せて適用可能である。
(a)第2実施形態では、マスダンパ5の外筒6を建築物32に、ケーブル33の両端部を基礎Bに、それぞれ接続しているが、これとは逆に、外筒6を基礎Bに、ケーブル33の両端部を建築物32に、それぞれ接続してもよい。図9は、そのようにマスダンパ5およびケーブル33を接続した場合における振動抑制装置および建築物32を示している。
【0099】
図9に示すように、ケーブル33は、一端部が建築物32の上端部の左端部に固定され、この一端部から下方かつ右方に斜めに延び、建築物32の下端部に設けられた左右一対の滑車37,37に巻き掛けられ、両滑車37,37の間に水平に延びており、さらに右側の滑車37から上方かつ右方に斜めに延びるとともに、他端部が建築物32の上端部の右端部に固定されている。また、マスダンパ5のねじ軸7は、ケーブル33の長さ方向のほぼ中央部に、連結部材35を介して接続されており、連結部材35は、ガイド36を介して基礎Bに支持されている。さらに、マスダンパ5の外筒6は、支持部材38を介して基礎Bに取り付けられている。この場合にも、第2実施形態による効果を同様に得ることができる。また、図9に示すように、建築物32からケーブル33を左右方向にはみ出させることがない。
【0100】
この場合、マスダンパ5の外筒6を、基礎Bではなく、建築物32の下端部に取り付けてもよい。またこの場合、外筒6およびねじ軸7を、基礎Bおよびケーブル33ではなく、これとは逆に、ケーブル33および基礎Bにそれぞれ接続してもよい。さらにこの場合、マスダンパ5を、建築物32が揺動する左右方向に延びるように配置せずに、他の適当な方向に延びるように配置するとともに、ケーブル33を、滑車などを用いて案内し、そのように配置されたマスダンパ5に接続してもよい。
【0101】
(b)第2実施形態は、前述した図5から明らかなように、平断面が一定の建築物32に振動抑制装置31を適用した例であるが、図10に示すように、本発明による振動抑制装置は、上層部41aの平断面が下層部41bの平断面よりも小さい、いわゆるセットバックタイプの建築物41にも適用可能である。
【0102】
この場合、図10に示すように、ケーブル33の一端部および他端部を、基礎Bではなく、下層部41bの上端部の左端部および右端部にそれぞれ固定してもよい。あるいは、下層部41bの下端部の左端部および右端部に、ケーブル33の一端部および他端部をそれぞれ固定してもよい。このようにセットバックタイプの建築物41に振動抑制装置を適用した場合、建築物41全体からケーブル33を左右方向にはみ出させることがない。
【0103】
(c)第2実施形態では、ケーブル33を建築物32に対して斜めに延びるように設けるために、ケーブル33の左端部および右端部を、基礎Bにおける、建築物31よりも左方の部位および右方の部位に、それぞれ接続しているが、基礎Bに次のように接続してもよい。すなわち、後述する第2実施形態の第2変形例(図14)と同様、基礎Bにおける、建築物32の左端部および右端部に対応する部位に、ケーブル33の左端部および右端部をそれぞれ固定する。また、左右の滑車34,34を、建築物32の上端部の左端部および右端部ではなく、上端部の左部および右部にそれぞれ設けるとともに、建築物32に対して前後方向に突出させるとともに、これらの滑車34,34に、ケーブル33を巻き掛ける。あるいは、基礎Bにおける、建築物32の右端部および左端部に対応する部位に、ケーブル33の左端部および右端部をそれぞれ接続し、それによりケーブル33のうちの第1および第2ケーブル33a,33bを互いに交差させることによって、ケーブル33を建築物32に対して斜めに延びるように設けてもよい。これらのいずれの場合にも、建築物32からケーブル33を左右方向にはみ出させることがない。
【0104】
(d)第2実施形態では、ケーブル33を、そのうちの左右の滑車34,34よりも外側部分が建築物32に対して斜めに延びるように設けているが、建築物32に沿って上下方向に直線状に延びるように設けてもよい。この場合、ケーブル33における、上下方向に直線状に延びる部分を、建築物32の外壁の内側に隠すように配置してもよい。
【0105】
ただし、このバリエーション(d)を適用した場合、建築物32が、一次モードの振動によって曲げ変形(図5参照)せずに、せん断変形した場合には、ケーブル33の長さ方向の中心が、建築物32に対して左右方向に移動せず、それにより、建築物32の変位をケーブル33を介してマスダンパ5に適切に伝達できない結果、建築物32の振動を適切に抑制できないおそれがある。このため、建築物32の各階にKタイプまたはブレースタイプのダンパを取り付け、これらのダンパによって、建築物32のせん断変形を抑制し、その振動を抑制するのが好ましい。
【0106】
(e)第2実施形態では、図5から明らかなように、ケーブル33を、建築物32の左右の両外側に配置しているが、建築物32の内側に配置してもよい。図11は、そのようにケーブル33を配置した場合における振動抑制装置および建築物32を示している。この場合、図11に示すように、建築物32の内側には、左右一対のパイプスペース32c,32cが上下方向に貫通するように形成されている。ケーブル33は、これらのパイプスペース32c,32c内を通って、上下方向に延びており、前述した滑車34,34に巻き掛けられるとともに、マスダンパ5に接続されている。また、これらのパイプスペース32c,32cには、複数の滑車39が設けられており、ケーブル33が、構造物32の一次モードの振動に伴って伸縮したときに、これらの滑車39によって支障なく案内される。
【0107】
(f)第2実施形態では、ケーブル33の両端部を、基礎Bに固定しているが、建築物32の下端部に固定してもよい。建築物32の一次モードの振動中、基礎Bに対する建築物32の下端部の変位はほぼ値0になり、建築物32の下端部は振動の節に相当する部位であることから、この場合にも、第2実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
【0108】
(g)第2実施形態では、マスダンパ5の外筒6およびねじ軸7を、建築物32の上端部およびケーブル33にそれぞれ接続しているが、これとは逆に、ケーブル33および建築物32の上端部にそれぞれ接続してもよい。
【0109】
次に、図12を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置51について説明する。この振動抑制装置51は、地震などにより発生した建築物32の二次モードの振動を抑制するためのものであり、前述したマスダンパ21と、第1連結部材13を介して互いに連結された一対の第1ケーブル11,11と、第2連結部材14を介して互いに連結された一対の第2ケーブル12,12を備えている。図12において、第1および2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1および第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0110】
第1連結部材13は、建築物32の上下方向の中央部の右端部に位置している。さらに、第1連結部材13の一対の長孔13a,13aは、左右方向に延びるとともに、上下方向に並んでいる。長孔13a,13aには、建築物32に固定されたピン32d,32dがそれぞれ嵌合している。これにより、第1連結部材13は、建築物32に対して、これらの長孔13a,13aの長さの分、左右方向に移動可能であり、上下方向および前後方向(図12の奥行き方向)に移動不能である。
【0111】
また、一対の第1ケーブル11,11のうちの一方は、他端部が建築物32の上端部の左端部に固定されており、この他端部から第1連結部材13に向かって右方かつ下方に斜めに延びている。一対の第1ケーブル11のうちの他方は、他端部が基礎Bに固定されるとともに建築物32の下端部の左端部に位置しており、この他端部から第1連結部材13に向かって右方かつ上方に斜めに延びている。
【0112】
さらに、第2連結部材14は、建築物32の上下方向の中央部の左端部に位置している。また、第2連結部材14の一対の長孔14a,14aは、左右方向に延びるとともに、上下方向に並んでいる。長孔14a,14aには、建築物32に固定されたピン32e,32eがそれぞれ嵌合している。これにより、第2連結部材14は、建築物32に対して、これらの長孔14a,14aの長さの分、左右方向に移動可能であり、上下方向および前後方向に移動不能である。なお、これらの長孔13a,13a、14a,14aの左右方向の長さは、二次モードの振動によって発生すると想定される、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の上下方向の中央部の左右方向の変位の最大値よりも大きい。
【0113】
また、一対の第2ケーブル12,12のうちの一方は、他端部が建築物32の上端部の右端部に固定されており、この他端部から第2連結部材14に向かって左方かつ下方に斜めに延びている。一対の第2ケーブル12,12のうちの他方は、他端部が基礎Bに固定されるとともに建築物32の下端部の右端部に位置しており、この他端部から第2連結部材14に向かって左方かつ上方に斜めに延びている。さらに、一対の第1ケーブル11,11のうちの一方および一対の第2ケーブル12,12のうちの一方は、建築物32の上端部と第1および第2連結部材13,14の間において互いに交差しており、第1ケーブル11,11のうちの他方および第2ケーブル12,12のうちの他方は、建築物32の下端部と第1および第2連結部材13,14の間において互いに交差している。
【0114】
マスダンパ21は、外筒22が、支持部材32fを介して建築物32に取り付けられることによって、建築物32の上下方向および左右方向の中央部に接続されており、左右方向に延びている。また、マスダンパ21は、ねじ軸23の右端部および左端部のフランジ23a,23aが第1および第2連結部材13,14にそれぞれ取り付けられることによって、第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。さらに、第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。
【0115】
この第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、第1連結部材13を介してマスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合、第1および第2ケーブル反力は、互いに作用し合うことから、両反力の絶対値は互いに等しい。
【0116】
以上の構成の振動抑制装置51および建築物32では、図12に実線で示すように、建築物32が振動していないときには、第1および第2ケーブル反力によって、マスダンパ21は、ねじ軸23が外筒22に対して左右方向に移動していない中立状態に保持される。この中立状態から、図12に一点鎖線で示すように、建築物32が二次モードの振動により右方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、建築物32の上下方向の中央部とともに、建築物32の上端部および基礎Bに対して右方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル11,12の一端部がマスダンパ21のねじ軸23に接続されるとともに、両ケーブル11,12の他端部が建築物32の上端部および基礎Bに接続されていることと、建築物32が振動していないときに第1および第2ケーブル反力によりマスダンパ21が中立状態に保持されることから明らかなように、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ21に伝達される。これにより、図12に示す中立状態からねじ軸23が外筒22に対して左方に移動し、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ21の反力が発生する。
【0117】
この場合、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、建築物32の中央部、上端部および基礎Bに伝達され、上端部および基礎Bに対して中央部を左方に変位させるように作用する。これにより、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位が抑制され、建築物32の右方への揺動が抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2連結部材13,14を右方に変位させるように作用し、それにより第1ケーブル11の伸びが増大するとともに、第2ケーブル12の伸びが減少する。さらに、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル11の伸びの増加分および第2ケーブル12の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0118】
この第2ケーブル12の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第2ケーブル12の伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル12の伸びが存在し、第2ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1ケーブル11のみを介して行われる。
【0119】
また、図12に二点鎖線で示すように、建築物32が二次モードの振動により左方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、建築物32の上下方向の中央部とともに、建築物32の上端部および基礎Bに対して左方に変位する。この場合にも、建築物32の上端部および基礎Bに対する中央部の変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ21に伝達される。これにより、図12に示す中立状態からねじ軸23が外筒22に対して右方に移動し、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ21の反力が発生する。
【0120】
この場合、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、建築物32の中央部、上端部および基礎Bに伝達され、上端部および基礎Bに対して中央部を右方に変位させるように作用する。これにより、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左方への変位が抑制され、建築物32の左方への揺動が抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2連結部材13,14を左方に変位させるように作用し、それにより、第2ケーブル12の伸びが増大するとともに、第1ケーブル11の伸びが減少する。さらに、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル12の伸びの増加分および第1ケーブル11の伸びの減少分は、大きくなる。
【0121】
この第1ケーブル11の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル11の伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル11の伸びが存在し、第1ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第2ケーブル12のみを介して行われる。
【0122】
第1ケーブル11のプレテンションは、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるように設定されている。さらに、第2ケーブル12のプレテンションは、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル12の伸びが前述したようになくなることにより第2ケーブル反力がなくなるように設定されている。この所定値は、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル反力がなくなるように、設定されている。
【0123】
さらに、マスダンパ21の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が建築物32の二次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置51によって、二次モードの振動により繰り返される建築物32の左右方向の揺動が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0124】
また、第3実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との関係は、次のとおりである。すなわち、第3実施形態における建築物32が、本発明における構造物に相当し、第3実施形態における建築物32および基礎Bが、本発明における系に相当する。また、第3実施形態における建築物32の上端部および基礎Bが、本発明における第1部位に相当するとともに、第3実施形態における建築物32の上下方向の中央部が、本発明における第2部位に相当する。さらに、第3実施形態における粘性体が、本発明における減衰要素に相当する。
【0125】
この第3実施形態によれば、上述した建築物32の二次モードの振動に対する振動抑制装置51の動作と、前述した第1実施形態の変形例との対比から明らかなように、第1および第2ケーブル11,12の反力を合わせた合力であるケーブル反力(F)と、建築物32の二次モードの振動に伴って発生した第1および第2ケーブル11,12全体の変位(y)との関係は、前述した図17と同様に示される。さらに、第1および第2ケーブル11,12の剛性をそれぞれ「k」とすると、両ケーブル11,12全体の接線剛性(以下「ケーブル接線剛性」という)は、第1および第2ケーブル反力がともに作用しているときには「2k」となり、第1および第2ケーブル11,12の一方の伸びがなくなり、当該一方の反力がなくなるときには「k」となる。
【0126】
この場合、第1ケーブル11のプレテンションが、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル33aの反力がなくなるように設定されている。また、第2ケーブル12のプレテンションが、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるように設定されている。この所定値は、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル反力がなくなるように、設定されている。
【0127】
以上により、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が建築物32の二次モードの振動に同調して過大になる直前に、より小さなケーブル接線剛性(=k)が得られるので、マスダンパ21の固有周期を建築物32の固有周期と異ならせることができ、それによりマスダンパ21の反力を抑制できる。したがって、建築物32、マスダンパ21、第1および第2ケーブル11,12に過大な応力が発生するのを防止することができる。それに加え、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左右方向の変位が比較的小さいときに、より大きなケーブル接線剛性(=2k)が得られる。したがって、例えば風力により建築物32が二次モードで振動した場合であって、建築物32の上端部および基礎Bに対する中央部の変位が比較的小さいときでも、この変位を、第1および第2ケーブル11,12の変形により吸収されるのを抑制しながら、マスダンパ21に適切に伝達することができ、ひいては、建築物32の振動を適切に抑制することができる。
【0128】
また、図13は、第3実施形態の第1変形例を示しており、同図において、第1〜第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。この第1変形例は、第3実施形態と比較して、建築物32に対する第1および第2連結部材13,14の配置が異なっている。具体的には、第1連結部材13は、建築物32の上下方向の中央部の右端部ではなく、建築物32の上下方向の中央部の左部に位置している。また、第2連結部材14は、建築物32の上下方向の中央部の左端部ではなく、建築物32の上下方向の中央部の右部に位置している。さらに、建築物32および基礎Bに対する第1および第2ケーブル11,12の接続位置は、第3実施形態と同じではあるものの、第1および第2連結部材13,14が建築物32に対して上記のように配置されているため、第1および第2ケーブル11,12は、第3実施形態と異なり、互いに交差していない。
【0129】
また、第1変形例では、第3実施形態と同様、第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、第1連結部材13を介してマスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合における第1および第2ケーブル反力の絶対値は互いに等しい。
【0130】
以上の構成の第1変形例による振動抑制装置51によれば、構造物32の振動に対して、第3実施形態と同様の動作が得られ、第3実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0131】
また、図14は、第3実施形態の第2変形例を示しており、同図において、第1〜第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。この第2変形例は、第3実施形態と比較して、第1および第2連結部材13,14に代えて、左右一対の滑車52,52を用いて、第1および第2ケーブル11,12を案内し、マスダンパ21に接続している点が異なっている。
【0132】
図14に示すように、第1ケーブル11は、一端部が基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ右方に斜めに延び、建築物32の上下方向の中央部の左部に設けられた滑車52に巻き掛けられ、この滑車52から右方に水平に延び、他端部が、マスダンパ21のねじ軸23の左端部に設けられたフランジ23aに取り付けられている。また、第1ケーブル11の一端部は、建築物32の下端部の左端部に位置している。第2ケーブル12は、一端部が基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ左方に斜めに延び、建築物32の上下方向の中央部の右部に設けられた滑車52に巻き掛けられ、この滑車52から左方に水平に延び、他端部が、マスダンパ21のねじ軸23の右端部に設けられたフランジ23aに取り付けられている。また、第2ケーブル12の一端部は、建築物32の下端部の右端部に位置している。以上の構成により、第1および第2ケーブル11,12は、前述した第2実施形態の場合(図5)と異なり、建築物32から左右方向にはみ出していない。
【0133】
さらに、第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。この第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。また、この場合における第1および第2ケーブル反力の絶対値は、互いに等しい。
【0134】
以上の構成の第2変形例による振動抑制装置51によれば、構造物32の振動に対して、第3実施形態と同様の動作が得られ、第3実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0135】
なお、第2変形例では、第1および第2ケーブル11,12を、建築物32から左右方向にはみ出させることなく、建築物32に対して斜めに延びるように設けるために、基礎Bに対する第1および第2ケーブル11,12の接続位置を、建築物32の左右方向の内側に定めるとともに、滑車52,52の位置を、第1および第2ケーブル11,12の接続位置よりも左右方向の内側に定めているが、例えば、基礎Bに第1および第2ケーブル11,12を次のように接続してもよい。すなわち、基礎Bにおける、建築物32の右端部および左端部に対応する部位に、第1および第2ケーブル11,12の一端部をそれぞれ接続し、両ケーブル11,12を互いに交差させる。これにより、第1および第2ケーブル11,12を、建築物32から左右方向にはみ出させることなく、建築物32に対して斜めに延びるように設けることができる。
【0136】
また、第2変形例では、マスダンパ21の外筒22を建築物32の中央部に接続するとともに、第1および第2ケーブル11,12の一端部を基礎Bに接続しているが、これとは逆に、マスダンパ5の外筒22を基礎Bに、ケーブル33の両端部を建築物32の中央部に、それぞれ接続してもよい。この場合、マスダンパ21を、建築物32が揺動する左右方向に延びるように配置せずに、他の適当な方向に延びるように配置するとともに、第1および第2ケーブル11,12を、滑車などを用いて案内し、そのように配置されたマスダンパ21に接続してもよい。以上の第2変形例についてのバリエーションは、適宜、組み合せて適用可能である。
【0137】
また、第3実施形態については、例えば、以下に述べる複数のバリエーションが存在する。これらのバリエーションは、適宜、組み合せて適用可能である。すなわち、第3実施形態および第1変形例では、振動抑制装置51を建築物32の外側に設けているが、後述する第4実施形態の場合と同様、建築物32の内側に、例えばパイプスペース内やエレベータの昇降路内に設けてもよい。
【0138】
さらに、第3実施形態(以下、第1および第2変形例を含む)では、第1および第2ケーブル11,12を、基礎Bに接続しているが、建築物32の下端部に接続してもよい。建築物32の二次モードの振動中、基礎Bに対する建築物32の下端部の変位はほぼ値0になり、建築物32の下端部は振動の節に相当する部位であることから、この場合にも、第3実施形態による効果を同様に得ることができる。また、第3実施形態では、マスダンパ21の外筒22を建築物32に、ねじ軸23を第1および第2ケーブル11,12にそれぞれ接続しているが、これとは逆に、外筒22を第1および第2ケーブル11,12に、ねじ軸23を建築物32に、それぞれ接続してもよい。
【0139】
さらに、第3実施形態では、マスダンパ21を用いているが、マスダンパ5を用いてもよい。また、第3実施形態では、平断面が一定の建築物32に振動抑制装置31を適用した例であるが、本発明による振動抑制装置は、前述したセットバックタイプの建築物41にも適用可能である。
【0140】
次に、図15を参照しながら、本発明の第4実施形態による振動抑制装置61について説明する。この振動抑制装置61は、地震などにより発生した建築物32の三次モードの振動を抑制するためのものである。図15において、第1〜第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1〜第3実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0141】
図15に示すように、振動抑制装置61は、それぞれ上下一対のマスダンパ21、第1および第2連結部材13,14を備えている。建築物32には、比較的大きな平断面を有するパイプスペース32gが形成され、上下方向に延びており、このパイプスペース32g内に、振動抑制装置61が設けられている。上側の第1および第2連結部材13,14はそれぞれ、建築物32のうちの、上端から高さの1/4だけ下側の部位(以下「第1腹部という」)の左部および右部に設けられ、互いに対向しており、第3実施形態と同様、それらの長孔(図示の便宜上、符号を省略)の長さの分、建築物32に対して左右方向にのみ移動可能である。なお、これらの長孔の左右方向の長さは、三次モードの振動によって発生すると想定される、建築物32の上端部および上下方向の中央部に対する建築物32の第1腹部の左右方向の変位の最大値よりも大きい。
【0142】
また、上側の第1連結部材13(以下「上側第1連結部材13」という)には、上側の一対の第1ケーブル11,11の一端部が連結されている。上側の一対の第1ケーブル11,11の一方は、他端部が建築物32の上端部の左部に固定されており、この他端部から上側第1連結部材13に向かって右方かつ下方に斜めに延びている。また、上側の一対の第1ケーブル11,11の他方は、他端部が建築物32の上下方向の中央部の左部に固定されており、この他端部から上側第1連結部材13に向かって右方かつ上方に斜めに延びている。以下、上側の一対の第1ケーブル11,11を総称して、「上側第1ケーブル11」という。
【0143】
また、上側の第2連結部材14(以下「上側第2連結部材14」という)には、上側の一対の第2ケーブル12,12の一端部が連結されている。上側の一対の第2ケーブル12,12の一方は、他端部が建築物32の上端部の右部に固定されており、この他端部から上側第2連結部材14に向かって左方かつ下方に斜めに延びている。また、上側の一対の第2ケーブル12,12の他方は、他端部が建築物32の上下方向の中央部の右部に固定されており、この他端部から上側第2連結部材14に向かって左方かつ上方に斜めに延びている。以下、上側の一対の第2ケーブル12,12を総称して、「上側第2ケーブル12」という。
【0144】
上側のマスダンパ21(以下「上側マスダンパ21」という)は、その外筒22が建築物32の第1腹部の左右方向の中央に支持部材32fを介して取り付けられることによって、建築物32に接続されており、左右方向に延びている。また、上側マスダンパ21は、そのねじ軸23の左端部および右端部が上側第1および第2連結部材13,14にそれぞれ取り付けられることによって、上側第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。さらに、上側第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。
【0145】
この上側第1ケーブル11の伸びによる上側第1ケーブル11の反力は、上側第1連結部材13を介して上側マスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する。一方、上側第2ケーブル12の伸びによる上側第2ケーブル12の反力は、上側第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、上側第1および第2ケーブル11,12の反力は、上側マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合における上側第1および第2ケーブル11,12の反力の絶対値は互いに等しい。
【0146】
さらに、下側の第1および第2連結部材13,14は、建築物32の下端から高さの1/4だけ上側の部位(以下「第2腹部という」)の左部および右部に設けられ、互いに対向しており、第3実施形態と同様、それらの長孔(図示の便宜上、符号を省略)の長さの分、建築物32に対して左右方向にのみ移動可能である。なお、これらの長孔の左右方向の長さは、三次モードの振動によって発生すると想定される、建築物32の上下方向の中央部および基礎Bに対する建築物32の第2腹部の左右方向の変位の最大値よりも大きい。
【0147】
また、下側の第1連結部材13(以下「下側第1連結部材13」という)には、下側の一対の第1ケーブル11,11の一端部が連結されている。下側の一対の第1ケーブル11,11の一方は、他端部が建築物32の上下方向の中央部の左部に固定されており、この他端部から下側第1連結部材13に向かって右方かつ下方に斜めに延びている。また、下側の一対の第1ケーブル11,11の他方は、他端部が基礎Bに固定されるとともに建築物32の下端部の左部に位置しており、この他端部から下側第1連結部材13に向かって右方かつ上方に斜めに延びている。以下、下側の一対の第1ケーブル11,11を総称して、「下側第1ケーブル11」という。
【0148】
また、下側の第2連結部材14(以下「下側第2連結部材14」という)には、下側の一対の第2ケーブル12,12の一端部が連結されている。下側の一対の第2ケーブル12,12の一方は、他端部が建築物32の上下方向の中央部の右部に固定されており、この他端部から下側第2連結部材14に向かって左方かつ下方に斜めに延びている。また、下側の一対の第2ケーブル12,12の他方は、他端部が基礎Bに固定されるとともに建築物32の下端部の右部に位置しており、この他端部から第2連結部材14に向かって左方かつ上方に斜めに延びている。以下、下側の一対の第2ケーブル12,12を総称して、「下側第2ケーブル12」という。
【0149】
下側のマスダンパ21(以下「下側マスダンパ21」という)は、その外筒22が建築物32の第2腹部の左右方向の中央に支持部材32fを介して取り付けられることによって、建築物32に接続されており、左右方向に延びている。また、下側マスダンパ21は、そのねじ軸23の左端部および右端部が下側第1および第2連結部材13,14にそれぞれ取り付けられることによって、下側第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。さらに、下側第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。
【0150】
この下側第1ケーブル11の伸びによる下側第1ケーブル11の反力は、下側第1連結部材13を介して下側マスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する。一方、下側第2ケーブル12の伸びによる下側第2ケーブル12の反力は、下側第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、下側第1および第2ケーブル11,12の反力は、下側マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合における下側第1および第2ケーブル11,12の反力の絶対値は互いに等しい。
【0151】
以上の構成の振動抑制装置61および建築物32では、図15に実線で示すように、建築物32が振動していないときには、上側第1および第2ケーブル11,12の反力によって上側マスダンパ21が、下側第1および第2ケーブル11,12の反力によって下側マスダンパ21が、それぞれ中立状態に保持される。この中立状態から、建築物32が三次モードの振動により揺動した場合において、第1および第2腹部が図15に一点鎖線で示すように右方および左方にそれぞれ変位したとき、および図15に二点鎖線で示すように左方および右方にそれぞれ変位したときのいずれにおいても、上述した振動抑制装置61の構成と、前述した第3実施形態の第1変形例(図13)との比較から明らかなように、建築物32の上端部および中央部に対する第1腹部の左右方向の変位が上側マスダンパ21によって、建築物32の中央部および基礎Bに対する第2腹部の左右方向の変位が下側マスダンパ21によって、それぞれ抑制される。
【0152】
また、建築物32の第1腹部が上端部および中央部に対して右方(左方)に変位するのに伴って発生した上側マスダンパ21の反力は、上側第1および第2連結部材13,14を右方(左方)に変位させるように作用し、それにより上側第1ケーブル11の伸びが増大(減少)するとともに、上側第2ケーブル12の伸びが減少(増大)する。さらに、右方(左方)への第1腹部の変位が大きいほど、上側マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、上側第1ケーブル11(上側第2ケーブル12)の伸びの増加分および上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0153】
この上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びの減少分が、プレテンションによる上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びよりも小さく、それにより上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びが存在し、上側第2ケーブル12の反力(上側第1ケーブル11の反力)が存在するときには、上側マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32への上側マスダンパ21の反力の伝達が、上側第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びがなくなることにより上側第2ケーブル12の反力(上側第1ケーブル11の反力)がなくなるときには、上側マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32への上側マスダンパ21の反力の伝達が、上側第1ケーブル11(上側第2ケーブル12)のみを介して行われる。以上の動作は、建築物32の第2腹部、下側マスダンパ21、下側第1および第2ケーブル11,12についても同様に行われる。
【0154】
また、上側第1ケーブル11のプレテンションは、建築物32の上端部および中央部に対する第1腹部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、上側第1ケーブル11の伸びがなくなることにより上側第1ケーブル11の反力がなくなるように設定されている。さらに、上側第2ケーブル12のプレテンションは、建築物32の上端部および中央部に対する第1腹部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、上側第2ケーブル12の伸びがなくなることにより上側第2ケーブル12の反力がなくなるように設定されている。この所定値は、建築物32の上端部および中央部に対する第1腹部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、上側第1または第2ケーブル11,12の反力がなくなるように、設定されている。
【0155】
さらに、下側第1ケーブル11のプレテンションは、建築物32の中央部および基礎Bに対する第2腹部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、下側第1ケーブル11の伸びがなくなることにより下側第1ケーブル11の反力がなくなるように設定されている。さらに、下側第2ケーブル12のプレテンションは、建築物32の中央部および基礎Bに対する第2腹部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、下側第2ケーブル12の伸びがなくなることにより下側第2ケーブル12の反力がなくなるように設定されている。この所定値は、建築物32の中央部および基礎Bに対する第2腹部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、下側第1または第2ケーブル11、12の反力がなくなるように、設定されている。
【0156】
さらに、上側および下側マスダンパ21の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、上側・下側第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、上側・下側第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が建築物32の三次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置61によって、三次モードの振動により繰り返される建築物32の左右方向の揺動が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0157】
また、第4実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との関係は、次のとおりである。すなわち、第4実施形態における建築物32が、本発明における構造物に相当し、第4実施形態における建築物32および基礎Bが、本発明における系に相当する。また、第4実施形態における建築物32の上端部、上下方向の中央部および基礎Bが、本発明における第1部位に相当するとともに、第4実施形態における第1および第2腹部が、本発明における第2部位に相当する。さらに、第4実施形態における粘性体が、本発明における減衰要素に相当する。
【0158】
以上により、第4実施形態によれば、建築物32の第1および第2腹部の左右方向の変位が大きくなるのに伴って、上側および下側マスダンパ21の反力が建築物32の三次モードの振動に同調して過大になる直前に、上側・下側の第1および第2ケーブル11,12の各々について、より小さなケーブル接線剛性(=k)が得られる。したがって、上側および下側マスダンパ21の固有周期を建築物32の固有周期と異ならせることができ、それにより上側および下側マスダンパ21の反力を抑制できる。したがって、建築物32、上側および下側マスダンパ21、上側・下側第1および第2ケーブル11,12に過大な応力が発生するのを防止することができる。それに加え、建築物32の第1および第2腹部の左右方向の変位が比較的小さいときに、上側・下側の第1および第2ケーブル11,12の各々について、より大きなケーブル接線剛性(=2k)が得られる。したがって、例えば風力により建築物32が三次モードで振動した場合であって、第1および第2腹部の変位が比較的小さいときでも、この変位を、上側・下側第1および第2ケーブル11,12の変形により吸収されるのを抑制しながら、上側・下側マスダンパ21に適切に伝達することができ、ひいては、建築物32の振動を適切に抑制することができる。
【0159】
なお、第4実施形態については、例えば、以下に述べる複数のバリエーションが存在する。これらのバリエーションは、適宜、組み合せて適用可能である。すなわち、第4実施形態では、振動抑制装置61を、建築物32のパイプスペース32g内に設けているが、建築物32のエレベータの昇降路内に設けてもよく、あるいは、第3実施形態の場合(図12)と同様、建築物32の外側に設けてもよい。また、第4実施形態では、上側第1および第2ケーブル11,12を交差させずに設けているが、第3実施形態の場合(図12)と同様、上側第1および第2ケーブル11,12を交差させてもよい。このことは、下側第1および第2ケーブル11,12についても同様に当てはまる。さらに、第4実施形態では、下側第1および第2ケーブル11,12を基礎Bに接続しているが、建築物32の下端部に接続してもよい。建築物32の三次モードの振動中、基礎Bに対する建築物32の下端部の変位はほぼ値0になり、建築物32の下端部は振動の節に相当する部位であることから、この場合にも、第4実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0160】
また、第4実施形態では、上側第1および第2ケーブル11,12をそれぞれ一対のケーブルで構成するとともに、上側第1および第2連結部材13,14を介して上側マスダンパ21に接続しているが、第3実施形態の第2変形例(図14)と同様に、上側第1および第2ケーブル11,12をそれぞれ単一のケーブルで構成するとともに、左右の滑車を用いて両ケーブル11,12を案内し、上側マスダンパ21に接続してもよい。
【0161】
この場合、図9に示す第2実施形態のバリエーション(a)と同様に、建築物32の下端部または基礎Bにマスダンパ21の外筒22を、建築物32の第1腹部に上側第1および第2ケーブル11,12を、それぞれ接続してもよい。またこの場合、マスダンパ21を、建築物32が揺動する左右方向に延びるように配置せずに、他の適当な方向に延びるように配置するとともに、第1および第2ケーブル11,12を、滑車などを用いて案内し、そのように配置されたマスダンパ21に接続してもよい。以上については、下側マスダンパ21、下側第1および第2ケーブル11,12についても同様に当てはまる。
【0162】
さらに、第4実施形態では、上側第1および第2ケーブル11,12に上側マスダンパ21のねじ軸23を、建築物32に上側マスダンパ21の外筒22を、それぞれ接続しているが、これとは逆に、上側第1および第2ケーブル11,12に外筒22を、建築物32にねじ軸23を、それぞれ接続してもよい。このことは、下側マスダンパ21、下側第1および第2ケーブル11,12についても同様に当てはまる。また、第4実施形態では、第1腹部の変位を抑制するためのマスダンパとして、上側マスダンパ21を用いているが、マスダンパ5を用いてもよい。このことは、下側マスダンパ21についても同様に当てはまる。さらに、第4実施形態では、振動抑制装置61を、平断面が一定の建築物32に適用しているが、前述したセットバックタイプの建築物41に適用してもよい。
【0163】
また、建築物32の一次〜三次モードの振動に対応するために、第2〜第4実施形態の振動抑制装置31、41、61を組み合わせて、建築物32、41に適用してもよい。さらに、建築物32の四次モード以上の振動に対応するように、振動抑制装置を構成してもよい。この場合にも、そのように構成された、互いに異なる振動モードに対応する複数の振動抑制装置を、建築物32、41に適用してもよい。
【0164】
なお、本発明は、説明した第1〜第4実施形態(各実施形態の変形例を含む。以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、単一の回転マスを有するマスダンパ5,21を用いているが、本発明の発明者が提案した特願2009−233824号に記載された、第1回転マスに直列に取り付けた第2回転マスを有するマスダンパを用いてもよい。また、実施形態では、本発明の減衰要素として、シリコンオイルなどから成る粘性体を用いているが、回転マスの回転を減衰可能なものであれば他の要素、例えば粘弾性ゴムや、空圧式・磁気式のダンパなどを用いてもよい。
【0165】
さらに、実施形態では、ケーブル33、第1および第2ケーブル11,12は、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。また、実施形態では、第1および第2ケーブル11,12の剛性を互いに同じ高さに設定しているが、互いに異なる高さに設定してもよい。この場合、前述した図16を用いて説明した第1および第2ケーブルの関係から明らかなように、両ケーブルのうち、剛性が低いケーブルの方が、プレテンションによる伸びがより大きくなるので、当該ケーブルの伸びがなくなることによりその反力がなくなるのに必要な構造物の変位の大きさは、より大きくなる。本発明における第1および第2所定値は、実施形態では互いに同じ値に設定されているのに対し、上記のように第1および第2ケーブルの剛性を互いに異ならせた場合には、上述した理由から、第1および第2所定値のうちの、剛性がより低いケーブルに対応するものが、より大きな値に設定される。
【0166】
また、実施形態では、振動による橋梁2などの構造物の変位を回転運動に変換する変換機構は、ボールねじであるが、第1および第2ケーブルを介して伝達された構造物の変位を回転運動に変換可能な他の機構、例えば、互いに噛み合うラックおよびピニオンを有するラックアンドピニオン機構でもよい。この場合、このラックが、マスダンパ5、21のねじ軸7、23に相当するとともに、ピニオンを回転自在に支持する支持部材が、マスダンパ5、21の外筒6、22に相当する。さらに、実施形態では、振動抑制装置を、橋梁5や建築物32、41に適用した例であるが、他の構造物、例えば建築物の梁や、鉄塔などに適用してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0167】
1 振動抑制装置
2 橋梁(構造物)
5 マスダンパ
11 第1ケーブル
12 第2ケーブル
21 マスダンパ
31 振動抑制装置
32 建築物(構造物)
33a 第1ケーブル
33b 第2ケーブル
41 建築物(構造物)
51 振動抑制装置
61 振動抑制装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動に伴って発生した、構造物を含む系内の第1部位および第2部位の間の相対変位を抑制する振動抑制装置に関し、特に、第1および第2部位の間の相対変位を、ケーブルを介してダンパに伝達する振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の振動抑制装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この振動抑制装置は、建築物の振動を抑制するためのものであり、減衰装置、第1および第2ケーブルを備えている。この減衰装置は、積層ゴムなどで構成され、建築物の基礎に固定されており、建築物の左右方向の中央に配置されている。また、第1ケーブルは、一端部が建築物の上端部の右端部に固定され、この一端部から下方かつ左方に斜めに延び、建築物の左端部に取り付けられた滑車に巻き掛けられており、さらにこの滑車から右方に水平に延びるとともに、他端部が減衰装置に固定されている。第2ケーブルは、第1ケーブルと左右対称に設けられており、その途中において第1ケーブルと交差している。また、第1および第2ケーブルには、適当なプレテンションがあらかじめ付与されている。
【0003】
以上の構成の従来の振動抑制装置では、例えば地震などで建築物が一次モードで振動し、建築物の上端部が基礎に対して右方に変位すると、それにより第1ケーブルが引っ張られ、この引張力は減衰装置に伝達され、減衰装置を変形させるように作用する。それに伴い、減衰装置において、この引張力に抗するように反力が発生し、この減衰装置の反力は、第1ケーブルを介して建築物に伝達される。これとは逆に、建築物の上端部が基礎に対して左方に変位すると、それにより第2ケーブルが引っ張られ、この引張力は減衰装置に伝達され、減衰装置を変形させるように作用する。それに伴い、減衰装置において、この引張力に抗するように反力が発生し、この減衰装置の反力は、第2ケーブルを介して建築物に伝達される。以上のように、建築物の振動中、減衰装置の反力が第1および第2ケーブルを介して建築物に伝達され、それにより、建築物の振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−176974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、この従来の振動抑制装置では、第1および第2ケーブルを介して、振動による建築物の変位が減衰装置に伝達されるとともに、それに伴って発生した減衰装置の反力が建築物に伝達される。従来の振動抑制装置であっても、第1および第2ケーブルの剛性を無限大とすることができるのであれば、良好な制振効果を得ることができる。しかし、実際のケーブルは、その長さや断面積に相応する有限の剛性を有するため、従来の振動抑制装置では、建築物の振動に伴って発生した引張力が、第1および第2ケーブルの変形によりほとんど吸収され、減衰装置にほとんど伝達されなくなり、ひいては、建築物の振動を適切に抑制することができなくなるおそれがある。このような不具合は、例えば風力により建築物が振動した場合であって、その振動が小さいときには、上記の引張力が比較的小さいため、より顕著になる。
【0006】
また、上記のような不具合を防止するために、第1および第2ケーブルのプレテンションを比較的大きく設定することが考えられる。しかし、その場合には、このプレテンションが比較的大きく、それにより第1および第2ケーブルの実質的な剛性(変形しにくさ)が比較的高い場合において、建築物の振動が比較的大きいときには、建築物の振動に伴って発生した大きな引張力が、第1および第2ケーブルの変形によってはほとんど吸収されず、ほぼそのまま減衰装置に伝達される。その結果、建築物、減衰装置、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生し、ひいては、建築物や、減衰装置、第1および第2ケーブルなどが破損するおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、構造物の振動の大きさにかかわらず、構造物の振動を適切に抑制できるとともに、構造物、マスダンパ、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生するのを防止することができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の振動に伴って構造物を含む系内の第1部位および第2部位の間において所定方向に沿って発生する相対変位を抑制するための振動抑制装置であって、所定のプレテンションにより伸びがあらかじめ付与され、第1および第2部位の間に延びるとともに、一端部が第1部位に接続された第1ケーブルおよび第2ケーブルと、回転可能な回転マスを有し、第2部位と、第1および第2ケーブルの他端部とに、第1および第2ケーブルの反力が互いに反対方向に作用するように接続され、構造物の振動に伴って第1および第2ケーブルを介して伝達された第1および第2部位の間の相対変位を、回転マスの回転運動に変換するマスダンパと、を備え、第1ケーブルは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して、所定方向のうちの一方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第1ケーブルの伸びが増大するとともに、所定方向のうちの他方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第1ケーブルの伸びが減少するように設けられており、第1ケーブルの所定のプレテンションは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して他方の方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第1所定値よりも大きいときに、第1ケーブルの伸びがなくなることにより第1ケーブルの反力がなくなるように設定されており、第2ケーブルは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して、他方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第2ケーブルの伸びが増大するとともに、一方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第2ケーブルの伸びが減少するように設けられており、第2ケーブルの所定のプレテンションは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して一方の方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第2所定値よりも大きいときに、第2ケーブルの伸びがなくなることにより第2ケーブルの反力がなくなるように設定されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第1および第2ケーブルに、所定のプレテンションにより伸びがあらかじめ付与されており、両ケーブルの一端部が、構造物を含む系内の第1部位に接続されている。また、マスダンパが、構造物を含む系内の第2部位と、第1および第2ケーブルの他端部とに、第1および第2ケーブルの反力が互いに反対方向に作用するように接続されている。さらに、マスダンパには、構造物の振動に伴って所定方向に沿って発生した第1および第2部位の間の相対変位が、第1および第2ケーブルを介して伝達され、伝達された相対変位は、回転マスの回転運動に変換され、回転マスが回転する。この回転マスの回転慣性効果により、回転マスの見かけの質量(等価質量)が、実際の質量(実質量)に対して増幅されることによって、回転マスの質量に比して非常に大きな回転マスの反力(回転慣性力)が発生する。また、回転マスの等価質量が、第1および第2ケーブルのケーブル剛性に直列に接続されているため、回転マスの等価質量とケーブル剛性による付加振動系が構成される。この付加振動系の固有振動数を構造物の固有振動数に同調(共振)させることによって、ケーブル剛性が比較的低い場合でも、付加振動系の振動(変形)の方が構造物の振動(変形)よりも大きくなるので、それにより第1および第2部位の間の相対変位が抑制され、ひいては、構造物の振動が抑制される。
【0010】
また、上述した構成によれば、第1ケーブルは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して、所定方向のうちの一方の方向(以下「第1方向」という)に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第1ケーブルの伸びが増大するとともに、所定方向のうちの他方の方向(以下「第2方向」という)に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第1ケーブルの伸びが減少するように設けられている。さらに、第2ケーブルは、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して、第2方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第2ケーブルの伸びが増大するとともに、第1方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力により第2ケーブルの伸びが減少するように設けられている。以上から、第1および第2ケーブルの関係は、例えば図16のように示される。
【0011】
また、図16(a)は、第1および第2ケーブルの関係を、プレテンションが付与されていない状態(自由長の状態)について示しており、図16(b)は、プレテンションが付与され、かつ第1および第2部位の間の相対変位が発生していない状態について示している。さらに、図16(c)は、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第1方向に相対変位した状態について示している。
【0012】
マスダンパに対して、前述したように第1および第2ケーブルの反力(以下、それぞれ「第1ケーブル反力」「第2ケーブル反力」という)が互いに反対方向に作用することから、第1および第2部位の間の相対変位が発生していないときには、第1および第2ケーブル反力F1,F2は、図16(b)のように表される。すなわち、第1ケーブルの剛性をk1とし、プレテンションによる第1ケーブルの伸びをx1とすると、第1ケーブル反力F1は、F1=k1・x1となる。また、第2ケーブルの剛性をk2とし、プレテンションによる第2ケーブルの伸びをx2とすると、第2ケーブル反力F2は、F2=−k2・x2となる。この場合、第1および第2ケーブルの他端部がマスダンパを介して互いに接続されていることから、第1および第2ケーブル反力F1,F2を合わせた合力であるケーブル反力Fは、F=F1+F2=(k1・x1)+(−k2・x2)=0となり、マスダンパは中立状態にある。
【0013】
図16(b)に示す中立状態から、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第1方向に相対変位したときには、前述したように、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力によって、第1ケーブルの伸びが増大するとともに、第2ケーブルの伸びが減少する。このことから、この場合における第1および第2ケーブル反力F1,F2は、図16(c)のように表される。すなわち、中立状態から第2部位が第1部位に対して相対変位するのに伴って発生した第1および第2ケーブルの全体の変位(変形量)(以下「ケーブル変位」という)をyとすると、第1ケーブル反力F1は、F1=k1(x1+y)となり、第2ケーブル反力F2は、F2=−k2(x2−y)となる。このことと、上述したように(k1・x1)+(−k2・x2)=0であることから、ケーブル反力Fは、F=F1+F2=(k1+k2)yとなる。
【0014】
ここで、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであると仮定すると、ケーブル反力FはF=2k・yとなり、その微小変化分をΔFとし、ケーブル変位yの微小変化分をΔyとすると、F+ΔF=2k(y+Δy)が成立する。以上から、この場合における第1および第2ケーブル全体の接線剛性(以下「ケーブル接線剛性」という)は、ΔF=2k・Δyより、2kとなる。
【0015】
また、前述した構成によれば、第2ケーブルのプレテンションが、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第1方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第2所定値よりも大きいときに、第2ケーブルの伸びがなくなることにより第2ケーブル反力F2がなくなるように設定されている。このことから、このように第2ケーブル反力F2がない(=値0)状態における第1および第2ケーブルの関係は、中立状態からのケーブル変位をyとすると、図16(d)のように表される。同図に示すように、第1ケーブル反力F1は、図16(c)の場合と同様、F1=k1(x1+y)である。したがって、ケーブル反力Fは、F=F1+F2=k1(x1+y)である。
【0016】
この場合、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであり、かつ、プレテンションによる第1および第2ケーブルの伸びx1,x2が互いに等しく、xであると仮定すると、ケーブル反力FはF=k(x+y)となり、F+ΔF=k(x+y+Δy)が成立する。このことから、この場合におけるケーブル接線剛性は、ΔF=k・Δyより、kとなる。
【0017】
一方、図16(b)に示す中立状態から、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第2方向に相対変位すると、前述したように、当該相対変位が大きいほど、マスダンパの反力によって、第2ケーブルの伸びが増大するとともに、第1ケーブルの伸びが減少する。このことから、第1ケーブル反力F1は、F1=k1(x1−y)となり、第2ケーブル反力F2は、F2=−k2(x2+y)となる。このことと、前述したように(−k1・x1)+(k2・x2)=0であることから、ケーブル反力Fは、F=F1+F2=−(k1+k2)yとなる。
【0018】
ここで、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであると仮定すると、ケーブル反力Fは、F=−2k・yとなり、F+ΔF=−2k(y+Δy)が成立する。このことから、この場合におけるケーブル接線剛性は、ΔF=−2k・Δyより、2kとなる。
【0019】
また、前述した構成によれば、第1ケーブルのプレテンションが、構造物の振動に伴って第2部位が第1部位に対して第2方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第1所定値よりも大きいときに、第1ケーブルの伸びがなくなることにより第1ケーブル反力F1がなくなるように設定されている。この場合、第2ケーブル反力F2は、F2=−k2(x2+y)となる。したがって、ケーブル反力Fは、F=F1+F2=−k2(x2+y)となる。
【0020】
ここで、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであり、かつ、プレテンションによる第1および第2ケーブルの伸びx1,x2が互いに等しく、xであると仮定すると、ケーブル反力Fは、F=−k(x+y)となり、F+ΔF=−k(x+y+Δy)が成立する。このことから、この場合におけるケーブル接線剛性は、ΔF=k・Δyより、kとなる。
【0021】
以上から明らかなように、第1および第2ケーブルの剛性k1,k2が互いに等しく、kであり、かつ、プレテンションによる第1および第2ケーブルの伸びx1,x2が互いに等しく、xであるときには、中立状態からの第1および第2ケーブルの変位yとケーブル反力Fとの関係は、図17のように示される。この場合、第1部位に対する第2部位の相対変位が大きいほど、中立状態からの第1および第2ケーブルの変位yがより大きくなることから、変位yは、第1および第2部位の間の相対変位とみなすことができる。
【0022】
図17に示すように、中立状態からの第1および第2ケーブルの変位yの絶対値が|x|以下の範囲では、すなわち第1および第2部位の間の相対変位の大きさが第1または第2所定値よりも小さい範囲では、第1および第2ケーブル反力F1,F2がともに値0でないことから、ケーブル接線剛性は2kとなる。一方、変位yの絶対値が|x|よりも大きい範囲、すなわち第1および第2部位の間の相対変位の大きさが第1または第2所定値よりも大きい範囲では、第1および第2ケーブル反力F1,F2の一方がなくなることから、ケーブル接線剛性はkとなる。以上のように、ケーブル接線剛性は、第1および第2部位間の相対変位に対して、バイリニアな特性を有している。
【0023】
以上から、第1および第2所定値を適切に設定することによって、ケーブル接線剛性として、所望の特性を得ることができる。このため、例えば、第1および第2部位の間の相対変位が大きくなるのに伴ってマスダンパの反力が構造物の振動に同調して過大にならないうちに、より小さなケーブル接線剛性(=k)を得ることが可能になり、それにより、マスダンパの固有周期を構造物の固有周期と異ならせることができるので、マスダンパの反力を抑制できる。したがって、構造物、マスダンパ、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生するのを防止することができる。
【0024】
また、上記のようにケーブル接線剛性として所望の特性を得ることができるので、例えば、第1および第2部位の間の相対変位が比較的小さいときに、より大きなケーブル接線剛性(=2k)を得ることが可能になる。それにより、例えば風力により構造物が振動した場合であって、それによる第1および第2部位の間の相対変位が比較的小さいときでも、この相対変位を、第1および第2ケーブルの変形により吸収されるのを抑制しながら、マスダンパに適切に伝達することができ、ひいては、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0025】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、第1および第2所定値は、構造物の振動により第1および第2部位の間の相対変位が増大するのに伴ってマスダンパの反力が過大になる直前に、第1および第2ケーブルの反力がそれぞれなくなるように、設定されていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、構造物の振動により第1および第2部位の間の相対変位が増大するのに伴ってマスダンパの反力が過大になる直前に、第1および第2ケーブルの反力がそれぞれなくなるように、第1および第2所定値が設定されている。これにより、構造物の振動により第1および第2部位の間の相対変位が増大するのに伴ってマスダンパの反力が過大になる直前に、より小さなケーブル接線剛性が得られるので、請求項1の説明で述べた効果、すなわち、構造物、マスダンパ、第1および第2ケーブルに過大な応力が発生するのを防止できるという効果を、最適に得ることができる。同じ理由から、第1および第2部位の間の相対変位が比較的小さいときでも、より大きなケーブル接線剛性が得られるので、請求項1の説明で述べた効果、すなわち、構造物の振動を適切に抑制できるという効果を、最適に得ることができる。
【0027】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の振動抑制装置において、マスダンパが、回転マスの回転を減衰させる減衰要素をさらに有することを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、回転マスの回転慣性効果に加え、回転マスの回転を減衰させる減衰要素の減衰効果が得られるので、構造物の振動をさらに適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態による振動抑制装置を、これを適用した橋梁とともに概略的に示す図である。
【図2】図1の振動抑制装置などの拡大図である。
【図3】第1実施形態の変形例による振動抑制装置を、これを適用した橋梁とともに概略的に示す図である。
【図4】図3の振動抑制装置などの拡大図である。
【図5】本発明の第2実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図6】図5の振動抑制装置などの拡大図である。
【図7】図5の振動抑制装置などを拡大して示す平面図である。
【図8】第2実施形態の第1変形例による振動抑制装置などの拡大図である。
【図9】本発明による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに、マスダンパを建築物の基礎に接続した場合について概略的に示す図である。
【図10】本発明による振動抑制装置を、これを適用したセットバックタイプの建築物とともに概略的に示す図である。
【図11】本発明による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに、ケーブルを建築物のパイプスペース内に配置した場合について概略的に示す図である。
【図12】本発明の第3実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図13】第3実施形態の第1変形例による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図14】第3実施形態の第2変形例による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図15】本発明の第4実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図16】本発明による振動抑制装置の第1および第2ケーブルの間の関係を説明するための図である。
【図17】本発明による振動抑制装置のマスダンパの中立状態からの第1および第2ケーブルの変位とケーブル反力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す第1実施形態による振動抑制装置1は、地震などにより発生した橋梁2の一次モードの振動を抑制するためのものである。この橋梁2は、H形鋼で構成され、複数の橋脚3,3,…(2つのみ図示)に支持されており、水平に延びている。
【0031】
図1および図2に示すように、第1振動抑制装置1は、マスダンパ5と、地震などにより発生した橋梁2の一次モードの振動(変位)をマスダンパ5に伝達するための第1および第2ケーブル11,12を備えている。この第1ケーブル11は、例えば鋼線から成る一対のケーブルで構成されている。これら一対の第1ケーブル11,11は、各々の一端部が第1連結部材13に接続されることによって互いに連結されており、橋梁2の長さ方向(以下「左右方向」という)において、この第1連結部材13を中心として対称に設けられている。また、第1連結部材13は、橋梁2における、互いに隣り合う2つの橋脚3,3の間の中心の部位(以下「腹部」という)に位置しており、より具体的には、腹部の上端部に位置している。
【0032】
さらに、一対の第1ケーブル11,11のうちの一方は、他端部が、橋梁2における、互いに隣り合う2つの橋脚3,3の一方に支持される部位(以下「第1節部」という)の下部に固定されており、この他端部から第1連結部材13に向かって右方かつ上方に斜めに延びている。また、一対の第1ケーブル11のうちの他方は、他端部が、橋梁2における、他方の橋脚3に支持される部位(以下「第2節部」という)の下部に固定されており、この他端部から第1連結部材13に向かって左方かつ上方に斜めに延びている。なお、以下の説明において、一対の第1ケーブル11,11を総称するときには、その符号を1つのみ記載するものとする。
【0033】
また、第1連結部材13には、一対の長孔13a,13aが形成されており、これらの長孔13a,13aは、上下方向に延びるとともに、左右方向に並んでいる。さらに、長孔13a,13aには、橋梁2に固定されたピン2a,2aがそれぞれ嵌合しており、それにより、第1連結部材13は、橋梁2に対して、これらの長孔13a,13aの長さの分、上下方向に移動可能であり、左右方向および前後方向(図2の奥行き方向)に移動不能である。
【0034】
第2ケーブル12は、基本的には、第1ケーブル11と同様に構成されている。具体的には、第2ケーブル12は、例えば鋼線から成る一対のケーブルで構成されており、その剛性は、第1ケーブル11と同じ高さに設定されている。これら一対の第2ケーブル12,12は、各々の一端部が第2連結部材14に接続されることによって互いに連結されており、左右方向において、この第2連結部材14を中心として対称に設けられている。また、第2連結部材14は、橋梁2の腹部(橋梁2における、互いに隣り合う2つの橋脚3,3の間の中心の部位)の下端部に位置している。
【0035】
さらに、一対の第2ケーブル12,12のうちの一方は、他端部が橋梁2の第1節部(橋梁2における、互いに隣り合う2つの橋脚3の一方に支持される部位)の上部に固定されており、この他端部から第2連結部材14に向かって右方かつ下方に斜めに延びている。一対の第2ケーブル12,12のうちの他方は、他端部が橋梁2の第2節部(橋梁2における、他方の橋脚3に支持される部位)の上部に固定されており、この他端部から第2連結部材14に向かって左方かつ下方に斜めに延びている。なお、以下の説明において、一対の第2ケーブル12,12を総称するときには、その符号を1つのみ記載するものとする。また、一対の第1ケーブル11,11のうちの一方および一対の第2ケーブル12,12のうちの一方は、橋梁2の第1節部と第1および第2連結部材13,14との間において互いに交差しており、第1ケーブル11,11のうちの他方および第2ケーブル12,12のうちの他方は、橋梁2の第2節部と第1および第2連結部材13,14との間において互いに交差している。
【0036】
さらに、第2連結部材14には、第1連結部材13と同様、一対の長孔14a,14aが形成されている。これらの長孔14a,14aには、橋梁2に固定されたピン2b,2bがそれぞれ嵌合しており、それにより、第2連結部材14も、橋梁2に対して、これらの長孔14a,14aの長さの分、上下方向に移動可能であり、左右方向および前後方向(図2の奥行き方向)に移動不能である。また、第1および第2連結部材13,14は、上下方向に伸びる一対の棒状の連結部材15,15を介して互いに連結されており、それにより、第1および第2ケーブル11,12が互いに連結されている。さらに、これらの連結部材13〜15による第1および第2ケーブル11,12の連結によって、第1および第2ケーブル11,12に互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。また、橋梁2の腹部の下部には、支持部材2cが固定されている。
【0037】
マスダンパ5は、本発明の発明者が提案した特開2007−211503号公報に開示されたものと同様に構成されているので、以下、このマスダンパ5について簡単に説明する。マスダンパ5は、外筒6、ボールねじ、回転マス、および粘性体(いずれも図示せず)を有している。
【0038】
このボールねじは、ねじ軸7と、ねじ軸7に多数のボールを介して螺合するナット(いずれも図示せず)で構成されており、上記の外筒6に同心状に設けられている。このナットは、外筒6に収容されるとともに、外筒6に対して回転自在に且つ軸線方向に移動不能に支持されている。また、ねじ軸7は、その一部が外筒6の軸線方向の一端部から外方に突出しており、外筒6に対して軸線方向に所定の距離、往復移動可能である。さらに、回転マスは、比重が大きな材料、例えば鉄により筒状に形成され、上記のナットに同軸状に固定されており、ナットと一体に回転自在である。また、粘性体は、回転マスの回転を減衰させるためのものであり、シリコンオイルなどで構成され、外筒6と回転マスの間に充填されている。さらに、外筒6には、ねじ軸7と反対側の端部に、フランジ6aが一体に設けられており、ねじ軸7には、外筒6と反対側の端部に、フランジ7aが一体に設けられている。
【0039】
以上の構成のマスダンパ5では、外力によりねじ軸7が外筒6に対して軸線方向に往復移動すると、それに伴って、ナットおよび回転マスが、その軸線を中心として回転する。すなわち、ねじ軸7の往復移動が、回転マスの回転運動に変換される。この回転マスの回転慣性効果により、回転マスの見かけの質量が、実際の質量に対して増幅されることによって、回転マスの質量に比して非常に大きな回転マスの反力(回転慣性力)が発生する。また、回転マスの回転は、粘性体によって減衰させられ、粘性体の減衰効果がさらに得られる。以上の結果、回転マスの回転慣性力および粘性体の減衰力から成るマスダンパ5の反力(以下「マスダンパ反力」という)が発生する。
【0040】
また、マスダンパ5は、外筒6のフランジ6aが前述した支持部材2cに取り付けられることによって、橋梁2の腹部に接続されており、上下方向に延びている。さらに、マスダンパ5は、ねじ軸7のフランジ7aが前述した第1連結部材13に取り付けられることによって、第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。
【0041】
また、マスダンパ5では、ねじ軸7の往復移動が、ねじ軸7に螺合するナットによって回転マスの回転運動に変換されるので、その際、回転マスからねじ軸7に反力トルクが作用する。これに対し、ピン2a,2a、2b,2bおよび長孔13a,13a、14a,14aによって、ねじ軸7、第1および第2連結部材13,14は、橋梁2および外筒6に対し、左右方向および前後方向に移動することなく、また、ねじ軸7を回転させることなく、その上下方向の往復移動が案内される。したがって、上記の反力トルクによりねじ軸7が回転することも、それにより第1および第2ケーブル11,12が捻れることも、防止できる。なお、これらの長孔13a,13a、14a,14aの上下方向の長さは、一次モードの振動によって発生すると想定される、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位の最大値よりも大きい。
【0042】
さらに、前述した第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル11の反力(以下「第1ケーブル反力」という)は、第1連結部材13を介してマスダンパ5のねじ軸7に伝達され、ねじ軸7を下方に変位させるように作用する。一方、前述した第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル12の反力(以下「第2ケーブル反力」という)は、第2連結部材14、連結部材15,15、および第1連結部材13を介してねじ軸7に伝達され、ねじ軸7を上方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ5に対して互いに反対方向に作用する。この場合、第1および第2ケーブル反力は、互いに作用し合うことから、両反力の絶対値は互いに等しい。
【0043】
以上の構成の振動抑制装置1および橋梁2では、図1に実線で示すように、橋梁2が振動していないときには、第1および第2ケーブル反力によって、マスダンパ5は、伸縮していない中立状態に保持される。この中立状態から、図1に一点鎖線で示すように、橋梁2が一次モードの振動により上方に撓むと、それに伴い、マスダンパ5の外筒6が、橋梁2の腹部とともに、橋梁2の第1および第2節部に対して上方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル11,12の一端部がマスダンパ5のねじ軸7に、両ケーブル11,12の他端部が橋梁2の第1および第2節部に、それぞれ接続されていることと、橋梁2が振動していないときに第1および第2ケーブル反力によりマスダンパ5が中立状態に保持されることから明らかなように、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ5に伝達される。これにより、図2に示す中立状態からねじ軸7が外筒6にさらに進入し(マスダンパ5が圧縮)、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ反力が発生する。
【0044】
この場合、マスダンパ反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、橋梁2の腹部、第1および第2節部に伝達され、第1および第2節部に対して腹部を下方に変位させるように作用する。これにより、第1および第2節部に対する腹部の上方への変位が抑制され、橋梁2の上方への撓みが抑制される。また、マスダンパ反力は、第1連結部材13、第2連結部材14および連結部材15を上方に変位させるように作用し、それにより第1ケーブル11の伸びが増大するとともに、第2ケーブル12の伸びが減少する。さらに、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位が大きいほど、マスダンパ5の圧縮量が大きくなることによって、マスダンパ反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル11の伸びの増加分および第2ケーブル12の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0045】
この第2ケーブル12の伸びの減少分が前述したプレテンションによる第2ケーブル12の伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル12の伸びが存在し、第2ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ5への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ5への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ反力の伝達が、第1ケーブル11のみを介して行われる。
【0046】
また、図1に二点鎖線で示すように、橋梁2が一次モードの振動により下方に撓むと、それに伴い、マスダンパ5の外筒6が、橋梁2の腹部とともに、橋梁2の第1および第2節部に対して下方に変位する。この場合にも、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ5に伝達される。これにより、図2に示す中立状態からねじ軸7が外筒6に対してさらに突出し(マスダンパ5が伸張)、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ反力が発生する。
【0047】
この場合、マスダンパ反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、橋梁2の腹部、第1および第2節部に伝達され、第1および第2節部に対して腹部を上方に変位させるように作用する。これにより、第1および第2節部に対する腹部の下方への変位が抑制され、橋梁2の下方への撓みが抑制される。また、マスダンパ反力は、第1連結部材13、第2連結部材14および連結部材15を下方に変位させるように作用し、それにより、第2ケーブル12の伸びが増大するとともに、第1ケーブル11の伸びが減少する。さらに、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位が大きいほど、マスダンパ5の伸張量が大きくなることによって、マスダンパ反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル12の伸びの増加分および第1ケーブル11の伸びの減少分は、大きくなる。
【0048】
この第1ケーブル11の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル11の伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル11の伸びが存在し、第1ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ5への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ5への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ反力の伝達が、第2ケーブル12のみを介して行われる。
【0049】
また、第1ケーブル11のプレテンションは、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるように設定されている。さらに、第2ケーブル12のプレテンションは、第1および第2節部に対する腹部の上方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル12の伸びが前述したようになくなることにより第2ケーブル反力がなくなるように設定されている。この所定値は、第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル反力がなくなるように、設定されている。
【0050】
さらに、マスダンパ5の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が橋梁2の一次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置1によって、一次モードの振動により繰り返される橋梁2の上下方向の撓みが抑制され、ひいては、橋梁2の振動が抑制される。
【0051】
また、第1実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との関係は、次のとおりである。すなわち、第1実施形態における橋梁2が、本発明における構造物に相当し、第1実施形態における橋梁2の第1および第2節部が、本発明における第1部位に相当するとともに、第1実施形態における橋梁2の腹部が、本発明における第2部位に相当する。また、第1実施形態における粘性体が、本発明における減衰要素に相当する。
【0052】
以上のように、第1実施形態によれば、橋梁2の一次モードの振動に伴って発生した腹部と第1および第2節部の間の相対変位が、第1および第2ケーブル11,12を介して、回転マスおよび粘性体を有するマスダンパ5に伝達される。伝達された相対変位は、マスダンパ5の回転マスの回転運動に変換され、その結果、回転マスが回転する。また、回転マスの回転は、粘性体によって減衰させられる。この回転マスの回転慣性効果により、回転マスの見かけの質量が実際の質量に対して増幅されることと、回転マスの回転を減衰させる粘性体の減衰効果とによって、回転マスの質量に比して非常に大きなマスダンパ反力が発生する。発生したマスダンパ反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して橋梁2の腹部と第1および第2節部に伝達され、それにより、腹部と第1および第2節部の間の相対変位が抑制され、ひいては、橋梁2の振動が抑制される。
【0053】
また、前述した橋梁2の一次モードの振動に対する振動抑制装置1の動作から明らかなように、第1および第2ケーブル反力を合わせた合力であるケーブル反力(F)と、橋梁2の一次モードの振動に伴って発生した第1および第2ケーブル11,12全体の変位(y)との関係は、前述した図17と同様に示される。さらに、第1および第2ケーブル11,12の剛性をそれぞれ「k」とすると、両ケーブル11,12全体の接線剛性(以下「ケーブル接線剛性」という)は、第1および第2ケーブル反力がともに作用しているときには「2k」となり、第1および第2ケーブル11,12の一方の伸びがなくなり、当該一方の反力がなくなるときには「k」となる。
【0054】
この場合、第1ケーブル11のプレテンションが、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるように設定されている。また、第2ケーブル12のプレテンションが、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるように設定されている。さらに、この所定値が、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル反力がなくなるように、設定されている。
【0055】
以上により、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が橋梁2の一次モードの振動に同調して過大になる直前に、より小さなケーブル接線剛性(=k)が得られるので、マスダンパ5の固有周期を橋梁2の固有周期と異ならせることができ、それによりマスダンパ反力を抑制できる。したがって、橋梁2、マスダンパ5、第1および第2ケーブル11,12に過大な応力が発生するのを防止することができる。それに加え、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上下方向の変位が比較的小さいときに、より大きなケーブル接線剛性(=2k)が得られる。したがって、例えば風力により橋梁2が一次モードで振動した場合であって、第1および第2節部に対する腹部の変位が比較的小さいときでも、この変位を、第1および第2ケーブル11,12の変形により吸収されるのを抑制しながら、マスダンパ5に適切に伝達することができ、ひいては、橋梁2の振動を適切に抑制することができる。
【0056】
また、図3および図4は、第1実施形態の変形例を示しており、これらの図3および図4では、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。また、この変形例では、マスダンパ21は、前述したマスダンパ5と同様、外筒22、ボールねじ、回転マス、および粘性体(いずれも図示せず)を有しており、マスダンパ5と比較して、ボールねじのねじ軸23が外筒22の軸線方向の両端部から外方に突出している点が、主に異なっている。このマスダンパ21は、本発明の発明者が提案した特許第3830132号に開示されたものと同様に構成されているので、その構成についての説明を省略する。
【0057】
また、マスダンパ21では、マスダンパ5と同様、外力によりねじ軸23が外筒22に対して軸線方向に往復移動すると、それに伴って、ナットおよび回転マスが、その軸線を中心として回転する。すなわち、ねじ軸23の往復移動が、回転マスの回転運動に変換される。この回転マスの回転慣性効果によって、回転マスの質量に比して非常に大きな回転マスの反力(回転慣性力)が発生する。また、回転マスの回転は、粘性体によって減衰させられ、粘性体の減衰効果がさらに得られる。以上の結果、回転マスの回転慣性力および粘性体の減衰力から成るマスダンパ21の反力が発生する。さらに、ねじ軸23の両端部には、フランジ23a,23aが一体に設けられている。
【0058】
また、マスダンパ21は、外筒22が、橋梁2に固定された支持部材2dに取り付けられることによって、橋梁2の腹部に接続されており、上下方向に延びている。さらに、マスダンパ21は、ねじ軸23のフランジ23aおよび23aが前述した第1および第2連結部材13,14にそれぞれ取り付けられることによって、第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。
【0059】
また、マスダンパ21では、マスダンパ5と同様、ねじ軸23の往復移動が、ねじ軸23に螺合するナットによって回転マスの回転運動に変換されるので、その際、回転マスからねじ軸23に反力トルクが作用する。これに対し、マスダンパ21には、一対のガイド(図示せず)が外筒22の両端部に設けられており、これらのガイドによって、ねじ軸23は、外筒22に対して回転することがなく、その往復移動が案内される。したがって、上記の反力トルクによりねじ軸23が回転することも、それにより第1および第2ケーブル11,12が捻れることも、防止できる。
【0060】
また、第1および第2ケーブル11,12は、第1実施形態と同様、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。この第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、第1連結部材13を介してマスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を下方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を上方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合、第1および第2ケーブル反力は、互いに作用し合うことから、両反力の絶対値は互いに等しい。
【0061】
以上の構成の振動抑制装置1および橋梁2では、図3に実線で示すように、橋梁2が振動していないときには、第1および第2ケーブル反力によって、マスダンパ21は、ねじ軸23が外筒22に対して上下方向に移動していない中立状態に保持される。この中立状態から、図3に一点鎖線で示すように、橋梁2が一次モードの振動により上方に撓むと、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、橋梁2の腹部とともに、橋梁2の第1および第2節部に対して上方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル11,12の一端部がマスダンパ21のねじ軸23に、両ケーブル11,12の他端部が橋梁2の第1および第2節部に、それぞれ接続されていることと、橋梁2が振動していないときに第1および第2ケーブル反力によりマスダンパ21が中立状態に保持されることから明らかなように、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ21に伝達される。これにより、図4に示す中立状態からねじ軸23が外筒22に対して下方に移動し、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ21の反力が発生する。
【0062】
この場合、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、橋梁2の腹部、第1および第2節部に伝達され、第1および第2節部に対して腹部を下方に変位させるように作用する。これにより、第1実施形態の場合と同様、第1および第2節部に対する腹部の上方への変位が抑制され、橋梁2の上方への撓みが抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2連結部材13,14を上方に変位させるように作用し、それにより第1ケーブル11の伸びが増大するとともに、第2ケーブル12の伸びが減少する。さらに、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の上方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル11の伸びの増加分および第2ケーブル12の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0063】
この第2ケーブル12の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第2ケーブル12の伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル12の伸びが存在し、第2ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ21への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1ケーブル11のみを介して行われる。
【0064】
また、図3に二点鎖線で示すように、橋梁2が一次モードの振動により下方に撓むと、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、橋梁2の腹部とともに、橋梁2の第1および第2節部に対して下方に変位する。この場合、振動抑制装置1において、橋梁2が上方に撓んだ場合に行われる上述した動作と逆の動作が行われることにより、第1および第2節部に対する腹部の下方への変位が抑制され、橋梁2の下方への撓みが抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2連結部材13,14を下方に変位させるように作用し、それにより、第2ケーブル12の伸びが増大するとともに、第1ケーブル11の伸びが減少する。さらに、橋梁2の第1および第2節部に対する腹部の下方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル12の伸びの増加分および第1ケーブル11の伸びの減少分は、大きくなる。
【0065】
この第1ケーブル11の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル11の伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル11の伸びが存在し、第1ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ21への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への橋梁2の変位の伝達と橋梁2へのマスダンパ21の反力の伝達が、第2ケーブル12のみを介して行われる。
【0066】
また、この変形例では、第1および第2ケーブル11,12のプレテンションは、第1実施形態と同様に設定されている。さらに、マスダンパ21の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が橋梁2の一次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。
【0067】
この変形例によれば、第1実施形態と同様、一次モードの振動により繰り返される橋梁2の上下方向の撓みが抑制され、ひいては、橋梁2の振動が抑制される。また、これまでに述べた変形例の構成および動作から明らかなように、前述した第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0068】
なお、第1実施形態(変形例を含む)については、例えば次の3つのバリエーションが存在する。これらのバリエーションの2つまたはすべては、適宜、組み合せて適用可能である。すなわち、第1実施形態では、第1および第2ケーブル11,12にねじ軸7、23を、橋梁2に外筒6、22を、それぞれ接続しているが、これとは逆に、第1および第2ケーブル11,12に外筒6、22を、橋梁2にねじ軸7、23を、それぞれ接続してもよい。また、第1実施形態では、本発明における第1部位は、橋梁2の第1および第2節部であり、本発明における第2部位は、橋梁2の腹部であるが、橋梁2の振動を抑制できるのであれば、他の適当な部位でもよいことは、もちろんである。さらに、第1実施形態では、振動抑制装置1を、橋梁2の一次モードの振動に対応するように構成しているが、二次以上の振動モードの振動に対応するように構成してもよい。この場合、そのように構成された、互いに異なる振動モードに対応する複数の振動抑制装置を、橋梁2に適用してもよい。
【0069】
次に、図5〜図7を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置31について説明する。この振動抑制装置31は、地震などにより発生した建築物32の一次モードの振動を抑制するためのものであり、ケーブル33およびマスダンパ5を備えている。図5〜図7において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0070】
ケーブル33は、前後方向(図5および図7の奥行き方向、図6の上下方向)に互いに間隔を存した状態で設けられた一対のケーブルから成り、例えば鋼線で構成されている。また、ケーブル33は、一端部が建築物32を支持する基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ右方に斜めに延び、建築物32の上端の左端部および右端部にそれぞれ設けられた滑車34および34に巻き掛けられ、両滑車34,34の間に水平に延びており、さらに右側の滑車34から下方かつ右方に斜めに延びるとともに、他端部が基礎Bに固定されている。左右の滑車34,34はそれぞれ、前後方向に並ぶ一対の滑車で構成されている。さらに、ケーブル33には、所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより伸びがあらかじめ付与されている。
【0071】
また、ケーブル33の長さ方向のほぼ中央部には、連結部材35が固定されている。さらに、建築物32の上端部には、ガイド36が設けられており、このガイド36は、左右方向に延びるレール36aと、このレール36aに多数のボール(図示せず)を介して係合するスライダ36bを有している。このスライダ36bは、レール36a上を左右方向に移動自在で、かつ前後方向および上下方向に移動不能である。さらに、レール36は、建築物32の上端部の左部に取り付けられており、スライダ36bには、連結部材35が取り付けられている。また、建築物32の上端部の右部には、支持部材32aが取り付けられている。
【0072】
さらに、マスダンパ5は、外筒6のフランジ6aが上記の支持部材32aに取り付けられることによって、建築物32の上端部に接続されており、左右方向に延びている。また、マスダンパ5は、ねじ軸7のフランジ7aが連結部材35に取り付けられることによって、ケーブル33に接続されている。さらに、連結部材35およびねじ軸7は、ガイド36によって、建築物32および外筒6に対し、前後方向および上下方向に移動することなく、また、ねじ軸7を回転させることなく、左右方向の往復移動が案内される。これにより、第1実施形態の場合と同様、回転マスの回転に伴って発生した反力トルクによりねじ軸7が回転することも、それにより第1および第2ケーブル11,12が捻れることも、防止できる。なお、レール36aの長さ、すなわちスライダ36bが移動可能な距離は、一次モードの振動によって発生すると想定される、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位の最大値よりも大きい。
【0073】
ここで、ケーブル33における、連結部材35よりも左側の部分を「第1ケーブル33a」とし、右側の部分を「第2ケーブル33b」とする。前述したケーブル33の伸びによる第1ケーブル33aの反力は、連結部材35を介してマスダンパ5のねじ軸7に伝達され、ねじ軸7を左方に変位させるように作用する。一方、前述したケーブル33の伸びによる第2ケーブル33bの反力は、連結部材35を介してねじ軸7に伝達され、ねじ軸7を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル33a,33bの反力は、マスダンパ5に対して互いに反対方向に作用する。また、当然のことながら、この場合における第1および第2ケーブル33a,33bの反力の絶対値は、互いに等しい。
【0074】
以上の構成の振動抑制装置31および建築物32では、図5に実線で示すように、建築物32が振動していないときには、第1および第2ケーブル33a,33bの反力によって、マスダンパ5は、伸縮していない中立状態に保持される。この中立状態から、図5に一点鎖線で示すように、建築物32が一次モードの振動により右方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ5の外筒6が、建築物32の上端部とともに、基礎Bに対して右方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル33a,33bの一端部がマスダンパ5のねじ軸7に接続されていることと、両ケーブル33a,33aの他端部が基礎Bに接続されていること、建築物32が振動していないときに第1および第2ケーブル33a,33bの反力によりマスダンパ5が中立状態に保持されることから明らかなように、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル33a,33bを介してマスダンパ5に伝達される。これにより、図7に示す中立状態からねじ軸7が外筒6に対してさらに突出し(マスダンパ5が伸張)、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ反力が発生する。
【0075】
この場合、マスダンパ反力は、第1および第2ケーブル33a,33bを介して、建築物32の上端部および基礎Bに伝達され、基礎Bに対して建築物32の上端部を左方に変位させるように作用する。これにより、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位が抑制され、建築物32の右方への揺動が抑制される。また、マスダンパ反力は、連結部材35を右方に変位させるように作用し、それにより第1ケーブル33aの伸びが増大するとともに、第2ケーブル33bの伸びが減少する。さらに、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位が大きいほど、マスダンパ5の伸張量が大きくなることによって、マスダンパ反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル33aの伸びの増加分および第2ケーブル33bの伸びの減少分は、より大きくなる。
【0076】
この第2ケーブル33bの伸びの減少分が前述したプレテンションによる第2ケーブル33bの伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル33bの伸びが存在し、第2ケーブル33bの反力が存在するときには、マスダンパ5への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ反力の伝達が、第1および第2ケーブル33a,33bの双方を介して行われる。一方、第2ケーブル33bの伸びがなくなることにより第2ケーブル33bの反力がなくなるときには、マスダンパ5への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ反力の伝達が、第1ケーブル33aのみを介して行われる。
【0077】
また、図5に二点鎖線で示すように、建築物32が一次モードの振動により左方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ5の外筒6が、建築物32の上端部とともに、基礎Bに対して左方に変位する。この場合にも、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル33a,33bを介してマスダンパ5に伝達される。これにより、図7に示す中立状態からねじ軸7が外筒6にさらに進入し(マスダンパ5が圧縮)、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ反力が発生する。
【0078】
この場合、マスダンパ反力は、第1および第2ケーブル33a,33bを介して、建築物32の上端部および基礎Bに伝達され、基礎Bに対して建築物32の上端部を右方に変位させるように作用する。これにより、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位が抑制され、建築物32の左方への揺動が抑制される。また、マスダンパ反力は、連結部材35を左方に変位させるように作用し、それにより、第2ケーブル33bの伸びが増大するとともに、第1ケーブル33aの伸びが減少する。さらに、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位が大きいほど、マスダンパ5の圧縮量が大きくなることによって、マスダンパ反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル33bの伸びの増加分および第1ケーブル33aの伸びの減少分は、大きくなる。
【0079】
この第1ケーブル33aの伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル33aの伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル33aの伸びが存在し、第1ケーブル33aの反力が存在するときには、マスダンパ5への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ反力の伝達が、第1および第2ケーブル33a,33bの双方を介して行われる。一方、第1ケーブル33aの伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ5への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ反力の伝達が、第2ケーブル33bのみを介して行われる。
【0080】
また、第1ケーブル33aを含むケーブル33のプレテンションは、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル33aの伸びがなくなることにより第1ケーブル33aの反力がなくなるように設定されている。さらに、第2ケーブル33bを含むケーブル33のプレテンションは、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、前述したように第2ケーブル33bの伸びがなくなることにより第2ケーブル33bの反力がなくなるように設定されている。この所定値は、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル33a,33bの反力がなくなるように、設定されている。
【0081】
さらに、マスダンパ5の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、ケーブル33の剛性は、回転マス、粘性体、ケーブル33から成る付加振動系の固有振動数が建築物32の一次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置31によって、一次モードの振動により繰り返される建築物32の左右方向の揺動が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0082】
また、第2実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との関係は、次のとおりである。すなわち、第2実施形態における建築物32が、本発明における構造物に相当し、第2実施形態における建築物32および基礎Bが、本発明における系に相当する。また、第2実施形態における建築物32の上端部および基礎Bが、本発明における第1および第2部位にそれぞれ相当するとともに、第2実施形態における粘性体が、本発明における減衰要素に相当する。
【0083】
以上のように、第2実施形態によれば、建築物32の一次モードの振動に伴って発生した建築物32の上端部および基礎Bの間の相対変位が、第1および第2ケーブル33a,33bを介して、回転マスおよび粘性体を有するマスダンパ5に伝達される。伝達された相対変位は、マスダンパ5の回転マスの回転運動に変換され、回転マスが回転することと、回転マスの回転が粘性体によって減衰させられることによって、回転マスの質量に比して非常に大きなマスダンパ反力が発生する。発生したマスダンパ反力は、第1および第2ケーブル33a,33bを介して建築物32の上端部と基礎Bに伝達され、それにより、建築物32の上端部および基礎Bの間の相対変位が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0084】
また、前述した建築物32の一次モードの振動に対する振動抑制装置31の動作から明らかなように、第1および第2ケーブル33a,33bの反力を合わせた合力であるケーブル反力(F)と、建築物32の一次モードの振動に伴って発生した第1および第2ケーブル33a,33b全体の変位(y)との関係は、前述した図17と同様に示される。さらに、第1および第2ケーブル33a,33bの剛性をそれぞれ「k」とすると、両ケーブル33a,33b全体の接線剛性(以下「ケーブル接線剛性」という)は、第1および第2ケーブル33a,33bの反力がともに作用しているときには「2k」となり、両ケーブル33a,33bの一方の伸びがなくなり、当該一方の反力がなくなるときには「k」となる。
【0085】
この場合、第1ケーブル33aを含むケーブル33のプレテンションが、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル33aの伸びがなくなることにより第1ケーブル33aの反力がなくなるように設定されている。また、第2ケーブル33bを含むケーブル33のプレテンションが、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル33bの伸びがなくなることにより第2ケーブル33bの反力がなくなるように設定されている。さらに、この所定値が、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル33a,33bの反力がなくなるように、設定されている。
【0086】
以上により、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ反力が建築物32の一次モードの振動に同調して過大になる直前に、より小さなケーブル接線剛性(=k)が得られるので、マスダンパ5の固有周期を建築物32の固有周期と異ならせることができ、それによりマスダンパ反力を抑制できる。したがって、建築物32、マスダンパ5、第1および第2ケーブル33a,33bから成るケーブル33に過大な応力が発生するのを防止することができる。それに加え、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が比較的小さいときに、より大きなケーブル接線剛性(=2k)が得られる。したがって、例えば風力により建築物32が一次モードで振動した場合であって、基礎Bに対する建築物32の上端部の変位が比較的小さいときでも、この変位を、ケーブル33の変形により吸収されるのを抑制しながら、マスダンパ5に適切に伝達することができ、ひいては、建築物32の振動を適切に抑制することができる。なお、以上の効果は、図5に一点鎖線および二点鎖線で示すように建築物32が一次モードの振動により曲げ変形するような場合だけでなく、せん断変形するような場合にも、同様に得ることができる。
【0087】
また、図8は、第2実施形態の変形例を示しており、同図において、第1および第2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。この変形例は、第2実施形態と比較して、マスダンパ5およびケーブル33に代えて、第1実施形態の変形例で説明したマスダンパ21、第1および第2ケーブル11,12をそれぞれ用いる点が、主に異なっている。
【0088】
図8に示すように、マスダンパ21は、建築物32の上端部の左右方向の中央に、支持部材32bを介して取り付けられており、左右方向に延びている。また、第1ケーブル11は、一端部が基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ右方に斜めに延び、建築物32の上端部の左端部に設けられた滑車34に巻き掛けられ、この滑車34から右方に水平に延びるとともに、他端部が、マスダンパ21のねじ軸23の左端部に設けられたフランジ23aに取り付けられている。第2ケーブル12は、一端部が基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ左方に斜めに延び、建築物32の上端部の右端部に設けられた滑車34に巻き掛けられ、この滑車34から左方に水平に延びるとともに、他端部が、マスダンパ21のねじ軸23の右端部に設けられたフランジ23aに取り付けられている。さらに、第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。
【0089】
この第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。また、この場合、第1および第2ケーブル反力は、互いに作用し合うことから、両反力の絶対値は互いに等しい。
【0090】
以上の構成の振動抑制装置31および建築物32では、建築物32が振動していないときには、第1および第2ケーブル反力によって、マスダンパ21は、伸縮していない中立状態に保持される。この中立状態から、図8に一点鎖線で示すように、建築物32が一次モードの振動により右方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、建築物32の上端部とともに、基礎Bに対して右方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル11,12の一端部が基礎Bに接続されていることと、両ケーブル11,12の他端部がマスダンパ21のねじ軸23に接続されていること、建築物32が振動していないときに第1および第2ケーブル反力によりマスダンパ21が中立状態に保持されることから明らかなように、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ21に伝達される。これにより、中立状態からねじ軸23が外筒22に対して左方に移動し、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ21の反力が発生する。
【0091】
この場合、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、建築物32の上端部および基礎Bに伝達され、基礎に対して建築物32の上端部を左方に変位させるように作用する。これにより、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位が抑制され、建築物32の右方への揺動が抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を右方に引っ張るように作用し、それにより、第1ケーブル11の伸びが増大するとともに、第2ケーブル12の伸びが減少する。さらに、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル11の伸びの増加分および第2ケーブル12の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0092】
この第2ケーブル12の伸びの減少分が前述したプレテンションによる第2ケーブル12の伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル12の伸びが存在し、第2ケーブル12の反力が存在するときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1ケーブル11のみを介して行われる。
【0093】
また、中立状態から、図8に二点鎖線で示すように、建築物32が一次モードの振動により左方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、建築物32の上端部とともに、基礎Bに対して左方に変位する。この場合、振動抑制装置31において、建築物32が右方に揺動した場合に行われる上述した動作と逆の動作が行われることによって、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位が抑制され、建築物32の左方への揺動が抑制される。また、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達によって発生したマスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を左方に引っ張るように作用し、それにより、第2ケーブル12の伸びが増大するとともに、第1ケーブル11の伸びが減少する。さらに、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル12の伸びの増加分および第1ケーブル11の伸びの減少分は、大きくなる。
【0094】
この第1ケーブル11の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル11の伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル11の伸びが存在し、第1ケーブル11の反力が存在するときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第2ケーブル12のみを介して行われる。
【0095】
また、第1ケーブル11のプレテンションは、基礎Bに対する建築物32の上端部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル11の反力がなくなるように設定されている。さらに、第2ケーブル12のプレテンションは、基礎Bに対する建築物32の上端部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、前述したように第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル12の反力がなくなるように設定されている。この所定値は、基礎Bに対する建築物32の上端部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル11,12の反力がなくなるように、設定されている。
【0096】
さらに、マスダンパ21の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が建築物32の一次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置31によって、一次モードの振動により繰り返される建築物32の左右方向の揺動が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0097】
以上の構成および動作から明らかなように、この変形例によれば、前述した第2実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0098】
なお、第2実施形態については、上述した変形例以外に、例えば次のバリエーション(a)〜(g)が存在する。これらのバリエーション(a)〜(g)および変形例は、適宜、組み合せて適用可能である。
(a)第2実施形態では、マスダンパ5の外筒6を建築物32に、ケーブル33の両端部を基礎Bに、それぞれ接続しているが、これとは逆に、外筒6を基礎Bに、ケーブル33の両端部を建築物32に、それぞれ接続してもよい。図9は、そのようにマスダンパ5およびケーブル33を接続した場合における振動抑制装置および建築物32を示している。
【0099】
図9に示すように、ケーブル33は、一端部が建築物32の上端部の左端部に固定され、この一端部から下方かつ右方に斜めに延び、建築物32の下端部に設けられた左右一対の滑車37,37に巻き掛けられ、両滑車37,37の間に水平に延びており、さらに右側の滑車37から上方かつ右方に斜めに延びるとともに、他端部が建築物32の上端部の右端部に固定されている。また、マスダンパ5のねじ軸7は、ケーブル33の長さ方向のほぼ中央部に、連結部材35を介して接続されており、連結部材35は、ガイド36を介して基礎Bに支持されている。さらに、マスダンパ5の外筒6は、支持部材38を介して基礎Bに取り付けられている。この場合にも、第2実施形態による効果を同様に得ることができる。また、図9に示すように、建築物32からケーブル33を左右方向にはみ出させることがない。
【0100】
この場合、マスダンパ5の外筒6を、基礎Bではなく、建築物32の下端部に取り付けてもよい。またこの場合、外筒6およびねじ軸7を、基礎Bおよびケーブル33ではなく、これとは逆に、ケーブル33および基礎Bにそれぞれ接続してもよい。さらにこの場合、マスダンパ5を、建築物32が揺動する左右方向に延びるように配置せずに、他の適当な方向に延びるように配置するとともに、ケーブル33を、滑車などを用いて案内し、そのように配置されたマスダンパ5に接続してもよい。
【0101】
(b)第2実施形態は、前述した図5から明らかなように、平断面が一定の建築物32に振動抑制装置31を適用した例であるが、図10に示すように、本発明による振動抑制装置は、上層部41aの平断面が下層部41bの平断面よりも小さい、いわゆるセットバックタイプの建築物41にも適用可能である。
【0102】
この場合、図10に示すように、ケーブル33の一端部および他端部を、基礎Bではなく、下層部41bの上端部の左端部および右端部にそれぞれ固定してもよい。あるいは、下層部41bの下端部の左端部および右端部に、ケーブル33の一端部および他端部をそれぞれ固定してもよい。このようにセットバックタイプの建築物41に振動抑制装置を適用した場合、建築物41全体からケーブル33を左右方向にはみ出させることがない。
【0103】
(c)第2実施形態では、ケーブル33を建築物32に対して斜めに延びるように設けるために、ケーブル33の左端部および右端部を、基礎Bにおける、建築物31よりも左方の部位および右方の部位に、それぞれ接続しているが、基礎Bに次のように接続してもよい。すなわち、後述する第2実施形態の第2変形例(図14)と同様、基礎Bにおける、建築物32の左端部および右端部に対応する部位に、ケーブル33の左端部および右端部をそれぞれ固定する。また、左右の滑車34,34を、建築物32の上端部の左端部および右端部ではなく、上端部の左部および右部にそれぞれ設けるとともに、建築物32に対して前後方向に突出させるとともに、これらの滑車34,34に、ケーブル33を巻き掛ける。あるいは、基礎Bにおける、建築物32の右端部および左端部に対応する部位に、ケーブル33の左端部および右端部をそれぞれ接続し、それによりケーブル33のうちの第1および第2ケーブル33a,33bを互いに交差させることによって、ケーブル33を建築物32に対して斜めに延びるように設けてもよい。これらのいずれの場合にも、建築物32からケーブル33を左右方向にはみ出させることがない。
【0104】
(d)第2実施形態では、ケーブル33を、そのうちの左右の滑車34,34よりも外側部分が建築物32に対して斜めに延びるように設けているが、建築物32に沿って上下方向に直線状に延びるように設けてもよい。この場合、ケーブル33における、上下方向に直線状に延びる部分を、建築物32の外壁の内側に隠すように配置してもよい。
【0105】
ただし、このバリエーション(d)を適用した場合、建築物32が、一次モードの振動によって曲げ変形(図5参照)せずに、せん断変形した場合には、ケーブル33の長さ方向の中心が、建築物32に対して左右方向に移動せず、それにより、建築物32の変位をケーブル33を介してマスダンパ5に適切に伝達できない結果、建築物32の振動を適切に抑制できないおそれがある。このため、建築物32の各階にKタイプまたはブレースタイプのダンパを取り付け、これらのダンパによって、建築物32のせん断変形を抑制し、その振動を抑制するのが好ましい。
【0106】
(e)第2実施形態では、図5から明らかなように、ケーブル33を、建築物32の左右の両外側に配置しているが、建築物32の内側に配置してもよい。図11は、そのようにケーブル33を配置した場合における振動抑制装置および建築物32を示している。この場合、図11に示すように、建築物32の内側には、左右一対のパイプスペース32c,32cが上下方向に貫通するように形成されている。ケーブル33は、これらのパイプスペース32c,32c内を通って、上下方向に延びており、前述した滑車34,34に巻き掛けられるとともに、マスダンパ5に接続されている。また、これらのパイプスペース32c,32cには、複数の滑車39が設けられており、ケーブル33が、構造物32の一次モードの振動に伴って伸縮したときに、これらの滑車39によって支障なく案内される。
【0107】
(f)第2実施形態では、ケーブル33の両端部を、基礎Bに固定しているが、建築物32の下端部に固定してもよい。建築物32の一次モードの振動中、基礎Bに対する建築物32の下端部の変位はほぼ値0になり、建築物32の下端部は振動の節に相当する部位であることから、この場合にも、第2実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
【0108】
(g)第2実施形態では、マスダンパ5の外筒6およびねじ軸7を、建築物32の上端部およびケーブル33にそれぞれ接続しているが、これとは逆に、ケーブル33および建築物32の上端部にそれぞれ接続してもよい。
【0109】
次に、図12を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置51について説明する。この振動抑制装置51は、地震などにより発生した建築物32の二次モードの振動を抑制するためのものであり、前述したマスダンパ21と、第1連結部材13を介して互いに連結された一対の第1ケーブル11,11と、第2連結部材14を介して互いに連結された一対の第2ケーブル12,12を備えている。図12において、第1および2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1および第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0110】
第1連結部材13は、建築物32の上下方向の中央部の右端部に位置している。さらに、第1連結部材13の一対の長孔13a,13aは、左右方向に延びるとともに、上下方向に並んでいる。長孔13a,13aには、建築物32に固定されたピン32d,32dがそれぞれ嵌合している。これにより、第1連結部材13は、建築物32に対して、これらの長孔13a,13aの長さの分、左右方向に移動可能であり、上下方向および前後方向(図12の奥行き方向)に移動不能である。
【0111】
また、一対の第1ケーブル11,11のうちの一方は、他端部が建築物32の上端部の左端部に固定されており、この他端部から第1連結部材13に向かって右方かつ下方に斜めに延びている。一対の第1ケーブル11のうちの他方は、他端部が基礎Bに固定されるとともに建築物32の下端部の左端部に位置しており、この他端部から第1連結部材13に向かって右方かつ上方に斜めに延びている。
【0112】
さらに、第2連結部材14は、建築物32の上下方向の中央部の左端部に位置している。また、第2連結部材14の一対の長孔14a,14aは、左右方向に延びるとともに、上下方向に並んでいる。長孔14a,14aには、建築物32に固定されたピン32e,32eがそれぞれ嵌合している。これにより、第2連結部材14は、建築物32に対して、これらの長孔14a,14aの長さの分、左右方向に移動可能であり、上下方向および前後方向に移動不能である。なお、これらの長孔13a,13a、14a,14aの左右方向の長さは、二次モードの振動によって発生すると想定される、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の上下方向の中央部の左右方向の変位の最大値よりも大きい。
【0113】
また、一対の第2ケーブル12,12のうちの一方は、他端部が建築物32の上端部の右端部に固定されており、この他端部から第2連結部材14に向かって左方かつ下方に斜めに延びている。一対の第2ケーブル12,12のうちの他方は、他端部が基礎Bに固定されるとともに建築物32の下端部の右端部に位置しており、この他端部から第2連結部材14に向かって左方かつ上方に斜めに延びている。さらに、一対の第1ケーブル11,11のうちの一方および一対の第2ケーブル12,12のうちの一方は、建築物32の上端部と第1および第2連結部材13,14の間において互いに交差しており、第1ケーブル11,11のうちの他方および第2ケーブル12,12のうちの他方は、建築物32の下端部と第1および第2連結部材13,14の間において互いに交差している。
【0114】
マスダンパ21は、外筒22が、支持部材32fを介して建築物32に取り付けられることによって、建築物32の上下方向および左右方向の中央部に接続されており、左右方向に延びている。また、マスダンパ21は、ねじ軸23の右端部および左端部のフランジ23a,23aが第1および第2連結部材13,14にそれぞれ取り付けられることによって、第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。さらに、第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。
【0115】
この第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、第1連結部材13を介してマスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合、第1および第2ケーブル反力は、互いに作用し合うことから、両反力の絶対値は互いに等しい。
【0116】
以上の構成の振動抑制装置51および建築物32では、図12に実線で示すように、建築物32が振動していないときには、第1および第2ケーブル反力によって、マスダンパ21は、ねじ軸23が外筒22に対して左右方向に移動していない中立状態に保持される。この中立状態から、図12に一点鎖線で示すように、建築物32が二次モードの振動により右方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、建築物32の上下方向の中央部とともに、建築物32の上端部および基礎Bに対して右方に変位する。前述したように、第1および第2ケーブル11,12の一端部がマスダンパ21のねじ軸23に接続されるとともに、両ケーブル11,12の他端部が建築物32の上端部および基礎Bに接続されていることと、建築物32が振動していないときに第1および第2ケーブル反力によりマスダンパ21が中立状態に保持されることから明らかなように、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ21に伝達される。これにより、図12に示す中立状態からねじ軸23が外筒22に対して左方に移動し、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ21の反力が発生する。
【0117】
この場合、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、建築物32の中央部、上端部および基礎Bに伝達され、上端部および基礎Bに対して中央部を左方に変位させるように作用する。これにより、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位が抑制され、建築物32の右方への揺動が抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2連結部材13,14を右方に変位させるように作用し、それにより第1ケーブル11の伸びが増大するとともに、第2ケーブル12の伸びが減少する。さらに、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第1ケーブル11の伸びの増加分および第2ケーブル12の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0118】
この第2ケーブル12の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第2ケーブル12の伸びよりも小さく、それにより第2ケーブル12の伸びが存在し、第2ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1ケーブル11のみを介して行われる。
【0119】
また、図12に二点鎖線で示すように、建築物32が二次モードの振動により左方に揺動すると、それに伴い、マスダンパ21の外筒22が、建築物32の上下方向の中央部とともに、建築物32の上端部および基礎Bに対して左方に変位する。この場合にも、建築物32の上端部および基礎Bに対する中央部の変位は、基本的には、第1および第2ケーブル11,12を介してマスダンパ21に伝達される。これにより、図12に示す中立状態からねじ軸23が外筒22に対して右方に移動し、それに伴って回転マスが回転する結果、マスダンパ21の反力が発生する。
【0120】
この場合、マスダンパ21の反力は、第1および第2ケーブル11,12を介して、建築物32の中央部、上端部および基礎Bに伝達され、上端部および基礎Bに対して中央部を右方に変位させるように作用する。これにより、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左方への変位が抑制され、建築物32の左方への揺動が抑制される。また、マスダンパ21の反力は、第1および第2連結部材13,14を左方に変位させるように作用し、それにより、第2ケーブル12の伸びが増大するとともに、第1ケーブル11の伸びが減少する。さらに、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左方への変位が大きいほど、外筒22に対するねじ軸23の移動量が大きくなることによって、マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、第2ケーブル12の伸びの増加分および第1ケーブル11の伸びの減少分は、大きくなる。
【0121】
この第1ケーブル11の伸びの減少分が、前述したプレテンションによる第1ケーブル11の伸びよりも小さく、それにより第1ケーブル11の伸びが存在し、第1ケーブル反力が存在するときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるときには、マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32へのマスダンパ21の反力の伝達が、第2ケーブル12のみを介して行われる。
【0122】
第1ケーブル11のプレテンションは、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル反力がなくなるように設定されている。さらに、第2ケーブル12のプレテンションは、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル12の伸びが前述したようになくなることにより第2ケーブル反力がなくなるように設定されている。この所定値は、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル反力がなくなるように、設定されている。
【0123】
さらに、マスダンパ21の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が建築物32の二次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置51によって、二次モードの振動により繰り返される建築物32の左右方向の揺動が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0124】
また、第3実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との関係は、次のとおりである。すなわち、第3実施形態における建築物32が、本発明における構造物に相当し、第3実施形態における建築物32および基礎Bが、本発明における系に相当する。また、第3実施形態における建築物32の上端部および基礎Bが、本発明における第1部位に相当するとともに、第3実施形態における建築物32の上下方向の中央部が、本発明における第2部位に相当する。さらに、第3実施形態における粘性体が、本発明における減衰要素に相当する。
【0125】
この第3実施形態によれば、上述した建築物32の二次モードの振動に対する振動抑制装置51の動作と、前述した第1実施形態の変形例との対比から明らかなように、第1および第2ケーブル11,12の反力を合わせた合力であるケーブル反力(F)と、建築物32の二次モードの振動に伴って発生した第1および第2ケーブル11,12全体の変位(y)との関係は、前述した図17と同様に示される。さらに、第1および第2ケーブル11,12の剛性をそれぞれ「k」とすると、両ケーブル11,12全体の接線剛性(以下「ケーブル接線剛性」という)は、第1および第2ケーブル反力がともに作用しているときには「2k」となり、第1および第2ケーブル11,12の一方の伸びがなくなり、当該一方の反力がなくなるときには「k」となる。
【0126】
この場合、第1ケーブル11のプレテンションが、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第1ケーブル11の伸びがなくなることにより第1ケーブル33aの反力がなくなるように設定されている。また、第2ケーブル12のプレテンションが、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、第2ケーブル12の伸びがなくなることにより第2ケーブル反力がなくなるように設定されている。この所定値は、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、第1または第2ケーブル反力がなくなるように、設定されている。
【0127】
以上により、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が建築物32の二次モードの振動に同調して過大になる直前に、より小さなケーブル接線剛性(=k)が得られるので、マスダンパ21の固有周期を建築物32の固有周期と異ならせることができ、それによりマスダンパ21の反力を抑制できる。したがって、建築物32、マスダンパ21、第1および第2ケーブル11,12に過大な応力が発生するのを防止することができる。それに加え、建築物32の上端部および基礎Bに対する建築物32の中央部の左右方向の変位が比較的小さいときに、より大きなケーブル接線剛性(=2k)が得られる。したがって、例えば風力により建築物32が二次モードで振動した場合であって、建築物32の上端部および基礎Bに対する中央部の変位が比較的小さいときでも、この変位を、第1および第2ケーブル11,12の変形により吸収されるのを抑制しながら、マスダンパ21に適切に伝達することができ、ひいては、建築物32の振動を適切に抑制することができる。
【0128】
また、図13は、第3実施形態の第1変形例を示しており、同図において、第1〜第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。この第1変形例は、第3実施形態と比較して、建築物32に対する第1および第2連結部材13,14の配置が異なっている。具体的には、第1連結部材13は、建築物32の上下方向の中央部の右端部ではなく、建築物32の上下方向の中央部の左部に位置している。また、第2連結部材14は、建築物32の上下方向の中央部の左端部ではなく、建築物32の上下方向の中央部の右部に位置している。さらに、建築物32および基礎Bに対する第1および第2ケーブル11,12の接続位置は、第3実施形態と同じではあるものの、第1および第2連結部材13,14が建築物32に対して上記のように配置されているため、第1および第2ケーブル11,12は、第3実施形態と異なり、互いに交差していない。
【0129】
また、第1変形例では、第3実施形態と同様、第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、第1連結部材13を介してマスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合における第1および第2ケーブル反力の絶対値は互いに等しい。
【0130】
以上の構成の第1変形例による振動抑制装置51によれば、構造物32の振動に対して、第3実施形態と同様の動作が得られ、第3実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0131】
また、図14は、第3実施形態の第2変形例を示しており、同図において、第1〜第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。この第2変形例は、第3実施形態と比較して、第1および第2連結部材13,14に代えて、左右一対の滑車52,52を用いて、第1および第2ケーブル11,12を案内し、マスダンパ21に接続している点が異なっている。
【0132】
図14に示すように、第1ケーブル11は、一端部が基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ右方に斜めに延び、建築物32の上下方向の中央部の左部に設けられた滑車52に巻き掛けられ、この滑車52から右方に水平に延び、他端部が、マスダンパ21のねじ軸23の左端部に設けられたフランジ23aに取り付けられている。また、第1ケーブル11の一端部は、建築物32の下端部の左端部に位置している。第2ケーブル12は、一端部が基礎Bに固定され、この一端部から上方かつ左方に斜めに延び、建築物32の上下方向の中央部の右部に設けられた滑車52に巻き掛けられ、この滑車52から左方に水平に延び、他端部が、マスダンパ21のねじ軸23の右端部に設けられたフランジ23aに取り付けられている。また、第2ケーブル12の一端部は、建築物32の下端部の右端部に位置している。以上の構成により、第1および第2ケーブル11,12は、前述した第2実施形態の場合(図5)と異なり、建築物32から左右方向にはみ出していない。
【0133】
さらに、第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。この第1ケーブル11の伸びによる第1ケーブル反力は、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する一方、第2ケーブル12の伸びによる第2ケーブル反力は、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、第1および第2ケーブル反力は、マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。また、この場合における第1および第2ケーブル反力の絶対値は、互いに等しい。
【0134】
以上の構成の第2変形例による振動抑制装置51によれば、構造物32の振動に対して、第3実施形態と同様の動作が得られ、第3実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0135】
なお、第2変形例では、第1および第2ケーブル11,12を、建築物32から左右方向にはみ出させることなく、建築物32に対して斜めに延びるように設けるために、基礎Bに対する第1および第2ケーブル11,12の接続位置を、建築物32の左右方向の内側に定めるとともに、滑車52,52の位置を、第1および第2ケーブル11,12の接続位置よりも左右方向の内側に定めているが、例えば、基礎Bに第1および第2ケーブル11,12を次のように接続してもよい。すなわち、基礎Bにおける、建築物32の右端部および左端部に対応する部位に、第1および第2ケーブル11,12の一端部をそれぞれ接続し、両ケーブル11,12を互いに交差させる。これにより、第1および第2ケーブル11,12を、建築物32から左右方向にはみ出させることなく、建築物32に対して斜めに延びるように設けることができる。
【0136】
また、第2変形例では、マスダンパ21の外筒22を建築物32の中央部に接続するとともに、第1および第2ケーブル11,12の一端部を基礎Bに接続しているが、これとは逆に、マスダンパ5の外筒22を基礎Bに、ケーブル33の両端部を建築物32の中央部に、それぞれ接続してもよい。この場合、マスダンパ21を、建築物32が揺動する左右方向に延びるように配置せずに、他の適当な方向に延びるように配置するとともに、第1および第2ケーブル11,12を、滑車などを用いて案内し、そのように配置されたマスダンパ21に接続してもよい。以上の第2変形例についてのバリエーションは、適宜、組み合せて適用可能である。
【0137】
また、第3実施形態については、例えば、以下に述べる複数のバリエーションが存在する。これらのバリエーションは、適宜、組み合せて適用可能である。すなわち、第3実施形態および第1変形例では、振動抑制装置51を建築物32の外側に設けているが、後述する第4実施形態の場合と同様、建築物32の内側に、例えばパイプスペース内やエレベータの昇降路内に設けてもよい。
【0138】
さらに、第3実施形態(以下、第1および第2変形例を含む)では、第1および第2ケーブル11,12を、基礎Bに接続しているが、建築物32の下端部に接続してもよい。建築物32の二次モードの振動中、基礎Bに対する建築物32の下端部の変位はほぼ値0になり、建築物32の下端部は振動の節に相当する部位であることから、この場合にも、第3実施形態による効果を同様に得ることができる。また、第3実施形態では、マスダンパ21の外筒22を建築物32に、ねじ軸23を第1および第2ケーブル11,12にそれぞれ接続しているが、これとは逆に、外筒22を第1および第2ケーブル11,12に、ねじ軸23を建築物32に、それぞれ接続してもよい。
【0139】
さらに、第3実施形態では、マスダンパ21を用いているが、マスダンパ5を用いてもよい。また、第3実施形態では、平断面が一定の建築物32に振動抑制装置31を適用した例であるが、本発明による振動抑制装置は、前述したセットバックタイプの建築物41にも適用可能である。
【0140】
次に、図15を参照しながら、本発明の第4実施形態による振動抑制装置61について説明する。この振動抑制装置61は、地震などにより発生した建築物32の三次モードの振動を抑制するためのものである。図15において、第1〜第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1〜第3実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0141】
図15に示すように、振動抑制装置61は、それぞれ上下一対のマスダンパ21、第1および第2連結部材13,14を備えている。建築物32には、比較的大きな平断面を有するパイプスペース32gが形成され、上下方向に延びており、このパイプスペース32g内に、振動抑制装置61が設けられている。上側の第1および第2連結部材13,14はそれぞれ、建築物32のうちの、上端から高さの1/4だけ下側の部位(以下「第1腹部という」)の左部および右部に設けられ、互いに対向しており、第3実施形態と同様、それらの長孔(図示の便宜上、符号を省略)の長さの分、建築物32に対して左右方向にのみ移動可能である。なお、これらの長孔の左右方向の長さは、三次モードの振動によって発生すると想定される、建築物32の上端部および上下方向の中央部に対する建築物32の第1腹部の左右方向の変位の最大値よりも大きい。
【0142】
また、上側の第1連結部材13(以下「上側第1連結部材13」という)には、上側の一対の第1ケーブル11,11の一端部が連結されている。上側の一対の第1ケーブル11,11の一方は、他端部が建築物32の上端部の左部に固定されており、この他端部から上側第1連結部材13に向かって右方かつ下方に斜めに延びている。また、上側の一対の第1ケーブル11,11の他方は、他端部が建築物32の上下方向の中央部の左部に固定されており、この他端部から上側第1連結部材13に向かって右方かつ上方に斜めに延びている。以下、上側の一対の第1ケーブル11,11を総称して、「上側第1ケーブル11」という。
【0143】
また、上側の第2連結部材14(以下「上側第2連結部材14」という)には、上側の一対の第2ケーブル12,12の一端部が連結されている。上側の一対の第2ケーブル12,12の一方は、他端部が建築物32の上端部の右部に固定されており、この他端部から上側第2連結部材14に向かって左方かつ下方に斜めに延びている。また、上側の一対の第2ケーブル12,12の他方は、他端部が建築物32の上下方向の中央部の右部に固定されており、この他端部から上側第2連結部材14に向かって左方かつ上方に斜めに延びている。以下、上側の一対の第2ケーブル12,12を総称して、「上側第2ケーブル12」という。
【0144】
上側のマスダンパ21(以下「上側マスダンパ21」という)は、その外筒22が建築物32の第1腹部の左右方向の中央に支持部材32fを介して取り付けられることによって、建築物32に接続されており、左右方向に延びている。また、上側マスダンパ21は、そのねじ軸23の左端部および右端部が上側第1および第2連結部材13,14にそれぞれ取り付けられることによって、上側第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。さらに、上側第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。
【0145】
この上側第1ケーブル11の伸びによる上側第1ケーブル11の反力は、上側第1連結部材13を介して上側マスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する。一方、上側第2ケーブル12の伸びによる上側第2ケーブル12の反力は、上側第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、上側第1および第2ケーブル11,12の反力は、上側マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合における上側第1および第2ケーブル11,12の反力の絶対値は互いに等しい。
【0146】
さらに、下側の第1および第2連結部材13,14は、建築物32の下端から高さの1/4だけ上側の部位(以下「第2腹部という」)の左部および右部に設けられ、互いに対向しており、第3実施形態と同様、それらの長孔(図示の便宜上、符号を省略)の長さの分、建築物32に対して左右方向にのみ移動可能である。なお、これらの長孔の左右方向の長さは、三次モードの振動によって発生すると想定される、建築物32の上下方向の中央部および基礎Bに対する建築物32の第2腹部の左右方向の変位の最大値よりも大きい。
【0147】
また、下側の第1連結部材13(以下「下側第1連結部材13」という)には、下側の一対の第1ケーブル11,11の一端部が連結されている。下側の一対の第1ケーブル11,11の一方は、他端部が建築物32の上下方向の中央部の左部に固定されており、この他端部から下側第1連結部材13に向かって右方かつ下方に斜めに延びている。また、下側の一対の第1ケーブル11,11の他方は、他端部が基礎Bに固定されるとともに建築物32の下端部の左部に位置しており、この他端部から下側第1連結部材13に向かって右方かつ上方に斜めに延びている。以下、下側の一対の第1ケーブル11,11を総称して、「下側第1ケーブル11」という。
【0148】
また、下側の第2連結部材14(以下「下側第2連結部材14」という)には、下側の一対の第2ケーブル12,12の一端部が連結されている。下側の一対の第2ケーブル12,12の一方は、他端部が建築物32の上下方向の中央部の右部に固定されており、この他端部から下側第2連結部材14に向かって左方かつ下方に斜めに延びている。また、下側の一対の第2ケーブル12,12の他方は、他端部が基礎Bに固定されるとともに建築物32の下端部の右部に位置しており、この他端部から第2連結部材14に向かって左方かつ上方に斜めに延びている。以下、下側の一対の第2ケーブル12,12を総称して、「下側第2ケーブル12」という。
【0149】
下側のマスダンパ21(以下「下側マスダンパ21」という)は、その外筒22が建築物32の第2腹部の左右方向の中央に支持部材32fを介して取り付けられることによって、建築物32に接続されており、左右方向に延びている。また、下側マスダンパ21は、そのねじ軸23の左端部および右端部が下側第1および第2連結部材13,14にそれぞれ取り付けられることによって、下側第1および第2ケーブル11,12の双方に接続されている。さらに、下側第1および第2ケーブル11,12には、互いに同じ大きさの所定のプレテンションがあらかじめ付与されており、それにより互いに同じ大きさの伸びがあらかじめ付与されている。
【0150】
この下側第1ケーブル11の伸びによる下側第1ケーブル11の反力は、下側第1連結部材13を介して下側マスダンパ21のねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を左方に変位させるように作用する。一方、下側第2ケーブル12の伸びによる下側第2ケーブル12の反力は、下側第2連結部材14を介してねじ軸23に伝達され、ねじ軸23を右方に変位させるように作用する。このように、下側第1および第2ケーブル11,12の反力は、下側マスダンパ21に対して互いに反対方向に作用する。この場合における下側第1および第2ケーブル11,12の反力の絶対値は互いに等しい。
【0151】
以上の構成の振動抑制装置61および建築物32では、図15に実線で示すように、建築物32が振動していないときには、上側第1および第2ケーブル11,12の反力によって上側マスダンパ21が、下側第1および第2ケーブル11,12の反力によって下側マスダンパ21が、それぞれ中立状態に保持される。この中立状態から、建築物32が三次モードの振動により揺動した場合において、第1および第2腹部が図15に一点鎖線で示すように右方および左方にそれぞれ変位したとき、および図15に二点鎖線で示すように左方および右方にそれぞれ変位したときのいずれにおいても、上述した振動抑制装置61の構成と、前述した第3実施形態の第1変形例(図13)との比較から明らかなように、建築物32の上端部および中央部に対する第1腹部の左右方向の変位が上側マスダンパ21によって、建築物32の中央部および基礎Bに対する第2腹部の左右方向の変位が下側マスダンパ21によって、それぞれ抑制される。
【0152】
また、建築物32の第1腹部が上端部および中央部に対して右方(左方)に変位するのに伴って発生した上側マスダンパ21の反力は、上側第1および第2連結部材13,14を右方(左方)に変位させるように作用し、それにより上側第1ケーブル11の伸びが増大(減少)するとともに、上側第2ケーブル12の伸びが減少(増大)する。さらに、右方(左方)への第1腹部の変位が大きいほど、上側マスダンパ21の反力はより大きくなり、それにより、上側第1ケーブル11(上側第2ケーブル12)の伸びの増加分および上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びの減少分は、より大きくなる。
【0153】
この上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びの減少分が、プレテンションによる上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びよりも小さく、それにより上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びが存在し、上側第2ケーブル12の反力(上側第1ケーブル11の反力)が存在するときには、上側マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32への上側マスダンパ21の反力の伝達が、上側第1および第2ケーブル11,12の双方を介して行われる。一方、上側第2ケーブル12(上側第1ケーブル11)の伸びがなくなることにより上側第2ケーブル12の反力(上側第1ケーブル11の反力)がなくなるときには、上側マスダンパ21への建築物32の変位の伝達と建築物32への上側マスダンパ21の反力の伝達が、上側第1ケーブル11(上側第2ケーブル12)のみを介して行われる。以上の動作は、建築物32の第2腹部、下側マスダンパ21、下側第1および第2ケーブル11,12についても同様に行われる。
【0154】
また、上側第1ケーブル11のプレテンションは、建築物32の上端部および中央部に対する第1腹部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、上側第1ケーブル11の伸びがなくなることにより上側第1ケーブル11の反力がなくなるように設定されている。さらに、上側第2ケーブル12のプレテンションは、建築物32の上端部および中央部に対する第1腹部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、上側第2ケーブル12の伸びがなくなることにより上側第2ケーブル12の反力がなくなるように設定されている。この所定値は、建築物32の上端部および中央部に対する第1腹部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、上側第1または第2ケーブル11,12の反力がなくなるように、設定されている。
【0155】
さらに、下側第1ケーブル11のプレテンションは、建築物32の中央部および基礎Bに対する第2腹部の左方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、下側第1ケーブル11の伸びがなくなることにより下側第1ケーブル11の反力がなくなるように設定されている。さらに、下側第2ケーブル12のプレテンションは、建築物32の中央部および基礎Bに対する第2腹部の右方への変位の大きさが所定値よりも大きいときに、下側第2ケーブル12の伸びがなくなることにより下側第2ケーブル12の反力がなくなるように設定されている。この所定値は、建築物32の中央部および基礎Bに対する第2腹部の左右方向の変位が大きくなるのに伴ってマスダンパ21の反力が過大になる直前に、下側第1または第2ケーブル11、12の反力がなくなるように、設定されている。
【0156】
さらに、上側および下側マスダンパ21の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、上側・下側第1および第2ケーブル11,12を合わせたケーブル全体の剛性は、回転マス、粘性体、上側・下側第1および第2ケーブル11,12から成る付加振動系の固有振動数が建築物32の三次モードの固有振動数に同調するような値に、設定されている。以上の構成の振動抑制装置61によって、三次モードの振動により繰り返される建築物32の左右方向の揺動が抑制され、ひいては、建築物32の振動が抑制される。
【0157】
また、第4実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との関係は、次のとおりである。すなわち、第4実施形態における建築物32が、本発明における構造物に相当し、第4実施形態における建築物32および基礎Bが、本発明における系に相当する。また、第4実施形態における建築物32の上端部、上下方向の中央部および基礎Bが、本発明における第1部位に相当するとともに、第4実施形態における第1および第2腹部が、本発明における第2部位に相当する。さらに、第4実施形態における粘性体が、本発明における減衰要素に相当する。
【0158】
以上により、第4実施形態によれば、建築物32の第1および第2腹部の左右方向の変位が大きくなるのに伴って、上側および下側マスダンパ21の反力が建築物32の三次モードの振動に同調して過大になる直前に、上側・下側の第1および第2ケーブル11,12の各々について、より小さなケーブル接線剛性(=k)が得られる。したがって、上側および下側マスダンパ21の固有周期を建築物32の固有周期と異ならせることができ、それにより上側および下側マスダンパ21の反力を抑制できる。したがって、建築物32、上側および下側マスダンパ21、上側・下側第1および第2ケーブル11,12に過大な応力が発生するのを防止することができる。それに加え、建築物32の第1および第2腹部の左右方向の変位が比較的小さいときに、上側・下側の第1および第2ケーブル11,12の各々について、より大きなケーブル接線剛性(=2k)が得られる。したがって、例えば風力により建築物32が三次モードで振動した場合であって、第1および第2腹部の変位が比較的小さいときでも、この変位を、上側・下側第1および第2ケーブル11,12の変形により吸収されるのを抑制しながら、上側・下側マスダンパ21に適切に伝達することができ、ひいては、建築物32の振動を適切に抑制することができる。
【0159】
なお、第4実施形態については、例えば、以下に述べる複数のバリエーションが存在する。これらのバリエーションは、適宜、組み合せて適用可能である。すなわち、第4実施形態では、振動抑制装置61を、建築物32のパイプスペース32g内に設けているが、建築物32のエレベータの昇降路内に設けてもよく、あるいは、第3実施形態の場合(図12)と同様、建築物32の外側に設けてもよい。また、第4実施形態では、上側第1および第2ケーブル11,12を交差させずに設けているが、第3実施形態の場合(図12)と同様、上側第1および第2ケーブル11,12を交差させてもよい。このことは、下側第1および第2ケーブル11,12についても同様に当てはまる。さらに、第4実施形態では、下側第1および第2ケーブル11,12を基礎Bに接続しているが、建築物32の下端部に接続してもよい。建築物32の三次モードの振動中、基礎Bに対する建築物32の下端部の変位はほぼ値0になり、建築物32の下端部は振動の節に相当する部位であることから、この場合にも、第4実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0160】
また、第4実施形態では、上側第1および第2ケーブル11,12をそれぞれ一対のケーブルで構成するとともに、上側第1および第2連結部材13,14を介して上側マスダンパ21に接続しているが、第3実施形態の第2変形例(図14)と同様に、上側第1および第2ケーブル11,12をそれぞれ単一のケーブルで構成するとともに、左右の滑車を用いて両ケーブル11,12を案内し、上側マスダンパ21に接続してもよい。
【0161】
この場合、図9に示す第2実施形態のバリエーション(a)と同様に、建築物32の下端部または基礎Bにマスダンパ21の外筒22を、建築物32の第1腹部に上側第1および第2ケーブル11,12を、それぞれ接続してもよい。またこの場合、マスダンパ21を、建築物32が揺動する左右方向に延びるように配置せずに、他の適当な方向に延びるように配置するとともに、第1および第2ケーブル11,12を、滑車などを用いて案内し、そのように配置されたマスダンパ21に接続してもよい。以上については、下側マスダンパ21、下側第1および第2ケーブル11,12についても同様に当てはまる。
【0162】
さらに、第4実施形態では、上側第1および第2ケーブル11,12に上側マスダンパ21のねじ軸23を、建築物32に上側マスダンパ21の外筒22を、それぞれ接続しているが、これとは逆に、上側第1および第2ケーブル11,12に外筒22を、建築物32にねじ軸23を、それぞれ接続してもよい。このことは、下側マスダンパ21、下側第1および第2ケーブル11,12についても同様に当てはまる。また、第4実施形態では、第1腹部の変位を抑制するためのマスダンパとして、上側マスダンパ21を用いているが、マスダンパ5を用いてもよい。このことは、下側マスダンパ21についても同様に当てはまる。さらに、第4実施形態では、振動抑制装置61を、平断面が一定の建築物32に適用しているが、前述したセットバックタイプの建築物41に適用してもよい。
【0163】
また、建築物32の一次〜三次モードの振動に対応するために、第2〜第4実施形態の振動抑制装置31、41、61を組み合わせて、建築物32、41に適用してもよい。さらに、建築物32の四次モード以上の振動に対応するように、振動抑制装置を構成してもよい。この場合にも、そのように構成された、互いに異なる振動モードに対応する複数の振動抑制装置を、建築物32、41に適用してもよい。
【0164】
なお、本発明は、説明した第1〜第4実施形態(各実施形態の変形例を含む。以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、単一の回転マスを有するマスダンパ5,21を用いているが、本発明の発明者が提案した特願2009−233824号に記載された、第1回転マスに直列に取り付けた第2回転マスを有するマスダンパを用いてもよい。また、実施形態では、本発明の減衰要素として、シリコンオイルなどから成る粘性体を用いているが、回転マスの回転を減衰可能なものであれば他の要素、例えば粘弾性ゴムや、空圧式・磁気式のダンパなどを用いてもよい。
【0165】
さらに、実施形態では、ケーブル33、第1および第2ケーブル11,12は、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。また、実施形態では、第1および第2ケーブル11,12の剛性を互いに同じ高さに設定しているが、互いに異なる高さに設定してもよい。この場合、前述した図16を用いて説明した第1および第2ケーブルの関係から明らかなように、両ケーブルのうち、剛性が低いケーブルの方が、プレテンションによる伸びがより大きくなるので、当該ケーブルの伸びがなくなることによりその反力がなくなるのに必要な構造物の変位の大きさは、より大きくなる。本発明における第1および第2所定値は、実施形態では互いに同じ値に設定されているのに対し、上記のように第1および第2ケーブルの剛性を互いに異ならせた場合には、上述した理由から、第1および第2所定値のうちの、剛性がより低いケーブルに対応するものが、より大きな値に設定される。
【0166】
また、実施形態では、振動による橋梁2などの構造物の変位を回転運動に変換する変換機構は、ボールねじであるが、第1および第2ケーブルを介して伝達された構造物の変位を回転運動に変換可能な他の機構、例えば、互いに噛み合うラックおよびピニオンを有するラックアンドピニオン機構でもよい。この場合、このラックが、マスダンパ5、21のねじ軸7、23に相当するとともに、ピニオンを回転自在に支持する支持部材が、マスダンパ5、21の外筒6、22に相当する。さらに、実施形態では、振動抑制装置を、橋梁5や建築物32、41に適用した例であるが、他の構造物、例えば建築物の梁や、鉄塔などに適用してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0167】
1 振動抑制装置
2 橋梁(構造物)
5 マスダンパ
11 第1ケーブル
12 第2ケーブル
21 マスダンパ
31 振動抑制装置
32 建築物(構造物)
33a 第1ケーブル
33b 第2ケーブル
41 建築物(構造物)
51 振動抑制装置
61 振動抑制装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の振動に伴って当該構造物を含む系内の第1部位および第2部位の間において所定方向に沿って発生する相対変位を抑制するための振動抑制装置であって、
所定のプレテンションにより伸びがあらかじめ付与されるとともに、一端部が前記第1部位に接続された第1ケーブルおよび第2ケーブルと、
回転可能な回転マスを有し、前記第2部位と、前記第1および第2ケーブルの他端部とに、当該第1および第2ケーブルの反力が互いに反対方向に作用するように接続され、前記構造物の振動に伴って前記第1および第2ケーブルを介して伝達された前記第1および第2部位の間の相対変位を、前記回転マスの回転運動に変換するマスダンパと、を備え、
前記第1ケーブルは、前記構造物の振動に伴って前記第2部位が前記第1部位に対して、前記所定方向のうちの一方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、前記マスダンパの反力により前記第1ケーブルの伸びが増大するとともに、前記所定方向のうちの他方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、前記マスダンパの反力により前記第1ケーブルの伸びが減少するように設けられており、
前記第1ケーブルの前記所定のプレテンションは、前記構造物の振動に伴って前記第2部位が前記第1部位に対して前記他方の方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第1所定値よりも大きいときに、当該第1ケーブルの伸びがなくなることにより前記第1ケーブルの反力がなくなるように設定されており、
前記第2ケーブルは、前記構造物の振動に伴って前記第2部位が前記第1部位に対して、前記他方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、前記マスダンパの反力により前記第2ケーブルの伸びが増大するとともに、前記一方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、前記マスダンパの反力により前記第2ケーブルの伸びが減少するように設けられており、
前記第2ケーブルの前記所定のプレテンションは、前記構造物の振動に伴って前記第2部位が前記第1部位に対して前記一方の方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第2所定値よりも大きいときに、当該第2ケーブルの伸びがなくなることにより前記第2ケーブルの反力がなくなるように設定されていることを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
前記第1および第2所定値は、前記構造物の振動により前記第1および第2部位の間の相対変位が増大するのに伴って前記マスダンパの反力が過大になる直前に、前記第1および第2ケーブルの反力がそれぞれなくなるように、設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記マスダンパが、前記回転マスの回転を減衰させる減衰要素をさらに有することを特徴とする、請求項1または2に記載の振動抑制装置。
【請求項1】
構造物の振動に伴って当該構造物を含む系内の第1部位および第2部位の間において所定方向に沿って発生する相対変位を抑制するための振動抑制装置であって、
所定のプレテンションにより伸びがあらかじめ付与されるとともに、一端部が前記第1部位に接続された第1ケーブルおよび第2ケーブルと、
回転可能な回転マスを有し、前記第2部位と、前記第1および第2ケーブルの他端部とに、当該第1および第2ケーブルの反力が互いに反対方向に作用するように接続され、前記構造物の振動に伴って前記第1および第2ケーブルを介して伝達された前記第1および第2部位の間の相対変位を、前記回転マスの回転運動に変換するマスダンパと、を備え、
前記第1ケーブルは、前記構造物の振動に伴って前記第2部位が前記第1部位に対して、前記所定方向のうちの一方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、前記マスダンパの反力により前記第1ケーブルの伸びが増大するとともに、前記所定方向のうちの他方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、前記マスダンパの反力により前記第1ケーブルの伸びが減少するように設けられており、
前記第1ケーブルの前記所定のプレテンションは、前記構造物の振動に伴って前記第2部位が前記第1部位に対して前記他方の方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第1所定値よりも大きいときに、当該第1ケーブルの伸びがなくなることにより前記第1ケーブルの反力がなくなるように設定されており、
前記第2ケーブルは、前記構造物の振動に伴って前記第2部位が前記第1部位に対して、前記他方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、前記マスダンパの反力により前記第2ケーブルの伸びが増大するとともに、前記一方の方向に相対変位したときに、当該相対変位が大きいほど、前記マスダンパの反力により前記第2ケーブルの伸びが減少するように設けられており、
前記第2ケーブルの前記所定のプレテンションは、前記構造物の振動に伴って前記第2部位が前記第1部位に対して前記一方の方向に相対変位した場合において、当該相対変位の大きさが第2所定値よりも大きいときに、当該第2ケーブルの伸びがなくなることにより前記第2ケーブルの反力がなくなるように設定されていることを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
前記第1および第2所定値は、前記構造物の振動により前記第1および第2部位の間の相対変位が増大するのに伴って前記マスダンパの反力が過大になる直前に、前記第1および第2ケーブルの反力がそれぞれなくなるように、設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記マスダンパが、前記回転マスの回転を減衰させる減衰要素をさらに有することを特徴とする、請求項1または2に記載の振動抑制装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−127395(P2012−127395A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278333(P2010−278333)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(504242342)株式会社免制震ディバイス (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(504242342)株式会社免制震ディバイス (16)
【Fターム(参考)】
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