説明

振動板の張力測定方法

【課題】騒音の多い場所においても、振動板の張力を安全にかつ高い信頼性をもって測定できるようにする。
【解決手段】コンデンサマイクロホン用の振動板を被測定振動板1として、その張力を共振周波数により測定する振動板の張力測定方法において、密閉箱10の開口部12内にダイナミックヘッドホンユニット20を発音振動板21が密閉箱10内に向くようにして気密的に嵌合し、上記ヘッドホンユニット20の磁気回路23の背面側に被測定振動板1を気密的な空間が形成されるように配置し、定電圧交流信号発生部よりボイスコイル213に交流信号を周波数可変として印加して発音振動板21を振動させ、電圧測定手段40により測定されるボイスコイル213の両端間電圧が最大値を示すときの上記交流信号の周波数を被測定振動板1の共振周波数として測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサマイクロホンに用いられる振動板の張力測定方法に関し、さらに詳しく言えば、ダイナミックヘッドホンユニット(スピーカユニット)の動インピーダンスにより振動板の張力を測定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンデンサマイクロホンは、ダイアフラムリングに張設されている振動板と、絶縁座により支持されている固定極とを絶縁スペーサーを介して対向的に配置させてなる一種のコンデンサ要素を含んで構成され、音波による振動板の振動に基づく静電容量の変化分を音声信号として出力する。したがって、マイクロホンとしての品質を揃えるためには、振動板の張力のバラツキを少なくする必要がある。
【0003】
通常、振動板は、大判サイズのマザーフィルムに所定の張力を加え、その上に複数のダイアフラムリングを接着剤を介して配置し、接着剤の硬化を待って、振動板付きのダイアフラムリングを切り出すことにより作製される。
【0004】
凡用の安価なコンデンサマイクロホン用途の振動板については、一般的に個々の張力の測定は行われないが、特に音質が重視される例えばスタジオ等で使用されるコンデンサマイクロホン用途の場合には、張力の個差を概ね10%以内とするために、振動板の張力測定が行われる。
【0005】
本出願人は、振動板の張力測定方法の一つとして、特許文献1において、ダイアフラムリングに張設されている振動板に対して所定の空隙をもって配置される駆動電極と、振動板から放音される音波を収音する測定用マイクロホンと、測定用マイクロホンから出力されるマイク出力信号を増幅して駆動電極に与えて振動板を静電的に駆動する電圧増幅器と、マイク出力信号の周波数を計測する周波数カウンターとを備えたループにより、振動板を持続的に発振させ、そのときの発振周波数を周波数カウンターにより計数して、振動板の張力を測定する方法を提案している。
【0006】
これによれば、測定者の個差が介入する余地がほとんどなく、高い信頼性をもって振動板の張力を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−98277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、振動板から放音される音波をマイクロホンで収音するようにしているため、測定にあたっては、騒音等がないある程度静かな環境が必要とされる、という問題がある。
【0009】
また、振動板を静電的に駆動するうえで、その駆動電極に数100V程度の交流信号を印加するようにしているため、感電事故等に対する注意が必要とされる、という問題もある。
【0010】
したがって、本発明の課題は、騒音の多い場所においても、振動板の張力を安全にかつ高い信頼性をもって測定できるようにした振動板の張力測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、ダイアフラムリングに張設されているコンデンサマイクロホン用の振動板を被測定振動板として、その張力を共振周波数により測定する振動板の張力測定方法において、内部に所定容積の空気室を有し一部分に開口部が形成されている密閉箱と、ボイスコイルを有する発音振動板および上記ボイスコイルが配置される磁気ギャップを有する磁気回路を含み上記発音振動板を上記密閉箱の内側に向けて上記開口部内に気密的に嵌合されるダイナミックヘッドホンユニットと、上記ボイスコイルに接続される可変周波数型の定電圧交流信号発生部と、上記ボイスコイルの両端間電圧を測定する電圧測定手段とを備え、上記ダイナミックヘッドホンユニットの磁気回路の背面側に、上記ダイアフラムリングに張設されている被測定振動板を気密的な空間が形成されるように配置し、上記定電圧交流信号発生部より上記ボイスコイルに交流信号を周波数可変として印加して上記発音振動板を振動させ、上記電圧測定手段により測定される上記ボイスコイルの両端間電圧が最大値を示すときの上記交流信号の周波数を上記被測定振動板の共振周波数として測定することを特徴としている。
【0012】
本発明において、上記磁気回路には、大気側から上記発音振動板の背面側に通ずる空気通路が形成されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の好ましい態様によれば、上記ダイナミックヘッドホンユニットは、上記発音振動板の周縁部と上記磁気回路を支持するユニットフレームを備え、上記ユニットフレームが上記開口部内に気密的に嵌合されるとともに、上記ユニットフレームの上記磁気回路を支持する円筒部が上記磁気回路の背面よりも突出しており、上記円筒部の端面に上記被測定振動板が気密的に配置される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、密閉箱内でダイナミックヘッドホンユニットを所定周波数の交流信号で駆動し、これに伴って発生する音圧により振動板を振動させて、その共振周波数を測定するようにしたことにより、騒音が多い環境下でも、振動板の張力を高い信頼性をもって測定することができる。
【0015】
また、ダイナミックヘッドホンユニットの駆動には、高い電圧を必要としないため、人体に対して感電等の危険性がなく、安全に振動板の張力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】測定対象である被測定振動板を示す断面図。
【図2】本発明による振動板の張力測定方法の一実施形態を示す断面図。
【図3】本発明の電気測定系を示す回路図。
【図4】測定時における共振周波数を示すグラフ。
【図5】上記実施形態における機械振動系の等価回路図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図1ないし図5を参照して、本発明の実施形態を説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
まず、図1に本発明によって張力が測定される被測定振動板1を示す。被測定振動板1は、合成樹脂の薄膜フィルムを基材とし、図示されていないが、その片面に金属(好ましくは金)蒸着膜を備えている。被測定振動板1は、金属製のダイアフラムリング2に所定の張力を付与された状態で接着剤を介して取り付けられている。
【0019】
この被測定振動板1の張力を測定するため、図2に示す密閉箱10およびダイナミックヘッドホンユニット20と、図3に示す交流信号発生部30および電圧測定手段40とが用いられる。
【0020】
密閉箱10は、内部に所定容積の空気室11を有する箱体で、その一部分にダイナミックヘッドホンユニット20が気密的に嵌合される開口部12を備えている。
【0021】
ダイナミックヘッドホンユニット20は、発音振動板21と、磁気回路23と、これらを支持するユニットフレーム25とを備えている。ダイナミックヘッドホンユニット20は、スピーカユニットと呼ばれてもよい。
【0022】
発音振動板21は、センタードーム211と、センタードーム211の周りに一体に形成されたサブドーム212とを備え、その全体が合成樹脂の薄膜フィルムにより形成されている。
【0023】
発音振動板21の背面側(図2において上面側)で、センタードーム211とサブドーム212との境界部分には、ボイスコイル213が接着剤を介して固定されている。
【0024】
磁気回路23は、カップ状に形成されたヨーク231と、ヨーク231の底部に取り付けられた円盤状の永久磁石232と、永久磁石232の上に配置された同じく円盤状のポールピース233とを備え、ヨーク231とポールピース233との間に磁気ギャップが形成されている。
【0025】
ユニットフレーム25は、円筒部251と、円筒部251の一端251a側(図2において下端側)に連設された円盤状のフランジ部252とを備えている。
【0026】
円筒部251内に磁気回路23が支持され、フランジ部252にサブドーム212の周縁が支持されることにより、ボイスコイル213が磁気回路23の上記磁気ギャップ内に振動可能に配置される。
【0027】
このように組み立てられたダイナミックヘッドホンユニット20は、発音振動板21が空気室11内に向くようにして、密閉箱10の開口部12に気密的に嵌合される。
【0028】
この実施形態において、磁気回路23のヨーク231,永久磁石232およびポールピース233の中央部分には、自由空間(大気)側から発音振動板21の背面側に通ずる空気通路234が形成されている。
【0029】
なお、円筒部251の他端251b側(図2において上端側)は、磁気回路23の背面(ヨーク231)よりも突出しており、張力測定時、円筒部251の他端251b側に被測定振動板1が気密的に配置される。
【0030】
図3を参照して、交流信号発生部30は、供給抵抗Rsを介してボイスコイル213に接続される。交流信号発生部30は、出力電圧が一定の定電圧型で周波数可変のスイープオシレータである。
【0031】
この例において、交流信号発生部30の出力電圧は6V(実効値)で一定であり、供給抵抗Rsは1KΩ,ボイスコイル213の抵抗値は32Ωとしている。
【0032】
また、スイープオシレータであることから、交流信号発生部30の出力周波数は可変で、付設されているスイープダイアル31により、低周波数→高周波数(もしくは高周波数→低周波数)に適宜出力周波数を選択することができる。
【0033】
電圧測定手段40は、ボイスコイル213の両端間電圧を測定するもので、この実施形態では、アナログ式のレベルメータが用いられているが、例えばレベル判定機能を有するデジタル電圧測定器が用いられてもよい。
【0034】
次に、被測定振動板1の張力測定方法について説明する。本発明では、ダイナミックヘッドホンユニット20の動インピーダンスを測定することにより、被測定振動板1の共振周波数を測定する。
【0035】
発音振動板21が振動すると、ボイスコイル213の直流抵抗とインダクタンスに加えて動インピーダンスが発生する。すなわち、動インピーダンスは、発音振動板21の振幅(振動速度)が大きいと高くなり、これに伴って、ボイスコイル213の両端間電圧(信号レベル)が高くなる。ちなみに、ボイスコイル213を指等で固定した場合、直流抵抗とインダクタンス分だけになる。
【0036】
図2の張力測定装置に被測定振動板1が装着されていない場合、交流信号発生部30の交流信号の周波数をスイープしてダイナミックヘッドホンユニット20を駆動し、発音振動板21を振動させると、この例では、約150Hz付近でボイスコイル213の両端間電圧が最大となる発音振動板21の共振峰が現れる。
【0037】
被測定振動板1の張力測定時には、被測定振動板1をユニットフレーム25の円筒部251の他端251bに気密的に配置する。そして、交流信号発生部30の交流信号の周波数をスイープしてダイナミックヘッドホンユニット20を駆動して発音振動板21を振動させ、レベルメータ(電圧測定手段)40でボイスコイル213の両端間電圧を監視する。
【0038】
この駆動時において、被測定振動板1の共振周波数では発音振動板21も振動しやすくなることから、動インピーダンスも上昇する。したがって、レベルメータ40が最大電圧を示すときの周波数が被測定振動板1の共振周波数であり、これをもって被測定振動板1の共振周波数を測定することができる。
【0039】
すなわち、被測定振動板1の共振周波数は、その張力によって変化するため、被測定振動板1の共振周波数を測定することにより、被測定振動板1の張力が大きいか、小さいかを知ることができる。共振周波数の下限値,上限値を設定することにより、被測定振動板1の張力の良否を判別することができる。
【0040】
参考までに、図4に被測定振動板1の張力測定時に現れる共振峰の2例を示す。これによると、周波数f1(例えば0.95kHz)付近と、周波数f2(例えば1.6kHz)付近とに共振峰が見られる。
【0041】
周波数f1での共振峰は被測定振動板1の張力が小さい場合のもので、周波数f2での共振峰は被測定振動板1の張力が大きい場合のものであり、それぞれ、周波数f1,f2を被測定振動板1の共振周波数と特定できる。
【0042】
また、参考として、図5に機械振動系の等価回路図を示す。moは発音振動板21の質量,soは発音振動板21のスチフネス,Momは被測定振動板1の質量,Somは被測定振動板1のスチフネス,sfは空気室11のスチフネス,sbは空気通路234のスチフネスである。
【符号の説明】
【0043】
1 被測定振動板
2 ダイアフラムリング
10 密閉箱
12 開口部
20 ダイナミックヘッドホンユニット
21 発音振動板
213 ボイスコイル
23 磁気回路
234 空気通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアフラムリングに張設されているコンデンサマイクロホン用の振動板を被測定振動板として、その張力を共振周波数により測定する振動板の張力測定方法において、
内部に所定容積の空気室を有し一部分に開口部が形成されている密閉箱と、ボイスコイルを有する発音振動板および上記ボイスコイルが配置される磁気ギャップを有する磁気回路を含み上記発音振動板を上記密閉箱の内側に向けて上記開口部内に気密的に嵌合されるダイナミックヘッドホンユニットと、上記ボイスコイルに接続される可変周波数型の定電圧交流信号発生部と、上記ボイスコイルの両端間電圧を測定する電圧測定手段とを備え、
上記ダイナミックヘッドホンユニットの磁気回路の背面側に、上記ダイアフラムリングに張設されている被測定振動板を気密的な空間が形成されるように配置し、上記定電圧交流信号発生部より上記ボイスコイルに交流信号を周波数可変として印加して上記発音振動板を振動させ、上記電圧測定手段により測定される上記ボイスコイルの両端間電圧が最大値を示すときの上記交流信号の周波数を上記被測定振動板の共振周波数として測定することを特徴とする振動板の張力測定方法。
【請求項2】
上記磁気回路には、大気側から上記発音振動板の背面側に通ずる空気通路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動板の張力測定方法。
【請求項3】
上記ダイナミックヘッドホンユニットは、上記発音振動板の周縁部と上記磁気回路を支持するユニットフレームを備え、上記ユニットフレームが上記開口部内に気密的に嵌合されるとともに、上記ユニットフレームの上記磁気回路を支持する円筒部が上記磁気回路の背面よりも突出しており、上記円筒部の端面に上記被測定振動板が気密的に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の振動板の張力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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