説明

振動検出装置及び振動検出方法

【課題】びびり周波数を正確に捉えることが可能で、ひいては一層精度の高い安定回転速度の算出をも図ることができる振動検出装置を提供する。
【解決手段】種々の周波数の音を出力可能な発音装置8を備え、当該発音装置8から、設定された検出範囲内において最大音圧となる信号成分に相当する周波数の音を出力し、作業者に振動音と出力音との比較を行わせるようにした。したがって、マイク2では回転中の回転軸3から発生する振動音を含む回転軸ハウジング1周辺に生じている音の音圧を検出してしまうものの、作業者は、その中から種々のノイズを除き、びびり振動に起因する振動音のびびり周波数を正確に捉えることができる。そして、該びびり周波数にもとづいて安定回転速度を算出することにより、従来よりもびびり振動の抑制効果の高い安定回転速度を求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具又はワークを回転させながら加工を行う工作機械において、加工中に発生するびびり振動を検出するための振動検出装置及び振動検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば工具を回転させてワークの表面を切削加工するような工作機械においては、工具の剛性が低い等の理由により、加工中にびびり振動が発生することがある。そこで、このびびり振動を検出するための技術として、たとえば特許文献1に記載の技術がある。これは、音圧を検出可能なマイクロフォン(以下、マイクと称す)を用いてびびり振動とその周波数(びびり周波数)を検出しようというものである。また、そのようにして検出したびびり周波数を用いて安定回転速度を求めるに際しては、たとえば特許文献2に開示されているような下記式(1)、(2)を用いればよいことも知られている。
安定回転速度={60×びびり周波数/工具刃数×(k値+1)} ・・・(1)
k値=60×びびり周波数/(現在の回転速度×工具刃数)の整数部分 ・・・(2)
尚、工具刃数は、たとえば回転軸としての主軸に装着されている工具の刃数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−517557号公報
【特許文献2】特開2007−44852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、加工中にはびびり振動とは異なる振動やノイズによって振動音に似た音が発生することがある。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、検出した振動及び周波数がびびり振動によるもの(すなわち、びびり周波数)であるか、それともびびり振動以外の振動やノイズによるものであるのかを判断することができないため、特許文献2に開示されている式(1)、(2)を用いたところで、正確な安定回転速度を求めることができないことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、びびり周波数を正確に捉えることが可能で、ひいては一層精度の高い安定回転速度の算出をも図ることができる振動検出装置及び振動検出方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じる時間軸上での振動を検出する振動検出手段と、前記振動検出手段により検出される前記時間軸上での振動をFFT解析して周波数軸上での振動を求める振動演算装置と、前記演算装置を操作するための入力装置とを備えた振動検出装置であって、前記周波数軸上において検出範囲を任意に設定可能な範囲設定装置と、前記周波数軸上での振動のうち、前記検出範囲内において振動が最大となる周波数の音を出力する発音制御装置とを備えたことを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項2に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じるびびり振動を検出するための振動検出方法であって、周波数軸上で検出範囲を任意に設定する第1工程と、前記回転軸に生じる時間軸上での振動を検出する第2工程と、前記時間軸上での振動をFFT解析して周波数軸上での振動を求める第3工程と、前記周波数軸上での振動のうち、前記検出範囲内において振動が最大となる周波数の音を出力する第4工程と、前記回転軸から発生しているびびり振動に起因する振動音と出力された音とが一致するか否かを判断し、一致している場合には出力された音の周波数を前記びびり振動に係るびびり周波数として特定する第5工程とを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、周波数軸上において検出範囲を任意に設定可能な範囲設定装置と、周波数軸上での振動のうち検出範囲内で振動が最大となる周波数の音を出力する発音制御装置とを備えているため、作業者は、検出範囲を任意に設定しながら、実際に生じているびびり振動の振動音と発音制御装置から出力される出力音とを比較することにより、正確なびびり周波数を捉えることができる。したがって、このようにして正確に捉えたびびり周波数にもとづいて安定回転速度を算出することにより、従来よりもびびり振動の抑制効果の高い安定回転速度を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】振動検出装置のブロック構成を示した説明図である。
【図2】振動検出制御を示したフローチャート図である。
【図3】表示装置における周波数軸上での音圧(振動)の表示態様を示した説明図である。
【図4】作業者により検出範囲が設定された状態を示した説明図である。
【図5】検出範囲の下限が変更された状態を示した説明図である。
【図6】検出範囲の上限が変更され、びびり周波数が特定された状態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態となる振動検出装置について、図面にもとづき詳細に説明する。
【0010】
図1は、振動検出装置4及び周辺装置のブロック構成を示した説明図である。
振動検出装置4は、回転軸ハウジング1に上下方向を軸として回転可能に備えられた回転軸3に生じる「びびり振動」を検出するためのものであって、回転中の回転軸3から発生する振動音を含む回転軸ハウジング1周辺に生じている音の音圧を検出するためのマイク2と、マイク2が接続され、該マイク2により検出される音のFFT解析を行い、回転軸ハウジング1周辺に生じている音の音圧と振動周波数との関係を求める演算装置5と、演算装置5において求められた音圧と振動周波数との関係を、たとえば図3に示すような態様で表示する表示装置6と、演算装置5に対して各種数値を入力したり、演算装置5を設定したりするための入力装置7と、演算装置5による制御のもと所定の振動音を発生させる発音装置8とを備えてなる。尚、9は、回転軸3の回転速度を変更したりして回転軸ハウジング1における加工を制御するNC装置であり、10は、該NC装置9を操作するための操作装置である。
【0011】
ここで、振動検出装置4を用いた「びびり振動」の振動検出作業、及びNC装置9等を用いての振動抑制作業について、図2のフローチャート図にしたがい説明する。
まず、加工を開始するよりも前に、作業者は、演算装置5においてマイク2で検出される振動音をFFT解析した後で後述の如くして発音装置8から発音させる際に参照する周波数の検出範囲を任意に設定する(S1)。その後、加工を開始し(S2)、びびり振動に起因する振動音の発生を認識すると、作業者は入力装置7を操作して、発音装置8から1kHzの音を出力させる(S3)。そして、作業者は、振動音と1kHzの出力音とを比較し(S4)、振動音が出力音よりも高い場合(S4でYES)、入力装置7を操作して検出範囲の下限を1kHzに変更する(S5)。一方、振動音が出力音よりも低い場合(S4でNO)、入力装置7を操作して検出範囲の下限を0.1kHzに変更する(S6)。
【0012】
一方、演算装置5では、マイク2で検出される音圧のFFT解析を行っており(S7)、上記S3〜S6の如くして検出範囲が設定されると、設定された検出範囲内において音圧が最大となる信号成分を見出し、該信号成分に相当する周波数の音を発音装置8から出力させる(S8)。すると、作業者は、振動音とS8で発音装置8から出力された出力音とを比較し(S9)、両者が一致していると(S9でYES)、発音装置8から出力されている出力音の周波数がびびり周波数であることになるため、出力音の周波数をびびり周波数と設定し(S13)、たとえば上記式(1)、(2)を用いて安定回転速度を算出するとともに、操作装置10によりNC装置9を介して回転軸3の回転速度を安定回転速度へ変更し、びびり振動の抑制を図る。
【0013】
また、作業者は、振動音とS8で発音装置8から出力された出力音とを比較した結果、両者が異なっている場合(S9でNO)、続いて振動音が出力音よりも高いか低いかを判断する(S10)。その結果、振動音が高い場合(S10でYES)、入力装置7を操作して検出範囲の下限を出力音の周波数よりも高い周波数へと変更する(S11)一方、振動音が出力音よりも低い場合(S10でNO)、検出範囲の上限を出力音の周波数よりも低い周波数へと変更する(S12)。そして、新たな検出範囲において発音装置8から音を出力させ、振動音と出力音とが一致する(S9でYESとなる)までS7〜S12までを繰り返す。
【0014】
尚、演算装置5では、S7で行うマイク2で検出される音圧のFFT解析の結果を、ピークホールド波形21として、図3で示すような態様で表示装置6に表示させている。尚、図3中における22は検出範囲の下限を、23は検出範囲の上限を夫々示しており、当該検出範囲内において音圧が最大となる信号成分24に相当する周波数の音が発音装置8から出力されることになる。また、25は、作業者に信号成分24を視認させるためのマーカーである。
【0015】
上記振動検出作業及び振動抑制作業を、図4〜図6にもとづいて、より具体的に記載すると、たとえばS1において図4に示す如く、検出範囲の下限を0.1kHz、上限を10kHzに設定し、S2において加工を開始したとする。しかしながら、この検出範囲のままでは、低周波の暗騒音(図4中の26)が最大音圧となる信号成分となるため、この信号成分に相当する周波数の音が発音装置8から出力されてしまう。そこで、1kHzの音を出力して(S3)暗騒音26と比較させる(S4)ことにより、図5に示す如く検出範囲の下限を1kHzへと変更させ(S5)、暗騒音26を検出範囲から除く。ただ、検出範囲の下限を1kHzとしただけでは、サイレンなどのびびり振動以外に起因するノイズ(図4中の27)が最大音圧となるため、S8では当該ノイズと同じ周波数の音が発音装置8から出力されることになり、S9では振動音と出力音とが一致しないと判断される。そこで、当該ノイズ27を検出範囲から除くべく、S12において検出範囲の上限がノイズ27の周波数よりも低い周波数へと変更される。すると、検出範囲が図6に示すような範囲となり、びびり振動に起因する周波数、すなわちびびり周波数を正確に得ることができ、2回目のS8ではびびり周波数の音が発音装置8から出力されることになる。したがって、S9で振動音と出力音との一致が確認され、該びびり周波数にもとづいて最適な安定回転速度の算出が可能となるのである。
【0016】
以上のような振動検出装置4及び振動検出方法によれば、種々の周波数の音を出力可能な発音装置8を備えており、当該発音装置8から、任意に設定された検出範囲内において最大音圧となる信号成分に相当する周波数の音を出力し、作業者に振動音と出力音との比較を行わせるようになっている。したがって、マイク2では回転中の回転軸3から発生する振動音を含む回転軸ハウジング1周辺に生じている音の音圧を検出してしまうものの、作業者は、その中から種々のノイズを除き、びびり振動に起因する振動音のびびり周波数を正確に捉えることができる。そして、該びびり周波数にもとづいて安定回転速度を算出することにより、従来よりもびびり振動の抑制効果の高い安定回転速度を求めることができる。
【0017】
なお、本発明に係る振動検出装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、振動検出手段、演算装置における振動検出制御、発音装置からの音の出力態様等に係る構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0018】
たとえば、上記実施形態では、回転軸の振動を検出するための手段としてマイク2を採用しているが、マイク2に代えて加速度ピックアップや変位計を採用し、音圧ではなく振動加速度や振動変位を検出し、FFT解析により周波数軸上での振動加速度や振動変位を求め、上記同様に、振動加速度や振動変位が最大となる周波数で音を出力させるように構成することも可能である。
また、上記実施形態では、S3で1kHzの音を発音装置8から出力するように構成しているが、作業者が熟練者であるような場合を考えて、1kHzの音を出力することなく検出範囲の下限を設定するようにしてもよく、1kHzの音を出力させるための操作ボタンを設ける等することにより、1kHzの音を出力させるか否かは作業者により選択可能に構成することも可能である。尚、S3で出力させる音が1kHzに拘らないことは言うまでもないし、S5やS6において検出範囲の下限を何kHzとするか等についても適宜変更可能である。
【0019】
さらに、振動検出装置4にNC装置9等を組み込み、びびり周波数が特定されると、自動的に安定回転速度を算出し、回転軸3の回転速度を安定回転速度へ変更するように構成する、すなわち振動検出装置4に回転速度制御機能を含ませてもよい。
さらにまた、発音装置8から出力する音に関しては、単一音である必要はなく、バンドパスフィルタを用いて、最大音圧となる信号成分を中心に、その前後の周波数範囲外の音を除去した音を発音装置8から出力させるように構成してもよい。
またさらに、S3〜S6までの処理を省略し、作業者が予め設定した検出範囲をもとに音圧が最大となる信号成分を判定するように構成してもよい(すなわち、所定の周波数での音を出力して、検出範囲の下限を変更するという処理を省略してもよい)。
加えて、上記振動検出制御を実加工中に行う必要はなく、試験加工等を行って予めデータを取得し、実加工に活かしたりしても何ら問題はない。
【符号の説明】
【0020】
1・・回転軸ハウジング、2・・マイク(振動検出手段)、3・・回転軸、4・・振動検出装置、5・・演算装置(振動演算装置、発音制御装置)、6・・表示装置、7・・入力装置(範囲設定装置)、8・・発音装置(発音制御装置)、9・・NC装置、10・・操作装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じる時間軸上での振動を検出する振動検出手段と、前記振動検出手段により検出される前記時間軸上での振動をFFT解析して周波数軸上での振動を求める振動演算装置と、前記演算装置を操作するための入力装置とを備えた振動検出装置であって、
前記周波数軸上において検出範囲を任意に設定可能な範囲設定装置と、
前記周波数軸上での振動のうち、前記検出範囲内において振動が最大となる周波数の音を出力する発音制御装置とを備えたことを特徴とする振動検出装置。
【請求項2】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸に生じるびびり振動を検出するための振動検出方法であって、
周波数軸上で検出範囲を任意に設定する第1工程と、
前記回転軸に生じる時間軸上での振動を検出する第2工程と、
前記時間軸上での振動をFFT解析して周波数軸上での振動を求める第3工程と、
前記周波数軸上での振動のうち、前記検出範囲内において振動が最大となる周波数の音を出力する第4工程と、
前記回転軸から発生しているびびり振動に起因する振動音と出力された音とが一致するか否かを判断し、一致している場合には出力された音の周波数を前記びびり振動に係るびびり周波数として特定する第5工程と
を実行することを特徴とする振動検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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