説明

振動波アクチュエータ、レンズ鏡筒及びカメラ

【課題】圧電体と弾性体との間の良好な接合が確保された振動波アクチュエータ、レンズ鏡筒及びカメラを提供する。
【解決手段】本発明の振動波アクチュエータ10は、圧電体13と、該圧電体13の振動により振動波が生じる弾性体12とを備え、前記圧電体13は前記弾性体12よりも薄く、前記弾性体12と前記圧電体13とは超音波接合により接合されていること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波アクチュエータ、レンズ鏡筒及びカメラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波モータ等の振動波アクチュエータは、圧電体の励振により弾性体を振動させることにより、移動子を移動させるものである。このような振動波アクチュエータにおいて圧電体と弾性体との間は、エポキシ等の樹脂性の接着剤で接合されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−233559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、樹脂性の接着剤は、圧電体で発生された振動を弾性体に伝える際にその振動を減衰させるため、振動効率が低下するという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、圧電体と弾性体との間の良好な接合が確保された振動波アクチュエータ、レンズ鏡筒及びカメラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0007】
請求項1に記載の発明は、圧電体(13)と、該圧電体(13)の振動により振動波が生じる弾性体(12)とを備え、前記圧電体(13)は前記弾性体(12)よりも薄く、前記弾性体(12)と前記圧電体(13)とは超音波接合により接合されていること、を特徴とする振動波アクチュエータ(10)である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の振動波アクチュエータ(10)であって、前記圧電体(13)は、単層の圧電体(13)であること、を特徴とする振動波アクチュエータ(10)である。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の振動波アクチュエータ(10)であって、前記圧電体(13)の前記弾性体(12)に対する面(13a)には、前記圧電体(13)に電力を供給するための電極(13d)が前記面(13a)の略全域にわたって設けられていること、を特徴とする振動波アクチュエータ(10)である。
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の振動波アクチュエータ(10)であって、前記圧電体(13)の前記弾性体(12)に対向する面(13a)の縁部には、前記圧電体(13)に電力を供給するための電極(13d)が設けられていること、を特徴とする振動波アクチュエータ(10)である。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動波アクチュエータ(10)を備えること、を特徴とするレンズ鏡筒(3)である。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の振動波アクチュエータ(10)を備えること、を特徴とするカメラ(1)である。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圧電体と弾性体との間の良好な接合が確保された振動波アクチュエータ、レンズ鏡筒及びカメラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態の超音波モータを備えるカメラの概略図である。
【図2】超音波モータの断面図である。
【図3】圧電体のXY平面図であり、図3(a)は圧電体の弾性体側面を示す図、図3(b)は、圧電体のFPC側面を示す図である。
【図4】超音波接合装置の接合部の拡大図である。
【図5】比較形態における圧電体のXY平面図であり、図5(a)は圧電体の弾性体側面を示す図、図5(b)は圧電体のFPC側面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下に示す各図には、説明と理解を容易にするために、XYZ直交座標系を設けた。この座標系では、撮影者が光軸Aを水平として横長の画像を撮影する場合のカメラの位置(以下、正位置という)において撮影者から見て左側に向かう方向をXプラス方向とする。また、正位置において上側に向かう方向をYプラス方向とする。さらに、正位置において被写体に向かう方向をZプラス方向とする。
【0011】
図1は本実施形態の超音波モータ10を備えるカメラ1の概略図である。
カメラ1は、撮像素子8を有するカメラボディ2と、レンズ7を有するレンズ鏡筒3とを備えている。
レンズ鏡筒3は、カメラボディ2に着脱可能な交換レンズである。なお、本実施形態では、レンズ鏡筒3は、交換レンズである例を示したが、これに限らず、例えば、カメラボディと一体型のレンズ鏡筒であってもよい。
【0012】
レンズ鏡筒3は、レンズ7、カム筒6、ギア4,5、超音波モータ10等を備えている。本実施形態では、超音波モータ10は、カメラ1のフォーカス動作時にレンズ7を駆動する駆動源として用いられており、超音波モータ10から得られた駆動力は、ギア4,5を介してカム筒6に伝えられる。レンズ7は、カム筒6に保持されており、超音波モータ10の駆動力により、光軸方向へ移動して、焦点調節を行うフォーカスレンズである。
【0013】
レンズ鏡筒3内に設けられたレンズ群(レンズ7を含む)によって、撮像素子8の撮像面に被写体像が結像されると、その結像された被写体像が電気信号に変換され、変換された信号をA/D変換することによって、画像データが得られる。
【0014】
図2は、超音波モータ10の断面図である。超音波モータ10は、振動子11、移動子15、出力軸18、加圧部材19等を備え、振動子11側を固定とし、移動子15を回転駆動する形態となっている。
振動子11は、弾性体12と、弾性体12に接合された圧電体13とを有する略円環形状の部材である。なお、弾性体12と圧電体13との接合については後述する。
【0015】
弾性体12は、ニッケルメッキされた亜鉛ダイキャストで製造された略円環形状の部材である。弾性体12は、櫛歯部12a、ベース部12b、フランジ部12cを有する。
櫛歯部12aは、圧電体13が接合される面とは反対側の面に、複数の溝を切って形成され、この櫛歯部12aの先端面は、移動子15に加圧接触され、移動子15を駆動する駆動面となる。
ベース部12bは、弾性体12の周方向に連続した部分であり、ベース部12bの櫛歯部12aとは反対側の面に、圧電体13が接合されている。
フランジ部12cは、弾性体12の内径方向に突出した鍔状の部分であり、ベース部12bの厚さ方向の中央に配置されている。このフランジ部12cにより、振動子11は、固定部材16に固定されている。
【0016】
圧電体13は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する電気機械変換素子であって、弾性体12より厚みが薄い単層の圧電素子からなる。
図3は、圧電体13のXY平面図であり、図3(a)は圧電体13の弾性体側面13aを示す図であり、図3(b)は、弾性体側面13aと反対側の面(以下、FPC側面という)13cを示す図である。
【0017】
圧電体13は、略円環形状の部材である。圧電体13の弾性体側面13aには、全面にニッケルがニッケル電極13dとして塗布されている。
圧電体13におけるFPC側面13cには、A相、B相の2つの相の電気信号が入力される電極A1〜A4,B1〜B4が形成され、A相とB相との間の1/4波長分間隔が設けられた部分には、グランドGが設けられている。電極A1〜A4,B1〜B4、グランドGは、圧電体13のFPC側面13cの表面に、スクリーン印刷によって銀ペーストにより電極が形成されている。
圧電体13は、分極処理され、電極A1〜A4,B1〜B4及びグランドGの間は圧電体13の素地部13eとなっている。
【0018】
図2に戻り、フレキシブルプリント基板14は、その配線が圧電体13のFPC側面13cにおける各相の電極に接続されている。
移動子15は、アルミニウム等の軽金属によって形成され、弾性体12の駆動面に生じる進行波によって回転駆動される部材である。
出力軸18は、略円柱形状の部材である。出力軸18は、一方の端部がゴム部材24を介して移動子15に接しており、移動子15と一体に回転するように設けられている。
【0019】
加圧部材19は、振動子11と移動子15とを加圧接触させる加圧力を発生する部材であり、ギア4とベアリング受け部材21との間に設けられている。
ギア4は、出力軸18のDカットに嵌まるように挿入され、Eリング等のストッパ22で固定され、回転方向及び軸方向に出力軸18と一体となるように設けられている。ギア4は、出力軸18の回転とともに回転することにより、ギア5(図1参照)に駆動力を伝達する。
【0020】
また、ベアリング受け部材21は、ベアリング17の内径側に配置され、ベアリング17は、固定部材16の内径側に配置された構造となっている。
加圧部材19は、振動子11を移動子15側へ、出力軸18の軸方向に加圧しており、この加圧力によって、移動子15は、振動子11の駆動面に加圧接触し、回転駆動される。
【0021】
本実施形態で、圧電体13と弾性体12とは超音波接合装置100により接合されている。図4は、超音波接合装置100の接合部101の拡大図であり、圧電体13と弾性体12とを挟持した状態を示している。超音波接合装置100は、図示するように、固定台102と、その固定台102に対して超音波振動する超音波振動子103とを備える。
【0022】
この超音波接合装置100による圧電体13と弾性体12との接合は、以下のように行う。
まず、圧電体13の一面にニッケル電極13dを塗布する。
そして、超音波接合装置100の固定台102の上に弾性体12を載置する。
その上に圧電体13を、ニッケル電極13dが塗布された側を下にして配置する。
圧電体13の上に超音波振動子103を載せて超音波振動子103を固定台102側に加圧力Pで押圧する。
加圧力Pで押圧された状態で、超音波振動子103を超音波振動させる。
この超音波振動により、ニッケル電極13d及び弾性体12の接合界面の酸化被膜や汚れが取り除かれ、両者が超音波接合される。超音波接合によると、結晶粒同士が原子間距離になるまで接近し、強力な引力が働いて冶金結合を生成し、強固な結合力を得ることができる。
【0023】
以上、本実施形態によると、以下の効果を有する。
(1)図5は、上述の実施形態に対する比較形態における圧電体113のXY平面図であり、図3に対応している。図5(a)は圧電体113の弾性体側面113aを示す図であり、図5(b)は、圧電体113のFPC側面113cを示す図である。
【0024】
比較形態においては、図5(a)に示すように、圧電体113における弾性体側面113aに、スクリーン印刷によって銀ペースト131が塗布されて電極が形成されている。そして、圧電体113の弾性体側面113aに、接着剤が塗布され、圧電体113と弾性体とが接着される。このとき、圧電体113の弾性体側面113aは、弾性体に押し付けられることにより、銀ペースト131が塗布されている部分の一部が、弾性体と直接接触し、圧電体113と弾性体112との間の電気接続が確保される。
【0025】
しかし、この際、圧電体113と弾性体との間の電気接続を確保しつつ、両者間の接着も確実に行う必要がある。このため、圧電体113の外周端と内周端には、素地部132が設けられている。この素地部132は、圧電体13の素地が露出している部分であり、圧電体113と弾性体とを接着剤によって接合する場合、接着剤がこの素地部132に入り込むことにより投錨効果(アンカー効果)が得られ、接着強度が確保される。
【0026】
このように素地部132は、接着強度を確保するために必要な部分であるが、銀ペースト131が塗布されていないため、分極することができない。このため、素地部132の面積だけ、駆動信号が印加される面積が減少し、駆動効率が劣ることになる。
【0027】
これに対して本実施形態では、ニッケル電極が接着剤としての機能を有している。このため、電極部と素地部とを別々に設ける必要がなく、弾性体側面113aの全面積を電極として用いることができ、高い駆動効率を得ることができる。
【0028】
(2)上述の図5で示す比較形態の場合、不導体の接着剤が圧電体113と弾性体12との間に介在しているため、導通不具合が生じる可能性がある。しかし、本実施形態によると、圧電体113と弾性体12とがニッケル電極を介して金属により接合されるため、導通が切断される可能性が少なく、良好な導通が確保される。
【0029】
(3)上述の図5で示す比較形態の場合、接着剤が弾性体12と圧電体113との間に介在している。このため、圧電体13で発生した振動は弾性体12に伝達される際に、いくらか減衰する。しかし、本実施形態によると、圧電体13と弾性体12とがニッケル電極を介して金属により接合されるため、振動の減衰が小さい。
【0030】
(4)また、樹脂等の接着剤により弾性体12と圧電体113とを接着した場合、樹脂性接着剤は温度変化や経年によって劣化する可能性がある。しかし、本実施形態のように金属による超音波接合の場合、接合部分が温度変化や経年により劣化する可能性が低いため、超音波モータの耐久性が向上する。
【0031】
(5)さらに、接着剤を用いて接着する場合、接着剤の量が多いと弾性体12と圧電体113と隙間から接着剤がはみ出し、また、接着剤の量が少なければ十分な接着強度を確保することができない。このため接着剤の量の調整が容易ではない。しかし、本実施形態のように、金属による超音波接合の場合、このようなことがない。
【0032】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)本実施形態で弾性体12は、ニッケルメッキされた亜鉛ダイキャストで製造したが、これに限定されず、ニッケル又はアルミニウム等の他の金属であってもよい。
(2)また、本実施形態では、圧電体13の弾性体側面13aに塗布される電極としてニッケルを用いたが、これに限定されず、超音波接合に適するものであれば、アルミニウム,胴,金またはそれらの合金等の他の材質であってもよい。
(3)本実施形態で、圧電体13のFPC側面の電極は銀ペーストを用いたが、これに限定されず、弾性体側面13aの電極と同様にニッケルであってもよく、またアルミニウム,胴,金またはそれらの合金等であってもよい。
(4)本実施形態で圧電体13及び弾性体12は円環形状を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、矩形、楕円、円形等他の形状であってもよい。
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0033】
1:カメラ、3:レンズ鏡筒、10:超音波モータ、12:弾性体、13:圧電体、13d:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
該圧電体の振動により振動波が生じる弾性体とを備え、
前記圧電体は前記弾性体よりも薄く、前記弾性体と前記圧電体とは超音波接合により接合されていること、
を特徴とする振動波アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の振動波アクチュエータであって、
前記圧電体は、単層の圧電体であること、
を特徴とする振動波アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2に記載の振動波アクチュエータであって、
前記弾性体の前記弾性体に対する面には、前記圧電体に電力を供給するための電極が前記面の略全域にわたって設けられていること、
を特徴とする振動波アクチュエータ。
【請求項4】
請求項2に記載の振動波アクチュエータであって、
前記圧電体の前記弾性体に対向する面の縁部には、前記圧電体に電力を供給するための電極が設けられていること、
を特徴とする振動波アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動波アクチュエータを備えること、
を特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の振動波アクチュエータを備えること、
を特徴とするカメラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−15541(P2011−15541A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157850(P2009−157850)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】