説明

振動片、ジャイロセンサー及び電子機器

【課題】角速度などの物理量の検出精度を向上させることが可能な振動片、この振動片を備えたジャイロセンサー及び電子機器の提供。
【解決手段】センサー素子1は、互いに直交するY軸方向とX軸方向とにより規定される平面に沿った主面10a,10bを有する平板状の基部10と、基部10からY軸方向に沿って延設された一対の駆動用振動腕11a,11bと、基部10を挟んで駆動用振動腕11a,11bの反対側に、基部10からY軸方向に沿って延設された一対の検出用振動腕12a,12bと、を備え、基部10のY軸方向の長さをL1、一対の駆動用振動腕11a,11bのY軸方向の長さをL2としたときに、1.2≦L1/L2≦4.2、であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動片、この振動片を備えたジャイロセンサー及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、角速度などの物理量を検出する際に用いられる振動片としては、連結片(以下、基部という)と、基部の両端にて上方に延設された一対の励振用振動片(以下、駆動用振動腕という)と、基部の両端にて下方に延設された一対の検出用振動片(以下、検出用振動腕という)と、を備え、平面形状がH型をした振動体(以下、振動片という)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この振動片は、各振動腕の延設方向回りに角速度が加わったときに、一対の検出用振動腕が厚さ方向において互いに逆方向(逆相)に振動することにより、各電気信号(各検出信号)の差信号(差分)が大きくなり、角速度の検出精度が良好になるとされている。
また、この振動片は、一対の駆動用振動腕の振動に起因した角速度が加わらない状態における一対の検出用振動腕の厚さ方向の不要振動(以下、漏れ振動という)が、互いに同方向(同相)且つ同程度の振動となることにより、各電気信号(各漏れ信号)の差分が殆どなくなり、漏れ振動による角速度の検出精度への悪影響を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−329444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記振動片は、製造時の形状ばらつき(例えば、水晶を用いた場合のエッチング異方性や、フォトリソグラフィー技術を用いたエッチング時のマスクの位置ずれなどに起因する形状ばらつき)により、一対の検出用振動腕が完全な同一形状に形成されないことがある。
これにより、上記振動片は、漏れ振動が同相であっても漏れ振動の程度(例えば、振幅)が各検出用振動腕で異なったり、漏れ振動が同相ではなく逆相となったりする場合がある。
これらにより、上記振動片は、角速度が加わらない状態における各漏れ信号の差分が大きくなり、この大きくなった差分が、角速度が加わった状態における各検出信号の本来の差分に上乗せされることから、角速度の検出精度が悪化するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例にかかる振動片は、第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向に平行な平面に沿った主面を有する平板状の基部と、前記基部から前記第1方向に沿って延設された一対の駆動用振動腕と、前記基部を挟んで前記駆動用振動腕の反対側に、前記基部から前記第1方向とは反対の方向に沿って延設された一対の検出用振動腕と、を備え、前記基部の前記第1方向の長さをL1、一対の前記駆動用振動腕の前記第1方向の長さをL2としたときに、1.2≦L1/L2≦4.2、であることを特徴とする。
【0008】
これによれば、振動片は、基部の第1方向の長さをL1、一対の駆動用振動腕の第1方向の長さをL2としたときに、1.2≦L1/L2≦4.2、であることから、一対の駆動用振動腕の振動に起因した、例えば、角速度などの物理量が加わらない状態における一対の検出用振動腕の漏れ振動を抑制することができる。
この結果、振動片は、例えば、角速度などの物理量の検出精度を向上させることができる。
なお、上記数式は、発明者らのシミュレーションによる漏れ振動の解析結果から得られた知見に基づくものである。
【0009】
[適用例2]上記適用例にかかる振動片において、1.35≦L1/L2≦4.2、であることが好ましい。
【0010】
これによれば、振動片は、1.35≦L1/L2≦4.2、であることから、一対の駆動用振動腕の振動に起因した、例えば、角速度などの物理量が加わらない状態における一対の検出用振動腕の漏れ振動を更に抑制することができる。
なお、この数式は、発明者らのシミュレーションを用いた漏れ振動の解析結果から得られた知見に基づくものである。
【0011】
[適用例3]上記適用例にかかる振動片において、一対の前記駆動用振動腕及び前記検出用振動腕の先端から前記第1方向及び前記第1方向とは反対の方向に沿って延設され、前記第2方向の幅が各前記振動腕の前記先端における前記第2方向の幅よりも広い質量部を備えていることが好ましい。
【0012】
これによれば、振動片は、一対の駆動用振動腕及び検出用振動腕の先端から延設された質量部を備えていることから、質量部の質量効果によって各振動腕を長くすることなく、角速度などの物理量の検出に適した比較的低周波数で振動させることができる。
この結果、振動片は、基部の第1方向のサイズアップに対して、各振動腕の第1方向の長さを抑制することにより、全体として大型化を抑制することが可能となる。
【0013】
[適用例4]本適用例にかかるジャイロセンサーは、上記適用例のいずれかに記載の振動片を備えていることを特徴とする。
【0014】
これによれば、本構成のジャイロセンサーは、上記適用例のいずれかに記載の振動片を備えていることから、上記適用例のいずれかに記載の効果が反映されたジャイロセンサーを提供することができる。
【0015】
[適用例5]本適用例にかかる電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片を備えていることを特徴とする。
【0016】
これによれば、本構成の電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片を備えていることから、上記適用例のいずれかに記載の効果が反映された電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態のセンサー素子の概略構成を示す模式平面図。
【図2】センサー素子の動作に関わる模式回路図。
【図3】センサー素子の動作について説明する模式斜視図であり、(a)は駆動振動状態を示す斜視図、(b)は角速度が加わった状態における検出振動状態を示す斜視図。
【図4】基部のプラスY軸方向の長さと駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さとの比と、漏れ振動の程度との関係をシミュレーションにより解析した結果を表したグラフ。
【図5】基部のプラスY軸方向の長さと駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さとの比と、検出感度との関係をシミュレーションにより解析した結果を表したグラフ。
【図6】基部のプラスY軸方向の長さと駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さとの比と、漏れ振動の程度との関係をシミュレーションにより解析した結果を表したグラフ。
【図7】基部のプラスY軸方向の長さと駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さとの比と、検出感度との関係をシミュレーションにより解析した結果を表したグラフ。
【図8】第2実施形態のジャイロセンサーの概略構成を示す模式断面図。
【図9】第3実施形態の携帯電話を示す模式斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
(第1実施形態)
最初に、振動片の一例としてのセンサー素子について説明する。
図1は、第1実施形態のセンサー素子の概略構成を示す模式平面図である。なお、分かり易くするために、各構成要素の寸法比率は実際と異なる。
【0020】
図1に示すように、センサー素子1は、第1方向としてのプラスY軸方向及びプラスY軸方向と直交する第2方向としてのプラスX軸方向に平行な平面(XY平面)に沿った主面10a,10bを有する矩形平板状の基部10と、基部10のプラスY側の縁からプラスY軸方向に沿って延設された一対の駆動用振動腕11a,11bと、基部10を挟んで一対の駆動用振動腕11a,11bの反対側に、基部10のマイナスY側からマイナスY軸方向に沿って延設された一対の検出用振動腕12a,12bと、を備えている。
ここで、センサー素子1は、基部10のプラスY軸方向の長さをL1、一対の駆動用振動腕11a,11bのY軸方向の長さをL2としたときに、1.2≦L1/L2≦4.2、となるように形成されている。
【0021】
センサー素子1は、一対の駆動用振動腕11a,11b及び一対の検出用振動腕12a,12bのそれぞれの先端からプラスY軸方向及びマイナスY軸方向に沿って延設され、プラスX軸方向の幅が駆動用振動腕11a,11b及び検出用振動腕12a,12bの先端におけるプラスX軸方向の幅よりも広い質量部13a,13b,14a,14bを備えている。
【0022】
センサー素子1は、圧電材料である水晶を基材(主要部分を構成する材料)として形成されている。水晶は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸及び光学軸と呼ばれるZ軸を有している。
そして、センサー素子1は、水晶結晶軸において直交するX軸及びY軸で規定される平面に沿って切り出されて平板状に加工され、平面と直交するZ軸方向に所定の厚さを有している。なお、所定の厚さは、発振周波数(共振周波数)、外形サイズ、加工性などにより適宜設定される。
【0023】
また、センサー素子1を構成する平板は、水晶からの切り出し角度の誤差を、X軸、Y軸及びZ軸の各々につき多少の範囲で許容できる。例えば、平板は、X軸を中心に0度から7度の範囲で回転して切り出したものを使用することができる。これは、Y軸及びZ軸についても同様である。
センサー素子1は、フォトリソグラフィー技術を用いたエッチング(ウエットエッチングまたはドライエッチング)により形成されている。なお、センサー素子1は、1枚の水晶ウエハーから複数個取りすることが可能である。
なお、センサー素子1は、図示しないが、平面視において、一対の駆動用振動腕11a,11b及び一対の検出用振動腕12a,12bの基部10との接続部分、質量部13a,13b,14a,14bの駆動用振動腕11a,11b及び検出用振動腕12a,12bとの接続部分には、応力緩和の観点から、曲線部を設けることが好ましい。
【0024】
ここで、センサー素子1の動作について説明する。
図2は、センサー素子の動作に関わる模式回路図である。図3は、センサー素子の動作について説明する模式斜視図である。図3(a)は、駆動振動状態を示す斜視図であり、図3(b)は、角速度が加わった状態における検出振動状態を示す斜視図である。
【0025】
図2、図3(a)に示すように、角速度が加わらない状態において、センサー素子1の駆動用振動腕11a,11bの図示しない駆動用電極に発振源15から交流電圧の駆動信号が印加されることにより、駆動用振動腕11a,11bは、X軸方向(主面10aに沿った方向)に屈曲振動する(面内振動ともいう)。
詳述すると、駆動用振動腕11a,11bは、X軸方向において、図3(a)で黒矢印、白矢印で示すように、互いに離れる方向と、互いに近づく方向との屈曲振動を交互に繰り返す。つまり、駆動用振動腕11a,11bは、互いに逆方向(逆相)に所定の周波数で屈曲振動している。本実施形態では、駆動用振動腕11a,11bは、約100kHzで屈曲振動している。
【0026】
次に、図3(b)に示すように、この駆動振動状態で、センサー素子1にY軸回りの角速度ωが加わると(センサー素子1がY軸回りに回転すると)、センサー素子1の駆動用振動腕11a,11bには、コリオリ力が作用し、駆動用振動腕11a,11bがZ軸方向(主面10aに直交する方向)に屈曲振動する(面外振動、ウオークモード振動ともいう)。
センサー素子1は、この駆動用振動腕11a,11bの面外振動に対して、検出用振動腕12a,12bが面外振動モードで共振し、Z軸方向に屈曲振動する。
詳述すると、駆動用振動腕11a,11b及び検出用振動腕12a,12bは、Z軸方向において、図3(b)で黒矢印、白矢印で示すように、互いに逆方向(逆相)に駆動振動の周波数に等しい約100kHzで屈曲振動する。なお、Z軸方向の屈曲振動の振幅は、コリオリ力の大きさに応じて変化する。
【0027】
図2に示すように、センサー素子1は、この検出用振動腕12a,12bの図示しない検出用電極に生じる検出用振動腕12aの電気信号(電圧)と、検出用振動腕12bの電気信号(電圧)との差分を、取り出し回路16で検出信号として取り出し、この検出信号によって角速度を検出する構成となっている。なお、この検出信号の大きさは、コリオリ力の大きさに応じて変化する。
この際、検出用振動腕12aと検出用振動腕12bとでは、振動方向が互いに逆であることから、例えば、検出用振動腕12aに生じる電圧が+電位のときに、検出用振動腕12bに生じる電圧は−電位となり、検出用振動腕12aに生じる電圧が−電位のときに、検出用振動腕12bに生じる電圧は+電位となり、相対的に両者の電位差(差分)は大きくなる。
そして、センサー素子1は、前述した角速度が加わらない状態における検出用振動腕12a,12bの漏れ振動(Z軸方向を主体とした不要振動)を抑制できれば、漏れ振動に起因して生じる電気信号である漏れ信号が検出信号に上乗せされることなく、角速度の検出精度を向上させることができることとなる。
【0028】
検出用振動腕12a,12bの漏れ振動は、駆動用振動腕11a,11bの駆動振動における振動成分のうち、面外振動成分(Z軸方向の振動成分)が、平板状であることによりZ軸方向の剛性が弱い基部10を介して検出用振動腕12a,12bに伝播し、検出用振動腕12a,12bを面外振動モードで励振して、Z軸方向に振動させているために生じると考えられる。
なお、駆動用振動腕11a,11bの駆動振動における振動成分に、面外振動成分が存在するのは、駆動用振動腕11a,11bのX軸方向に沿った断面形状が、水晶のエッチング異方性、エッチング時のマスクの位置ずれなどにより完全な矩形形状に形成されないことや、駆動信号の印加により生じる電界の強度が、駆動用振動腕11a,11bの部位(水晶結晶軸に対する向きの違い)によって微妙に異なることなどに起因する。
【0029】
これを踏まえて、本実施形態では、基部10のプラスY軸方向の長さをL1、一対の駆動用振動腕11a,11bのプラスY軸方向の長さをL2としたときに、1.2≦L1/L2≦4.2、となるようにセンサー素子1を形成することにより、検出用振動腕12a,12bの漏れ振動を格段に低減(抑制)する効果を得ることができた。なお、上記数式は、発明者らのシミュレーションによる漏れ振動の解析結果から得られた知見に基づくものである。
【0030】
ここで、センサー素子1における検出用振動腕12a,12bの漏れ振動の低減効果について図を用いて詳述する。
図4は、基部のプラスY軸方向の長さと駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さとの比と、検出用振動腕の漏れ振動の程度との関係をシミュレーションにより解析した結果を表したグラフである。図4では、横軸が基部のプラスY軸方向の長さL1と駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さL2との比(L1/L2)を示し、縦軸がL1/L2=0.5を基準としたときの検出用振動腕の漏れ振動の程度を示す。なお、L1/L2=0.5は従来のセンサー素子における平均的な設定値である。
【0031】
図4に示すように、センサー素子1は、L1/L2を1.2以上にすると、L1/L2=0.5(従来構成)と比較して、漏れ振動の程度が1/10以下になり、L1/L2を2.4以上にすると漏れ振動の程度が1/100以下になり、L1/L2を3.6以上にすると漏れ振動の程度が1/1000以下になる。以降、センサー素子1は、L1/L2を大きくするに連れて漏れ振動の程度が小さくなるが、小型化対応や量産製造対応などの観点から、L1/L2を4.2以下にすることが現実的と考えられる。
なお、漏れ振動が低減する要因としては、基部10のプラスY軸方向の長さが長くなることにより、駆動用振動腕11a,11bの駆動振動における面外振動成分の、基部10を介した検出用振動腕12a,12bへの伝播が弱くなるためと考えられる。
【0032】
ここで、センサー素子1の基部10のプラスY軸方向の長さを長くすることによる検出用振動腕12a,12bの検出感度への影響について説明する。
図5は、基部のY軸方向の長さと駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さとの比と、検出用振動腕の検出感度との関係をシミュレーションにより解析した結果を表したグラフである。図5では、横軸が基部のプラスY軸方向の長さL1と駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さL2との比(L1/L2)を示し、縦軸が検出用振動腕の検出感度(ppm/dps)を示す(値が大きいほど感度が高い)。
図5に示すように、センサー素子1の検出用振動腕12a,12bの検出感度は、L1/L2が従来構成(L1/L2=0.5)より大きくなっても低下しないことが分かる(却って、L1/L2が大きくなるに連れて検出感度が向上している)。
【0033】
上述したように、第1実施形態のセンサー素子1は、基部10のプラスY軸方向の長さをL1、一対の駆動用振動腕11a,11bのプラスY軸方向の長さをL2としたときに、1.2≦L1/L2≦4.2、となるように形成されている。
このことから、センサー素子1は、一対の駆動用振動腕11a,11bの駆動振動に起因した、角速度が加わらない状態における一対の検出用振動腕12a,12bの漏れ振動を、従来構成と比較して格段に抑制(低減)することができる。この際、センサー素子1は、検出用振動腕12a,12bの検出感度を低下させることがない。
この結果、センサー素子1は、角速度の検出感度を低下させることなく検出精度を向上させることができる。
【0034】
また、センサー素子1は、一対の駆動用振動腕11a,11b及び一対の検出用振動腕12a,12bの先端から延設された質量部13a,13b,14a,14bを備えていることから、質量部13a,13b,14a,14bの質量効果によって駆動用振動腕11a,11b及び検出用振動腕12a,12bを長くすることなく、角速度の検出に適した比較的低周波数(ここでは、約100kHz)で振動させることができる。
この結果、センサー素子1は、基部10のプラスY軸方向のサイズアップに対して、駆動用振動腕11a,11b及び検出用振動腕12a,12bのプラスY軸方向の長さを抑制することにより、全体として大型化を抑制することが可能となる。
【0035】
なお、センサー素子1は、駆動用振動腕11a,11bの駆動振動を、約50kHzとしてもよい。このとき、センサー素子1は、基部10のプラスY軸方向の長さをL1、一対の駆動用振動腕11a,11bのプラスY軸方向の長さをL2としたときに、1.35≦L1/L2≦4.2、となるように形成されていることが好ましい。なお、上記数式は、発明者らのシミュレーションによる漏れ振動の解析結果から得られた知見に基づくものである。
【0036】
ここで、駆動振動を約50kHzとしたときの、センサー素子1における漏れ振動の低減効果について図を用いて説明する。
図6は、基部のプラスY軸方向の長さと駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さとの比と、検出用振動腕の漏れ振動の程度との関係をシミュレーションにより解析した結果を表したグラフである。図6では、横軸が基部のプラスY軸方向の長さL1と駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さL2との比(L1/L2)を示し、縦軸がL1/L2=0.5を基準としたときの検出用振動腕の漏れ振動の程度を示す。
【0037】
図6に示すように、駆動振動を約50kHzとしたときのセンサー素子1は、L1/L2を1.35以上にすると、L1/L2=0.5(従来構成)と比較して、漏れ振動の程度が1/10以下になり、L1/L2を2.12以上にすると漏れ振動の程度が1/100以下になり、L1/L2を2.96以上にすると漏れ振動の程度が1/1000以下になる。以降、センサー素子1は、L1/L2を大きくするに連れて漏れ振動の程度が小さくなるが、小型化対応や量産製造対応などの観点から、L1/L2を4.2以下にすることが現実的と考えられる。
【0038】
ここで、駆動振動を約50kHzとしたときのセンサー素子1の基部10のプラスY軸方向の長さを長くすることによる検出用振動腕12a,12bの検出感度への影響について説明する。
図7は、基部のプラスY軸方向の長さと駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さとの比と、検出用振動腕の検出感度との関係をシミュレーションにより解析した結果を表したグラフである。図7では、横軸が基部のプラスY軸方向の長さL1と駆動用振動腕のプラスY軸方向の長さL2との比(L1/L2)を示し、縦軸が検出用振動腕の検出感度(ppm/dps)を示す(値が大きいほど感度が高い)。
図7に示すように、駆動振動を約50kHzとしたときのセンサー素子1の検出用振動腕12a,12bの検出感度は、L1/L2が従来構成(L1/L2=0.5)より大きくなっても低下しないことが分かる(却って、L1/L2が大きくなるに連れて検出感度が向上している)。
【0039】
上述したように、駆動振動を約50kHzとしたときのセンサー素子1は、基部10のプラスY軸方向の長さをL1、一対の駆動用振動腕11a,11bのプラスY軸方向の長さをL2としたときに、1.35≦L1/L2≦4.2、となるように形成されている。
このことから、センサー素子1は、一対の駆動用振動腕11a,11bの駆動振動に起因した、角速度が加わらない状態における一対の検出用振動腕12a,12bの漏れ振動を、従来構成と比較して格段に抑制(低減)することができる。この際、センサー素子1は、検出用振動腕12a,12bの検出感度を低下させることがない。
この結果、センサー素子1は、角速度の検出感度を低下させることなく検出精度を向上させることができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、上記第1実施形態で述べたセンサー素子を備えているジャイロセンサーの一例について説明する。
【0041】
図8は、第2実施形態のジャイロセンサーの概略構成を示す模式断面図である。なお、図8は、Y軸方向に沿って各駆動用振動腕間及び各検出用振動腕間を切断したときの断面図である。また、分かり易くするために、各構成要素の寸法比率は実際と異なる。
図8に示すように、ジャイロセンサー5は、センサー素子1と、センサー素子1を駆動制御するICチップ20と、センサー素子1及びICチップ20を収納するパッケージ30とを備えている。
【0042】
パッケージ30は、平面形状が略矩形で凹部を有するパッケージベース31と、パッケージベース31の凹部を覆う平板状のリッド(蓋体)32と、を備え、略直方体形状に形成されている。
パッケージベース31には、セラミックグリーンシートを成形して積層し焼成した酸化アルミニウム質焼結体、水晶、ガラス、シリコン(高抵抗シリコン)などが用いられている。
リッド32には、パッケージベース31と同材料、または、コバール、42アロイ、ステンレス鋼などの金属が用いられている。
【0043】
ICチップ20は、センサー素子1の駆動用振動腕11a,11bを駆動振動させる駆動回路(発振源15、図2参照)、検出用振動腕12a,12b間の電位差を検出信号として取り出す取り出し回路16(図2参照)、この検出信号によってY軸回りの角速度を検出する検出回路などを備えていることが好ましい。ICチップ20は、パッケージベース31の凹部の内底面33に、例えば、図示しない接続パッド面を下にしてフリップチップボンディングにより接合されている。
【0044】
センサー素子1は、パッケージベース31の、凹部の内底面33に固定されたICチップ20を取り囲むように形成された段差部34上に固定された略枠状の基板40に支持されている。
基板40は、ポリイミドなどの樹脂からなる基板本体41と、基板本体41の段差部34側に積層されたCuなどの金属箔からなるタブテープ42と、を備えている。
基板40は、ICチップ20の上方(リッド32側)に位置する開口部分の縁から、中央部に向かって斜め上方に折り曲げられた複数の帯状のタブテープ42が延設されている。タブテープ42の先端は、センサー素子1の基部10に設けられている図示しない電極パッドに、バンプなどの接合部材を介して電気的に接続されている。
これにより、センサー素子1は、基板40によって水平に(XY平面に沿って)支持されている。なお、基部10の電極パッドは、駆動用振動腕11a,11b及び検出用振動腕12a,12bの図示しない駆動用電極及び検出用電極と電気的に接続されている。
【0045】
基板40(タブテープ42)は、パッケージベース31内の図示しない内部配線によりICチップ20及びパッケージベース31の外底面35に設けられた外部端子36と電気的に接続されている。
ジャイロセンサー5は、センサー素子1が基板40に支持された状態で、パッケージベース31の開口部がリッド32により覆われ、パッケージベース31とリッド32とがシームリング、低融点ガラス、接着剤などの接合部材37で接合されることにより、パッケージ30内が気密に封止されている。
なお、気密に封止されたパッケージ30内は、減圧された真空状態(真空度の高い状態)または窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが充填された状態となっている。
【0046】
ジャイロセンサー5は、外部端子36を介して外部から電源や入力信号が供給され、ICチップ20からの駆動信号によりセンサー素子1が所定の周波数で屈曲振動することによって、Y軸回りに印加された角速度の検出を行い、角速度の検出結果を外部端子36から外部へ出力する。
【0047】
上述したように、第2実施形態のジャイロセンサー5は、センサー素子1を備えたことから、センサー素子1の奏する効果が反映されて角速度の検出感度を低下させることなく検出精度が向上したジャイロセンサーを提供することができる。
【0048】
(第3実施形態)
次に、上述したセンサー素子を備えている電子機器として、携帯電話を一例に挙げて説明する。
図9は、第3実施形態の携帯電話を示す模式斜視図である。
携帯電話700は、第1実施形態のセンサー素子1を備えた携帯電話である。
図9に示す携帯電話700は、上述したセンサー素子1を、例えば、ジャイロセンサーなどのセンサーデバイスの主要構成要素として用い、更に液晶表示装置701、複数の操作ボタン702、受話口703、及び送話口704を備えて構成されている。なお、携帯電話の形態は、図示のタイプに限定されるものではなく、いわゆるスマートフォンタイプの形態でもよい。
【0049】
上述したセンサー素子は、上記携帯電話に限らず、電子ブック、パーソナルコンピューター、テレビ、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ビデオレコーダー、ナビゲーション装置、車体姿勢検出装置、ポインティングデバイス、ゲームコントローラー、ページャー、電子手帳、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器などに搭載されるセンサーデバイスの主要構成要素として好適に用いることができ、いずれの場合にも上記実施形態で説明した効果が反映された電子機器を提供することができる。
【0050】
なお、振動片の材料としては、水晶に限定されるものではなく、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、四ホウ酸リチウム(Li247)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)などの圧電体、またはシリコン(Si)などの半導体でもよい。
また、屈曲振動の駆動方法は、圧電体の圧電効果によるものの他に、クーロン力による静電駆動であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…振動片としてのセンサー素子、5…ジャイロセンサー、10…基部、10a,10b…主面、11a,11b…駆動用振動腕、12a,12b…検出用振動腕、13a,13b,14a,14b…質量部、15…発振源、16…取り出し回路、20…ICチップ、30…パッケージ、31…パッケージベース、32…リッド、33…内底面、34…段差部、35…外底面、36…外部端子、37…接合部材、40…基板、41…基板本体、42…タブテープ、700…電子機器としての携帯電話、701…液晶表示装置、702…操作ボタン、703…受話口、704…送話口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向に平行な平面に沿った主面を有する平板状の基部と、
前記基部から前記第1方向に沿って延設された一対の駆動用振動腕と、
前記基部を挟んで前記駆動用振動腕の反対側に、前記基部から前記第1方向とは反対の方向に沿って延設された一対の検出用振動腕と、を備え、
前記基部の前記第1方向の長さをL1、一対の前記駆動用振動腕の前記第1方向の長さをL2としたときに、
1.2≦L1/L2≦4.2、であることを特徴とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片において、1.35≦L1/L2≦4.2、であることを特徴とする振動片。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の振動片において、一対の前記駆動用振動腕及び前記検出用振動腕の先端から前記第1方向及び前記第1方向とは反対の方向に沿って延設され、前記第2方向の幅が各前記振動腕の前記先端における前記第2方向の幅よりも広い質量部を備えていることを特徴とする振動片。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の振動片を備えていることを特徴とするジャイロセンサー。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の振動片を備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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