説明

振動計測装置、振動計測システム及び振動計測方法

【課題】振動計測の結果を記録する際に、計測場所の誤記入などのエラーを抑制する。
【解決手段】振動計測装置は、複数の箇所の振動が継続的に監視される計測対象に対して、複数の箇所の振動を順次に計測するために用いられる。振動計測装置は、計測対象の所定箇所に取り付けられ所定箇所を特定する識別子が記録された記録媒体から、識別子を読み取って計測点情報として記憶する振動計測点読取部と、振動計測点読取部が識別子を読み取るときに、所定箇所の振動を計測して振動情報として計測点情報と対応づけて監視テーブルに格納する振動計測部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動を計測する技術に関する。本発明は特に、計測対象の複数の箇所の振動を継続的に監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント機器などの装置は、振動を監視することが求められる場合が多い。そのため振動の計測対象の装置には、振動を定点観測するための計測点が設定される。計測点は複数の箇所に設定されることが多い。
【0003】
特許文献1には、多数の計測点の振動を計測するための装置が記載されている。この装置は、船舶や橋梁など大型構造物の多数点の振動を同時に計測する。
【0004】
一方、計測の担当者が手に持って移動しながら複数の計測点の振動を順次に計測する可搬式の振動計測装置も用いられている。図1は、そのような装置の参考例を示す。計測対象101の複数の箇所に計測点102が設定される。振動計測の担当者はポータブル振動計103を用いて計測点102の振動計測を行う。振動ピックアップ104は計測点102の振動を計測する。その結果は振動レベル表示部105に表示される。担当者はその表示を見て、記録用紙に、日時、その計測点102の識別番号、及び振動レベルを記録する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−055552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の参考例のような方法により振動計測の履歴を採る場合、計測点の誤記入等のヒューマンエラーが発生する可能性がある。更にデータシートへの書き写しの作業などに時間がかかるという問題がある。これらの問題を解決する振動計測技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面における振動計測装置は、複数の箇所の振動が継続的に監視される計測対象に対して、複数の箇所の振動を順次に計測するための振動計測装置である。その振動計測装置は、計測対象の所定箇所に取り付けられ所定箇所を特定する識別子が記録された記録媒体から、識別子を読み取って計測点情報として記憶する振動計測点読取部と、振動計測点読取部が識別子を読み取るときに、所定箇所の振動を計測して振動情報として計測点情報と対応づけて監視テーブルに格納する振動計測部とを備える。
【0008】
本発明の一側面における振動計測システムは、本発明による振動計測装置と、計測対象の所定箇所に取り付けられ、所定箇所を特定する識別子が記録された記録媒体を備える。
【0009】
本発明の一側面における振動計測方法は、複数の箇所の振動が継続的に監視される計測対象に対して、複数の箇所の振動を順次に計測する振動計測方法である。その振動計測方法は、計測対象の所定箇所に、所定箇所を特定する識別子が記録された記録媒体を取り付ける工程と、記録媒体に記録された識別子を読み取って計測点情報として記録する工程と、記録する工程において識別子を読み取るときに、所定箇所の振動を計測して振動情報として計測点情報と対応づけて監視テーブルに格納する工程とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、振動計測の結果を記録する際のエラーを抑制することを可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、可搬式の振動計測装置の参考例を示す。
【図2】図2は、振動計測システムを示す。
【図3】図3は、振動計測システムを示す。
【図4】図4は、振動計測システムを示す。
【図5】図5は、振動計測システムの表示・記憶部の構成を示す。
【図6】図6は、振動計測システムの動作を示す。
【図7】図7は、表示・記憶部に格納される周波数解析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図2は、第1実施形態における振動計測システムを示す。プラント機器等の計測対象1に複数の計測点2が設定される。計測対象1の各計測点2にバーコード及びQRコードに例示される画像コード4が印刷されたシート状の媒体が取り付けられる。画像コード4には、各計測点2を他の計測点2と区別して個別に特定する識別子である計測点情報が示される。
【0013】
振動計測装置は、計測用のヘッドを有する。そのヘッドには、同じ方向に向けられた振動ピックアップ5とリーダ6とが並んで取り付けられる。振動計測の担当者が振動ピックアップ5を計測点2に押し当てて所定の計測操作を行うと、振動ピックアップ5は計測点2の振動の計測を行う。振動レベル表示部7には振動ピックアップ5が計測した振動レベルが表示される。その計測操作に応答して、リーダ6は画像コード4の計測点情報を読み取る。読み取られた計測点情報は、計測点表示部8に表示される。担当者は、振動レベル表示部7に表示された振動レベル情報と計測点表示部8に表示された計測点情報とを確認する。担当者が所定の記録操作を行うと、当該計測が行われたときの日時を示す日時情報と対応づけて振動レベル情報と計測点情報とが記録部9に保存される。
【0014】
以上のような動作による振動計測においては、画像コードに示された計測点2の識別情報によって振動履歴が作成されるため、人間による誤記入を防ぐことができる。また日時と、計測点2の計測点情報と、振動レベル情報とが対応づけられたデータが計測時に作成されるため、データの再記入、入力などの手間が省略される。
【0015】
図3は、第2実施形態における振動計測システムを示す。プラント機器等の計測対象1に複数の計測点2が設定される。計測対象1の各計測点2に非接触ICチップ10が取り付けられる。非接触ICチップ10には計測点2を個別に特定するための計測点情報が予め記録される。非接触ICチップ10を用いることにより、画像コードが劣化しやすい環境下でも長期間に渡って計測点情報を取得することができる。
【0016】
第2実施形態における振動計測装置は、第1実施形態におけるリーダ6に換えて、非接触ICチップ10に格納された情報を読み取るリーダ11を備える。振動計測の担当者は、振動ピックアップ5を計測点2に押し当てて所定の計測操作を行うと、振動ピックアップ5は計測点2の振動の計測を行う。振動レベル表示部7には振動ピックアップ5が計測した振動レベルが表示される。その計測操作に応答して、リーダ11は非接触ICチップ10に記録された計測点情報を非接触で読み取る。読み取られた計測点情報は計測点表示部8に表示される。担当者は、振動レベル表示部7に表示された振動レベル情報と計測点表示部8に表示された計測点情報とを確認する。担当者が所定の記録操作を行うと、記録部12は、当該計測が行われたときの日時を示す日時情報と、計測点情報と、振動レベル情報とを対応づけた振動計測情報をフラッシュメモリ等の小型の記録媒体13に記録する。
【0017】
担当者は、PC(パーソナルコンピュータ)14に、振動計測の履歴を示す表を作成するための専用ソフトウエアを予めインストールする。担当者は記録媒体13をPC14に取り付けられたリーダに挿入する。PC14の専用ソフトウエアは読み取った振動計測情報を示すグラフを自動的に作成して表示する。
【0018】
図4は、第3実施形態における振動計測システムを示す。計測対象1は、蒸気タービンの軸受台などの回転駆動する回転軸15を有する機器である。計測対象1に複数の計測点2が設定される。各計測点2に計測点情報を示す媒体16が取り付けられる。媒体16としては、第1実施形態における画像コード又は第2実施形態における非接触ICチップを用いることができる。
【0019】
振動計測装置は表示・記憶部19を備える。表示・記憶部19は振動ピックアップ5、リーダ17、非接触温度計18に接続される。表示・記憶部19は更に記録媒体13からの情報の読み出しと記録媒体13への情報の書き込みとを行うリーダ/ライタを備える。記録媒体13に記録された情報はPC14によって読み取られる。
【0020】
図5は、表示・記録部19の構成を示す。表示・記録部19は、振動計測点読取部21、振動計測部22、履歴記録部23、周波数解析部25、警告部26、温度計測部28、カレンダー部29、入力部30、及び表示部31を備える。履歴記録部23は監視テーブル24を備える。警告部26は閾値生成部27を備える。これらの各部は、表示・記録部19が備えるCPUが記憶装置に格納されたプログラムを読み出して実行することによって実現される機能ブロックである。
【0021】
次に図6のフローチャートを参照して、このような振動計測システムの動作について説明する。担当者は振動計測装置を手に持ち、計測対象1の複数の計測点2に順次、振動ピックアップ5を押し当てて、振動・記録部19に設けられた計測ボタンを押して計測開始の入力操作を行う(ステップS1)。入力部30はその操作に応答して、以下のステップS2〜S6の動作のトリガーとなる信号を生成する。カレンダー部29は日時を示す情報を生成する機能を有し、表示部31により日時を表示する。カレンダー部29は更に、今回分の計測結果を記録する今回分レコードからなる監視テーブル24を生成して日時を記録する(ステップS2)。振動計測点読取部21は、計測を開始するために行われる入力操作に応答して、媒体16の情報を読み取ることにより計測点2の計測点情報を取得して表示部31により表示する。計測点情報は、監視テーブル24の今回分レコードに記録される(ステップS3)。
【0022】
振動計測部22は、計測開始の入力操作に応答して、振動ピックアップ5により計測点2の振動を所定の時間幅のあいだ計測し、計測した振動レベルを表示部31により表示する。振動レベルは監視テーブル24の今回分レコードに記録される(ステップS4)。周波数解析部25は、計測された振動レベルに対して高速フーリエ変換を行い、周波数の関数として振動レベル(振動成分)を計算する。各周波数の振動成分は表示部31によりグラフ化されて表示される。各周波数の振動成分は監視テーブル24の今回分レコードに記録される(ステップS5)。
【0023】
ステップS1における計測開始の入力操作に応答して、温度計測部28は、非接触温度計18により計測点2の温度を検出し、検出された温度を表示部31により表示する。検出された温度は監視テーブル24の今回分レコードに記録される(ステップS6)。
【0024】
回転的に駆動する駆動部を有する計測対象1の場合、異常が発生すると、軸受台の付近の温度が上昇することがある。そのため温度の検出は、特に回転軸15の軸受に近い場所に設定された計測点2に対して行われることが望まれる。
【0025】
担当者は、振動・記録部19に設けられた記録ボタンを押して記録操作を行う。入力部30はその操作に応答して、以下のステップS7〜S10の動作のトリガーとなる信号を生成する。履歴記録部23は、監視テーブル24の今回分レコードを、記録媒体13に記録された監視テーブルの過去のレコードに追加することによって、アップデートされた監視テーブルを記録媒体13に格納する(ステップS7)。担当者は、すべての計測点2の振動を計測し記録すると、記録媒体13を取り外してPC14に取り付けられたリーダに読み取らせ、PC14に監視テーブルを保存する。
【0026】
警告部26は、過去の振動の計測履歴に基づいて、今回計測された振動レベルが所定の基準を上回っている場合、異常振動の可能性があることを担当者に警告するためのアラーム音を出力する(ステップS8〜S10)。この動作は、具体的には例えば以下のように行われる。
【0027】
閾値生成部27は、担当者の表示・記録部19の入力装置に対する操作に応答して、記録媒体13に記録された監視テーブルを参照する。その中で、例えば前回以前の計測値を示すレコードなど、現在を基準にして設定された所定の過去の期間における監視テーブルに格納された計測値を用いて、アラーム発生の基準として用いる閾値を生成する。
【0028】
閾値生成部27は、例えば次のようにして閾値を生成する。周波数が所定幅の区間に区切られる。各区間について、所定の過去の期間における振動レベルの計測値の最大値の平均値が計算される。その各区間の平均値に、余裕幅を示す1より大きい所定値を掛ける。この計算により、周波数の区間ごとに閾値が決定される。その結果、図7の振動履歴32に点線で示すような周波数依存的な閾値が得られる(ステップS8)。
【0029】
警告部26は、今回の計測から得られた各周波の振動成分を閾値と比較する。振動成分が閾値以下の場合は、警告を出力せずに次の入力操作を待つ(ステップS9NO)。振動成分が閾値を上回っていた場合は(ステップS9YES)、警告を出力する(ステップS10)。
【0030】
計測対象1が回転軸を有する機器である場合、通常の運転時における回転軸の回転数に応じた振動数に振動レベルのピークが発生する。そのため振動履歴には、図7の振動履歴32の周波数f1に示されるようなピークが現れる。その結果、振動履歴32に点線で示したように、回転軸の回転数の付近の周波数の区間に閾値のピークが発生する。計測対象1の動作に異常が発生した場合には、通常は現れない周波数に振動のピークが発生する。図7の振動レベル33の周波数f2に示したように、その周波数では過去の振動履歴3に基づいて生成された閾値が低いため、ピークが比較的小さくても、振動の異常を警告することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 計測対象
2 計測点
4 画像コード
5 振動ピックアップ
6 リーダ
7 振動レベル表示部
8 計測点表示部
9 記録部
10 非接触ICチップ
11 リーダ
12 記録部
13 記録媒体
14 PC
15 回転軸
16 媒体
17 リーダ
18 非接触温度計
19 表示・記録部
26 警告部
32 振動履歴
33 振動レベル
101 計測対象
102 計測点
103 ポータブル振動計
104 振動ピックアップ
105 振動レベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の箇所の振動が継続的に監視される計測対象に対して、前記複数の箇所の振動を順次に計測するための振動計測装置であって、
前記計測対象の所定箇所に取り付けられ前記所定箇所を特定する識別子が記録された記録媒体から、前記識別子を読み取って計測点情報として記憶する振動計測点読取部と、
前記振動計測点読取部が前記識別子を読み取るときに、前記所定箇所の振動を計測して振動情報として前記計測点情報と対応づけて監視テーブルに格納する振動計測部
とを具備する振動計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載された振動計測装置であって、
更に、前記場所読取部が前記計測点情報を記憶するときに、当該日時を前記計測点情報と対応づけて前記監視テーブルに格納する履歴記録部と、
前記振動計測部が前記所定箇所の振動を計測したとき、現在を基準にして設定された所定の過去の期間における前記監視テーブルに格納された前記所定箇所の前記振動情報と比較して所定の基準を上回る振動が計測された場合に警告を発する警告部
とを具備する振動計測装置。
【請求項3】
請求項2に記載された振動計測装置であって、
更に、前記所定の過去の期間における前記所定箇所の前記振動情報を対象として周波数解析を行い、その結果を振動履歴として記録する周波数解析部を具備し、
前記所定の基準は、計測された前記所定箇所の振動が、対応する箇所の前記振動履歴に基づいて設定された基準を上回っていることを示す
振動計測装置。
【請求項4】
請求項3に記載された振動計測装置であって、
前記計測対象は回転的に駆動する駆動部を有し、
前記所定の基準は、計測された前記所定箇所の振動が、対応する箇所の前記振動履歴に基づいて周波数依存的に設定された基準を上回っていることを示す
振動計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載された振動計測装置であって、
更に、前記場所読取部が前記複数の箇所のうち前記駆動部の軸受に近い場所に取り付けられた前記記録媒体の前記識別子を読み取って前記計測点情報を記憶するときに、前記所定箇所の温度を計測して温度情報として前記計測点情報と対応づけて前記監視テーブルに格納する温度計測部
とを具備する振動計測装置。
【請求項6】
複数の箇所の振動が継続的に監視される計測対象に対して、前記複数の箇所の振動を順次に計測するための振動計測システムであって、
前記計測対象の所定箇所に取り付けられ、前記所定箇所を特定する識別子が記録された記録媒体と、
前記記録媒体に記録された前記識別子を読み取って計測点情報として記録する振動計測点読取部と、
前記振動計測点読取部が前記識別子を読み取るときに、前記所定箇所の振動を計測して振動情報として前記計測点情報と対応づけて監視テーブルに格納する振動計測部
とを具備する振動計測システム。
【請求項7】
複数の箇所の振動が継続的に監視される計測対象に対して、前記複数の箇所の振動を順次に計測する振動計測方法であって、
前記計測対象の所定箇所に、前記所定箇所を特定する識別子が記録された記録媒体を取り付ける工程と、
前記記録媒体に記録された前記識別子を読み取って計測点情報として記録する工程と、
前記記録する工程において前記識別子を読み取るときに、前記所定箇所の振動を計測して振動情報として前記計測点情報と対応づけて監視テーブルに格納する工程
とを具備する振動計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−112444(P2011−112444A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267540(P2009−267540)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】