説明

振動遮断壁の設置方法

【課題】狭隘地などの作業領域が制限された空間において、振動遮断壁を設置する方法を提供する。
【解決手段】振動遮断壁は、圧入部材3によって土留め壁Wを形成し、土留め壁Wと原地盤との間をソイル化用溶液を高圧噴射して形成されるソイル化部Sに振動遮断部材5が挿入され、ソイル化部Sが硬化して連続壁Cが形成された後、浮上防止金具10、10Aを取り外して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車、自動車、及び機械基礎等を震源とする振動を遮断するための振動遮断壁を、一般地や高架橋の下などの狭隘地に設置するための設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼矢板またはコンクリート壁などの板状部材を主要部材とする振動遮断壁の設置方法が知られている。鋼矢板やコンクリート壁を用いた振動遮断壁は、その材質の性質上、強度が高く安全性は高いが、振動遮断効果は十分ではなかった。かかる設置方法によれば、鋼矢板やコンクリート壁を埋設するための大型の建設機械を必要としていた。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また別の振動遮断壁の設置方法によれば、互いに対向するように圧入された鋼矢板などで画成される空溝を有している。かかる設置方法によって設置された振動遮断壁は、空溝を有しない場合と比べて振動遮断効果は高いが、安全性や耐震性に課題が残されていた。
【0004】
また、内部にガスが充填されたチューブ(クッション体)を複数連結して作成した振動遮断部材を地中に埋設して振動遮断壁を設置する方法が知られている。クッション体による振動遮断壁は、振動遮断性能は高い反面、予めクラムシェルなどの大型の建設機械によって振動遮断部材を埋設するための縦孔の掘削し、この縦孔にコンクリート製の錘を取り付けた振動遮断部材を埋設、固定させている。
【特許文献1】特公開2001−226998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記クッション体を用いた設置方法では、予め大型の建設機械を使用して、必要な深度を有する縦孔を掘削することが必要であり、狭隘地など低空頭な場所での施工が困難であるという問題があった。また、かかる設置方法では、施工途中、及び施工完了後の原地盤の変位を防止する手段が設けられていなかった。また、クッション体の挿入方向下端に、クッション体に生じる浮力によって当該クッション体が浮上することを防止するための錘を取り付ける必要があり、施行方法が面倒であるという問題もあった。またさらに、クッション体を挿入するための地盤改良の工程と、クッション体を挿入する工程とが別々の工程であるので、施工時間が長くなるという問題もあった。
【0006】
そこで本発明は、一般地や狭隘地などにおいて、安全で、高い強度及び振動遮断性能を有した振動遮断壁を、効率よく設置する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決するために、本発明にかかる振動遮断壁の設置方法は、振動遮断壁を構築するための原地盤を掘削する工程と、前記掘削された原地盤に土留め壁を形成する工程と、前記土留め壁と前記掘削された原地盤との間をソイル化する工程と、前記ソイル化した地盤に振動吸収用の振動遮断部材を挿入する工程と、から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の振動遮断壁の設置方法によれば、単一の施工機械を使用して、原地盤をソイル化するとともに振動遮断部材を挿入できるので、一般地はもとより、高架下など施工空間が限られた狭隘地においても、振動遮断性の高い振動遮断壁を設置できるという利点がある。また、施工途中、及び施工完了後も原地盤の変位を防止することができるので、高い安全性を具備している。また加えて、硬化性溶液を用いて原地盤をソイル化するとともに振動遮断部材を圧入するので、浮きあがり防止用の錘を必要としない。また、原地盤のソイル化を行いつつ振動遮断部材を挿入できるので、施工時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る振動遮断壁の設置方法の施工途中を示す斜視図である。詳細には、鋼矢板などから成る圧入材3を、図示しない圧入材圧入引抜装置を備えた施工機械によって布堀部Tに圧入して形成される土留め壁Wと、後述する多軸揺動噴射装置を備えた施工機械によって土留め壁Wと布堀部Tとの間の原地盤をソイル化させて形成されたソイル化部Sに挿入された振動遮断部材5と、ソイル化部Sが硬化するまでの間、振動遮断部材5が浮力によって浮上することを防止するための金具10、10Aが示されている。
【0011】
施工を開始するに際し、所定の幅Dだけ原地盤を掘削して布堀部Tを設けるが、かかる布堀部Tの幅Dは、従来よりも少ない掘削量で十分である。
【0012】
図2は、振動遮断壁の要部を構成する振動遮断部材5が取り付けられた状態の多軸揺動噴射装置200を示す図である。
【0013】
多軸揺動噴射装置200は、ソイル化部Sの形成、振動遮断部材5の挿入を行うための装置であり、図示しない施工機械の本体に取り外し自在に固定される。図示しない施工機械の本体は、土留め壁Wを形成する際には、図示しない圧入材圧入引抜装置が取り付けられ、かかる圧入材圧入引抜装置によって原地盤を区画する土留め壁(仕切り板)Wが形成される。土留め壁Wが形成された後、図2に示す多軸揺動噴射装置200が施工機械の本体に取り付けられ、後述の各施工工程が実施される。このように、同一の施工機械の本体に目的に合致したアタッチメント(例えば、圧入材圧入引抜装置、多軸揺動噴射装置200など)を取り付けることで、一般地はもとより狭隘地などでも効率的、かつ経済的に施工することができる。
【0014】
図2に示す様に、多軸揺動噴射装置200は、多軸揺動噴射装置本体20と、この本体20に対して油圧及びチェーン30などから構成される昇降手段によって昇降自在に取り付けられた一対の多軸揺動軸27、27から概略構成される。多軸揺動軸27の先端部には、原地盤をソイル化するためのソイル化用溶液を高圧噴射するための噴射口21が設けられ、この噴射口21は、多軸揺動軸27を中心にそれぞれAR3、AR4の範囲にソイル化用溶液を噴射可能である(図3参照)。
【0015】
図3に示すように、概略対角線上の対向する位置に一対の噴射口21が設けられているので、効率よく原地盤とソイル化用溶液とを混合できる。また、チェーン30の昇降によって、連結部28と噴射口21とが一緒に昇降されるので、原地盤をソイル化しつつ徐々に所定の深度まで縦孔が形成される。
【0016】
さらに、一対の多軸揺動軸27、27は夫々筒状の保持部25に摺動自在に保持されているとともに、一対の保持部25、25は連結部26によって補強されている。
【0017】
また図2を参照するに、振動遮断部材5は、振動遮断部材5の長手方向を支持する円柱状の第1支持部材82と、この第1支持部材82に連結され、振動遮断部材5の底部を支持する第2支持部材81とによって多軸揺動噴射装置200の連結部26に取り付けられている。詳細には、第1支持部材82の係合部82aは、多軸揺動噴射装置200の連結部26に昇降自在に取り付けられた取付け部24に挿通された昇降部材83の一端に取り付けられたチャック29に固定されている。また図2に示すごとく、支持部材81、82は概略T字形状に形成されている。
【0018】
なお本実施形態では、振動遮断部材5は、可撓性容器の内部にガスが充填されたクッション体を複数連結して形成されている。
【0019】
振動遮断部材5は、チェーン30及び図示しない油圧装置などから構成される昇降手段によって、多軸揺動噴射装置200の多軸揺動軸27の昇降とは独立して昇降することも可能であるし、多軸揺動噴射軸27と並行に同一の移動量で昇降させることも可能である。かかる構造のため、多軸揺動噴射軸27の噴射口21からソイル化用溶液を高圧噴射して原地盤をソイル化しつつ、このソイル化部Sに支持部材81、82に支持された振動遮断部材5を挿入することができる。このように、同一の施工装置によって、ソイル化と振動遮断部材5の挿入を同時に行えるので、従来よりも施工時間を短縮できる。
【0020】
図4及び6は、上述の施工装置を用いた施工方法を説明する説明図及びフローチャートである。
【0021】
図4及び6に示す様に、図示しない施工機械を使用して圧入材(鋼矢板)3を所定の箇所に圧入(打設)して土留め壁Wを形成する(図4(a)、ステップ1)。なお、本実施形態では、土留め壁Wを形成するために、複数の鋼矢板3を使用した例を示したが、圧入材としては、コンクリート板などでもよい。
【0022】
土留め壁Wと掘削した原地盤との間に、振動遮断部材5を取り付けた多軸揺動噴射装置200を使用して、第1のソイル化部S1を形成する(図4(b)、ステップ2)。なお、図4(b)における点線はソイル化部Sを示す。
【0023】
なお、土留め壁Wは、ソイル化に起因する原地盤の変位を防止するとともに、図示しない施工機械及び多軸揺動噴射装置200が土留め壁Wの上の移動する際の荷重を支えている。詳細には、原地盤の支持層近傍まで圧入される第1の圧入材が変位防止及び施工機械の重量を支える機能を有し、第1の圧入材よりも短くかつ安価な第2の圧入材が主に変位防止の機能を有している。このように、長短2種類の圧入材3を使用することで、経済性に優れ、かつ安全に配慮した振動遮断壁を設置できる。
【0024】
次いで、ソイル化部S1に振動遮断部材5を挿入する(図4(c)、ステップ3)。なお、上記したようにステップ2とステップ3は、同一の施工機械で行われるので、ステップ2及びステップ3は同時に行ってもよく、この場合一層施工時間の短縮が図れる。
【0025】
次に、施工機械(図示略)を移動させ、上記ステップ2及びステップ3を所望回数だけ繰り返す(図4(d)は、第2のソイル化部S2を形成している状態を示す。)。
【0026】
複数の振動遮断部材5を挿入する場合は、各振動遮断部材5の間から振動が伝播することを防止するために、隣り合う振動遮断部材5を互いにオーバーラップするように配置する(図4(e))。オーバーラップ部Oの長さXは適宜調整すればよい。
【0027】
なお、土留め壁Wに対して概略水平に振動遮断部材5前後交互に配置させるとともに、隣り合う振動遮断部材5をオーバーラップさせながら配置することで振動が漏れることを防止できるが、最も簡易な方法でオーバーラップをさせるという観点からは、図4(c)などに示されるように、振動遮断部材5を土留め壁Wに対して所定の角度だけ傾斜した状態で挿入されることが好ましい。
【0028】
次に、挿入された振動遮断部材5を支持する第1支持部材82の係合部82aに浮上防止金具10を取り付ける(図4(e)、ステップ4)。なお、浮上防止金具10は、支持部材82に図示しないネジなどによって固定されるとともに、振動遮断部材5の上部を押える一対のアーム10Aを有している。このアーム10Aが、ガスクッション5の上部端面に当接するとともに、図1に示す様にアーム10Aの端部が土留め壁Wに溶接部100で溶接されることで、振動遮断部材5が浮力によって浮上することが防止される。なお、浮上防止金具10を土留め壁Wに固定する方法としては、一対のアーム10Aを浮上防止金具10に対して回動自在に設けておき、さらにかかるアーム10Aの先端に係合部を設け、この係合部と脱着自在な被係合部を土留め壁Wに設けるという構成でもよい。さらに、ソイル化部Sが硬化するまでの間一対のアーム10A、10Aの回動を防止する連結部を設け、かかる連結部をピンなどで各アーム10Aに固定したり、上記係合部と被係合部とをピン等で連結すればより確実に振動遮断部材5の浮き上がりを防止できる。
【0029】
最後に、ソイル化部S(S1、S2)が硬化して連続壁Cが形成されると(ステップ5)、浮上防止金具10、及びアーム10Aを取り外して施工完了となる(図4(f)、ステップ6)。
【0030】
図5は、施工完了後の状態を示す斜視図である。図5から理解されるように、ソイル化していた土壌が硬化して連続壁Cが形成され、連続壁Cの中に振動遮断部材5が埋設されている。
【0031】
上記から理解されるように、ソイル化を行いつつ振動遮断部材を挿入していくので、施工開始時に掘削する布堀部Tの深さも、従来のように予め振動遮断部材の長さに応じた深さだけ掘削する必要がない。このため本発明に係る振動遮断壁の設置方法によれば、従来のように大型の掘削用施工機械を必要としないので、一般地だけではなく高架下など低空頭な場所においても振動遮断壁を設置することができる。また、本発明によれば、浮上防止用の錘を必要とせずに振動遮断部材を設置可能である。
【0032】
さらに、施工機械の移動場所としても機能する土留め壁が、変位防止手段としても機能することで、強度だけでなく安全性も有した振動遮断壁を得ることができる。なお、本発明では、ソイル化を行うためのソイル化用溶液にセメントなどを添加することで硬化性を付与しているが、必ずしも硬化性を付与する必要がなければ、単純に水を高圧で噴射してもよい。すなわち、原地盤の組成に応じてソイル化用溶液の組成を決定すればよい。
【0033】
また、上記実施形態では狭隘地における施行方法を述べたが、本発明にかかる工法は狭隘地に限られることはなく、一般地においても施行可能であり、一般地においても同様の振動遮断性能を備えた振動遮断壁を設置可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
一般地に加えて、大型施工機械を搬入することが困難な高架下などの狭隘地において、高い振動遮断性能を有する振動遮断壁を設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る振動遮断壁を設置しているところを示す説明図である。
【図2】振動遮断部材が取り付けられた多軸揺動噴射装置の正面図である。
【図3】図2に示す多軸揺動噴射装置の部分拡大図である。
【図4】本発明に係る振動遮断壁の設置方法を示す模式図である。
【図5】施工終了後の振動遮断壁を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る振動遮断壁の設置方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
3 圧入材
5 振動遮断部材
10 浮上防止金具
10A アーム
82 第2支持部材
82a 係合部
100 溶接部
S ソイル化部
C 連続壁
T 布堀部
W 土留め壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動遮断壁の設置方法であって、原地盤に区画された凹部に対して、振動遮断部材に生じる浮力を上回る力で前記振動遮断部材を圧入することを特徴とする方法。
【請求項2】
振動遮断壁の設置方法であって、
原地盤を掘削する工程と、
前記掘削された原地盤に土留め壁を形成する工程と、
前記土留め壁と前記掘削された原地盤との間にソイル化部を形成する工程と、
前記ソイル化した地盤に振動遮断部材を挿入する工程と、
から成る方法。
【請求項3】
請求項2記載の振動遮断壁の設置方法であって、前記振動遮断部材を挿入する工程の後に、挿入された前記振動遮断部材が浮上することを防止する浮上防止金具を取り付ける工程をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2記載の振動遮断壁の設置方法であって、前記ソイル化工程は、少なくとも互いに対向する位置に設けられた一対のソイル化用溶液噴射装置によって行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2記載の振動遮断壁の設置方法であって、前記振動遮断部材は、前記土留め壁の長手方向に対して所望の角度だけ傾斜した状態で前記ソイル化部に挿入されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4記載の振動遮断壁の設置方法であって、前記振動遮断部材を少なくとも二つ使用し、隣り合う前記振動遮断部材の少なくとも一部が互いに重なるように配置されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項2記載の振動遮断壁の設置方法であって、前記土留め壁を設ける工程と、前記ソイル化工程と、前記振動遮断部材を挿入する工程とが同一の施工機械によって行われることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項2記載の振動遮断壁の設置方法であって、前記土留め壁を形成する工程はさらに、複数の圧入材を圧入する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項2記載の振動遮断壁の設置方法であって、前記ソイル化工程と、前記振動遮断部材を前記ソイル化部に挿入する工程とが同時に行われることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項2記載の振動遮断壁の設置方法であって、前記ソイル化工程は、前記掘削された原地盤にソイル化用溶液を高圧噴射させる工程をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
振動遮断壁の設置方法であって、
原地盤を少なくとも二つに区画する仕切り板を形成する行程と、
前記仕切り板によって区画された原地盤の一方をソイル化する行程と、
前記ソイル化された原地盤に振動遮断部材を挿入する行程と、
からなり、
前記振動遮断部材を挿入する行程はさらに、当該振動遮断部材に生じる浮力を上回る力で前記振動遮断部材を圧入することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−28826(P2006−28826A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207420(P2004−207420)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000236610)不動建設株式会社 (136)
【Fターム(参考)】