説明

挽肉充填乾燥物の製造方法とその方法に使用する減圧乾燥装置

【課題】燻煙処理を施した未乾燥サラミソーセージ、特に太物の未乾燥サラミソーセージを、内部と表面近くとで乾燥ムラを生じさせることなく、速やかに乾燥させる。
【解決手段】未乾燥サラミソーセージを減圧下に置きながら通電し、含まれている水分の蒸発によって生ずる温度の低下を通電によって生ずるジュール熱で補って温度の低下による肉の収縮を阻止し、未乾燥サラミソーセージの内部から表面側への水蒸気の通りを良好にし、表面近くの肉の乾燥の進み過ぎによる収縮を阻止し、内部と表面近くとで乾燥ムラが生じさせることなく速やかに乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばサラミソーセージのような挽肉充填乾燥物の製造方法とその方法に使用する減圧乾燥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食肉を加工して得られる食肉製品は、表1に示すように分類されており、サラミソーセージは食肉製品の中で乾燥食肉製品に属し、製品規格には水分活性値0.87以下、含水率35%以下という厳密な水分データ基準が食品衛生法により定められている
【0003】
【表1】

【0004】
そして、サラミソーセージなどの乾燥食肉製品は、表2に示すように、50℃以上又は20℃以下での燻煙・乾燥がその製造条件となっている。
【0005】
【表2】

【0006】
このサラミソーセージは、具体的には、味付けをした挽肉をサラミソーセージ用のケーシング内に充填して未乾燥サラミソーセージを作り、この未乾燥サラミソーセージを燻煙装置内に吊るし、例えば、55℃で90分間程度乾燥、55℃で20分間程度燻煙、湿度100%の雰囲気下70℃以上で40分間程度加熱、55℃で20時間程度風乾した後、低温恒温室に入れて5℃で約20日〜30日間程度乾燥することにより製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−121817号公報
【特許文献2】特開平10−286059号公報
【特許文献3】特開2002−142724号公報
【特許文献4】特開2004−229517号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】熊林義晃、井上貞仁「通電加熱技術による食肉製品の加工」北海道立食品加工研究センター報告 No.6 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述した従来の製造方法は、未乾燥サラミソーセージを低温恒温室に入れて5℃で約20日〜30日間程度乾燥しなければならず、サラミソーセージを製造するのにかなりの時間がかかり、生産性が悪く、製造コストが高いという問題があった。特に、サラミソーセージの直径が40〜50mm以上の太物になった場合、乾燥に更に多くの時間がかかり、生産性が更に悪く、製造コストが更に高くなるという問題があった。
【0010】
そこで、サラミソーセージを作る際の生産性、特に、太物のサラミソーセージを作る際の生産性を上げるため、太物の未乾燥サラミソーセージを減圧下で冷蔵乾燥させてサラミソーセージを作ることを試みた。しかし、太物の未乾燥サラミソーセージを減圧下で強制的に乾燥させると、内部に比べ、表面近くの水分の蒸発が進み過ぎ、内部と表面近くとで乾燥ムラを生じてしまうという問題があった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、未乾燥サラミソーセージを乾燥させるのにかなりの時間がかかってしまう点、そして、太物の未乾燥サラミソーセージを内部と表面近くとで乾燥ムラを生じさせることなく乾燥させるのに更にかなりの時間がかかってしまう点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意研究した結果、太物の未乾燥サラミソーセージを減圧下で強制的に乾燥させると、表面近くの肉の水分の蒸発が内部の肉の水分の蒸発より大幅に進み、表面近くの肉の温度が低下して肉が収縮し、及び/又は、表面近くの肉が先に乾燥して収縮し、この収縮した表面近くの肉が内部の水分の外部への蒸発を阻止し、表面近くの肉の乾燥だけが更に進んでしまうためではないかと考えた。
【0013】
そして、太物の未乾燥サラミソーセージを減圧下に置きながら通電し、含まれている水分の蒸発によって生ずる温度の低下を通電によって生ずるジュール熱で補って温度の低下による肉の収縮を阻止し、未乾燥サラミソーセージの内部から表面側への水蒸気の通りを良好にし、表面近くの肉の乾燥の進み過ぎによる収縮を阻止すれば、内部と表面近くとで乾燥ムラが生じることなく速やかに乾燥するだろうと考えた。
【0014】
すなわち、本発明に係る挽肉充填乾燥物の製造方法は、調製した挽肉をケーシング内に充填して未乾燥サラミソーセージを得る挽肉充填工程と、該挽肉充填工程で得られた該未乾燥サラミソーセージをスモークハウス内で燻煙するスモークハウス工程と、該スモークハウス工程を経て得られた未乾燥サラミソーセージを冷蔵乾燥させる冷蔵乾燥工程と、該冷蔵乾燥工程を経て得られたサラミソーセージ内の水分の分布を均一化させるあんじょう工程とを備え、該冷蔵乾燥工程が、該未乾燥サラミソーセージに該未乾燥サラミソーセージの内部温度が20℃を越えない範囲で通電しながら、該未乾燥サラミソーセージを減圧下で乾燥させるものであることを特徴とする。
【0015】
ここで、未乾燥サラミソーセージの直径は、特に限定するものではないが、直径が40〜60mmのものにこの方法を適用した場合、表面近くと内部との間で生じ易い乾燥ムラの発生を効果的に抑制することができる。また、未乾燥サラミソーセージを減圧下で乾燥させる場合の減圧条件としては3〜9hPaが好ましい。また、スモークハウス工程は、燻煙の前に乾燥、燻煙の後に蒸煮及び風乾を行ってもよい。
【0016】
また、本発明に係る減圧乾燥装置は、未乾燥サラミソーセージを減圧下で乾燥させる減圧乾燥装置と、減圧下で乾燥させている該未乾燥サラミソーセージに該未乾燥サラミソーセージの内部温度が20℃を越えない範囲で通電する通電装置とを備えていることを特徴とする。
【0017】
ここで、前記通電装置としては前記未乾燥サラミソーセージに通電できるものであれば特に制限は無いが、例えば、前記未乾燥サラミソーセージの端部を挟んで、又は端部付近に接触して通電する一対の電極を備え、該一対の電極の該未乾燥サラミソーセージの端部に接する側は剣山状になっているものを使用することができる。
【0018】
また、前記通電装置は、前記未乾燥サラミソーセージの内部の温度を測定する温度測定装置と、該温度測定装置によって得られた結果に基づいて前記一対の電極間の通電量を制御して該未乾燥サラミソーセージの内部の温度を所望の範囲に保つ電流制御装置とを備えていてもよい。
【0019】
また、前記減圧乾燥装置は前記未乾燥サラミソーセージの周囲の圧力を3〜9hPaとする能力を持った減圧装置を備えているものが好ましい。また、本発明は直径が40〜60mmの未乾燥サラミソーセージの乾燥に好適なので、この場合には電極の直径は40〜60mmが好ましい。また、未乾燥サラミソーセージは冷蔵乾燥して製造されるものなので、前記減圧乾燥装置は未乾燥サラミソーセージを周囲から冷却する冷却装置を備えているものが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、未乾燥サラミソーセージを通電によって加熱しながら減圧するので、減圧による温度の低下が抑制され、内部からの水分の蒸発が円滑に進み、未乾燥サラミソーセージを速やかに冷蔵乾燥させて、サラミソーセージを従来よりも短期間に作ることができ、従って、サラミソーセージの製造コストを低下させることができるという利点がある。
【0021】
また、本発明は、未乾燥サラミソーセージを通電によって加熱しながら減圧するので、減圧による温度の低下が抑制され、内部からの水分の蒸発が円滑に進み、直径が40〜60mm程度の太物の未乾燥サラミソーセージの場合、減圧下で乾燥ムラを生じさせることなく速やかに冷蔵乾燥させて、サラミソーセージを長期間かけずに作ることができ、従って、太物のサラミソーセージの製造コストを低下させることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は従来法(冷蔵乾燥法:標準製法)及び本発明法(真空通電乾燥法)のサラミソーセージの製造工程を示す説明図である。
【図2】図2は両端部を切断した未乾燥サラミソーセージの図面代用写真である。
【図3】図3は未乾燥サラミソーセージの両端部に電極を取り付けた状態を示す図面代用写真である。
【図4】図4は本発明装置の一例の説明図
【図5】図5は未乾燥サラミソーセージの温度と重量減少率を経時的に示したグラフである。
【図6】図6は従来法により製造されたサラミソーセージ及び本発明法により製造されたサラミソーセージの表面付近(表面下0.5cm)の肉の含水率及び水分活性値を示すグラフである。
【図7】図7は従来法により製造されたサラミソーセージ及び本発明法により製造されたサラミソーセージの内部の肉(中心部の肉)の含水率及び水分活性値を示すグラフである。
【図8】図8は従来法により製造されたサラミソーセージと本発明法により製造されたサラミソーセージの表面付近の肉の色彩値を示すグラフである。
【図9】図9は従来法により製造されたサラミソーセージと本発明法により製造されたサラミソーセージの内部の肉の色彩値を示すグラフである。
【図10】図10は従来法により製造されたサラミソーセージと本発明法により製造されたサラミソーセージの肉の重量減少率及び収縮率を示すグラフである。
【図11】図11は従来法により製造されたサラミソーセージの内部の肉の外観を示す図面代用写真である。
【図12】図12は従来法により製造されたサラミソーセージの表面付近の肉の外観を示す図面代用写真である。
【図13】図13は本発明法により製造されたサラミソーセージの内部の肉の外観を示す図面代用写真である。
【図14】図14は本発明法により製造されたサラミソーセージの表面付近の肉の外観を示す図面代用写真である。
【図15】図15は真空通電で乾燥させて得たサラミソーセージと真空のみで乾燥させて得たサラミソーセージの含水率における内部と表面部での差を示したグラフである。
【図16】図16は真空通電で乾燥させて得たサラミソーセージと真空のみで乾燥させて得たサラミソーセージの水分活性値における内部と表面部での差を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
燻煙処理を施した未乾燥サラミソーセージ、特に太物の未乾燥サラミソーセージを速やかに乾燥させるという目的を、通電と減圧を組み合わせることにより、未乾燥サラミソーセージの内部と表面近くとで乾燥ムラを生じさせることなく実現した。
【実施例1】
【0024】
図1は従来法(冷蔵乾燥法:標準製法)及び本発明法(真空通電乾燥法)のサラミソーセージの製造工程を示す説明図である。以下、図1に示す各工程の流れに従って、従来法及び本発明法によるサラミソーセージの具体的な製造例について説明する。なお、スモーク工程までは従来法も本発明法も同じである。
【0025】
図1に示すように、まず、原材料肉の豚肩ロース肉500gと豚もも肉500gを電動式ミートミンサーに入れてミンチ状にし、得られたミンチ状の挽肉に粗塩30g、三温糖10g及び各種香辛料を各少々加え、挽肉に粘り気が出てくるまで手で良く混練した。香辛料としてはパウダー状のオールスパイス、ナツメグ、セージ、白胡椒、黒胡椒、ガーリック、ジンジャーを使用した。なお、肉の部位については、本実施例に限定されない。
【0026】
次に、混練した挽肉をソーセージスタッファーに入れ、この挽肉をソーセージスタッファーから押し出してサラミソーセージ用のケーシング(50φmm)内に充填し、ケーシングを固く絞り込み、端部を結索して未乾燥サラミソーセージを作製した。ここで、ケーシングとしては不可食性で、直径が50mm、長さ26cmのものを使用した。作製された未乾燥サラミソーセージの長さは16〜18cmであった。
【0027】
次に、この未乾燥サラミソーセージをスモークハウス(花木工業株式会社製)内に入れ、乾燥、スモーク(燻煙)、殺菌、風乾をした。ここで、スモークハウスとは、内部(庫内)に未乾燥サラミソーセージを吊るし、煙(スモーク)を吹き込んでスモーク(燻煙)することができる密閉装置であり、庫内に熱風を吹き込むことによって庫内温度を制御することができ、また、庫内に水蒸気を噴き込むことによって湿球温度も制御できるようになっている。
【0028】
まず、予め乾球温度55℃に設定したスモークハウス内に未乾燥サラミソーセージをたこ糸で吊るし、熱風によって未乾燥サラミソーセージを90分間乾燥させた。次に、スモークハウス内に煙を入れ、乾球温度55℃で10分間乾燥スモークし、その後、スモークハウス内に水蒸気を入れてスモークハウス内の湿度を高め、湿球温度55℃で10分間加湿スモークした。なお、スモークに入る10分前からヒーターを入れ、スモークチップを200℃以上に加熱し、スモークハウス内に煙を入れられるようにしておいた。スモークチップとしてはサクラチップを用いた。
【0029】
次に、湿球温度を73℃に上昇させ、スモークハウス内の湿度をほぼ100%とし、40分間蒸煮殺菌を行った。この工程は食品衛生法により、63℃、30分相当の加熱が必要となっていることから行った。次に、乾球温度55℃で風乾を行った。風乾時間は、表面の乾燥が進行し過ぎてしまわないように20時間とした。
【0030】
スモークハウス内における上記各工程(乾燥、スモーク、蒸煮殺菌、風乾:以下、「スモークハウス工程」という。)によりケーシングへの挽肉の充填直後の未乾燥サラミソーセージの約20%の重量が減少した。また、スモークハウス工程の所要時間は合計で22時間30分であった。ここまでの工程は従来法も本発明法もともに同じである。
【0031】
次に、従来法(標準製法)として、スモークハウス工程の風乾後、未乾燥サラミソーセージを低温恒温槽(5℃設定)の中に約20日〜30日間吊るして冷蔵乾燥させ、ケーシング充填時の未乾燥サラミソーセージの重量から約40%減少した重量のサラミソーセージ(最終製品)を得た。
【0032】
また、本発明法として、スモークハウス工程の風乾後、未乾燥サラミソーセージの両端部を図2に示すように切断し、この切断面にケーシングのフィルムを貼り付け、未乾燥サラミソーセージの切断面からの水分の蒸発をなるべく抑えるようにし、この状態で、図3に示すように、両端部に電極を取り付けた。
【0033】
未乾燥サラミソーセージに通電させるために使用した電極には片面側に多数の針が剣山状に設けられており、未乾燥サラミソーセージの両端部に多数の針が食い込むように押し付けられ、未乾燥サラミソーセージの端部が減圧で乾燥してきても通電が維持されるようにした。
【0034】
このようにして両端部を電極で挟んだ未乾燥サラミソーセージを減圧乾燥装置内に入れ、圧力を5hPaに減圧し、未乾燥サラミソーセージの中心温度が20℃になるように制御しながら8日間通電・乾燥させた。
【0035】
図4は本発明装置の一例の説明図であり、同図に示すように、本発明装置は、未乾燥サラミソーセージを減圧乾燥させる減圧乾燥装置10と、該未乾燥サラミソーセージに通電して加熱する通電加熱装置12と、該未乾燥サラミソーセージの温度を測定する温度測定装置14と、該未乾燥サラミソーセージの重量を経時的に測定する重量測定装置16とを備えている。
【0036】
ここで、本発明法に用いる減圧乾燥装置10としては、アクリル製真空デシケーターVLH-C型(アズワン株式会社製)18と真空ポンプ160VP CuteVac(HITACHI)20を使用した。真空デシケーター18内の最大真空度は6〜8hPaである。
【0037】
通電加熱装置12としては、電源22{SUPER JOULE 920(東洋アルミニウム株式会社製)}と電極24,24を使用した。電源22は周波数が50Hzで、主に電圧で制御を行う原理のもので、測定された未乾燥サラミソーセージの温度を元に温度制御可能となっている。
【0038】
未乾燥サラミソーセージの温度を測定する温度測定装置14としてはシース型K型熱電対(1.0φmm)を用いた。挿入部分をパラフィルムにて絶縁し、試料の中心温度(温度制御点と同箇所)、端部分温度を経時的に測定した。
【0039】
未乾燥サラミソーセージの重量を測定する重量測定装置16としてはポータブル天びん(BJ1500S sartorius)を用いた。ポータブル天びんは真空デシケーター内に入れ、経時的にPC(パーソナルコンピュータ)26にデータを取り込めるようにした。
【0040】
未乾燥サラミソーセージはこの真空(減圧)通電で乾燥し、ケーシング充填時の未乾燥サラミソーセージの重量の約40%が減少した。図5は未乾燥サラミソーセージの温度と重量減少率を経時的に示したグラフであり、重量減少率40%を超えるまでに約6日要することが分かる。本実験では、余裕を持って約8日間乾燥させた。
【0041】
また、図5より、試料の温度(中心部、端部)は20℃(±5℃)の範囲に入っており、食品衛生法でのサラミソーセージ乾燥条件の指定温度50℃以上又は20℃以下を満たしている。
【0042】
また、通電加熱で制御されているのは約1日までだが、真空のみで乾燥させたデータ(中心温度・重量減少率)と比較すると、減少速度に違いが見られることから、初期段階に通電加熱を行うことで製造短縮に繋がると考えられる。
【0043】
次に、このサラミソーセージをタッパー容器に入れ、低温恒温槽(5℃)にて3日間放置(あんじょう)した。このあんじょうは、真空通電乾燥が急速な乾燥で、サラミソーセージの表面と内部で若干乾燥ムラが出てしまい、中心の水分が残ってしまっているので、上乾きを防ぎ、水分を均等にする拡散効果を狙って行った。
【0044】
従来法では、サラミソーセージを製造するのに、スモークハウス工程までに1日、低温恒温槽(5℃設定)内における乾燥に約20日〜30日かかっているが、本発明法では、サラミソーセージを製造するのに、スモークハウス工程までに1日、真空通電乾燥に8日、あんじょうに3日で、計12日である。従って、本発明法では従来の1/2の期間でサラミソーセージを製造できることがわかる。
【0045】
次に、従来法及び本発明法により製造されたサラミソーセージの表面付近(表面下0.5cm)の肉の含水率及び水分活性値を測定したところ、図6に示す通りであり、また、内部の肉(中心部の肉)の含水率及び水分活性値を測定したところ、図7に示す通りであった。ここで、含水率は下記の数式1で示される数値であり、水分活性値は食品中の自由水の割合を表す数値である。
【0046】
【数1】

【0047】
従来法(標準製法)により製造したサラミソーセージ(冷蔵乾燥21日、32日)および本発明法により製造したサラミソーセージの測定結果は、どちらもサラミソーセージ規格基準(含水率35%以下、水分活性値0.87以下)を満たしている。なお、含水率は減圧加熱乾燥法により、水分活性測定器Lab Master-aw (novasina製)により測定した。
【0048】
本発明法により製造したサラミソーセージの内部の肉は水分活性値0.87をなかなか下回ることが出来ていなかったが、「あんじょう工程」を行うことによって、濃度勾配による内部での水分移動が起こり、内部の水分が均一に近付き、基準を満たすことが出来た。
【0049】
また、従来法(標準製法)では、冷蔵乾燥21日のサラミソーセージの内部肉における水分活性値が0.87を下回り、基準を満たせていることが分かる。よって、従来法によって直径50mmサイズのケーシングサラミソーセージは約21日(3週間)の冷蔵乾燥工程が必要ということが分かり、本発明法では約半分の日数(12日)で製造することができ、製造期間のかなりの短縮に繋がると言える。
【0050】
また、従来法により製造されたサラミソーセージと、本発明法により製造されたサラミソーセージの表面付近の肉の色彩値を測定したところ、図8に示す通りであり、また、内部の肉の色彩値を測定したところ、図9に示す通りであった。これらの図において、縦軸に色彩値が示され、横軸に測定した試料(サラミソーセージ)の種類が示されている。
【0051】
これらの結果から、従来法(標準製法)と本発明法(真空通電乾燥法)では赤身肉の色において、大きな違いはL値という事が分かった。本発明法ではサラミソーセージの表面、内部肉ともに、従来法と比べて少しL値が高いので、明るい(淡い)色をしていることが分かる。a値、b値に関して、あまり大きな違いは見られなかった。
【0052】
また、従来法により製造されたサラミソーセージと本発明法により製造されたサラミソーセージの表面付近の肉の重量減少率及び収縮率を測定したところ、図10に示す通りであった。
【0053】
本発明法(真空通電乾燥法)では、従来法(冷蔵乾燥法)と同程度の重量減少(約40%以上)を乾燥させたが、収縮率は異なる傾向を示し、半径方向の収縮は小さく、長さ方向の収縮が大きいという結果が得られた。これはそれぞれの乾燥時の状態に起因していると考えられる。
【0054】
従来法(冷蔵乾燥法)では吊るして乾燥しているのに対して、本発明法(真空通電乾燥法)では横に寝かせて乾燥させており、乾燥しやすい部位が異なると考えられる。本発明法では、従来法と同程度の重量減少(約40%以上)になるように乾燥したが、収縮率は異なる傾向を示し、半径方向からの収縮は小さく、長さ方向からの収縮が大きいという結果が得られた。
【0055】
また、従来法により製造されたサラミソーセージの内部の肉の外観は図11に示す通り、表面付近の肉の外観は図12に示す通りであった。また、本発明法により製造されたサラミソーセージの内部の肉の外観は図13に示す通り、表面付近の肉の外観は図14に示す通りであった。
【0056】
サラミソーセージの肉の外観は、従来法と本発明法を比較すると、本発明法の方は全体的に淡い、薄い色をしていると見られる。しかし、淡さ・薄さを除けば、見た目や形はほぼ同様である。内部肉の赤身色に違い(本発明法:赤色が薄い)が見られるのは、L値の違いからも推測することが出来るが、これは長時間乾燥させたことによる発酵が色に影響起こしたのではないかと考えられる。しかし、本発明法では脂身の部分がしっかりと固まって残っており、主な違いは色の薄さだけと考えられる。
【0057】
従来法(標準製法:冷蔵乾燥21日)で製造したサラミソーセージに対し、本発明法(真空通電乾燥法)で製造したサラミソーセージが食品として同等な品質のものか検証するために、表点法を用いて、以下の項目について官能評価試験を行なった。
【0058】
見た目{光沢感・赤色(赤身肉の色)・白色(脂身の色)・全体的な色合い}、味(塩味・うま味・スパイス感・全体的な味の好み)、におい(におい強さ・発酵臭)それぞれについて、従来法で製造したサラミソーセージの評価を0としてもらい、それに対して本発明法で製造したサラミソーセージが好ましい場合は「+1、+2」の評価を、好ましくない場合は「−1、−2」の評価を、同等な場合は「0」の評価をして頂くという5段階評価尺度(+2〜−2)を用いて行った。
【0059】
今回は20代前半の7人(男:4人、女:3人)に対して官能評価を実施した。評価してもらった段階評価の平均値を算出し、以下のように表示することとした。従来法で製造したサラミソーセージを0とし、それに対して、本発明法で製造したサラミソーセージの平均評点が+1.5〜+0.5は◎(すごく好む)、+0.5〜−0.5は○(同等)、−0.5〜−1.5は△(やや好まない)、−1.5〜−2.0は×(好まない)とした。結果は表3に示す通りであった。
【0060】
【表3】

【0061】
表3より、光沢感に関しては、本発明法で製造したサラミソーセージは従来法で製造したサラミソーセージと比較して、好まれないという結果が得られた。これは、本発明法で製造したサラミソーセージは、真空通電により乾燥が急速に起こり、水とともに脂も昇華(蒸発)していってしまい、脂が減少し、切断時に表面に浮き出てこなくなってしまったからだと思われる。
【0062】
また、色に関しても、本発明法で製造したサラミソーセージは従来法で製造したサラミソーセージと比較して、好まれないという結果が得られた。これは色彩の結果、写真の比較からも考えられるように色(特に赤色)が薄いからではないかと思われる。
【0063】
本発明法で製造したサラミソーセージは、味やにおいなどの他の項目については、従来法で製造したサラミソーセージと同等又はやや好まない程度の評価となり、見た目を除けば、従来法で製造したサラミソーセージと同等の品質ということが言える。
【0064】
上記の官能評価試験によって、食感(硬さ・噛みごたえ)に対しても同様に実施し、硬さ、噛みごたえ、それぞれに関して、平均値を算出し、比較を行なった。
【0065】
本発明法で製造したサラミソーセージは従来法で製造したサラミソーセージと比較し、硬さ、噛みごたえに違いがあるか、同等かを検討し、比較して硬い場合、噛みごたえがある場合は「+1、+2」の評価を、柔らかい場合、噛みごたえが無い場合は「−1、−2」の評価を、同等な場合は「0」の評価をして頂くという5段階評価尺度(+2〜−2)を用いて行った。
【0066】
また、硬さはサラミソーセージのサンプルを上下の臼歯間でかみ切るのに要する力、噛みごたえは飲み込むまでサラミソーセージを噛み砕くために必要な労力と定義した。上記の官能評価と同様に、評価してもらった段階評価の平均値を算出し、「○、△、×」で表示することとした。結果は表4に示す通りであった。
【0067】
【表4】

【0068】
硬さに関しては、表4に示すように、本発明法で製造したサラミソーセージは従来法で製造したサラミソーセージと比較して、同等という結果が得られた。また、噛みごたえに関しても同様に、本発明法で製造したサラミソーセージは従来法で製造したサラミソーセージと比較して同等という結果が得られた。
【0069】
上記表3、表4の結果から、本発明法で製造したサラミソーセージは、従来法で製造したサラミソーセージと比べて、色(赤色)、見た目を除き、味・食感は同等であるということが言える。
【0070】
次に、減圧乾燥に通電加熱を組み合わせることで、乾燥ムラが軽減されるのか検証するため、真空通電乾燥、減圧のみで乾燥、それぞれで乾燥させたサラミソーセージの内部と表面部との水分データを測定し、内部と表面部とでどの程度差が生じるのか、そして、通電加熱を行うことで、その差を軽減することが出来るのか検証した。
【0071】
真空通電で乾燥させて得たサラミソーセージと減圧のみで乾燥させて得たサラミソーセージの内部と表面部との水分データを測定したところ、表5、図15、図16に示す通りであった。
【0072】
【表5】

【0073】
表5、図15、図16より、真空通電乾燥で製造したサラミソーセージの水分データ結果の方が含水率・水分活性値ともに内部と表面部との差が小さいことが分かる。
【0074】
含水率では、内部と表面部との差が減圧のみの乾燥で18.51%、真空通電乾燥で8.94%と、真空通電乾燥の方が9.57%少なく、水分活性値では、内部と表面部との差が減圧のみの乾燥で0.0456、真空通電乾燥で0.0250と、真空通電乾燥の方が0.0206小さい。これより、減圧乾燥技術に通電加熱を組み合わせることで、サラミソーセージの内部肉の温度上昇を可能とし、それに伴い、水分蒸発の促進、乾燥速度の上昇に繋がり、内部と表面部での乾燥ムラを真空のみで製造したよりも抑えられるということ分かった。
【0075】
また、真空通電乾燥では真空デシケーター内での工程に8日間要したのに対して、減圧のみの乾燥では真空デシケーター内での工程に13日間要した。よって、通電加熱を行うことで、乾燥ムラの軽減の効果、更に、時間短縮の効果が大いにあるということが言える。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明はサラミソーセージの製造に適用して好適な方法及び装置であるが、食肉処理場や魚加工場などの食品処理工場から排出される食品残渣を乾燥させて飼料とする用途にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 減圧乾燥装置
12 通電加熱装置
14 温度測定装置
16 重量測定装置
18 真空デシケーター
20 真空ポンプ
24 電極
26 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調製した挽肉をケーシング内に充填して未乾燥サラミソーセージを得る挽肉充填工程と、該挽肉充填工程で得られた該未乾燥サラミソーセージをスモークハウス内で乾燥、燻煙、蒸煮及び風乾するスモークハウス工程と、該スモークハウス工程を経て得られた未乾燥サラミソーセージを冷蔵乾燥させる冷蔵乾燥工程と、該冷蔵乾燥工程を経て得られたサラミソーセージ内の水分の分布を均一化させるあんじょう工程とを備え、該冷蔵乾燥工程が、該未乾燥サラミソーセージに該未乾燥サラミソーセージの内部温度が20℃を越えない範囲で通電しながら、該未乾燥サラミソーセージを減圧下で乾燥させるものであることを特徴とするサラミソーセージの製造方法。
【請求項2】
前記挽肉充填工程で得られた該未乾燥サラミソーセージの直径が40〜60mmであることを特徴とする請求項1に記載のサラミソーセージの製造方法。
【請求項3】
前記冷蔵乾燥工程において前記未乾燥サラミソーセージを3〜9hPaの圧力下で乾燥させることを特徴とする請求項1又は2に記載のサラミソーセージの製造方法。
【請求項4】
前記冷蔵乾燥工程において前記未乾燥サラミソーセージを外側から冷却しながら乾燥させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のサラミソーセージの製造方法。
【請求項5】
未乾燥サラミソーセージを減圧下で乾燥させる減圧乾燥装置と、減圧下で乾燥させている該未乾燥サラミソーセージに該未乾燥サラミソーセージの内部温度が20℃を越えない範囲で通電する通電装置とを備えていることを特徴とするサラミソーセージ用減圧乾燥装置。
【請求項6】
前記通電装置は前記未乾燥サラミソーセージの端部を挟んで通電する一対の電極を備え、該一対の電極の該未乾燥サラミソーセージの端部に接する側は剣山状になっていることを特徴とする請求項5に記載のサラミソーセージ用減圧乾燥装置。
【請求項7】
前記一対の電極の直径が40〜60mmであることを特徴とする請求項6に記載のサラミソーセージ用減圧乾燥装置。
【請求項8】
前記通電装置は、前記未乾燥サラミソーセージの内部の温度を測定する温度測定装置と、該温度測定装置によって得られた結果に基づいて前記一対の電極間の通電量を制御して該未乾燥サラミソーセージの内部の温度を所望の範囲に保つ電流制御装置と
を備えていることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のサラミソーセージ用減圧乾燥装置。
【請求項9】
前記減圧乾燥装置が前記未乾燥サラミソーセージの周囲の圧力を3〜9hPaとする減圧装置を備えていることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のサラミソーセージ用減圧乾燥装置。
【請求項10】
前記減圧乾燥装置が前記未乾燥サラミソーセージを周囲から冷却する冷却装置を備えていることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のサラミソーセージ用減圧乾燥装置。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図15】
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【図16】
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【図2】
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【図3】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−21933(P2013−21933A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157018(P2011−157018)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(594083955)花木工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】