説明

捕捉デバイス

【課題】血流の下流側から血管内治療を行うときに、血栓等を確実に回収することができる手段を提供する。
【解決手段】捕捉デバイス10は、先端側から血管30へ挿入され、第1ルーメン20の外側に第2ルーメン22を有するダブルルーメン構造を有するシース11と、シース11の先端側に設けられており、第2ルーメン22を通じて内部空間へ流入及び流出される流体により、先端側の外径R1が基端側の外径R2より大きく、かつその内側に先端側が開口されて第1ルーメン20に通じる空間を有する傘形状である拡張姿勢、及び先端側の外径R3と基端側の外径R2とが同等な筒形状である収縮姿勢に姿勢変化される捕捉部12と、シース11の基端側に設けられており、第2ルーメン22へ通じ、かつ流体が流通可能な空間を有する流体導入部13と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターベンション等の血管内治療において、血栓やプラークなどを捕捉するデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、血管内においてバルーンカテーテル等を用いて血栓による狭窄を拡張する治療が行われている。このような血管内治療において、血栓等が血流により末梢側へ流れないようにするために、末梢側から異物除去用のカテーテルを挿入し、血栓等を血管から除去することが行われている。このような異物除去用のカテーテルとして、バルーンより先端側に、すなわち血流の上流側に吸引口を設けたバルーンカテーテルがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−252895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたバルーンカテーテルにおいては、バルーンと吸引口とが若干離れているので、そのスペースに血栓等が滞留することがあり、すべての血栓等を吸引口から完全に吸引して血管から除去することができないという問題が懸念される。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、血流の下流側から血管内治療を行うときに、血栓等を確実に回収することができる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明に係る捕捉デバイスは、先端側から血管へ挿入され、第1ルーメンの外側に第2ルーメンを有するダブルルーメン構造を有するシースと、上記シースの先端側に設けられており、上記第2ルーメンを通じて内部空間へ流入及び流出される流体により、先端側の外径が基端側の外径より大きく、かつ内側に先端側が開口されて上記第1ルーメンに通じる空間を有する略傘形状である拡張姿勢、及び先端側の外径が拡張姿勢より小さくされた収縮姿勢に姿勢変化される捕捉部と、上記シースの基端側に設けられており、上記第2ルーメンへ通じ、かつ流体が流通可能な空間を有する流体導入部と、を具備する。
【0007】
捕捉デバイスは、捕捉部が収縮姿勢にされた状態で、シースの先端から血管へ挿入される。シースの基端側は、シースの操作や流体の流出入、血栓等の吸引除去のために血管外に位置される。血栓などの治療部位より血流の下流側、つまり末梢側に捕捉部が位置された状態において、流体導入部から第2ルーメンへ流入された流体により、捕捉部が収縮姿勢から拡張姿勢に姿勢変化される。拡張姿勢にされた捕捉部は略傘形状であり、先端側の開口周縁が血管の内壁に密着される。
【0008】
捕捉デバイスの第1ルーメンには、バルーンカテーテルなどの血栓を治療するためのデバイスが挿入される。例えば、バルーンカテーテルが第1ルーメンに挿入されて、バルーン部分がシースの先端から突出されて、捕捉部より血流の上流側へ進められる。そして、血栓などの治療部位においてバルーン部分が拡張されることにより、血栓による狭窄部分が拡張される。治療部位より下流側において、捕捉デバイスの捕捉部が拡張姿勢にされているので、血栓等は、捕捉部より血流の上流側に滞留される。
【0009】
バルーンカテーテルは、バルーン部分を収縮させて、捕捉デバイスの第1ルーメンから抜き取られて撤収される。その後、捕捉デバイスの第1ルーメンを通じて、治療部位付近に滞留する血栓等が血管外へ吸引除去される。その後、第2ルーメンから流体が流出されることにより、捕捉部が拡張姿勢から収縮姿勢に姿勢変化されて、捕捉デバイスが血管から撤収される。
【0010】
(2) 上記捕捉部は、厚み方向へ血液を通過させないフィルムからなる袋状のものが挙げられる。
【0011】
(3) 上記捕捉部は、長手方向の中央が最も外径が大きく、長手方向の両端側へ向かって外径がそれぞれテーパ形状に小さくなる円筒形状のフィルムが、長手方向の両端を重ね合わすように、長手方向の中央から折り返すように捲られることによって、形成されたものであってもよい。
【0012】
(4) 上記捕捉デバイスは、上記シースの基端側に設けられており、上記第1ルーメンへ通じるポートを更に具備するものであってもよい。
【0013】
第2ポートを通じて、血管に滞留した血栓等の吸引除去が行われる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る捕捉デバイスによれば、第2ルーメンに流出入される流体により拡張姿勢及び収縮姿勢に姿勢変化される捕捉部を有するので、血栓等が血管内に確実に滞留される。そして、滞留された血栓等が第1ルーメンを通じて血管外へ吸引除去された後、捕捉部が拡張姿勢から収縮姿勢に姿勢変化されて、捕捉デバイスが血管から撤収されるので、捕捉部から血栓等が脱落することなく、血管から血栓等を確実に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、捕捉部12が拡張姿勢である状態の捕捉デバイス10の外観構成を示す図である。
【図2】図2は、図1の捕捉デバイス10の縦断面図である。
【図3】図3(A)は拡張姿勢の捕捉部12を示す部分拡大図であり、図3(B)は収縮姿勢の捕捉部12を示す部分拡大図である。
【図4】図4は、血管30において捕捉部12が拡張姿勢にされた状態を示す模式図である。
【図5】図5は、血管30において第1ルーメン20を通じて血栓等32が吸引される状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様を変更できることは言うまでもない。
【0017】
図1及び図2に示されるように、捕捉デバイス10は、ダブルルーメン構造を有するシース11と、シース11の先端側に設けられた捕捉部12と、シース11の基端側に設けられた流体導入部13、第1ポート14及び第2ポート15と、を有する。
【0018】
図2に示されるように、シース11は、第1ルーメン20を有するチューブ21と、第2ルーメン22を有するチューブ23とを有し、チューブ21を内側として二重構造をなすことにより、ダブルルーメン構造が形成されたものである。チューブ21,23は、ポリアミドやポリエーテルアミドなどの弾性変形可能な軟質プラスチックの成形体である。チューブ21,23は、各々が長手方向101に渡ってほぼ均等な外径である。また、第1ルーメン20及び第2ルーメン22も、各々が長手方向101に渡ってほぼ均等な内径である。第1ルーメン20の内径は、ダイレータやバルーンカテーテルが挿入可能な径に設定されている。シース11の長手方向101の長さは、ヒトの四肢などのカテーテル挿入部から患部までの長さを考慮して適宜設定されている。
【0019】
シース11は、捕捉部12が設けられた先端側から血管へ挿入される。シース11の基端にはハンドル部18が設けられている。ハンドル部18は、第1ルーメン20及び第2ルーメン22と各々連続する内部空間を有する筒状の部材である。ハンドル部18は、ポリプロピレンやABSなどの樹脂の成形体である。ハンドル部18は、シース11の挿抜などの操作において持ち手となり得る。
【0020】
ハンドル部18には、シース11の軸線102に対して交差する方向へ延出された流体導入部13が設けられている。流体導入部13は、チューブ24とコネクタ25とを有する。チューブ24の一端は、ハンドル部18の内部空間へ到達しており、第2ルーメン22と連通されている。チューブ24の他端にはコネクタ25が設けられている。コネクタ25は、シリンジなどの他のデバイスと流体を流通可能に接続するためのものである。コネクタ25に他のデバイスが接続されて、他のデバイスから流出入される空気や生理食塩水などの流体が、チューブ24を通じて第2ルーメン22へ流出入する。
【0021】
ハンドル部18の基端には、第1ポート14が設けられている。第1ポート14は、シース11の軸線102上に設けられており、内部空間が第1ルーメン20と通じている。第1ポート14は、弁17により液密に開閉される。弁17は、シリコンゴム26と、シリコンゴム26の外側に配置されたネジ体27とを有する。シリコンゴム26は、円筒形状であり、第1ポート14の内部空間を形成しており、その一部がハンドル部18の基端側に嵌め込まれている。ネジ体27は、ハンドル部18の基端に螺合された円筒形状のものであり、その内部空間にシリコンゴム26の一部が嵌められている。
【0022】
ハンドル部18において、流体導入部13より基端側には、シース11の軸線102に対して交差する方向へ延出された第2ポート15が設けられている。第2ポート15は、第1ルーメン20と通ずるチューブであるが、このチューブ20は、ハンドル部18と一体に形成されている。もちろん、ハンドル部18と別個に形成されたチューブにより第2ポート15が形成されていてもよい。第2ポート15には、シリンジなどの他のデバイスが接続可能である。第2ポート15に他のデバイスが接続されて、他のデバイスから第2ポート15を通じて第1ルーメン20へ吸引力が付与され、第1ルーメン20を通じて血液や血栓等が捕捉デバイス10の外部へ吸い出される。第2ポート15が、本発明に係るポートに相当する。
【0023】
シース11の先端側には、捕捉部12が設けられている。捕捉部12は、厚み方向へ血液を通過させないフィルムからなる袋状のものである。袋状の捕捉部12の内部空間は、第2ルーメン22と連通されている。捕捉部12は、内部空間に流出入される流体によって、拡張姿勢と収縮姿勢とに姿勢変化される。フィルムの素材としては、生体適合性を有する材料が好ましく、具体的には、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。なお、捕捉部12は、シース11と一体に成形されていてもよい。
【0024】
図3(A)に示されるように、拡張姿勢の捕捉部12は、先端側の外径R1が基端側の外径R2より大きい。拡張姿勢の捕捉部12は、基端側から先端側へ向かって、外径R2から外径R1へテーパ形状に拡径されており、かつ、外径と同様に、内部空間も基端側から先端側へ向かって拡径された略傘形状である。なお、先端側の外径R1は、捕捉デバイス10が挿入される血管の太さに応じて設計されている。基端側の外径R2は、シース11の外径と同程度である。
【0025】
捕捉部12は、長手方向101の中央が最も外径が大きく、長手方向101の両端側へ向かって外径がそれぞれテーパ形状に小さくなる円筒形状のフィルムが、長手方向101の両端を重ね合わすように、長手方向101の中央から折り返すように捲られることによって、袋形状に形成されている。これにより、外径が最も大きな長手方向101の中央が、捕捉部12の先端側、すなわち外径R1をなす部分となる。また、長手方向101の両端が、捕捉部12の基端側、すなわち外径R2をなす部分となる。
【0026】
図3(B)に示されるように、収縮姿勢の捕捉部12は、先端側の外径R3と基端側の外径R2とが同等、或いは外径R3が捕捉部12のフィルムの厚み分だけ若干大きい。この外径R3は、拡張姿勢の捕捉部12における先端側の外径R1より小さい(外径R3<外径R1)。収縮姿勢の捕捉部12においても、捕捉部12より内側の空間は、先端が開口しており、第1ルーメン20と連通している。拡張姿勢の捕捉部12の内部空間から流体が流出されると、捕捉部12は、周方向の数カ所が外側に捲られるようにして萎む。捕捉部12において、外側へ捲られる箇所は、癖付けにより予め設定されている。捕捉部12において、周方向の数カ所が外側へ捲られることにより、捕捉部12は、周方向に山谷が連続するように折りたたまれた状態となり、その山の部分27が傘が巻かれるように周方向へ回り込むことにより、捕捉部12が収縮姿勢となる。このような、捕捉部12の拡張及び収縮は、バルーンカテーテルのバルーン部分などにおいて用いられている公知の手段と同様にして実現される。
【0027】
[捕捉デバイス10の使用方法]
以下に、図4が参照されつつ捕捉デバイス10の使用方法が説明される。
【0028】
捕捉デバイス10は、血栓などの血管30の治療部位31を血流103とは逆方向からバルーンカテーテル40などを挿入して治療する際に用いられる。捕捉デバイス10は、捕捉部12が収縮姿勢にされた状態で、シース11の先端から血管30へ挿入される。なお、各図には現れていないが、シース11の第1ルーメン20には、血管30への挿入に際して捕捉部12が捲れ上がることなどを防止するために、ダイレータが挿入され、ダイレータの先端が捕捉部12より先端側へ突出された状態で、捕捉デバイス10が血管30へ挿入される。
【0029】
捕捉部12が、治療部位31より血流103の下流側の位置まで挿入されると、シース11の血管への挿入が終了される。シース11のハンドル部18は、シース11の操作や流体の流出入、血栓等の吸引除去のために血管30外に位置される。また、前述されたダイレータが第1ルーメン20から引き抜かれる。
【0030】
図4に示されるように、治療部位31より血流103の下流側、つまり末梢側に捕捉部12が位置された状態において、流体導入部13から第2ルーメン22へ流入された流体により、捕捉部12が収縮姿勢から拡張姿勢に姿勢変化される。拡張姿勢にされた捕捉部12は傘形状であり、先端側の開口周縁が血管30の内壁に密着される。
【0031】
弁17が開放されて、第1ポート14を通じて第1ルーメン20にバルーンカテーテル40が挿入される。バルーンカテーテル40の挿入に際して、血管30にガイドワイヤが挿通されて治療部位31へ到達されるが、このようなガイドワイヤの挿通は、例えば、特開2006−326226号公報や特開2006−230442号公報に開示された公知の手法によりなされるので、ここでは詳細な説明が省略される。
【0032】
第1ルーメン20に挿入されたバルーンカテーテル40は、そのバルーン部分41がシース11の先端から突出されて、ガイドワイヤに沿って捕捉部12より血流103の上流側へ進められる。そして、治療部位31においてバルーン部分41が拡張されることにより、血栓による狭窄部分が拡張される。治療部位31より血流103の下流側において、捕捉部12が拡張姿勢にされているので、血栓やプラークなど、すなわち血栓等30は、捕捉部12より血流103の上流側に滞留される。
【0033】
図5に示されるように、治療が終了すると、バルーンカテーテル40のバルーン部分41が収縮され、バルーンカテーテル40が捕捉デバイス10の第1ルーメン20から抜き取られて撤収される。その後、捕捉デバイス10の第1ルーメン20を通じて、治療部位31付近に滞留する血栓等32が血管30外へ吸引除去される。これにより、血栓等32が血管30からほぼ完全に除去される。その後、第2ルーメン22から流体が流出されることにより、捕捉部12が拡張姿勢から収縮姿勢に姿勢変化されて、捕捉デバイス10が血管30から撤収される。
【0034】
[本実施形態の作用効果]
前述されたように、捕捉デバイス10によれば、第2ルーメン22に流出入される流体により拡張姿勢及び収縮姿勢に姿勢変化される捕捉部12を有するので、血栓等32が血管30内に確実に滞留される。そして、滞留された血栓等32が第1ルーメン20を通じて血管30外へ吸引除去された後、捕捉部12が拡張姿勢から収縮姿勢に姿勢変化されて、捕捉デバイス10が血管30から撤収されるので、捕捉部12から血栓等32が脱落することなく、血管30から血栓等32を確実に回収することができる。
【符号の説明】
【0035】
10・・・捕捉デバイス
11・・・シース
12・・・捕捉部
13・・・流体導入部
15・・・第2ポート
17・・・弁
20・・・第1ルーメン
22・・・第2ルーメン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側から血管へ挿入され、第1ルーメンの外側に第2ルーメンを有するダブルルーメン構造を有するシースと、
上記シースの先端側に設けられており、上記第2ルーメンを通じて内部空間へ流入及び流出される流体により、先端側の外径が基端側の外径より大きく、かつ内側に先端側が開口されて上記第1ルーメンに通じる空間を有する略傘形状である拡張姿勢、及び先端側の外径が拡張姿勢より小さくされた収縮姿勢に姿勢変化される捕捉部と、
上記シースの基端側に設けられており、上記第2ルーメンへ通じ、かつ流体が流通可能な空間を有する流体導入部と、を具備する捕捉デバイス。
【請求項2】
上記捕捉部は、厚み方向へ血液を通過させないフィルムからなる袋状のものである請求項1に記載の捕捉デバイス。
【請求項3】
上記捕捉部は、長手方向の中央が最も外径が大きく、長手方向の両端側へ向かって外径がそれぞれテーパ形状に小さくなる円筒形状のフィルムが、長手方向の両端を重ね合わすように、長手方向の中央から折り返すように捲られることによって、形成されたものである請求項2に記載の捕捉デバイス。
【請求項4】
上記シースの基端側に設けられており、上記第1ルーメンへ通じるポートを更に具備する請求項1から3のいずれかに記載の捕捉デバイス。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−235822(P2012−235822A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105050(P2011−105050)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】