説明

据付具

【課題】 設定角度を無段階に、且つ容易に調整することができ、設定中や設定後の調整ズレや緩みが生じない安価な傾斜調整取付構造の提供。
【解決手段】 建築物に固定される定着部材と、当該定着部材の上で揺動及び固定される可動部材とで構成され、前記可動部材は、その全体が揺動する際の軸となる揺動軸をその下端に備え、当該揺動軸を挟んで略対照的に翼状に延出する一対の調整片を備え、当該調整片の各々に傾斜調整ボルトが挿通する透孔を備えると共に、当該透孔の上縁部に前記傾斜調整ボルトと螺合する規制部材により圧せられる座部を備え、前記定着部材は、前記可動部材の揺動軸を受ける軸受け部を備えると共に、前記傾斜調整ボルトを回転不能にその先端が上向きとなる様に備え、前記軸受け部の軸受けが前記揺動軸の側面に略外接する多角形状の内縁を有した凹状の支持条又は支持面で構成されている傾斜調整取付構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、手摺りやその支柱、手掛かり、又は棚等、種々の定着物(以下、手摺り等と記す。)を建築物に固定する据付具に関するものであって、特に、その角度調整及び維持機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会が進み種々の建築物にあってもバリアフリー化が推進されている今日において、建築物の種々の箇所にスロープが設けられ、当該両域における歩行者の安全を確保すべく手摺りや手掛かりが設けられているのが実情である。また、平坦な箇所にあっても、足腰の負担を軽減すべく手摺り等を適宜設ける事が一般化しつつある。
【0003】
前記手摺り等にあっては、その機能を適正に発揮させるべく据付角度の調節が要求されることから、その様な要請を満足すべく下記特許文献に示す様に種々の機構が紹介されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−256627号公報
【特許文献2】特開2004−27540号公報
【特許文献3】特開2005−76322号公報
【特許文献4】特開平8−120870号公報
【特許文献5】特開2001−187997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1には、一方側のアンカーボルトのナットを緩めた状態で、他方側のナットを締め付けることによって、球面支持部を支点として柱脚金物全体を傾動させることによって取付角度調整を行う事ができる柱脚金物が紹介されている。
前記特許文献2及び特許文献3には、位置決め部材と回動部材とからなる関節のなす角度を複数段に調整しボルトで固定することによって取付角度調整を行う事ができる角度調整機構が紹介されており、前記特許文献4には、それらを柱脚の手摺り側に応用した連結金具が紹介されている。
前記特許文献5には、取付箇所の傾斜に対応して水平な取付面を形成する台座が紹介されている
【0006】
前記特許文献5に記載の手法にあっては、傾斜の調整に調整面部の微妙な回転調整を必要し比較的煩雑であると言う問題があり、特許文献2乃至4に記載の手法にあっては、予め定められた段階毎でしか傾斜を調整できず、微調整の不備によってがたつきやぐらつきを生じると言う問題があった。
【0007】
前記特許文献1に記載の手法にあっては、アンカーボルトとそれに螺合するナットの圧力によって一応の位置固定はなされているものの、各アンカーボルトが相通する孔部は、板状部材の傾斜に対応する余裕が設けられており、且つ球面支持部の下には単なる座金が敷設されるのみであることから、調整・固定後に荷重がかかればその負荷の方向に応じて柱脚に位置ずれが生じ、一旦調整した角度にズレが生じると言う問題がある。
【0008】
また、当該手法では、前記ナットの板状部材を押圧する箇所が調整角度によって異なる事となるので、ナットの下面と板状部材の表面とがなす角度がズレる事があれば、締められたナットに緩みが生じる虞があると言う問題もあった。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、設定角度を無段階に、且つ容易に調整することができ、設定中や設定後の調整ズレや緩みが生じない安価な傾斜調整取付構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する為になされた本発明による傾斜調整取付構造は、建築物に固定される定着部材と、当該定着部材の上で揺動及び固定される可動部材とで構成され、前記可動部材は、その全体が揺動する際の軸となる揺動軸をその下端に備え、当該揺動軸を挟んで略対照的に翼状に延出する一対の調整片を備え、当該調整片の各々に傾斜調整ボルトが挿通する透孔を備えると共に、当該透孔の上縁部に前記傾斜調整ボルトと螺合する規制部材により圧せられる座部を備え、前記定着部材は、前記可動部材の揺動軸を受ける軸受け部を備えると共に、前記傾斜調整ボルトを回転不能にその先端が上向きとなる様に備え、前記軸受け部の軸受けが、前記揺動軸の側面に略外接する多角形状(ここでは、複数の角と、複数の直線、又は直線と同視できる程度の緩い曲線(以下、直線等と記す。)のいずれかの連結を以って構成される多角形の外縁の一部を呈した形状を言う。多角形として閉じられているか否かは問わない。)の内縁を有した凹状の支持条又は支持面で構成されている事を特徴とする。
【0011】
尚、ここで、略外接するとは、前記軸受けの内縁を構成する線又は面の全てが揺動軸の側面に外接する必要は無いものの、外接していると認めるに等しい程度の状態を言うものとする。例えば、前記調整片のベースに対する傾斜が調整固定された段階で、少なくとも二つの線又は面が揺動軸の側面に外接し、且つその状態において、当該揺動軸とその側面に接しない他の線又は面各々の最も近い点とが1mm未満程度の距離を以って近接している状態を指すものとする。
【0012】
前記稼動部の支持状態を安定させるべく、前記座部が、前記可動部材の揺動軸と平行な半円柱状の突条を呈する傾斜調整取付構造としてもよい。
【0013】
実施態様例としては、上記傾斜調整取付構造の可動部材に、手摺りを支持する為の柱部を備えた手摺り用柱、又は可動部材に棚板を備えた棚等として構成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一方側の傾斜調整ボルトの規制部材を緩めた状態で、他方側の規制部材を締め付ける作業を以って、前記揺動軸を支点として前記可動部材全体を傾動させ、且つ傾斜調整ボルトとそれに螺合する規制部材の圧力によって、無段階な取付角度の調整を比較的容易に行う事が可能となり、微調整の不備によってがたつきやぐらつきを生じると言う問題が解消される。
【0015】
しかも、その構造上、前記調整片の傾斜に伴い傾斜調整ボルトが前記座部周辺で専有する投影面積の変化に対応すべく設けられた透孔の予備部分の存在によって、調整・固定後に荷重がかかればその負荷の方向に応じて柱脚に位置ずれが生じ、一旦調整した角度にズレが生じると言う問題が存在するところ、前記軸受け部の軸受けが前記揺動軸の側面に外接する多角形状の内縁を有した凹状の支持条又は支持面で構成されている(前記多角形状をなす直線等又は角度が全て等しいものである必要は無く、直線等の数は、2から10程度、好ましくは3から8、更に好ましくは4から6であって、一般的には、数が少なければ加工コスト面で有利となる。)ことによって、当該軸受けの内縁を構成する直線等や、隣接する直線等がなす角を以って軸受け上での揺動軸の位置ずれが抑制され、後発的な調整ズレを回避できることとなる。
【0016】
また、前記座部を、前記可動部材の揺動軸と平行な半円柱状(円柱を縦割りした様な形状)の突条を呈する構造としたことによって、前記調整片の傾斜に応じて前記規制部材の下面の調整片を押圧する箇所が常に略一定な線部分となるので、当該規制部材の下面の調整片に与える荷重の方向が略一定となり、一旦締められた規制部材に緩みが生じる問題も回避できることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明による傾斜調整取付構造(以下、取付構造と記す。)の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1及び図3に示す取付構造は、手摺り用柱の取付構造であって、建築物1に固定される定着部材2と、当該定着部材2の上で揺動及び固定される可動部材3とで構成され、当該可動部材3の上部に、手摺りを支持する為の柱部4を備えたものである。
【0018】
前記可動部材3は、その全体が揺動する際の水平軸となる円柱状の揺動軸5をその下端に備え、当該揺動軸5を挟んで略対照的に翼状に延出する一対の調整片6,6を備える。当該調整片6,6の各々には、傾斜調整ボルト7が挿通する透孔8を備えると共に、当該透孔8の上縁部に前記傾斜調整ボルト7と螺合する規制部材9により圧せられる座部10を備える(図2(A)参照)。
【0019】
前記透孔8は、前記調整片6の傾斜に伴い前記傾斜調整ボルト7が前記座部10の周辺で占有する前記調整片6への投影面積の変化に対応すべく、前記揺動軸5と垂直方向に予備部分が設けられた長孔とされている。また、前記座部10は、前記可動部材3の揺動軸5と平行な半円柱状の突条を呈し、前記調整片6の傾斜が変化した場合であっても、前記座部10の表面の直線状の接触線(又は接触領域)が、前記傾斜調整ボルト7と螺合する規制部材(ナット)9又は座金を横切る直線状の線又は領域で、荷重点に傾斜を介在する事無く確実に加圧されると共に、前記調整片6の傾斜の変化にあっても前記規制部材9による荷重のほとんどが両者の接点において傾斜調整ボルト7の長手方向へ加わることとなる。その結果、相互の接触位置にズレが生じず、一旦調整固定された傾斜を確実に維持することが可能となる(図1参照)。
【0020】
前記定着部材2は、円盤状に成形されたベース11と、前記可動部材3の揺動軸5を受ける軸受け部12とで構成される。
【0021】
前記ベース11の周辺には、図2(B)の如く前記可動部材3の揺動方向を0度及び180度として、等角度(当該例にあっては、45度。)間隔で設定方向調整用の目盛り21が刻設されている他、当該定着部材2を建築物1の定着領域に固定すべく、45度、135度、225度、及び315度の、当該ベース11の中心(以下、盤心と記す。)から等距離の位置に、当該盤心を中心とする円弧状(又は、前記盤心を中心として配置された盤周に倣う長孔状)の定着孔13を、当該定着領域に埋設したアンカーボルト(図示省略)を挿通し、当該アンカーボルトに螺合するナット(図示省略)と前記定着領域とで当該ベース11を挟持する為の孔として備える。前記定着孔13を円弧状又は長孔とすることによって、前記アンカーボルトの建築物1への定着精度を緩和することができる。
【0022】
更に、当該定着部材2は、0度及び180度の、前記盤心から等距離の位置に、その先端が上向きとなり、且つベース11から抜け出ない様に保持する保持孔14をそれぞれ備える。当該保持孔14は、当該定着部材2の表裏を貫通する下拡がりの二段孔であって(図1参照)、広い下孔は前記傾斜調整ボルト7の六角柱状の頭部を回転不能に保持すべく、当該頭部の全体を収納し、且つ当該頭部が緩く嵌る横断面が六角形状の孔であって、一方、狭い上孔は、当該頭部が係り且つネジ部が挿通する横断面が円形の孔である。
【0023】
前記軸受け部12は、前記ベース11の中央部の90度と270度の位置に、当該ベース11の表面に対する高さが相等しい一対の軸受け台15,15を、盤心を挟んで対照的に突設して成るものである(図2(B)参照)。各軸受け台15の軸受け18は、前記揺動軸5の側面に略外接する五つの平面(当該例では、最下位の平面は水平面。)と相隣接する2つの平面16の間に存在する四つの角17から成る多角形状の内縁を有した凹状の支持面で構成されている。尚、前記揺動軸5の側面に略外接する軸受けを先(内)細りとし、その内縁が五つの直線等と相隣接する2つの直線等の間に存在する四つの角から成る多角形状を呈する凹状の支持条として構成する場合もある。
【0024】
その結果、前記揺動軸5の側面は、各軸受け18を構成する二つの面16,16に確実に圧着され、前記規制部材9を締め付ける際に、前記揺動軸5が軸受け内において滑り或いはズレる事無く、安定した位置関係を維持した傾斜調整が可能となる他、当該規制部材9を締め付けた後にあっても調整後の傾斜状態を安定して維持できると共に、外力に対する耐力も強いものとなる。更に、かかる効果を以って軸受け18の工作精度も緩和でき、製造コストの低下にも寄与することとなる。
【0025】
上記傾斜調整取付構造は、その可動部材の上部に、手摺り20を支持する為の柱部4を備えた手摺り用柱として用いるものである。当該柱部4の上端には、それを保持するホルダー19や、支持角度を調整する構造を持った金具(例えば、前記特許文献2又は特許文献3の構造を有する金具。)を介して手摺り20を支持し、定着部2と可動部3との連結部分は、美観維持等の為ドーム状のカバー22で覆うこととなる。
【0026】
本発明による傾斜調整取付構造は上記の如く構成され、前記定着部材2を建築物1の所定箇所に固定し、対となる規制部材9の螺合の深さを調整固定することによって調整片6の傾斜角度(手摺り用柱にあっては、柱部の起立角度。)が調節できる他、前記ベース11における0度及び180度に存在する座部10の存在位置を固定する事ができる。また、当該ベース11における90度及び270度の位置に存在する前記軸受け5が、前記揺動軸5に略外接していることから、当該揺動軸5の両端部の存在位置をも確実に固定する事ができ、当該可動部材3の回転及び上下動を確実に規制することができる。
【0027】
尚、上記実施の形態については、設定方向調整用の目盛りが刻設されていることから、当該目盛りを用いて各構成部材及び構成要素の位置関係を示したが、上記傾斜調整取付構造の機能を奏し、且つ軸受け又は座部の特徴に基づく効果を奏する範囲において前記目盛りの存在や、各構成部材及び構成要素の構成及び位置関係を上記構成以外の構成に適宜設計変更し得る事は言うまでも無い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
建築物や比較的大型の船舶など傾斜面に種々の物を設定する場合において広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による傾斜取付構造の一例を示す側面図である。
【図2(A)(B)】本発明による傾斜取付構造の可動部材の一例を示す下面図、及び定着部材の一例を示す上面図である。
【図3】本発明による傾斜取付構造の実施態様例を示す側面図である。
【図4】本発明による傾斜取付構造の実施態様例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 建築物,2 定着部材,3 可動部材,4 柱部,5 揺動軸,6 調整片,
7 傾斜調整ボルト,8 透孔,9 規制部材,10 座部,11 ベース,
12 軸受け部,13 定着孔,14 保持孔,15 軸受け台,
16 平面,17 角,18 軸受け,19 ホルダー,
20 手摺り,21 目盛り,22 カバー,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に固定される定着部材と、当該定着部材の上で揺動及び固定される可動部材とで構成され、
前記可動部材は、その全体が揺動する際の軸となる揺動軸をその下端に備え、当該揺動軸を挟んで略対照的に翼状に延出する一対の調整片を備え、当該調整片の各々に傾斜調整ボルトが挿通する透孔を備えると共に、当該透孔の上縁部に前記傾斜調整ボルトと螺合する規制部材により圧せられる座部を備え、
前記定着部材は、前記可動部材の揺動軸を受ける軸受け部を備えると共に、前記傾斜調整ボルトを回転不能にその先端が上向きとなる様に備え、
前記軸受け部の軸受けが前記揺動軸の側面に略外接する多角形状の内縁を有した凹状の支持条又は支持面で構成されている傾斜調整取付構造。
【請求項2】
前記座部が、前記可動部材の揺動軸と平行な半円柱状の突条を呈する前記請求項1に記載の傾斜調整取付構造。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2に記載の傾斜調整取付構造の可動部材に、手摺りを支持する為の柱部を備えた手摺り用柱。

【図1】
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【図2(A)(B)】
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【図3】
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【図4】
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