説明

排ガスボイラ及び燃焼排ガスの脱硝方法

【課題】中負荷領域でも優れた脱硝性能を有する排ガスボイラ及び燃焼排ガスの脱硝方法を提供すること。
【解決手段】
(1)ガスタービンGTの排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、前記排ガスに対して含酸素炭化水素を注入する含酸素炭化水素注入ノズル4と、排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置1とを備える排ガスボイラ。
(2)ガスタービンGTの排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、前記排ガスの熱により高圧蒸気を生成する高圧蒸発器5の出口側に前記排ガスを加温するダクトバーナ6と、排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置1とを備える排ガスボイラ。
(3)ガスタービンGTの排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、中負荷領域でも脱硝装置1入口において前記排ガスの温度を少なくとも300℃以上に保持する排ガスボイラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒素酸化物(以下NOと呼ぶ)を含有する燃焼排ガスを脱硝して熱回収する排ガスボイラ及び脱硝方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン等の排ガスからNOを除去する方法として、特許文献1の技術等が知られている。特許文献1では、NH3を還元剤とする選択式接触還元法を用いた乾式脱硝装置で脱硝を行っており、その技術的な優位性から良く用いられている。
ガスタービン排ガス中に含まれるNOは、主にNOとNOで構成されている。前記脱硝装置で用いられている、酸化チタン系触媒において、これらNO、NOはNHとそれぞれ以下のような反応が行なわれ、脱硝されている。
(1)NO+NH+1/4O → N+3/2H
(2)NO+NO+2NH → 2N+3H
(3)6NO+8NH → 7N+12H
【特許文献1】特開平7−51536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
酸化チタン系脱硝触媒の特性として、NO/NO>50%以上となると、脱硝性能が著しく悪化するという問題点がある。これは上記(3)式のNOのみの場合の反応速度が著しく遅いことに起因している。それはNO中のNOの割合が増加すると脱硝反応は(3)式で行われる割合が多くなり、結果、脱硝性能が悪化するためである。
ガスタービンの中−低負荷運転領域では、燃焼状況が悪くなるため、NOの排出量が顕著に多くなる。その結果、脱硝性能が所要性能を達成できなくなるという問題がある。
その原因は、詳細には以下にあると考えられる。NOが発生するのはガスタービンの負荷が中から低負荷であり、そのときに排ガス温度も低く、脱硝触媒の活性も低い状況にある。しかし、従来の脱硝装置において低負荷でのNOによる性能低下は見られなかった。それは排ガス中に含まれる含酸素炭化水素がNOを脱硝触媒上でNOに還元し、その結果NO/NO<50%とできていたからである。一方、ガスタービンの燃焼状況が比較的安定してくる中負荷領域では、
(1)燃焼が安定してくるため、排ガス中の含酸素炭化水素の量が少なくなり、ほぼゼロとなる。
(2)排ガス温度が依然低く、その温度での脱硝触媒の活性が小さい。
その結果、NO/NO>50%という状態を低負荷時の様に改善できず、脱硝性能未達の状況を引き起こしており、中負荷領域において著しく脱硝性能が悪化していた。
なお、含酸素炭化水素とはメタノール、ギ酸、ホルムアルデヒドなどを指す。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、中負荷領域でも優れた脱硝性能を有する排ガスボイラ及び燃焼排ガスの脱硝方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、燃焼装置の排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、前記排ガスの熱により高圧蒸気を生成する高圧蒸発器と、該高圧蒸発器の出口側に設けられ前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置と、前記脱硝装置の上流側において前記排ガス中に含酸素炭化水素を注入するノズルとを備え、前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃よりも小さくなる中負荷運転時には前記ノズルにより前記含酸素炭化水素の注入を行い、前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃以上となる高負荷運転時には前記ノズルによる前記含酸素炭化水素の注入を停止することを特徴とする。
【0006】
燃焼装置の運転負荷が70%から85%の中負荷運転時には、排ガスの温度が300℃よりも小さくなるため、上記のように脱硝性能が著しく低下するが、含酸素炭化水素を注入することにより、NOがNOに還元され、NO/NO<50%とすることができる。これにより、脱硝装置の性能低下を防止することが可能となる。また、本願発明者が鋭意検討した結果、燃焼装置の運転負荷が85%以上の高負荷運転時には、排ガスの温度が300℃以上となり、前述の(3)式のNOのみの反応速度が速くなり、NO/NO>50%であっても、脱硝装置の性能を良好に保てることがわかった。したがって、燃焼装置の高負荷運転時には、含酸素炭化水素によりNOをNOに還元する必要性を排除することができるので、ノズルからの含酸素炭化水素の注入を停止することにより、含酸素炭化水素を節約することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、燃焼装置の排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、前記排ガスの熱により高圧蒸気を生成する高圧蒸発器と、該高圧蒸発器の出口側に設けられ前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置とを備え、前記脱硝装置の上流側において前記排ガスを300℃以上に加熱するダクトバーナが設けられたことを特徴とする。
【0008】
脱硝触媒の活性は少なくとも300℃、好ましくは310℃以上、さらに好ましくは320℃以上にすると、前述の(3)式のNOのみの反応速度が速くなる。その結果、NO/NO>50%であっても脱硝性能は良好に保てる。したがって、請求項2の発明によれば、ダクトバーナによって、脱硝装置の脱硝触媒の温度を活性の高い温度域に保つことができ、NO/NO>50%となった場合においても、脱硝装置の性能低下を防止することが可能となる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、燃焼装置の排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、前記排ガスの熱により高圧蒸気を生成する高圧蒸発器と、該高圧蒸発器の出口側に設けられ前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置とを備え、前記脱硝装置は、導入される前記排ガスの温度が300℃以上となる位置に配置されたことを特徴とする。
【0010】
排ガス温度を少なくとも300℃、好ましくは310℃以上、さらに好ましくは320℃以上にできると、NOに対する脱硝触媒の活性を十分に高めることができる。したがって、請求項3の発明によれば、脱硝装置に導入される排ガスが300℃以上となる位置に脱硝装置を配置することにより、燃焼装置からの含酸素炭化水素の排出量が減少してNO/NO>50%となる中負荷運転時においても、脱硝触媒のNOに対する活性を十分保持することができ、脱硝装置の性能低下を防止することが可能となる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、燃焼装置の排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝方法において、前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃よりも小さくなる中負荷運転時には、前記排ガスに対して含酸素炭化水素を混入させ、前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃以上となる高負荷運転時には前記排ガスに対して含酸素炭化水素の混入を停止させることを特徴とする。
【0012】
中負荷とは燃焼装置の運転負荷が70%から85%の場合をいう。この場合には、排ガスの温度が300℃よりも小さくなるため、上記のように脱硝性能が著しく低下するが、含酸素炭化水素を混入させることにより、NOをNOに還元し、NO/NO<50%とすることができる。これにより、脱硝装置の性能低下を防止することが可能となる。また、本願発明者が鋭意検討した結果、燃焼装置の運転負荷が85%以上の高負荷運転時には、排ガスの温度が300℃以上となり、前述の(3)式のNOのみの反応速度が速くなり、NO/NO>50%であっても、脱硝性能を良好に保てることがわかった。したがって、燃焼装置の高負荷運転時には、含酸素炭化水素によりNOをNOに還元する必要性を排除することができるので、ノズルからの含酸素炭化水素の注入を停止することにより、含酸素炭化水素を節約することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、燃焼装置の排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝方法において、前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃よりも小さくなる中負荷運転時には、前記排ガスの温度を300℃以上に加熱することを特徴とする。
【0014】
脱硝触媒の活性は少なくとも300℃、好ましくは310℃以上、さらに好ましくは320℃以上にすると、前述の(3)式のNOのみの反応速度が速くなる。その結果、NO/NO>50%であっても脱硝性能は良好に保てる。したがって、請求項5の発明によれば、排ガスの温度を300℃以上に加熱することにより、脱硝装置の脱硝触媒の温度を活性の高い温度域に保つことができ、NO/NO>50%となった場合においても、脱硝装置の性能低下を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排ガスボイラ及び燃焼排ガスの脱硝方法によれば、中負荷領域でも優れた脱硝性能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔第1の実施形態〕
次に、本発明の第1の実施形態について図1を参照して説明する。図1において、符号1は脱硝装置、2は排ガスボイラ、3はNH注入ノズル、4は含酸素炭化水素注入ノズル、5は高圧蒸発器である。脱硝装置1は、高圧蒸発器5の出口側に設置され、含酸素炭化水素注入ノズル4は高圧蒸発器5と脱硝装置1との間に設置される。排ガスボイラ2はガスタービン(燃焼装置)GTの排ガスから排熱を回収する装置である。
【0017】
NH注入ノズル3により、排ガスにNO還元剤としてのNHが注入される。
ガスタービンGTが中負荷の場合、すなわちガスタービンGTの運転負荷が70%から85%の場合、含酸素炭化水素注入ノズル4により排ガスにNO還元剤としての含酸素炭化水素が注入される。
【0018】
ここで、ガスタービンGTの運転負荷が70%から85%の中負荷では、排ガスの温度が300℃よりも小さくなるため、前述のように脱硝性能が著しく低下する。しかしながら、本実施形態に係る排ガスボイラによれば、含酸素炭化水素注入ノズル4により排ガスに含酸素炭化水素を注入することによって、脱硝装置1に流入する排ガスは、NO/NO<50%となり、脱硝性能を良好に保つことが可能となる。また、本願発明者が鋭意検討した結果、ガスタービンGTの運転負荷が85%以上の高負荷運転時には、排ガスの温度が300℃以上となり、前述の(3)式のNOのみの反応速度が速くなり、NO/NO>50%であっても、脱硝装置1の性能を良好に保てることがわかった。したがって、ガスタービンGTの高負荷運転時には、含酸素炭化水素によりNOをNOに還元する必要性を排除することができるので、含酸素炭化水素注入ノズル4からの含酸素炭化水素の注入を停止することにより、含酸素炭化水素を節約することができる。
【0019】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図2を参照して説明する。図2において、符号1は脱硝装置、2は排ガスボイラ、3はNH注入ノズル、5は高圧蒸発器、6はダクトバーナである。脱硝装置1は、高圧蒸発器5の出口側に設置され、ダクトバーナ6は高圧蒸発器5と脱硝装置1との間に設置される。排ガスボイラ2はガスタービン(燃焼装置)GTの排ガスから排熱を回収する装置である。
【0020】
NH注入ノズル3により、排ガスにNO還元剤としてのNHが注入される。
ガスタービンGTが中負荷の場合、すなわちガスタービンGTの運転負荷が70%から85%の場合、排ガスはダクトバーナ6により加熱される。ここで、ダクトバーナ6により、少なくとも300℃以上、好ましくは310℃以上、さらに好ましくは320℃以上に加熱される。この温度は、脱硝装置1における脱硝触媒のNOに対する活性を十分に高めることができる温度である。
【0021】
したがって、本実施形態に係る排ガスボイラによれば、ダクトバーナ6によって、脱硝装置1の脱硝触媒の温度を活性の高い温度域に保つことができるので、NO/NO>50%となった場合においても、脱硝装置1の性能低下を防止することが可能となる。
【0022】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について図3を参照して説明する。図3において、符号1は脱硝装置、2は排ガスボイラ、3はNH注入ノズル、5は高圧蒸発器である。脱硝装置1は、高圧蒸発器5の出口側に設置される。排ガスボイラ2はガスタービン(燃焼装置)GTの排ガスから排熱を回収する装置である。
【0023】
NH注入ノズル3により、排ガスにNO還元剤としてのNHが注入される。
ここで高圧蒸発器5出口の温度を、ガスタービンGTが中負荷のときに、すなわちガスタービンGTの運転負荷が70%から85%の場合であっても、脱硝装置1入口の排ガスが少なくとも300℃以上、好ましくは310℃以上、さらに好ましくは320℃以上を保持するが出来るように設計を行う。この温度は、脱硝装置1における脱硝触媒のNOに対する活性を十分に高めることができる温度である。
【0024】
したがって、本実施形態に係る排ガスボイラによれば、脱硝装置1に導入される排ガスが300℃以上となる位置に脱硝装置1を配置することにより、ガスタービンGTからの含酸素炭化水素の排出量が減少してNO/NO>50%となる中負荷運転時においても、脱硝触媒のNOに対する活性を十分保持することができるので、脱硝装置1の性能低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る排ガスボイラを示した概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る排ガスボイラを示した概略構成図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る排ガスボイラを示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0026】
1 脱硝装置
2 排ガスボイラ
3 NH3注入ノズル
4 含酸素炭化水素注入ノズル
5 高圧蒸発器
6 ダクトバーナ
GT ガスタービン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼装置の排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、
前記排ガスの熱により高圧蒸気を生成する高圧蒸発器と、該高圧蒸発器の出口側に設けられ前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置と、前記脱硝装置の上流側において前記排ガス中に含酸素炭化水素を注入するノズルとを備え、前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃よりも小さくなる中負荷運転時には前記ノズルにより前記含酸素炭化水素の注入を行い、前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃以上となる高負荷運転時には前記ノズルによる前記含酸素炭化水素の注入を停止する排ガスボイラ。
【請求項2】
燃焼装置の排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、
前記排ガスの熱により高圧蒸気を生成する高圧蒸発器と、該高圧蒸発器の出口側に設けられ前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置とを備え、前記脱硝装置の上流側において前記排ガス中の含酸素炭化水素が少なくなる中負荷でのガス温度を300℃以上に加熱するダクトバーナが設けられた排ガスボイラ。
【請求項3】
燃焼装置の排ガスから熱回収を行なう排ガスボイラにおいて、
前記排ガスの熱により高圧蒸気を生成する高圧蒸発器と、該高圧蒸発器の出口側に設けられ前記排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置とを備え、前記脱硝装置は、導入される前記排ガス中の含酸素炭化水素が少なくなる中負荷でのガス温度が300℃以上となる位置に配置された排ガスボイラ。
【請求項4】
燃焼装置の排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝方法において、
前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃よりも小さくなる中負荷運転時には前記排ガスに対して含酸素炭化水素を混入させ、前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃以上となる高負荷運転時には前記排ガスに対して含酸素炭化水素の混入を停止させる、燃焼排ガスの脱硝方法。
【請求項5】
燃焼装置の排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝方法において、
前記燃焼装置からの前記排ガスの温度が300℃よりも小さくなる中負荷運転時には、前記排ガスの温度を300℃以上に加熱する燃焼排ガスの脱硝方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−43782(P2010−43782A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207647(P2008−207647)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】