説明

排ガス中の水銀処理システム

【課題】脱硫装置の後流側において、さらに残存する水銀を除去し、排ガス中の水銀濃度を極低濃度まで除去することができる排ガス中の水銀処理システムを提供する。
【解決手段】ボイラ11の下流の煙道13内に、還元酸化助剤としてNH4Cl溶液14を噴霧する塩化アンモニウム溶液供給手段16と、排ガス12中のNOxをNH3ガスで還元すると共に、HClガス共存下で金属水銀(Hg0)を酸化する脱硝触媒を有する還元脱硝装置17と、脱硝された排ガス12を熱交換する熱交換器18と、脱硝された排ガス12中の煤塵を除去する集塵器19と、還元脱硝装置17において酸化された2価のHg2+を石灰石膏スラリー(アルカリ吸収液)20を用いて除去する湿式脱硫装置21と、前記湿式脱硫装置の内部又は後流側に設けられ、排ガス中に残存する水銀を除去する仕上げ水銀除去装置70とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中の水銀を極低濃度まで除去することができる排ガス中の水銀処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
石炭焚き排ガスや重質油を燃焼した際に生じる排ガス中には、煤塵、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)のほか、金属水銀(Hg0)が含まれることがある。近年、NOxを還元する脱硝装置、およびアルカリ吸収液をSOx吸収剤とする湿式脱硫装置と組み合わせて、金属水銀(Hg0)を処理する方法や装置について様々な考案がなされてきた。
【0003】
排ガス中の金属水銀(Hg0)を処理する方法として、煙道中、還元脱硝装置の前流工程でNH4Cl溶液を液状で噴霧して煙道内に供給する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。煙道内にNH4Cl溶液を液状で噴霧すると、NH4Clは解離して、アンモニウム(NH3)ガス、塩化水素(HCl)ガスを生成する。NH3ガスは還元剤として作用し、HClガスは水銀塩素化剤として作用する。即ち、還元脱硝装置に充填されている脱硝触媒上で、NH3は下記式(1)のように排ガス中のNOxと還元反応が進行し、HClは下記式(2)のように排ガス中のHg0と酸化反応が進行する。脱硝触媒上でNH3を還元脱硝すると共に、金属水銀(Hg0)を酸化し、水溶性の塩化水銀(HgCl2)とした後、後流側に設置した湿式の脱硫装置でHgCl2を水に溶解させて排ガス中に含まれる水銀を除去する。
4NO+4NH3+O2 → 4N2+6H2O・・・(1)
Hg0+1/2O2+2HCl → HgCl2+H2O・・・(2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−142602号公報
【特許文献2】特開2009−202107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の排ガス中の水銀を除去する提案では、ボイラから排出された排ガス中に、還元脱硝装置の前流工程でNH4Cl溶液を液状で噴霧して、排ガス中の水銀を脱硝装置内で2価の水銀(Hg2+)に酸化した後、除塵装置と脱硫装置で酸化水銀を除去しているが、脱硫装置に流入する排ガス中には、主に金属(元素)水銀(Hg0)と酸化水銀(Hg2+)との二種類の水銀が含まれているが、脱硫装置では水溶性である酸化水銀(Hg2+)しか吸収除去することができず、金属水銀Hg0を除去することが出来ず、煙突から外部に放出される場合がある。
また吸収除去された酸化水銀Hg2+の一部は再度、元素水銀Hg0に還元し、同様に煙突から放出される場合がある。
【0006】
そこで、脱硫装置の前流側で水銀酸化したシステムにおいても、脱硫装置の後流側において、さらに残存する水銀を除去し、排ガス中の水銀濃度を極低濃度まで除去することが切望されている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、脱硫装置の前流側で水銀酸化したシステムにおいても、脱硫装置の後流側において、さらに残存する水銀を除去し、排ガス中の水銀濃度を極低濃度まで除去することができる排ガス中の水銀処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成する第1の発明は、ボイラからの排ガスを排出する煙道内に、気化した際に塩化水素とアンモニアとを生成する還元酸化助剤を含む溶液を噴霧する還元酸化助剤供給手段と、前記排ガス中の窒素酸化物をアンモニアで還元すると共に、塩化水素共存下で水銀を酸化する脱硝触媒を有する還元脱硝装置と、該還元脱硝装置において酸化された水銀をアルカリ吸収液により除去する湿式脱硫装置と、前記湿式脱硫装置の内部又は後流側に設けられ、排ガス中に残存する水銀を除去する仕上げ水銀除去装置とを具備することを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記湿式脱硫装置の後流側に設けられる前記仕上げ水銀除去装置が、除塵処理手段、吸着処理手段又は気液接触処理手段の少なくとも一つであることを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0010】
第3の発明は、第1の発明において、前記湿式脱硫装置の内部に設けられる前記仕上げ水銀除去装置が、湿式脱硫装置の吸収液中に酸化剤を供給する酸化剤供給手段であることを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0011】
第4の発明は、第1の発明において、前記湿式脱硫装置の内部に設けられる前記仕上げ水銀除去装置が、湿式脱硫装置の吸収液中に活性炭を供給する活性炭供給手段であることを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0012】
第5の発明は、第1の発明において、前記還元酸化助剤に、更に還元剤、水銀塩素化剤のいずれか一方又は両方を添加することを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0013】
第6の発明は、第1の発明において、前記還元酸化助剤がハロゲン化アンモニウムであることを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0014】
第7の発明は、第2又は3の発明において、前記還元剤がアンモニア、又は尿素であることを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0015】
第8の発明は、第2乃至4の何れか一つの発明において、前記水銀塩素化剤がハロゲン化水素であることを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0016】
第9の発明は、第1の発明において、前記湿式脱硫装置から排出される脱硫排水中の固体分と液体分とを分離する固液分離手段と前記脱硫排水中の水銀を除去する水銀除去手段とを有する排水処理装置と、前記排水処理装置で処理した処理排水の少なくとも一部を前記湿式脱硫装置に戻す処理排水返送手段と、を備えることを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0017】
第10の発明は、第9の発明において、前記水銀除去手段は、前記脱硫排水中の固形物を第1の固液分離手段で分離した分離液に凝集助剤を添加することにより前記水銀を固形化して前記脱硫排水から水銀固形物を分離する固液分離手段を有することを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0018】
第11の発明は、第9の発明において、前記排水処理装置は、前記脱硫排水中のハロゲンイオンを除去するハロゲンイオン除去手段を有することを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0019】
第12の発明は、第9の発明において、前記凝集助剤は硫化物であり、前記排水処理装置は、前記水銀固形物を分離した分離液に含まれる前記凝集助剤の酸化処理を行う助剤酸化手段を有することを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0020】
第13の発明は、第9の発明において、前記還元脱硝装置と湿式脱硫装置との間に設けられ、前記排ガスの熱を回収するエアヒータと、前記ボイラに燃料を供給する経路、前記ボイラの内部、前記ボイラと前記エアヒータとの間の煙道内部の少なくとも一箇所に設置され、前記排水処理装置で処理した処理排水の一部を供給する排水供給手段と、をさらに備えることを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【0021】
第14の発明は、第13の発明において、前記還元脱硝装置からの煙道と並列な位置、又は、前記エアヒータからの煙道と並列な位置の少なくとも一方にバイパス管を設け、前記バイパス管に前記排水供給手段を設けたことを特徴とする排ガス中の水銀処理システムにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、脱硫装置から排出される浄化ガス中の水銀(主に元素水銀Hg0)を効率的に除去するので、排ガス処理システムから放出されるガス中に残存する水銀濃度を極低濃度とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。
【図2】図2は、噴霧装置の構成を簡略に示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施例1に係る他の排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。
【図4】図4は、噴霧装置の構成を簡略に示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施例1に係る他の排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。
【図6】図6は、本発明の実施例2に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。
【図7】図7は、本発明の実施例3に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。
【図8】図8は、本発明の実施例4に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。
【図9】図9は、実施例4における排水処理装置の構成の一例を示す図である。
【図10】図10は、実施例4における他の排水処理装置の構成の一例を示す図である。
【図11】図11は、実施例4における他の排水処理装置の構成の一例を示す図である。
【図12】図12は、本発明の実施例5に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を好適に実施するための形態(以下、実施例という。)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した下記実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施例1に係る排ガス中の水銀処理システムについて、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。図1に示すように、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Aは、ボイラ11からの排ガス12中に含まれるHgを除去するHg除去システムであり、ボイラ11の下流の煙道13内に、還元酸化助剤として塩化アンモニウム(NH4Cl)を含むNH4Cl溶液14を噴霧する塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液供給手段(還元酸化助剤供給手段)16と、排ガス12中のNOxをNH3ガスで還元すると共に、HClガス共存下で金属水銀(Hg0)を酸化する脱硝触媒を有する還元脱硝装置(還元脱硝手段)17と、脱硝された排ガス12を熱交換する熱交換器(エアヒータ:AH)18と、脱硝された排ガス12中の煤塵を除去する集塵器(ESP:Electrostatic Precipitator)19と、還元脱硝装置17において酸化された2価のHg2+を石灰石膏スラリー(アルカリ吸収液)20を用いて除去する湿式脱硫装置21と、前記湿式脱硫装置の内部又は後流側に設けられ、排ガス12中に残存する水銀を除去する仕上げ水銀除去装置70とを具備するものである。
【0026】
尚、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Aにおいては、還元酸化助剤として一例としてNH4Clを用いているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、還元酸化助剤は気化した際に酸化性ガスと還元性ガスとを生成するものであれば用いることができる。また、本実施例においては、還元酸化助剤とは、酸化性ガス共存下で金属水銀(Hg0)を酸化するのに用いられる酸化助剤と、還元性ガスによりNOxを還元する還元剤として機能するものをいう。本実施例では、酸化性ガスとしてHClガスが用いられ、還元性ガスとしてNH3ガスが用いられている。
【0027】
ボイラ11から排出される排ガス12には、NH4Cl溶液供給手段16からNH4Cl溶液14が供給される。NH4Cl溶液供給手段16は、排ガス12中に含まれるHg0を酸化するための噴霧装置23Aと、NH4Cl溶液14を液体状で噴霧装置23Aに供給する塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液供給管24と、煙道13内にNH4Cl溶液14を圧縮して噴霧させる空気25を噴霧装置23Aに供給する空気供給管26とを有する。
【0028】
噴霧装置23Aは、煙道13に設けられ、NH4Cl溶液14と空気25とを煙道13内に同時に噴射する二流体ノズルである。噴霧装置23Aは、吹込み管27とノズルヘッド28とから構成されている。図2は、噴霧装置23Aの構成を簡略に示す図である。図2に示すように、吹込み管27は、煙道13内に挿入されており、内管29と外管30とからなる二重管構造に形成されている。内管29は、NH4Cl溶液14を送給するために用いる管である。外管30は、内管29の外周を覆うように設けられ、内管29との空間内に空気25を送給するために用いる管である。
【0029】
NH4Cl溶液14は、NH4Cl溶液タンク38からNH4Cl溶液供給管24を介して吹込み管27に送給される。NH4Cl溶液供給管24から供給されるNH4Cl溶液14の流量は調節弁V1により調整される。NH4Cl溶液14はNH4Cl溶液タンク38内で所定濃度に調整される。NH4Cl溶液14は、塩化アンモニウム(NH4Cl)粉末を水に溶解させて生成することができる。NH4Cl粉末、水の各々の供給量を調整することで所定濃度のNH4Cl溶液14を調整することができる。NH4Cl溶液14は、HCl溶液とNH3溶液とを所定濃度の割合で混合させて生成するようにしてもよい。
【0030】
空気25は、空気供給部39から空気供給管26を介して吹込み管27に送給され、ノズルヘッド28からNH4Cl溶液14を噴霧する際の圧縮用の空気として用いられる。空気25の気流によりNH4Cl溶液14を微粒化することで、ノズルヘッド28から噴射されるNH4Cl溶液14を煙道13内に微細な液滴として噴霧することができる。空気供給管26から供給される空気25の流量は調節弁V2により調整される。空気供給管26から供給される空気25の流量により、ノズルヘッド28のノズル孔から噴霧されるNH4Cl溶液14の液滴の大きさを調整することができる。また、ノズルヘッド28から噴射される空気25の流量は、例えば気水比100以上10000以下(体積比)とするのが好ましい。これは、ノズルヘッド28から噴射されるNH4Cl溶液14を微細な液滴として煙道13内に噴霧させるようにするためである。
【0031】
空気25は内管29と外管30との間の空間を流れるため、空気25はNH4Cl溶液14の冷却用として働き、煙道13内の排ガス12の熱が空気25によりNH4Cl溶液14に伝達されるのを抑制することができる。NH4Cl溶液14が排ガス12の熱により加熱されるのを抑制することができるため、NH4Cl溶液14が噴射される直前まで液体状態を維持することができる。
【0032】
図3は、本発明の実施例1に係る他の排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。図4は、他の形態の噴霧装置の概略図である。図3及び図4に示すように、実施例1に係る他の排ガス中の水銀処理システム10Bは、実施例1にかかる噴霧装置23Aの代わりに、噴霧装置23Bとして、外管30の外側にさらに外筒31を設け、空気の供給を2種類の第1の空気25A、第2の空気25Bを供給するものである。すなわち、外管30と外筒31との間の第2の空気25Bを流入させて、外筒の先端部の隙間から第2の空気25Bを噴射することで、ノズルヘッド28から噴霧されるNH4Cl溶液14の液滴を更に煙道13内に分散させることができる。
なお、空気25A、25Bは、空気供給部39A、39Bから空気供給管26A、26Bを介して吹込み管27に送給されている。
【0033】
また、外筒31の先端部の隙間から噴射される第2の空気25Bは、ノズルヘッド28から噴射されるNH4Cl溶液14が外筒31に付着するのを防ぐためと、外筒31内の温度上昇を抑制し、NH4Cl溶液14の沸騰及び塩化アンモニウム粒子の析出を防ぐために用いられる。
【0034】
また、第2の空気25Bは、外筒31と外管30との間を流れるため、NH4Cl溶液14の冷却用の空気として働き、煙道13内の高温の排ガス12の熱が外筒31の外側から外管30内に伝達されるのを防ぐことができる。このため、外筒31内の温度上昇を防止し、NH4Cl溶液14が加熱されるのを防ぐことで、外筒31内でNH4Cl溶液14が沸騰するのを防止することができ、NH4Cl溶液14が噴射される直前まで液体状態を維持することができる。また、ノズルヘッド28腐食も防止することができる。
【0035】
ノズルヘッド28から煙道13内に噴霧されたNH4Cl溶液14の液滴は、排ガス12の高温雰囲気温度により蒸発して気化され、微細なNH4Clの固体粒子を生成し、下記式(3)のように、HClとNH3とに分解し、昇華する。よって、噴霧装置23A(23B)から噴霧されたNH4Cl溶液14は分解されて、HCl、NH3を生じ、NH3ガス、HClガスを煙道13内に供給することができる。
NH4Cl → NH3+HCl ・・・(3)
【0036】
ノズルヘッド28から噴霧されるNH4Cl溶液14の液滴径は、平均して1nm以上100μm以下の微細な液滴とするのが好ましい。平均して1nm以上100μm以下の微細な液滴を生成することで、噴霧されたNH4Cl溶液14の液滴から生じるNH4Clの固体粒子を排ガス12中に短い滞留時間でNH3、HClに分解し、昇華させることができる。これにより、NH4Cl溶液14を予め加熱しておく必要がないため、煙道13、ノズルヘッド28の低級化、腐食を防止することができる。
【0037】
NH4Cl溶液14の濃度は、例えば液滴の温度が20℃の場合、20wt%以上30wt%以下とするのが好ましい。表1は、NH4Cl溶液14の液滴の温度と、溶解度、濃度との関係を示す。表1に示すように、NH4Cl溶液14の溶解度は液滴の温度に応じておおよそ決まっているためである。
【0038】
【表1】

【0039】
煙道13内の排ガス12の温度は、ボイラ11の燃焼条件にもよるが、例えば320℃以上420℃以下が好ましく、320℃以上380℃以下がより好ましく、350℃以上380℃以下が更に好ましい。これはこれらの温度帯において脱硝触媒上でNOxの脱硝反応と、Hgの酸化反応とを効率的に生じさせることができるためである。
【0040】
また、図1に示すように、排ガス12は、NH4Cl溶液供給手段16から煙道13内に噴霧されたNH4Cl溶液14の液滴から生じたHClガス、NH3ガスを含んだ後、還元脱硝装置17に送給される。還元脱硝装置17では、NH4Clが分解して生じたNH3ガスはNOxの還元脱硝用に用いられ、HClガスはHgの酸化用に用いられ、NOx及びHgを排ガス12から除去する。
【0041】
即ち、還元脱硝装置17に充填されている脱硝触媒層48に充填されている脱硝触媒上でNH3ガスは、下記式(4)のようにNOxを還元脱硝し、HClガスは、下記式(5)のようにHgを水銀酸化する。
4NO+4NH3+O2 → 4N2+6H2O ・・・(4)
Hg+1/2O2+2HCl → HgCl2+H2O ・・・(5)
【0042】
還元脱硝装置17は、脱硝触媒層48を1つ備えているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、還元脱硝装置17は、脱硝性能に応じて脱硝触媒層48の数を適宜変更することができる。
【0043】
排ガス12は、還元脱硝装置17において排ガス12中のNOxの還元とHgの酸化がされた後、エアヒータ18、集塵器(ESP)19を通過して湿式脱硫装置21に送給される。また、エアヒータ18と集塵器(ESP)19との間には熱回収器を設けるようにしてもよい。
【0044】
次に、集塵器(ESP)19で除塵された後、排ガス12は、湿式脱硫装置21に送られ、脱硫処理される。この湿式脱硫装置21では、排ガス12を装置本体49内の底部の壁面側から送給し、アルカリ吸収液として用いられる石灰石膏スラリー20を吸収液送給ライン50により装置本体49内に供給し、ノズル51より塔頂部側に向かって噴流させる。装置本体49内の底部側から上昇してくる排ガス12と、ノズル51から噴流して流下する石灰石膏スラリー20とを対向して気液接触させ、排ガス12中のHgCl、硫黄酸化物(SOx)は石灰石膏スラリー20中に吸収され、排ガス12から分離、除去され、排ガス12は浄化される。石灰石膏スラリー20により浄化された排ガス12は、塔頂部側より排出され、さらに仕上げ水銀除去装置70で残存する水銀を除去し、その後浄化ガス52として煙突53から系外に排出される。
【0045】
排ガス12の脱硫に用いられる石灰石膏スラリー20は、水に石灰石粉末を溶解させた石灰スラリーCaCO3と、石灰と排ガス12中のSOxが反応し更に酸化させた石膏スラリーCaSO4と、水とを混合させて生成される。石灰石膏スラリー20は、例えば湿式脱硫装置21の装置本体49の塔底部54に貯留した液を揚水したものが用いられる。装置本体49内で排ガス12中のSOxは石灰石膏スラリー20中の石灰(CaCO3)と下記式(6)のような反応を生じる。
CaCO3+SO2+0.5H2O → CaSO3・0.5H2O+CO2 ・・・(6)
【0046】
一方、排ガス12中のSOxを吸収した石灰石膏スラリー20は、装置本体49内に供給される水55と混合され、装置本体49の塔底部54に供給される空気56により酸化処理される。このとき、装置本体49内を流下した石灰石膏スラリー20は、水55、空気56と下記式(7)のような反応を生じる。
CaSO3・0.5H2O+0.5O2+1.5H2O → CaSO4・2H2O ・・・(7)
このようにして、排ガス12中のSOは、湿式脱硫装置21において石膏CaSO・2HOの形で捕獲される。
この際、排ガス12中の塩化水銀(HgCl2)は水溶性であるので、石灰石膏スラリー20側に移行される。
【0047】
湿式脱硫装置21の塔底部54に貯留される脱硫に用いた石灰石膏スラリー20は酸化処理された後、塔底部54より抜き出される。抜き出された石灰石膏スラリー20は、脱水器57に送給された後、塩化水銀(HgCl)を含んだ脱水ケーキ(石膏)58として系外に排出される。脱水器57として、例えばベルトフィルターなどが用いられる。また、脱水したろ液(脱水ろ液)は、例えば脱水ろ液中の懸濁物、重金属の除去、脱水ろ液のpH調整などの排水処理が行われる。この排水処理された脱水ろ液の一部は湿式脱硫装置21に返送され、脱水ろ液の他の一部は排水として処理される。
【0048】
本実施例では、アルカリ吸収液として石灰石膏スラリー20を用いているが、排ガス12中のHgClを吸収できるものであれば他の溶液をアルカリ吸収液として用いることができる。
【0049】
石灰石膏スラリー20の供給方法は、ノズル51より塔頂部側に向かって噴流させる方法に限定されるものではなく、例えばノズル51から排ガス12と対向するように流下させてもよい。
【0050】
噴霧装置23A(23B)の上流側には、排ガス12の流量を計測する流量計61が設けられている。流量計61により排ガス12の流量が測定される。流量計61により測定された排ガス12の流量の値は制御装置62に送られ、排ガス12の流量の値に基づいてノズルヘッド28から噴射するNH4Cl溶液14の流量、角度、初速度などを調整することができる。
【0051】
還元脱硝装置17の入口側と出口側には、NOx濃度計63−1、63−2が設けられている。NOx濃度計63−1,63−2で測定された浄化ガス52中のNOx濃度の値は、制御装置62に伝達される。制御装置62はNOx濃度計63−1、63−2で測定された浄化ガス52中のNOx濃度の値から還元脱硝装置17におけるNOxの還元割合を確認することができる。よって、NOx濃度計63−1、63−2で測定された浄化ガス52中のNOx濃度の値からNH4Cl溶液14のNH4Cl濃度、供給流量などを制御することで、噴霧装置23A(23B)から噴霧されるNH4Cl溶液14のNH4Cl濃度を所定の脱硝性能を満足するようにすることができる。
【0052】
また、煙道13には、ボイラ11から排出される排ガス12中のHg含有量を測定する水銀(Hg)濃度計64−1、64−2、64−3が設けられている。Hg濃度計64−1は、ボイラ11とノズルヘッド28との間の煙道13に設けられ、Hg濃度計64−2は、還元脱硝装置17と熱交換器18との間に設けられ、Hg濃度計64−3は、湿式脱硫装置21の後流側に設けられている。Hg濃度計64−1、64−2、64−3で測定された排ガス12中のHg濃度の値は、制御装置62に伝達される。制御装置62は、Hg濃度計64−1、64−2、64−3で測定された排ガス12中のHg濃度の値から排ガス12中に含まれるHgの含有量を確認することができる。Hg濃度計64−1、64−2、64−3で測定された排ガス12中のHg濃度の値からNH4Cl溶液14のNH4Cl濃度、供給流量を制御することで、ノズルヘッド28から噴霧されるNH4Cl溶液14のNH4Cl濃度、供給流量を所定の脱硝性能を満足すると共に、Hgの酸化性能を維持するようにすることができる。
【0053】
また、湿式脱硫装置21の塔底部54には、石灰石膏スラリー20の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定制御装置(ORPコントローラ)66が設けられている。このORPコントローラ66により石灰石膏スラリー20の酸化還元電位の値を測定する。測定された酸化還元電位の値に基づいて湿式脱硫装置21の塔底部54に供給される空気56の供給量を調整する。塔底部54に供給される空気56の供給量を調整することで、湿式脱硫装置21の塔底部54に貯留する石灰石膏スラリー20内に捕集されている酸化されたHgが還元されるのを防止し、煙突53より放散されるのを防止することができる。
【0054】
湿式脱硫装置21内の石灰石膏スラリー20の酸化還元電位は、石灰石膏スラリー20からのHgの再飛散を防止するためには、例えば0mV以上+600mV以下の範囲内にあることが好ましい。これは酸化還元電位が上記範囲内であれば石灰石膏スラリー20中にHgCl2として捕集されたHgが安定な領域であり、大気中への再飛散を防ぐことができるためである。
【0055】
また、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Aにおいては、還元酸化助剤として、NH4Clを用いているが、NH4Cl以外の臭化アンモニウム(NH4Br)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)などのハロゲン化アンモニウムを還元酸化助剤として用い、水に溶解した溶液を用いてもよい。
【0056】
本実施例では、湿式脱硫装置21の後流側に仕上げ水銀除去装置70を設けて、湿式脱硫装置21から排出される排ガス12中に残存する水銀の除去をさらに行うようにしている。
本実施例では、湿式脱硫装置21の上流側において、排ガス12中の金属水銀を酸化させて、塩化水銀(HgCl2)として、2価の水銀Hg2+の形態に変化させて90%程度除去しているが、金属水銀は完全には酸化できないので、約10%程度の金属水銀が残存することとなる。
このように、湿式脱硫装置21で処理できない残存する0価の金属水銀Hg0を仕上げ水銀除去装置70により極低濃度まで除去するものである。
【0057】
本発明では、前述したように、還元脱硝装置17の前段側で、塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液14を供給し、NH4Clが分解して生じたNH3ガスは、還元脱硝装置17でNOxの還元脱硝用に用い、HClガスはHgの酸化用に用いてNOx及びHgを高温排ガス12から除去するようにしている。還元脱硝装置17には脱硝触媒が充填されているので、脱硝触媒上でNH3はNOxを還元脱硝し、HClは金属Hg0を水銀酸化して、塩化水銀(HgCl2)にして、その後湿式脱硫装置21で2価の水銀を除去する。その後残存する0価の金属水銀を仕上げ水銀除去装置70で除去することで、水銀濃度の低減化を図るようにしている。
これにより、湿式脱硫装置21の後流側において、排ガス12中の金属水銀を初めて除去する場合に較べて、その処理装置のコンパクト化、処理費用の低廉化を図ることができる。
【0058】
ここで、仕上げ水銀除去装置70としては、除塵処理手段、吸着処理手段又は気液接触処理手段の少なくとも一つを挙げることができる。
【0059】
前記除塵処理手段としては、例えば重力で粉塵を気体から分離する重力式集塵処理装置、粉塵を帯電させ逆に帯電した電極板に吸着させる乾式電気集塵処理装置(ESP)又は湿式電気集塵処理装置(WESP)、気体の流れる向きを変化させ慣性で粉塵を分離する慣性式除塵処理装置(ミストエリミネータ、サイクロン)、気体の流れる向きに衝突板等を設けて粉塵を分離する衝突式除塵処理装置(例えば充填塔等)、液体を噴霧し吸着させることにより分離する洗浄集塵装置等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
この除塵処理手段により排ガス中に残存する金属水銀を煤塵と共に除去することで、水銀濃度の低減化を図るようにしている。
【0060】
また、前記吸着処理手段としては、例えば活性炭処理装置、硫化物系吸着剤処理装置、キレート系吸着剤処理装置等の物理的吸着処理を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
この吸着処理手段により排ガス中に残存する金属水銀を吸着除去することで、水銀濃度の低減化を図るようにしている。
【0061】
また、前記気液接触処理手段としては、例えば酸化剤溶液を噴霧するスクラバー装置を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。他の気液接触処理手段としては、例えば液柱塔、スプレー塔、充填塔、グリッド塔等の種々の接触手段を適用することができる。
また、前記酸化剤としては、酸化剤(次亜塩素酸溶液、過酸化水素溶液)、キレート剤、硫黄系薬剤(S2-化合物)等を含む溶液を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
仕上げ水銀除去装置70を行った後には、それらの排水処理や無害化処理などの最終処理を最終処理装置により行うようにしている。
この最終処理装置における排水処理としては、硫化物凝集沈殿処理装置、キレート剤処理装置、キレート樹脂処理装置、イオン交換樹脂処理装置、活性炭処理装置などの公知の最終処理を行う装置を適用するようにすればよい。
また、無害化処理装置としては、例えばセメント固化処理装置を挙げることができる。
【0063】
このように、ボイラ11からの排ガス12中の水銀を処理するに際して、処理システムの前流側においては、排ガス中の水銀を酸化し、水溶性の2価の水銀Hg2+の形態にして、湿式脱硫装置21において、ほぼ90%の水銀を除去し、その後、湿式脱硫装置21の後流側において、さらに仕上げ水銀除去装置70を設け、この仕上げ水銀除去装置70により、湿式硫装置21からの排ガス12中の水銀(主に元素水銀Hg0)を除去することができる。
これにより煙突53から排出される排煙中の水銀濃度を極低濃度まで減じることが可能となる。
【0064】
前述した仕上げ水銀除去装置70における好適な組み合わせは、1)慣性除塵処理装置(サイクロン,ミストエリミネータ等)と、排水処理との組み合わせ、2)電気集塵機と排水処理との組み合わせ,3)気液接触処理と、排水処理との組合せとするのがよい。
特に、慣性除塵処理装置と排水処理との組み合わせは、電気集塵処理と排水処理のような、電気ロスが少なく、しかも圧力損失も少ないので、経済的が良好である。
【0065】
図5は、本発明の実施例1に係る他の排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。
また、図5に示すように、実施例1に係る他の排ガス中の水銀処理システム10Cは、NH4Cl溶液14以外に、NH3溶液81と、HCl溶液82とを液状同士で各々任意の割合で供給し、混合部83で混合して混合液84を調整し、調整された混合液84をボイラ11の煙道13内に供給するものである。
【0066】
(NH4Cl溶液の調整)
まず、還元酸化助剤として用いられる所定濃度のNH4Cl溶液14を調整する。NH4Cl溶液14の濃度は、0wt%よりも大きく43wt%以下が好ましく、10wt%以上23wt%以下がより好ましく、18wt%以上23wt%以下が更に好ましく、20wt%前後が最も好ましい。これは、NH4Cl粉末が少なくとも水に常温(例えば、20℃前後)で溶解している必要があり、NH4Clの水への飽和溶解濃度以下であることが必要だからである。一般に、溶液の温度が0℃前後の時、NH4Cl粉末が水に溶解できる飽和濃度は、23wt%程度であり、100℃前後の時、NH4Cl粉末が水に溶解できる飽和濃度は、43wt%程度である。そのため、NH4Cl溶液14の濃度は、0wt%よりも大きく43wt%以下とする必要がある。
【0067】
(NH3溶液の調整)
まず、還元剤として用いられるNH3を溶解したNH3溶液81はNH3溶解タンク85で調整される。NH3の濃度としては、例えば0wt%よりも大きく28wt%以下の範囲となるように調整するのが好ましい。
【0068】
(HCl溶液の調整)
まず、還元酸化助剤として用いられるHClを溶解したHCl溶液82はHCl溶解タンク86で調整される。HClの濃度としては、例えば0wt%よりも大きく38wt%以下の範囲となるように調整するのが好ましい。
【0069】
ここで、NH4Cl溶液14の添加量と、HCl溶液82の供給流量の制御は、NH4Cl溶液14から解離して生じるHClガスと、HCl溶液82が気化して生じるHClガスとを併せて、還元脱硝装置17の出口での水銀酸化率(Hg2+/HgT)が95%以上、又は金属水銀濃度(Hg0)を1μg/Nm3以下となるようにするとよい。なお、HgTとは、全水銀濃度をいい、下記式(8)のように金属水銀(Hg0)濃度と酸化水銀(Hg2+)濃度との和で表される。
HgT=Hg0+Hg2+・・・(8)
【0070】
また、ボイラ11で使用される石炭の石炭性状から高温排ガス12中に含まれるNOx、Hg、HClの各々の含有量を求め、NH4Cl溶液14、NH3溶液81、HCl溶液82の各々の供給量を決定するようにしてもよい。即ち、ボイラ11で石炭性状が燃焼することで高温排ガス12中に含まれるNOx、Hg、HClの各々の含有量が求められる。そして、ボイラ11で石炭の燃焼を最大にすることで、NOx、Hg、HClが高温排ガス12に含まれる最大量をボイラ11の燃焼量から求めることができる。よって、ボイラ11で使用される石炭の石炭性状から高温排ガス12中に含まれるNOx、Hg、HClの各々の含有量を求め、NH4Cl溶液14、NH3溶液81、HCl溶液82の各々の供給量を決定することができる。
【0071】
よって、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Cは、ボイラ11等の燃焼設備から排出される高温排ガス12中のNOx及びHgの濃度のバランスに応じて、煙道13中にNH4Cl溶液14、NH3溶液81、HCl溶液82を供給し、HCl又はNH3の必要量を調整して供給することができる。
【0072】
(供給量の制御方法)
制御装置62は、NOx濃度計63−1、63−2、Hg濃度計64−1、64−2により測定された高温排ガス12中のNOx濃度、Hg濃度の分析結果に基づいて必要なNH3、HClの量を求める。制御装置62は、求められたNH3、HClの濃度からNH4Cl溶液14、NH3溶液81、HCl溶液82の供給量を決定する。制御装置62は、調節弁V1、V3、V4の開閉を制御することで、NH4Cl溶液14、NH3溶液81、HCl溶液82の各々の供給量を調節する。また、演算装置62は、流量計61により測定された混合液84の流量に基づいて混合液84の流量、流速を算出し、調節弁V5の開閉を制御することで、混合液84の供給量を調整する。
【0073】
また、Hg濃度計64−1、64−2により、水銀酸化率(Hg2+/HgT)が0.95よりも小さい場合、又は金属水銀濃度(Hg0)が1μg/Nm3よりも大きい場合には、HCl添加量を増加させる。HCl添加量は、例えばHCl溶液82の供給量を増加させることにより行なうことができる。
【0074】
また、NOx濃度計63−1により、還元脱硝装置17の出口側の高温排ガス12中のNOx濃度、NH3濃度を測定し、測定された高温排ガス12中のNH3濃度が1ppmよりも大きい場合には、NH3添加量を減少させる。また、NOx濃度計63−1で測定された高温排ガス12中のNOx濃度が1ppmよりも小さい場合には、NH3添加量を増加させる。但し、NH3濃度は、高温排ガス12の入口側のNOxモル流速(モル/H)に対して、高温排ガス12のNOxのモル数に対するNH3のモル数の比(NH3/NOxモル比)が、要求脱硝性能に応じて1以下の値となるように設定する。また、NH3添加量は、例えばNH3溶液81の供給量を増減させることにより行なうことができる。
【0075】
このように、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Cによれば、NH4Cl溶液14、NH3溶液81、HCl溶液82を混合した混合液84を噴霧装置23Aでボイラ11の煙道13内に噴霧することで、NH4Cl溶液14、NH3溶液81、HCl溶液82が気化し、HClガス、NH3ガスとなり、脱硝触媒上で高温排ガス12中のHgを酸化すると共に、NOxを還元することができる。また、混合液84中のNH4Cl溶液14、NH3溶液81、HCl溶液82の供給量を調整することで、高温排ガス12のガス性状に応じて還元剤、水銀塩素化剤を適正量として任意に供給することができる。
これにより、排ガス中の水銀濃度に応じた水銀酸化の適正化を図ることができる。
よって、湿式脱硫装置21における水銀除去率の向上を図ることができ、仕上げ水銀除去装置70のコンパクト化を図ることができる。
【実施例2】
【0076】
図6は、本発明の実施例2に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。なお、上述した実施例1と同一の構成には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。図6に示すように、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Dは、湿式脱硫装置21の装置本体49の底部の石灰石膏スラリー20中に水銀酸化剤90を投入する酸化剤供給手段を設けている。この水銀酸化剤90の投入により、石灰石膏スラリー20中における金属水銀が酸化され、2価の水銀となる。
この結果、この液中の金属水銀濃度の低下に伴い、排ガス側へ再飛散する金属水銀の濃度も低下することとなるので、結果として湿式脱硫装置21から排出される排ガス12中の水銀濃度の低下を図ることができる。
ここで、酸化剤としては、例えば次亜塩素酸、過酢酸、過酸化水素水等を挙げることができる。また、酸化剤の代わりにHg吸収液等を投入するようにしてもよい。
【実施例3】
【0077】
図7は、本発明の実施例3に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。なお、上述した実施例1〜2と同一の構成には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。図7に示すように、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Eは、湿式脱硫装置21の装置本体49の底部の石灰石膏スラリー20中に活性炭91を添加し、該活性炭91に水銀を吸着させ、脱水器57に送給された後、塩化水銀(HgCl)を含んだ活性炭91を含む脱水ケーキ(石膏)58として系外に排出するようにしてもよい。
この結果、湿式脱硫装置21における石灰石膏スラリー20側の水銀の量を低減させることができ、この液中の水銀濃度の低下に伴い、排ガス12側へ再飛散する金属水銀の濃度も低下することとなるので、結果として湿式脱硫装置21から排出される排ガス12中の水銀濃度の低下を図ることができる。
【実施例4】
【0078】
図8は、本発明の実施例4に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。なお、上述した実施例1〜3と同一の構成には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。図8に示すように、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Fは、実施例1の係る排ガス中の水銀処理システム10Aにおいて、さらに湿式脱硫装置21から排出される脱硫排水201から水銀等の有害物質を除去する排水処理装置202と、排水処理装置202で処理した処理排水203の少なくとも一部を湿式脱硫装置21に戻す処理排水返送手段である補給水ライン204とを備えて構成されている。
そして、湿式脱硫装置21から排出される脱硫排水201に含まれる水銀等の有害物質を除去処理した後の処理排水203(203A,203B,203C)を湿式脱硫装置21側に戻し、湿式脱硫装置21と排水処理装置202との間で処理排水203を循環させるようにしたものであり、上記構成とすることにより湿式脱硫装置21で用いる吸収液の水銀濃度を低減させるようにしている。
【0079】
また、上記のように、石灰石膏スラリー20は、湿式脱硫装置21の塔底部54に貯留した液を揚水したものが用いられるが、この揚水される石灰石膏スラリー20には、湿式脱硫装置21の稼働に伴い、石膏CaSO・2HOが混合される。以下では、この揚水される石灰石膏スラリー(石膏が混合された石灰スラリー)20を吸収液とよぶ。
【0080】
脱硫に用いた吸収液(石灰石膏スラリー)は、脱硫排水201として湿式脱硫装置21の塔底部54から外部に排出され、脱硫排水ライン205を介して排水処理装置202に送られる。この脱硫排水201には、石膏の他、水銀等の重金属やCl、Br,I,F等のハロゲンイオンが含まれている。
【0081】
上述した湿式脱硫装置21においては、生成する石膏CaSO・2HO結晶に水銀Hgが吸着されることにより水銀が除去される。ここで、石膏の生成量に対する水銀除去量の比率は、石灰石の性質、ハロゲンイオン濃度、脱硫装置の運転条件等によりばらつきがあり、およそ1〜10mg/kg(Hg除去量/CaSO・2HO生成量)程度である。そして、重量比が1〜10mg/kg以上の水銀含有比率の高い(又は硫黄含有比率の低い)石炭では、水銀を石膏粒子中に吸着しきれないことがある。この場合、湿式脱硫装置21の内部において、石灰石膏スラリー20の上澄み水中の水銀濃度が増加し、この一部が気液平衡により上澄み水から気相(排ガス)へ飛散する現象が生じる。このため、水銀の飛散を防ぐには上澄み水中の水銀濃度を低減させることが必要である。そこで、以下に説明するように、脱硫排水201を排水処理装置202に送り、固液分離処理と水銀除去処理からなる排水処理工程を行った後、その処理排水203を再度湿式脱硫装置21に戻すように構成し、湿式脱硫装置21と排水処理装置202との間で処理排水203を循環させるようにしたことで、吸収液の水銀濃度を低減させている。
【0082】
図9は、実施例4における排水処理装置202の構成例を示す図である。図9に例示される排水処理装置202Aは、脱硫排水201中の石膏を含む固体分と液体分とを分離する第1の固液分離手段211と、脱硫排水201中に残存する水銀、ホウ素、セレン等の物質を除去する手段214(以下では、「水銀除去手段214」とよぶ)とを有している。
【0083】
第1の固液分離手段211としては、例えばベルトフィルター、遠心分離機、デカンタ型遠心沈降機等が用いられる。湿式脱硫装置21から排出された脱硫排水201は第1の固液分離手段211により石膏212が分離される。その際、脱硫排水201中の塩化水銀は石膏に吸着された状態で石膏212とともに液体と分離される。分離した石膏212は、排ガス中の水銀処理システム10Fの外部(以下、「系外」という)に排出される。一方、分離液213中には、石膏212に吸着しきれなかった微量の水銀やホウ素、セレン等の物質(以下では、水銀に限定して説明する)が含まれる。これらの物質は、次の水銀除去手段214により除去される。
【0084】
水銀除去手段214では、分離液213に含まれる水銀を固形化し、水銀固形物217等を分離液213から分離する。水銀除去を高精度に行うため、図9に示される例では水銀除去処理を多段階からなる手段で構成してある。水銀除去手段214は、凝集助剤215を混和する助剤混和手段216aと、第2の固液分離手段(濃縮手段)216bと、第3の固液分離手段(脱水手段)216cと、精密処理手段216dとからなる。まず、助剤混和手段216aにおいて、分離液213に凝集助剤215を混和することにより水銀を固形化した後、第2の固液分離手段(濃縮手段)216bにおいて、水銀固形物217や粒子状物質を濃縮する。濃縮手段としては、重力式沈降、砂濾過等が用いられる。次いで、第3の固液分離手段(脱水手段)216cにおいて、濃縮された水銀固形物217や粒子状物質等の脱水を行う。脱水手段としては、遠心分離やベルトフィルター等が用いられる。脱水後の水銀固形物217等は系外に排出される。第3の固液分離手段(脱水手段)216cで生じた分離液218は、第2の固液分離手段(濃縮手段)216bで分離した分離液219と混合されて精密処理手段216dに送られ、分離液219中に残存する微量の水銀固形物220や粒子状物質が除去される。精密処理としては、サイクロンや膜分離等の方法が用いられる。精密処理手段216dで除去された水銀固形物220等は系外に排出される。
【0085】
上述した水銀除去手段214により水銀固形物217、220が除去された処理排水203Aは、補給水ライン204を介して湿式脱硫装置21の補給水として湿式脱硫装置21に戻される。湿式脱硫装置21に戻された処理排水203Aは、吸収液として用いられた後、再び排水処理装置202Aで排水処理されることを繰り返す。すなわち、処理排水203Aは湿式脱硫装置21と排水処理装置202との間を循環する。ここで、排水処理装置202Aを通して循環させる処理排水203Aの量(処理排水203Aの戻し量)は、湿式脱硫装置21内の吸収液の水銀濃度やハロゲンイオン濃度をどの程度に設定するかで決まる。例えば、吸収液の水銀濃度を低くする場合には、処理排水203Aの戻し量を多くする。
【0086】
なお、図9では、排水処理装置202Aで処理した処理排水203Aの一部を後述する噴霧水ライン240に供給しているが、これは後述する例に対応するものであり、本例では、処理排水203Aは噴霧水ライン240には供給されない。
【0087】
すなわち、実施例4では、排水処理装置202Aで処理された処理排水203Aが、予め設定した補給水量の設定値と同じかあるいはそれを下回る場合には、処理排水203Aをすべて補給水として湿式脱硫装置21に戻す。一方、予め設定した補給水量の設定値よりも処理排水203Aの量が多い場合には、余剰分の処理排水203Aを系外に排出する。
【0088】
以上説明したように、本例の排ガス中の水銀処理システム10Fは、湿式脱硫装置21から排出される脱硫排水201中の固体分と液体分とを分離する第1の固液分離手段211と脱硫排水201中の水銀を除去する水銀除去手段214とを有する排水処理装置202と、この排水処理装置202で処理した処理排水203の少なくとも一部を湿式脱硫装置21に戻す補給水ライン204とを備えた構成としている。このように、湿式脱硫装置21から排出される脱硫排水201を排水処理装置202に送って水銀を除去処理し、水銀を除去した後の処理排水203Aの少なくとも一部を湿式脱硫装置21に戻し、湿式脱硫装置21と排水処理装置202との間で処理排水203Aを循環させるようにしたことで、湿式脱硫装置21内の吸収液の水銀濃度を低減させることができる。その結果、湿式脱硫装置21内部で吸収液中の水銀が液相から気相に移り、水銀が排ガス12中に飛散するといった事態を抑制することが可能となる。
【0089】
次に、排水処理の他の処理システムについて説明する。図10は、他の態様における排水処理装置202Bの構成例を示す図である。図10に示される排水処理装置202Bは、上述した図9に示す排水処理装置202Aの構成に加えて、塩素イオン(Cl-)、臭素イオン(Br-),ヨウ素イオン(I-),フッ素イオン(F-)等のハロゲンイオンを除去する手段230(以下では、「ハロゲンイオン除去手段230」とよぶ)を備えている。
【0090】
上記の塩素イオン(Cl-)、臭素イオン(Br-),ヨウ素イオン(I-),フッ素イオン(F-)等のハロゲンイオンは、湿式脱硫装置21での脱硫工程の際に水銀が石膏に吸着されるのを抑制する性質を持つ。このため、湿式脱硫装置21に返送する処理排水中のハロゲンイオン濃度が高いと、吸収液の上澄み水中の水銀濃度が増加し、この一部が気相(排ガス)へ飛散する現象が生じる。そのため、ハロゲンイオン除去手段230によって、水銀除去手段214で分離した分離液231からハロゲンイオンを除去し、ハロゲンイオン濃度を低減させるのが好ましい。ハロゲンイオン除去手段230としては、逆浸透膜を用いた濃縮手段、イオン交換膜を用いた濃縮手段、電気透析法を用いた濃縮手段、蒸留、晶析等の手段が挙げられる。
【0091】
上記のハロゲンイオン除去手段230での処理は、水銀除去手段214から分離液231が供給される都度、毎回行ってもよいが、分離液231のハロゲンイオン濃度を測定し、当該ハロゲンイオン濃度が設定値を上回る場合にのみハロゲンイオンの除去処理を行い、ハロゲンイオン濃度が設定値未満である場合にはハロゲンイオン除去手段230による処理を省略するように構成してもよい。
【0092】
ハロゲンイオン除去手段230によりハロゲンイオンが濃縮・除去された処理排水203Bは、補給水ライン204を介して、湿式脱硫装置21の補給水として湿式脱硫装置21に戻される。前述したのと同様に、排水処理装置202Bを通して循環される処理排水203Bの量は、湿式脱硫装置21内の吸収液の水銀濃度やハロゲンイオン濃度をどの程度に設定するかで決まる。
【0093】
なお、図10では、排水処理装置202Bで処理した処理排水203Bの一部を後述する噴霧水ライン240に供給しているが、これは後述する態様に対応するものであり、本例では、処理排水203Bは噴霧水ライン240には供給されない。また、図10では、ハロゲンイオン除去手段230で生成した濃縮液241を後述する噴霧水ライン240に混合しているが、これも後述する他の例に対応するものであり、本例では、濃縮液241は系外に排出される。
【0094】
また、前述したのと同様に、排水処理装置202Bで処理された処理排水203Bは、予め設定した補給水量の設定値と同じかあるいはそれを下回る場合には、処理排水203Bをすべて補給水として湿式脱硫装置21に戻す。一方、予め設定した補給水量の設定値よりも処理排水203Bの量が多い場合には、余剰分の処理排水203Bを系外に排出する。
【0095】
以上説明したように、本例の排水処理装置202Bは、前述した排水処理装置202Aの構成に加えて、水銀の石膏への吸着を抑制する塩素イオン(Cl-)、臭素イオン(Br-),ヨウ素イオン(I-),フッ素イオン(F-)等のハロゲンイオン除去手段230を備えた構成としている。上記のように構成される排ガス中の水銀処理システム10Fによれば、前述した作用・効果に加えて、さらに処理排水20B3中のハロゲンイオン濃度を低減させることができるため、石膏中への水銀の移行(固形化)を推進するとともに、気相への飛散を抑止することができる。
【0096】
次に、排水処理の他の処理システムについて説明する。図11は、他の態様における排水処理装置202Cの構成例を示す図である。図11に示される排水処理装置202Cは、上記図10に示す排水処理装置202Bの構成に加えて、助剤酸化手段250を設けた構成としている。水銀除去手段214の助剤混和工程において、凝集助剤215として硫化水素HS、硫化ナトリウムNaS、硫化水素ナトリウムNaHS,金属硫化物My(Mは金属元素でMn,Feなど、x、yは数)等の硫化物を用いた場合、処理排水203Cを湿式脱硫装置21に戻した際に、処理排水203C中に含まれる凝集助剤215が還元剤となり酸化が阻害される可能性がある。
このため、凝集助剤215として硫化物を用いる場合には、助剤酸化手段250により、精密処理手段216dで分離した分離液231に含まれる凝集助剤215を酸化処理するのが好ましい。酸化処理としては、具体的には、酸化剤を添加し、硫化物と酸化剤とを反応させる処理を行う。酸化剤としては、空気、酸素O、過酸化水素H、オゾンO、塩素酸化合物、マンガン化合物、鉄化合物などを挙げることができる。
【0097】
上記の助剤酸化手段250での処理を終えた分離液251は、ハロゲンイオン除去手段230でハロゲンイオンが濃縮・除去される。ハロゲンイオンが除去された処理排水203Cは、補給水ライン204を介して、湿式脱硫装置21の補給水として湿式脱硫装置21に戻される。前述したのと同様に、排水処理装置202Cを通して循環される処理排水203Cの量は、湿式脱硫装置21内の吸収液の水銀濃度やハロゲンイオン濃度をどの程度に設定するかで決まる。
【0098】
なお、図11では、排水処理装置202Cで処理した処理排水203Cの一部を後述する噴霧水ライン240に供給しているが、これは後述する例に対応するものであり、本例では、処理排水203Cは噴霧水ライン240には供給されない。また、図11では、ハロゲンイオン除去処理手段230で生成した濃縮液241を後述する噴霧水ライン240に混合しているが、これも後述する例に対応するものであり、本例では、濃縮液241は系外に排出される。
【0099】
また、前述したのと同様に、排水処理装置202Cで処理された処理排水203Cは、予め設定した補給水量の設定値と同じかあるいはそれを下回る場合には、処理排水203Cをすべて補給水として湿式脱硫装置21に戻す。一方、予め設定した補給水量の設定値よりも処理排水203Cの量が多い場合には、余剰分の処理排水203Cを系外に排出する。
【0100】
以上説明したように、本例の排ガス中の水銀処理システム10Fにおける排水処理装置202Cは、上述した排水処理装置202Bの構成に加えて、凝集助剤215を酸化処理する助剤酸化手段250を備えた構成としている。上記のように構成したことで、前述した作用・効果に加えて、処理排水203Cを湿式脱硫装置21に戻した際に処理排水203C中に含まれる凝集助剤215が還元剤となり酸化が阻害されるといった事態を防止することができる。
【0101】
なお、図9〜図11に例示した排水処理装置202A〜202Cの構成は一例であり、脱硫排水201の性状等に応じて適宜変更可能である。例えば、図9〜図11に示した例では、水銀除去手段214を濃縮工程、脱水工程、精密処理工程の多段階で構成することにより高精度に水銀を除去したが、必ずしも多段階とする必要はなく、これらの工程のうちのいずれかを選択して行ってもよい。例えば、分離液219中の水銀濃度を測定し、当該水銀濃度が閾値未満である場合には精密処理手段216dを省略するように構成してもよい。また、硫化物以外の凝集助剤215を用いた場合には、凝集助剤215の酸化処理(無害化処理)を省略してもよいのはもちろんである。
【0102】
また、第1の固液分離手段211での処理、水銀除去手段214での処理、ハロゲンイオン除去手段230での処理の順番は、図10に示した例に限定されない。例えば、水銀除去手段214での処理を行った後に第1の固液分離手段211を行ってもよく、また、ハロゲンイオン除去手段230での処理を行った後に水銀除去手段214での処理を行ってもよい。
【実施例5】
【0103】
図12は、本発明の実施例5に係る排ガス中の水銀処理システムを示す概略図である。なお、上述した実施例1〜4と同一の構成には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
図12に示すように、本実施例に係る排ガス中の水銀処理システム10Gは、実施例1の係る排ガス中の水銀処理システム10Aにおいて、処理排水203(203A、203B、203C)の一部を、ボイラ11に燃料Fを供給する経路、ボイラ11の炉内部、ボイラ11とエアヒータ18との間の煙道13の内部、バイパス管13a、13bの内部の少なくとも一箇所に噴霧する構成としている。
【0104】
図12に例示される排ガス中の水銀処理システム10Gは、上述したボイラ11、還元脱硝装置17、エアヒータ18、集塵器19、湿式脱硫装置21、排水処理装置202(202A、202B,202C)、補給水ライン204に加えて、噴霧水ライン240及び排水噴霧装置261を備えている。また、還元脱硝装置17からの煙道13と並列な位置には、還元脱硝装置17の上流側と下流側の煙道13を接続するバイパス管13aが設けられている。同様に、エアヒータ18からの煙道13と並列な位置には、エアヒータ18の上流側と下流側の煙道13を接続するバイパス管13bが設けられている。上記構成とすることで、各バイパス管13a、13bの内部を流通する排ガス12中にも処理排水203(203A、203B、203C)を噴霧することができるようになっている。各バイパス管13a、13bは、その内部を流通する排ガス量が煙道13を流通する排ガス量の数%程度となるように構成されている。
【0105】
排水処理装置202(202A、202B,202C)で処理される処理排水203(203A、203B,203C)のうち、所定量は補給水ライン204を介して湿式脱硫装置21に戻されるが、処理排水203(203A、203B,203C)を湿式脱硫装置21に戻してもなお余剰の処理排水203(203A、203B,203C)が発生する場合がある。このような場合には、残りの処理排水203A(203B,203C)を噴霧水ライン240に供給し、排水タンク260で貯留し、排水噴霧装置261によってボイラ11に燃料Fを供給する経路、ボイラ11の炉内部、煙道13の内部、バイパス管13a、13b内に供給する。
【0106】
例えば、排水処理装置202A(202B,202C)で処理された処理排水203A(203B,203C)の量が、予め設定した補給水量の設定値と同じかあるいはそれを下回る場合には、処理排水203A(203B,203C)をすべて補給水として湿式脱硫装置21に戻す。
一方、予め設定した補給水量の設定値よりも処理排水203A(203B,203C)の量が多い場合には、余剰分の処理排水203A(203B,203C)を噴霧水ライン240に供給し、排水噴霧装置261によってボイラ11に燃料Fを供給する経路、ボイラ11、煙道13、バイパス管13a、13b内に供給する。さらに、予め設定した補給水量の設定値と予め設定した噴霧水量の設定値との和よりも、排水処理装置202A(202B,202C)で処理される処理排水203A(203B,203C)の量が多い場合には、余剰分の処理排水203A(203B,203C)を系外に排出する。
【0107】
ここで、前述したのと同様に、湿式脱硫装置21に戻す処理排水(補給水)203A(203B,203C)の量は、湿式脱硫装置21内の吸収液の水銀濃度やハロゲンイオン濃度をどの程度に設定するかで決まる。一方、ボイラ11の炉内部、煙道13の内部、バイパス管13a、13bの内部に噴霧する処理排水(噴霧水)203A(203B,203C)の量は、処理する排ガス12の量に比例して発生する処理排水203A(203B,203C)の量と、系外に排出できる処理排水203A(203B,203C)の限度量とで決まる。
【0108】
排水処理装置202A(202B,202C)は、上述した例(図9〜図11)で説明したいずれかの構成を適用する。例えば、排水処理装置202を図9に示すように第1の固液分離手段211と水銀除去手段214とで構成する場合には、水銀除去手段214で処理した処理排水203Aの一部を噴霧水ライン240に供給する。
【0109】
また、排水処理装置202を図10に示すように第1の固液分離手段211と水銀除去手段214とハロゲンイオン除去手段230とで構成する場合には、水銀除去手段214で処理した分離液231、あるいは、この分離液231にハロゲンイオンの濃縮液241を混合した液を処理排水203Bとして噴霧水ライン240に供給する。例えば、処理排水203Bを還元脱硝装置17よりも上流側の煙道13内に噴霧する場合には、図10に示すようにハロゲンイオンの濃縮液241と分離液231との混合液を処理排水203Bとして噴霧水ライン240に供給し、これを煙道13内に噴霧する。これにより、排ガス12中の塩素イオン濃度を増加させることができるため、還元脱硝装置17における塩化水銀の変換効率を上げることができる。
一方、処理排水203Bを還元脱硝装置17よりも下流側の煙道13内やバイパス管13a、13bに噴霧する場合には、ハロゲンイオンの濃縮液241を混合せず、分離液231のみを処理排水203Bとして噴霧水ライン240に供給し、これを煙道13内及びバイパス管13a、13bに噴霧する。排水処理装置202を図11に示すように第1の固液分離手段211と水銀除去手段214と助剤酸化手段250とハロゲンイオン除去手段230とで構成した場合も同様である。
【0110】
排水噴霧装置261は、噴霧水ライン240を介して排水処理装置202と接続され、処理排水(噴霧水)203A(203B、203C)を貯留する排水タンク260と、排水タンク260に接続され排水タンク260に貯留された処理排水203A(203B,203C)をボイラ11に燃料Fを供給する経路と、ボイラ11の炉内部と、煙道13の内部と、バイパス管13a,13bの内部にそれぞれ供給する複数の排水供給管(排水供給手段)P0〜P5とを備えている。排水供給管P1〜P5の先端には、処理排水203を噴霧するノズルN1〜N5が設けられている。
【0111】
排水供給管P0〜P5は、エアヒータ18により熱が回収される前の高温の排ガス12が流通する位置、すなわち、エアヒータ18よりも上流側に設置される。図12に示す例では、排水供給管P1はボイラ11に接続され、ノズルN1はボイラ11の炉内部に設置されている。具体的には、ノズルN1は、炉の側面や炉の上部の炉壁に設置され、当該ノズルN1から炉の中央部の火炎部分又は火炎の上方に向かって脱硫排水201が噴射される。また、排水供給管P2はボイラ11と還元脱硝装置17の間の煙道13に接続され、ノズルN2は煙道13の内部に設置されている。また、排水供給管P3は、還元脱硝装置17の上流側の煙道13と下流側の煙道13を接続するバイパス管13aに接続され、ノズルN3はバイパス管13aの内部に設置されている。また、排水供給管P4は、還元脱硝装置17とエアヒータ18との間の煙道13に接続され、ノズルN4は煙道13の内部に設置されている。また、排水供給管P5は、エアヒータ18の上流側の煙道13と下流側の煙道13を接続するバイパス管13bに接続され、ノズルN5はバイパス管13bの内部に設置されている。
【0112】
ノズルN1〜N5としては、例えば二流体ノズル、ロータリアトマイザ等が用いられる。また、ノズルN1〜N5のミスト径は、最大粒径が200μm以下、平均粒径が30〜70μmとするのが好ましい。これにより、排ガス12との接触効率が向上し、蒸発効率の向上を図ることができる。
【0113】
ノズルN1が設置されるボイラ11の炉内の排ガス温度は800℃〜1200℃程度と最も高温であるため、最も多くの処理排水203A(203B,203C)を蒸発させることが可能である。また、ノズルN2が設置される煙道13内部の排ガス温度は500℃程度、ノズルN4が設置される煙道13内部、及び、ノズルN3、N5が設置されるバイパス管13a,13bの排ガス温度はいずれも350℃〜400℃程度であり、ボイラ11の炉内部よりも温度は低下するものの、処理排水203を確実に蒸発させることができる。一方、エアヒータ18を通過した排ガス12の温度は150℃程度まで低下し、処理排水203を十分に蒸発させることができない。
【0114】
また、排水供給管P0は、ボイラ11に燃料Fを供給する経路に設置されている。ここで、ボイラ11に燃料Fを供給する経路とは、具体的には、燃料供給装置(図示せず)の内部や、燃料供給装置とボイラ11とを接続する配管等である。排水供給管P0から燃料Fに供給された処理排水203は燃料Fと混合され、燃料Fとともにボイラ11に投入された後、ボイラ11内で蒸発する。
【0115】
上記の排水供給管P0〜P5にはそれぞれ開閉バルブV10〜V15が設置され、これらの開閉バルブV10〜V15の開閉量を制御することにより、排水供給管P0〜P5に供給される処理排水203の流量が調整される。そして、排水タンク260に貯留される処理排水203は、排水供給管P0〜P5を介して、ボイラ11に燃料Fを供給する経路、ボイラ11の炉内部、煙道13内部、バイパス管13a,13b内部にそれぞれ噴霧される。
【0116】
ノズルN1〜N5から高温の排ガス12中に噴霧された処理排水203は、蒸発して水蒸気となり、その後、排ガス12とともに湿式脱硫装置21内に送られる。湿式脱硫装置21内の温度は30℃〜50℃程度であるため、湿式脱硫装置21内に導入された水蒸気のほとんどは液化し、塔底部54の石灰石膏スラリー20と混合される。一方、液化しなかった水蒸気は、浄化ガス52とともに煙突53から排出される。
【0117】
上記のように、煙道13の場所により排ガス12の温度が異なり、脱硫排水201の蒸発効率も異なる。そこで、乾燥粒子の搬送効率や排ガス12の蒸発効率等を考慮した上で、開閉バルブV10〜V15の開閉量を最適化する。
【0118】
以上説明したように、実施例5の排ガス中の水銀処理システム10Gでは、実施例1〜4の構成に加えて、ボイラ11に燃料Fを供給する経路、ボイラ11の炉内部、煙道13の内部、バイパス管13a,13bの内部の少なくとも1箇所に、処理排水203A(203B、203C)を供給する排水供給管P0〜P5を設置した構成としている。そして、排水処理装置202で処理した処理排水203の少なくとも一部を、補給水として湿式脱硫装置21に戻す一方、処理排水203の一部を、ボイラ11に燃料Fを供給する経路、ボイラ11の炉内部及び煙道13等に供給する構成としている。すなわち、本実施例では、処理排水203A(203B,203C)を補給水として湿式脱硫装置21に戻すことに加えて、処理排水203A(203B,203C)の一部をボイラ11や煙道13等にも供給するようにしたので、上記実施例1〜4の効果に加えて、排水処理装置202A(202B,202C)で処理した処理排水203A(203B,203C)を最大限に再利用することが可能であり、処理排水203A(203B,203C)のすべてを排ガス中の水銀処理システム10G内で再利用することが可能となる。その結果、系外への排水の放出量を著しく低減もしくは完全無排水化を実現することが可能となる。
【0119】
また、エアヒータ18により熱が回収される前の高温の排ガス12中に処理排水203A(203B,203C)を直接噴霧する構成としているため、ノズルN1〜N5からの処理排水203A(203B,203C)の噴霧量が多くても確実に処理排水203A(203B,203C)を蒸発させることができ、単位時間当たりに煙道13内に戻す処理排水203の量を増大させることができる。その結果、単位時間当たりの脱硫排水201の量を増やすことができるため、従来に比して単位時間当たりの排ガス12の処理量を増やすことが可能となる。
【0120】
また、還元脱硝装置17と並列な位置とエアヒータ18と並列な位置にそれぞれバイパス管13a、13bを設け、これらのバイパス管13a、13b内部の排ガス12中に処理排水203を噴霧し、蒸発させるようにしたので、処理排水203A(203B,203C)の蒸発に伴い発生する灰等の乾燥粒子が還元脱硝装置17やエアヒータ18の中を通過することにより、これらの装置の働きを低下させるおそれがある場合に、各バイパス管13a、13bを介して、乾燥粒子を効率よく還元脱硝装置17及びエアヒータ18の下流側に搬送することができる。
【0121】
なお、図12に示した排水噴霧装置261の構成は一例であり、排水供給管P0〜P5の設置本数及び設置位置はこれに限定されるものではなく、処理排水203A(203B,203C)の量や排ガス12の種類等に応じて適宜変更することができる。すなわち、ボイラ11に燃料Fを供給する経路、ボイラ11の炉内部、ボイラ11の出口からエアヒータ18の入口までの煙道13、バイパス管13a,13bのうち、少なくとも一箇所に設置されればよい。
【0122】
また、処理排水203A(203B,203C)に含まれる有害物質・固形分が微量であり、還元脱硝装置17やエアヒータ18の上流側の煙道13内に処理排水203A(203B,203C)を噴霧しても、これらの装置の働きを低下させるおそれがない場合には、必ずしもバイパス管13a,13bを設ける必要はない。さらに、図12に示した排水噴霧装置261では、排水処理装置202からの処理排水203を排水タンク260に一旦貯留し、排水タンク260から処理排水203を排水供給管P0〜P5に供給する構成としたが、排水処理装置202から噴霧水ライン240を介して供給される処理排水203を直接、排水供給管P0〜P5に供給する構成としてもよい。
【0123】
このように、本実施例に係る噴霧装置を適用した排ガス中の水銀処理システム10A〜10Gによれば、湿式脱硫装置の前流側で水銀酸化したシステムにおいても、脱硫装置の後流側において、さらに残存する水銀を除去し、排ガス中の水銀濃度を極低濃度まで除去することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上のように、本発明に係る排ガス中の水銀処理システムによれば、脱硫装置で用いる吸収液中の水銀濃度を低減させることができるため、脱硫装置内において水銀が排ガス中に飛散するのを大幅に抑制することができる。
【符号の説明】
【0125】
10A〜10G 排ガス中の水銀処理システム
11 ボイラ
12 排ガス
13 煙道
14 塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液
16 塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液供給手段(還元酸化助剤供給手段)
17 還元脱硝装置(還元脱硝手段)
18 熱交換器(エアヒータ)
19 集塵器
20 石灰石膏スラリー
21 湿式脱硫装置
23A〜23B 噴霧装置
24 塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液供給管
25、56 空気
26 空気供給管
27 吹込み管
28 ノズルヘッド
29 内管
30 外管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラからの排ガスを排出する煙道内に、気化した際に塩化水素とアンモニアとを生成する還元酸化助剤を含む溶液を噴霧する還元酸化助剤供給手段と、
前記排ガス中の窒素酸化物をアンモニアで還元すると共に、塩化水素共存下で水銀を酸化する脱硝触媒を有する還元脱硝装置と、
該還元脱硝装置において酸化された水銀をアルカリ吸収液により除去する湿式脱硫装置と、
前記湿式脱硫装置の内部又は後流側に設けられ、排ガス中に残存する水銀を除去する仕上げ水銀除去装置とを具備することを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記湿式脱硫装置の後流側に設けられる前記仕上げ水銀除去装置が、除塵処理手段、吸着処理手段又は気液接触処理手段の少なくとも一つであることを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記湿式脱硫装置の内部に設けられる前記仕上げ水銀除去装置が、湿式脱硫装置の吸収液中に酸化剤を供給する酸化剤供給手段であることを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項4】
請求項1において、
前記湿式脱硫装置の内部に設けられる前記仕上げ水銀除去装置が、湿式脱硫装置の吸収液中に活性炭を供給する活性炭供給手段であることを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項5】
請求項1において、
前記還元酸化助剤に、更に還元剤、水銀塩素化剤のいずれか一方又は両方を添加することを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項6】
請求項1において、
前記還元酸化助剤がハロゲン化アンモニウムであることを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項7】
請求項2又は3において、
前記還元剤がアンモニア、又は尿素であることを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項8】
請求項2乃至4の何れか一つにおいて、
前記水銀塩素化剤がハロゲン化水素であることを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項9】
請求項1において、
前記湿式脱硫装置から排出される脱硫排水中の固体分と液体分とを分離する固液分離手段と前記脱硫排水中の水銀を除去する水銀除去手段とを有する排水処理装置と、
前記排水処理装置で処理した処理排水の少なくとも一部を前記湿式脱硫装置に戻す処理排水返送手段と、
を備えることを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項10】
請求項9において、
前記水銀除去手段は、前記脱硫排水中の固形物を第1の固液分離手段で分離した分離液に凝集助剤を添加することにより前記水銀を固形化して前記脱硫排水から水銀固形物を分離する固液分離手段を有することを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項11】
請求項9において、
前記排水処理装置は、
前記脱硫排水中のハロゲンイオンを除去するハロゲンイオン除去手段を有することを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項12】
請求項9において、
前記凝集助剤は硫化物であり、
前記排水処理装置は、前記水銀固形物を分離した分離液に含まれる前記凝集助剤の酸化処理を行う助剤酸化手段を有することを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項13】
請求項9において、
前記還元脱硝装置と湿式脱硫装置との間に設けられ、前記排ガスの熱を回収するエアヒータと、
前記ボイラに燃料を供給する経路、前記ボイラの内部、前記ボイラと前記エアヒータとの間の煙道内部の少なくとも一箇所に設置され、前記排水処理装置で処理した処理排水の一部を供給する排水供給手段と、をさらに備えることを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。
【請求項14】
請求項13において、
前記還元脱硝装置からの煙道と並列な位置、又は、前記エアヒータからの煙道と並列な位置の少なくとも一方にバイパス管を設け、前記バイパス管に前記排水供給手段を設けたことを特徴とする排ガス中の水銀処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−11317(P2012−11317A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150513(P2010−150513)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】