説明

排ガス処理用触媒および触媒構造体

【課題】山部におけるガス流速を平板部のガス流速に近づけること、すなわち流路内の最大ガス流速を低減することにより、触媒性能を最大限に発揮させることができる排ガス処理用触媒およびその構造体を提供する。
【解決手段】平板部内に所定高さの凸状列部と凹状列部(山部)を交互に間隔をおいて複数列形成した板状体に触媒成分を担持した板状触媒体であって、平板部上に設置する凹状および凸状各山部において、平板部からの起点αから山部の頂点βを経由して起点と同じ平板の位置となる終点γで形成される山型流路のすその幅w(山部の幅)が山部の高さ未満(w<hまたはw/h<1.0)であることを特徴とする排ガス処理用板状触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理用触媒および触媒構造体に係り、排ガス中に含まれる有害物質を浄化するための板状触媒およびその構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガスに含まれる有害物質を浄化する触媒の形状としては、板状、ハニカム状、粒状、円筒状、ペレット状など様々なものがあり、通常、板状あるいはハニカム状が適用されている。
石炭焚ボイラ等の排ガスにダストが含まれる場合、ダストによる触媒の閉塞や摩耗が問題となるが、通常の板状触媒としては、図7に示すように、平板部内に凸状および凹状列部とを交互に列状に形成した触媒エレメント1を図8に示すように積層した触媒構造体が知られている(特許文献1および2)。このような板状触媒構造体は、平板状触媒エレメントを積層した構造のために、他の形状よりも端部摩耗に強く、閉塞や摩耗に対して優れた耐久性を有するとともに、他の形状よりも圧力損失が低いという利点を有している。また、板状以外の形状の場合、内部に基板や担体が含まれないために、触媒自体の強度を高く維持しなければならず、触媒の反応効率が犠牲になることがあるのに対し、板状触媒の場合は基板や担体で強度を保持することができ、触媒表面の触媒成分は反応効率を最大限にするような組成にすることができるという利点も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭58-50137号公報
【特許文献2】特開平11-347422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、凸状および凹状列部(以下、山部ということがある)構造を持つ板状触媒において、通常適用されている山部の高さhと山部の幅wがほぼ等しい場合(w≒h, w/h≒1.0)は、流速分布が図10(a), (b)に示すように局所的に速くなることから、処理ガス量が増加し触媒の性能が最大限発揮されない可能性がある。さらに、積層したときに隣り合う触媒エレメント間の距離(ピッチ)が広く、山部が相似型で大きくなる場合、条件によっては図9(a)に示す山部でガスが吹き抜ける可能性がある。
本発明の課題は、前記山部におけるガス流速を平板部のガス流速に近づけること、すなわち流路内の最大ガス流速を低減することにより、触媒性能を最大限に発揮させることができる排ガス処理用触媒およびその構造体を提供することである。
上記課題を解決するため、本発明者らは従来の板状触媒構造体について検討したところ、図11(a), (b)に示す従来の触媒構造体では、山部の高さが高いなど寸法によっては図9(a)の(8)で示す部分においてガスの吹き抜けが起こる可能性があった。さらに、図10(a)の形状では平板間の流路よりも山型流路部分、図9(a)の(8)のガス流速が高くなる現象が確認され、これらのことから、山型流路における触媒表面積あたりの処理ガス流量が増加し、触媒の性能を最大限に発揮されない可能性があることが分かった。
本発明者らは、上記の山部の寸法を種々検討した結果、ある適正な範囲であれば局所的に速い流速を低減できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本願で特許請求される発明は下記のとおりである。
(1)平板部内に所定高さの凸状列部と凹状列部(山部)を交互に間隔をおいて複数列形成した板状体に触媒成分を担持した板状触媒体であって、平板部上に設置する凹状および凸状各山部において、平板部からの起点αから山部の頂点βを経由して起点と同じ平板の位置となる終点γで形成される山型流路のすその幅w(山部の幅)が山部の高さ未満(w<hまたはw/h<1.0)であることを特徴とする排ガス処理用板状触媒。
(2)前記山部の幅wと山部の高さの比w/hが0.2〜0.7の範囲内であることを特徴とする(1)記載の板状触媒。
(3)前記板状触媒の凸状列部と凹状列部が隣接する板状触媒平板部に接触するように複数枚積層し、前記板状触媒間にガス流路を形成したことを特徴とする(1)または(2)記載の板状触媒を用いた排ガス処理用触媒構造体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、山型流路におけるガスの吹き抜けを抑制し、吹き抜けに相当する最大ガス流速を抑制できるため、触媒の性能を最大限発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1における触媒構造体の説明図。
【図2】本発明の実施例2における触媒構造体の説明図。
【図3】本発明の実施例3における触媒構造体の説明図。
【図4】本発明の比較例1における触媒構造体の説明図。
【図5】本発明の比較例2における触媒構造体の説明図。
【図6】(a)本発明における触媒構造体の説明図。(b)本発明における山部の詳細を示す説明図。
【図7】本発明における触媒体の説明図。
【図8】本発明における触媒構造体の説明図。
【図9】(a)従来の触媒構造体の流路8の説明図。(b)本発明における触媒構造体の流路8の説明図。
【図10】(a)板状触媒の山部におけるガス流速測定位置9を説明する図。(b)山部および平板部における流速分布を示す図。
【図11】(a)従来の板状触媒の形状(山部Z型)を示す図。(b)従来の板状触媒の形状(山部W型)を示す図。
【図12】触媒構造体の説明図。
【図13】各実施例と比較例におけるw/hと反応速度の関係を示す図。
【図14】各実施例と比較例におけるw/hと最大ガス流速の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明によれば、前記山部のすその幅wを山部の高さh未満(w/h<1.0)とした触媒構造体にすることにより、図9(b)のように局所的なガスの吹き抜けを抑制し、かつ、山型流路でのガス流速を低減できるために、触媒の性能を最大限発揮させることができる。この効果は、図11(a)のZ型の山部を有する構造体のみならず、図11(b)のW型の山部を有する構造体どちらでも得ることができる。
前記山部の幅wについては、狭くても性能上は問題なく、灰が山部に堆積した場合においてもそれ以外の部分には進展することはない。ただし、山部高さhと山部の幅wの比(w/h)が0.2に達しない場合は触媒面が重なり有効表面積が減少するために実用上は望ましくない。また、山部の幅wが極端に狭くなると構造体製造時における山部の加工工程が従来よりも増える可能性があり、コストアップにもつながる。このため、本発明における山部のすその幅wと山部の高さhの比 (w/h)は1.0未満、実用上は0.2〜0.7の範囲が好ましい。
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0009】
ステンレスエキスパンドメタルに触媒成分を塗布し、その後、プレス加工にて山部の高さが7mmとなるように加工し、触媒ガス流れ方向長さを500mm、幅を150mmに切断し、図1に示す触媒体1とした。このとき、山部2の幅wと山幅wの比が0.2 (w=1.4, h=7)とし、ガス流れ方向に形成した山部の幅はすべて同一とした。その後、該触媒体1を全24枚重ねて図12に示すような150mm角のユニットに組み立てた。
触媒成分は組成比Ti:W:V = 90:5:5の脱硝触媒を用いた。評価項目は、反応速度と圧力損失、灰堆積、ガス流速とした。このうち、反応速度と圧力損失は、表1に示す条件を用い、ベンチ試験装置にて測定した。灰堆積は表2に示すように、灰を含んだガスを24h流通後に触媒構造体を解体して灰堆積状況を評価した。さらに、触媒単位流路における熱移動のシミュレーションを行い、触媒上での熱移動をNOxの反応と仮定し、反応速度と流路内の吹き抜けに相当する最大ガス流速を評価した。測定条件を表3に示す。
得られた測定結果は、山部の幅wと高さhの比が1.0(w/h=1.0)の比較例1を1としたときの反応速度比、圧力損失比、最大ガス流速、ガス灰堆積の状況を含め表4に示した。また、シミュレーション結果による、触媒流路におけるw/hと反応速度の関係を図13に、最大ガス流速とw/hの関係を図14に示す。
実施例1の結果によれば、比較例1に示す従来型の触媒体よりも反応速度が高く、吹き抜けに相当する最大ガス流速が低下していることが分かる。これは、図1に示すように山部の幅を狭くしたことで、ガス流速が均一になったためと考えられる。なお、圧力損失と灰堆積については比較例1と同等であった。
【実施例2】
【0010】
実施例1と同様に触媒成分をエキスパンドメタルに塗布した後、図2のように山部2の幅wを実施例1よりも広く加工した触媒体1を製造し、積層して図12のような触媒構造体を製作した。このとき山部の幅wと山部高さhの比は0.7(w/h=0.7, w=4.9, h=7)とし、ガス流れ方向に形成した山部の幅wはすべて同一とした。
実施例2の結果によれば、比較例1よりも山部に相当する部分のガス流速が低下しており、さらに反応速度は比較例1よりもやや高い結果となった。圧力損失と灰堆積については比較例1と同等であった。
【実施例3】
【0011】
実施例1と同様に触媒成分をエキスパンドメタルに塗布した後、図3のように山部2の幅wを実施例1よりも狭く加工した触媒体1を製造し、積層して図12のような触媒構造体を製作した。このとき山部の幅wは山部高さhの比は約0(w/h≒0,w≒0, h=7)とし、ガス流れ方向に形成した山部の幅wはすべて同一とした。
実施例3の結果によれば、比較例1の結果よりも最大ガス流速が低下しており、さらに反応速度は比較例1よりも高い結果となった。一方、反応速度比は実施例1より若干低い値となっており、これは山部で触媒が重なり、有効表面積が減少したためと考えられる。圧力損失と灰堆積については、比較例1、2と同等であった。なお、本例ではw/h≒0であることから、触媒構造体製造時の加工が他の実施例より困難であったため、生産性はあまりよくなかった。
【0012】
[比較例1]
実施例1と同様に触媒成分をエキスパンドメタルに塗布した後、図4のように山部2の幅wを山部高さhと等しく(w/h=1.0)し、かつ、ガス流れ方向に形成した山部すべての幅は同一である、通常用いられている構造と同じ触媒体1を製造し、その後、該触媒体1を24枚重ねて図12に示すような触媒構造体を製作した。この構造は、通常用いられている構造と同じである。
本例では、各実施例よりも山部に相当する部分のガス流速が高く、さらに反応速度は各実施例よりも低い結果となった。圧力損失と灰堆積については類似の形状である実施例1と同等であった。
[比較例2]
実施例1と同様に触媒成分をエキスパンドメタルに塗布した後、図5のように山部の幅wは山部高さh比が1.6(w/h=1.6)とし、かつ、ガス流れ方向に形成した山部すべての幅は同一とした、通常用いられている構造と同じ触媒体を製造した。その後、該触媒体を12枚積層し、図12に示すような触媒構造体を製作した。
本例では、各実施例よりも山部に相当する部分のガス流速が高くなっており、さらに反応速度は低い結果となった。圧力損失と灰堆積については類似の形状である実施例1と同等であった。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
【表3】

【0016】
【表4】

【符号の説明】
【0017】
1. 触媒体
2. 山部
3. 山部の幅w
4. 山部の高さh
5. 山部の平板からの起点α
6. 山部の頂点β
7. 山部の平板からの終点γ
8. ガスの吹き抜け相当部分
9. ガス流速測定位置
10. 触媒入口ガス流速
11. 触媒出口ガス流速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板部内に所定高さの凸状列部と凹状列部(山部)を交互に間隔をおいて複数列形成した板状体に触媒成分を担持した板状触媒体であって、平板部上に設置する凹状および凸状各山部において、平板部からの起点αから山部の頂点βを経由して起点と同じ平板の位置となる終点γで形成される山型流路のすその幅w(山部の幅)が山部の高さ未満(w<hまたはw/h<1.0)であることを特徴とする排ガス処理用板状触媒。
【請求項2】
前記山部の幅wと山部の高さの比w/hが0.2〜0.7の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の板状触媒。
【請求項3】
前記板状触媒の凸状列部と凹状列部が隣接する板状触媒平板部に接触するように複数枚積層し、前記板状触媒間にガス流路を形成したことを特徴とする請求項1または2記載の板状触媒を用いた排ガス処理用触媒構造体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−76044(P2012−76044A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224972(P2010−224972)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】