排ガス分析装置および排ガス分析方法
【課題】実測温度の検出精度を高め、排ガス中の成分濃度の測定精度を向上させた排ガス分析装置および排ガス分析方法を提供する。
【解決手段】排気経路3中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光する測定部5と、測定部5の上流側の排気経路3中に配設され、排気経路3中の排ガスの実測温度T1を検出する温度センサ55と、測定部5にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する差分型光検出器64と、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2を算出する温度算出部70と、排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には温度センサ55により検出された実測温度T1を用いて、又は排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には温度算出部70により算出された理論温度T2を用いて、排ガスの成分濃度Cを算出する成分濃度算出部73とを有する排ガス分析装置。
【解決手段】排気経路3中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光する測定部5と、測定部5の上流側の排気経路3中に配設され、排気経路3中の排ガスの実測温度T1を検出する温度センサ55と、測定部5にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する差分型光検出器64と、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2を算出する温度算出部70と、排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には温度センサ55により検出された実測温度T1を用いて、又は排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には温度算出部70により算出された理論温度T2を用いて、排ガスの成分濃度Cを算出する成分濃度算出部73とを有する排ガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光することで排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析装置および排ガス分析方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の内燃機関からの排ガス中に含まれる炭化水素(Hydro Carbon)濃度(以下、成分濃度)を測定するために、FID(Flame Ionization Detector)法やNDIR(Non‐Dispersive Infrared Red)法と呼ばれる測定方法を用いた排ガス分析装置が知られている。
【0003】
特に、車載型の従来の排ガス分析装置としては、排気経路中の排ガスに特定の吸収波長を有する赤外レーザ光を照射して排ガス中を透過させ、その透過光を検出することで、排ガス中の成分濃度を測定する構成が公知である。このような赤外レーザ光を用いた成分濃度の計測方法(赤外線レーザ吸収法)では、光源からの赤外レーザ光が排ガスを構成する炭化水素類の吸収波長に調整された上で排気経路内の排ガスに向けて照射され、排ガス中を透過した透過光の光強度が受光センサにて検出され、透過光の吸収スペクトルに基づいて光強度(シグナル強度)が算出されることで、排ガス中の成分濃度が測定される。
【0004】
ところで、上述した赤外線レーザ吸収法を用いた排ガス分析装置では、排気経路内の排ガス中の成分濃度が赤外レーザ光(透過光)の吸収スペクトルに基づいて算出されるが、この赤外レーザ光の吸収スペクトルは排ガスの温度の影響を受けるため、算出される濃度はこれらの温度に起因する誤差を有している。そのため、これまでにも、成分濃度の測定精度を高めるために、赤外レーザ光の吸収スペクトルを温度補正し、その結果を用いて成分濃度を測定するようにした排ガス分析方法が提案されているところである。
【0005】
例えば、特許文献1には、排気経路に内燃機関より排出された排ガスが通過する排ガス通過孔に向けて赤外レーザ光を照射し、反射鏡により赤外レーザ光を多重反射させた後に、排ガス中を透過した赤外レーザ光を検出する測定部を直接配置することで、排ガス中の成分濃度等を測定するようにした排ガス分析装置において、検出された吸収スペクトルの内の所定成分としてH2Oの吸収スペクトルの光強度(シグナル強度)から排ガスの温度を算出し、算出された温度を用いて排ガス中の各分子の吸収スペクトルを補正して、排ガス中の成分濃度を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−163422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
確かに、特許文献1に開示される従来の排ガス分析装置のように、排ガス中の所定成分としてとしてH2Oの吸収スペクトルの光強度から温度を算出し、算出された温度を用いて排ガス中の成分ごとの吸収スペクトルを補正する方法であれば、なるほど高応答の温度計測が可能であるため、ひいては成分濃度を高応答で測定することができる。
【0008】
しかしながら、エンジン始動前や始動直後等の低温条件で成分濃度を測定する際には、排ガス中の所定成分であるH2Oの濃度が低い(換言すると、H2O分子の飽和蒸気圧が低い)ため、正確なH2Oの吸収スペクトルを検出することができず、高温条件で成分濃度を測定する際と比べて温度の算出精度が劣っていた。そのため、低温条件下では排ガス中の成分ごとの吸収スペクトルを精度よく温度補正できずに、ひいては成分濃度の測定精度が低下してしまうという課題があった。
【0009】
なお、排ガスの温度測定方法としては、上述した方法の他に熱電対等の温度センサを用いて測定する方法が公知であるが、このような温度センサを用いた温度測定方法によると、確かに、温度変化が緩やかな条件では、上述したH2Oの吸収スペクトルから排ガスの温度を算出する方法と比べると、排気経路中を通過する排ガス温度の実測値であるため、その測定精度が高い。しかしながら、温度センサ自体の熱容量による応答遅れにより、エンジン始動直後などの温度が急激に変化する条件では、高応答で成分濃度を測定することが困難であった。
【0010】
そこで、本発明においては、排ガス分析装置および排ガス分析方法に関し、前記従来の課題を解決するもので、低温条件下で所定成分の濃度が低い場合であっても成分濃度の測定精度を向上させた排ガス分析装置および排ガス分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
すなわち、請求項1においては、内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光する測定部を具備してなり、前記測定部にて受光されたレーザ光に基づいて排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析装置であって、前記排気経路中の排ガスの実測温度を検出する温度検出手段と、前記測定部にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出手段と、前記吸収スペクトル検出手段により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度を算出する温度算出手段と、排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には前記温度検出手段により検出された実測温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には前記温度算出手段により算出された理論温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出する成分濃度算出手段とを有し、前記温度検出手段は、前記排ガスの実測温度を検出する温度センサを有し、前記温度センサは、前記測定部の上流側の排気経路中に配設されるものである。
【0013】
請求項2においては、内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光することで排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析方法であって、前記排気経路中の排ガスの実測温度を検出する温度検出工程と、前記受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出工程と、前記吸収スペクトル検出工程により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度を算出する温度算出工程と、排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には前記温度検出工程により検出された実測温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には前記温度算出工程により算出された理論温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出する成分濃度算出工程とを有し、前記温度検出工程において、前記排ガスの実測温度を、前記測定部の上流側の排気経路中に配設される温度センサにより検出するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果としては、エンジン始動前や始動直後などのように排ガス中の所定成分の濃度が低く、吸収スペクトル検出手段により正確な吸収スペクトルを検出することができない場合であっても、温度検出手段による排ガスの実測温度を用いて成分濃度の温度補正を行うことで、排ガス中の成分ごとの吸収スペクトルを精度よく温度補正することができ、ひいては所定成分の濃度が低い低温条件下であっても成分濃度の測定精度を向上できる。
また、温度検出手段にて検出される実測温度の応答遅れを防止して、実測温度の検出精度を高め、ひいては排ガス中の成分濃度の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る排ガス分析装置を車輌に搭載した状態を示した側面図。
【図2】測定部の取付構造を示した斜視図。
【図3】同じく図2の測定部の取付構造を示した側面図。
【図4】測定部の構成を示した斜視図。
【図5】コントローラの構成を示した機能ブロック図。
【図6】H2Oの検出ピークを含む波長帯におけるレーザ光の信号強度を示した図。
【図7】H2Oの検出ピークを含む波長帯におけるレーザ光の吸収スペクトルを示した図。
【図8】コンピュータ装置の構成を示した機能ブロック図。
【図9】吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴う各ピークの面積を示した図。
【図10】本実施例の排ガス分析装置を用いた排ガス分析方法を示したフローチャート。
【図11】吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴う各ピーク波長の光強度を示した図。
【図12】(a)は実測吸収スペクトルと理論吸収スペクトルとによって囲まれた境域の面積を示した図、(b)は理論吸収スペクトルの面積を示した図。
【図13】別実施例の測定部の取付構造を示した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る排ガス分析装置を車輌に搭載した状態を示した側面図、図2は測定部の取付構造を示した斜視図、図3は同じく図2の測定部の取付構造を示した側面図、図4は測定部の構成を示した斜視図、図5はコントローラの構成を示した機能ブロック図、図6はH2Oの検出ピークを含む波長帯におけるレーザ光の信号強度を示した図、図7はH2Oの検出ピークを含む波長帯におけるレーザ光の吸収スペクトルを示した図、図8はコンピュータ装置の構成を示した機能ブロック図、図9は吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴う各ピークの面積を示した図、図10は本実施例の排ガス分析装置を用いた排ガス分析方法を示したフローチャート、図11は吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴う各ピーク波長の光強度を示した図、図12は(a)は実測吸収スペクトルと理論吸収スペクトルとによって囲まれた境域の面積を示した図、(b)は理論吸収スペクトルの面積を示した図、図13は別実施例の測定部の取付構造を示した側面図である。
【0017】
まず、本実施例の排ガス分析装置1の全体構成について、以下に概説する。
図1に示すように、本実施例の排ガス分析装置1は、自動車2に配置された内燃機関としてのエンジン20から排出される排ガス中の成分濃度や温度を測定して分析するものである。具体的には、排ガス分析装置1は、上述した排気経路3の複数箇所に配設された複数の測定部5・5・・・と、測定部5に接続されたレーザ発振・受光用のコントローラ6と、コントローラ6に接続されたコンピュータ装置7等とで構成されている。
【0018】
自動車2には、エンジン20からの排ガスを機外に排出する排気経路3が敷設されており、排気経路3は、エキゾーストマニホールド30、排気管31、第一触媒装置32、第二触媒装置33、マフラー34、及び排気パイプ35等とから構成されている。また、排気経路3の各構成機器は、断面円形状の配管3aによって連結されている。
【0019】
排気経路3においては、エンジン20の排ガスが、まずエキゾーストマニホールド30で合流され、排気管31を通じて第一触媒装置32及び第二触媒装置33に導入され、その後マフラー34を通じて排気パイプ35から大気中に放出される。このような排気経路3が形成されることによって、エンジン20からの排ガスは、二つの触媒装置32・33によって浄化され、マフラー34によって消音・減圧されて大気中に放出される。
【0020】
測定部5・5・・・は、排気経路3において4箇所に配置されており、具体的には、第一触媒装置32の上流側のエンジン20と排気管31との間、第一触媒装置32と第二触媒装置33との間、第二触媒装置33とマフラー34との間、マフラー34の下流側の排気パイプ35の末端部にそれぞれ配置されている。そして、各測定部5において、コントローラ6によって(赤外)レーザ光が照射され、かつ排ガスを透過した後のレーザ光が受光されることで、排気経路3を流れる排ガスの成分濃度が連続的にリアルタイムで測定される。
【0021】
このように、本実施例の排ガス分析装置1では、各測定部5による排気経路3の一断面におけるスポット的な排ガスの測定が可能となっている。特に、本実施例のように、測定部5が排気経路3の複数箇所に設けられることで、排ガスが排気経路3の所定断面でどのように変化するかを瞬時に測定することができ、排ガスの状態をリアルタイムに連続して測定することができる。
【0022】
次に、測定部5について、以下に詳述する。
なお、本実施例の排ガス分析装置1では、排気経路3に配置された測定部5・5・・・は、それぞれ略同一に構成されているため、以下、一例として、第一触媒装置32と第二触媒装置33との間に配置された測定部5について説明する。
【0023】
図2乃至図4に示すように、本実施例の測定部5は、矩形状の薄板材から形成され、略中心部に排気経路3中の排ガスが通過する円形の排ガス通過孔50aが貫通された本体部としてのセンサ本体50と、測定用のレーザ光を排ガス通過孔50a内に向けて照射する照射部51と、照射部51より照射されたレーザ光を多重反射させる一対の反射鏡52・52と、排ガス中を透過したレーザ光を検出する受光部53と、排気経路中の排ガスの実測温度T1を検出する温度検出手段としての温度センサ55等とで構成されている。測定部5においては、照射部51より排気経路3と直交する一断面に沿ってレーザ光が照射され、照射されたレーザ光が反射鏡52間で排気経路3を横切るように複数回反射されて、受光部53にて受光される。
【0024】
測定部5は、センサ本体50が一対の管継手36・36に挟まれた状態で固定され、管継手36・36がそれぞれ第一触媒装置32及び第二触媒装置33に接続された配管3a・3aと接続されることで排気経路3に配設される。管継手36・36は、断面円形の貫通孔36aが穿設された筒状に形成され、一方の開口縁部にフランジ部36bが設けられている。測定部5(のセンサ本体50)は、一対の管継手36・36のフランジ部36bが設けられた側の開口端の離間に、ガスケット37を介して挟み込まれ、フランジ部36b・36bがボルト38・38によって締結されることで固定される。管継手36の貫通孔36aは、配管3aと同じ直径の円形に形成され、排ガスの流れが妨げられることがない。
【0025】
センサ本体50は、平面視円形に形成された薄板状の金属部材より構成され、排ガスの流れ方向と直交する対向面の略中央部に円形の排ガス通過孔50aが穿設されている。このセンサ本体50には、照射部51及び受光部53が投光面と受光面とがそれぞれ排ガス通過孔50aの中心方向に向くようにして組み付けられるとともに、反射鏡52・52が排ガス通過孔50aに面するように上下に対向して平行に配設され、照射部51より照射されるレーザ光が排ガス通過孔50a内を排気経路3に対して直交して横切るように平行状態に固定されている。
【0026】
照射部51からは、排気経路3と直交する一断面に沿ってレーザ光が照射され、照射部51から照射されたレーザ光が受光部53にて受光される。本実施例では、照射部51及び受光部53は、上述したコントローラ6に接続されており、コントローラ6から射出されたレーザ光が照射部51を介して排ガス通過孔50aに照射され、排ガス中を透過したレーザ光が受光部53で受光されてコントローラ6に受光信号が入力される。
【0027】
照射部51には、赤外線送信用の光ファイバ51aが設けられており、投光面がセンサ本体50の排ガス通過孔50aの中心に向くようにして取り付けられている。光ファイバ51aの他端は、上述したコントローラ6に接続されており、コントローラ6から射出されたレーザ光が光ファイバ51aより排ガス通過孔50a内に導入される。このように、照射部51は、光ファイバ51aの投光面が排ガス通過孔50aに対向され、レーザ光が排ガス通過孔50aと直交する一断面に向けて照射可能にセンサ本体50に取り付けられている。
【0028】
受光部53には、レーザ光を検出するディテクタ53aと、一端がディテクタ53aに接続されるとともに、他端が上述したコントローラ6に接続された信号線53bとが設けられており、排ガス中を透過したレーザ光がディテクタ53aに受光されて、受光信号が信号線53bを介してコントローラ6に入力される。受光部53は、ディテクタ53aの受光面が排ガス通過孔50aに対向され、照射部51より排ガス通過孔50aと直交する一断面に向けて照射されたレーザ光を受光可能に照射部6と同一平面上に位置するようにしてセンサ本体50に取り付けられる。
【0029】
反射鏡52・52は、照射部51より照射されたレーザ光が一方の反射鏡52(図4において下方の)により他方の反射鏡52(図4において上方の)に向けて反射され、一対の反射鏡52・52により交互に反射されて受光側の受光部53に到達されるように配設される。このように一対の反射鏡52・52によって、照射部51により照射されたレーザ光が排気経路3に直交する一断面内を複数回反射してから受光部53で受光される。
【0030】
このように、測定部5では、コントローラ6から照射されたレーザ光が照射部51の光ファイバ51aを介してセンサ本体50の排ガス通過孔50a内に照射され、排ガス中を透過したレーザ光が受光部53のディテクタ53aにて受光され、信号線53bを介してコントローラ6に入力されるように構成されている。
【0031】
温度センサ55は、センサ本体50の排ガス通過孔50a内に配設されており、排ガス通過孔50aを通過する排ガスの実測温度T1が直接に検出される。温度センサ55の一端は後述するコンピュータ装置7に接続されており、検出された排ガスの実測温度T1がコンピュータ装置7に入力される(図3参照)。なお、本実施例の温度センサ55は、例えば、導線部分がエナメルやセラミック等の耐熱性素材により被覆された熱電対が用いられる。特に、熱電対が用いられる場合には、金属製の保護管等に収容された状態で排ガス通過孔50a内に配設されてもよい。
【0032】
次に、コントローラ6について、以下に詳述する。
本実施例の排ガス分析装置1では、コントローラ6は、各排気経路3に配置された対応する測定部5・5・・・ごとにそれぞれ配設されており、各測定部5・5・・・に同様の波長の(赤外)レーザ光を供給するとともに、各測定部5・5・・・にて受光されたレーザ光の受光信号が受信されるように構成されている。以下では、第一触媒装置32と第二触媒装置33との間に配置された一の測定部5に注目して、かかる測定部5に接続されたコントローラ6の構成について説明するが、その他の測定部5に接続されるコントローラ6の構成についても略同様に構成される。
【0033】
図1及び図5に示すように、コントローラ6は、複数の波長のレーザ光を照射する照射装置及び所定のレーザ光を検出する光検出装置として構成されている。具体的には、複数の波長の赤外レーザ光を発生させるレーザ光源60と、レーザ光源60より照射されたレーザ光を分波する複数の分波器61・61・・・と、レーザ光源60より照射されたレーザ光(測定用レーザ光及び参照用レーザ光)を所定の波長帯のレーザ光に合波する合波器62・63と、測定部5により受光されて排ガス中を透過して減衰した測定用レーザ光と参照用レーザ光とが導光される差分型光検出器64等とで構成されている。
【0034】
レーザ光源60は、ファンクションジェネレータ等の信号発信器65からの所定の周波数の信号が複数(本実施例では5個)のレーザダイオード66・66・・・に供給されることで、各レーザダイオード66・66・・・から特定波長の赤外レーザ光がそれぞれ照射される。レーザ光源60では、例えば、一のレーザダイオード66から波長が1300〜1330nm程度のレーザ光や、波長が1330〜1360nm程度のレーザ光がそれぞれ照射される。
【0035】
本実施例では、排ガス中に含まれる成分の内で、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、アンモニア(NH3)、メタン(CH4)、及び水(H2O)の5種類を検出対象として設定されており、それぞれの成分のピーク波長が存在する波長帯を含むレーザ光が合成される。具体的には、NH3を検出するのに適した波長は1530nm近傍であり、COを検出するのに適した波長は1560nm近傍であり、CO2を検出するのに適した波長は1580nm近傍であり、CH4を検出するのに適した波長は1650nm近傍である。そして、H2Oを検出するのに適した波長が1380nm近傍である。
【0036】
分波器61は、上述したレーザ光源60のレーザダイオード66・66・・・より照射されたレーザ光を測定用レーザ光と参照用レーザ光とに分波する装置であって、本実施例では、上述したレーザダイオード66・66・・・に対応して複数個(本実施例では5個)の分波器61・61・・・がそれぞれ配設されている。なお、本実施例のコントローラ6には、分波器61にてレーザダイオード66・66・・・より照射されたレーザ光を測定用レーザ光と参照用レーザ光とに分波する前に、排ガス分析装置1を構成する各測定部5・5・・・に対してレーザ光を分波するための図示せぬ分波器が別途設けられている。
【0037】
合波器62・63は、分波器61で測定用レーザ光と参照用レーザ光とに分波された各レーザ光を合波して、所定の波長帯のレーザ光に合波するものであって、合波器62により分波器61で分波された測定用レーザ光が合波され、合波器63により分波器61で分波された参照用レーザ光が合波される。このようにして合波器62・63により合波されたレーザ光は、排ガス中の複数の成分に合わせて700nm〜1800nm程度の波長帯を有するように調整されている。
【0038】
合波器62により合成された測定用レーザ光は、光ファイバ51aを介して測定部5の照射部51に導光され、測定部5にて反射鏡52・52で多重反射された後に受光部53のディテクタ53aにて受光され、信号線53bを介して後述する差分型光検出器64に導光される。一方、合波器63により合成された参照用レーザ光は、光ファイバ63aを介して後述する差分型光検出器64に導光される。
【0039】
差分型光検出器64は、測定部5にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出手段として構成されており、本実施例の差分型光検出器64では、入力された各レーザ光の信号強度と、両レーザ光の吸収スペクトルとが検出される。差分型光検出器64は、測定部5から延出された信号線53bと、分波器63から延出された光ファイバ63aとがそれぞれ接続されており、測定部5にて排ガス中を透過して減衰された測定用レーザ光と排ガス中を透過していない参照用レーザ光とが、フォトダイオード64a・64aに入力されて電気信号に変換された後に電気信号として入力され、各レーザ光の信号強度が検出される。
【0040】
図6は、一例として、差分型光検出器64に入力された特定成分の測定用レーザ光及び参照用レーザ光の信号強度をそれぞれ示したものである。具体的には、H2Oの検出ピークを含む波長帯において、図6(a)は参照用レーザ光の信号強度を表したものであり、図6(b)は排ガス中を透過した後の測定用レーザ光(透過光)の信号強度を示したものである。特に、図6(b)に示した排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の信号強度では、ピーク波長λ1、λ2、λ3においてH2Oの吸収に伴うシグナル光量の減少(ピークA・B・C)が確認される。
【0041】
また、差分型光検出器64では、入力された測定用レーザ光及び参照用レーザ光の入力信号に基づいて、測定用レーザ光及び参照用レーザ光の光強度の差をとって、測定用レーザ光(透過光)のうち所定の波長帯における吸収スペクトルが検出される。図7は、一例として、差分型光検出器64に入力された測定用レーザ光及び参照用レーザ光の特定成分の吸収スペクトルを示したものであり、図6(b)に示した排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の信号強度のピークに対応して、ピーク波長λ1、λ2、λ3においてH2Oの吸収に伴うピークA・B・Cが確認される。
【0042】
なお、差分型光検出器64にて検出されたレーザ光の吸収スペクトルは、電気信号として図示せぬプリアンプやA/D変換器を介して後述するコンピュータ装置7に入力される。
【0043】
次に、コンピュータ装置7について、以下に詳述する。
図8に示すように、本実施例のコンピュータ装置7は、後述するように温度算出部70、基準値算出部71、判定部72、成分濃度算出部73、及び出力部74等とで構成されており、コントローラ6からの出力信号が解析されて、入力された複数の波長帯ごとの吸収スペクトルに基づいて排ガスの成分濃度Cが測定される。特に、本実施例のコンピュータ装置7では、上述した温度センサ55で検出された実測温度T1又は温度算出部70で算出される理論温度T2のいずれかを選択的に用いて温度補正して排ガスの成分濃度Cを算出するように構成されている。
【0044】
コンピュータ装置7は、上述した差分型光検出器64及び温度センサ55と接続されており、差分型光検出器64にて検出された吸収スペクトルが電気信号として入力されるとともに、温度センサ55にて検出された排ガスの実測温度T1が電気信号として入力される。
【0045】
本実施例のコンピュータ装置7では、公知の方法を用いて排ガス中の成分濃度Cが算出される。一例として、排ガス中の成分濃度C(後述する概算成分濃度C1に相当する)は、排ガス中への入射光(参照用レーザ光)と、排ガス中を透過した後の透過光(測定用レーザ光)の光強度に基づいて、以下の数式(1)を用いて算出される。
【0046】
C=−ln(I/I0)/k・L ・・・(1)
【0047】
数式(1)において、Iは透過光強度、I0は入射光強度、kは吸収率、Lは透過距離である。つまり、成分濃度Cは、参照用レーザ光である入射光の光強度I0に対する測定用レーザ光である透過光の光強度Iの比(I/I0)に基づいて算出される。コンピュータ装置7では、差分型光検出器64にて検出された吸収スペクトルから透過光強度I(シグナル強度)及び入射光強度I0が算出されて成分濃度Cが算出される。
【0048】
また、本実施例のコンピュータ装置7では、排ガス中に常時存在しているH2O水蒸気)が排ガス中の所定成分として設定されており、後述するように、かかる所定成分としてのH2Oの吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2が算出されるとともに、排ガス中のH2O濃度の大小に基づいて温度補正の際に用いられる温度が判定される(図10参照)。
【0049】
温度算出部70は、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2を算出する温度算出手段として構成されている。吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2を算出する方法としては、公知の方法が用いられる。一例として、本実施例では、特定の2波長の光強度の比率が温度のみに依存するため、図7で示された排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の吸収スペクトルに表れた少なくとも2つのピーク波長の光強度(例えば、ピーク波長λ1・λ2の光強度I1・I2)を用いて、数式(1)からH2O濃度が算出され、そして、算出された2つのH2O濃度が等しいことから目的とする理論温度T2が算出される。
【0050】
具体的には、上述した成分濃度Cを算出する数式(1)において、右辺の吸収率kが吸収線強度S(T)と圧力Pとの積で表され(k=S(T)・P)、吸収線強度S(T)が吸収率断面積αと、アボガドロ数Naと、気体定数Rと、温度Tとの関数で表される(S(T)=α・(Na/RT))ことに基づいて、これらが数式(1)の吸収率kに代入されることで、理論温度T2が算出される。
【0051】
基準値算出部71は、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから、所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値を算出する基準値算出手段として構成されている。「排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値」は、H2O濃度と相関性のある値のことをいい、本実施例では、H2Oの吸収スペクトルの面積値が排ガス中のH2O濃度と相関関係にあることから、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が基準値として設定されている。
【0052】
図9に示すように、H2Oの吸収スペクトルの面積値は、図7に示した排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の吸収スペクトルを用いて、吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴うピークA・B・Cの積分値の合計値として算出される。ただし、このH2Oの吸収スペクトルの面積値は、単一ピークの積分値(例えば、ピーク波長λ1に基づくピークAの積分値)又は2以上のピークの積分値から算出されてもよい。
【0053】
判定部72は、基準値算出部71により算出された基準値が所定の閾値より小さい場合には所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が低いと判定し、基準値算出部71により算出された基準値が所定の閾値より大きい場合には所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が高いと判定する判定手段として構成されている。
【0054】
「H2O濃度の閾値」は、後述するように、温度センサ55で検出された実測温度T1又は温度算出部70で算出される理論温度T2のいずれかを選択的に用いる際の閾値であって、排ガスの測定条件やピーク波長の検出精度等に応じて適宜設定される。また、「基準値の閾値」は、予め設定されたH2O濃度の閾値に対応して適宜設定される。例えば、H2O濃度の閾値が排ガス中における所定%濃度と予め設定されることで、かかるH2O濃度の閾値に対応した基準値の閾値が設定される。
【0055】
本実施例の判定部72では、上述した基準値算出部71にて算出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、面積値が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される。このように、H2Oの吸収スペクトルの面積値と排ガス中のH2O濃度と相関性を利用すれば、基準値算出部71にてH2Oの吸収スペクトルの面積値を基準値として算出することで、判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定できる。
【0056】
成分濃度算出部73は、排ガス中のH2O濃度が低い場合には温度センサ55により検出された実測温度T1を用いて、又は排ガス中のH2O濃度が高い場合には温度算出部70により算出された理論温度T2を用いて、排ガスの成分濃度を算出する成分濃度算出手段として構成されている。具体的には、本実施例の成分濃度算出部73では、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの概算成分濃度C1を一旦算出し、温度センサ55により検出された実測温度T1又は温度算出部70により算出された理論温度T2を用いて、概算成分濃度C1を温度補正して成分濃度Cが算出される。
【0057】
排ガスの概算成分濃度C1は、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから上述した数式(1)を用いて算出される。「排ガスの概算成分濃度C1」とは、温度補正を行う前の排ガスの成分濃度のことである。そして、成分濃度算出部73では、上述した判定部72にて判定された判定結果に基づいて、排ガスの概算成分濃度C1が実測温度T1又は理論温度T2のいずれかを用いて温度補正されて、排ガスの成分濃度Cが算出される。
【0058】
例えば、判定部72にて、基準値算出部71にて算出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より小さく、したがって排ガス中のH2O濃度が低いと判定された場合には、成分濃度算出部73にて実測温度T1を用いて概算成分濃度C1が温度補正されて、排ガス中の成分濃度Cが算出される。一方、判定部72にて、基準値算出部71にて算出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より大きく、したがって排ガス中のv濃度が高いと判定された場合には、成分濃度算出部73にて理論温度T2を用いて概算成分濃度C1が温度補正されて、排ガス中の成分濃度Cが算出される。
【0059】
概算成分濃度C1の温度補正の方法としては、公知の方法を用いることができ、一例として、本実施例では、排ガスの実測吸収スペクトルである吸収スペクトルを、温度・圧力・濃度毎に予め定義された理論吸収スペクトルとパターンマッチングを行うことで排ガスの成分濃度Cが算出される。具体的には、に示す特定成分の吸収スペクトルの形状と、予め算出された理論吸収スペクトルの形状とが比較されて、最も近似する吸収スペクトルが求められ、この吸収スペクトルに基づいて特定成分の成分濃度Cが算出される。なお、理論吸収スペクトルにおいて、所与の圧力と濃度毎に予め複数の理論吸収スペクトルが算出されている。
【0060】
出力部74は、CTRや液晶モニタなどの画像表示装置として構成されており、上述した各吸収スペクトルが画像表示されるとともに、排ガスの温度(実測温度T1及び理論温度T2)や濃度(概算成分濃度C1及び成分濃度C)などが表示される。
【0061】
次に、本実施例の排ガス分析装置1を用いた排ガス分析方法について、以下に説明する。
図10に示すように、本実施例の排ガス分析方法は、上述した排ガス分析装置1を用いてエンジン20の排ガスを排出する排気経路3中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光することで排ガス中の成分濃度Cを測定する方法であって、測定が開始されてエンジン20からの排ガスが排気経路3に送られると、排ガス分析装置1が作動される。エンジン20から排出された排ガスは、やがて測定部5のセンサ本体50に穿設された排ガス通過孔50aを通過する。
【0062】
まず、測定部5では、排ガス通過孔50aを通過する排ガスに対して、レーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光が受光される(S100)。具体的には、測定部5では、コントローラ6から照射されたレーザ光が照射部51の光ファイバ51aを介してセンサ本体50の排ガス通過孔50a内に照射され、一対の反射鏡52・52によって排気経路3に直交する一断面内を複数回反射されてから、受光部53のディテクタ53aにて受光され、信号線53bを介してコントローラ6に入力される。
【0063】
コントローラ6では、測定部5にて排ガス中を透過して減衰された測定用レーザ光と排ガス中を透過していない参照用レーザ光とが電気信号に変換された後に電気信号として差分型光検出器64に入力されて、吸収スペクトルが検出される(S101)。差分型光検出器64にて検出されたレーザ光の吸収スペクトルは、電気信号として図示せぬコンピュータ装置7に入力される。
【0064】
コンピュータ装置7では、まず、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2が算出される(S102)。本実施例では、排ガスの理論温度T2は、排ガス中の所定成分として設定されているH2Oの吸収スペクトル(図7参照)に表れた少なくとも2つのピーク波長の光強度から数式(1)を用いて算出される。H2Oの吸収スペクトルには、所定の波長帯において3つのピーク波長λ1、λ2、λ3においてピークA・B・Cが存在し、少なくとも2つのピーク波長の光強度が比較されるのである。
【0065】
また、エンジン20から排出された排ガスが測定部5のセンサ本体50に穿設された排ガス通過孔50aを通過する際には、排気経路3中の排ガスの実測温度T1が温度センサ55にて検出されて検出信号がコンピュータ装置7に送られる(S103)。
【0066】
そして、本実施例では、以上のようにして検出又は算出された温度(実測温度T1又は理論温度T2)を用いて、具体的には、排ガス中の所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が低い場合には実測温度T1を用いて、又は排ガス中の所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が高い場合には理論温度T2を用いて、排ガスの成分濃度Cが算出される。この成分濃度Cは、以下のようにして算出される。
【0067】
すなわち、まず、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから、所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値が算出され、本実施例では差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が基準値として算出される(S104)。このH2Oの吸収スペクトルの面積値は、排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の吸収スペクトル(図9参照)を用いて、吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴うピークA・B・Cの積分値の合計値として算出される。
【0068】
そして、算出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、面積値が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される(S105)。このように本実施例の排ガス分析方法では、H2Oの吸収スペクトルの面積値を基準値として用いることで、排ガス中のH2O濃度の大小が判定されるのである。
【0069】
そして、H2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より小さく、したがって排ガス中のH2O濃度が低いと判定された場合には、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから上述した数式(1)を用いて排ガスの概算成分濃度C1が一旦算出され(S106)、この概算成分濃度C1が実測温度T1を用いて温度補正されることで(S107)、成分濃度Cが算出される(S108)。
【0070】
一方、H2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より大きく、したがって排ガス中のH2O濃度が高いと判定された場合には、差分型光検出器64により吸収スペクトルから上述した数式(1)を用いて排ガスの概算成分濃度C1が一旦算出され(S109)、この概算成分濃度C1が理論温度T2を用いて温度補正されることで(S110)、成分濃度Cが算出される(S111)。
【0071】
なお、本実施例では、概算成分濃度C1の温度補正の方法として、排ガスの実測スペクトルである吸収スペクトルを、圧力・濃度毎に予め定義された理論吸収スペクトルとパターンマッチングを行うことで排ガスの成分濃度Cが算出される。
【0072】
そして、算出された排ガスの温度(実測温度T1及び理論温度T2)や濃度(概算成分濃度C1及び成分濃度C)などがコンピュータ装置7の出力部74に出力される(S112)。
【0073】
以上のように、本実施例の排ガス分析装置1は、エンジン20の排ガスを排出する排気経路3中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光する測定部5を具備してなり、測定部5にて受光されたレーザ光に基づいて排ガス中の成分濃度Cを測定する排ガス分析装置1であって、排気経路3中の排ガスの実測温度T1を検出する温度センサ55と、測定部5にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する差分型光検出器64と、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2を算出する温度算出部70と、排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には温度センサ55により検出された実測温度T1を用いて排ガスの成分濃度Cを算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には温度算出部70により算出された理論温度T2を用いて排ガスの成分濃度Cを算出する成分濃度算出部73とを有するように構成されているため、エンジン20の始動前や始動直後などのように排ガス中の所定成分の濃度が低く、差分型光検出器64により正確な吸収スペクトルを検出することができない場合であっても、温度センサ55による排ガスの実測温度T1を用いて成分濃度の温度補正を行うことで、排ガス中の成分ごとの吸収スペクトルを精度よく温度補正することができ、ひいては所定成分の濃度が低い低温条件下であっても成分濃度の測定精度を向上できるのである。
【0074】
また、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから、所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値を算出する基準値算出部71と、基準値算出部71により算出された基準値が所定の閾値より小さい場合には所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が低いと判定し、基準値算出部71により算出された基準値が所定の閾値より大きい場合には所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が高いと判定する判定部72を有するため、排ガス中に常時存在しているH2Oを排ガス中の所定成分とすることで、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルからの各種の算出が容易であり、分析精度や分析目的に応じてH2O濃度に基づいた基準値として多用な基準値を設定することができる。
【0075】
特に、本実施例の排ガス分析装置1は、基準値算出部71にて、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値を基準値として算出し、判定部72にて、前記面積値が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定し、前記面積値が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定するため、基準値算出部71にて基準値の算出が容易であり、かつ判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定することができる。
【0076】
また、本実施例の排ガス分析装置1では、測定部5に穿設された排ガス通過孔50aに配設され、排ガス通過孔50aを通過する排ガスの実測温度T1を検出する温度センサを用いることで、簡易な構成で排ガス中の実測温度T1を高精度で検出することができる。
【0077】
なお、本実施例の排ガス分析装置1及び排ガス分析方法としては、上述した構成等に限定されない。
【0078】
例えば、上述した実施例の排ガス分析装置1では、コンピュータ装置7の構成において、基準値算出部71にて、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値を基準値として算出し、判定部72にて、前記面積値が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定し、前記面積値が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定するように構成されるが、基準値算出部71及び判定部72の構成としてはこれに限定されない。すなわち、所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値としては、以下に示す実施例のように別の値を用いることができる。
【0079】
例えば、別の実施例について図11を参照して説明すると、H2O濃度に基づいた基準値としては、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルのうち少なくとも一のピーク波長の光強度を用いてもよい。具体的には、基準値算出部71にて、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルのうち少なくとも一のピーク波長の光強度を基準値として算出し、判定部72にて、前記光強度が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、前記光強度が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される。
【0080】
H2Oの吸収スペクトルにおける所定のピーク波長の光強度は、排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の吸収スペクトル(図11参照)を用いて、H2Oの吸収に伴ういずれかのピーク波長λ1、λ2、λ3のうち少なくとも一のピーク波長の光強度(例えば、ピーク波長λ1の光強度I1)として算出される。そして、この所定のピーク波長の光強度は、H2Oの吸収スペクトルの面積値と同じく排ガス中のH2O濃度と相関関係にあり、所定のピーク波長の光強度が増減することで、排ガス中のH2O濃度もこれに相関して増減する。
【0081】
このように、H2Oの吸収スペクトルにおいて所定のピーク波長の光強度と排ガス中のH2O濃度との相関性を利用すれば、基準値算出部71にてH2Oの吸収スペクトルにおいて所定のピーク波長の光強度を基準値として算出することで、基準値算出部71にて基準値の算出が容易となり、かつ判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定することができる。
【0082】
また、別の実施例について図12を参照して説明すると、H2O濃度に基づいた基準値としては、差分型光検出器64により検出されたH2Oの実測吸収スペクトルと予め定義されたH2Oの理論吸収スペクトルとのフィッティング誤差を用いてもよい。具体的には、基準値算出部71にて、差分型光検出器64により検出されたH2Oの実測吸収スペクトル(差分吸収スペクトル)と、温度・圧力ごとに予め定義されたH2Oの理論吸収スペクトルとのフィッティング誤差を基準値として算出し、判定部72にて、フィッティング誤差が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、フィッティング誤差が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される。
【0083】
フィッティング誤差は、H2Oの実測吸収スペクトルと予め定義されたH2Oの理論吸収スペクトルとの形状に基づいた相対誤差として算出される。例えば、一例として、まず、実測吸収スペクトルの形状と理論吸収スペクトルの形状とが比較されてパターンマッチングが行われ、最も近似する理論吸収スペクトルが求められる。次いで、実測吸収スペクトルと理論吸収スペクトルとが重ねられ、実測吸収スペクトルと理論吸収スペクトルとによって囲まれた境域の面積値A1(積分値)(図12(a)参照)を、理論吸収スペクトルの面積値B1(積分値)(図12(b)参照)で割ることでフィッティング誤差が算出される。
【0084】
そして、このフィッティング誤差は、上述したH2Oの吸収スペクトルの面積値と同じく排ガス中のH2O濃度と相関関係にあり、フィッティング誤差が増減することで、排ガス中のH2O濃度もこれに相関して増減し、具体的には、フィッティング誤差が大きくなるとH2O濃度が小さくなり、一方でフィッティング誤差が小さくなるとH2O濃度が大きくなる。
【0085】
このように、フィッティング誤差と排ガス中のH2O濃度との相関性を利用すれば、基準値算出部71にてフィッティング誤差を基準値として算出することで、判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定することができる。
【0086】
さらに、別の実施例について説明すると、H2O濃度に基づいた基準値としては、温度算出部70により算出された理論温度T2を基準値として用いてもよい。具体的には、基準値算出部71にて、温度算出部70により算出された理論温度T2を基準値として算出し、判定部72にて、理論温度T2が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、理論温度T2が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される。
【0087】
理論温度T2は、分析対象である排ガスにおいてエンジン20の始動時から温度が上昇するとともに、排ガス中のH2O濃度も高くなっていくことから、上述したH2Oの吸収スペクトルの面積値と同じく排ガス中のH2O濃度と相関関係にあり、理論温度T2が増減することで、排ガス中のH2O濃度もこれに相関して増減する。
【0088】
このように、理論温度T2と排ガス中のH2O濃度との相関性を利用すれば、基準値算出部71にて理論温度T2を基準値として算出することで、温度算出部70にて算出される理論温度T2を基準値算出部71にてそのまま基準値として設定すればよいため簡易であり、かつ判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定することができる。
【0089】
以上の実施例で説明した構成の他に、例えば、上述した実施例(図3参照)の排ガス分析装置1では、温度センサ55は、測定部5に穿設された排ガス通過孔50aに配設されて、排ガス通過孔50aを通過する排ガスの実測温度T1を検出するように構成されているが、温度センサ55の配置構成としてはこれに限定されない。すなわち、図13に示すように、排気経路3中の対象となる測定部5に対して上流側の配管3aに温度センサ55が配設され、排ガス通過孔50aを通過する直前の排ガスの実測温度T1を検出するように構成されてもよい。このような配置構成とすることで、温度センサ55にて検出される実測温度T1の応答遅れを防止して、実測温度T1の検出精度を高め、ひいては排ガス中の成分濃度Cの測定精度を向上できる。
【0090】
コントローラ6は、他の排ガス中の成分濃度を測定する場合には、対象となる成分の数に合わせた波長の赤外レーザ光を照射可能なレーザ光源60を適宜用いることで、検出対象となる成分を追加若しくは変更等することができる。
【0091】
コンピュータ装置7は、上述した実施例では、成分濃度算出部73による排ガスの成分濃度Cの算出方法として、数式(1)により算出された概算成分濃度C1から実測吸収スペクトルを温度・圧力・成分濃度により一義的に決まる理論吸収スペクトルの形状と比較したパターンマッチングにより成分濃度Cを算出(温度補正)する方法を説明したが、排ガスの成分濃度Cの算出方法としてはこれに限定されない。また、温度算出部71における理論温度T2の算出方法についても、上述した実施例で示した方法に限定されない。
【符号の説明】
【0092】
1 排ガス分析装置
3 排気経路
5 測定部
6 コントローラ
7 コンピュータ装置
20 エンジン(内燃機関)
50 センサ本体
50a 排ガス通過孔
51 照射部
53 受光部
55 温度センサ(温度検出手段)
64 差分型光検出器(吸収スペクトル検出手段)
70 温度算出部(温度算出手段)
71 基準値算出部(基準値算出手段)
72 判定部(判定手段)
73 成分濃度算出部(成分濃度算出手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光することで排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析装置および排ガス分析方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の内燃機関からの排ガス中に含まれる炭化水素(Hydro Carbon)濃度(以下、成分濃度)を測定するために、FID(Flame Ionization Detector)法やNDIR(Non‐Dispersive Infrared Red)法と呼ばれる測定方法を用いた排ガス分析装置が知られている。
【0003】
特に、車載型の従来の排ガス分析装置としては、排気経路中の排ガスに特定の吸収波長を有する赤外レーザ光を照射して排ガス中を透過させ、その透過光を検出することで、排ガス中の成分濃度を測定する構成が公知である。このような赤外レーザ光を用いた成分濃度の計測方法(赤外線レーザ吸収法)では、光源からの赤外レーザ光が排ガスを構成する炭化水素類の吸収波長に調整された上で排気経路内の排ガスに向けて照射され、排ガス中を透過した透過光の光強度が受光センサにて検出され、透過光の吸収スペクトルに基づいて光強度(シグナル強度)が算出されることで、排ガス中の成分濃度が測定される。
【0004】
ところで、上述した赤外線レーザ吸収法を用いた排ガス分析装置では、排気経路内の排ガス中の成分濃度が赤外レーザ光(透過光)の吸収スペクトルに基づいて算出されるが、この赤外レーザ光の吸収スペクトルは排ガスの温度の影響を受けるため、算出される濃度はこれらの温度に起因する誤差を有している。そのため、これまでにも、成分濃度の測定精度を高めるために、赤外レーザ光の吸収スペクトルを温度補正し、その結果を用いて成分濃度を測定するようにした排ガス分析方法が提案されているところである。
【0005】
例えば、特許文献1には、排気経路に内燃機関より排出された排ガスが通過する排ガス通過孔に向けて赤外レーザ光を照射し、反射鏡により赤外レーザ光を多重反射させた後に、排ガス中を透過した赤外レーザ光を検出する測定部を直接配置することで、排ガス中の成分濃度等を測定するようにした排ガス分析装置において、検出された吸収スペクトルの内の所定成分としてH2Oの吸収スペクトルの光強度(シグナル強度)から排ガスの温度を算出し、算出された温度を用いて排ガス中の各分子の吸収スペクトルを補正して、排ガス中の成分濃度を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−163422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
確かに、特許文献1に開示される従来の排ガス分析装置のように、排ガス中の所定成分としてとしてH2Oの吸収スペクトルの光強度から温度を算出し、算出された温度を用いて排ガス中の成分ごとの吸収スペクトルを補正する方法であれば、なるほど高応答の温度計測が可能であるため、ひいては成分濃度を高応答で測定することができる。
【0008】
しかしながら、エンジン始動前や始動直後等の低温条件で成分濃度を測定する際には、排ガス中の所定成分であるH2Oの濃度が低い(換言すると、H2O分子の飽和蒸気圧が低い)ため、正確なH2Oの吸収スペクトルを検出することができず、高温条件で成分濃度を測定する際と比べて温度の算出精度が劣っていた。そのため、低温条件下では排ガス中の成分ごとの吸収スペクトルを精度よく温度補正できずに、ひいては成分濃度の測定精度が低下してしまうという課題があった。
【0009】
なお、排ガスの温度測定方法としては、上述した方法の他に熱電対等の温度センサを用いて測定する方法が公知であるが、このような温度センサを用いた温度測定方法によると、確かに、温度変化が緩やかな条件では、上述したH2Oの吸収スペクトルから排ガスの温度を算出する方法と比べると、排気経路中を通過する排ガス温度の実測値であるため、その測定精度が高い。しかしながら、温度センサ自体の熱容量による応答遅れにより、エンジン始動直後などの温度が急激に変化する条件では、高応答で成分濃度を測定することが困難であった。
【0010】
そこで、本発明においては、排ガス分析装置および排ガス分析方法に関し、前記従来の課題を解決するもので、低温条件下で所定成分の濃度が低い場合であっても成分濃度の測定精度を向上させた排ガス分析装置および排ガス分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
すなわち、請求項1においては、内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光する測定部を具備してなり、前記測定部にて受光されたレーザ光に基づいて排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析装置であって、前記排気経路中の排ガスの実測温度を検出する温度検出手段と、前記測定部にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出手段と、前記吸収スペクトル検出手段により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度を算出する温度算出手段と、排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には前記温度検出手段により検出された実測温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には前記温度算出手段により算出された理論温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出する成分濃度算出手段とを有し、前記温度検出手段は、前記排ガスの実測温度を検出する温度センサを有し、前記温度センサは、前記測定部の上流側の排気経路中に配設されるものである。
【0013】
請求項2においては、内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光することで排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析方法であって、前記排気経路中の排ガスの実測温度を検出する温度検出工程と、前記受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出工程と、前記吸収スペクトル検出工程により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度を算出する温度算出工程と、排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には前記温度検出工程により検出された実測温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には前記温度算出工程により算出された理論温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出する成分濃度算出工程とを有し、前記温度検出工程において、前記排ガスの実測温度を、前記測定部の上流側の排気経路中に配設される温度センサにより検出するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果としては、エンジン始動前や始動直後などのように排ガス中の所定成分の濃度が低く、吸収スペクトル検出手段により正確な吸収スペクトルを検出することができない場合であっても、温度検出手段による排ガスの実測温度を用いて成分濃度の温度補正を行うことで、排ガス中の成分ごとの吸収スペクトルを精度よく温度補正することができ、ひいては所定成分の濃度が低い低温条件下であっても成分濃度の測定精度を向上できる。
また、温度検出手段にて検出される実測温度の応答遅れを防止して、実測温度の検出精度を高め、ひいては排ガス中の成分濃度の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る排ガス分析装置を車輌に搭載した状態を示した側面図。
【図2】測定部の取付構造を示した斜視図。
【図3】同じく図2の測定部の取付構造を示した側面図。
【図4】測定部の構成を示した斜視図。
【図5】コントローラの構成を示した機能ブロック図。
【図6】H2Oの検出ピークを含む波長帯におけるレーザ光の信号強度を示した図。
【図7】H2Oの検出ピークを含む波長帯におけるレーザ光の吸収スペクトルを示した図。
【図8】コンピュータ装置の構成を示した機能ブロック図。
【図9】吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴う各ピークの面積を示した図。
【図10】本実施例の排ガス分析装置を用いた排ガス分析方法を示したフローチャート。
【図11】吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴う各ピーク波長の光強度を示した図。
【図12】(a)は実測吸収スペクトルと理論吸収スペクトルとによって囲まれた境域の面積を示した図、(b)は理論吸収スペクトルの面積を示した図。
【図13】別実施例の測定部の取付構造を示した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る排ガス分析装置を車輌に搭載した状態を示した側面図、図2は測定部の取付構造を示した斜視図、図3は同じく図2の測定部の取付構造を示した側面図、図4は測定部の構成を示した斜視図、図5はコントローラの構成を示した機能ブロック図、図6はH2Oの検出ピークを含む波長帯におけるレーザ光の信号強度を示した図、図7はH2Oの検出ピークを含む波長帯におけるレーザ光の吸収スペクトルを示した図、図8はコンピュータ装置の構成を示した機能ブロック図、図9は吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴う各ピークの面積を示した図、図10は本実施例の排ガス分析装置を用いた排ガス分析方法を示したフローチャート、図11は吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴う各ピーク波長の光強度を示した図、図12は(a)は実測吸収スペクトルと理論吸収スペクトルとによって囲まれた境域の面積を示した図、(b)は理論吸収スペクトルの面積を示した図、図13は別実施例の測定部の取付構造を示した側面図である。
【0017】
まず、本実施例の排ガス分析装置1の全体構成について、以下に概説する。
図1に示すように、本実施例の排ガス分析装置1は、自動車2に配置された内燃機関としてのエンジン20から排出される排ガス中の成分濃度や温度を測定して分析するものである。具体的には、排ガス分析装置1は、上述した排気経路3の複数箇所に配設された複数の測定部5・5・・・と、測定部5に接続されたレーザ発振・受光用のコントローラ6と、コントローラ6に接続されたコンピュータ装置7等とで構成されている。
【0018】
自動車2には、エンジン20からの排ガスを機外に排出する排気経路3が敷設されており、排気経路3は、エキゾーストマニホールド30、排気管31、第一触媒装置32、第二触媒装置33、マフラー34、及び排気パイプ35等とから構成されている。また、排気経路3の各構成機器は、断面円形状の配管3aによって連結されている。
【0019】
排気経路3においては、エンジン20の排ガスが、まずエキゾーストマニホールド30で合流され、排気管31を通じて第一触媒装置32及び第二触媒装置33に導入され、その後マフラー34を通じて排気パイプ35から大気中に放出される。このような排気経路3が形成されることによって、エンジン20からの排ガスは、二つの触媒装置32・33によって浄化され、マフラー34によって消音・減圧されて大気中に放出される。
【0020】
測定部5・5・・・は、排気経路3において4箇所に配置されており、具体的には、第一触媒装置32の上流側のエンジン20と排気管31との間、第一触媒装置32と第二触媒装置33との間、第二触媒装置33とマフラー34との間、マフラー34の下流側の排気パイプ35の末端部にそれぞれ配置されている。そして、各測定部5において、コントローラ6によって(赤外)レーザ光が照射され、かつ排ガスを透過した後のレーザ光が受光されることで、排気経路3を流れる排ガスの成分濃度が連続的にリアルタイムで測定される。
【0021】
このように、本実施例の排ガス分析装置1では、各測定部5による排気経路3の一断面におけるスポット的な排ガスの測定が可能となっている。特に、本実施例のように、測定部5が排気経路3の複数箇所に設けられることで、排ガスが排気経路3の所定断面でどのように変化するかを瞬時に測定することができ、排ガスの状態をリアルタイムに連続して測定することができる。
【0022】
次に、測定部5について、以下に詳述する。
なお、本実施例の排ガス分析装置1では、排気経路3に配置された測定部5・5・・・は、それぞれ略同一に構成されているため、以下、一例として、第一触媒装置32と第二触媒装置33との間に配置された測定部5について説明する。
【0023】
図2乃至図4に示すように、本実施例の測定部5は、矩形状の薄板材から形成され、略中心部に排気経路3中の排ガスが通過する円形の排ガス通過孔50aが貫通された本体部としてのセンサ本体50と、測定用のレーザ光を排ガス通過孔50a内に向けて照射する照射部51と、照射部51より照射されたレーザ光を多重反射させる一対の反射鏡52・52と、排ガス中を透過したレーザ光を検出する受光部53と、排気経路中の排ガスの実測温度T1を検出する温度検出手段としての温度センサ55等とで構成されている。測定部5においては、照射部51より排気経路3と直交する一断面に沿ってレーザ光が照射され、照射されたレーザ光が反射鏡52間で排気経路3を横切るように複数回反射されて、受光部53にて受光される。
【0024】
測定部5は、センサ本体50が一対の管継手36・36に挟まれた状態で固定され、管継手36・36がそれぞれ第一触媒装置32及び第二触媒装置33に接続された配管3a・3aと接続されることで排気経路3に配設される。管継手36・36は、断面円形の貫通孔36aが穿設された筒状に形成され、一方の開口縁部にフランジ部36bが設けられている。測定部5(のセンサ本体50)は、一対の管継手36・36のフランジ部36bが設けられた側の開口端の離間に、ガスケット37を介して挟み込まれ、フランジ部36b・36bがボルト38・38によって締結されることで固定される。管継手36の貫通孔36aは、配管3aと同じ直径の円形に形成され、排ガスの流れが妨げられることがない。
【0025】
センサ本体50は、平面視円形に形成された薄板状の金属部材より構成され、排ガスの流れ方向と直交する対向面の略中央部に円形の排ガス通過孔50aが穿設されている。このセンサ本体50には、照射部51及び受光部53が投光面と受光面とがそれぞれ排ガス通過孔50aの中心方向に向くようにして組み付けられるとともに、反射鏡52・52が排ガス通過孔50aに面するように上下に対向して平行に配設され、照射部51より照射されるレーザ光が排ガス通過孔50a内を排気経路3に対して直交して横切るように平行状態に固定されている。
【0026】
照射部51からは、排気経路3と直交する一断面に沿ってレーザ光が照射され、照射部51から照射されたレーザ光が受光部53にて受光される。本実施例では、照射部51及び受光部53は、上述したコントローラ6に接続されており、コントローラ6から射出されたレーザ光が照射部51を介して排ガス通過孔50aに照射され、排ガス中を透過したレーザ光が受光部53で受光されてコントローラ6に受光信号が入力される。
【0027】
照射部51には、赤外線送信用の光ファイバ51aが設けられており、投光面がセンサ本体50の排ガス通過孔50aの中心に向くようにして取り付けられている。光ファイバ51aの他端は、上述したコントローラ6に接続されており、コントローラ6から射出されたレーザ光が光ファイバ51aより排ガス通過孔50a内に導入される。このように、照射部51は、光ファイバ51aの投光面が排ガス通過孔50aに対向され、レーザ光が排ガス通過孔50aと直交する一断面に向けて照射可能にセンサ本体50に取り付けられている。
【0028】
受光部53には、レーザ光を検出するディテクタ53aと、一端がディテクタ53aに接続されるとともに、他端が上述したコントローラ6に接続された信号線53bとが設けられており、排ガス中を透過したレーザ光がディテクタ53aに受光されて、受光信号が信号線53bを介してコントローラ6に入力される。受光部53は、ディテクタ53aの受光面が排ガス通過孔50aに対向され、照射部51より排ガス通過孔50aと直交する一断面に向けて照射されたレーザ光を受光可能に照射部6と同一平面上に位置するようにしてセンサ本体50に取り付けられる。
【0029】
反射鏡52・52は、照射部51より照射されたレーザ光が一方の反射鏡52(図4において下方の)により他方の反射鏡52(図4において上方の)に向けて反射され、一対の反射鏡52・52により交互に反射されて受光側の受光部53に到達されるように配設される。このように一対の反射鏡52・52によって、照射部51により照射されたレーザ光が排気経路3に直交する一断面内を複数回反射してから受光部53で受光される。
【0030】
このように、測定部5では、コントローラ6から照射されたレーザ光が照射部51の光ファイバ51aを介してセンサ本体50の排ガス通過孔50a内に照射され、排ガス中を透過したレーザ光が受光部53のディテクタ53aにて受光され、信号線53bを介してコントローラ6に入力されるように構成されている。
【0031】
温度センサ55は、センサ本体50の排ガス通過孔50a内に配設されており、排ガス通過孔50aを通過する排ガスの実測温度T1が直接に検出される。温度センサ55の一端は後述するコンピュータ装置7に接続されており、検出された排ガスの実測温度T1がコンピュータ装置7に入力される(図3参照)。なお、本実施例の温度センサ55は、例えば、導線部分がエナメルやセラミック等の耐熱性素材により被覆された熱電対が用いられる。特に、熱電対が用いられる場合には、金属製の保護管等に収容された状態で排ガス通過孔50a内に配設されてもよい。
【0032】
次に、コントローラ6について、以下に詳述する。
本実施例の排ガス分析装置1では、コントローラ6は、各排気経路3に配置された対応する測定部5・5・・・ごとにそれぞれ配設されており、各測定部5・5・・・に同様の波長の(赤外)レーザ光を供給するとともに、各測定部5・5・・・にて受光されたレーザ光の受光信号が受信されるように構成されている。以下では、第一触媒装置32と第二触媒装置33との間に配置された一の測定部5に注目して、かかる測定部5に接続されたコントローラ6の構成について説明するが、その他の測定部5に接続されるコントローラ6の構成についても略同様に構成される。
【0033】
図1及び図5に示すように、コントローラ6は、複数の波長のレーザ光を照射する照射装置及び所定のレーザ光を検出する光検出装置として構成されている。具体的には、複数の波長の赤外レーザ光を発生させるレーザ光源60と、レーザ光源60より照射されたレーザ光を分波する複数の分波器61・61・・・と、レーザ光源60より照射されたレーザ光(測定用レーザ光及び参照用レーザ光)を所定の波長帯のレーザ光に合波する合波器62・63と、測定部5により受光されて排ガス中を透過して減衰した測定用レーザ光と参照用レーザ光とが導光される差分型光検出器64等とで構成されている。
【0034】
レーザ光源60は、ファンクションジェネレータ等の信号発信器65からの所定の周波数の信号が複数(本実施例では5個)のレーザダイオード66・66・・・に供給されることで、各レーザダイオード66・66・・・から特定波長の赤外レーザ光がそれぞれ照射される。レーザ光源60では、例えば、一のレーザダイオード66から波長が1300〜1330nm程度のレーザ光や、波長が1330〜1360nm程度のレーザ光がそれぞれ照射される。
【0035】
本実施例では、排ガス中に含まれる成分の内で、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、アンモニア(NH3)、メタン(CH4)、及び水(H2O)の5種類を検出対象として設定されており、それぞれの成分のピーク波長が存在する波長帯を含むレーザ光が合成される。具体的には、NH3を検出するのに適した波長は1530nm近傍であり、COを検出するのに適した波長は1560nm近傍であり、CO2を検出するのに適した波長は1580nm近傍であり、CH4を検出するのに適した波長は1650nm近傍である。そして、H2Oを検出するのに適した波長が1380nm近傍である。
【0036】
分波器61は、上述したレーザ光源60のレーザダイオード66・66・・・より照射されたレーザ光を測定用レーザ光と参照用レーザ光とに分波する装置であって、本実施例では、上述したレーザダイオード66・66・・・に対応して複数個(本実施例では5個)の分波器61・61・・・がそれぞれ配設されている。なお、本実施例のコントローラ6には、分波器61にてレーザダイオード66・66・・・より照射されたレーザ光を測定用レーザ光と参照用レーザ光とに分波する前に、排ガス分析装置1を構成する各測定部5・5・・・に対してレーザ光を分波するための図示せぬ分波器が別途設けられている。
【0037】
合波器62・63は、分波器61で測定用レーザ光と参照用レーザ光とに分波された各レーザ光を合波して、所定の波長帯のレーザ光に合波するものであって、合波器62により分波器61で分波された測定用レーザ光が合波され、合波器63により分波器61で分波された参照用レーザ光が合波される。このようにして合波器62・63により合波されたレーザ光は、排ガス中の複数の成分に合わせて700nm〜1800nm程度の波長帯を有するように調整されている。
【0038】
合波器62により合成された測定用レーザ光は、光ファイバ51aを介して測定部5の照射部51に導光され、測定部5にて反射鏡52・52で多重反射された後に受光部53のディテクタ53aにて受光され、信号線53bを介して後述する差分型光検出器64に導光される。一方、合波器63により合成された参照用レーザ光は、光ファイバ63aを介して後述する差分型光検出器64に導光される。
【0039】
差分型光検出器64は、測定部5にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出手段として構成されており、本実施例の差分型光検出器64では、入力された各レーザ光の信号強度と、両レーザ光の吸収スペクトルとが検出される。差分型光検出器64は、測定部5から延出された信号線53bと、分波器63から延出された光ファイバ63aとがそれぞれ接続されており、測定部5にて排ガス中を透過して減衰された測定用レーザ光と排ガス中を透過していない参照用レーザ光とが、フォトダイオード64a・64aに入力されて電気信号に変換された後に電気信号として入力され、各レーザ光の信号強度が検出される。
【0040】
図6は、一例として、差分型光検出器64に入力された特定成分の測定用レーザ光及び参照用レーザ光の信号強度をそれぞれ示したものである。具体的には、H2Oの検出ピークを含む波長帯において、図6(a)は参照用レーザ光の信号強度を表したものであり、図6(b)は排ガス中を透過した後の測定用レーザ光(透過光)の信号強度を示したものである。特に、図6(b)に示した排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の信号強度では、ピーク波長λ1、λ2、λ3においてH2Oの吸収に伴うシグナル光量の減少(ピークA・B・C)が確認される。
【0041】
また、差分型光検出器64では、入力された測定用レーザ光及び参照用レーザ光の入力信号に基づいて、測定用レーザ光及び参照用レーザ光の光強度の差をとって、測定用レーザ光(透過光)のうち所定の波長帯における吸収スペクトルが検出される。図7は、一例として、差分型光検出器64に入力された測定用レーザ光及び参照用レーザ光の特定成分の吸収スペクトルを示したものであり、図6(b)に示した排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の信号強度のピークに対応して、ピーク波長λ1、λ2、λ3においてH2Oの吸収に伴うピークA・B・Cが確認される。
【0042】
なお、差分型光検出器64にて検出されたレーザ光の吸収スペクトルは、電気信号として図示せぬプリアンプやA/D変換器を介して後述するコンピュータ装置7に入力される。
【0043】
次に、コンピュータ装置7について、以下に詳述する。
図8に示すように、本実施例のコンピュータ装置7は、後述するように温度算出部70、基準値算出部71、判定部72、成分濃度算出部73、及び出力部74等とで構成されており、コントローラ6からの出力信号が解析されて、入力された複数の波長帯ごとの吸収スペクトルに基づいて排ガスの成分濃度Cが測定される。特に、本実施例のコンピュータ装置7では、上述した温度センサ55で検出された実測温度T1又は温度算出部70で算出される理論温度T2のいずれかを選択的に用いて温度補正して排ガスの成分濃度Cを算出するように構成されている。
【0044】
コンピュータ装置7は、上述した差分型光検出器64及び温度センサ55と接続されており、差分型光検出器64にて検出された吸収スペクトルが電気信号として入力されるとともに、温度センサ55にて検出された排ガスの実測温度T1が電気信号として入力される。
【0045】
本実施例のコンピュータ装置7では、公知の方法を用いて排ガス中の成分濃度Cが算出される。一例として、排ガス中の成分濃度C(後述する概算成分濃度C1に相当する)は、排ガス中への入射光(参照用レーザ光)と、排ガス中を透過した後の透過光(測定用レーザ光)の光強度に基づいて、以下の数式(1)を用いて算出される。
【0046】
C=−ln(I/I0)/k・L ・・・(1)
【0047】
数式(1)において、Iは透過光強度、I0は入射光強度、kは吸収率、Lは透過距離である。つまり、成分濃度Cは、参照用レーザ光である入射光の光強度I0に対する測定用レーザ光である透過光の光強度Iの比(I/I0)に基づいて算出される。コンピュータ装置7では、差分型光検出器64にて検出された吸収スペクトルから透過光強度I(シグナル強度)及び入射光強度I0が算出されて成分濃度Cが算出される。
【0048】
また、本実施例のコンピュータ装置7では、排ガス中に常時存在しているH2O水蒸気)が排ガス中の所定成分として設定されており、後述するように、かかる所定成分としてのH2Oの吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2が算出されるとともに、排ガス中のH2O濃度の大小に基づいて温度補正の際に用いられる温度が判定される(図10参照)。
【0049】
温度算出部70は、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2を算出する温度算出手段として構成されている。吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2を算出する方法としては、公知の方法が用いられる。一例として、本実施例では、特定の2波長の光強度の比率が温度のみに依存するため、図7で示された排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の吸収スペクトルに表れた少なくとも2つのピーク波長の光強度(例えば、ピーク波長λ1・λ2の光強度I1・I2)を用いて、数式(1)からH2O濃度が算出され、そして、算出された2つのH2O濃度が等しいことから目的とする理論温度T2が算出される。
【0050】
具体的には、上述した成分濃度Cを算出する数式(1)において、右辺の吸収率kが吸収線強度S(T)と圧力Pとの積で表され(k=S(T)・P)、吸収線強度S(T)が吸収率断面積αと、アボガドロ数Naと、気体定数Rと、温度Tとの関数で表される(S(T)=α・(Na/RT))ことに基づいて、これらが数式(1)の吸収率kに代入されることで、理論温度T2が算出される。
【0051】
基準値算出部71は、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから、所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値を算出する基準値算出手段として構成されている。「排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値」は、H2O濃度と相関性のある値のことをいい、本実施例では、H2Oの吸収スペクトルの面積値が排ガス中のH2O濃度と相関関係にあることから、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が基準値として設定されている。
【0052】
図9に示すように、H2Oの吸収スペクトルの面積値は、図7に示した排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の吸収スペクトルを用いて、吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴うピークA・B・Cの積分値の合計値として算出される。ただし、このH2Oの吸収スペクトルの面積値は、単一ピークの積分値(例えば、ピーク波長λ1に基づくピークAの積分値)又は2以上のピークの積分値から算出されてもよい。
【0053】
判定部72は、基準値算出部71により算出された基準値が所定の閾値より小さい場合には所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が低いと判定し、基準値算出部71により算出された基準値が所定の閾値より大きい場合には所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が高いと判定する判定手段として構成されている。
【0054】
「H2O濃度の閾値」は、後述するように、温度センサ55で検出された実測温度T1又は温度算出部70で算出される理論温度T2のいずれかを選択的に用いる際の閾値であって、排ガスの測定条件やピーク波長の検出精度等に応じて適宜設定される。また、「基準値の閾値」は、予め設定されたH2O濃度の閾値に対応して適宜設定される。例えば、H2O濃度の閾値が排ガス中における所定%濃度と予め設定されることで、かかるH2O濃度の閾値に対応した基準値の閾値が設定される。
【0055】
本実施例の判定部72では、上述した基準値算出部71にて算出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、面積値が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される。このように、H2Oの吸収スペクトルの面積値と排ガス中のH2O濃度と相関性を利用すれば、基準値算出部71にてH2Oの吸収スペクトルの面積値を基準値として算出することで、判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定できる。
【0056】
成分濃度算出部73は、排ガス中のH2O濃度が低い場合には温度センサ55により検出された実測温度T1を用いて、又は排ガス中のH2O濃度が高い場合には温度算出部70により算出された理論温度T2を用いて、排ガスの成分濃度を算出する成分濃度算出手段として構成されている。具体的には、本実施例の成分濃度算出部73では、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの概算成分濃度C1を一旦算出し、温度センサ55により検出された実測温度T1又は温度算出部70により算出された理論温度T2を用いて、概算成分濃度C1を温度補正して成分濃度Cが算出される。
【0057】
排ガスの概算成分濃度C1は、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから上述した数式(1)を用いて算出される。「排ガスの概算成分濃度C1」とは、温度補正を行う前の排ガスの成分濃度のことである。そして、成分濃度算出部73では、上述した判定部72にて判定された判定結果に基づいて、排ガスの概算成分濃度C1が実測温度T1又は理論温度T2のいずれかを用いて温度補正されて、排ガスの成分濃度Cが算出される。
【0058】
例えば、判定部72にて、基準値算出部71にて算出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より小さく、したがって排ガス中のH2O濃度が低いと判定された場合には、成分濃度算出部73にて実測温度T1を用いて概算成分濃度C1が温度補正されて、排ガス中の成分濃度Cが算出される。一方、判定部72にて、基準値算出部71にて算出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より大きく、したがって排ガス中のv濃度が高いと判定された場合には、成分濃度算出部73にて理論温度T2を用いて概算成分濃度C1が温度補正されて、排ガス中の成分濃度Cが算出される。
【0059】
概算成分濃度C1の温度補正の方法としては、公知の方法を用いることができ、一例として、本実施例では、排ガスの実測吸収スペクトルである吸収スペクトルを、温度・圧力・濃度毎に予め定義された理論吸収スペクトルとパターンマッチングを行うことで排ガスの成分濃度Cが算出される。具体的には、に示す特定成分の吸収スペクトルの形状と、予め算出された理論吸収スペクトルの形状とが比較されて、最も近似する吸収スペクトルが求められ、この吸収スペクトルに基づいて特定成分の成分濃度Cが算出される。なお、理論吸収スペクトルにおいて、所与の圧力と濃度毎に予め複数の理論吸収スペクトルが算出されている。
【0060】
出力部74は、CTRや液晶モニタなどの画像表示装置として構成されており、上述した各吸収スペクトルが画像表示されるとともに、排ガスの温度(実測温度T1及び理論温度T2)や濃度(概算成分濃度C1及び成分濃度C)などが表示される。
【0061】
次に、本実施例の排ガス分析装置1を用いた排ガス分析方法について、以下に説明する。
図10に示すように、本実施例の排ガス分析方法は、上述した排ガス分析装置1を用いてエンジン20の排ガスを排出する排気経路3中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光することで排ガス中の成分濃度Cを測定する方法であって、測定が開始されてエンジン20からの排ガスが排気経路3に送られると、排ガス分析装置1が作動される。エンジン20から排出された排ガスは、やがて測定部5のセンサ本体50に穿設された排ガス通過孔50aを通過する。
【0062】
まず、測定部5では、排ガス通過孔50aを通過する排ガスに対して、レーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光が受光される(S100)。具体的には、測定部5では、コントローラ6から照射されたレーザ光が照射部51の光ファイバ51aを介してセンサ本体50の排ガス通過孔50a内に照射され、一対の反射鏡52・52によって排気経路3に直交する一断面内を複数回反射されてから、受光部53のディテクタ53aにて受光され、信号線53bを介してコントローラ6に入力される。
【0063】
コントローラ6では、測定部5にて排ガス中を透過して減衰された測定用レーザ光と排ガス中を透過していない参照用レーザ光とが電気信号に変換された後に電気信号として差分型光検出器64に入力されて、吸収スペクトルが検出される(S101)。差分型光検出器64にて検出されたレーザ光の吸収スペクトルは、電気信号として図示せぬコンピュータ装置7に入力される。
【0064】
コンピュータ装置7では、まず、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2が算出される(S102)。本実施例では、排ガスの理論温度T2は、排ガス中の所定成分として設定されているH2Oの吸収スペクトル(図7参照)に表れた少なくとも2つのピーク波長の光強度から数式(1)を用いて算出される。H2Oの吸収スペクトルには、所定の波長帯において3つのピーク波長λ1、λ2、λ3においてピークA・B・Cが存在し、少なくとも2つのピーク波長の光強度が比較されるのである。
【0065】
また、エンジン20から排出された排ガスが測定部5のセンサ本体50に穿設された排ガス通過孔50aを通過する際には、排気経路3中の排ガスの実測温度T1が温度センサ55にて検出されて検出信号がコンピュータ装置7に送られる(S103)。
【0066】
そして、本実施例では、以上のようにして検出又は算出された温度(実測温度T1又は理論温度T2)を用いて、具体的には、排ガス中の所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が低い場合には実測温度T1を用いて、又は排ガス中の所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が高い場合には理論温度T2を用いて、排ガスの成分濃度Cが算出される。この成分濃度Cは、以下のようにして算出される。
【0067】
すなわち、まず、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから、所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値が算出され、本実施例では差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が基準値として算出される(S104)。このH2Oの吸収スペクトルの面積値は、排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の吸収スペクトル(図9参照)を用いて、吸収スペクトルに表れたH2Oの吸収に伴うピークA・B・Cの積分値の合計値として算出される。
【0068】
そして、算出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、面積値が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される(S105)。このように本実施例の排ガス分析方法では、H2Oの吸収スペクトルの面積値を基準値として用いることで、排ガス中のH2O濃度の大小が判定されるのである。
【0069】
そして、H2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より小さく、したがって排ガス中のH2O濃度が低いと判定された場合には、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから上述した数式(1)を用いて排ガスの概算成分濃度C1が一旦算出され(S106)、この概算成分濃度C1が実測温度T1を用いて温度補正されることで(S107)、成分濃度Cが算出される(S108)。
【0070】
一方、H2Oの吸収スペクトルの面積値が所定の閾値より大きく、したがって排ガス中のH2O濃度が高いと判定された場合には、差分型光検出器64により吸収スペクトルから上述した数式(1)を用いて排ガスの概算成分濃度C1が一旦算出され(S109)、この概算成分濃度C1が理論温度T2を用いて温度補正されることで(S110)、成分濃度Cが算出される(S111)。
【0071】
なお、本実施例では、概算成分濃度C1の温度補正の方法として、排ガスの実測スペクトルである吸収スペクトルを、圧力・濃度毎に予め定義された理論吸収スペクトルとパターンマッチングを行うことで排ガスの成分濃度Cが算出される。
【0072】
そして、算出された排ガスの温度(実測温度T1及び理論温度T2)や濃度(概算成分濃度C1及び成分濃度C)などがコンピュータ装置7の出力部74に出力される(S112)。
【0073】
以上のように、本実施例の排ガス分析装置1は、エンジン20の排ガスを排出する排気経路3中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光する測定部5を具備してなり、測定部5にて受光されたレーザ光に基づいて排ガス中の成分濃度Cを測定する排ガス分析装置1であって、排気経路3中の排ガスの実測温度T1を検出する温度センサ55と、測定部5にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する差分型光検出器64と、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度T2を算出する温度算出部70と、排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には温度センサ55により検出された実測温度T1を用いて排ガスの成分濃度Cを算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には温度算出部70により算出された理論温度T2を用いて排ガスの成分濃度Cを算出する成分濃度算出部73とを有するように構成されているため、エンジン20の始動前や始動直後などのように排ガス中の所定成分の濃度が低く、差分型光検出器64により正確な吸収スペクトルを検出することができない場合であっても、温度センサ55による排ガスの実測温度T1を用いて成分濃度の温度補正を行うことで、排ガス中の成分ごとの吸収スペクトルを精度よく温度補正することができ、ひいては所定成分の濃度が低い低温条件下であっても成分濃度の測定精度を向上できるのである。
【0074】
また、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルから、所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値を算出する基準値算出部71と、基準値算出部71により算出された基準値が所定の閾値より小さい場合には所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が低いと判定し、基準値算出部71により算出された基準値が所定の閾値より大きい場合には所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度が高いと判定する判定部72を有するため、排ガス中に常時存在しているH2Oを排ガス中の所定成分とすることで、差分型光検出器64により検出された吸収スペクトルからの各種の算出が容易であり、分析精度や分析目的に応じてH2O濃度に基づいた基準値として多用な基準値を設定することができる。
【0075】
特に、本実施例の排ガス分析装置1は、基準値算出部71にて、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値を基準値として算出し、判定部72にて、前記面積値が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定し、前記面積値が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定するため、基準値算出部71にて基準値の算出が容易であり、かつ判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定することができる。
【0076】
また、本実施例の排ガス分析装置1では、測定部5に穿設された排ガス通過孔50aに配設され、排ガス通過孔50aを通過する排ガスの実測温度T1を検出する温度センサを用いることで、簡易な構成で排ガス中の実測温度T1を高精度で検出することができる。
【0077】
なお、本実施例の排ガス分析装置1及び排ガス分析方法としては、上述した構成等に限定されない。
【0078】
例えば、上述した実施例の排ガス分析装置1では、コンピュータ装置7の構成において、基準値算出部71にて、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルの面積値を基準値として算出し、判定部72にて、前記面積値が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定し、前記面積値が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定するように構成されるが、基準値算出部71及び判定部72の構成としてはこれに限定されない。すなわち、所定成分の濃度としての排ガス中のH2O濃度に基づいた基準値としては、以下に示す実施例のように別の値を用いることができる。
【0079】
例えば、別の実施例について図11を参照して説明すると、H2O濃度に基づいた基準値としては、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルのうち少なくとも一のピーク波長の光強度を用いてもよい。具体的には、基準値算出部71にて、差分型光検出器64により検出されたH2Oの吸収スペクトルのうち少なくとも一のピーク波長の光強度を基準値として算出し、判定部72にて、前記光強度が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、前記光強度が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される。
【0080】
H2Oの吸収スペクトルにおける所定のピーク波長の光強度は、排ガス中を透過した後の測定用レーザ光の吸収スペクトル(図11参照)を用いて、H2Oの吸収に伴ういずれかのピーク波長λ1、λ2、λ3のうち少なくとも一のピーク波長の光強度(例えば、ピーク波長λ1の光強度I1)として算出される。そして、この所定のピーク波長の光強度は、H2Oの吸収スペクトルの面積値と同じく排ガス中のH2O濃度と相関関係にあり、所定のピーク波長の光強度が増減することで、排ガス中のH2O濃度もこれに相関して増減する。
【0081】
このように、H2Oの吸収スペクトルにおいて所定のピーク波長の光強度と排ガス中のH2O濃度との相関性を利用すれば、基準値算出部71にてH2Oの吸収スペクトルにおいて所定のピーク波長の光強度を基準値として算出することで、基準値算出部71にて基準値の算出が容易となり、かつ判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定することができる。
【0082】
また、別の実施例について図12を参照して説明すると、H2O濃度に基づいた基準値としては、差分型光検出器64により検出されたH2Oの実測吸収スペクトルと予め定義されたH2Oの理論吸収スペクトルとのフィッティング誤差を用いてもよい。具体的には、基準値算出部71にて、差分型光検出器64により検出されたH2Oの実測吸収スペクトル(差分吸収スペクトル)と、温度・圧力ごとに予め定義されたH2Oの理論吸収スペクトルとのフィッティング誤差を基準値として算出し、判定部72にて、フィッティング誤差が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、フィッティング誤差が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される。
【0083】
フィッティング誤差は、H2Oの実測吸収スペクトルと予め定義されたH2Oの理論吸収スペクトルとの形状に基づいた相対誤差として算出される。例えば、一例として、まず、実測吸収スペクトルの形状と理論吸収スペクトルの形状とが比較されてパターンマッチングが行われ、最も近似する理論吸収スペクトルが求められる。次いで、実測吸収スペクトルと理論吸収スペクトルとが重ねられ、実測吸収スペクトルと理論吸収スペクトルとによって囲まれた境域の面積値A1(積分値)(図12(a)参照)を、理論吸収スペクトルの面積値B1(積分値)(図12(b)参照)で割ることでフィッティング誤差が算出される。
【0084】
そして、このフィッティング誤差は、上述したH2Oの吸収スペクトルの面積値と同じく排ガス中のH2O濃度と相関関係にあり、フィッティング誤差が増減することで、排ガス中のH2O濃度もこれに相関して増減し、具体的には、フィッティング誤差が大きくなるとH2O濃度が小さくなり、一方でフィッティング誤差が小さくなるとH2O濃度が大きくなる。
【0085】
このように、フィッティング誤差と排ガス中のH2O濃度との相関性を利用すれば、基準値算出部71にてフィッティング誤差を基準値として算出することで、判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定することができる。
【0086】
さらに、別の実施例について説明すると、H2O濃度に基づいた基準値としては、温度算出部70により算出された理論温度T2を基準値として用いてもよい。具体的には、基準値算出部71にて、温度算出部70により算出された理論温度T2を基準値として算出し、判定部72にて、理論温度T2が所定の閾値より小さい場合には排ガス中のH2O濃度が低いと判定され、理論温度T2が所定の閾値より大きい場合には排ガス中のH2O濃度が高いと判定される。
【0087】
理論温度T2は、分析対象である排ガスにおいてエンジン20の始動時から温度が上昇するとともに、排ガス中のH2O濃度も高くなっていくことから、上述したH2Oの吸収スペクトルの面積値と同じく排ガス中のH2O濃度と相関関係にあり、理論温度T2が増減することで、排ガス中のH2O濃度もこれに相関して増減する。
【0088】
このように、理論温度T2と排ガス中のH2O濃度との相関性を利用すれば、基準値算出部71にて理論温度T2を基準値として算出することで、温度算出部70にて算出される理論温度T2を基準値算出部71にてそのまま基準値として設定すればよいため簡易であり、かつ判定部72にてH2O濃度の大小を容易に判定することができる。
【0089】
以上の実施例で説明した構成の他に、例えば、上述した実施例(図3参照)の排ガス分析装置1では、温度センサ55は、測定部5に穿設された排ガス通過孔50aに配設されて、排ガス通過孔50aを通過する排ガスの実測温度T1を検出するように構成されているが、温度センサ55の配置構成としてはこれに限定されない。すなわち、図13に示すように、排気経路3中の対象となる測定部5に対して上流側の配管3aに温度センサ55が配設され、排ガス通過孔50aを通過する直前の排ガスの実測温度T1を検出するように構成されてもよい。このような配置構成とすることで、温度センサ55にて検出される実測温度T1の応答遅れを防止して、実測温度T1の検出精度を高め、ひいては排ガス中の成分濃度Cの測定精度を向上できる。
【0090】
コントローラ6は、他の排ガス中の成分濃度を測定する場合には、対象となる成分の数に合わせた波長の赤外レーザ光を照射可能なレーザ光源60を適宜用いることで、検出対象となる成分を追加若しくは変更等することができる。
【0091】
コンピュータ装置7は、上述した実施例では、成分濃度算出部73による排ガスの成分濃度Cの算出方法として、数式(1)により算出された概算成分濃度C1から実測吸収スペクトルを温度・圧力・成分濃度により一義的に決まる理論吸収スペクトルの形状と比較したパターンマッチングにより成分濃度Cを算出(温度補正)する方法を説明したが、排ガスの成分濃度Cの算出方法としてはこれに限定されない。また、温度算出部71における理論温度T2の算出方法についても、上述した実施例で示した方法に限定されない。
【符号の説明】
【0092】
1 排ガス分析装置
3 排気経路
5 測定部
6 コントローラ
7 コンピュータ装置
20 エンジン(内燃機関)
50 センサ本体
50a 排ガス通過孔
51 照射部
53 受光部
55 温度センサ(温度検出手段)
64 差分型光検出器(吸収スペクトル検出手段)
70 温度算出部(温度算出手段)
71 基準値算出部(基準値算出手段)
72 判定部(判定手段)
73 成分濃度算出部(成分濃度算出手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光する測定部を具備してなり、前記測定部にて受光されたレーザ光に基づいて排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析装置であって、
前記排気経路中の排ガスの実測温度を検出する温度検出手段と、
前記測定部にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出手段と、
前記吸収スペクトル検出手段により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度を算出する温度算出手段と、
排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には前記温度検出手段により検出された実測温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には前記温度算出手段により算出された理論温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出する成分濃度算出手段とを有し、
前記温度検出手段は、前記排ガスの実測温度を検出する温度センサを有し、前記温度センサは、前記測定部の上流側の排気経路中に配設される、
ことを特徴とする排ガス分析装置。
【請求項2】
内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光することで排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析方法であって、
前記排気経路中の排ガスの実測温度を検出する温度検出工程と、
前記受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出工程と、
前記吸収スペクトル検出工程により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度を算出する温度算出工程と、
排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には前記温度検出工程により検出された実測温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には前記温度算出工程により算出された理論温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出する成分濃度算出工程とを有し、
前記温度検出工程において、前記排ガスの実測温度を、前記測定部の上流側の排気経路中に配設される温度センサにより検出する、
ことを特徴とする排ガス分析方法。
【請求項1】
内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光する測定部を具備してなり、前記測定部にて受光されたレーザ光に基づいて排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析装置であって、
前記排気経路中の排ガスの実測温度を検出する温度検出手段と、
前記測定部にて受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出手段と、
前記吸収スペクトル検出手段により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度を算出する温度算出手段と、
排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には前記温度検出手段により検出された実測温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には前記温度算出手段により算出された理論温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出する成分濃度算出手段とを有し、
前記温度検出手段は、前記排ガスの実測温度を検出する温度センサを有し、前記温度センサは、前記測定部の上流側の排気経路中に配設される、
ことを特徴とする排ガス分析装置。
【請求項2】
内燃機関の排ガスを排出する排気経路中の排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを透過したレーザ光を受光することで排ガス中の成分濃度を測定する排ガス分析方法であって、
前記排気経路中の排ガスの実測温度を検出する温度検出工程と、
前記受光されたレーザ光より排ガス中に吸収されたレーザ光の吸収スペクトルを検出する吸収スペクトル検出工程と、
前記吸収スペクトル検出工程により検出された吸収スペクトルから排ガスの理論温度を算出する温度算出工程と、
排ガス中の所定成分の濃度が低い場合には前記温度検出工程により検出された実測温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出し、排ガス中の所定成分の濃度が高い場合には前記温度算出工程により算出された理論温度を用いて排ガス中の成分濃度を算出する成分濃度算出工程とを有し、
前記温度検出工程において、前記排ガスの実測温度を、前記測定部の上流側の排気経路中に配設される温度センサにより検出する、
ことを特徴とする排ガス分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−61358(P2013−61358A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−1881(P2013−1881)
【出願日】平成25年1月9日(2013.1.9)
【分割の表示】特願2008−88631(P2008−88631)の分割
【原出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年1月9日(2013.1.9)
【分割の表示】特願2008−88631(P2008−88631)の分割
【原出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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