説明

排ガス浄化フィルタ及びその製造方法

【課題】実用域のディーゼル車から排出される低温の排ガスに対しても、従来に比して効率良くPMを連続燃焼でき、PMが堆積した場合であっても、従来に比して効率良く低温で強制再生できる排ガス浄化フィルタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】排ガスが流入する排ガス流入路3と、この排ガス流入路3の隔壁4を形成し、且つ空隙9を有する濾過材8と、前記排ガス流入路3に流入して前記濾過材8を通過した排ガスを流出する排ガス流出路6と、を備え、前記隔壁4の内表面には、Kを含み且つ前記粒子状物質との接触性によらず高い活性を示す低接触活性触媒10が担持され、前記濾過材8中の前記空隙9の内表面には、Agを含み且つ前記粒子状物質との接触性が高い場合に高い活性を示す高接触活性触媒11が担持された排ガス浄化フィルタ1及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:particulate matter、以下PMという)を浄化するための排ガス浄化フィルタ及びその製造方法に関する。特に、PMと触媒との接触状態によらずに、PMを低温で燃焼可能な排ガス浄化フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル排ガス中に含まれるPMの浄化装置として、ディーゼル微粒子除去装置(DPF:diesel particulate filter、以下DPFという)や、触媒付きのDPFであるキャタライズドスートフィルタ(CSF:catalyzed soot filter、以下CSFという)が知られている。これらの浄化装置では、フィルタにてPMを捕集した後、捕集したPMを燃焼させることにより排ガスの浄化が行われる。
【0003】
ところで、PMの燃焼には、通常550℃〜650℃の高温を要する。このため、ディーゼル車の実用域でのPMの連続燃焼は困難であり、捕集したPMは、徐々にフィルタに堆積していく。そこで、捕集したPMの過剰な堆積を回避するため、連続再生式の浄化装置においては、何らかの昇温手段を用いて強制的に、堆積したPMを燃焼(強制再生)させて、フィルタの再生を行なっているのが現状である。
【0004】
また、触媒を用いて浄化を行なうCSFにおいても、PMの燃焼温度は、それほど低温化することができてはいない。これは、PMと触媒との反応は、固体−固体反応であることから、触媒との接触状態の良いPMは燃焼するものの、接触状態の悪いPMは燃焼し難いためである。
【0005】
CSFに使用されるPM捕集担体に触媒を担持する場合には、通常、PM捕集担体の壁面又は細孔に触媒が塗布される。このため、PMの捕集量が増加するにつれて、壁面又は細孔に塗布された触媒上には、徐々にPMが堆積していく。このとき、触媒との界面(接触面)に存在するPMについては、触媒との接触性は良好であるものの、界面以外に積層したPMは、触媒と接触し難くなる。その結果、仮にPMに対して活性の高い触媒を用いた場合であっても、接触状態によっては触媒の性能を十分に発揮することができない。
【0006】
例えば、特許文献1においては、3次元構造体上に触媒を層構造に塗布することにより、触媒の機能を分離する技術が提案されている。この技術によれば、3次元構造体にそれぞれ特性の異なる触媒層を設けることで、3次元構造体と触媒成分との反応を抑制し、また、触媒層間同士の反応による劣化を抑制することで、触媒の活性の劣化を防ぐことができる結果、高活性の浄化材を得ることができるとされている。
【0007】
また、特許文献2においては、PM捕集担体として多孔質のセラミック濾過材を使用し、多孔質セラミックの細孔の内面に、触媒を塗布した担体が提案されている。多孔質セラミックの細孔の内面に触媒を担持させることにより、排ガスが濾過材を通過する過程でPMを燃焼させ、PMの濾過と同時に燃焼除去できるとされている。
【0008】
また、特許文献3においては、DPFの細孔内に触媒を偏在させて担持させる技術が提案されている。この技術によれば、排気圧損の上昇を抑制しつつ、PM捕集率を高めるとともに、高効率で捕集されたPMを、触媒を担持した細孔内にて順次燃焼させることができるとされている。
【0009】
また、特許文献4においては、PMとの接触性によらず高い活性を示す低接触活性触媒と、PMとの接触性が高い場合に高い活性を示す高接触活性触媒とを併用した排ガス浄化フィルタが提案されている。この排ガス浄化フィルタによれば、濾過材の空隙内に高接触活性触媒を配置し、濾過材の表面に低接触活性触媒を配置することにより、低温でPMを連続燃焼でき、且つPMが堆積した場合であっても低温で強制再生が可能である。
【特許文献1】特開2001−157845号公報
【特許文献2】特開2002−221022号公報
【特許文献3】特開2004−76717号公報
【特許文献4】特開2007−69153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、PMと触媒との反応は固体−固体反応であることに起因して、上層触媒とPMとは接触可能であるものの、下層触媒とPMとは接触することができないため、下層触媒の性能を十分に発揮することが困難であった。また、上層触媒においても、PMと触媒との接触箇所以外に積層したPMは、触媒効果を享受できず、低温で燃焼させることはできなかった。
【0011】
また、特許文献2及び特許文献3の技術によれば、PMの捕集量が増加するにつれて、PM捕集担体の細孔径以上のPMは、濾過材の表面上に徐々に堆積していく。濾過材の表面に堆積したPMは、触媒と接触することができないため、PMに対して活性が高い触媒を担持した場合であっても、触媒の性能を十分に発揮することはできなかった。
【0012】
これに対して、特許文献4の技術によれば、低接触活性触媒及び高接触活性触媒それぞれが具備する性能を発揮させることができる。しかしながら、近年の排ガス規制の強化に伴って、更なるPMの効率的な浄化が求められている。
【0013】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、実用域のディーゼル車から排出される低温の排ガスに対しても、従来に比して効率良くPMを連続燃焼でき、PMが堆積した場合であっても、従来に比して効率良く低温で強制再生できる排ガス浄化フィルタ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するため、PMと触媒との接触性、及び触媒組成に着目して鋭意研究を重ねた。その結果、Agを含む高接触活性触媒と、Kを含む低接触活性触媒と、を併用することにより、PMの接触状態又は堆積状態によらずにPMを低温で燃焼できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0015】
請求項1記載の発明は、内燃機関の排気通路に配置され、前記内燃機関から排出された排ガス中の粒子状物質を浄化する排ガス浄化フィルタであって、前記排ガスが流入する排ガス流入路と、この排ガス流入路の隔壁を形成し、且つ空隙を有する濾過材と、前記排ガス流入路に流入して前記濾過材を通過した排ガスを流出する排ガス流出路と、を備え、前記隔壁の内表面には、Kを含み且つ前記粒子状物質との接触性によらず高い活性を示す低接触活性触媒が担持され、前記濾過材中の前記空隙の内表面には、Agを含み且つ前記粒子状物質との接触性が高い場合に高い活性を示す高接触活性触媒が担持されていることを特徴とする。
【0016】
請求項1記載の排ガス浄化フィルタでは、PMとの接触性によらず高い活性を示す低接触活性触媒と、PMとの接触性が高い場合に高い活性を示す高接触活性触媒とが、それぞれPMとの接触性が高くなる部位と低くなる部位とに配置されている。具体的には、PMとの接触性が高くなる部位である濾過材の空隙内に高接触活性触媒が担持され、PMとの接触性が低くなる部位である濾過材の表面に低接触活性触媒が担持される。
ここで、「接触性」とは、堆積したPM量に対するPMと触媒との接触比率を表す。接触性が高い場合とは、堆積したPMのほとんどが触媒と接触点を有する場合であり、接触性が低い場合とは、堆積したPMのほとんどが触媒と接触点を有さない場合である。即ち、PM量が少ないほど接触比率は上がり、接触性は高くなる。
【0017】
高接触活性触媒は、PMと高い接触状態にあれば、PMを低温で十分に燃焼可能であるため、ディーゼル車における実用域でもPMを連続燃焼することができる。特に、本発明で用いられるAgを含む高接触活性触媒は、非常に高いPM燃焼活性を示す。Agを用いることによる高活性化の原因としては、Ag表面の活性種AgOによるPM燃焼性能の向上が考えられる。
【0018】
低接触活性触媒は、PMとの接触状態が高い場合でもPMを低温で燃焼可能であり、低い接触状態の場合でも、PMを低温で燃焼することができる。これは、アルカリ金属等の移動や遷移金属等の溶融効果により、低い接触状態であってもPMの燃焼が可能となるためであると推測される。特に、本発明で用いられるKを含む低接触活性触媒は、接触状態によらずにPMを低温で燃焼することが可能である。これは、アルカリ金属の中でも特にKは移動し易く、イオン化エネルギーが低いため、PMに対する活性が高いものと考えられる。
【0019】
一般に、DPFを用いて排ガスの浄化を行なう場合、濾過材の空隙内には、空隙径よりも小さい径のPMが入り込んで捕集される一方で、空隙径よりも大きい径を有するPMは、濾過材の表面で捕集される。PMは、粒径が小さいほど少量となるため、濾過材の空隙内に捕集されるPM量は少量となり、濾過材の空隙内の触媒とPMとの接触性は高い。また、濾過材の空隙内において、空隙径よりも小さい径の少量のPMが、触媒粒子同士の隙間に進入することができるため、触媒活性点とPMとの接触点を増加させることができるものと推測される。
これに対して、濾過材の表面で捕集されるPMは、粒径がある程度大きいため、捕集量が増えるにつれて積層され、触媒との接触性は低くなり、最終的にはPMは触媒と接触しなくなる。
【0020】
従って、上述のような効果を有する高接触活性触媒を、PMとの接触性が高くなる部位である濾過材の空隙内に担持させるとともに、低接触活性触媒を、PMとの接触性が低くなる部位である濾過材の表面に担持させた本発明によれば、各触媒の性能を十分に発揮させることができ、従来に比して効率良くPMを低温で燃焼することができる。PMが堆積した場合であっても、従来に比して効率良く低温で強制再生できる。また、強制再生による燃費のロス、及び触媒劣化を抑制でき、自動車への負担を軽減できる。さらには、触媒を有効活用できる結果、排ガス浄化フィルタの作成にあたって、経費を削減できる。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の排ガス浄化フィルタにおいて、前記排ガス流入路及び前記排ガス流出路は、前記濾過材を介して交互に隣接して配置された多数のセルから形成され、前記排ガス流入路を形成するセルは、上流側末端が開放され、且つ下流側末端が目封止されており、前記排ガス流出路を形成するセルは、上流側末端が目封止され、且つ下流側末端が開放されていることを特徴とする。
【0022】
請求項2記載の排ガス浄化フィルタは、多数のセルから構成される、いわゆるウォールフロー型の排ガス浄化フィルタである。この排ガス浄化フィルタは、ハニカム構造体を有することから、効率良く排ガスを浄化処理できる。
【0023】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の排ガス浄化触媒において、前記濾過材は、多孔質セラミックからなることを特徴とする。
【0024】
請求項3記載の排ガス浄化フィルタは、その材質を多孔質セラミックとしたため、高接触活性触媒を担持するための空隙を十分に備えている。また、強制再生等による高温条件下においても、十分な耐久性を備えている。
【0025】
請求項4記載の発明は、請求項1から3いずれか記載の排ガス浄化フィルタにおいて、前記低接触活性触媒は、少なくとも1種の遷移金属元素を含むことを特徴とする。
【0026】
請求項4記載の排ガス浄化フィルタは、低接触活性触媒として、少なくとも1種の遷移金属元素を含む触媒を用いることにより、触媒活性をより高めることができる。また、本発明に係る排ガス浄化フィルタにおいて、低接触活性触媒は、濾過材の表面に全体的に担持されることから、貴金属等を含む高価な触媒を使用する場合に比して、排ガス浄化フィルタの作成にあたって、経費を削減できる。
【0027】
請求項5記載の発明は、請求項1から4いずれか記載の排ガス浄化フィルタの製造方法であって、空隙を有する濾過材に、Agを含み且つ前記粒子状物質との接触性が高い場合に高い活性を示す高接触活性触媒を通過させ、前記濾過材中の前記空隙の内表面に前記高接触活性触媒を担持させる高接触活性触媒担持工程と、前記高接触活性触媒担持工程により前記濾過材中の前記空隙の内表面に前記高接触活性触媒を担持させた前記濾過材の表面に、Kを含み且つ前記粒子状物質との接触性によらず高い活性を示す低接触活性触媒を塗布して担持させる低接触活性触媒担持工程と、を含むことを特徴とする。
【0028】
請求項5記載の排ガス浄化フィルタの製造方法によれば、PMとの接触性が高い部位である、濾過材中の空隙の内表面に高接触活性触媒を担持させ、PMとの接触性が低い部位である、濾過材の表面に低接触活性触媒を担持させることができる。このため、この製造方法により得られる排ガス浄化フィルタによれば、請求項1から4記載の排ガス浄化フィルタと同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、実用域のディーゼル車から排出される低温の排ガスに対しても、従来に比して効率良くPMを連続燃焼でき、PMが堆積した場合であっても、従来に秘して効率良く低温で強制再生できる。このため、強制再生による燃費のロスや触媒の劣化を抑制でき、ひいては自動車への負担を軽減できる。
【0030】
また、本発明によれば、PMの堆積状態に合わせて、触媒を使い分けて使用できるため、高価な貴金属を含む触媒の使用量を低減できる。このため、排ガス浄化フィルタの作成にあたって、経費を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0032】
<排ガス浄化フィルタ>
図1は、本発明の実施形態に係る排ガス浄化フィルタ1を、排ガス流入方向に切断したときの断面模式図である。排ガス浄化フィルタ1は、ウォールフロー型のDPFであり、排ガス(濾過材通過前)2が流入する排ガス流入路3と、この排ガス流入路3の隔壁4を形成する濾過材8と、排ガス流入路3に流入した後、濾過材8を通過して濾過された排ガス(濾過材通過後)5が流出する排ガス流出路6を備える。また、排ガス流入路3の下流側末端、及び排ガス流出路6の上流側末端は、目封止材7により目封止されている。
【0033】
本実施形態においては、例えば、排ガス(濾過材通過前)2は、排ガス浄化フィルタ1の排ガス流入路3に流入し、濾過材8を通過することにより浄化され、排ガス(濾過材通過後)5として排ガス流出路6から排出される。
【0034】
図2は、図1におけるPの部分拡大図である。図2に示されるように、濾過材8は、排ガス流入路3及び排ガス流出路6を連結する空隙(細孔)9を有する。また、濾過材8の排ガス流入路3側の表面には、低接触活性触媒10が担持されている。濾過材8の空隙9の内表面には、高接触活性触媒11が担持されている。
【0035】
本実施形態においては、濾過材8の空隙9の径以下の径を有するPM(以下、細孔径以下PMという)12は、空隙9を通過して、空隙9の内表面に担持された高接触活性触媒11に接触する。また、濾過材8の空隙9の径以上の径を有するPM(以下、細孔径以上PMという)13は、空隙9を通過することなく濾過材8の排ガス流入路3側の表面に担持された低接触活性触媒10に接触する。
【0036】
図3は、図2におけるQの部分拡大図である。図3に示されるように、細孔径以下PM12は、空隙9の内表面に担持された高接触活性触媒11の触媒粒子同士の隙間に進入することができ、その結果として触媒の活性点とPMの接触点が増加している。
【0037】
[濾過材]
本実施形態で用いられる濾過材8としては、特に限定されない。高接触活性触媒11を担持することができる空隙(細孔)9を有し、PMの燃焼温度に耐え得るものであれば、公知の濾過材を用いることが可能である。本実施形態に用いられる濾過材8としては、例えば、多孔質セラミック、セラミック発泡体、金属発泡体、金属メッシュ等を挙げることができる。これらのうち、多孔質セラミックを使用することが好ましい。
【0038】
本実施形態で用いられる濾過材8の厚みとしては、特に限定されず、求められる浄化の程度、使用する触媒の性能、濾過材8の空隙9の大きさ、空隙率、さらには、排ガス浄化フィルタ1を用いる浄化装置の大きさに応じて、適宜選択することができる。本実施形態における濾過材8の厚みは、254μm以上380μm以下が好ましく、254μm以上310μm以下がさらに好ましい。濾過材8の厚みがこの範囲にあれば、空隙9に進入するPM量に対する最適な触媒量を塗布することが可能であり、触媒性能を十分に発揮させることができる。
【0039】
本実施形態に用いられる濾過材8における空隙9の大きさ、及び空隙率は、特に限定されるものではない。求められる浄化の程度、使用する触媒の性能、濾過材8の厚み、さらには、排ガス浄化フィルタ1を用いる浄化装置の大きさに併せて、適宜選択することができる。本発明における濾過材8の空隙9の大きさは、1μm以上40μm以下の範囲であることが好ましく、9μm以上24μm以下であることがさらに好ましい。空隙9の大きさがこの範囲にあれば、触媒の接触において高い接触性を有するPM粒径を空隙9に進入させることができ、触媒性能を十分に発揮させることができる。また、本実施形態における濾過材8の空隙率は、30%以上98%以下であることが好ましく、40%以上70%以下であることがさらに好ましい。空隙率がこの範囲にあれば、十分なPM捕集率を保ちながらPMを浄化することができる。
【0040】
[目封止材]
本実施形態に用いられる目封止材7は、特に限定されるものではない。排ガス流入路3及び排ガス流出路6を目封止することのできる大きさを有し、PMの燃焼温度等の使用に耐え得るものであれば、公知の材料により形成された目封止材を用いることが可能である。本実施形態に用いられる目封止材としては、例えば、SiC、コージェライト、アルミナ、シリカ等のセラミック材料や金属材料を挙げることができるが、濾過材8と同じ材料を使用することが望ましい。
【0041】
[高接触活性触媒]
本実施形態で用いられる高接触活性触媒11は、PMとの接触性が高い場合に高い活性を示す触媒である。高接触活性触媒11は、PMとの接触状態が高い場合に、PMを低温で燃焼することができるため、処理する排ガスが低温であっても、連続的にPMを燃焼することができる。このため、ディーゼル車における実用域においても、十分に連続的にPMを燃焼させることができる。
【0042】
本実施形態に用いられる高接触活性触媒11は、Agを含む高接触活性触媒である。このAgを含む高接触活性触媒11は、非常に高いPM燃焼活性を示す。Agを用いることによる高活性化の原因としては、Ag表面の活性種AgOによるPM燃焼性能の向上が考えられる。
また、高接触活性触媒11は、ルテニウム、パラジウム等のAg以外の貴金属元素を含むものであってもよい。
【0043】
[低接触活性触媒]
本実施形態で用いられる低接触活性触媒10は、PMとの接触性によらず高い活性を示す触媒である。低接触活性触媒10は、PMとの接触状態が高い状態でPMを低温で燃焼できるばかりでなく、PMとの接触状態が低い状態であってもPMを低温で燃焼することができる。これは、アルカリ金属等の低接触活性触媒10に含まれる成分の溶融効果により、接触が低い状態であっても、PMの低温燃焼が可能となると推測される。特に、本実施形態で用いられる低接触活性触媒10は、Kを含む低接触活性触媒であり、アルカリ金属の中でも特にKは移動し易く、イオン化エネルギーが低いため、PM燃焼性能が高い。
【0044】
低接触活性触媒10は、PMとの接触が低い状態では、上記の高接触活性触媒11の接触性が高い状態よりも高温側でしかPMを燃焼することができないが、高接触活性触媒11のPMとの接触が低い状態よりは、低温側でPMを燃焼することができる。このため、高接触活性触媒11とPMとの接触性が低く、連続燃焼させることのできなかったPM(例えば積層したPM)を、高接触活性触媒11を使用して燃焼させるよりは、低温で燃焼させることができる。
【0045】
本実施形態で用いられる低接触活性触媒10は、少なくとも1種の遷移金属元素をさらに含むことが好ましい。遷移金属元素としてはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、マンガン、コバルト、銅、モリブデン、バナジウム等の酸化物でイオン化エネルギーの低い元素、アルカリ金属元素としては最も電気陰性度の低いセシウムを併用した組み合わせが挙げられる。
【0046】
<排ガス浄化フィルタ1の製造方法>
本実施形態の排ガス浄化フィルタ1の製造方法は、高接触活性触媒担持工程と、低接触活性触媒担持工程とを含むことを特徴とする。
【0047】
排ガス浄化フィルタ1の製造方法における高接触活性触媒担持工程とは、濾過材8に、PMとの接触性が高い場合に高い活性を示す高接触活性触媒11を通過させ、濾過材8中の空隙9の内表面に、高接触活性触媒11を担持させる工程である。
【0048】
排ガス浄化フィルタ1の製造方法における低接触活性触媒担持工程とは、高接触活性触媒担持工程により濾過材8中の空隙9の内表面に高接触活性触媒11が担持された濾過材8の表面に、PMとの接触性によらず高い活性を示す低接触活性触媒10を塗布して担持させる工程である。
【0049】
本実施形態において、ウォールフロー型の排ガス浄化フィルタ1を製造する場合には、上記の高接触活性触媒担持工程の後に、目封止材7による目封止工程を実施し、その後に、排気ガス流入路3の入口側から低接触活性触媒10を塗布することにより、低接触活性触媒担持工程を実施することができる。
【0050】
本実施形態の排ガス浄化フィルタ1は、トラップ型の排ガス浄化装置(ウォールフロー型)や、オープン型の排ガス浄化装置(ストレートフロー型)等に適用できる。本実施形態の排ガス浄化フィルタ1は、いずれの型の排ガス浄化装置においても好適に用いることができるが、低温でのPMの燃焼を効率的に行なうことができる利点を生かす観点から、特にウォールフロー型の排ガス浄化装置に用いることが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る排ガス浄化フィルタ1によれば、以下の効果が奏される。
高接触活性触媒11は、主として貴金属等を含む高活性な酸化材料により形成されているため、気体と同様に接触性が良好であれば、固体であるPMを低温燃焼することができる。多孔質セラミック等の濾過材8により形成され、濾過材8の壁面に触媒成分が担持された、あるいは濾過材8中の細孔(空隙)9の内面に触媒が担持されたウォールフロー型DPFの細孔(空隙)9内で、高接触活性触媒11が高い接触性を発揮する理由としては、高接触活性触媒11の粒子により形成される触媒の細孔径が有効活用されていることが考えられる。即ち、DPF細孔内におけるDPF細孔径以下の少量のPMは、触媒粒子同士の隙間に進入することができるため、触媒活性点とPMとの接触点を増加させることができるものと推測され、これにより触媒性能を十分に発揮させることができると考えられる(図3参照)。
また、高接触活性触媒11は、PMと高い接触状態にあれば、PMを低温で十分に燃焼可能であるため、ディーゼル車における実用域でもPMを連続燃焼することができる。特に、本実施形態で用いられるAgを含む高接触活性触媒11は、非常に高いPM燃焼活性を示す。Agを用いることによる高活性化の原因としては、Ag表面の活性種AgOによるPM燃焼性能の向上が考えられる。
【0052】
一方、低接触活性触媒10は、PMとの接触状態が高い場合でもPMを低温で燃焼可能であり、低い接触状態の場合でも、PMを低温で燃焼することができる。これは、アルカリ金属等の移動や遷移金属等の溶融効果により、低い接触状態であってもPMの燃焼が可能となるためであると推測される。特に、本実施形態で用いられるKを含む低接触活性触媒10は、接触状態によらずにPMを低温で燃焼することが可能である。これは、アルカリ金属の中でも特にKは移動し易く、イオン化エネルギーが低いため、PMに対する活性が高いものと考えられる。
また、低接触活性触媒10は、PMとの接触状態が低い場合には、高接触活性触媒11の接触性が高い状態よりは高温側でPMを燃焼することになるが、高接触活性触媒11の接触性が高い状態で連続燃焼できなかったPM(積層PM)を、高接触活性触媒11の接触性が高い状態よりは高温側であるものの、高接触活性触媒11の接触性が低い状態よりは低温側で燃焼することができる。
【0053】
上述のような効果を有する高接触活性触媒11を、PMとの接触性が高くなる部位である濾過材8の空隙9内に担持させるとともに、低接触活性触媒10を、PMとの接触性が低くなる部位である濾過材8の表面に担持させた本実施形態によれば、接触状態によらずにPMを低温で燃焼することができる。即ち、高接触活性触媒11と低接触活性触媒10とを、PMの堆積状態に合わせて併用することにより、触媒を無駄なく塗布することができ、経費を削減できる。従って、本実施形態によれば、PMが少量の場合にはディーゼル車の実用域でPMの連続燃焼が可能であり、PM量が増加して積層した場合でもPMを低温で燃焼できるため、強制再生による燃費ロスや触媒劣化を抑制でき、自動車への負担を軽減できる。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0056】
[試験例1(5質量%Ag/TiO+PM:TC)]
市販の試薬TiOと硝酸銀、及びHOを所定の組成となるように秤量して混合し、水溶液を得た。この水溶液を減圧下で乾燥固化後、200℃で乾燥した。次いで、2μm以下の粉末となるように整粒した後、700℃×2Hrで焼成し、触媒粉末を得た。この触媒粉末に対し、20:1でPMを粉砕混合し、PMと触媒との接触性が高い状態のサンプル(5質量%Ag/TiO+PM:TC)を得た。得られたサンプルに対して、後述する条件に従って、PM燃焼温度の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0057】
[PM燃焼温度測定条件]
測定装置 :TG/DTA(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、EXSTAR6000TG/DTA)
昇温条件 :20℃/min
雰囲気 :Dry Air
サンプル量:10mg(内PM量:5質量%)
流量 :SV=60000h−1
[試料調製条件]
接触性が高い状態(タイトコンタクトTC):乳鉢乳棒にて2μm以下に粉砕混合
接触性が低い状態(ルーズコンタクトLC):スパチュラで10分間混合
【0058】
[試験例2(10質量%Ag/CeO+PM:TC)]
市販の試薬CeOと硝酸銀、及びHOを所定の組成となるように秤量して混合し、水溶液を得た。この水溶液に対して試験例1と同様の操作を行い、所望のサンプル(10質量%Ag/CeO+PM:TC)を得た。得られたサンプルに対して、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0059】
[試験例3(5質量%K/TiO+PM:TC)]
市販の試薬TiOと炭酸カリウム、及びHOを所定の組成となるように秤量して混合し、水溶液を得た。この水溶液に対して試験例1と同様の操作を行い、所望のサンプル(5質量%K/TiO+PM:TC)を得た。得られたサンプルに対して、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0060】
[試験例4(5質量%K/TiO+PM:LC)]
試験例3と同様の触媒粉末に対し、20:1でPMをスパチュラで混合し、PMと触媒との接触性が低い状態のサンプル(5質量%K/TiO+PM:LC)を得た。得られたサンプルに対して、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較試験例1(PM)]
ディーゼル発電機より収集したPM粉末について、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較試験例2(5質量%Ag/TiO+PM:LC)]
試験例1で得られた触媒粉末に対し、20:1でPMをスパチュラで混合し、PMと触媒との接触性が低い状態のサンプル(5質量%Ag/TiO+PM:LC)を得た。得られたサンプルに対して、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0063】
[比較試験例3(10質量%Ag/CeO+PM:LC)]
試験例2で得られた触媒粉末に対し、20:1でPMをスパチュラで混合し、PMと触媒との接触性が低い状態のサンプル(10質量%Ag/CeO+PM:LC)を得た。得られたサンプルに対して、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1におけるピーク温度は、TG/DTAチャートにおけるPM燃焼ピーク温度を意味する。比較試験例1はPMのみの場合であり、そのPM燃焼ピーク温度は668℃であった。高接触活性触媒の接触性が高い場合の試験例1及び2では、いずれもPM燃焼ピーク温度は350℃以下と高活性であった。これに対し、比較試験例2及び3に示すように、高接触活性触媒であっても接触性が低くなると、燃焼ピーク温度は522℃及び571℃と大幅に高温化した。これにより、高接触活性触媒は、接触性が低いとPMを低温燃焼することができないことが分かった。
【0066】
試験例3に示すように低接触活性触媒では、接触性が高い場合にはPM燃焼ピーク温度は411℃であるのに対して、試験例4のように接触性が低い場合でも428℃と低温であり、接触性によらずに低温で燃焼が可能であった。接触性が高い場合でもそれほど燃焼ピーク温度が高くならないのは、高接触活性触媒よりも元来の活性が低いためと考えられた。また、接触性が低い場合でも活性が高いのは、活性種の移動や溶融により接触性が向上しているためと推察された。以上の結果から、高接触活性触媒及び低接触活性触媒を、それぞれPMとの接触性の高い部位と低い部位とに塗り別けることにより、触媒性能を十分に発揮させ、且つ効率良くPMを低温燃焼させることが可能となることが分かった。
【0067】
例えばDPFの場合、細孔(空隙)には細孔径以下のPMが入り込んで捕集されるが、細孔径以上のPMは流路の壁面に捕集される。PMは粒径が小さいほど量は少なくなるため、細孔に捕集されるPM量は少量である。よって、細孔径内の触媒とPMとの接触性は高くなる。逆に、壁面のPMは粒径がある程度大きく、捕集量が増えるほど積層するため、触媒との接触性は低下し、最終的には接触しなくなる。このため、細孔内に高接触活性触媒を、壁面に低接触活性触媒を塗り別けることにより、触媒を有効に用いることが可能となると考えられた。
【0068】
[実施例1(空隙:5質量%Ag/TiO+PM、表面:5質量%K/TiO+PM)]
試験例1で得られた触媒粉末、シリカゾル(日産化学工業)、及びHOを、所定の組成となるように秤量し、ボールミルにて24時間の粉砕混合を行い、触媒スラリーAを得た。また、試験例3で得られた触媒粉末、シリカゾル、及びHOを、所定の組成となるように秤量し、ボールミルにて24時間の粉砕混合を行い、触媒スラリーBを得た。
【0069】
得られた触媒スラリーAを、市販のウォールフロー型DPF(NGK製)に含浸担持させ、表面の余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた。その後、700℃×2時間の焼成を行うことにより、DPFの空隙内部に、試験例1の触媒粉末を30g/L担持させた。引き続き、DPFを交互に目封止した後、触媒スラリーBを含浸担持させ、余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた。次いで、700℃×2時間の焼成を行うことにより、DPFの表面に、試験例3の触媒粉末を30g/L担時させた。試験例1の触媒粉末及び試験例3の触媒粉末を担持させたDPFを用いて、ディーゼル発電機の排ガス管に設置したPM捕集ホルダーによって、PMの捕集を行った。このときのPM捕集量は、5g/Lとした。PM捕集後のDPFにつき、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0070】
[比較例1(空隙及び表面:5質量%Ag/TiO+PM)]
市販のウォールフロー型DPF(NGK製)を交互に目封じした後、上記触媒スラリーAを含浸担持させ、余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた。その後、700℃×2時間の焼成を行うことにより、DPFの空隙及び表面に、試験例1の触媒粉末を60g/L担持させた。試験例1の触媒粉末を担持させたDPFを用いて、実施例1と同様にPMの捕集を行い、PM捕集後のDPFにつき、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0071】
[比較例2(空隙及び表面:5質量%K/TiO+PM)]
市販のウォールフロー型DPF(NGK製)を交互に目封じした後、上記触媒スラリーBを含浸担持させ、余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた。その後、700℃×2時間の焼成を行うことにより、DPFの空隙及び表面に、試験例3の触媒粉末を60g/L担持させた。試験例3の触媒粉末を担持させたDPFを用いて、実施例1と同様にPMの捕集を行い、PM捕集後のDPFにつき、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0072】
[比較例3(空隙及び表面:5質量%Ag/TiO+5質量%K/TiO+PM)]
試験例1の触媒粉末、試験例3の触媒粉末、シリカゾル(日産化学工業)、及びHOを所定の組成となるように秤量し、ボールミルにて24時間の粉砕混合をして触媒スラリーCを得た。市販のウォールフロー型DPF(NGK製)を交互に目封じした後、上記触媒スラリーCを含浸担持させ、余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた。その後、700℃×2時間の焼成を行い、DPFの空隙及び表面に、試験例1の触媒粉末と試験例3の触媒粉末の混合物を60g/L担持させた。試験例1の触媒粉末及び試験例3の触媒粉末を担持させたDPFを用いて、実施例1と同様にPMの捕集を行い、PM捕集後のDPFにつき、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0073】
[比較例4(空隙:5質量%K/TiO、表面:5質量%Ag/TiO+PM)]
上記触媒スラリーBを、市販のウォールフロー型DPF(NGK製)に含浸担持させ、壁面の余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた。その後、700℃×2時間の焼成を行うことにより、DPFの空隙内部に試験例3の触媒粉末を30g/L担持させた。次いで、DPFを交互に目封じした後、上記触媒スラリーAを同様にして含浸担持させ、余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた後、700℃×2時間の焼成を行うことで試験例1の触媒粉末をDPFの表面に30g/L担持させた。試験例1の触媒粉末及び試験例3の触媒粉末を担持させたDPFを用いて、実施例1と同様にPMの捕集を行い、PM捕集後のDPFにつき、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0074】
[比較例5(空隙:RuO+PM、表面:10質量%CsCO/LaMnO+PM)]
市販特級試薬の塩化ルテニウムを800℃で焼成し、2μm以下の粉末となるように整粒して触媒粉末とした。この触媒粉末とシリカゾル(日産化学工業)、及びHOを所定の組成となるように秤量し、ボールミルにて24時間の粉砕混合を行い、触媒スラリーCを得た。次いで、市販特級試薬の硝酸ランタンと硝酸マンガン、及びHOを所定の組成となるように秤量し、水溶液aとした。また、炭酸ナトリウム及びHOを所定の組成となるように秤量し、水溶液bとした。aをbへ滴下した後、60℃×1時間の熟成を行った。その後、ろ過、水洗し、350℃で仮焼後、2μm以下の粉末となるように整粒し、粉末を800℃×10時間で焼成して触媒粉末(10質量%CsCO/LaMnO)とした。この触媒粉末とシリカゾル(日産化学工業)、及びHOを所定の組成となるように秤量し、ボールミルにより24時間の粉砕混合を行い、触媒スラリーDを得た。
【0075】
上記触媒スラリーCを市販のウォールフロー型DPF(イビデン製)に含浸担持させ、壁面の余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた。次いで、700℃×2時間の焼成を行うことにより、DPFの空隙内部に上記触媒粉末RuOを30g/L担持させた。その後、DPFを交互に目封じした後、触媒スラリーDを同様にして含浸担持させ、余分なスラリーをエアーガンにて十分に取り除いた。次いで、700℃×2時間で焼成することにより、上記触媒粉末(10質量%CsCO/LaMnO)をDPF壁表面に30g/L担持させた。これを用いて実施例1と同様にPMの捕集を行い、PM捕集後のDPFにつき、上記の条件に従ってPM燃焼温度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
細孔(空隙)内に高接触活性触媒、流路の壁面に低接触活性触媒を塗布した実施例1では(図2参照)、PM燃焼ピークとして第1ピーク及び第2ピークの2つが確認され、それぞれのピーク温度は333℃及び428℃であった。第1ピークは、細孔内の触媒と接触性の高いPMの燃焼ピークであり、第2ピークは、細孔内の接触性の高くないPMの燃焼ピークと、壁面に積層して接触性が低いPMの燃焼ピークとが重なったものと推察された。この結果から、PM量が細孔内の接触性が高いPMのみで構成されるほど少ない場合には、ディーゼル車における最も頻度の高い運転条件(実用域:排気温200℃〜400℃)でPMを連続燃焼できることが分かった。また、PM量が増加した場合や、PMの粒径が細孔径以上に大きい場合においても、これまでの550℃〜650℃に対して、大幅に低い温度で再生制御可能であることが分かった。
【0078】
これに対し、細孔内及び壁面に対して高接触活性触媒を塗布した比較例1では、PM燃焼ピークとして第1ピーク及び第2ピークの2つが確認され、それぞれのピーク温度は341℃と523℃であった。第1ピークは、細孔内で接触性が高いPMの燃焼ピークであり、第2ピークは、壁面の接触性が低いPMの燃焼ピークであると推察された。PM量が細孔内の接触性が高いPMのみで構成されるほど少ない場合には、PMを低温燃焼できるが、PMの粒径が細孔径以上に大きい場合には接触性が低くなるため、低温燃焼できないことが分かった。
【0079】
細孔内及び壁面に対して低接触活性触媒を塗布した比較例2では、PM燃焼ピークは1つであり、そのピーク温度は424℃であった。比較例2の触媒材料は、接触性に左右されずに性能が大きく変化しないため(試験例3、4参照)、細孔内のPMも壁面のPMも同程度の温度で燃焼するためであると考えられた。また、PM量が多い場合やPM粒径が細孔径以上に大きい場合には、実施例1とほぼ同等性能を発揮するが、PM量が細孔内の接触性が高いPMのみで構成されるほど少ない場合には、低温燃焼できないことが分かった。
【0080】
細孔内及び壁面に対して、高接触活性触媒と低接触活性触媒との混合物を塗布した比較例3では、PM燃焼ピークとして第1ピーク及び第2ピークの2つが確認され、それぞれのピーク温度は364℃と432℃であった。第1ピークは、高接触活性触媒と低接触活性触媒とを混合することにより高接触活性触媒の効果が低減されたことによるものと推察された。また、第2ピークは、壁面の接触性が低いPMの燃焼によるものと推察され、低接触活性触媒の影響と思われた。比較例3も比較例2と同様に、PM量が多い場合やPMの粒径が細孔径以上に大きい場合には、実施例1と同等性能を発揮するが、PM量が細孔内の接触性が高いPMのみで構成されるほど少ない場合には、低温燃焼できないことが分かった。
【0081】
実施例1とは逆に、細孔内に低接触活性触媒、壁面に高接触活性触媒を塗布した比較例4では、PM燃焼ピークとして第1ピーク及び第2ピークの2つが確認され、それぞれのピーク温度は410℃と541℃であった。第1ピークは、細孔内で接触性が高いPMの燃焼ピークであり、第2ピークは、壁面で接触性が低いPMの燃焼ピークであると推察された。この結果から、比較例4では、細孔径以下のPMが細孔内に堆積した場合、ディーゼル車における最も頻度の高い運転条件(実用域:排気温200℃〜400℃)での連続燃焼は不可能であり、またPM量が多い場合やPM粒径が細孔径以上に大きい場合には、接触性が悪くなるため低温燃焼できないことが分かった。
【0082】
細孔(空隙)内に高接触活性触媒のRuO、流路の壁面に低接触活性触媒のCsCO/LaMnOを塗布した比較例5では、PM燃焼ピークとして第1ピーク及び第2ピークの2つが確認され、それぞれのピーク温度は481℃と522℃であった。第1ピークは、PM中の1成分であるSOF(Soluble Organic Fraction:可溶性有機物)によるものと考えられた。
【0083】
以上の結果から、高接触活性触媒はAgを含むことが必要であり、且つ低接触活性触媒はKを含む必要があることが確認された。また、DPFに対する塗り別け方としては、実施例1のように、細孔(空隙)内に高接触活性触媒、流路の壁面に低接触活性触媒を塗布する態様が最適であることが分かった。実施例1で高接触活性触媒の接触性が高い理由としては、高接触活性触媒の活性の高さやPM量、粒子径が小さいことは当然であるが、図2に示されるように、高接触活性触媒の粒子径によって構成されるDPF細孔径以下の細孔内に、PMが入り込むことによって接触性がより高まるためと推測された。また、PM粒子は、DPF細孔によりDPF細孔径以下に分級されるため、高接触活性触媒粒子により構成されるDPF細孔径以下の細孔内にPMが入り易くなるためと推測された。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】排ガス浄化フィルタの断面模式図である。
【図2】図1におけるPの部分拡大図である。
【図3】図2におけるQの部分拡大図である。
【符号の説明】
【0085】
1 排ガス浄化フィルタ
3 排ガス流入路
4 隔壁
6 排ガス流出路
7 目封止材
8 濾過材
9 空隙
10 低接触活性触媒
11 高接触活性触媒
12 細孔径以下PM
13 細孔径以上PM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され、前記内燃機関から排出された排ガス中の粒子状物質を浄化する排ガス浄化フィルタであって、
前記排ガスが流入する排ガス流入路と、
この排ガス流入路の隔壁を形成し、且つ空隙を有する濾過材と、
前記排ガス流入路に流入して前記濾過材を通過した排ガスを流出する排ガス流出路と、を備え、
前記隔壁の内表面には、Kを含み且つ前記粒子状物質との接触性によらず高い活性を示す低接触活性触媒が担持され、
前記濾過材中の前記空隙の内表面には、Agを含み且つ前記粒子状物質との接触性が高い場合に高い活性を示す高接触活性触媒が担持された排ガス浄化フィルタ。
【請求項2】
前記排ガス流入路及び前記排ガス流出路は、前記濾過材を介して交互に隣接して配置された多数のセルから形成され、
前記排ガス流入路を形成するセルは、上流側末端が開放され、且つ下流側末端が目封止されており、
前記排ガス流出路を形成するセルは、上流側末端が目封止され、且つ下流側末端が開放されている請求項1記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項3】
前記濾過材は、多孔質セラミックからなる請求項1又は請求項2記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項4】
前記低接触活性触媒は、少なくとも1種の遷移金属元素を含む請求項1から3いずれか記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載の排ガス浄化フィルタの製造方法であって、
空隙を有する濾過材に、Agを含み且つ前記粒子状物質との接触性が高い場合に高い活性を示す高接触活性触媒を通過させ、前記濾過材中の前記空隙の内表面に前記高接触活性触媒を担持させる高接触活性触媒担持工程と、
前記高接触活性触媒担持工程により前記濾過材中の前記空隙の内表面に前記高接触活性触媒を担持させた前記濾過材の表面に、Kを含み且つ前記粒子状物質との接触性によらず高い活性を示す低接触活性触媒を塗布して担持させる低接触活性触媒担持工程と、を含む排ガス浄化フィルタの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−77845(P2010−77845A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244882(P2008−244882)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】