説明

排ガス浄化用触媒、その製造方法およびそれを用いた排ガス浄化方法

【課題】低温下で、排ガス、特に排ガス中の一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を効果的に処理できる排ガス浄化用触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】貴金属を担持した耐火性無機酸化物または貴金属の化合物および耐火性無機酸化物と、ビスマスの化合物と、を水性媒体中で湿式粉砕してスラリーを得、当該スラリーを三次元構造体に被覆した後、焼成することを有する排ガス浄化用触媒の製造方法であって、前記焼成を糖もしくは還元剤の存在下で行なうまたは前記焼成中もしくは焼成後に三次元構造体を還元ガスを用いて処理する、排ガス浄化用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化用触媒、その製造方法およびその触媒を用いた排ガスの浄化方法に関するものである。特に、本発明は、排ガス、特にディーゼルエンジンからの排ガスの浄化に有効な排ガス浄化用触媒、その製造方法およびその触媒を用いた排ガスの浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から排ガス浄化について多くの技術が提案されている。特にディーゼルエンジンからの排ガス処理に関しては排ガス中のススの燃焼、NOxの還元処理について提案されている。通常、触媒主成分として貴金属が用いられている。貴金属は通常比表面積が大きく耐熱性のある金属酸化物に担持されて用いられることが多い。貴金属の金属酸化物への担持は、通常、貴金属塩を還元することによりなされる。
【0003】
上記に加えて、炭素系微粒子(スス)を燃焼せしめて除去する触媒として、非貴金属系のビスマスとタングステンとの複合酸化物を用いたもの(特許文献1)、貴金属と非貴金属とを組み合わせて用いたものとしてビスマスと白金族金属を用いたもの(特許文献2)も知られている。また、NOxの還元処理用触媒として、活性成分である銀等を担体であるモリブデン、タングステン、スズ、ビスマス等に担持して得られる触媒を用いることが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−222146号公報
【特許文献2】特開平6−218283号公報
【特許文献3】特開2005−279371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献では、排ガスに含まれるNOx、炭素系微粒子(スス)などを処理する技術が開示されているが、排ガス、特にディーゼルエンジンの排ガスの処理に際して排ガス温度が低温下において一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)を効果的に処理することができる触媒についての開示はない。
【0006】
しがって、本発明は、低温下で、排ガス、特に排ガス中の一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を効果的に処理できる排ガス浄化用触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、貴金属を担持した耐火性無機酸化物、あるいは貴金属の化合物および耐火性無機酸化物を、ビスマスの化合物(好ましくは、水溶性ビスマス塩など)及び糖や還元剤と混合したスラリーを三次元構造体に被覆した後、焼成することにより得られる触媒は、低温下でも、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を効率よく浄化できることを見出した。また、本発明者らは、貴金属を担持した耐火性無機酸化物、あるいは貴金属の化合物および耐火性無機酸化物を、ビスマスの化合物と混合したスラリーを三次元構造体に被覆、焼成した後、水素ガス等の還元ガスを用いて処理することにより得られる触媒は、低温下でも、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を効率よく浄化できることをも見出した。上記知見に基づいて、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、上記目的は、貴金属を担持した耐火性無機酸化物または貴金属の化合物および耐火性無機酸化物と、ビスマスの化合物と、を水性媒体中で湿式粉砕してスラリーを得、当該スラリーを三次元構造体に被覆した後、焼成することを有する排ガス浄化用触媒の製造方法であって、前記焼成を糖もしくは還元剤の存在下で行なうまたは前記焼成中もしくは焼成後に三次元構造体を還元ガスを用いて処理する、排ガス浄化用触媒の製造方法によって達成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、低温下であっても、排ガス、特に排ガス中のHCやCOを効率よく処理できる触媒を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の効果を示す実施例および比較例の着火テスト試験結果を示すグラフである。図1Aは、80%HC転化率を示す温度を表わす棒グラフであり、図1Bは、50%CO転化率を示す温度を表わす棒グラフである。
【図2】実施例1の触媒(1)および比較例2の比較触媒(2)をXPS(X線光電子分光)分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
本発明の第一は、貴金属を担持した耐火性無機酸化物または貴金属の化合物および耐火性無機酸化物と、ビスマスの化合物と、を水性媒体中で湿式粉砕してスラリーを得、当該スラリーを三次元構造体に被覆した後、焼成することを有する排ガス浄化用触媒の製造方法であって、前記焼成を糖もしくは還元剤の存在下で行なうまたは前記焼成中もしくは焼成後に三次元構造体を還元ガスを用いて処理する、排ガス浄化用触媒の製造方法に関する。本発明は、貴金属を担持した耐火性無機酸化物または貴金属の化合物および耐火性無機酸化物を、ビスマスの化合物(水溶性ビスマス塩など)及び糖と混合して、スラリーを調製し、このスラリーを三次元構造体に被覆した後、焼成することを特徴とする。当該方法によって得られた触媒は、低温下でも、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を効率よく浄化できる。上記利点が達成できるメカニズムは不明であるが、以下のように推察される。なお、本発明は、下記推論によって何ら制限されるものではない。まず、本発明の触媒は、ビスマスの化合物、貴金属及び耐火性無機酸化物が必須に存在する。このうち、貴金属に酸化活性があり、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)を、無害な二酸化炭素、水、窒素などに変換して、排ガスを浄化する。また、当該ビスマスの化合物が存在すると、排ガスと貴金属との接触効率や接触状態を向上できる。このため、貴金属が、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)に効果的に作用して、より良好に排ガスを低温下でも浄化することができる。
【0013】
また、本発明では、上記成分を含むスラリー中に糖を存在させて、当該スラリーを用いて被膜を焼成する。当該方法によると、焼成工程で糖が燃え、糖が存在していた部分に適当な大きさの孔が形成される。このようにして得られた触媒を排ガスと接触させると、排ガスが優先的にこの孔を通過するため、排ガスと触媒、特に活性のある貴金属との接触効率や接触状態が向上できる。また、焼成工程で糖が燃える際に、貴金属の化合物及びビスマスの化合物が還元され、これらの合金化が起こり、上記貴金属やビスマスの化合物由来の金属による効果が向上する、特に貴金属の微粒子の粒子径の成長の抑制効果や触媒被毒の抑制効果が達成できる。このため、貴金属が、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)に効果的に作用して、より良好に排ガスを低温下でも浄化することができる。
【0014】
また、本発明は、貴金属を担持した耐火性無機酸化物または貴金属の化合物および耐火性無機酸化物を、ビスマスの化合物と混合したスラリーを三次元構造体に被覆、焼成する際あるいは焼成した後、還元剤や水素ガス等の還元ガスにより特定の金属の化合物(貴金属の化合物及びビスマスの化合物)を還元することを特徴とする。当該方法によって得られた触媒は、低温下でも、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を効率よく浄化できる。上記利点が達成できるメカニズムは不明であるが、以下のように推察される。なお、本発明は、下記推論によって何ら制限されるものではない。すなわち、還元剤や水素ガス等の還元ガスにより貴金属を還元する場合には、貴金属の微粒子の粒子径の成長を抑制でき、また、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)が活性サイトに吸着したままの状態になるのを抑制できる(即ち、触媒被毒を抑制できる)。特に、白金とパラジウムなど複数の貴金属の化合物が存在する場合には、還元剤や水素ガス等の還元ガスにより貴金属に還元することにより、これらの合金化が促進でき、上記したような貴金属の微粒子の粒子径の成長の抑制効果や触媒被毒の抑制効果が特に達成できる。このため、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)の酸化を促進して、無害な二酸化炭素、水、窒素などにより効率的に変換して、排ガスを浄化できる。このため、貴金属が、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)に効果的に作用して、より良好に排ガスを低温下でも浄化することができる。さらに、ビスマスの化合物を還元剤や水素ガス等の還元ガスにより還元することにより、価数変化しやすいビスマスが貴金属近傍に存在し、貴金属(例えば、白金)上の局所的な酸素欠乏または酸素余剰サイトに酸素を供給するまたは引抜することができる。と同時に、貴金属(貴金属微粒子)の価数を制御して、貴金属(貴金属微粒子)が炭化水素や一酸化炭素を酸化するのに有利な状態に維持できる。
【0015】
したがって、本発明の方法によって製造される触媒は、低温下でも、排ガス、特に排ガス中の一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を効率よく浄化できる。このため、本発明に係る触媒は、ディーゼルエンジンの排ガスの低温下での浄化に特に有効である。
【0016】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、(a)貴金属を担持した耐火性無機酸化物または貴金属の化合物及び耐火性無機酸化物と、ビスマスの化合物と、を水性媒体中で湿式粉砕してスラリーを得、(b)当該スラリーを三次元構造体に被覆した後、焼成することを有し、前記焼成を糖もしくは還元剤の存在下で行なうまたは前記焼成中もしくは焼成後に還元ガスを用いて三次元構造体を処理することを特徴とする。本発明の方法の具体的な方法は、特に制限されないが、好ましくは下記(1)〜(4)のいずれかの方法を包含する。
【0017】
(1)貴金属の化合物(原料)、ビスマスの化合物(原料)、耐火性無機酸化物および糖または還元剤を水性媒体に投入し、湿式粉砕して、スラリーを調製し、当該スラリーに三次元構造体を浸漬した後、余剰のスラリーを除き、乾燥し、焼成する方法;
(2)貴金属の化合物(原料)、ビスマスの化合物(原料)、耐火性無機酸化物を水性媒体に投入し、湿式粉砕して、スラリーを調製し、当該スラリーに三次元構造体を浸漬した後、余剰のスラリーを除き、乾燥し、焼成するが、当該焼成工程中あるいは焼成工程後に、還元ガスで三次元構造体を処理する方法;
(3)貴金属の化合物(原料)を含む水性液と耐火性無機酸化物とを混合し、乾燥、焼成して、貴金属を担持した耐火性無機酸化物(貴金属担持耐火性無機酸化物)を得た後、当該貴金属担持耐火性無機酸化物、ビスマスの化合物(原料)及び糖または還元剤を混合し、湿式粉砕して、スラリーを調製し、当該スラリーに三次元構造体を浸漬した後、余剰のスラリーを除き、乾燥し、焼成する方法;および
(4)貴金属の化合物(原料)を含む水性液と耐火性無機酸化物とを混合し、乾燥、焼成して、貴金属を担持した耐火性無機酸化物(貴金属担持耐火性無機酸化物)を得た後、当該貴金属担持耐火性無機酸化物及びビスマスの化合物(原料)を混合し、湿式粉砕して、スラリーを調製し、当該スラリーに三次元構造体を浸漬した後、余剰のスラリーを除き、乾燥し、焼成するが、当該焼成工程中あるいは焼成工程後に、還元ガスで三次元構造体を処理する方法。
【0018】
上記したように、本発明の方法は、貴金属を担持した耐火性無機酸化物、または貴金属の化合物及び耐火性無機酸化物を、ビスマスの化合物(原料)と、を水性媒体中で湿式粉砕してスラリーを得る。好ましくは、貴金属を担持した耐火性無機酸化物と、ビスマスの化合物と、を水性媒体中で湿式粉砕してスラリーを得る。このように、予め耐火性無機酸化物に貴金属を担持することにより、貴金属の触媒としての性能(酸化活性)をより高く発揮することができ、ゆえに、得られる触媒の排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)の浄化能をより向上できる。
【0019】
また、本発明の方法では、焼成を糖もしくは還元剤の存在下で行なうまたは前記焼成中若しくは焼成後に還元ガスを用いて処理するが、このうち、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)の浄化能を考慮すると、焼成を糖の存在下で行なうまたは焼成後に還元ガスを用いて処理することが好ましく、焼成を糖の存在下で行なうことが特に好ましい。
【0020】
したがって、上記方法のうち、(3)及び(4)の方法が好ましく、(3)の方法がより好ましい。
【0021】
本発明の方法は、ビスマスの化合物を使用する。このように、ビスマスの化合物を使用することにより、排ガスと貴金属との接触効率や接触状態を向上できる。ここでビスマスの化合物の形態は特に制限されず、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物などが挙げられる。これらのビスマスの化合物の好ましい形態は、使用する金属の種類によって適宜選択されうるが、通常、硝酸塩、酢酸塩が好ましく、硝酸塩がより好ましい。
【0022】
より具体的には、ビスマスの化合物としては、以下に特に制限されないが、酸化ビスマス(III)(三酸化二ビスマス)、酸化ビスマス(IV)(四酸化二ビスマス)、酸化ビスマス(V)(五酸化二ビスマス)、水酸化ビスマス、次炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、次硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、酢酸ビスマス、塩化ビスマス、臭化ビスマスなどが挙げられる。これらのうち、硝酸ビスマス、酢酸ビスマスが好ましく、硝酸ビスマスがより好ましい。上記ビスマスの化合物は、単独で使用されても、あるいは2種以上の混合物の形態で使用されもよい。または、ビスマスの化合物は、タングステン酸ビスマスなど、2以上の金属の複合化合物の形態で使用されてもよい。
【0023】
また、本発明において、焼成を糖の存在下で行なう場合には、ビスマスの化合物は、水溶性ビスマス塩の形態で使用されることが好ましい。当該形態の場合には、スラリーの均一性が向上し、所望の大きさの孔を効率よくかつ容易に形成できる。水溶性金属塩の形態は、上記金属の水溶性の塩であれば特に制限されず、上記例示から適宜選択できる。好ましくは、硝酸ビスマス、酢酸ビスマスである。
【0024】
上記ビスマスの化合物の添加量は、排ガスと貴金属との接触効率や接触状態を向上できる量であれば特に制限されない。好ましくは、ビスマスの化合物の使用量(担持量;酸化物換算)は、触媒(三次元構造体)1リットル当たり、3〜50gが好ましく、5〜20gがより好ましい。なお、上記ビスマスの化合物の使用量(酸化物換算)は、ビスマスの化合物を、それぞれ、Biを基準にして換算した量を意味する。上記範囲であれば、排ガスと貴金属との接触効率や接触状態を向上できる。なお、上記ビスマスの化合物は、触媒として調製される際に、糖、還元剤、還元ガスにより処理されていることにより、上記したような効果を奏することができる。
【0025】
本発明に係る排ガス浄化用触媒は、貴金属の化合物/貴金属をさらに含む。本発明で使用できる貴金属は、特に制限されず、浄化(除去)する有害成分などによって適宜選択できる。例えば、好ましく使用される貴金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、Pt、Pd、Rh、Irが使用され、Pt、Pd、Rhがより好ましい。上記貴金属は、単独で使用されてもあるいは2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0026】
貴金属の使用量(担持量)は、特に制限されず、浄化(除去)する有害成分の濃度によって適宜選択できる。具体的には、貴金属の使用量(担持量;貴金属換算)は、触媒(三次元構造体)1リットル(L)当たり、好ましくは0.1〜10g、より好ましくは0.3〜5gの量で、用いることができる。このような範囲であれば、有害成分を十分除去(浄化)しうる。なお、貴金属を2種以上を組み合わせて使用する場合には、貴金属の合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明において使用される貴金属の化合物(原料)としては、特に制限されず、貴金属を、そのままの形態で添加してあるいは他の形態で添加して、その後所望の形態(貴金属の形態)に変換してもよい。本発明では、貴金属の化合物を水性媒体に添加するため、貴金属は、他の形態、特に水溶性貴金属塩の形態で添加されることが好ましい。ここで、水溶性貴金属塩は、特に制限されることなく、排ガスの浄化の分野で用いられている原料を用いることができる。具体的には、例えば、パラジウムの場合には、パラジウム;塩化パラジウムなどのハロゲン化物;パラジウムの、硝酸塩、硫酸塩、ジニトロジアンミン塩、テトラアンミン塩などの、無機塩類;酢酸塩などのカルボン酸塩;および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが挙げられる。好ましくは硝酸塩、ジニトロジアンミン塩、テトラアンミン塩、酢酸塩が挙げられ、硝酸塩(硝酸パラジウム)がより好ましい。また、白金の場合には、例えば、白金;臭化白金、塩化白金などのハロゲン化物;白金の、ジニトロジアンミン塩、ヘキサアンミン塩、ヘキサヒドロキソ酸塩、テトラニトロ酸塩などの、無機塩類;酢酸塩などのカルボン酸塩;および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが挙げられる。好ましくは、ジニトロジアンミン塩、ヘキサアンミン塩、ヘキサヒドロキソ酸塩が挙げられ、ジニトロジアンミン塩(ジニトロジアンミン白金)がより好ましい。また、例えば、ロジウムの場合には、ロジウム;塩化ロジウムなどのハロゲン化物;ロジウムの、硝酸塩、硫酸塩、ヘキサアンミン塩、ヘキサシアノ酸塩などの、無機塩類;酢酸塩などのカルボン酸塩;および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが挙げられる。好ましくは、硝酸塩、ヘキサアンミン塩が挙げられ、硝酸塩(硝酸ロジウム)がより好ましい。なお、本発明では、上記貴金属の化合物(貴金属源)は、単独であってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。
【0028】
貴金属の化合物の使用量(担持量)は、特に制限されず、浄化(除去)する有害成分の濃度によって適宜選択できる。具体的には、上記貴金属の使用量(担持量;貴金属換算)となるような量である。
【0029】
本発明の排ガス浄化用触媒は、耐火性無機酸化物を含む。本発明において使用される耐火性無機酸化物は、通常内燃機関用の触媒に用いられるものであれば、特に制限されず何れのものであってもよい。具体的には、本発明に用いられる耐火性無機酸化物としては、通常、触媒担体として用いられるものであれば何れでもよく、例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、η−アルミナ、θ−アルミナなどの活性アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化珪素(シリカ)などの単独酸化物;これらの複合酸化物、例えば、アルミナ−チタニア、アルミナ−ジルコニア、チタニア−ジルコニア、ゼオライト、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタン−アルミナなどが挙げられる。好ましくは、ゼオライト、γ−アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの単独酸化物、およびシリカ−アルミナ、ランタン−アルミナ等の、これらの複合酸化物が使用される。これらは、炭化水素(HC)を吸着できる。上記耐火性無機酸化物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0030】
耐火性無機酸化物の形態などは特に制限されないが、下記形態が好ましい。例えば、耐火性無機酸化物のBET(Brunauer−Emmett−Teller)比表面積は、特に制限されないが、比表面積が大きいことが好ましい。好ましくは70〜250m/g、より好ましくは110〜250m/gである。また、耐火性無機酸化物粉末の平均粒径もまた、特に制限されないが、スラリーの均一性などを考慮すると、好ましくは0.5〜150μm、より好ましくは1〜100μmである。なお、本明細書中、「平均粒径」は、レーザー回折法や動的光散乱法などの公知の方法によって測定される耐火性無機酸化物粉末の粒子径の平均値により測定することができる。
【0031】
耐火性無機酸化物の使用量(担持量)は、特に制限されない。耐火性無機酸化物の使用量(担持量)は、触媒(例えば、三次元構造体)1リットル(L)当たり、好ましくは20〜300g、より好ましくは60〜200gである。20g未満であると、触媒成分(例えば、貴金属やビスマスの化合物)が十分に分散できず、触媒性能や耐久性などが十分でない可能性がある。逆に、300gを超えると、耐火性無機酸化物の添加に見合う効果が認められず、また、触媒成分の効果が十分発揮できず、活性が低下したり、圧力損失が大きくなったりする可能性がある。
【0032】
本発明の排ガス浄化用触媒は、上記貴金属の化合物、ビスマスの化合物及び耐火性無機酸化物に加えて、他の成分を添加してもよい。このような添加成分としては特に制限されないが、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素およびマンガン;ならびにこれらの酸化物が挙げられる。ここで用いられるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。同様にして、アルカリ土類金属としては、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。希土類元素としては、例えば、セリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウムなどが挙げられる。上記添加成分は、金属そのままの形態であってもあるいは酸化物の形態であってもよい。また、上記添加成分は、そのままの形態で使用されてもよいが、三次元構造体上に担持されることが好ましい。この際、ランタン、セリウム、ネオジムなどの希土類元素およびその酸化物を添加することによって、耐熱性が向上できる。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素は、窒素酸化物(NOx)を吸着することができる。ここで、上記添加成分は、単独であってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。また、添加成分の使用量(担持量)は、特に制限されない。具体的には、添加成分の使用量(担持量;酸化物換算)は、触媒(三次元構造体)1リットル(L)当たり、好ましくは1〜100g、より好ましくは1〜50gの量で、用いることができる。
【0033】
また、本発明の方法(特に、上記方法(1)及び(3))では、焼成を糖もしくは還元剤の存在下で行なう。このうち、焼成を糖の存在下で行なう際に使用できる糖は、特に制限されず、通常糖に分類されるものであればよい。具体的には、グルコース、マンノース、ガラクトース、イドース、アロース、タロース、グロース、フルクトース、プリコース、ソルボース、タガトース、リボース、キシロース、アラビノース、アビオース、リブロース、キシルロース、トレオース、エリトロース、エリトルロース等の単糖;トレハロース、イソトレハロース、コージビオース、ソホロース、ニゲロース、ラミナリビオース、マルトース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチオビオース、ラクトース、スクロース等の二糖;フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等のオリゴ糖;デオキシリボース、フコース、ラムノース等のデオキシ糖;デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、グルコマンナン等の多糖などが挙げられる。これらのうち、二糖が好ましく、ラクトース、スクロースがより好ましく、スクロースが特に好ましい。
【0034】
上記糖の添加量(使用量)は、触媒中に適当な大きさの孔を形成できるような量であれば特に制限されない。具体的には、糖の添加量(使用量)は、ビスマスの化合物の添加量(使用量;酸化物換算)14gに対して、好ましくは0.01〜0.1モルであり、より好ましくは0.015〜0.05モルである。このため、糖がスクロースである場合には、スクロースの添加量(使用量)は、ビスマスの化合物の添加量(使用量;酸化物換算)14gに対して、好ましくは3.5〜32gであり、より好ましくは6〜18gである。当該添加量であれば、焼成工程で糖の燃焼により適当な大きさの孔が形成され、排ガスと触媒、特に活性のある貴金属との接触効率や接触状態が向上できる。また、上記したような添加量であれば、焼成工程で糖の燃焼時に、貴金属の化合物及びビスマスの化合物が還元され、上記貴金属やビスマスの化合物由来の金属による効果を十分向上できる。
【0035】
また、本発明の方法(特に、上記方法(1)及び(3))において、焼成を還元剤の存在下で行なう際に使用できる還元剤は、特に制限されず、通常の還元剤が同様にして使用できる。具体的には、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、アンモニア、メチルアミン等の炭素数1〜5のアミン、尿素、グアニジンやビウレット等の尿素の誘導体、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5のアルコール、グリコール、形質油、ケロセン、またはC−Cのパラフィン等の炭化水素などを使用することができる。これにより、貴金属を活性化でき、低温酸化活性の向上などが可能である。これらのうち、ヒドラジンが特に好ましい。
【0036】
上記還元剤の添加量(使用量)は、特に制限されず、上記したような効果を達成できる量であることが好ましい。具体的には、還元剤の添加量(使用量)は、ビスマスの化合物の添加量(使用量;酸化物換算)14gに対して、0.01〜0.1モルであり、より好ましくは0.015〜0.05モルである。このため、還元剤がヒドラジンである場合には、ヒドラジンの添加量(使用量)は、ビスマスの化合物の添加量(使用量;酸化物換算)14gに対して、好ましくは0.32〜3.2gであり、より好ましくは0.48〜1.6gである。
【0037】
なお、上記方法(1)では、貴金属の化合物(原料)、ビスマスの化合物(原料)、耐火性無機酸化物および糖または還元剤を水性媒体に投入し、湿式粉砕して、スラリーを調製する。また、上記方法(2)では、貴金属の化合物(原料)、ビスマスの化合物(原料)および耐火性無機酸化物を水性媒体に投入し、湿式粉砕して、スラリーを調製する。
【0038】
ここで、水性媒体は、特に制限されず、当該分野にて通常使用される水性媒体が同様にして使用される。具体的には、水、シクロヘキサノールやエタノールや2−プロパノールなどの低級アルコール、ならびに有機系のアルカリ水溶液などが挙げられる。好ましくは、水や低級アルコールが使用され、特に水が好ましく使用される。また、貴金属の化合物(原料)、ビスマスの化合物(原料)、耐火性無機酸化物の添加量は、所望の量が三次元構造体に担持できる量であれば、特に限定されず、また、上記量によって適宜選択できる。好ましくは、水性媒体中の水溶性貴金属塩の濃度が、0.1〜40質量%、より好ましくは1〜25質量%となるような量である。また、水性媒体中のビスマスの化合物(原料)の濃度が、好ましくは1.6〜8質量%、より好ましくは2〜6質量%となるような量である。さらに、水性媒体中の耐火性無機酸化物の濃度が、好ましくは8〜33質量%、より好ましくは12〜25質量%となるような量である。また、上記方法(1)では、貴金属の化合物(原料)、ビスマスの化合物(原料)、耐火性無機酸化物に加えて、糖または還元剤を水性媒体に投入するが、この場合の、水性媒体中の糖または還元剤の濃度は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは8〜20質量%となるような量である。
【0039】
また、湿式粉砕は、通常公知の方法によって行われ、特に制限されないが、ボールミルなどが好ましく使用される。または、アトライター、ホモジナイザ、超音波分散装置、サンドミル、ジェットミル、ビーズミルなどの従来公知の手段を用いることができる。ここで、湿式粉砕条件は、特に制限されない。例えば、湿式粉砕時の温度は、通常、5〜40℃、好ましくは室温(25℃)程度である。また、湿式粉砕時間は、通常、10分〜20時間である。なお、湿式粉砕時間は、使用する湿式粉砕装置によって異なり、例えば、アトライター等の粉砕効率の高い装置を使用した場合には、10〜60分程度であり、ボールミル等を使用した場合には、5〜20時間程度である。
【0040】
次に、上記で調製されたスラリーに三次元構造体を浸漬し、余剰のスラリーを除き、乾燥し、焼成する。これにより、触媒成分が三次元構造体に担持して、本発明の触媒を製造できる。
【0041】
ここで、三次元構造体は、特に制限されず、一般的に排気ガス浄化用触媒の調製に使用されるのと同様のものが使用できる。例えば、三次元構造体としては、ハニカム担体などの耐熱性担体が挙げられるが、一体成型のハニカム構造体(ハニカム担体)が好ましく、例えば、モノリスハニカム担体、プラグハニカム担体などが挙げられる。
【0042】
モノリス担体としては、通常、セラミックハニカム担体と称されるものであればよく、特に、炭化ケイ素(SiC)、コージェライト、ムライト、ベタライト、アルミナ(α−アルミナ)、シリカ、ジルコニア、チタニア、リン酸チタン、アルミニウムチタネート、スポンジュメン、アルミノシリケート、マグネシウムシリケート、ゼオライト、シリカなどを材料とするハニカム担体が好ましく、なかでもコージェライト質のものが特に好ましい。その他、ステンレス鋼、Fe−Cr−Al合金などの酸化抵抗性の耐熱性金属を用いて一体構造体とした、いわゆるメタルハニカム担体も用いられる。また、三次元構造体は、ガスがそのまま通過しうるフロースルー型(オープンフロー型)、排ガス中のススをこすことができるフィルター型、プラグ型など、いずれのタイプを使用してもよい。また、三次元一体構造体ではなくても、ペレット担体等も挙げることができる。ここで、プラグ型のハニカムとは、多数の通孔を有しかつガスの導入面に市松上に開孔と閉孔を有し、通孔の一方が開孔であれば同一の通孔の他方が閉孔となっているハニカムである。当該プラグハニカム担体には各孔間の壁に微細な孔があり、排ガスは開孔からハニカムに入り、当該微細な孔を通して他の孔を通りハニカム外に出るものである。
【0043】
これらのモノリス担体は、押出成型法やシート状素子を巻き固める方法などで製造される。そのガス通過口(セル形状)の形は、六角形、四角形、三角形またはコルゲーション形のいずれであってもよい。セル密度(セル数/単位断面積)は100〜1200セル/平方インチであれば十分に使用可能であり、好ましくは200〜900セル/平方インチ、より好ましくは300〜600セル/平方インチである。
【0044】
触媒成分の三次元構造体への担持方法は、特に制限されず、公知の触媒担持方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用される。上記したようにして調製されたスラリーに三次元構造体を投入・浸漬する際の、浸漬条件は、スラリー中の触媒成分が三次元構造体と十分均一に接触して、次の乾燥・焼成工程でこれらの触媒成分が十分三次元構造体に担持される条件であれば特に制限されない。例えば、三次元構造体をスラリー中に浸漬した後、三次元構造体をスラリーから引き上げて余分なスラリーを除去する。その後、100〜250℃で10分〜3時間、乾燥し、さらに、350〜600℃で10分〜5時間、焼成することにより、触媒成分が三次元構造体に担持された本発明の排ガス浄化用触媒が製造されうる。
【0045】
なお、上記方法(2)及び(4)では、上記焼成工程中または上記焼成工程後に、三次元構造体を還元ガスを用いて処理する。ここで、還元ガスとして水素ガス、一酸化炭素ガス等を用いることができ、水素ガスが好ましい。還元ガスは、上記ガスを単独で使用してもあるいは上記2種のガスを混合して使用してもあるいは上記1種もしくは2種のガスを他のガスと混合して使用してもよい。上記ガスを他のガスと混合して使用することが好ましく、水素ガスを窒素ガスで希釈して使用することがより好ましい。この場合の還元ガスの添加量は、乾燥した三次元構造体を所望の程度に処理できる量であれば特に制限されないが、三次元構造体の処理雰囲気が、1〜10体積%の還元ガスを含むことが好ましく、3〜5体積%の還元ガスを含むことがより好ましい。また、乾燥した三次元構造体の還元ガスによる処理条件は、特に制限されない。例えば、乾燥した三次元構造体を、上記した還元ガスを10〜100ml/分で流通しながら、150〜600℃で1〜10時間、処理することが好ましい。
【0046】
また、上記方法(3)及び(4)では、貴金属の化合物(原料)、ビスマスの化合物(原料)を水性媒体に添加する代わりに、予め貴金属の化合物を耐火性無機酸化物に担持して得られた貴金属担持耐火性無機酸化物を水性媒体に添加する。この際適用されうる担持方法は、特に制限されず、公知の方法をそのままあるいは適宜修飾して使用できる。例えば、水溶性貴金属塩を適当な溶剤に溶解して調製された水溶性貴金属塩の溶液に耐火性無機酸化物を浸漬した後、乾燥・焼成することにより、貴金属担持耐火性無機酸化物が得られる。ここで、水溶性貴金属塩は、上記したのと同様であるため、説明を省略する。また、上記適当な溶剤は、特に制限されず、当該分野にて通常使用される水性媒体が同様にして使用される。具体的には、水、シクロヘキサノールやエタノールや2−プロパノールなどの低級アルコール、ならびに有機系のアルカリ水溶液などが挙げられる。好ましくは、水や低級アルコールが使用され、特に水が好ましく使用される。この際、水溶性貴金属塩の添加量は、所望の量の貴金属が耐火性無機酸化物(ひいては、三次元構造体)に担持できる量であれば、特に限定されず、また、上記量によって適宜選択できる。好ましくは、水性媒体中の水溶性貴金属塩の濃度が、0.1〜40質量%、より好ましくは1〜25質量%となるような量である。また、水溶性貴金属塩の溶液に耐火性無機酸化物を浸漬する際の浸漬条件は、溶液中の水溶性貴金属塩が十分耐火性無機酸化物に担持される条件であれば特に制限されない。例えば、耐火性無機酸化物が吸収しうる最大の溶液(水分)量と等しい量の水溶性貴金属溶液(水溶液)と、耐火性無機酸化物とを十分均一に混合する。その後、100〜250℃で10分〜15時間、乾燥し、さらに、350〜600℃で10分〜5時間、焼成することにより、貴金属が耐火性無機酸化物に担持された貴金属担持耐火性無機酸化物が製造されうる。
【0047】
上記方法(3)及び(4)では、上記したようにして得られた貴金属担持耐火性無機酸化物を、所望の量が三次元構造体に担持できる量で、好ましくは水性媒体中の貴金属や耐火性無機酸化物の担持量が上記範囲となるような量で、使用する以外は、上記方法と同様の方法が適用できる。
【0048】
本発明の方法によって製造される排ガス浄化用触媒は、焼成工程で糖が燃える際に、あるいは還元剤や水素ガス等の還元ガスにより貴金属を還元する際に、貴金属の化合物及びビスマスの化合物が還元される。このような還元により、ビスマスの少なくとも一部は表面電荷が0価のビスマス(Bi(0))となり、また、貴金属の化合物の還元に伴い貴金属とビスマスとの合金を形成する。このような排ガス浄化用触媒は、表面電荷が0価のビスマス(Bi(0))の存在により、排ガスと貴金属との接触効率や接触状態が向上し、貴金属の酸化活性をより有効に活用できるため、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)を、低温下であっても効率よく浄化できる。
【0049】
したがって、本発明は、ビスマスの表面電荷が0価のビスマス(Bi(0))を含む排ガス浄化用触媒をも提供する。なお、貴金属やビスマスの酸化状態や還元状態は、公知の方法によって確認できる。本明細書では、本発明の排ガス浄化用触媒の酸化や還元状態は、XPS(X線光電子分光)分析によって確認し、その詳細な分析/測定は、実施例に記載される条件に従う。上記分析/測定条件によると、162eV及び159eV付近ピークは、ビスマスの還元状態(金属Bi;Bi(0))の存在を示し、また、163〜165eV及び158〜160eV付近のピークは、ビスマスの酸化形態(Bi;Bi(3+))の存在を示す。
【0050】
上述したように、本発明の排ガス浄化用触媒は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)やガソリンまたは軽油や重油等のディーゼルエンジンの燃料の未燃焼成分である炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)の、低温下での浄化能に優れる。この際、排ガスの低温下での浄化能は、特に制限されないが、例えば、一酸化炭素(CO)については、50%CO転化率を示す温度が、好ましくは190℃以下、より好ましくは140〜190℃である。
【0051】
ゆえに、本発明の方法によって製造される排ガス浄化用触媒は、内燃機関の排ガス(特に、HC、CO)の浄化に好適に使用されうる。ゆえに、本発明に係る触媒は、内燃機関の排気ガス中に還元性ガスを含む排気ガスを処理するのに好適に使用でき、特にガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関からの加速時などの還元性の高い排気ガス中に含まれる炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)の浄化に優れた効果を奏する。
【0052】
したがって、本発明は、本発明に係る排ガス浄化用触媒に対し、排ガスを接触させることを有する、排ガスの浄化方法をも提供する。
【0053】
本発明による触媒は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関、特にディーゼルエンジンの排気ガスの浄化に使用され、そのときの排ガス及び触媒は、空間速度が好ましくは1,000〜500,000hr−1、より好ましくは5,000〜150,000hr−1、ガス線速が好ましくは0.1〜8.5m/秒、より好ましくは0.2〜4.2m/秒で接触させることが好ましい。
【0054】
また、本発明に係る触媒の前段(流入側)または後段(流出側)に同様の、または異なる排気ガス浄化触媒を配置してもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例と比較例により発明の効果を詳細に説明するが、本発明の効果を有するものであれば下記実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1
以下のようにして、含浸法により白金およびパラジウムを分散担持させたシリカアルミナ粉体(Pt・Pd担持粉体(a))を調製した。
【0057】
すなわち、白金33.5gを含有するジニトロジアンミン白金溶液とパラジウム16.8gを含有する硝酸パラジウム溶液とを混合し、比表面積が150m/gであるシリカアルミナ粉体3000g中に投入した。この混合物を十分かき混ぜた後、120℃で8時間乾燥し、さらに500℃で1時間焼成し、白金およびパラジウムを分散担持させたシリカアルミナ粉体(Pt・Pd担持粉体(a))を得た。
【0058】
このようにして調製したPt・Pd担持粉体(a)2190gとBi(NO・5HO 610gとを、水性媒体としての水 3200g中に投入して、この混合物を、アトライターを用いて、室温で20分間、湿式粉砕して、スラリー化した後、スクロース 365gを加えて十分混合し、スラリー(1)を調製した。このスラリー(1)を、横断面1平方インチ当たり約400個のオープンフローのガス流通セルを有する5.66インチ径×6.0インチ長さの円筒状のコージェライト製ハニカム担体に浸漬し、余分なスラリーを取り除いた後、120℃で30分間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成して、触媒(1)を得た。この触媒(1)におけるビスマス(酸化物換算)、白金(白金換算)およびパラジウム(パラジウム換算)の担持量は、三次元構造体(コージェライト製ハニカム担体)1リットル当たり、それぞれ、14.3g、1.2gおよび0.6gであった。
【0059】
このようにして得られた触媒(1)を、粗粉砕した。このように粗粉砕したサンプルについて、XPS(X線光電子分光)分析を行い、その結果を図1に示す。なお、XPS(X線光電子分光)分析は、下記条件に従って行なった。
【0060】
<XPS(X線光電子分光)測定条件>
機器:ULVAC−PHI社製 Quantera SXM
X線源:AlKα線
ビーム径 100μm
ビーム出力 25W−15kV
Pass Energy:C,O 112eV
Bi,Pt,Pd 224eV
ステップ幅:C,O 0.1eV
Bi,Pt,Pd 0.2eV
実施例2
実施例1において、スクロースを加えない以外は同様の操作を行ない、スラリー(2)を調製した。このスラリー(2)を、横断面1平方インチ当たり約400個のオープンフローのガス流通セルを有する5.66インチ径×6.0インチ長さの円筒状のコージェライト製ハニカム担体に浸漬し、余分なスラリーを取り除いた後、120℃で30分間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成して、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を、窒素ガスをキャリアとした5体積%水素ガス流通下、500℃で3時間処理して、触媒(2)を得た。この触媒(2)におけるビスマス(酸化物換算)、白金(白金換算)およびパラジウム(パラジウム換算)の担持量は、三次元構造体(コージェライト製ハニカム担体)1リットル当たり、それぞれ、14.3g、1.2gおよび0.6gであった。
【0061】
比較例1
実施例1と同様にして、含浸法によりPt・Pd担持粉体(a)を調製した。このPt・Pd担持粉体(a)2190gを、水性媒体としての水 3200g中に投入して、この混合物を、アトライターを用いて、室温で20分間、湿式粉砕してスラリー化して、スラリー(3)を調製した。このスラリー(3)を、横断面1平方インチ当たり約400個のオープンフローのガス流通セルを有する5.66インチ径×6.0インチ長さの円筒状のコージェライト製ハニカム担体に浸漬し、余分なスラリーを取り除いた後、120℃で30分間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成して、比較触媒(1)を得た。この比較触媒(1)における白金(白金換算)およびパラジウム(パラジウム換算)の担持量は、三次元構造体(コージェライト製ハニカム担体)1リットル当たり、それぞれ、1.2gおよび0.6gであった。
【0062】
比較例2
白金33.5gを含有するジニトロジアンミン白金溶液とパラジウム16.8gを含有する硝酸パラジウム溶液とを混合し、比表面積が150m/gであるシリカアルミナ粉体3000g中に投入した。この混合物を十分かき混ぜた後、120℃で8時間乾燥し、さらに500℃で1時間焼成し、白金およびパラジウムを分散担持させたシリカアルミナ粉体(Pt・Pd担持粉体(b))を得た。
【0063】
次に、このPt・Pd担持粉体(b)2190gと市販のベータゼオライト850gとBi(NO・5HO 610gとを、水性媒体としての水 3200g中に投入して、この混合物を、アトライターを用いて、室温で20分間、湿式粉砕してスラリー化して、スラリー(4)を調製した。このスラリー(4)を、横断面1平方インチ当たり約400個のオープンフローのガス流通セルを有する5.66インチ径×6.0インチ長さの円筒状のコージェライト製ハニカム担体に浸漬し、余分なスラリーを取り除いた後、120℃で30分間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成して、比較触媒(2)を得た。この比較触媒(2)におけるビスマス(酸化物換算)、白金(白金換算)およびパラジウム(パラジウム換算)の担持量は、三次元構造体(コージェライト製ハニカム担体)1リットル当たり、それぞれ、14.3g、1.2gおよび0.6gであった。
【0064】
このようにして得られた比較触媒(2)を、実施例1と同様にして、粗粉砕した。このように粗粉砕したサンプルについて、実施例1と同様にして、XPS(X線光電子分光)分析を行い、その結果を図2に示す。
【0065】
図2から明らかなように、触媒(1)では、酸化形態(Bi)の存在を示す164.8eV付近のピークであるBi 4f 5/2−1および159.5eV付近のピークであるBi 4f 7/2−1に加えて、還元形態(金属Bi)の存在を示す162.1eV付近のピークであるBi 4f 5/2−2および156.8eV付近のピークであるBi 4f 7/2−2が認められる。ゆえに、触媒(1)は、ビスマスの表面電荷が3価(Bi(3+))のビスマスに加えて、0価(Bi(0))のビスマスを含むことが分かる。また、図2から、触媒(1)は、触媒の最表面のPt−Oが還元されて、Pt−Bi合金化が行なっていると、考察される。
【0066】
これに対して、比較触媒(2)は、酸化形態(Bi)の存在を示す163.8eV付近のピークであるBi 4f 5/2および158.5eV付近のピークであるBi 4f 7/2のみが認められる。ゆえに、比較触媒(2)は、ビスマスの表面電荷が3価(Bi(3+))のビスマスのみを含むことが分かる。なお、酸化形態(Bi)の存在を示すピークが1eV程度ずれているが、これはサンプル間の誤差であると考えられる。
【0067】
比較例3
実施例1と同様にして、含浸法によりPt・Pd担持粉体(a)を調製した。このPt・Pd担持粉体(a)2190gを、水性媒体としての水 3200g中に投入して、この混合物を、アトライターを用いて、室温で20分間、湿式粉砕して、スラリー化した後、スクロース 365gを加えて十分混合し、スラリー(5)を調製した。このスラリー(5)を、横断面1平方インチ当たり約400個のオープンフローのガス流通セルを有する5.66インチ径×6.0インチ長さの円筒状のコージェライト製ハニカム担体に浸漬し、余分なスラリーを取り除いた後、120℃で30分間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成して、比較触媒(3)を得た。この比較触媒(3)における白金(白金換算)およびパラジウム(パラジウム換算)の担持量は、三次元構造体(コージェライト製ハニカム担体)1リットル当たり、それぞれ、1.2gおよび0.6gであった。
【0068】
触媒評価
以上の実施例1〜2および比較例1〜2で得られた触媒について、以下のようにして、エンジン昇温評価を行なった。すなわち、上記各触媒を、市販のディーゼルエンジン(2.2L)の排気ガスの浄化に使用した。ここで、ディーゼルエンジンは、回転数 1,800rpmで固定(空間速度(S.V.)=48,000hr−1)とした。なお、前段及び後段に他の触媒を設置せず、上記各触媒のみを設置した。
【0069】
自動運転装置を用いて、トルクのみを調整し、昇温速度を10℃/分に設定して、エンジンを運転させた。ここで、上記昇温評価の前処理して、400℃で15分間保持した後、100℃まで降温し、100℃から300℃までを、上記速度で昇温して、評価を行なった。
【0070】
上記評価を図1に要約する。詳細には、各実施例1〜2および比較例1〜2で得られた触媒の、80%HC転化率を図1(A)に示し、50%CO転化率を図1(B)に示す。
【0071】
図1から明らかなように、本発明による実施例1〜2の触媒(1)及び(2)は、比較例1〜3の比較触媒(1)〜(3)に比して、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)、特に一酸化炭素(CO)について、より低温下で処理が可能であり、炭化水素(HC)、特に一酸化炭素(CO)および一酸化炭素(CO)の着火性に優れる。特に、本発明による実施例1〜2の触媒(1)及び(2)では、従来達成が困難であった190℃以下という低い50%CO転化率を示す温度が達成しえていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属を担持した耐火性無機酸化物または貴金属の化合物および耐火性無機酸化物と、ビスマスの化合物と、を水性媒体中で湿式粉砕してスラリーを得、当該スラリーを三次元構造体に被覆した後、焼成することを有する排ガス浄化用触媒の製造方法であって、前記焼成を糖もしくは還元剤の存在下で行なうまたは前記焼成中もしくは焼成後に三次元構造体を還元ガスを用いて処理する、排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項2】
貴金属を担持した耐火性無機酸化物と、ビスマスの化合物と、を水性媒体中で湿式粉砕してスラリーを得る、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ビスマスの化合物は、ビスマスの水溶性金属塩であり、前記焼成を糖の存在下で行なう、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記糖は、二糖である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記糖は、スクロースである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
ビスマスの表面電荷が0価のビスマスを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
50%CO転化率を示す温度が190℃以下である、請求項6に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
請求項6または7に記載の排ガス浄化用触媒に対し、排ガスを接触させることを有する、排ガスの浄化方法。
【請求項9】
前記排ガスがディーゼルエンジンの排ガスである、請求項8に記載の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−595(P2012−595A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139804(P2010−139804)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(593024380)株式会社アイシーティー (22)
【出願人】(395016659)インターナショナル キャタリスト テクノロジー インコーポレイテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL CATALYST TECHNOLOGY,INC.
【Fターム(参考)】