説明

排ガス浄化用触媒

【課題】中空状酸化物粉末と触媒金属とを含有する触媒の浄化性能を改善する。
【解決手段】中実状酸化物微粒子11が凝集して形成されている中空状酸化物粉末の殻壁に空孔12を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排ガス浄化用触媒に関し、触媒金属を担持する担体(サポート材)を中空状の酸化物粉末によって構成することは知られている(特許文献1参照)。その中空状粉末は、Al23とこれに固溶可能な希土類元素(La、Nd又はSm)との複合酸化物によって形成されている。担体を中空状にすることによって、大きな一次粒子径と大きな比表面積とを両立させる、担体の細孔容積を増大させてガス拡散性を向上させる、中実粉末に比べて1粒子当たりのAl23の絶対量が少なくなり、触媒金属が殻壁に固溶しても、触媒金属の一部が固溶するだけであり、活性点の減少が少なくなる、とされている。
【特許文献1】特開2001−347167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、中空状粉末の殻壁は、上記複合酸化物の微粒子が数十個重なり合って緻密に凝集してなるものであるため、殻壁外側と内側(中空内)との間での排ガスの流通は必ずしも良くない。また、複合酸化物が中空状になっているということは、その量の割には嵩が大きくなるということであり、そのため、触媒のボリュームが大きくなるという問題がある。従って、ハニカム担体に触媒層を形成すると、その触媒層が厚くなって排ガスの通路面積が狭められ、エンジンの背圧上昇による出力低下ないしは燃費の悪化を招き、或いは通路面積の狭小化を避けるにはハニカム担体を大型にする必要があって、触媒のレイアウトが難しくなるとともに、自動車の重量増を招く。
【0004】
そこで、本発明は、中空状の酸化物粉末を触媒に用いるに当たり、その殻壁内での排ガスの拡散移動を容易にして、排ガス浄化性能を高めること、さらには上記触媒ボリューム増大の問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、このような課題に対して、中空状酸化物粉末の一部を破砕殻とするとともに、中空殻及び破砕殻の殻壁に排ガスの拡散移動が可能なすき間を形成するようにした。
【0006】
すなわち、請求項1に係る発明は、酸化物粉末と触媒金属とを有する排ガス浄化用触媒であって、
上記酸化物粉末は、Al又は希土類元素を含有する酸化物微粒子が凝集してなる中空殻と、該中空殻を壊してなる破砕殻とが混合されたものであり、
上記中空殻及び破砕殻各々の殻壁には空孔が形成されていることを特徴とする。
【0007】
従って、排ガスの一部は、上記空孔を通って殻壁の外側から内側へ、或いは内側から外側へ拡散移動するようになるから、当該拡散移動の抵抗が少なくなり、殻壁の外側だけでなく内側が排ガスの浄化に有効に利用され、排ガス浄化性能の向上に有利になる。
【0008】
また、酸化物粉末すべてが中空の殻の形態になっているのではなく、その一部が破砕殻の形態となっているということは、それらの量自体が多くなっても、嵩はそれほど大きくならないということである。従って、触媒ボリュームの増大が抑制され、また、ハニカム状担体の通路(細孔)壁面に触媒層を形成しても、その通路面積が過度に狭まることがなく、エンジンの背圧の上昇が防止され、エンジン出力の低下や燃費の悪化を避ける上で有利になる。また、破砕殻の場合、排ガスは殻壁を拡散移動しなくても、殻壁の内側及び外側の両面に接触することができるため、排ガス浄化性能の向上に有利になる。
【0009】
上記Alを含有する酸化物としては、アルミナがあり、その他、Alと他の金属元素とを含む複酸化物であってもよい。希土類元素を含有する酸化物としては、セリアがあり、その他、2種以上の希土類元素の複酸化物、希土類元素と他の金属元素との複酸化物であってもよく、さらにはAlと希土類元素との複酸化物であってもよい。希土類元素を含有する酸化物の場合は、その酸素吸蔵能によって排ガス浄化性能を高める上で有利になり、特にCeを含有する酸化物で有用である。
【0010】
請求項2に係る発明は、酸化物粉末と触媒金属とを有する排ガス浄化用触媒であって、
上記酸化物粉末は、Al又は希土類元素を含有する酸化物微粒子が凝集してなる中空殻と、該中空殻を壊してなる破砕殻とが混合されたものであり、
上記アルミナ系酸化物は、層状結晶構造をとり、その層間にAlよりもイオン半径が大きい金属元素が挿入されていることを特徴とする。
【0011】
従って、アルミナ系酸化物は、その結晶の層間隔が該層間に存するイオン半径の大きな金属元素によって部分的に拡大しており、そのため、排ガスがアルミナ系酸化物の層間を通って移動し易くなっている。すなわち、排ガスの一部は、上記アルミナ系酸化物の層間を通って殻壁の外側から内側へ、或いは内側から外側へ拡散移動するようになるから、当該拡散移動の抵抗が少なくなり、殻壁の外側だけでなく内側が排ガスの浄化に有効に利用され、排ガス浄化性能の向上に有利になる。
【0012】
また、酸化物粉末すべてが中空の殻の形態になっているのではなく、その一部が破砕殻の形態となっているということは、それらの量自体が多くなっても、嵩はそれほど大きくならないということである。従って、触媒ボリュームの増大が抑制され、また、ハニカム状担体の通路壁面に触媒層を形成しても、その通路面積が過度に狭まることがなく、エンジンの背圧の上昇が防止され、エンジン出力の低下や燃費の悪化を避ける上で有利になる。また、破砕殻の場合、排ガスは殻壁を拡散移動しなくても、殻壁の内側及び外側の両面に接触することができるため、排ガス浄化性能の向上に有利になる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2において、
Alよりもイオン半径が大きい金属元素は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素から選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする。
【0014】
Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属元素や、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素を用いると、触媒金属のリン被毒や硫黄被毒の抑制に有利になる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項2において、
Alよりもイオン半径が大きい金属元素は、希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする。
【0016】
Ce、Nd、Pr、Sm等の希土類元素を用いると、アルミナ系酸化物の層間に希土類元素の酸化物が形成され、その酸素吸蔵能により、当該触媒の排ガス浄化性能の向上に有利になる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、酸化物粉末と触媒金属とを有する排ガス浄化用触媒において、請求項1に係る発明では、酸化物粉末はAl又は希土類元素を含有する酸化物微粒子が凝集して中空殻及び破砕殻の形態となっているとともに、該中空殻及び破砕殻各々の殻壁に空孔が形成されているから、請求項2に係る発明では、酸化物粉末は、アルミナ系酸化物微粒子が凝集して中空殻及び破砕殻の形態となっているとともに、その結晶の層間にAlよりもイオン半径が大きい金属元素が挿入されているから、排ガスが中空殻や破砕殻の殻壁の外側から内側へ、或いは内側から外側へ拡散移動し易くなり、殻壁の外側だけでなく内側が排ガスの浄化に有効に利用され、排ガス浄化性能の向上に有利になり、また、酸化物粉末の一部が破砕殻になっているから、触媒ボリュームの増大が抑制されるとともに、排ガスとの接触が容易になり、排ガス浄化性能の向上にさらに有利になる。
【0018】
また、請求項3に係る発明によれば、請求項2において、Alよりもイオン半径が大きい金属元素は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素から選ばれる少なくとも一種の元素であるから、触媒金属のリン被毒や硫黄被毒の抑制に有利になる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、請求項2において、Alよりもイオン半径が大きい金属元素は、希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素であるから、アルミナ系酸化物の層間に希土類元素の酸化物が形成され、排ガス浄化性能の向上に有利になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は自動車のエンジンの排ガス通路に配設される排ガス浄化用触媒(三元触媒)1が示されている。この触媒1は、排ガス通路を構成する多数のセル3を有する多孔質のハニカム状担体2を有し、図2に示すように、各セル壁5の表面に、排ガス浄化用の触媒層が形成されている。この触媒層は、セル壁5側の下層6に、セル(排ガス通路)3を流れる排ガスに直接晒される上層7が積層された二層構造になっている。
【0022】
なお、触媒層は単層構造にしてもよく、或いは三層以上を積層したものであってもよい。また、ハニカム状担体を採用せずに、ペレット状にした触媒を触媒コンバータ容器に充填したものであってもよい。
【0023】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0024】
−実施例1−
(触媒の構成)
本例は、図2のようにハニカム状担体に二層構造の触媒層を形成したハニカム触媒である。
【0025】
上層7には空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末と中実状Rh/La含有アルミナ粉末との混合物を配置した。空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末の担持量(特に断りがない限り、ハニカム状担体1L当たりの担持量のこと。以下、同じ。)は40g/L、中実状Rh/La含有アルミナ粉末の担持量は6g/Lであり、この両粉末によるRh担持量は0.3g/Lである。
【0026】
空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末は、Laを含有するアルミナにRhを担持させてなる粉末(中実)を用いて図3に示す中空殻8と破砕殻9との混合粉末にしたものであり、それらの殻壁には後述の空孔が形成されている。そのLa含有アルミナのLa/Alモル比は3/100である。中実状Rh/La含有アルミナ粉末は、Laを含有するアルミナにRhを担持してなる中実の粉末であり、上記殻状Rh/La含有アルミナの原料と同じものである。
【0027】
下層6には、アルミナ、セリア及びジルコニアの混合物粉末(いずれも中実)にPtを担持した中実状Pt/Al23・CeO2・ZrO2を配置した。アルミナ担持量は76g/L、セリア担持量は24g/L、ジルコニア担持量は20g/L、Pt担持量は1.5g/Lである。
【0028】
(空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末の調製)
上記空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末は以下の方法によって調製した。
【0029】
直径0.05〜1.3μm程度のポリビニルブチラール(PVB)の粉末を5%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液に入れて攪拌することにより、PVB溶液を作る。このPVB溶液に上述の中実状Rh/La含有アルミナ粉末及びテンプレートを添加して混合スラリーを調製する。混合スラリーの各成分の濃度は、例えばPVB溶液を55質量%、中実状Rh/La含有アルミナ粉末を35質量%、テンプレートを10質量%とする。
【0030】
テンプレートとしては、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドなどを用いる。
【0031】
上記混合スラリーを、ロート状滴下器具を用いて、KCl溶液を入れた容器内に滴下していくことにより、PVB粒子表面にRh/La含有アルミナ粉末がテンプレートと共にコーティングされた球状粒子を生成する。
【0032】
容器の底に堆積した球状粒子を取り出し、大気雰囲気において150℃の温度に2時間程度保持する乾燥処理、並びに大気雰囲気において500℃の温度に2時間程度保持する焼成処理を施す。この焼成により、PVB及びテンプレートは熱分解して焼失し、テンプレートの部分が空孔になった球状中空殻、すなわち、空孔を有する中空殻状Rh/La含有アルミナ粉末が得られる。その直径は0.05〜1.3μm程度となる。
【0033】
図4は空孔を有する当該中空殻のTEM(透過電子顕微鏡)写真であり、白い点状に写っている箇所が空孔である。図5は空孔部を拡大したTEM写真であり、中実状Rh/La含有アルミナ微粒子が凝集して当該中空殻が形成され、テンプレートが存在していた部分は上記微粒子が欠損した空孔になっている。図5には孔径が20nm程度の空孔が写っているが、上記テンプレートで得られる空孔の大きさは2nm以上25nm以下程度である。従って、図6に殻壁を模式的に示すように、凝集した微粒子11の一部が欠損して空孔12が形成されており、排ガスは矢符で示すように、空孔12を通って殻壁の外側から内側へ、或いは内側から外側へ拡散移動することができる。
【0034】
次いで上記中空殻の一部を破壊して球状曲面が残った破砕殻を得る。そのためには、中空殻の粉末を台の上に数mmの厚さに敷き、プレスで加圧して中空殻を破壊する。なお、エアハンマー方式、ピン回転方式等の衝撃式破砕法を用いて上記中空殻を破壊するようにしてもよい。この場合、中空殻にはせん断応力がかかり難いため、粉砕状態或いは扁平状態にならず、球状曲面が残った破砕殻を得る上で、つまりはシンタリングし難い破砕殻を得る上で有利になる。
【0035】
(触媒の調製(ハニカム状担体への触媒材料の担持))
そうして、上記Pt/Al23・CeO2・ZrO2をバインダ及び水と混合してスラリーを調製し、このスラリーにハニカム状担体を浸漬して引き上げ、エアブローによって余分なスラリーを吹き飛ばす。しかる後、大気雰囲気において150℃で2時間の乾燥及び500℃で2時間の焼成を行なうことにより、下層を形成する。
【0036】
次いで上記殻状Rh/La含有アルミナ粉末と中実状Rh/La含有アルミナ粉末との混合粉をバインダ及び水と混合してスラリーを調製し、このスラリーに上記下層を形成したハニカム状担体を浸漬して引き上げ、エアブローによって余分なスラリーを吹き飛ばす。しかる後、大気雰囲気において150℃で2時間の乾燥及び500℃で2時間の焼成を行なうことにより、上層を形成する。
【0037】
−実施例2−
本例も二層構造のハニカム触媒であり、実施例1との相違点は、空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末と中実状Rh/La含有アルミナ粉末との混合物に代えて、殻状Rh/層間Li含有アルミナ粉末と中実状Rh/La含有アルミナ粉末との混合物を上層7に配置したことであり、他の構成は実施例1と同じである。すなわち、上層7における殻状Rh/層間Li含有アルミナ粉末の担持量は40g/L、中実状Rh/La含有アルミナ粉末の担持量は6g/L、この両粉末によるRh担持量は0.3g/L、下層6には中実状Pt/Al23・CeO2・ZrO2が配置され、そのアルミナ担持量は76g/L、セリア担持量は24g/L、ジルコニア担持量は20g/L、Pt担持量は1.5g/Lである。
【0038】
殻状Rh/層間Li含有アルミナ粉末は、層間にAlよりもイオン半径が大きいLiが挿入された層状結晶アルミナにRhを担持してなる粉末(中実)を用いて図3に示す中空殻8と破砕殻9との混合粉末にしたものである。そのLi/Alモル比は3/100である。
【0039】
(殻状Rh/層間Li含有アルミナ粉末の調製法)
水とブタンジオール又はエチレングリコールとからなる溶媒に酢酸リチウムを溶解した溶液と、水酸化アルミニウム粉末とを混合することによってスラリーを調製し、該スラリーをオートクレーブ等の反応容器に移し、加圧下(0.98MPa〜1.37MPa)で加熱(例えば200℃の温度に24時間加熱)することにより、水熱反応を生じさせ、Liを担持したスラリー状のベーマイトを得る。この金属担持ベーマイトを水で洗浄し、乾燥させ、得られた粉末状の金属担持ベーマイトを加熱してゆっくり昇温(例えば、200℃から600℃まで8時間をかけて昇温)させ、焼成温度に保持して焼成(例えば600℃の温度に1時間保持)することにより、層間にLiが挿入された層状結晶構造を有する中実のアルミナ粉末を得る。
【0040】
この場合、図7(a)に模式的に示すように、水のみを溶媒とした場合、水熱処理によって層状のベーマイトが生成され、その層間に水分子が存在し、層同士が水分子を介して水素結合した状態になる。しかし、この層構造では、水分子が比較的小さいことから層間隔S1が狭く、イオン半径の小さなイオンは層間に入るが、Li等のイオン半径の大きなイオンは挿入され難い。
【0041】
これに対して、同図(b)に示すように、水分子よりも大きなエチレングリコールを溶媒として含む場合、このエチレングリコール分子が上記層間に入った状態になるとともに、そのことによって層間隔S2が広くなり、小さなイオンだけでなく、大きなイオンもベーマイト層間に挿入され易くなる。
【0042】
また、同図(c)に示すように、ブタンジオールを溶媒として含む場合、層間隔S3がさらに大きくなり、ベーマイト層間に挿入される半径の大きなイオンの数が多くなる。
【0043】
なお、本明細書でいう「La含有アルミナ」は、水のみを溶媒として水熱合成法によって調製したものであり、従って、イオン半径の大きなLaはアルミナ結晶の層間には存在しない。
【0044】
本実施例の場合、Liは上述の乾燥及び焼成によって化合物(酸化物)の形となってアルミナ結晶の層間に存在するようになる。そのため、アルミナ結晶の層間隔は、Liイオン半径よりも大きくなって、排ガスが当該層間を拡散移動できるようになる。図8はアルミナ結晶を模式的に示すものであり、Al原子13が平面状に配列して層状に重なったシート構造を形成し、相隣るシート間にLi酸化物14が介在している。
【0045】
そうして、上記中実の層間Li含有アルミナ粉末にRhを担持させ、該粉末を用いて中空殻を調製した。中空殻の調製法は実施例1と基本的には同じである。すなわち、直径0.05〜1.3μm程度のPVB粉末を5%のPVA水溶液に入れて攪拌することにより、PVB溶液を作る。このPVB溶液に上述の中実のRh/層間Li含有アルミナ粉末を添加して混合スラリーを調製する。混合スラリーの各成分の濃度は、例えばPVB溶液を60質量%、中実のRh/層間Li含有アルミナ粉末を40質量%とする。
【0046】
上記混合スラリーを、ロート状滴下器具を用いて、KCl溶液を入れた容器内に滴下していくことにより、PVB粒子表面に中実のRh/層間Li含有アルミナ粉末がコーティングされた球状粒子を生成する。
【0047】
容器の底に堆積した球状粒子を取り出し、大気雰囲気において150℃の温度に2時間程度保持する乾燥処理、並びに大気雰囲気において500℃の温度に2時間程度保持する焼成処理を施す。この焼成により、PVBは熱分解して焼失し、中空殻状のRh/層間Li含有アルミナ粉末が得られる。その直径は0.05〜1.3μm程度となる。
【0048】
実施例1ではテンプレートを用いて排ガス拡散移動用の空孔を形成したが、本実施例では、アルミナ結晶の層間を拡大して排ガスの拡散移動を図るようにしたから、テンプレートは使用しない。
【0049】
破砕殻は実施例1と同じ方法によって形成し、また、ハニカム状担体への触媒材料の担持も実施例1と同じ方法を採用した。
【0050】
なお、以上では水熱合成法によって中実の層間Li含有アルミナ粉末を調製し、それを用いて中空殻を調製するようにしたが、次の方法を採用することもできる。
【0051】
すなわち、直径0.05〜1.3μm程度のPVB粉末を5%のPVA水溶液に入れて攪拌することにより、PVB溶液を作る。このPVB溶液にアルミナ原料溶液(水酸化アルミニウム)とAlよりもイオン半径の大きな金属元素の溶液(Li等の硝酸塩溶液又は酢酸塩溶液)とを添加して混合スラリーを調製する。
【0052】
上記混合スラリーを、ロート状滴下器具を用いて、KCl溶液を入れた容器内に滴下していくことにより、PVB粒子表面に中実のRh/層間Li含有アルミナ粉末がコーティングされた球状粒子を生成する。容器の底に堆積した球状粒子を取り出し、大気雰囲気において150℃の温度に2時間程度保持する乾燥処理、並びに大気雰囲気において500℃の温度に2時間程度保持する焼成処理を施す。この焼成により、PVBは熱分解して焼失し、層間にAlよりもイオン半径の大きな金属元素が挿入された中空殻状のアルミナ粉末が得られる。その直径は0.05〜1.3μm程度となる。
【0053】
−実施例3−
本例も二層構造のハニカム触媒であり、実施例2との相違点はAlよりもイオン半径の大きな金属元素として、Liに代えてBaを採用して殻状Rh/層間Ba含有アルミナ粉末を形成したことであり、他の構成は実施例2と同じである。すなわち、上層7における殻状Rh/層間Ba含有アルミナ粉末の担持量は40g/L、中実状Rh/La含有アルミナ粉末の担持量は6g/L、この両粉末によるRh担持量は0.3g/L、下層6には中実状Pt/Al23・CeO2・ZrO2が配置され、そのアルミナ担持量は76g/L、セリア担持量は24g/L、ジルコニア担持量は20g/L、Pt担持量は1.5g/Lである。
【0054】
−実施例4−
本例も二層構造のハニカム触媒であり、実施例2との相違点は、Alよりもイオン半径の大きな金属元素としてLiに代えてCeを採用して、殻状Rh/層間Ce含有アルミナ粉末を形成したことであり、他の構成は実施例2と同じである。すなわち、上層7における殻状Rh/層間Ce含有アルミナ粉末の担持量は40g/L、中実状Rh/La含有アルミナ粉末の担持量は6g/L、この両粉末によるRh担持量は0.3g/L、下層6には中実状Pt/Al23・CeO2・ZrO2が配置され、そのアルミナ担持量は76g/L、セリア担持量は24g/L、ジルコニア担持量は20g/L、Pt担持量は1.5g/Lである。
【0055】
−比較例1−
本例は実施例1〜4と同じく二層構造のハニカム触媒であるが、上層7には実施例1の空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末に代えて、空孔のない殻状Rh/La含有アルミナ粉末を採用し、これと実施例1と同じ中実状Rh/La含有アルミナ粉末との混合物を配置し、下層6は実施例1と同じ構成(中実状Pt/Al23・CeO2・ZrO2を配置)とした。空孔のない殻状Rh/La含有アルミナ粉末は、テンプレートを使用しないことを除いて、上述の空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末と同じ調製法で調製した。
【0056】
上層7の空孔のない殻状Rh/La含有アルミナ粉末の担持量は40g/L、中実状Rh/La含有アルミナ粉末の担持量は6g/Lであり、この両粉末によるRh担持量は0.3g/Lである。下層6の中実状Pt/Al23・CeO2・ZrO2は、アルミナ担持量が76g/L、セリア担持量が24g/L、ジルコニア担持量が20g/L、Pt担持量が1.5g/Lである。
【0057】
−実施例5−
本例は、ペレットタイプの実施例であり、実施例1と同様に調製した空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末と中実状Rh/La含有アルミナ粉末とを一対一の質量比率で混合した粉末によってペレット触媒を調製した。空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末及び中実状Rh/La含有アルミナ粉末は、いずれもLa含有アルミナのLa/Alモル比が3/100であり、La含有アルミナ粉末120g当たりのRh担持量は0.2gである。
【0058】
−実施例6−
本例もペレット触媒であるが、実施例5の空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末に代えて、空孔を有する殻状Rh/Ce−Zr複酸化物粉末を採用し、これと実施例5と同じ中実状Rh/La含有アルミナ粉末とを一対一の質量比率で混合した粉末によってペレット触媒を調製した。
【0059】
空孔を有する殻状Rh/Ce−Zr複酸化物粉末は、Ce−Zr複酸化物にRhを担持させてなる粉末(中実)を用いて図3に示す中空殻8と破砕殻9との混合粉末にしたものであり、殻壁に空孔が形成されている。この空孔を有する殻状Rh/Ce−Zr複酸化物粉末は、触媒材料として中実状Rh/La含有アルミナ粉末に代えて中実状Rh/Ce−Zr−O粉末を採用することの他は、実施例1の空孔を有するRh/La含有アルミナ粉末と同じ方法で調製した。
【0060】
空孔を有する殻状Rh/Ce−Zr複酸化物粉末に関し、そのCe−Zr複酸化物はCeO2とZrO2との質量比率は一対一であり、Ce−Zr複酸化物120g当たりのRh担持量は0.2gである。ペレット触媒を構成する中実状Rh/La含有アルミナ粉末は、実施例5と同じく、La含有アルミナのLa/Alモル比が3/100であり、La含有アルミナ粉末120g当たりのRh担持量は0.2gである。
【0061】
−実施例7−
本例もペレット触媒であるが、実施例5の空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末に代えて、殻状Rh/層間La・Li含有アルミナ粉末を採用し、これと実施例5と同じ中実状Rh/La含有アルミナ粉末とを一対一の質量比率で混合した粉末によってペレット触媒を調製した。
【0062】
殻状Rh/層間La・Li含有アルミナ粉末は、層間にAlよりもイオン半径が大きいLa及びLiが挿入された層状結晶構造のアルミナにRhを担持してなる粉末(中実)を用いて図3に示す中空殻8と破砕殻9との混合粉末にしたものである。そのLa/Li/Alのモル比は3/3/100である。層間La・Li含有アルミナ粉末120g当たりのRh担持量は0.2gである。中実状Rh/La含有アルミナ粉末は、実施例5と同じく、La含有アルミナのLa/Alモル比が3/100であり、La含有アルミナ粉末120g当たりのRh担持量は0.2gである。
【0063】
層間La・Li含有アルミナ粉末は、実施例2の層間Li含有アルミナ粉末と同様の方法によって調製し、得られた層間La・Li含有アルミナ粉末にRhを担持させた。中空殻の調製及び破砕殻を形成は実施例1と同じ方法を採用した。
【0064】
−比較例2−
本例は実施例5〜7と同じくペレット触媒であるが、実施例5の空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末に代えて、空孔のない殻状Rh/La含有アルミナ粉末を採用し、これと実施例5と同じ中実状Rh/La含有アルミナ粉末とを一対一の質量比率で混合した粉末によってペレット触媒を調製した。空孔のない殻状Rh/La含有アルミナ粉末は比較例1のそれと同じ方法で調製した。空孔のない殻状Rh/La含有アルミナ粉末及び中実状Rh/La含有アルミナ粉末は、いずれもLa含有アルミナのLa/Alモル比が3/100であり、La含有アルミナ粉末120g当たりのRh担持量は0.2gである。
【0065】
<触媒の評価>
上記実施例及び比較例の各触媒について、大気雰囲気において1000℃の温度に24時間保持するエージングを行なった後、モデルガス流通反応装置に取り付け、空燃比リッチのモデル排ガス(温度600℃)を20分間流した後、下記のモデル排ガスにより、HC(炭化水素)の浄化に関するライトオフ温度T50を測定した。T50は、触媒に流入するモデル排ガス温度を常温から500℃まで漸次上昇させていき、浄化率が50%に達したときの触媒入口のガス温度である。モデル排ガスは、A/F=14.7±0.9とした。すなわち、A/F=14.7のメインストリームガスを定常的に流しつつ、所定量の変動用ガスを1Hzでパルス状に添加することにより、A/Fを±0.9の振幅で強制的に振動させた。空間速度SVは60000h-1、昇温速度は30℃/分である。
【0066】
結果を表1に示す。同表において、
殻状Rh/La-Al2O3(空孔有)は空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末を表し、
中実Rh/La-Al2O3は中実状Rh/La含有アルミナ粉末を表し、
中実Pt/(Al2O3+CeO2+ZrO2)は中実状Pt/Al23・CeO2・ZrO2粉末を表し、
殻状Rh/層間Li含有Al2O3は殻状Rh/層間Li含有アルミナ粉末を表し、
殻状Rh/層間Ba含有Al2O3は殻状Rh/層間Ba含有アルミナ粉末を表し、
殻状Rh/層間Ce含有Al2O3は殻状Rh/層間Ce含有アルミナ粉末を表し、
殻状Rh/La-Al2O3(空孔無)は空孔のない殻状Rh/La含有アルミナ粉末を表し、
殻状Rh/Ce-Zr-O(空孔有)は空孔を有する殻状Rh/Ce−Zr複酸化物粉末を表し、
殻状Rh/層間La・Li含有Al2O3は殻状Rh/層間La・Li含有アルミナ粉末を表す。
【0067】
【表1】

【0068】
まず、ハニカム触媒をみると、実施例1と比較例1とは、上層の殻状Rh/La含有アルミナ粉末における空孔の有無のみが相違するが、実施例1は比較例1よりもHC浄化に関するT50が10℃以上も低い。これは、実施例1の場合、排ガスが殻壁の空孔を通ることができるから、触媒層での排ガスの拡散移動が容易になったこと、そのため、殻壁の外側面だけでなく、殻壁内部及び殻壁内側面に存するRhが排ガスの浄化に効率良く利用されたことによると認められる。
【0069】
実施例2〜4は、実施例1の空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末に代えて、層間にLi、Ba又はCeを挿入した殻状のRh担持アルミナ粉末を採用したものであるが、HCの浄化に関するT50が実施例1よりもさらに低くなっている。これは、殻壁を構成するアルミナ結晶の層間がLi等によって拡大され、その層間を排ガスが拡散移動できるようになったためと認められる。この点に関連して、比較例1はアルミナがAlよりもイオン半径が大きいLaを含有しているものの、上述したように水のみを溶媒として水熱合成したものであって、上記T50が実施例2〜4よりも高くなっていることから、そのLaはアルミナ結晶の層間には挿入されていないということができる。
【0070】
実施例3の方が実施例2よりもT50が低くなっているのは、Baの方がLiよりもイオン半径が大きいことが関係していると考えられる。CeはBaよりもイオン半径が小さいにも拘わらず、Ceを採用した実施例4の方がBaを採用した実施例3よりもT50が低くなっているのは、アルミナ結晶の層間にCeの酸化物が生成し、その酸素吸蔵能によってHCの浄化性能が高くなったためと考えられる。
【0071】
次にペレット触媒をみると、実施例5と比較例2との関係も、実施例1と比較例1との関係と同じく、殻状Rh/La含有アルミナ粉末における空孔の有無のみが相違するが、実施例5は比較例2よりもHC浄化に関するT50が10℃以上も低い。これは、上記空孔により排ガスのペレット内への拡散移動が容易になり、ペレット内のRhが排ガスの浄化に効率良く利用されたことによると認められる。このことから、ハニカム触媒に限らず、ペレット触媒でも本発明は有用であることがわかる。
【0072】
実施例6は、実施例5の空孔を有する殻状Rh/La含有アルミナ粉末に代えて、空孔を有する殻状Rh/Ce−Zr複酸化物粉末を用いたものであるが、HC浄化に関するT50は実施例5よりも少し良くなっている。これは、Ce−Zr複酸化物が有する酸素吸蔵能がHCの浄化に有利に働いたためと認められる。
【0073】
実施例7は、アルミナ結晶の層間にLaとLiとを挿入したものであるが、このケースでも比較例よりT50が低くなっている。従って、アルミナ結晶の層間にイオン半径が大きな金属元素が2種以上挿入された場合にも排ガス浄化性能の向上に有効であることがわかる。
【0074】
なお、本発明は三元触媒に限らず、リーンNOx触媒など、他の排ガス浄化用触媒にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る排気ガス浄化用触媒の斜視図である。
【図2】同触媒の一部を示す横断面図である。
【図3】同触媒の空孔を有する殻状酸化物粉末を模式的に示す断面図である。
【図4】同殻状酸化物粉末のTEM写真である。
【図5】同殻状酸化物粉末の一部を拡大したTEM写真である。
【図6】同殻状酸化物粉末の殻壁の一部を模式的に示す図である。
【図7】アルミナ水熱合成時の溶媒の違いがアルミナの結晶構造に与える影響を模式的に示す説明図である。
【図8】本発明に係るイオン半径の大きな金属元素が層間に介在するアルミナ結晶を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 触媒
2 ハニカム状担体
3 セル(排気ガス通路)
5 セル壁
6 下層
7 上層
8 中空殻
9 破砕殻
11 酸化物微粒子
12 空孔
13 Al原子
14 Li酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物粉末と触媒金属とを有する排ガス浄化用触媒であって、
上記酸化物粉末は、Al又は希土類元素を含有する酸化物微粒子が凝集してなる中空殻と、該中空殻を壊してなる破砕殻とが混合されたものであり、
上記中空殻及び破砕殻各々の殻壁には空孔が形成されていることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
酸化物粉末と触媒金属とを有する排ガス浄化用触媒であって、
上記酸化物粉末は、Al又は希土類元素を含有する酸化物微粒子が凝集してなる中空殻と、該中空殻を壊してなる破砕殻とが混合されたものであり、
上記アルミナ系酸化物は、層状結晶構造をとり、その層間にAlよりもイオン半径が大きい金属元素が挿入されていることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項2において、
Alよりもイオン半径が大きい金属元素は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素から選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項2において、
Alよりもイオン半径が大きい金属元素は、希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−175322(P2006−175322A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369288(P2004−369288)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】