説明

排ガス浄化用触媒

【課題】浄化性能に優れ、かつ、高温の排ガスに晒されても浄化性能を維持することができる排ガス浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】ここで開示される排ガス浄化用触媒は、基材32の表面上に形成された触媒コート層40を備え、該触媒コート層40は、アルミナ(Al)とセリア(CeO)とジルコニア(ZrO)とからなるACZ複合酸化物を含む担体にPd粒子が担持された下層触媒コート層34と、多孔質担体にRh粒子が担持された上層触媒コート層36と、から成ることを特徴とする。下層触媒コート層(Pd触媒層)34の担体としてACZ複合酸化物を用いることにより、排ガス浄化用触媒の耐久試験後のOSC低下が大幅に抑制され、触媒の浄化性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関するものである。詳しくは、当該触媒を構成するセラミックス担体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンから排出される排ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、及び窒素酸化物(NOx)を浄化するための触媒として、三元触媒が広く用いられている。三元触媒の代表的な構成としては、高耐熱性セラミックス基材の表面にアルミナコート層を形成し、このコート層に貴金属触媒である白金(Pt)、パラジウム(Pd)、及びロジウム(Rh)を担持させたものが挙げられる。
【0003】
このような三元触媒を用いて効率的に排ガス中の上記成分を浄化、即ち酸化または還元によりHO、CO、又はNとするためには、エンジンに供給される空気とガソリンの混合比率である空燃比が理論空燃比(ストイキ)近傍でなければならない。従来、触媒が有効に働くことができる空燃比の範囲である触媒浄化ウィンドウの幅を広げる目的で、排ガス浄化用触媒にセリウム酸化物(CeO)に代表される酸素吸蔵放出能(Oxygen Storage Capacity : 以下OSCという)を有する酸素吸蔵材を併用することが広く行われている。排ガス浄化用触媒に含有される酸素吸蔵材は、排ガスの空燃比がリーンであるとき(即ち酸素過剰側の雰囲気)には排ガス中の酸素を吸蔵し、排ガスの空燃比がリッチであるとき(即ち燃料過剰側の雰囲気)には吸蔵されている酸素を放出するという働きをする。これにより、排ガス中の酸素濃度が変動したときでも安定した触媒性能が得られるようになり、触媒の浄化性能が向上する。酸素吸蔵材を用いた代表的な触媒構成としては、基材の表面にアルミナ及び酸素吸蔵材を所定の割合で混合した組成物をコートし、そこに貴金属触媒(Pt、Pd、Rhなど)を担持させたものが挙げられる。
【0004】
また、近年ではさらなる浄化性能向上のために、触媒コート層を二層構造とし、Pt又はPdと、Rhとを分離担持させた排ガス浄化用触媒が提案されている。貴金属触媒の全てを一つの担体層に担持させるのではなく、触媒コート層を少なくとも上下二層を有する積層構造に形成し、一方の層にPt又はPdを、他方の層にRhをそれぞれ分離して担持させることにより、RhがPt又はPdと合金化することによる触媒活性の低下を抑制する効果がある。例えば特許文献1、特許文献2、および特許文献3には、酸素吸蔵材であるCe−Zr複合酸化物(以下、「CZ複合酸化物」ともいう。)を含む担体にPd又はPtが担持された下層と、CZ複合酸化物などを含む担体にRhが担持された上層からなる二層構造の排ガス浄化用触媒が記載されている。
【0005】
一方、貴金属触媒の担体としては、上述のとおりアルミナ(Al)と、酸素吸蔵放出能(OSC)を持つセリウム酸化物(典型的にはCeO)の混合物などが広く使用されている。しかしながら、セリウム酸化物はアルミナと比較して耐熱性が低く、高温で用いると結晶構造が変化したり結晶成長が進行したりし、比表面積が減少することが知られている。その結果、貴金属触媒とセリウム酸化物とを含む三元触媒は、800℃以上の高温域で使用すると、その後の触媒のOSCが大幅に低下するという問題があった。またこれに伴い、耐久後の触媒の低温における浄化性能が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、セリウム酸化物の結晶成長を抑制する目的でセリウム酸化物以外にジルコニウム酸化物を添加し、CZ複合酸化物又は固溶体としたものを酸素吸蔵材として用いることが広く行われている(例えば特許文献1)。しかしながら、CZ複合酸化物を用いてもなお、耐久後の触媒の低温における触媒活性は十分ではなかった。
【0007】
そこで特許文献4には新たに、金属アルコキシドから調製されたアルミニウム(Al)−セリウム(Ce)−ジルコニウム(Zr)複合酸化物を酸素吸蔵材として用いる技術が開示されている。特許文献4の記載によると、当該Al−Ce−Zr複合酸化物はAlとCe及びZrが原子又は分子レベルで均一に混合されて小さな一次粒子を構成しており、Pt及びRhをAl−Ce−Zr複合酸化物を含む担体に担持させた触媒は、Pt及びRhをアルミナ及びCZ複合酸化物を単純に混合させた担体に担持させた触媒より、耐久後のOSC低下が抑制されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−648号公報
【特許文献2】特開2010−115591号公報
【特許文献3】特開2010−119994号公報
【特許文献4】特開平10−202102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献に記載されるような従来の排ガス浄化用触媒について、さらなる浄化性能の向上が望まれている。特に従来の触媒は高温の排ガスに晒された耐久後に、触媒活性が初期段階と比較して大幅に低下することが問題であった。これは貴金属触媒が担持されているセリウム酸化物を含む担体において、触媒の高温での耐久使用後のOSCが、使用初期と比較し大幅に低下することが原因のひとつであると考えられる。耐久後にOSCが低下する理由の一つは上記したとおり、高温域でセリウム酸化物の結晶成長が進行するためである。
【0010】
また、近年の燃費制限の強化に伴い、ディーゼルエンジンのみならずガソリンエンジンでも排ガス温度が低くなる傾向にあり、例えばハイブリッド車のガソリンエンジンは低温条件下での運転頻度が高い。従って、低温であっても触媒活性が低下しないことが重要となっている。しかしながら、従来の排ガス浄化用触媒では耐久試験後の低温活性が十分ではなかった。
【0011】
本発明は、かかる排ガス浄化用触媒の事情に鑑みてなされたものであり、浄化性能に優れ、かつ、高温の排ガスに晒されても浄化性能を維持することができる排ガス浄化用触媒の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究に努めた結果、以下の構成の排ガス浄化用触媒を創出した。即ち、ここに開示される排ガス浄化用触媒は、基材と、該基材の表面に形成された多孔質担体からなる触媒コート層と、該触媒コート層の多孔質担体に担持された貴金属触媒と、を備える。上記触媒コート層は、基材表面に近い方を下層とし相対的に遠い方を上層とする上下層を有する積層構造に形成されている。また、上記上層は貴金属触媒としてRh粒子を備えており、下層は貴金属触媒としてPd粒子を備えている。そして、ここで開示される排ガス浄化用触媒は、上記下層が、上記Pd粒子が担持された多孔質担体としてアルミナ(Al)とセリア(CeO)とジルコニア(ZrO)とからなる複合酸化物(以下「ACZ複合酸化物」ともいう。)により構成された担体を備えていることを特徴とする。
かかる構成の排ガス浄化用触媒では、上記積層構造タイプの触媒コート層の下層であるPd触媒層の多孔質担体が上記ACZ複合酸化物から構成されている(以下「ACZ担体」ともいう。)。このことにより、高温の排ガスに晒された際の触媒担体(ここではPdの担体)の結晶成長(シンタリング)を抑制し、同時にOSCの低下を防止することができる。
従って、本構成の排ガス浄化用触媒によると、耐久性(特に耐熱特性)が向上し、安定した触媒活性を保持することができる。また、ACZ担体を備えることにより、比較的低い温度領域(例えば300〜600℃)での触媒活性(低温活性)を向上させることができる。
【0013】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記下層(以下、「Pd触媒層」ともいう。)中のACZ複合酸化物におけるCe/Zr原子比は0.6以下であることを特徴とする。
かかるCe/Zr原子比が0.6以下(例えば0.1以上0.6以下、より好ましくは0.15以上0.55以下)であると、ACZ担体の一層の耐久性(耐熱性)向上を図ることができる。かかるCe/Zr原子比が0.4〜0.55程度であると、高耐久性と高いOSC値とを両立することができるため、特に好ましい。
【0014】
また、ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい他の一態様では、上記ACZ複合酸化物におけるアルミナ(Al)成分の含有率が40〜70質量%であることを特徴とする。
アルミナ成分の含有率を上記範囲とすることにより、ACZ担体の耐熱性の向上と高いOSC値、及び高い低温活性をより好適に実現することができる。
【0015】
また、ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい他の一態様では、上記上層(以下、「Rh触媒層」ともいう)は、上記Rh粒子が担持された多孔質担体として、セリアとジルコニアとからなるCZ複合酸化物とアルミナとの混合物(以下「Al−CZ混合物」ともいう。)により構成された担体(以下「Al−CZ担体」ともいう。)を備えていることを特徴とする。
このような上層(Rh触媒層)を上記のようなPd触媒層と組み合わせて設けることにより、Rh触媒層による高い触媒活性を発揮させることができる。
特に上記Al−CZ担体において、上記CZ複合酸化物におけるCe/Zr原子比を0.5以上(例えば0.5以上0.8以下、特に0.7以上、例えば0.7以上0.8以下)とすることにより、Rh触媒層において高いOSCを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態による排ガス浄化用触媒を模式的に示すものである。
【図2】図1の排ガス浄化用触媒におけるリブ壁部分の構成を模式的に示す説明図である。
【図3】下層担体におけるセリウム及びジルコニウムの原子比(Ce/Zr)と、耐久試験前後における触媒のOSCの関係を示すグラフである。
【図4】複数の実施例及び比較例における触媒の耐久試験後の50%浄化温度を示すグラフである。
【図5】下層担体におけるアルミナ含有率と、触媒の耐久試験後の50%浄化温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明の排ガス浄化用触媒は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
ここで開示される排ガス浄化用触媒は上述したとおり、基材と、該基材の表面に形成された多孔質担体からなる触媒コート層と、該触媒コート層の多孔質担体に担持された貴金属触媒と、からなり、上記触媒コート層は積層構造に形成されていることを特徴とする。
【0018】
ここで開示される排ガス浄化用触媒を構成する上記基材としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。例えば、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)から形成されたハニカム構造を備えるハニカム基材などを好適に採用することができる。一例として外形が円筒形状であるハニカム基材であって、その筒軸方向に排ガス通路としての貫通孔(セル)が設けられ、各セルを仕切る隔壁(リブ壁)に排ガスが接触可能となっているものが挙げられる。基材の形状はハニカム形状の他にフォーム形状、ペレット形状などとすることができる。また基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
図1は排ガス浄化用触媒の一典型例の模式図である。即ち、本形態の排ガス浄化用触媒10は、複数の規則的に配列されたセル20と、該セル20を構成するリブ壁30を有するハニカム基材12を備える。
図2は図1のハニカム基材12におけるリブ壁30の表面部分の構成を模式的に示す説明図である。即ち、リブ壁30は、基材32と、その表面に形成された二層構造の触媒コート層40を備えている。詳しくは、かかる二層構造の触媒コート層40は、基材32側に近い方であって貴金属触媒としてPdが担持されている下層34(以下「下層触媒コート層34」あるいは「Pd触媒層34」ともいう。)と、基材32から遠い方であって貴金属触媒としてRhが担持されている上層36(以下「上層触媒コート層36」あるいは「Rh触媒層36」ともいう。)からなる。
ここで開示される排ガス浄化用触媒10を構成する触媒コート層40の積層構造は、上記基材32の表面にまず下層触媒コート層34を形成し、その後、該下層触媒コート層34の表面に上層触媒コート層36を形成することにより得られる。
【0019】
ここで開示される排ガス浄化用触媒10を構成する上記下層(Pd触媒層)34の担体には上記ACZ複合酸化物が含有される。該ACZ複合酸化物は、例えばアルコキシド法又は共沈法により製造される。アルコキシド法では、出発材料として、Al、Ce、又はZrの全て、又は少なくとも一種を金属アルコキシドとし、金属アルコキシド以外の成分は硝酸塩などの金属塩を用いる。これらを適当な溶媒に溶解、さらに混合し、加水分解及び重縮合反応を進行させた後、熱処理をすることによりACZ複合酸化物を得ることができる。共沈法では、水溶性アルミニウム塩、水溶性セリウム塩、及び水溶性ジルコニウム塩の混合水溶液にアルカリ物質を添加することで前駆体である水酸化物を共沈させ、その共沈物を焼成することでACZ複合酸化物を得ることができる。
アルコキシド法により作製されたACZ複合酸化物は、AlとCe及びZrが原子又は分子(酸化物)レベルでほぼ均一に混合しており、このようなACZ複合酸化物は高い耐熱性と高いOSCを示すため好ましい。
【0020】
ここで下層34担体に用いられるACZ複合酸化物におけるCe/Zr原子比は、1±0.1程度或いはそれ以下であれば適当であるが、0.6以下、例えば0.1以上0.6以下(より好ましくは0.15以上0.55以下)とすることが好ましい。Ce/Zrをこの範囲にすると、Pd触媒層34において高い触媒活性とOSCを実現することができる。
【0021】
上記ACZ複合酸化物のアルコキシド法による製造プロセスにおいて、熱処理は500℃以上900℃以下で行うことが好ましい。かかる温度で熱処理をすると耐久試験後のOSC低下を一層抑制することができる。熱処理温度が500℃未満では、耐久試験後の結晶成長によるOSCの低下を抑制する効果が少なく、また、熱処理に長時間を要する。熱処理温度が900℃を超えると、ACZの成長が進行してしまい、OSCが低下する。
ここで開示されるACZ複合酸化物の一次粒子の粒径は微細であることが好ましく、例えば一次粒子の平均粒径(SEMまたはTEM観察に基づく平均値。以下同じ。)が10nm以下、BET比表面積が30m/g以上であるACZ複合酸化物粉末を好適に使用することができる。一次粒子の粒径(平均粒径)が10nmよりも大きすぎ、かつBET比表面積が30m/gよりも小さすぎる場合は、それから得られたACZ担体のOSCが低くなりがちであり触媒活性が低下するため好ましくない。
【0022】
また、下層(Pd触媒層)34の担体にはACZ複合酸化物の他に、La、Y、又はPr11などの希土類酸化物を含有することができる。上記希土類酸化物を含有することでACZ複合酸化物の熱安定性がさらに向上する。例えば高い焼結抑制効果が得られる。
希土類酸化物は単独酸化物として担体粉末に物理混合してもよいし、複合酸化物の一成分とすることもできる。この場合、担体全体の質量に対する希土類酸化物の添加量は2質量%以上6質量%以下とすることが好ましい。希土類酸化物の添加量が2質量%よりも少なすぎると、焼結抑制の効果が少なく、6質量%を超えると相対的にACZ複合酸化物の組成比が低下するため、担体の耐熱性及びOSCが低下する。
上記下層34の多孔質担体に担持させるPdの担持量は特に制限されないが、下層34担体の全質量に対して0.05〜2質量%の範囲(例えば0.5〜1質量%)とすることが適当である。これより少ないと十分な触媒活性が得られず、これより多く担持させても効果が飽和するとともにコスト面で不利である。
下層触媒コート層34を形成するためには、ACZ複合酸化物粉末を含むスラリーを基材32表面にウォッシュコートし、それにPdを担持してもよいし、ACZ複合酸化物粉末に予めPdを担持した触媒粉末を含むスラリーを基材32表面にウォッシュコートしてもよい。
【0023】
ここで開示される排ガス浄化用触媒10を構成する上記上層(Rh触媒層)36の多孔質担体には、アルミナ(Al)、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、これらの固溶体または複合酸化物など、従来この種の担体として用いられている物質を含有することができる。例えば、アルミナとCZ複合酸化物の混合物(Al−CZ混合物)を用いると、高い耐熱性及び触媒活性が示されるため好ましい。
【0024】
ここで上層36担体に用いられるCZ複合酸化物におけるCe/Zr原子比は、1±0.1程度或いはそれ以下であれば適当であるが、0.5以上(例えば0.5以上0.8以下、特に0.7以上、例えば0.7以上0.8以下)とすることが好ましい。Ce/Zrをこの範囲にすると、Rh触媒層36において高い触媒活性とOSCを実現することができる。
【0025】
また、上記上層36担体には焼結抑制の目的で、La、Y、又はPr11などの希土類酸化物を添加混合してもよい。上記希土類酸化物は単独酸化物として担体粉末に物理混合してもよいし、複合酸化物の一成分とすることもできる。希土類酸化物の添加量は担体全体の質量に対して2質量%以上6質量%以下とすることが好ましい。希土類酸化物添加量が2質量%より少なすぎると焼結抑制の効果が低く、6質量%より多すぎると相対的に担体中のAlやCeOの量が減るため耐熱性およびOSCが低下する。
上記上層36の多孔質担体に担持させるRhの担持量は特に制限されないが、上層36担体の全質量に対して0.01〜1質量%の範囲(例えば0.05〜0.5質量%)とすることが適当である。これより少ないと十分な触媒活性が得られず、これより多く担持させても効果が飽和するとともにコスト面で不利である。
上層触媒コート層36を形成するためには、担体粉末を含むスラリーを下層触媒コート層34の表面にウォッシュコートし、それにRhを担持させてもよいし、担体粉末に予めRhを担持した触媒粉末を含むスラリーを下層触媒コート層34の表面にウォッシュコートしてもよい。
【0026】
触媒コート層40をウォッシュコートにより形成するプロセスにおいて、基材32表面、あるいは下層34担体表面にスラリーを適当に密着させるため、スラリーにはバインダーを含有させることが好ましい。バインダーとしては、例えばアルミナゾル、シリカゾル等が好ましい。スラリーの粘度は、スラリーが基材(例えばハニカム基材12)のセル20内へ容易に流入しうるものとすべきである。
また、上記スラリーには、担体の熱安定性を高めるため、La安定化Alを添加することができる。このとき、La安定化Alの添加量はスラリーの体積1L当たり15g〜50gとすることが好ましい。La安定化Alの添加量がスラリー1L当たり15gより少なすぎるときは、Laを添加したことによる熱安定性向上の効果が十分でなく、50gより多すぎると相対的に他の成分であるACZ複合酸化物やCZ複合酸化物などの混合割合が減少し、OSCが低下する。
【0027】
基材32表面にウォッシュコートされたスラリーの乾燥条件は基材または担体の形状及び寸法により左右されるが、典型的には80〜120℃程度(例えば100〜110℃)で1〜10時間程度であり、焼成条件は、約400〜1000℃程度(例えば500〜700℃)で約2〜4時間程度である。
触媒コート層40の成形量は特に制限されないが、例えば下層触媒コート層34と上層触媒コート層36の合計量がハニカム基材12の体積1L当たり5〜500g程度であることが好ましい。ハニカム基材12の体積1L当たりの触媒コート層40の量が5gよりも少なすぎる場合は、触媒コート層としての機能が弱く担持されている貴金属粒子の粒成長を招く虞がある。また、触媒コート層40の量が500gを超えると、ハニカム基材12のセル20内を排気ガスが通過する際の圧力損失の上昇を招く。
なお、触媒コート層40の積層構造は上層36として上述したようなRh触媒層があり、下層34として上述したようなPd触媒層があればよく、当該二つの層に加えて他の層(例えば基材に近接した別の層)を有する3層以上であってもよい。
【0028】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示
すものに限定することを意図したものではない。
【0029】
[製造例:実施例1〜実施例6]
まず、下層の触媒コート層(Pd触媒層)34の担体として用いるためのACZ複合酸化物粉末を製造した。ACZ複合酸化物を得るためには、出発原料として硝酸セリウム(III)六水和物(Ce(NO・6HO)、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO・2HO)、及びアルミニウムイソプロポキシド(Al[OCH(CH)を用い、これらを水又はアルコール溶媒に溶解した後、混合し、80℃で48時間撹拌した。得られた沈殿を水洗いした後、乾燥させ、500℃で2時間焼成することによりACZ複合酸化物粉末が得られた。得られたACZ複合酸化物粉末のTEM観察に基づく一次粒子の平均粒径は4nm〜5nmであり、BET比表面積は180m/gであった。
【0030】
上記製造プロセスにより、Al、Ce、及びZrの組成比が異なるACZ複合酸化物を合計6種類製造した(実施例1〜6)。それぞれのAl、Ce、及びZrの組成比を表1に示す。ただし、表1における各成分の組成比は、得られたACZ複合酸化物を100質量%としたときのAl含有率(質量%)、CeO含有率(質量%)、ZrO含有率(質量%)、さらに添加物として加えた希土類酸化物の含有率(質量%)に換算したものである。このときのACZ複合酸化物中のセリウムとジルコニウムの原子比(Ce/Zr)は0.19(実施例1)、0.52(実施例2)、0.74(実施例3)、1.03(実施例4)、0.89(実施例5)、及び0.97(実施例6)であった。
【0031】
【表1】

【0032】
次に、ACZ複合酸化物粉末に対し、硝酸パラジウム(Pd(NO)溶液を用いてPdを担持し、大気中300℃で3時間焼成し、Pd担持ACZ複合酸化物粉末を得た。得られたPd担持ACZ複合酸化物粉末を100質量%としたとき、担持したPdは0.58質量%である。
得られたPd担持ACZ複合酸化物粉末に、La安定化Al粉末、Alバインダー、及び蒸留水を混合し下層用スラリーを調製した。スラリー中における各成分の単位体積あたりの質量は表2の通りである。
【0033】
【表2】

【0034】
次に、上層の触媒コート層(Rh触媒層)36の担体として用いるためのCZ複合酸化物を共沈法により作製した。即ち、出発原料として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO・6HO)と、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO・2HO)を用い、これらを蒸留水に溶解し水溶液としたのち、混合する。この溶液を中和当量の1.2倍のNHを含有するNHOH水溶液に撹拌しながら加え、水酸化物沈殿を得た。得られた沈殿を遠心分離して上澄みを除去し、純水で3回洗浄した後、800℃の熱処理を5時間おこなうことにより、CZ複合酸化物を得た。
【0035】
得られたCZ複合酸化物と所定量のAlを乳鉢で混合し、上層担体として用いるためのAlとCZ複合酸化物の混合物(Al-CZ混合物)を得た。Al-CZ混合物中におけるAl、Ce、Zrの割合は、該Al-CZ混合物を100質量%としたときのAlの含有率が44質量%、CeO含有率が28質量%、ZrO含有率が25質量%、さらに添加物として加えたPr11の含有率が3質量%となるようにした。また、このときのCZ複合酸化物中のセリウムとジルコニウムの原子比(Ce/Zr)は0.74であった(表3)。
【0036】
【表3】

【0037】
Al-CZ混合物に対し、所定濃度の硝酸ロジウム(Rh(NO)溶液を用いてRhを担持させ、大気中、500℃で3時間焼成した。Rh担持Al-CZ混合物を100質量%としたとき、担持したRhは0.17質量%である。
得られたRh担持Al-CZ混合物と、La安定化Al、Alバインダー、及び蒸留水を混合し上層用スラリーを調製した。スラリー中の各成分の単位体積当たりの質量は表2の通りである。実施例1〜6に係る上層用スラリーは全て上記製造プロセス及び組成により作製した。
【0038】
触媒コート層の積層構造を形成するためには、コージェライト製ハニカム基材の表面に下層用スラリーをウォッシュコートし、余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して下層触媒コート層を形成した。次いで、上層用スラリーをウォッシュコートし、余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して上層触媒コート層を形成することにより、実施例1〜6に係る排ガス浄化用触媒を製造した。
【0039】
[製造例:比較例1〜比較例3]
下層触媒コート層(Pd触媒層)34の担体として、ACZ複合酸化物の代わりに、AlとZrOから成るAl-Zr複合酸化物(AZ複合酸化物)を用いた触媒を作製した(比較例1)。AZ複合酸化物は、上記実施例1〜6に係るACZ複合酸化物の製造プロセスにおいて、出発原料に硝酸セリウムを含有しないこと以外は同様の製造プロセスにより作製した。AZ複合酸化物中のAlとZrの組成比は、該AZ複合酸化物を100質量%としたときAl含有率が50.65質量%、及びZrO含有率が45.31質量%となるようにした。このときの下層担体中におけるセリウムとジルコニウムの原子比(Ce/Zr)は当然に0である(表1)。
【0040】
また、下層触媒コート層(Pd触媒層)34の担体として、ACZ複合酸化物の代わりに、CZ複合酸化物を用いた触媒を作製した(比較例2)。CZ複合酸化物は上記実施例1〜6に係る上層(Rh触媒層)担体のCZ複合酸化物の製造プロセスと同様のプロセスにより作製した。CZ複合酸化物中のCeとZrの組成比は、該CZ複合酸化物を100質量%としたときCeO含有率が30質量%、及びZrO含有率が60質量%になるようにした。このときの下層担体中におけるセリウムとジルコニウムの原子比(Ce/Zr)は0.3である(表1)。
【0041】
さらに、下層触媒コート層34の担体として、ACZ複合酸化物の代わりに、AlとCZ複合酸化物の混合物(Al-CZ混合物)を用いた触媒を作製した(比較例3)。Al-CZ混合物は上記実施例1〜6に係る上層(Rh触媒層)担体のAl-CZ混合物の製造プロセスと同様のプロセスにより作製した。Al-CZ混合物中のAl、CeおよびZrの組成比は、該Al-CZ混合物を100質量%としたときAl含有率が50質量%、CeO含有率は15質量%、及びZrO含有率が30質量%となるようにした。このときの下層担体中におけるセリウムとジルコニウムの原子比(Ce/Zr)は0.3である(表1)。
【0042】
それぞれの下層担体粉末に対し、硝酸パラジウム(Pd(NO)溶液を用いてPdを担持し、大気中300℃で3時間焼成し、Pdを担持した下層担体粉末を得た。得られたPd担持下層担体粉末を100質量%としたとき、担持したPdは0.58質量%である。得られたPd担持下層担体粉末に、La安定化Al粉末、Alバインダー、及び蒸留水を混合し下層用スラリーを調製した。スラリー中における各成分の単位体積あたりの質量は表2の通りである。
【0043】
比較例1〜3に係る上層用スラリーについては、上記実施例1〜6に係る上層用スラリーの製造プロセス及び組成比と同様に作製した。また、比較例1〜3に係る触媒コート層の積層構造の形成についても、上記実施例1〜6に係る積層構造の製造プロセスと同様とし、比較例1〜3に係る排ガス浄化用触媒を製造した。
【0044】
[OSC測定試験]
実施例1〜4及び比較例1〜3に係る排ガス浄化用触媒について、耐久試験前と耐久試験後のOSCを測定した。耐久試験は、実施例1〜4及び比較例1〜3に係る触媒をV8エンジン(3UZ−FE)排気系にそれぞれ設置し、触媒床温度1000℃で25時間保持することにより行った。OSCの測定は、熱重量分析器を用いて水素と酸素を交互に流通させて試料の酸化還元を繰り返し、その際の重量変化を測定することにより求めた。結果を図3に示す。
【0045】
図3に示す結果から明らかなように、実施例1及び実施例2では耐久試験の前後におけるOSCはほとんど変化していない。ここで、実施例1及び実施例2の耐久試験の前後におけるOSC低下率(耐久試験の前後のOSC値の差の絶対値を耐久試験前OSC値で除したもの)は10%以下であった。一方、比較例2(下層担体:CZ複合酸化物)及び比較例3(下層担体:Al-CZ混合物)では耐久試験後のOSCが耐久試験前と比較し、大幅に低下していることが判る。特に、比較例2におけるOSC低下は大きく、OSC低下率は47%であった。
なお、実施例3におけるOSC低下率は30%、実施例4におけるOSC低下率は36%であった。
以上より、下層担体にACZ複合酸化物を用いた実施例1〜4の場合において、下層担体にCZ複合酸化物を用いた場合(比較例2)と比較して、耐久後のOSC低下が抑制されることが判る。さらに下層担体に含有されるACZ複合酸化物中のCe/Zrが0.6以下の範囲で、耐久後のOSC低下が大幅に抑制された。
【0046】
[50%浄化温度測定試験]
次いで、耐久試験後の実施例2、4及び比較例2,3(合計4種類)の排ガス浄化用触媒について、ストイキ雰囲気にて200℃〜450℃(昇温速度10℃/分)の昇温時におけるHC、COおよびNOxの浄化率を連続的に測定し、それぞれの50%浄化温度を測定した。ここで50%浄化温度とは、HC、COおよびNOxの浄化率が50%に達した時の触媒入口のガス温度である。結果を図4に示す。
図4に示す結果から明らかなように実施例2及び実施例4は、比較例2(下層担体:CZ複合酸化物)及び比較例3(下層担体:Al-CZ混合物)と比較し、耐久試験後の50%浄化温度が低いことがわかる。つまり、下層担体にACZ複合酸化物を用いた場合、下層担体にCZ複合酸化物を用いた場合と比較し、耐久後の低温触媒活性が向上することが判った。
【0047】
さらに、下層担体にACZ複合酸化物を用いた場合であって、ACZ複合酸化物中のセリウムとジルコニウムの原子比(Ce/Zr)は1に固定し、Alの含有量を変化させて作製した実施例4〜6に係る排ガス浄化用触媒について、50%浄化温度を測定した。具体的にはACZ担体を100質量%としたとき、Alの含有率は33.70重量%(実施例5)、49.79質量%(実施例4)、及び66.50重量%(実施例6)である。結果を図5に示す。
図5に示す結果から明らかなように、下層担体(ACZ担体)中のAl含有量が多くなるのに従って、50%浄化温度が低下していき、実施例6が最も低くなっており、最も低温活性が向上していることが判る。即ち、下層担体にACZ複合酸化物を用いた場合、低温での浄化性能は該ACZ複合酸化物中のAl含有量を40質量%以上70質量%以下の範囲で良好であった。
【符号の説明】
【0048】
10 排ガス浄化用触媒
12 ハニカム基材
20 セル
30 リブ壁
32 基材
34 下層(下層触媒コート層)(Pd触媒層)
36 上層(上層触媒コート層)(Rh触媒層)
40 触媒コート層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成された多孔質担体からなる触媒コート層と、該触媒コート層の多孔質担体に担持された貴金属触媒と、を備える排ガス浄化用触媒であって、
前記触媒コート層は、前記基材表面に近い方を下層とし相対的に遠い方を上層とする上下層を有する積層構造に形成されており、
前記上層は貴金属触媒としてRh粒子を備えており、前記下層は貴金属触媒としてPd粒子を備えており、
前記下層は、前記Pd粒子が担持された多孔質担体として、アルミナ(Al)とセリア(CeO)とジルコニア(ZrO)とからなるACZ複合酸化物により構成された担体を備えていることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記ACZ複合酸化物におけるCe/Zr原子比が0.6以下であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記ACZ複合酸化物におけるアルミナ成分の含有率が40〜70質量%であることを特徴とする、請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記上層は、前記Rh粒子が担持された多孔質担体として、セリアとジルコニアとからなるCZ複合酸化物とアルミナとの混合物により構成された担体を備えていることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記CZ複合酸化物におけるCe/Zr原子比が0.5以上であることを特徴とする、請求項4に記載の排ガス浄化用触媒。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−187518(P2012−187518A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53404(P2011−53404)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】