説明

排ガス浄化用触媒

【課題】セリウム酸化物を過剰に使用することなく、低温下における金属触媒活性を高めつつNOx浄化性能の向上を実現する排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】ここで開示される排ガス浄化用触媒1は、基材2の表面に金属触媒6とNOx吸蔵材7とが担持された多孔質担体12からなる触媒コート層10を備える。触媒コート層10は、下層L1と上層L2との積層構造に形成されており、上記金属触媒6およびNOx吸蔵材7は少なくとも上層L2に担持されている。また、触媒コート層10には、酸素吸蔵放出機能を有するセリウム酸化物からなる触媒昇温材5aが備えられている。また、触媒コート層10における下層L1の全質量が上層L2の全質量を上回るように形成されており、且つ、触媒昇温材5aは、相対的に下層L1側よりも上層L2側に多量に分布若しくは偏在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関するものであり、詳しくは、リーンバーン燃焼時の排ガス処理に適したNOx吸蔵還元型触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンであって、理論空燃比(空気/燃料=14.7)よりもリーン側、即ち酸素濃度が高く逆に燃料が希薄な状態で燃焼させる所謂リーンバーン燃焼を伴うエンジン(例えばガソリン直噴エンジンや所謂リーンバーンエンジン)では、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去(浄化)するための排ガス浄化用触媒として、NOx吸蔵還元型触媒が実用化されている。NOx吸蔵還元型触媒は、基材の表面に白金(Pt)、パラジウム(Pd)等からなる金属触媒と、アルカリ金属やアルカリ土類金属等からなるNOx吸蔵材とが担持されることにより形成されている。
【0003】
空燃比が酸素過剰のリーン状態にある状態では、排ガス中のNOxは金属触媒上で酸化され、NOx吸蔵材に吸収される。他方、空燃比がストイキ(理論空燃比状態)〜リッチ状態に切り替えられると(リッチスパイク制御)、NOx吸蔵材に吸収されていたNOxが放出され、炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)などの還元性成分とともに金属触媒上で還元・浄化される。通常、NOx吸蔵還元型触媒によるNOxの浄化処理は、NOx吸蔵材に吸蔵されるNOxが飽和する前にリッチスパイク制御をパルス状に繰り返し行うことにより、排ガス中のNOxを連続的に浄化するようにしている。
なお、NOx吸蔵還元型触媒の先行技術として、特許文献1および2が挙げられる。例えば特許文献1には、上下二層構造の触媒コート層であって、ロジウム(Rh)担持量を上層よりも下層側に多くし、ストイキ〜リッチ雰囲気でのNOx還元効率の向上と硫黄被毒性の低下とを実現するNOx吸蔵還元型触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−285604号公報
【特許文献2】特開2008−229546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献に記載されるような従来のNOx吸蔵還元型触媒に対し、さらなる性能向上が求められている。特に、昨今の燃費規制の強化に伴い、リーンバーン燃焼の状態が多くなり、ディーゼルエンジンのみならずガソリンエンジンでも排ガス温度が低くなる傾向にあり、低温下における排ガス浄化対策は重要な問題となっている。このため、排ガス温度が比較的低温(例えば300℃以下)である場合のNOx浄化性能の向上が求められている。
【0006】
NOx浄化性能の低下の主な原因は、金属触媒の温度不足にある。即ち、NOx吸蔵還元反応は、排ガス中のNOを酸素過剰雰囲気下で酸化してNOxとする第1ステップと、NOxを硝酸塩として吸蔵する第2ステップと、還元雰囲気下でNOx吸蔵材から放出されたNOxを金属触媒上で還元する第3ステップとからなり、このような酸化還元反応を繰り返してNOxを浄化する。排ガス温度が低温(主として300℃以下)であると、金属触媒の活性が低くなって酸化還元反応効率が下がり、結果としてNOx浄化性能が低下すると考えられる。
【0007】
ところで、排ガスが低温である場合のNOx吸蔵還元型触媒の触媒活性を高めるため、酸素吸蔵放出機能を有するセリウム(Ce)酸化物等の反応熱を利用するものが知られている。この種の触媒では空燃比がリーン状態のときには排ガス中の過剰な酸素をセリウム酸化物が吸収し、典型的には2Ce+O→4CeOで表されるようなセリウム酸化反応による反応熱を発生する。他方、空燃比がリッチ状態のときには、リーン状態とは逆の反応、即ちセリウム酸化物から酸素が放出され、該酸素と排ガス中の還元成分(HC、COなど)の酸化反応(燃焼)による反応熱を発生する。このような反応熱は金属触媒を昇温してその活性を高める熱源となる。即ち、セリウム酸化物が触媒昇温材として機能しうる。
【0008】
しかし、上記のような従来のNOx吸蔵還元型触媒では、基材上(より具体的には当該基材の表面に形成される多孔質担体(典型的には無機酸化物からなる多孔質マトリックス)と該担体に担持された各種触媒物質(金属触媒等)とからなる触媒コート層)の比較的広い範囲にセリウム酸化物がほぼ均一に分散した状態で含まれるため、その発熱効果を十分に得られないことがある。また、発熱効果を高めるためにセリウム酸化物を大過剰に使用すると基材(具体的には上記触媒コート層)の耐熱性や耐久性の低下を招くおそれもある。
【0009】
本発明は、かかるNOx吸蔵還元型触媒に関する要求に応えるべく創出されたものであり、セリウム酸化物を過剰に使用することなく、排ガス低温下における金属触媒の活性を高めつつNOx浄化性能の向上を実現するNOx吸蔵還元型触媒(即ち排ガス浄化用触媒)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、NOx吸蔵還元型触媒の基材(具体的には上記触媒コート層)にセリウム酸化物を含有させるにあたり、触媒コート層の表層部にセリウム酸化物を寄せて配置すること(換言すれば表層部に偏在させること)に着眼した。即ち、触媒コート層の表層部にセリウム酸化物が多量に存在すれば、その反応熱を排ガスの接触しやすい触媒コート層の表層部に集中させることができ、延いては排ガス低温下における金属触媒(典型的には白金、パラジウム等の貴金属)の活性を高めてNOx浄化性能を向上させ得ることを見出した。
【0011】
前記課題を解決するために本発明により提供される排ガス浄化用触媒は、基材の表面に、金属触媒およびNOx吸蔵材が担持された多孔質担体からなる触媒コート層が形成されたNOx吸蔵還元型の排ガス浄化用触媒である。
前記触媒コート層は、前記基材表面に近い方を下層とし相対的に遠い方を上層とする上下層を有する積層構造に形成されている。また、前記金属触媒および前記NOx吸蔵材は、前記触媒コート層の少なくとも上層に担持されている。また、前記触媒コート層には、酸素吸蔵放出機能を有するセリウム(Ce)酸化物からなる触媒昇温材がさらに備えられている。そして、前記触媒コート層における下層の全質量が上層の全質量を上回るように形成されており、且つ、前記触媒昇温材は、相対的に該触媒コート層の下層側よりも上層側に多量に分布若しくは偏在している。
【0012】
ここで開示される排ガス浄化用触媒によれば、基材の触媒コート層にセリウム酸化物からなる触媒昇温材を備えるため、この触媒昇温材の反応熱を金属触媒の活性化の熱源として利用することができる。即ち、空燃比がリーン状態のときには排ガス中の過剰な酸素を触媒昇温材が吸収し、セリウム酸化反応による反応熱を発生し得る。他方、空燃比がリッチ状態のときには、触媒昇温材から酸素が放出され、該酸素と排ガス中の還元成分(HC、COなど)の酸化反応(燃焼)による反応熱を生じさせ得る。このような反応熱により触媒コート層に担持される金属触媒の活性を高めることができる。
【0013】
そして、ここで開示される排ガス浄化用触媒は、触媒コート層における下層の全質量が上層の全質量を上回るように形成される。このため、典型的には、下層の層厚よりも上層の層厚が小さくなり、触媒昇温材が相対的に該触媒コート層の下層側よりも上層側に多量に分布若しくは偏在するため、排ガスが接触しやすい触媒コート層の上層に触媒昇温材の反応熱を集中させることができる。これにより、排ガスが低温であっても触媒コート層の表層部で金属触媒を効率よく活性化し、NOx浄化性能を向上させることができる。
加えて、触媒コート層の上層に触媒昇温材を多量に分布若しくは偏在させることにより、セリウム酸化物の使用量(含有量)を抑制し、基材(具体的には上記触媒コート層)の耐熱性や耐久性の低下を回避することが可能となる。
【0014】
本明細書において「セリウム酸化物」は、酸素吸蔵放出機能を有するセリウム元素を含む酸化物を意味する。典型的な「セリウム酸化物」としてセリア(CeO)が挙げられる。その他、ここでいう「セリウム酸化物」には、酸素吸蔵放出機能を有する限りにおいて、セリア(CeO)と他の無機酸化物との複合酸化物(例えばセリア(CeO)−ジルコニア(ZrO)複合酸化物)が包含される。
【0015】
本明細書において「触媒昇温材」は、当該触媒昇温材を構成する物質の反応熱により触媒コート層を昇温させ得る物質からなる材料であり、典型的にはセリアである。
【0016】
前記触媒コート層において、上下層の位置関係は、鉛直方向の上下関係ではなく、基材表面からの遠近の位置関係を意味するものである。したがって、上層と下層との上下関係が、鉛直上下の位置関係と逆になることもあり得る。
前記触媒コート層は、基本的には上下2層構造に適用されるが、3層以上の積層構造にも適用される。3層以上の積層構造の場合、触媒コート層の表面を含む最上層が「上層」となり、最上層よりも下方の中間層および最下層が「下層」となり得る。この場合についても、上層(最上層)に触媒昇温材を多量に分布若しくは偏在させることで、排ガス低温下における金属触媒の触媒活性を向上させることができる。
【0017】
なお、本発明に関連するNOx吸蔵還元型触媒の先行技術として、特許文献1には、触媒コート層を上下2層構造とし、このうち上層に、セリウム酸化物(CeO−ZrO複合酸化物)を含有するものが開示されているが、このような構成は、下層の全質量よりも上層の全質量が大きく、下層の層厚よりも上層の層厚が大きくなっている。このため、上層の比較的広い範囲にセリウム酸化物が分散し、触媒コート層の表層部でセリウム酸化物の反応熱を効果的に利用することができない。
【0018】
また、特許文献2には、触媒コート層の上下積層構造のうち、上層にバインダーとして塩基性セリア(CeO)を含むものが開示されるが、この種のセリウム酸化物は、ゾル状態の粒子が粒成長して触媒コート層(多孔質担体)の表面積が小さくなるため、酸素吸蔵放出に伴う反応熱を期待することができない。つまり、セリウム酸化物を触媒昇温材として機能させることができず、この点で本発明とはその構成および効果が異なるものである。
【0019】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、前記触媒コート層における下層と上層の質量比(下層/上層)が2以上5以下である。
このような態様によれば、下層と上層の質量比(下層/上層)を2以上5以下に設定することにより、下層の層厚に対し上層の層厚を相対的に小さく保ちつつ、触媒コート層の表層部に触媒昇温材の反応熱を集中させることができる。
【0020】
下層と上層の質量比(下層/上層)を2以上としたのは、この値未満の場合には、下層の層厚に対して上層の層厚が大きすぎて触媒コート層の広範囲に触媒昇温材が分散してしまい、触媒コート層の表層部で触媒昇温材の反応熱が不足するおそれがあるためである。下層と上層の質量比(下層/上層)を5以下としたのは、この値を超える場合には、下層に対して上層の層厚が小さくなりすぎて上層に含まれるセリウム酸化物の含量が過剰になるおそれがあるためである。
【0021】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、前記触媒昇温材はセリア(CeO)粒子であり、該セリア粒子は酸素吸蔵放出機能を有しない無機酸化物粒子と混合された混合粉末の状態で前記触媒コート層に担持されている。
【0022】
このような態様によれば、触媒コート層でセリア粒子の粒径を極めて小さく保つことができ(好ましくは10nm以下)、触媒昇温材の反応熱を効率よく発生させることができる。
また、前記セリア粒子と前記無機酸化物粒子とが粒子レベルで混合された混合粉末は、高温酸化雰囲気での耐久後もセリア粒子が成長しにくく、触媒昇温材としての機能を損ないにくい。これにより、作製初期から高温酸化雰囲気での耐久後まで長期に亘ってNOx浄化性能を良好に維持することができる。
【0023】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、前記金属触媒として白金及び/又はパラジウムと、ロジウムとを含み、該金属触媒としてのロジウムは、前記触媒コート層の上層よりも下層側に多量に分布若しくは偏在している。
【0024】
一般に、自動車の排ガス中には、燃料中に含まれる硫黄(S)が燃焼して生成したSOが含まれており、このSOが酸素過剰雰囲気でNOx吸蔵還元型触媒の金属触媒により酸化されるとSOが生成される。そして、このSOが排ガス中に含まれる水蒸気により硫酸となってNOx吸蔵材と反応すると、亜硫酸塩や硫酸塩が生成し、それによってNOx吸蔵材が被毒劣化(硫黄被毒)する虞がある。このようなNOx吸蔵材の硫黄被毒は、NOx浄化性能を低下させる原因となるため好ましくない。
【0025】
上記態様によれば、触媒コート層に金属触媒として白金及び/又はパラジウムに加え、ロジウムを含むため、ロジウム(典型的にはジルコニア粉末に担持されたロジウム)の水蒸気改質反応による水素により、硫黄被毒による亜硫酸塩や硫酸塩を還元し、NOx吸蔵材の機能を回復させることができる。したがって、硫黄被毒によるNOx浄化性能の低下を抑えることができる。
【0026】
加えて、上記態様では、前記触媒コート層の上層よりも下層側にロジウムが多量に分布若しくは偏在しているため、触媒コート層の上層で白金及び/又はパラジウムとロジウムとの接近による合金化を抑制することができる。この結果、触媒コート層の表層部において金属触媒の劣化を抑え、高温酸化雰囲気での耐久後においてもNOx浄化性能を高く維持することが可能になる。
【0027】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、前記多孔質担体は、アルミナ(Al)とジルコニア(ZrO)−チタニア(TiO)複合酸化物とを含有している。
【0028】
前記多孔質担体を形成するための材料としては、耐熱性・耐久性等に優れたアルミナを主体とするのが好ましいが、このようなアルミナには排ガス中のSOxを吸着しやすい性質がある。このため、多孔質担体にアルミナが多量に含まれると、排ガス中のSOxがアルミナに吸着され、NOx吸蔵材の硫黄被毒が促進される虞がある。
【0029】
前記態様によれば、多孔質担体にアルミナとジルコニア−チタニア複合酸化物とが含まれるため、アルミナが多孔質担体の耐熱性・耐久性等を良好に維持しつつ、ジルコニア−チタニア複合酸化物がアルミナによるSOxの吸着を妨げる特性を発揮し、NOx吸蔵材の硫黄被毒を抑制することができる。この結果、NOx浄化性能をさらに向上させることができる。
【0030】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、前記触媒コート層におけるセリウム(Ce)酸化物の含有率が該触媒コート層全体の3質量%〜12質量%の範囲内になるように設定される。
【0031】
本発明の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の表層部にセリウム酸化物からなる触媒昇温材の反応熱を集中させて金属触媒の活性を高めるものであるが、触媒コート層におけるセリウム酸化物の含有率が小さすぎると、反応熱による発熱効果が不十分になり、触媒コート層(金属触媒)を昇温することが困難となる。また、セリウム酸化物の含有率が大きすぎると、セリウム酸化物の酸素放出作用が逆にNOx浄化を妨げる原因となりうる。つまり、触媒コート層におけるセリウム酸化物の含有率を適正な範囲に制御することにより、排ガス低温下におけるNOx浄化性能を効果的に向上させることができる。
【0032】
上記態様において、触媒コート層におけるセリウム酸化物の含有率を3質量%以上としたのは、同含有率が3質量%未満であると、酸素吸蔵放出に伴う反応熱による発熱効果を期待しにくくなる上に、NOx吸蔵還元反応の第1ステップの開始を促す金属触媒(主としてPt)が粒成長し触媒活性が低下しやすくなるからである。また、セリウム酸化物の含有率を12質量%以下としたのは、同含有率が12質量%を超えると、NOxの還元時(リッチスパイク制御時)にセリウム酸化物の酸素放出量が大き過ぎて、吸蔵したNOxが入りガス以上に排出されてNOx浄化率の低下を招くおそれがあるからである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態による排ガス浄化用触媒を示すものであり、図1(A)はハニカム基材の斜視図、図1(B)はハニカム基材の部分拡大断面図である。
【図2】図1(B)のII部分を示す拡大模式図である。
【図3】セリア粒子とアルミナ粒子との混合粉末(二次粒子)の初期および高温酸化雰囲気での耐久後の状態を示す模式図である。
【図4】触媒コート層における下層と上層の質量比(下層/上層)とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
【図5】触媒コート層におけるセリア(CeO)含有率とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
【図6】排ガスの評価温度とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
【図7】入りガス温と上昇温度(発熱効果)との関係を示すグラフである。
【図8】触媒コート層におけるセリア(CeO)含有率と高温酸化雰囲気での耐久後のPt径およびT50/HC(触媒性能)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明の排ガス浄化用触媒は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0035】
図1(A)ならびに図1(B)に示すように、排ガス浄化用触媒1は、ハニカム基材2の表面に、金属触媒およびNOx吸蔵材を担持した触媒コート層10を有する。
ハニカム基材2は、コージェライト、炭化珪素(SiC)等のセラミックスまたは耐熱合金(ステンレス等)を円筒形に形成してなるもので、筒軸方向に排ガス通路としてのセル3が設けられる。各セル3を仕切る隔壁(リブ壁)に排ガスが接触可能になっている。これらの隔壁(リブ壁)の表面全体に触媒コート層が形成されている。
なお、ハニカム基材1は、一例であり、他の形態としてはペレット型基材を採用することもできる。基材の形状については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形等を採用してもよい。
【0036】
触媒コート層10は、無機酸化物の多孔質担体12からなるもので、下層L1と上層L2とを有している(図1(B)参照)。ハニカム基材2の表面に近い方が下層L1となり、表面から遠い方が上層L2となる。本実施形態では、下層L1の上に上層L2が積層されることで上下2層構造をなしている。
【0037】
図2に示すように、触媒コート層10を構成する多孔質担体12は、無機酸化物粉末5により形成される。無機酸化物粉末5は、好ましくは例えばアルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカ(SiO)、ゼオライト等、或いはこれらの複合酸化物(ジルコニア−チタニア複合酸化物、チタニア−アルミナ複合酸化物、シリカ−アルミナ複合酸化物、ジルコニア−アルミナ複合酸化物等)からなるもので、これらの無機酸化物粉末が基材表面で焼成されることにより三次元構造の多孔質担体を形成している。
【0038】
具体的には、図2に示すように、触媒コート層10の下層L1と上層L2には金属触媒6およびNOx吸蔵材7が担持されている。金属触媒6およびNOx吸蔵材7は、無機酸化物粉末5の表面に排ガスに接触可能な状態で保持される。
【0039】
金属触媒6としては、NOx吸蔵還元反応やセリウム酸化反応を促進する白金(Pt)及び/又はパラジウム(Pd)が好ましく用いられる。その他の同様な作用を発揮しうる金属触媒としてルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、金(Au)、銀(Ag)等を用いてもよい。これらの金属触媒は、一種または二種以上の混合物として触媒コート層10に担持することができる。
金属触媒6の担持量は適宜定めることができ、例えば、ハニカム基材の体積1L当たり、好ましくは0.05〜10g程度の範囲、さらに好ましくは0.1〜5g程度の範囲に設定するとよい。
【0040】
NOx吸蔵材7としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類元素から選ばれる少なくとも1種以上が用いられる。アルカリ金属としてはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等、アルカリ土類金属としてはベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等、希土類元素としてはスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ度が高くNOx吸蔵性能に優れるという点を考慮すれば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選択することが好ましい。
NOx吸蔵材7の担持量は、例えば、ハニカム基材の体積1L当たり、好ましくは0.01〜2モル、さらに好ましくは0.1〜1モルの範囲に設定するとよい。
【0041】
金属触媒6およびNOx吸蔵材7の担持方法としては、これらの材料を含む溶液に触媒コート層10を有する基材を浸漬させる方法(浸漬法)を採用することが望ましい。
このような浸漬法(吸着法)を採用することにより、排ガスと接触しやすい触媒コート層の表層部における金属触媒6およびNOx吸蔵材7の担持密度を高めてNOx吸蔵還元反応を促進することができる。
【0042】
触媒コート層10の上層L2には、無機酸化物粉末5としてセリア粉末(二次粒子)5aが含まれる。セリア粉末(二次粒子)5aを形成するセリア粒子(一次粒子)が触媒昇温材として機能する。かかるセリア粉末(二次粒子)5aの具体的な構成であるが、セリア粒子(一次粒子)のみから構成されるものでもよいが、好ましくは図3に示すように、セリア粒子(一次粒子)M1と他の無機酸化物粒子(一次粒子)M2とが一次粒子レベルで混合した二次粒子たる混合粉末として形成されたものが挙げられる。例えば、平均粒子径(電子顕微鏡観察に基づく)がほぼ10nm以下であるセリア粒子(一次粒子)M1と他の無機酸化物粒子(一次粒子)例えばアルミナ粒子M2との混合粉末(二次粒子)が好適例として挙げられる。このような構成のセリア粉末(二次粒子)5aによると、触媒コート層10が高温雰囲気(例えば700℃以上(更には900℃以上)の高温酸化雰囲気)に曝されてもセリア粒子M1の粒成長が抑制され、発熱効果を良好に維持することができる。
【0043】
上記のようなセリア粒子M1とアルミナ粒子M2の混合粉末の製法としては、セリウムの水溶性の塩(例えば硝酸セリウム)と、無機酸化物の水溶性の塩、例えば硝酸塩(例えば硝酸アルミニウム)を出発材料としてそれらの水溶液を調製し、当該水溶液に対してアンモニア(NH)等のアルカリ成分を加えて中和し、沈殿物を得る。この沈殿物をろ過し、乾燥後、適当な温度域(典型的には400〜600℃、例えば500℃で数時間程度(例えば2時間)焼成することにより、セリア粒子と無機酸化物(例えばアルミナ)粒子が一次粒子レベルで混合した粉末(二次粒子)を得ることができる。
【0044】
触媒コート層におけるセリア含有率については、該触媒コート層全体の3質量%〜12質量%の範囲内に設定することが望ましい。触媒コート層におけるセリア含有率を3質量%以上にすることにより、金属触媒6(例えばPtを主体にした金属触媒)のシンタリング(焼結)による触媒性能低下を抑制することができる。また、同含有率を12質量%以下とすることにより、NOxの還元時(リッチスパイク制御時)にセリアによる酸素放出量が大きくなり過ぎてNOx浄化率が低下するのを回避することができる。
【0045】
ここで、本実施形態では、触媒コート層における下層L1の全質量が上層L2の全質量を上回るように設定されており、下層L1の層厚に比べ上層L2の層厚が小さい(図2参照)。そして、上下層L1,L2のうち、層厚の小さい上層L2のみにセリア粉末5aが配置される。この結果、セリア粉末5aに含まれる触媒昇温材(セリア粒子)が触媒コート層の表層部に寄せて配置されること(還元すれば表層部に偏在すること)になり、排ガスとの接触効率が極めて良好に保たれる。
【0046】
触媒コート層の下層L1と上層L2の質量比(下層/上層)については、2以上5以下の範囲に設定することが望ましい。質量比(下層/上層)を2以上とすることで、触媒コート層の表層部に触媒昇温材(セリア粒子)を効果的に配置することができ、酸素吸蔵放出に伴う反応熱が不足するのを回避することができる。また、質量比(下層/上層)を5以下とすることで、上層L2のセリア含量が過剰になりにくく、触媒コート層の耐熱性や耐久性を良好に保つことができる。
【0047】
このように構成される排ガス浄化用触媒1によれば、空燃比がリーン状態のとき、触媒コート層の表層部でセリア粉末5a中の触媒昇温材(セリア粒子)が排ガス中の酸素を吸収し、その反応熱により金属触媒6の触媒活性を高める。他方、空燃比がリッチ状態のとき(典型的にはリッチスパイク制御時)、触媒コート層の表層部で触媒昇温材(セリア粒子)が酸素を放出し、排ガス中の還元成分(HC、COなど)を酸化(燃焼)してその反応熱により金属触媒の触媒活性を高めることができる。
【0048】
この結果、排ガスの温度が低温(例えば250〜300℃程度)であっても、NOx吸蔵材7によるNOx吸蔵還元反応を促進し、NOx浄化性能を向上させることができる。即ち、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1によれば、排ガスが接触しやすい触媒コート層12の表層部に触媒昇温材(セリア粒子)の反応熱を集中させることで、排ガス低温下でも金属触媒の触媒活性を高めてNOx浄化率を高めることが可能になる。
【0049】
また、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1によれば、触媒コート層12の上層L2のみに触媒昇温材(セリア粒子)が偏在する構成であるため、触媒コート層の全体としてみれば、セリア粉末5aの使用量(含有量)を抑制することができる。この結果、セリア粉末5aが過剰に含まれることによる触媒コート層の耐熱性や高温酸化雰囲気耐久性の低下を回避することが可能となる。
【0050】
以上、排ガス浄化用触媒1の構成および効果を説明したが、本発明の実施形態における触媒コート層、金属触媒、NOx吸蔵材、触媒昇温材等には種々の変形や追加を伴ってもよい。
【0051】
排ガス浄化用触媒1では、触媒コート層の上層L2のみに触媒昇温材(セリア粒子)を偏在させているが、上層L2よりも少量であれば本発明の効果を損なわない範囲で下層L1にも触媒昇温材(セリア粒子)を含有させることもできる。
触媒コート層の積層構造の変形例として、下層L1と上層L2との間に中間層を設けてもよい。この場合も、本発明の効果を損なわない範囲で中間層に触媒昇温材(セリア粒子)を含有させることができる。
【0052】
さらに好ましい実施形態としては、金属触媒6に硫黄被毒を抑えるためのロジウムを用いてもよい。この場合、例えば触媒コート層に白金及び/又はパラジウムに加えて、ロジウム(好ましくはジルコニア粉末に担持されたロジウム)を含むようにし、このロジウムが触媒コート層の上層L2よりも下層L1側に多量に分布若しくは偏在するように構成する。
【0053】
このような実施形態によれば、触媒コート層でロジウム(好ましくはジルコニア粉末に担持されたロジウム)の水蒸気改質反応による水素により、硫黄被毒による亜硫酸塩や硫酸塩を還元し、NOx吸蔵材の機能を回復させることができる。したがって、硫黄被毒によるNOx浄化性能の低下を抑えることができる。
また、上記実施形態によれば、触媒コート層の上層L2よりも下層L1側にロジウムを多量に分布若しくは偏在させることで、上層L2で白金及び/又はパラジウムとロジウムとの接近による合金化を抑制することができる。これにより、触媒コート層の表層部で金属触媒6の劣化を抑え、高温酸化雰囲気での耐久後においてもNOx浄化性能を良好に維持することが可能になる。
【0054】
さらに好ましい他の実施形態としては、触媒コート層を形成する多孔質担体が、アルミナとジルコニア−チタニア複合酸化物とを含有する構成としてもよい。
このような実施形態によれば、アルミナが多孔質担体の耐熱性・耐久性等を良好にし、ジルコニア−チタニア複合酸化物がアルミナによるSOxの吸着を妨げる特性を発揮し、NOx吸蔵材の硫黄被毒を抑制する。この結果、NOx浄化性能をさらに向上させることができる。
【0055】
排ガス浄化用触媒1では、触媒昇温材(セリア粒子)を形成するセリウム酸化物として、セリアを採用しているが、他の実施形態としては、セリアに代えて、セリア−ジルコニア複合酸化物(CeとZrとが原子又は分子レベルで複合化されて固溶体となったもの)を採用してもよい。この場合、セリア−ジルコニア複合酸化物が優れた酸素吸蔵放出機能を有するため、同酸化物の粒子が排ガスと接触して反応熱を発生し、排ガス低温下におけるNOx浄化性能を向上させることができる。
また、セリア−ジルコニア複合酸化物は、CeとZrとが原子又は分子レベルで複合化することにより粒成長が抑えられるため、初期から高温酸化雰囲気での耐久後まで触媒昇温材としての機能を良好に発揮することができる。
【0056】
なお、前記実施形態において、セリア−ジルコニア複合酸化物の固溶体の製法としては、例えばアルコキシド法又は共沈法が挙げられる。アルコキシド法では、セリウムアルコキシドとジルコニウムアルコキシドとの混合物を加水分解後に焼成するか、あるいはセリア粉末にジルコニウムアルコキシドを含浸させ、それを加水分解後に焼成することで、セリア−ジルコニア複合酸化物の固溶体を得ることができる。共沈法では、水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩との混合溶液にアルカリ物質を添加することで前駆体を共沈させ、その共沈物を焼成することで、セリア−ジルコニア複合酸化物の固溶体を得ることができる。
【0057】
本実施形態に係る排ガス浄化用触媒1は、ディーゼルエンジン、ガソリン直噴エンジン等の触媒コンバータに広く適用することができる。例えば自動車の排気系の場合、スタートキャタリスト、アンダーフロアー、マニホールドコンバータ等に設置することができる。フロースルー型触媒の他、ウォールスルー型触媒にも適用することが可能である。排ガス浄化用触媒1に酸化触媒、還元触媒、三元触媒を組み合わせることももちろん可能である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0059】
[製造例:実施例1〜4]
ジルコニア粉末に硝酸ロジウム水溶液を加えて1時間撹拌し、蒸発乾固後に焼成してロジウムを担持したロジウム/ジルコニア粉末を調製した。
【0060】
アルミナ粉末と、ジルコニア−チタニア複合酸化物粉末と、上記ロジウム/ジルコニア粉末とを湿式で混合してスラリーを調製した。このスラリーを1.1 Lのコージェライト製ハニカム基材にウォッシュコートし、余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して下層コートを形成した。ロジウムの担持量は0.4g/Lに調製した。
【0061】
次に、セリア粉末と、アルミナ粉末と、ジルコニア−チタニア複合酸化物粉末とを湿式で混合してスラリーを調製した。セリア粉末には、セリア粒子(触媒昇温材)とアルミ粒子とが一次粒子レベルで混合された粉末を使用した。
このスラリーを先の下層コートの上からウォッシュコートし、余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して上層コートを形成した。
【0062】
その後、所定濃度の白金溶液に上記ハニカム基材を浸漬し、下層コートおよび上層コートに金属触媒としてのPtを2g/L吸着担持させ、乾燥、焼成した。なお、Ptは、上層コートに90%以上が担持された。
続いて、所定濃度の酢酸バリウムと酢酸カリウムの混合水溶液に上記ハニカム基材を浸漬し、蒸発乾固後、焼成し、下層コートおよび上層コートにNOx吸蔵材としてのBaおよびLiを担持した。Baの担持量は0.1モル/L、Liの担持量は、0.2モル/Lとした。
表1および表2に実施例1〜4の下層コートおよび上層コートの組成を示した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1に示すように、実施例1〜4は、セリア(CeO)が上層コートのみに配置されている。そして、表2に示すように、下層コートの全質量が上層コートの全質量を上回り(下/上層比>1)、下層コートよりも上層コートの層厚が小さい。即ち、実施例1〜4は、触媒コート層の表層部に触媒昇温材としてのセリア粒子が偏在する構成となっている。
【0066】
[NOx浄化性能試験]
次に、実施例1〜4に係るハニカム触媒ついてNOx浄化性能試験を行った。NOx浄化性能試験は、排ガスの評価温度(入りガス温)を300℃としたときのNOx浄化率を比較することにより行った。試験方法は下記の通りである。
まず、実施例1〜4に係るハニカム触媒をリーンバーンエンジンに装着し、触媒温度を750℃で50時間リッチ/リーンの運転を繰り返して耐久を行った。耐久試験後の各触媒を、上記と同じエンジンベンチの排気系にそれぞれ装着し、排ガスの評価温度(入りガス温)300℃の下でNOx浄化率を測定した。
NOx浄化率は、一定時間リーン雰囲気に保持した後に、数秒間の還元パルス(リッチスパイク)が投入される条件下にて、リッチスパイク後にリーン雰囲気とされた時のNOx吸蔵量をそれぞれ測定し、これらの測定値に基づいて算出した。
【0067】
なお、比較例として、下層コートと上層コートの組成を変えて実施例1〜4と同様な製法により得られたハニカム触媒(比較例1〜3:表1および表2参照)についても同様にNOx浄化性能試験を行った。比較例1は、下層コートと上層コートに同量のセリアを含み、触媒昇温材(セリア粒子)が上層コートに偏在していない。比較例2,3は、下層コートの全質量が上層コートの全質量を下回り(下層/上層<1)、下層コートよりも上層コートの層厚が大きい。
結果を表2、図4および図5に示した。図4および図5において、「実1〜4」、「比1〜3」は、それぞれ実施例1〜4、比較例1〜3に対応する。
【0068】
表2および図4に示すように、実施例1〜4は、下層コートの全質量が上層コートの全質量を下回る比較例2,3よりも相対的に優れたのNOx浄化率を示した。これにより、下層コートよりも層厚の小さい上層コートに触媒昇温材(セリア粒子)を偏在させることが排ガス低温下におけるNOx浄化性能の向上に有効であることが判る。特に、実施例1および2は、NOx浄化率が72%を超える優れた値であった。
【0069】
図4に示すように、下層と上層の質量比(下層/上層)とNOx浄化率との関係では、質量比(下層/上層)が2以上5以下の実施例1〜3は、下/上層比が2に満たない実施例4や、5を超える比較例1に比べてNOx浄化率がほぼ同等であるか、若しくは顕著に向上している。この結果から、触媒コート層の下/上層比が2以上5以下にすることが、排ガス低温下におけるNOx浄化性能の向上につながることが判る。
【0070】
また、表2に示すように、実施例1と比較例1は、触媒コート層全体におけるセリア含有率が等しいにもかかわらず、比較例1よりも実施例1のNOx浄化率が大きく上回る。これは、比較例1では触媒コート層におけるセリア全量の1/2が下層コートに配置され、結果として層全体に触媒昇温材(セリア粒子)が分散したことによるものと考えられる。即ち、下層コートよりも上層コートに触媒昇温材(セリア粒子)を多量に分布又は偏在させることで、排ガス低温下におけるNOx浄化性能が向上することが判る。
【0071】
セリア含有率とNOx浄化率との関係では、図5に示すように、セリア含有率が12質量%以下の実施例1,2,4に対し、セリア含有率が12質量%を超える実施例3は、NOx浄化率が低い結果であった。即ち、触媒コート層におけるセリア含有率を12質量%以下に抑えることがNOx浄化性能の向上に有効であることが判る。
【0072】
次に、実施例1,2および比較例1について、排ガスの評価温度(入りガス温度)を250℃と400℃に設定してNOx浄化性能試験を行った。試験条件は、排ガスの評価温度(入りガス温)以外は上記試験と同様とした。
【0073】
図6に示すように、実施例1,2は、排ガスの評価温度(入りガス温)が250℃と400℃においても、比較例1よりも優れたNOx浄化率を示した。特に、300℃から400℃の範囲ではその差が顕著であった。
【0074】
図7には、実施例1と比較例1について、触媒床温の上昇温度ΔT(床温−入りガス温)を調査した結果を示した。この結果によれば、入りガス温が概ね400℃のときより250℃程度のときの方が上昇温度ΔT(床温−入りガス温)が大きい。これにより、排ガスが低温(250〜300℃)の場合に触媒昇温材(セリア粒子)による発熱効果が良好に発揮されることが判る。
また、触媒床温の上昇温度ΔT(床温−入りガス温)は、比較例1よりも実施例1の方が大きく、この結果からも、触媒コート層の上層コートに触媒昇温材(セリア粒子)を偏在させることが金属触媒の活性を高めるに有効であることが判る。
【0075】
次に、セリア含有率の最適範囲の確認試験の結果を図8に示した。
確認試験は、セリア含有率を0〜30w%の範囲の所定値に調整したペレット触媒を作製し、このペレット触媒の高温酸化雰囲気での耐久後における金属触媒(Pt)の粒子径と、T50/HC(℃)とを測定することにより行った。なお、「T50/HC(℃)」は、触媒性能(低温活性)を示すものであって、「HCを含む所定組成のガスを当該触媒に通過させることによりHC濃度(mol%)を50%以上低下させ得る温度の下限」を意味する。
【0076】
ペレット触媒は、セリア粒子とアルミナ粒子とが一次粒子レベルで混合された粒子状担体により作製した。この粒子状担体を蒸留水に分散させ、白金溶液を添加して撹拌した後、乾燥、焼成させ、所定サイズのペレット状に成型した。各種ペレット触媒のセリア含有率は、粒子状担体を製造する際にセリアとアルミナの組成を変更することで調製した。Pt担持量は1質量%とした。
【0077】
触媒性能の評価は、700℃×5時間、Air雰囲気中での耐久を実施した後、リッチ雰囲気/リーン雰囲気ガスを降温させながら交互に繰り返し流し、触媒通過後のガス中に含まれるCの含有量がガス投入時の濃度の50mol%まで浄化により減少したときの温度を求めた(T50/HC)。温度測定条件(ガス組成(容積比)、ガス流量、降温条件)は表3に示す通りである。Pt粒子径についてはCOパルス法にて定量化して求めた。
【0078】
【表3】

【0079】
図8に示すように、ペレット触媒中のセリア含有率が3質量%未満であると、触媒性能(低温活性)が急激に低下する。これは、セリウムによるPt粒子のシンタリング抑制効果が十分に発揮されず、高温酸化雰囲気での耐久後のPt粒子径が大きくなって劣化することによるものと考えられる。
他方、セリア含有率が12質量%を超えると、触媒性能(T50/HC)が上昇する傾向になる。即ち、セリア含有率が3質量%〜12質量%の範囲で触媒性能(低温活性)が良好に保たれることが判る。
【0080】
以上、セリウム酸化物としてセリアを採用した実施例を説明したが、セリア−ジルコニア複合酸化物についても、優れた酸素吸蔵放出機能を有するため、触媒昇温材として同様に用いることができる。
また、上記実施例における評価は、リーンバーンエンジンで評価したものであるが、ディーゼルエンジンの場合、リッチスパイクの排ガスがHC主成分となり、触媒コート層の表層部でより反応熱を期待することができるため、さらに性能差が顕著になる。
【符号の説明】
【0081】
1 排ガス浄化用触媒
2 ハニカム基材
3 セル
5 無機酸化物粉末
5a セリア粉末
6 金属触媒
7 NOx吸蔵材
10 触媒コート層
12 多孔質担体
L1 下層
L2 上層
M1 セリア粒子(触媒昇温材)
M2 無機酸化物粒子(アルミナ粒子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、金属触媒およびNOx吸蔵材が担持された多孔質担体からなる触媒コート層が形成されたNOx吸蔵還元型の排ガス浄化用触媒であって、
前記触媒コート層は、前記基材表面に近い方を下層とし相対的に遠い方を上層とする上下層を有する積層構造に形成されており、
前記金属触媒および前記NOx吸蔵材は、前記触媒コート層の少なくとも上層に担持されており、
前記触媒コート層には、酸素吸蔵放出機能を有するセリウム(Ce)酸化物からなる触媒昇温材がさらに備えられており、
ここで前記触媒コート層における下層の全質量が上層の全質量を上回るように形成されており、且つ、前記触媒昇温材は、相対的に該触媒コート層の下層側よりも上層側に多量に分布若しくは偏在していることを特徴とする、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記触媒コート層における下層と上層の質量比(下層/上層)が2以上5以下であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記触媒昇温材はセリア(CeO)粒子であり、該セリア粒子は酸素吸蔵放出機能を有しない無機酸化物粒子と混合された混合粉末の状態で前記触媒コート層に担持されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記金属触媒として白金及び/又はパラジウムと、ロジウムとを含み、
ここで該金属触媒としてのロジウムは、前記触媒コート層の上層よりも下層側に多量に分布若しくは偏在していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記多孔質担体は、アルミナとジルコニア−チタニア複合酸化物とを含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記触媒コート層におけるセリウム(Ce)酸化物の含有率が該触媒コート層全体の3質量%〜12質量%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−55842(P2012−55842A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202501(P2010−202501)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】