説明

排ガス浄化触媒

【課題】高温(980℃以上)雰囲気に長時間曝露された後にも、被担持体に含まれるPdのPd2+状態からの還元を抑制し、これにより浄化性能の劣化を防止した排ガス浄化触媒を提供する。
【解決手段】前駆体塩のカルボン酸錯体重合物を焼成することにより得た担体上に、希土類元素から選ばれた少なくとも1種と、原子番号がMnよりも大きな第一遷移元素から選ばれた少なくとも1種とを含有するPd系複合酸化物を担持してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒に係り、特に、自動車等の内燃機関から排出される排ガス中の窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を同時に効率よく浄化、低減させることのできる排ガス浄化触媒に関する。なお、本発明は、とりわけ、排ガス浄化触媒の耐久処理後の低温運転時における浄化性能を向上させたものである。
【背景技術】
【0002】
排ガス(例えばCO、HC、NO、NO等)の浄化には、貴金属元素(Pt、Rh、Pd、Ir)が高性能を示すことが知られている。このため、排ガス浄化触媒には、上記貴金属元素を用いることが好適である。通常、これらの貴金属は、La、Ce、Nd等の添加剤とともに、高比表面積担体のAlに混合又は担持されて用いられる。一方、貴金属は、ペロブスカイト等の複合酸化物の構成元素とすることにより、様々な元素と組み合わせることができ、これにより貴金属のみの場合よりも多様な性質が得られ、浄化性能を向上させることができる。さらに、このような複合酸化物に貴金属を担持すると、複合酸化物の様々な性質による影響により、貴金属の性質が大きく変化することが知られている。
【0003】
このような排ガス浄化触媒には、貴金属の劣化の主原因は凝集による活性点の減少であることに鑑み、ペロブスカイト型複合酸化物を担体とすることにより、貴金属の凝集速度を低下させる技術が開示されている(特許文献1参照)。また、貴金属がPdの場合はNO還元反応の活性種であるPdOが低活性のPdに還元されることに鑑み、Aサイト欠陥型のペロブスカイト型複合酸化物を用いることで、PdOの還元を抑制する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
一方、貴金属は、通常、A1等の担体上に、単独又は複数種類の組み合わせで用いられる。しかしながら、自動車走行時等の過酷な使用条件下では、貴金属の凝集による活性点の減少により、活性が大きく低下する。この問題を解決する手段として、貴金属元素とそれ以外の元素を含む複合酸化物を形成する方法が種々提案されている。なお、貴金属の中でもPdを含むものに関する技術としては、希土類元素とPdとを組み合わせた複合酸化物が開示されている(特許文献3〜8参照)。
【0005】
さらに、本発明者等は、以前に、示性式がLaxPdOy(X=2,4,y=4,7)/LnAlOなる排ガス浄化触媒を提案した。上記触媒中、被担持体であるLaxPdOyについては、Pd−Pd間にLaが存在するため、Pd同士の凝集を防止することができ、また、担体であるLaAlOについてはアンカー効果を奏し、Pd粒子をLaAlO上に固定する作用がある。このため、この排ガス浄化触媒においては、Pdを高分散状態に維持することができる(特許文献9参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−86259号公報
【特許文献2】特開2003−175337号公報
【特許文献3】特開昭61−209045号公報
【特許文献4】特開平1−43347号公報
【特許文献5】特開平4−27433号公報
【特許文献6】特開平4−341343号公報
【特許文献7】特開平7−88372号公報
【特許文献8】特開平10−277393号公報
【特許文献9】特願2003−322754号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来の排ガス浄化触媒は、浄化性能に加えて耐食性能を考慮しても、比較的高温(400℃以上)である自動車走行時等においては、排ガス中のCO、HC、及びNOxを浄化するに十分な性能を発揮するものである。しかしながら、これらの排ガス浄化触媒は、比較的低温(400℃未満)である自動車の始動時又はアイドリング時においては、十分な耐久性能を発揮し得ないのが現状である。この理由は、以下のとおりである。
【0008】
即ち、Pt、Rh、及びPd等の貴金属は、通常、高比表面積のA1上に担持された状態で使用される。このため、これらの貴金属は、A1上に高分散状態に担持することができる。しかしながら、A1は安定化合物であるため、担持された貴金属に対して相互作用を及ぼさない。よって、単位貴金属量あたりの活性が低く、このため、触媒を高温雰囲気に長時間曝露した後には、優れた浄化性能を維持することができない。従って、近年においては、高温雰囲気に長時間曝露した後においても優れた浄化性能を維持することのできる排ガス浄化触媒の開発が要請されていた。
【0009】
また、Pdの酸化状態にはPd2+とPd(金属状態)とがあるが、排ガス浄化に好ましい状態は、Pd2+であるため、自動車走行時においては、PdがPdOの状態で存在することが望ましい。しかしながら、A1上に担持されたPdは、初期はPdOの状態で存在していても、高温(900℃以上)雰囲気に長時間曝露された後には、金属状態のPdに還元され、活性が大きく低下してしまう。また、A1上に担持されたPdを高温(900℃以上)雰囲気に長時間曝露した後には、Pd同士が凝集することにより、活性点が減少し、活性が低下するという問題もある。
【0010】
さらに、従来の排ガス浄化触媒の中には、上述したように、貴金属元素とそれ以外の元素とを組み合わせて複合酸化物を形成する技術も提案されている。しかしながら、このような排ガス浄化触媒には、1000℃程度という条件下では貴金属を含む複合酸化物自体が凝集してしまい、活性点が減少して浄化性能が低下するという問題がある。また、本発明者等の以前の提案である、示性式がLaxPdOy(X=2,4、y=4,7)/LnAlOの排ガス浄化触媒についても、1000℃程度という高温下ではLaxPdOyの凝集により活性点が減少し、活性が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記種々の事情に鑑みてなされたものであり、特に、高温(980℃以上)雰囲気に長時間曝露した後にも、被担持体に含まれるPdのPd2+状態からの還元を抑制し、浄化性能の劣化を防止した排ガス浄化触媒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記目的に沿って優れた浄化特性を発揮することのできる排ガス浄化触媒について、鋭意、研究を重ねた。その結果、担体を、前駆体塩のカルボン酸錯体重合物を焼成することにより作製したものとするとともに、被担持体を、希土類元素から選ばれた少なくとも1種と、原子番号がMnよりも大きな第一遷移元素(3d遷移元素)から選ばれた少なくとも1種(Fe,Co,Ni,Cu,Zn)とを複合化させて作製したPd系複合酸化物とすることにより、高温(980℃以上)雰囲気に長時間曝露された後にも、被担持体中のPdについて、Pd2+状態からの還元を抑制することができ、その結果、浄化性能の劣化を防止することができるとの知見を得た。このような知見の具体的根拠は、以下のとおりである。
【0013】
排ガス浄化触媒の担体を作製する際に、カルボン酸を含む硝酸塩水溶液を蒸発乾固させて、中間生成物としてカルボン酸錯体重合物を得る製造工程を採用した場合には、担体(例えば、LaAlO)が単相で生成する。また、上記中間生成物を経た製造工程を採用することにより、担体(例えば、LaAlO)にPd系複合酸化物を担持した場合には、担体の表面状態が、Pd系複合酸化物と相互作用し易い形態となる。以上の理由により、前駆体塩のカルボン酸錯体重合物を焼成して得た担体にPd系複合酸化物を担持した触媒においては、優れた低温活性が得られる。
【0014】
また、上記のように得られた担体(例えば、LaAlO)上にPd系複合酸化物を担持するにあたり、Pd系複合酸化物に、原子番号がMnより大きな第一遷移元素(Fe,Co,Ni,Cu,Zn)を含有させた場合には、得られた排ガス浄化触媒を高温(980℃以上)雰囲気に長時間曝露しても、Pd系複合酸化物中のPdがPd2+状態からPd状態への還元され難い。このため、被担持体に上記第一遷移元素を含む排ガス浄化触媒は、長時間の高温雰囲気曝露後にも高活性を維持することができる。
【0015】
さらに、上記Pd系複合酸化物は、高温において酸化物が不安定なPdと、酸化物が非常に安定な希土類元素と、酸化物が安定である、原子番号がMnより大きな第一遷移元素(3d遷移元素)とが酸素とともに複合化された化合物である。このため、このPd系複合酸化物では、Pdの酸化状態が安定化され、化合物表面でのPdの酸化状態は大部分でPd2+となり、排ガス浄化に好ましい状態になる。従って、これらの各種元素を組み合わせて得られた被担持体を備える排ガス浄化触媒は、優れた浄化性能を発揮することができる。本発明は、以上に示した具体的根拠に基づいてなされたものである。
【0016】
即ち、本発明の排ガス浄化触媒は、前駆体塩のカルボン酸錯体重合物を焼成することにより得た担体上に、希土類元素から選ばれた少なくとも1種と、原子番号がMnよりも大きな第一遷移元素から選ばれた少なくとも1種とを含有するPd系複合酸化物を担持してなることを特徴としている。なお、原子番号がMnよりも大きな第一遷移元素とは、Fe,Co,Ni,Cu,Znを意味する。
【0017】
また、発明者等は、被担持体として、示性式がLnPd(1−X)MxO(Ln:希土類元素、M:Fe,Co,Ni,Cu,Zn)である酸化物や、示性式がLnPd(1−X)MxO(Ln:希土類元素、M:Fe,Co,Ni,Cu,Zn)である酸化物を用いることにより、高温(900℃以上)雰囲気に長時間曝露された後にも、酸化物中のPdがPd2+状態からPd状態への還元され難く、その結果浄化性能の劣化を特に高いレベルで防止することができるとの知見も得た。
【0018】
即ち、上述した本発明の排ガス浄化触媒においては、上記Pd系複合酸化物が、示性式がLnPd(1−X)MxO(Ln:希土類元素、M:Fe,Co,Ni,Cu,Zn)である酸化物及び示性式がLnPd(1−X)MxO(Ln:希土類元素、M:Fe,Co,Ni,Cu,Zn)である酸化物のうちの少なくとも1種を含有することが望ましく、上記LnPd(1−X)MxO及び上記LnPd(1−X)MxOにおいて、Xの範囲が、0<X<0.1であることがさらに望ましい。
【0019】
さらに、発明者等は、担体がAl酸化物である場合(例えば、示性式がLnAlO(Ln:希土類元素))や、担体の結晶系が三方晶又は菱面体晶である場合には、担体の電気的不安定さが大きく、例えば、LaAlOに隣接しているPd系複合酸化物は、単独で存在するPd系複合酸化物に比べ電気的な揺らぎが大きくなっていることに着目した。この結果、担持されているPd系複合酸化物の表面においては、Pdの酸化状態は大部分でPd2+となり、つまり排ガスの浄化に好ましい状態となって、高い低温活性が得られる。なお、このような担体を備える排ガス浄化触媒は、1000℃程度の比較的高温な雰囲気に曝露された後でも、同様の浄化性能を維持することができる。以下の発明はこのような知見に鑑みてなされたものである。
【0020】
即ち、上述した排ガス浄化触媒においては、上記担体がAl系酸化物であることが望ましく、上記Al系酸化物の示性式がLnAlO(Ln:希土類元素)であることがさらに望ましい。また、上記Al系酸化物が三方晶又は菱面体晶であることが極めて望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の排ガス浄化触媒の最大の特徴は、高温において酸化物が不安定なPdと、酸化物が非常に安定な希土類元素と、酸化物が安定な、原子番号がMnより大きな第一遷移元素(3d遷移元素)とを酸素とともに複合化して得たPd系複合酸化物を、被担持体としている点である。このため、本発明の排ガス浄化触媒は、高温(980℃以上)雰囲気に長時間曝露された後にも、PdOの還元を抑制し、浄化性能の劣化を防止することができる。以下に、このような効果を含めた本発明の効果を、さらに詳細に説明する。
【0022】
本発明の排ガス浄化触媒の担体としては、例えば、LnAlO(Ln:希土類元素)が挙げられるが、このLnAlOは、結晶系が三方晶又は菱面体晶であること、及びペロブスカイト構造の複合酸化物のBサイトがAlであることを特徴とするものである。ここで、三方晶とは、図1に示すように、理想的な単位格子からc軸方向に格子が変化し、さらにa軸とb軸との間の角度が120°である結晶系である。つまり、この結晶系は、理想的な立方晶のペロブスカイト構造から大きく歪みを生じたものであり、構成原子間の電子の存在状態が極めて不安定なものである。また、菱面体晶とは、図2に示すように、三方晶を異なる基本軸で表現した結晶系であり、三方晶と構造自体は同じである。従って、菱面体晶においても、構成原子間の電子の存在状態は極めて不安定となっている。さらに、担体であるLnAlO中のAl−O間の結合は共有結合性が強いため、通常イオン結合性が強いペロブスカイト構造の複合酸化物の結晶中に、なんらかの電気的偏りが生じている。これらの効果により、示性式がLnAlOであるペロブスカイト構造の複合酸化物は、排ガス浄化用触媒として周知のLaFeO等に比べ、電気的不安定さに富む。LnAlOのこのような性質により、LnAlOに隣接しているPd系複合酸化物は、単独で存在するPd系複合酸化物に比べ電気的な揺らぎが大きくなっている。この結果、担持されているPd系複合酸化物の表面におけるPdの酸化状態は大部分でPd2+となる。Pd系複合酸化物の表面において、Pdは、Pd2+とPd(金属状態)との2種類の酸化状態をとるが、Pd2+の方が排ガス浄化には高活性である。つまり、Pd系複合酸化物をLnAlOに担持した本発明の触媒においては、Pd系複合酸化物の表面でのPdの酸化状態が大部分でPd2+となっており、高活性である。また、本発明の触媒は、このような理由から、1000℃程度の高温雰囲気に長時間曝露された後でも、曝露前と同様に高い浄化性能を維持することができる。
【0023】
次に、LnAlO上にPd系複合酸化物を担持した本発明の触媒においては、被担持体に、原子番号がMnより大きな第一遷移元素(3d遷移元素)を含有させることにより、高温雰囲気に長時間曝露した後でも、Pd系複合酸化物中のPdOのPd金属への還元を抑制することができる。この理由は以下のとおりである。即ち、La等の希土類元素は酸化物の状態でその形状を様々に変化させることができる。例えば、LaにPdを担持した触媒を高温雰囲気に曝露すると、PdとLaとの接触部からLaがPd粒子上に移動し、Pd粒子がLaに埋没した形状となり、さらには、Pd表面に微小なLaが移動する現象がみられる(Zhang et al., J. Phys. Chem., Vol. 100, No. 2, P. 744-754, 1996 参照)。このような現象を考慮すると、本発明の排ガス浄化触媒中、被担持体であるPd系複合酸化物においては、LnPd(1−X)MxO(Ln:希土類元素、M:Fe,Co,Ni,Cu,Zn)の表面に存在する希土類元素(例えばLa)が、上記文献のLaと類似した効果を発揮することにより、Laと、Pdと、原子番号がMnより大きな第一遷移元素とが酸素とともに複合化され、Pd系複合酸化物のPd金属への還元を抑制するものと推定される。このような効果により、本発明の排ガス浄化触媒においては、長時間の高温雰囲気への曝露後も高活性を維持することができる。
【0024】
また、本発明の排ガス浄化触媒の担体(例えば、LnAlO)を作製する際には、カルボン酸を含む硝酸塩水溶液を蒸発乾固させ作製した、カルボン酸錯体重合物を例えば800℃で焼成することにより、LnAlOが単相の状態で生成する。LnAlOを通常の方法、例えば固相反応法等で作製した場合には、1700℃で焼成しても単相のLnAlOは得られない(希土類の科学、足立吟也著、化学同人、p.564)。即ち、カルボン酸を用いることで、低温で単相のLnAlOを合成することが可能となり、担体の十分な比表面積が得られるとともに、担体表面を活性な状態で触媒として用いることができる。従って、本発明の態様により作製したLnAlOにPd系複合酸化物を担持した触媒は、十分な比表面積を有するとともに、LnAlOとPd系複合酸化物との間に強力な相互作用が得られるため、低温において高活性が実現される。
【0025】
さらに、本発明の触媒において被担持体として用いられるPd系複合酸化物は、酸化物が不安定なPdと、酸化物が非常に安定である希土類元素と、酸化物が安定な原子番号がMnより大きな第一遷移元素(3d元素)とが酸素とともに複合化された化合物である。Pdの代表的な酸化物であるPdOの表面においては、PdはPdとPd2+との2種類の酸化状態をとり得る。しかしながら、Pd系複合酸化物では、希土穎元素により酸化状態が安定化された結果、化合物の表面でのPdの酸化状態はPd2+の割合が多くなる。PdとPd2+とでは、Pd2+の方が高活性であるため、Pd系複合酸化物では、優れた浄化性能が実現される。
【0026】
図3(a)〜(c)は、担体上に担持された各種酸化物の還元状況を示す概念図である。即ち、図3(a)に示すように、被担持体としてPdOを使用した場合には、PdOの分解温度が800℃程度であるため、1000℃程度の条件下では、PdOはPdに還元されてしまい、排ガス浄化触媒として優れた性能を発揮することができない。これに対し、図3(b)に示すように、被担持体としてLaPdOを使用した場合には、LaPdOは1100℃においても酸化物の状態で安定して存在することができるため、1000℃程度の条件下では、Pdの還元は生じず、排ガス浄化触媒として優れた性能を発揮することができる。さらに、図3(c)に示すように、酸化物の構成元素として、Pdの他に、原子番号がMnよりも大きな第一遷移元素(Fe,Co,Ni,Cu,Zn)をPd系複合酸化物を用いた場合(図3(c)ではLaPd0.95Fe0.05)には、第一遷移元素と酸素との結合が強力なため、Pd系複合酸化物の構造破壊やPdのモビリティーが低下し、Pd系複合酸化物粒子同士の凝集が抑制される。このため、高温雰囲気に長時間曝露された後でも、各元素が所定の位置に留まることができ、耐久性のみならず、耐熱性をも向上させることができる。この耐熱性の向上は、高温において酸化物の形態が安定でないPdが酸化物が安定である希土類元素又は上記第一遷移元素(3d遷移元素)と複合化することに伴い、バルク内の結合が強化しために生ずるものである。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
(発明例1)
<担体用複合酸化物の作製>
所定量の硝酸ランタン六水和物、及び硝酸アルミニウム九水和物をイオン交換水に溶解させ、混合水溶液を作製した。また、所定量のリンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、リンゴ酸水溶液を作製した。次いで、これら2種類の水溶液を混合し、ホットプレートスターラに載せ、250℃で撹拝子を用いて撹拝しながら加熱し、水分を蒸発した後、分解乾固させ、乾固物を乳鉢で粉砕した。
【0028】
さらに、粉砕物をアルミナ坩堝に移し、マッフル炉にて、2.5℃/minで350℃まで昇温し、350℃で3時間の熱処理を施した。これにより、リンゴ酸塩、硝酸根を除去した仮焼成体を作製した。この仮焼成体を乳鉢で15分間粉砕混合した後、再びアルミナ坩堝に入れ、マッフル炉にて、5℃/minで800℃まで昇温し、800℃で10時間の熱処理を施した。これにより、示性式がLaAlOの複合酸化物の粉末を得た。
【0029】
<Pd系複合酸化物の担持>
所定量の硝酸パラジウム二水和物、硝酸ランタン六水和物及び硝酸鉄九水和物をイオン交換水に溶解させ、金属塩混合水溶液を作製した。また、所定量のリンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、リンゴ酸水溶液を作製した。次いで、これら2種類の水溶液を混合したものと、上記したように得た所定量のLaAlO粉末とをナス型フラスコに入れ、ナス型フラスコをロータリーエバポレータで減圧しながら、60℃の湯浴中で蒸発乾固させ、マッフル炉にて、2.5℃/minで250℃まで昇温し、さらに5℃/minで750℃まで昇温し、750℃で3時間保持した。これにより、LaPd0.95Fe0.05をLaAlOに含浸担持した、LaPd0.95Fe0.05/LaAlOなる触媒粉末(発明例1)を得た。
【0030】
(発明例2)
発明例1と同様の方法により、LaPd0.95Co0.05/LaAlOなる触媒粉末(発明例2)を得た。なお、本例では、発明例1で使用した硝酸鉄九水和物に替えて、硝酸コバルト九水和物を使用した。
【0031】
(発明例3)
発明例1と同様の方法により、LaPd0.95Ni0.05/LaAlOなる触媒粉末(発明例3)を得た。なお、本例では、発明例1で使用した硝酸鉄九水和物に替えて、硝酸ニッケル九水和物を使用した。
【0032】
(比較例1)
発明例1と同様の方法により、Pd/Alなる触媒粉末(比較例1)を得た。
【0033】
(比較例2)
発明例1と同様の方法により、Pd/LaAlOなる触媒粉末(比較例2)を得た。
【0034】
(比較例3)
発明例1の被担持体であるLaPd0.95Fe0.05の製造方法と同様にして、LaPdOなる触媒粉末(比較例3)を得た。
【0035】
<活性評価1:被担持体に第一遷移元素を含有させたことによる浄化性能>
上記のように得られた各排ガス浄化触媒(発明例1〜3及び比較例1〜3)に対して、初期及び耐久処理後の活性評価を実施した。初期の活性評価は、空燃比が14.6相当のモデル排ガスを0.5秒周期で繰り返し(周期1Hz)各触媒に流通させ、単位時間及び単位体積あたりの流量を50000h−1相当として反応温度30〜400℃の間で行った。耐久処理は、980℃×20時間の時効処理とした。このような条件の下で、耐久処理後の評価を行った。表1に昇温試験条件を示すとともに、各活性評価の結果を表2,3に示す。即ち、表2には、初期触媒の昇温試験における、CO、HC、NOの50%浄化温度を示す。また、表3には、耐久処理後の触媒の昇温試験における、CO、HC、NOの50%浄化温度を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
表2,3によれば、本発明の範囲内にある発明例1〜3は、初期及び耐久処理後のいずれにおいても、CO、HC、NOの50%浄化温度が比較的低いことが判る。これに対し、本発明の範囲外にある比較例1〜3は、初期及び耐久処理後のいずれにおいても、CO、HC、NOの50%浄化温度が比較的高いことが判る。
【0040】
このように、各発明例は、各比較例に比して、優れたCO、HC、NOの50%浄化温度を示すが、この結果を裏付けるため、ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトの組成が発明例1〜3の各被担持体と同じ複合酸化物(LaxPd0.95Fe0.05Oy、LaxPd0.95Co0.05Oy、及びLaxPd0.95Ni0.05Oy)が単相で生成していることを以下に確認し、これにより、被担持体に十分な比表面積が得られているとともに、その表面を活性な状態で触媒として用いることができることを実証する。即ち、図4は、ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトの組成が発明例1〜3の各被担持体と同じ複合酸化物(LaxPd0.95Fe0.05Oy、LaxPd0.95Co0.05Oy、及びLaxPd0.95Ni0.05Oy)と、Bサイトに第一遷移元素を含まない複合酸化物(LaxPdOy)とについて、XRDスペクトルを測定した結果を示すグラフである。図4によれば、Bサイトに第一遷移元素を含まない複合酸化物(LaxPdOy)のXRDスペクトルと同様に、各複合酸化物(LaxPd0.95Fe0.05Oy、LaxPd0.95Co0.05Oy、及びLaxPd0.95Ni0.05Oy)のXRDスペクトルには、原料を硝酸鉄九水和物、硝酸コバルト九水和物、又は硝酸ニッケル九水和物とした場合に通常の焼成過程で生成する、Fe、Co、NiOのピークがそれぞれみられない。このため、各複合酸化物中においては、Fe、Co、Niがそれぞれ完全にLaxPdOy内に固溶しているものと判断できる。従って、各複合酸化物(LaxPd0.95Fe0.05Oy、LaxPd0.95Co0.05Oy、及びLaxPd0.95Ni0.05Oy)は、全て単相の状態で生成されており、このため、被担持体に十分な比表面積が得られるとともに、その表面を活性な状態で触媒として用いることができる。従って、以上のような裏付けにより、上記各発明例1〜3の排ガス浄化触媒は、優れた浄化性能を示すものであるといえる。
【実施例2】
【0041】
<活性評価2:被担持体中の第一遷移元素の含有量の違いによる浄化性能>
次に、本発明の排ガス浄化触媒の構成要素である被担持体に含有される、原子番号がMnよりも大きな第一遷移元素の含有量好適範囲について調査した。担体をLaAlOとするとともに、被担持体をLaとPd複合酸化物と上記第一遷移元素(Ni)とを組み合わせたLaPd0.95Ni0.05及びLaPd0.80Ni0.20として、上記発明例1と同様の方法で、排ガス浄化触媒LaPd0.95Ni0.05/LaAlO及びLaPd0.80Ni0.20/LaAlOをそれぞれ得た。図5に、これらの浄化触媒についての、NOxの50%浄化温度と測定回数との関係を示す。なお、本例では、各測定の間にテストピースを常温まで冷まし、次の測定を行った。
【0042】
図5によれば、被担持体LaPd(1−X)NixOにおいて、X≧0.1の場合には、測定回数の増加に伴い、浄化性能が低下するが、X<0.1の場合には、測定回数のいかんに関わらず、優れた浄化性能を示すことが判る。従って、本発明の排ガス浄化触媒の被担持体に、示性式LaPd(1−X)NixOなる酸化物を使用する場合には、上記Xの範囲は0<X<0.1であることがより好適であることが実証された。なお、浄化性能に悪影響を及ぼすと考えられるLaNiOがXRD測定において完全に確認できないという理由により、極めて好ましいXの範囲は、0<X<0.083である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の排ガス浄化触媒は、近年、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を同時に効率よく浄化、低減させることが要求される、自動車等の内燃機関に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】三方晶を示すモデル図である。
【図2】菱面体晶を示すモデル図である。
【図3】担体上に担持された各種酸化物の還元状況を示す概念図であり、(a)は被担持体がPdOの場合、(b)は被担持体がLaPdOの場合、及び(c)は被担持体がLaPd0.95Fe0.05の場合である。
【図4】ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトの組成が発明例1〜3の各被担持体と同じ複合酸化物(LaxPd0.95Fe0.05Oy、LaxPd0.95Co0.05Oy、及びLaxPd0.95Ni0.05Oy)と、Bサイトに第一遷移元素を含まない複合酸化物(LaxPdOy)とについて、XRDスペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図5】各排ガス浄化触媒についての、NOxの50%浄化温度と測定回数との関係についての結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆体塩のカルボン酸錯体重合物を焼成することにより得た担体上に、希土類元素から選ばれた少なくとも1種と、原子番号がMnよりも大きな第一遷移元素から選ばれた少なくとも1種とを含有するPd系複合酸化物を担持してなることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記Pd系複合酸化物が、示性式がLnPd(1−X)MxO(Ln:希土類元素、M:Fe,Co,Ni,Cu,Zn)である酸化物及び示性式がLnPd(1−X)MxO(Ln:希土類元素、M:Fe,Co,Ni,Cu,Zn)である酸化物のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記LnPd(1−X)MxO及び前記LnPd(1−X)MxOにおいて、Xの範囲が、0<X<0.1であることを特徴とする請求項2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記担体がAl系酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
前記Al系酸化物の示性式がLnAlO(Ln:希土類元素)であることを特徴とする請求項4に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
前記Al系酸化物が三方晶又は菱面体晶であることを特徴とする請求項4又は5に記載の排ガス浄化触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−21091(P2006−21091A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200030(P2004−200030)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】