説明

排ガス浄化触媒

【課題】ディーゼル排ガスの酸化浄化用触媒において、触媒コート層の厚さを最適化して利用効率を高めた排ガス浄化触媒を提供する。
【解決手段】触媒単位体積当たりの触媒貴金属量の増加に対して、排ガス浄化率の増加が急激に頭打ちになるときの触媒貴金属量を適正貴金属量Aとし、
触媒担体の単位重量当たりの触媒貴金属の重量である触媒担持密度の増加に対して、加熱による触媒貴金属の粒径が急激に増加するときの触媒担持密度を適正担持密度Bとし、
触媒単位体積当たりの触媒コート量Xと、触媒コート厚Yとの単調増加の関係式を用いて、上記適正貴金属量A/上記適正担持密度Bの比A/Bである触媒コート量X1から求めた触媒コート厚Y1を最小厚さとし、
触媒コート厚の増加に対して、排ガス浄化性能が急激に低下するときの触媒コート厚を最大厚さとし、
触媒コート層の厚さが上記最小厚さから上記最大厚さまでの範囲内である排ガス浄化触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒に関し、特にディーゼル排ガスの酸化触媒を効率的に利用するために触媒コート層の厚さを最適化した排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル排ガスは、HC、CO、NOx等のガソリンエンジンと共通する成分に加えてディーゼル特有のSOF(可溶性有機成分:Soluble Organic Fraction)等のPM(Particulate Matter:粒子状物質)構成成分を含む。ディーゼル用の排ガス浄化触媒としてはこれらの排ガス成分を酸化により浄化する酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)が重要である。
【0003】
従来、ディーゼル排ガスの酸化浄化用の触媒(DOC)において、排ガスの拡散可能範囲に対して有効な触媒コート厚さに対して十分考慮されていなかった。排ガスにはその流速に応じて、触媒コート層の深さ(厚さ)方向に対して拡散可能な限界がある。そのため触媒コート層が厚すぎると拡散限界より深い(厚い)部分は触媒機能が有効に利用されず無駄になってしまうという問題があった。
【0004】
しかし一方、触媒コート層は、触媒機能を発揮するために必要な最小限の厚さが必要である。すなわち、高い触媒機能を達成するために、排ガスの接触面積×拡散深さ(ガス接触体積)に対して、触媒担体に対する触媒金属の担持密度は高いほうがよい。ただし、担持密度が高すぎると、触媒金属粒子同士がシンタリングによって凝集粗大化し触媒活性点(触媒粒子の比表面積)が減少して、触媒性能が低下してしまうという問題があった。
【0005】
上記の問題を解消して、触媒コート層の利用効率を高めたディーゼル排ガス用の酸化触媒が求められている。
【0006】
例えば特許文献1には、相対的に流速の速い排ガスが通過する触媒中心部分付近にはPtとRhとを組み合わせてなる触媒成分と、相対的に流速の遅い排ガスが通過する触媒周辺部にはPdとRhとを組み合わせてなる触媒成分を担持する排ガス浄化用モノリス触媒が開示されている。しかし、触媒コート層(すなわち層内の触媒貴金属)を有効利用する観点からの触媒コート層の厚さについては言及がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭59−39639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、典型的にはディーゼル排ガスの酸化浄化用の排ガス浄化触媒等において、触媒コート層の厚さを最適化して高い利用効率を可能とした排ガス浄化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
触媒単位体積当たりの触媒貴金属量の増加に対して、排ガス浄化率の増加が急激に頭打ちになるときの触媒貴金属量を適正貴金属量Aとし、
触媒担体の単位重量当たりの触媒貴金属の重量である触媒担持密度の増加に対して、加熱による触媒貴金属の粒径が急激に増加するときの触媒担持密度を適正担持密度Bとし、
触媒単位体積当たりの触媒コート量Xと、触媒コート厚Yとの単調増加の関係式を用いて、上記適正貴金属量A/上記適正担持密度Bの比A/Bである触媒コート量X1から求めた触媒コート厚Y1を最小厚さとし、
触媒コート厚の増加に対して、排ガス浄化性能が急激に低下するときの触媒コート厚を最大厚さとし、
触媒コート層の厚さが上記最小厚さから上記最大厚さまでの範囲内であることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、触媒コート層の厚さを最適な範囲内に制限したことにより、触媒コート層の利用効率が高まり、排ガス浄化触媒の本来の触媒性能を最大限に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、排ガス浄化触媒の触媒コート層を、排ガスの拡散可能領域と拡散不可能領域とに模式的に分離して示す。
【図2】図2は、触媒コート層の厚さと貴金属粒子の担持密度との関係を示す。
【図3】図3は、ベンチ試験に用いた模擬NEDCモードを示す。
【図4】図4は、触媒単位体積当たりの貴金属量に対するCO浄化率の変化を示す。
【図5】図5は、触媒コート層の貴金属担持密度に対する、簡易耐久後の貴金属粒径の変化を示す。
【図6】図6は、触媒の単位体積当たりの触媒コート量と触媒コート層の厚さとの関係を示す。
【図7】図6は、ベンチ試験に用いた温度特性評価パターンを示す。
【図8】図7は、触媒コート層の厚さに対する50%CO浄化温度の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、排ガス浄化触媒は触媒コート層内に排ガスが拡散可能な領域と拡散不可能な領域とがある。
【0013】
図1(1)は、排ガス流を横断する平面における触媒の断面を示す。ハニカム状モノリスを構成する触媒基材Sの貫通孔Gの内壁に形成された触媒コート層Cにおいて、排ガスに直接接触する貫通孔G中心寄りの領域Aは排ガスが拡散して到達し得るが、それより深い基材S寄りの領域Bは拡散により到達し得ない。拡散可能領域Aの深さは、貫通孔G内の排ガス流速と排ガスの触媒コート層接触時間との兼ね合いによって決まる。
【0014】
なお、本図では、簡略化のため、1個の貫通孔Gについてのみ触媒コート層Cを示し、他の貫通孔Gについては図示を省略した。また、図示の便宜上、触媒基材Sと触媒コート層Cの相対的な厚さ等の寸法関係は実際とは異なる(以下の図1(2)、(3)および図2においても同様である)。
【0015】
図1(2)に示すように、貫通孔G内のガス流速Gaが遅い(例えば高Gaの低速走行モード:UDCに対応する)場合は、拡散可能領域Aは比較的深いが、これに対して図1(3)に示すようにガス流速Gaが速い(例えば高Gaの高速走行モード:EUDCに対応する)場合は、拡散可能領域Aは比較的浅くなり、相対的に拡散不可能領域Bの割合が増大し、触媒の利用効率が低下し、触媒本来の性能が発揮できない。しがたって、対象とする排ガス流速(走行モード)に応じて、触媒コート層の最大厚さを規定して、拡散不可能領域ができるだけ小さくなるようにする必要がある。
【0016】
一方、触媒コート層厚さを減少し過ぎると、次の問題がある。すなわち、触媒コート層の貴金属担持量(基材単位表面積当たりの貴金属粒子重量)を一定にして、触媒コート層厚さを減少すると、必然的に貴金属担持密度(触媒コート層単位体積当たりの貴金属重量)が、図2(1)→図2(2)のように増加する。担持密度が増加すると、貴金属粒子間の間隔が小さくなり、加熱時に貴金属粒子がシンタリングにより粗大化し易くなり、触媒活性点(貴金属粒子の比表面積)が減少して、触媒性能が低下してしまう。したがって、このように触媒の熱劣化が生じないための触媒コート層の最小厚さを規定する必要がある。
【0017】
本発明において、望ましくは、触媒貴金属がPt単独またはPtとPdとの共存である。その場合、触媒コート量Xと触媒コート厚Yとの関係が下記式:
Y=0.6381×(適正貴金属量A/適正担持密度B)−3.431
で表され、前記適正貴金属量が2.37g/Lcat、前記適正担持密度が5wt%であり、触媒コート層の最小厚さが25μm、最大厚さが80μmである。
【実施例】
【0018】
高速走行モード(EUDC)に対応する排ガス流速Ga=40〜50g/secの条件化で、下記の各試験を行った。
〔試験1〕
<触媒コート層の調製>
PtとPdをアルミナに担持させ、βゼオライトと混合して、下記各組成の触媒コート層(DOC)を調製した。下記の( )内は触媒単位体積当たりの重量(g/L)である。右端に(Pt+Pd)合計の貴金属量(g/L)を示す。
【0019】
DOC1:βゼオライト(60)+Pt(1.02)Pd(0.51)/Al(105)……(1.53)
DOC2:βゼオライト(60)+Pt(1.58)Pd(0.79)/Al(105)……(2.37)
DOC3:βゼオライト(60)+Pt(2.13)Pd(1.065)/Al(105)…(3.195)
DOC4:βゼオライト(60)+Pt(2.6)Pd(1.3)/Al(105)………(3.9)
いずれも基材(材質:コージェライト)上に一定厚さ(140μm)にコートして触媒を形成した。触媒サイズは容量1.1Lである。得られた各触媒に電気炉で650℃×50h+660℃×10hの簡易耐久を施した。
【0020】
<評価試験>
簡易耐久後の各触媒について下記の試験を行い、CO浄化率を評価した。
【0021】
実機評価:2.2Lディーゼルエンジンによるベンチ試験
パターン:NEDCモードをベンチで再現(図3に示す)。前処理はPM再生制御で触媒床温600℃に合わせた。
【0022】
<評価結果>
図4に試験結果を示す。貴金属量が増加するに伴いCO浄化率は増加した。貴金属量が2.37g/Lの点で、CO浄化率の増加は急激に頭打ち(飽和に近い状態)になった。このときの貴金属量2.37g/Lを適正貴金属量(A)とした。
【0023】
〔試験2〕
<触媒コート層の調製>
Ptをアルミナに担持させた下記の各組成の触媒コート層(DOC)を調製した。
【0024】
DOC11:Pt(1.7wt%)/Al
DOC12:Pt(2.5wt%)/Al
DOC13:Pt(3.7wt%)/Al
DOC14:Pt(4.5wt%)/Al
DOC15:Pt(5.7wt%)/Al
DOC16:Pt(6.9wt%)/Al
いずれも基材(材質:コージェライト)上に一定厚さ(140μm)にコートして触媒を形成した。
【0025】
<評価試験>
得られた各触媒に電気炉で700℃×5hの簡易耐久を施し、耐久後の貴金属粒子の粒径を測定した。
【0026】
図5に試験結果を示す。貴金属の担持密度の増加に対して、Pt粒径はほぼ一定を維持した後に急激に増加している。この急激なPt粒径の増加が起きる貴金属の担持密度は5wt%であった。この担持密度を適正担持密度(B)とした。
【0027】
<触媒コート層のコート量とコート厚さ>
Alを種々のコート量(X)でコートした際のコート厚(Y)の変化を測定した。測定結果を図6に示す。両者の関係は直線で近似でき、下記式で表すことができる。
【0028】
Y=0.6381X−3.4305
ここで、先に求めた適正貴金属量A(2.37g/L)と適正担持密度B(5wt%=0.05)との比(A/B)を取れば、対応するコート量X(g/L)が得られる。
【0029】
すなわち、X=2.37(g/L)/0.05=47.4(g/L)となる。
【0030】
これを上記のX−Y関係式に代入すれば、コート厚Y≒25μmが得られる。
【0031】
したがって、貴金属粒子が熱劣化(シンタリングによる粗大化)を起こさない最小限の触媒コート層厚さは25μmであることが分かる。
【0032】
〔試験3〕
<触媒コート層の調製>
基材(材質:コージェライト)上に、下記触媒コート層(DOC)と、その上に下記ダミーコート層(HCをトラップするコート厚を測定するための層:貴金属なし)をそれぞれ種々の厚さでコートしてサンプル触媒を形成した。
【0033】
DOC組成(一定):Pt(1.73)Pd(0.87)/Al(80) ( )内はg/L。
【0034】
触媒1:ダミー〔βゼオライト(17.6)+Al(7.4)〕……総厚さ〔12μm〕
触媒2:ダミー〔βゼオライト(35.3)+Al(14.7)〕……総厚さ〔23μm〕
触媒3:ダミー〔βゼオライト(60.0)+Al(25.0)〕……総厚さ〔50μm〕
触媒4:ダミー〔βゼオライト(84.7)+Al(35.3)〕……総厚さ〔76μm〕
触媒5:ダミー〔βゼオライト(106)+Al(44)〕………総厚さ〔92μm〕
(注)総厚さは、DOC組成部分とダミー層との合計厚さである。
【0035】
触媒サイズは容量1.1Lである。得られた各触媒に電気炉で650℃×50h+660℃×10hの簡易耐久を施した。
【0036】
<評価試験>
簡易耐久後の各触媒について下記の試験を行い、50%CO浄化温度を評価した。
【0037】
実機評価:2.2Lディーゼルエンジンによるベンチ試験
パターン:図7に示したように、触媒入り側排ガス温度550℃を狙ったリーン運転による前処理後、フューエルカットして降温させる。その後、成り行きで定常(150℃)とし、昇温速度50℃/minで昇温し、触媒の入りガスと出ガスを分析する。
【0038】
<評価結果>
図8に、上記試験結果として、コート厚と50%CO浄化温度との関係を示す。浄化性能はコート厚が25μmから80μmまでの範囲で良好(浄化温度が低い)である。コート厚25μm未満では貴金属粒子の熱劣化(シンタリングによる粗大化)により、触媒性能が急激に悪化している。また、コート厚80μmを超えると触媒性能が急激に悪化することが分かる。
【0039】
したがって、高速走行モード(EUDC)に対応する排ガス流速Ga=40〜50g/secの条件化においては、貴金属としてPt単独またはPtとPdの併用の場合、触媒コート層の適正厚さは25μm〜80μmである。
【0040】
特に、実機試験による上記適正厚さ範囲の下限値25μmが、上述の試験2において得た予測値と一致していることは本発明による大きな特徴である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、ディーゼル排ガスの酸化浄化用の排ガス浄化触媒等において、触媒コート層の厚さを最適化して高い利用効率を可能とした排ガス浄化触媒が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒単位体積当たりの触媒貴金属量の増加に対して、排ガス浄化率の増加が急激に頭打ちになるときの触媒貴金属量を適正貴金属量Aとし、
触媒担体の単位重量当たりの触媒貴金属の重量である触媒担持密度の増加に対して、加熱による触媒貴金属の粒径が急激に増加するときの触媒担持密度を適正担持密度Bとし、
触媒単位体積当たりの触媒コート量Xと、触媒コート厚Yとの単調増加の関係式を用いて、上記適正貴金属量A/上記適正担持密度Bの比A/Bである触媒コート量X1から求めた触媒コート厚Y1を最小厚さとし、
触媒コート厚の増加に対して、排ガス浄化性能が急激に低下するときの触媒コート厚を最大厚さとし、
触媒コート層の厚さが上記最小厚さから上記最大厚さまでの範囲内であることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
請求項1において、触媒貴金属がPt単独またはPtとPdとの共存であることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項3】
請求項2において、触媒コート量Xと触媒コート厚Yとの関係が下記式:
Y=0.6381×(適正貴金属量A/適正担持密度B)−3.431
で表されることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項4】
請求項3において、前記適正貴金属量が2.37g/Lcat、前記適正担持密度が5wt%であることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項において、触媒コート層の最小厚さが25μm、最大厚さが80μmであることを特徴とする排ガス浄化触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−50943(P2012−50943A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196691(P2010−196691)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】