説明

排ガス測定システム

【課題】 排ガス測定を高い信頼性でかつ確実に行うことができ、しかも、高い利便性および高い作業効率を得ることのできる排ガス測定システムを提供すること。
【解決手段】 この排ガス測定システムは、車両から排出される排ガスに含まれる粒子状物質の濃度を検知する光透過式の微粒子測定器と、少なくとも粒子状物質の濃度を表示する表示装置とにより構成されており、微粒子測定器と表示装置との信号伝達が無線通信によって行われる。また、この排ガス測定システムにおいては、特定の周波数帯の電磁波が利用されることが好ましく、さらに、屋舎内で用いられることにより、微粒子測定器と表示装置との間の無線通信が、屋舎の天井面、垂直壁面または床面による反射を利用して行われる構成とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車整備工場で用いられる、車両から排出される排ガス中に含まれる、黒煙などの粒子状物質の濃度を測定するための排ガス測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、特定の車両によって排出される排ガスによる問題、特に大型ディーゼルエンジンを搭載した車両から排出される大量の排ガスや塵埃等による大気汚染の問題は、人体健康上および地球環境保全の観点から重要視されており、車両から排出される一酸化炭素(CO),炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx ),粒子状物質(PM)およびその他の特定成分の排出量が規制の対象になっている。
【0003】
自動車整備工場で行われている自動車の法定点検・検査においては、例えば排ガス中に含まれる粒子状物質の濃度を計測し、燃焼解析を行ったり法的規制に適合しているか否かを検査したりすることが行われている。
例えばディーゼル車から排出される黒煙の排出量(濃度)を検査する場合には、例えば排出ガス中の黒煙を付着させた「測定原理紙」に光を反射させて、その反射率に基づいて、黒煙濃度を測定する黒煙測定器を使用した黒煙濃度測定が行われているが、排ガス低減技術が進み、黒煙がほとんど排出されなくなっている最近のディーゼル車に対しては、このような「反射式」の黒煙測定器による測定が難しくなってきているのが実情である。
【0004】
近年においては、排ガス測定方法として、排出ガス中に光を透過させて、その透過率に基づいて、排出ガスに含まれる黒煙等の粒子状物質の濃度を測定する光透過式黒煙測定器(以下、「オパシメータ」という。)を使用し、自動車の走行実態に即した窒素酸化物、黒煙等の粒子状物質の排出量を測定する手法が検討されており、このような排ガス測定方法によれば、強化されたPM規制値に十分対応できるほか、黒煙以外に排出割合が増え、測定が重要になってきている軽油や潤滑油の未燃焼分である有機性可溶成分(SOF成分)の測定も可能になるものと期待されている。
このようなオパシメータとしては、これまでに種々の構成のものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
オパシメータを使用した排ガス測定方法の一例について説明すると、オパシメータを例えば排ガスサンプリング用チューブにより車両の排気管に接続し、排ガス測定結果を表示する表示装置を電源ラインおよび信号ラインを有する信号伝達用ケーブルによりオパシメータに接続すると共に適宜の信号伝達用ケーブルにより自動車のアクセルペダルに設置されたアクセルスイッチに接続する。
そして、作業者が運転席でアクセルペダルを踏みこんでディーゼルエンジンの回転数を例えば最高回転数まで上げるなどのアクセル動作を行うことにより、アクセルスイッチが作動されるとオパシメータが動作状態とされ、これにより、規定量の排ガスがオパシメータに導入されて排ガス中の粒子状物質の濃度検知が行われ、その結果が表示装置に表示される。
【0006】
【特許文献1】特開2004−184119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して、上記のような排ガス測定方法は、例えば表示装置が車室内にいる作業者が視認可能な位置に設置された状態で、表示される測定結果を確認しながら行われるので、オパシメータと表示装置とを有線式に接続するという構成上、操作性が低く不便であり、また、自動車整備工場においては、通常、その他の作業が行われていることも多く、信号伝達用ケーブルがこれらの作業の妨げになったり、あるいは信号伝達用ケーブルが破損して測定それ自体が不能となることも少なくない。
特に、大型車両の排ガス測定を行うに際しては、検知性能が低下することを防止する観点から、サンプリング用チューブの長さを一定以上長くすることはできないため、十分に長い信号伝達用ケーブルを用いることが必要となり、上記のような問題が生じやすくなる。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、排ガス測定を高い信頼性でかつ確実に行うことができ、しかも、高い利便性および高い作業効率を得ることのできる排ガス測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の排ガス測定システムは、車両から排出される排ガスに含まれる粒子状物質の濃度を検知する光透過式の微粒子測定器と、少なくとも粒子状物質の濃度を表示する表示装置とにより構成された排ガス測定システムであって、
微粒子測定器と表示装置との信号伝達が無線通信によって行われることを特徴とする。
【0010】
本発明の排ガス測定システムにおいては、2.405〜2.480GHzの周波数帯の電磁波が利用されることが好ましい。
【0011】
本発明の排ガス測定システムは、車両の点検、整備スペースを有する屋舎内において用いられ、微粒子測定器と表示装置との間の無線通信が、屋舎の天井面、垂直壁面または床面による反射を利用して行われる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス測定システムによれば、微粒子測定器と表示装置との間の信号伝達が無線通信により行われることにより、基本的には、排ガス測定を行うに際しての機器の設置等に関する制約が少なく、高い自由度が得られるので、高い利便性および高い作業効率を得ることができ、しかも、信号伝達用ケーブルを用いた有線式の信号伝達方式であれば生ずるおそれのある、信号伝達用ケーブルの破損によって測定自体が実施不能となるといった問題が生ずることがなく、所定の排ガス測定を確実に行うことができる。
【0013】
また、特定の周波数帯の電磁波が利用されることにより、他の無線通信システムとの混信等が生ずることを確実に防止することができるので、微粒子測定器と表示装置との間の信号伝達を一層確実に行うことができ、所定の排ガス測定を一層確実にかつ一層高い信頼性をもって行うことができる。
さらに、微粒子測定器と表示装置との間の信号伝達が、屋舎の垂直壁面等による反射を利用して行われる構成とされていることにより、大型車両の排ガス測定を行う場合であっても、微粒子測定器と表示装置との間の信号伝達を確実に行うことができるので、所定の排ガス測定を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の排ガス測定システムは、例えばディーゼルエンジンを搭載した車両から排出される排ガス中に含まれる、例えば黒煙等の粒子状物質(PM)の濃度(排出量)測定を、微粒子測定器として光透過式黒煙測定器(オパシメータ)を用いて行うものである。
以下、本発明について、自動車整備工場の屋舎内において、箱型に架装を施したバン型のトラックの排ガス測定を行う場合を例に挙げて説明する。
【0015】
図1は、本発明の排ガス測定システムの一例における構成を概略的に示す説明図である。
この排ガス測定システムは、試験に供されるトラック10の排気管11に、排ガスサンプリング用チューブ38等により接続された光透過式黒煙測定器(オパシメータ)20と、少なくとも排ガス中に含まれる粒子状物質の濃度等の測定結果を表示する表示装置40とにより構成されている。
オパシメータ20および表示装置40は、いずれも、無線通信手段である信号送受信用アンテナ(図示せず)を備えており、この排ガス測定システムにおいては、オパシメータ20と表示装置40との間の信号伝達が無線通信により行われる。
【0016】
表示装置40の設置位置は、車室内の作業員によって、表示が視認可能な位置であれば特に制限されるものではなく、例えば車室内に設置することもできる。
表示装置40は、少なくとも無線通信機能および表示機能を備えたものであればよく、例えばパーソナルコンピューターやその他の携帯端末機器を利用することもできる。
この実施例における表示装置40としては、例えば適宜の信号伝達用ケーブル41により接続された、トラック10のアクセルペダル12に設置されるアクセルスイッチ(図示せず)を有し、アクセル動作に連動してON−OFFされる構成のものが用いられているが、表示装置はスイッチを有したものである必要はなく、例えば表示装置の動作制御用のソフトにスイッチ機能が付加された構成のものであってもよい。
【0017】
表示装置40に表示される情報としては、例えば、排ガス中に含まれるNOx 濃度,黒煙濃度等の測定結果および当該特定成分についての車種,年式等に応じた規制値並びにその他の排ガス測定に係る情報、あるいはオパシメータ20固有の情報(無線通信により検知信号と共に表示装置40に入力されるオパシメータ20自体に記録されているもの)等を例示することができる。
【0018】
オパシメータ20は、光源から放射された光が排気ガスが流通している状態のガス流路を通過する過程において、当該排気ガス中に存在する粒子状物質の遮光作用によって光の進行が阻害され、排気ガス中における微粒子濃度に対応して光検出センサに入射する光量が減少することを利用し、光源から放射された光の光量に対する光検出センサに入射する光の光量の低下の程度に応じて粒子状物質の濃度(密度)を検知する『光透過型』のものである。
このようなオパシメータ20としては、光源から放射された光を直接光検出センサに入射させる構成を有する直光式のものと、光源から放射された光を反射鏡を介して光検出センサに入射させる構成を有する反射光式のものとがあるが、本発明においては、直光式のものおよび反射光式のもののいずれのものも用いることができる。
【0019】
而して、上記構成の排ガス測定システムにおいては、上述したように、オパシメータ20と表示装置40との間の信号伝達が無線通信により行われる。
この排ガス測定システムによる無線通信は、オパシメータ20における無線通信手段の無線モジュールIDと、表示装置40における無線通信手段の無線モジュールIDとを相互に設定すること(モジュール機能)により、行われる。
オパシメータ20と表示装置40との間で行われる無線通信で利用される電磁波の周波数帯は、個人用簡易無線電話システム(PHS)や無線LAN等の無線通信システムに割り当てられていない周波数帯であって、少なくとも自動車整備工場で使用されるその他の無線通信システム(機器)に割り当てられたものを除く周波数帯であることが好ましく、具体的には例えば2.405〜2.480GHzの周波数帯(2.4GHz帯)であることが好ましい。
このように特定の周波数帯の電磁波が利用されることにより、電磁波が相互干渉を起こしたりして無線通信システムの混信、誤作動が発生することを確実に防止することができ、また、同じスペース内またはスペース外で使用されている他の無線通信システムに対して悪影響を与えないようにすることができ、従って、オパシメータ20と表示装置40との間で確実な信号伝達を行うことができ、所定の排ガス測定を一層高い信頼性をもって確実に行うことができる。
【0020】
以下、上記排ガス測定システムによる排ガス測定方法ついて説明する。
先ず、自動車整備工場の屋舎内において、オパシメータ20を排ガスサンプリング用チューブ38により、試験に供されるバン型のトラック10の排気管11に接続すると共に表示装置40をその表示部が運転席から視認可能な位置に設置、あるいは車室内に設置する。ここに、表示装置40が信号伝達用ケーブル41により接続されたスイッチ(アクセルスイッチ)を有するものである場合には、当該スイッチをトラック10のアクセルペダル12に設置する(図1参照)。
ここに、トラック10が、例えば全長が約10mであって、排気管11が運手席と反対側の位置において後方に開口するよう設けられた構成のものである場合を考えると、オパシメータ20および表示装置40は、通常、オパシメータ20と表示装置40とを有線式に接続するのであれば、少なくとも10m以上の長さの信号伝達ケーブルが必要となる位置に設置される状態とされる。この状態は、例えばオパシメータ20と表示装置40との直線上にトラック10が位置された状態、すなわち、箱型の架装13によってオパシメータ20と表示装置40との間の信号伝達が直接的に行うことが困難な状態である。
【0021】
次いで、作業者(整備士)が運転席において例えばアクセルを一杯に(急速に)踏み込むなどしてエンジンに一定の負荷をかけた状態を所定時間の間保持することにより排ガス測定(検査)が開始される。
すなわち、作業者によるアクセル動作に対応して表示装置40からの信号(動作指令信号)が無線通信によりオパシメータ20に入力されてオパシメータ20が動作状態とされ、これにより、規定量の排ガスが排ガスサンプリング用チューブ38を介してオパシメータ20に導入され、オパシメータ20によって排ガス中に含まれる黒煙等の粒子状物質の濃度が検知される。
そして、粒子状物質の濃度に係る検知信号を含む排ガス測定に係る信号が、例えば図2に示すように、自動車整備工場の屋舎50の側壁(垂直壁)面51,天井面52および床面53,あるいはスペース内にある物(什器)の表面などによって反射されて表示装置40に入力され、その結果が、例えば、試験に供されるトラック10の車種、年式に応じて定められた規制値やその他の排ガス測定に係る情報などと共に表示される。
【0022】
而して、上記構成の排ガス測定システムによれば、オパシメータ20と表示装置40との間の信号伝達が無線通信によって行われることにより、基本的には、排ガス測定を行うに際しての機器の設置等に関する制約が少なく、高い自由度が得られるので、高い利便性および高い作業効率を得ることができ、しかも、信号伝達用ケーブルを用いた有線式の信号伝達方式であれば生ずるおそれのある、信号伝達用ケーブルの破損によって測定自体が実施不能となるといった問題が生ずることがなく、所定の排ガス測定を確実に行うことができる。
【0023】
また、特定の周波数帯の電磁波が利用されることにより、他の無線通信システムとの混信が生ずることを防止することができると共に、屋舎50を形成する建材等によって吸収される程度を小さくすることができるので、オパシメータ20と表示装置40との間の信号伝達を一層確実に行うことができ、所定の排ガス測定を一層確実にかつ一層高い信頼性をもって行うことができる。
さらに、オパシメータ20と表示装置との間の信号伝達が屋舎50の垂直壁面51等による反射を利用して行われる構成とされていることにより、例えば大型車両の排ガス測定を行う場合であっても、オパシメータ20と表示装置40との間の信号伝達を確実に行うことができるので、所期の排ガス測定を一層確実に行うことができる。
【0024】
以上のように、本発明の排ガス測定システムによれば、オパシメータ20と表示装置40と間の信号伝達を無線通信により確実に行うことができるので、例えば全長が10m以上の大型の車両、あるいはこのような大型のものであって、さらに、排気管の開口方向が後方あるいは運転席と反対側の側方である車両、あるいは架装が施された車両などの排ガス測定(検査)を行う場合に極めて有用である。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明の排ガス測定システムにおいては、壁面等による反射を利用してオパシメータと制御装置との相互通信が行われる構成である必要はなく、信号の送受信がオパシメータと制御装置との間で直接的に行われるよう構成されていてもよい。
また、試験に供される車両は特に制限されるものでない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の排ガス測定システムの一例における構成を概略的に示す説明図である。
【図2】本発明の排ガス測定システムにおける信号伝達方法を説明するための斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
10 トラック
11 排気管
12 アクセルペダル
13 架装
20 光透過式黒煙測定器(オパシメータ)
38 排ガスサンプリング用チューブ
40 表示装置
41 信号伝達用ケーブル
50 屋舎
51 側壁(垂直壁)面
52 天井面
53 床面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両から排出される排ガスに含まれる粒子状物質の濃度を検知する光透過式の微粒子測定器と、少なくとも粒子状物質の濃度を表示する表示装置とにより構成された排ガス測定システムであって、
微粒子測定器と表示装置との信号伝達が無線通信によって行われることを特徴とする排ガス測定システム。
【請求項2】
2.405〜2.480GHzの周波数帯の電磁波が利用されることを特徴とする請求項1に記載の排ガス測定システム。
【請求項3】
車両の点検、整備スペースを有する屋舎内において用いられ、微粒子測定器と表示装置との間の無線通信が、屋舎の天井面、垂直壁面または床面による反射を利用して行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排ガス測定システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−209177(P2008−209177A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44912(P2007−44912)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】