説明

排気ガスの処理方法および処理装置

【課題】ボイラーなどの排気ガスの温度が高くなっても、排気ガス中の窒素酸化物の処理性能が低下しない処理方法および装置を提供する。
【解決手段】排気ガスの温度が約150℃を超えたときに排気ガスの冷却装置を作動させて、排気ガスの温度を約130℃以下に制御することにより、オゾンによる窒素酸化物の酸化反応効率の低下を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスの処理方法、およびその方法に用いられる処理装置に関し、より詳細には排気ガスの温度を制御することにより、排気ガス中の窒素酸化物を効率よく浄化する処理方法およびその方法に用いられる処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所やディーゼルエンジンおよびボイラーなどに代表されるエネルギーの供給および消費に伴って、一酸化窒素(NO)や、二酸化窒素(NO2)などの窒素酸化物が排出される。
【0003】
環境中に排出されるこれらの窒素酸化物は、光化学スモッグなどの原因となり、大都市での環境問題の重要課題として、その対策が検討されている。また、窒素酸化物は、近年問題となっている地球温暖化の原因の一つとしても注目されている。
【0004】
窒素酸化物を低減させる方法として、燃焼方式、触媒方式、選択触媒還元方式(SCR)、アンモニア噴射方式などが知られており、また近年においては、前記触媒方式や非熱プラズマ、電子ビームなどの技術を結合して、窒素酸化物を低減させる方法や、その他プラズマ、電子ビーム方式とアンモニア、過酸化水素および塩化カルシウムなどの化学物質や触媒などを用いた方法との結合により、窒素酸化物を低減する方法が知られている。
【0005】
それらの中で注目を集めているのが、プラズマ・ケミカルハイブリッド法である。この方法は、窒素酸化物を含む排気ガスを浄化する方法であって、空気を放電プラズマ反応器に供給してラジカルガスを生成させ、このラジカルガスおよび排気ガスを酸化反応領域に供給し、前記排気ガス中の窒素酸化物をラジカルガスにより酸化してNO2を含む酸化ガスに変換し、次いで該酸化ガスをNa2SO3、Na2S、およびNa223などの化合物を含む還元剤水溶液と還元反応領域で接触させることにより、NO2を窒素ガス(N2)に還元し、浄化する方法である(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0006】
プラズマ・ケミカルハイブリッド法を実用化するにあたっては、連続処理条件下でも窒素酸化物の除去性能を維持するために、ケミカルスクラバーに薬液を継続して補充する必要がある。例えば、pHを11に維持し、かつ酸化還元電位(ORP)を−50〜−250mVに制御して、還元反応領域内へ導入直前の循環処理液に追加の還元剤水溶液およびアルカリ水溶液を注入・補充する方法が提案されている(非特許文献1)。
【0007】
この方法は優れてはいるが、実験室内で行われたものであり、二酸化炭素(CO2)をほとんど含まない合成排気ガスが用いられている。すなわち、この方法では、燃焼ガス中に数%の濃度で必ず含まれるCO2の存在が考慮されていない。
【0008】
本発明者らは、ボイラー燃焼器を用い、還元反応領域へ導入直前の循環処理液に追加の還元剤水溶液およびアルカリ水溶液を補充するこの方法について試験を行なった。しかしながら、この試験では排ガス中に数%のCO2が含まれていたため、水溶液のpHが直ちに低下し、非特許文献1に記載のようなpH=11の条件を維持することが困難であった。
その上、酸化還元電位(ORP)も増加していくため、非特許文献1に記載のように、−50mV以下で運転することが困難であった。
【0009】
これは、追加的に補充された還元剤水溶液とアルカリ水溶液がCO2を含んだ排気ガスと接触して、還元剤水溶液の酸化反応およびアルカリ水溶液とCO2との反応が生じ、これらの水溶液が短時間で劣化するため、追加的に補充された水溶液が、循環している混合水溶液の活性回復に寄与しなかったためと思われる。
【0010】
このため、窒素酸化物の除去性能を維持した状態で、排気ガスを連続的に長時間処理することは困難であったが、本発明者らは、酸化反応および還元反応が行われる湿式反応器の下部に設けられた混合水溶液の貯留部に還元剤水溶液およびアルカリ水溶液を補充することにより、追加的に補充された前記水溶液がCO2を含んだ排気ガスと接触して直ちに劣化することを防止できることを見出した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO05/065805号公報
【特許文献2】特開2004−068684号公報
【特許文献3】特開2000−117049号公報
【特許文献4】特開2000−051653号公報
【特許文献5】WO2008/102708号公報
【非特許文献1】Luke Chen, Jin-Wei Lin and Chen-Lu Yang, "Absorption of NO2 in a Packed Tower with Na2SO3 Aqueous Solution", Environmental Progress, vol.21, No.4, pp.225-230 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、この方法でも、窒素酸化物を含んだ排気ガスの温度が高くなると、窒素酸化物の除去性能が低下する傾向があるため、そのような場合でも対応できる処理方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、窒素酸化物を含む排気ガスの温度が高くなっても、窒素酸化物を効率よく除去できる処理方法を開発すべく鋭意検討を重ねた結果、排気ガスの温度が約150℃を超えると、窒素酸化物のオゾンガスによる酸化反応が低下し、その結果、窒素酸化物の除去性能が低下することを見出し、この発明を完成するに到った。
【0014】
かくして、本発明によれば、窒素酸化物を含む排気ガスおよびオゾンガスを酸化反応領域へ導入し、排気ガス中の窒素酸化物をオゾンガスと反応させて、前記窒素酸化物を酸化してNO2含有酸化ガスに変換する工程を含む排気ガスの処理方法において、酸化反応領域に導入される排気ガスの温度が所定の温度、例えば約150℃を超えたときに排気ガス冷却装置を作動させて、酸化反応領域に導入される排気ガスの温度を所定の温度、例えば約130℃以下に低下させることにより、排気ガス中の窒素酸化物の酸化反応を促進することを特徴とする排気ガスの処理方法、およびこの方法に用いられる処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸化反応領域に導入される排気ガスの温度が約150℃を超えたときに、該排気ガスを冷却して、その温度を所定の温度、例えば約130℃以下とすることにより、オゾンガスによる窒素酸化物の酸化反応の低下を回避することができ、その結果、排気ガスの温度が所定の温度、例えば約150℃を超えたときでも、窒素酸化物の除去性能を低下させないで、処理装置の運転を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明の処理装置の一実施形態の全体構成を示す説明図である。
【図1B】従来の処理装置の全体構成を示す説明図である。
【図2A】試験例1で、本発明の処理装置を用いたときのボイラー出口および酸化反応領域における排気ガスの温度の処理経過時間に対する変化を示すグラフである。
【図2B】試験例1で、従来の処理装置を用いたときのボイラー出口および酸化反応領域における排気ガスの温度の処理経過時間に対する変化を示すグラフである。
【図3A】試験例2で本発明の処理装置を用いたときのボイラー出口および酸化反応領域におけるNOとNOxの濃度の処理経過時間に対する変化を示すグラフである。
【図3B】試験例2で従来の処理装置を用いたときのボイラー出口および酸化反応領域におけるNOとNOxの濃度の処理経過時間に対する変化を示すグラフである。
【図4】試験例3で、酸化反応領域における排気ガス温度および、NO酸化量とオゾン供給量とのモル比(△NO/O3)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による処理方法では、ボイラーなどから発生した排気ガスを湿式反応器の酸化反応領域へ導入する際に、排気ガス温度測定部により該排気ガスの温度を測定する。排気ガス温度の測定箇所は特に限定されないが、酸化反応領域への導入直前付近で排気ガス温度を測定すれば、酸化反応領域における排気ガス温度とほぼ同じ温度を把握できるので好ましい。
【0018】
このようにして測定された排気ガス温度は、電気信号に変換されて排気ガス温度制御部へ送られ、排気ガスの温度が所定の温度、例えば150℃を超えているときには、該温度制御部からの電気信号に基づいて排気ガス冷却装置がONとされる。
【0019】
冷却装置の運転が続いて排気ガス温度が所定の温度、例えば約130℃を下回ると、その排気ガス温度が電気信号に変換されて排気ガス温度制御部へ送られ、温度制御部からの電気信号に基づいて排気ガス冷却装置がOFFとされる。
【0020】
一方、低温非平衡プラズマ反応により空気から生成したラジカルガスは、上記の窒素酸化物含有排気ガスとともに酸化反応領域に供給されるか、あるいは排気ガスとは別のラインを通って酸化反応領域に供給される。
【0021】
酸化反応領域に導入された排気ガス中の窒素酸化物は、ラジカルガス中のオゾンにより酸化されてNO2を含む酸化ガスとなり、このNO2を含む酸化ガスは次いで還元反応領域に導入された還元剤水溶液と接触し、還元されて窒素ガスとなり、大気中に放出される。
【0022】
本発明の処理方法で用いられる低温非平衡プラズマとは、ガス温度が通常の気体の燃焼温度(700〜1000℃程度)より相当低い電離状態のプラズマをいい、通常、300℃以下のプラズマをいい、下限の温度は約−200℃である。
【0023】
本発明における低温非平衡プラズマ反応は、無声放電方式のオゾナイザーを用いて行うのが好ましく、その運転条件は例えば次のとおりである。
温度は100℃以下、好ましくは常温(0〜40℃)であり、圧力は大気圧程度であり、相対湿度は50%以下であり、電圧は約10kVであり、周波数は0.42〜6.82kHzの範囲である。このような条件の下にオゾナイザーを運転すれば、エネルギー効率の高いNO酸化を行える利点がある。
【0024】
また、低温非平衡プラズマ反応は、空気からオゾンを含むラジカルガスを安定して生成することができるので、定常運転させても効率が低下しない排気ガスの処理方法を実現させる上で好適である。なお、上記のラジカルガス中には、オゾンの他に、O、OH、HO2ラジカルなどが含まれている。
【0025】
オゾンガスの供給量(O3、ppm)は、窒素酸化物含有排気ガスの温度(T℃)およびオゾンによって酸化される排気ガス中に含まれるNOの量(△NO、ppm)に基づいて、次式により求められる量とするのが処理効率の面で好ましいが、この量は多少、例えば10%程度上下に変動しても差し支えない。
3(ppm)=△NO(ppm)/[−exp[(T−175)/40]/10+1.15]
この数式は、後記の試験例3の結果に基づいて求められたものである。
なお、この明細書において、オゾンの供給量(O3、ppm)とは、排気ガスで希釈されたときのオゾンの濃度を意味する。
【0026】
オゾンガスの供給量の増減は、通常の方法、例えばオゾナイザーの周波数およびオゾナイザーへの空気の供給量を加減することにより行うことができる。
そして、上記のオゾンガス供給量の調節は、供給すべきオゾンガス量を上記の式に基づいてマイクロコンピュータにより計算し、その結果をオゾナイザーの運転条件に反映させることにより、自動的に行うこともできる。
【0027】
本発明の処理方法で用いられる還元剤水溶液は、無機含硫黄還元剤から選ばれる少なくとも一つの化合物を含み、アルカリ水溶液はアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む。
【0028】
上記の無機含硫黄還元剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、硫化ナトリウム(Na2S)およびチオ硫酸ナトリウム(Na223)などが挙げられる。
また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)および水酸化カリウム(KOH)などが挙げられる。
【0029】
上記の処理方法では、混合水溶液のpHおよびORPが随時測定され、その結果に基づいて還元剤水溶液およびアルカリ水溶液が還元剤水溶液タンクおよびアルカリ水溶液タンクから混合水溶液貯留部に適宜補充される。
還元反応領域に導入される混合水溶液のpHは6〜10が好ましく、8〜9がより好ましい。また、混合水溶液のORPは−50〜100mVが好ましく、−50〜0mVがより好ましい。
【0030】
放出前のガスを検査する場合には、放出前のガスについて、例えばNOx計によるNOx濃度測定、オゾンモニタによるオゾン濃度測定などが任意に行なわれ、その結果に基づいて処理方法の操作条件が必要に応じて修正される。
【0031】
例えば、排出ガス中にオゾンが1ppm以上検出されたときには、プラズマ反応部でのオゾン生成量を調整することにより、オゾンの排出が抑制される。
本発明の処理方法は、炉筒煙管式ボイラーから排出された排気ガス、あるいはディーゼルエンジンから排出された排気ガスの処理に適している。
【0032】
この発明は、上記の処理方法に用いられる排気ガスの処理装置を提供するものでもある。
本発明の処理装置は、酸化反応領域および還元反応領域を備えた湿式反応器と、空気からラジカルガスを生成する大気圧低温非平衡放電プラズマ反応部と、生成したラジカルガスを酸化反応領域に供給するラジカルガス供給部と、窒素酸化物を含む排気ガスを酸化反応領域に供給する排気ガス供給部と、還元剤水溶液およびアルカリ水溶液を湿式反応器に供給し循環させる水溶液供給循環部とを備えた排気ガスの処理装置において、排気ガス発生源と前記排気ガス供給部との間に排気ガス冷却装置を設け、該冷却装置と前記酸化反応領域との間に排気ガス温度測定部を設け、該測定部の測定結果に基づいて前記の排気ガス冷却装置を作動させる排気ガス温度制御部を設けたことを特徴とする。
【0033】
この処理装置によれば、酸化反応領域へ導入される排気ガスの温度を所定の範囲に維持できるので、オゾンガスによる窒素酸化物の酸化反応率を低下させないで排気ガスを効率よく処理することができる。
【0034】
そのため、排気ガスの温度が高くなっても、窒素酸化物含有排気ガスの処理性能を低下させないで、効率よく、安定して、排気ガス中の窒素酸化物を処理することができる。
【0035】
本発明の処理装置における湿式反応器としては、反応効率の優れた塔式反応器またはカラム式反応器であるのが好ましい。
還元反応領域には反応に与る気体と液体との接触を促進させるため、ポリプロピレン製のテラレットS-(II)(月島環境エンジニアリング株式会社製、商品名)、SUS製のラシヒスーパーリングRSR(ラシヒ社製、商品名)などが充填されている。
【0036】
本発明の排気ガス処理装置における冷却装置としては、特に限定されないが、例えば水噴霧式冷却器などが挙げられる。
本発明による排気ガスの処理装置における混合水溶液循環部は、湿式反応器の下部に設けられた混合水溶液貯留部内の混合水溶液を還元反応領域に循環させる循環ラインおよび循環ポンプから構成されている。
【0037】
以下、この発明の処理装置を図面に基づいて詳細に説明する。
図1Aは本発明の一実施形態に係る処理装置の全体構成を示す説明図であり、図1Bは比較対象の従来の処理装置の全体構成を示す説明図である。
【0038】
まず、図1Aに示される本発明の実施形態に係る処理装置について説明する。
本発明の処理装置は、低温非平衡放電プラズマ反応部としてのオゾナイザー1、排気ガス冷却装置2aを備えたボイラー2、酸化反応領域4および還元反応領域5を備えた湿式反応器3、湿式反応器3の下部に設けられた混合水溶液貯留部10、ボイラー2と酸化反応領域4とを連結する排気ガス供給ライン2b、酸化反応領域4直前の排気ガス供給ライン2bに設けられた排気ガス温度測定部2c、排気ガス温度測定部2cと排気ガス冷却装置との間に信号線を介して電気的に接続された排気ガス温度制御部2d、オゾナイザー1と酸化反応領域4とを連結するオゾン供給ライン1a、循環ポンプ11を介して貯留部10と還元反応領域5の上部とを連結する混合水溶液循環ライン9から、主に構成されている。
【0039】
さらに詳しく説明すると、オゾナイザー1は、低温非平衡プラズマにより空気を処理してラジカルガスの一種であるオゾンを生成させるものであり、生成したオゾンガスはオゾナイザー1の上部からオゾン供給ライン1aを通って、ボイラー2からの排気ガス供給ライン2bの途中へ導かれ、ボイラー2からの排気ガスとともに酸化反応領域4へ導かれる。
【0040】
ボイラー2の上部には排気ガス冷却装置2aが設けられており、この排気ガス冷却装置2aで所定の温度以下に冷却された後の窒素酸化物含有排気ガスは、排気ガス供給ライン2bを通り、その途中で上記のオゾンガスと合わさって、酸化反応領域4へ導かれる。
【0041】
窒素酸化物含有排気ガスは、酸化反応領域4へ導入される直前に、排気ガス温度測定部2cにより温度が測定され、その測定結果は電気信号に変換されて排気ガス温度制御部へ送られる。
【0042】
排気ガス温度制御部2dは、排気ガス温度測定部2cから受けた測定結果が所定の温度、例えば150℃を超えているときには、排気ガス冷却装置2aを起動させる信号を排気ガス冷却装置へ発する。
逆に、排気ガス温度制御部2dは、排気ガス温度測定部2cから受けた測定結果が所定の温度、例えば130℃を下回っているときには、排気ガス冷却装置2aを停止させる信号を排気ガス冷却装置へ発する。
【0043】
湿式反応器3は、下部の酸化反応領域4および上部の還元反応領域5から構成された塔式反応器であり、酸化反応領域4と還元反応領域5は一つの湿式反応器3(スクラバー)内に存在している。湿式反応器3の上端には処理済みのガスの放出口15が設けられ、酸化反応領域4の下には貯留部10が設けられている。
【0044】
還元反応領域5の上部にはスプレイ6が設置され、貯留部10から循環ライン9を通って循環してきた還元剤(例えばNa2SO3)水溶液およびアルカリ(例えばNaOH)水溶液の混合水溶液がスプレイ6から還元反応領域5内に噴霧される。
還元反応領域5の内部には、気体と液体との接触度合いを向上させて還元反応を促進するための充てん材(図示省略)が充填されている。
【0045】
還元反応領域5と酸化反応領域4の境界は、酸化反応領域4で生じたNO2ガスを含む酸化ガスを還元反応領域5へ通過させ、かつ混合水溶液を還元反応領域5から酸化反応領域4へ通過させるための複数の通過孔を有する区画壁が設けられている。
【0046】
また、酸化反応領域4と貯留部10との境界は、還元反応領域5から酸化反応領域4を通ってきた混合水溶液を通過させるための複数の通過孔を有する区画壁が設けられていてもよい。
【0047】
貯留部10の上部には水溶液補充ライン14が接続されるとともに、該貯留部10が混合水溶液で満杯になったときに備えて、オーバーフロー口(図示省略)が設けられている。また、貯留部10の下部には混合水溶液の循環ライン9が接続されている。
【0048】
酸化反応領域4に導入された排気ガス中の窒素酸化物は、同じく酸化反応領域4へ導入されたオゾンにより酸化されてNO2となる。
このようにして酸化反応領域で生成したNO2を含む酸化ガスは、還元反応領域5へ入り、スプレイ6から噴霧された混合水溶液と接触して還元され、窒素ガスとなり、該窒素ガスはガス放出口15から大気中へ放出される。
【0049】
還元反応領域5でNO2を含む酸化ガスと接触した後の混合水溶液は、還元反応領域5から酸化反応領域4へ入り、さらに酸化反応領域4から貯留部10へ入り、次の循環に備えられる。
【0050】
混合水溶液循環部は、循環ライン9およびその途中に設けられた循環ポンプ11からなっており、前記循環ライン9の始端は貯留部10の下部に接続され、その終端は前記のスプレイ6に接続されている。
【0051】
貯留部10に貯留された混合水溶液は、前記の循環ポンプ11の駆動により、貯留部10から循環ライン9、還元反応領域5および酸化反応領域4を経て、貯留部10へ戻るようになされている。
【0052】
循環する混合水溶液の一部は循環ライン9から分岐した経路に入り、ORP計12およびpH計13によりORPおよびpHがそれぞれ測定された後、水溶液補充ライン14を通って再び貯留部10へ戻される。なお、この実施形態ではORP計12が上流側に設けられ、pH計が下流側に設けられているが、これらの順序は任意である。
【0053】
ORP計12およびpH計13の下流側の水溶液補充ライン14には還元剤水溶液補充ライン7aおよびアルカリ水溶液補充ライン8aがそれぞれ接続されている。
還元剤水溶液補充ライン7aの先端は還元剤(Na2SO3)水溶液タンク7に接続され、アルカリ水溶液補充ライン8aの先端はアルカリ(NaOH)水溶液タンク8に接続されている。
【0054】
測定された混合水溶液のORPの値が所定値より高いときには、還元剤水溶液補充ライン7aの途中に設けられた送液ポンプ(図示省略)をONにすることにより、還元剤水溶液が貯留部10に補充される。
【0055】
同様に、測定された混合水溶液のpHが所定値より低いときには、アルカリ水溶液補充ライン8aの途中に設けられた送液ポンプ(図示省略)をONにすることにより、アルカリ水溶液が貯留部に補充される。
【0056】
このように、混合水溶液のORPおよびpHを随時測定し、その結果に基づいて還元剤水溶液およびアルカリ水溶液が適宜補充されることにより、貯留部10内に貯留される混合水溶液のORPおよびpHは、所定の範囲に保たれるようになされている。
【0057】
そのため、湿式反応器3を循環してきて活性が低下した混合水溶液が貯留部10に戻されるにもかかわらず、貯留部10内の混合水溶液の活性は所定の範囲に維持される。
【0058】
この実施形態では、補充される還元剤水溶液およびアルカリ水溶液が貯留部10に一旦貯留され、オゾンガスおよび排気ガスと接触しないため、オゾンガスによる還元剤の速やかな酸化、ならびに排気ガス中に含まれるCO2によるアルカリ水溶液の速やかな劣化を回避することができる。
【0059】
図1Bは、特許文献5に記載され、後記の試験例で比較対象として用いられた従来例の処理装置の全体構成を示す説明図である。
この従来例では、上記の図1Aで示される本発明の実施形態における排気ガス温度測定部2c、排気ガス温度制御部2dおよび排気ガス冷却装置2aが設けられていない点で、上記の本発明の処理装置とは異なっている。
【0060】
この従来例では、排気ガスの温度が所定の範囲に制御されないので、排気ガスの温度が例えば150℃を超えたりすると、酸化反応領域におけるオゾンガスによる窒素酸化物の酸化反応率が低下し、その結果、排気ガスの処理性能が低下することとなる。
【0061】
これに対し、本発明による処理装置では、排気ガスの温度が所定の範囲に維持されるため、窒素酸化物のオゾンガスによる酸化反応率が低下せず、排気ガスの処理性能を高い水準に維持できる。
【0062】
したがって、本発明の処理装置によれば、ボイラーなどの負荷が大きくなって、排気ガスの温度が高くなっても、処理装置の処理性能を低下させないで、効率よく処理装置を運転することができる。
【0063】
なお、本発明の処理装置では、上記の本発明の処理装置の一実施態様を表す図1Aにおける、循環ライン9から分岐しORP計12およびpH計13を経由しかつその下流側で還元剤水溶液タンク7からの還元剤水溶液補充ライン7aおよびアルカリ水溶液タンク8からのアルカリ水溶液補充ライン8aと合流して貯留部10に到る水溶液補充ライン14は必須でなく、任意であり省略することができる。
次に、試験例を挙げて本発明の効果を例証する。
【0064】
試験例1
図1Aに示される本発明の処理装置および図1Bに示される比較対象の従来の処理装置を用い、都市ガスを燃料として、パイロットプラントボイラーからの排ガスの処理試験を、次の条件下にそれぞれ行った。
排気ガスの流量:1390Nm3/時間
オゾン供給量:86g/時間
排気ガス中のNO濃度:28〜29ppm
混合水溶液の流量:4.5m3/時間
混合水溶液のORP:−72〜−57mV
混合水溶液のpH:8.3〜8.4
【0065】
ボイラー2からの排気ガス出口における排気ガスの温度、および酸化反応領域4への導入直前の排気ガスの温度を、熱電対を用いて経時的に測定した。
本発明の処理装置を用いた場合の測定結果を図2Aに示し、従来の処理装置を用いた場合の測定結果を図2Bに示す。
【0066】
排気ガスの温度を制御した本発明の処理装置では、ボイラーの排気ガス出口付近における排気ガス温度が約320℃であったが、排気ガス温度制御部2dの作用により冷却装置2aが作動して排気ガスが冷却された結果、酸化反応領域4へ導入される排気ガスの温度は約160℃に維持された(図2A参照)。
【0067】
一方、排気ガスの冷却装置を備えない従来の処理装置では、ボイラーの排気ガス出口付近における排気ガス温度は約320℃であり、酸化反応領域4へ導入される排気ガスの温度はやや下がったものの、約275℃で維持された(図2B参照)。
【0068】
試験例2
上記の試験例1と並行して、ボイラー2からの排気ガス出口における排気ガス中のNOおよびNOxの濃度、ならびに酸化反応領域4を通過した排気ガス中のNOおよびNOxの濃度を、ガス分析計(株式会社堀場製作所製、PG−240)を用いて、それぞれ経時的に測定した。
本発明の処理装置を用いた場合の測定結果を図3Aに示し、従来の処理装置を用いた場合の測定結果を図3Bに示す。
【0069】
排気ガスの温度を制御した本発明の処理装置では、ボイラー出口におけるNOの濃度約28ppmが酸化反応領域で酸化されて約0ppmに低下し、またボイラー出口におけるNOxの濃度約34ppmが約12ppmに低下した(図3A参照)。
【0070】
一方、排気ガスの温度を制御しない従来の処理装置では、ボイラー出口におけるNOの濃度約29ppmが酸化反応領域で約26ppmに低下し、またボイラー出口におけるNOxの濃度約34ppmが約31ppmに低下したに過ぎない(図3B参照)。
【0071】
試験例3
図1Aに示される本発明の処理装置を用いて、パイロットプラントボイラーからの排気ガスの処理試験を次の条件下に行った。
排気ガスの流量:415〜1390Nm3/時間
オゾン供給量:25〜175g/時間
混合水溶液の流量:2.5〜4.5m3/時間
混合水溶液のORP:−73〜37mV
混合水溶液のpH:7.7〜8.4
【0072】
この試験では、燃料として重油または都市ガスを用いて、ボイラーに低負荷、中負荷または高負荷をかけたときの、酸化反応領域における排気ガスの温度および、NO酸化量とオゾン供給量とのモル比(△NO/O3)の関係を調べた。結果を図4に示す。
なお、低負荷、中負荷および高負荷のときの運転条件は次のとおりである。
低負荷:都市ガス燃焼量:30m3/時間;重油燃焼量:50L/時間
中負荷:都市ガス燃焼量:70m3/時間
高負荷:都市ガス燃焼量:100m3/時間;重油燃焼量:89L/時間
【0073】
図4から明らかなように、排気ガスの温度が150℃辺りまではNO酸化量とオゾン供給量とのモル比(△NO/O3)は安定しているが、150℃を超えた辺りから該モル比は急激に低下し、排気ガスの温度が260℃の辺りになると、該モル比は0.2程度となり、NOとオゾンは殆ど反応していないことが分かる。
【0074】
この試験で得られた結果から、排気ガスの温度と上記モル比(△NO/O3)との関係を次の式で表すことができる。
△NO/O3=−exp[(T−175)/40]/10+1.15
【0075】
なお、上記のモル比(△NO/O3)は、NO酸化量とオゾン供給量との排気ガス中における濃度比[△NO(ppm)/O3(ppm)]とも等しい。
この試験結果から、冷却装置を用いて排気ガスの温度を約150℃以下に制御すれば、窒素酸化物とオゾンガスとの反応率の低下を抑制でき、したがってNOxの除去性能を高いレベルで維持できることが分かる。
【符号の説明】
【0076】
1 オゾナイザー
1a オゾン供給ライン
2 ボイラー
2a 排気ガス冷却装置
2b 排気ガス供給ライン
2c 排気ガス温度測定部
2d 排気ガス温度制御部
【0077】
3 湿式反応器
4 酸化反応領域
5 還元反応領域
6 スプレイ
7 還元剤水溶液タンク
7a 還元剤水溶液補充ライン
8 アルカリ水溶液タンク
8a アルカリ水溶液補充ライン
9 混合水溶液循環ライン
【0078】
10 混合水溶液貯留部
11 循環ポンプ
12 ORP計
13 pH計
14 水溶液補充ライン
15 ガス放出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物を含む排気ガスおよびオゾンガスを酸化反応領域へ導入し、排気ガス中の窒素酸化物をオゾンガスと反応させて、前記窒素酸化物を酸化してNO2含有酸化ガスに変換する工程を含む排気ガスの処理方法において、酸化反応領域に導入される排気ガスの温度が所定の温度(A)を超えたときに排気ガス冷却装置を作動させて、酸化反応領域に導入される排気ガスの温度を所定の温度(B)以下に低下させることにより、排気ガス中の窒素酸化物の酸化反応を促進することを特徴とする、排気ガスの処理方法。
【請求項2】
所定の温度(A)が約150℃であり、所定の温度(B)が約130℃である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
導入するオゾン量(O3、ppm)を、必要とされるNOの酸化量(△NO、ppm)と排気ガスの温度(T℃)との間の関係式:
△NO/O3=−exp[(T−175)/40]/10+1.15
により求められる量とする、請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記のオゾンガスが、大気圧低温非平衡放電プラズマ反応により空気から生成するラジカルガスである、請求項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
前記のNO2含有酸化ガスが、還元剤水溶液により還元処理される、請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記の排気ガスが、炉筒煙管ボイラーまたはディーゼルエンジンからの排気ガスである、請求項1〜5のいずれかに記載の処理方法。
【請求項7】
酸化反応領域および還元反応領域を備えた湿式反応器と、空気からラジカルガスを生成する大気圧低温非平衡放電プラズマ反応部と、生成したラジカルガスを酸化反応領域に供給するラジカルガス供給部と、窒素酸化物を含む排気ガスを酸化反応領域に供給する排気ガス供給部と、還元剤水溶液およびアルカリ水溶液を湿式反応部に供給し循環させる水溶液供給循環部とを備えた排気ガスの処理装置において、排気ガス発生源と前記排気ガス供給部との間に排気ガス冷却装置を設け、該冷却装置と前記酸化反応領域との間に排気ガス温度測定部を設け、該測定部の測定結果に基づいて前記排気ガス冷却装置を作動させる排気ガス温度制御部を設けたことを特徴とする排気ガスの処理装置。
【請求項8】
前記の排気ガス冷却装置が水噴霧式冷却器である、請求項7に記載の排気ガスの処理装置。
【請求項9】
前記の排気ガス冷却装置が、必要とされるNOの酸化量(△NO、ppm)および排気ガスの温度(T℃)に基づいて、NOの酸化に必要なオゾン量(O3、ppm)を計算し、その計算結果に基づいてオゾナイザーの周波数およびオゾナイザーへの空気供給量を調整するコンピュータをさらに備えている、請求項7または8に記載の排気ガスの処理装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−264386(P2010−264386A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117734(P2009−117734)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】