説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】選択還元型NOx浄化触媒のNOx浄化性能を高める。
【解決手段】担体1上に、Ce含有酸化物粒子3とゼオライト粒子6と触媒金属5とを有する触媒層2を備え、排気ガス中のNOxを、酸素過剰雰囲気下で還元剤が供給されて選択還元する排気ガス浄化用触媒において、触媒層2には、Ce含有酸化物粒子3及びゼオライト粒子6に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子4が多数分散して含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス中のNOxを、酸素過剰雰囲気下で還元剤が供給されて、選択還元する排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
軽油を主成分とする燃料を用いるディーゼルエンジンや、ガソリンを主成分とする燃料を用いて希薄燃焼させるリーンバーンガソリンエンジンのような希薄燃焼式エンジンでは、その排気ガス中にNOx(窒素酸化物)が多く含まれる。そこで、排気ガスの酸素濃度が高いときに排気ガス中のNOxを吸蔵し、その酸素濃度が低下したときに当該NOxを放出して排気ガス中のHC(炭化水素)と反応させることにより、NOxを還元するようにした、所謂NOx吸蔵還元型触媒が一般に知られている。
【0003】
また、特許文献1には、Fe及び/又はCeを含有するβゼオライトを含む第一触媒層(上層)と、貴金属と酸化セリウム系材料とを含む第二触媒層(下層)とを有するNOx浄化触媒が記載されている。これは、排気ガスの空燃比をリーンにして、排気ガス中のNOを第一触媒層の貴金属によりNOに酸化させて酸化セリウム系材料に吸着させ、次いで排気ガスの空燃比をリッチにすることにより、当該吸着NOをNHに還元させて第一触媒層のゼオライトに吸着させ、再び排気ガスの空燃比をリーンにすることにより、上記NHと排気ガス中のNOxとを反応させてNとHOとに転化するというものである。
【0004】
また、NOxを浄化する選択還元型触媒(SCR)も一般に知られている。これは、アンモニア水や尿素水のような還元剤を貯蔵したタンクから、エンジン排気ガス通路のNOx浄化触媒の上流部に還元剤を供給して、排気ガス中のNOxを還元浄化するものである。例えば、特許文献2には、尿素を添加する選択還元型NOx浄化触媒に関し、Feをイオン交換担持したゼオライトを用いることが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、硝酸鉄水溶液をゼオライト及びZr含有酸化物に含浸担持させたリーンNOx触媒について記載されている。
【特許文献1】特開2008−30003号公報
【特許文献2】特開2007−315328号公報
【特許文献3】特開2007−534467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
選択還元型NOx浄化触媒では、TiOが代表的な触媒活性種として知られ、Pt、Pd、Rh等の貴金属を使用しなくてもよいというメリットがあるが、触媒活性を発現し始める温度は200℃付近であり、排気ガス温度が低いときのNOx浄化率の向上が課題となる。これを解決するためには、排気ガス温度が低いときにNOxを確実に吸着できるようにすることがポイントとなる。
【0007】
この点に関し、本願発明者は、セリアのような酸素吸蔵放出能を有するCe含有酸化物がNOx吸着能を有することから、同じく酸素吸蔵放出能を有する酸化鉄がNOxの吸着に何らかの効果を発現するのではないかという点に着眼した。
【0008】
そうして、上記特許文献2,3に記載されている硝酸鉄を含浸させて担持させたFe含浸ゼオライト(Feイオン交換ゼオライト)のNOx吸着能を調べた。このFe含浸ゼオライトは、酸化鉄を含んでいると考えられるものの、検討の結果、熱エージング後では所望のNOx吸着能が得られないことがわかった。さらに、Ce含有酸化物に硝酸鉄を含浸させて、NOx吸着能を評価した。この場合、硝酸鉄は焼成によって酸化鉄になるが、検討の結果、硝酸鉄を含浸担持させると、NOx吸着能が幾分向上するものの、大きな向上効果は望めなかった。そして、上記硝酸鉄により得られる酸化鉄粒子はその粒径が500nm以上の大きな粒子であることがわかった。
【0009】
以上の説明から明らかなように、本発明の課題は、酸化鉄を有効に利用して選択還元型NOx浄化触媒のNOx浄化性能を高めることにある。
【0010】
また、別の本発明の課題は、酸化鉄を、上記NOx浄化に利用するだけでなく、担体に触媒層を形成するためのバインダとしても利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、このような課題を解決するために、粒径の小さな微細酸化鉄粒子を触媒層に多数分散させるようにした。
【0012】
すなわち、本発明は、排気ガス中のNOxを、酸素過剰雰囲気下で還元剤が供給されて、選択還元する排気ガス浄化用触媒であって、
担体上に、Ce含有酸化物粒子と、ゼオライト粒子と、触媒金属とを有する触媒層を備え、
上記触媒層には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であり、上記Ce含有酸化物粒子及びゼオライト粒子に上記微細酸化鉄粒子が接触しており、電子顕微鏡観察において、上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする。
【0013】
上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であるということは、この微細酸化鉄粒子が触媒層に多数分散して含まれていることを意味する。また、上記Ce含有酸化物粒子及びゼオライト粒子はその二次粒子径が数μmであることが通常であるから、少なくとも一部のCe含有酸化物粒子及びゼオライト粒子各々には、複数の微細酸化鉄粒子が分散して接触しており、且つそれら粒子に対する微細酸化鉄粒子の付着量が比較的多いことを意味する。そうして、後述の実施例で明らかになるが、本発明によれば、NOx浄化性能が高くなる。
【0014】
その理由は明確ではないが、上述の硝酸鉄から得られる酸化鉄粒子は、その粒径が500nm以上の大きな粒子であることから、Ce含有酸化物粒子やゼオライト粒子との相互作用を発現し難いと考えられる。また、Ce含有酸化物粒子やゼオライト粒子の表面ないし細孔に付着した硝酸鉄が、触媒焼成に伴って酸化鉄に変化し、凝集・粒成長することにより、さらにはその後の高温の排気ガスに晒されて凝集・粒成長することにより、ゼオライトの結晶構造を一部破壊してそのNOx吸着能を損なう、Ce含有酸化物粒子の表面積の低下を招く、と推察される。
【0015】
これに対して、本発明の場合は、上述の如く粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物粒子及びゼオライト粒子各々に分散して接触しているから、Ce含有酸化物粒子やゼオライト粒子と酸化鉄との相互作用を発現し易くなっていると考えられる。すなわち、Ce含有酸化物粒子に接触している微細酸化鉄粒子が該Ce含有酸化物粒子の塩基性を強くして、そのNOx吸着能を高め、また、ゼオライト粒子に接触している微細酸化鉄粒子が該ゼオライト粒子の固体酸性を強くして、そのNH吸着能を高め、その両者が相俟って、NOxの選択還元性が高くなっていると考えられる。
【0016】
上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は40%以上であることが好ましい。粒径50nm以上300nm以下の酸化鉄粒子についてみれば、酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が40%以上95%以下程度であることが好ましい。
【0017】
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層において上記Ce含有酸化物粒子等を上記担体に保持するバインダの少なくとも一部を構成するものとすることができる。すなわち、触媒一般におけるバインダについては次のように定義することができる。
A.バインダは、担体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒金属を担持する酸素吸蔵材、その他の助触媒粒子をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層を担体に安定した状態に保持する。
【0018】
そのため、粒径が1nm〜50nm程度のコロイド粒子(水酸化物、含水物、酸化物等)が分散したコロイド溶液(市販のアルミナゾルやコロイダルシリカではコロイド粒子の粒径は10nm〜30nm程度)がバインダとして一般に使用される。
B.バインダは、上記乾燥・焼成後は微粒子となって触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、担体表面の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層が担体から剥離しないようにする(アンカー効果)。
【0019】
そのため、乾燥・焼成後において、助触媒粒子よりも粒径が小さな酸化物粒子となって助触媒粒子や担体に固着するものがバインダとして一般に使用される。
C.触媒層に、触媒金属やNOx吸蔵材、HC吸着材等が後から含浸担持されるケースでは、バインダはそれら触媒成分を担持するサポート材となる。
D.バインダ粒子間、バインダ粒子と助触媒粒子との間には排気ガスが通る微細孔が形成される。
E.触媒層におけるバインダ量は、一般には触媒層全体の5質量%〜20質量%とされる。
【0020】
本発明の場合、上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子は、上記Ce含有酸化物粒子等の助触媒粒子の平均粒径(数μm程度)よりも小さく、上記触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、担体表面の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層が担体から剥離しないようにする。このため、当該微細酸化鉄粒子は上記触媒層においてバインダとしての機能も発揮するものである。
【0021】
上記触媒層のバインダは、上記微細酸化鉄粒子のみで構成するようにしてよいが、安定な触媒層を得るために、この微細酸化鉄粒子の他に、遷移金属及び希土類金属から選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物粒子(例えば、アルミナ粒子、ZrO粒子、CeO粒子等)をバインダとして含ませるようにしてもよい。このようなバインダ粒子(上記微細酸化鉄粒子及び上記金属酸化物粒子)は、担体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒成分をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層を担体に安定した状態で保持することができるように、前駆体である金属化合物がそれぞれコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【0022】
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部はヘマタイトであることが好ましく、また、上記酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【0023】
また、還元剤としては、アンモニア水や尿素水を当該触媒に排気流れ方向の上流側から供給するようにすればよい。
【発明の効果】
【0024】
以上のように本発明によれば、担体上に、Ce含有酸化物粒子とゼオライト粒子と触媒金属とを有する触媒層を備え、排気ガス中のNOxを、酸素過剰雰囲気下で還元剤が供給されて選択還元する排気ガス浄化用触媒において、上記触媒層には、上記Ce含有酸化物粒子及びゼオライト粒子に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子が多数分散して含まれているから、触媒のNOx吸着性及びNH吸着性が高くなり、NOxの選択還元性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
図1に、本発明に係る排気ガス浄化用触媒を模式的に示す。同図において、1は無機酸化物によるハニカム担体のセル壁、2はセル壁1に形成された触媒層である。触媒層2は、NOx吸着能を持つCe含有酸化物粒子3と、バインダ粒子4と、Fe以外の触媒金属5と、ゼオライト粒子6とを有する。なお、触媒層2には、Ce含有酸化物粒子3及びゼオライト粒子6以外に、他の助触媒粒子を含ませることができる。バインダ粒子4は、Ce含有酸化物粒子3及びゼオライト粒子6各々の平均粒径よりも小さな、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子で構成されている。なお、バインダ粒子4の一部を上記微細酸化鉄粒子で構成し、残部を遷移金属及び希土類金属より選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子で構成するようにしてもよい。
【0027】
上記微細酸化鉄粒子を含むバインダ粒子4は、触媒層2の全体にわたって略均一に分散していて、助触媒粒子(Ce含有酸化物粒子3、ゼオライト粒子6等)間に介在し該助触媒粒子同士を結合している。従って、少なくとも一部の微細酸化鉄粒子はCe含有酸化物粒子3及びゼオライト粒子6に接触している。また、上記バインダ粒子4は、担体セル壁1の表面ポア(微小凹部ないし細孔)7に充填され、アンカー効果によって触媒層2をセル壁1に保持している。触媒金属5は助触媒粒子(Ce含有酸化物粒子3、アルミナ粒子6等)に担持されている。
【0028】
<触媒の調製>
エタノール100mL当たり硝酸第二鉄40.4gを溶かし、90℃から100℃の温度で2時間から3時間の還流を行なうことによって、スラリー状の液体、すなわち、酸化鉄ゾル(バインダ)を得る。Ce含有酸化物粉末、ゼオライト粉末、触媒金属成分を混合し、これに酸化鉄ゾル及びイオン交換水を適量混合したスラリーを調製する。必要に応じて、他の助触媒粉末や他のバインダを添加する。上記スラリーを担体にコーティングし、乾燥及び焼成を施す。以上により排気ガス浄化用触媒が得られる。
【0029】
<酸化鉄粒子の粒径等>
上記酸化鉄ゾルとCe含有酸化物粉末としてのCeZrNd複合酸化物(CeO:ZrO:Nd=23:67:10(質量比))とイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを基材にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なうことにより、触媒材を得た。酸化鉄ゾルとCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0030】
図2は得られた触媒材の透過電子顕微鏡を用いたSTEM(走査透過)像、図3乃至図5はFe、Zr及びCe各原子の相対濃度分布をマッピングしたものである。図2乃至図5から、CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であること、酸化鉄粒子は粒径が300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの複数個の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に接触(粒子上に分布)していることがわかる。この場合、当該顕微鏡観察において、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は100%である(つまり、全ての酸化鉄粒子が粒径300nm以下である)ということができる。
【0031】
図6乃至図9は上記触媒材のエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であり、酸化鉄粒子の粒径は300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に複数個接触(粒子上に分布)している。エージング後においても、当該電子顕微鏡観察によれば、全ての酸化鉄粒子の粒径が300nm以下になっている。
【0032】
図10は酸化鉄ゾルを150℃で乾燥したもの(乾燥品)、上記エージング前の触媒材(焼成品)、並びに上記エージング後の触媒材(焼成・エージング品)各々のX線回折チャートである。なお、同図の「OSC」は上記CeZrNd複合酸化物のことを意味する(この点は他の図面でも同様である。)。酸化鉄ゾルは、マグヘマイト(γ-Fe)、ゲータイト(Fe3+O(OH))及びウスタイト(FeO)がコロイド粒子として分散したものであることがわかる。そして、酸化鉄ゾルのコロイド粒子は焼成によってヘマタイト(α-Fe)になっている。
【0033】
上記エージング前の焼成品におけるヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表1に示す通りである。また、上記エージング後のヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表2に示す通りである。なお、表中「−」はピーク重複や、ピーク小のために、正確な数値が得られなかったものである。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
エージング後において、X線回折測定によって得られるヘマタイトの各結晶面のピーク強度は、結晶面(104)、結晶面(110)、結晶面(116)の順で小さくなっている。
【0037】
一方、比較のために、上記酸化鉄ゾルに代えて、硝酸第二鉄水溶液を上記CeZrNd複合酸化物粉末に含浸させ、同様の乾燥及び焼成を行なった。硝酸第二鉄とCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0038】
図11乃至図14は得られた上記硝酸第二鉄による触媒材のSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であるが、酸化鉄粒子の粒径は600〜700nm程度になっている。
【0039】
図15乃至図18は上記硝酸第二鉄による触媒材のエージング(酸化鉄ゾルの場合と同じ条件)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1.5〜2μm程度であるが、酸化鉄粒子としては、粒径が600〜700nm程度の粒子が1個と、100nm程度の粒子が3個見られる。当該電子顕微鏡観察において、粒径300nm以下の酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は10%未満である。
【0040】
上記酸化鉄ゾルの場合、焼成によって酸化鉄粒子となるコロイド粒子(マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイト)が比較的安定なFe化合物であり、そのために、酸化鉄粒子の粒成長を生じ難い。これに対して、上記硝酸第二鉄の場合は、反応性が高いFeイオンから酸化鉄粒子を生ずるから、粒成長し易い。このことが、上記酸化鉄ゾルから得られる酸化鉄粒子と上記硝酸第二鉄から得られる酸化鉄粒子の粒径の差違となっていると考えられる。
【0041】
<NO吸着能及びNH吸着能>
ゼオライト系触媒材料(実施例材料A、比較例材料A−1及び比較例材料A−2)及びCe含有酸化物系触媒材料(実施例材料B、比較例材料B−1及び比較例材料B−2)を調製し、各々のNOx吸着能及びNH吸着能を評価した。
【0042】
−実施例材料A−
ゼオライト(ゼオリスト・インターナショナル・クライテリオン&テクノロジーズ製,SiO/Al=40)40gに、上記酸化鉄ゾル及び水を混合し、150℃の温度に2時間保持する乾燥、並びに500℃の温度に2時間保持する焼成を行なうことにより、実施例材料Aを得た。酸化鉄ゾルの混合量は、焼成によって得られる酸化鉄量が10gとなるように調整した。
【0043】
−比較例材料A−1−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例材料Aと同じ条件で比較例材料A−1を得た。硝酸第二鉄による酸化鉄量は、実施例材料Aと同じく、10gとなるようにした。
【0044】
−比較例材料A−2−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例材料Aと同じ条件で比較例材料A−2を得た。アルミナゾルによるアルミナ量は10gとなるようにした。
【0045】
−実施例材料B−
CeZr複合酸化物粉末(CeO:ZrO=90:10(質量比))40gに、上記酸化鉄ゾル及び水を混合し、150℃の温度に2時間保持する乾燥、並びに500℃の温度に2時間保持する焼成を行なうことにより、実施例材料Bを得た。酸化鉄ゾルの混合量は、焼成によって得られる酸化鉄量が8gとなるように調整した。
【0046】
−比較例材料B−1−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例材料Bと同じ条件で比較例材料B−1を得た。硝酸第二鉄による酸化鉄量は、実施例材料Bと同じく、8gとなるようにした。
【0047】
−比較例材料B−2−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例材料Bと同じ条件で比較例材料B−2を得た。但し、CeZr複合酸化物粉末量は48gとし、アルミナゾルによるアルミナ量は9.6gとなるようにした。
【0048】
−NO吸着量の測定−
実施例材料A、比較例材料A−1及び比較例材料A−2、並びに実施例材料B、比較例材料B−1及び比較例材料B−2各々を0.05g秤量して、それぞれガス流通反応装置及びガス分析装置を用いて、プリコンディショニングを行なった後、NO吸着量を測定した。プリコンディショニングは、試料をHe気流中で600℃の温度に10分間保持するというものである。次いで、モデルガス(NO;5000ppm,O;5%,残He)を100mL/分の流量で流しながら、ガス温度を室温から600℃まで上昇させ、その間に吸着されたNO成分量を算出して、NO吸着量とした。
【0049】
−NH吸着量の測定−
実施例材料A、比較例材料A−1及び比較例材料A−2、並びに実施例材料B、比較例材料B−1及び比較例材料B−2各々を0.05g秤量して、それぞれガス流通反応装置及びガス分析装置を用いて、NO吸着量の測定の場合と同じプリコンディショニングを行なった後、NH吸着量を測定した。
【0050】
NH吸着量の測定にあたっては、モデルガス(NH;2%,残He)を温度100℃、100mL/分の流量で流してNHを試料に吸着させ、次いで、NH濃度0%のHeガスに切り換えて、100℃から600℃まで、10℃/分の速度で昇温し、このときに、試料を通過したガス中に含まれるNH量を算出してNH吸着量とした。
【0051】
−結果−
NO吸着量の測定結果を図19に、NH吸着量の測定結果を図20に示す。
【0052】
ゼオライト系触媒材をみると、NO吸着量は、酸化鉄ゾルを採用した実施例材料Aでは70×10−5mol/g以上あるのに対して、硝酸第二鉄を採用した比較例材料A−1及びアルミナゾルを採用した比較例材料A−2ではNOの吸着量が極めて少ない。また、NH吸着量に関しても、実施例材料Aが比較例材料A−1及び比較例材料A−2よりも格段に多い。実施例材料AではNH吸着量が極めて多いのが特徴的である。これは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がゼオライトの固体酸性を強くしたためと考えられる。また、実施例材料AのNO吸着量が多いのは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がNOの吸着に関与しているためと考えられる。
【0053】
Ce含有酸化物系触媒材をみると、酸化鉄ゾルを採用した実施例材料BではNO吸着量が110×10−5mol/g以上あるのに対して、比較例材料B−1及び比較例材料B−2ではNO吸着量が極めて少ない。NH吸着量は、実施例材料B、比較例材料B−1及び比較例材料B−2のいずれもゼオライト系触媒材に比べると少ないが、それでも実施例材料Bの方が比較例材料B−1及び比較例材料B−2よりも多い。実施例材料BのNO吸着量が顕著に多いのは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物の塩基性を強くしたためと考えられる。また、実施例材料BのNH吸着量が多いは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がNHの吸着に関与しているためと考えられる。
【0054】
<NOx選択還元性能>
次の実施例及び比較例1,2の各触媒を調製し、NOx選択還元性能を評価した。
【0055】
−実施例−
βゼオライト粉末と、CeZr複合酸化物粉末(CeO:ZrO=90:10(質量比))と、La含有アルミナ粉末(La含有量;5質量%)と、TiO粉末とを混合し、これにバインダとしての上記酸化鉄ゾル及びイオン交換水を混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを担体にコーティングし、乾燥(150℃の温度に2時間保持)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。
【0056】
当該触媒は、βゼオライト担持量が150g/L、CeZr複合酸化物担持量が40g/L、La含有アルミナ担持量が40g/L、TiO担持量が20g/L、酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量が25g/Lである。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。また、担体としては、セル壁厚さ3.5mil(8.89×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm)当たりのセル数600のコージェライト製ハニカム担体(容量25mL)を採用した。
【0057】
−比較例1−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例と同じ条件で比較例1に係る触媒を調製した。硝酸第二鉄による酸化鉄担持量は25g/Lである。
【0058】
−比較例2−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例と同じ条件で比較例2に係る触媒を調製した。アルミナゾルによるアルミナ担持量は25g/Lである。
【0059】
−NOx浄化性能の評価−
実施例及び比較例1,2の各触媒に対して、酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で750℃の温度に24時間保持するエージングを行なった後、模擬排気ガス流通反応装置及び排気ガス分析装置を用いて、NOx浄化率を測定した。模擬排気ガスの組成はは、NO;250ppm、NO;250ppm、NH;500ppm、O;10%、残;Nとし、触媒入口排気ガス温度200℃、250℃及び300℃でのNOx浄化率を測定した。
【0060】
結果を図21に示す。実施例は比較例1,2よりもNOx浄化率が高い。低温になるほど、実施例と比較例1,2とのNOx浄化率の差が大きくなっていることが特徴的である。以上から、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子を触媒層に分散させると、NOx選択還元性が向上すること、特に低温活性が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る排気ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【図2】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のSTEM像図である。
【図3】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図4】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図5】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図6】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図7】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図8】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図9】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図10】酸化鉄ゾル乾燥品、触媒材(焼成品)及び触媒材エージング品各々のX線回折チャート図である。
【図11】硝酸第二鉄を用いた触媒材のSTEM像図である。
【図12】硝酸第二鉄を用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図13】硝酸第二鉄を用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図14】硝酸第二鉄を用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図15】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図16】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図17】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図18】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図19】実施例及び比較例のNO吸着量を示すグラフ図である。
【図20】実施例及び比較例のNH吸着量を示すグラフ図である。
【図21】実施例及び比較例のNOx浄化率を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0062】
1 ハニカム担体のセル壁
2 触媒層
3 Ce含有酸化物粒子
4 バインダ粒子(酸化鉄粒子)
5 触媒金属
6 ゼオライト粒子
7 ポア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中のNOxを、酸素過剰雰囲気下で還元剤が供給されて、選択還元する排気ガス浄化用触媒であって、
担体上に、Ce含有酸化物粒子と、ゼオライト粒子と、触媒金属とを有する触媒層を備え、
上記触媒層には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であり、上記Ce含有酸化物粒子及びゼオライト粒子に上記微細酸化鉄粒子が接触しており、電子顕微鏡観察において、上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層においてバインダの少なくとも一部を構成していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部はヘマタイトであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記微細酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
image rotate

【図10】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2009−285624(P2009−285624A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143533(P2008−143533)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】