説明

排気流量制御弁

【課題】 排気通路の流路面積を小さくする閉じ側と、その面積を大きくする開き側とに切り換わる開閉弁を閉じ側に付勢するねじりコイルばねのセット荷重を複数種に設定でき、エンジンの出力特性に合わせて開閉弁の開閉特性の設定を変更できる。
【解決手段】 ねじりコイルばね26の固定側アーム26aをプレート28の複数の係止部28A,28B,28Cの一つに選択的に係止することにより、ねじりコイルばね26の巻き込み量を複数に設定できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガスが通る排気通路に設けられる排気流量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気ガスが流れる排気通路に、弾性部材により閉じ側へ付勢される開閉弁を設け、排気ガス圧力の作用によりこの開閉弁が弾性部材の付勢力に抗して開き側へ切換わるようにして、排気通路を遮断・連通したり、あるいは排気ガスの流路断面積を増減させて、エンジンの低負荷時運転時の消音効果を向上させつつ、エンジンの高負荷運転時の出力低下を防止するようにした排気流量制御弁は広く知られている(後記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−235536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に開示されるものは、弾性部材としてねじりコイルばねが使用され、このねじりコイルばねの固定側アームを固定部に係止し、また、その可動側アームを開閉弁に連接し、この弾性部材の付勢力により開閉弁を閉じ側へ付勢するようにしている。
【0004】
ところで、上記エンジンの低負荷運転時の消音作用と、その高負荷運転時の出力低下防止作用の双方の作用効果を一層高めるには、エンジンの出力特性に合わせて開閉弁の開閉特性を設定することが要求され、かかる要求を充足するには、たとえば、セット時のばね荷重が異なる複数種類のねじりコイルばねを用意して、エンジン出力特性に合わせた対応が必要となり、開閉弁の開閉特性の設定を変更するのが面倒であるばかりでなくコスト高を招くという問題がある。
【0005】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたもので、同一種類のねじりコイルばねを用いて、エンジンの出力特性に合わせて開閉弁の開閉特性の設定を容易に変更できるようにして前記問題を解決できるようにした新規な排気流量制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、エンジンの排気系に設けられて、排気ガスが通る排気通路を開閉する開閉弁と、開閉弁を閉じ側に付勢する弾性部材とを備え、開閉弁に作用する排気ガス圧力の増加により、弾性部材の付勢力に抗して開閉弁を閉じ側から開き側へ切換える排気流量制御弁において、
前記弾性部材は、固定部材に係止される固定側アームと、開閉弁を閉じ側に付勢する可動側アームとを備えるねじりコイルばねからなり、前記固定部材は複数の係止部を備え、これらの係止部の一つに前記固定側アームを選択的に係止することにより、ねじりコイルばねの巻き込み量を複数に設定できるようにしたことを特徴としている。
【0007】
また、上記目的を達成するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1記載のものにおいて、前記固定部材は、櫛歯状の複数の係止部を備えるプレートであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1、2記載の発明によれば、ねじりコイルばねの固定側アームを、固定部材の複数の係止部の一つに選択的に係止することにより、同一種類のねじりコイルばねを用いて複数種類のセット荷重を設定できる。したがって、エンジンの出力特性に合わせて開閉弁の開閉特性の設定を容易に変更できる。
【0009】
また、同一種類のねじりコイルばねを用いても、その製造誤差により自由状態でのねじりコイルばねの巻き込み量、すなわちその固定側アームと可動側アームの開き度合にばらつきが生じるが、固定アームを係止する係止部間の巻き込み量の変化量を小さくすることで、こうしたばらつきを吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて具体的に説明する。
【0011】
図1〜6を参照して本発明の第1実施例について説明するに、この実施例は、本発明排気流量制御弁を自動車用エンジンの排気系に実施した場合であり、図1は、本発明排気流量制御弁を備えたエンジンの排気系の全体側面図、図2は、図1の2矢視の仮想線囲い部分の要部破断拡大図、図3は、図2の3矢視の要部破断図、図4は、排気流量制御弁の斜視図、図5は、図2の5−5線に沿う拡大断面図、図6は、図2の6−6線に沿う拡大断面図(開閉弁の正面図)である。
【0012】
図1において、自動車に搭載されるエンジンEの排気ポートに接続されて、車両に支持される排気系Exは自動車の前後方向に沿って延びており、その上流側から下流側に沿って直下型排気触媒C、本発明にかかる排気流量制御弁Vを設けた排気管3、一次消音器(プリチャンバ)M1および二次消音器M2が順次に接続される。そして、エンジンEの運転により、そこから排出された排気ガスは、直下型排気触媒Cにより排気ガス中の含まれるHC、CO,NOxなどの有害成分が浄化されたのち、排気流量制御弁Vを経て一次および二次消音器M1、M2により排気騒音が消音されて外部に排出される。
【0013】
つぎに、図2〜5を参照して、本発明に従う排気流量制御弁Vの構成を具体的に説明する。
【0014】
この排気流量制御弁Vは、直下型触媒Cの出口に接続される上流側排気管1の下流端と、一次消音器M1の入口に接続される下流側排気管2の上流端との間に接続される排気管3に設けられており、この排気管3は、内管4と、この内管4を環状の空間6をあけて包囲する外管5とより構成されている。外管5の上流側はコーン状に形成されていて、内管4の上流側に接合され、この接合部には、上流側接続フランジ9に結合される接続パイプ8が挿嵌され、その接合部と接続パイプ8とは、気密に溶接10されている。また、図2、3に示すように、外管5の下流側はへら絞り加工(スピニング加工)されていて、その下流端は、下流側接続フランジ13に結合される接続パイプ12に溶接14されている。内管4の下流側は、外管5の下流側にステンレスメッシュのリング15を介してフローティング支持されており、内管4の熱延びを吸収できるようにされている。
【0015】
前記上流側接続フランジ9は、上流側排気管1の下流側接続フランジ1fに複数のボルト・ナットにより一体に結合され、また前記下流側接続フランジ13は、下流側排気管2の上流側接続フランジ2fに複数のボルト・ナットにより一体に結合されている。
【0016】
図5に最も明瞭に示すように、前記内管4は、縦方向に2分割される左、右分割半体4L,4Rを溶接17して構成されており、この内管4の長手方向の中間部において、その上半部の一側には、空間6に通じる凹み18が形成されており、これにより、内管4は、その上半部の断面積が、その下半部の断面積よりも小さくされている。内管4の、凹み18を形成した上半部の左右対向面には、それぞれ外側に膨出する左右軸受孔19L,19Rが形成されており、これらの軸受孔19L,19Rには、ステンレスメッシュよりなる左右ブッシュ20L,20Rが同一軸線上で収容されており、これらのブッシュ20L,20Rに、開閉弁22に溶接される弁軸23が回転自在に貫通される。前記開閉弁22の揺動支持部22Sには、その弁幅を狭くする切り欠き22Cが形成され、この開閉弁22の揺動支持部22Sは、断面積が小さくなった内管4の上半部に収容されていて、前記開閉弁22の揺動支持部22Sに溶接した前記弁軸23が左右ブッシュ20L,20Rを介して内管4の上半部に揺動可能に支持される。弁軸23の左右には、フランジ23F,23Fが一体に形成され、これらのフランジ23F,23Fを左右ブッシュ20L,20Rに対向させて、弁軸23およびこれに溶接される開閉弁22の軸方向の位置決めがなされる。また、ステンレスメッシュよりなる左右ブッシュ20L,20Rは、開閉弁22および弁軸23が内管4に直接当たらないようにしているので、開閉弁22の開閉動作時に、異音が発生することが回避される。
【0017】
図5、6に示すように、開閉弁22は、幅狭に形成される揺動支持部22Sと、幅広に形成されて、この開閉弁22の主たる部分を構成する揺動主体部22Mとより構成されており、揺動支持部22Sには、前述のように前記弁軸23が溶接されて内管4に揺動可能に支持され、また、揺動主体部22Mは、内管4の流路断面積の大きい内管4の下半部にあって、その揺動先端部は開閉弁22の開閉に伴い、内管4内の排気通路内周面との間に形成される流路断面積を大きく変化させる部分である。
【0018】
図2、5、6に示すように、開閉弁22の揺動主体部22Mの背面、すなわち排気ガスの流れ方向下流側の面には錘40が溶接されている、この錘40は板状に形成されると共にその外周輪郭が、揺動主体部22Mの外周輪郭と合うようにされている。また、この錘40の上縁は、平坦に形成されていて開閉弁22の、揺動支持部22Sと揺動主体部22Mとの境界部分に位置しており、開閉弁22の背面との間に段差を形成している。しかして、この錘40は、開閉弁の振動防止作用の外に開閉弁22と協働して開閉弁22の背面側に発生する排気ガスの乱流の抑制機能を有している。
【0019】
図2〜5に示すように、内管4の上部に形成した空間6の凹み18には、前記開閉弁22を閉じ側、すなわち内管4内の排気ガスの通路面積を小さくする側に付勢する弾性部材26が設けられる。この弾性部材26は、この実施例では、ねじりコイルばねにより構成されており、このねじりコイルばね26は、内管4の壁面から凹み18に向けて片持ち状に溶接した断面C字状の支持部材27に嵌込み支持されている。ねじりコイルばね26は、その軸方向の一端より固定側アーム26aが延びており、また、その他端より可動側アームー26bが延びている。図4に最も明瞭に示すように、内管4には固定部材としてのプレート28が溶接されており、このプレート28には、複数(3つ)の凹溝よりなる係止部28A,28B,28Cが櫛歯状に列設されており、これらの係止部28A,28B,28Cの一つに、ねじりコイルばね26の固定側アーム26aが係止され、これにより、後に述べるように、ねじりコイルばね26のセット荷重を変更できるようにされている。
【0020】
また、ねじりコイルばね26の可動側アーム26bは、リンク機構30を介して前記開閉弁22に連結されている。前記リンク機構30は、前記空間6の凹み18内に収容されるステー31を備えており、このステー31は、その基端にボス部31aを、その先端にフック部31bを有しており、そのボス部31aが弁軸23に嵌合、溶接され、また、そのフック部31bが、前記ねじりコイルばね26の他端に設けた連結子33に係脱可能に係合されている。図5に示すように、前記連結子33は筒状のカーボンブッシュにより構成されている。
【0021】
図2に実線で示すように、ねじりコイルばね26の弾発力は、連結子33をステー31の先端のフック部31bに弾発係合させ、ステー31を時計方向(図2矢印a方向)へ回動させて、錘40を取付けた開閉弁22を閉じ側へ付勢し、該開閉弁22を閉じ側へ切換えるようにしている。そして、開閉弁22が閉じ側に切換えられた状態では、内管4内には、エンジンEのアイドリング運転、始動運転時などの低速運転に応じた狭い排気ガスの通路断面積が形成される。また、内管4を流れる排気ガスの排気圧力が、ねじりコイルばね26の弾発力よりも大きくなるにつれて、開閉弁22は反時計方向(図2矢印b)すなわち開き側へ切換られる。このとき、連結子33は、図2鎖線に示すように、フック部31b側からボス部31a側へとスライド移動する。そして、ねじりコイルばね26の弾発力と、排気ガスの排気圧力とがバランスしたところで、開閉弁22は所定の開度に安定よく維持され、その開閉弁22が排気圧力変動をうけてばたつくことがない。
【0022】
つぎに、この実施例の作用について説明する。
【0023】
図1に示すように、排気系Exに接続される排気管3は、その長手方向が自動車の前後方向に沿うようにして車両に支持されており、この支持状態で、ねじりコイルばね26およびリンク機構30は、外管5の上部と内管4との間に形成される空間6に配置される。
【0024】
いま、エンジンEが運転されると、そこから排出される排気ガスは排気系Exへと流れる。排気系Exを流れる排気ガスは、直下型排気触媒Cへと流れ、排気ガス中の含まれるHC、CO、NOxなどの有害成分が浄化されたのち、本発明にかかる排気流量制御弁Vを経て排気ガス流量が制御されたのち、一次および二次消音器M1、M2へと流れ、排気音が順次に消音されて外部に排出される。
【0025】
エンジンEのアイドリング運転、始動運転を含む低速運転域では、エンジンEの燃焼圧力が低く、そこから排出される排気ガスの排気圧力も低いため、排気管3内に流入する排気ガス動圧も低く、開閉弁22は、図2に実線に示すように、閉じ側に保持されていて、内管4内の排気ガス通路面積を最も絞っているので、排気エネルギを減少させて、一次消音器M1の手前にて排気騒音を予備的に消音させると共にエンジンEの充填効率が高められる。
【0026】
一方、エンジンEの燃焼が完爆状態となって、その回転数が高速運転域に達すると、その燃焼圧力も高くなり、そこから排出される排気ガスの圧力も高くなるため、内管4内に流入した排気ガス動圧は、図2に鎖線に示すように、開閉弁22を弾性部材すなわちねじりコイルばね26の弾発力に抗して開閉弁22を開き側へ切換えるに至り、該排気管3内の排気通路の通路断面積を大きくし、エンジンEの高速回転域での排気圧力損失の低減を図ることができる。
【0027】
ところで、この第1実施例のものによれば、ねじりコイルばね26は、その固定側アーム26aを、プレート28の複数の係止部28A,28B,28Cの一つに選択的に係止することにより、一つのねじりコイルばね26を用いてセット荷重を複数種類に設定することができ、これにより、エンジンEの出力特性に合わせて開閉弁22の開閉特性の設定を変更することが可能になる。
【0028】
つぎに、図7を参照して本発明の第2実施例について説明する。
【0029】
図7は、ねじりコイルばねおよびその固定部材の斜視図であり、前記第1実施例と同じ要素には同じ符号が付される。
【0030】
この第2実施例は、固定部材としてのプレート28の構造が前記第1実施例のものと若干相違しており、すなわち、前記プレート28に列設される複数の係止部28A,28B,28C…28Xの数を多くすると共にそれらの間隔を細かく設定してある。
【0031】
これにより、エンジンEの出力特性に合わせて開閉弁22の開閉特性の設定を変更することが可能になるだけでなくねじりコイルばね26の製造誤差によるり自由状態での巻き込み量、すなわち固定側アーム26aと可動側アーム26bの開き度合のばらつきをも吸収することができる。
【0032】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施例が可能である。
【0033】
たとえば、前記実施例では、本発明にかかる排気流量制御弁Vを直下型触媒Cと一次消音器M1との間に設けているいが、これを排気系Exの他の箇所に設けてもよい。また、前記実施例では、排気管3は断面円形に形成されるが、これを断面楕円形その他の形状に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明排気流量制御弁を備えたエンジンの排気系の全体側面図
【図2】図1の2矢視の仮想線囲い部分の要部破断拡大図
【図3】図2の3矢視の要部破断図
【図4】排気流量制御弁の斜視図
【図5】図2の5−5線に沿う拡大断面図
【図6】図2の6−6線に沿う拡大断面図(開閉弁の正面図)
【図7】ねじりコイルばねおよびその固定部材の斜視図(第2実施例)
【符号の説明】
【0035】
22・・・・・・・・・開閉弁
26・・・・・・・・・弾性部材(ねじりコイルばね)
26a・・・・・・・・固定側アーム
26b・・・・・・・・可動側アーム
28・・・・・・・・・固定部材(プレート)
28A・・・・・・・・係止部
28B・・・・・・・・係止部
28C・・・・・・・・係止部
28X・・・・・・・・係止部
E・・・・・・・・・・エンジン
Ex・・・・・・・・・排気系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)の排気系(Ex)に設けられて、
排気ガスが通る排気通路を開閉する開閉弁(22)と、
開閉弁(22)を閉じ側に付勢する弾性部材(26)とを備え、
開閉弁(22)に作用する排気ガス圧力の増加により、弾性部材(26)の付勢力に抗して開閉弁(22)を閉じ側から開き側へ切換える排気流量制御弁において、
前記弾性部材(26)は、固定部材(28)に係止される固定側アーム(26a)と、開閉弁(22)を閉じ側に付勢する可動側アーム(26b)とを備えるねじりコイルばねからなり、前記固定部材(28)は複数の係止部(28A,28B,28C;28A,28B,28C…28X)を備え、これらの係止部の一つに前記固定側アーム(26a)を選択的に係止することにより、ねじりコイルばね(26)の巻き込み量を複数に設定できるようにしたことを特徴とする、排気流量制御弁。
【請求項2】
前記固定部材28は、櫛歯状の複数の係止部を備えるプレートであることを特徴とする、前記請求項1記載の排気流量制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−205180(P2007−205180A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22017(P2006−22017)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000175766)三恵技研工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】